特許第6427172号(P6427172)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427172ステアリングの移動停止端部をシミュレートするためのパワーステアリングモータの使用方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427172
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】ステアリングの移動停止端部をシミュレートするためのパワーステアリングモータの使用方法
(51)【国際特許分類】
   B62D 5/04 20060101AFI20181112BHJP
   B62D 6/00 20060101ALI20181112BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20181112BHJP
   B62D 117/00 20060101ALN20181112BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20181112BHJP
   B62D 137/00 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   B62D5/04
   B62D6/00
   B62D113:00
   B62D117:00
   B62D119:00
   B62D137:00
【請求項の数】7
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2016-517658(P2016-517658)
(86)(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公表番号】特表2016-521651(P2016-521651A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】FR2014051311
(87)【国際公開番号】WO2014195625
(87)【国際公開日】20141211
【審査請求日】2017年5月2日
(31)【優先権主張番号】13/55131
(32)【優先日】2013年6月4日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】511110625
【氏名又は名称】ジェイテクト ユーロップ
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】特許業務法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュリアン バルトムフ
(72)【発明者】
【氏名】パスカル ムレール
(72)【発明者】
【氏名】ピエール ピラ
【審査官】 森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−284889(JP,A)
【文献】 特開平06−263050(JP,A)
【文献】 特開2004−345468(JP,A)
【文献】 特開2005−082119(JP,A)
【文献】 特開2009−023380(JP,A)
【文献】 特開2004−175196(JP,A)
【文献】 特開2004−175184(JP,A)
【文献】 特開2005−067296(JP,A)
【文献】 特開平03−239670(JP,A)
【文献】 特表2003−529480(JP,A)
【文献】 特開2004−130971(JP,A)
【文献】 特表2005−524560(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0205185(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/00− 6/10
B62D 101/00−137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パワーステアリング(5)のモータ(1)を取り扱うための方法であって、
上記方法においては、ステアリングラック型のステアリング駆動部材(2)の操作を補助するために補助力(補助力)を与えるよう設計されたパワーステアリングモータ(1)に適用するように意図された補助設定値(Ctot)が定められ、
上記駆動部材(2)は、互いに異なる少なくとも第1位置(P1)と第2位置(P2)との間を移動可能に取り付けられ、
上記第1位置(P1)および上記第2位置(P2)は、上記駆動部材が操舵輪型のステアリング作動部材(3,4)の配向角を変更するのを許容する、上記駆動部材の機能的移動範囲(L0)を定めており、
上記方法は、移動境界仮想端部を規定するステップ(a)を含み、
上記ステップ(a)の間においては、仮想停止部(13)に対する上記駆動部材(2)の仮想係合位置に対応する左側および右側の上記移動境界仮想端部(S1,S2)を選択し、
上記仮想係合位置は、上記第1位置(P1)と上記第2位置(P2)との間に存在し、
上記方法は、位置を測定するステップ(b)を含み、
上記ステップ(b)の間においては、上記駆動部材(2)の瞬間位置(Pt)を測定して、上記駆動部材上記移動境界仮想端部に到達したか否かを検知するために上記移動境界仮想端部(S1,S2)と比較し、
上記駆動部材(2)が左方に向かって上記左側の移動境界仮想端部(S1)に到達したこと、または上記駆動部材(2)が右方に向かって上記右側の移動境界仮想端部(S2)に到達したことを検知した場合には、
上記方法は、移動停止端部をシミュレートするステップ(c)を含み、
上記ステップ(c)の間においては、上記移動境界仮想端部(S1,S2)を超えた上記駆動部材(2)の進行に対抗することによる機械的停止部(13)の影響をシミュレートする抵抗設定値(TorqueStop)が上記補助設定値(Ctot)に含まれ、
上記抵抗設定値(TorqueStop)は、ばね−ダンパ停止部(13)の一次的模擬の表現により、または質量−ばね−ダンパ停止部(13)の二次的模擬の表現により得られ、
上記ばね−ダンパ停止部は、ばね効果を模擬する弾性要素(F=KVRE・XRack)、および減衰力を模擬する粘性要素(F=KVRE・XRack)を端部に有し、
上記ばね効果は、所定の剛性係数(KVRE)によって、上記移動境界仮想端部(S1,S2)を超える上記駆動部材(2)の移動幅(XRack)に比例し、
上記減衰力は、所定の粘性係数(KVRE)によって、上記駆動部材(2)の移動速度(XRack)に比例し、
上記質量−ばね−ダンパ停止部は、弾性要素(F)、粘性要素(F)、および移動質量効果を模擬する慣性要素(F=KD2VRE・X・・Rack)を端部に有し、
上記移動質量効果は、所定の慣性係数(KD2VRE)によって、上記駆動部材(2)の加速度(X・・Rack)に比例している
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、
上記移動境界仮想端部(S1,S2)および/または、上記剛性係数(KVRE)、上記粘性係数(KVRE)および上記慣性係数(KD2VRE)を、
上記パワーステアリングモータが設けられた乗り物の移動速度(V)と、上記駆動部材(2)の移動を制御するハンドル(6)に運転者によって加えられるトルク(τ)と、上記駆動部材(2)の位置(Pt,XRack)、速度(XRack)または加速度(X・・Rack)とのうち少なくとも1つのパラメータにしたがって変更する
ことを特徴とする方法。
【請求項3】
請求項2において、
上記乗り物が所定の高速閾値を超えて移動している(circule)とき、上記仮想停止部(3)の制動を増大させる
ことを特徴とする方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項において、
上記駆動部材(2)の移動は、ハンドル(6)によって制御され、
上記移動境界仮想端部(S1,S2)は、考慮されるステアリング方向における上記駆動部材(2)の機械的な移動制限(P1,P2)に対応する上記ハンドル(6)の最端のステアリング角度位置よりも30〜60°だけ手前にある
ことを特徴とする方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項において、
上記方法を、上記ステアリング駆動部材(2)の移動を不変位置にロックするために、または、上記移動を上記駆動部材(2)の通常機能的移動範囲(L0)に対応する移動範囲の50%、30%もしくは10%よりも小さい所定の拘束範囲内に制限するために、上記パワーステアリングモータ(1)を使用するように上記移動境界仮想端部(S1,S2)をパラメータ化することにより、盗難防止方法として使用する
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
請求項5において、
上記仮想停止部(13)の盗難防止調整は、通常運転中に構築される上記仮想停止部(13)において使用される上記剛性係数(KVRE)、上記粘性係数(KVRE)、および/または上記慣性係数(KD2VRE)よりも断然高い上記剛性係数(KVRE)、上記粘性係数(KVRE)、および/または上記慣性係数(KD2VRE)に対応している
ことを特徴とする方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項において、
上記方法を、操舵輪により形成された少なくとも1つの作動部材(3,4)を含む乗り物の走行装置の対称性を調節する方法として使用し、
上記方法においては、左側の第1移動境界仮想端部(S1)および右側の第2移動境界仮想端部(S2)を、該第1移動境界仮想端部および該第2移動境界仮想端部が上記走行装置の上記操舵輪(3,4)の回動が無いことに対応する中央位置(P0)の両側に等距離に配置されるように、設定する
ことを特徴とする方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物、特に自動車のためのパワーステアリング装置の一般分野に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、そのようなパワーステアリング装置はステアリングラック型の駆動部材を備えており、当該駆動部材は乗り物の車台に固定されたステアリングハウジングに並進運動可能に取り付けられ、当該駆動部材の移動はステアリングコラムによって制御され、当該ステアリングコラムは、ハンドルによって駆動され、かつステアリングラックに噛み合うピニオンを支持する。
【0003】
上記駆動部材の両端部の各々は、一般に、タイロッドによって作動部材に接続されており、当該作動部材は、典型的には、そのヨー軸周りに向けられ得るスタブ軸によって保持される操舵輪で形成されている。
【0004】
パワーステアリングモータは、概して、例えばウォームギア減速機によってステアリングコラムまたはステアリングラックと噛み合っていて、駆動部材を操作するときに運転者からハンドルに加えられる手動力を補助するための装置を完成させる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そのようなパワーステアリング装置は、特にそれらがより快適でより疲れない運転を提供する場合に概して十分なものであるが、しかしながら、それらは特定の欠点を有し得る。
【0006】
実際、ステアリングラックの最大移動量は、構造的に、機械的な移動停止端部により制限される。一般に、ステアリングハウジングそれ自体の端部を、または当該ステアリングハウジングの端部に追加された移動制限部をタイロッドが支えるときに接触が生じる。
【0007】
しかしながら、そのような旋回中の接触はステアリング装置に衝撃を生じさせやすく、そのために騒音の発生を引き起こし、またはステアリング装置の機械的部材の摩耗を引き起こす。
【0008】
したがって、本発明の目的は、これらの欠点を克服すること、および一方で快適でありかつ直感的な運転経験を可能とし、ステアリング機構の旋回に関係する衝撃、騒音および潜在的な損傷からステアリング装置を保護する新しいパワーステアリングシステムを提案することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に帰属する目的は、パワーステアリングモータを取り扱う方法によって達成され、当該方法においては、ステアリングラック型のステアリング駆動部材の操作を補助するために補助力を与えるよう設計されたパワーステアリングモータに適用するように意図された補助設定値が定められ、駆動部材は、少なくとも互いに異なる第1位置と第2位置との間を移動可能に取り付けられ、第1位置および第2位置は、駆動部材が操舵輪型のステアリング作動部材の配向角を変更するのを許容する、駆動部材の機能的移動範囲を定めており、方法は、移動境界仮想端部を規定するステップ(a)を含み、ステップ(a)の間においては、仮想停止部に対する駆動部材の仮想係合位置に対応する少なくとも1つの移動境界仮想端部を選択し、仮想係合位置は、第1位置と第2位置との間に厳密に存在し、位置を測定するステップ(b)を含み、ステップ(b)の間においては、駆動部材の瞬間位置を測定して、駆動部材による移動境界仮想端部との交差を検知するために移動境界仮想端部と比較し、駆動部材が所定の交差方向において移動境界仮想端部と交差したことを検知した場合には、移動停止端部をシミュレートするステップ(c)を含み、ステップ(c)の間においては、考慮される交差方向における移動境界仮想端部を超える駆動部材の進行に対抗することにより機械的停止部の影響をシミュレートする抵抗設定値が補助設定値に含まれている。
【0010】
有利には、本発明は、機械的ステアリング部材の、より具体的には駆動部材の実際の物理的な移動境界端部に先行する1つまたは複数の仮想停止部を人工的に作り出すために補助モータの使用を許容し、仮想停止部は当該機械的部材が当該実際の停止部に衝突することを防止する。
【0011】
換言すれば、本発明は、従来の機械的停止部に仮想停止部を追加すること、および実際に従来の機械的停止部を仮想停止部で置き換えることを可能とし、当該仮想停止部は、パワーステアリングモータに適用可能な規則の適当なプログラミングによりシミュレートされる。
【0012】
シミュレーションでは、モータ、停止効果、より具体的には移動境界仮想端部を超えるステアリングの増大に対するステアリング装置の抵抗によって、本発明は、有利には、実際のステアリング停止部から離れたところで旋回運動を減速させかつより堅くすることを可能とし、特に、駆動部材が当該実際の停止部に対して接触する位置に到達することを妨げ得る。
【0013】
この方法では、ステアリング装置は機械的接触から、または少なくとも機械的ステアリング部材の、より具体的には駆動部材の実際の停止部との衝突から解放される。
【0014】
換言すれば、仮想停止部において駆動部材の、より広くはステアリング装置の移動端部の操作および電動式減衰を提供することにより、駆動部材は、仮想停止部を特徴付ける仮想境界と後退させられる実際の移動制限との間に実際の移動量の余剰を有し、当該仮想停止部を超えて、機械的ステアリング部材は、有利には、それらの実際の接触を防止することまたは少なくとも抑制することにより衝撃から保護される。
【0015】
さらに、仮想停止部の使用は、通常のステアリング装置動作の間において、運転の感覚および快感を阻害しないことに特徴があり、運転者がステアリング装置の実際の旋回制限に近づいたとき、本発明は通常、当該運転者が、予想される接触動作への突入を正確かつ直感的にシミュレートする抵抗力を感じることを可能とする。
【0016】
これに関しては、仮想停止部は、その特性が有利にはプログラムされ、または変更され得、その使用は、ステアリングの端部において、特に駐車操作の間において、通常の機械的な移動ブロック端部から生じる接触動作への突入に比べてより緩やかな(穏やかな)接触動作への突入をシミュレートすることを可能とする。
【0017】
したがって、本発明は、より優れたユーザ快適性と、ステアリング装置の優れた動作安全性との両方を提供する。
【0018】
さらに、本発明によって提供される停止部の仮想的でプログラム可能な特質は、有利には、必要であれば、移動境界仮想端部の数および位置、すなわち仮想停止部の数および位置、または当該仮想停止部の特性(剛性、減衰等)を自由にパラメータ化、選択、または変更することを可能とする。
【0019】
したがって、本発明は、機械的移動制限部に比べて、より大きな調整自由度および順応能力を提供する。
【0020】
詳しくは後述するように、仮想停止部の使用は、さらに、パワーステアリング装置に追加的な機能、例えば盗難防止機能、高速でのステアリング操作を防止する安全機能、または操舵輪を保持する走行装置を制御するステアリング機構の対称性を調節する機能を与えるのに貢献し得る。
【0021】
最後に、本発明の実施が単にパワーステアリングモータを操作するコンピュータのプログラミングに関するものであるため、本発明を後付けにより既に流通している乗り物のパワーステアリング装置の大半に適用することが考えられることは注目に値する。
【0022】
本発明の他の目的、特徴および利点は、非制限的かつ例示的な方法で提供される以下の説明を通読することによって、ならびに添付図面を使用することによって、より詳細に明らかになるだろう。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、ステアリング部材の実際の機械的な総移動範囲に関して、ステアリング部材、より具体的にはハンドルおよび当該ハンドルによって駆動されるステアリングラックの許容移動範囲を制限することを可能とする移動境界仮想端部の位置決め方式を示す概略図である。
図2図2は、第1補助設定値を精巧に決めてこれに移動停止の仮想端部をシミュレートする可能な抵抗設定値を加えることを含む、本発明に係る補助設定値を精巧に決めかつ適用するための方式を示すブロック図である。
図3図3は、パワーステアリングモータによって模擬される仮想ばね−ダンパ停止部のモデルを示す図である。
図4図4は、図3のばね−ダンパ停止部の実施例を示すブロック図である。
図5図5は、パワーステアリングモータによって模擬される仮想質量−ばね−ダンパ停止部のモデルを示す図である。
図6図6は、図5の質量−ばね−ダンパ停止部の実施例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明は、パワーステアリングモータ1を取り扱う方法に関し、当該方法においては、ステアリングラック型のステアリング5の駆動部材2を操作するための補助力(補助力)を与えるために設計されたパワーステアリングモータ1に適用するように意図された補助設定値Ctotが精巧に決められ、当該駆動部材2は少なくとも互いに異なる第1位置P1と第2位置P2との間を移動可能に取りつけられ、第1位置P1および第2位置P2は上記駆動部材2の機能的移動範囲L0を定め、よって当該駆動部材が操舵輪タイプのステアリング作動部材3,4の向きの角度を変更することを許容する。
【0025】
図2に示すように、ステアリング装置5は、好ましくは、好ましくはステアリングコラム7によって駆動部材2の移動を制御するためのハンドル6を備えている。
【0026】
好ましくは、駆動部材2は、ステアリングハウジングにスライド可能に取り付けられたステアリングラックによって形成されており、当該ステアリングハウジング(図示せず)は乗り物の車台に固定されている。ステアリングコラム7に固定されたピニオン8は上記ステアリングラック2と噛み合っている。
【0027】
ステアリングラック2の端部は、好ましくはスタブ軸を介して左操舵輪3および右操舵輪4に当該操舵輪のヨー方向(すなわち、それらの操舵角)を変更するために移動を伝達するタイロッド9,10に接続されている。
【0028】
説明の便宜上、取り決めにより、第1位置P1は左方へ最大に旋回した状況における駆動部材2の最端位置、すなわち移動制限の左側物的端(これを超えてステアリング装置5はもはや機能的に、構造により、それ以上左方へ旋回できない)に対応している一方、第2位置P2は右方へ最大に旋回した状況における駆動部材2の最端位置、すなわち移動制限の右側物的端(これを超えてステアリング装置5はもはや機能的に、構造により、それ以上右方へ旋回できない)に対応しているとみなされたい。
【0029】
これらの第1および第2位置P1,P2は、好ましくは、ステアリング装置5の実際の機械的接触位置に対応しており、当該位置では駆動部材の移動がブロックされて作動部材3,4をそれ以上旋回させることができない。
【0030】
上記第1および第2位置P1,P2は、特に、ステアリングボックスの端部に対するステアリングラック2またはタイロッド9,10の端部の接触位置に対応していてもよい。
【0031】
パワーステアリングモータ1は補助力(「補助力」)、より好ましくは補助トルクを与えるように設けられており、ここで当該補助力は補助設定値Ctotに対応していて、搭載コンピュータ12の不揮発性メモリに記憶された所定の補助規則11にしたがって操舵輪3,4の操作を補助するために駆動部材2に適用される。
【0032】
それ自体既知の態様で、そのような補助規則11は、乗り物の各動作状態に応じて、特に、図2に示すように、その中に運転者によってハンドル6に加えられるトルクτ、および/またはハンドル6の角度位置および/または角速度、および/またはパワーステアリングモータ1のシャフトの位置または角速度を含む、ステアリング装置5の状態を表すデータ(「ステアリングデータ」)に一方で応じて、例えば乗り物の縦方向の移動速度、ヨーレート、横加速度等のような乗り物の動特性を表すデータ(「乗り物データ」)に他方で応じて、第1補助設定値C1を算出することを可能とする。
【0033】
補助(トルク)力(「補助力」)は、好ましくは、運転者によってハンドルに加えられるトルクに(代数学的に)重畳される。
【0034】
変形例によると、上記補助力は、運転者によってハンドルに加えられるトルクの代わりに用いられてもよい。
【0035】
上記補助力は、例えばウォームギア減速機によって駆動部材2またはステアリングコラム7のいずれか一方に直接的に適用されてもよい。
【0036】
パワーステアリングモータ1については、任意の適当なタイプであってもよく、特に油圧式または好ましくは電気式のものであってもよい。
【0037】
本発明によると、方法は、移動境界仮想端部S1,S2を規定するステップ(a)を含み、当該ステップ(a)の間において仮想停止部13に対する駆動部材2の仮想係合位置に対応する少なくとも1つの移動境界仮想端部S1,S2が選択され、当該仮想係合位置は第1位置P1と第2位置P2との間に厳密に存在している(すなわち、当該仮想係合位置は、当該位置P1,P2によって画される区間の中に含まれかつ当該位置P1,P2の各々から離れている)。
【0038】
図1に示すように、2つの移動境界仮想端部、すなわち左側仮想境界S1および右側仮想境界S2が好ましくは設けられている。
【0039】
上記仮想境界S1,S2の各々の配置は任意のものであって開区間(P1,P2)の中から自由に選択されてもよいが、上記仮想境界S1,S2の各々は、好ましくは、ステアリング装置5の(実際の)中央位置P0の両側、すなわちステアリング部材3,4の操舵角がゼロとなる駆動部材2の位置P0の両側に(換言すれば、操舵輪3,4がまっすぐ、すなわち乗り物の前後縦方向軸に沿っている、ステアリングハウジングに対するステアリングラック2の位置P0の両側に)配置されている。
【0040】
そのような態様では、左側仮想境界S1は、走行装置の左方への(すなわち、中央位置P0から最端左側位置P1に向かう)旋回移動を増大させるのに対応するハンドル6の操作方向において、中央位置P0と実際の左方旋回限度に対応する第1位置P1との間に、上記左方旋回限度P1に先行するように、厳密に位置している。
【0041】
同様に、右側仮想境界S2は、走行装置の右方への(すなわち、中央位置P0から最端左側位置P2に向かう)旋回移動を増大させるのに対応するハンドル6の操作方向において、中央位置P0と実際の右方旋回限度に対応する第2位置P2との間に、上記右方旋回限度P2に先行するように、厳密に位置している。
【0042】
優先的な態様では、左側仮想境界S1および右側仮想境界S2は、中央位置P0に関して互いに対称的に配置されている。
【0043】
実際には、第1仮想境界S1から第2仮想境界S2まで広がる、駆動部材2の効率的な移動または同等の態様におけるハンドル6の効率的な移動は、実際の機能的移動範囲L0よりも短いだろう。
【0044】
本発明に係る方法は、また、位置を測定するステップ(b)を含み、当該ステップにおいては、駆動部材2の瞬間位置Ptが測定され、かつ駆動部材2による移動境界仮想端部S1,S2との交差F1,F2を検知するために移動境界仮想端部S1,S2と比較される。
【0045】
本発明の実施のために、第1および第2位置P1,P2、駆動部材2の瞬間位置Pt、および移動境界仮想端部S1,S2は、駆動部材2の位置を示す(より包括的には、ステアリング装置5またはその操舵輪3,4のステアリング構成を示す)任意のパラメータによって無関係に規定されてもよく、特に、同等の態様において、ハンドル6の絶対角度位置(「ハンドル角度」)、ステアリングコラム7の絶対角度位置、または電気パワーステアリングモータ(一定の減速比が既知である)のシャフトの絶対角度位置の測定または計測によって無関係に規定されてもよい。
【0046】
よって、特に、ステアリングラック2の瞬間位置Ptは、ハンドル6の絶対角度位置を検出する絶対角度位置センサから、またはパワーステアリングモータ1のシャフトの相対位置を検出する相対位置センサから決定され、当該相対位置センサは、ステアリングラックの実際の接触位置の検知に基づいた較正アルゴリズムによって完成される(すなわち、当該アルゴリズムは移動の物的制限に基づいた位置較正を定める)。
【0047】
位置測定のステップ(b)の間に、駆動部材2が所定の交差方向F1,F2において移動境界仮想端部S1,S2と交差したことが検知された場合、方法は、移動停止端部をシミュレートするステップ(c)を含み、当該ステップ(c)においては、考慮される交差方向F1,F2における移動境界仮想端部S1,S2を超える駆動部材2の進行に対抗することにより機械的停止部13の影響をシミュレートする抵抗設定値TorqueStopが補助設定値Ctotに含まれている。
【0048】
有利には、上述したように、本発明は、機械的原因を伴う接触状況による衝撃からステアリング装置5を保護するために、ステアリング装置5の実際の機械的停止部とは区別される1つ以上の仮想停止部13を人工的に作り出すように、パワーステアリングモータ1の積極駆動(すなわち、モータ1に駆動力、特に電気的駆動力を供給すること)の使用を可能とする。
【0049】
換言すれば、本発明は、ステアリング装置5の機械的部材に、当該機械的部材の実際の接触による有害な影響に対するソフトウェアによる(および/または電気的な)保護、および当該機械的部材、より具体的には駆動部材2の許容移動範囲の仮想的な制限をもたらす保護を提供し得る。
【0050】
有利には、図1に示すように、移動境界仮想端部S1,S2の設定は、駆動部材2の機能的移動範囲L0(第1および第2位置P1,P2を隔てる距離d(P1,P2)に対応する)に沿って、少なくとも上記機能的移動範囲L0よりも制限され、補助規則11のみ、したがって第1設定値C1が専ら適用される通常補助範囲(「DAN」)を一方で規定し、少なくとも第1設定値C1が抵抗設定値TorqueStopにより減じられ、または相殺されて置換される低減補助範囲(または好ましくは2つの範囲であって、補助範囲に左側および右側で隣接するもの)(「DAR」)を他方で規定することを可能とする。
【0051】
好ましくは、低減補助範囲DARは、通常補助範囲DANと駆動部材2の機械的な移動停止端部の(最端)位置P1,P2との間におけるバッファ領域として機能し、それにより駆動部材が機械的接触位置P1,P2に完全に到達する前に、パワーステアリングモータ1によって提供される抵抗力のおかげで、駆動部材2の進行の速度を落とすか軽くブロックする。
【0052】
有利には、仮想境界S1,S2によって設定される仮想停止部は、駆動部材2の移動量を構造により物理的に制限する実際の停止部に位置的に先行している。
【0053】
よって、ステアリング装置5は、駆動部材2がその移動の物理的端部に近づいたときに、駆動部材2が強制的に実際の停止部に接触するために実際の接触が生じる前に、特に何らかの衝撃が生じる前に、および/または何らかの厳しい制約(加圧、座屈)が現れる前に、当該駆動部材2の運動に対する段階的なブレーキを前もって発生させることにより保護され得る。
【0054】
より具体的には、仮想境界S1,S2は、第1最端位置P1の方向、または第2最端位置P2の方向の旋回運動が、当該運動が考慮される最端位置P1,P2から距離をおいて必ず終わるように、仮想停止部により止められるような態様で規定され得る。
【0055】
よって、仮想停止部は、駆動部材2が物理的移動制限P1,P2に到達するのを防止する防護壁として使用され得る。
【0056】
各々の仮想境界S1,S2をそれぞれに最も近い最端位置P1,P2から隔てている距離は、したがって有利には、有効な安全マージンΔθ,Δθを規定するのに寄与する。
【0057】
有利には、仮想停止部の起動は、特に最端位置P1,P2に近づいているときには、同時に、ハンドル6を通して自然な接触として直感的にわかる抵抗の(触覚の)感覚を運転者に返すことをさらに可能とする。
【0058】
仮想ショックアブソーバ停止部の使用により保護されたステアリング機構5を備えた乗り物を運転することは、通常の乗り物を運転することに全ての点において似ている。
【0059】
これに関しては、仮想停止部は、通常の機械的停止部に比べてより緩やかでより衝動的でない動作をするように設定され得るので、運転の快適性が向上され得る。
【0060】
さらに、通常補助モードから低減補助モードへの(またはその逆の)切り替えが、停止シミュレーションのステップ(c)を作動させるか逆に停止させる移動境界仮想端部S1,S2において、仮想境界の交差方向F1,F2、例えば駆動部材が上記境界S1,S2に到達したときの駆動部材2の変位速度記号XRackによって与えられる交差方向に依存していることは注目すべきである。
【0061】
方法に係る位置測定のステップ(b)の間には、一方で補助部材2の瞬間値Ptを監視し(当該瞬間値を移動境界仮想端部S1,S2と比較するため)、より具体的にはそれから仮想境界を超える位置の記号XRack=Pt−Si(ここで、i=1または2)を推定し、他方で駆動部材2の変位速度記号XRackを監視し、それにより2つの記号(超過の記号と速度の記号)が一致するときには仮想停止部13を作動させ、当該記号が異なるときには仮想停止部13を停止させる。
【0062】
よって、移動境界仮想端部によって特徴付けられた境界線が到達されかつ交差されたとき、通常補助範囲DANを出て低減補助範囲DARに入り、すなわち対応する移動制限の端部P1,P2の方向において境界S1,S2を超えてステアリング角度をさらに増大させる(またはさらに増大させようとする)とき、停止シミュレーションは、あたかも駆動部材2が仮想停止部13の特性を有する機械的停止部に実際に遭遇したかのように、モータ1によって、および駆動部材2の運動、より広くはステアリング装置5の運動の速度を落とすかもしくはブロックするよう意図されているか、または移動境界仮想端部S1,S2の方へ駆動部材2を引き戻すように意図されている抵抗力ForceStopによって、この進行に積極的に抵抗するように従事させられる。
【0063】
好ましくは、抵抗力ForceStopは、境界S1,S2を超える量が増えるにつれて増大する。
【0064】
例として、図1に示すように、特に中央位置P0を始点として運転者がハンドルを右から左へ旋回させ、左側仮想境界S1に右から左への交差方向F1において交差し、そのためステアリングラック2がその移動制限の左側端部P1に近づいた場合、仮想停止部13を使用することは抵抗力ForceStopを生じさせ、好ましくは徐々に増大させ、当該抵抗力は全体的に左から右へと(F1と逆方向に)向けられており、ハンドル6が境界S1を超えてさらに左へ回転するのを妨げる。
【0065】
同様のことが、左から右への交差方向F2における右側仮想境界S2を超えた右方ステアリング操作に準用される。
【0066】
逆に、移動境界仮想端部S1,S2を下回って通常補助範囲DANに戻ることは、ステアリング装置5を低減補助範囲DARから抜けさせ、したがって仮想停止部13の停止をもたらし、通常補助規則11を優先させる(当該補助規則は、特におよび好ましくは、運転者によってハンドル6に加えられたトルクτを単に増幅させるように意図されている)。
【0067】
仮想停止部13の作動は、操舵角を増大させる傾向にあるハンドルトルクτの符号とは反対の符号を有する抵抗設定部TorqueStopを第1設定値C1に代数学的に加えることにより、または、第1設定値C1をゼロに設定することにより、すなわち通常補助を取り除いて当該通常補助を抵抗設定値TorqueStopと単に置き換えることにより、実現されてもよい。
【0068】
抵抗設定値TorqueStopは、好ましくは、トルクの形態で表され、当該トルクは適用される抵抗力ForceStopをシミュレートするためにパワーステアリングモータ1が出力しなければならないトルクであって、当該抵抗力は、仮想停止部の構成に鑑みると、作動部材2に抗するように仮想停止部13によって加えられる力と同等である。
【0069】
図4および図6では、TFは伝達関数を示しており、ここで当該伝達関数はレバーアームと同質のものであって、抵抗力ForceStopを抵抗設定値TorqueStopを形成するトルクに変換することを可能とする。
【0070】
補助モータ1が電気モータである場合、抵抗設定値は、必要とされるトルクに対応するモータの供給電流の大きさを表し得る。
【0071】
いずれにせよ、図3図6に示すように、抵抗設定値TorqueStop、より具体的には当該抵抗設定値に対応する抵抗力ForceStopの結果として生じるものであって駆動部材の移動を妨げるものは、好ましくは、少なくとも、ばね効果を模擬する弾性要素F=KVRE・XRackを備えており、当該弾性要素Fは、所定の剛性係数KVREによって、移動境界仮想端部S1,S2を超える駆動部材2の変位幅XRackに比例している(すなわち、当該境界を超えた量に比例している)。
【0072】
この第1比例ゲイン(剛性係数)KVREによってモデル化された第1要素は、ばねの剛性に取り入れられ得るものでありかつ位置の超過量XRackに適用されるものであって、仮想停止部がより押し込まれるにつれて増大する抵抗力に対抗する弾性戻り制限を生じさせ、当該抵抗力は、例えば、考慮される仮想境界S1,S2を超えて駆動部材2を駆動するステアリング幅に比例している。
【0073】
説明の便宜上、ここでは、超過量XRackは、ステアリングハウジング内でのステアリングラック2の、当該ステアリングラックの縦方向スライド方向に沿った並進運動における直線的な移動に対応しているものと考え、当該方向は基本的には乗り物の前後走行方向と交差している。
【0074】
上述したように、瞬間位置Ptおよび移動境界仮想端部S1,S2を超える駆動部材2の移動幅XRackは、特に、ピニオン8とステアリングラック2との間の減速比が既知であると考えられるときにハンドル6の絶対角度位置から測定され、あるいはウォームギア減速機の減速比が既知であると考えられるときにパワーステアリングモータ1のシャフトの角度位置から測定され、または任意の他の適当なシステムもしくはセンサによって測定される。
【0075】
好ましくは、弾性要素Fの存在に関連する上記の特徴に対する代替的または補足的な特徴によると、図3図6に示すように、抵抗設定値TorqueStop、より具体的には当該抵抗設定値に対応しかつ駆動部材2の移動に対抗する抵抗力ForceStopの結果として生じるものは、減衰効果を模擬する少なくとも1つの粘性要素F=KVRE・XRackを含んでおり、当該粘性要素Fは、所定の粘性係数KVREによって、駆動部材の移動速度XRackに比例している。
【0076】
ここでまた、説明の便宜上、第2ゲインの形態で粘性係数KVREを適用するために、ステアリングハウジング内でのステアリングラック2の並進運動に対応する直線速度XRack、すなわち瞬間位置Ptの一次微分(または、同様の態様で、超過量XRackの一次微分)を考える。
【0077】
この移動速度XRackは、例えば、ピニオン8とステアリングラック2との間の減速比が既知であるときにハンドル6の角速度の計測から測定され、あるいはウォームギアステアリングボックスの減速比が既知であるときにパワーステアリングモータ1のシャフトの角速度から測定され、または任意の他の適当なシステムもしくはセンサによって測定される。
【0078】
好ましくは、弾性要素Fおよび/または粘性要素Fの存在に関連する上記の特徴および/または他の特徴に対する代替的または補足的な特徴によると、抵抗設定値TorqueStop、より具体的には当該抵抗設定値に対応しかつ駆動部材2の移動に対抗する抵抗力ForceStopの結果として生じるものは、移動質量効果を模擬する少なくとも1つの慣性要素F=KD2VRE・X・・Rackを含んでおり、当該慣性要素Fは、所定の慣性係数KD2VREによって、駆動部材2の加速度X・・Rackに比例している。
【0079】
ここでまた、この第3ゲインKD2VRE(慣性係数であって質量を表す)の適用のために、ステアリングハウジング内でのステアリングラック2の並進運動に対応する直線加速度X・・Rack、すなわち瞬間位置Ptの二次微分(または、同様の態様で、超過量XRackの二次微分)を考える。
【0080】
上記加速度X・・Rackは駆動部材2の速度の微分もしくは位置の連続的な微分の算出に基づいて、または、低減係数が既知であるときにハンドル6もしくはパワーステアリングモータ1のシャフトの角加速度に基づいて測定され得る。
【0081】
可能な変形例によると、図3および図4に示すように、抵抗設定値TorqueStop、より具体的には当該抵抗設定値に対応しかつ駆動部材2の移動に対抗する抵抗力ForceStopの結果として生じるものは、ばね−ダンパ停止部13とこの端部に備えられた弾性要素Fおよび粘性要素Fの一次的模擬の表現により得られる。
【0082】
より具体的には、図4に示すように、当該表現は以下のように記述される。(sはラプラス変換で使用される変数である。)
【0083】
【数1】
【0084】
ことによると、停止部13の挙動、特に動的挙動は、これら2つの弾性および粘性要素によって専らモデル化され得、粘性KVREの直線ダンパと並列に取り付けられた剛性KVREのばねを有する仮想停止機構に対応しており、当該2つの要素は作動部材2の境界超過位置XRackに関して一次のシステムを規定する。
【0085】
有利には、そのような仮想ばね−ダンパ停止部の特性は、特に以下の数式を用いることにより、剛性KVREおよび粘性KVREの係数を適切に選択することによって決められまたは変更される。
【0086】
【数2】
【0087】
:仮想ばね−ダンパ停止部の時定数
【0088】
【数3】
【0089】
:ばね−ダンパ停止部の固有モード
【0090】
【数4】
【0091】
:仮想ばね−ダンパ停止部の固有振動数
他の可能な変形例によると、図5および図6に示すように、抵抗設定値TorqueStop、より具体的には当該抵抗設定値に対応しかつ駆動部材2の移動に対抗する抵抗力ForceStopの結果として生じるものは、質量−ばね−ダンパ停止部13とこの端部に備えられた弾性要素F、粘性要素F、および慣性要素Fの二次的模擬の表現により得られる。
【0092】
より具体的には、図6に示すように、当該表現は以下のように記述される。
【0093】
【数5】
【0094】
有利には、駆動部材2の境界超過位置XRackの一次および二次微分を含むそのような二次的なモデルは上記の一次的なモデルよりも完成されたものであって、仮想的な接触に入ることをより正確に表現すること、および運転者にとってより良く、より自然でありかつより直感的な運転感覚を保証することを可能とする。
【0095】
さらに、そのような仮想停止部の動的挙動、および特に、当該仮想停止部がステアリング装置5に提供する多かれ少なかれ減衰された跳ね返り効果を容易に調節し得る。
【0096】
そのような仮想質量−ばね−ダンパ停止部13の特性を有利に選択または変更することができ、ここで模擬機構は、ばね−減衰機構によって保持される追加的な慣性質量KD2VREのために図3に示す模擬機構とは異なっており、動作中には、剛性係数KVRE、粘性係数KVRE、および慣性係数KD2VREの適切な選択がなされ、より具体的には以下の近似式が用いられる。
【0097】
【数6】
【0098】
:仮想質量−ばね−ダンパ停止部の固有モード
【0099】
【数7】
【0100】
:仮想質量−ばね−ダンパ停止部の固有振動数
【0101】
【数8】
【0102】
:減少ダンピング(Butee l'amortissement reduit)
可能な変形例によると、移動境界仮想端部S1,S2の値は、乗り物の動作状態によらず一定となるように設定されてもよい。
【0103】
しかしながら、変形例によると、移動境界仮想端部、および/または、優先的に、剛性係数KVRE、粘性係数KVRE、および慣性係数KD2VREは、少なくとも1つのパラメータにしたがって変更されるだろう。パラメータとは、すなわち、パワーステアリングモータ1が設けられた乗り物の移動速度V、駆動部材2の移動を制御するハンドル6に運転者によって加えられるトルクτ、および駆動部材2の位置(瞬間位置Pt、または超過量XRack)、速度XRackまたは加速度X・・Rackである。
【0104】
換言すれば、乗り物の動作状態にしたがって、仮想停止部13を構築する方法、特に当該仮想停止部13の起動状態、および/または特に当該仮想停止部の動作幅(当該停止部によって提供される抵抗力の大きさ)に依存する当該仮想停止部13のインピーダンスを適合させることが可能である。
【0105】
この目的のために、有利には、考慮されるパラメータに応じて境界値S1,S2または剛性係数、粘性係数もしくは慣性係数を設定するために、コンピュータ12の不揮発性メモリにマップ(または「ゲインテーブル」)を格納しておいてもよい。
【0106】
例として、乗り物が所定の速度閾値を超えて高速で移動しているとき、一方で仮想境界S1,S2を中央位置P0に近づけて低減補助範囲DARを広げてもよいし、他方でこれらの低減補助範囲において仮想停止部が非常に緩やかな態様で動作するように、例えば当該停止部の制動を増大させることによって、仮想停止部13の動作を「広げて」もよく、それにより乗り物が道を逸れることを引き起こしやすいハンドルの強い動きを回避するかまたは抑制する。
【0107】
逆に、低速(所定の低速閾値を下回る)では、駐車アクセス移動や着陸移動を容易にするために、通常補助範囲DAN(操作中に使用できる最も広いステアリング幅の利益を得ることを可能とする)を広げることを優先して低減補助範囲DARを短くするように中央位置P0からより離れた仮想境界S1,S2を選択してもよいし、より堅いおよび/またはより減衰されない停止部13を選択してもよい。
【0108】
本発明それ自体を構成し得る別の可能性によると、移動停止の仮想端部S1,S2、およびしたがって駆動部材2の操作のために利用可能な通常補助範囲DANの大きさは、使用しているタイヤの寸法によって、特に幅によって変更されてもよい。
【0109】
より具体的には、タイヤの幅が増大するときには仮想境界S1,S2を中央位置P0により近くしてもよく、それによりタイヤ壁が乗り物本体またはステアリング装置5の部材と接触する前に仮想接触が生じ、よってタイヤ壁が当該乗り物本体またはステアリング装置5の部材と接触することが防止される。
【0110】
指摘により提供されかつ上で考慮した異なる状況に適用可能な変形例によると、駆動部材2の移動はハンドル6により制御され、移動境界仮想端部S1,S2は30〜60°、好ましくは約50°だけ、考慮されるステアリング方向における駆動部材2の機械的な移動制限、ここではP1,P2、に対応する当該ハンドル6の最端のステアリング角度位置よりも手前にある。
【0111】
換言すれば、図1に示すように、仮想停止部13のシミュレーションは、好ましくは、実際の停止部P1,P2に(考慮される交差方向F1,F2において)30〜60°の範囲の安全マージンΔθ,Δθだけ先行するトリガ閾値から作動されるように設計されている。
【0112】
表示の方法により(または代替的に)、この安全マージンΔθ,Δθはハンドル6の総角度移動範囲の10〜20%であってもよく、当該総角度移動範囲は、また、駆動部材2の実際の機能的移動範囲L0に対応している。
【0113】
駆動部材2の移動を意図的により堅くすることにより、および/または、同等の態様において、ハンドル6の回転をより堅くすることにより、駆動部材2の第1および第2の実際の接触位置P1,P2の手前において、これらの位置に比較的近い仮想停止部S1,S2からのみ、運転を妨げることなくステアリングが衝撃から効果的に保護され得る。
【0114】
さらに、本発明それ自体を構成し得る可能な変形例によると、方法は、ステアリング駆動部材2の移動を不変位置にロックするために、または当該移動を当該駆動部材の通常機能的移動範囲L0に対応する移動範囲の50%、30%または10%である所定の拘束範囲に制限するために、パワーステアリングモータ1を使用するように移動境界仮想端部S1,S2をパラメータ化することにより盗難防止方法として使用され得る。
【0115】
換言すれば、発明それ自体を構成するアプリケーションによって、乗り物を運転するために必要とされるステアリング変位を許容するには小さすぎる拘束範囲に抵抗設定値がステアリング装置5を固定または拘束するように抵抗設定値をモータ1に設定する場合に、パワーステアリングモータ1は有効な盗難防止装置として使用され得る。
【0116】
この目的のために、2つの仮想的な左側および右側の境界S1,S2が、有利には、乗り物が前もって停止されかつロックされたときに駆動部材(またはハンドル6)が位置していた瞬間位置Pt(当該瞬間位置がどこであっても)の(両側における)近傍において互いにより近く設定され、またはこれら2つの左側および右側の境界S1,S2が当該位置Ptに一致するようにされてもよい。
【0117】
よって、仮想二方向ロック停止部13、すなわち、ロックされたステアリング装置5によって占められた瞬間位置Ptから左方F1に曲がることおよび右方F2に曲がることの両方に対抗するロック停止部が得られる。
【0118】
もちろん、停止部13の「盗難防止」調整は、好ましくは、高い値の剛性係数KVRE、粘性係数KVRE、および/または慣性係数KD2VREに対応しており、それらは通常運転(ステアリングがロックされていないときには、盗難防止装置は停止する)の間に構築される仮想停止部に用いられる値よりも断然高い。
【0119】
よって、特に堅い仮想盗難防止停止部13は、ステアリング装置5の妨げとなる物理的、機械的障害物が全く存在しないにも関わらず、ステアリング装置5の許可されていない操作の全てに対抗する。
【0120】
個々のアプリケーションを構成し得るかまたは上述した何れかの使用状況の補足となり得る可能な変形例によると、方法は、操舵輪として形成された少なくとも1つの作動部材3,4を有する乗り物の走行装置の対称性を調節する方法として使用され得る。
【0121】
そのような場合には、当該方法の間、第1移動境界仮想端部S1と第2移動境界仮想端部S2とは、走行装置の操舵輪3,4の回動が無いことに対応する中央位置P0の両側において第1移動境界仮想端部S1と第2移動境界仮想端部S2とが等距離に配置されるように設定される。
【0122】
有利には、ホイール3,4がまっすぐである中央位置P0に関して左側ステアリング制限P1が右側ステアリング制限P2と正確に対称でないように、すなわちステアリング機構5において左へ曲がるために利用可能な移動範囲d(P0,P1)が右へ曲がるために利用可能な移動範囲d(P0,P2)と異なっているように、ステアリング機構5が実質的に不完全であるという前提に基づいて、方法は、中央位置P0の左側および右側において正確に対称な態様で移動境界仮想端部S1,S2を配置することによって走行装置の対称性、より具体的にはステアリング制御の対称性を仮想的かつ人工的に元に戻すことを可能とし、当該中央位置は、実際に、上記仮想停止部において利用可能なままである移動範囲d(S1,S2)の中間位置に一致し(すなわち、上記中央位置P0は通常補助範囲DANの中央に一致する)、そのため結果として生じる利用可能な移動範囲は上記中央位置P0の左側および右側において等しくなる(d(P0,S1)=d(P0,S2)=1/2d(S1,S2))。
【0123】
よって、仮想操作アルゴリズムは、ステアリング5の機械的な偏りを引き起こす物質的な寸法公差を補償し得る。
【0124】
もちろん、本発明は、また、コンピュータ12によって読み込まれたときに本発明に係る方法を実行することを可能とするコード要素を含むコンピュータプログラム、ならびにそのようなコンピュータプログラムを含むデータ媒体に関する。
【0125】
本発明は、また、そのような方法を実行するようにプログラムされたコンピュータ12(例えば搭載コンピュータ、オートマトン等)を有するパワーステアリングモジュール、ならびにそのようなパワーステアリングモジュールを有する駆動輪および操舵輪を備えた乗り物、特に陸上車に関する。
【0126】
明らかに、本発明は単独の記載された変形例に制限されるものでは全くなく、当業者であれば特に、上述した特徴のうち任意のものを単離または自由に組み合わせること、または等価物と置換することができる。
【符号の説明】
【0127】
Rack(Pt−Si) ステアリングラック2(駆動部材)の測定または推定された超過位置(考慮される境界Siに対する移動幅、ここでi=1または2)
Rack ステアリングラック2(駆動部材)の測定または推定された速度
・・Rack ステアリングラック2(駆動部材)の推定された加速度
乗り物の移動速度
τ 運転者によりハンドル6に加えられるトルク
TorqueStop 仮想停止部13の抵抗力効果をシミュレートするためにパワーステアリングモータ1により加えられる抵抗トルクに対応する、算出された抵抗設定値
ForceStop 仮想停止部13によって提供される移動に対する抵抗効果に対応する、算出された抵抗力
TF 算出された抵抗力を対応する抵抗トルク(抵抗設定値)に変換することを可能とする伝達関数(レバーアームと同質の減速比)
VRE 仮想停止部13の剛性(ばね)係数
VRE 仮想停止部13の粘性(ダンパ)係数
D2VRE 仮想停止部13の慣性(質量)係数
s ラプラス変換に用いられる変数(複素数)
図1
図2
図3
図4
図5
図6