(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置について、適宜図面を参照して詳細に説明する。
なお、以下に示す図面において、共通の機能を有する部材には共通の参照符号を付するものとする。また、部材のサイズ及び形状は、説明の便宜のため、変形又は誇張して模式的に表す場合がある。
【0010】
〔本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通の基本構成〕
はじめに、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通の基本構成について、
図1、
図2を参照して説明する。
図1は、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通の全体構成図である。
図2は、電磁サスペンション装置11の一部を構成する電磁アクチュエータ13の部分断面図である。
【0011】
本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11は、
図1に示すように、車両10の各車輪毎に備わる複数の電磁アクチュエータ13と、ひとつの電子制御装置(以下、「ECU」という。)15とを備えて構成されている。複数の電磁アクチュエータ13とECU15との間は、ECU15から複数の電磁アクチュエータ13への駆動制御電力を供給するための電力供給線14(
図1の実線参照)、及び、複数の電磁アクチュエータ13からECU15に電動モータ31(
図2参照)の回転角信号を送るための信号線16(
図1の破線参照)をそれぞれ介して相互に接続されている。
本実施形態では、電磁アクチュエータ13は、前輪(左前輪・右前輪)、及び後輪(左後輪・右後輪)を含む各車輪毎に、都合4つ配設されている。
【0012】
複数の電磁アクチュエータ13の各々は、本発明の第1〜第3実施形態では、特に断らない限り、それぞれが共通の構成を備えている。そこで、ひとつの電磁アクチュエータ13の構成について説明することで、複数の電磁アクチュエータ13の説明に代えることとする。
【0013】
電磁アクチュエータ13は、
図2に示すように、ベースハウジング17、アウタチューブ19、ボールベアリング21、ボールねじ軸23、複数のボール25、ナット27、及びインナチューブ29を備えて構成されている。
【0014】
ベースハウジング17は、ボールベアリング21を介してボールねじ軸23の基端側を軸周りに回転自在に支持する。アウタチューブ19は、ベースハウジング17に設けられ、ボールねじ軸23、複数のボール25、ナット27を含むボールねじ機構18を収容する。複数のボール25は、ボールねじ軸23のねじ溝に沿って転動する。ナット27は、複数のボール25を介してボールねじ軸23に係合し、ボールねじ軸23の回転運動を直線運動に変換する。ナット27に連結されたインナチューブ29は、ナット27と一体になりアウタチューブ19の軸方向に沿って変位する。
【0015】
ボールねじ軸23に回転駆動力を伝えるために、電磁アクチュエータ13には、
図2に示すように、電動モータ31、一対のプーリ33、及びベルト35が備わっている。電動モータ31は、アウタチューブ19に並列するようにベースハウジング17に設けられている。電動モータ31のモータ軸31a及びボールねじ軸23には、それぞれにプーリ33が装着されている。これら一対のプーリ33には、電動モータ31の回転駆動力をボールねじ軸23に伝達するためのベルト部材35が懸架されている。
【0016】
電動モータ31には、電動モータ31の回転角信号を検出するレゾルバ37が設けられている。レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号は、信号線16を介してECU15に送られる。電動モータ31は、ECU15が複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれに電力供給線14を介して供給する駆動制御電力に応じて回転駆動が制御される。
【0017】
なお、本実施形態では、
図2に示すように、電動モータ31のモータ軸31aとボールねじ軸23とを略平行に配置して両者間を連結するレイアウトを採用することで、電磁アクチュエータ13における軸方向の寸法を短縮している。ただし、電動モータ31のモータ軸31aとボールねじ軸23とを同軸に配置して両者間を連結するレイアウトを採用してもよい。
【0018】
本実施形態に係る電磁アクチュエータ13では、
図2に示すように、ベースハウジング17の下端部に連結部39が設けられている。この連結部39は、不図示のばね下部材(車輪側のロアアーム、ナックル等)に連結固定される。一方、インナチューブ29の上端部29aは、不図示のばね上部材(車体側のストラットタワー部等)に連結固定されている。要するに、電磁アクチュエータ13は、車両10の車体と車輪の間に備わる不図示のばね部材に並設されている。
【0019】
前記のように構成された電磁アクチュエータ13は、次のように動作する。すなわち、例えば、車両10の車輪側から連結部39に対して上向きの振動に係る推進力が入力されたケースを考える。このケースでは、上向きの振動に係る推進力が加わったアウタチューブ19に対し、インナチューブ29及びナット27が一体に下降しようとする。これを受けて、ボールねじ軸23は、ナット27の下降に従う向きに回転しようとする。この際において、ナット27の下降を妨げる向きの電動モータ31の回転駆動力を生じさせる。この電動モータ31の回転駆動力は、ベルト35を介してボールねじ軸23に伝達される。このように、上向きの振動に係る推進力に対抗する反力(減衰力)をボールねじ軸23に作用させることにより、車輪側から車体側へと伝えられようとする振動を減衰させる。
【0020】
〔ECU15の内部構成〕
次に、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通に備わるECU15の内部構成について、
図3を参照して説明する。
図3は、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通に備わるECU15の内部構成図である。
【0021】
ECU15は、各種の演算処理を行うマイクロコンピュータを含んで構成される。ECU15は、レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号等に基づいて、複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれを駆動制御することにより、車体の振動減衰に係る駆動力を発生させる駆動制御機能を有する。
こうした駆動制御機能を実現するために、ECU15は、
図3に示すように、情報取得部42、フィルタ設定部43、フィルタ処理部45、駆動力演算部47、及び駆動制御部49を備えて構成されている。
【0022】
情報取得部42は、レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号をストローク位置の情報として取得すると共に、ストローク位置を時間微分することでストローク速度の情報を取得する。また、情報取得部42は、
図3に示すように、車速センサ40で検出された車速V、ヨーレイトセンサ42で検出されたヨーレイトYの情報を取得する。ストローク速度、車速V、及びヨーレイトYの情報は、「車両10の状態量の情報」に相当する。情報取得部42で取得されたストローク速度、車速V、及びヨーレイトYの情報は、フィルタ設定部43、フィルタ処理部45にそれぞれ送られる。
【0023】
フィルタ設定部43は、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタ(例えば
図4Bを参照;詳しくは後記)FSのなかから、情報取得部42で取得された車速V・ヨーレイトYの情報とフィルタ選択マップ(例えば
図4Aを参照;詳しくは後記)とに基づいて、そのときの車速V・ヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択的に設定する。フィルタ設定部43で設定されたフィルタの情報は、フィルタ処理部45に送られる。
【0024】
フィルタ処理部45は、情報取得部42で取得されたストローク速度の時系列信号に対し、フィルタ設定部43で設定されたフィルタが有する周波数に対するゲイン特性(ハイパス特性)を適用するフィルタ処理を施すことにより、そのときの車速V・ヨーレイトYに相応しい周波数特性にゲインが補正されたフィルタ処理後のストローク速度信号を出力する。フィルタ処理部45でフィルタ処理後のストローク速度信号は、駆動力演算部47に送られる。
なお、フィルタ処理部45は、アナログ回路で構成してもよいし、デジタル回路で構成しても構わない。
【0025】
駆動力演算部47は、フィルタ処理後のストローク速度信号を入力し、同ストローク速度信号、及び、ストローク速度の変化に応じた減衰力の関係情報である減衰力マップ46(
図4A参照)を参照して、目標となる駆動制御信号を演算する。駆動力演算部47の演算結果である目標となる駆動制御信号は、駆動制御部49へ送られる。
【0026】
駆動制御部49は、駆動力演算部47から送られてきた駆動制御信号に従って、複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれに備わる電動モータ31に駆動制御電力を供給することにより、複数の電磁アクチュエータ13の駆動制御をそれぞれ独立して行う。なお、電動モータ31に供給される駆動制御電力を生成するに際し、例えば、インバータ制御回路を好適に用いることができる。
【0027】
〔第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Aの内部構成〕
次に、第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Aの内部構成について、
図4A、
図4Bを参照して説明する。
図4Aは、第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Aの内部構成図である。
図4Bは、車速に基づき選択される複数のフィルタFSのそれぞれに各個別に設定された周波数に対するゲイン特性を表す説明図である。
【0028】
第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Aでは、情報取得部42は、
図4Aに示すように、ストローク速度、及び車速Vの情報を取得し、取得した車速Vの情報をフィルタ設定部43Aに送る一方、取得したストローク速度の情報をフィルタ処理部45Aに送る。
【0029】
ECU15Aに予め登録される複数のフィルタFSとして、
図4Bには、第1フィルタFS01、第2フィルタFS02、及び第3フィルタFS03が例示されている。なお、第1フィルタFS01、第2フィルタFS02、及び第3フィルタFS03などの複数のフィルタを総称するときは、複数のフィルタに符号「FS」を付するものとする(以下、同じ。)
【0030】
第1〜第3フィルタFS01、FS02、FS03の各々には、
図4Bに示すように、ばね上共振周波数f2でのゲインFS01_f2、FS02_f2、FS03_f2が、ばね下共振周波数f1でのゲインFS01_f1、FS02_f1、FS03_f1に対して低くなるように、周波数に対する各個別のゲイン特性が設定されている。
【0031】
また、第1〜第3フィルタFS01、FS02、FS03の各々のゲイン特性は、
図4Bに示すように、ばね上共振周波数f2でのゲインFS01_f2、FS02_f2、FS03_f2、及びばね下共振周波数f1でのゲインFS01_f1、FS02_f1、FS03_f1の差が、相互に異なるように設定されている。
実際には、第1〜第3フィルタFS01、FS02、FS03の各々のゲイン特性は、{第1フィルタFS01におけるf1−f2間のゲインの差(FS01_f1−FS01_f2)}<{第2フィルタFS02におけるf1−f2間のゲインの差(FS02_f1−FS02_f2)}<{第3フィルタFS03におけるf1−f2間のゲインの差(FS03_f1−FS03_f2)}の関係に設定されている。
【0032】
前記とは別の観点によれば、第1〜第3フィルタFS01、FS02、FS03には、
図4Bに示すように、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1では、ばね下共振周波数f1以下の周波数領域と比べて高いゲイン特性となり、ばね下共振周波数f1と比べて低いばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2では、ばね上共振周波数f2以上の周波数領域と比べて低いゲイン特性となるように、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定されている。
【0033】
第1フィルタFS01のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第2、第3フィルタFS02、FS03のゲイン特性と比べて高くなるように設定されている。また、第2フィルタFS02のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第3フィルタFS03のゲイン特性と比べて低くなるように設定されている。
要するに、第1フィルタFS01は、接地重視型のゲイン特性を有する。第1フィルタFS01では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、第2及び第3フィルタFS02、FS03と比べてゲイン(減衰力)が大きく、ばね下(車輪)の接地性能を稼ぐ点で優れているからである。
また、第2フィルタFS02は、振動遮断重視型のゲイン特性を有する。第2フィルタFS02では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、第1及び第3フィルタFS01、FS03と比べてゲイン(減衰力)が小さく、ばね上(車体)への振動遮断性能(乗り心地)を稼ぐ点で優れているからである。
そして、第3フィルタFS03は、第1及び第2フィルタFS01、FS02の中間型のゲイン特性を有する。
【0034】
第2周波数領域fa2における第1フィルタFS01と第2フィルタFS02とのゲインの差GD02は、
図4Bに示すように、第1周波数領域fa1における第1フィルタFS01と第2フィルタFS02とのゲインの差GD01と比べて大きくなるように設定されている。
【0035】
一方、フィルタ設定部43Aには、
図4Aに示すように、車速Vの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44Aが記憶されている。フィルタ選択のためのパラメータとして車速Vを採用したのは、ばね下(車輪)の接地性能を高める要求の度合いを把握する指標のひとつとして車速Vが適切だからである。
【0036】
車速Vに基づくフィルタ選択マップ44Aは、車速Vが第1車速閾値V1に満たない第2フィルタ選択領域にある際(V<V1)に振動遮断重視型のゲイン特性を有する第2フィルタFS02が、車速Vが第1車速閾値V1以上かつ第2車速閾値V2以下の第3フィルタ選択領域にある際に(V1=<V=<V2)中間型のゲイン特性を有する第3フィルタFS03が、車速Vが第2車速閾値V2を超える第1フィルタ選択領域にある際に接地重視型のゲイン特性を有する第1フィルタFS01が、それぞれ選択されるように設定されている。
なお、第1及び第2車速閾値V1、V2としては、車速Vの高低に応じて要求の度合いが変化する接地性能/振動遮断性能のバランスを考慮して、実験・シミュレーション等を通じて適宜の値を設定すればよい。
【0037】
〔第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作〕
次に、本発明の第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作について、
図5A、
図5Bを参照して説明する。
図5A、
図5Bは、本発明の実施形態に係る電磁サスペンション装置の動作説明に供するフローチャート図である。
【0038】
図5Aに示すステップS11(ストローク位置取得)において、ECU15Aの情報取得部42は、レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号をストローク位置の情報として取得する。また、情報取得部42は、車速センサ40で検出された車速Vの情報を取得する。情報取得部42で取得された車速Vの情報は、フィルタ設定部43Aに送られる。
【0039】
ステップS12(ストローク速度算出)において、ECU15Aの情報取得部42は、ステップS11で取得されたストローク位置の情報を時間微分することにより、ストローク速度を算出する。こうして算出されたストローク速度の情報は、フィルタ処理部45Aに送られる。
【0040】
ステップS13(フィルタ設定)において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、ステップS11で取得された車速Vの情報と、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)とに基づいて、そのときの車速Vに相応しい特性のフィルタを選択的に設定する。フィルタ設定部43Aで設定されたフィルタの情報は、フィルタ処理部45Aに送られる。
【0041】
ここで、ECU15Aのフィルタ設定部43Aで行われるフィルタ設定処理(ステップS13)について、
図5Bを参照して説明する。
図5Bに示すステップS21において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、ステップS11で取得された車速Vの情報を、車両10の状態量に係る情報として取得する。
【0042】
ステップS22において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSのなかから、車両10の状態量である車速Vに相応しい特性のフィルタを選択する。
【0043】
ステップS23において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型の情報を横並びで比較し、この比較結果に基づいて、ステップS22で選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定する。
この判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、処理の流れを次のステップS24へ進ませる。一方、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、処理の流れをステップS25へジャンプさせる。
なお、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型が同じであるケースは、「振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない」旨の条件を充足するものとして取り扱うこととする。
【0044】
ステップSS24において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを、時間遅れなしに速やかに設定するクイック設定を行う。その後、ECU15Aは、フィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0045】
一方、ステップS25において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを所定の遅延時間(t3a−t3:
図5C参照)をもって緩やかに設定するスロー設定を行う。その後、ECU15Aは、ステップS13のフィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0046】
ここで、車速Vの変化に基づくフィルタ設定処理の具体例について、
図5Cを参照して説明する。
図5Cは、車速Vの時系列変化に基づくフィルタ型の設定例を、車速Vの時系列変化に対応付けて表すタイムチャート図である。
【0047】
時刻t0〜t1に至る直前の区間において、
図5Cに示すように、車速Vはほぼ線形に増大している。同区間では、車速Vが第1車速閾値V1に満たないため、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第2フィルタFS02が設定されている。
【0048】
時刻t1において、車速Vが第1車速閾値V1に達している。同時刻t1では、ECU15Aのフィルタ設定部43Aは、車速V1に基づくフィルタとして、中間型のゲイン特性を有する第3フィルタFS03を選択する。
なお、第2フィルタFS02から第3フィルタFS03へのフィルタ型の変更は、振動遮断重視型から接地重視型への変更に相当する。本第1実施形態では、車速Vが第1車速閾値V1を超えると、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが強まるからである。
そのため、同時刻t1において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、フィルタの型として、選択された第3フィルタFS03がクイック設定される。
【0049】
時刻t1〜t2に至る直前の区間において、
図5Cに示すように、車速Vは引き続きほぼ線形に増大している。同区間では、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第3フィルタFS03が設定されている。
【0050】
時刻t2において、車速Vが第2車速閾値V2に達している。同時刻t2では、ECU15のフィルタ設定部43は、車速V2に基づくフィルタとして、接地重視型のゲイン特性を有する第1フィルタFS01を選択する。
なお、第3フィルタFS03から第1フィルタFS01へのフィルタ型の変更は、振動遮断重視型から接地重視型への変更に相当する。本第1実施形態では、車速Vが第2車速閾値V2を超えると、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが強まるからである。
そのため、同時刻t2において、ECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、フィルタの型として、選択された第1フィルタFS01がクイック設定される。
【0051】
時刻t2〜t3に至る直前の区間において、
図5Cに示すように、車速Vは増大傾向から減少傾向に転じている。同区間では、車速Vが第2車速閾値V2を超えているため、接地重視型のゲイン特性を有する第1フィルタFS01が設定されている。
【0052】
時刻t3において、車速Vが第2車速閾値V2を下回っている。同時刻t3では、ECU15のフィルタ設定部43は、車速(V1<V<V2)に基づくフィルタとして、第1及び第2フィルタFS01、FS02の中間型のゲイン特性を有する第3フィルタFS03を選択する。
なお、第1フィルタFS01から第3フィルタFS03へのフィルタ型の変更は、接地重視型から振動遮断重視型への変更に相当する。本第1実施形態では、車速Vが第2車速閾値V2を下回る(V1<V<V2)と、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが弱まるからである。
そのため、同時刻t3に所定の遅延時間を加算した時刻t3aにおいて、ECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、フィルタの型として、選択された第3フィルタFS03がスロー設定される。
なお、前記第1の遅延時間としては、接地重視型から振動遮断重視型へのフィルタ型の変更になる(即時の変更を要しない)ことを考慮して、実験・シミュレーション等を通じて適宜の値を設定すればよい。
【0053】
さて、フィルタ設定処理が終了すると、ステップS14(フィルタ処理)において、ECU15Aのフィルタ処理部45Aは、ステップS12で算出(取得)されたストローク速度の時系列信号に対し、ステップS24又はS25で設定されたフィルタが有する周波数に対するゲイン特性(ハイパス特性)を適用するフィルタ処理を施すことにより、そのときの車速Vに相応しい周波数特性にゲインが補正されたフィルタ処理後のストローク速度信号を出力する。フィルタ処理部45Aでフィルタ処理後のストローク速度信号は、駆動力演算部47に送られる。
【0054】
ステップS15(駆動力演算処理)において、ECU15Aの駆動力演算部47は、ステップS14でフィルタ処理後のストローク速度信号を入力し、このストローク速度信号、及び減衰力マップ46を参照して、目標となる駆動制御電流の値を含む駆動制御信号を演算により求める。
【0055】
ステップS16において、ECU15Aの駆動制御部49は、ステップS15の演算により求められた駆動制御信号に従って、複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれに備わる電動モータ31に駆動制御電力を供給することにより、複数の電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う。
【0056】
〔第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11の作用効果〕
第1実施形態に係る電磁サスペンション装置11によれば、ばね下共振周波数f1(10〜13Hz程度)を超える第1周波数領域fa1では、フィルタのゲイン特性として比較的高いゲインを保つことで接地性能(操縦安定性)を確保する一方、ばね上共振周波数f2(0.8〜2Hz程度)未満の第2周波数領域fa2では、フィルタのゲイン特性を広い範囲にわたり調整可能とすることで振動遮断性能(乗り心地)を獲得する効果を、車両の状態量としての車速Vの高低に応じてきめ細かく設定可能となる。
具体的には、例えば、接地性能が重視される高車速域では、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1でのフィルタゲインに対して、ばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2でのフィルタゲインの低下量が小さいゲイン特性を有する接地重視型のフィルタが選択される。これにより、良好な接地性能が得られる。
一方、振動遮断性能が重視される低〜中車速領域では、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1でのフィルタゲインに対して、ばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2でのフィルタゲインの低下量が大きいゲイン特性を有する振動遮断重視型のフィルタが選択される。これにより、良好な振動遮断性能が得られる。
その結果、ばね上部材(車体等)における振動遮断性能とばね下部材(車輪等)における接地性能とを、時々刻々と変動する車両10の運動状態(車速Vの高低)に応じて高水準で両立させることができる。
【0057】
〔第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Bの内部構成〕
次に、第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Bの内部構成について、
図6A、
図6Bを参照して説明する。
図6Aは、第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Bの内部構成図である。
図6Bは、ヨーレイト(操舵量)Yに基づき選択される複数のフィルタFSのそれぞれに各個別に設定された周波数に対するゲイン特性を表す説明図である。
ここで、第1実施形態に係るECU15Aと、第2実施形態に係るECU15Bとでは、両者間で共通の構成要素が多く存在する。そこで、両者間で相違する構成要素に注目して説明することで、第2実施形態に係るECU15Bの説明に代えることとする。
【0058】
第1実施形態に係るECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、車速Vの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)が記憶されている。
これに対し、第2実施形態に係るECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、(車速Vに代えて)ヨーレイトYの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)が記憶されている。
【0059】
また、第1実施形態に係るECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、ECU15Aに予め登録される複数のフィルタFSとして、
図4Bに示すように、第1フィルタFS01、第2フィルタFS02、及び第3フィルタFS03を含む都合3つのフィルタが例示されている。
これに対し、第2実施形態に係るECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、ECU15Bに予め登録される複数のフィルタFSとして、
図6Bに示すように、第11フィルタFS11、第12フィルタFS12、第13フィルタFS13、第14フィルタFS14、及び第15フィルタFS15を含む都合5つのフィルタが例示されている。
【0060】
すなわち、第11〜第15フィルタFS11、FS12、FS13、FS14、FS15には、
図6Bに示すように、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1では、ばね下共振周波数f1以下の周波数領域と比べて高いゲイン特性となり、ばね下共振周波数f1と比べて低いばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2では、ばね上共振周波数f2以上の周波数領域と比べて低いゲイン特性となるように、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定されている。
【0061】
第11フィルタFS11のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第12〜第15フィルタFS12、FS13、FS14、FS15のゲイン特性と比べて高くなるように設定されている。同様に、第13フィルタFS13のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第12フィルタFS12、第14〜第15フィルタFS14、FS15のゲイン特性と比べて高くなるように設定されている。
要するに、第11フィルタFS11及び第13フィルタFS13は、接地重視型のゲイン特性を有する。第11フィルタFS11及び第13フィルタFS13では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、中間型の第15フィルタFS15と比べてゲイン(減衰力)が大きく、車輪の接地性能(操縦安定性)を稼ぐ点で優れているからである。
【0062】
一方、第12フィルタFS12及び第14フィルタFS14は、振動遮断重視型のゲイン特性を有する。第12フィルタFS12及び第14フィルタFS14では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、中間型の第15フィルタFS15と比べてゲイン(減衰力)が小さく、車体への振動遮断性能(乗り心地)を稼ぐ点で優れているからである。
【0063】
第2周波数領域fa2における第11フィルタFS11と第12フィルタFS12とのゲインの差GD12は、
図6Bに示すように、第1周波数領域fa1における第11フィルタFS11と第12フィルタFS12とのゲインの差GD11と比べて大きくなるように設定されている。
【0064】
一方、フィルタ設定部43Bには、
図6Aに示すように、ヨーレイトYの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44Bが記憶されている。フィルタ選択のためのパラメータとしてヨーレイトYを採用したのは、ばね下(車輪)の接地性能を高める要求の度合いを把握する指標のひとつとしてヨーレイトYが適切だからである。
【0065】
ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44Bは、ヨーレイトYが第1操舵量閾値Y1以下の第12フィルタ選択領域にある際(Y=<Y1)に振動遮断重視型のゲイン特性を有する第12フィルタFS12が、ヨーレイトYが第1操舵量閾値Y1を超え、かつ第2操舵量閾値Y2以下の第14フィルタ選択領域にある際(Y1<Y=<Y2)に振動遮断重視型のゲイン特性を有する第14フィルタFS14が、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2を超え、かつ第3操舵量閾値Y3以下の第15フィルタ選択領域にある際(Y2<Y=<Y3)に中間型のゲイン特性を有する第15フィルタFS15が、ヨーレイトYが第3操舵量閾値Y3を超え、かつ第4操舵量閾値Y4以下の第13フィルタ選択領域にある際(Y3<Y=<Y4)に接地重視型のゲイン特性を有する第12フィルタFS12が、ヨーレイトYが第4操舵量閾値Y4を超える第11フィルタ選択領域にある際(Y4<Y)に接地重視型のゲイン特性を有する第11フィルタFS11が、それぞれ選択されるように設定されている。
なお、第1〜第4操舵量閾値Y1、Y2、Y3、Y4としては、ヨーレイトYの高低に応じて要求の度合いが変化する接地性能/振動遮断性能のバランスを考慮して、実験・シミュレーション等を通じて適宜の値を設定すればよい。
【0066】
〔第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作〕
次に、本発明の第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作について、
図5A、
図5Bを参照して説明する。
【0067】
図5Aに示すステップS11(ストローク位置取得)において、ECU15Bの情報取得部42は、レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号をストローク位置の情報として取得する。また、情報取得部42は、ヨーレイトセンサ42で検出されたヨーレイトYの情報を取得する。情報取得部42で取得されたヨーレイトYの情報は、フィルタ設定部43Bに送られる。
【0068】
ステップS12(ストローク速度算出)において、ECU15Bの情報取得部42は、ステップS11で取得されたストローク位置の情報を時間微分することにより、ストローク速度を算出する。こうして算出されたストローク速度の情報は、フィルタ処理部45Bに送られる
【0069】
ステップS13(フィルタ設定)において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、ステップS11で取得されたヨーレイトYの情報と、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)とに基づいて、そのときのヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択的に設定する。フィルタ設定部43Bで設定されたフィルタの情報は、フィルタ処理部45Bに送られる。
【0070】
ここで、ECU15Bのフィルタ設定部43Bで行われるフィルタ設定処理(ステップS13)について、
図5Bを参照して説明する。
図5Bに示すステップS21において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、ステップS11で取得されたヨーレイトYの情報を、車両10の状態量に係る情報として取得する。
【0071】
ステップS22において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSのなかから、車両10の状態量であるヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択する。
【0072】
ステップS23において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型の情報を横並びで比較し、この比較結果に基づいて、ステップS22で選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定する。
この判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、処理の流れを次のステップS24へ進ませる。一方、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、処理の流れをステップS25へジャンプさせる。
なお、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型が同じであるケースは、「振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない」旨の条件を充足するものとして取り扱うこととする。
【0073】
ステップS24において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを、時間遅れなしに速やかに設定するクイック設定を行う。その後、ECU15Bは、フィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0074】
一方、ステップS25において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを所定の遅延時間(t13a−t13:
図6C参照)をもって緩やかに設定するスロー設定を行う。その後、ECU15Bは、ステップS13のフィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0075】
ここで、ヨーレイトYの変化に基づくフィルタ設定処理の具体例について、
図6Cを参照して説明する。
図6Cは、ヨーレイトYの時系列変化に基づくフィルタ型の設定例を、ヨーレイトYの時系列変化に対応付けて表すタイムチャート図である。
【0076】
時刻t0〜t11に至る区間において、
図6Cに示すように、ヨーレイトYはほぼ線形に増大している。同区間では、ヨーレイトYが第1操舵量閾値Y1に満たないため、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第12フィルタFS12が設定されている。
【0077】
時刻t11において、ヨーレイトYが第1操舵量閾値Y1に達している。同時刻t11では、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、ヨーレイトY1に基づくフィルタとして、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第14フィルタFS14を選択する。
なお、第12フィルタFS12から第14フィルタFS14へのフィルタ型の変更は、振動遮断重視型から接地重視型への変更に相当する。本第2実施形態では、ヨーレイトYが第1操舵量閾値Y1を超えると、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが強まるからである。
そのため、同時刻t11において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、フィルタの型として、選択された第14フィルタFS14がクイック設定される。
【0078】
時刻t11〜t12に至る区間において、
図6Cに示すように、ヨーレイトYは引き続きほぼ線形に増大している。同区間では、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第14フィルタFS14が設定されている。
【0079】
時刻t12において、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2に達している。同時刻t12では、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、ヨーレイトY2に基づくフィルタとして、中間型のゲイン特性を有する第15フィルタFS15を選択する。
なお、第14フィルタFS14から第15フィルタFS15へのフィルタ型の変更は、振動遮断重視型から接地重視型への変更に相当する。本第2実施形態では、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2を超えると、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが強まるからである。
そのため、同時刻t12において、ECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、フィルタの型として、選択された第15フィルタFS15がクイック設定される。
【0080】
時刻t12〜t13に至る区間において、
図6Cに示すように、ヨーレイトYは増大傾向から減少傾向に転じている。同区間では、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2を超えているため、中間型のゲイン特性を有する第15フィルタFS15が設定されている。
【0081】
時刻t13において、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2を下回っている。同時刻t13では、ECU15Bのフィルタ設定部43Bは、ヨーレイト(Y1<Y<Y2)に基づくフィルタとして、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第14フィルタFS14を選択する。
なお、第15フィルタFS15から第14フィルタFS14へのフィルタ型の変更は、接地重視型から振動遮断重視型への変更に相当する。本第2実施形態では、ヨーレイトYが第2操舵量閾値Y2を下回る(Y1<Y<Y2)と、接地重視による操縦安定性を高める要求の度合いが弱まるからである。
そのため、同時刻t13に所定の遅延時間を加算した時刻t13aにおいて、ECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、フィルタの型として、選択された第14フィルタFS14がスロー設定される。
なお、前記所定の遅延時間としては、接地重視型から振動遮断重視型へのフィルタ型の変更になる(即時の変更を要しない)ことを考慮して、実験・シミュレーション等を通じて適宜の値を設定すればよい。
【0082】
さて、フィルタ設定処理が終了すると、ステップS14(フィルタ処理)において、ECU15Bのフィルタ処理部45Bは、ステップS12で算出(取得)されたストローク速度の時系列信号に対し、ステップS24又はS25で設定されたフィルタが有する周波数に対するゲイン特性(ハイパス特性)を適用するフィルタ処理を施すことにより、そのときのヨーレイトYに相応しい周波数特性にゲインが補正されたフィルタ処理後のストローク速度信号を出力する。フィルタ処理部45Bでフィルタ処理後のストローク速度信号は、駆動力演算部47に送られる。
【0083】
ステップS15(駆動力演算処理)において、ECU15Bの駆動力演算部47は、ステップS14でフィルタ処理後のストローク速度信号を入力し、このストローク速度信号、及び減衰力マップ46を参照して、目標となる駆動制御電流の値を含む駆動制御信号を演算により求める。
【0084】
ステップS16において、ECU15Bの駆動制御部49は、ステップS15の演算により求められた駆動制御信号に従って、複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれに備わる電動モータ31に駆動制御電力を供給することにより、複数の電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う。
【0085】
〔第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11の作用効果〕
第2実施形態に係る電磁サスペンション装置11によれば、ばね下共振周波数f1(10〜13Hz程度)を超える第1周波数領域fa1では、フィルタのゲイン特性として比較的高いゲインを保つことで接地性能(操縦安定性)を確保する一方、ばね上共振周波数f2(0.8〜2Hz程度)未満の第2周波数領域fa2では、フィルタのゲイン特性を広い範囲にわたり調整可能とすることで振動遮断性能(乗り心地)を獲得する効果を、車両の状態量としてのヨーレイトYの高低に応じてきめ細かく設定可能となる。
具体的には、例えば、接地性能が重視される旋回走行中(操舵量が大きい)では、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1でのフィルタゲインに対して、ばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2でのフィルタゲインの低下量が小さいゲイン特性を有する接地重視型のフィルタが選択される。これにより、良好な接地性能が得られる。
一方、振動遮断性能が重視される直進走行を含む定常走行中(操舵量が小さい)では、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1でのフィルタゲインに対して、ばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2でのフィルタゲインの低下量が大きいゲイン特性を有する振動遮断重視型のフィルタが選択される。これにより、良好な振動遮断性能が得られる。
その結果、ばね上部材(車体等)における振動遮断性能とばね下部材(車輪等)における接地性能とを、時々刻々と変動する車両10の運動状態(ヨーレイトYの高低)に応じて高水準で両立させることができる。
【0086】
〔第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Cの内部構成〕
次に、第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Cの内部構成について、
図7A、
図7Bを参照して説明する。
図7Aは、第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に備わるECU15Cの内部構成図である。
図7Bは、車速V及びヨーレイト(操舵量)Yに基づき選択される複数のフィルタFSのそれぞれに各個別に設定された周波数に対するゲイン特性を表す説明図である。
ここで、第3実施形態に係るECU15Cは、第1実施形態に係るECU15Aと、第2実施形態に係るECU15Bとを組み合わせて構成したものである。そのため、第3実施形態に係るECU15Cと、第1実施形態に係るECU15A及び第2実施形態に係るECU15Bとでは、両者間で共通の構成要素が多く存在する。そこで、両者間で相違する構成要素に注目して説明することで、第3実施形態に係るECU15Cの説明に代えることとする。
【0087】
第1実施形態に係るECU15Aのフィルタ設定部43Aでは、車速Vの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)が記憶されている。
また、第2実施形態に係るECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、(車速Vに代えて)ヨーレイトYの変化に適応するフィルタ特性の関係情報として、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)が記憶されている。
これに対し、第3実施形態に係るECU15Cのフィルタ設定部43Cでは、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)、及びヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)の両方が記憶されている。
【0088】
また、第2実施形態に係るECU15Bのフィルタ設定部43Bでは、ECU15Bに予め登録される複数のフィルタFSとして、
図6Bに示すように、第11フィルタFS11、第12フィルタFS12、第13フィルタFS13、第14フィルタFS14、及び第15フィルタFS15を含む都合5つのフィルタが例示されている。
【0089】
これに対し、第3実施形態に係るECU15Cのフィルタ設定部43Cでは、ECU15Cに予め登録される複数のフィルタFSとして、第2実施形態に係るECU15Bに予め登録される複数のフィルタFSに対応する都合5つのフィルタが例示されている。
すなわち、第3実施形態に係るECU15Cでは、予め登録される複数のフィルタFSとして、
図7Bに示すように、第21フィルタFS21、第22フィルタFS22、第23フィルタFS23、第24フィルタFS24、及び第25フィルタFS25を含む都合5つのフィルタが例示されている。
【0090】
第3実施形態に係るECU15Cに予め登録される複数のフィルタFSと、第2実施形態に係るECU15Bに予め登録される複数のフィルタFSとの対応関係は以下の通りである。すなわち、第3実施形態に係るECU15Cに予め登録される複数のフィルタFSのうち、
図7Bに示すように、第21フィルタFS21は第11フィルタFS11に、第22フィルタFS22は第12フィルタFS12に、第23フィルタFS23は第13フィルタFS13に、第24フィルタFS24は第14フィルタFS14に、第25フィルタFS25は第15フィルタFS15に、それぞれ対応する。
【0091】
また、第3実施形態に係るECU15Cに予め登録される複数のフィルタFSと、第1実施形態に係るECU15Aに予め登録される複数のフィルタFSとの対応関係は以下の通りである。すなわち、第3実施形態に係るECU15Cに予め登録される複数のフィルタFSのうち、
図7Bに示すように、第23フィルタFS23は第1フィルタFS01に、第24フィルタFS24は第2フィルタFS02に、第25フィルタFS25は第3フィルタFS03に、それぞれ対応する。
【0092】
ここで注目すべき点は、
図7Bに示すように、車速Vに基づくフィルタ選択範囲R1と比べて、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択範囲R2の方が、ゲイン調整範囲が幅広に設定されている点である。これは、車速Vの変化と比べてヨーレイトYの変化の方が、より接地性能と密接な関係がある(接地性能に与える影響力が大きい)ことに基づく。
【0093】
詳しく述べると、第21〜第25フィルタFS21、FS22、FS23、FS24、FS25には、
図7Bに示すように、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1では、ばね下共振周波数f1以下の周波数領域と比べて高いゲイン特性となり、ばね下共振周波数f1と比べて低いばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2では、ばね上共振周波数f2以上の周波数領域と比べて低いゲイン特性となるように、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定されている。
【0094】
第21フィルタFS21のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第22〜第25フィルタFS22、FS23、FS24、FS25のゲイン特性と比べて高くなるように設定されている。同様に、第23フィルタFS23のゲイン特性は、全ての周波数領域にわたり、第22フィルタFS22、第24〜第25フィルタFS24、FS25のゲイン特性と比べて高くなるように設定されている。
要するに、第21フィルタFS21及び第23フィルタFS23は、接地重視型のゲイン特性を有する。第21フィルタFS21及び第23フィルタFS23では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、中間型の第25フィルタFS25と比べてゲイン(減衰力)が大きく、車輪の接地性能(操縦安定性)を稼ぐ点で優れているからである。
【0095】
一方、第22フィルタFS22及び第24フィルタFS24は、振動遮断重視型のゲイン特性を有する。第22フィルタFS22及び第24フィルタFS24では、特にばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、中間型の第25フィルタFS25と比べてゲイン(減衰力)が小さく、車体への振動遮断性能(乗り心地)を稼ぐ点で優れているからである。
【0096】
第2周波数領域fa2における第21フィルタFS21と第22フィルタFS22とのゲインの差GD12は、
図7Bに示すように、第1周波数領域fa1における第21フィルタFS21と第22フィルタFS22とのゲインの差GD11と比べて大きくなるように設定されている。
【0097】
〔第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作〕
次に、本発明の第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11の動作について、
図5A、
図5Bを参照して説明する。
【0098】
図5Aに示すステップS11において、ECU15Cの情報取得部42は、レゾルバ37で検出された電動モータ31の回転角信号をストローク位置の情報として取得する。また、情報取得部42は、車速センサ40で検出された車速V、及びヨーレイトセンサ42で検出されたヨーレイトYの情報を取得する。情報取得部42で取得された車速V及びヨーレイトYの情報は、フィルタ設定部43Cに送られる。
【0099】
ステップS12において、ECU15Cの情報取得部42は、ステップS11で取得されたストローク位置の情報を時間微分することにより、ストローク速度を算出する。こうして算出されたストローク速度の情報は、フィルタ処理部45Cに送られる
【0100】
ステップS13において、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、ステップS11で取得された車速V及びヨーレイトYの情報と、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)と、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)とに基づいて、そのときの車速V・ヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択的に設定する。フィルタ設定部43Cで設定されたフィルタの情報は、フィルタ処理部45Cに送られる。
【0101】
ここで、ECU15Cのフィルタ設定部43Cで行われるフィルタ設定処理(ステップS13)について、
図5Bを参照して説明する。
図5Bに示すステップS21において、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、ステップS11で取得された車速V及びヨーレイトYの情報を、車両10の状態量に係る情報として取得する。
【0102】
ステップS22において、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSのなかから、車両10の状態量である車速V及びヨーレイトYに相応しい特性のフィルタをそれぞれ選択する。
ここで、車速Vに基づき選択されたフィルタと、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタとが、共通のフィルタである場合には、この共通のフィルタを選択されたフィルタとして取り扱うことにより、以降の処理が行われる。
【0103】
これに対し、車速Vに基づき選択されたフィルタと、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタとが、相互に異なる特性を有するフィルタであるケースが生じた際に、いかにして一のフィルタを選択するのか?が問題となる。
かかるケースが生じた際に一のフィルタを選択する手法として、次のふたつのうちいずれかを採用すればよい。
第一は、車速Vに基づき選択されたフィルタに対し、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタを優先的に選択する手法である。これは、車速Vに比べてヨーレイトYの方が、より接地性能と密接に関係している(接地性能に与える影響力が大きい)との考え方に基づく。
第二は、車速Vに基づき選択されたフィルタ、及びヨーレイトYに基づき選択されたフィルタのうち、より接地重視型の色合いが濃い(ゲインが大きい)方を優先的に選択する手法である。これは、接地性能(操縦安定性)の方が、振動遮断性能(乗り心地)に優先するとの考え方に基づく。
前記ふたつのうちいずれかの手法により選択されたフィルタを、選択されたフィルタとして取り扱うことにより、以降の処理が行われる。
【0104】
ステップS23において、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型の情報を横並びで比較し、この比較結果に基づいて、ステップS22で選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定する。
この判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、処理の流れを次のステップS24へ進ませる。一方、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、処理の流れをステップS25へジャンプさせる。
なお、現在設定されているフィルタの型、及びステップS22で選択されたフィルタの型が同じであるケースは、「振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない」旨の条件を充足するものとして取り扱うこととする。
【0105】
ステップS24において、ECU15Cフィルタ設定部43Cは、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを、時間遅れなしに速やかに設定するクイック設定を行う。その後、ECU15Cは、フィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0106】
一方、ステップS25において、ECU15Cのフィルタ設定部43Cは、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、ステップS22で選択されたフィルタを所定の遅延時間をもって緩やかに設定するスロー設定を行う。その後、ECU15Cは、ステップS13のフィルタ設定処理を終了させて、処理の流れを次のステップS14へ進ませる。
【0107】
ステップS14において、ECU15Cのフィルタ処理部45Cは、ステップS12で算出(取得)されたストローク速度の時系列信号に対し、ステップS24又はS25で設定されたフィルタが有する周波数に対するゲイン特性(ハイパス特性)を適用するフィルタ処理を施すことにより、そのときの車速V・ヨーレイトYに相応しい周波数特性にゲインが補正されたフィルタ処理後のストローク速度信号を出力する。フィルタ処理部45Bでフィルタ処理後のストローク速度信号は、駆動力演算部47に送られる。
【0108】
ステップS15において、ECU15Cの駆動力演算部47は、ステップS14でフィルタ処理後のストローク速度信号を入力し、このストローク速度信号、及び減衰力マップ46を参照して、目標となる駆動制御電流の値を含む駆動制御信号を演算により求める。
【0109】
ステップS16において、ECU15Cの駆動制御部49は、ステップS15の演算により求められた駆動制御信号に従って、複数の電磁アクチュエータ13のそれぞれに備わる電動モータ31に駆動制御電力を供給することにより、複数の電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う。
【0110】
〔第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11の作用効果〕
第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11によれば、ばね下共振周波数f1(10〜13Hz程度)を超える第1周波数領域fa1では、フィルタのゲイン特性として比較的高いゲインを保つことで接地性能(操縦安定性)を確保する一方、ばね上共振周波数f2(0.8〜2Hz程度)未満の第2周波数領域fa2では、フィルタのゲイン特性を広い範囲にわたり調整可能とすることで振動遮断性能(乗り心地)を獲得する効果を、車両の状態量としての車速V及びヨーレイトYの高低に応じてきめ細かく設定可能となる。
その結果、ばね上部材(車体等)における振動遮断性能とばね下部材(車輪等)における接地性能とを、時々刻々と変動する車両10の運動状態(車速V及びヨーレイトYの高低)に応じて高水準で両立させることができる。
また、車速Vに基づき選択されたフィルタと、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタとが、相互に異なる特性を有するフィルタであるケースが生じた際において、車速Vに基づき選択されたフィルタに対し、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタを優先的に選択する手法を採用した場合、優れた接地性能(操縦安定性)を実現可能となる。
さらに、車速Vに基づき選択されたフィルタと、ヨーレイトYに基づき選択されたフィルタとが、相互に異なる特性を有するフィルタであるケースが生じた際において、車速Vに基づき選択されたフィルタ、及びヨーレイトYに基づき選択されたフィルタのうち、より接地重視型の色彩を有する方を優先的に選択する手法を採用した場合も、前記と同様に、優れた接地性能(操縦安定性)を実現可能となる。
【0111】
〔本発明に係る電磁サスペンション装置11の作用効果〕
第1の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、車両10の車体と車輪の間に設けられ、車体の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータ13と、電磁アクチュエータ13のストローク速度、及び車両10の状態量(車速V・ヨーレイトY)の情報を取得する情報取得部42と、周波数に対するゲイン特性であって、ばね上共振周波数f2でのゲインがばね下共振周波数f1でのゲインに対して低いゲイン特性となるように設定された複数のフィルタFSと、情報取得部42で取得された車両10の状態量に基づいて、複数のフィルタFSのなかから所定のゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43と、情報取得部42で取得された電磁アクチュエータ13のストローク速度に対して、フィルタ設定部43で設定されたフィルタを用いてフィルタ処理を施すフィルタ処理部45と、フィルタ処理部45でフィルタ処理後のストローク速度と、フィルタ処理後のストローク速度及び減衰力の関係情報とに基づいて、電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う駆動制御部49と、を備える。
複数のフィルタFSの各々のゲイン特性は、ばね下共振周波数f1でのゲインに対するばね上共振周波数f2でのゲインの差が異なるように設定されている。
【0112】
第1の観点に基づく電磁サスペンション装置11によれば、ばね下共振周波数f1(10〜13Hz程度)付近では、フィルタのゲイン特性として比較的高いゲインを保つことで接地性能(操縦安定性)を確保する一方、ばね上共振周波数f2(0.8〜2Hz程度)付近では、フィルタのゲイン特性を広い範囲にわたり調整可能とすることで振動遮断性能(乗り心地)を獲得する効果を、車両の状態量(車速V・ヨーレイトY)の高低に応じてきめ細かく設定可能となる。
その結果、ばね上部材(車体等)における振動遮断性能とばね下部材(車輪等)における接地性能とを、時々刻々と変動する車両10の運動状態(車速V・ヨーレイトYの高低)に応じて高水準で両立させることができる。
【0113】
なお、第1の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、下記の複数の態様をも、技術的範囲の射程に捉えている。すなわち、複数のフィルタFSの各々に設定されたゲイン特性線図同士が部分的に交差する態様、複数のフィルタFSのいずれかが、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1において、周波数の増加に連れてゲインが減少するようなゲイン特性を呈する態様、複数のフィルタFSのいずれかが、ばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2において、周波数の減少に連れてゲインが増加するようなゲイン特性を呈する態様、がそれである。
【0114】
また、第2の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、第1の観点に基づく電磁サスペンション装置11であって、フィルタ設定部43は、情報取得部42で取得された車両10の状態量に基づいて、複数のフィルタFSのなかから、当該車両10の状態量に適応するゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定する構成を採用してもよい。
【0115】
一方、第3の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、車両10の車体と車輪の間に設けられ、車体の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータ13と、電磁アクチュエータ13のストローク速度、及び車両10の状態量(車速V・ヨーレイトY)の情報を取得する情報取得部42と、ばね下共振周波数f1を超える第1周波数領域fa1では、ばね下共振周波数f1以下の周波数領域と比べて高いゲイン特性となり、ばね下共振周波数f1と比べて低いばね上共振周波数f2未満の第2周波数領域fa2では、ばね上共振周波数f2以上の周波数領域と比べて低いゲイン特性となるように、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSと、情報取得部42で取得された車両10の状態量と、当該車両10の状態量に適応するフィルタ特性の関係情報44A,44Bとに基づいて、複数のフィルタFSのなかから、当該車両10の状態量に適応するゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43と、情報取得部42で取得された電磁アクチュエータ13のストローク速度に係る周波数成分に対して、フィルタ設定部43で設定されたフィルタを用いてフィルタ処理を施すフィルタ処理部45と、フィルタ処理部45でフィルタ処理後のストローク速度と、ストローク速度の変化に応じて変化する減衰力の関係情報とに基づいて、電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う駆動制御部49と、を備える。
複数のフィルタFSは、接地重視型のゲイン特性を有する第1フィルタFS01,FS11,FS21と、振動遮断重視型のゲイン特性を有する第2フィルタFS02,FS12,FS22と、を少なくとも含み、第1フィルタFS01,FS11,FS21のゲイン特性は、第2フィルタFS02,FS12,FS22のゲイン特性と比べて高く、第2周波数領域fa2における第1フィルタと第2フィルタとのゲインの差GD02,GD12は、第1周波数領域fa1における第1フィルタと第2フィルタとのゲインの差GD01,GD11と比べて大きい、ことを特徴とする。
【0116】
第3の観点に基づく電磁サスペンション装置11によれば、ばね下共振周波数f1(10〜13Hz程度)を超える第1周波数領域fa1では、フィルタのゲイン特性として比較的高いゲインを保つことで接地性能(操縦安定性)を確保する一方、ばね上共振周波数f2(0.8〜2Hz程度)未満の第2周波数領域fa2では、フィルタのゲイン特性を広い範囲にわたり調整可能とすることで振動遮断性能(乗り心地)を獲得する効果を、車両の状態量(車速V・ヨーレイトY)の高低に応じてきめ細かく設定可能となる。
その結果、ばね上部材(車体等)における振動遮断性能とばね下部材(車輪等)における接地性能とを、時々刻々と変動する車両10の運動状態(車速V・ヨーレイトYの高低)に応じて高水準で両立させることができる。
【0117】
また、第4の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、第1の観点に基づく電磁サスペンション装置11であって、フィルタ設定部43は、複数のフィルタFSのなかから前記所定のゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定するに際し、現在設定されているフィルタの型、及び当該選択されたフィルタの型の情報を比較し、この比較結果に基づいて、当該選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定し、当該判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、当該選択されたフィルタを所定の遅延時間をもって緩やかに設定するスロー設定を行う、構成を採用してもよい。
【0118】
さらに、第5の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、第2又は第3の観点に基づく電磁サスペンション装置11であって、フィルタ設定部43は、複数のフィルタFSのなかから、当該車両10の状態量(車速V・ヨーレイトY)に適応するゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定するに際し、現在設定されているフィルタの型、及び当該選択されたフィルタの型の情報を比較し、この比較結果に基づいて、当該選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定し、当該判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、当該選択されたフィルタを所定の遅延時間をもって緩やかに設定するスロー設定を行う、構成を採用してもよい。
【0119】
第4又は第5の観点に基づく電磁サスペンション装置11では、フィルタ設定部43は、複数のフィルタFSのなかから選択されたフィルタを設定すると、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるか否かを判定し、当該判定の結果、振動遮断重視型から接地重視型への変更になる旨の判定が下された場合、当該選択されたフィルタを速やかに設定するクイック設定を行う一方、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならない旨の判定が下された場合に、当該選択されたフィルタを所定の遅延時間をもって緩やかに設定するスロー設定を行う。
ここで、振動遮断重視型から接地重視型への変更になるケースとは、例えば、車両10が高速走行・旋回走行を行っているなどの、操縦安定性を確保するために選択されたフィルタを速やかに設定する要求が強いケースが想定される。一方、振動遮断重視型から接地重視型への変更にならないケースとは、例えば、車両10が制限速度を遵守して直進走行を行っているなどの、選択されたフィルタを速やかに設定する要求がさほど強くないケースが想定される。
第4又は第5の観点に基づく電磁サスペンション装置11によれば、ばね下部材に対する接地性能の向上要求を、ばね上部材に対する振動遮断性能の向上要求に対して優先させるため、車両10の挙動安定化に貢献することができる。
また、ストローク速度と、ストローク速度の変化に応じて変化する減衰力の関係情報とに基づいて、目標となる減衰力を求めるのに先立って、ストローク速度の時系列信号に対し、車両10の状態量に適応するように選択されたフィルタを適用することでストローク速度の特性を変更するため、ばね上共振周波数f2付近の減衰力特性の調整量を、ばね下共振周波数f1付近の減衰力特性の調整量に対して大きく設定することができる。その結果、ばね下部材に対する接地性能をある程度確保しながら、ばね上部材に対する振動遮断性能を大きく調整することが可能となる。
【0120】
また、第6の観点に基づく電磁サスペンション装置11は、第1〜第5のうちいずれか一の観点に基づく電磁サスペンション装置11であって、車両10の状態量は、車速V及びヨーレイト(操舵量)Yを含み、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択範囲R2は、車速Vに基づくフィルタ選択範囲R1と比べて広く設定されている、構成を採用してもよい。
【0121】
第6の観点に基づく電磁サスペンション装置11によれば、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択範囲R2(
図7B参照)は、車速Vに基づくフィルタ選択範囲R1(
図7B参照)と比べて幅広に設定されているため、車速Vに比べてヨーレイトYの方が、より接地性能と密接に関係している(接地性能に与える影響力が大きい)との考え方に従って、ばね上部材における振動遮断性能とばね下部材における接地性能との両立を実現することができる。
【0122】
〔その他の実施形態〕
以上説明した複数の実施形態は、本発明の具現化の例を示したものである。したがって、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されることがあってはならない。本発明はその要旨またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形態で実施することができるからである。
【0123】
例えば、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通に備わるECU15の内部構成の説明において、ストローク速度、車速V、及びヨーレイトYの情報を取得する情報取得部42の例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。ストローク速度及び車速Vの情報を取得する情報取得部42(第1実施形態に対応)であってもよいし、ストローク速度及びヨーレイトYの情報を取得する情報取得部42(第2実施形態に対応)であっても構わない。
【0124】
また、本発明の第1〜第3実施形態に係る電磁サスペンション装置11に共通に備わるECU15の内部構成の説明において、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSのなかから、情報取得部42で取得された車速V・ヨーレイトYの情報とフィルタ選択マップとに基づいて、そのときの車速V・ヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43の例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。情報取得部42で取得された車速Vの情報とフィルタ選択マップ44Aとに基づいて、そのときの車速Vに相応しい特性のフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43A(第1実施形態に対応)であってもよいし、情報取得部42で取得されたヨーレイトYの情報とフィルタ選択マップ44Bとに基づいて、そのときのヨーレイトYに相応しい特性のフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43B(第2実施形態に対応)であっても構わない。
【0125】
また、本発明に係る実施形態の説明において、車速Vに基づくフィルタ選択マップ44A(
図4A参照)を用いて選択される複数のフィルタFSとして、3種類のフィルタ(第1フィルタFS01、第2フィルタFS02、第3フィルタFS03)を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。車速Vに基づくフィルタ選択マップ44Aを用いて選択される複数のフィルタFSとしては、任意の数量の複数のフィルタFSを採用すればよい。
【0126】
また、本発明に係る実施形態の説明において、ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44B(
図6A参照)を用いて選択される複数のフィルタFSとして、5種類のフィルタ(第11フィルタFS11、第12フィルタFS12、第13フィルタFS13、第14フィルタFS14、第15フィルタFS15)を例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。ヨーレイトYに基づくフィルタ選択マップ44Bを用いて選択される複数のフィルタFSとしては、任意の数量の複数のフィルタFSを採用すればよい。
【0127】
また、本発明に係る実施形態の説明において、操舵量に対応するパラメータとしてヨーレイトYを例示して説明したが、本発明はこの例に限定されない。操舵量に対応するパラメータとして、横G、操舵角度、操舵角速度、操舵トルク、電動パワーステアリング装置に用いられるアシストモータの回転角度・回転角速度、又は、これらのうち任意の組み合わせを採用しても構わない。
【0128】
また、本発明に係る実施形態の説明において、車両10の状態量として車速V・ヨーレイトYを例示し、こうした車両10の状態量に応じて接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握し、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSのなかから、その要求の度合いに適応するゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定する例をあげて説明したが、本発明は以下の態様で具現化してもよい。
すなわち、例えば、接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握する際に用いる車両10の状態量として、前輪のストローク信号(ストローク量・ストローク速度)を用いてもよい。この場合、前輪のストローク信号に基づいて、将来、後輪に生じるストローク量・ストローク速度等を推定し、この推定結果に基づいて、後輪での接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握すればよい。
また、接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握する際に用いる車両10の状態量として、車両10の進行方向における路面情報(荒れた路面か、凹凸のない良路か)を用いてもよい。この場合、車両10の進行方向における路面情報に基づいて、将来、車輪に生じるストローク量・ストローク速度等を推定し、この推定結果に基づいて、車輪での接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握すればよい。
車両10の進行方向における路面情報を取得するに際しては、例えば、車両10の進行方向における路面を撮像する車載カメラを用いればよい。
また、自車両10の前方を走行する他車から、他車の車輪に生じたストローク量・ストローク速度等の他車情報を車車間通信により取得することにより、自車両10の進行方向における路面情報を取得してもよい。
さらに、自車両10が走行中の道路に設けられた通信装置から、現在走行中の道路の路面情報を路車間通信により取得することにより、自車両10の進行方向における路面情報を取得してもよい。
また、自車両10に搭載したナビゲーション装置等に備わる記憶装置に走行した道路に係る路面情報を走行履歴として蓄積しておき、次にその道路を走行する際に、該道路に係る路面情報を走行履歴から読み出して取得してもよい。
この走行履歴としての路面情報は、他車両と共有するようにしてもよい。この場合において、現在走行中の道路の路面情報を、他車両の走行履歴から読み出して取得してもよい。
【0129】
しかも、接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握する際に用いる車両10の状態量として、車両10の加減速度・ピッチレートを用いてもよい。この場合、車両10が等しい車速Vで走行している場合でも、加速中か減速中かに係る車両10の運動状態に適応した、前輪及び後輪毎の接地性能要求を考慮したフィルタ選択機能を実現可能となる。その結果、接地性能/振動遮断性能のバランス配分を、よりきめ細かく両立させることができる。
また、接地性能/振動遮断性能に係る要求の度合いを把握する際に用いる車両10の状態量として、車両10の横加速度・ロールレートを用いてもよい。この場合、車両10が等しい操舵量(ヨーレイトY)で旋回走行している場合でも、車両10の旋回状態に適応した、旋回時の内輪及び外輪毎の接地性能要求を考慮したフィルタ選択機能を実現可能となる。その結果、接地性能/振動遮断性能のバランス配分を、よりきめ細かく両立させることができる。
【0130】
また、本発明に係る実施形態の説明において、電磁アクチュエータ13を、前輪(左前輪・右前輪)及び後輪(左後輪・右後輪)の両方で都合4つ配置する例をあげて説明したが、本発明はこの例に限定されない。電磁アクチュエータ13を、前輪又は後輪のいずれか一方に都合2つ配置する構成を採用しても構わない。
【0131】
最後に、本発明に係る実施形態の説明において、複数の電磁アクチュエータ13の駆動制御をそれぞれ独立して行う駆動制御部49に言及した。
具体的には、駆動制御部49は、四輪のそれぞれに備わる電磁アクチュエータ13の駆動制御を、各輪毎にそれぞれ独立して行ってもよい。
また、四輪のそれぞれに備わる電磁アクチュエータ13の駆動制御を、前輪側及び後輪側毎にそれぞれ独立して行ってもよいし、左輪側及び右輪側毎にそれぞれ独立して行ってもよい。
【解決手段】車体の振動減衰に係る駆動力を発生させる電磁アクチュエータ13と、電磁アクチュエータ13のストローク速度、及び車両10の状態量の情報を取得する情報取得部42と、各個別のゲイン特性がそれぞれに設定された複数のフィルタFSと、複数のフィルタFSのなかから、車両10の状態量に適応するゲイン特性を有するフィルタを選択的に設定するフィルタ設定部43と、ストローク速度信号に対して、フィルタ設定部43で設定されたフィルタを用いてフィルタ処理を施すフィルタ処理部45と、フィルタ処理後のストローク速度と、ストローク速度に対応する減衰力の関係情報とに基づいて、電磁アクチュエータ13の駆動制御を行う駆動制御部49と、を備える。