特許第6427176号(P6427176)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427176
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】カチンの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 13/00 20060101AFI20181112BHJP
   C12N 1/21 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   C12P13/00
   !C12N1/21
【請求項の数】15
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-518840(P2016-518840)
(86)(22)【出願日】2014年5月17日
(65)【公表番号】特表2016-521565(P2016-521565A)
(43)【公表日】2016年7月25日
(86)【国際出願番号】DE2014000256
(87)【国際公開番号】WO2014198247
(87)【国際公開日】20141218
【審査請求日】2017年1月13日
(31)【優先権主張番号】102013009631.6
(32)【優先日】2013年6月10日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390035448
【氏名又は名称】フォルシュングスツェントルム・ユーリッヒ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【弁理士】
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【弁理士】
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100139527
【弁理士】
【氏名又は名称】上西 克礼
(74)【代理人】
【識別番号】100164781
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 一郎
(72)【発明者】
【氏名】ローター・デルテ
(72)【発明者】
【氏名】ポール・マルティーナ
(72)【発明者】
【氏名】ゼール・トルステン
(72)【発明者】
【氏名】バライバル・アルバロ・ゴメス
【審査官】 植原 克典
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2003/020255(WO,A1)
【文献】 特表2011−505854(JP,A)
【文献】 Angew.Chem.,2013年 5月 9日,vol.125,p.6904-6908
【文献】 ChemCatChem,2011年,vol.3,p.1587-1596
【文献】 Journal of Bacteriology,1989年,vol.171,no.5,p.2401-2405
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(1S,2S)−ノルプソイドエフェドリンの製造方法において、
第1の反応段階で、ベンズアルデヒドと、式(1)
【化1】
のアセチル供与体(ここで、R=HまたはCOOHを表わす)とを、アセトバクター・パストゥリアヌス(Acetobacter pasteurianus)からの(S)−選択的リアーゼApPDC−E469Gを用いて反応させて、式(2)および(3)
【化2】
のエナンチオマー混合物にし、
第2の段階で、式(3)の化合物と、アミン供与体とを、(S)−選択的トランスアミナーゼを用いて反応させて、(1S,2S)−ノルプソイドエフェドリンにする
ことを特徴とする、
製造方法。
【請求項2】
補因子としてマグネシウム塩並びにチアミン二リン酸を使用する
ことを特徴とする、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
段階1を、5から9までのpH値で実施する
ことを特徴とする、
請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
第1の反応段階の生成物としての式(2)
【化3】
の化合物を、ベンズアルデヒドリアーゼを用いて反応させて、ベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒドにする
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項5】
アセチル供与体を過剰に添加する
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
式(3)
【化4】
の中間体を分離する
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
第2の段階で、式(3)
【化5】
の化合物を、クロモバクテリウム、アルカリゲンス・デニトリフィカンス、アルトロバクター・シトレウス、バチルス・メガテリウム、シュードモナス・フルオレッセンス、ビブリオ・フルリアリスまたはカウロバクター・クレセントゥスからの(S)−選択的トランスアミナーゼを用いて反応させる
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
(S)−選択的トランスアミナーゼとしてCV2025を使用する
ことを特徴とする、
請求項に記載の方法。
【請求項9】
第2の段階で、アミン供与体として、メチルベンジルアミン、ベンジルアミン、イソプロピルアミン、L−アラニン、(±)−1−メチル−3フェニルプロピルアミンまたは(±)−1−アミノインダンの群からの成分を使用する
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項10】
段階2で、補因子としてピリドキサール−5’−リン酸を使用する
ことを特徴とする、
請求項1〜のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
段階2を、6から11までのpH値で実施する
ことを特徴とする、
請求項1〜10のいずれか一つに記載の方法。
【請求項12】
段階1および/または2において、精製されかつ凍結乾燥された酵素を使用する
ことを特徴とする、
請求項1〜11のいずれか一つに記載の方法。
【請求項13】
段階1および/または2をin vivoで行う
ことを特徴とする、
請求項1〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
産生株としてE.coliを使用する
ことを特徴とする、
請求項13に記載の方法。
【請求項15】
リアーゼおよび/またはトランスアミナーゼをコードする遺伝子が、ベクター中にライゲートされている
ことを特徴とする、
請求項13または14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カチン((1S,2S)−ノルプソイドエフェドリン)は、チャット灌木(Kathstrauches)の葉から得ることができ、食欲減退剤としてしばしば使用される。カチンは、自律神経系を刺激する交感神経様の機能に基づき、心血管作用剤(Herzkreislaufmittel)として用いられる。
【0003】
合成製造に関しては、従来技術により、種々の方法が公知である。
【0004】
刊行物、Journal of Organic Chemistry 2012、5454〜5460ページ中のHyeon−Kyu Lee他による「Stereoselective Synthesis of Norephedrine and Norpseudoephedrine by Using Asymmetric Transfer Hydrogenation Accompanied by Dynamic Kinetic Resolution」(非特許文献1)では、7段階合成が公知である。
【0005】
刊行物、J. Org. Chem. 1996、61、6183〜6188からのGwon−II Hwang et他による「Efficient Synthesis of Ephedra Alkaloid Analogous Using an Enantiomerically Pure N−[(R)−(+)−α−Methylbenzyl]aziridine−2−carboxaldehyde」(非特許文献2)は、エナンチオマーとして純粋な(enantiomerenreinem)基質に由来し、非常に高価である、エナンチオマー過剰率の高いカチンの製造方法を明らかにしている。
【0006】
例えば刊行物、マサアキ・ニシムラ他による「Asymetric N1 Unit Transfer to Olefins with a Chiral Nitridomanganese Complex: Novel Stereoselective Pathways to Aziridines or Oxazolines」(非特許文献3)に記載されるような他の方法は、カチンを副生物として形成する方法を明らかにしている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Organic Chemistry 2012、5454〜5460ページ中のHyeon−Kyu Lee他による「Stereoselective Synthesis of Norephedrine and Norpseudoephedrine by Using Asymmetric Transfer Hydrogenation Accompanied by Dynamic Kinetic Resolution」
【非特許文献2】J. Org. Chem. 1996、61、6183〜6188からのGwon−II Hwang et他による「Efficient Synthesis of Ephedra Alkaloid Analogous Using an Enantiomerically Pure N−[(R)−(+)−α−Methylbenzyl]aziridine−2−carboxaldehyde」
【非特許文献3】マサアキ・ニシムラ他による「Asymetric N1 Unit Transfer to Olefins with a Chiral Nitridomanganese Complex: Novel Stereoselective Pathways to Aziridines or Oxazolines」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の課題は、従来技術の欠点を克服し、少ない反応段階で行い、安価であり、高いエナンチオマー純度およびジアステレオマー純度並びに高い収率をもたらし、かつできるだけ少ない後処理段階を必要とする、カチンの簡単な製造方法を提供することである。この方法は、より大きな規模へ容易に移行されうるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この課題は、本発明により、請求項1の上位概念から出発して、請求項1の特徴部に記載された特徴によって解決される。
【0010】
本発明方法を用いて、>99%のエナンチオマー純度および70%のジアステレオマー純度を有するカチンを、97%までの有利な形態で製造することができる。これは90%の変換率を達成しうる。その際、市販で得られる原料を使用することができる。この方法は、数少ない後処理段階で済み、容易にスケールアップでき、かつワンポット反応として実施することができる。
【0011】
本発明の有利な更なる形態は、従属請求項に記載されている。
【0012】
次に、本発明を、その一般式で記載する。
【0013】
本発明の意味における(S)−選択的酵素とは、(S)−配置生成物をもたらす酵素である。
【0014】
第1の反応段階で、ベンズアルデヒドと、式(1)
【0015】
【化1】
のアセチル供与体とを、(S)−選択的リアーゼを用いて、in vitroで反応させて、式(2)および(3)
【0016】
【化2】
の化合物のエナンチオマー混合物にするが、式中、略語PACはフェニルアセチルカルビノールを表わす。
【0017】
ここで、式(1)のアセチル供与体として、R=Hであるアセトアルデヒド、またはR=COOHであるピルビン酸が挙げられる。
【0018】
この反応経路を、図1に例示する。
【0019】
リアーゼとして、例えば、アセトバクター(Acetobacter)、特にアセトバクター・パストゥリアヌス(Acetobacter pasteurianus)からの(S)−選択的リアーゼ、特に変種ApPDC−E469Gが挙げられる。
【0020】
好ましくは、精製されかつ凍結乾燥された酵素を使用する。凍結乾燥は、酵素が安定であり、かつ高い酵素濃度を使用できるという利点があり、その上、精製酵素は、明らかにより高い光学純度、すなわち生成物のより高いエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰率をもたらす。
【0021】
更に、変換率を上げる、(S)−選択的リアーゼのための補因子を使用することができる。
【0022】
例えば、補因子として、例えば硫酸マグネシウムまたは塩化マグネシウムとしてのマグネシウムイオンを、チアミン二リン酸と共に使用することができる。
【0023】
補因子として硫酸マグネシウムおよびチアミン二リン酸を使用する場合に、硫酸マグネシウムに関しては1〜5mM、好ましくは2.5mM、およびチアミン二リン酸に関しては5〜300μM、好ましくは100μMの濃度範囲が有利である。
【0024】
反応は、5から8まで、好ましくは6から7.5までのpH値で実施することができる。
【0025】
このために、例えばリン酸カリウム−緩衝剤を使用することができる。しかしながら、HEPES、MOPS、TEAまたはTRIS−HClのような緩衝剤も考慮に値する。
【0026】
有利な温度範囲は室温であるが、反応を20℃から30℃の間、特に25℃で良好に実施することができる。
【0027】
反応を、好ましくは大気圧で実施する。
【0028】
代替的に、酵素反応をin vivoで行うことができる。触媒としての酵素を低コストに製造することができるという利点がある。
【0029】
このために、産生生物(Produktionsorganismen)としてE.coli細菌を使用することができる。
【0030】
その際に、第1の段階でリアーゼをコードする遺伝子を、ベクター中にライゲートする(ligiert)ことができる。
【0031】
好ましくは、E.coli株は、組換型であり、かつ(S)−選択的リアーゼのための遺伝子を保有するプラスミドを含有する。
【0032】
好ましくは、プラスミドは、上記リアーゼのための遺伝子を含んでいてよい。
【0033】
プラスミドとして、例えば、相応するリアーゼ遺伝子を含むpET22bまたはpKK233基準体(Grundkoerper)を使用することができる。
【0034】
産生生物は、式(2)および(3)の所望の生成物を、水溶液中へ分泌する。
【0035】
本発明方法の有利な実施形態において、式(2)
【0036】
【化3】
の不所望な化合物を、ベンズアルデヒドリアーゼを用いて反応させて、ベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒドにする。
【0037】
この反応式を、図2に示す。
【0038】
これには、式(2)の不所望な副生物を分解し、かつ生じるベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒドを過程へと戻し、かつ式(3)の所望の生成物の収率を高めるという利点がある。式3の(S)−PACのエナンチオマー過剰率は、合計>97%まで上昇しうる。この段階での使用したPACの総量に対する収率は、95%である。
【0039】
式(2)の化合物の反応の際に、アセチル供与体を、反応過程で、過剰に添加することは有利であり、そうすると、式(3)の所望の中間化合物への更なる反応のために、十分なアセチル供与体を使用することができる。このことは、特に、例えばアセトアルデヒドのような揮発性のアセチル供与体の場合に有利である。例えば、ベンジルアルデヒドに対しては10倍過剰のアセチル供与体を使用することができる。
【0040】
中間体は、好ましくは分離される。このために、シリカゲルを用いたカラムクロマトグラフィーを、溶離液(Trennfluessigkeit)として石油エーテル:酢酸エチル(90:10)を適用して、使用することができる。
【0041】
第2の反応段階で、こうして得られた式(3)の化合物と、アミン供与体とを、(S)−選択的トランスアミナーゼを用いて反応させて、最終生成物カチン((1S,2S)−ノルプソイドエフェドリン)にする。この反応を図3に図示する。
【0042】
化学的還元的アミノ化である第2の反応段階のために、基質を反応させかつ(S)−選択的である、トランスアミナーゼを使用することができる。トランスアミナーゼは、クロモバクテリウム(Chromobakterium)、例えばクロモバクテリウム・ビオラセウム(Chromobakterium violacaeum)、好ましくはCV2025からのものであってよい。更に、アルカリゲンス・デニトリフィカンス(Alcaligens denitrificans)、アルスロバクター・シトレウス(Arthrobacter citreus)、バチルス・メガテリウム(Bacillus megaterium)、 シュードモナス・フルオレッセンス(Pseudomonas fluoreszens)、ビブリオ・フルリアリス(Vibrio flurialis)またはカウロバクター・クレセントゥス(Caulobacter crescentus)からのトランスアミナーゼを使用することができる。
【0043】
好ましくは、精製されかつ凍結乾燥された酵素を使用する。凍結乾燥は、酵素が安定であり、かつ高い酵素濃度を使用できるという利点があり、その上、精製酵素は、明らかにより高い光学純度、すなわち生成物のより高いエナンチオマーおよびジアステレオマー過剰率をもたらす。
【0044】
アミン供与体として、例えば(S)−アルファ−メチルベンジルアミン、ベンジルアミン、イソプロピルアミン、L−アラニン、(±)−1−メチル−3−フェニルプロピルアミン、(±)−1−アミノインダンを使用することができる。
【0045】
補因子として、ピリドキサール−5’−リン酸を使用することができる。
【0046】
好ましくは、ピリドキサール−5’−リン酸の濃度は、100〜200μMの間である。
【0047】
反応を、水性媒体中で、6から11までのpH値、好ましくはpH7.5から8.5までのpH値で実施することができる。
【0048】
このために、HEPES、リン酸カリウム、MOPS、TEAまたはTRIS−HClのような適当な緩衝剤を使用することができる。
【0049】
有利な温度範囲は、25℃であるが、反応を20℃〜30℃の範囲で良好に実施することができる。
【0050】
好ましくは、反応を大気圧で実施する。
【0051】
代替的に、(S)−選択的トランスアミナーゼを用いる酵素反応をin vivoで行うことができる。
【0052】
このために、産生生物としてE.coli細菌を使用することができる。
【0053】
その際に、トランスアミナーゼをコードする遺伝子を、ベクター中にライゲートすることができる。
【0054】
好ましくは、E.coli株は、組換型であり、かつ(S)−選択的トランスアミナーゼのための遺伝子を保有するプラスミドを含有する。
【0055】
好ましくは、プラスミドは、上記トランスアミナーゼのための遺伝子を含んでいてよい。
【0056】
プラスミドとして、例えば、相応するトランスアミナーゼ遺伝子を含むpET29aまたはpKK233基準体を使用することができる。
【0057】
産生生物は、式(3)の所望の生成物を、水溶液中へ分泌する。
【0058】
本発明方法において、in vivoでの反応は、第1もしくは第2の反応段階のためだけ、または、反応段階1および2双方のためのどちらかに実施することができる。残りの条件は、それぞれの段階に関して、in vitroでの酵素反応と同様に選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0059】
図1図1は、リアーゼ−反応の反応式を示す。
図2図2は、ベンズアルデヒドリアーゼを用いて反応させて、ベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒドにする反応式を示す。
図3図3は、(S)−選択的トランスアミナーゼを用いて反応させて、最終生成物カチン((1S,2S)−ノルプソイドエフェドリン)を生成する反応式を示す。
図4図4は、図1および3からの段階の要約を示す。
【発明を実施するための形態】
【0060】
図4は、図1および3からの段階の要約を示す。
【0061】
例:
2段階合成を、第1の段階における生物アセトバクター・パストゥリアヌスからの(S)−選択的リアーゼApPDC−E469Gと、第2の段階における生物クロモバクテリウム・ビオラセウムからの(S)−選択的トランスアミナーゼCV2025との組み合わせで首尾よく実施した。第1の段階で、アセトアルデヒドを直接ベンズアルデヒドと結合させるか、もしくはピルビン酸をアセトアルデヒドへ脱炭酸後にベンズアルデヒドと結合させて、約70%のエナンチオマー純度を有する(S)−PACにする。後処理後の収率は95%、eeは約70%であった。第2の反応段階での変換率は、95%であった。まとめると、双方の反応段階を通して、ee>99%およびde約70%の光学純度を有するカチンへの全変換率は約90%を達成することができた。
【0062】
反応条件:
段階1(リアーゼ−反応、図1
ベンズアルデヒド40mM、ピルビン酸400mM、硫酸マグネシウム2.5mM、チアミン二リン酸100μm、ApPDC−E469G(精製凍結乾燥酵素)0.5mg/mL、リン酸カリウム−緩衝剤100mM、25℃、反応時間48h。引き続き、生成物((S)−PAC)の抽出およびカラムクロマトグラフィー精製を行った。収率は95%であった。代替的に、反応を、ピルビン酸の代わりにアセトアルデヒドを用いて、および/または精製酵素の代わりに酵素ApPDC−E469Gが過剰発現されて存在する全細胞を用いて、実施することもできる。
【0063】
段階2(トランスアミナーゼ反応、図3
(S)−PAC10mM、(S)−アルファ−メチルベンジルアミン10mM、精製酵素1mg/ml、25℃、ピリドキサール−5’−リン酸0.1mMを有するHEPES100mM、pH7.5、反応時間24h。変換率は95%であった。反応を、代替的に、(S)−選択的トランスアミナーゼが過剰発現されて存在する凍結乾燥された全細胞を用いて、触媒作用することもできる。
【0064】
リアーゼ反応後の付加的段階により、中間体((S)−PAC)のエナンチオマー純度を任意に高めることができる。精製された(S)−PAC(ee約70%)に、ピルビン酸、ApPDC−E469Gおよび生物シュードモナス・フルオレッセンスからのベンズアルデヒドリアーゼを添加する。ベンズアルデヒドリアーゼは、ベンズアルデヒドおよびアセトアルデヒドへの(R)−PACの選択的分割反応を触媒作用する。生じるベンズアルデヒドは、反応段階1に相応して基質として、酵素ApPDC−E469Gにより逐次触媒作用される、ベンズアルデヒドおよびピルビン酸から(S)−PACへの炭素連結反応(Carboligationsreaktion)のために、使用される。ベンズアルデヒドリアーゼもApPDC−E469Gも反応バッチ中に存在している場合、生成物のeeはee>97%(S)PACまで高められうる。この段階での使用したPACの総量に対する収率は、>91%である。
【0065】
図2における(S)−PACのエナンチオマー純度の上昇:
a)(S)−PAC(ee約70%)11.2mM、ピルビン酸200mM、ApPDC−E469G2.1mg/mL、BAL(ベンズアルデヒドリアーゼ)2mg/mL、硫酸マグネシウム2.5mM、チアミン二リン酸100μM、リン酸カリウム−緩衝剤100μM、25℃、反応時間48h。収率:91.6%、ee((S)−PAC)=97.4%。
【0066】
b)(S)−PAC(ee約70%)20.7mM、ピルビン酸300mM、ApPDC−E469G2.1mg/mL、BAL(ベンズアルデヒドリアーゼ)2mg/mL、硫酸マグネシウム2.5mM、チアミン二リン酸100μM、リン酸カリウム−緩衝剤100μM、25℃、反応時間48h。収率:93.7%、ee((S)−PAC)=96.7%。
図1
図2
図3
図4