特許第6426757号(P6426757)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6426757
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】磁気刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 2/04 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
   A61N2/04
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-566428(P2016-566428)
(86)(22)【出願日】2015年12月24日
(86)【国際出願番号】JP2015085966
(87)【国際公開番号】WO2016104578
(87)【国際公開日】20160630
【審査請求日】2017年6月8日
(31)【優先権主張番号】特願2014-262628(P2014-262628)
(32)【優先日】2014年12月25日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】穂谷 百合香
【審査官】 佐藤 智弥
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−272497(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2014/0235928(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 2/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
励磁コイル、及び当該励磁コイルに特定のパターンの電流を流すためのコイル駆動電源を有し、当該励磁コイルに特定の電流波形パターンを流すことにより磁場を発生させ、患者の身体に磁気刺激を与える磁気刺激装置であって、
当該励磁コイルとして複数の種類のコイルから選択して接続可能であり、
接続した当該励磁コイルの種類を判別するためのコイル種類検出手段を有し、
当該コイル駆動電源の作動を制御する制御部が、当該コイル種類検出手段で判別した当該励磁コイル種類によって当該励磁コイルごとに予め定められた電流波形パターンを選択し、当該励磁コイルに選択された電流波形パターンを誘起する電流を供給する、磁気刺激装置。
【請求項2】
前記コイル種類検出手段、前記励磁コイルと前記コイル駆動電源を接続するコネクタの励磁コイル側に設けられた1つ以上のコイル種類識別端子、前記励磁コイル及び励磁コイルのコネクタ以外に設けられたコイル種類識別端子検出手段とを有し、前記コイル種類検出手段は、当該コイル種類識別端子検出手段で前記コイル種類識別端子の種類を検出することで、前記励磁コイルの種類を判別する、請求項1に記載の磁気刺激装置。
【請求項3】
前記コイル種類識別端子として、前記励磁コイル側に識別用の抵抗器を備え、前記コイル種類識別端子検出手段は、前記抵抗器の抵抗値による分圧電位を検出することで、前記コイル種類識別端子の種類を検出する、請求項2に記載の磁気刺激装置。
【請求項4】
前記コイル種類検出手段、励磁コイルインピーダンス測定手段を有し、前記コイル種類検出手段は、該励磁コイルインピーダンス測定手段の測定結果によって、前記励磁コイルの種類を判別する、請求項1又は2に記載の磁気刺激装置。
【請求項5】
前記コイル種類検出手段は、前記励磁コイルと前記コイル駆動電源を接続するコネクタの励磁コイル側に設けられたコイル電流波形パターンごとに異なる形状を持つコネクタ形状特徴部、前記コイル駆動電源側に設けられたコネクタ形状識別手段を有し、
前記コイル種類検出手段は、前記コネクタ形状識別手段が当該コネクタ形状特徴部を識別して、前記励磁コイルの種類を判別する、請求項1又は2に記載の磁気刺激装置。
【請求項6】
前記コイル種類検出手段前記励磁コイルと前記コイル駆動電源を接続するコネクタの励磁コイル側に設けられた電流波形パターン符号記憶手段、及び電流波形パターン符号送信手段を有し、前記コイル種類検出手段は、当該電流波形パターン符号記憶手段に記憶されている電流波形パターン符号を当該電流波形パターン符号送信手段が読み取り、当該電流波形パターン符号送信手段から前記コイル駆動電源に、前記励磁コイルの電流波形パターンを表す符号を有線、無線又は光信号により送信することで、前記励磁コイルの種類を判別する、請求項1又は2に記載の磁気刺激装置。
【請求項7】
前記電流波形パターンが、特定の方向に電流を流した後に逆方向に電流を流す、二相波であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
【請求項8】
前記電流波形パターンは、予め設定された複数のパターンから選択されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の磁気刺激装置。
【請求項9】
電源に設定した前記電流波形パターンと装置の動作結果とを、別途取得する生体情報と合わせて記憶手段に記録し、治療ログとして使うことができる請求項1〜8のいずれか1項に記載の磁気刺激装置
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気刺激システムに関し、具体的には複数種類の励磁コイルとの接続が可能で、接続したコイル種類を判別してコイルに特定の電流波形パターンを流すことが可能な磁気刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気刺激法の一種である、反復経頭蓋磁気刺激法(rTMS;Repetitive transcranial magnetic stimulation)は、脳内神経等の脳の特定部位に非侵襲的に磁気刺激を加えることにより、脳卒中後の疼痛等の神経疾患やうつ病、アルツハイマー等に対する治療、症状の緩和や改善を図ることができる治療法である。
【0003】
経頭蓋磁気刺激療法は、患者の頭皮表面の特定位置にコイル等の磁気発生手段を配置し、磁気発生手段から患者の脳の特定部位に対して磁気刺激を行う。具体的な手法として、特許文献1には、患者の頭皮表面に設置したコイルに電流を流し、局所的に微小なパルス磁場を生じさせ、電磁誘導の原理を利用して頭蓋内に渦電流を起こすことにより、コイル直下の脳内神経に刺激を与えることが開示されている。経頭蓋磁気刺激法以外の磁気刺激法としては、骨盤底領域の神経刺激を行う磁気刺激方法等が挙げられる。
【0004】
磁気治療システムは、通常、臨床的に認められた磁気刺激治療を行うよう構成されているので、励磁パターンは固定される。例えば非特許文献1によると、脳卒中後疼痛には、周波数f=5Hz、刺激時間10秒、休止時間50秒、10トレイン、90%RMT、非特許文献2によると、うつ病には、周波数f=10Hz、刺激時間4秒、休止時間26秒、75トレイン、120%RMTといった治療条件が示されている。ここでRMT(Resting Motor Threshold;安静時運動閾値)は50%以上の確率でMEP(Motor Evoked Potential)振幅を誘発できる最低の刺激強度を運動閾値(MT;Motor Threshold)と定義し、そのうち安静時のものをいう。これらは患者の磁気刺激受容性によって患者毎に異なるもので、正確には筋電測定によって決定される。簡易的に治療時に患者の筋収縮(twitch)の様態の観察により決定されることもある。また治療条件にはパルス幅tがある。非特許文献3によると深部脳刺激療法(DBS;Deep Brain Stimulation)では震戦や運動失調といった治療疾患によって異なるパルス幅tが用いられていることが示されており、rTMSでも同様に疾患によって最適な治療条件としてパルス幅tが異なる可能性が想定される。
【0005】
上述した脳神経に刺激を与える治療条件は、コイルとコイル駆動電源の両方で実現し、疾患毎、また患者毎に最適な治療条件を付与するには基本的には専用コイルと専用コイル駆動電源が必要となる。しかしながら、異なる疾患に対して、専用のコイルとコイル駆動電源を準備することは即ち疾患毎に異なる磁気刺激システムを準備することになるので、医療機関の機器購入コスト増大や、多品種少量生産による治療器の高価格化を招くことになる。
【0006】
現在臨床研究用に用いられる装置には、1つのコイル駆動電源に対し複数のコイルを接続して使用可能な検査器がある。この検査装置では上述したような治療条件は、疾患に応じたコイルを医師がコイル駆動電源に接続後、コイルに付与する電流波形パターンになるよう、コイル駆動電源に設けた設定器を手動で調整している。しかしパルス磁場の過大な照射にはてんかん発作などの副反応リスクがあり、現時点はコイルがコイル駆動電源から供給される電流によって発生する磁場特性を理解して間違いなく操作できる知識を持つ医療従事者が取り扱うことが好ましいとされている。将来治療普及のためには、高度な知識がなくても安全に装置を取り扱えるように医療従事者の設定操作を支援したり、更には患者自身で装置が操作可能となる機能が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開第2007/123147号
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Koichi Hosomi,etal.The mechanism of repetitive transcranial magnetic stimulation for central post-stroke pain.PAIN RESEACH.25(2010):1-8
【非特許文献2】J.P.O’Reardon et al., Efficacy and Safety of Transcranial Magnetic Stimulation in the Acute Treatment of Major Depression: A Multisite Randomized Controlled Trial, Biol Psychiatry , 2007;62:1208-1216
【非特許文献3】Volkmann J.et al.,Introduction to the Programming of Deep Brain Stimulation, Movement Disorders,Vol.17,Suppl.3, 2002.:S181-S187
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、コイル駆動電源が、接続したコイルの種類を識別しコイルに特定の電流波形パターンを流すことで、疾患や患者毎に最適な治療条件を簡便に提供可能とすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記の課題に鑑み、脳卒中後疼痛等の神経障害性疼痛、うつ病、アルツハイマーや認知症等といった異なる疾患に対して複数のコイルと1つの磁気刺激装置で簡便に治療を提供できる、本発明に至った。
【0011】
すなわち、本発明は、少なくとも、励磁コイル、及び当該励磁コイルに特定のパターンの電流を流すためのコイル駆動電源を有し、当該励磁コイルに特定の電流波形パターンを流すことにより磁場を発生させ、患者の身体に磁気刺激を与える磁気刺激装置であって、当該励磁コイルとして複数の種類のコイルから選択して接続可能であり、
接続した当該励磁コイルの種類を判別するためのコイル種類検出手段を有し、
当該コイル駆動電源の作動を制御する制御部が、当該コイル種類検出手段で判別した当該励磁コイル種類によって当該励磁コイルごとに予め定められた電流波形パターンを選択し、当該励磁コイルに選択された電流波形パターンを誘起する電流を供給する、磁気刺激装置である。
【0012】
また本発明は、前記コイル種類検出手段として、前記励磁コイルと前記コイル駆動電源を接続するコネクタの励磁コイル側に1つ以上のコイル種類識別端子を設け、前記励磁コイル及び励磁コイルのコネクタ以外にコイル種類識別端子検出手段を設け、当該コイル種類識別端子検出手段で前記コイル種類識別端子の種類を検出することで、発生する電流波形パターンの種類を判別することが好ましい。
【0013】
また本発明は、前記コイル種類識別端子として、前記励磁コイル側に識別用の抵抗器を備え、該抵抗器の抵抗値による分圧電位によって発生する電流波形パターンの種類を判別することが好ましい。
【0014】
また本発明は、前記コイル種類検出手段として、励磁コイルインピーダンス測定手段を有し、該励磁コイルインピーダンス測定手段の測定結果によって、発生する電流波形パターンの種類を判別することが好ましい。
【0015】
また本発明は、前記励磁コイルと前記コイル駆動電源を接続するコネクタの前記励磁コイル側には、コイル電流波形パターンごとに異なる形状を持つコネクタ形状特徴部を有し、前記コイル駆動電源側にはコネクタ形状識別手段を有し、
前記コイル種類検出手段は、前記コネクタ形状識別手段が当該コネクタ形状特徴部を識別して、発生する電流波形パターンの種類を判別することが好ましい。
【0016】
また本発明は、前記コイル種類検出手段として、前記励磁コイル側に電流波形パターン符号記憶手段、及び電流波形パターン符号送信手段を有し、当該電流波形パターン符号記憶手段に記憶されている電流波形パターン符号を当該電流波形パターン符号送信手段が読み取り、当該電流波形パターン符号送信手段から前記コイル駆動電源に、前記励磁コイルの電流波形パターンを表す符号を有線、無線又は光信号により送信することで、発生する電流波形パターンの種類を判別することが好ましい。
【0017】
さらに本発明は、前記電流波形パターンが、特定の方向に電流を流した後に逆方向に電流を流す、二相波であることが好ましい。
【0018】
さらに本発明は、前記磁場誘起電流波形パターンの周波数が可変であることを特徴とすることが好ましい。
【0019】
さらに本発明は、電源に設定した前記磁場誘起電流波形パターンと装置の動作結果が記憶できるメモリ機能を持ち、別途取得する生体情報と合わせて当該メモリ機能に記録し、治療ログとして使うことができることが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明の経頭蓋磁気刺激装置を使用することにより、疾患又は患者ごとに異なるコイルを1つの経頭蓋磁気刺激装置で使用することができる。また、本発明の経頭蓋磁気刺激装置は、1つの励磁コイルをコイル駆動電源に接続すると、その励磁コイルで動作する電流波形パターンを自動的に選択して流すことができるので、治療における設定の簡便化、過誤の防止が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明における磁気刺激システムの概略ブロック図である。
図2】磁場誘起電流パターン例を示す図である。
図3】コイル種別識別端子によるコイル種類検出手段の模式図である。
図4】抵抗器によるコイル種類検出手段の模式図である。
図5】インピーダンス測定手段によるコイル種類検出手段の模式図である。
図6】コネクタ形状識別手段によるコイル種類検出手段の模式図である。
図7】電流パターン符号記憶・送信手段によるコイル種類検出手段の模式図である。
図8】治療記録のログ機能を持つrTMS装置の模式図である。
図9】経頭蓋磁気刺激システムを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態に係る経頭蓋磁気刺激システムについて、添付図面に従って説明する。以下の実施の形態では、脳卒中後の疼痛等の医療分野で用いるのに好適な経頭蓋磁気刺激システムを説明するが、本発明はその他の疼痛(特に、難治性疼痛)、うつ病、アルツハイマー等の脳神経外科、精神科等の医療分野においても同様に適用できる。
【0023】
なお、以下の説明では、方向や位置を表す用語(例えば、「上面」や「下面」等)を便宜上用いるが、これらは発明の理解を容易にするためであり、それらの用語の意味によって本発明の技術的範囲が限定されるものではない。また、以下の説明は、本発明の一形態の例示に過ぎず、本発明はこれらの実施形態によっていかなる意味においても制限されるものではない。
【0024】
図9に経頭蓋磁気刺激システムの概略を示す。経頭蓋磁気刺激システム20(以下、単に「磁気刺激システム20」と称する。)は、励磁コイル2(磁場発生手段)を有し、ケーブル21を介して電気的にコイル駆動電源1と接続されている。コイル駆動電源1は外部電源等と接続し、励磁コイル2に電流パルスを流す昇圧回路と制御部とを有する。患者は治療用の椅子23に着座する等して頭部を固定し、治療に有用な頭皮表面の特定位置に励磁コイル2を配置する。この特定位置に配置されたコイルから、患者の脳内神経に所定強度の磁気刺激を加えることにより、治療等を行う。コイル駆動電源1の制御部は、励磁コイル2への電流パルスの供給を制御するもので、従来公知の種々のタイプのものを用いることができる。コイル駆動電源1のオン/オフ(ON/OFF)操作や、磁気刺激の強度やサイクルを決定付ける電流パルスの設定等は、操作者が操作部によって手動で行うこともできる。
【0025】
励磁コイル2は、コイルホルダに組み込まれ、さらにコイルユニット24に組み込まれている。好ましくは、コイルユニット24の下面(つまり患者の頭皮表面と対向する面)は、患者の頭部形状に応じた凹状曲面に形成されている。これにより、コイルユニット24を患者の頭部表面に沿ってスムーズに移動させることができる。なお、コイルユニット24の平面形状(コイルユニット全体を下面からみたコイルユニットの形状)は長円型や小判型を含む楕円状、又は卵型であってもよい。
【0026】
医療機関では、患者の初期診療時に専用の位置決め装置を用いて、患者の神経障害性疼痛が最も軽減できる励磁コイル2の最適コイル位置及び姿勢を決定する。励磁コイルの最適位置及び姿勢は、患者の頭部表面上又は表面内に位置決め用のマーキングが形成される等の方法で、次回の治療から最適コイル位置及び姿勢が容易に再現できるようになる。
【0027】
図1は、本発明における磁気刺激システムの概略ブロック図を示す。システムは患者頭部の所望位置に磁気刺激を与えるためのコイル駆動電源1と、コイル2(2−1、2−2)、治療条件を設定する操作部3を持つ。操作部3は、コイル駆動電源に設けてもよいし、コイル駆動電源と分離した形で操作者の近傍に設置した操作部であってもよい。操作部3は、医療者または患者自身が治療条件の設定を行う操作部インターフェースであって、設定した条件をコイル駆動電源1の制御部12に信号で送信する。コイル駆動電源1では商用電源を供給し、ACDC変換後、昇圧部5にて昇圧する。昇圧した電圧でコイル駆動電源1のコンデンサ6に一定電流で充電し、コイル駆動電源1の制御部12からの信号によりサイリスタ等のスイッチングモジュール8が動作する(ONする)と、コネクタ接続部19、及びコネクタ9を介して、励磁コイル2にコンデンサ6から電流が流れ、励磁コイルに磁場が発生し、治療を行う。励磁コイル2にはセンサ14(14−1,14−2)を備え、センサ14の状態を制御部12で監視しておき、その状態に応じて、患者に対し治療を停止する場合は停止する。具体的には制御部12にてスイッチングモジュール8の動作を停止し、リレー4を遮断、昇圧部5を停止、コンデンサ6の電荷を放電する保護回路7を作動させ、コンデンサ6の電位を低下させる。また制御部12は、操作部3、通信回線モジュール15や外部記憶装置16に対し、装置の運転状態等のデータを送信する。
【0028】
rTMS治療は、疾患や疾患部位ごとに最適な磁気照射範囲や深さがある。また患者毎に最適な刺激強度がある。疾患毎、患者毎の最適刺激条件を1つのrTMS用汎用電源で実現することが経済的には好ましく、これに対応するためには、電源側でコイルに負荷する電流パルスを患者の疾患や病態に合わせて調整できるシステムであることが好ましい。
【0029】
図2にrTMS治療で用いられる励磁パターンの模式図を示す。励磁コイル2とコンデンサ6の共振現象により、電荷はスイッチングモジュール8(サイリスタと並列に接続されているダイオード)を介して、再びコンデンサ6に戻る。このとき、励磁コイルにはパルス状の電流が流れる。パルス状の電流は二相波、本回路構成では正弦波1周期の電流波形となる。パルス電流の周波数f、パルス幅t、周波数fでパルス電流を発生させる時間T1、パルス電流を休止する時間T2とし、パルス電流を発生させる時間T1とパルス電流を休止する時間T2を合わせてトレインと言い、パルス電流の周波数f、パルス電流発生時間T1、パルス電流が休止している時間T2、トレインの数などを変化することで、疾患に応じた所望の励磁パターンを実現する。患者毎の治療刺激強度はパルス電流Iを調整する、即ちコンデンサ6への充電電圧を制御部12で制御して行う。また周波数f、パルス電流を発生させる時間T1、パルス電流を休止する時間T2、トレインの数も同様に制御部12で制御して行う。
【0030】
パルス幅tはコンデンサの静電容量Cと励磁コイルのインダクタンスLとの関係式が、t=1/f≒2π√(L・C)で成り立つため、疾患に応じ最適なパルス幅tに変更する場合は、前述した治療刺激強度や周波数のようにコイル駆動電源の制御部12で制御するパラメータとは異なり、励磁コイルのインダクタンスとコンデンサ静電容量の組合せで設定する必要がある。ここで、数十〜数百マイクロ秒のパルス幅は、コイル駆動電源内部のコンデンサ6を固定し、異なるインダクタンスを持つ励磁コイルに付け替えて対応することで実現できる。また励磁コイルを付け替えて対応する方がコイル駆動電源内部のコンデンサ6を付け替えるよりも、簡便かつ安全である。本発明の磁気刺激装置は、疾患に合う励磁コイルを1つのコイル駆動電源に接続した時にどのコイルが接続されているかを判断するもので、その励磁コイルで動作する電流波形パターンを制御部12が選択して、励磁コイルにその選択された電流波形パターンを流すことで、疾患や患者に最適な治療条件を提供可能となる。また制御部12があらかじめ記憶した治療条件を読み出して動作することで、操作部での治療条件の設定を簡便化または設定の省略可能となり、医療従事者の誤操作を防止することが可能となる。また医療従事者から処方された治療条件をそのコイルが接続された時に読み出すことが可能となり、医療従事者の介在なく患者自身で治療可能となる。
【0031】
図3に、本発明のコイル種類識別端子によるコイル種類検出手段(コイル種類検出装置)10の模式図を示す。コイルのコネクタ9にコイル種類識別端子60を設け、励磁コイル及びコネクタ9以外の、コネクタ接続部19又は制御部12等のコイル駆動電源等の磁気刺激システムに設けたコイル種類識別端子検出手段(コイル種類識別端子検出器)61により、コイル種類識別端子の種類によって、制御部12はコイル電流波形パターンを読み出し、読みだしたコイル電流パターンを励磁コイル2に流す。図3では、コネクタ接続部19にコイル種類識別端子検出手段61が設けられている。
【0032】
図4に、本発明の一態様である、コイル種類検出手段が抵抗器であるコイル種類検出手段10の模式図を示す。励磁コイル2と一体化しているコネクタ9を、コイル駆動電源1のコネクタ接続部19に接続した状態の回路構成例を示す。コイルのコネクタ側に、コイル種類識別端子60として、抵抗Rを設けると、A点では、基準電圧Vを電源側抵抗Rとコネクタ側抵抗Rで分圧された電位が検出される。疾患や疾患部位毎に異なる励磁コイルのコネクタ9側抵抗Rを変更することで、制御部12は、検出された電位で制御部12に予め登録しておいたコイル電流波形パターンを読みだす。制御部12は、その読みだしたコイル電流波形パターンを励磁コイル2に流す。コネクタ9側抵抗Rは短絡と開放であることを利用してもよい。
【0033】
分圧された電位が検出されなければ(開放と判断されれば)、励磁コイル2が接続されていないと認識し、電源側を安全に停止させる保護機能を動作させてもよい。具体的には昇圧部5を停止したり、コンデンサ6の電荷を放電する保護回路7を作動させ、コンデンサ6の電位を低下させる。
【0034】
また、コイルのコネクタ9側抵抗Rを患者ごとに変更することも可能である。つまり、抵抗Rに可変抵抗を使用して患者固有の抵抗値を設定し、その患者のコイルが接続されたら患者の治療刺激パターンと強度設定で装置が作動する。具体的には予めコイル駆動電源1の制御部12に分圧された電位と紐づく患者固有の治療情報を入力し、励磁コイルのコネクタ9側可変抵抗Rから分圧された電位を基に患者固有の治療刺激パターンと強度設定を読み出す。これにより、患者個人に強度設定させる必要が無くなり、特に在宅において使用するときに簡便かつ安全に使用することが可能となる。
【0035】
図5に、本発明の別の態様である、コイル種類検出手段がインピーダンス測定手段(インピーダンス測定装置)であるコイル種類検出手段10の模式図を示す。疾患に対し最適な治療を行うためには、疾患ごとにコイルの巻き方や巻き数などコイルの形状を変更する。このとき、制御部12がコイルのインピーダンスが異なることを検出し、検出した値により予め登録しておいたコイル電流波形パターンを読み出すことに利用する。昇圧部5からインピーダンス測定回路31に切り替える切替回路30を励磁コイル2に接続するように備え、インピーダンス測定回路31で励磁コイル2のインピーダンスを測定する。制御部12は検出されたインピーダンスの値で制御部12に予め登録しておいた疾患に対し最適なコイル電流波形パターンを読みだす。なおインピーダンス測定回路31はインピーダンスだけではなく、抵抗成分やインダクタンス成分を測定して、抵抗やインダクタンスの値で読みだしたコイル電流波形パターンを励磁コイル2に流すことに利用してもよい。
【0036】
図6に、本発明の別の態様である、コイル種類検出手段がコネクタ形状識別手段(コネクタ形状識別装置)であるコイル種類検出手段10の模式図を示す。励磁コイル2のコネクタ9に、特徴的な形状を有するコネクタ形状特徴部41を設け、コネクタ形状特徴部41を本体側に設けたカメラセンサやフォトリフレクタ等のコネクタ形状識別手段(コネクタ形状識別器)40により特徴部の形状を検出し、検出結果により制御部12は制御部に予め登録しておいたコイル電流波形パターンを読みだし、その読みだしたコイル電流波形パターンを励磁コイル2に流す。
【0037】
図7に、本発明の別の態様である、コイル種類検出手段が(電流波形パターン符号記憶・送信手段(電流波形パターン符号記憶・送信装置)であるコイル種類検出手段10の模式図を示す。励磁コイル2側にICカード等の電流波形パターン符号記憶手段50を設け、電流波形パターン符号記憶手段50からコイル駆動電源1側の制御部12に対し有線、無線、又は光信号等により符号信号送信手段51が符号を送信し、符号信号受信装置(図示せず)を有する制御部12は認識した符号によって制御部に予め登録しておいたコイル電流波形パターンを読みだし、そのコイル電流波形パターンを励磁コイル2へ流す。
【0038】
図8に、本発明における、治療記録のログ機能を持つrTMS装置模式図を示す。病院や在宅で経頭蓋磁気刺激システムを使用する際、患者の治療記録を記録し、診療処方に役立てることが可能である。治療記録にはコイル種類検出手段10で制御部12が認識した治療条件、実際のrTMS装置の動作記録(例えば治療回数や治療強度、装置が正常に動作し、治療が正常に完了したかどうか、治療や位置決めに要する時間、警報履歴(例えば、エラー回数)を記録するとともに、治療実施年月日、時刻、患者の生体情報(例えば磁場を照射した際に手や足に発生する筋収縮を筋電計やひずみ計などで測定したデータ筋収縮等)、患者が自身の体調をVAS(Visual Analog Scale)等で表される判断指標で表したデータ等を記録する。また、これらの治療記録を図8(a)に示すように通信モジュール15、通信回線18を介し、遠隔地に設置した記録保管場所17にデータ転送し、医療者や患者がデータを同時または相互に確認したり、図8(b)に示すように、治療記録はSDカードやUSBメモリなどの外部記憶装置16に出力して患者が通院外来時に持参し、医療者がデータ確認をする用途で使用したりすることを可能とする、クラウドコンピューティングの形態も含む。
【符号の説明】
【0039】
1 コイル駆動電源
2 コイル
3 操作部
4 リレー
5 昇圧部
6 コンデンサ
7 保護回路
8 スイッチングモジュール
9 コネクタ
10 コイル種類検出手段
12 制御部
14 センサ
15 通信回線モジュール
16 外部記憶装置
17 記録保管場所
18 通信回線
19 コネクタ接続部
20 経頭蓋磁気刺激システム
21 ケーブル
24 コイルユニット
30 切替回路
31 インピーダンス測定回路
40 コネクタ形状識別手段
41 コネクタ形状特徴部
50 電流波形パターン符号記憶手段
51 符号信号送信手段
60 コイル種類識別端子
61 コイル種類識別端子検出手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9