【実施例】
【0081】
概要
[0085] 細胞移植の研究は心筋梗塞に有望な療法可能性を示唆してきたが、移植のための比較的均質な心室筋細胞を得ることができないことは、心筋修復のための臨床療法の開発に対する1つの主な障害である
1。ヒト胚性幹細胞(hESC)は心筋細胞の有望な供給源である。ここに本発明者らは、レチノイドシグナル伝達がhESCの心臓分化に際して心房−対−心室筋細胞の運命の指定(fate specification)を制御していることを報告する。本発明者らは、ノギンおよび汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストBMS−189453(RAi)の両方がhESCの心臓分化効率を有意に増大させることを見出した
2。ノギン+RAiで処理した培養物をノギン+RAで処理した培養物と比較することによりレチノイドの機能を調べた;本発明者らの結果は、心室特異的遺伝子IRX−4の発現レベルがノギン+RAiで処理した培養物において急激に上昇し
3、別の心室特異的マーカーであるMLC−2v
4,5はノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の大部分において発現していたがノギン+RAで処理した培養物の心筋細胞の大部分では発現していなかったことを示している。フローサイトメトリー分析および電気生理学的研究は、64±0.88%(平均±平均値の標準誤差)の心臓分化効率で、ノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の83%が胚性心室様の活動電位(AP)を有し;一方で、50±1.76%の心臓分化効率で、ノギン+RAで処理した培養物中の心筋細胞の94%が胚性心房様APを有していたことを示した。これらの結果は、それらの2種類の異なる処理を行った培養物中の心筋細胞のCa
2+スパークのパターンおよび特性に関するイメージング研究によりさらに確証された。これらの所見は、レチノイドシグナル伝達がhESCの心房性−対−心室性分化を指定しており、ノギンおよびレチノイドシグナルを特異的に制御することにより、比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞集団をhESCから効率的に派生させることができることを実証している。
【0082】
要約
[0086] 細胞移植の研究は心筋梗塞に有望な療法可能性を示唆してきたが、移植のための比較的均質な心室筋細胞を得ることができないことは、心筋修復のための臨床療法の開発に対する1つの主な障害である
1。ヒト胚性幹細胞(hESC)は心筋細胞の有望な供給源である。ここに本発明者らは、レチノイドシグナル伝達がhESCの心臓分化に際して心房−対−心室筋細胞の運命の指定を制御していることを報告する。本発明者らは、ノギンおよび汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストBMS−189453(RAi)の両方がhESCの心臓分化効率を有意に増大させることを見出した
2。ノギン+RAiで処理した培養物をノギン+RAで処理した培養物と比較することによりレチノイドの機能を調べた;本発明者らの結果は、心室特異的遺伝子IRX−4の発現レベルがノギン+RAiで処理した培養物において急激に上昇し
3、別の心室特異的マーカーであるMLC−2v
4,5はノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の大部分において発現していたがノギン+RAで処理した培養物の心筋細胞の大部分では発現していなかったことを示し
ている。フローサイトメトリー分析および電気生理学的研究は、64±0.88%(平均±平均値の標準誤差)の心臓分化効率で、ノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の83%が胚性心室様の活動電位(AP)を有し;一方で、50±1.76%の心臓分化効率で、ノギン+RAで処理した培養物中の心筋細胞の94%が胚性心房様APを有していたことを示した。これらの結果は、それらの2種類の異なる処理を行った培養物中の心筋細胞のCa
2+スパークのパターンおよび特性に関するイメージング研究によりさらに確証された。これらの所見は、レチノイドシグナル伝達がhESCの心房性−対−心室性分化を指定しており、BMPおよびレチノイドシグナル伝達カスケードに特異的に影響を与えることにより、比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞集団をhESCから効率的に派生させることができることを実証している。
【0083】
材料および方法
[0087] hESCの維持および分化。WiCell研究所からの未分化のhESC株H7を、以前に記述されたように
37、matrigelコートしたプレート上で維持した。心臓誘導の基本プロトコル(BP)において、未分化のhESCをゼラチンコートしたプレート上に1〜5×10
5細胞/cm
2の密度で播いて、マウス胚性線維芽細胞調整培地と共に3日間、完全に集密状態になるまで培養した。細胞分化を開始させるために、その培地を、B27(Invitrogen)を補ったRPMI1640に交換した。細胞を1日目に25ng/mlのBMP4および6ng/mlのbFGF、2日目に100ng/mlのアクチビンA、ならびに6日目から11日目まで200ng/mlのDKK1(R&D Systems)で処理した。11日目の後、培地を3日ごとに交換した(
図1)。250ng/mlのノギン、1μMのRA(Sigma)または1μMのRAiを、
図1A〜Cにおいて明記した時点で細胞培養物に添加した。自発的に拍動する集団(clusters)は、一般に10〜11日目に観察された。心臓分化効率を14日目にCTNT抗体染色およびフローサイトメトリーで分析した。
【0084】
[0088] hES由来心筋細胞の単一細胞調製。6(60)〜90日齢の分化した培養物を低Ca
2+溶液中で洗浄し、次いで酵素溶液中において37℃で20分間インキュベートした。KB溶液中において室温で40分間穏やかに振盪することにより解離を完了させた。分離された細胞をDMEM+10% FBS中に再懸濁し、0.1%ゼラチンコートしたカバーガラス上に移し、次いで37℃、5%CO
2のインキュベーター内に保持した。低Ca
2+溶液の組成は(mMで):120 NaCl、5.4 KCl、5 MgSO
4、5 ピルビン酸Na、20 グルコース、20 タウリン、10 HEPESであった。そのpHをNaOHで7.3に調節した。KB溶液は(mMで):85 KCl、30 K
2HPO
4、5 MgSO
4、1 EGTA、2 Na
2ATP、5 ピルビン酸Na、20 グルコース、20 タウリン、5 クレアチンを含有し、KOHでpH7.3に調節された。
【0085】
[0089] 電気生理学的測定および共焦点Ca
2+イメージング。心筋細胞の活動電位を、ホールセルパッチクランプ構成で、Axon 200B増幅器(Axon Instruments)を用いて室温で記録した。データを20kHzでデジタル化し、2kHzで選別し(filtered)、PClamp 9.0により分析した。パッチピペット(2〜4MΩ抵抗)に、下記のもの(mMで)を含有する細胞内溶液を満たした:50 KCl、60 アスパラギン酸K、1 MgCl
2、3 Na
2ATP、10 EGTA、10mM HEPES;KOHでpH7.3に調節。通常のタイロード溶液(Tyrode’s solution)を細胞外溶液として用い、それは(mMで)140 NaCl、5 KCl、1 CaCl
2、1 MgCl2、10 グルコース、10 HEPESを含有し、NaOHでpH7.4に調節された。
【0086】
[0090] Ca
2+共焦点イメージングのために、筋細胞をFluo−4AM(10μM
/L;Molecular Probes)と共に室温で10分間インキュベートし、次いで細胞外緩衝液と共に約30分間潅流した。Ca
2+イメージング研究は、アルゴンレーザー(488nm)を備えたLeica SP5共焦点顕微鏡により、40×の倍率で、1.25NA油浸対物レンズを用いて実施された。自発的Ca
2+スパークおよび一過性Ca
2+上昇(Ca
2+ transients)をラインスキャンを用いて記録し、ラインあたり0.5msで求めた。MATLAB 7.1ソフトウェア(MathWorks)およびImageJ(Scioncorp)の両方を用いて画像を処理および分析した。Ca
2+スパークに関して3.8×SDの検出基準を設定し、Ca
2+スパークの自動計数をImageJのためのSparkmasterプラグイン
38を用いて実施した。
【0087】
[0091] フローサイトメトリー。分化した細胞集団を0.25%トリプシン−EDTAを用いて解離させて単一細胞にし、次いでそれを固定し、PBS+0.5% BSAおよび0.1%サポニン(Sigma)中の抗ヒトCTNT抗体(R&D Systems)およびヤギ抗マウスFITCコンジュゲート二次抗体(Santa Cruz)により4℃で染色した。染色された細胞を、その後の定量的分析のために4%パラホルムアルデヒド中に保存した。データをFACScalibur(Becton Dickinson)を用いて集め、FlowJoソフトウェア(Treestar)で分析した。
【0088】
[0092] リアルタイムRT−PCR。全RNAを、分化したhES細胞の24ウェルプレートの単一ウェルからQiagenのRNeasy Plus Miniキットを用いて分離した。次いで、1μgの全RNAをSuperScript III First−Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて逆転写した。rTaq DNA Polymerase(Takara)を用いてRT−PCRを行った。リアルタイムRT−PCRを、2x QuantiFast SYBR
Green I PCR Master Mix(Qiagen)を用いて、Rotor Gene 6200 Real−Time PCR Machine(Corbett)上で、60℃のアニーリング温度を用いて三重に実施した。それぞれの遺伝子の発現を、GAPDH遺伝子の発現に対して正規化した。プライマー配列を表2に列挙する。
【0089】
[0093] 免疫蛍光。60日齢の分化した培養物を0.25%トリプシン−EDTAで消化し、細胞をゼラチンコートしたカバーガラス上に播いて5日間おき、完全に付着させた。次いで細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、一次抗体のマウス抗ヒトCTNT(R&D systems)、マウス抗ヒトα−アクチニン(Sigma)、マウス抗ヒトβ−MHC(ATCC)、マウス抗ヒトMLC−2a(Synaptic Systems)、またはウサギ抗ヒトMLC−2v(ProteinTech Group)と共にインキュベートした。DyLight 488(Santa Cruz Biotechnology)とコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体およびTritc(Santa Cruz Biotechnology)とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ二次抗体を必要に応じて用いた。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Sigma)で対比染色した後、Olympus顕微鏡システムX51またはOlympus LSCM FV1000を用いて免疫蛍光画像を可視化および記録した。
【0090】
[0094] ウェスタンブロッティング。60日齢の分化した細胞の24ウェルプレートの1つのウェルを、ウェスタンブロッティングのためにRIPA溶解緩衝液(Biomiga)を用いて溶解させた。ブロットを、マウス抗ヒトCTNT、マウス抗ヒトβ−MHC、ウサギ抗ヒトMLC−2v、ヤギ抗ANF、マウス抗ヒトMLC−2a、マウス抗ヒトβ−アクチン、ウサギ抗ホスホsmad1/5/8およびウサギ抗samd1/5/8と共に、次いでHRPコンジュゲートしたヤギ抗マウスまたは抗ウサギ抗体と共に、別々にインキュベートした。
【0091】
【表1】
【0092】
[0095] 表1 hESC由来心筋細胞から記録されたAPパラメーター。データは平均±標準誤差である。nは試験した細胞の数を示す。Vmax、AP増大の最大速度;APA.AP振幅;APD90、90%再分極において測定されたAP持続時間;MDP、最大拡張期電位。
* 結節様と比較してP<0.05;# 相互比較してP<0.05;$
相互比較してP<0.01;† 相互比較してP<0.05。
【0093】
【表2】
【0094】
結果
[0096] 以前の研究に基づいて、本発明者らは下記の仮説を立てた:hESC分化の開始後のBMP経路の阻害およびレチノイン酸シグナル伝達の遮断は心臓発生を促進する;レチノイドシグナル伝達は、hESCの心房性−対−心室性分化も制御している。この仮説を試験するために、本発明者らはノギン、RAおよびその阻害物質RAiを心臓分化培養物に異なる時間間隔で入れ、hESC派生物の心臓発生および心臓亜型特異化に対するそれらの作用を調べた。本発明者らの結果は、ノギンおよびRAiによるBMPおよびRAシグナル両方の阻害は心臓発生を有意に促進すること、およびレチノイドシグナル伝達は分化したhESCの心房性−対−心室性の特異化を制御していることを示す。本発明者らの知見は、心臓亜型を特異化する機構への重要な洞察を提供することに加えて、hESCからの比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞の直接的な分化も実証した。
【0095】
[0097] ノギンおよびRAアンタゴニストBMS189453は分化したhESCの心臓発生を促進する。心臓分化におけるその役割を調べるために、本発明者らの研究室で開発されたプロトコル(詳細な記述に関しては方法を参照)により生成された、心筋細胞に分化しつつあるhESC培養物に、2から5日目までの異なる時間間隔でノギンを計画的に添加した。結果は、ノギンが2〜3日目に存在した場合には心臓分化がわずかに抑制されたが、2.5〜4.5日目に存在した場合には有意に促進されたことを示している。最も高い心臓分化効率は、4〜5日目で達成された(
図1B)。リン酸化されたSmad1、5、8に関するウェスタンブロットは、ノギンがBMPシグナル伝達の活性を低減させ
たことを示した(データは示していない)。従って、BMPシグナル伝達の阻害は分化の開始後のhESCにおける心臓発生を促進する。
【0096】
[0098] RAシグナルは胚性心臓前駆細胞を制限するという以前の知見から、hESCの心臓分化中におけるRAシグナル伝達の阻害は心臓発生を促進するという可能性が生じる。RA合成のための基質であるビタミンAおよびRA合成を担う酵素であるRALDH2
24の両方が本発明者らの培養物中に存在し(データは示していない)、それはRAシグナル伝達の活性化の可能性を示唆している。従って、本発明者らは心筋細胞に分化しつつある培養物に4〜9日目に
図1Cにおいて示した時点でRAiを添加することにより、hESC心臓分化の促進に対するRA阻害の作用を試験した。フローサイトメトリーは6〜9日目にRAiを添加した場合に心臓分化が著しく増大したことを示し(
図1C)、これはRAシグナル伝達の阻害がhESCの心臓分化を促進することを実証している。
【0097】
[0099] 次に、本発明者らは4〜5日目のノギン処理と6から8日目までのRAi処理を組み合わせた。14日目の培養物からのCTNT
+細胞のフローサイトメトリーは、ノギン単独ではその分化効率は50%±3.06%(平均±平均値の標準誤差)であり、細胞をRAiおよびノギンの両方で処理した場合、この効率が73%±2.08%に増大することを示した(
図1D)。これは14日目の培養物の定量RT−PCR分析からの結果により確証された。CTNTおよびNKX2.5の両方の発現レベルが、ノギン+RAiで処理した培養物において、ノギン単独で処理した培養物におけるよりも有意に高かった(
図1E)。免疫染色は、培養細胞におけるCTNT、α−アクチニン、MLC−2a、MLC−2v、およびβ−MHCを含む典型的な心臓マーカーの発現を示した(
図1F)。
【0098】
[00100] 二者択一のレチノイドシグナルがhESCの2つの異なる心筋細胞の亜型へ
の分化を方向付ける。ニワトリおよびマウスの胚の研究はレチノイドシグナル伝達が流入路および流出路組織の運命の指定を制御していることを示したため
5,20−24、本発明者らは、レチノイドシグナル伝達の活性化または不活性化が分化したhESC心臓前駆細胞の心房−対−心室の運命の指定を方向付けること、およびそのような機構を利用してhESC由来心房様または心室様筋細胞のどちらかを効率的に生じさせることができるであろうということを提唱した。
【0099】
[00101] この仮説を試験するために、RAまたはそのアンタゴニストであるRAiの
どちらかを、平行した実験においてノギン処理した培養物に6〜8日目に添加した(
図1A)。14日間の分化の後、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物中のCTNT
+細胞の百分率は、それぞれ50.7%±1.76%および64.7%±0.88%であった(
図2A)。分化効率には約14%の違いしかないにも関わらず、ノギン+RA処理した培養物中の拍動する心筋細胞の大きさはノギン+RAi処理した培養物中の拍動する心筋細胞の大きさよりも小さかった(
図2B、D)。ノギン+RA処理した培養物中の心筋細胞の拍動速度もノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の拍動速度より速く(
図2Cおよび表1)、これはこれらの2種類の異なる培養物中に2つの異なる心筋細胞の亜型が存在していたことを示唆する。次に、本発明者らはその2種類の培養物における心室特異的遺伝子IRX4およびMLC−2vの発現を調べた。定量RT−PCRは、ノギン+RAi処理した培養物においてIRX4の発現は8日目に上昇し始め、14日目までにそれはノギン+RA処理した培養物における発現よりも10倍高くなったことを示した(
図3A)。60日齢の培養物の免疫染色は、MLC−2vがノギン+RAi処理した培養物中のCTNT
+細胞の大部分において発現していたけれどもノギン+RA処理した培養物では発現していなかったことを示し(
図3B)、これは、CTNTはこれらの2種類の培養物において類似したレベルで発現していたけれどもMLC−2vはノギン+RAi処理した培養物において強くかつそれにのみ発現していたことを示すウェスタンブロッ
ティングからの結果(
図3C)と一致している。本発明者らはまた、ノギン+RAi処理、ノギン処理、およびノギン+RA処理した培養物において、cTNTおよびMLC−2vの発現を免疫染色およびウェスタンブロットにより比較した。その結果は、ノギン単独で処理した培養物ではわずか約35%のcTNT陽性細胞がMLC−2v陽性でもあることを示し、ウェスタンブロットによって弱いMLC−2v発現が検出された(
図5)。これらの結果は、ノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心室様筋細胞であり、一方でノギン+RA処理した培養物中で分化した心筋細胞はMLC−2vを発現しない胚性結節様または心房様筋細胞のどちらかであることを示している。本発明者らは、ウェスタンブロットを用いて、RAおよびRAi処理した培養物におけるβ−MHC、MLC−2a、および心房性ナトリウム利尿因子(Atrial Nutriation
Factor)(ANF)の発現も調べ、結果はβ−MHCはその2種類の培養物において均等に発現しているがMLC−2aおよびANFはRA処理した培養物においてRAi処理した培養物におけるレベルよりも高いレベルで発現していることを示した(
図6)。
【0100】
[00102] 電気生理学的特性付けは二者択一のレチノイドシグナルにより誘導された胚
性心房様および心室様心筋細胞集団を同定する。哺乳類の系には内因性の早期心房特異的遺伝子マーカーが無いため
5、本発明者らはこれらの2種類の心臓亜集団を厳密に同定するために電気生理学的特性を用いることを選択した。AP特性の形態および分類(表1)
6,26に基づいて、本発明者らの研究において3種類の主なAPのタイプ(結節様、心房様、および心室様)が観察された(
図4A)。しかし、その3種類のAPの主なタイプの比率は、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物の間で異なっていた;ノギン+RAiで処理した培養物からの筋細胞の83%(n=23)が心室様APを有しており(
図4A、C)、この場合はAPの持続時間はカルシウムチャンネル遮断薬であるニフェジピンの適用によって短縮でき(
図4B、左)、一方でノギン+RA処理した培養物からの筋細胞の94%(n=19)が心房様APを示し、そのAPの持続時間はニフェジピンによって短縮できなかった(
図4A、B右およびC)。これらの結果は、ノギン+RA処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心房様筋細胞であり、ノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心室様筋細胞であったことを実証している。興味深いことに、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した両方の培養物において、本発明者らは以前の研究
6,9において報告された高い割合の結節様APを有する心筋細胞を観察しなかった。
【0101】
[00103] 心房−対−心室筋細胞では、心筋細胞のCa
2+シグナル伝達の基本単位で
あるCa
2+スパークにおいて重要な速度論的違いが存在する
27,28。Ca
2+スパークは心房筋細胞において心室筋細胞におけるCa
2+スパークよりも著しく大きく、そして長期間持続する
28,29。イメージング研究の結果は、ノギン+RAi処理した培養物では試験した細胞の87.5%(14/16)が心室様筋細胞の典型的なCa
2+スパーク特性である比較的低い振幅、速い立ち上がり時間、短い半減時間(half time decay)および小さいサイズのCa
2+スパークを示すことを示した(
図4D、E)。一方で、ノギン+RA処理した培養物では、試験した細胞の81.8%(18/22)がより高い振幅、より遅い立ち上がり時間、より長い半減時間およびより大きいサイズのCa
2+スパークを示し(
図4D、E)、これはノギン+RA処理した培養物からの筋細胞が心房様筋細胞であったことを示唆している。2種類の異なる処理を行った培養物におけるCa
2+放出の速度論的研究およびそれらの2種類のパターンを有する心筋細胞の比率は、以前のAP表現型に基づく心臓亜型カテゴリー分類と一致し、それを支持する。
【0102】
考察
[00104] 本発明者らの結果は、心臓分化の開始後のBMPシグナル伝達阻害はhES
Cの心臓発生を促進することを示している。これは、分化の開始前にノギンを投与することが心臓発生を促進することを示すマウス胚性幹細胞における研究
13と部分的に一致する。さらにノギン処理された細胞を非処理細胞と比較することにより、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)がマウス胚性幹細胞に由来する発生しつつある心筋細胞(cardiomycotes)の増殖を促進することが明らかになった
30。ノギンはhESCの未分化状態での増殖を維持し
31、BMP4はマウス胚性幹細胞の自己複製(self−renew)に必要である
32。これらの異なる自己複製機構は、ヒトとマウスの胚性幹細胞の心臓分化研究で観察された違いの原因である可能性がある。
【0103】
[00105] ウェスタンブロットはANFおよびMLC−2aの差次的発現を明らかにし
たが、60日齢のノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物では両方の遺伝子が発現している(
図6)。これは、マウスの系には早期心房特異的マーカーが存在しないことを示したDr.Rosenthalの発表と一致する。代わりに、彼らは心臓発生の最も早いステージからの洞房組織を標識するために近位840bpウズラSMyHC3プロモーターを用いた
5。
【0104】
[00106] 以前のニワトリおよびマウスの胚の研究は、RAシグナル伝達が洞房細胞の
運命を決定する一方で心室の運命はRAの非存在で指定されると提唱した
20。本発明者らの研究は、RAシグナル伝達の遮断が主なhESC由来心筋細胞において心室特異的マーカーMLC−2vの発現を誘導し、これらの細胞は心室筋細胞に典型的なAPおよびCa
2+スパークを有することを示している。外因性のRA処理は、hESCの分化を、特徴的な心房様のAPおよび大きなCa
2+スパークまたは一過性Ca
2+上昇を保持する筋細胞へ方向付ける。本発明者らの結果は、レチノイドシグナルの活性化または阻害が分化しつつあるhESCの心房−対−心室の特異化を指示することを実証している。本発明者らの結果とは異なり、以前の研究はRAがマウス胚性幹細胞に由来する心室性心筋細胞の発生を増進することを示している
33。これは、これら2つの研究において用いられた分化培養系、平らな培養系と対比した胚様体方法、およびRAを入れるタイミングの違いを表している可能性がある。
【0105】
[00107] hESC由来心筋細胞の不均質性により引き起こされる心室性不整脈の潜在
的な危険性は、心臓修復へのhESCの適用に関する主な障害の1つである
1,6,10。hESCに由来する比較的均質な心室筋細胞を心筋修復に適用することは、この危険性を低減してhESCに基づく心筋修復戦略の開発に関する主な障壁の1つを取り除く大きな可能性を有する。マウス心室性前駆細胞をマウス胚性幹細胞派生物から遺伝子標識アプローチを用いて分離することができ、それを用いて機能する心室筋が生成される
34ことを示す最近の組織工学における進歩は、hESCから直接分化した胚性心室様筋細胞を用いてヒトの機能する心室心筋を生成できることを示唆している。本発明者らが開発した直接的な分化方法は、化学的に規定された培養系を用い、遺伝子操作を用いないことにより、心筋修復の臨床研究において容易に用いられるであろう。hESCに基づく心筋修復の開発に関する別の課題は、移植に必要な大量の心室筋細胞(myoctes)を迅速に生成するためのバイオテクノロジーを開発することである。本発明者らの研究は、胚性幹細胞の心臓分化において一般的に用いられている時間のかかる工程である胚様体方法を排除することにより、hESCからの胚性心房様および心室様筋細胞の効率的な分化を実証した。誘導多能性幹(iPS)細胞技術
35,36と組み合わせれば、心房様および心室様筋細胞のプログラムされた分化を用いて個人に合わせた心臓修復のための安全な細胞源を開発することができるだけでなく、遺伝的心房または心室疾患の研究のための細胞モデルも提供することができるであろう。
【0106】
[00108] 参考文献:
【0107】
【化1-1】
【0108】
【化1-2】
【0109】
【化1-3】
【0110】
[00109] 上記の刊行物または文献の引用は前述のいずれかが関連先行技術であると容認することを意図しておらず、その引用がこれらの刊行物または文献の内容または日付に関する容認を構成することも決してない。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞を骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストと接触させることを含み、それによりBMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が心臓分化効率より高くなる方法。
[態様2]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様3]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様4]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様5]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様4に記載の方法。
[態様6]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様7]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様8]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様9]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様10]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様1に記載の方法。
[態様11]BMPアンタゴニストがノギンである、態様1に記載の方法。
[態様12]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することをさらに含む、態様1に記載の方法。
[態様13]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様12に記載の方法。
[態様14]レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより阻害される、態様12に記載の方法。
[態様15]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様12に記載の方法。
[態様16]BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が、BMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも少なくとも約30〜40%高い、態様1に記載の方法。
[態様17]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が約50%である、態様1に記載の方法。
[態様18]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が約70%である、態様15に記載の方法。
[態様19]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様1に記載の方法。
[態様20]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様19に記載の方法。
[態様21]態様1〜20のいずれか1に記載の方法により生成された心筋細胞。
[態様22]中胚葉を形成するように分化し、外因性のBMPアンタゴニストで処理された幹細胞を含む組成物。
[態様23]幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することを含む方法。
[態様24]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様25]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様26]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様27]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様26に記載の方法。
[態様28]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様29]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様30]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様31]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様32]幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることをさらに含む、態様23に記載の方法。
[態様33]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様32に記載の方法。
[態様34]BMPアンタゴニストがノギンである、態様33に記載の方法。
[態様35]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様23に記載の方法。
[態様36]レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより阻害される、態様23に記載の方法。
[態様37]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様23に記載の方法。
[態様38]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をBMS−189453と接触させることにより阻害される、態様32に記載の方法。
[態様39]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様23に記載の方法。
[態様40]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様39に記載の方法。
[態様41]態様23〜40のいずれか1に記載の方法により生成された心室性心筋細胞。
[態様42]心室特異的遺伝子の高い発現レベル、胚性心室様の活動電位(AP)、および/または心室性心筋細胞に典型的なCa
2+スパークパターンを有する、態様41に記載の心室性心筋細胞。
[態様43]心室特異的遺伝子がIRX−4またはMLC−2vである、態様42に記載の心室性心筋細胞。
[態様44]中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物。
[態様45]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質が汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストである、態様44に記載の組成物。
[態様46]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様45に記載の組成物。
[態様47]幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激すること、または阻害しないことを含む方法。
[態様48]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様49]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様50]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様51]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様52]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様53]幹細胞が未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様54]幹細胞が未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様55]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様56]幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることをさらに含む、態様47に記載の方法。
[態様57]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様56に記載の方法。
[態様58]BMPアンタゴニストがノギンである、態様57に記載の方法。
[態様59]幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様47に記載の方法。
[態様60]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様56に記載の方法。
[態様61]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様47に記載の方法。
[態様62]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様61に記載の方法。
[態様63]態様47〜62のいずれか1に記載の方法により生成された心房性心筋細胞。
[態様64]胚性心房様の活動電位(AP)および/または心房性心筋細胞に典型的なCa
2+スパークパターンを有する、態様63に記載の心房性心筋細胞。
[態様65]中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物。
[態様66]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質がレチノイン酸またはビタミンAである、態様65に記載の組成物。
[態様67]幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法であって:
1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;
2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;
3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をノギンと接触させて幹細胞の心臓分化効率を高め;
4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害して心室性心筋細胞形成を促進し;
5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させて幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させる
ことを含む方法。
[態様68]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様67に記載の方法。
[態様69]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様68に記載の方法。
[態様70]態様67〜69のいずれか1に記載の方法により生成された心室性心筋細胞。
[態様71]幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法であって:
1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始し;
2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;
3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をノギンと接触させて幹細胞の心臓分化効率を高め;
4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激して、または阻害せずに、心房性心筋細胞形成を促進し;
5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させて幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させる
ことを含む方法。
[態様72]幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様71に記載の方法。
[態様73]態様71および72のいずれか1に記載の方法により生成された心房性心筋細胞。
[態様74]心臓の損傷または障害を処置するための医薬組成物であって、有効量の態様21に記載の心筋細胞、態様41に記載の心室性心筋細胞または態様63に記載の心房性心筋細胞、および医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む医薬組成物。
[態様75]対象において心臓の損傷または障害を処置するための方法であって、そのような処置が必要であるか、または望ましい対象に、有効量の態様74に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
[態様76]対象がヒトである、態様75に記載の方法。
[態様77]心筋細胞の調節物質を同定するための方法であって:
1)態様21に記載の心筋細胞、態様41に記載の心室性心筋細胞または態様63に記載の心房性心筋細胞を調節物質の候補と接触させ、調節物質の候補が心筋細胞の特性に及ぼす作用を測定し;
2)調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性を測定し;
それにより、調節物質の候補と接触した心筋細胞の特性が調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性と異なることによって、調節物質の候補を心筋細胞の特性の調節物質として同定する方法。