(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1次側変換回路であって、1次側正極母線と1次側負極母線の間に左アームと右アームを備え、前記左アーム及び前記右アームはそれぞれ直列接続された2つのスイッチングトランジスタからなり、前記左アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点と前記右アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点の間に第1の1次側トランスコイル及び第2の1次側トランスコイルが直列接続される1次側変換回路と、
2次側変換回路であって、2次側正極母線と2次側負極母線の間に左アームと右アームを備え、前記左アーム及び前記右アームはそれぞれ直列接続された2つのスイッチングトランジスタからなり、前記左アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点と前記右アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点の間に第1の2次側トランスコイル及び第2の2次側トランスコイルが直列接続される2次側変換回路と、
前記1次側変換回路及び前記2次側変換回路の前記スイッチングトランジスタのスイッチングを制御する制御回路と、
を備え、
前記第1の1次側トランスコイル及び前記第1の2次側トランスコイルは、中央の脚部、及び両端の脚部を備えるコアの前記両端の脚部のいずれかに巻回され、
前記第2の1次側トランスコイル及び前記第2の2次側トランスコイルは、前記コアの
前記両端の脚部のいずれか他方に巻回され、
前記コアの前記中央の脚部にはリアクトルコイルが巻回されず、
前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに同相電流が供給されることでリアクトル動作し、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに逆相電流が供給されることでトランス動作する
ことを特徴とする電力変換回路システム。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド自動車や電気自動車、燃料電池自動車等、電気リッチな自動車の開発・普及に伴い、車載の電源回路も複雑化・大型化の傾向にある。例えば、ハイブリッド自動車では、走行用バッテリ、システム用バッテリ、プラグイン用の外部電源回路、走行用バッテリの直流電力を走行用モータに供給するためのDC/DCコンバータ、走行用バッテリの直流電力を交流電力に変換するためのDC/ACコンバータ、走行用バッテリの直流電力を電動パワーステアリング(EPS)に供給するためのDC/DCコンバータ、走行用バッテリの直流電力を補機に供給するためのDC/DCコンバータ等があり、構成が複雑化している。
【0003】
そこで、一つの回路で複数の入出力を備えるマルチポート電源の開発が進められている。マルチポート電源により、配線や半導体素子等の共有化により電源回路を小型化することが提案されている。この際、トランスコイルとリアクトルコイルを互いに干渉しないようにコアに巻回することが有効である。
【0004】
特許文献1には、3つの脚部を有するコアに、トランスコイルとリアクトルコイルを互いに干渉しないような巻き方で配置する構成が記載されており、磁気素子間のデッドスペースや、ヒートシンクサイズを縮小できる。
【0005】
図11は、この文献に記載された磁気素子の横断面図を示す。3つの脚部を有するコア10の両端の脚部にトランスコイル12a、12b、14a、14bが配置され、中央の脚部に2つのリアクトルコイル16a、16bが配置される。トランスコイル12a、12bは一次側(低圧側)のトランスコイルであり、トランスコイル14a、14bは二次側(高圧側)のトランスコイルである。
【0006】
図12A及び
図12Bは、
図11の磁気素子をトランス動作させる場合の磁束変化と回路構成を示す。トランスコイル12a、12bが互いに逆相となるように電流を流すと、トランスコイル12a、12bによる磁束発生方向が両端で逆になるため中央の脚部の磁束変化は互いに打ち消される。従って、中央の脚部に配置されたリアクトルコイル16a、16bには磁束が通らず、起電力は生じない。
【0007】
他方、
図13A及び
図13Bは、
図11の磁気素子をリアクトル動作させる場合の磁束変化と回路構成を示す。トランスコイル12a、12bが互いに同相となるように電流を流すと、中央の脚部に配置されたリアクトルコイル16a、16bから発生した磁束はトランスコイル12a、12bに鎖交するが、発生する起電力がセンタータップを介した上下のトランスコイル12a、12bで互いに逆となるためコイル全体としては起電力がゼロとなり、トランスとして動作しない。以上の原理により、トランスコイルとリアクトルコイルが互いに干渉せずに動作する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術においては、トランスコイルとリアクトルコイルを3つの脚部を有するコアに配置することで磁気素子間のデッドスペースやヒートシンクサイズの縮小が可能であるが、さらなる部品点数の削減や巻線長の短縮が求められている。
【0010】
本発明の目的は、磁気素子間のデッドスペースやヒートシンクサイズの縮小に加え、さらなる部品点数の削減や巻線長の短縮が可能なトランスリアクトル一体型磁気素子及び電力変換回路システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明のトランスリアクトル一体型磁気素子は、中央の脚部、及び両端の脚部を備えるコアと、前記両端の脚部のいずれかに巻回される第1の1次側トランスコイル及び第1の2次側トランスコイルと、前記両端の脚部のいずれか他方に巻回される第2の1次側トランスコイル及び第2の2次側トランスコイルとを備え、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルは直列接続され、前記第1の2次側トランスコイル及び前記第2の2次側トランスコイルは直列接続され、前記コアの前記中央の脚部にはリアクトルコイルが巻回されず、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに同相電流が供給されることでリアクトル動作し、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに逆相電流が供給されることでトランス動作することを特徴とする。
【0012】
また、本発明の電力変換回路システムは、1次側変換回路であって、1次側正極母線と1次側負極母線の間に左アームと右アームを備え、前記左アーム及び前記右アームはそれぞれ直列接続された2つのスイッチングトランジスタからなり、前記左アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点と前記右アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点の間に第1の1次側トランスコイル及び第2の1次側トランスコイルが直列接続される1次側変換回路と、2次側変換回路であって、2次側正極母線と2次側負極母線の間に左アームと右アームを備え、前記左アーム及び前記右アームはそれぞれ直列接続された2つのスイッチングトランジスタからなり、前記左アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点と前記右アームの2つのスイッチングトランジスタの接続点の間に第1の2次側トランスコイル及び第2の2次側トランスコイルが直列接続される2次側変換回路と、前記1次側変換回路及び前記2次側変換回路の前記スイッチングトランジスタのスイッチングを制御する制御回路とを備え、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第1の2次側トランスコイルは、中央の脚部、及び両端の脚部を備えるコアの前記両端の脚部のいずれかに巻回され、前記第
2の
1次側トランスコイル及び前記第2の2次側トランスコイルは、前記コアの前記両端の脚部のいずれか他方に巻回され、前記コアの前記中央の脚部にはリアクトルコイルが巻回されず、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに同相電流が供給されることでリアクトル動作し、前記第1の1次側トランスコイル及び前記第2の1次側トランスコイルに逆相電流が供給されることでトランス動作することを特徴とする。
【0013】
本発明において、コアの両端の脚部に巻回された第1の1次側コイル及び第2の1次側コイルの間の漏れインダクタンスをリアクトルとして利用するため、別個にリアクトルコイルを巻回する必要がなく、リアクトルコイルを削減することができる。本発明では、リアクトルコイルを有さずに、トランスコイルのみでトランス動作とリアクトル動作が実現される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、磁気素子間のデッドスペースやヒートシンクサイズの縮小に加え、さらなる部品点数の削減や巻線長の短縮が可能となる。また、巻線長の短縮に伴い、交流抵抗損を低減することも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図3A】実施形態の磁気素子のトランス動作時の電流の流れを示す説明図である。
【
図3B】実施形態の磁気素子のリアクトル動作時の電流の流れを示す説明図である。
【
図4A】実施形態の磁気素子のトランス動作時の磁束を示す説明図である。
【
図4B】実施形態の磁気素子のトランス動作時の回路図である。
【
図5A】実施形態の磁気素子のリアクトル動作時の磁束を示す説明図である。
【
図5B】実施形態の磁気素子のリアクトル動作時の回路図である。
【
図8A】実施形態のシミュレーションにおける磁気抵抗モデルの説明図(同相電流)である。
【
図8B】実施形態のシミュレーションにおける磁気抵抗モデルの説明図(同相電流)である。
【
図9A】実施形態のシミュレーションにおける磁気抵抗モデルの説明図(逆相電流)である。
【
図9B】実施形態のシミュレーションにおける磁気抵抗モデルの説明図(逆相電流)である。
【
図10A】実施形態のシミュレーションにおける電圧変化を示すグラフ図である。
【
図10B】実施形態のシミュレーションにおける電流変化を示すグラフ図である。
【
図10C】実施形態のシミュレーションにおける磁束変化を示すグラフ図である。
【
図10D】実施形態のシミュレーションにおける同相電流時と逆相電流時の磁束変化を示すグラフ図である。
【
図12A】従来技術の磁気素子のトランス動作時の磁束を示す説明図である。
【
図12B】従来技術の磁気素子のトランス動作時の回路図である。
【
図13A】従来技術の磁気素子のリアクトル動作時の磁束を示す説明図である。
【
図13B】従来技術の磁気素子のリアクトル動作時の回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面に基づき本発明の実施形態について説明する。
【0017】
図1は、本実施形態における電力変換回路システムの回路構成図である。電力変換回路システムは、制御回路100と電力変換回路120からなる。電力変換回路120は、磁気結合リアクトルを利用し、3つの直流電源間において双方向の電力伝送が可能な3ポートのマルチポート回路である。
【0018】
マルチポート回路は、1次側変換回路にポートA及びポートCを備え、2次側変換回路にポートB及びポートDを備える。
【0019】
1次側変換回路の正極母線と1次側変換回路の負極母線の間に、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS1及びS2からなる左アームと、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS3及びS4からなる右アームが設けられ、これら左アームと右アームは互いに並列に接続されフルブリッジ回路を構成する。ポートAは、1次側変換回路の正極母線と負極母線の間に配置される。ポートAの入出力電圧をVAとする。ポートCは、1次側変換回路の負極母線とトランスの間に配置される。ポートCの入出力電圧をVCとする。
【0020】
左側アームを構成するスイッチングトランジスタS1及びS2の接続点と、右側アームを構成するスイッチングトランジスタS3及びS4の接続点の間に、互いに直列に接続される磁気結合リアクトル(リアクトルコイル)が接続されるとともに、トランス(トランスコイル)の1次側巻線(トランスコイル)12a、12bが接続される。すなわち、磁気結合リアクトルと1次側トランスコイル12a、12bは、2つの双方向チョッパ回路の中間点に接続される。
【0021】
他方、2次側変換回路の正極母線と負極母線の間に、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS5及びS6からなる左アームと、互いに直列に接続されるスイッチングトランジスタS7及びS8からなる右アームが設けられ、これら左アームと右アームは互いに並列に接続されフルブリッジ回路を構成する。ポートBは、2次側変換回路の正極母線と負極母線の間に配置される。ポートBの入出力電圧をVBとする。
【0022】
トランスの2次側巻線(トランスコイル)14a、14bは、左アームを構成するスイッチングトランジスタS5及びS6の接続点と、右アームを構成するスイッチングトランジスタS7及びS8の接続点の間に接続される。
【0023】
制御回路100は、電力変換回路120を制御する各種パラメータを設定し、1次側変換回路と2次側変換回路のスイッチングトランジスタS1〜S8のスイッチング制御を行う。制御回路100は、外部からのモード信号に基づき1次側変換回路の2つのポート間で電力変換を行うモードと、1次側と2次側間での絶縁型電力伝送を行うモードを切り替える。ポートでいえば、ポートAとポートB間では双方向絶縁型コンバータとして回路を動作させ、ポートAとポートC間では双方向非絶縁型コンバータとして回路を動作させる。このとき、磁気結合リアクトルは、双方向絶縁型コンバータ動作では磁束を弱め合うため漏れインダクタンス成分を用い、双方向非絶縁型コンバータ動作では磁束を強め合うため励磁インダクタンス成分と漏れインダクタンス成分の和の成分を用いて電力伝送を行う。
【0024】
1次側変換回路と2次側変換回路の間の絶縁型電力伝送は、1次側変換回路と2次側変換回路のスイッチングトランジスタS1〜S8のスイッチング周期の位相差φで制御する。1次側変換回路から2次側変換回路に電力を伝送する場合、1次側が2次側に対して進み位相となるように位相差φを決定する。また、2次側変換回路から1次側変換回路に電力を伝送する場合、これとは逆に1次側が2次側に対して遅れ位相となるように位相差φを決定する。例えば、2次側変換回路から1次側変換回路に電力を伝送する場合、1次側変換回路ではスイッチングトランジスタS1及びS4をオンし、S2及びS3をオフする。また、2次側変換回路ではスイッチングトランジスタS5及びS8をオンし、S6及びS7をオフする。2次側変換回路では、
S5→トランス2次側巻線→S8
と電流が流れる。1次側変換回路では、
S4→トランス1次側巻線→S1
と電流が流れる。
【0025】
次の期間では、スイッチングトランジスタS1、S4、S8をオンし、それ以外はオフとする。前の期間と比べてスイッチングトランジスタS5がオンからオフに遷移するが、2次側変換回路のスイッチングトランジスタS5がオフすると、スイッチングトランジスタS6に並列に接続されたダイオードを介して電流が流れ続け、2次側の両端電圧はゼロに降下する。従って、2次側の両端電圧を決めるのは、スイッチングトランジスタS5のオンオフとなる。
【0026】
さらに次の期間では、スイッチングトランジスタS1、S4、S6、S8をオンし、それ以外をオフとする。
【0027】
さらに次の期間では、スイッチングトランジスタS4、S6、S8をオンし、それ以外をオフとする。1次側変換回路のスイッチングトランジスタS1がオンからオフに遷移すると、スイッチングトランジスタS1に並列に接続されたダイオードを介して電流が流れ続け、スイッチングトランジスタS2がオンしない限り1次側の両端電圧はゼロにならない。従って、1次側の両端電圧を決めるのは、スイッチングトランジスタS2のオンオフとなる。
【0028】
上下のスイッチングトランジスタが短絡しないように、数百ナノ秒〜数マイクロ秒程度のデッドタイムを設けてもよい。すなわち、スイッチングトランジスタS1とS2、S3とS4、S5とS6、S7とS8がともにオフとなるような期間を設けてもよい。
【0029】
図1のマルチポート回路を例えばハイブリッド自動車等に搭載する場合、ポートAに48V補機を接続し、ポートCに14V補機を接続し、ポートBに主機バッテリ等を接続することができる。
【0030】
以上のようなマルチポート回路では、トランスコイルによるトランス動作とリアクトルコイルによるリアクトル動作が要求され、従来の磁気素子においては上述したように3つの脚部を備えるコアの両端の脚部にトランスコイルを配置し、中央の脚部にリアクトルコイルを配置していた。
【0031】
ところで、従来の磁気素子において、リアクトル動作を実行する際には磁気結合リアクトルの自己インダクタンスをリアクトルとして利用しているが、センタータップを介した上下のトランスコイル間には漏れインダクタンスが生じているので、この漏れインダクタンスを、磁気結合リアクトルの自己インダクタンスに代えてリアクトルとして用い得る。
【0032】
本実施形態では、このような着想の下で、リアクトルコイルを削減し、トランスコイルをトランス動作のみならずリアクトル動作も実現する磁気素子として活用させるものである。
【0033】
図2は、本実施形態における磁気素子の横断面図を示す。3つの脚部を有するコア10の両端の脚部にトランスコイル12a、12b、14a、14bが配置される。トランスコイル12aは第1の1次側トランスコイル、トランスコイル12bは第2の1次側トランスコイルであり、トランスコイル14aは第1の2次側トランスコイル、トランスコイル14bは第2の2次側トランスコイルである。
【0034】
図2と
図11を対比すると、
図11の磁気素子では中央の脚部にリアクトルコイル16a、16bが配置されているが、
図2の磁気素子では中央の脚部にリアクトルコイルが配置されていない。すなわち、
図2の磁気素子では、両端のトランスコイル12a、12b、14a、14bは、トランスコイルのみならずリアクトルコイルとしても機能する。
【0035】
図3Aは、
図2に示す磁気素子を上から見た場合の、トランス動作時の電流の流れを示す。トランスコイル12a、12bは、3つの脚部を有するコア10の両端の脚部にそれぞれ配置されており、トランス動作では互いに逆相となるように電流が流れる。すなわち、
図3Aに示すように、両端の脚部のうちの左側の脚部のトランスコイル12aは上から見て反時計方向に電流が流れ、他方で、右側の脚部のトランスコイル12bには上から見て時計方向に電流が流れる。
【0036】
図3Bは、
図2に示す磁気素子を上から見た場合の、リアクトル動作時の電流の流れを示す。トランスコイル12a、12bは、3つの脚部を有するコア10の両端の脚部にそれぞれ配置されており、リアクトル動作では互いに同相となるように電流が流れる。すなわち、
図3Bに示すように、両端の脚部のうちの左側の脚部のトランスコイル12aは上から見て反時計方向に電流が流れ、右側の脚部のトランスコイル12bにも上から見て反時計方向に電流が流れる。
【0037】
図4A及び
図4Bは、トランス動作における磁束及び回路図を示す。左右の脚部にそれぞれ配置されたトランスコイル12a、12bによる磁束の向きは互いに反対であるため中央の脚部では互いに打ち消し合い、リアクトルとして動作することはない。これは、中央の脚部がないO型コアのトランスと同じ磁束変化である。
【0038】
図5A及び
図5Bは、リアクトル動作における磁束及び回路図を示す。左右の脚部にそれぞれ配置されたトランスコイル12a、12bによる磁束の向きは同じであるため中央の脚部では磁束が打ち消し合うことはないが、発生する起電力はセンタータップを介したトランスコイル12a、12bで互いに逆となるためコイル全体としては起電力がゼロとなり、トランスとして動作しない。また、リアクトルとしてはギャップを介した磁気抵抗の大きな経路で磁束変化が生じるので、飽和し難い特性を有する。
【0039】
図6は、本実施形態の磁気素子の構成図を示す。3つの脚部を有するコア10の両端の脚部の一方に1次側トランスコイル12aを巻回し、他方の脚部に1次側トランスコイル12bを巻回する。詳細には、
図1に示すように1次側の左アームのU端子とポートCとの間にトランスコイル12aが接続され、1次側の右アームのV端子とポートCとの間にトランスコイル12bが接続される。トランスコイル12a、12bはセンタータップを介して直列接続され、センタータップにポートCが接続される。
【0040】
他方、3つの脚部を有するコア10の両端の脚部の一方に2次側トランスコイル14aを巻回し、他方の脚部に2次側トランスコイル14bを巻回する。
【0041】
このように、本実施形態では、3つの脚部を有するコア(あるいはE型コア)の両端にトランスコイルを巻回し、同相電流の変化に対してはリアクトルとして動作させ、逆相電流の変化に対してはトランスとして動作させることで、リアクトルコイルを削除できる。従来の磁気素子に対してリアクトルコイルが存在しない分、巻線長(配線長)が短くなり、かつ、配線用のコア窓も縮小化される。
【0042】
次に、本実施形態におけるマルチポート回路のコンピュータによる動作シミュレーション結果について説明する。なお、簡略化のため、2次側変換回路については
図1のポートDを省略している。
【0043】
図7は、シミュレーションに用いた回路構成を示す。ポートAの電圧をVA、ポートBの電圧をVB、ポートCの電圧をVCとし、VA=48V、VB=192V、VC=14Vとし、スイッチング周波数を50kHzとする。1次側トランスコイルと2次側トランスコイルの巻線比を例えば1:4となるように、1次側はコア両端の脚部に3ターンずつ、2次側はコア両端の脚部で12ターンずつコイルを巻回する。
図7において、
図1に示すような磁気結合リアクトルが存在していないことに留意されたい。
【0044】
図8A及び
図8Bは、リアクトル動作、すなわち同相電流を供給した場合の磁束を示す。トランスコイル12aにより生じる磁束をφu、トランスコイル12bにより生じる磁束をφvとすると、中央の脚部に生じる同相磁束はφcm=φu+φvである。同相磁束は、コア中央脚部を通る一定のリプルを有する直流磁束である。
【0045】
図9A及び
図9Bは、トランス動作、すなわち逆相電流を供給した場合の磁束を示す。トランスコイル12aにより生じる磁束をφu、トランスコイル12bにより生じる磁束をφvとすると、中央の脚部に生じる磁束は、φdf=(φu−φv)/2である。逆相磁束は、コア両端脚部を時計回りと反時計回りで磁束変化方向が交互に変わりつつ流れる交流磁束である。
【0046】
図10A〜
図10Dは、シミュレーション結果を示す。ポートBからポートAに750Wの電力を伝送する。
【0047】
図10Aは、1次側の電圧Vuvと2次側の電圧Vαβの電圧波形を示す。磁気素子の1次側と2次側に発生する電圧の位相差によって絶縁コンバータ動作における電力伝送を制御する。
【0048】
図10Bは、同相電流を供給した場合の電流icmと逆相電流を供給した場合の電流idfの電流波形を示す。同相電流供給時の電流icmは、icm=iu+ivであり、非絶縁型コンバータ(昇圧コンバータ)のリアクトル電流波形と一致する。他方、逆相電流供給時の電流idfは、idf=(iu−iv)/2であり、絶縁型コンバータのトランス電流波形と一致する。
【0049】
図10Cは、トランスコイル12aによる磁束φuと、トランスコイル12bによる磁束φvを示す。この2つの波形は、トランス動作による磁束とリアクトル動作による磁束の合成波形となっている。
【0050】
図10Dは、同相電流変化による磁束φcmと逆相電流による磁束φdfを示す。同相電流による磁束はφcm=φu+φvであり、これは、別々に磁気素子を用いた場合の磁気結合リアクトル磁束波形と一致する。他方、逆相電流による磁束はφdf=(φu−φv)/2であり、これは別々に磁気素子を用いた場合のセンタータップトランス磁束波形と一致する。従って、本実施形態における磁気素子(一体磁気素子)に流れる磁束は、リアクトル動作による磁束とトランス動作による磁束の合成波形となっており、互いに干渉せずにリアクトルとトランスとして機能できる。