特許第6426712号(P6426712)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426712
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】歯科材料用重合性モノマー組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 6/083 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   A61K6/083 500
【請求項の数】12
【全頁数】41
(21)【出願番号】特願2016-511922(P2016-511922)
(86)(22)【出願日】2015年3月31日
(86)【国際出願番号】JP2015060083
(87)【国際公開番号】WO2015152220
(87)【国際公開日】20151008
【審査請求日】2018年2月2日
(31)【優先権主張番号】特願2014-72635(P2014-72635)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-72636(P2014-72636)
(32)【優先日】2014年3月31日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390011143
【氏名又は名称】株式会社松風
(73)【特許権者】
【識別番号】592093578
【氏名又は名称】サンメディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】特許業務法人SSINPAT
(72)【発明者】
【氏名】吉永 一彦
(72)【発明者】
【氏名】成瀬 洋
(72)【発明者】
【氏名】寺前 充司
(72)【発明者】
【氏名】渕上 清実
(72)【発明者】
【氏名】藤村 英史
(72)【発明者】
【氏名】土川 益司
(72)【発明者】
【氏名】今井 啓文
【審査官】 常見 優
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/157566(WO,A2)
【文献】 特開平09−216924(JP,A)
【文献】 特開平09−176151(JP,A)
【文献】 特開2005−053898(JP,A)
【文献】 特開平11−315059(JP,A)
【文献】 特表2013−544823(JP,A)
【文献】 特開2000−204069(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 6/00− 6/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウレタンアクリレート化合物(A)と、メタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる少なくとも1つの重合性基を含有する重合性化合物(B)とを含有し、かつ、以下の(I)および(II)を満たす歯科材料用重合性モノマー組成物。
(I)該ウレタンアクリレート化合物(A)が下記一般式(1)で表されるヒドロキシアクリレート(a1)と、2つのイソシアネート基が炭化水素基で置換されていてもよいメチレン基を介して二価の炭素数6〜9の芳香族炭化水素基または二価の炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基と結合しているジイソシアネート(a2)とを反応して得られる。
(II)前記重合性モノマー組成物中のメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、該ウレタンアクリレート化合物(A)に含有されるアクリロイル基の数が10%以上90%未満の割合である。
【化1】
(上記一般式(1)中、Raは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または直鎖オキシアルキレン基を示す。)
【請求項2】
前記重合性モノマー組成物中のメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、該ウレタンアクリレート化合物(A)に含有されるアクリロイル基の数が40%以上90%未満の割合である請求項1に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項3】
該歯科材料用重合性モノマー組成物に含有されるアクリロイル基とメタクリロイル基との比率が、10:90〜90:10の範囲にある、請求項1に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項4】
該歯科材料用重合性モノマー組成物に含有されるアクリロイル基とメタクリロイル基との比率が、40:60〜90:10の範囲にある、請求項1から3のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項5】
前記ジイソシアネート(a2)が、下記一般式(2)で示される化合物より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【化2】
(上記一般式(2)中、Rbは二価の炭素数6〜9の芳香族炭化水素基または二価の炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基を示し、Rc、Rd,Re、及びRfは、それぞれ水素、もしくはメチル基を示す。)
【請求項6】
前記ジイソシアネート(a2)が、下記一般式(3)〜(5)で示される化合物より選択される少なくとも1つであることを特徴とする請求項5に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【化3】
【請求項7】
前記ウレタンアクリレート(A)が下記一般式(6)で表される少なくとも1つの化合物である請求項6に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【化4】
(上記一般式(6)中、Riは下記式(7)、(8)、または(9)で示される基であり、RgおよびRhは、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または直鎖オキシアルキレン基であり、Rjは水素原子またはメチル基を示す。)
【化5】
【請求項8】
前記一般式(1)中のRaが、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基である請求項1に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項9】
前記一般式(6)中のRgおよびRhが、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基であり、Rjが水素原子である請求項7に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項10】
25℃における粘度が1〜100,000mPa・sであることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含有する歯科材料用組成物。
【請求項12】
請求項11に記載の歯科材料用組成物を硬化させてなる歯科材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な歯科材料用重合性モノマー組成物、該重合性モノマー組成物を含有する歯科材料用組成物、及び該歯科材料用組成物を硬化させてなる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科材料用組成物の代表例であるコンポジットレジンは、典型的には、重合性モノマー組成物、フィラー、重合開始剤、重合禁止剤、及び色素等を含有している。コンポジットレジン中の各成分の重量の比率をみると、通常、フィラーの重量が最も多く、重合性モノマー組成物の重量がそれに次ぎ、これら2成分でコンポジットレジンの重量の大半を占めている。重合性モノマー組成物は、フィラーに対するバインダーとして働き、モノマー物性及びその硬化物の物性は、それを含有するコンポジットレジン及びその硬化物の物性及び性能に大きな影響を及ぼす。
【0003】
重合性モノマー組成物としては、モノマーの生体内における安全性、及び硬化物の機械的強度や耐磨耗性などの観点から、多くの場合においてラジカル重合性の多官能性メタクリレートの組成物が用いられている。多官能性メタクリレートの組成物の典型例は、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(以下Bis−GMAと称する)や2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(以下UDMAと称する)を主成分とし、粘度を調整するためにトリエチレングリコールジメタクリレート(以下TEGDMAと称する)を配合したものである。
【0004】
歯科治療の臨床現場において、コンポジットレジンを用いた歯牙欠損の修復の歴史は古く、またその使用範囲も拡大してきている。しかしながら、コンポジットレジン硬化物の機械的物性は未だ十分とは言えず、特に強度の不足のため、高い応力がかかる部位、例えば大臼歯の歯冠材料等への適用には、制限があるのが実情である。
【0005】
近年、臨床現場より、このような高い応力のかかる部位へのコンポジットレジンの適用拡大が強く求められており、より高い機械的物性を持つコンポジットレジンの開発は急務である。前述のようにコンポジットレジンに含有される重合性モノマー組成物の硬化物の物性は、それを含有するコンポジットレジンの硬化物の物性に大きな影響を及ぼす。
【0006】
重合性モノマー組成物の主成分として広く用いられているBis−GMA、及びUDMAの代替するモノマーを使用して、コンポジットレジンの硬化物の機械的強度を向上させようとする試みは、すでに報告例がある(特許文献1および特許文献2)。
【0007】
また、主成分モノマーの改良の試みの例としては、重合性モノマー組成物の硬化物の屈折率向上を目的とした主成分モノマーの改良(特許文献3)、及び重合性モノマー組成物の硬化前後の重合収縮率の改善を目的とした主成分モノマーの改良(特許文献4)を挙げることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−204069号公報
【特許文献2】特表2013−544823号公報
【特許文献3】特開平11−315059号公報
【特許文献4】WO2012−157566号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、コンポジットレジンをはじめとする重合性モノマー組成物を含有する歯科材料用組成物の適用範囲の拡大には、その硬化物の機械的物性を向上させる必要がある。
【0010】
上記問題点に鑑み、本発明は、高い靭性と剛性を両立する物性を有する硬化物を与える歯科材料用重合性モノマー組成物、及び該歯科材料用重合性モノマー組成物を含有する歯科材料用組成物、及び高い機械的物性を有するその硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、適度な剛直性を有するジイソシアネートと、適度な柔軟性を有するヒドロキシアクリレートより得られるウレタンアクリレートを含有する重合性モノマー組成物の硬化物が、高い機械的物性を示すことを見出した。さらに、該組成物中のアクリレート基とメタクリレート基の比率をある一定範囲内にコントロールすることにより、さらに機械的物性、特に破断エネルギーと破断強度が向上することを見出し、さらに鋭意検討した結果、本発明を完成した。
【0012】
本発明は、以下の[1]〜[12]に記載の通り歯科材料用重合性モノマー組成物、該重合性モノマー組成物を含有する歯科材料用組成物、及び該歯科材料用組成物の硬化物を提供する。
【0013】
[1]ウレタンアクリレート化合物(A)と、メタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる少なくとも1つの重合性基を含有する重合性化合物(B)とを含有し、かつ、以下の(I)および(II)を満たす歯科材料用重合性モノマー組成物。
(I)該ウレタンアクリレート化合物(A)が下記一般式(1)で表されるヒドロキシアクリレート(a1)と、2つのイソシアネート基が炭化水素基で置換されていてもよいメチレン基を介して二価の炭素数6〜9の芳香族炭化水素基または二価の炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基と結合しているジイソシアネート(a2)とを反応して得られる。
(II)前記重合性モノマー組成物中のメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、該ウレタンアクリレート化合物(A)に含有されるアクリロイル基の数が10%以上90%未満の割合である。
【0014】
【化1】
【0015】
(上記一般式(1)中、Raは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または直鎖オキシアルキレン基を示す。)
[2]前記重合性モノマー組成物中のメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、該ウレタンアクリレート化合物(A)に含有されるアクリロイル基の数が40%以上90%未満の割合である[1]に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0016】
[3]該歯科材料用重合性モノマー組成物に含有されるアクリロイル基とメタクリロイル基との比率が、10:90〜90:10の範囲にある、[1]に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0017】
[4]該歯科材料用重合性モノマー組成物に含有されるアクリロイル基とメタクリロイル基との比率が、40:60〜90:10の範囲にある、[1]〜[3]のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0018】
[5]前記ジイソシアネート(a2)が、下記一般式(2)で示される化合物より選択される少なくとも1つであることを特徴とする[1]〜[4]のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0019】
【化2】
【0020】
(上記一般式(2)中、Rbは二価の炭素数6〜9の芳香族炭化水素基または二価の炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基を示し、Rc、Rd,Re、及びRfは、それぞれ水素、もしくはメチル基を示す。)
[6]前記ジイソシアネート(a2)が、下記一般式(3)〜(5)で示される化合物より選択される少なくとも1つであることを特徴とする[5]に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0021】
【化3】
【0022】
[7]前記ウレタンアクリレート(A)が下記一般式(6)で表される少なくとも1つの化合物である[6]に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0023】
【化4】
【0024】
(上記一般式(6)中、Riは下記式(7)、(8)、または(9)で示される基であり、RgおよびRhは、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基であり、Rjは水素原子またはメチル基を示す。)
【0025】
【化5】
【0026】
[8]前記一般式(1)中のRaが、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基である[1]の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0027】
[9]前記一般式(6)中のRgおよびRhが、それぞれ独立に、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基であり、Rjが水素原子である[7]の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0028】
[10]25℃における粘度が1〜100,000mPa・sであることを特徴とする[1]〜[9]のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物。
【0029】
[11][1]〜[10]のいずれか1項に記載の歯科材料用重合性モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含有する歯科材料用組成物。
【0030】
[12][11]に記載の歯科材料用組成物を硬化させてなる歯科材料。
【発明の効果】
【0031】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物は、硬化させた際に高い剛性と靭性を両立する。また、適度な粘度を有するため、歯科材料用重合性モノマー組成物とフィラーとの混合性に優れ、フィラー等を含有する歯科材料用組成物に有用である。
【0032】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を使用した歯科材料用組成物は、硬化物の機械的物性が高く、例えば、歯冠修復用のコンポジットレジン、及び人工歯材料などとして好適である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
[歯科材料用重合性モノマー組成物]
[ウレタンアクリレート(A)]
本発明における歯科材料用重合性モノマー組成物には、下記一般式(1)で表される適度な柔軟性を有するヒドロキシアクリレート(a1)と、適度な剛性を有するジイソシアネート(a2)として、二価の芳香族炭化水素基または二価の橋かけ環式炭化水素基が、水素原子が炭化水素基で置換されていてもよいメチレン基を介して2つのイソシアネート基と結合したジイソシアネート(a2)とを反応させることにより得られるウレタンアクリレート(A)が含有されている。
【0034】
【化6】
【0035】
上記一般式(1)中、Raは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい、炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基を示す。
【0036】
上記一般式(1)のRaの好ましい一態様は、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよい、炭素数2〜4の直鎖アルキレン基またはオキシアルキレン基である。
【0037】
上記直鎖アルキレン基としては、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2CH2−、及び−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−などが挙げられる。これら直鎖アルキレン基の好ましい一態様は、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−等である。
【0038】
上記直鎖オキシアルキレン基としては、例えば、−CH2CH2OCH2CH2−、及び−CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2−などが挙げられる。上記直鎖オキシアルキレン基の好ましい一態様は、例えば、−CH2CH2OCH2CH2−等である。
【0039】
ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基の炭素数は、通常2〜6であり、好ましくは2〜4、より好ましくは2である。
【0040】
上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子と置換可能なアルキル基としては、例えば、CH3−、CH3CH2−、CH3CH2CH2−、及び(CH3)2CH−などが挙げられる。ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、該アルキル基の炭素数は、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0041】
上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子と置換可能な(メタ)アクリロイルオキシメチレン基としては、メタクリロイルオキシメチレン基及びアクリロイルオキシメチレン基が挙げられる。
【0042】
ここで、一般式(1)で表されるヒドロキシアクリレート(a1)はアクリロイル基を有する。したがって、ウレタンアクリレート(A)は分子の末端の位置に少なくとも1つのアクリロイル基を必ず有する。
【0043】
aの置換基として(メタ)アクリロイルオキシメチレン基を有し、該(メタ)アクリロイルオキシメチレン基がアクリロイルオキシメチレン基のみからなる場合、上記ヒドロキシアクリレート(a1)に含まれる重合性基のいずれもがアクリロイル基となる。
【0044】
一方、Raの置換基として(メタ)アクリロイルオキシメチレン基を有し、上記以外の場合には、上記ヒドロキシアクリレート(a1)に含まれる重合性基がアクリロイル基とメタクリロイル基の両方になる。
【0045】
靱性に優れた硬化物を得る観点から、上記ヒドロキシアクリレート(a1)に重合性基が複数含まれる場合には、重合性基としてメタクリロイル基がより少なく、アクリロイル基がより多く含まれていることが好ましく、重合性基としてアクリロイル基のみが含まれていること(Raの置換基となり得る(メタ)アクリロイルオキシメチレン基がアクリロイルオキシメチレン基であること)がより好ましい。
【0046】
a中の上記置換基は、ヒドロキシアクリレート(a1)に含まれるアクリロイル基に隣接する直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基の炭素の隣の炭素に結合した水素を置換していることが好ましい。例えば、直鎖アルキレン基が−CH2CH2−の場合、一般式(14)で表される化合物群が好ましい。
【0047】
【化7】
【0048】
上記水素原子と置換可能なアルキル基、及び水素原子と置換可能な(メタ)アクリロイルオキシメチレン基の数は特に限定されないが0〜4が好ましく、ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、0〜2がより好ましく、0〜1がさらに好ましく、0すなわち該置換基がないことが特に好ましい。
【0049】
上記ヒドロキシアクリレート(a1)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。また、後述するジイソシアネート(a2)と反応させる際には、上記ヒドロキシアクリレート(a1)は、ヒドロキシメタクリレートとの混合物として用いてもよい。
【0050】
このようなウレタンアクリレート(A)が本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物に含有されることにより、この組成物から得られる硬化物が、靭性と剛性を兼ね備えた材料となる。
【0051】
このような特性の硬化物が得られる詳細な理由は不明であるが、上記ウレタンアクリレート(A)は、後述する一般式(6)などに示されるように、ジイソシアネート(a2)に由来する、二価の芳香族炭化水素基または二価の橋かけ環式炭化水素基と水素原子が炭化水素基で置換されていてもよいメチレン基を含有する部分(例えば、一般式(2)におけるNCO以外の部分または一般式(6)におけるRi)(以下、コア部ともいう)、ヒドロキシアクリレート(a1)の直鎖部分のアルキレン鎖に由来する部位(例えば、一般式(1)におけるRa、または一般式(6)におけるRg及びRh)(以下、アーム部ともいう)、コア部とアーム部を連結するカルバモイル基、及び少なくとも1つのアクリロイル基より構成されている(ここで、両末端に少なくとも2つのアクリロイル基を有することが好ましい態様である)。
【0052】
硬化物が靭性と剛性を兼ね備えた材料となるためには、その重合性モノマー中(同一分子内)のハードセグメントとソフトセグメントのバランスが、適切にコントロールされている必要があると考えられる。
【0053】
例えば、従来よく用いられている2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)の場合、本願のコア部に相当する部分である2,2,4−トリメチルヘキサメチレン基は、メチル基を置換基として有する炭素数6の直鎖アルキレン基であるため、ソフトセグメントとみなすことができる。また、そのアーム部はエチレン基であるため、これもまたソフトセグメントとみなすことができる。したがってUDMAは、カルバモイル基を除いては、分子内にハードセグメントを有していないこととなり、分子全体として剛性に欠け、そのため、UDMAを主成分とする歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物は剛性に欠ける材料となる。
【0054】
これに対して、本発明におけるウレタンアクリレート(A)は、アーム部は適度な柔軟性を有するアルキレン鎖であり、ソフトセグメントとみなすことができ、かつ、コア部は剛直な構造とみなせる二価の芳香族炭化水素基(典型的には炭素数6〜9の芳香族炭化水素基)または二価の橋かけ環式炭化水素基(典型的には炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基)に水素原子が炭化水素基で置換されていてもよいメチレン基を介してカルバモイル基に結合しており、適度な剛性を有するハードセグメントとみなせる。このソフトセグメントとハードセグメントの適度なバランス(構造特性)によりウレタンアクリレート(A)は適度な剛性を有するといえる。そのため、分子全体で考えるとUDMAと比較して高い剛性を持つ硬化物が得られるものと推定される。
【0055】
また、従来の多くの歯科材料用重合性モノマーは、重合性基としてメタクリロイル基を有しているが、本発明におけるウレタンアクリレート(A)は、重合性基としてアクリロイル基(その分子内に少なくとも1つのアクリロイル基、好ましくは2つのアクリロイル基)を含有している。前述のように、重合性モノマーの硬化物の靭性と剛性を両立させるためには、その重合性モノマー中のハードセグメントとソフトセグメントのバランスが、適切にコントロールされている必要があると考えられる。一般的に、同様の構造のメタクリレートモノマーとアクリレートモノマーの硬化物の物性を比較すると、メタクリレートモノマーの硬化物の方が、アクリレートモノマーの硬化物と比べて、より剛直な物性を示す。このことは、メタクリロイル基の重合により生成した主鎖部はよりハードセグメント的性質を示し、アクリロイル基の重合により生成した主鎖部はよりソフトセグメント的性質を示すことを意味する。そのため、本発明におけるウレタンアクリレート(A)はメタクリロイル基のみを持つ同様の化合物と比較して、靱性に優れた硬化物が得られるものと推定される。同じ理由により、ウレタンアクリレート(A)が2を超える重合性基を有する場合に、メタクリロイル基が少なくアクリロイル基の数が多い程、靱性に優れた硬化物が得られるものと推定される。
【0056】
上記ジイソシアネート(a2)としては、下記一般式(2)で示される化合物より選択される少なくとも1つの化合物が好ましい。
【0057】
【化8】
【0058】
上記一般式(2)中、Rbは二価の炭素数6〜9の芳香族炭化水素基または二価の炭素数6〜9の橋かけ環式炭化水素基を示し、Rc、Rd,Re、及びRfは、それぞれ水素、もしくはメチル基を示す。
【0059】
上記ジイソシアネート(a2)の芳香族炭化水素基または橋かけ環式炭化水素基の炭素数としては、適度な剛性を有する観点から、炭素数は通常6〜9であり、好ましくは6〜7である。炭素数6〜7の芳香族炭化水素基または橋かけ環式炭化水素基としては、フェニレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチレン基などが挙げられる。
【0060】
bが芳香族炭化水素基である場合、その芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環に対して、式(2)中のNCO基に直接結合する2つの炭素原子は、オルト位、メタ位、又はパラ位の位置関係のいずれであってもよい。しかし、本願発明の効果を奏する上では、これら2つの炭素原子は、メタ位又はパラ位の位置関係であることが好ましく、メタ位の位置関係であることがより好ましい。
【0061】
bが橋かけ環式炭化水素基である場合、その橋かけ環式炭化水素基に含まれる炭素環に対して、式(2)中のNCO基に直接結合する2つの炭素原子の位置関係は特に限定されない。しかし、本発明の効果を奏する上では、これら2つの炭素原子は、上記炭素環の同一の炭素原子に対して結合する位置関係ではないことが好ましく、NCO基に直接結合する一方の炭素原子が結合した炭素環状の炭素に対して、2つ以上離れた炭素環状の炭素に対して、NCO基に直接結合する他方の炭素原子が結合する位置関係にあることがより好ましい。
【0062】
これらのNCO基に直接結合する2つの炭素原子の位置が異なる位置異性体は、単独で使用されることもあるし、2種以上の混合物として使用されることもある。
【0063】
上記ジイソシアネート(a2)の具体的な化合物としては、下記一般式(3’)、(4’)、(5)で示される化合物より選択される少なくとも1つの化合物が特に好ましく、下記一般式(3)〜(5)で示される化合物より選択される少なくとも1つの化合物が最も好ましい。
【0064】
一般式(5)の化合物は、ビス(イソシアナトメチル)ビシクロ[2.2.1]ヘプタンという名称で呼ばれるが、一般的に2,5位及び2,6位にメチレン基を有する位置異性体の混合物である。
また一般式(3’)の化合物の場合、メチレン基の結合位置が異なる位置異性体の混合物であってもよいし、単離された1種の位置異性体であってもよい。中でも、一般式(3)で示される化合物がより好ましい。
【0065】
また一般式(4’)の化合物の場合、メチレン基の結合位置が異なる位置異性体の混合物であってもよいし、単離された1種の位置異性体であってもよい。中でも、一般式(4)で示される化合物がより好ましい。
【0066】
【化9】
【0067】
【化10】
【0068】
これらジイソシアネート(a2)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。
【0069】
本発明のウレタンアクリレート(A)は、前述のように前記ヒドロキシアクリレート(a1)を含むヒドロキシ(メタ)アクリレートと、前記ジイソシアネート(a2)とを反応させることにより得られるが、その反応は、公知または公知に準ずる方法により行うことができる。
【0070】
例えば、上記ヒドロキシアクリレート(a1)と上記ジイソシアネート(a2)とを混和させることによって、本発明のウレタンアクリレート(A)を得ることができる。この際、ヒドロキシアクリレート(a1)中の水酸基と、ジイソシアネート(a2)中のイソシアネート基が反応することにより、カルバモイル基が生成する。このような反応は、ウレタン化反応と呼ばれることがある。
【0071】
反応の際には、触媒を添加してもよいし、また添加しなくてもよいが、反応速度を向上させるために、触媒を添加することが好ましい。該触媒としては、ウレタン化反応を加速する公知の触媒を使用できる。
【0072】
ウレタン化触媒としては、例えば、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジオクテートおよびオクタン酸スズなどの有機スズ化合物、ナフテン酸銅、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸亜鉛、アセチルアセトナトジルコニウム、アセチルアセトナト鉄およびアセチルアセトナトゲルマニウムなどのスズ以外のその他の有機金属化合物、トリエチルアミン、1,4−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、2,6,7−トリメチル−1−ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン、N,N−ジメチルシクロヘキシルアミン、ピリジン、N−メチルモルホリン、N,N,N',N'−テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N',N'−テトラメチル−1,3−ブタンジアミン、N,N,N',N'−ペンタメチルジエチレントリアミン、N,N,N',N'−テトラ(3−ジメチルアミノプロピル)−メタンジアミン、N,N'−ジメチルピペラジンおよび1,2−ジメチルイミダゾールなどのアミン化合物およびそれらの塩、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−n−ヘキシルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィンおよびトリ−n−オクチルホスフィンなどのトリアルキルホスフィン化合物などが挙げられる。
【0073】
これらの中でも、少量で反応が進行し、ジイソシアネート化合物に対して選択性が高い、ジブチルスズジラウレートおよびオクタン酸スズが好ましい。ウレタン化触媒を使用する場合には、ヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)の合計重量100重量%に対して、0.001〜0.5重量%を添加することが好ましく、0.002〜0.3重量%を添加することがより好ましく、0.01〜0.3重量%を添加することがさらに好ましく、0.01〜0.2重量%を添加することがさらに好ましく、0.05〜0.2重量%を添加することがさらに好ましい。上記下限値を下回る添加量では、触媒の効果が小さくなり、反応時間が著しく長くなる可能性があり、上記上限値を超える添加量では、触媒効果が過大となり、多量の反応熱が発生し温度制御が困難になることがある。該触媒は反応の開始時に全量投入してもよく、必要に応じて逐次もしくは分割して反応系に投入してもよい。このような逐次もしくは分割された触媒の投入は、反応初期の多量の反応熱の発生を抑制するため、反応温度の制御をより容易にする。
【0074】
反応温度に関しては、特に制限はないが、0〜120℃であることが好ましく、20〜100℃であることがより好ましく、40〜80℃であることがさらに好ましい。上記下限値を下回る温度で反応を実施すると、反応速度が極度に低下するため、反応の完結までに非常に長い時間を要し、場合によっては反応が完結しない恐れがある。一方、上記上限値を超える温度で反応を実施すると、副反応により不純物が生成する恐れがある。このような不純物は、製造されたアクリレート化合物の着色原因となることがある。
【0075】
前述の好ましい温度範囲における安定的な製造を行う点からは、反応温度は制御されていることが好ましい。通常、ウレタン化反応は発熱反応であるので、その発熱量が大きく、反応物の温度が好ましい反応温度範囲を超えて上昇する恐れがある場合、冷却を行う場合がある。また、反応がほぼ完結し、反応物の温度が好ましい反応温度範囲を超えて低下する恐れがある場合、加熱を行う場合がある。
【0076】
ウレタンアクリレート(A)は重合活性を有する。従って、その製造中において、高い温度に晒された際に意図しない重合反応が進行する可能性がある。そのような意図しない重合反応を防止するために、反応を開始する前または反応中に公知の重合禁止剤を添加することができる。重合禁止剤は、ウレタンアクリレート(A)の製造をする際にアクリレート基の反応を抑制できれば特に限定されないが、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン(BHT)、ヒドロキノン(HQ)、ヒドロキノンモノメチルエーテル(MEHQ)、及びフェノチアジン(PTZ)等が挙げられる。これら重合禁止剤の中でも、BHTは、他のフェノール性重合禁止剤と比較するとイソシアネート基と反応することによって消費されることが少なく、またアミン系の重合禁止剤で見られるような着色が少ないことから特に好ましい。添加する重合禁止剤の量は特に限定されないが、ヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)の合計重量100重量%に対して、0.001〜0.5重量%を添加することが好ましく、0.002〜0.3重量%を添加することがより好ましく、0.005〜0.3重量%を添加することがさらに好ましく、0.005〜0.1重量%を添加することがさらに好ましく、0.01〜0.1重量%を添加することがさらに好ましい。上記下限値を下回る添加量では、重合禁止剤として能力を発揮できない可能性があり、上記上限値を超える添加量では、ウレタンアクリレート(A)の用途である歯科材料用組成物として使用した際に、硬化速度が極度に遅くなり、実用性に制限が加えられる場合がある。
【0077】
ウレタン化反応の際に、溶媒を使用してもよい。溶媒は、ヒドロキシアクリレート(a1)及びジイソシアネート(a2)に対する反応性が実用上なく、反応を阻害せず、また、原料及び生成物を溶解させるものであれば、特に限定されない。また、溶媒を使用せずに反応を行ってもよい。ヒドロキシアクリレート(a1)は、通常、低粘度の液体であるためジイソシアネート(a2)と混和することができ、溶媒を使用せずに反応を行うことができる。
【0078】
ヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)を混和する方法については、特に限定されない。例えば、反応容器中のヒドロキシアクリレート(a1)に対して、ジイソシアネート(a2)の投入量を制御しながら添加して混和する方法、反応容器中のジイソシアネート(a2)に対して、ヒドロキシアクリレート(a1)の投入量を制御しながら添加して混和する方法、反応容器に対して、ヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)とを同時に投入量を制御しながら添加して混和する方法などにより混和することができる。このような混和方法によれば、ウレタン化反応により発生する熱量を適切な範囲に制御できるので、反応中の温度制御が容易になる。また、ヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)とを反応容器に全量入れた後に昇温を行うことによりウレタン化反応を行う方法を採用することもできる。反応時には、反応熱により急激に反応温度が上昇することがあるので、適宜冷却による温度制御が必要となる場合がある。
【0079】
酸素は、アクリロイル基を含む化合物の重合禁止剤として有効である。そのため、反応の際に、意図しないアクリロイル基の重合を防止するために、反応器の中に酸素を導入することがある。酸素は、例えば、乾燥空気、または酸素ガスなどの形態で反応器に導入できるが、好ましくは乾燥空気の形態で反応器に導入する。乾燥空気は、例えば、凝縮型エアードライヤー等の使用をはじめとした公知の方法で乾燥させて、水を除去することで得ることができる。その他の態様として、窒素等の不活性気体と酸素との混合ガスを反応器に導入することもできる。窒素等の不活性気体と酸素との混合ガスの態様も上記乾燥空気の態様と同様に好ましい。窒素等の不活性気体と酸素との混合ガスは、酸素ガスもしくは酸素を含む前述の乾燥空気に窒素を所定比率で混合することで得ることができる。該窒素は公知の方法で乾燥させて水を除去してあるものが好ましい。導入方法は特に限定されないが、例えば、反応容器の底部から、気泡状で連続的、もしくは間欠的に導入できる。また、反応容器上部の空隙部分に連続的、もしくは間欠的に導入してもよい。乾燥空気の導入量は、反応容器の大きさなどに応じて適宜設定すればよいが、例えば、反応容器が1Lの場合、通常1〜500ml/分、好ましくは1〜300ml/分である。1ml/分より少ないと十分な量の酸素が導入できず、重合禁止剤として作用しない可能性があり、500ml/分より多いと反応時にジイソシアネートの揮発を増加させ、ウレタンアクリレート(A)の硬化後の物性を低下させるおそれがある。
【0080】
ウレタン化反応時に水が系中の不純物として存在すると、ジイソシアネート(a2)と水とが反応することにより、目的物よりも高分子量の不純物を生じる恐れがある。かかる不純物量の増大は、生成物の粘度の上昇の原因となり、好ましくない。したがって、ウレタン化反応する際に反応系中には、極力水が存在しないことが好ましい。
【0081】
そのため、ヒドロキシアクリレート(a1)に含有される水分量は極力少ないことが好ましく、具体的には、ヒドロキシアクリレート(a1)に対して、水分量が、0.5重量%以下であることが好ましく、0.3重量%以下であることがより好ましく、0.1重量%以下であることがさらに好ましい。ヒドロキシアクリレート(a1)に含有される水分量が上記値を超える場合は、公知の方法で水を取り除いた後に、ウレタンアクリレート(A)の原料に供することが好ましい。また、ウレタン化反応を行う反応容器内は、公知の方法で乾燥させて、水を除去することが好ましい。
【0082】
以上の製造法に従って製造されたウレタンアクリレート(A)は、下記一般式(6)で表すことができる。
【0083】
【化11】
【0084】
上記一般式(6)中、Rg及びRhは、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基または(メタ)アクリロイルオキシメチレン基で置換されていてもよい炭素数2〜6の直鎖アルキレン基、または炭素数2〜6の直鎖オキシアルキレン基を示す。上記一般式(6)中、Rjは、水素原子またはメチル基を示す。
【0085】
上記一般式(6)のRg及びRhの好ましい一態様は、水素原子が炭素数1〜3のアルキル基で置換されていてもよい、炭素数2〜4の直鎖アルキレン基またはオキシアルキレン基である。
【0086】
上記直鎖アルキレン基としては、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2CH2−、及び−CH2CH2CH2CH2CH2CH2−などが挙げられる。これら直鎖アルキレン基の好ましい一態様は、例えば、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH2CH2CH2CH2−等である。上記直鎖オキシアルキレン基としては、例えば、−CH2CH2OCH2CH2−、及び−CH2CH2OCH2CH2OCH2CH2−などが挙げられる。上記直鎖オキシアルキレン基の好ましい一態様は、例えば、−CH2CH2OCH2CH2−等である。
【0087】
上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基の炭素数としては、ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、炭素数は通常2〜6であり、好ましくは2〜4、より好ましくは2である。
【0088】
上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子と置換可能なアルキル基としては、例えば、CH3−、CH3CH2−、CH3CH2CH2−、及び(CH3)2CH−などが挙げられる。ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、該アルキル基の炭素数としては、1〜3が好ましく、1〜2がより好ましく、1がさらに好ましい。
【0089】
上記直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基に含まれる水素原子と置換可能な(メタ)アクリロイルオキシメチレン基としては、メタクリロイルオキシメチレン基及びアクリロイルオキシメチレン基が挙げられる。
【0090】
上記一般式(6)で表されるウレタンアクリレートの中でも、本願の効果をより効果的に奏する観点からは、下記一般式(6’)で表されるウレタンアクリレートが好ましい一態様である。
【0091】
【化12】
【0092】
上記一般式(6’)中、Ri、Rg、およびRhの定義、具体例、および好適例は、それぞれ、上記一般式(6)のRi、Rg、およびRhと同様である。
【0093】
ここで、一般式(6)で表されるウレタンアクリレート(A)は末端の位置に少なくとも1つのアクリロイル基を有する。また、歯科材料用重合性モノマー(A)の好ましい一態様である一般式(6’)で表されるウレタンアクリレートは、両末端の位置に少なくとも2つのアクリロイル基を有する。
【0094】
g及びRhの置換基として(メタ)アクリロイルオキシメチレン基を有し、該(メタ)アクリロイルオキシメチレン基がアクリロイルオキシメチレン基のみからなる場合、上記ウレタンアクリレート(A)に含まれる重合性基のいずれもがアクリロイル基となる。
【0095】
一方、Rg及びRhの置換基として(メタ)アクリロイルオキシメチレン基を有し、上記以外の場合には、上記ウレタンアクリレート(A)に含まれる重合性基がアクリロイル基とメタクリロイル基の両方になる。
【0096】
靱性に優れた硬化物を得る観点から、上記ウレタンアクリレート(A)に重合性基が3以上含まれる場合には、重合性基としてメタクリロイル基がより少なく、アクリロイル基がより多く含まれているが好ましく、重合性基としてアクリロイル基のみが含まれていること(gおよびRhの置換基となり得る(メタ)アクリロイルオキシメチレン基がアクリロイルオキシメチレン基であること)がより好ましい。
【0097】
g及びRhの上記置換基は、ウレタンアクリレート(A)に含まれる両端のアクリロイル基に隣接する直鎖アルキレン基または直鎖オキシアルキレン基の炭素の隣の炭素に結合した水素を置換していることが好ましい。例えば、直鎖アルキレン基が−CH2CH2−の場合、一般式(15)で表される化合物群が好ましい。
【0098】
【化13】
【0099】
上記水素原子と置換可能なアルキル基、及び水素原子と置換可能な(メタ)アクリロイルオキシメチレン基の数は特に限定されないが、0〜8が好ましく、ウレタンアクリレート(A)に適度な柔軟性を持たせる観点から、0〜4がより好ましく、0〜2がさらに好ましく、0すなわち該置換基がないことが特に好ましい。
【0100】
上記一般式(6)または(6’)中、Riは、2つの隣接するカルバモイル基の窒素原子と結合する基であり、二価の芳香族炭化水素基または二価の橋かけ環式炭化水素基を中央に有し、かつ上記カルバモイル基の窒素原子と上記二価の基とに結合する任意の水素がメチル基で置換されていてもよいメチレン基(以下、メチレン基Aともいう。)を2つ有する基である。
【0101】
適度な剛性を有する観点から、Riに含まれる上記芳香族炭化水素基または橋かけ環式炭化水素基の炭素数は、通常6〜9であり、好ましくは6〜7である。炭素数6〜7の芳香族炭化水素基または橋かけ環式炭化水素基としては、フェニレン基、ビシクロ[2.2.1]ヘプチレン基などが挙げられる。
【0102】
iに含まれる2つのメチレン基Aと結合する基が芳香族炭化水素基である場合、その芳香族炭化水素基に含まれるベンゼン環に対して、2つのメチレン基Aの位置関係は、オルト位、メタ位、又はパラ位のいずれであってもよい。しかし、本願発明の効果を奏する上では、これら2つのメチレン基Aの位置関係は、メタ位又はパラ位であることが好ましく、メタ位であることがより好ましい。
【0103】
iに含まれる2つのメチレン基Aと結合する基が橋かけ環式炭化水素基である場合、その橋かけ環式炭化水素基に含まれる炭素環に対して、2つのメチレン基Aの位置関係は特に限定されない。しかし、本発明の効果を奏する上では、これら2つのメチレン基Aは、上記炭素環の同一の炭素原子に対して結合していないことが好ましく、一方の上記メチレン基Aが結合した炭素環状の炭素に対して、2つ以上離れた炭素環状の炭素に対して、他方の上記メチレン基Aが結合することがより好ましい。
【0104】
これらの2つのメチレン基Aの位置が異なる位置異性体は、単独で使用されることもあるし、2種以上の混合物として使用されることもある。
【0105】
上記Riとして具体的には、下記一般式(7’)、(8’)、(9)で示される基より選択される基が特に好ましく、下記一般式(7)〜(9)で示される基より選択される基が最も好ましい。
【0106】
一般式(9)の基の場合、一般的に2,5位及び2,6位にメチレン基が結合する位置異性体の混合物である。
【0107】
また、一般式(7’)の基の場合、メチレン基の結合位置が異なる位置異性体の混合物からなる基であってもよいし、単離された位置異性体単独からなる基であってもよい。中でも、一般式(7)で示される基がより好ましい。
【0108】
また、一般式(8’)の基の場合、メチレン基の結合位置が異なる位置異性体の混合物からなる基であってもよいし、単離された位置異性体単独からなる基であってもよい。中でも、一般式(8)で示される基がより好ましい。
【0109】
【化14】
【0110】
【化15】
【0111】
上記ウレタンアクリレート(A)の中でも、下記化学式で示されるウレタンアクリレートが好ましい。
【0112】
【化16】
【0113】
【化17】
【0114】
【化18】
【0115】
なお上記式中、Etはエチル基を示す。
【0116】
ウレタンアクリレート(A)の分子量は、その構造由来であるが、一般的に約400〜1000であり、好ましくは400〜700である。分子量がこの範囲にあると、モノマー粘度が低くなり、歯科材料用組成物に配合する際に有利である。
【0117】
また、ウレタンアクリレート(A)は常温で液体であることが好ましい。さらにウレタンアクリレート(A)の65℃における粘度は、1〜50000mPa・sであることが好ましく、1〜20000mPa・sであることがより好ましく、1〜5000mPa・sであることがさらに好ましい。粘度がこの範囲にあると、歯科材料用重合性モノマー組成物の粘度が低くなり、歯科材料用組成物に配合する際に有利である。なお、上記ウレタンアクリレート(A)は、高温化の保存により一部オリゴマー化してしまったものや、高粘度の副生化合物などの所望のウレタンアクリレート(A)以外の副成分を含む場合もある。しかしながら、上述の粘度範囲にあれば、歯科材料用組成物組成物として使用する際に、このような副成分の存在による問題は少ない傾向にある。上記粘度は、E型粘度計(例えば東機産業製TVE−22H)により、65℃で測定した値である。
【0118】
これらウレタンアクリレート(A)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。例えば、2種以上のヒドロキシアクリレート(a1)とジイソシアネート(a2)とを原料とし歯科材料用重合性モノマー(A)を作製した場合、あるいはヒドロキシアクリレート(a1)およびヒドロキシメタクリレートの混合物とジイソシアネート(a2)とを原料とし歯科材料用重合性モノマー(A)を作製した場合などは、歯科材料用重合性モノマー組成物には、2種以上の歯科材料用重合性モノマー(A)が含まれることになる。
【0119】
[重合性化合物(B)]
本発明における歯科材料用重合性モノマー組成物は、上述したウレタンアクリレート(A)に加えて、さらにメタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる少なくとも1つの重合性基を含有する重合性化合物(B)(ただし、ウレタンアクリレート(A)を除く)を含有する。
【0120】
上記重合性化合物(B)に含有される重合性基の数は、1つでもよいし、2つ以上でもよい。好ましい重合性基の数は2以上10以下であり、より好ましい重合性基の数は2以上6以下であり、さらに好ましい重合性基の数は2以上4以下である。
【0121】
重合性化合物(B)の分子量としては、80〜1000が好ましく、150〜700がより好ましい。分子量がこの範囲より小さいと低沸点となるため、歯科材料用組成物を調製する際の操作性の観点から下限値を上記にすることが好ましい。分子量がこの範囲より大きいと粘度が高くなる傾向があり、歯科材料用組成物を調製する際の操作性の観点から上限値を上記にすることが好ましい。
【0122】
重合性化合物(B)は常温で液体であることが好ましい。さらに重合性化合物(B)の65℃における粘度は、1〜50000mPa・sであることが好ましく、1〜20000mPa・sであることがより好ましく、1〜5000mPa・sであることがさらに好ましく、1〜3000mPa・sであることが特に好ましい。粘度がこの範囲にあると、歯科材料用重合性モノマー組成物の粘度が低くなり、歯科材料用組成物に配合する際に有利である。さらに、重合性化合物(B)の65℃における上記粘度は、ウレタンアクリレート(A)の65℃における粘度よりも低いことがより好ましい。なお、上記重合性化合物(B)は、高温化の保存により一部オリゴマー化してしまったものなどの所望の重合性化合物(B)以外の副成分を含む場合もある。しかしながら、上述の粘度範囲にあれば、歯科材料用組成物組成物として使用する際に、このような副成分の存在による問題は少ない傾向にある。上記粘度は、E型粘度計により、65℃で測定した値である。
【0123】
これら重合性化合物(B)は、1種の化合物で構成されてもよいし、2種以上の化合物の混合物で構成されてもよい。
【0124】
重合性基を1つだけ有する上記重合性化合物(B)としては、例えば、下記一般式(10)で示される重合性化合物が挙げられる。
【0125】
【化19】
【0126】
上記一般式(10)中、R1は水素またはメチル基であり、R2は酸素または窒素を含有してもよい炭素数1〜20の一価の有機基を示す。
【0127】
上記一価の有機基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等の炭素数1〜20の非環状炭化水素基、シクロアルキル基、シクロアルケニル基、シクロアルキニル基、アリール基等の炭素数1〜20の環状炭化水素基などの炭化水素基;アルコキシアルキル基、アルコキシアルキレングリコール基、テトラヒドロフルフリル基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜20の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0128】
上記炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基に直鎖状のアルキレン部分が含まれている場合には、その少なくとも1つのメチレン基が、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合(カルバモイル基)、またはウレア結合で置き換えられていてもよい(ただし、メチレン基が連続して置き換えられることはない。)。
【0129】
また、上記炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0130】
上記一般式(10)で示されるメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、エトキシジエチレングリコールメタクリレート、メトキシトリエチレングルコールメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレートなどが挙げられる。
【0131】
上記一般式(10)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、エトキシジエチレングリコールアクリレート、メトキシトリエチレングルコールアクリレート、フェノキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートなどが挙げられる。
【0132】
重合性基を2つ以上有する上記重合性化合物(B)としては、例えば、下記一般式(11)で示される重合性化合物が挙げられる。
【0133】
【化20】
【0134】
上記一般式(11)中、R3及びR4は水素またはメチル基を示し、これらは同一でも異なっていてもよく、R5は酸素または窒素を含有してもよい炭素数1〜40の二価の有機基を示す。ただし、上記一般式(11)で示される化合物には、ウレタンアクリレート化合物(A)は含まれない。
【0135】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、アルケニレン基、アルキニレン基等の炭素数1〜40の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、シクロアルケニレン基、シクロアルキニレン基、アリーレン基等の炭素数1〜40の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜40の環状炭化水素基としては、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0136】
上記炭素数1〜40の炭化水素基または炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基に直鎖状のアルキレン部分が含まれている場合には、その少なくとも1つのメチレン基が、エステル結合、アミド結合、カーボネート結合、ウレタン結合(カルバモイル基)、またはウレア結合で置き換えられていてもよい(ただし、メチレン基が連続して置き換えられることはない。)。
【0137】
また、上記炭素数1〜40の炭化水素基、炭素数1〜40の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0138】
上記一般式(11)で示される重合性化合物のうち、好適な重合性化合物の一例としては、上記R5が炭素数2〜20、望ましくは炭素数4〜12の直鎖アルキレン基である重合性化合物が挙げられる。
【0139】
上記好適な重合性化合物であり、メタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、1,8−オクタンジオールジメタクリレート、1,9−ナノンジオールジメタクリレート、1,10−デカンジオールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0140】
上記好適な重合性化合物であり、アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、1,8−オクタンジオールジアクリレート、1,9−ナノンジオールジアクリレート、1,10−デカンジオールジアクリレートなどが挙げられる。
【0141】
また、上記一般式(11)で示される重合性化合物のうち、好適な重合性化合物の他の例としては、上記R5が炭素数2〜20、望ましくは炭素数4〜12の直鎖オキシアルキレン基である重合性化合物が挙げられる。
【0142】
上記好適な重合性化合物であり、メタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート、トリプロピレングリコールジメタクリレート、テトラプロピレングリコールジメタクリレート、ポリプロピレングリコールジメタクリレートなどが挙げられる。
【0143】
上記好適な重合性化合物であり、アクリロイル基を有する化合物としては、例えば、エチレングリコールジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、テトラエチレングリコールジアクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート、トリプロピレングリコールジアクリレート、テトラプロピレングリコールジアクリレート、ポリプロピレングリコールジアクリレートなどが挙げられる。
【0144】
さらに、上記一般式(11)で示される重合性化合物のうち、好適な重合性化合物の他の例として、下記一般式(12)で示されるカルバモイル基を有する重合性化合物を挙げることができる。ただし、下記一般式(12)で示される化合物には、ウレタンアクリレート化合物(A)は含まれない。
【0145】
【化21】
【0146】
上記一般式(12)中、R3及びR4は水素またはメチル基であり、これらは同一でも異なっていてもよく、R6及びR7は酸素を含有してもよい炭素数1〜12の二価の有機基であり、これらは同一でも異なっていてもよい。
【0147】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜12の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、アリーレン基等の炭素数1〜12の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜12の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0148】
また、上記炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0149】
上記一般式(12)中、R8は酸素を含有してもよい炭素数1〜20の二価の有機基を示す。上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜20の非環状炭化水素基、および、オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜20の非環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0150】
また、上記炭素数1〜20の炭化水素基または炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0151】
上記一般式(12)で示されるメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシブチルメタクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、または1,4−シクロヘキサンジメタノールモノメタクリレート等のヒドロキシメタクリレートと、2,4−又は2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−、2,4’−又は2,2’−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート等のジイソシアネートとの反応生成物であるウレタンメタクリレートなどが挙げられ、このようなウレタンメタクリレートとしては、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート(UDMA)などが挙げられる。
【0152】
上記一般式(12)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、例えば、2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−ヒドロキシブチルアクリレート、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、または1,4−シクロヘキサンジメタノールモノアクリレート等のヒドロキシアクリレートと、2,4−又は2,6−トルエンジイソシアネート、4,4’−、2,4’−又は2,2’−ジフェニルメタン−ジイソシアネート、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4−又は2,4,4−トリメチル−1,6−ヘキサメチレン−ジイソシアネート、等のジイソシアネートとの反応生成物であるウレタンアクリレートなどが挙げられ、このようなウレタンアクリレートとしては、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジアクリレートなどが挙げられる。
【0153】
また、好ましい上記一般式(11)で示される重合性化合物の別の例として、下記一般式(13)の重合性化合物を挙げることができる。
【0154】
【化22】
【0155】
上記一般式(13)中、R3及びR4は水素またはメチル基を示し、これらは同一でも異なっていてもよく、R9及びR10は酸素を含有してもよい炭素数1〜12の二価の有機基を示し、これらは同一でも異なっていてもよい。
【0156】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基等の炭素数1〜12の非環状炭化水素基、シクロアルキレン基、アリーレン基等の炭素数1〜12の環状炭化水素基などの炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基等が挙げられる。上記炭素数1〜12の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。また、これら基中に含まれる非環状炭化水素部分は直鎖状または分岐状のいずれでもよい。
【0157】
また、上記炭素数1〜12の炭化水素基、炭素数1〜12の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基、アクリロイル基、メタクリロイル基等の重合性基に置き換えられていてもよい。
【0158】
上記一般式(13)中、R11は酸素を含有してもよい炭素数1〜20の二価の有機基を示す。
【0159】
上記二価の有機基としては、例えば、アルキレン基、シクロアルキレン基、アリーレン基などの炭素数1〜20の炭化水素基;オキシアルキレン基等の上記炭化水素基の少なくとも一部の炭素−炭素結合の間に、酸素が挿入された基(ただし酸素が連続して挿入されることはない。)などの炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などが挙げられる。上記炭素数1〜20の環状炭化水素基は、非環状炭化水素部分を有していてもよい。
【0160】
また、上記炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20の酸素含有炭化水素基などの有機基に含まれる水素原子が、カルボキシル基、リン酸基等の酸基、水酸基、アミノ基、エポキシ基等の官能基に置き換えられていてもよい。
【0161】
上記一般式(13)で示されるメタクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2,2−ビス〔4−(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン(Bis−GMA)、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジメタクリレートなどが挙げられる。
【0162】
上記一般式(13)で示されるアクリロイル基を有する化合物としては、例えば、2,2−ビス〔4−(3−アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル〕プロパン、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、プロピレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレートなどが挙げられる。
【0163】
また本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を歯科用接着材の用途に使用する場合などには、上記重合性化合物(B)として、接着の機能を発揮する重合性化合物が含有されていることが好ましい。このような接着の機能を発揮する重合性化合物(B)として、例えば、メタクリロイル基およびアクリロイル基から選ばれる少なくとも1つの重合性基と酸性基を有する重合性化合物が挙げられる。酸性基として、例えば、リン酸残基、ピロリン酸残基、チオリン酸残基、カルボン酸残基及びスルホン酸残基等が挙げられる。
【0164】
メタクリロイル基とリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、9−メタクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−メタクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、20−メタクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジメタクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−メタクリロイルオキシエチル 2'−ブロモエチルリン酸、メタクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0165】
アクリロイル基とリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、9−アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、20−アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、1,3−ジアクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−アクリロイルオキシエチルフェニルリン酸、2−アクリロイルオキシエチル 2'−ブロモエチルリン酸、アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0166】
メタクリロイル基とピロリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、ピロリン酸ジ(2−メタクリロイルオキシエチル)およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0167】
アクリロイル基とピロリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、ピロリン酸ジ(2−アクリロイルオキシエチル)およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0168】
メタクリロイル基とチオリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−メタクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−メタクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0169】
アクリロイル基とチオリン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンジチオホスフェート、10−アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンチオホスフェート、およびこれらの酸塩化物などが挙げられる。
【0170】
メタクリロイル基とカルボン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、4−メタクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、5−メタクリロイルアミノペンチルカルボン酸および11−メタクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、およびこれらの酸塩化物または酸無水物等が挙げられる。
【0171】
アクリロイル基とカルボン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、4−アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、5−アクリロイルアミノペンチルカルボン酸および11−アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、およびこれらの酸塩化物または酸無水物等が挙げられる。
【0172】
メタクリロイル基とスルホン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−スルホエチルメタクリレート、および2−メタクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0173】
アクリロイル基とスルホン酸残基とを有する重合性化合物としては、例えば、2−スルホエチルアクリレート、および2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
【0174】
また、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物には、重合性化合物(B)には分類されない、酸性基を有する重合性化合物を含んでいてもよい。このような酸性基を有する重合性化合物としては、例えば、スチレンスルホン酸等のスルホン酸残基含有重合性化合物など挙げられる。これら酸性基を有する重合性モノマーは、1種単独で、または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0175】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物に、上記酸性基を有する重合性化合物が含まれる場合には、酸性基を有する重合性化合物の配合量は特に制限はされないが、酸性基を有する重合性化合物に含有される重合性基が、歯科材料用重合性モノマー組成物の全重合性基の数に対して、通常50%以下の量となるように、酸性基を有する重合性化合物が歯科材料用重合性モノマー組成物に含まれる。
【0176】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物に含まれるウレタンアクリレート(A)に含有されるアクリロイル基の数は、該歯科材料用重合性モノマー組成物に含まれるメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、10%以上であり、20%以上であることが好ましく、40%以上であることがより好ましい。また、上記ウレタンアクリレート(A)に含有されるアクリロイル基の数は、該歯科材料用重合性モノマー組成物に含まれるメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、10%以上90%未満であり、20%以上90%未満であることが好ましく、40%以上90%未満であることがより好ましい。さらに他の好ましい一態様として、上記ウレタンアクリレート(A)に含有されるアクリロイル基の数は、該歯科材料用重合性モノマー組成物に含まれるメタクリロイル基およびアクリロイル基の合計数に対して、好ましくは20%以上80%未満、より好ましくは40%以上80%未満である態様が挙げられる。ここで言うアクリロイル基の数とは、ウレタンアクリレート(A)および重合性化合物(B)に含有されるアクリロイル基の合計数である。本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物にウレタンアクリレート(A)がこのような量で含まれることにより、アクリレートに由来する靱性とメタクリレートに由来した剛性を兼ね備えた機械的特性に優れた硬化物が得られる。
【0177】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物においては、アクリロイル基を有する化合物とメタクリロイル基を有する化合物とが含まれていることが好ましい。したがって、重合性化合物(B)として、少なくともメタクリロイル基を有する重合性化合物が含まれていることが好ましい。そして、その歯科材料用重合性モノマー組成物中のアクリロイル基の数とメタクリロイル基の数の比率は、10:90〜90:10の範囲にあることが好ましく、20:80〜90:10の範囲にあることがより好ましく、40:60〜90:10の範囲にあることがさらに好ましい。また、他の好ましい一態様として、歯科材料用重合性モノマー組成物中のアクリロイル基の数とメタクリロイル基の数の比率が、好ましくは20:80〜80:20の範囲、より好ましくは40:60〜80:20の範囲にある態様が挙げられる。ここで言うアクリロイル基の数とは、ウレタンアクリレート(A)および重合性化合物(B)に含有されるアクリロイル基の合計数である。また、ここで言うメタクリロイル基の数とは、重合性化合物(B)に含有されるメタクリロイル基の合計数である。
【0178】
このように、アクリロイル基の数とメタクリロイル基の数との比が特定の範囲となるようにするためには、メタクリロイル基を有する重合性化合物とアクリロイル基を有する重合性化合物とを所望の量比となるように混合すればよい。
【0179】
前述したように、メタクリロイル基の重合により生成した主鎖部はよりハードセグメント的性質を示し、アクリロイル基の重合により生成した主鎖部はよりソフトセグメント的性質を示す。そのため、このように、歯科材料用重合性モノマー組成物中のアクリロイル基の数とメタクリロイル基の数の比率を適切に制御すると、両重合性基の性質に由来するソフトセグメント性/ハードセグメント性を適度に調整することができているものと推定される。また、アクリロイル基とメタクリロイル基の重合速度は、かなり異なることが知られている。したがって、アクリロイル基とメタクリロイル基の両方が、重合性モノマー組成物中に存在した場合、それぞれの基がブロック的に共重合していると考えられる。本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化の際にも、このようなブロック的な共重合が進行していると推測される。ブロック的な共重合の結果、硬化物全体で考えると、ソフトドメインとハードドメインがある程度分離し、この両者のバランスが取れることで、硬化物の靭性と剛性が両立されていると推測される。
【0180】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の粘度については、特に限定はないが、25℃において1〜100,000mPa・sの範囲が好ましく、5〜60,000mPa・sの範囲がより好ましく、10〜30,000mPa・sの範囲がさらに好ましく、100〜10,000mPa・sの範囲であることがよりさらに好ましい。上記上限値を超える粘度となると、歯科材料用重合性モノマー組成物にフィラー等の成分を添加して、本発明の歯科材料用組成物を製造する際に分散性が悪くなり、均一に混和することが困難になるおそれがある。一方、上記下限値を下回る粘度では、歯科材料用重合性モノマー組成物にフィラー等の成分を添加して、本発明の歯科材料用組成物を製造する際に気泡の混入が多くなり、やはり均一に混和することが困難になるおそれがある。なお、重合性モノマー組成物は高温下での保存により一部オリゴマー化する場合がある。上記粘度は、オリゴマー化する前の調整直後の重合性モノマー組成物についてのものである。
【0181】
本発明における歯科材料用重合性モノマー組成物の色相については特に限定はないが、歯科材料の原料として使用するため色相が良好であることが好ましい。具体的にはAPHAで、500以下が好ましく、200以下がより好ましく、100以下がさらに好ましい。
【0182】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を製造するあたり、ウレタンアクリレート(A)と重合性化合物(B)とを混合する方法は、特に制限はない。例えば、ウレタンアクリレート(A)と重合性化合物(B)とを容器中に入れ、適宜加温しながら均一となるまで撹拌することにより、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物が得られる。
【0183】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物は、その保存安定性の向上のために、前述の重合禁止剤を含有することができる。前述のようにウレタンアクリレート(A)を合成する際に添加することもできるし、必要に応じてその後の工程中で添加することができる。
【0184】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物は、後述の重合開始剤を添加することにより、常温、加熱、もしくは光重合性を有するようになる。本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物は、従来の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物と比べて、高い機械的物性を有しており、特に高破断強度と高破断エネルギーの両方をバランスよく兼ね備えている。別の言い方をすれば、靭性と剛性を兼ね備えた材料と表現することができる。
【0185】
その他、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物には、殺菌剤、消毒剤、安定化剤、保存剤などの添加剤を本発明の効果を損なわない限り必要に応じて含めてもよい。
【0186】
[歯科材料用組成物]
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物は、本発明の歯科材料用組成物の成分として好適に使用でき、歯科材料用組成物は、上述した歯科材料用モノマー組成物、重合開始剤、及びフィラーを含有する。かかる歯科材料用組成物は、常温重合性、熱重合性、または光重合性を有し、例えば歯科修復材料として好ましく使用することができる。
【0187】
上記重合開始剤は、歯科分野で用いられる一般的な重合開始剤を使用することができ、通常、重合性モノマーの重合性と重合条件を考慮して選択される。
【0188】
常温重合を行う場合には、たとえば、酸化剤及び還元剤を組み合わせたレドックス系の重合開始剤が好適である。レドックス系の重合開始剤を使用する場合、酸化剤と還元剤が別々に包装された形態をとり、使用する直前に両者を混合する必要がある。
【0189】
酸化剤としては、特に限定されないが、例えば、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類およびハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物を挙げることができる。上記有機過酸化物としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイドおよびm−トルオイルパーオキサイド等のジアシルパーオキサイド類;t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートおよびt−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等のパーオキシエステル類;ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイドおよびラウロイルパーオキサイド等のジアルキルパーオキサイド類;1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のパーオキシケタール類;メチルエチルケトンパーオキサイド等のケトンパーオキサイド類;t−ブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド類などが挙げられる。
【0190】
また、還元剤としては、特に限定されないが、通常第三級アミンが用いられる。第三級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−i−プロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−i−プロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジ−t−ブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸n−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸(2−メタクリロイルオキシ)エチル、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、(2−ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−メチルアミン、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−エチルアミン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−N−メタクリロイルオキシエチルアミン、N,N−ビス(メタクリロイルオキシエチル)−N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、トリス(メタアクリロイルオキシエチル)アミンなどが挙げられる。
【0191】
これら有機過酸化物/アミン系の他には、クメンヒドロパーオキサイド/チオ尿素系、アスコルビン酸/Cu2+塩系、有機過酸化物/アミン/スルフィン酸(又はその塩)系等のレドックス系重合開始剤を用いることができる。また、重合開始剤として、トリブチルボラン、有機スルフィン酸なども好適に用いられる。
【0192】
加熱による熱重合を行う場合には、過酸化物、もしくはアゾ系化合物を使用することが好ましい。
【0193】
過酸化物としては特に限定されないが、例えば、過酸化ベンゾイル、t−ブチルヒドロペルオキシド、クメンヒドロペルオキシドなどが挙げられる。アゾ系化合物としては特に限定されないが、例えば、アゾビスイソブチロニトリルなどが挙げられる。
【0194】
可視光線照射による光重合を行う場合には、α−ジケトン/第3級アミン、α−ジケトン/アルデヒド、α−ジケトン/メルカプタン等のレドックス系開始剤が好ましい。
【0195】
光重合開始剤としては、特に限定されないが、例えば、α−ジケトン/還元剤、ケタール/還元剤、チオキサントン/還元剤などが挙げられる。α−ジケトンとしては、例えば、カンファーキノン、ベンジルおよび2,3−ペンタンジオンなどが挙げられる。ケタールとしては、例えば、ベンジルジメチルケタールおよびベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。チオキサントンとしては、例えば、2−クロロチオキサントンおよび2,4−ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。還元剤としては、例えば、ミヒラ−ケトン等、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、N,N−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジンおよびジメチルアミノフェナントール等の第三級アミン;シトロネラール、ラウリルアルデヒド、フタルジアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒドおよびテレフタルアルデヒド等のアルデヒド類;2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、4−メルカプトアセトフェノン、チオサリチル酸およびチオ安息香酸等のチオール基を有する化合物;等を挙げることができる。これらのレドックス系に有機過酸化物を添加したα−ジケトン/有機過酸化物/還元剤の系も好適に用いられる。
【0196】
紫外線照射による光重合を行う場合には、ベンゾインアルキルエーテルおよびベンジルジメチルケタール等が好適である。また、(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤も好適に用いられる。
【0197】
(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類のうち、アシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルメトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイドおよびベンゾイルジ−(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネートなどが挙げられる。ビスアシルフォスフィンオキサイド類としては、例えば、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルフォスフィンオキサイド、ビス−(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドおよび(2,5,6−トリメチルベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイドなどが挙げられる。これら(ビス)アシルフォスフィンオキサイド類の光重合開始剤は、単独もしくは各種アミン類、アルデヒド類、メルカプタン類およびスルフィン酸塩等の還元剤と併用することもできる。これらは、上記可視光線の光重合開始剤とも好適に併用することができる。
【0198】
上記重合開始剤または光重合開始剤は単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができ、配合量は、歯科材料組成物100重量%に対して、通常0.01〜20重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲で使用される。
【0199】
フィラーは、歯科分野で用いられる一般的なフィラーを使用することができる。フィラーは、通常、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
【0200】
有機フィラーとしては、例えば、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体およびスチレン−ブタジエン共重合体などの微粉末が挙げられる。
【0201】
無機フィラーとしては、例えば、各種ガラス類(二酸化珪素を主成分とし、必要に応じ、重金属、ホウ素およびアルミニウム等の酸化物を含有する)、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイト等)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイト等の微粉末が挙げられる。このような無機フィラーの具体例としては、例えば、バリウムボロシリケートガラス(キンブルレイソーブT3000、ショット8235、ショットGM27884およびショットGM39923など)、ストロンチウムボロアルミノシリケートガラス(レイソーブT4000、ショットG018−093およびショットGM32087など)、ランタンガラス(ショットGM31684など)、フルオロアルミノシリケートガラス(ショットG018−091およびショットG018−117など)、ジルコニウムおよび/またはセシウム含有のボロアルミノシリケートガラス(ショットG018−307、G018−308およびG018−310など)が挙げられる。
【0202】
また、これら無機フィラーに重合性モノマーを予め添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いても差し支えない。
【0203】
また、歯科材料組成物において、粒径が0.1μm以下のミクロフィラーが配合された組成物は、歯科用コンポジットレジンに好適な態様の一つである。かかる粒径の小さなフィラーの材質としては、シリカ(例えば、商品名アエロジル)、アルミナ、ジルコニア、チタニアなどが好ましい。このような粒径の小さい無機フィラーの配合は、コンポジットレジンの硬化物の研磨滑沢性を得る上で有利である。
【0204】
これらのフィラーに対しては、目的に応じて、シランカップリング剤などにより表面処理が施される場合がある。かかる表面処理剤としては、公知のシランカップリング剤、例えば、γ−メタクリルオキシアルキルトリメトキシシラン(メタクリルオキシ基とケイ素原子との間の炭素数:3〜12)、γ−メタクリルオキシアルキルトリエトキシシラン(メタクリルオキシ基と珪素原子との間の炭素数:3〜12)、ビニルトリメトキシシラン、ビニルエトキシシランおよびビニルトリアセトキシシラン等の有機珪素化合物が使用される。表面処理剤の濃度は、フィラー100重量%に対して、通常0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%の範囲で使用される。
【0205】
これらのフィラーは1種単独で又は2種類以上を組み合わせて適宜用いられる。フィラーの配合量は、コンポジットレジンペーストの操作性(粘稠度)やその硬化物の機械的物性を考慮して適宜決定すればよく、歯科材料組成物中に含まれるフィラー以外の全成分100重量部に対して、通常10〜2000重量部、好ましくは50〜1000重量部、より好ましくは100〜600重量部である。
【0206】
本発明の歯科材料用組成物は、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物、前述の重合開始剤、及び前述のフィラー以外の成分を、目的に応じて適宜含んでもよい。例えば、保存安定性を向上させるための前述のような重合禁止剤を含んでもよい。また、色調を調整するために、公知の顔料、染料等の色素を含みうる。さらに、硬化物の強度を向上させるために、公知のファイバー等の補強材を含んでもよい。
【0207】
本発明の歯科材料用組成物は、前述の重合開始剤の重合方式にあわせ適切な条件で硬化することができる。例えば、可視光照射による光重合開始剤を含有している本発明の歯科材料用組成物の場合は、該歯科材料用組成物を所定の形状に加工したのち、公知の光照射装置を用いて所定の時間可視光を照射することにより、所望の硬化物を得ることができる。照射強度、照射強度等の条件は、歯科材料用組成物の硬化性に合わせて適切に変更することができる。また、可視光をはじめとした、光照射により硬化した硬化物を、さらに適切な条件で熱処理をすることにより、硬化物の機械的物性を向上させることもできる。
【0208】
以上のようにして得られる本発明の歯科材料用組成物の硬化物は、歯科材料として好適に用いることができる。
【0209】
本発明の歯科材料用組成物の使用方法は、歯科材料の使用法として一般に知られているものであれば、特に制限されない。例えば、本発明の歯科材料用組成物の場合を齲蝕窩洞充填用コンポジットレジンとして使用する場合は、口腔内の窩洞に該歯科材料用組成物を充填した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させることにより、目的を達成できる。また、歯冠用コンポジットレジンとして使用する場合は、適切な形状に加工した後、公知の光照射装置を用いて光硬化させ、さらに所定の条件で熱処理を行うことで、所望の歯冠材料を得ることができる。
【0210】
本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を配合した本発明の歯科材料用組成物の硬化物は、従来の歯科材料用重合性モノマー組成物を配合した従来の歯科材料用組成物の硬化物と比べて、高い機械的物性を有しており、特に高破断曲げ破断強度を示す。本発明の歯科材料用組成物の硬化物が、高い機械的物性を有する詳細な理由は不明であるが、歯科材料用組成物、特に代表的な例であるコンポジットレジンの場合は、重合性モノマー組成物とフィラーの重量が組成物の全体量の大半を占めており、この2成分が、コンポジットレジン硬化物の機械的物性に与える影響は非常に大きい。無機フィラーと歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物の物性を比較した場合、一般的に無機フィラーの強度がはるかに高いが、他方、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物は柔軟性に優れる。従って、コンポジットレジン硬化物中において、無機フィラーはハードセグメント的成分であり、該硬化物はソフトセグメント的成分とみなすことができる。このような系において、ソフトセグメント的成分の剛性をいたずらに向上させても、コンポジットレジン硬化物の機械的物性は向上せず、却って硬いが脆い材料となることがある。むしろ、ソフトセグメント的成分に関しては、ある程度の剛性を維持したうえで、靭性を向上させたほうが、むしろコンポジットレジン硬化物の機械的物性は向上すると考えられる。本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物は、特定構造のウレタンアクリレート化合物(A)を特定量含有することにより、硬化した際に、靭性と剛性を兼ね備えている材料となる。そのため、コンポジットレジン硬化物中のソフトセグメント的成分として好適であり、高い機械的物性を有しており、特に高破断曲げ破断強度を示すものと推定される。
【0211】
本発明における歯科材料用組成物は、歯科材料として好適に用いることができ、例えば、歯科修復材料、義歯床用レジン、義歯床用裏装材、印象材、合着用材料(レジンセメントやレジン添加型グラスアイオノマーセメント)、歯科用接着材(歯列矯正用接着材や窩洞塗布用接着材)、歯牙裂溝封鎖材、CAD/CAM用レジンブロック、テンポラリークラウンや、人工歯材料等を挙げることができる。
【0212】
本発明における歯科材料用組成物は、歯科修復材料としても好ましく使用することができる。また、歯科修復材料を適用範囲別に分類すると、歯冠用コンポジットレジン、齲蝕窩洞充填用コンポジットレジン、支台築造用コンポジットレジン、及び充填修復用コンポジットレジン等に分類できるが、本発明の歯科材料用組成物の硬化物は、高い機械的物性を示すため、歯冠用コンポジットレジンとして特に好ましく使用できる。
【実施例】
【0213】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0214】
本発明の実施例に使用した化合物の略号を以下に示す。
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
DEGDMA:ジエチレングリコールジメタクリレート
TEGDA:トリエチレングリコールジアクリレート
EBADMA(4.0):エトキシ化ビスフェノールAジメタクリレート(4.0EO変成)
UDMA:2,2,4−トリメチルヘキサメチレンビス(2−カルバモイルオキシエチル)ジメタクリレート
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
TMXDI:1,3−テトラメチルキシリレンジイソシアネート
DBTDL:ジブチルスズジラウレート
BHT:ジブチルヒドロキシトルエン
CQ:カンファーキノン
DMAB2−BE:4−(ジメチルアミノ)安息香酸2−ブトキシエチル
[曲げ試験の方法]
本発明の実施例及び比較例における曲げ試験の方法を、以下に示す。
【0215】
(歯科材料用重合性モノマー組成物の曲げ試験片の作製)
実施例及び比較例の歯科材料用重合性モノマー組成物100重量部に対して、CQ0.5重量部、DMAB2−BE0.5重量部を添加し、均一になるまで室温で撹拌して、光重合性モノマー溶液を得た。該光重合性モノマー溶液を、2x2x25mmのステンレス製型に入れ、可視光照射装置(松風社製 ソリディライトV)を用いて、片面3分間ずつ両面合わせて6分間ずつ光照射した。さらに型より取りだした試験片を、オーブン中において110℃、15分間の条件で熱処理した。オーブンより取り出した試験片を室温まで冷却したのち、密閉できるサンプル瓶中に試験片を蒸留水に浸漬して、37℃で24時間保持したものを試験片として使用した。
【0216】
(歯科材料用組成物の曲げ試験片の作製)
実施例及び比較例の歯科材料用重合性モノマー組成物100重量部、CQ0.5重量部、DMAB2−BE0.5重量部からなる光重合性モノマー溶液にシリカガラス(Fuselex−X(株式会社 龍森))300重量部を配合し、乳鉢を用いて均一になるまで撹拌したのち、脱泡を行うことで歯科用重合組成物を調製した。得られた歯科用重合組成物を、2x2x25mmのステンレス製型に入れ、可視光照射装置(松風社製 ソリディライトV)を用いて、片面3分間ずつ両面合わせて6分間ずつ光照射した。さらに型より取りだした試験片を、オーブン中において110℃、15分間の条件で熱処理した。オーブンより取り出した試験片を室温まで冷却したのち、密閉できるサンプル瓶中に試験片を蒸留水に浸漬して、37℃で24時間保持したものを試験片として使用した。
【0217】
(曲げ試験)
上記方法で作成した試験片を、試験機(島津製作所製 オートグラフEZ−S)を使用して、支点間距離20mm、クロスヘッドスピード1mm/分で三点曲げ試験を行った。なお、表2中の破断強度と破断エネルギー結果の括弧内の値は、比較例1の測定値と比べた場合の増減値を%で表したものである。
【0218】
[粘度の方法]
本発明の実施例及び比較例における粘度は、E型粘度計(東機産業製TVE−22H)を用い測定した。温度は循環式恒温水槽を用いて、25℃にコントロールした。
【0219】
また本発明の製造例における粘度は、上記E型粘度計を用い、循環式恒温水槽を用いて温度を65℃にコントロールして測定を行った。
【0220】
[製造例1]
十分に乾燥させた攪拌羽根、及び温度計を備えた1リットル4ツ口フラスコ内に、HEA270.0g(2.325モル)、DBTDL0.55g(ヒドロキシエチルアクリレートとTMXDIの合計重量に対して0.1重量%)、及びBHT0.28g(HEAとTMXDIの合計重量に対して0.05重量%)を添加し、均一になるまで撹拌した後、60℃に昇温した。続いて、TMXDI284.0g(1.163モル)を1時間かけて滴下した。滴下中に反応熱により内温が上昇したので、80℃以下となるように滴下量をコントロールした。全量滴下後反応温度を80℃に保って、10時間反応を行った。この際、HPLC分析で反応の進行を追跡して、反応の終点を確認した。反応器から生成物を排出することにより、下記式で表わされるウレタンアクリレート530gを得た。65℃における粘度は1670mPa・sであった。
【0221】
【化23】
【0222】
[製造例2〜8]
表1に示すヒドロキシアクリレートとジイソシアネートとを用いて、製造例1と同様の合成操作を行うことによりウレタンアクリレートを得た。
【0223】
【表1】
【0224】
[実施例1]
製造例1で得られたウレタンアクリレート10.0g(21.3ミリモル)と、TEGDMA4.53g(15.8ミリモル)とを容器に入れ、均一になるまで50℃で撹拌して、歯科材料用重合性モノマー組成物を得た。このとき、製造例1で得られたウレタンアクリレートはアクリロイル基を2個有し、TEGDMAはメタクリロイル基を2個有しているので、ウレタンアクリレート(A)である製造例1で得られたウレタンアクリレート含有のアクリロイル基数が該歯科材料用重合性モノマー組成物の全重合性基数に占める割合は57%であり、該組成物中のアクリロイル基とメタクリロイル基の比率は、57:43となる。
【0225】
得られた歯科材料用重合性モノマー組成物14.53gに、CQ73mg(0.5重量%)、DMAB2−BE73mg(0.5重量%)を添加し、均一になるまで室温で撹拌して、モノマー溶液を得た。該モノマーの硬化物の曲げ試験を実施したところ、弾性率3.4GPa、破断強度142MPa、破断エネルギー62mJであった。
【0226】
[実施例2〜17]
表2に示すウレタンアクリレートとその他の重合性モノマーを用いて、実施例1と同様の操作で、歯科材料用重合性モノマー組成物を得た。さらに、実施例1と同様の操作を行い、曲げ試験の結果を得た。結果を表2に示す。
【0227】
[実施例18]
実施例1で得られた歯科材料用重合性モノマー組成物100重量部に対して、フィラー(Fuselex−X)300重量部、CQ 0.5重量部、DMAB2−BE 0.5重量部を添加し、混合し、均一なペーストの歯科材料用組成物を得た。該歯科材料用組成物の硬化物の曲げ試験の結果は表3に示す。
【0228】
[実施例19〜22]
実施例1で得られた歯科材料用重合性モノマー組成物の代わりに、それぞれ実施例2、3、5、6で得られた歯科材料用重合性モノマー組成物を用いた以外は、同様の操作で歯科材料用組成物を得た。該歯科材料用組成物の硬化物の曲げ試験の結果は表3に示す。
【0229】
[比較例1]
製造例1で得られたウレタンアクリレートを等モルのUDMAに変更した以外は、実施例1の操作に従い、歯科材料用重合性モノマー組成物を得た。さらに、実施例1と同様の操作を行い、曲げ試験の結果を得た。結果を表2に示す。なお比較例1の組成物は、ウレタンアクリレート(A)を含有していないが、表2中、「ウレタンアクリレート(A)」の項の括弧書きで示されるモル%、および「ウレタンアクリレート(A)含有のアクリロイル基数が、全重合性基数に占める割合」の項に括弧書きで示される%は、それぞれ、組成物中に含まれるUDMAのモル%、UDMA含有のメタクリロイル基が全重合性基数に占める割合を示したものである。
【0230】
[比較例2]
製造例1で得られたウレタンアクリレートを等モルの製造例8で得られたウレタンメタクリレートに変更した以外は、実施例1の操作に従い、歯科材料用重合性モノマー組成物を得た。さらに、実施例1と同様の操作を行い、曲げ試験の結果を得た。結果を表2に示す。なお比較例2の組成物は、ウレタンアクリレート(A)を含有していないが、表2中、「ウレタンアクリレート(A)」の項の括弧書きで示されるモル%、および「ウレタンアクリレート(A)含有のアクリロイル基数が、全重合性基数に占める割合」の項に括弧書きで示される%は、それぞれ、組成物中に含まれる製造例8で得られたウレタンメタクリレートのモル%、製造例8で得られたメタクリレート含有のメタクリロイル基が全重合性基数に占める割合を示したものである。
【0231】
[比較例3]
TEGDMAのみを歯科材料用重合性モノマー組成物として使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、曲げ試験の結果を得た。結果を表2に示す。
【0232】
[比較例4]
TEGDAのみを歯科材料用重合性モノマー組成物として使用した以外は、実施例1と同様の操作を行い、曲げ試験の結果を得た。結果を表2に示す。
【0233】
[比較例5]
比較例1で得られた歯科材料用重合性モノマー組成物を用いた以外は実施例18と同様の操作を行い、均一なペーストの歯科材料用組成物を得た。該歯科材料用組成物の硬化物の曲げ試験の結果は表3に示す。
【0234】
[比較例6]
比較例2で得られた歯科材料用重合性モノマー組成物を用いた以外は実施例18と同様の操作を行い、均一なペーストの歯科材料用組成物を得た。該歯科材料用組成物の硬化物の曲げ試験の結果は表3に示す。
【0235】
【表2】
【0236】
【表3】
【0237】
表2中の結果より、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物は、従来の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物と比べて、破断強度が同等もしくは向上しているにも関わらず、破断エネルギーは大きく向上していることがわかる。すなわち、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物の硬化物は、靭性と剛性を兼ね備えた材料であることが示されている。
【0238】
また、表3の結果より、本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を含有する歯科材料用組成物の硬化物は、従来の歯科材料用組成物の硬化物と比較して破断強度が大きく向上していることがわかる。すなわち、靭性と剛性を兼ね備えた本発明の歯科材料用重合性モノマー組成物を使用することにより、歯科材料用組成物の硬化物の破断強度が向上することが示された。