(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
押出機のダイ出口から吐出された溶融状態にあるシート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物を、弾性ロールとキャストロールからなる一対の平滑化ロールに挟み込んで成形する工程を経て、光学フィルムを製造する方法であって、
前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物がアクリル系樹脂とアクリルゴム粒子を含み、
前記工程が以下の条件を満足することを特徴とする、光学フィルムの製造方法。
前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度ηが、前記ダイ吐出時の前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物の温度、および、せん断速度122sec−1で測定した際に600Pa・sec以上2000Pa・sec以下であり、
前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とした時に、前記弾性ロールの表面温度が、Tg−70℃以上、Tg−20℃以下であり、
ライン速度をVm/分、前記弾性ロールの押付圧をPkgf/cmとした時に、η×V/Pを5000以下である。
前記シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向が、ダイ出口からの吐出方向に対してキャストロール側に傾斜しており、ダイ出口からの吐出方向に対して前記シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向がなす角度が、0.1度以上20度以下の範囲にある、請求項1に記載の光学フィルムの製造方法。
前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物が、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、芳香族ビニル単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体またはその芳香族環を部分的にまたは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体、および、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体からなる群より選択される少なくとも1種を含む、請求項1から4のいずれかに記載の光学フィルムの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の製造方法について詳細に説明する。
【0029】
図1は、本発明の光学フィルムの製造方法における挟み込み成形を模式的に示す図である。フィルム原料たる熱可塑性樹脂組成物が押出機10に投入され、押出機10内において、ガラス転移温度以上の温度まで加熱され、溶融状態となる。溶融状態の熱可塑性樹脂組成物は、押出機10の出口側に取り付けられたTダイ11に移行し、ダイ先端のダイ出口12から溶融状態のまま、吐出される。その吐出時においてダイ出口の形状により、溶融状態の熱可塑性樹脂組成物13はシート形状をとる。
【0030】
この溶融状態にあるシート状の熱可塑性樹脂組成物13を、一対の平滑化ロールに挟み込むことによりシート表面が平滑化される。この平滑化ロールの一方は弾性ロール14であり、他方はキャストロール15である。弾性ロール14は、ゴム等の弾性体からなるロールの表面が、金属膜で覆われたロールをいい、表面の金属膜により、ロール表面が平坦になり、平滑化ロールとして機能する。キャストロール15は、金属から構成された硬質のロールである。ダイ出口12から吐出されたシート状の熱可塑性樹脂組成物を、弾性ロール14とキャストロール15とで挟み込むことにより、熱可塑性樹脂組成物を、そのガラス転移温度以下の温度に冷却し、シート表面の平滑性を向上させる。なお、当該挟み込み成形工程は、フィルム表面の平滑化のための工程であり、フィルムを延伸するための工程とは異なる。
【0031】
なお、
図1は、シート状熱可塑性樹脂組成物を側面からみた図である。
【0032】
図1中、矢印21は、ダイ出口からの吐出方向(ダイ出口での溶融樹脂の流れ方向)を示し、矢印22は、ダイから吐出された後の、シート状熱可塑性樹脂組成物の流れ方向を示す。
図2で示すように、一対の平滑化ロールによる挟み込み地点(平滑化ロールとシート状樹脂組成物との接触地点)が、ダイ出口からの延長線(ダイ出口からの吐出方向と平行な延長線)上にある場合は、矢印21で示されるダイ出口からの吐出方向と、矢印22で示されるシート状熱可塑性樹脂組成物の流れ方向は同じ方向を指す。しかし、
図1では、一対の平滑化ロールによる挟み込み地点が、ダイ出口からの延長線(ダイ出口からの吐出方向と平行な延長線)上にはなく、ダイ出口が、キャストロール15側にずれているため、シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向22が、ダイ出口からの吐出方向21に対してキャストロール15側に傾斜している。この時、ダイ出口からの吐出方向に対して前記シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向がなす角度を符号23で示している。
【0033】
本発明は、押出機からの吐出、および、挟み込み成形工程を連続的に行うことにより、長手方向に伸長した光学フィルムを連続的に製造する方法である。
【0034】
本発明は、一対の平滑化ロールによる挟み込み成形時にエアの巻き込みが生じることを防止するものであり、このために、以下3つの条件を満足する必要がある。
【0035】
(1)樹脂組成物の溶融粘度
本発明の製造方法において使用するゴム含有熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度ηが、ダイ吐出時の前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物の温度、および、せん断速度122sec
−1で測定した際に600Pa・sec以上2000Pa・sec以下である。この条件を満足するように、ダイ吐出時のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の温度を設定すればよい。この温度は、ダイから吐出された直後に測定され、一対の平滑化ロールによる挟み込み以前に測定される樹脂組成物温度である。この樹脂組成物温度は、押出機シリンダ温度、アダプタ、ダイ温度等押出装置の設定温度を変更したり、押出機スクリュー回転数、押出機スクリュー種類(圧縮比等)の条件を制御したりすることにより調節できる。前記溶融粘度が600Pa・sec未満であると、樹脂組成物温度を、樹脂分解開始温度を超える温度まで上げる必要があり、樹脂の熱劣化が生じ、フィルムにブツが多く生じる。前記溶融粘度が2000Pa・secを超えると、樹脂組成物の粘度が高くなりすぎるため、挟み込み成形時にエアを巻き込みやすくなり、フィルム表面に微細な凹みが多数形成されてしまうので好ましくない。好ましくは、700Pa・sec以上、1700Pa・sec以下である。
【0036】
また、ゴム含有熱可塑性樹脂組成物の溶融粘度は、好ましくは、250℃においてせん断速度122sec
−1で測定した際に700Pa・sec以上1250Pa・sec以下であるようにゴム含有熱可塑性樹脂組成物のマトリックスの分子量や、ゴム粒子の組成/分子量等を設計することが好ましい。この場合、上記成形温度において樹脂分解開始温度よりも低い温度でエア巻き込みを防止する成形がしやすくなるため好ましい。
【0037】
(2)弾性ロール温度
弾性ロールの表面温度は、前記ゴム含有熱可塑性樹脂組成物のガラス転移温度をTg(℃)とした時に、Tg−70℃以上、Tg−20℃以下である。このロール温度を保ちつつ、平滑化ロールによる挟み込み成形を行うことにより、挟み込み成形によるエア巻き込み抑制効果を達成することができる。前記ロール温度がTg−70℃未満であると、溶融フィルムがロール接触直後に固化し、エアを巻き込みやすくなる。前記ロール温度がTg−20℃を超えると、弾性ロールの内圧が高くなり、弾性ロールの温調媒体のシールが弱くなり温調媒体が漏れ、安定的な生産が困難となる。なお、このように弾性ロール温度が、ダイ吐出時の樹脂組成物温度より低いため、挟み込み成形によりシート状熱可塑性樹脂組成物が急速に冷却され、その冷却に伴う平滑化ロールによる加圧によってフィルム表面の平滑化効果を実現することができる。
【0038】
一方、キャストストロールの表面温度は特に限定されないが、Tg−50℃以上、Tg以下が好ましい。Tg−50℃未満であると、キャストロール上でフィルムが密着しにくくなりフィルム表面に皺が生じるため好ましくない。また、Tgより高くなると、フィルムがキャストロールから次の冷却ロールに搬送される際に、キャストロールにフィルムが貼り付きフィルム幅方向に剥離紋が生じるため好ましくない。弾性ロールとキャストロールの温度差は50℃以下にすることが好ましい。50℃より高くなると、挟み込み成形直後にフィルムの両面の温度差が大きくなり、キャストロールから剥離する際に皺等が生じるため好ましくない。
【0039】
(3)ライン速度及び押付圧
ライン速度をVm/分、弾性ロールの押付圧をPkgf/cmとした時に、η×V/Pを5000以下である。ここで、ライン速度とは、シート状熱可塑性樹脂組成物の流れ速度をいう。また、ηは上述した条件(1)における溶融粘度である。
【0040】
エア巻き込みは、樹脂粘弾性状態と挟み込みロール間進入速度に反比例し、弾性ロールの押付圧に比例して、起こりにくくなる。樹脂粘弾性状態は挟み込みロール間進入直前の溶融粘度ηを考えれば良く、また、挟み込みロール間進入速度はライン速度Vと同義である。挟み込み工程においてはこのエア巻き込みに関する3つの因子を独立ではなく組み合わせて設定する必要がある。これはフィルム厚みを薄く成形する場合にライン速度が大きくなるため特に好ましい。エアの巻き込みが起こりやすいライン速度が大きい(厚みが薄い)条件においては、押付圧と樹脂粘弾性状態がそれぞれ同時に適切でなければ、ライン速度が小さい(厚みが厚い)状態で起きていなかったエア巻き込みが生じる。これは、樹脂粘弾性状態のみでは樹脂温度について熱劣化を考慮した設定上限があることと、押付圧についてもロール耐圧条件があることから、それぞれの因子のみの設定では解決しがたく、ライン速度に応じた樹脂粘弾性状態と押付圧を同時に設定する必要がある。すなわち、η×V/Pが5000を超えると、たとえ前述した条件(1)および(2)を満足していたとしても、エアの巻き込みによる凹みの形成を抑制する効果を達成することができない。η×V/Pは、好ましくは4500以下である。η×V/Pの下限は特に限定されないが、前記数値を上限値よりもあまりに低く設定しようとすると生産性を下げる必要があるため、好ましくは1000以上となるように設定することが好ましい。
【0041】
本発明では、ダイ出口からの吐出方向に対して前記シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向がなす角度は
図2で示しているように0°であってもよいが、
図1で示すように、シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向が、ダイ出口からの吐出方向に対してキャストロール側に傾斜しており、ダイ出口からの吐出方向に対して前記シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向がなす角度23が、0.1°以上20°以下の範囲にあることが好ましい。
【0042】
本発明者は、挟み込み成形時のエア巻き込みは、キャストロールと接触したフィルム表面側に特異的に発生することを見出している。これは、キャストロールが硬質であるため、巻き込まれたエアが抜けにくいことが原因と考えられる。上述のように、シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物の流れ方向を、ダイ出口からの吐出方向に対してキャストロール側に傾斜させることで、シート状のゴム含有熱可塑性樹脂組成物は、弾性ロールよりもキャストロールにわずかに先に接触することになり、これによってキャストロール側で巻き込まれたエアが抜けやすくなり、エアの巻き込みによる凹み発生をより効果的に防止することができる。前記角度が0.1°未満であると、前記傾斜による効果が十分ではない。また、前記角度が20°を超えると、溶融樹脂の傾斜がきつくなり、ダイとロールの間で溶融樹脂の振動が生じだし、厚みやスジ等の品質に悪影響を与える可能性があるため好ましくない。
【0043】
以上のような条件で挟み込み成形を行った後、必要に応じ、さらに、フィルム端部にナーリングや保護フィルムの貼り合わせを行う等のフィルム巻姿を良好とする工程や、フィルム両端部をスリットし所望の製品幅に裁断する工程、また、フィルム中の異物を検査する工程や、延伸する工程を行うことにより、光学フィルムを製造することができる。
【0044】
本発明で製造される光学フィルムの厚みは特に限定されない。しかしながら、光学フィルムの厚みが薄くなればなるほど、エア巻き込みにより形成された凹みが光学特性上問題となり得る可能性が高くなる。ところが、本発明によると、厚み30μm以上、80μm未満といった極めて薄いフィルムにおいても優れたエア巻き込み抑制効果を実現することができるので、このような薄いフィルムに本発明を適用する意義は極めて大きい。
【0045】
本発明で用いることができる熱可塑性樹脂組成物としては、光学フィルムとして使用可能な熱可塑性樹脂組成物であって、溶融押出による成形が可能なものであれば、特に制限されない。例えば、ポリカーボネート樹脂、芳香族ビニル系樹脂及びその水素添加物、ポリオレフィン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエーテルサルホン樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース系樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂等の熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。
【0046】
ゴム粒子を含有する熱可塑性樹脂組成物を光学フィルムの材料として使用することができるが、ゴム粒子がフィルム表面に存在し、フィルムの表面平滑性を損なうことがある。このような場合、溶融押出後に挟み込み成形を実施することで、ゴム粒子をフィルム内部に押し込み、フィルムの表面平滑性を向上させることが期待される。しかし、ゴム粒子とマトリックス樹脂の相溶性が低い場合においては、ゴム粒子がフィルム中で凝集しやすく、結果、フィルム表面の凹凸が大きくなってしまうことがある。このようなケースでは、通常条件の挟み込み成形では、表面の微細な凹凸を低減することができず、結果、光学フィルムとしては好ましくない表面ムラがみられるという不都合があった。
【0047】
しかしながら、本発明によると、たとえ熱可塑性樹脂組成物がゴム粒子を含有し、そのゴム粒子がマトリックス樹脂との相溶性が低い場合であっても、表面の微細な凹凸を低減し、表面ムラを低減するという効果を達成することができる。
【0048】
以下、本発明を好適に適用することができるゴム粒子含有熱可塑樹脂組成物の一例であるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物について具体的に説明する。
【0049】
ゴム状重合体としては、ガラス転移温度が20℃未満である重合体であればよく、例えば、ブタジエン系架橋重合体、(メタ)アクリル系架橋重合体、オルガノシロキサン系架橋重合体などが挙げられる。なかでも、フィルムの耐候性(耐光性)、透明性の面で、(メタ)アクリル系架橋重合体(本願明細書において、アクリル系ゴム状重合体またはアクリル系ゴム粒子ともいう)が特に好ましい。
【0050】
アクリル系ゴム状重合体としては、例えばABS樹脂ゴム、ASA樹脂ゴムが挙げられるが、透明性等の観点から、以下に示すアクリル酸エステル系ゴム状重合体を含むアクリル系グラフト共重合体(以下、単に「アクリル系グラフト共重合体」と称する。)を好ましく用いることができる。
【0051】
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物を重合して得ることができる。
【0052】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体は、アクリル酸エステルを主成分としたゴム状重合体であり、具体的には、アクリル酸エステル50〜100重量%および共重合可能な他のビニル系単量体50〜0重量%からなる単量体混合物(100重量%)並びに、1分子あたり2個以上の非共役な反応性二重結合を有する多官能性単量体0.05〜10重量部(単量体混合物100重量部に対して)を重合させてなるものが好ましい。単量体を全部混合して使用してもよく、また単量体組成を変化させて2段以上で使用してもよい。
【0053】
アクリル酸エステルとしては、重合性やコストの点より、アルキル基の炭素数1〜12のものを用いることが好ましい。例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸フェニル、アクリル酸フェノキシエチル等があげられ、これらの単量体は2種以上併用してもよい。アクリル酸エステル量は、単量体混合物100重量%において50重量%以上100重量%以下が好ましく、60重量%以上99重量%以下がより好ましく、70重量%以上99重量%以下がさらに好ましく、80重量%以上99重量%以下が最も好ましい。50重量%未満では耐衝撃性が低下し、引張破断時の伸びが低下し、フィルム切断時にクラックが発生しやすくなる傾向がある。
【0054】
共重合可能な他のビニル系単量体としては、耐候性、透明性の点より、メタクリル酸エステル類が特に好ましく、例えばメタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸2−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸n−オクチル等があげられる。また、芳香族ビニル類およびその誘導体、及びシアン化ビニル類も好ましく、例えば、スチレン、メチルスチレン、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等があげられる。その他、無置換及び/又は置換無水マレイン酸類、(メタ)アクリルアミド類、ビニルエステル、ハロゲン化ビニリデン、(メタ)アクリル酸およびその塩、(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル等が挙げられる。
【0055】
多官能性単量体は通常使用されるものでよく、例えばアリルメタクリレート、アリルアクリレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジアリルフタレート、ジアリルマレート、ジビニルアジペート、ジビニルベンゼン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、トリメチルロールプロパントリメタクリレート、テトロメチロールメタンテトラメタクリレート、ジプロピレングリコールジメタクリレートおよびこれらのアクリレート類などを使用することができる。これらの多官能性単量体は2種以上使用してもよい。
【0056】
多官能性単量体の量は、単量体混合物の総量100重量部に対して、0.05〜10重量部が好ましく、0.1〜5重量部がより好ましい。多官能性単量体の添加量が0.05重量部未満では、架橋体を形成できない傾向があり、10重量部を超えても、フィルムの耐割れ性が低下する傾向がある。
【0057】
ゴム状重合体の体積平均粒子径は、20〜450nmが好ましく、20〜300nmがより好ましく、20〜150nmが更に好ましく、30〜80nmが最も好ましい。20nm未満では耐割れ性が悪化する場合がある。一方、450nmを超えると透明性が低下する場合がある。なお、体積平均粒子径は、動的散乱法により、例えば、MICROTRAC UPA150(日機装株式会社製)を用いることにより測定することができる。
【0058】
アクリル系グラフト共重合体は、アクリル酸エステル系ゴム状重合体5〜90重量部(より好ましくは、5〜75重量部)の存在下に、メタクリル酸エステルを主成分とする単量体混合物95〜25重量部を少なくとも1段階で重合させることより得られるものが好ましい。グラフト共重合組成(単量体混合物)中のメタクリル酸エステルは50重量%以上が好ましい。50重量%未満では得られるフィルムの硬度、剛性が低下する傾向がある。グラフト共重合に用いられる単量体としては、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、これらを共重合可能なビニル系単量体を同様に使用でき、メタクリル酸エステル、アクリル酸エステルが好適に使用される。アクリル系樹脂との相溶性の観点からメタクリル酸メチル、ジッパー解重合を抑制する点からアクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−ブチルが好ましい。
【0059】
光学的等方性の観点からは、脂環式構造、複素環式構造または芳香族基を有する(メタ)アクリル系単量体(「環構造含有(メタ)アクリル系単量体」と称する。)が好ましく、具体的には(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチルが挙げられる。その使用量は、単量体混合物の総量(環構造含有(メタ)アクリル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量)100重量%において1〜100重量%が好ましく、5〜70重量%がより好ましく、5〜50重量%が最も好ましい。ここでいう、これと共重合可能な他の単官能性単量体には、前述のメタクリル酸エステル、アクリル酸エステル、共重合可能な他のビニル系単量体が同様に使用できるが、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルを含むことが好ましい。メタクリル酸エステルは、前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜94重量%がさらに好ましく、30〜90重量%が特に好ましい。また、アクリル酸エステルは、前記環構造含有ビニル系単量体およびこれと共重合可能な他の単官能性単量体の総量100重量%において0〜98重量%含まれることが好ましく、0.1〜98重量%含まれることがより好ましく、1〜50重量%がさらに好ましく、5〜50重量%が特に好ましい。
【0060】
アクリル酸エステル系ゴム状重合体に対するグラフト率は、10〜250%が好ましく、より好ましくは40〜230%、最も好ましくは60〜220%である。グラフト率が10%未満では、成形体中でアクリル系グラフト共重合体が凝集しやすく、透明性が低下したり、異物原因となる恐れがある。また引張破断時の伸びが低下しフィルム切断時にクラックが発生しやすくなったりする傾向がある。250%を超えると、成形時、たとえばフィルム成形時の溶融粘度が高くなり、フィルムの成形性が低下する傾向がある。
【0061】
上記グラフト率とは、アクリル系グラフト共重合体におけるグラフト成分の重量比率であり、次の方法で測定される。
【0062】
得られたアクリル系グラフト共重合体2gをメチルエチルケトン50mlに溶解させ、遠心分離機(日立工機(株)製、CP60E)を用い、回転数30000rpm 、温度12℃にて1時間遠心し、不溶分と可溶分とに分離する(遠心分離作業を合計3回セット)。得られた不溶分の重量と、アクリル系グラフト共重合体に含まれるアクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量とから、以下の式によりグラフト率を算出する。
【0063】
グラフト率(%)=[{( メチルエチルケトン不溶分の重量)−(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)}/(アクリル酸エステル系ゴム状重合体の重量)]×100
アクリル系グラフト共重合体は、一般的な乳化重合法によって製造できる。具体的には、水溶性重合開始剤の存在下、乳化剤を用いてアクリル酸エステル単量体を連続的に重合させる方法を例示できる。
【0064】
乳化重合法では、連続重合を単一の反応槽で行うことが好ましく、二槽以上の反応槽を用いるとラテックスの機械的安定性が低下するため好ましくない。
【0065】
重合温度としては30℃以上100℃以下が好ましく、より好ましくは50℃以上80℃以下である。30℃未満では生産性が低下する傾向があり、100℃を超えた温度では、目標分子量が過剰に大きくなる等によって、品質が低下する傾向がある。重合反応槽へ連続的に添加するアクリル酸エステル単量体、開始剤、乳化剤及び脱イオン水等の原料類は、定量ポンプの制御下で正確に添加するが、反応槽内で発生する重合熱の除熱量を確保するため必要に応じて予め冷却しても支障ない。反応槽から払い出されたラテックスには、必要に応じて重合禁止剤、凝固剤、難燃剤、酸化防止剤、pH調節剤を添加しても良く、未反応単量体の回収や後重合を行っても良い。その後、凝固、熱処理、脱水、水洗、乾燥等公知の方法を経て共重合体を得ることができる。
【0066】
乳化重合においては、通常の重合開始剤を使用できる。例えば過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムなどの無機過酸化物や、クメンハイドロパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイドなどの有機過酸化物、更にアゾビスイソブチロニトリルなどの油溶性開始剤も使用される。これらは単独又は2種以上併用してもよい。これらの開始剤は亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、ナトリウムホルムアルデヒド、スルフォキシレート、アスコロビン酸、硫酸第一鉄とエチレンジアミン四酢酸2ナトリウム錯体などの還元剤と併用した通常のレドックス型重合開始剤として使用してもよい。
【0067】
重合開始剤と合わせて連鎖移動剤を併用してもよい。連鎖移動剤には炭素数2〜20のアルキルメルカプタン、メルカプト酸類、チオフェノール、四塩化炭素などが挙げられ、これらは単独又は2種以上併用してもよい。
【0068】
乳化重合法にて使用する乳化剤に関して特に制限はなく、通常の乳化重合用の乳化剤であれば使用することが出来る。例えば、アルキル硫酸ナトリウム等の硫酸エステル塩系界面活性剤、アルキルベンゼンスルフォン酸ナトリウム、アルキルスルフォン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等のスルホン酸塩系界面活性剤、アルキルリン酸ナトリウムエステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸ナトリウムエステル等のリン酸塩系界面活性剤といったアニオン系界面活性剤が挙げられる。また上記ナトリウム塩はカリウム塩等の他のアルカリ金属塩やアンモニウム塩でも良い。これらの乳化剤は単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。更に、ポリオキシアルキレン類またはその末端水酸基のアルキル置換体またはアリール置換体に代表される、非イオン性界面活性剤を使用または一部併用しても差し支えない。その中でも、重合反応安定性、粒子系制御性の点から、スルホン酸塩系界面活性剤、またはリン酸塩系界面活性剤が好ましく、中でも、ジオクチルスルホコハク酸塩、またはポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル塩がより好ましく用いることができる。
【0069】
乳化剤の使用量としては、単量体成分全体100重量部に対して、0.05重量部以上10重量部が好ましく、0.1重量部以上1.0重量部以下であることがより好ましい。0.05重量部より少量では、共重合体の粒系が大きくなり過ぎる傾向があり、10重量部より多量では共重合体の粒系が小さくなりすぎる、また、粒度分布が悪化する傾向がある。
【0070】
本発明におけるゴム状重合体含有アクリル樹脂組成物として、特に限定されないが、1種類以上のアクリル系ゴム状重合体と1種類以上のアクリル系樹脂との混合組成物であることが好ましい。
【0071】
アクリル系ゴム状重合体は、アクリル系ゴム状重合体が含有するゴム状重合体が、熱可塑性樹脂組成物100重量部において、1〜60重量部含まれるように配合されることが好ましく、1〜30重量部がより好ましく、1〜25重量部がさらに好ましい。1重量部未満ではフィルムの耐割れ性、真空成形性が悪化したり、また光弾性定数が大きくなり、光学的等方性に劣ったりする場合がある。一方、60重量部を超えると、フィルムの耐熱性、表面硬度、透明性、耐折曲げ白化性が悪化する傾向がある。
【0072】
アクリル系ゴム状重合体とアクリル系樹脂との混合は、直接、フィルム生産時に混合しても良く、また一度、アクリル系ゴム状重合体とアクリル系樹脂とを混合、ペレット化してから、改めてフィルム生産を実施しても良い。
【0073】
アクリル系樹脂としては、特に制限が無いが、メタクリル酸メチルを単量体成分としたメタクリル系樹脂が使用でき、メタクリル酸メチル由来の構成単位が30〜100重量%含有されたものが好ましい。また、中でも耐熱性のアクリル系樹脂が好ましく、例えば、共重合成分としてN−置換マレイミド化合物が共重合されているアクリル系樹脂、無水グルタル酸アクリル系樹脂、ラクトン環構造を有するアクリル系樹脂、グルタルイミドアクリル系樹脂、水酸基および/またはカルボキシル基を含有するアクリル系樹脂、芳香族ビニル単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られる芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体)またはその芳香族環を部分的にまたは全て水素添加して得られる水添芳香族ビニル含有アクリル系重合体(例えば、スチレン単量体およびそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン含有アクリル系重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる部分水添スチレン含有アクリル系重合体)、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体などを挙げることができる。耐熱性および光学特性の観点からグルタルイミドアクリル系樹脂をより好ましく用いることができる。グルタルイミドアクリル系樹脂については、以下に詳述する。グルタルイミドアクリル系樹脂としては具体的には、例えば、下記一般式(1)
【0075】
(式中、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
3は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「グルタルイミド単位」ともいう)と、
下記一般式(2)
【0077】
(式中、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、または炭素数5〜15の芳香環を含む置換基である。)
で表される単位(以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう)とを含むグルタルイミドアクリル系樹脂を好適に用いることができる。
【0078】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)
【0080】
(式中、R
7は、水素または炭素数1〜8のアルキル基であり、R
8は、炭素数6〜10のアリール基である。)
で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0081】
上記一般式(1)において、R
1およびR
2は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R
3は水素、メチル基、ブチル基、またはシクロヘキシル基であることが好ましく、R
1はメチル基であり、R
2は水素であり、R
3はメチル基であることがより好ましい。
【0082】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR
1、R
2、およびR
3が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0083】
グルタルイミド単位は、上記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより、形成することができる。
【0084】
また、無水マレイン酸等の酸無水物、または、このような酸無水物と炭素数1〜20の直鎖または分岐のアルコールとのハーフエステル;アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、無水イタコン酸、クロトン酸、フマル酸、シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸等をイミド化することによっても、上記グルタルイミド単位を形成させることができる。
【0085】
上記一般式(2)において、R
4およびR
5は、それぞれ独立して、水素またはメチル基であり、R
6は水素またはメチル基であることが好ましく、R
4は水素であり、R
5はメチル基であり、R
6はメチル基であることがより好ましい。
【0086】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR
4、R
5、およびR
6が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0087】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、上記一般式(3)で表される芳香族ビニル構成単位として、スチレン、α−メチルスチレン等を含むことが好ましく、スチレンを含むことがより好ましい。
【0088】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル構成単位として、単一の種類のみを含んでいてもよいし、R
7、およびR
8が異なる複数の種類を含んでいてもよい。
【0089】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(1)で表されるグルタルイミド単位の含有量は、特に限定されるものではなく、例えば、R
3の構造等に依存して変化させることが好ましい。
【0090】
一般的には、上記グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂の1重量%以上とすることが好ましく、1重量%〜95重量%とすることがより好ましく、2重量%〜90重量%とすることがさらに好ましく、3重量%〜80重量%とすることが特に好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性および透明性が低下したり、成形加工性、およびフィルムに加工したときの機械的強度が低下したりすることがない。一方、グルタルイミド単位の含有量が上記範囲より少ないと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、透明性が損なわれたりする傾向がある。また、上記範囲よりも多いと、不必要に耐熱性および溶融粘度が高くなり、成形加工性が悪くなったり、フィルム加工時の機械的強度が極端に脆くなったり、透明性が損なわれたりする傾向がある。
【0091】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂において、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は、特に限定されるものではなく、求められる物性に応じて適宜設定することが可能である。使用される用途によっては、一般式(3)で表される芳香族ビニル単位の含有量は0であってもよい。一般式(3)で表される芳香族ビニル単位を含む場合は、グルタルイミドアクリル系樹脂の総繰り返し単位を基準として、10重量%以上とすることが好ましく、10重量%〜40重量%とすることがより好ましく、15重量%〜30重量%とすることがさらに好ましく、15重量%〜25重量%とすることが特に好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲内であれば、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足したり、フィルム加工時の機械的強度が低下したりすることがない。一方、芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲より多いと、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が不足する傾向がある。
【0092】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、および芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに共重合されていてもよい。
【0093】
その他の単位としては、例えば、アクリロニトリルやメタクリロニトリル等のニトリル系単量体、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単量体を共重合してなる構成単位を挙げることができる。
【0094】
これらのその他の単位は、上記グルタルイミドアクリル系樹脂中に、直接共重合していてもよいし、グラフト共重合していてもよい。
【0095】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されるものではないが、1×10
4〜5×10
5であることが好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が低下したり、フィルム加工時の機械的強度が不足したりすることがない。一方、重量平均分子量が上記範囲よりも小さいと、フィルムにした場合の機械的強度が不足する傾向がある。また、上記範囲よりも大きいと、溶融押出時の粘度が高く、成形加工性が低下し、成形品の生産性が低下する傾向がある。
【0096】
また、上記グルタルイミドアクリル系樹脂のガラス転移温度は特に限定されるものではないが、110℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が上記範囲内であれば、得られる熱可塑性樹脂組成物の適用範囲を広げることができる。
【0097】
上記グルタルイミドアクリル系樹脂の製造方法は特に制限されないが、例えば、特開2008−273140号公報に記載されている方法などがあげられる。
【0098】
本発明で用いる熱可塑性樹脂組成物には、熱や光に対する安定性を向上させるための酸化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤などを単独又は2種以上併用して添加してもよい。
【0099】
本発明の光学フィルムは、ゴム含有熱可塑性樹脂組成物からなり、フィルム表面に存在する長径20μm以上の凹み欠陥がA4サイズ(210mm×297mm)あたり20個以下であることを特徴とする。 本発明の光学フィルムは、前述の本発明の製法により安定的に製造される。一般的に、挟み込み成形によりフィルム表面に生じる凹み欠陥の大きさは長径数μmから長径数百μmであり得るが、特に液晶表示装置においてフィルムを使用する際に問題となるのは長径20μm以上の凹み欠陥である。長径20μm以上の凹み欠陥がフィルム表面に存在すると、フィルム表面で光が屈折し透過光の陰影差を生じさせる原因になり得る。液晶表示装置にフィルムを好適に用いるには、フィルム表面に存在する長径20μm以上の凹み欠陥がA4サイズあたり20個以下であることが好ましく、10個以下であることがより好ましく、最も好ましくは0個である。
【0100】
また、本発明の光学フィルムは、配向複屈折が−1.7×10
−4から1.7×10
−4が好ましく、−1.6×10
-4から1.6×10
-4がより好ましく、−1.5×10
-4から1.5×10
-4がさらに好ましく、−1.0×10
-4〜1.0×10
-4がなおさら好ましく、−0.5×10
-4から0.5×10
-4が特に好ましく、−0.2×10
-4〜0.2×10
-4であることが最も好ましい。
【0101】
また、本発明の光学フィルムは、光弾性定数が−10×10
−12から4×10
−12Pa
−1であることが好ましい。このうち、光弾性定数が−4×10
−12Paから4×10
−12Pa
−1であると、光弾性定数が小さく、外部応力によって複屈折が生じることを抑えることができる。すなわち、この場合、光弾性定数が−4×10
−12から4×10
−12Pa
−1が好ましく、−1.5×10
−12Pa
−1から1.5×10
−12Pa
−1がより好ましく、−1.0×10
−12Pa
−1から1.0×10
−12Pa
−1がさらに好ましく、−0.5×10
−12Pa
−1から0.5×10
−12Pa
−1がなおさら好ましく、−0.3×10
−12Pa
−1から0.3×10
−12Pa
−1が最も好ましい。これにより、光学フィルムの複屈折性が非常に小さくなり、バックライトの輝度低下を抑えられるので、本発明の光学フィルムを液晶表示装置用途に特に好適に用いることができる。
【0102】
また、本発明の光学フィルムの光弾性定数が−10×10
−12から−4×10
−12Paであると、本発明の光学フィルムを液晶表示装置においてプラスの光弾性定数を持つ部材と貼り合わされて用いる際に、外部応力がかかった場合に生じる複屈折を互いに打ち消し合うことで、バックライトの輝度低下を抑えることができる。
【0103】
本発明の光学フィルムは、厚みが30μm以上80μm未満が好ましく、30μm以上70μm未満がより好ましく、30μm以上60μm以下がさらに好ましい。厚みが80μm未満と薄い方がバックライトの輝度低下を抑えられると共に液晶表示装置を薄型化することができるので、本発明の光学フィルムを液晶表示用途に特に好適に用いることができる。しかし、厚みが30μm未満では、挟み込みによる平滑化が全面均一に施せず、部分的に表面が平滑でないフィルムとなる恐れがある。
【0104】
本発明で製造される光学フィルムは、液晶表示装置、有機EL装置などの表示装置に用いられる部材、例えば、偏光板保護フィルム、位相差フィルム、輝度向上フィルム、液晶基板、光拡散シート、プリズムシートなどに用いることができる。中でも、偏光板保護フィルムや位相差フィルムに好適である。
【実施例】
【0105】
以下、本発明を実施例に基づき、更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例および比較例で測定した各物性の測定方法は次の通りである。
【0106】
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から積分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
【0107】
(凹み評価)
得られたフィルムをA4サイズ(210mm×297mm)に切り出し、目視検査により欠点をマーキングした後、欠点をキーエンス製のデジタルマイクロスコープVHX1000を用い、100倍にて観察し、内部に異物が無く、フィルム表面が凹んでいる長径が20μm以上の凹み欠陥を抽出した。なお、ロール転写が原因となる周期性のある凹みは除いた。
【0108】
(溶融粘度)
キャピラリーレオメータを用い、各実施例及び比較例における押出機出口における樹脂温度、および、せん断速度122sec
−1の条件で、ペレットの溶融粘度を測定した。
【0109】
(配向複屈折)
フィルムから40mm×40mmの試験片を切り出した後、測製自動複屈折計(KOBRA−WR)を用いて、波長590nm、入射角0°にて面内位相差を測定し、試験片厚みで除し配向複屈折を算出した。
【0110】
(光弾性定数)
フィルムからフィルム幅方向90mm×フィルム流れ方向15mmの短冊状に試験片を切り出した後、王子計測製自動複屈折計(KOBRA−WR)を用いて、波長590nm、入射角0°にて測定した。測定は、フィルムの長辺の一方を固定し、長辺の他方に無荷重から4kgfまで0.5kgfずつ荷重をかけた状態で複屈折を測定し、得られた結果から単位応力による複屈折の変化量を算出した。
【0111】
(製造例1)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の製造>
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を製造した。
【0112】
この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。
【0113】
タンデム型反応押出機に関しては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
【0114】
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
【0115】
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、および、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
【0116】
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(Mw:10.5万)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
【0117】
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を得た。
【0118】
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、グルタミルイミド単位と、(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したアクリル系樹脂である。
【0119】
(製造例2)
<グラフト共重合体(B2)の製造>
撹拌機付き8L重合装置に、以下の物質を仕込んだ。
脱イオン水 200部
ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム 0.05部
ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト 0.11部
エチレンジアミン四酢酸−2−ナトリウム 0.004部
硫酸第一鉄 0.001部
重合機内を窒素ガスで充分に置換し実質的に酸素のない状態とした後、内温を40℃にし、アクリル系ゴム粒子(B−1)の原料混合物(アクリル酸ブチル90%、メタクリル酸メチル10%からなる単官能性単量体45重量部に対し、メタクリル酸アリル0.45部、クメンハイドロパーオキサイド0.041部)45.491部を225分かけて連続的に添加した。(B−1)追加開始から20分後、40分後、60分後にポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸ナトリウム(ポリオキシエチレンラウリルエーテルリン酸(東邦化学工業株式会社製、商品名:フォスファノールRD−510Yのナトリウム塩)0.2部ずつ重合機に添加した。添加終了後、さらに0.5時間重合を継続し、アクリル系ゴム粒子((B−1)の重合物)を得た。重合転化率は98.6%であった。
【0120】
その後、内温を60℃にし、ソディウムホルムアルデヒドスルフォキシレ−ト0.2部を仕込んだ後、硬質重合体層(B−2)の原料混合物(メタクリル酸メチル57.8%、アクリル酸ブチル4%、メタクリル酸ベンジル38.2%からなる単官能性単量体55重量部に対し、t−ドデシルメルカプタン0.3部、クメンハイドロパーオキサイド0.254部)55.554部を210分間かけて連続的に添加し、さらに1時間重合を継続し、グラフト共重合体ラテックスを得た。重合転化率は100.0%であった。得られたラテックスを硫酸マグネシウムで塩析、凝固し、水洗、乾燥を行い、白色粉末状のグラフト共重合体(B2)を得た。
【0121】
グラフト共重合体(B2)のゴム粒子(B−1の重合物)の平均粒子径は121nmであった。グラフト共重合体(B2)のグラフト率は56%であった。
【0122】
(製造例3)
<樹脂ペレットの製造>
直径40mmのフルフライトスクリューを用いた単軸押出機を用い、押出機の温度調整ゾーンの設定温度を255℃、スクリュー回転数を52rpmとし、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)53重量部、および白色粉末状のグラフト共重合体(B2)47重量部の混合物を、10kg/hrの割合で供給した。押出機出口に設けられたダイスからストランドとして出てきた樹脂を水槽で冷却し、ペレタイザでペレット化した。このペレットについて上述のとおり溶融粘度を測定した。
【0123】
(実施例1)
ゴム含有熱可塑性樹脂組成物として、製造例3で得られたペレット(ガラス転移温度Tg120℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ90mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が250℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介しTダイへと溶融樹脂を押し出した。この時、Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は250℃であり、この温度での122sec
−1における溶融粘度は1050Pa・secである。吐出された溶融フィルムを、Tダイとキャストロールの成す角が5度となるようにし、ライン速度17m/分において、100℃に温調したキャストロールと60℃に温調したタッチロール(弾性ロールとしてフレックスロール)で、挟み込み圧力が5kgf/cmとなるように事前に調整したタッチロール押付条件にて挟み込み冷却固化した後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコアに厚み60μmのフィルム原反を得た。なお、この時のη×V/Pは3570であった。原反は両端部をスリットし幅1450mmとした。
【0124】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり0個であった。また、フィルムの光弾性定数は0.35×10
−12Pa
−1であり、配向複屈折は−0.13×10
−4と複屈折性がなかった。
【0125】
(実施例2)
Tダイ出口における樹脂温度を235℃(122sec
−1における溶融粘度は1500Pa・sec)、ライン速度を15m/分とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは4500であった。
【0126】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり10個であった。
【0127】
(実施例3)
ライン速度を20m/分、Tダイとキャストロールの成す角を2度とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは4200であった。
【0128】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり20個であった。
【0129】
(実施例4)
挟み込み圧力を10kgf/cmとした以外は実施例2と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは2250であった。
【0130】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり0個であった。
【0131】
(実施例5)
Tダイとキャストロールの成す角を0°とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは3570であった。
【0132】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり5個であった。
【0133】
(実施例6)
ゴム含有熱可塑性樹脂組成物として、製造例3で得られたペレット(ガラス転移温度Tg120℃)を用い、乾燥機にて80℃で4時間乾燥させた後、φ90mm単軸押出機に供給した。押出機出口にはスクリーンメッシュを押出機側から#40、#100、#400、#400、#100、#40の順に重ねて設置した。押出機出口で樹脂温度が250℃となるよう加熱溶融し、ギアポンプを介しTダイへと溶融樹脂を押し出した。この時、Tダイ出口における吐出直後の樹脂温度は250℃であり、この温度での122sec
−1における溶融粘度は1050Pa・secである。吐出された溶融フィルムを、Tダイとキャストロールの成す角が0度となるようにし、ライン速度15m/分において、100℃に温調したキャストロールと60℃に温調したタッチロール(弾性ロールとしてフレックスロール)で、挟み込み圧力が5kgf/cmとなるように事前に調整したタッチロール押付条件にて挟み込み冷却固化した後、引き取りロールにて引き取り、巻き取りコアに厚み40μmのフィルム原反を得た。なお、この時のη×V/Pは3150であった。原反は両端部をスリットし幅1450mmとした。
【0134】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり0個であった。
【0135】
(比較例1)
ライン速度を20/分においてフィルム厚みが60μmとなるよう押出吐出量を変え、ライン速度を20m/分とした以外は実施例2と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは6000であった。
【0136】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり500個であった。
【0137】
(比較例2)
ライン速度を25m/分においてフィルム厚みが60μmとなるよう押出吐出量を変え、ライン速度25m/分とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは5250であった。
【0138】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり100個であった。
【0139】
(比較例3)
挟み込み圧力を2.0kgf/cmとし、ライン速度を17m/分においてフィルム厚みが60μmとなるよう押出吐出量を変え、ライン速度17m/分とした以外は実施例2と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは12750であった。
【0140】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり900個であった。
【0141】
(比較例4)
Tダイ出口における樹脂温度を220℃(122sec
−1における溶融粘度は2100Pa・sec)、ライン速度を10m/分とした以外は実施例1と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは4200であった。
【0142】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり2000個であった。
【0143】
(比較例5)
タッチロール温度を40℃とした以外は実施例1と同様に実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは3750であった。
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり500個であった。
【0144】
(比較例6)
ライン速度を25m/分においてフィルム厚みが40μmとなるよう押出吐出量を変え、ライン速度を25m/分とした以外は実施例6と同様の方法で実施し、ゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムを得た。なお、この時のη×V/Pは5250であった。
【0145】
得られたゴム粒子配合アクリル樹脂フィルムは、凹み欠陥がA4あたり2000個であった。
【0146】
【表1】