特許第6427106号(P6427106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427106
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】非電導性抗菌シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 39/18 20060101AFI20181112BHJP
   B29C 59/04 20060101ALI20181112BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20181112BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20181112BHJP
   B29L 7/00 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   B29C39/18
   B29C59/04 C
   A01N25/34 A
   A01P3/00
   B29L7:00
【請求項の数】4
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-547734(P2015-547734)
(86)(22)【出願日】2014年11月4日
(86)【国際出願番号】JP2014079180
(87)【国際公開番号】WO2015072364
(87)【国際公開日】20150521
【審査請求日】2017年7月31日
(31)【優先権主張番号】特願2013-234219(P2013-234219)
(32)【優先日】2013年11月12日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2014-51320(P2014-51320)
(32)【優先日】2014年3月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000131625
【氏名又は名称】株式会社シンク・ラボラトリー
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】重田 龍男
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 一衛
(72)【発明者】
【氏名】重田 核
【審査官】 今井 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特表2013−517903(JP,A)
【文献】 特表2007−529090(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/070625(WO,A2)
【文献】 特開2007−112989(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/132903(WO,A1)
【文献】 特開2011−230484(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 39/18
B29C 41/26
B29C 59/04
A01N 25/34
A01P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視が略四角形状の複数の突起部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなる合成樹脂製の微細凹凸表面を含む非電導性抗菌シートの製造方法であり、
前記突起部が、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース及びy方向スペースをあけて規則的に形成され、
前記シート表面から前記突起部の頂上までの高さが0.4μm〜1μmであり、
前記突起部の裾幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペースの幅と前記突起部の裾幅が同一幅であり、
前記微細凹凸表面に静的に接している細菌が、前記x方向スペースに細菌がトラップされることなしに抗菌作用を発揮してなり、
前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面が、パターニングロールで合成樹脂を合成樹脂フィルムに転写することにより作製されることを特徴とする非電導性抗菌シートの製造方法。
【請求項2】
平面視が略四角形状の複数の溝部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなる合成樹脂製の微細凹凸表面を含む非電導性抗菌シートの製造方法であり、
前記溝部が、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース及びy方向スペースをあけて規則的に形成され、
前記シート表面から前記溝部の底までの深さが0.4μm〜1μmであり、
前記溝部の開口幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペースの幅と前記溝部の開口幅が同一幅であり、
前記微細凹凸表面に静的に接している細菌が、前記溝部に細菌がトラップされることなしに抗菌作用を発揮してなり、
前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面が、パターニングロールで合成樹脂を合成樹脂フィルムに転写することにより作製されることを特徴とする非電導性抗菌シートの製造方法。
【請求項3】
前記合成樹脂が紫外線硬化型のアクリル系樹脂であり、前記合成樹脂フィルムに転写された前記アクリル系樹脂が、紫外線硬化によって硬化せしめられてなることを特徴とする請求項1又は2記載の非電導性抗菌シートの製造方法。
【請求項4】
平面視が略四角形状の複数の溝部及び/又は突起部が形成されてなる微細凹凸パターンを表面に備えてなるパターニングロールの表面に紫外線硬化型のアクリル系樹脂を供給する工程と、
前記パターニングロールの表面に合成樹脂フィルムを連続的に搬送し当接せしめることで前記合成樹脂フィルムにアクリル系樹脂を転写する工程と、
前記合成樹脂フィルムに転写された前記アクリル系樹脂に、紫外線を照射することで紫外線硬化せしめる工程と、
を有することを特徴とする請求項3記載の非電導性抗菌シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平面視が略四角形状の複数の突起部又は溝部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなる微細凹凸表面を含むアクリル系樹脂製の非電導性抗菌シート及びその製造方法並びに前記非電導性抗菌シートを用いた抗菌方法に関する。
【背景技術】
【0002】
医学及び環境汚染の分野では、細菌汚染を取り除くための効率的な手段が常に探索されている。カテーテルやドレナージなどの材料の表面上に成長する菌は、しばしばバイオフィルムを形成する。これは、環境ストレスからの保護を与える複雑な細菌の生き方を象徴するものである(非特許文献1〜4)。
【0003】
全ての細菌感染のおよそ80%がバイオフィルム関連である(非特許文献5及び6)。バイオフィルム形成により、手に負えなさが増大するばかりでなく、バイオフィルムは生体防御系に効果的に侵入することができるので、治療を妨げてしまう(非特許文献5及び6)。
【0004】
近年、鮫肌に似ているsharklet(登録商標)の微細パターンが、黄色ブドウ球菌及び大腸菌のバイオフィルム形成及び移動を妨げることに効果があるということが報告されている(非特許文献7及び8)。
【0005】
sharklet(登録商標)の微細パターンは、平面視が略四角形状の複数の突起部又は溝部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなる微細凹凸表面を含むものであるが、凸部の地形幅(feature width)及び凹部のスペース幅が2μmであり凸部の地形高さ(feature height)が3μmであり、約1〜2μmのサイズ範囲の細菌の付着を効果的に減少させるには若干大き過ぎるであろうが、追加的な細菌のさらなるコロニー形成及びその後のバイオフィルム形成を物理的に妨害するのには効果的であろう。sharklet(登録商標)の微細パターンの場合、生きている細菌は、スペースに位置していた(非特許文献7)。このような従来の微細パターンを形成した導電性抗菌シートの横断面模式図を図6に示す。図6において、従来の導電性抗菌シート100では、そのシート表面104に形成された突起部102は、高さLが3μm以上あり、突起部102の裾幅Wが2μm、凹部のスペース120の幅Sが2μmあるため、細菌24は、凹部のスペース120にトラップされる。
【0006】
sharklet(登録商標)の微細パターンは、シリコーンエラストマーを用いて作製されている。もし、地形高さが浅くて済む(好ましくは1μm以下)のであれば、鮫肌状微細パターンの作成に多くの材料を使用することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Mah TF, Pitts B, Pellock B, Walker GC,Stewart PS, O'Toole GA. 2003. A genetic basis for Pseudomonas aeruginosabiofilm antibiotic resistance. Nature. 426:306-310.
【非特許文献2】Hinsa SM, Espinosa-Urgel M, Ramos JL, O'TooleGA. 2003. Transition from reversible to irreversible attachment during biofilmformation by Pseudomonas fluorescens WCS365 requiresan ABC transporter and a large secreted protein. Mol Microbiol.49:905-918.
【非特許文献3】Banin E, Vasil ML, Greenberg EP. 2005. Iron andPseudomonas aeruginosa biofilm formation. Proc Natl Acad SciU S A. 102:11076-11081.
【非特許文献4】Fux CA, Costerton JW, Stewart PS, Stoodley P. 2005. Survivalstrategies of infectious biofilms. Trends Microbiol.13:34-40.
【非特許文献5】Davies D. 2003. Understanding biofilmresistance to antibacterial agents. Nat Rev Drug Discov. 2:114-122.
【非特許文献6】Lopez D, VlamakisH, Kolter R. 2010. Biofilms. Cold Spring Harb Perspect Biol. 2:a000398.
【非特許文献7】Chung KK, Schumacher JF, Sampson EM, Burne RA, Antonelli PJ,Brennan AB. 2007. Impact of engineered surface microtopographyon biofilm formation of Staphylococcus aureus. Biointerphases. 2:89-94.
【非特許文献8】Reddy ST, Chung KK, McDaniel CJ, Darouiche RO, Landman J, Brennan AB. 2011. Micropatterned surfaces for reducing the risk ofcatheter-associated urinary tract infection: An in vitrostudyon the effect of sharklet micropatternedsurfaces to inhibit bacterial colonization and migration of uropathogenicEscherichia coli. J Endourol.25:1547-1552.
【非特許文献9】Vogel HJ, Bonner DM. 1956. Acetylornithinase of Escherichia coli: partial purificationand some properties. J Biol Chem. 218:97-106.
【非特許文献10】Hassett DJ, Schweizer HP, OhmanDE. 1995. Pseudomonas aeruginosa sodA and sodBmutants defective in manganese- and iron-cofactored superoxide dismutase activity demonstrate theimportance of the iron-cofactored form in aerobicmetabolism. J Bacteriol.177:6330-6337.
【非特許文献11】Sakamoto A, TeruiY, Yamamoto T, Kasahara T, Nakamura M, Tomitori H, Yamamoto K, IshihamaA, Michael AJ, Igarashi K, Kashiwagi K. 2012.Enhanced biofilm formation and/or cell viability by polyamines through stimulationof response regulators UvrYand CpxR in the two-component signal transducingsystems, and ribosome recycling factor. Int J Biochem Cell Biol. 44:1877-1886.
【非特許文献12】de la Fuente-Nunez C, KorolikV, Bains M, Nguyen U, BreidensteinEB, Horsman S, Lewenza S,Burrows L, Hancock RE. 2012. Inhibition of bacterial biofilm formation andswarming motility by a small synthetic cationic peptide. Antimicrob Agents Chemother. 56:2696-2704.
【非特許文献13】Lamppa JW, Griswold KE. 2013. Alginate lyaseexhibits catalysis-independent biofilm dispersion and antibiotic synergy. AntimicrobAgents Chemother. 57:137-145.
【非特許文献14】Long CJ, Schumacher JF, Brennan AB. 2009.Potential for tunable static and dynamic contact angle anisotropy on gradient microscale patterned topographies. Langmuir.25:12982-12989.
【非特許文献15】Long CJ, Schumacher JF, Robinson PA, 2nd,Finlay JA, Callow ME, Callow JA, Brennan AB. 2010. A model that predicts theattachment behaviorof Ulva linza zoospores on surface topography. Biofouling.26:411-419.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記した従来技術の問題点に鑑みなされたもので、従来よりも凹凸が浅くて済むことから、より多くの材料を使用できる、非電導性抗菌シート及びその製造方法並びに抗菌方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の非電導性抗菌シートの第一の態様は、平面視が略四角形状の複数の突起部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面を含む非電導性抗菌シートであって、前記突起部が、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース及びy方向スペースをあけて規則的に形成され、前記シート表面から前記突起部の頂上までの高さが0.4μm〜1μmであり、前記突起部の裾幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペースの幅と前記突起部の裾幅が同一幅であり、前記微細凹凸表面に静的に接している細菌が、前記x方向スペースに細菌がトラップされることなしに抗菌作用を発揮してなることを特徴とする。なお、y方向スペースの幅は、3μm〜8μmが好適である。
【0010】
本明細書において、シートとは、シート状のものを広く含む意味であり、非導電性であれば、フィルム状のものやプレート状のものをいずれも含む。
【0011】
このように、前記シート表面から前記突起部の頂上までの高さが0.4μm〜1μmであり、前記突起部の裾幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペースの幅と前記突起部の裾幅が同一幅であると、全長が3μm程度の細菌は、前記x方向スペースにトラップされないが、前記x方向スペースに細菌がトラップされなくとも、抗菌作用を発揮することを本発明者らは見出した。すなわち、本発明の非電導性抗菌シートでは前記微細凹凸表面の凹凸が浅くとも抗菌作用を発揮するのである。
【0012】
本発明の非電導性抗菌シートの第二の態様は、平面視が略四角形状の複数の溝部がシート表面に形成されることで凹凸群を形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面を含む非電導性抗菌シートであって、前記溝部が、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース及びy方向スペースをあけて規則的に形成され、前記シート表面から前記溝部の底までの深さが0.4μm〜1μmであり、前記溝部の開口幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペースの幅と前記溝部の開口幅が同一幅であり、前記微細凹凸表面に静的に接している細菌が、前記溝部に細菌がトラップされることなしに抗菌作用を発揮してなることを特徴とする。なお、y方向スペースの幅は、3μm〜8μmが好適である。
【0013】
このように、前記溝部が、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース及びy方向スペースをあけて規則的に形成され、前記シート表面から前記溝部の底までの深さが0.4μm〜1μmであり、前記溝部の開口幅が2μm〜3μmであると、全長が3μm程度の細菌は、前記溝部にトラップされないが、前記溝部にトラップされなくとも、抗菌作用を発揮することを本発明者らは見出した。すなわち、本発明の非電導性抗菌シートでは前記微細凹凸表面の凹凸が浅くとも抗菌作用を発揮するのである。
【0014】
また、アクリル系樹脂としては、ポリアクリレートが好ましい。
【0015】
溶液中など水分があるところの細菌は、バイオフィルムを形成するが、本発明の非電導性抗菌シートでは、前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面に静的に接している細菌のバイオフィルム形成が抑制される。
【0016】
また、本発明の非電導性抗菌シートを、前記微細凹凸表面が細菌に静的に接するように、面上に静置した細菌の上に被せることで、細菌のスウォーミング(走化性)が抑制される。
【0017】
前記細菌が静置される面は、フィルターの面でもよい。前記面としてフィルターの面であっても、細菌のスウォーミング(走化性)が抑制される。
【0018】
本発明の抗菌方法は、前記非電導性抗菌シートを用いることを特徴とする。
【0019】
本発明の抗菌方法は、前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面に細菌を静的に接しせしめることにより、前記細菌のバイオフィルム形成を抑制するのが好ましい。
【0020】
本発明の抗菌方法は、前記非電導性抗菌シートを、面上に静置した細菌の上に被せることで、前記細菌のスウォーミングを抑制してなるのが好ましい。
【0021】
本発明の非電導性抗菌シートの製造方法は、前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面が、パターニングロールでアクリル系樹脂を合成樹脂フィルムに転写することにより作製されることを特徴とする。
【0022】
本発明の非電導性抗菌シートの製造方法は、前記アクリル系樹脂が紫外線硬化型のアクリル系樹脂であり、前記合成樹脂フィルムに転写された前記アクリル系樹脂が、紫外線硬化によって硬化せしめられてなるのが好ましい。
【0023】
本発明の非電導性抗菌シートの製造方法は、平面視が略四角形状の複数の溝部及び/又は突起部が形成されてなる微細凹凸パターンを表面に備えてなるパターニングロールの表面に紫外線硬化型のアクリル系樹脂を供給する工程と、前記パターニングロールの表面に合成樹脂フィルムを連続的に搬送し当接せしめることで前記合成樹脂フィルムにアクリル系樹脂を転写する工程と、前記合成樹脂フィルムに転写された前記アクリル系樹脂に、紫外線を照射することで紫外線硬化せしめる工程と、を有するのが好適である。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、従来よりも凹凸が浅くて済むことから、より多くの材料を使用できる、非電導性抗菌シート及びその製造方法並びに抗菌方法を提供することができるという著大な効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の非電導性抗菌シートの第一の態様の一つの実施の形態を示す拡大部分斜視図である。
図2】本発明の非電導性抗菌シートの第二の態様の一つの実施の形態を示す拡大部分斜視図である。
図3】本発明の非電導性抗菌シートの第一の態様の別の実施の形態を示す拡大部分斜視図である。
図4】本発明の非電導性抗菌シートの第二の態様の別の実施の形態を示す拡大部分斜視図である。
図5】本発明の非電導性抗菌シートを示す拡大横断面模式図であって、(a)が第一の態様、(b)が第二の態様を示す。
図6】従来の微細パターンを形成した導電性抗菌シートの横断面模式図である。
図7】本発明の非電導性抗菌シートによってバイオフィルムの形成が抑制される様子を示す概略側面図である。
図8】従来の平滑な非電導性抗菌シートにおけるバイオフィルムの形成を示す概略側面図である。
図9】本発明の非電導性抗菌シートを、面上に静置した細菌の上に被せることで細菌のスウォーミングが抑制される様子を示す概略斜視図である。
図10】本発明に係る非電導性抗菌シートの製造方法に用いられる装置の一つの実施の形態を示す概略側面図である。
図11】緑膿菌を撹拌培養した結果を吸光度で示したグラフである。
図12】静的バイオフィルムアッセイによるバイオフィルム形成の結果を吸光度で示したグラフである。
図13】緑膿菌のスウォーミング運動性アッセイの結果を示す写真である。
図14】緑膿菌のスウォーミング運動性アッセイの結果を相対幅で示すグラフである。
図15】緑膿菌のスウォーミング運動性アッセイで用いたプレートのSEM写真であって、Aがプレートの微細凹凸表面を示す写真、Bがそれを用いてスウォーミング運動性アッセイを行った後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を説明するが、これら実施の形態は例示的に示されるもので、本発明の技術思想から逸脱しない限り種々の変形が可能なことはいうまでもない。
【0027】
本発明の非電導性抗菌シートの第一の態様の一つの実施の形態を図1に示す。図1において、符号10Aは、本発明の第一の態様の一つの実施の形態を示す。非電導性抗菌シート10Aは、平面視が略四角形状の複数の突起部12aがシート表面14aに形成されることで凹凸群16aを形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面18aを含む非電導性抗菌シートであって、前記突起部12aが、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース20a及びy方向スペース22aをあけて規則的に形成されている。図1によく示される如く、x方向スペース20aはx方向に形成されたスペースであり、y方向スペース22aはy方向に形成されたスペースである。
【0028】
そして、前記シート表面14aから前記突起部12aの頂上までの高さが0.4μm〜1μmであり、前記突起部12aの裾幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペース20aの幅と前記突起部12aの裾幅が同一幅とされている。
【0029】
図5(a)によく示されるように、前記シート表面14aから前記突起部12aの頂上までの高さHが0.4μm〜1μmであり、前記突起部12aの裾幅BWが2μm〜3μmであり、前記x方向スペース20aの幅XS1と前記突起部12aの裾幅BWが同一幅とされていると、前記微細凹凸表面18aに静的に接している全長が3μm程度の細菌24は、前記x方向スペース20aにトラップされないが、前記x方向スペース20aに細菌がトラップされなくとも、抗菌作用を発揮するのである。
【0030】
なお、図示例では、微細凹凸表面18aを形成するアクリル系樹脂として、ポリアクリレートを用い、シート本体26として、PET(ポリエチレンテレフタラート)製のフィルムを用い、シート本体26上に微細凹凸表面18aを形成しシート表面14aとした例を示した。また、本発明において、前記アクリル系樹脂及びシート本体26は、非電導性である。
【0031】
次に、本発明の非電導性抗菌シートの第二の態様の一つの実施の形態を図2に示す。図2において、符号10Bは、本発明の第二の態様の一つの実施の形態を示す。非電導性抗菌シート10Bは、平面視が略四角形状の複数の溝部32aがシート表面34aに形成されることで凹凸群36aを形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面38aを含む非電導性抗菌シートであって、前記溝部32aが、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース40a及びy方向スペース42aをあけて規則的に形成されている。図2によく示される如く、x方向スペース40aはx方向に形成されたスペースであり、y方向スペース42aはy方向に形成されたスペースである。
【0032】
そして、前記シート表面34aから前記溝部32aの底までの深さが0.4μm〜1μmであり、前記溝部32aの開口幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペース40aの幅と前記溝部32aの開口幅が同一幅とされている。
【0033】
図5(b)によく示されるように、前記シート表面34aから前記溝部32aの底までの深さDTが0.4μm〜1μmであり、前記溝部32aの開口幅OWが2μm〜3μmであり、前記x方向スペース40aの幅XS2と前記溝部32aの開口幅OWが同一幅とされていると、前記微細凹凸表面38aに静的に接している全長が3μm程度の細菌24は、前記溝部32aにトラップされないが、前記溝部32aに細菌がトラップされなくとも、抗菌作用を発揮するのである。
【0034】
なお、図示例では、微細凹凸表面38aを形成するアクリル系樹脂として、ポリアクリレートを用い、シート本体26として、PET(ポリエチレンテレフタラート)製のフィルムを用い、シート本体26上に微細凹凸表面38aを形成しシート表面34aとした例を示した。また、本発明において、前記アクリル系樹脂及びシート本体26は、非電導性である。
【0035】
また、本発明の非電導性抗菌シートの第一の態様の別の実施の形態を図3に示す。図3において、符号10Cは、本発明の第一の態様の別の実施の形態を示す。非電導性抗菌シート10Cは、平面視が略四角形状の複数の突起部12bがシート表面14bに形成されることで凹凸群16bを形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面18bを含む非電導性抗菌シートであって、前記突起部12bが、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース20b及びy方向スペース22bをあけて規則的に形成されている。図3によく示される如く、x方向スペース20bはx方向に形成されたスペースであり、y方向スペース22bはy方向に形成されたスペースである。
【0036】
そして、前記シート表面14bから前記突起部12bの頂上までの高さが0.4μm〜1μmであり、前記突起部12bの裾幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペース20bの幅と前記突起部12bの裾幅が同一幅とされている。非電導性抗菌シート10Cの場合にも、前記x方向スペース20bに細菌がトラップされなくとも、抗菌作用を発揮するのである。
【0037】
なお、図示例では、微細凹凸表面18bを形成するアクリル系樹脂として、ポリアクリレートを用い、シート本体26として、PET(ポリエチレンテレフタラート)製のフィルムを用い、シート本体26上に微細凹凸表面18bを形成しシート表面14bとした例を示した。また、本発明において、前記アクリル系樹脂及びシート本体26は、非電導性である。
【0038】
さらに、本発明の非電導性抗菌シートの第二の態様の別の実施の形態を図4に示す。図4において、符号10Dは、本発明の第二の態様の別の実施の形態を示す。非電導性抗菌シート10Dは、平面視が略四角形状の複数の溝部32bがシート表面34bに形成されることで凹凸群36bを形成してなるアクリル系樹脂製の微細凹凸表面38bを含む非電導性抗菌シートであって、前記溝部32bが、x方向及びそれに直交するy方向に、所定の幅のx方向スペース40b及びy方向スペース42bをあけて規則的に形成されている。図4によく示される如く、x方向スペース40bはx方向に形成されたスペースであり、y方向スペース42bはy方向に形成されたスペースである。
【0039】
そして、前記シート表面34bから前記溝部32bの底までの深さが0.4μm〜1μmであり、前記溝部32bの開口幅が2μm〜3μmであり、前記x方向スペース40bの幅と前記溝部32bの開口幅が同一幅とされている。非電導性抗菌シート10Dの場合にも、前記溝部32bに細菌がトラップされなくとも、抗菌作用を発揮するのである。
【0040】
なお、図示例では、微細凹凸表面38bを形成するアクリル系樹脂として、ポリアクリレートを用い、シート本体26として、PET(ポリエチレンテレフタラート)製のフィルムを用い、シート本体26上に微細凹凸表面38bを形成しシート表面34bとした例を示した。また、本発明において、前記アクリル系樹脂及びシート本体26は、非電導性である。
【0041】
そして、溶液中など水分があるところの細菌は、バイオフィルムを形成するが、本発明の非電導性抗菌シート10A〜10Dの前記微細凹凸表面18a,38a,18b,38bに静的に接している細菌のバイオフィルム形成が抑制される。
【0042】
本発明の非電導性抗菌シートによってバイオフィルムの形成が抑制される様子を図7に模式的に示す。図7に示すように、非電導性抗菌シート10Aの微細凹凸表面18aに溶液35中で静的に接している細菌24のバイオフィルム37の形成が抑制される。このため、バイオフィルム37はほとんど形成されない。なお、本明細書において、静的に接しているとは、撹拌等をすることなく静かな状態で接しているという意味である。
【0043】
一方、図8に示すように、従来の平滑な表面132を有するシート130では、前記平滑な表面132に静的に接している細菌24のバイオフィルム形成は抑制されることがないため、バイオフィルム37が形成されてしまう。
【0044】
また、本発明の非電導性抗菌シートを、前記微細凹凸表面が細菌に静的に接するように、面上に静置した細菌の上に被せることで、細菌のスウォーミングが抑制される。
【0045】
本発明の非電導性抗菌シートを、前記微細凹凸表面が細菌に静的に接するように、面上に静置した細菌の上に被せることで、細菌のスウォーミングが抑制される様子を図9に模式的に示す。図9に示すように、非電導性抗菌シート10Aの微細凹凸表面18aに細菌24が静的に接するように、面39上に静置した細菌24の上に被せることで、細菌24のスウォーミングが抑制される。図9の例では、面39としては、フィルターの面を示した。なお、本明細書において、静置とは、撹拌等をすることなく静かな状態で置かれているという意味である。
【0046】
本発明の抗菌方法は、前記非電導性抗菌シートを用いる抗菌方法である。例えば、医療施設や養護施設等といった施設や建物の床材、廊下、テーブル、椅子、トイレ、浴室などの様々な面や電車等の乗り物のつり革等に、本発明の非電導性抗菌シートを取り付けておけば、前記非電導性抗菌シートの微細凹凸表面上に存在する細菌のスウォーミングが効果的に抑制されるし、バイオフィルムの形成も効果的に抑制される。このようにして、抗菌が実現される。
【0047】
本発明の抗菌方法は、上述のように前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面に細菌を静的に接しせしめることにより、前記細菌のバイオフィルム形成を抑制することができる。
【0048】
本発明の抗菌方法は、上述のように前記非電導性抗菌シートを、前記微細凹凸表面が細菌に静的に接するように、面上に静置した細菌の上に被せることで、前記細菌のスウォーミングを抑制することができる。
【0049】
次に、本発明の非電導性抗菌シートの製造方法を説明する。本発明の非電導性抗菌シートの製造方法では、前記非電導性抗菌シートの前記微細凹凸表面が、パターニングロールでアクリル系樹脂を合成樹脂フィルムに転写することにより作製される。そして、前記アクリル系樹脂が紫外線硬化型のアクリル系樹脂であり、前記合成樹脂フィルムに転写された前記アクリル系樹脂が、紫外線硬化によって硬化せしめられてなるのが好ましい。
【0050】
より具体的には、図10に示すような装置を用いて製造することができる。図10に示すような装置を用い、平面視が略四角形状の複数の溝部及び/又は突起部が形成されてなる微細凹凸パターン42を表面に備えてなるパターニングロール44の表面に紫外線硬化型のアクリル系樹脂46を供給する工程と、前記パターニングロール44の表面に合成樹脂フィルム48を連続的に搬送し当接せしめることで前記合成樹脂フィルム48にアクリル系樹脂46を転写する工程と、前記合成樹脂フィルム48に転写された前記アクリル系樹脂46に、紫外線50を照射することで紫外線硬化せしめる工程と、を有する方法とするのが好適である。
【0051】
合成樹脂フィルム48としては、例えばPETフィルムを適用できる。また、図10において、合成樹脂フィルム48を搬送するための搬送ロール52,54が設けられている。また、紫外線を照射するための紫外線照射装置56,58も設けられている。このようにして、非電導性抗菌シート10Aを製造することができる。
【実施例】
【0052】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0053】
<パターニングロールの製造>
円周600mm、面長1100mmの版母材(アルミ中空ロール)を準備し、New−FX(株式会社シンク・ラボラトリー製全自動レーザーグラビア製版ロール製造装置)を用いてパターニングロールの製造を行った。まず、版母材(アルミ中空ロール)を銅メッキ槽に装着し、中空ロールをメッキ液に全没させて20A/dm2、6.0Vで40μmの銅メッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一な銅メッキ層を得た。この銅メッキ層の表面を2ヘッド型研磨機(株式会社シンク・ラボラトリー製研磨機)を用いて研磨して当該銅メッキ層の表面を均一な研磨面とした。上記形成した銅メッキ層を基材としてその表面にフォトレジスト(サーマルレジスト:TSER−NS(株式会社シンク・ラボラトリー製))を塗布(ファウンテンコーター)、乾燥した。得られたフォトレジストの膜厚は膜厚計(FILLMETRICS社製F20、松下テクノトレーデイング社販売)で計ったところ、7μmであった。ついで、画像をレーザー露光し現像した。上記レーザー露光は、Laser Stream FXを用い露光条件300mJ/cm2で所定のパターン露光を行った。また、上記現像は、TLD現像液(株式会社シンク・ラボラトリー製現像液)を用い、現像液希釈比率(原液1:水7)で、24℃90秒間行い、所定のレジストパターン部と非レジストパターン部を形成した。
【0054】
次に、非レジストパターン部の銅メッキ層に対して、塩化第二銅腐食液を20秒間スプレーエッチングし、エッチング深さが0.4μmのエッチング凹部を形成した。その後、レジストパターン部のフォトレジストを5%KOH水溶液で剥離除去した。
【0055】
次いで、前記中空ロールをニッケルメッキ槽に装着し、メッキ液に半没させて2A/dm2、7.0Vで1μmのニッケルメッキ層を形成した。メッキ表面はブツやピットの発生がなく、均一なニッケルメッキ層を得た。
【0056】
次に、ニッケルメッキ層の上面にDLC被覆膜をCVD法で形成した。雰囲気はアルゴン/水素ガス雰囲気、原料ガスにトルエン、成膜温度80−120℃、成膜時間180分で膜厚1μmのDLC被覆膜を成膜した。
【0057】
上述のようにして、4種類の微細凹凸パターンを表面に備えてなるパターニングロールをそれぞれ製造した。なお、上述の製造例では、硬質被覆膜としてDLC被覆膜を形成した例を示したが、クロムやニッケルなど、硬質被覆膜であればいずれも適用可能である。
【0058】
この得られた4種類のパターニングロールの表面を光学顕微鏡で観察したところ、平面視が略四角形状の複数の溝部及び/又は突起部が形成されてなる微細凹凸パターンを表面に備えてなるパターニングロールが観察された。
【0059】
また、上述した例では、現像の後、エッチングによりエッチング凹部を形成した例を示したが、高さ1μmの突起部又は深さ1μmの溝部が形成されてなる微細凹凸パターンを形成する場合には、例えば、現像の後、エッチングせずにDLC等の硬質被覆膜でレジストパターン部と非レジストパターン部とを被覆することで、高さ1μmの突起部又は深さ1μmの溝部が形成されてなる微細凹凸パターンを形成するようにするのが好ましい。
【0060】
<非電導性抗菌シートの製造>
次に、図10と同様にして、パターニングロールの表面に紫外線硬化型のアクリル系樹脂を供給し、前記パターニングロールの表面に合成樹脂フィルムとしてPETフィルムを連続的に搬送し当接せしめることで前記PETフィルムにアクリル系樹脂を転写した。そして、前記PETフィルムに転写された前記アクリル系樹脂に、紫外線を照射して紫外線硬化せしめ、図1図4に示したような4種類の微細凹凸表面を有する非電導性抗菌シートを製造した。
【0061】
<材料及び方法>
[非電導性抗菌シートの微細凹凸表面]
実施例1〜4では、非電導性抗菌シートとして、上述のように製造し、下記のような4種類の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなポリアクリレートプレートを用いた。また、比較例1として、PETフィルムにアクリル系樹脂を塗布して紫外線硬化させただけの平滑表面を有するポリアクリレートプレートを用いた。
【0062】
実施例1: ポリアクリレートプレートの微細凹凸表面は、図1に示すような平面視が略四角形状であり長さの異なる複数の突起部が規則的に形成された微細凹凸表面とした。シート表面から突起部の頂上までの高さが0.4μm、突起部の裾幅が2μm、x方向スペースの幅が2μm、y方向スペースの幅が4μm。
実施例2: ポリアクリレートプレートの微細凹凸表面は、図2に示すような平面視が略四角形状であり長さの異なる複数の溝部が規則的に形成された微細凹凸表面とした。シート表面から溝部の底までの深さが0.4μm、溝部の開口幅が2μm、x方向スペースの幅が2μm、y方向スペースの幅が4μm。
実施例3: ポリアクリレートプレートの微細凹凸表面は、図3に示すような平面視が略四角形状であり長さ16μmの複数の突起部が規則的に形成された微細凹凸表面とした。シート表面から突起部の頂上までの高さが0.4μm、突起部の裾幅が2μm、x方向スペースの幅が2μm、y方向スペースの幅が6μm。
実施例4: ポリアクリレートプレートの微細凹凸表面は、図4に示すような平面視が略四角形状であり長さ16μmの複数の溝部が規則的に形成された微細凹凸表面とした。シート表面から溝部の底までの深さが0.4μm、溝部の開口幅が2μm、x方向スペースの幅が2μm、y方向スペースの幅が6μm。
【0063】
[菌株及び培養条件]
Hassett et al.(非特許文献10)の方法に従い、緑膿菌(およそ10cells/ml)をL-タイプガラスチューブ(直径1.5cm、水平長さ13.5cm、高さ8cm)中で、5mlのグルコース(0.4%)VBMM最小培地(9)中で37℃で120rpmで撹拌しながら培養した。緑膿菌の細菌細胞増殖は540nmでの吸光度を測定することによって観察された。培地の量に対するプレートの領域の比率を調整するために、異なる表面形状を備えた25ピースのポリアクリレートプレート(1cm x 2cm)をL-タイプガラスチューブに加えた。
【0064】
[静的なバイオフィルム形成の測定]
非特許文献11に記載された方法に準じて、マイクロタイター静的バイオフィルムアッセイを行った。細菌細胞を一晩培養した液を初期吸光度(A540)が0.01〜0.02(およそ106 cell/ml)となるようにVBMM培地中で1:1000で希釈した。希釈した培養液(50μl)を撹拌せずに37℃で24時間96ウェルのマイクロタイタープレート中で培養し、細菌細胞密度を吸光度(A595)で測定して決定した。浮遊性細菌細胞を取り除いた後、室温で30分間0.1%クリスタルバイオレット溶液(0.2ml)でバイオフィルムを染色し、蒸留水で5回洗浄した。クリスタルバイオレット染色(Crystal violet stain)を20%酢酸(0.2 ml)で可溶化し、570nmでの吸光度を測定した。バイオフィルムの形成は、A570/A595で発現した。各々のウェルに、異なる表面形状のポリアクリレートプレート(直径6mm)を微細凹凸表面を上にして細菌がその上に静的に接するように敷設した。
【0065】
[スウォーミング運動性]
de la Fuente-Nunez et al. (非特許文献12)の方法に従い、スウォーミング運動性の実験を行った。細菌細胞は一晩培養したものを、VBMM培地で吸光度(A540)が0.05となるまで希釈した。5 μlの希釈した細菌細胞を、Luria-Bertani (LB) 培地を含む0.5%寒天プレートの中央にスポットし、異なる表面形状を備えたポリアクリレートプレート(1cm x 1cm)で蓋をした。寒天プレートを37℃で24時間培養した。写真をとり、スウォーミングエリアを測定した。
【0066】
[走査型電子顕微鏡(SEM)]
Lamppa and Grieswold(非特許文献13)の方法に準じて、SEMで観察した。細胞は、“スウォーミング運動性”の項で記述したように培養され、ポリアクリレートプレートは、4℃で一晩2%グルタルアルデヒドで固定した。プレートの脱水を、50%, 70%, 80%, 90% 及び 95%アセトンでそれぞれ15分間行い、100%アセトンと100%第三ブチルアルコールでの15分間の脱水に3回ずつ変えて行った。プレートはその後、真空蒸発器(JFD-310, JEOL,Japan)で3時間空気乾燥し、溶かしたアピエゾンワックス層とともにSEMのスタブに装着した。装着したプレートをその後、金及びパラジウムでスパッタコーティングし、SEM (JSM-6060LV, JEOL, Japan)で観察した。
【0067】
<結果>
[非電導性抗菌シート上のバイオフィルムの形成の減少]
非電導性抗菌シート自体が緑膿菌のバイオフィルム形成の減少にとって重要であるか否かを調べるために、細菌細胞の成長及び緑膿菌のバイオフィルム形成について、比較例1の平滑な表面を有するプレート及び実施例1〜4の微細凹凸表面を有するプレートで比較した。
【0068】
(実験例)−撹拌培養実験−
実施例1、実施例3及び比較例1の25ピースの種々のプレート (1 cm x 2 cm) を含む5mlのグルコースVBMM培地中で細菌細胞を撹拌培養した。また、プレートなしのものも比較のために同様に細菌細胞を撹拌培養した。図11に、撹拌しての緑膿菌の細胞成長における、種々のタイプの微細パターンプレートの効果を示す。細胞成長は種々のタイプのプレートの存在下で吸光度[A540]を測定することにより観察された。図11に示すように、細菌細胞を撹拌培養した場合には、どの種類のプレートでも緑膿菌の細胞成長は抑制されなかった。
【0069】
(実施例1〜4及び比較例1)−静置での実験−
それぞれのウェルに実施例1〜4及び比較例1の種々のプレートを微細凹凸表面を上にして細菌がその上に静的に接するように置いてマイクロタイター静的バイオフィルムアッセイを行った。撹拌での細菌細胞成長とは対照的に、平滑なプレート(比較例1)の代わりに、実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートを使用した場合、プレート上のバイオフィルム形成は著しく抑制された。実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートによるバイオフィルム形成の抑制率は、およそ70%であった。実施例3及び4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートを使用した場合でも、バイオフィルムの形成は抑制された。実施例3及び4のプレートによるバイオフィルム形成の抑制率は、およそ30%であった。また、バイオフィルム形成の減少は、突起部を設けた凸部タイプのプレート(実施例1及び実施例3)に対して、溝部を設けた凹部タイプのプレート(実施例2及び実施例4)が使用された場合であっても、バイオフィルム形成の抑制効果は、ほとんど同じであった。結果を図12に示す。図12は、撹拌なしで、種々のタイプのプレート上で培養後の緑膿菌のバイオフィルム形成を示すグラフである。バイオフィルム形成は上述の「材料及び方法」の項に記載したように評価した。実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートの存在下で得られた値に対する比較例1の平滑なプレートの存在下で得られた値に対して、スチューデントのt検定(Student’s t test)を行った。図12において、* p< 0.05; ** p< 0.01である。
【0070】
[非電導性抗菌シート上の細胞のスウォーミング運動性の減少]
それから、緑膿菌のスウォーミング運動性も非電導性抗菌シートによって抑制されるかどうかを検証した。何故ならば、細菌細胞のスウォーミングは細菌感染のための一つの重要な要素だからである。希釈した細胞を、柔らかい寒天面上にスポットし、実施例1〜4及び比較例1の種々のプレートを、寒天面上に静置した細菌の上に被せてカバーし、37℃で24時間の条件下で培養した。図13及び図14に、種々のタイプのプレートでカバーした0.5%寒天プレート上での緑膿菌のスウォーミングを示す。細胞のスウォーミングは、上述した「材料及び方法」の項に記載したように評価した。図13が細胞のスウォーミングの写真、図14が、実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートでカバーされた細胞のスウォーミング領域の相対幅を比較例1の平滑なプレートでカバーされた細胞と比較したパーセンテージで示したものである。実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートの存在下で得られた値に対する比較例1の平滑なプレートの存在下で得られた値に対して、スチューデントのt検定(Student’s t test)を行った。図14において、* p< 0.05; ** p< 0.01である。
【0071】
図13及び図14に示すように、細菌細胞のスウォーミングは実施例1及び実施例2の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートで強く抑制され、実施例3及び実施例4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートだと、弱く抑制された。細菌細胞のスウォーミングは、比較例1の平滑なプレートでカバーをした場合と比べて、実施例1及び実施例2のプレートによるスウォーミングの抑制率はおよそ65%であり、実施例3及び実施例4のプレートによるスウォーミングの抑制率はおよそ50%であった。スウォーミングの抑制率は、溝部を設けた凹部タイプのプレート(実施例2及び実施例4)が使用された場合であっても、ほとんど同じであった。この結果は、実施例で用いた微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートによって細菌細胞のスウォーミングが抑制されることを示している。
【0072】
[プレート上の細菌細胞数の減少]
上述したスウォーミング運動性アッセイのために使用した実施例1〜4及び比較例1の種々のプレート上の細菌細胞の状態を、より詳細に走査型電子顕微鏡(SEM)で分析した(図15)。種々のプレートの表面の微細パターントポグラフィを図15Aに示す。図15は、撹拌なしで、種々のタイプのプレート上で培養後の緑膿菌の細胞の数を測定したものであり、Aが種々のタイプのプレートのSEM写真、Bが種々のタイプのプレート上の緑膿菌のSEM写真である。細菌細胞は、図13及び図14の説明中に記載したように培養し、SEM上の10μm2における細胞を20の異なるプレートにおいてカウントした。種々のタイプのプレート上の平均細胞数は、平滑なプレート上で培養した細胞と比較したパーセンテージで示した。パーセントの細胞数は、標準誤差の平均値(mean ± S. E.)である。実施例1〜4の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートの存在下で得られた値に対する比較例1の平滑なプレートの存在下で得られた値に対して、スチューデントのt検定(Student’s t test)を行った。* p < 0.05; ** p < 0.01である。
【0073】
プレート上の細菌細胞の数は、実施例1及び実施例2の両方で、比較例1の平滑なプレートに比較して約30%まで減少した。実施例3及び実施例4のプレートでは、比較例1の平滑なプレートに比較して約50%減少した。地形高さは小さい(0.4 μm)ため、細菌細胞は、実施例1及び実施例3のプレート表面の突起部の頂上及び実施例2及び4のプレートのx方向スペース上に位置しており、実施例1及び実施例3のプレート表面のx方向スペース及び実施例2及び4のプレートの溝部には位置していなかった(図15B)。実施例1〜4のように、浅い凹凸(0.4 μm)表面を有するトポグラフィカルなプレートにおける細菌細胞の存在位置は、従来のsharklet(登録商標)の微細パターンのような深い凹凸(3μm) 表面を有するトポグラフィカルなプレートにおける細菌細胞の存在位置と対照的なものであった。これらの結果は、本発明の非電導性抗菌シート自体が、表面の凹凸が浅くとも、細菌細胞の数及びバイオフィルムの形成を減少させることに関係していることを示している。
【0074】
[考察]
シリコンエラストマーからなる鮫肌トポグラフィプレート(sharklet(登録商標))(地形幅及び隙間が2μmで地形高さが3μm)が、黄色ブドウ球菌(7)及び大腸菌(8)のバイオフィルム形成及びスウォーミングを抑制したことが報告されている。このプレートはまた、ウスバアオノリの遊走子(15)の付着も抑制した。
本発明者らは、ポリアクリレートからなる浅い地形高さ(地形幅及び隙間が2μmで地形高さが0.4μm)の微細凹凸表面を有するトポグラフィカルなプレートでも緑膿菌のバイオフィルム形成を抑制することを確認した。本発明の非電導性抗菌シートによれば、バイオフィルム形成の抑制はまた、大腸菌でも観察された(データは非表示)。さらに、本発明の非電導性抗菌シートによれば、バイオフィルム形成の抑制はまた、黄色ブドウ球菌でも観察された(データは非表示)。したがって、グラム陰性菌及びグラム陽性菌のいずれの菌でも効果が確認された。バイオフィルム形成及びスウォーミング運動性の減少には幾つかのファクターが関連しているものと考えられる。
【0075】
それらのファクターとは、表面特性、表面トポグラフィ、地形寸法、及び屈曲度である。バイオフィルム形成及びスウォーミング運動性の減少のためには、プレート上の表面トポグラフィの多様性により、屈曲度が重要であることを該結果は示唆している。この考えは、突起部を設けた実施例1及び実施例3のような表面形状と溝部を設けた実施例2及び実施例4のような表面形状を有するプレートで同様の抗菌効果が得られたということからも裏付けられる。
【0076】
また、最初の細胞の数が少ないと、本発明の非電導性抗菌シートによってバイオフィルム形成及びスウォーミング運動性が抑制される率はより増大する。本発明の非電導性抗菌シートでは、汚染された細菌の細胞の数が1 x 104 cells/cm2よりも小さければ、ほとんど完全に除去できる。これらの結果を総合すると、もし、医療処置に関係する施設や人々が集まる場所などにおける建物及び器具が本発明の非電導性抗菌シートによってカバーされていれば、細菌感染を著しく減少させることができることを示している。
【符号の説明】
【0077】
10A,10B,10C,10D:本発明の非電導性抗菌シート、12a,12b:突起部、14a,14b,34a,34b:シート表面、16a,16b,36a,36b:凹凸群、18a,18b,38a,38b:微細凹凸表面、20a,20b,40a,40b:x方向スペース、22a,22b,42a,42b:y方向スペース、24:細菌、26:シート本体、32a,32b:溝部、35:溶液、37:バイオフィルム、39:面、42:微細凹凸パターン、44:パターニングロール、46:アクリル系樹脂、48:合成樹脂フィルム、50:紫外線、52,54:搬送ロール、56,58:紫外線照射装置、100:従来の導電性抗菌シート、104:従来のシート表面、102:従来の突起部、120:従来の凹部のスペース、130:従来の平滑な表面を有するシート、132:平滑な表面、BW:突起部の裾幅、DT:シート表面から溝部の底までの深さ、H:シート表面から突起部の頂上までの高さ、L:従来のシート表面から突起部の頂上までの高さ、OW:溝部の開口幅、S:従来の凹部のスペースの幅、W:従来の突起部の裾幅、XS1,XS2:x方向スペースの幅。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15