(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427174
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】積層造形法による濾過膜の製造方法及び得られる膜
(51)【国際特許分類】
B01D 69/10 20060101AFI20181112BHJP
B01D 71/02 20060101ALI20181112BHJP
B01D 69/04 20060101ALI20181112BHJP
B01D 69/12 20060101ALI20181112BHJP
C04B 38/00 20060101ALI20181112BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20181112BHJP
B01D 39/20 20060101ALI20181112BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20181112BHJP
【FI】
B01D69/10
B01D71/02
B01D69/04
B01D69/12
C04B38/00 304Z
C04B38/00 303Z
B28B1/30
B01D39/20 D
B33Y10/00
【請求項の数】18
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-518566(P2016-518566)
(86)(22)【出願日】2014年6月10日
(65)【公表番号】特表2016-530073(P2016-530073A)
(43)【公表日】2016年9月29日
(86)【国際出願番号】FR2014051383
(87)【国際公開番号】WO2014199062
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年5月12日
(31)【優先権主張番号】1355358
(32)【優先日】2013年6月11日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】512226871
【氏名又は名称】テクノロジ アバンセ エ メンブラン アンデュストリエレ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】レコシュ, フィリップ
(72)【発明者】
【氏名】アンクティーユ, ジェローム
【審査官】
▲高▼ 美葉子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−228949(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/111792(WO,A1)
【文献】
特開2001−247374(JP,A)
【文献】
特開2007−051033(JP,A)
【文献】
特開平07−116480(JP,A)
【文献】
特開平07−124428(JP,A)
【文献】
特開平06−218241(JP,A)
【文献】
特表2013−501701(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
C02F 1/44
B01D 39/00−41/04
C04B 35/00
B23B 1/00− 1/54
B32B 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体の接線濾過用膜の製造方法であって、該膜は、
被濾過流体の循環経路が挿入された、モノリシックセラミック多孔体で構成された三次元構造の支持体であって、平均孔径が4μm〜40μmの範囲である支持体と、
上記支持体の循環経路の壁に堆積した少なくとも1つの分離濾過層を有し、
上記多孔体の細孔組織は開放されており、相互接続した細孔の網状組織を形成しており、
上記支持体の三次元構造は、以下の工程:
a)上記セラミック多孔体を造形するための粉末で少なくとも一部が構成された連続粉末床を、層レベルで見た上記多孔体の断面よりも広い表面に沿って一定の厚さとなるように堆積させる工程と、
b)層ごとに決定したパターンに従って堆積物質の一部を局所的に固化させて、構成要素である層を形成すると同時に、形成した層を先に形成した層と結合させて、段階的に所望の三次元形状に成長させる工程
を繰り返すことによって、構成要素である層を順次互いに積層し、結合させて造形することにより得られることを特徴とする製造方法。
【請求項2】
上記平均孔径は、容積分布によるd50値であって、全細孔容積の50%が、このd50より小さい孔径を有する細孔が占める体積と一致する値であり、上記容積分布は水銀圧入法によって得られることを特徴とする請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
上記三次元構造の造形後に未固化物質を除去することを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
上記工程b)は、エネルギー付与又は微細液滴噴霧によって行われることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
上記固化は自動的に制御されることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
上記堆積物質は、上記多孔体を造形するための粉末と活性化可能なバインダーとの混合物であり、上記固化は、上記バインダーを活性化する薬剤を局所的に噴霧して行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
上記固化は、バインダーを局所的に噴霧して行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項8】
未固化物質を除去する工程と、上記未固化物質の除去後に焼結を行う最終工程を含むことを特徴とする請求項6又は7に記載の製造方法。
【請求項9】
上記固化は、エネルギー付与によって行われることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項10】
上記固化は、レーザー、UV又は電子線処理によって行われることを特徴とする請求項9に記載の製造方法。
【請求項11】
同一層内で空隙率の勾配を形成するように上記エネルギー付与を変化させることを特徴とする請求項9又は10に記載の製造方法。
【請求項12】
上記分離濾過層を上記多孔体の造形後に形成して、被処理流体と接触する表面を形成することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項13】
上記堆積物質は、最終セラミックを構成する無機物質の粉末、又は、最終セラミックを構成する有機/無機若しくは無機前駆体の粉末を含むことを特徴とする請求項1〜12のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項14】
上記堆積物質は、最終セラミックを構成する無機物質の粉末、又は、最終セラミックを構成する有機/無機若しくは無機前駆体の粉末のみで構成されることを特徴とする請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
上記多孔体及び上記分離濾過層はそれぞれ、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料及びこれらの混合物から選択されるセラミックで構成されることを特徴とする請求項1〜14のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項16】
上記多孔体及び上記分離濾過層はそれぞれ、酸化チタン、アルミナ、ジルコニア又はこれらの混合物のうちの1種、窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素又は炭化ケイ素で構成されることを特徴とする請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
上記工程a)で堆積させた粉末の粒度は、平均粒径が10〜100μmであることを特徴とする請求項1〜16のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項18】
上記平均粒径は、体積分布によるd50値であって、全粒子体積の50%が、このd50より小さい粒径を有する粒子が占める体積と一致する値であり、上記体積分布は、レーザー回折により粒径を測定して得られることを特徴とする請求項17に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に膜として知られる濾過エレメントの技術分野に関する。より詳細には、本発明は、積層造形法(additive method)による膜の製造方法及び該方法により得られる膜に関する。
【背景技術】
【0002】
膜を使用した分離法は多くの分野で用いられており、特に環境分野において飲料水の製造や工場排水の処理に用いられたり、化学工業、石油化学工業、製薬業、食品加工業及びバイオテクノロジー分野において用いられたりしている。
【0003】
膜は、選択的バリアを構成し、移送力の影響下で被処理媒体中の特定の成分を透過させたり、遮断したりする。成分の透過又は遮断は、膜の孔径に対するそれらの大きさに従って起こり、この場合、膜はフィルターとして機能する。この技術は、孔径に応じて精密濾過、限外濾過又はナノ濾過と呼ばれる。
【0004】
各種の構造及び組織を有する膜が存在する。膜は、通常、膜の機械的強度を確保するとともに、形状を与えて膜の濾過表面を画定する多孔質支持体で構成される。支持体上には、分離濾過層、分離層又は活性層と呼ばれる分離を確保する厚さ数ミクロンの層が1層以上堆積される。分離の際、濾過された流体は分離層を透過して移動し、その後、支持体の細孔組織を通って広がって、多孔質支持体の外面へと向かう。このように被処理流体のうち分離層及び多孔質支持体を透過した部分は透過液と呼ばれ、膜の周囲に設けられた回収チャンバに回収される。残りの部分は濃縮液と呼ばれ、通常は循環ループによって膜の上流側の被処理流体へ再注入される。
【0005】
従来、支持体は、まず所望の形状に従って押出成形され、その後、得られるセラミックにおいて所望の開放型相互接続細孔組織を保持しつつ必要な堅牢性を確保するのに充分な温度及び時間焼結される。この工程では、直線状の導管を取得しなければならず、続いてその内側に分離濾過層を堆積させて、焼結する。そのため、このようにして得られた膜には最低2回焼結操作を行う。押出成形前にペーストに添加した有機バインダーは、支持体の焼結時に完全に灰化される。
【0006】
このような方法でも充分ではあるが、プロセスの利益性を高め、設計欠陥をできる限り抑えることが依然として望まれている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明においては、膜の新規製造方法が提供され、上記製造方法によって、従来の方法に対して、信頼性及び生産率を増大させつつ、支持体及び支持体内の導管の形状の選択肢について多様性を高めることができる。
【0008】
ここで本発明は、流体濾過用膜の製造方法に関するものであり、該膜は、
・モノリシックセラミック多孔体で構成された三次元構造の支持体であって、平均孔径が好ましくは4μm〜40μmの範囲である支持体と、
・上記支持体の表面の一部に堆積した少なくとも1つの分離濾過層を有し、
上記支持体の三次元構造は、以下の工程:
a)上記セラミック多孔体を造形するための粉末で少なくとも一部が構成された連続粉末床を、層レベルで見た上記多孔体の断面よりも広い表面に沿って一定の厚さとなるように堆積させる工程と、
b)層ごとに決定したパターンに従って堆積物質の一部を局所的に固化(consolidation)させて、構成要素である層を形成すると同時に、形成した層を先に形成した層と結合させて、段階的に所望の三次元形状に成長させる工程
を繰り返すことによって、構成要素である層を順次互いに積層し、結合させて造形することにより得られる。
【0009】
すなわち、本発明の方法は、
a)粉末状物質からなる一定の厚さの均一な連続床を、造形したい多孔体の層レベルで見た断面のパターンよりも広い表面を覆う層を形成するように堆積させる工程と、
b)層の所定のパターンに従って堆積させた粉末状物質の一部を局所的に固化させると同時に、この新たに固化させた物質を下層の先に固化させたパターンと結合させて、層を積み重ねて段階的に所望の三次元形状に成長させる工程
を繰り返すことを含む。
【0010】
上記三次元構造の造形後に未固化物質を除去する。
【0011】
本発明において、上記工程b)は、特にエネルギー付与又は微細液滴噴霧によって行われる。
【0012】
上記固化の局所化は自動的に制御される。より具体的には、エネルギーが付与される又は液体が噴霧される適用位置はコンピューターにより制御される。
【0013】
第一の実施形態によると、上記堆積物質は、上記多孔体を造形するための粉末と活性化可能なバインダーとの混合物であり、上記固化は、上記バインダーを活性化する薬剤を局所的に噴霧して行われる。この場合、上記固化は上記活性化剤を局所的に噴霧して行うことができる。
【0014】
この第一の実施形態によると、上記製造方法は、未固化物質を除去する工程と、上記未固化物質の除去後に焼結を行う最終工程を含む。
【0015】
本発明、特に第一の実施形態において、定義上、支持体より小さい平均孔径を有する必要がある分離濾過層を上記多孔体の造形後に形成して、被処理流体と接触する表面を形成する。
【0016】
第二の実施形態によると、上記固化は、エネルギー付与、特にレーザー、UV又は電子線処理によって行われる。同一層内で平均孔径の勾配を形成して、上記支持体及び上記分離濾過層を同時に成長させるように上記エネルギー付与を変化させることができる。この場合、工程a)及び工程b)を繰り返すことによって、上記分離層及び上記支持体の両方が造形される。
【0017】
この第二の実施形態において、上記堆積物質は、通常、上記多孔体を造形するための粉末のみで構成される。
【0018】
いずれの実施形態においても、上記堆積物質は、最終セラミックを構成する無機物質の粉末、又は、最終セラミックを構成する有機/無機若しくは無機前駆体の粉末を含む、更にはこれのみで構成される。
【0019】
上記多孔体及び上記分離濾過層はセラミックの性質を有し、通常、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料又はこれらの混合物のうちの1種で構成されており、金属の酸化物、窒化物及び炭化物が好ましい。特に、上記多孔体及び/又は上記分離濾過層は、酸化チタン、アルミナ、ジルコニア又はこれらの混合物のうちの1種、あるいは窒化チタン、窒化アルミニウム、窒化ホウ素又は炭化ケイ素であって、必要に応じて他のセラミック材料との混合物としたもので構成される、更にはこれのみで構成される。
【0020】
工程a)及び工程b)を繰り返すことによって分離濾過層及び多孔質支持体の両方を造形する場合、同一材料で作製する必要がある。一方、あらかじめ造形した多孔体上に分離濾過層を従来の堆積方法で堆積させる場合、異なる無機物質で作製することができる。
【0021】
有利なことに、いずれの実施形態においても、工程a)で堆積させる粉末の平均粒径は、セラミックにおいて望まれる平均孔径の2.4〜4倍であることが好ましいが、堆積させた粉末の形態及び粒径分布は、得られる平均孔径に影響を及ぼす。
【0022】
本発明において規定された方法によって得られる膜も本発明の主題の1つである。該膜は、
・モノリシックセラミック多孔体で構成された三次元構造の支持体と、
・上記支持体の表面の一部に堆積した少なくとも1つの分離濾過層を有する。
【0023】
本発明において、支持体の三次元構造の成長は、各層を光学顕微鏡又は走査電子顕微鏡によって視覚化することにより確認できる。これにより支持体の特性が決定され、更には、積層造形法によって分離層も作製する場合にはこのような膜中の分離層の特性も決定される。当然ながら、各層間の境界はできる限り分からないことが望ましい。
【0024】
押出成形による支持体の作製方法の場合、連続的に行われるため、特に支持体の材料組織に識別できる境界は形成されないが、本発明において規定される方法では、積層により非連続的に行われるため、層間の境界に跡が残る。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】循環通路に相当する一連の導管が挿入された筒状の濾過膜1の一例である。
【
図2A】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図2B】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図2C】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図2D】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図2E】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図2F】SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するための連続する2工程の流れを示す。
【
図3】固化していない物質を除去し、所望の三次元形状を露出させることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下の記載とともに添付図面を参照することにより、本発明をより理解することができる。
【0027】
あらかじめ、本発明において使用されるいくつかの用語について定義を示す。
【0028】
平均粒径とは、体積分布によるd50値であって、全粒子体積の50%が、このd50より小さい粒径を有する粒子が占める体積と一致する値を意味すると理解される。体積分布とは、粒子の体積の頻度を粒径の関数として示す曲線(解析関数)である。d50は、頻度曲線下の面積を二等分する中央値に相当し、レーザー回折による粒径測定によって得られる。この方法は、本発明において採用された中央粒径値を測定する参考技術である。d50の測定方法として、特に、
・レーザーによる粒径測定方法に関する規格番号ISO13320:2009、
・分析用粉末のサンプリング方法に関する規格番号ISO14488:2007、
・レーザーによる粒径測定のための液中粉末サンプルの再現性のある分散法に関する規格番号ISO14887:2000が挙げられる。
【0029】
平均孔径とは、容積分布によるd50値であって、全細孔容積の50%が、このd50より小さい孔径を有する細孔が占める容積と一致する値を意味すると理解される。容積分布とは、細孔の容積の頻度を孔径の関数として示す曲線(解析関数)である。d50は、頻度曲線下の面積を二等分する中央値に相当し、平均孔径が4nm以上の場合には水銀圧入法によって得られ、平均孔径が4nmより小さい場合にはガス吸着法、特にN
2吸着法によって得られる。両方法は、平均孔径を測定するために本発明において援用される。
【0030】
特に、
・水銀圧入法による測定方法に関する規格番号ISO15901−1:2005、
・ガス吸着法による測定方法に関する規格番号ISO15901−2:2006及びISO15901−3:2007
に記載された方法を使用できる。
【0031】
本発明は、積層造形法による濾過膜の製造を目的としている。このような膜において、支持体を構成する構成体は細孔組織を有する。該細孔組織は、水銀圧入ポロシメトリーによって測定される細孔の分布から推定される平均孔径によって特徴付けられる。
【0032】
支持体の細孔組織は開放されており、相互接続した細孔の網状組織を形成しているが、これにより、分離濾過層で濾過された流体が多孔質支持体を透過し、外面で回収される。通常は、支持体の水透過率を測定して支持体の水圧耐性を規定するが、これにより同時に細孔組織の相互接続状態を確認できる。多孔質媒体において、非圧縮性粘性流体の定常流はダルシーの法則に従うからである。流体速度は、フランスでの規格番号NFX45−101(1996年12月)などに従って測定できる透過率として知られる特徴的なパラメータを用いて、圧力勾配に比例し、流体の動的粘度に反比例する。
【0033】
本発明においては、特に接線流濾過膜を目的としている。このような膜は、被濾過流体の各種循環経路が挿入された多孔質支持体を有する。これらの循環経路は入口と出口を有する。通常、循環経路の入口は被処理流動媒体が投入される少なくとも1つの入口領域に配置され、出口は濃縮液が排出される少なくとも1つの出口領域に配置される。入口領域及び出口領域は、多孔質支持体の中実部であって、透過液が回収される連続外周領域によってつながっている。循環通路の壁は少なくとも1つの分離濾過層で覆われており、被濾過流動媒体が確実に濾過される。
【0034】
図1は、このように循環通路に相当する一連の導管が挿入された筒状の濾過膜1の一例を示すが、他にも多くの形状のものを本発明の方法では構築できるだろう。この例によると、濾過膜1は、長手方向中心軸Aに沿って長尺状に形成された多孔質支持体2を有する。
図1の多孔質支持体2の横断面は円形であるため外面5は円筒状であるが、横断面はどのような断面でもよく、多角形断面であってもよい。多孔質支持体2は、支持体の軸Aと平行に形成された一連の導管(図示した例では4本の導管3)を有するように構成される。各導管3の表面は、導管3内を循環する被処理流動媒体と接触する少なくとも1つの分離層4で覆われている。流動媒体の一部は分離層4及び多孔質支持体2を透過するため、この透過液と呼ばれる処理された流体は、多孔質支持体の外面5を透過して流出する。被濾過流体は入口領域と出口領域との間を循環する。図示した例では、筒状支持体の一端に入口領域6が、他端に出口領域7が位置する。
【0035】
濾過膜の長さは通常1m〜1.5mである。膜の断面の表面積は通常0.8cm
2〜14cm
2である。分離濾過層の厚さは典型的には1〜100μmの間の厚さで変化する。当然ながら、分離機能を確保し且つ活性層として作用するように、分離層は支持体の平均孔径よりも小さい平均孔径を有する。通常、分離濾過層の平均孔径は、支持体の平均孔径の1/3以下であり、1/5以下であることが好ましい。
【0036】
分離精密濾過層、分離限外濾過層及び分離ナノ濾過層の概念は当業者に周知である。一般的には以下のことが認められている。
・分離精密濾過層の平均孔径は0.1〜2μmである。
・分離限外濾過層の平均孔径は0.1〜0.01μmである。
・分離ナノ濾過層の平均孔径は0.5〜2nmである。
【0037】
精密濾過層又は限外濾過層は、多孔質支持体に直接堆積させてもよく(単層分離層の場合)、多孔質支持体に直接堆積させた平均孔径が小さい中間層に堆積させてもよい(単層分離層の場合)。分離層は、例えば、1種以上の金属酸化物、炭化物、窒化物又は他のセラミックを主体としたものであってもよく、これらのみで構成されてもよい。特に、分離層は、TiO
2、Al
2O
3及びZrO
2単独又はこれらの混合物を主体としたものであるか、これのみで構成される。
【0038】
本発明において、膜は積層造形法によって製造される。支持体、更には膜全体が層を積み重ねて形成される。このため、前工程で、形成する支持体又は膜の三次元構造をコンピューター設計ソフトウエアを使用して薄片に分割する。このようにして、形成する三次元仮想オブジェクトは二次元の非常に薄い薄片に分割される。その後、これらの薄片は、以下の連続する2工程:
・多孔質支持体、更には分離濾過層(両者が同一材料で構成される場合)の形成に必要な物質を連続床として粉末状に堆積させる工程と、その後、
・上記物質をエネルギー付与又は微細液滴噴霧により所定のパターンに従って局所的に凝集させ、堆積面に結合させる工程
を繰り返すことによって、1つずつ層状に形成される。
【0039】
連続する2工程の第1工程は、造形する多孔体の構成要素である層レベルで見た断面よりも常に広い表面に沿って厚さが一定の均一な連続粉末床を堆積させることであり、これは、得られる支持体の端部における仕上がり品質が保証されるように行われる。
【0040】
上記構成要素である層レベルで所望のパターンに従って物質を固化させたら、その後、余分な未固化物質を所望の三次元形状全体の構築後に行う最終工程において除去する。
【0041】
支持体、更には膜全体は、構成要素である層を積層してエネルギー付与又は微細液滴噴霧により互いに結合させることによって構築される。局所的なエネルギー付与は、指向性光線(LED又はレーザー)若しくは指向性電子線、又は、それらを収束させ、CADにより選択されたパターンに従って粉末床をスキャンすることが可能なエネルギー源を使用して行うことができる。その後、エネルギーと物質が相互作用することで、物質の性質及び使用するエネルギー源の性質に応じて、物質の焼結若しくは溶融/凝固、又は、物質の光重合若しくは光架橋のいずれかが起こる。
【0042】
液体を局所的に付与する場合、圧電システムによって形成される微小液滴を使用でき、該微小液滴は適宜静電界中で帯電させ、配向させてもよい。上記液体はバインダーであるか、又は、あらかじめセラミック粉末に添加しておいたバインダーを活性化する薬剤である。
【0043】
本発明において三次元形状を設計するのに用いることができる各種積層造形法を以下に詳述する。
【0044】
SLS(選択的レーザー焼結)又はSLM(選択的レーザー溶融)
この場合、支持体又は膜を構成するための物資の粉末、例えば酸化物系、窒化物系又は炭素系のセラミック材料の粉末、更にはこれらの前駆体のうちの1種の粉末を堆積させて連続床を形成する。その後、強力なレーザービームを選択されたパターンに従って局所的に照射することにより、粉末を凝集させて支持体又は膜に相当する層を形成し、それを先に形成した層と焼結により結合させることができる。局所的なエネルギー付与の作用によって、粉末粒子が部分的に溶融し、互いに融合することにより、層状に凝集し、これにより作製される形状の予備焼結が行われる。続いて、更に粉末床を敷き、工程を再開する。
【0045】
レーザービームが粉末の表面をスキャンすることにより、一層ずつ所望のパターンに従って物質が固化する。このスキャンは、レーザーを平行軌道に沿って移動させて行うことができる。この場合、2つの連続する平行軌道間でレーザーの着弾面が重なることが有利である。レーザービームの着弾点で粉末床が受けとるエネルギー量は、粉末粒子の溶融が部分的な溶融に留まるような量、又は、どのような場合であれ、各粒子が充分に溶融して最も近接する粒子と結合するものの、細孔組織が閉じてしまうことはない量でなければならない。
【0046】
このように装置の設定は、特に、粉末床の固有特性、及び、光子と物質の相互作用の効率を決定する材料の性質によって決まる。
【0047】
参考までに、下記表1に示した範囲に相当する条件を使用できる。
【0049】
レーザービームの焦点及び/又はビームの移動速度を局所的に調節することによって、粉末床が受けとるエネルギー量を調節することができ、これにより、得られるセラミック材料の緻密化、そのためその細孔組織を調節することができる。したがって、ある部分では分離濾過層に対して望まれる細孔組織に相当するもの、他の部分では支持体に対して望まれるものを得ることができる。
【0050】
焼結は、支持体又は膜の設計に従ってレーザー照射により行うが、支持体又は膜が成長し終わってから最終焼結工程を行うことにより、機械的残留応力を解放したり、細孔組織を均質化したりするのが有利である。このような最終焼結に用いる温度は、使用する無機材料の性質及び使用する粉末の平均粒径によって決まる。例えば、酸化チタンの場合、1300℃〜1500℃の温度が用いられる。
【0051】
図2A〜
図2Fは、SLS(又はSLM)法を用いた場合の
図1に示した膜の構成支持体を作製するためのこのような連続する2工程の流れを示す。
【0052】
成長軸は任意に選択することができる。例えば、
図2A〜
図2Fでは、支持体の軸と平行に成長しているが、その軸の垂直方向や他の方向に沿って成長させてもよいことは明らかであろう。
図2A〜
図2Fにおいて、床及び層の厚さは、理解しやすくするために意図的に大きくしている。
【0053】
図2Aでは、粉末床10が堆積面100に堆積される。
図2Bには、層の固化が示されており、自動移動装置200でレーザー400を移動させることにより固化が開始される。上記レーザー400によって固化領域300上の粉末を局所的に加熱でき、パターン11を形成できる。所定のパターンに従って固化させた層11を
図2Cに示す。図示した例では、固化させる領域上に局所的に向けられたレーザービームによって固化が行われる。しかしながら、微小液滴状の噴流を粉末床上に選択されたパターンに従って局所的に噴霧するならば、同様に用いられるであろう。
【0054】
続いて、堆積面100を垂直に移動させて、固化層11上に更に粉末床20を堆積できるようにする。粉末は任意の適切な手段で投入される。
図2Dは、更に粉末床を堆積させることができる装置500の例を示す。形成する三次元形状の成長が行われる装置の横に配置した容器中に、堆積させる粉末を収容する。図示した例では、ローラー600又はスクレーパーを移動させて、先に形成した層11上に粉末を投入する。上記ローラー600によって、粉末を広げ、更には圧縮して、均一な連続床20を形成することもできる。先に形成した層について、堆積床は、形成する多孔体の層レベルで見た断面よりも広い表面に沿って広がっている。
【0055】
図2Eでは、床20が層11上に堆積され、その表面全体を覆っていることが分かる。その後、レーザー400を移動させ、所定のパターンに従って照射する操作を行うことにより、次の層21を固化させ、先に形成した層11に結合させる。このため、図示した例では、支持体2はその長手軸Aに沿って成長する。
図2Fは、得られた2つの連続する層11及び21を示す。
【0056】
例示した例はかなり単純なものであるため、それぞれの層の固化パターンは同一であるが、上記方法によれば、成長とともに固化パターンを変更することも可能である。
【0057】
次いで、
図3に示すように、例えば単に残留した粉末から取り出し、表面に残る粉末を取り去るなどして、固化していない物質を除去し、所望の三次元形状を露出させる。その後、固化していない粉末を再利用して、物質のロスをなくすことができる。
【0058】
3Dプリント
この場合、原理は同じままであるが、堆積した層は、支持体の構成物質のセラミック粉末、更にはその前駆体のうちの1種と、それ自体が粉末状のバインダー又はセラミック粉末自体を被覆するバインダーとの混合物であってもよい。上記混合物は均一であって、支持体の構成物質、更にはその前駆体のうちの1種の粉末粒子とバインダーの粒子は、同様な粒径を有することが好ましい。バインダーとしては、フラン樹脂、フェノール樹脂の他、アミノプラスト樹脂が挙げられる。バインダーの重量%は、その性質及び使用する粉末の平均径に応じて5〜25重量%である。その後、上記バインダーを活性化する薬剤を選択されたパターンに従って微細液滴状で噴霧し、局所的に粉末を凝集させる。上記活性化剤はバインダー用溶媒であってもよく、該バインダー用溶媒によって、ほぼ瞬間的に乾燥させた後、接着により無機粒子同士を結合させたり、固体網状組織内に捕捉したりすることができる。
【0059】
支持体を構成するための物質のセラミック粉末、更にはその前駆体のうちの1種の粉末のみを堆積させて連続床を形成した後、速乾性液状接着剤となるバインダーを局所的に噴霧することもできる。
【0060】
液状のバインダー又は活性化剤は、任意の適切な装置、特にインクジェットプリンターに使用される圧電システムによって噴霧する。装置400がレーザーではなく、バインダー又は活性化剤を噴霧することが可能な装置であること以外は、
図2A〜
図2Fに示した工程と同じままである。
【0061】
未凝集粉末を除去した後、焼結熱処理中にバインダーが除去される。このバインダーの除去は通常500℃に達する前に終了させる。
【0062】
3Dプリントでは、平均粒径が30〜100μmのセラミック粉末を使用して、厚さが80〜300μmの粉末床を形成でき、所望の層を25〜100mm/hの速度で線形的に構築できる。
【0063】
LCM(リソグラフィーを用いたセラミック造形)
LCMは、セラミック粉末を光重合性樹脂と予混合し、LED又はレーザー光源を用いて重合により固化する方法である。上記方法に関して、未架橋粉末を除去してから、焼結熱サイクルを行う必要があり、これにより、バインダー、すなわち光重合性樹脂の除去とその後の厳密な意味での焼結が可能となる。ここでも、
図2A〜
図2Fに示した工程は同じままであり、装置400はレーザー又は他のLED型光源であってもよい。
【0064】
光の着弾点及びその周辺のボリュームのある重合を行うために考慮される波長において粉末粒子は透明でなければならないため、LCMの用途は限られる。
【0065】
本発明の方法は、従来技術に対して、一定で均一な特性を有する膜を提供でき、工具や機械による加工が不要な単一の製造工程で支持体を製造でき、且つ、形状の選択範囲が広がるという利点を有する。
【0066】
粉末床の厚さ、したがって連続的に固化される各層の厚さは、エネルギー付与又は液体噴霧の際に下層と結合させることができるように比較的薄い。特に、20μm〜200μmの厚さで粉末が堆積されるが、この厚さは採用する積層造形法によって決まる。
【0067】
上記連続する2工程を繰り返すことによって、層を積み重ねて所望の三次元形状を構築することができる。固化パターンは層ごとに変更することができる。所望の三次元形状の成長は、選択された成長軸に沿って行われる。
【0068】
堆積粉末の粒度分布は、各粉末床の最小厚さに加え、得られる最終平均孔径も決定する要因の一つである。特に、支持体を造形するための物質の粉末、例えば金属酸化物の粉末、更にはその前駆体のうちの1種の粉末が使用される。堆積した粉末が、例えば35μm程度の平均粒径を有することにより、セラミック支持体の平均孔径が10μm程度となる。
【0069】
本出願人は、材料の選択、選ばれた材料での粉末の平均粒径、選ばれた材料及び粒度での各層ごとに繰り返される粉末床の厚さなどの各種パラメータを調節しつつ、固化に用いる方法に特有の各種パラメータを調節することによって、固化モノリス内の相互接続した残留細孔組織を得ることができ、それを制御できることを見出した。上記残留細孔組織は、粉末粒子の焼結を制御下で行うことにより、粒子間に相互接続した空隙が形成された結果である。
【0070】
エネルギービームを用いる場合、利用できる主要パラメータとしては、その焦点、すなわち粉末床に着弾するビーム径、光子又は電子ビームによって粉末床をスキャンする速度、層の造形時のエネルギービームの着弾面の重複度が挙げられる。
【0071】
液体噴霧を用いる場合、利用できる主要パラメータとしては、液滴の重量、滴下頻度、液滴噴射によって粉末床をスキャンする速度、パス毎の重複度が挙げられる。
【0072】
また、本出願人は、上記各種パラメータを変化させることによって、孔径分布を調節でき、細孔群ごとにそれらの数及び蛇行度を制御できることを見出した。
【0073】
選択された領域で粉末が凝集したら、任意の適切な方法で未凝集物質を除去する。使用する粉末の初期流動性によってこの操作は容易となる。また、水噴射技術や振動を用いて造形物の表面に最終的に残った微量の粉末を取り除くこともできる。
【0074】
通常、バインダーの除去(バインダー除去)及び/又は厳密な意味での材料の焼結を目的とする後熱処理を1回以上行うことによって、濾過エレメントの最終固化を行うことができ、最終的な細孔組織が得られる。余分な未凝集物質を除去した後に行う上記最終焼結で用いる温度は、使用する無機材料の性質及び使用する粉末の平均粒径によって決まる。
【0075】
3Dプリント又はLCMの場合、最終焼結操作後に支持体が造形されてから、分離濾過層が堆積される。分離層の堆積、特に支持体の導管表面への堆積は、焼成後に濾過層を形成する少なくとも1つの焼結性組成物を含む懸濁液を支持体に堆積させることからなる。上記組成物は、従来から無機濾過膜の製造に用いられる構成を有する。上記組成物は、酸化物、窒化物、炭化物、他のセラミック材料又はこれらの混合物のうちの少なくとも1種を含み、金属酸化物、窒化物及び炭化物が好ましい。焼結性組成物は、例えば水に懸濁させる。凝集塊が生成する恐れがなくなるように、また液体中の粒子の分散状態が最適となるように、得られた懸濁液を粉砕処理して、凝集隗を破壊し、構成要素である粒子で本質的に構成される組成物を得る。その後、支持体の導管への浸透に必要な流体力学的要件が満たされるように、懸濁液のレオロジーを有機添加剤で調節する。堆積させたら、層を乾燥させ、その後、その性質、平均粒径及び目標カットオフ閾値に応じた温度で焼結させる。
【0076】
SLS又はSLMの場合、分離濾過層は、支持体を成長させるのと同時に形成してもよいし、膜製造に従来から用いられる堆積方法によって後から堆積させてもよい。ここでも、堆積させる無機物質又はその前駆体のうちの1種の粒子の懸濁液を用いて分離濾過層を堆積させることができる。上記懸濁液は、セラミック濾過エレメントの製造に従来から使用されている。上記層に対して乾燥後に焼結操作を行うことによって、固化させ、堆積面に結合させることができる。懸濁液中の粒子の粒径分布は、最終的に分離濾過層に対して望まれる細孔組織によって決まる。
【実施例】
【0077】
本発明を以下の実施例によって説明するが、これらに限定されない。
【0078】
図1に示した種類の筒状膜を本発明に従って製造する。長さが300mm〜1200mmの筒状の支持体であって、横断面が直径10mm〜42mmの円形であり、筒の軸と平行な直線状導管が内部に挿入された筒状の支持体を準備する。
【0079】
【表2】
【0080】
【表3】
【0081】
【表4】
この場合、最終焼結は不要である。
【0082】
【表5】
【0083】
実施例1、3及び4の場合、膜の製造は、以下の懸濁液を原料として形成される分離層を導管表面に堆積させることによって完了する。
【0084】
【表6】
【0085】
以下の方法で支持体に直接堆積させた後、カットオフ閾値が1.4μmの分離精密濾過層が得られる。
【0086】
懸濁液を導管にポンプ注入して、導管表面に接触させる。多孔質支持体の多孔性によって懸濁液の液状部が引き寄せられることが堆積の作用メカニズムである。
【0087】
表面に堆積した酸化チタン粒子の厚さ、したがって単位表面積当たりの堆積重量は、懸濁液が支持体の導管に滞留する時間によって決まる。
【0088】
【表7】
【0089】
操作を2回繰り返して、最終的な堆積重量を約110g/m
2とする。
【0090】
【表8】
【0091】
より微細な懸濁液を原料としてこのような第1層に適切な熱サイクルを用いて連続的に堆積させることによって、カットオフ閾値が1.4μm未満の精密濾過膜並びに限外濾過膜及びナノ濾過膜を製造できる。