特許第6427126号(P6427126)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427126幹細胞から心筋細胞を調製するための方法および組成物ならびにその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427126
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】幹細胞から心筋細胞を調製するための方法および組成物ならびにその使用
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/077 20100101AFI20181112BHJP
   C12N 5/0735 20100101ALI20181112BHJP
   C12N 5/074 20100101ALI20181112BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20181112BHJP
   A61K 35/34 20150101ALI20181112BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20181112BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   C12N5/077
   C12N5/0735ZNA
   C12N5/074
   C12Q1/02
   A61K35/34
   A61P9/00
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】18
【外国語出願】
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2016-16994(P2016-16994)
(22)【出願日】2016年2月1日
(62)【分割の表示】特願2013-514527(P2013-514527)の分割
【原出願日】2010年11月11日
(65)【公開番号】特開2016-127849(P2016-127849A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2016年2月8日
(31)【優先権主張番号】201010207603.0
(32)【優先日】2010年6月13日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512320593
【氏名又は名称】インスティチュート・オブ・バイオフィジックス,チャイニーズ・アカデミー・オブ・サイエンシズ
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100163784
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 健志
(72)【発明者】
【氏名】マー,ユエ
【審査官】 藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】 特表2003−526677(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/033298(WO,A1)
【文献】 特表2010−508846(JP,A)
【文献】 特表2009−531054(JP,A)
【文献】 Biochemical and Biophysical Research Communications (2005) Vol.333, pp.1334-1340
【文献】 Nature Biotechnology (2007) Vol.25, No.9, pp.1015-1024
【文献】 PNAS (2006) Vol.103, No.52, pp.19812-19817
【文献】 Nature,2008年,453,524-529
【文献】 Differentiation (2008) Vol.76, pp.971-980
【文献】 Nature Biotechnology (2005) Vol.23, No.5, pp.607-611
【文献】 Toxic. in Vitro (1995) Vol.9, No.4, pp.477-488
【文献】 Development (1997) Vol.124, pp.4749-4758
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS/WPIX(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インビトロで哺乳類中胚葉細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するための方法であって、該哺乳類中胚葉細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害し、それにより該哺乳類中胚葉細胞からの心室性心筋細胞形成が促進されることを含む、上記方法。
【請求項2】
哺乳類中胚葉細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニスト、BMS−189453、レチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニスト、もしくはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより、哺乳類中胚葉細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより、または哺乳類中胚葉細胞をビタミンAと接触させないことにより、レチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
哺乳類中胚葉細胞が、全能性幹細胞、多能性幹細胞、多分化能性幹細胞、オリゴ能性幹細胞、単能性幹細胞、または胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞、または成体幹細胞から分化している、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
哺乳類中胚葉細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞から分化している、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
哺乳類中胚葉細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより未分化の幹細胞から分化している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
哺乳類中胚葉細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に該幹細胞をアクチビンAと接触させることにより未分化の細胞から分化している、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
哺乳類中胚葉細胞が、未分化の幹細胞をwnt−3a、Bioおよび/またはCHIR99021と接触させることにより未分化の細胞から分化している、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
哺乳類中胚葉細胞をWntシグナル伝達経路阻害物質またはdickkopfホモログ1(DKK1)と接触させることをさらに含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
哺乳類中胚葉細胞をBMPアンタゴニストと接触させる工程をさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
BMPアンタゴニストが、BMP4アンタゴニスト、ノギン、コーディン(Chordin)、Tsg、BMP可溶性受容体、BMPR1A、BMPR1B、またはドルソモルフィン(Dorsomorphin)である、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
レチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することが、哺乳類中胚葉細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることを含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
レチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することが、哺乳類中胚葉細胞をレチノイン酸合成の阻害剤と接触させることを含む、請求項1〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
レチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することが、哺乳類中胚葉細胞をBMS−453、AGN194310、AGN193109、Ro41−5253、SR11335、9−シス−レチノイン酸、ジスルフィラム、又はシトラールと接触させることを含む、請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
インビトロで哺乳類中胚葉細胞から心筋細胞の集団を生成することをさらに含む、請求項1〜13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
集団における心筋細胞の少なくとも80%が心室性心筋細胞である、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
心筋細胞の集団がプレート上で生成される、請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
対象において心臓の損傷または障害を処置する医薬の調製のために心筋細胞の集団を使用することをさらに含む、請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
心筋細胞の調節物質を同定するための方法であって:
1)請求項14〜16のいずれか1項に記載の方法で心筋細胞の集団を生成させ;
2)前記心筋細胞の集団を調節物質の候補と接触させ調節物質の候補心筋細胞の特性に及ぼす作用を測定
3)調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性を測定し;
調節物質の候補と接触した心筋細胞の特性が調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性と異なる場合、調節物質の候補を心筋細胞の特性の調節物質として同定する、上記方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
I.関連出願への相互参照
[0001] 本出願は、2010年6月13日に出願された、“幹細胞を心房性および心室性心筋細胞に効率的に分化させるための方法”と題する中国特許出願第201010207603.0号に基づく優先権を主張する。上記の中国特許出願の開示内容を全体として援用する。
【0002】
II.技術分野
[0002] 本発明は、幹細胞の心臓分化(cardiac differentiation)効率を高めるための、ならびに幹細胞からの心房性および心室性心筋細胞形成を促進するための新規な組成物および方法、その幹細胞から形成された心房性および心室性心筋細胞、ならびに例えば心損傷の修復のための、および心損傷を処置する新規療法薬のスクリーニングのための、その心筋細胞の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 現在の技術を用いて、胚性の心房様、心室様および結節様の心筋細胞をhESCから非特異的に分化させることができる6−9。ブタの移植研究は、移植されたhESCに由来する心筋細胞が心室性不整脈の原因である可能性のあるペースメーキング活性(pace making activities)を有することを示している10。心筋の修復におけるhESCの適用は、このhESC由来心筋細胞の心臓亜型の不均一性により妨げられている。希望する心臓亜型にhESCの分化を方向付けるためには、心臓亜型の特異化(specification)の機構を明らかにしなければならない。いくつかの増殖因子、例えばアクチビンA、骨形成タンパク質4(BMP4)、wnt−3a、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびdickkopfホモログ1(DKK1)が心臓発生を促進することが同定されており、いくつかのhESC心臓分化プロトコルにおいて用いられている7,8,11が、これらの、または他の成長因子がhESC分化に際して心臓亜型の特異化を制御していることを示す証拠は現在までに存在していない。心臓亜型の特異化の鍵となる制御因子を同定することはhESCに由来する心筋細胞集団の不均一性を低減するために重要であり、それは再生医療における、または薬物試験系としてのその後の使用にとって重要であろう6,12
【0004】
[0004] 骨形成タンパク(BMP)のシグナル伝達は中胚葉および心臓の発生に際して厳密に制御されている。マウスの胚において、BMPアンタゴニストであるノギン(Noggin)は胚の日数E7.5〜E8.0において心臓原基(cardiac crescent)で一過性に、しかし強く発現している13。心臓発生の強力な誘導因子であるDkk18,14,15は、BMP拮抗と協同してアフリカツメガエルの胚からの非造心中胚葉(non−cardiogenic mesoderm)において心臓組織を特異化する16。BMP4によるhESCの長期処理は栄養芽細胞様の細胞分化を誘導し17、一方で短期処理は中胚葉形成を開始する18ことが示されている。合わせると、これらの結果は中胚葉形成後のBMPシグナル伝達の阻害は心臓発生を促進することを示唆している。
【0005】
[0005] レチノイン酸(RA)シグナル伝達は、心臓前駆細胞プールを制限し、ゼブラフィッシュ胚の前部側板中胚葉をRAアンタゴニストBMS−189453に曝露すると中立の(uncommitted)側部中胚葉細胞が心筋前駆細胞になるだけでなく19、心臓の前後の極性化も制御している20。ニワトリの移植研究は、本来心房となる運命であるHHステージ4〜6からの造心中胚葉は機能する心室へと発生する能力があり、逆
もまた同様であることを明らかにした21,22。HHステージ4の造心組織のRA処理は、流出路組織へと発生する運命である前部前駆細胞における心房特異的遺伝子AMHC1の発現を活性化する23。さらに、マウスおよびニワトリ両方の胚において、臨界期内のRAシグナル伝達の阻害は特大の心室およびより小さい心房または心房の欠損をもつ胚をもたらし、RAの外因的な添加は結果として元に戻った表現型をもたらす5,24。さらに、マウス胚性幹細胞を用いた研究はレチノイン酸が心房関連遺伝子の発現を促進することを示した25
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】He, J. Q., Ma, Y., Lee, Y., Thomson, J. A. & Kamp, T. J. Human embryonic stem cells develop into multiple types of cardiac myocytes: action potential characterization. Circ Res 93, 32-39 (2003).
【非特許文献2】Laflamme, M. A. et al. Cardiomyocytes derived from human embryonic stem cells in pro-survival factors enhance function of infarcted rat hearts. Nat Biotechnol 25, 1015-1024 (2007).
【非特許文献3】Yang, L. et al. Human cardiovascular progenitor cells develop from a KDR+ embryonic-stem-cell-derived population. Nature 453, 524-528 (2008).
【非特許文献4】Zhu, W. Z. et al. Neuregulin/ErbB Signaling Regulates Cardiac Subtype Specification in Differentiating Human Embryonic Stem Cells. Circ Res (2010).
【非特許文献5】Kehat, I. et al. Electromechanical integration of cardiomyocytes derived from human embryonic stem cells. Nat Biotechnol 22, 1282-1289 (2004).
【非特許文献6】Chen, H. S., Kim, C. & Mercola, M. Electrophysiological challenges of cell-based myocardial repair. Circulation 120, 2496-2508 (2009).
【非特許文献7】Tran, T. H. et al. Wnt3a-induced mesoderm formation and cardiomyogenesis in human embryonic stem cells. Stem Cells 27, 1869-1878 (2009).
【非特許文献8】Reppel, M. et al. Effect of cardioactive drugs on action potential generation and propagation in embryonic stem cell-derived cardiomyocytes. Cell Physiol Biochem 19, 213-224 (2007).
【非特許文献9】Yuasa, S. et al. Transient inhibition of BMP signaling by Noggin induces cardiomyocyte differentiation of mouse embryonic stem cells. Nat Biotechnol 23, 607-611 (2005).
【非特許文献10】Marvin, M. J., Di Rocco, G., Gardiner, A., Bush, S. M. & Lassar, A. B. Inhibition of Wnt activity induces heart formation from posterior mesoderm. Genes Dev 15, 316-327 (2001).
【非特許文献11】Schneider, V. A. & Mercola, M. Wnt antagonism initiates cardiogenesis in Xenopus laevis. Genes Dev 15, 304-315 (2001).
【非特許文献12】Korol, O., Gupta, R. W. & Mercola, M. A novel activity of the Dickkopf-1 amino terminal domain promotes axial and heart development independently of canonical Wnt inhibition. Dev Biol 324, 131-138 (2008).
【非特許文献13】Xu, R. H. et al. BMP4 initiates human embryonic stem cell differentiation to trophoblast. Nat Biotechnol 20, 1261-1264 (2002).
【非特許文献14】Zhang, P. et al. Short-term BMP-4 treatment initiates mesoderm induction in human embryonic stem cells. Blood 111, 1933-1941 (2008).
【非特許文献15】Keegan, B. R., Feldman, J. L., Begemann, G., Ingham, P. W. & Yelon, D. Retinoic acid signaling restricts the cardiac progenitor pool. Science 307, 247-249 (2005).
【非特許文献16】Xavier-Neto, J. et al. Retinoid signaling and cardiac anteroposterior segmentation. Genesis 31, 97-104 (2001).
【非特許文献17】Patwardhan, V., Fernandez, S., Montgomery, M. & Litvin, J. The rostro-caudal position of cardiac myocytes affect their fate. Dev Dyn 218, 123-135 (2000).
【非特許文献18】Orts-Llorca F, J. C. J. Determination of heart polarity (arterio venous axis) in the chicken embryo. Roux Arch Entwick-lungsmechanik 113, 17 (1967).
【非特許文献19】Yutzey, K., Gannon, M. & Bader, D. Diversification of cardiomyogenic cell lineages in vitro. Dev Biol 170, 531-541 (1995).
【非特許文献20】Xavier-Neto, J. et al. A retinoic acid-inducible transgenic marker of sino-atrial development in the mouse heart. Development 126, 2677-2687 (1999).
【非特許文献21】Hochgreb, T. et al. A caudorostral wave of RALDH2 conveys anteroposterior information to the cardiac field. Development 130, 5363-5374, (2003).
【非特許文献22】Gassanov, N. et al. Retinoid acid-induced effects on atrial and pacemaker cell differentiation and expression of cardiac ion channels. Differentiation 76, 971-980 (2008).
【発明の概要】
【0007】
[0006] 1観点において、本開示は幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法を提供し、その方法は幹細胞の分化または心臓分化の開始後にBMPシグナル伝達を阻害することを含む。1つの具体的な態様において、本開示は幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞を骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストと接触させることを含み、それによりそのBMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率はそのBMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも高くなる。上記の方法により生成された心筋細胞も提供する。さらに、中胚葉を形成するように分化し、外因性のBMPアンタゴニストで処理された幹細胞を含む組成物を提供する。
【0008】
[0007] 別の観点において、本開示は幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することを含む。上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。さらに、中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物を提供する。
【0009】
[0008] さらに別の観点において、本開示は幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激すること、または阻害しないことを含む。上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。さらに、中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物を提供する。
【0010】
[0009] さらに別の観点において、本開示は幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞を作用物質、例えばbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;2)その作用物質、例えばbFGFおよびBMP4により処理された幹細胞を別の作用物質、例えばアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をBMPアンタゴニスト、例えばノギンと接触させてその幹細胞の心臓分化効率を高め;4)BMPアンタゴニスト、
例えばノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害して心室性心筋細胞形成を促進し;そして5)BMPアンタゴニスト、例えばノギンにより処理された幹細胞をwnt阻害物質、例えばDKK1と接触させてその幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させる。上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。
【0011】
[0010] さらに別の観点において、本開示は幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させ;2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させ;3)アクチビンAにより処理された幹細胞をノギンと接触させ;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害し;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させる。上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。
【0012】
[0011] さらに別の観点において、本開示は幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞を作用物質、例えばbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;2)作用物質、例えばbFGFおよびBMP4により処理された幹細胞を別の作用物質、例えばアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をBMPアンタゴニスト、例えばノギンと接触させてその幹細胞の心臓分化効率を高め;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激して、または阻害せずに、心房性心筋細胞形成を促進し;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させてその幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させる。上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。
【0013】
[0012] さらに別の観点において、本開示は幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させ;2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させ;3)アクチビンAにより処理された幹細胞をノギンと接触させ;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激し、または阻害せず;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させる。上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。
【0014】
[0013] さらに別の観点において、本開示は心臓の損傷または障害を処置するための医薬組成物を提供し、その医薬組成物は有効量の上記の方法により生成された心筋細胞および場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む。
【0015】
[0014] さらに別の観点において、本開示は、対象、例えばヒトにおいて心臓の損傷または障害を処置するための方法を提供し、その方法は、そのような処置が必要であるか、または望ましい対象に、有効量の上記の医薬組成物を投与することを含む。
【0016】
[0015] さらに別の観点において、本開示は心筋細胞の調節物質(modulator)を同定するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)上記の方法により生成された心筋細胞を被験物質と接触させ、その被験物質が心筋細胞の特性に及ぼす作用を測定し;2)その被験物質と接触していない心筋細胞の特性を測定し;それにより、その被験物質と接触した心筋細胞の特性がその被験物質と接触していない心筋細胞の特性と異なることによって、その被験物質をその心筋細胞の特性の調節物質、例えば刺激物質または阻害物質として同定する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】[0016] 図1は、ノギン(Ngn)およびRA阻害がhESCの心臓分化を促進することを示す。(A)ヒトESCの心臓系列への分化のために用いられるプロトコルの概要。(B)14日目におけるCTNT細胞の頻度;示した時間間隔でNgnを添加して心臓誘導された培養物;基本プロトコル(BP)を対照として用いた。(C)示した時間間隔でRA阻害物質RAiを添加して心臓誘導された14日目の培養物におけるCTNT細胞の頻度;BPを対照として用いた。(D)対照としてのBPによる培養物;4および5日目にNgnを添加したBP培養物、ならびに4および5日目にNgnを添加し、かつ6日目から8日目までにRAiを添加したBP培養物(Ngn+RAi)中のCTNT細胞のフローサイトメトリー分析。(E)(D)に示した14日目のBP、Ngn処理、およびNgn+RAi処理培養物の定量的RT−PCR遺伝子発現分析。GADPHに対して正規化された平均発現を示す。(F)心臓誘導された培養物の免疫染色分析。棒を示した箇所では、それらは3回の独立した実験の平均の標準誤差を表す。CM、調整培地。BP対照または別途示したものと比較したP、P<0.05、**P<0.005、***P<0.0005。
図2】[0017] 図2は、分化した心筋細胞の形態および拍動速度を示す。(A)BP、加えて4および5日目にNgnによる処理、ならびに6から8日目までにRA(Ngn+RA)またはRAi(Ngn+RAi)処理により分化した、14日目の培養物からのCTNT細胞のフローサイトメトリー分析。(B)Ngn+RA(n=35)およびNgn+RAi(n=31)により処理した60日齢の培養物からの単一の心筋細胞の大きさをImageJソフトウェアにより測定した統計値。(C)60日齢の分化した培養物(n=4)の拍動速度(拍動数/分)の統計値。(D)60日齢の分化した培養物からの単一細胞の免疫染色。
図3】[0018] 図3はNgn+RAおよびNgn+RAiにより誘導されたhESC由来心筋細胞の特性付けを示す。(A)Ngn+RAおよびNgn+RAi培養物におけるirx4遺伝子発現速度の定量的RT−PCR分析。GAPDHに対して正規化された平均発現を示す。棒を示した箇所では、それらは3回の独立した実験の平均の標準誤差を表す。***P<0.0005。(B)60日齢のNgn+RAおよびNgn+RAiで誘導された培養物の免疫染色は、Ngn+RAi処理された培養物のCTNT細胞の大部分においてMLC−2Vが発現しているが、Ngn+RA処理された培養物の場合には発現していないことを示した。(C)60日齢のNgn+RAおよびNgn+RAi処理された培養物のウェスタンブロッティングは、たとえCTNTが両方の培養物において均一に発現していても、MLC−2VはNgn+RAi処理された培養物においては強く発現しているがNgn+RA処理された培養物では発現していないことを示した。
図4】[0019] 図4はNgn+RAおよびNgn+RAiにより誘導された心筋細胞のAP形態およびCa2+放出特性を示す。(A)hESC由来心筋細胞において、APの3種類の主なタイプが観察された:結節様、心房様、および心室様。心室様APの持続時間はニフェジピンの適用によって大幅に短縮された(B、左);心房様APの持続時間へのニフェジピンの有意な作用は観察されなかった(B、右)。(C)Ngn+RAiおよびNgn+RA培養物から記録されたAPタイプの百分率を示す。(D)Ngn+RA培養物(左)およびNgn+RAi培養物(右)における、心筋細胞から記録された典型的なCa2+画像。その画像から蛍光プロフィール(下)を得た(矢印により示した位置において)。Ngn+RAおよびNgn+RAi処理された培養物における心筋細胞から記録された典型的なCa2+放出事象の特性をeにまとめる(Ngn+RA処理された培養物中の18個の細胞から98のスパーク(spark)、およびNgn+RAi処理された培養物中の14個の細胞から348のスパークを測定した)。Ngn+RAi培養物と比較してP<0.05。電気生理学的研究において用いられた全ての細胞は60〜90日齢であった。N様、結節様AP;A様、心房様AP;V様、心室様AP。
図5】[0020] 図5は異なるレチノイドで処理された培養物におけるMLC−2v発現を示す。(A)ノギン+RA、ノギン単独、およびノギン+RAiで処理された、60日齢の培養物に関するMLC−2vおよびcTNT二重染色。(B)ノギン+RA、ノギン単独、およびノギン+RAiで処理された、60日齢の培養物を用いたMLC−2v、cTNTおよびβ−アクチンに関するウェスタンブロット。
図6】[0021] 図6は異なる処理を行った培養物における心臓遺伝子発現を示す。ノギン+RA、ノギン単独、およびノギン+RAiで処理された、60日齢の培養物を用いたMLC−2a、ANF、β−MHCおよびβ−アクチンに関するウェスタンブロット。
【発明を実施するための形態】
【0018】
A.定義
[0022] 別途定義しない限り、本明細書において用いられる全ての技術的および科学的用語は本発明が属する技術分野における当業者により一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書において参照される全ての特許、特許出願(公開されたもの、または公開されていないもの)、および他の刊行物を、全体として援用する。この節において述べる定義が本明細書に援用する特許、出願、公開された出願および他の刊行物において述べられている定義に反するか、またはそうでなければ矛盾する場合、この節において述べる定義が本明細書に援用する定義に勝る。
【0019】
[0023] 本明細書で用いられる際、“a”または“an”は“少なくとも1”または“1以上”を意味する。
【0020】
[0024] 本明細書で用いられる際、“哺乳類”は哺乳類の種の分類のいずれかを指す。しばしば、用語“哺乳類”は、本明細書で用いられる際、ヒト、ヒト対象またはヒト患者を指す。
【0021】
[0025] 本明細書で用いられる際、“特定の疾患を処置するための化合物の有効量”は、その疾患と関係する症状を改善する、または何らかの方法で低減するのに十分な量である。そのような量は1回の投与量として投与されてもよく、またはそれによって効果を有するところの計画に従って投与されてもよい。その量はその疾患を治癒する可能性があるが、一般的には、その疾患の症状を改善するために投与される。希望する症状改善を達成するために、反復投与が必要である可能性がある。
【0022】
[0026] 本明細書で用いられる際、“処置”はそれにおいてその状態、障害または疾患の症状が改善される、またはそうでなければ有益に変えられる、いずれかの方法を意味する。処置は本明細書における組成物のいずれかの医薬的使用も含む。
【0023】
[0027] 本明細書で用いられる際、特定の医薬組成物の投与による特定の障害の症状の“改善”は、永久的であろうと一時的であろうと、持続的であろと一過性であろうと、その組成物の投与に起因または関連する可能性のあるいずれかの軽減を指す。
【0024】
[0028] 本明細書で用いられる際、“組換え手段による生成”は、クローニングされた核酸によりコードされるタンパク質を発現させるために周知の分子生物学の方法による組換え核酸法を用いる生成法を指す。
【0025】
[0029] 本明細書で用いられる際、用語“対象”は、特定の種または試料タイプに限定されない。例えば、用語“対象”は患者、しばしばヒト患者を指す可能性がある。しかし、この用語はヒトに限定されず、従って様々な哺乳類種を含む。
【0026】
[0030] 本明細書で用いられる際、“医薬的に許容できる塩類、エステル類または他の誘導体”には、当業者がそのような誘導体化に関する既知の方法を用いて容易に調製することができるいずれかの塩類、エステル類または誘導体が含まれる;それらの方法は、実質的な毒性作用無しに動物またはヒトに投与することができる、医薬的に活性であるかプ
ロドラッグであるかのどちらかである化合物を生成する。
【0027】
[0031] 本明細書で用いられる際、“プロドラッグ”は、インビボ投与した際にその化合物の生物学的に、医薬的に、または療法的に活性な形へと代謝されるか、または他の方法で変換される化合物である。プロドラッグを生成するためには、医薬的に活性な化合物を、その活性な化合物が代謝プロセスにより再生成されるように修飾する。プロドラッグは、薬物の代謝的安定性もしくは輸送特性を変化させるように、副作用もしくは毒性を隠すように、薬物の香味を向上させるように、または薬物の他の特徴もしくは特性を変化させるように設計することができる。インビボでの薬力学的プロセスおよび薬物代謝の知識により、当業者は医薬的に活性な化合物をいったん知ればその化合物のプロドラッグを設計することができる(例えばNogrady (1985) Medicinal Chemistry A Biochemical Approach, Oxford University Press, New York, pages 388-392を参照)。
【0028】
[0032] 本明細書で用いられる際、“被験物質(または候補化合物)”は、そのPTHアンタゴニストに対する作用が本明細書において開示される方法および/または特許請求される方法により決定される、化学的に定義された化合物(例えば、有機分子、無機分子、有機/無機分子、タンパク質、ペプチド、核酸、オリゴヌクレオチド、脂質、多糖類、糖類、またはこれらの分子の間の混成物、例えば糖タンパク質など)または化合物の混合物(例えば被験化合物のライブラリー、天然抽出物または培養上清など)を指す。
【0029】
[0033] 本明細書で用いられる際、ハイスループットスクリーニング(HTS)は、多数の試料、例えば疾患標的に対する多様な化学構造の試料を試験して“ヒット”を同定するプロセスを指す(例えば、Broach, et al., High throughput screening for drug discovery, Nature, 384:14-16 (1996); Janzen, et al., High throughput screening as a
discovery tool in the pharmaceutical industry, Lab Robotics Automation: 8261-265 (1996); Fernandes, P.B., Letters from the society president, J. Biomol. Screening, 2:1 (1997); Burbaum, et al., New technologies for high-throughput screening, Curr. Opin. Chem. Biol., 1:72-78 (1997)を参照)。HTS操作は、試料の調製、ア
ッセイ手順およびそれに続く大量のデータの処理を扱うために高度に自動化およびコンピューター制御されている。
【0030】
B.幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法および組成物ならびにその生成された心筋細胞
[0034] 1観点において、本開示は幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞を骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストと接触させることを含み、それによりそのBMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率はそのBMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも高くなる。上記の方法により生成された心筋細胞も提供する。さらに、中胚葉を形成するように分化し、外因性のBMPアンタゴニストで処理された幹細胞を含む組成物を提供する。
【0031】
[0035] 本方法は、いずれか適切な幹細胞の心臓分化効率を高めるために用いることができる。例えば、本方法は、全能性(totipotent)、多能性(pluripotent)、多分化能性(multipotent)、オリゴ能性(oligopotent)または単能性(unipotent)幹細胞の心臓分化効率を高めるために用いることができる。別の例では、本方法は、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞の心臓分化効率を高めるために用いることができる。さらに別の例では、本方法は、哺乳類幹細胞、例えばヒト幹細胞の心臓分化効率を高めるために用いることができる。さらに別の例では、本方法は、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞の心臓分化効率を高めるために用いることができる。
【0032】
[0036] 幹細胞は、いずれか適切な方法により入手、調製および/または維持することができる。例えば、マウスES細胞はゼラチンの層の上で増殖することができ、白血病阻止因子(LIF)の存在を必要とする。ヒトES細胞はマウス胚性線維芽細胞(MEF)のフィーダー層の上で増殖することができ、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFまたはFGF−2)の存在を必要とする可能性がある(例えば、Chambers I, Colby D, Robertson M, et al. (2003). “Functional expression cloning of Nanog, a pluripotency sustaining factor in embryonic stem cells”. Cell 113 (5): 643-55を参照)。
【0033】
[0037] 幹細胞、例えばヒト胚性幹細胞は、しばしばいくつかの転写因子および細胞表面タンパク質の存在により定められる。例えば、転写因子Oct−4、Nanog、およびSox2は、分化につながる遺伝子の抑制および多能性の維持を確実にする中核的な制御ネットワークを形成している。hES細胞を同定するために一般的に用いられる細胞表面抗原は、糖脂質SSEA3およびSSEA4ならびにケラタン硫酸抗原Tra−1−60およびTra−1−81である。
【0034】
[0038] 誘導多能性幹細胞(一般にiPS細胞またはiPSCと略される)は、非多能性細胞、一般に成人の体細胞から、特定の遺伝子の“強制的な”発現を誘導することにより人工的に派生させたタイプの多能性幹細胞である。様々な遺伝子、またはそれらの組み合わせを用いて、成人の体細胞からiPS細胞を誘導することができる。例えば、Oct−3/4およびSox遺伝子ファミリーの特定のメンバー(Sox1、Sox2、Sox3、およびSox15)を用いて成人の体細胞からiPS細胞を誘導することができる。Klfファミリーの特定のメンバー(Klf1、Klf2、Klf4、およびKlf5)、Mycファミリーの特定のメンバー(C−myc、L−myc、およびN−myc)、Nanog、およびLIN28を含めた追加の遺伝子を用いて、その誘導効率を増大させることができる。様々な遺伝子またはそれにコードされるタンパク質は、いずれか適切な方法により成人の体細胞中に送達することができる。例えば、ウイルストランスフェクション系、例えばレトロウイルス系、レンチウイルス系、もしくはアデノウイルス系、またはいずれのウイルストランスフェクション系も含まないプラスミドにより、様々な遺伝子を成人の体細胞中に送達することができる。あるいは、遺伝子によりコードされるタンパク質を、例えばポリアルギニンアンカーを介して細胞中に運ばれる(channeled)特定のタンパク質でその細胞を反復処理することにより、成人の体細胞中に直接送達することができる。
【0035】
[0039] 幹細胞は、いずれか適切な処理または作用物質により、分化して(differentiae)中胚葉を形成するように誘導することができる。1つの例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより、中胚葉を形成するように分化している。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより、中胚葉を形成するように分化している。幹細胞は、bFGF、BMP4およびアクチビンAによりいずれか適切な順序で処理することができる。例えば、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後にその幹細胞をアクチビンAと接触させることにより、中胚葉を形成するように分化させることができる。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞をwnt−3a(Tran, T. H. et al.Wnt3a-induced mesoderm formation and
cardiomyogenesis in human embryonic stem cells. Stem Cells 27, 1869-1878 (2009))、またはwnt−3aのように作用もしくは機能する小分子、例えばBioまたはCHIR99021と接触させることにより、中胚葉を形成するように分化させることができる。
【0036】
[0040] 本方法において、幹細胞の心臓分化効率を高めるためにいずれか適切なBMPアンタゴニストを用いることができる。例えば、BMP4アンタゴニストを用いることができる。別の例において、BMPアンタゴニストはノギンである。さらに別の例において、BMPアンタゴニストは、コーディン(Chordin)、Tsg、DANファミリーのメンバー(Yanagita, M. BMP antagonists: their roles in development and involvement in pathophysiology. Cytokine Growth Factor Rev 16, 309-317, (2005))、BM
P可溶性受容体、例えばBMPR1AおよびBMPR1B、またはBMPアンタゴニストのように作用もしくは機能する小分子、例えばドルソモルフィン(Dorsomorphin)(Hao, J. et al. Dorsomorphin, a selective small molecule inhibitor of BMP
signaling, promotes cardiomyogenesis in embryonic stem cells. PLoS One 3, e2904
(2008))である。
【0037】
[0041] 本方法はさらに、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することを含むことができる。幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路は、いずれか適切な処理または作用物質により阻害することができる。1つの例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体(retinoic X receptor)アンタゴニストと接触させることにより阻害される。別の例において、そのレチノイン酸シグナル伝達経路は、その幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニスト、例えばBMS−189453と接触させることにより阻害される。さらに別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をBMS−453、AGN194310、AGN193109、Ro41−5253、SR11335、9−シス−レチノイン酸、またはレチノイン酸合成を阻害する小分子、例えばジスルフィラムおよびシトラールと接触させることにより阻害される。さらに別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される。
【0038】
[0042] 本方法は、幹細胞の心臓分化効率を適切な程度まで高めるために用いることができる。1つの例において、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率は、そのBMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも少なくとも約30%高い。特定の例において、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率は、そのBMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも少なくとも約40%、50%、60%、70%、80%、90%、100%、2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍高い。
【0039】
[0043] 1つの特定の例において、幹細胞はヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストはノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率は約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%または80%である。別の特定の例において、幹細胞はヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストはノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率は約60%、70%、80%、90%、95%または100%である。
【0040】
[0044] 本方法はさらに、幹細胞をwnt阻害物質と接触させてその幹細胞を心筋細胞へと分化させることを含むことができる。いずれか適切なwnt阻害物質を用いることができる。1つの例において、wnt阻害物質はdickkopfホモログ1(DKK1)である。
【0041】
[0045] 上記の方法により生成された心筋細胞も提供する。
【0042】
[0046] さらに、中胚葉を形成するように分化し、外因性のBMPアンタゴニストで処
理された幹細胞を含む組成物を提供する。
【0043】
C.心室性心筋細胞形成を促進するための方法および組成物ならびにその生成された心室性心筋細胞
[0047] 別の観点において、本開示は幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することを含む。
【0044】
[0048] 本方法は、いずれか適切な幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。1つの例において、本方法は全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。別の例において、本方法は、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。さらに別の例において、本方法は、哺乳類幹細胞、例えばヒト幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。さらに別の例において、本方法は、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。
【0045】
[0049] 幹細胞は、いずれか適切な処理または作用物質により、分化して(differentiae)中胚葉を形成するように誘導することができる。1つの例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導される。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導される。幹細胞は、bFGF、BMP4およびアクチビンAによりいずれか適切な順序で処理することができる。例えば、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後にその幹細胞をアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導することができる。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞をwnt−3a(Tran, T. H. et al. Wnt3a-induced mesoderm formation and cardiomyogenesis in human embryonic stem cells. Stem Cells 27, 1869-1878 (2009))、またはwnt−3aのように作用もしくは機能する小分子、例
えばBioまたはCHIR99021と接触させることにより、中胚葉を形成するように分化させることができる。
【0046】
[0050] 本方法はさらに、幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることを含むことができる。本方法においていずれか適切なBMPアンタゴニストを用いることができる。例えば、BMP4アンタゴニストを用いることができる。別の例において、BMPアンタゴニストはノギンである。さらに別の例において、BMPアンタゴニストは、コーディン、Tsg、DANファミリーのメンバー(Yanagita, M. BMP antagonists: their roles in development and involvement in pathophysiology. Cytokine Growth Factor Rev 16, 309-317, (2005))、BMP可溶性受容体、例えばBMPR1A
およびBMPR1B、またはBMPアンタゴニストのように作用もしくは機能する小分子、例えばドルソモルフィン(Hao, J. et al. Dorsomorphin, a selective small molecule inhibitor of BMP signaling, promotes cardiomyogenesis in embryonic stem cells.
PLoS One 3, e2904 (2008))である。
【0047】
[0051] 幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路は、いずれか適切な処理または作用物質により阻害することができる。1つの例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより阻害される。別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニスト、例えばBMS−189453と接触させることにより阻害される。さらに別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をBMS−453、AGN194310、AGN193109、Ro41−5253、SR11335、9−シス−レチノイン酸、またはレチノイン酸合成を阻害する小分子、例えばジスルフィラムおよびシトラールと接触させることにより阻害される。さらに別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される。
【0048】
[0052] 1つの特定の例において、幹細胞はヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストはノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路は幹細胞をBMS−189453と接触させることにより阻害される。
【0049】
[0053] 本方法はさらに、幹細胞をwnt阻害物質と接触させてその幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させることを含むことができる。いずれか適切なwnt阻害物質を用いることができる。1つの例において、wnt阻害物質はdickkopfホモログ1(DKK1)である。
【0050】
[0054] 1態様において、本開示は幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞を作用物質、例えばbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;2)作用物質、例えばbFGFおよびBMP4により処理された幹細胞を別の作用物質、例えばアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をBMPアンタゴニスト、例えばノギンと接触させてその幹細胞の心臓分化効率を高め;4)BMPアンタゴニスト、例えばノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害して心室性心筋細胞形成を促進し;そして5)BMPアンタゴニスト、例えばノギンにより処理された幹細胞をwnt阻害物質、例えばDKK1と接触させてその幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させる。上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。
【0051】
[0055] 別の態様において、本開示は幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させ;2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させ;3)アクチビンAにより処理された幹細胞をノギンと接触させ;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害し;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させる。上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。
【0052】
[0056] 上記の方法により生成された心室性心筋細胞も提供する。その心室性心筋細胞は、心室特異的遺伝子、例えばIRX−4またはMLC−2vの高い発現レベル、胚性心室様の活動電位(AP)、および/または心室性心筋細胞に典型的なCa2+スパークパターンを有することができる。
【0053】
[0057] さらに、中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物を提供する。その外因性の作用物質は、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害するいずれか適切な作用物質であることができる。1つの例において、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質は、汎−レチノイン酸受容体アンタゴニスト、例えばBMS−189453である。別の例において、レチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をBMS−453、AGN194310、AGN193109、Ro41−5253、SR11335、9−シス−レチノイン酸、またはレチノイン酸合成を阻害する小分子、例えばジスルフィラムおよびシトラールと接触させることにより阻害される。
【0054】
D.心房性心筋細胞形成を促進するための方法および組成物ならびにその生成された心房性心筋細胞
[0058] さらに別の観点において、本開示は幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するための方法を提供し、その方法は中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激すること、または阻害しないことを含む。
【0055】
[0059] 本方法は、いずれか適切な幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。1つの例において、本方法は全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。別の例において、本方法は、胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。さらに別の例において、本方法は、哺乳類幹細胞、例えばヒト幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。さらに別の例において、本方法は、ヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するために用いることができる。
【0056】
[0060] 幹細胞は、いずれか適切な処理または作用物質により、分化して(differentiae)中胚葉を形成するように誘導することができる。1つの例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導される。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導される。幹細胞は、bFGF、BMP4およびアクチビンAによりいずれか適切な順序で処理することができる。例えば、幹細胞は、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後にその幹細胞をアクチビンAと接触させることにより、分化して中胚葉を形成するように誘導される。別の例において、幹細胞は、未分化の幹細胞をwnt−3a(Tran, T. H. et al. Wnt3a-induced mesoderm formation and cardiomyogenesis in human embryonic stem cells. Stem Cells 27, 1869-1878 (2009))、またはwnt−3aのように作用もしくは機能する小分子、例えばBio
またはCHIR99021と接触させることにより、中胚葉を形成するように分化させることができる。
【0057】
[0061] 本方法はさらに、幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることを含むことができる。本方法においていずれか適切なBMPアンタゴニストを用いることができる。例えば、BMP4アンタゴニストを用いることができる。別の例において、BMPアンタゴニストはノギンである。さらに別の例において、BMPアンタゴニストは、コーディン、Tsg、DANファミリーのメンバー(Yanagita, M. BMP antagonists: their roles in development and involvement in pathophysiology. Cytokine Growth Factor Rev 16, 309-317, (2005))、BMP可溶性受容体、例えばBMPR1A
およびBMPR1B、またはBMPアンタゴニストのように作用もしくは機能する小分子、例えばドルソモルフィン(Hao, J. et al. Dorsomorphin, a selective small molecule inhibitor of BMP signaling, promotes cardiomyogenesis in embryonic stem cells.
PLoS One 3, e2904 (2008))である。
【0058】
[0062] 幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路は、いずれか適切な処理または作用物質により刺激することができる。1つの例において、幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される。別の例において、幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路は、幹細胞をレチノイン酸受容体アゴニスト、例えばLG100268およびLGD1069と接触させることにより刺激される。
【0059】
[0063] 1つの特定の例において、幹細胞はヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストはノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路は幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される。
【0060】
[0064] 本方法はさらに、幹細胞をwnt阻害物質と接触させてその幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させることを含むことができる。いずれか適切なwnt阻害物質を用いることができる。1つの例において、wnt阻害物質はdickkopfホモログ1(DKK1)である。
【0061】
[0065] 1態様において、本開示は幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞を作用物質、例えばbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;2)作用物質、例えばbFGFおよびBMP4により処理された幹細胞を別の作用物質、例えばアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をBMPアンタゴニスト、例えばノギンと接触させてその幹細胞の心臓分化効率を高め;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激して、または阻害せずに、心房性心筋細胞形成を促進し;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させてその幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させる。上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。
【0062】
[0066] 別の態様において、本開示は幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させ;2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させ;3)アクチビンAにより処理された幹細胞をノギンと接触させ;4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激し、または阻害せず;そして5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させる。上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。
【0063】
[0067] 上記の方法により生成された心房性心筋細胞も提供する。1つの例において、心房性心筋細胞は、胚性心房様の活動電位(AP)、および/または心房性心筋細胞に典型的なCa2+スパークパターンを有することができる。
【0064】
[0068] さらに、中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物を提供する。いずれか適切な外因性の作用物質を用いてその幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激することができる。1つの例において、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質はレチノイン酸またはビタミンAである。
【0065】
E.心筋細胞の医薬組成物および使用
[0069] 心筋細胞はいずれか適切な目的のために用いることができる。1観点において、本開示は心臓の損傷または障害を処置するための医薬組成物を提供し、その医薬組成物は有効量の上記方法により生成された心筋細胞および場合により医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む。1態様において、医薬組成物は心房性心筋細胞と心室性心筋細胞の混合物を含む。別の態様において、医薬組成物は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%の心房性心筋細胞を含む。さらに別の態様において、医薬組成物は少なくとも約50%、好ましくは少なくとも約60%、70%、80%、90%、95%、99%、または100%の心室性心筋細胞を含む。
【0066】
[0070] 別の観点において、本開示は対象、例えばヒトにおいて、心臓の損傷または障
害を処置するための方法を提供し、その方法はそのような処置が必要であるか、または望ましい対象に、有効量の上記の医薬組成物を投与することを含む。
【0067】
[0071] 好ましくは医薬組成物の形での心筋細胞の配合、投与量および投与経路は、主に心房性心筋細胞であろうと、主に心室性心筋細胞であろうと、または心房性心筋細胞と心室性心筋細胞の混合物であろうと、当技術で既知の方法に従って決定することができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro (Editor) Mack Publishing Company, April 1997; Therapeutic Peptides and Proteins: Formulation, Processing, and Delivery Systems, Banga, 1999;およびPharmaceutical Formulation Development of Peptides and Proteins, Hovgaard and Frkjr (Ed.), Taylor & Francis, Inc., 2000; Medical Applications of Liposomes, Lasic and Papahadjopoulos (Ed.), Elsevier Science, 1998; Textbook of Gene Therapy, Jain, Hogrefe & Huber Publishers, 1998; Adenoviruses: Basic Biology to Gene Therapy, Vol. 15, Seth, Landes Bioscience, 1999; Biopharmaceutical Drug Design and Development, Wu-Pong and Rojanasakul (Ed.), Humana Press, 1999; Therapeutic Angiogenesis: From Basic Science to the Clinic, Vol. 28, Dole et al. (Ed.), Springer-Verlag New York, 1999を参照)。特定の態様において、上記の心筋細胞は内皮細胞、平滑筋細胞および/または線維芽細胞と組み合わせまたは配合して心臓内に植え込むことができる。細胞または組織パッチは、梗塞領域への直接的な注入、カテーテルによる注入により移植することができ、または手術により心臓パッチ(cardio−patch)として植え込むことができる。好ましくは、心筋細胞は処置される予定の対象の幹細胞から形成される。同様に好ましくは、内皮細胞、平滑筋細胞および/または線維芽細胞も、処置される予定の対象から得られ、または処置される予定の対象に由来し、例えば処置される予定の対象の幹細胞から形成される。
【0068】
[0072] 心筋細胞はいずれか適切な投与経路のために配合することができる。1つの例において、心筋細胞は手術または細胞移植により投与される。いずれか特定の事例における最も適切な経路は、処置される状態の性質および重症度に、ならびに用いられる個々の心筋細胞の性質に依存するであろう。
【0069】
[0073] 心筋細胞は単独で投与することができる。あるいは、そして好ましくは、心筋細胞は医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤と同時投与される。いずれか適切な医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を本方法において用いることができる(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy, Alfonso R. Gennaro (Ed.) Mack
Publishing Company, April 1997を参照)。
【0070】
[0074] 本方法は単独で用いることができる。あるいは、本方法は心臓の損傷、疾患または障害の予防、治療または遅延に適した他の薬剤との組み合わせで用いることができる。そのような他の薬剤は、心筋細胞の投与前に、投与と共に、または投与後に用いることができる。例えば、心筋細胞はそのような他の薬剤と同時投与することができる。
【0071】
[0075] 本発明に従って、単独の、または他の薬剤、キャリヤーもしくは賦形剤と組み合わせた心筋細胞は、いずれか適切な投与経路、例えば手術または細胞移植のために配合することができる。その方法は、単位剤形、アンプル中、または多数回投与容器中での投与のための、保存剤を添加した配合物を用いることができる。それらの配合物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液またはエマルジョンなどの形をとることができ、配合用剤、例えば懸濁化剤、安定剤および/または分散剤を含有してもよい。あるいは有効成分は、適切なビヒクル、発熱性物質を含まない無菌水または他の溶媒を用いて使用前に構成するための粉末の形であってよい。
【0072】
[0076] 本発明における使用に用いることができる、医薬的に許容できる組成物およびそれらの投与のための方法には、米国特許番号5,736,154; 6,197,801 B1; 5,741,511; 5,886,039; 5,941,868; 6,258,374 B1;および5,686,102に記述されている組成物および方法が含まれるが、それらに限定されない。
【0073】
[0077] 治療または予防における療法用量の大きさは、処置される予定の状態の重症度および投与経路に伴って異なるであろう。その用量、およびおそらく投与頻度は、個々の患者の年齢、体重、状態および応答によっても異なるであろう。
【0074】
[0078] 担当医は毒性または有害作用のために療法を終了させ、中断し、または投与量を減らすように調節する方法および時期を知っているであろうということを留意すべきである。逆に、医師はその臨床応答が十分でない(毒性副作用は除外する)場合に処置をより高いレベルに調節する方法および時期も知っているであろう。
【0075】
[0079] いずれか適切な投与経路を使用できる。剤形には、錠剤、トローチ、カシェ剤、分散液剤、懸濁液剤、液剤、カプセル剤、パッチなどが含まれる。Remington’s Pharmaceutical Sciencesを参照。
【0076】
[0080] 実用に際して、単独の、または他の薬剤と組み合わせた心筋細胞は、一般に用いられる医薬調剤技法に従って、密な混合物中の有効物質として、医薬的キャリヤーまたは賦形剤、例えばベータ−シクロデキストリンおよび2−ヒドロキシ−プロピル−ベータ−デキストリンと組み合わせることができる。キャリヤーは、適切な投与に望ましい広範な製剤の形をとることができる。非経口剤形、例えば静脈内注射または注入のための組成物の調製において、当業者に既知の同様な医薬媒体である水、グリコール類、油、緩衝剤、糖、保存剤、リポソームなどを用いることができる。そのような非経口組成物の例には、デキストロース5%w/v、生理食塩水または他の溶液が含まれるが、それらに限定されない。単独または他の投与薬剤と組み合わせた、約1×10から1×1010細胞までの範囲、例えば1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、1×10、もしくは1×1010細胞、または1×10〜1×1010細胞の範囲内のいずれかの部分範囲の総用量の心筋細胞を流体のバイアルにおいて投与することができる。
【0077】
[0081] 本発明は、本発明の療法計画を実施するためのキットも提供する。そのようなキットは、1個以上の容器中に療法有効量の上記の心筋細胞を、単独で、または他の薬剤と組み合わせて、医薬的に許容できる形態で含む。好ましい医薬形態は、無菌の生理食塩水、デキストロース溶液、もしくは緩衝化された溶液、または他の医薬的に許容できる無菌流体との組み合わせであろう。あるいは、その組成物を凍結乾燥または乾燥させてもよい;この場合、そのキットは場合によりさらに容器中に、その複合物を再構成して注射目的の溶液を形成するための医薬的に許容できる溶液、好ましくは無菌のものを含む。医薬的に許容できる溶液の例は、生理食塩水およびデキストロース溶液である。
【0078】
[0082] 別の態様において、本発明のキットはさらに、その組成物を注射するための、好ましくは無菌の形で包装された針または注射器、および/または包装されたアルコールパッドを含む。場合により、医師または患者が組成物を投与するための説明書が含まれる。
【0079】
F.心筋細胞の他の使用
[0083] 心筋細胞はいずれか適切な目的のために用いることができる。1態様において、本開示は心筋細胞の調節物質を同定するための方法を提供し、その方法は以下を含む:1)上記の方法により生成された心筋細胞を被験物質と接触させ、その被験物質が心筋細
胞の特性に及ぼす作用を測定し;2)その被験物質と接触していない心筋細胞の特性を測定し;それにより、その被験物質と接触した心筋細胞の特性がその被験物質と接触していない心筋細胞の特性と異なることによって、その被験物質を心筋細胞の特性の調節物質、例えば刺激物質または阻害物質として同定する。1つの例において、被験物質と接触していない心筋細胞の特性と比較した、被験物質と接触した心筋細胞の特性の増大によって、その被験物質をその心筋細胞の特性の刺激物質として同定する。別の例において、被験物質と接触していない心筋細胞の特性と比較した、被験物質と接触した心筋細胞の特性の低減によって、その被験物質をその心筋細胞の特性の阻害物質として同定する。
【0080】
[0084] 本方法はいずれか適切な形式で実施することができる。好ましくは、その方法はハイスループットスクリーニング(HTS)形式で実施される。
【実施例】
【0081】
概要
[0085] 細胞移植の研究は心筋梗塞に有望な療法可能性を示唆してきたが、移植のための比較的均質な心室筋細胞を得ることができないことは、心筋修復のための臨床療法の開発に対する1つの主な障害である。ヒト胚性幹細胞(hESC)は心筋細胞の有望な供給源である。ここに本発明者らは、レチノイドシグナル伝達がhESCの心臓分化に際して心房−対−心室筋細胞の運命の指定(fate specification)を制御していることを報告する。本発明者らは、ノギンおよび汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストBMS−189453(RAi)の両方がhESCの心臓分化効率を有意に増大させることを見出した。ノギン+RAiで処理した培養物をノギン+RAで処理した培養物と比較することによりレチノイドの機能を調べた;本発明者らの結果は、心室特異的遺伝子IRX−4の発現レベルがノギン+RAiで処理した培養物において急激に上昇し、別の心室特異的マーカーであるMLC−2v4,5はノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の大部分において発現していたがノギン+RAで処理した培養物の心筋細胞の大部分では発現していなかったことを示している。フローサイトメトリー分析および電気生理学的研究は、64±0.88%(平均±平均値の標準誤差)の心臓分化効率で、ノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の83%が胚性心室様の活動電位(AP)を有し;一方で、50±1.76%の心臓分化効率で、ノギン+RAで処理した培養物中の心筋細胞の94%が胚性心房様APを有していたことを示した。これらの結果は、それらの2種類の異なる処理を行った培養物中の心筋細胞のCa2+スパークのパターンおよび特性に関するイメージング研究によりさらに確証された。これらの所見は、レチノイドシグナル伝達がhESCの心房性−対−心室性分化を指定しており、ノギンおよびレチノイドシグナルを特異的に制御することにより、比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞集団をhESCから効率的に派生させることができることを実証している。
【0082】
要約
[0086] 細胞移植の研究は心筋梗塞に有望な療法可能性を示唆してきたが、移植のための比較的均質な心室筋細胞を得ることができないことは、心筋修復のための臨床療法の開発に対する1つの主な障害である。ヒト胚性幹細胞(hESC)は心筋細胞の有望な供給源である。ここに本発明者らは、レチノイドシグナル伝達がhESCの心臓分化に際して心房−対−心室筋細胞の運命の指定を制御していることを報告する。本発明者らは、ノギンおよび汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストBMS−189453(RAi)の両方がhESCの心臓分化効率を有意に増大させることを見出した。ノギン+RAiで処理した培養物をノギン+RAで処理した培養物と比較することによりレチノイドの機能を調べた;本発明者らの結果は、心室特異的遺伝子IRX−4の発現レベルがノギン+RAiで処理した培養物において急激に上昇し、別の心室特異的マーカーであるMLC−2v4,5はノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の大部分において発現していたがノギン+RAで処理した培養物の心筋細胞の大部分では発現していなかったことを示し
ている。フローサイトメトリー分析および電気生理学的研究は、64±0.88%(平均±平均値の標準誤差)の心臓分化効率で、ノギン+RAiで処理した培養物中の心筋細胞の83%が胚性心室様の活動電位(AP)を有し;一方で、50±1.76%の心臓分化効率で、ノギン+RAで処理した培養物中の心筋細胞の94%が胚性心房様APを有していたことを示した。これらの結果は、それらの2種類の異なる処理を行った培養物中の心筋細胞のCa2+スパークのパターンおよび特性に関するイメージング研究によりさらに確証された。これらの所見は、レチノイドシグナル伝達がhESCの心房性−対−心室性分化を指定しており、BMPおよびレチノイドシグナル伝達カスケードに特異的に影響を与えることにより、比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞集団をhESCから効率的に派生させることができることを実証している。
【0083】
材料および方法
[0087] hESCの維持および分化。WiCell研究所からの未分化のhESC株H7を、以前に記述されたように37、matrigelコートしたプレート上で維持した。心臓誘導の基本プロトコル(BP)において、未分化のhESCをゼラチンコートしたプレート上に1〜5×10細胞/cmの密度で播いて、マウス胚性線維芽細胞調整培地と共に3日間、完全に集密状態になるまで培養した。細胞分化を開始させるために、その培地を、B27(Invitrogen)を補ったRPMI1640に交換した。細胞を1日目に25ng/mlのBMP4および6ng/mlのbFGF、2日目に100ng/mlのアクチビンA、ならびに6日目から11日目まで200ng/mlのDKK1(R&D Systems)で処理した。11日目の後、培地を3日ごとに交換した(図1)。250ng/mlのノギン、1μMのRA(Sigma)または1μMのRAiを、図1A〜Cにおいて明記した時点で細胞培養物に添加した。自発的に拍動する集団(clusters)は、一般に10〜11日目に観察された。心臓分化効率を14日目にCTNT抗体染色およびフローサイトメトリーで分析した。
【0084】
[0088] hES由来心筋細胞の単一細胞調製。6(60)〜90日齢の分化した培養物を低Ca2+溶液中で洗浄し、次いで酵素溶液中において37℃で20分間インキュベートした。KB溶液中において室温で40分間穏やかに振盪することにより解離を完了させた。分離された細胞をDMEM+10% FBS中に再懸濁し、0.1%ゼラチンコートしたカバーガラス上に移し、次いで37℃、5%COのインキュベーター内に保持した。低Ca2+溶液の組成は(mMで):120 NaCl、5.4 KCl、5 MgSO、5 ピルビン酸Na、20 グルコース、20 タウリン、10 HEPESであった。そのpHをNaOHで7.3に調節した。KB溶液は(mMで):85 KCl、30 KHPO、5 MgSO、1 EGTA、2 NaATP、5 ピルビン酸Na、20 グルコース、20 タウリン、5 クレアチンを含有し、KOHでpH7.3に調節された。
【0085】
[0089] 電気生理学的測定および共焦点Ca2+イメージング。心筋細胞の活動電位を、ホールセルパッチクランプ構成で、Axon 200B増幅器(Axon Instruments)を用いて室温で記録した。データを20kHzでデジタル化し、2kHzで選別し(filtered)、PClamp 9.0により分析した。パッチピペット(2〜4MΩ抵抗)に、下記のもの(mMで)を含有する細胞内溶液を満たした:50 KCl、60 アスパラギン酸K、1 MgCl、3 NaATP、10 EGTA、10mM HEPES;KOHでpH7.3に調節。通常のタイロード溶液(Tyrode’s solution)を細胞外溶液として用い、それは(mMで)140 NaCl、5 KCl、1 CaCl、1 MgCl2、10 グルコース、10 HEPESを含有し、NaOHでpH7.4に調節された。
【0086】
[0090] Ca2+共焦点イメージングのために、筋細胞をFluo−4AM(10μM
/L;Molecular Probes)と共に室温で10分間インキュベートし、次いで細胞外緩衝液と共に約30分間潅流した。Ca2+イメージング研究は、アルゴンレーザー(488nm)を備えたLeica SP5共焦点顕微鏡により、40×の倍率で、1.25NA油浸対物レンズを用いて実施された。自発的Ca2+スパークおよび一過性Ca2+上昇(Ca2+ transients)をラインスキャンを用いて記録し、ラインあたり0.5msで求めた。MATLAB 7.1ソフトウェア(MathWorks)およびImageJ(Scioncorp)の両方を用いて画像を処理および分析した。Ca2+スパークに関して3.8×SDの検出基準を設定し、Ca2+スパークの自動計数をImageJのためのSparkmasterプラグイン38を用いて実施した。
【0087】
[0091] フローサイトメトリー。分化した細胞集団を0.25%トリプシン−EDTAを用いて解離させて単一細胞にし、次いでそれを固定し、PBS+0.5% BSAおよび0.1%サポニン(Sigma)中の抗ヒトCTNT抗体(R&D Systems)およびヤギ抗マウスFITCコンジュゲート二次抗体(Santa Cruz)により4℃で染色した。染色された細胞を、その後の定量的分析のために4%パラホルムアルデヒド中に保存した。データをFACScalibur(Becton Dickinson)を用いて集め、FlowJoソフトウェア(Treestar)で分析した。
【0088】
[0092] リアルタイムRT−PCR。全RNAを、分化したhES細胞の24ウェルプレートの単一ウェルからQiagenのRNeasy Plus Miniキットを用いて分離した。次いで、1μgの全RNAをSuperScript III First−Strand Synthesis System(Invitrogen)を用いて逆転写した。rTaq DNA Polymerase(Takara)を用いてRT−PCRを行った。リアルタイムRT−PCRを、2x QuantiFast SYBR
Green I PCR Master Mix(Qiagen)を用いて、Rotor Gene 6200 Real−Time PCR Machine(Corbett)上で、60℃のアニーリング温度を用いて三重に実施した。それぞれの遺伝子の発現を、GAPDH遺伝子の発現に対して正規化した。プライマー配列を表2に列挙する。
【0089】
[0093] 免疫蛍光。60日齢の分化した培養物を0.25%トリプシン−EDTAで消化し、細胞をゼラチンコートしたカバーガラス上に播いて5日間おき、完全に付着させた。次いで細胞を4%パラホルムアルデヒド中で固定し、一次抗体のマウス抗ヒトCTNT(R&D systems)、マウス抗ヒトα−アクチニン(Sigma)、マウス抗ヒトβ−MHC(ATCC)、マウス抗ヒトMLC−2a(Synaptic Systems)、またはウサギ抗ヒトMLC−2v(ProteinTech Group)と共にインキュベートした。DyLight 488(Santa Cruz Biotechnology)とコンジュゲートしたヤギ抗マウス二次抗体およびTritc(Santa Cruz Biotechnology)とコンジュゲートしたヤギ抗ウサギ二次抗体を必要に応じて用いた。核を4’,6−ジアミジノ−2−フェニルインドール(DAPI,Sigma)で対比染色した後、Olympus顕微鏡システムX51またはOlympus LSCM FV1000を用いて免疫蛍光画像を可視化および記録した。
【0090】
[0094] ウェスタンブロッティング。60日齢の分化した細胞の24ウェルプレートの1つのウェルを、ウェスタンブロッティングのためにRIPA溶解緩衝液(Biomiga)を用いて溶解させた。ブロットを、マウス抗ヒトCTNT、マウス抗ヒトβ−MHC、ウサギ抗ヒトMLC−2v、ヤギ抗ANF、マウス抗ヒトMLC−2a、マウス抗ヒトβ−アクチン、ウサギ抗ホスホsmad1/5/8およびウサギ抗samd1/5/8と共に、次いでHRPコンジュゲートしたヤギ抗マウスまたは抗ウサギ抗体と共に、別々にインキュベートした。
【0091】
【表1】
【0092】
[0095] 表1 hESC由来心筋細胞から記録されたAPパラメーター。データは平均±標準誤差である。nは試験した細胞の数を示す。Vmax、AP増大の最大速度;APA.AP振幅;APD90、90%再分極において測定されたAP持続時間;MDP、最大拡張期電位。 結節様と比較してP<0.05;# 相互比較してP<0.05;$
相互比較してP<0.01;† 相互比較してP<0.05。
【0093】
【表2】
【0094】
結果
[0096] 以前の研究に基づいて、本発明者らは下記の仮説を立てた:hESC分化の開始後のBMP経路の阻害およびレチノイン酸シグナル伝達の遮断は心臓発生を促進する;レチノイドシグナル伝達は、hESCの心房性−対−心室性分化も制御している。この仮説を試験するために、本発明者らはノギン、RAおよびその阻害物質RAiを心臓分化培養物に異なる時間間隔で入れ、hESC派生物の心臓発生および心臓亜型特異化に対するそれらの作用を調べた。本発明者らの結果は、ノギンおよびRAiによるBMPおよびRAシグナル両方の阻害は心臓発生を有意に促進すること、およびレチノイドシグナル伝達は分化したhESCの心房性−対−心室性の特異化を制御していることを示す。本発明者らの知見は、心臓亜型を特異化する機構への重要な洞察を提供することに加えて、hESCからの比較的均質な胚性心房様および心室様筋細胞の直接的な分化も実証した。
【0095】
[0097] ノギンおよびRAアンタゴニストBMS189453は分化したhESCの心臓発生を促進する。心臓分化におけるその役割を調べるために、本発明者らの研究室で開発されたプロトコル(詳細な記述に関しては方法を参照)により生成された、心筋細胞に分化しつつあるhESC培養物に、2から5日目までの異なる時間間隔でノギンを計画的に添加した。結果は、ノギンが2〜3日目に存在した場合には心臓分化がわずかに抑制されたが、2.5〜4.5日目に存在した場合には有意に促進されたことを示している。最も高い心臓分化効率は、4〜5日目で達成された(図1B)。リン酸化されたSmad1、5、8に関するウェスタンブロットは、ノギンがBMPシグナル伝達の活性を低減させ
たことを示した(データは示していない)。従って、BMPシグナル伝達の阻害は分化の開始後のhESCにおける心臓発生を促進する。
【0096】
[0098] RAシグナルは胚性心臓前駆細胞を制限するという以前の知見から、hESCの心臓分化中におけるRAシグナル伝達の阻害は心臓発生を促進するという可能性が生じる。RA合成のための基質であるビタミンAおよびRA合成を担う酵素であるRALDH224の両方が本発明者らの培養物中に存在し(データは示していない)、それはRAシグナル伝達の活性化の可能性を示唆している。従って、本発明者らは心筋細胞に分化しつつある培養物に4〜9日目に図1Cにおいて示した時点でRAiを添加することにより、hESC心臓分化の促進に対するRA阻害の作用を試験した。フローサイトメトリーは6〜9日目にRAiを添加した場合に心臓分化が著しく増大したことを示し(図1C)、これはRAシグナル伝達の阻害がhESCの心臓分化を促進することを実証している。
【0097】
[0099] 次に、本発明者らは4〜5日目のノギン処理と6から8日目までのRAi処理を組み合わせた。14日目の培養物からのCTNT細胞のフローサイトメトリーは、ノギン単独ではその分化効率は50%±3.06%(平均±平均値の標準誤差)であり、細胞をRAiおよびノギンの両方で処理した場合、この効率が73%±2.08%に増大することを示した(図1D)。これは14日目の培養物の定量RT−PCR分析からの結果により確証された。CTNTおよびNKX2.5の両方の発現レベルが、ノギン+RAiで処理した培養物において、ノギン単独で処理した培養物におけるよりも有意に高かった(図1E)。免疫染色は、培養細胞におけるCTNT、α−アクチニン、MLC−2a、MLC−2v、およびβ−MHCを含む典型的な心臓マーカーの発現を示した(図1F)。
【0098】
[00100] 二者択一のレチノイドシグナルがhESCの2つの異なる心筋細胞の亜型へ
の分化を方向付ける。ニワトリおよびマウスの胚の研究はレチノイドシグナル伝達が流入路および流出路組織の運命の指定を制御していることを示したため5,20−24、本発明者らは、レチノイドシグナル伝達の活性化または不活性化が分化したhESC心臓前駆細胞の心房−対−心室の運命の指定を方向付けること、およびそのような機構を利用してhESC由来心房様または心室様筋細胞のどちらかを効率的に生じさせることができるであろうということを提唱した。
【0099】
[00101] この仮説を試験するために、RAまたはそのアンタゴニストであるRAiの
どちらかを、平行した実験においてノギン処理した培養物に6〜8日目に添加した(図1A)。14日間の分化の後、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物中のCTNT細胞の百分率は、それぞれ50.7%±1.76%および64.7%±0.88%であった(図2A)。分化効率には約14%の違いしかないにも関わらず、ノギン+RA処理した培養物中の拍動する心筋細胞の大きさはノギン+RAi処理した培養物中の拍動する心筋細胞の大きさよりも小さかった(図2B、D)。ノギン+RA処理した培養物中の心筋細胞の拍動速度もノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の拍動速度より速く(図2Cおよび表1)、これはこれらの2種類の異なる培養物中に2つの異なる心筋細胞の亜型が存在していたことを示唆する。次に、本発明者らはその2種類の培養物における心室特異的遺伝子IRX4およびMLC−2vの発現を調べた。定量RT−PCRは、ノギン+RAi処理した培養物においてIRX4の発現は8日目に上昇し始め、14日目までにそれはノギン+RA処理した培養物における発現よりも10倍高くなったことを示した(図3A)。60日齢の培養物の免疫染色は、MLC−2vがノギン+RAi処理した培養物中のCTNT細胞の大部分において発現していたけれどもノギン+RA処理した培養物では発現していなかったことを示し(図3B)、これは、CTNTはこれらの2種類の培養物において類似したレベルで発現していたけれどもMLC−2vはノギン+RAi処理した培養物において強くかつそれにのみ発現していたことを示すウェスタンブロッ
ティングからの結果(図3C)と一致している。本発明者らはまた、ノギン+RAi処理、ノギン処理、およびノギン+RA処理した培養物において、cTNTおよびMLC−2vの発現を免疫染色およびウェスタンブロットにより比較した。その結果は、ノギン単独で処理した培養物ではわずか約35%のcTNT陽性細胞がMLC−2v陽性でもあることを示し、ウェスタンブロットによって弱いMLC−2v発現が検出された(図5)。これらの結果は、ノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心室様筋細胞であり、一方でノギン+RA処理した培養物中で分化した心筋細胞はMLC−2vを発現しない胚性結節様または心房様筋細胞のどちらかであることを示している。本発明者らは、ウェスタンブロットを用いて、RAおよびRAi処理した培養物におけるβ−MHC、MLC−2a、および心房性ナトリウム利尿因子(Atrial Nutriation
Factor)(ANF)の発現も調べ、結果はβ−MHCはその2種類の培養物において均等に発現しているがMLC−2aおよびANFはRA処理した培養物においてRAi処理した培養物におけるレベルよりも高いレベルで発現していることを示した(図6)。
【0100】
[00102] 電気生理学的特性付けは二者択一のレチノイドシグナルにより誘導された胚
性心房様および心室様心筋細胞集団を同定する。哺乳類の系には内因性の早期心房特異的遺伝子マーカーが無いため、本発明者らはこれらの2種類の心臓亜集団を厳密に同定するために電気生理学的特性を用いることを選択した。AP特性の形態および分類(表1)6,26に基づいて、本発明者らの研究において3種類の主なAPのタイプ(結節様、心房様、および心室様)が観察された(図4A)。しかし、その3種類のAPの主なタイプの比率は、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物の間で異なっていた;ノギン+RAiで処理した培養物からの筋細胞の83%(n=23)が心室様APを有しており(図4A、C)、この場合はAPの持続時間はカルシウムチャンネル遮断薬であるニフェジピンの適用によって短縮でき(図4B、左)、一方でノギン+RA処理した培養物からの筋細胞の94%(n=19)が心房様APを示し、そのAPの持続時間はニフェジピンによって短縮できなかった(図4A、B右およびC)。これらの結果は、ノギン+RA処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心房様筋細胞であり、ノギン+RAi処理した培養物中の心筋細胞の大部分は胚性心室様筋細胞であったことを実証している。興味深いことに、ノギン+RAおよびノギン+RAi処理した両方の培養物において、本発明者らは以前の研究6,9において報告された高い割合の結節様APを有する心筋細胞を観察しなかった。
【0101】
[00103] 心房−対−心室筋細胞では、心筋細胞のCa2+シグナル伝達の基本単位で
あるCa2+スパークにおいて重要な速度論的違いが存在する27,28。Ca2+スパークは心房筋細胞において心室筋細胞におけるCa2+スパークよりも著しく大きく、そして長期間持続する28,29。イメージング研究の結果は、ノギン+RAi処理した培養物では試験した細胞の87.5%(14/16)が心室様筋細胞の典型的なCa2+スパーク特性である比較的低い振幅、速い立ち上がり時間、短い半減時間(half time decay)および小さいサイズのCa2+スパークを示すことを示した(図4D、E)。一方で、ノギン+RA処理した培養物では、試験した細胞の81.8%(18/22)がより高い振幅、より遅い立ち上がり時間、より長い半減時間およびより大きいサイズのCa2+スパークを示し(図4D、E)、これはノギン+RA処理した培養物からの筋細胞が心房様筋細胞であったことを示唆している。2種類の異なる処理を行った培養物におけるCa2+放出の速度論的研究およびそれらの2種類のパターンを有する心筋細胞の比率は、以前のAP表現型に基づく心臓亜型カテゴリー分類と一致し、それを支持する。
【0102】
考察
[00104] 本発明者らの結果は、心臓分化の開始後のBMPシグナル伝達阻害はhES
Cの心臓発生を促進することを示している。これは、分化の開始前にノギンを投与することが心臓発生を促進することを示すマウス胚性幹細胞における研究13と部分的に一致する。さらにノギン処理された細胞を非処理細胞と比較することにより、顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)がマウス胚性幹細胞に由来する発生しつつある心筋細胞(cardiomycotes)の増殖を促進することが明らかになった30。ノギンはhESCの未分化状態での増殖を維持し31、BMP4はマウス胚性幹細胞の自己複製(self−renew)に必要である32。これらの異なる自己複製機構は、ヒトとマウスの胚性幹細胞の心臓分化研究で観察された違いの原因である可能性がある。
【0103】
[00105] ウェスタンブロットはANFおよびMLC−2aの差次的発現を明らかにし
たが、60日齢のノギン+RAおよびノギン+RAi処理した培養物では両方の遺伝子が発現している(図6)。これは、マウスの系には早期心房特異的マーカーが存在しないことを示したDr.Rosenthalの発表と一致する。代わりに、彼らは心臓発生の最も早いステージからの洞房組織を標識するために近位840bpウズラSMyHC3プロモーターを用いた
【0104】
[00106] 以前のニワトリおよびマウスの胚の研究は、RAシグナル伝達が洞房細胞の
運命を決定する一方で心室の運命はRAの非存在で指定されると提唱した20。本発明者らの研究は、RAシグナル伝達の遮断が主なhESC由来心筋細胞において心室特異的マーカーMLC−2vの発現を誘導し、これらの細胞は心室筋細胞に典型的なAPおよびCa2+スパークを有することを示している。外因性のRA処理は、hESCの分化を、特徴的な心房様のAPおよび大きなCa2+スパークまたは一過性Ca2+上昇を保持する筋細胞へ方向付ける。本発明者らの結果は、レチノイドシグナルの活性化または阻害が分化しつつあるhESCの心房−対−心室の特異化を指示することを実証している。本発明者らの結果とは異なり、以前の研究はRAがマウス胚性幹細胞に由来する心室性心筋細胞の発生を増進することを示している33。これは、これら2つの研究において用いられた分化培養系、平らな培養系と対比した胚様体方法、およびRAを入れるタイミングの違いを表している可能性がある。
【0105】
[00107] hESC由来心筋細胞の不均質性により引き起こされる心室性不整脈の潜在
的な危険性は、心臓修復へのhESCの適用に関する主な障害の1つである1,6,10。hESCに由来する比較的均質な心室筋細胞を心筋修復に適用することは、この危険性を低減してhESCに基づく心筋修復戦略の開発に関する主な障壁の1つを取り除く大きな可能性を有する。マウス心室性前駆細胞をマウス胚性幹細胞派生物から遺伝子標識アプローチを用いて分離することができ、それを用いて機能する心室筋が生成される34ことを示す最近の組織工学における進歩は、hESCから直接分化した胚性心室様筋細胞を用いてヒトの機能する心室心筋を生成できることを示唆している。本発明者らが開発した直接的な分化方法は、化学的に規定された培養系を用い、遺伝子操作を用いないことにより、心筋修復の臨床研究において容易に用いられるであろう。hESCに基づく心筋修復の開発に関する別の課題は、移植に必要な大量の心室筋細胞(myoctes)を迅速に生成するためのバイオテクノロジーを開発することである。本発明者らの研究は、胚性幹細胞の心臓分化において一般的に用いられている時間のかかる工程である胚様体方法を排除することにより、hESCからの胚性心房様および心室様筋細胞の効率的な分化を実証した。誘導多能性幹(iPS)細胞技術35,36と組み合わせれば、心房様および心室様筋細胞のプログラムされた分化を用いて個人に合わせた心臓修復のための安全な細胞源を開発することができるだけでなく、遺伝的心房または心室疾患の研究のための細胞モデルも提供することができるであろう。
【0106】
[00108] 参考文献:
【0107】
【化1-1】
【0108】
【化1-2】
【0109】
【化1-3】
【0110】
[00109] 上記の刊行物または文献の引用は前述のいずれかが関連先行技術であると容認することを意図しておらず、その引用がこれらの刊行物または文献の内容または日付に関する容認を構成することも決してない。
ある態様において、本発明は以下であってもよい。
[態様1]幹細胞の心臓分化効率を高めるための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞を骨形成タンパク質(BMP)アンタゴニストと接触させることを含み、それによりBMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が心臓分化効率より高くなる方法。
[態様2]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様3]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様4]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様5]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様4に記載の方法。
[態様6]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様1に記載の方法。
[態様7]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様8]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様9]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様1に記載の方法。
[態様10]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様1に記載の方法。
[態様11]BMPアンタゴニストがノギンである、態様1に記載の方法。
[態様12]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することをさらに含む、態様1に記載の方法。
[態様13]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様12に記載の方法。
[態様14]レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより阻害される、態様12に記載の方法。
[態様15]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様12に記載の方法。
[態様16]BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が、BMPアンタゴニストと接触していない幹細胞の心臓分化効率よりも少なくとも約30〜40%高い、態様1に記載の方法。
[態様17]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が約50%である、態様1に記載の方法。
[態様18]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、BMPアンタゴニストと接触した幹細胞の心臓分化効率が約70%である、態様15に記載の方法。
[態様19]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様1に記載の方法。
[態様20]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様19に記載の方法。
[態様21]態様1〜20のいずれか1に記載の方法により生成された心筋細胞。
[態様22]中胚葉を形成するように分化し、外因性のBMPアンタゴニストで処理された幹細胞を含む組成物。
[態様23]幹細胞からの心室性心筋細胞形成を促進するための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害することを含む方法。
[態様24]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様25]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様26]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様27]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様26に記載の方法。
[態様28]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様23に記載の方法。
[態様29]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様30]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様31]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様23に記載の方法。
[態様32]幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることをさらに含む、態様23に記載の方法。
[態様33]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様32に記載の方法。
[態様34]BMPアンタゴニストがノギンである、態様33に記載の方法。
[態様35]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸アンタゴニスト、レチノイン酸受容体アンタゴニストまたはレチノイドX受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様23に記載の方法。
[態様36]レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより阻害される、態様23に記載の方法。
[態様37]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様23に記載の方法。
[態様38]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をBMS−189453と接触させることにより阻害される、態様32に記載の方法。
[態様39]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様23に記載の方法。
[態様40]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様39に記載の方法。
[態様41]態様23〜40のいずれか1に記載の方法により生成された心室性心筋細胞。
[態様42]心室特異的遺伝子の高い発現レベル、胚性心室様の活動電位(AP)、および/または心室性心筋細胞に典型的なCa2+スパークパターンを有する、態様41に記載の心室性心筋細胞。
[態様43]心室特異的遺伝子がIRX−4またはMLC−2vである、態様42に記載の心室性心筋細胞。
[態様44]中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物。
[態様45]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害する外因性の作用物質が汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストである、態様44に記載の組成物。
[態様46]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様45に記載の組成物。
[態様47]幹細胞からの心房性心筋細胞形成を促進するための方法であって、中胚葉を形成するように分化した幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激すること、または阻害しないことを含む方法。
[態様48]幹細胞が全能性、多能性、多分化能性、オリゴ能性または単能性幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様49]幹細胞が胚性幹細胞、誘導多能性幹細胞、胎児幹細胞または成体幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様50]幹細胞が哺乳類の幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様51]哺乳類の幹細胞がヒトの幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様52]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞である、態様47に記載の方法。
[態様53]幹細胞が未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4および/またはアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様54]幹細胞が未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、BMP4およびアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様55]幹細胞が、未分化の幹細胞を塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)およびBMP4と接触させた後に幹細胞をアクチビンAと接触させることにより中胚葉を形成するように分化している、態様47に記載の方法。
[態様56]幹細胞をBMPアンタゴニストと接触させて心臓分化効率を高めることをさらに含む、態様47に記載の方法。
[態様57]BMPアンタゴニストがBMP4アンタゴニストである、態様56に記載の方法。
[態様58]BMPアンタゴニストがノギンである、態様57に記載の方法。
[態様59]幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様47に記載の方法。
[態様60]幹細胞がヒト胚性幹細胞またはヒト誘導多能性幹細胞であり、BMPアンタゴニストがノギンであり、レチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様56に記載の方法。
[態様61]幹細胞をwnt阻害物質と接触させて幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させることをさらに含む、態様47に記載の方法。
[態様62]wnt阻害物質がdickkopfホモログ1(DKK1)である、態様61に記載の方法。
[態様63]態様47〜62のいずれか1に記載の方法により生成された心房性心筋細胞。
[態様64]胚性心房様の活動電位(AP)および/または心房性心筋細胞に典型的なCa2+スパークパターンを有する、態様63に記載の心房性心筋細胞。
[態様65]中胚葉を形成するように分化し、幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質で処理された幹細胞を含む組成物。
[態様66]幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激する外因性の作用物質がレチノイン酸またはビタミンAである、態様65に記載の組成物。
[態様67]幹細胞から心室性心筋細胞を生成するための方法であって:
1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始させ;
2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;
3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をノギンと接触させて幹細胞の心臓分化効率を高め;
4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を阻害して心室性心筋細胞形成を促進し;
5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させて幹細胞を心室性心筋細胞へと分化させる
ことを含む方法。
[態様68]レチノイン酸シグナル伝達経路が、幹細胞を汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストと接触させることにより、あるいは幹細胞のための培地中のビタミンAを低減または枯渇させることにより阻害される、態様67に記載の方法。
[態様69]汎−レチノイン酸受容体アンタゴニストがBMS−189453である、態様68に記載の方法。
[態様70]態様67〜69のいずれか1に記載の方法により生成された心室性心筋細胞。
[態様71]幹細胞から心房性心筋細胞を生成するための方法であって:
1)幹細胞をbFGFおよびBMP4と接触させて幹細胞分化を開始し;
2)bFGFおよびBMP4により処理された幹細胞をアクチビンAと接触させて中胚葉を形成させ;
3)中胚葉を形成するように分化した幹細胞をノギンと接触させて幹細胞の心臓分化効率を高め;
4)ノギンにより処理された幹細胞においてレチノイン酸シグナル伝達経路を刺激して、または阻害せずに、心房性心筋細胞形成を促進し;
5)ノギンにより処理された幹細胞をDKK1と接触させて幹細胞を心房性心筋細胞へと分化させる
ことを含む方法。
[態様72]幹細胞におけるレチノイン酸シグナル伝達経路が幹細胞をレチノイン酸またはビタミンAと接触させることにより刺激される、態様71に記載の方法。
[態様73]態様71および72のいずれか1に記載の方法により生成された心房性心筋細胞。
[態様74]心臓の損傷または障害を処置するための医薬組成物であって、有効量の態様21に記載の心筋細胞、態様41に記載の心室性心筋細胞または態様63に記載の心房性心筋細胞、および医薬的に許容できるキャリヤーまたは賦形剤を含む医薬組成物。
[態様75]対象において心臓の損傷または障害を処置するための方法であって、そのような処置が必要であるか、または望ましい対象に、有効量の態様74に記載の医薬組成物を投与することを含む方法。
[態様76]対象がヒトである、態様75に記載の方法。
[態様77]心筋細胞の調節物質を同定するための方法であって:
1)態様21に記載の心筋細胞、態様41に記載の心室性心筋細胞または態様63に記載の心房性心筋細胞を調節物質の候補と接触させ、調節物質の候補が心筋細胞の特性に及ぼす作用を測定し;
2)調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性を測定し;
それにより、調節物質の候補と接触した心筋細胞の特性が調節物質の候補と接触していない心筋細胞の特性と異なることによって、調節物質の候補を心筋細胞の特性の調節物質として同定する方法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6