特許第6427026号(P6427026)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ キヤノン株式会社の特許一覧

特許6427026電子写真感光体、その製造方法、プロセスカートリッジ、及び電子写真装置
<>
  • 特許6427026-電子写真感光体、その製造方法、プロセスカートリッジ、及び電子写真装置 図000047
  • 特許6427026-電子写真感光体、その製造方法、プロセスカートリッジ、及び電子写真装置 図000048
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427026
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、その製造方法、プロセスカートリッジ、及び電子写真装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/05 20060101AFI20181112BHJP
   G03G 5/06 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   G03G5/05 101
   G03G5/06 312
   G03G5/06 321
   G03G5/06 313
   G03G5/06 314B
   G03G5/05 102
【請求項の数】11
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-26689(P2015-26689)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2015-194718(P2015-194718A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2018年1月16日
(31)【優先権主張番号】特願2014-64088(P2014-64088)
(32)【優先日】2014年3月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】丸山 晃洋
(72)【発明者】
【氏名】大垣 晴信
(72)【発明者】
【氏名】山本 友紀
【審査官】 福田 由紀
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/008095(WO,A1)
【文献】 特開2013−011844(JP,A)
【文献】 特開2012−208268(JP,A)
【文献】 特開2007−108479(JP,A)
【文献】 特開平06−295075(JP,A)
【文献】 特開平06−019167(JP,A)
【文献】 特開昭49−130499(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/05−5/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層ならびに該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、マトリックスとドメインを有するマトリックス−ドメイン構造を有し、
該ドメインは、下記式(A−1)もしくは下記式(A−2)で示される構造単位、及び下記式(B)で示される構造単位を有する樹脂Aを含有し、
該マトリックスは、
下記式(D)で示される構造単位、及び下記式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dと、
電荷輸送物質と
を含有し、
該樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、かつ該樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が25質量%以上95質量%以下であり、
該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(D)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつ該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(E)で示される構造単位の含有量が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体。
【化1】
(式(A−1)中、m11は、0又は1の整数を示す。m11が1のとき、X11は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z11、及びZ12は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R11〜R14は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n11は、括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−1)におけるn11の平均値は10以上150以下である。)
【化2】
(式(A−2)中、m21は、0又は1の整数を示す。m21が1のとき、X21は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z21〜Z23は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R16〜R27は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n21、n22、n23は、それぞれ独立に括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−2)におけるn21の平均値、及びn22の平均値は、1以上10以下であり、n23の平均値は、10以上200以下である。)
【化3】
(式(B)中、m22は、0又は1の整数を示す。m22が1のとき、X22は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。)
【化4】
(式(D)中、Y41は、酸素原子、又は硫黄原子を示す。R41〜R44は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【化5】
(式(E)中、Y51は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、フェニルエチリデン基を示し、R51〜R58は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【請求項2】
前記樹脂Aが末端に下記式(A−E)に示すシロキサン構造を有する請求項1に記載の電子写真感光体。
【化6】
(式(A−E)中のn51は、括弧内の構造の繰り返し数を示し、式(A−E)におけるn51の平均値は10以上60以下である。)
【請求項3】
前記樹脂Aが、さらに、下記式(C)で示される構造単位を有し、
前記樹脂Aの全質量に対する前記式(A−1)もしくは前記式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、
前記樹脂Aの全質量に対する前記式(B)で示される構造単位の含有量が35質量%以上65質量%以下、かつ
前記樹脂Aの全質量に対する該式(C)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の電子写真感光体。
【化7】
(式(C)中、m31は、0又は1の整数を示す。m31が1のとき、X31は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Y31は、酸素原子、又は硫黄原子を示し、R31〜R38は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【請求項4】
前記樹脂Aが、さらに、下記式(F)で示される構造単位を有し、
前記樹脂Aの全質量に対する前記式(A−1)もしくは前記式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、
前記樹脂Aの全質量に対する前記式(B)で示される構造単位の含有量が35質量%以上65質量%以下、
前記樹脂Aの全質量に対する前記式(C)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつ
前記樹脂Aの全質量に対する該式(F)で示される構造単位の含有量が30質量%以下であることを特徴とする請求項に記載の電子写真感光体。
【化8】
(式(F)中、m61は、0又は1の整数を示す。m61が1のとき、X61は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Y61は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、又はフェニルエチリデン基を示し、R61〜R68は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【請求項5】
前記樹脂Aの含有量が、前記電荷輸送層中の全樹脂の全質量に対して5質量%以上50質量%以下であることを特徴とする請求項1〜のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項6】
前記ドメインの数平均粒径が10nm以上1000nm以下である請求項1〜5のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項7】
前記電荷輸送物質が、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、ブタジエン化合物、及びエナミン化合物からなる群より選択される少なくとも1つである請求項1〜6のいずれか1項に記載の電子写真感光体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であることを特徴とするプロセスカートリッジ。
【請求項9】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段及び転写手段を有することを特徴とする電子写真装置。
【請求項10】
支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層ならびに該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体を製造する方法であって、
該製造方法が、
下記式(A−1)もしくは下記式(A−2)で示される構造単位、及び下記式(B)で示される構造単位を有する樹脂Aと、
下記式(D)で示される構造単位、及び下記式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dと、
電荷輸送物質と
を含有する電荷輸送層用塗布液を調製する工程、及び
該電荷輸送層用塗布液の塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて該電荷輸送層を形成する工程を有し、
該樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、かつ該樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が25質量%以上95質量%以下であり、
該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(D)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつ該ポリカーボネート樹脂Dの式(E)で示される構造単位の含有量が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法。
【化9】
(式(A−1)中、m11は、0又は1の整数を示す。m11が1のとき、X11は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z11、及びZ12は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R11〜R14は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n11は、括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−1)におけるn11の平均値は10以上150以下である。)
【化10】
(式(A−2)中、m21は、0又は1の整数を示す。m21が1のとき、X21は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z21〜Z23は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R16〜R27は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n21、n22、n23は、それぞれ独立に括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−2)におけるn21の平均値、及びn22の平均値は、1以上10以下であり、n23の平均値は、10以上200以下である。)
【化11】
(式(B)中、m22は、0又は1の整数を示す。m22が1のとき、X22は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。)
【化12】
(式(D)中、Y41は、酸素原子、又は硫黄原子を示す。R41〜R44は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【化13】
(式(E)中、Y51は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、フェニルエチリデン基を示し、R51〜R58は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【請求項11】
前記樹脂Aが末端に下記式(A−E)に示すシロキサン構造を有する請求項10に記載の電子写真感光体。
【化14】
(式(A−E)中のn51は、括弧内の構造の繰り返し数を示し、式(A−E)におけるn51の平均値は10以上60以下である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、その製造方法、ならびに電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電子写真装置に搭載される電子写真感光体としては、有機光導電性物質(電荷発生物質ともいう)を含有する電子写真感光体の開発が盛んに行われている。電子写真感光体は、一般的に、支持体、支持体上に電荷発生物質を含有する感光層を有する。また、感光層については、支持体側から電荷発生層、電荷輸送層の順に積層してなる積層型(順層型)のものが一般的である。
【0003】
電子写真プロセスにおいて、電子写真感光体の表面には、現像剤、帯電部材、クリーニングブレード、紙、転写部材のような種々のもの(以下「接触部材」ともいう)が接触する。そのため、電子写真感光体に要求される特性には、これら接触部材等との接触ストレスによる画像劣化の低減が挙げられる。特に、近年、電子写真感光体の耐久性が向上するのに伴い、上記接触ストレスによる画像劣化の低減効果の持続性や、繰り返し使用時における電位変動の抑制について、さらなる改善が望まれている。
【0004】
接触ストレスの持続的な緩和と電子写真感光体の繰り返し使用時の電位変動の抑制に関して、特許文献1〜3には、シロキサン構造を分子鎖中に組み込んだシロキサン樹脂を用いて表面層中にマトリックス−ドメイン構造を形成する方法が提案されている。その中で特定のシロキサン構造を組み込んだポリエステル樹脂を用いることにより、接触ストレスの持続的な緩和と電子写真感光体の繰り返し使用時の電位変動の抑制とを両立させることが示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開WO2010/008095号公報
【特許文献2】特許第4975181号公報
【特許文献3】特許第5089815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1〜3で開示されている電子写真感光体は、持続的接触ストレスの緩和と繰り返し使用時の電位変動の抑制の両立が達成できているが、電子写真装置の高速化や印刷枚数の向上を図るためには、さらなる改善が望まれている。本発明者らが検討を進めた結果、マトリックス−ドメイン構造を形成する際に特定のポリカーボネート樹脂を含有することで、さらに改善できることがわかった。
【0007】
本発明の目的は、電子写真感光体において、持続的接触ストレスの緩和と感光体の繰り返し使用時の電位変動の抑制とを両立する電子写真感光体、および、その製造方法を提供することにある。また、本発明の他の目的は、電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層ならびに該電荷発生層上に設けられた電荷輸送物質及び樹脂を含有する電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体において、
該電荷輸送層が、マトリックスとドメインを有するマトリックス−ドメイン構造を有し、
該ドメインは、下記式(A−1)もしくは下記式(A−2)で示される構造単位、及び下記式(B)で示される構造単位を有する樹脂Aを含有し、
該マトリックスは、
下記式(D)で示される構造単位、及び下記式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dと、
電荷輸送物質と
を含有し、
該樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、かつ該樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が25質量%以上95質量%以下であり、
該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(D)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつ該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(E)で示される構造単位の含有量が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体に関する。
【0009】
【化1】
(式(A−1)中、m11は、0又は1の整数を示す。m11が1のとき、X11は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z11、及びZ12は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R11〜R14は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n11は、括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−1)におけるn11の平均値は10以上150以下である。)
【0010】
【化2】
(式(A−2)中、m21は、0又は1の整数を示す。m21が1のとき、X21は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。Z21〜Z23は、それぞれ独立に炭素数1から4のアルキレン基を示す。R16〜R27は、それぞれ独立に、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。n21、n22、n23は、それぞれ独立に括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−2)におけるn21の平均値、及びn22の平均値は、1以上10以下であり、n23の平均値は、10以上200以下である。)
【0011】
【化3】
(式(B)中、m22は、0又は1の整数を示す。m22が1のとき、X22は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。)
【0012】
【化4】
(式(D)中、Y41は、酸素原子、又は硫黄原子を示す。R41〜R44は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【0013】
【化5】
(式(E)中、Y51は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、又はフェニルエチリデン基を示し、R51〜R58は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。)
【0014】
また、本発明は、上記電子写真感光体と、帯電手段、現像手段、転写手段及びクリーニング手段からなる群より選択される少なくとも1つの手段とを一体に支持し、電子写真装置本体に着脱自在であるプロセスカートリッジに関する。
【0015】
また、本発明は、上記電子写真感光体と、帯電手段、露光手段、現像手段、及び転写手段を有する電子写真装置に関する。
また、本発明は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層ならびに該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有し、かつ、該電荷輸送層が表面層である電子写真感光体を製造する方法であって、
該製造方法が、
上記式(A−1)もしくは上記式(A−2)で示される構造単位、及び上記式(B)で示される構造単位を有する樹脂Aと、
上記式(D)で示される構造単位、及び上記式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dと、
電荷輸送物質と
を含有する電荷輸送層用塗布液を調製する工程、及び
該電荷輸送層用塗布液の塗膜を形成し、該塗膜を乾燥させて該電荷輸送層を形成する工程を有し、
該樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、かつ該樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が25質量%以上95質量%以下であり、
該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(D)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつ該ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(E)で示される構造単位の含有量が40質量%以上90質量%以下であることを特徴とする電子写真感光体の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接触ストレスの持続的な緩和と電子写真感光体の繰り返し使用時の電位変動の抑制とを両立する優れた電子写真感光体を提供することができる。また、上記電子写真感光体を有するプロセスカートリッジ及び電子写真装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す図である。
図2】電子写真感光体の層構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、電子写真感光体の電荷輸送層が、マトリックスとドメインで構成されるマトリックス−ドメイン構造を有する。
【0019】
前記ドメインは、樹脂Aを含有する。樹脂Aは、式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位、及び式(B)で示される構造単位を有する。
【0020】
前記マトリックスは、式(D)で示される構造単位、及び下記式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂D、及び電荷輸送物質を含有する。
【0021】
以下に、樹脂Aについて説明する。樹脂Aは、式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位と、式(B)で示される構造単位とを有する。
【0022】
【化6】
【0023】
式(A−1)中のm11は、0又は1の整数を示す。m11が1のとき、X11は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。接触ストレスの緩和の点で、m−フェニレン基、p−フェニレン基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基が好ましい。
【0024】
式(A−1)中のZ11、及びZ12は、それぞれ独立に、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基のような、炭素数1から4のアルキレン基を示す。接触ストレスの緩和の点で、プロピレン基であることが好ましい。
【0025】
式(A−1)中のR11〜R14は、それぞれ独立に、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基のような、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。接触ストレスの緩和の点で、メチル基であることが好ましい。
【0026】
式(A−1)中のn11は、括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−1)におけるn11の平均値は10以上150以下である。n11の平均値が10以上150以下であると、電荷輸送物質と樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Aを含有するドメインが均一に形成される。特に、n11の平均値は、40以上80以下であることが好ましい。
【0027】
以下に、式(A−1)で示される構造単位の例を表1に示す。
【表1】
【0028】
【化7】
【0029】
式(A−2)中のm21は、0又は1の整数を示す。m21が1のとき、X21は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。接触ストレスの緩和の点で、m−フェニレン基、p−フェニレン基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基が好ましい。
【0030】
式(A−2)中のZ21〜Z23は、それぞれ独立に、例えば、メチレン基、エチレン基、プロピレン基及びブチレン基のような、炭素数1から4のアルキレン基を示す。接触ストレスの緩和の点で、Z21、Z22は、プロピレン基、Z23は、エチレン基が好ましい。
【0031】
式(A−2)中のR16〜R27は、それぞれ独立に、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基及びブチル基のような、炭素数1から4のアルキル基、又はフェニル基を示す。接触ストレスの緩和の点で、R16〜R27は、メチル基を用いるのが好ましい。
【0032】
式(A−2)中のn21、n22、及びn23は、それぞれ独立に括弧内の構造の繰返し数を示し、式(A−2)におけるn21、及びn22の平均値は、1以上10以下であり、n23の平均値は10以上200以下である。n21、及びn22の平均値が、1以上10以下であり、n23の平均値が10以上200以下であれば、電荷輸送物質とポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Aを含有するドメインが均一に形成される。n21の平均値、及びn22の平均値は、1以上5以下であるのが好ましく、また、n23の平均値は40以上120以下が好ましい。以下に、式(A−2)で示される構造単位の例を表2に示す。
【0033】
【表2】
【0034】
式(A−1)及び式(A−2)で示される構造単位に関し、中でも、式(A−1−2)、(A−1−3)、(A−1−4)、(A−1−5)、(A−1−6)、(A−1−7)、(A−1−20)、(A−1−21)、(A−2−2)、(A−2−3)、(A−2−4)、(A−2−5)、(A−2−6)、(A−2−7)、(A−2−20)、又は(A−2−21)で示される構造単位であることが好ましい。
【0035】
【化8】
式(B)中のm22は、0又は1の整数を示す。m22が1のとき、X22は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。以下に、式(B)で示される構造単位の例を示す。
【化9】
【0036】
中でも、式(B−2)、(B−3)、(B−4)、又は(B−6)で示される構造単位であることが好ましい。
【0037】
また、樹脂Aは、さらに、下記式(C)で示される構造単位を有することも可能である。
【化10】
【0038】
式(C)中のm31は、0又は1の整数を示す。m31が1のとき、X31は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。
【0039】
式(C)中のY31は、酸素原子、又は硫黄原子を示し、R31〜R38は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。以下に、式(C)で示される構造単位の例を表3に示す。
【0040】
【表3】
【0041】
中でも、式(C−2)、(C−3)、(C−4)、(C−21)又は(C−22)で示される構造単位であることが好ましい。
【0042】
樹脂Aは、さらに、式(C)で示される構造単位、および下記式(F)で示される構造単位を有することも可能である。
【化11】
【0043】
式(F)中のm61は、0又は1の整数を示す。m61が1のとき、X61は、o−フェニレン基、m−フェニレン基、p−フェニレン基、2つのp−フェニレン基がメチレン基を介して結合した2価の基、又は2つのp−フェニレン基が酸素原子を介して結合した2価の基を示す。
【0044】
式(F)中のY61は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、又はフェニルエチリデン基を示し、R61〜R68は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。以下に、式(F)で示される構造単位の例を表4示す。
【0045】
【表4】
【0046】
中でも、式(F−19)、(F−23)、(F−24)、(F−25)、(F−26)、(F−27)又は(F−28)で示される構造単位であることが好ましい。
【0047】
次に式(D)で示される構造単位、及び式(E)で示される構造単位を有するポリカーボネート樹脂Dについて説明する。
【化12】
【0048】
式(D)中のY41は、酸素原子、もしくは硫黄原子を示す。R41〜R44は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。
【0049】
以下に、式(D)で示される構造単位の例を示す。
【化13】
【0050】
中でも、式(D−1)、(D−2)、又は(D−3)で示される構造単位であることが好ましい。
【0051】
【化14】
【0052】
式(E)中のY51は、単結合、メチレン基、エチリデン基、プロピリデン基、シクロヘキシリデン基、フェニルメチレン基、又はフェニルエチリデン基を示す。
【0053】
式(E)中のR51〜R58は、それぞれ独立に、水素原子、又はメチル基を示す。
【0054】
以下に、式(E)で示される構造単位の例を示す。
【化15】
【0055】
中でも、式(E−4)、(E−5)、(E−6)、(E−7)、(E−8)、(E−10)、(E−11)、又は(E−12)で示される構造単位であることが好ましい。
【0056】
電荷輸送層は、電荷輸送物質及びポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックスと、マトリックス中に樹脂Aを含有するドメインとを有するマトリックス−ドメイン構造を有している。本発明におけるマトリックス−ドメイン構造は、電荷輸送層の表面観察あるいは電荷輸送層の断面観察をおこなうことにより確認することができる。
【0057】
マトリックス−ドメイン構造の状態観察あるいはドメインの計測は、たとえば、市販のレーザー顕微鏡、光学顕微鏡、電子顕微鏡、原子力間顕微鏡を用いて測定可能である。上記顕微鏡を用いて、所定の倍率により、マトリックス−ドメイン構造の状態観察あるいはドメイン構造の計測することができる。
【0058】
また、樹脂Aは、末端に下記式(A−E)に示すシロキサン構造を有しても良い。
【化16】
【0059】
式(A−E)中のn51は、括弧内の構造の繰り返し数を示し、式(A−E)におけるn51の平均値は、10以上60以下である。
各ドメインの粒径の粒度分布が狭くなることが塗膜及びストレス緩和の効果の均一性の観点から好ましい。数平均粒径は、電荷輸送層を垂直に切断した断面の顕微鏡観察により観測されるドメインのうち任意に100個選択する。選択されたそれぞれのドメインの最大径を測定し、それぞれのドメインの最大径を平均化することにより、ドメインの数平均粒径を算出している。なお、電荷輸送層の断面を顕微鏡で観察することにより、深さ方向の画像情報が得られ、電荷輸送層の三次元画像を取得することも可能である。ドメインの数平均粒径は、10nm以上1000nm以下であることが好ましい。
【0060】
電荷輸送層のマトリックス−ドメイン構造は、電荷輸送物質、樹脂A、ならびに、ポリカーボネート樹脂Dを含有する電荷輸送層用塗布液の塗膜を用いて電荷輸送層を形成することができる。
【0061】
上記マトリックス−ドメイン構造が電荷輸送層中に均一に形成することにより、接触ストレスの持続的な緩和がより効果的に発揮される。また、ポリカーボネート樹脂Dを含有させることによって、ドメインを形成しやすくなっていると考えられる。これは、式(D)で示される構造単位を有することによって、樹脂Aとポリカーボネート樹脂Dとの相溶性が向上され、電荷輸送層用塗布液では液安定性を維持し、塗膜形成時にマトリックス−ドメイン構造を形成しやすくなっているものと考えられる。
【0062】
相溶性の改善によって、電荷輸送層と電荷発生層との界面にシロキサン構造を有する樹脂Aが局在化することが抑制され、電子写真感光体の繰り返し使用時の電位変動を抑制することができると考えられる。また、マトリックス−ドメイン構造を形成することによって、樹脂Aが塗膜内に均一に存在することになるため、接触ストレスの持続的な緩和効果が発揮されると考えられる。
【0063】
また、本発明において、樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下、かつ樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が25質量%以上95質量%以下である。
【0064】
また、ポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(D)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下、かつポリカーボネート樹脂Dの全質量に対する式(E)で示される構造単位の含有量が40質量%以上90質量%以下である。
【0065】
これら構造単位の含有量が上記の範囲内であると、電荷輸送物質及びポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に均一にドメインが形成される。これにより、接触ストレスの持続的な緩和が効果的に発揮される。また、樹脂Aが電荷発生層と電荷輸送層との界面に局在化することが抑制され、電位変動が抑制される。
【0066】
さらに、マトリックス中に均一にドメインを形成させる観点から、樹脂Aの含有量は、電荷輸送層中の全樹脂に対して5質量%以上50質量%以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量%以上40質量%以下である。
【0067】
樹脂Aが、式(C)で示される構造単位を含有する場合、それぞれの構造単位の含有量は以下のようであることが好ましい。すなわち、樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下である。樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が35質量%以上65質量%以下である。そして、樹脂Aの全質量に対する式(C)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下である。
【0068】
また、樹脂Aが、式(F)で示される構造単位を含有することも可能である。
【0069】
樹脂Aが、式(C)で示される構造単位、および式(F)で示される構造単位を有する場合、それぞれの構造単位の含有量は以下のようであることが好ましい。すなわち、樹脂Aの全質量に対する式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位の含有量が5質量%以上25質量%以下である。樹脂Aの全質量に対する式(B)で示される構造単位の含有量が35質量%以上65質量%以下である。樹脂Aの全質量に対する式(C)で示される構造単位の含有量が10質量%以上60質量%以下である。そして、式(F)で示される構造単位の含有量が30質量%以下である。より好ましくは、式(F)で示される構造単位の含有量が1質量%以上30質量%以下である。
【0070】
樹脂Aにおいて、式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位、及び式(B)で示される構造単位の共重合体であるが、その共重合形態は、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などのいずれの形態であってもよい。
【0071】
樹脂Aの重量平均分子量は、電荷輸送物質及びポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中でドメイン構造を形成する点で、30,000以上200,000以下であることが好ましい。さらには、40,000以上150,000以下であることがより好ましい。
【0072】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂Dは、式(D)で示される構造単位、及び式(E)で示される構造単位の共重合体であるが、その共重合形態は、ブロック共重合、ランダム共重合、交互共重合などのいずれの形態であってもよい。
【0073】
本発明に用いられるポリカーボネート樹脂Dの重量平均分子量は、電荷輸送物質及びポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中で樹脂Aを含有するドメイン構造を形成する点で、30,000以上250,000以下であることが好ましい。さらには、40,000以上200,000以下であることがより好ましい。
【0074】
本発明において、樹脂の重量平均分子量とは、常法に従い、具体的には特開2007−79555に記載の方法により測定されたポリスチレン換算の重量平均分子量である。
【0075】
本発明に用いられる樹脂A、及びポリカーボネート樹脂Dの共重合比は、一般的な手法である樹脂のH−NMR測定による水素原子(樹脂を構成している水素原子)のピーク面積比による換算法によって確認することができる。
【0076】
本発明に用いられる樹脂A、及びポリカーボネート樹脂Dは、たとえば、従来からのホスゲン法で合成することが可能である。また、エステル交換法によって合成することも可能である。
【0077】
以下に、本発明に用いられる樹脂Aの合成例を示す。
樹脂Aは、特開2007−199688号公報に記載の合成方法を用いて合成することが可能である。本発明においても同様の合成方法を用い、式(A−1)もしくは(A−2)で示される構造単位、及び式(B)で示される構造単位に応じた原材料を用いて表5の合成例に示す樹脂Aを合成した。合成した樹脂Aの構成及び重量平均分子量を表5に示す。また、比較合成例として樹脂Hを合成し、同様に表6に示す。
【0078】
【表5】
【0079】
【表6】
【0080】
表5、6中の「式(A−1)もしくは(A−2)」は、式(A−1)もしくは(A−2)で示される構造単位を意味する。式(A−1)もしくは(A−2)で示される構造単位を混合して用いた場合は、構造単位の種類とモル混合比を示す。「式(B)」は、式(B)で示される構造単位を意味する。式(B)で示される構造単位を混合して用いた場合は、構造単位の種類とモル混合比を示す。「式(C)」は、樹脂A、又は樹脂Hに含有される式(C)で示される構造単位を意味する。表5、6中の「式(F)」は、樹脂A、又は樹脂Hに含有される式(F)で示される構造単位を意味する。「式(A−E)中のn51の平均値」は、樹脂A、又は樹脂Hに含有される式(A−E)で示される構造単位の繰返し数の平均値を意味する。「式(A−1)もしくは(A−2)の含有量(質量%)」は、樹脂A、又は樹脂H中の式(A−1)もしくは(A−2)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「式(B)の含有量(質量%)」、樹脂A、又は樹脂H中の式(B)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「式(C)の含有量(質量%)」は、樹脂A、又は樹脂H中の式(C)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「式(F)の含有量(質量%)」は、樹脂A、又は樹脂H中の式(F)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「式(A−E)の含有量(質量%)」は、樹脂A、又は樹脂H中の式(A−E)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「Mw」は、樹脂A、又は樹脂Hの重量平均分子量を意味する。
【0081】
以下に、ポリカーボネート樹脂D及びIの合成例を示す。
ポリカーボネート樹脂D及びIは、たとえば、従来からのホスゲン法で合成することが可能である。また、エステル交換法によって合成することも可能である。
【0082】
【表7】
【0083】
【表8】
【0084】
表7、8中の「式(D)」は、式(D)で示される構造単位を意味する。「式(E)」は、式(E)で示される構造単位を意味する。式(E)で示される構造単位を混合して用いた場合は、構造単位の種類と質量混合比を示す。「式(D)の含有量(質量%)」は、ポリカーボネート樹脂D、又はポリカーボネート樹脂Iに含有される式(D)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「式(E)の含有量(質量%)」は、ポリカーボネート樹脂D、又はポリカーボネート樹脂I中の式(E)で示される構造単位の含有量(質量%)を意味する。「Mw」は、ポリカーボネート樹脂D、又はポリカーボネート樹脂Iの重量平均分子量を意味する。
【0085】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、樹脂Aと、ポリカーボネート樹脂Dを含有するが、さらに他の樹脂を混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂としては、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂などが挙げられる。
【0086】
また、ポリカーボネート樹脂Dは、式(A−1)もしくは式(A−2)で示される構造単位を有さないことが、上記マトリックス−ドメイン構造の均一な形成の視点から好ましい。
【0087】
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有する。電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、ブタジエン化合物、及びエナミン化合物が挙げられる。これらの電荷輸送物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、電荷輸送物質としてトリアリールアミン化合物を用いることが電子写真特性の向上の点で好ましい。
【0088】
次に、本発明の電子写真感光体の構成について説明する。
上記のとおり、本発明の電子写真感光体は、支持体、該支持体上に設けられた電荷発生層、及び該電荷発生層上に設けられた電荷輸送層を有する電子写真感光体である。電荷輸送層が電子写真感光体の表面層(最上層)である電子写真感光体であることが好ましい。図2に電子写真感光体の模式図を示す。図2(a)では、支持体101上に、電荷発生層102が設けられ、電荷発生層102上に電荷輸送層103が形成されている。図2(b)では、支持体101上に、下引き層105が設けられ、下引き層105上に電荷発生層102が形成されている。電荷発生層上に電荷輸送層103が設けられる。
【0089】
また、本発明の電子写真感光体の電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有する。また、電荷輸送層は、樹脂A、及びポリカーボネート樹脂Dを含有する。
また、電荷輸送層を積層構造としてもよく、その場合は、少なくとも最も表面側の電荷輸送層に上記マトリックス−ドメイン構造を有させる。
【0090】
電子写真感光体は、一般的には、円筒状支持体上に感光層を形成してなる円筒状の電子写真感光体が広く用いられるが、ベルト状、シート状などの形状とすることも可能である。
【0091】
支持体としては、導電性を有するもの(導電性支持体)が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレスのような金属製の支持体を用いることができる。
アルミニウム又はアルミニウム合金製の支持体の場合は、ED管、EI管や、これらを切削、電解複合研磨(電解作用を有する電極と電解質溶液による電解及び研磨作用を有する砥石による研磨)、湿式又は乾式ホーニング処理したものを用いることもできる。
【0092】
また、アルミニウム、アルミニウム合金又は酸化インジウム−酸化スズ合金を真空蒸着によって被膜形成された層を有する金属製支持体や樹脂製支持体を用いることもできる。また、カーボンブラック、酸化スズ粒子、酸化チタン粒子、銀粒子のような導電性粒子を樹脂などに含浸した支持体や、導電性樹脂を有するプラスチックを用いることもできる。支持体の表面は、切削処理、粗面化処理、アルマイト処理などを施してもよい。
【0093】
支持体と、後述の下引き層又は電荷発生層との間には、干渉縞の抑制や、支持体の傷の被覆を目的とした導電層を設けてもよい。これは、導電性粒子を樹脂に分散させた導電層用塗布液を用いて形成される層である。
【0094】
導電性粒子としては、たとえば、カーボンブラック、アセチレンブラックや、アルミニウム、ニッケル、鉄、ニクロム、銅、亜鉛、銀のような金属粉や、導電性酸化スズ、ITOのような金属酸化物粉体が挙げられる。
【0095】
また、樹脂としては、例えば、ポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリビニルブチラール、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、フェノール樹脂及びアルキッド樹脂が挙げられる。
【0096】
導電層用塗布液の溶剤としては、例えば、エーテル系溶剤、アルコール系溶剤、ケトン系溶剤及び芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。導電層の膜厚は、0.2μm以上40μm以下であることが好ましく、1μm以上35μm以下であることがより好ましく、さらには5μm以上30μm以下であることがより好ましい。
【0097】
支持体又は導電層と、電荷発生層との間には、下引き層を設けてもよい。下引き層は、樹脂を含有する下引き層用塗布液を導電層上に塗布し、これを乾燥又は硬化させることによって形成することができる。
【0098】
下引き層の樹脂としては、例えば、ポリアクリル酸類、メチルセルロース、エチルセルロース、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド酸樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂などが挙げられる。
【0099】
下引き層の膜厚は、0.05μm以上7μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。また、下引き層には、半導電性粒子、電子輸送物質、あるいは電子受容性物質を含有させてもよい。
【0100】
支持体、導電層又は下引き層上には、電荷発生層が設けられる。
本発明の電子写真感光体に用いられる電荷発生物質としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、インジゴ顔料及びペリレン顔料が挙げられる。これら電荷発生物質は1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。これらの中でも、特にオキシチタニウムフタロシアニン、ヒドロキシガリウムフタロシアニン、クロロガリウムフタロシアニンのような金属フタロシアニンは、高感度であるため好ましい。
電荷発生層に用いられる樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ブチラール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、アクリル樹脂、酢酸ビニル樹脂及び尿素樹脂が挙げられる。これらの中でも、特には、ブチラール樹脂が好ましい。これらは単独、混合又は共重合体として1種又は2種以上用いることができる。
【0101】
電荷発生層は、電荷発生物質を樹脂及び溶剤とともに分散して得られる電荷発生層用塗布液を塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。また、電荷発生層は、電荷発生物質の蒸着膜としてもよい。
分散方法としては、たとえば、ホモジナイザー、超音波、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミルを用いた方法が挙げられる。
電荷発生物質と樹脂との割合は、1:10〜10:1(質量比)の範囲が好ましく、特には1:1〜3:1(質量比)の範囲がより好ましい。
電荷発生層用塗布液に用いられる溶剤は、使用する樹脂や電荷発生物質の溶解性や分散安定性から選択される。有機溶剤としては、例えば、アルコール系溶剤、スルホキシド系溶剤、ケトン系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤又は芳香族炭化水素溶剤などが挙げられる。電荷発生層の膜厚は、5μm以下であることが好ましく、0.1μm以上2μm以下であることがより好ましい。
【0102】
また、電荷発生層には、種々の増感剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。また、電荷発生層において電荷の流れが滞らないようにするために、電荷発生層には、電子輸送物質、又は電子受容性物質を含有させてもよい。
【0103】
電荷発生層上には、電荷輸送層が設けられる。
本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、電荷輸送物質を含有する。含有される電荷輸送物質としては、例えば、トリアリールアミン化合物、ヒドラゾン化合物、ブタジエン化合物、及びエナミン化合物が挙げられる。これらの中でも、電荷輸送物質としてトリアリールアミン化合物を用いることが電子写真特性の向上の点で好ましい。
【0104】
以下に、電荷輸送物質の例を示す。
【化17】
【0105】
電子写真感光体の表面層である電荷輸送層は、樹脂Aを含有し、かつ、ポリカーボネート樹脂Dを含有するが、上述のとおり、他の樹脂をさらに混合して用いてもよい。混合して用いてもよい他の樹脂は、上述のとおりである。
電荷輸送層は、電荷輸送物質及び上記各樹脂を溶剤に溶解させることによって得られる電荷輸送層用塗布液を電荷発生層の上へ塗布し、これを乾燥させることによって形成することができる。
電荷輸送物質と樹脂との割合は、4:10〜20:10(質量比)の範囲が好ましく、5:10〜12:10(質量比)の範囲がより好ましい。
電荷輸送層用塗布液に用いられる溶剤としては、例えば、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤及び芳香族炭化水素溶剤が挙げられる。これら溶剤は、単独で使用してもよいが、2種類以上を混合して使用してもよい。これらの溶剤の中でも、エーテル系溶剤又は芳香族炭化水素溶剤を使用することが、樹脂溶解性の観点から好ましい。
電荷輸送層の膜厚は、5μm以上50μm以下であることが好ましく、10μm以上35μm以下であることがより好ましい。
また、電荷輸送層には、酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤などを必要に応じて添加することもできる。
【0106】
本発明の電子写真感光体の各層には、各種添加剤を添加することができる。添加剤としては、例えば、酸化防止剤、紫外線吸収剤、耐光安定剤のような劣化防止剤や、有機微粒子、無機微粒子などの微粒子が挙げられる。劣化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、ヒンダードアミン系耐光安定剤、硫黄原子含有酸化防止剤、リン原子含有酸化防止剤が挙げられる。有機微粒子としては、例えば、フッ素原子含有樹脂粒子、ポリスチレン微粒子、ポリエチレン樹脂粒子のような高分子樹脂粒子が挙げられる。無機微粒子としては、例えば、シリカ、アルミナのような金属酸化物が挙げられる。
【0107】
上記各層の塗布液を塗布する際には、浸漬塗布法(浸漬コーティング法)、スプレーコーティング法、スピンナーコーティング法、ローラーコーティング法、マイヤーバーコーティング法、ブレードコーティング法などの塗布方法を用いることができる。
【0108】
また、本発明の電子写真感光体の表面層である電荷輸送層の表面には、凹凸形状(凹形状、凸形状)を形成してもよい。凹凸形状の形成方法は、既知の方法を採用することができる。形成方法としては、以下の方法が挙げられる。電荷輸送層の表面に研磨粒子を吹き付けることにより凹形状を形成する方法がある。また、表面に凹凸形状を有するモールドを加圧接触させることにより凹凸形状を形成する方法がある。また、塗布された電荷輸送層用塗布液の塗膜表面を結露させた後これを乾燥させることにより凹形状を形成する方法がある。また、表面にレーザー光を照射し凹形状を形成する方法が挙げられる。これらの中でも、電子写真感光体の表面層の表面に凹凸形状を有するモールドを加圧接触させることにより凹凸形状を形成する方法が好ましい。また、塗布された電荷輸送層用塗布液の塗膜表面を結露させた後、乾燥させることにより凹形状を形成する方法が好ましい。
【0109】
図1に、本発明の電子写真感光体を有するプロセスカートリッジを備えた電子写真装置の概略構成の一例を示す。
図1において、1は円筒状の電子写真感光体であり、軸2を中心に矢印方向に所定の周速度で回転駆動される。回転駆動される電子写真感光体1の表面は、帯電手段3(一次帯電手段:帯電ローラーなど)により、正又は負の所定電位に均一に帯電される。次いで、スリット露光やレーザービーム走査露光などの露光手段(不図示)から出力される露光光4(画像露光光)を受ける。こうして電子写真感光体1の表面に、目的の画像に対応した静電潜像が順次形成されていく。
【0110】
電子写真感光体1の表面に形成された静電潜像は、現像手段5の現像剤に含まれるトナーにより現像されてトナー像となる。次いで、電子写真感光体1の表面に形成担持されているトナー像が、転写手段6(転写ローラーなど)からの転写バイアスによって、転写材P(紙など)に順次転写されていく。なお、転写材Pは、転写材供給手段(不図示)から電子写真感光体1と転写手段6との間(当接部)に電子写真感光体1の回転と同期して取り出されて給送される。
【0111】
トナー像の転写を受けた転写材Pは、電子写真感光体1の表面から分離されて定着手段8へ導入されて像定着を受けることにより画像形成物(プリント、コピー)として装置外へプリントアウトされる。
【0112】
トナー像転写後の電子写真感光体1の表面は、クリーニング手段7(クリーニングブレードなど)によって転写残りの現像剤(トナー)の除去を受けて清浄面化される。次いで、前露光手段(不図示)からの前露光光(不図示)により除電処理された後、繰り返し画像形成に使用される。なお、図1に示すように、帯電手段3が帯電ローラーなどを用いた接触帯電手段である場合は、前露光は必ずしも必要ではない。
【0113】
上記の電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5、転写手段6及びクリーニング手段7などの構成要素のうち、複数のものとを容器に納めてプロセスカートリッジとして一体に結合して構成してもよい。さらに、このプロセスカートリッジを複写機やレーザービームプリンターなどの電子写真装置本体に対して着脱自在に構成してもよい。図1では、電子写真感光体1と、帯電手段3、現像手段5及びクリーニング手段7とを一体に支持してカートリッジ化して、電子写真装置本体のレールなどの案内手段10を用いて電子写真装置本体に着脱自在なプロセスカートリッジ9としている。
【実施例】
【0114】
以下に、具体的な実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例中の「部」は「質量部」を意味する。
【0115】
〔実施例1〕
直径24mm、長さ257mmのアルミニウムシリンダーを支持体とした。
次に、SnOコート処理硫酸バリウム(導電性粒子)10部、酸化チタン(抵抗調節用顔料)2部、フェノール樹脂6部、シリコーンオイル(レベリング剤)0.001部及びメタノール4部/メトキシプロパノール16部の混合溶剤を用いて導電層用塗布液を調製した。
この導電層用塗布液を支持体上に浸漬塗布し、これを30分間140℃で硬化(熱硬化)させることによって、膜厚が15μmの導電層を形成した。
【0116】
次に、N−メトキシメチル化ナイロン3部及び共重合ナイロン3部をメタノール65部/n−ブタノール30部の混合溶剤に溶解させることによって、下引き層用塗布液を調製した。
この下引き層用塗布液を導電層上に浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.7μmの下引き層を形成した。
【0117】
次に、CuKα特性X線回折におけるブラッグ角2θ±0.2°の7.5°、9.9°、16.3°、18.6°、25.1°及び28.3°にピークを有する結晶形のヒドロキシガリウムフタロシアニン(電荷発生物質)を用意した。このヒドロキシガリウムフタロシアニン10部を、シクロヘキサノン250部にポリビニルブチラール樹脂(商品名:エスレックBX−1.積水化学工業(株)製)5部を溶解させた液に加えた。これを、直径1mmのガラスビーズを用いたサンドミル装置で23±3℃雰囲気下1時間分散した。分散後、酢酸エチル250部を加えることによって、電荷発生層用塗布液を調製した。
この電荷発生層用塗布液を下引き層上に浸漬塗布し、これを10分間100℃で乾燥させることによって、膜厚が0.26μmの電荷発生層を形成した。
【0118】
次に、式(G−1)で示される電荷輸送物質9部、式(G−3)で示される電荷輸送物質1部、合成例1で合成した樹脂A(1)3部、ポリカーボネート樹脂D(1)7部を、ジメトキシメタン30部及びオルトキシレン50部の混合溶剤に溶解させることによって、電荷輸送層用塗布液を調製した。
この電荷輸送層用塗布液を電荷発生層上に浸漬塗布し、これを1時間120℃で乾燥させることによって、膜厚が16μmの電荷輸送層を形成した。形成された電荷輸送層には電荷輸送物質とポリカーボネート樹脂Dを含むマトリックス中に樹脂A(1)を含むドメインが含有されていることが確認された。
【0119】
このようにして、電荷輸送層が表面層である電子写真感光体を製造した。電荷輸送層に含有される樹脂の構成を表9に示す。
【0120】
次に、評価について説明する。
評価は、7,000枚繰り返し使用時の明部電位の変動(電位変動)、初期及び7,000枚繰り返し使用時のトルクの相対値、及びトルク測定時の電子写真感光体の表面の観察について行った。
【0121】
(電位変動評価)
評価装置としては、ヒューレットパッカード社製レーザービームプリンターColorLaser JET CP4525dnを用いた。評価は、温度23℃、相対湿度50%環境下で行った。評価装置の780nmのレーザー光源の露光量(画像露光量)については、電子写真感光体の表面での光量が0.42μJ/cmとなるように設定した。電子写真感光体の表面電位(暗部電位及び明部電位)の測定は、電子写真感光体の端部から130mmの位置に電位測定用プローブが位置するように固定された冶具と現像器とを交換して、現像器位置で行った。電子写真感光体の非露光部の暗部電位が−500Vとなるように設定し、レーザー光を照射して暗部電位から光減衰させた明部電位を測定した。また、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を7,000枚行い、その前後での明部電位の変動量を評価した。テストチャートは、印字比率5%のものを用いた。結果を表12中の電位変動に示す。
【0122】
(トルクの相対値評価)
上記電位変動評価条件と同条件において、電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)を測定した。この評価は、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量を評価したものである。得られた電流値の大きさは、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の大きさを示す。
さらに、以下の方法でトルク相対値の対照となる電子写真感光体を作製した。実施例1の電子写真感光体の電荷輸送層の樹脂に用いた樹脂A(1)を用いず、ポリカーボネート樹脂D(1)を用いた以外は実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、これを対照用電子写真感光体とした。作製された対照用電子写真感光体を用いて、実施例1と同様に電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)を測定した。
このようにして得られた樹脂Aを用いた電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値A)と、樹脂Aを用いなかった電子写真感光体の回転モーターの駆動電流値(電流値B)との比を算出した。得られた(電流値A)/(電流値B)の数値を、トルクの相対値として比較した。このトルクの相対値の数値は、電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度を示し、トルクの相対値の数値が小さいほうが電子写真感光体とクリーニングブレードとの接触ストレス量の低減の程度が大きいことを示す。結果を、表12中の初期トルクの相対値に示す。
続いて、A4サイズの普通紙を用い、連続して画像出力を7,000枚行った。テストチャートは、印字比率5%のものを用いた。その後、7,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値測定を行った。7,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値は初期トルクの相対値と同様の評価で行った。この場合、対照用電子写真感光体に対しても7,000枚繰り返し使用を行い、そのときの回転モーターの駆動電流値を用いて7,000枚繰り返し使用後のトルクの相対値を算出した。結果を、表12中の7,000枚後トルクの相対値に示す。
【0123】
(マトリックス−ドメイン構造の評価)
上記の方法により作製された電子写真感光体に対して、電荷輸送層を垂直方向に切断した電荷輸送層の断面を超深度形状測定顕微鏡VK−9500((株)キーエンス社製)を用いて断面観察を行った。その際、対物レンズ倍率50倍とし、電子写真感光体の表面の100μm四方(10,000μm)を視野観察とし、視野内にあるランダムに選択された100個の形成されたドメイン部位の最大径の測定を行った。得られた最大径より平均値を算出し、数平均粒径とした。結果を表12に示す。
【0124】
〔実施例2〜107〕
実施例1において、電荷輸送層の樹脂A、ポリカーボネート樹脂D、樹脂Aとポリカーボネート樹脂Dの混合比、及び電荷輸送物質を表9、10に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造し、評価した。形成された電荷輸送層には電荷輸送物質ならびにポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Aを含有するドメイン構造が含有されていることが確認された。結果を表12、13に示す。
【0125】
〔実施例108〕
実施例1において、電荷輸送層用塗布液調製の際に使用した溶剤を、ジメトキシメタン30部、オルトキシレン50部及び安息香酸メチル6.4部の混合溶剤に変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を作製し、評価した。形成された電荷輸送層には電荷輸送物質ならびにポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Aを含有するドメイン構造が含有されていることが確認された。結果を表13に示す。
【0126】
〔比較例1〜8〕
実施例1において、樹脂A(1)を表11に示す樹脂Hに変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。実施例1と同様に評価を行った。比較例1〜8において、形成された電荷輸送層には電荷輸送物質ならびにポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Hを含有するドメイン構造が含有されていることが確認された。結果を表14に示す。
【0127】
〔比較例9〜11〕
実施例1において、樹脂A(1)、ポリカーボネート樹脂D(1)を、表11に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。比較例9〜11において、形成された電荷輸送層には電荷輸送物質ならびにポリカーボネート樹脂Dを含有するマトリックス中に樹脂Aを含有するドメイン構造が含有されていることが確認された。結果を表14に示す。
【0128】
〔比較例12〕
実施例1において、ポリカーボネート樹脂D(1)を用いず、表11に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層はポリカーボネート樹脂Dを含有しないためマトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。実施例1と同様に評価を行った。結果を表14に示す。
【0129】
〔比較例13〕
実施例1において、樹脂A(1)を用いず、表11に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして電子写真感光体を製造した。形成された電荷輸送層は樹脂Aを含有しないためマトリックス−ドメイン構造は確認されなかった。実施例1と同様に評価を行った。結果を表14に示す。
【0130】
【表9】
【0131】
【表10】
【0132】
表9、10中の「樹脂A/樹脂D混合比」は、樹脂Aとポリカーボネート樹脂Dの質量混合比を意味する。「CTM」は、電荷輸送物質を示し、上述の式(G−1)〜(G−5)で示される化合物を意味する。
【0133】
【表11】
【0134】
表11中の「樹脂H」は、表6における比較合成例中の樹脂H、又は式(A)で示される構造単位を有する樹脂を意味する。「ポリカーボネート樹脂D」は、式(D)で示される構造単位を有する樹脂、又は表8中における比較合成例中の樹脂Iを有すポリカーボネート樹脂Dを意味する。「樹脂H/樹脂D混合比」は、樹脂Hとポリカーボネート樹脂Dの質量混合比を意味する。「CTM」は、電荷輸送物質を示し、上述の式(G−1)〜(G−5)で示される化合物を意味する。
【0135】
【表12】
【0136】
【表13】
【0137】
【表14】
【0138】
実施例1〜108と比較例1〜13との比較により、実施例では、電荷輸送層に樹脂Aとポリカーボネート樹脂Dを含むことにより、電位変動の抑制と持続的接触ストレス緩和の効果が両立することを示している。このことは、本評価法の電位変動、ならびに初期及び7,000枚繰り返し使用後の評価においてトルク低減の効果があることにより示されている。
【0139】
実施例1〜108と比較例9〜11との比較により、本願のポリカーボネート樹脂Dに式(D)で示される構造単位を含むことにより、電位変動の抑制効果が得られていることが示されている。これは、均一なマトリックス−ドメイン構造が形成され、界面へのシロキサン樹脂の局在化を抑制していると考えられる。
【0140】
ポリカーボネート樹脂Dに式(D)で示される構造単位を含むことにより、本発明で特定の樹脂Aであれば、優れた電位変動の抑制効果、ならびに優れたトルク低減の効果が見られる。
【符号の説明】
【0141】
1 電子写真感光体
2 軸
3 帯電手段
4 露光光
5 現像手段
6 転写手段
7 クリーニング手段
8 定着手段
9 プロセスカートリッジ
10 案内手段
P 転写材
図1
図2