特許第6427103号(P6427103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427103舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427103
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システム
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/22 20060101AFI20181112BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20181112BHJP
   F01N 3/20 20060101ALI20181112BHJP
   F02D 19/06 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   F01N3/22
   F01N3/24 L
   F01N3/20 F
   F02D19/06 B
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-542524(P2015-542524)
(86)(22)【出願日】2014年10月17日
(86)【国際出願番号】JP2014005288
(87)【国際公開番号】WO2015056452
(87)【国際公開日】20150423
【審査請求日】2017年8月28日
(31)【優先権主張番号】特願2013-216113(P2013-216113)
(32)【優先日】2013年10月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】長町 健治
(72)【発明者】
【氏名】池田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】宇井 岳夫
【審査官】 稲村 正義
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−184517(JP,A)
【文献】 特開2010−069999(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 1/00−13/20
F02D 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させることを特徴とする舶用排気ガス浄化装置。
【請求項2】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記エンジンをガスモードで運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にしたことを特徴とする舶用排気ガス浄化装置。
【請求項3】
燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、
前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、
前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、
排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備え、
前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの入口が互いに接続すると共に、前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの出口が互いに接続し、
前記排気ライン切換部は、前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの入口を開閉すると共に、前記第1排気ラインの出口及び前記第2排気ラインの出口の一方又は両方を開閉する構成であることを特徴とする舶用排気ガス浄化装置。
【請求項4】
前記排気ライン切換部は、前記エンジンから排出されて前記第1排気ラインに向かう排気ガスが前記第2排気ライン側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項5】
前記排気ライン切換部は、前記第1排気ラインの排気ガスの爆発が、前記第2排気ライン側に伝搬することを抑制するための耐圧機能を有することを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項6】
前記第1排気ラインに設けられた排熱回収装置、及び、前記排気ラインの出口ラインに設けられたサイレンサの少なくとも一方を備えることを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれかに記載の舶用排気ガス浄化装置と、それを使用する二元燃料ディーゼルエンジンとを備えることを特徴とする船舶機関システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶用の二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置、及びそれを備える船舶機関システムに関する。
【背景技術】
【0002】
船舶用の二元燃料ディーゼルエンジンは、燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと、燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる。
【0003】
エンジンをガスモードで運転すると、ディーゼルモードで運転するときよりも窒素酸化物(NOX)濃度の低い排気ガスをエンジンから排出することができる。そして、エンジンをディーゼルモードで運転すると、ガスモードで運転するときよりも窒素酸化物(NOX)濃度の高い排気ガスがエンジンから排出され、このディーゼルモードでは、窒素酸化物の排出規定値(例えば、IMO(国際海事機関)によるTier-3(3次規制)等)を超える場合がある。
【0004】
よって、排気ガス中の窒素酸化物濃度が規制されている海域(例えばECA)を航行するときは、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスを排出することができるガスモードで運転することが行われる。そして、排気ガス中の窒素酸化物濃度が規制されていない海域を航行するときは、ガスモード及びディーゼルモードを任意に選択して運転される。
【0005】
このように、二元燃料ディーゼルエンジンを装備する船では、排気ガス中の窒素酸化物濃度規制への対応は、主に燃料を使い分けることで行われているため、脱硝触媒等による窒素酸化物の低減のための排気ガス浄化装置は装備されない。
【0006】
ところで、例えば燃料ガスの非搭載時等には、ガスモードで運転できない状況となることがある。
【0007】
従って、排気ガス中の窒素酸化物濃度が規制されている海域でも、燃料の選択が自由となるように、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジンを運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスを大気中に排出できるようにすることが望まれている。
【0008】
そこで、排気ガスを大気中に排出するための排気ラインに、窒素酸化物濃度を低減するための排気ガス浄化装置を設けることによって、ディーゼルモードで運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスが大気中に排出されるようにすることが考えられるが、後述するように、二元燃料ディーゼルエンジンをガスモードで運転した場合の排気ガスを排気ガス浄化装置に通すと、未燃焼の可燃ガスの爆発によって排気ガス浄化装置が損傷する可能性があり、適用することができない。
【0009】
また、排気ラインに排気ガス浄化装置(脱硝触媒部)が設けられている従来例として、特開2012―36881号公報及び特開2013−32777号公報に記載さているものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2012―36881号公報
【特許文献2】特開2013−32777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかし、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジンを運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスを大気中に排出できるようにするために、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの運転モードにおいても排気ガスが通る共通の排気ラインに排気ガス浄化装置を設けた場合、ガスモードで運転するときのみに、排気ガス中に含まれる未燃焼の可燃ガスが爆発することがあると、排気ガス浄化部が損傷する恐れがある。そして、この損傷を防止するために、排気ガス浄化装置を爆発に耐え得る程度の耐圧構造にすることが考えられる。
【0012】
しかし、排気ガス浄化部は、脱硝触媒部を耐圧構造とすることは難しく、現実的ではないと考えられる。
【0013】
また、上記従来の特許公報に記載された発明では、二元燃料ディーゼルエンジンに使用されるものではないので、上記の問題を解決することはできない。
【0014】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジンを運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下である排気ガスを大気中に排出することができ、しかも、ガスモードで運転中に、排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあったとしても、排気ガス浄化装置が損傷することを防止できる舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システムを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明に係る舶用排気ガス浄化装置は、燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができる二元燃料ディーゼルエンジンに使用する舶用排気ガス浄化装置において、前記エンジンから排出される排気ガスを大気中に排出するためのものであり、ガスモードで運転するときに排気ガスを通す第1排気ライン、及びディーゼルモードで運転するときに排気ガスを通す第2排気ラインを有する排気ラインと、前記第2排気ラインに設けられ、当該第2排気ラインを通る排気ガス中の窒素酸化物を低減するための排気ガス浄化部と、排気ガスを前記第1排気ラインに通す第1切換状態、及び排気ガスを前記第2排気ラインに通す第2切換状態に切換え可能な排気ライン切換部とを備えることを特徴とするものである。
【0016】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置によると、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジンを運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスが大気中に排出されるようにすることができる。
【0017】
エンジンをガスモードで運転するときは、排気ライン切換部を第1切換状態に切換える。これによって、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガスを、排気ガス浄化部が設けられていない第1排気ラインに通して大気中に排出することができる。この第1排気ラインには、排気ガス浄化部が設けられていないので、この第1排気ライン内で排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあっても、この爆発によって排気ガス浄化部が損傷することがない。
【0018】
そして、エンジンをディーゼルモードで運転するときは、排気ライン切換部を第2切換状態に切換える。これによって、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガスを、排気ガス浄化部が設けられている第2排気ラインに通して浄化して、その窒素酸化物濃度が規定値以下となった排気ガスを大気中に排出することができる。このディーゼルモードでは、第2排気ライン内で排気ガス浄化部を損傷させるほどの排気ガスの爆発が起こることが無いので、排気ガスの爆発によって排気ガス浄化部が損傷することがない。
【0019】
また、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガスを大気中に排出することが許されている場合は、排気ライン切換部を第1切換状態に切換えて、ディーゼルモードで運転することができる。
【0020】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置において、前記排気ライン切換部は、前記エンジンから排出されて前記第1排気ラインに向かう排気ガスが前記第2排気ライン側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有するものとするとよい。
【0021】
この排気ライン切換部の漏洩抑制機能によると、例えばエンジンをガスモードで運転中であって排気ライン切換部が第1切換状態のときに、エンジンから排出されて第1排気ラインに向かう排気ガスが、第2排気ライン側に漏洩することを抑制することができる。これによって、排気ガスが第2排気ライン側に漏洩して、第2排気ライン内で排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することを防止でき、爆発による排気ガス浄化部の損傷を防止できる。
【0022】
そして、前記排気ライン切換部が、前記エンジンから排出されて前記第1排気ラインに向かう排気ガスが前記第2排気ライン側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有すれば、例えばエンジンをディーゼルモードで運転中であって排気ライン切換部が第2切換状態のときに、エンジンから排出されて第2排気ラインに向かう排気ガスが、第1排気ライン側に漏洩することを抑制することができる。これによって、排気ガスが第1排気ライン側に漏洩して、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガスが大気中に排出されることを防止できる。
【0023】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置において、前記排気ライン切換部は、前記第1排気ラインの排気ガスの爆発が、前記第2排気ライン側に伝搬することを抑制するための耐圧機能を有するものとするよい。
【0024】
この排気ライン切換部の耐圧機能によると、ガスモードで運転中に、第1排気ラインの排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあったとしても、この爆発が第2排気ライン側に伝搬しないため、この爆発により第2排気ライン内の排気ガス浄化部が損傷しないように保護することができる。
【0025】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置において、前記エンジンをガスモードで運転中に、排気ガスが前記第1排気ラインを通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又は前記エンジン用の給気を前記第2排気ライン内に流入させて、当該第2排気ライン内の空気を前記排気ライン切換部を介して前記第1排気ライン側に流出させるものとするとよい。
【0026】
このようにすると、エンジンをガスモードで運転中に、第1排気ラインを通って大気に排出される未燃焼の可燃ガスを含む排気ガスの一部が第2排気ライン内に侵入することを防止でき、第2排気ライン内で排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発して排気ガス浄化部が損傷することを防止できる。
【0027】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置において、前記エンジンをガスモードで運転中に、前記第2排気ライン内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用の給気管からの加圧空気によって前記第1排気ライン内よりも高圧にするものとするとよい。
【0028】
このようにすると、エンジンをガスモードで運転中に、第1排気ラインを通っている未燃焼の可燃ガスを含む排気ガスが第2排気ライン内に侵入することを防止できる。これによって、第2排気ライン内で排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発して排気ガス浄化部が損傷することを防止できる。
【0029】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置は、前記第1排気ラインに設けられた排熱回収装置、及び、前記排気ラインの出口ラインに設けられたサイレンサの少なくとも一方を備えるものとするとよい。
【0030】
このようにすると、サイレンサによって排気音を和らげることができ、騒音の低減を図ることができる。そして、排熱回収装置によって回収された排熱を例えば船内のボイラに使用することができる。また、排熱回収装置を第2排気ラインではなく、第1排気ラインに設けることによって、熱回収効率を効果的に向上させることができる。
【0031】
その理由は、第2排気ラインでは、排気ガス浄化部の影響で排気ガスの温度が下がっているからであり、また、排気ガス浄化部を通った後の排気ガスを排熱回収装置に通すと、排気ガス浄化に用いる薬品(尿素等)の影響や、燃料油の排気ガスに含まれる硫酸成分(硫酸成分は、燃料ガスの排気ガスには含まれていない。)による腐食の恐れがあるからである。
【0032】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置において、前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの入口が互いに接続すると共に、前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの出口が互いに接続し、前記排気ライン切換部は、前記第1及び第2排気ラインのそれぞれの入口を開閉すると共に、前記第2排気ラインの出口を開閉する構成であるものとするとよい。また加えて、前記排気ライン切換部は、前記第1排気ラインの出口を開閉するものを装備してもよい。
【0033】
このようにすると、第1及び第2排気ラインを簡単な構成でコンパクトに設計することができ、これによって、安価でコンパクトな舶用排気ガス浄化装置を提供することができる。そして、排気ライン切換部によると、排気ガスを第1排気ラインに通して大気中に排出しつつ、排気ガスが第2排気ラインに侵入することを防止できる第1切換状態では、第1排気ラインの入口が開、第2排気ラインの入口が閉となる。このとき、第2排気ラインの出口が閉となる。また、排気ライン切換部が、第1排気ラインの出口を開閉することができるものである場合には、第1排気ラインの出口が開となる。
【0034】
そして、排気ガスを第2排気ラインに通して大気中に排出する第2切換状態では、第1排気ラインの入口が閉、第2排気ラインの入口が開となる。このとき、第2排気ラインの出口が開となる。また、排気ライン切換部が、第1排気ラインの出口を開閉することができるものである場合には、第1排気ラインの出口が閉となる。
【0035】
本発明に係る船舶機関システムは、本発明に係る舶用排気ガス浄化装置と、それを使用する二元燃料ディーゼルエンジンとを備えることを特徴とするものである。
【0036】
本発明に係る船舶機関システムは、本発明に係る舶用排気ガス浄化装置を備えており、この舶用排気ガス浄化装置は、上記と同様の作用を奏する。
【発明の効果】
【0037】
この発明に係る舶用排気ガス浄化装置は、第2排気ラインに排気ガス浄化部を設けたことによって、ガスモードで運転中に、第1排気ライン内で排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあったとしても、この爆発によって排気ガス浄化部が損傷しないように構成されている。
【0038】
従って、二元燃料ディーゼルエンジンを運転するときに、大気中に排出される排気ガスの窒素酸化物濃度が規定値以下となるようにすることができる動作モードとして、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードでも選択することができる。これによって、排気ガス中の窒素酸化物濃度が規制されている海域を航行するときでも、ガスモード及びディーゼルモードを任意に選択して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
図1】この発明の第1実施形態に係る船舶機関システムを示し、エンジンをディーゼルモードで運転中の構成図である。
図2図1に示す船舶機関システムを示し、エンジンをガスモードで運転中の構成図である。
図3】同発明の第2実施形態に係る船舶機関システムを示し、エンジンをガスモードで運転中の構成図である。
図4】同発明の第3実施形態に係る船舶機関システムを示し、エンジンをガスモードで運転中の構成図である。
図5】同発明の第4実施形態に係る船舶機関システムを示し、エンジンをガスモードで運転中の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0040】
以下、本発明に係る舶用排気ガス浄化装置、及びそれを備える船舶機関システムの第1実施形態を、図1及び図2を参照して説明する。この図1に示す船舶機関システム11は、二元燃料ディーゼルエンジン(以下、単に「エンジン」と言うこともある。)12に舶用排気ガス浄化装置13を設けたものである。この舶用排気ガス浄化装置13は、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードでエンジン12を運転しても、窒素酸化物(NOX)濃度が規定値以下である排気ガス14が大気中に排出されるようにすることができるものである。
【0041】
図1に示すように、船舶の機関室内には船舶推進用のエンジン12が搭載され、このエンジン12から排出される排気ガス14は舶用排気ガス浄化装置13を通って出口ライン20から大気へ排出される。
【0042】
二元燃料ディーゼルエンジン12は、燃料ガスを燃料として駆動するガスモードと、燃料油を燃料として駆動するディーゼルモードの2つの動作モードを切換えて運転することができるものである。燃料ガスは、例えば天然ガスであり、燃料油は、例えば重油である。
【0043】
このエンジン12をガスモードで運転すると、ディーゼルモードで運転するときよりも窒素酸化物濃度の低い排気ガス14をエンジン12から排出することができる。そして、エンジン12をディーゼルモードで運転すると、ガスモードで運転するときよりも窒素酸化物濃度の高い排気ガス14がエンジン12から排出され、このディーゼルモードでは、窒素酸化物の排出規定値(例えば、IMO(国際海事機関)によるTier-3(3次規制)等)を超える場合がある。
【0044】
また、図1に示すように、エンジン12には、排気ガス14を大気中に排出するための排気ライン15の第1入口ライン16が接続し、この第1入口ライン16には、排気タービン過給機21のタービン部22が設けられている。
【0045】
排気タービン過給機21は、排気ガス14が保有するエネルギ(運動エネルギ及び熱エネルギ)を利用してタービン部22を高速回転させて、その回転力で圧縮機部23を回転駆動して給気(例えば新気)を圧縮する装置である。この圧縮機部23で圧縮された加圧空気は、給気管25を通ってエンジン12に供給され、燃料の燃焼に使用される。なお、図中の符号24は、タービン部22と圧縮機部23とを互いに連結する回転軸である。
【0046】
舶用排気ガス浄化装置13は、図1に示すように、排気ライン15、排気ガス浄化部26、及び排気ライン切換部27を備えている。
【0047】
排気ライン15は、排気ダクトであり、エンジン12から排出される排気ガス14を大気中に排出するためのものである。この排気ライン15は、エンジン12をガスモードで運転のときに排気ガス14を通す第1排気ライン18と、ディーゼルモードで運転のときに排気ガス14を通す第2排気ライン19とを有している。
【0048】
そして、図1に示すように、第1及び第2排気ライン18、19のそれぞれの入口が第1接続部31を介して互いに接続すると共に、第1及び第2排気ライン18、19のそれぞれの出口が第2接続部32を介して互いに接続している。また、第1接続部31は、第2入口ライン17を介してタービン部22の出口に接続している。更に、第2接続部32には、出口ライン20が接続している。
【0049】
排気ガス浄化部26は、図1に示すように、第2排気ライン19に設けられ、この第2排気ライン19を通る排気ガス14中の窒素酸化物濃度を低減するためのものである。この排気ガス浄化部26は、例えば尿素SCRシステムである。
【0050】
排気ライン切換部27は、図2に示すように、エンジン12から排出される排気ガス14を第1排気ライン18に通す第1切換状態、及び図1に示すように、排気ガス14を第2排気ライン19に通す第2切換状態に切換え可能なものであり、第1切換弁28、第2切換弁29、及び第3切換弁30を有している。
【0051】
第1切換弁28は、第1排気ライン18の入口を開閉するためのものであり、第2切換弁29は、第2排気ライン19の入口を開閉するためのものである。そして、第3切換弁30は、第2排気ライン19の出口を開閉するためのものである。
【0052】
そして、第1〜第3の各切換弁28、29、30は、エンジン12から排出されて第1又は第2排気ライン18又は19に向かう排気ガス14が、第2又は第1排気ライン19又は18側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有している。少なくとも、第2および第3の各切換弁29、30は、エンジン12から排出されて第1排気ライン18に向かう排気ガス14が第2排気ライン19側に漏洩することを抑制するための漏洩抑制機能を有していることが好ましい。ここで、漏洩抑制機能とは、第1及び第2排気ライン18、19の一方を流れる排気ガス14が第1及び第2排気ライン18、19の他方に漏洩することによって、他方の排気ライン(18又は19)中での可燃ガスの濃度が爆発下限界を超えるような漏洩が起きない機能をいう。なお、第1〜第3の各切換弁28、29、30は、この漏洩抑制機能と共に後述する耐圧機能を有していてもよい。あるいは、漏洩抑制機能に代えて、耐圧機能を有していてもよい。
【0053】
例えば、第1〜第3の各切換弁28、29、30は、弁体と弁座を有するポペット型の弁であってもよい。この場合、漏洩抑制機能は、第1〜第3の各切換弁28、29、30が閉じているときに、弁体と弁座とが互いにシール部材を介して密着する構造によって実現されてもよい。また、第1〜第3の各切換弁28、29、30は、ダンパであってもよい。この場合、漏洩抑制機能は、ダンパとこれを収容する配管との間の僅かな隙間によって実現されてもよい。また、第1〜第3の各切換弁28、29、30は、複数のダンパを組み合わせ、ダンパの間に加圧空気を送り込むことによって漏洩を防止する切換え弁装置であってもよい。
【0054】
上述した耐圧機能は、エンジン12から排出されて第1排気ライン18に向かう排気ガス中の未燃焼の可燃ガスの爆発が、第2排気ライン19側に伝搬することを抑制するための機能である。すなわち、第1〜第3の各切換弁28、29、30の耐圧機能は、ガスモードで運転中に、第1排気ライン18内で排気ガス14中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあったとしても、この爆発によって、第2排気ライン19内の排気ガス浄化部26が損傷しないように保護することができる剛性を有する機能である。例えば、耐圧機能は、第1〜第3の各切換弁28、29、30に、第1排気ライン18側で爆発があったとき、その爆発が第2排気ライン19側に伝搬させない強度を持たせることによって実現できる。
【0055】
次に、上記のように構成された舶用排気ガス浄化装置13、及びそれを備える船舶機関システム11の作用を説明する。図1及び図2に示す船舶機関システム11によると、図2に示すガスモード及び図1に示すディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジン12を運転しても、窒素酸化物濃度(NOX濃度)が規定値以下の排気ガス14が大気中に排出されるようにすることができる。
【0056】
図2に示すように、エンジン12をガスモードで運転するときは、排気ライン切換部27を第1切換状態(第1切換弁28が開、第2切換弁29が閉、第3切換弁30が閉)に切換える。これによって、窒素酸化物濃度が規定値以下の排気ガス14を、排気ガス浄化部26が設けられていない第1排気ライン18に通して大気中に排出することができる。この第1排気ライン18には、排気ガス浄化部26が設けられていないので、この第1排気ライン18内で排気ガス14中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあっても、この爆発によって排気ガス浄化部26が損傷することがない。
【0057】
そして、図1に示すように、エンジン12をディーゼルモードで運転するときは、排気ライン切換部27を第2切換状態(第1切換弁28が閉、第2切換弁29が開、第3切換弁30が開)に切換える。これによって、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガス14を、排気ガス浄化部26が設けられている第2排気ライン19に通して浄化して、その窒素酸化物濃度が規定値以下となった排気ガス14を大気中に排出することができる。このディーゼルモードでは、第2排気ライン19内で排気ガス浄化部26を損傷させるほどの排気ガス14の爆発が起こることが無いので、排気ガス14の爆発によって排気ガス浄化部26が損傷することがない。
【0058】
従って、この図1及び図2に示す船舶機関システム11によると、二元燃料ディーゼルエンジン12を運転するときに、大気中に排出される排気ガス14の窒素酸化物濃度が規定値以下となるようにすることができる動作モードとして、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードでも選択することができる。
【0059】
ただし、図には示さないが、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガス14を大気中に排出することが許されている場合は、排気ライン切換部27を第1切換状態に切換えて、エンジン12をディーゼルモードで運転することができる。
【0060】
そして、図1及び図2に示す排気ライン切換部27の第1〜第3の各切換弁28、29、30は、エンジン12から排出されて第1又は第2排気ライン18又は19に向かう排気ガス14が、第2又は第1排気ライン19又は18側に漏洩することを抑制するための密封機能を有している。
【0061】
このようにすると、例えばエンジン12をガスモードで運転中であって排気ライン切換部27が図2に示す第1切換状態のときに、エンジン12から排出されて第1排気ライン18に向かう排気ガス14が、第2排気ライン19側に漏洩することを抑制することができる。これによって、排気ガス14が第2排気ライン19側に漏洩して、第2排気ライン19内で排気ガス14中の未燃焼の可燃ガスが爆発することを防止でき、爆発による排気ガス浄化部26の損傷を防止できる。
【0062】
そして、図1に示すように、例えばエンジン12をディーゼルモードで運転中であって排気ライン切換部27が第2切換状態のときに、エンジン12から排出されて第2排気ライン19に向かう排気ガス14が、第1排気ライン18側に漏洩することを抑制することができる。これによって、排気ガス14が第1排気ライン18側に漏洩して、窒素酸化物濃度が規定値を超える排気ガス14が大気中に排出されることを防止できる。
【0063】
また、図1に示すように、第1及び第2排気ライン18、19のそれぞれの入口が互いに接続すると共に、第1及び第2排気ライン18、19のそれぞれの出口が互いに接続する構造であるので、第1及び第2排気ライン18、19を簡単な構成でコンパクトに設計することができ、これによって、安価でコンパクトな舶用排気ガス浄化装置13を提供することができる。
【0064】
次に、図3を参照して本発明に係る船舶機関システムの第2実施形態を説明する。この図3に示す第2実施形態の船舶機関システム35と、図2に示す第1実施形態の船舶機関システム11とが相違するところは、エンジン12をガスモードで運転中に、図2に示す第1実施形態では、第2排気ライン19内に送風していないのに対して、図3に示す第2実施形態では、第2排気ライン19内に送風しているところである。
【0065】
この図3に示す第2実施形態において、第2排気ライン19内に送風する構成は、エンジン12をガスモードで運転中に、排気ガス14が第1排気ライン18を通って大気に排出されているときに、送風機による送風、船内の空気圧縮機からの加圧空気、又はエンジン12用の給気管25内の給気の一部を第2排気ライン19内に流入させて、当該第2排気ライン19内に未燃焼ガスが流入することを防止するためのものである。これにより、第2排気ライン19内に流入された空気は、排気ライン切換部27を介して第1排気ライン18側に流出する。
【0066】
このようにすると、エンジン12をガスモードで運転中に、第1排気ライン18を通って大気に排出される未燃焼の可燃ガスを含む排気ガス14の一部が第2排気ライン19内に侵入することを防止でき、第2排気ライン19内で排気ガス14中の未燃焼の可燃ガスが爆発して排気ガス浄化部26が損傷することを防止できる。
【0067】
次に、図4を参照して本発明に係る船舶機関システムの第3実施形態を説明する。この図4に示す第3実施形態の船舶機関システム37と、図2に示す第1実施形態の船舶機関システム11とが相違するところは、エンジン12をガスモードで運転中に、図2に示す第1実施形態では、第2排気ライン19内の圧力を第1排気ライン18内よりも高めるように構成していないのに対して、図4に示す第3実施形態では、第2排気ライン19内の圧力を、船内の空気圧縮機又はエンジン用給気管25からの加圧空気によって第1排気ライン18内よりも高圧にする構成としたところである。
【0068】
この図4に示す第3実施形態において、第2排気ライン19内の圧力を第1排気ライン18内よりも高圧にする構成は、エンジン12をガスモードで運転中に、船内の空気圧縮機からの加圧空気の所定の空気圧(第1排気ライン18内よりも高い圧力)を第2排気ライン19内に付与するようにしたものである。図4において、太い斜線で示されている第2排気ライン19が高圧となっている部分である。
【0069】
このようにすると、エンジン12をガスモードで運転中に、第1排気ライン18を通っている未燃焼の可燃ガスを含む排気ガス14が第2排気ライン19内に侵入することを防止できる。これによって、第2排気ライン19内で排気ガス14中の未燃焼の可燃ガスが爆発して排気ガス浄化部26が損傷することを防止できる。
【0070】
次に、図5を参照して本発明に係る船舶機関システムの第4実施形態を説明する。この図5に示す第4実施形態の船舶機関システム39は、図2に示す第1実施形態の船舶機関システム11において、第1排気ライン18に排熱回収装置40及び第4切換弁42を設け、かつ、排気ライン15の出口ライン20にサイレンサ41を設けたものである。
【0071】
このようにすると、サイレンサ41によって排気音を和らげることができ、騒音の低減を図ることができる。そして、排熱回収装置40によって回収された排熱を例えば船内のボイラに使用することができる。また、排熱回収装置40を第2排気ライン19ではなく、第1排気ライン18に設けることによって、熱回収効率を向上させることができる。
【0072】
その理由は、第2排気ライン19では、排気ガス浄化部26の影響で排気ガス14の温度が下がっているからであり、また、排気ガス浄化部26を通った後の排気ガス14を排熱回収装置40に通すと、排気ガス浄化に用いる薬品(尿素等)の影響や、燃料油の排気ガスに含まれる硫酸成分(硫酸成分は、燃料ガスの排気ガスには含まれていない。)による腐食の恐れがあるからである。
【0073】
ただし、図5に示す第4実施形態では、排熱回収装置40及びサイレンサ41の両方を設けたが、これに代えていずれか一方を設けたものとしてもよい。そして、第4切換弁42を設けたが、これを省略してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0074】
以上のように、本発明に係る舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システムは、ガスモード及びディーゼルモードのいずれの動作モードで二元燃料ディーゼルエンジンを運転しても、窒素酸化物濃度が規定値以下である排気ガスが大気中に排出されるようにすることができ、しかも、ガスモードで運転中に、排気ガス中の未燃焼の可燃ガスが爆発することがあったとしても、排気ガス浄化装置が損傷することを防止できる優れた効果を有し、このような舶用排気ガス浄化装置及び船舶機関システムに適用するのに適している。
【符号の説明】
【0075】
11 船舶機関システム
12 二元燃料ディーゼルエンジン
13 舶用排気ガス浄化装置
14 排気ガス
15 排気ライン
16 第1入口ライン
17 第2入口ライン
18 第1排気ライン
19 第2排気ライン
20 出口ライン
21 排気タービン過給機
22 タービン部
23 圧縮機部
24 回転軸
25 給気管
26 排気ガス浄化部
27 排気ライン切換部
28 第1切換弁
29 第2切換弁
30 第3切換弁
31 第1接続部
32 第2接続部
35、37、39 船舶機関システム
40 排熱回収装置
41 サイレンサ
42 第4切換弁
図1
図2
図3
図4
図5