特許第6427180号(P6427180)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427180精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法
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  • 特許6427180-精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法 図000005
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427180
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法
(51)【国際特許分類】
   C10G 65/10 20060101AFI20181112BHJP
   C10G 47/00 20060101ALI20181112BHJP
   C10G 67/04 20060101ALI20181112BHJP
   C10G 21/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   C10G65/10
   C10G47/00
   C10G67/04
   C10G21/00
【請求項の数】36
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2016-522559(P2016-522559)
(86)(22)【出願日】2014年6月30日
(65)【公表番号】特表2016-526592(P2016-526592A)
(43)【公表日】2016年9月5日
(86)【国際出願番号】EP2014063849
(87)【国際公開番号】WO2015000841
(87)【国際公開日】20150108
【審査請求日】2017年6月28日
(31)【優先権主張番号】13174770.1
(32)【優先日】2013年7月2日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】502132128
【氏名又は名称】サウディ ベーシック インダストリーズ コーポレイション
(73)【特許権者】
【識別番号】508171804
【氏名又は名称】サビック グローバル テクノロジーズ ベスローテン フェンノートシャップ
(74)【代理人】
【識別番号】100073184
【弁理士】
【氏名又は名称】柳田 征史
(74)【代理人】
【識別番号】100090468
【弁理士】
【氏名又は名称】佐久間 剛
(72)【発明者】
【氏名】ハウスマンス,トーマス ヒューベルテュス マリア
(72)【発明者】
【氏名】オプリンス,アルノ ヨハネス マリア
【審査官】 青鹿 喜芳
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第04137147(US,A)
【文献】 特表2007−517969(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0183988(US,A1)
【文献】 特開昭48−068506(JP,A)
【文献】 米国特許第03842138(US,A)
【文献】 特開昭48−080603(JP,A)
【文献】 米国特許第03891539(US,A)
【文献】 特開平05−239472(JP,A)
【文献】 米国特許第03660270(US,A)
【文献】 米国特許第3331766(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10G 65/10
C10G 21/00
C10G 47/00
C10G 67/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法であって、
(a)蒸留ユニット内の炭化水素原料を頭頂流および底部流に分離する工程、
(b)前記底部流を水素化分解反応区域に供給する工程、
(c)工程(b)の反応区域から生成された反応生成物を、単環芳香族化合物の豊富な流れと多環芳香族化合物の豊富な流れとに分離する工程、
(d)前記単環芳香族化合物の豊富な流れをガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程、および
(e)前記多環芳香族化合物の豊富な流れを開環反応区域に供給する工程、
を有してなり、
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットが前記開環反応区域よりも高い温度で作動され、該ガソリン水素化分解(GHC)ユニットが該開環反応区域よりも低い圧力で作動される方法。
【請求項2】
工程(d)の前記GHCの反応生成物を、C2〜C4パラフィン、水素およびメタンを含む頭頂気体流と、芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む底部流とに分離する工程をさらに含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの前記頭頂気体流を水蒸気分解ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項2記載の方法。
【請求項4】
工程(c)の前記多環芳香族化合物の豊富な流れを芳香族化合物抽出ユニットにおいて前処理する工程をさらに含み、該芳香族化合物抽出ユニットからの底部流が前記開環反応区域に供給され、その頭頂流が前記水蒸気分解ユニットに供給される、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記開環反応区域内で形成された反応生成物の重質分画を前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から4いずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記開環反応区域内で形成された反応生成物の軽質分画を前記水蒸気分解ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から5いずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記芳香族化合物抽出ユニットが蒸留ユニットのタイプのものである、請求項4記載の方法。
【請求項8】
前記芳香族化合物抽出ユニットが溶媒抽出ユニットのタイプのものであり、特に、該溶媒抽出ユニットにおいて、その頭頂流が、溶媒除去のために洗浄され、このように回収された溶媒が前記溶媒抽出ユニットに戻され、このように洗浄された頭頂流が前記水蒸気分解ユニットに供給される、請求項4記載の方法。
【請求項9】
前記芳香族化合物抽出ユニットが分子篩のタイプのものである、請求項4記載の方法。
【請求項10】
工程(a)の前記蒸留ユニットからの前記底部流を真空蒸留ユニット内で前処理する工程であって、該真空蒸留ユニット内で、供給物としての前記底部流が頭頂流と底部流に分離される工程、および該底部流を工程(b)の前記水素化分解区域に供給する工程をさらに含む、請求項1から8いずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記頭頂流を、前記芳香族化合物抽出ユニットに、または前記開環反応区域に、もしくはそれらの組合せに供給する工程をさらに含む、請求項10記載の方法。
【請求項12】
工程(a)の前記蒸留ユニットの前記頭頂流を分離区域に供給する工程をさらに含み、該分離区域において、前記頭頂流が、芳香族化合物が豊富な流れと、パラフィンが豊富な流れとに分離されに分離される、請求項1から11いずれか1項記載の方法。
【請求項13】
前記パラフィンが豊富な流れを前記水蒸気分解ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項14】
前記芳香族化合物が豊富な流れを、工程(d)の前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項12記載の方法。
【請求項15】
前記芳香族化合物抽出ユニットからの前記頭頂流を異性化ユニットに供給する工程、およびそのように異性化された流れを前記水蒸気分解ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から14いずれか1項記載の方法。
【請求項16】
前記分離区域から来る前記パラフィンが豊富な流れを異性化ユニットに供給する工程、およびそのように異性化された流れを前記水蒸気分解ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から15いずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記水蒸気分解ユニットに送られた前記気体流からC2〜C4パラフィンを分離する工程、および該気体流からそのように分離されたC2〜C4パラフィンを水蒸気分解ユニットの炉区域に供給する工程をさらに含む、請求項1から16いずれか1項記載の方法。
【請求項18】
前記C2〜C4パラフィンを、それぞれ、C2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れに分離する工程、および各個々の流れを前記水蒸気分解ユニット12の特定の炉区域に供給する工程をさらに含む、請求項17記載の方法。
【請求項19】
前記水蒸気分解ユニットに送られた前記気体流を脱水素化ユニットに部分的に供給する工程をさらに含み、C3〜C4分画のみを、特に別個のC3流とC4流として、より好ましくは混合C3+C4流として、前記脱水素化ユニットに送ることが好ましい、請求項1から18いずれか1項記載の方法。
【請求項20】
前記水蒸気分解ユニットの反応生成物を、C2〜C6アルカンを含む頭頂流、C2=、C3=およびC4=を含む中間流、および芳香族炭化水素化合物、非芳香族炭化水素化合物およびC9+を含む底部流に分離する工程をさらに含み、特に、該底部流を、芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む流れと、C9+、カーボンブラックオイル(CBO)および分解蒸留物(CD)を含有する流れとに分離する工程をさらに含む、請求項1から19いずれか1項記載の方法。
【請求項21】
前記頭頂流を前記水蒸気分解ユニットに戻す工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項22】
C9+、カーボンブラックオイル(CBO)および分解蒸留物(CD)を含有する前記底部流を、前記開環反応区域に供給する工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項23】
C9+、カーボンブラックオイル(CBO)および分解蒸留物(CD)を含有する前記底部流を、前記水素化分解反応区域に供給する工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項24】
芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む前記底部流を、前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項20記載の方法。
【請求項25】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットの反応生成物からの底部流を、BTXが豊富な分画と、重質分画とに分離する工程をさらに含む、請求項1から24いずれか1項記載の方法。
【請求項26】
前記水蒸気分解ユニットの反応生成物から水素を回収する工程、およびそのように回収された水素を、前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニット、前記水素化分解反応区域および/または前記開環反応区域に供給する工程をさらに含み、特に、前記脱水素化ユニットから水素を回収する工程、およびそのように回収された水素を前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニット、前記水素化分解反応区域および/または前記開環反応区域に供給する工程をさらに含む、請求項1から25いずれか1項記載の方法。
【請求項27】
前記開環反応区域において一般的な工程条件が、100℃から500℃の温度、および2から10MPaの圧力で、芳香族水素化触媒上に1,000kgの原料当たり50から300kgの水素と共に、並びに結果として生じた流れを、200℃から600℃の温度および1から12MPaの圧力で、環開裂触媒上に結果として生じた流れ1,000kg当たり50から200kgの水素と共に環開裂ユニットに通過させる工程を含む、請求項1から26いずれか1項記載の方法。
【請求項28】
前記開環反応区域からの多環芳香族化合物の含有量が多い流れを前記水素化分解区域に戻す工程をさらに含む、請求項1から27いずれか1項記載の方法。
【請求項29】
前記開環反応区域からの単環芳香族化合物の含有量が多い流れを前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程をさらに含む、請求項1から28いずれか1項記載の方法。
【請求項30】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットにおいて一般的な工程条件が、300〜580℃、好ましくは450〜580℃、より好ましくは470〜550℃の温度、0.3〜5MPaのゲージ圧、好ましくは0.6〜3MPaのゲージ圧、特に好ましくは1000〜2000kPaのゲージ圧、最も好ましくは1〜2MPaのゲージ圧、最も好ましくは1.2〜16MPaのゲージ圧、0.1〜10h-1、好ましくは0.2〜6h-1、より好ましくは0.4〜2h-1の重量空間速度(WHSV)である、請求項1から29いずれか1項記載の方法。
【請求項31】
前記水蒸気分解ユニットにおいて一般的な工程条件が、約750〜900℃の反応温度、50〜1000ミリ秒の滞留時間、および大気圧から175kPaのゲージ圧までから選択された圧力である、請求項1から30いずれか1項記載の方法。
【請求項32】
工程(b)の前記水素化分解区域において一般的な工程条件が、300〜580℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度、好ましくは、300〜450℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度、より好ましくは、300〜400℃の温度、600〜3000kPaのゲージ圧、および0.2〜2h-1の重量空間速度である、請求項1から31いずれか1項記載の方法。
【請求項33】
前記蒸留ユニットからの前記頭頂流が前記水蒸気分解ユニットに送られる、請求項1から32いずれか1項記載の方法。
【請求項34】
前記蒸留ユニットからの前記頭頂流が前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに送られる、請求項1から33いずれか1項記載の方法。
【請求項35】
前記蒸留ユニットからの中間流が前記開環反応区域に送られる、請求項1から34いずれか1項記載の方法。
【請求項36】
工程(c)における分離が、70℃から217℃の沸点範囲を有する単環芳香族化合物を含む単環芳香族化合物の豊富な流れが前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給され、217℃以上の沸点範囲を有する多環芳香族化合物を含む多環芳香族化合物の豊富な流れが前記開環反応区域に供給される、請求項1から35いずれか1項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法に関する。
【背景技術】
【0002】
慣習的に、原油は、蒸留によって、ナフサ、軽油および残油などの数多くの留分(cuts)に処理される。これらの留分の各々には、ガソリン、ディーゼル燃料および灯油などの輸送燃料の製造またはいくつかの石油化学製品および他の処理ユニットへの供給物としてなどの数多くの潜在的な用途がある。
【0003】
ナフサおよびいくつかの軽油などの軽質原油留分は、炭化水素供給流を蒸発させ、水蒸気で希釈し、次いで、炉(反応装置)管内で短い滞留時間(1秒未満)、非常に高温(800℃から860℃)に曝す、水蒸気分解などのプロセスによって、軽質オレフィンおよび単環芳香族化合物の製造に使用できる。そのようなプロセスにおいて、供給流中の炭化水素分子は、供給分子と比べて(平均で)より短い分子および水素対炭素比がより低い分子(オレフィンなど)に転換される。このプロセスにより、有用な副生成物としての水素並びにメタンおよびC9+芳香族化合物と縮合芳香族種(縁を共有する2つ以上の芳香環を含む)などの大量の価値の低い副産物が生成される。
【0004】
典型的に、残油などのより重質の(または沸点のより高い)芳香族種は、原油からのより軽質(蒸留可能な)生成物の収率を最大にするために原油精製所内でさらに処理される。この処理は、水素化分解(それにより、水素化分解供給物は、水素の同時添加により、供給分子のある分画をより短い炭化水素分子に分解する条件下で、適切な触媒に曝露される)などのプロセスによって行うことができる。重質精製流の水素化分解は、典型的に、高圧かつ高温で行われ、それゆえ、資本コストが高く付く。
【0005】
原油蒸留およびより軽質の蒸留流分の水蒸気分解のそのような組合せのある側面は、原油の分留に関連する資本コストと他のコストである。より重質の原油留分(すなわち、約350℃を超えて沸騰するもの)は、置換芳香族種、特に置換縮合芳香族種(縁を共有する2つ以上の芳香環を含む)が比較的豊富であり、水蒸気分解条件下では、これらの材料は、C9+芳香族化合物および縮合芳香族化合物などの重質副生成物を多量に生成する。それゆえ、原油蒸留および水蒸気分解の従来の組合せの結果、より重質の留分からの価値のある生成物の分解収率は、別の精製燃料の価値と比べて十分に高いとは考えられないので、原油の相当な分画は水蒸気分解装置により処理されない。
【0006】
上述した技術の別の側面は、軽質原油留分(ナフサなど)のみが水蒸気分解により処理された場合でさえ、供給流のかなりの割合が、C9+芳香族化合物および縮合芳香族化合物などの価値の低い重質副生成物に転化されることである。典型的なナフサと軽油に関して、これらの重質副生成物は、全生成物の収量の2から25%を占めるであろう(非特許文献1)。このことは、従来の水蒸気分解装置の規模で、価値の低い材料中の高価なナフサおよび/または軽油の著しい経済的降格を示すが、これらの重質副生成物の収量では、通常、これらの材料を、より価値の高い化学物質を多量に生成するであろう流れに価値を高める(例えば、水素化分解により)のに必要な資本投資が正当化されない。これは一部には、水素化分解プラントは資本コストが高く、ほとんどの石油化学プロセスと同様に、これらのユニットの資本コストは、概して、0.6または0.7の倍率に乗ぜられた処理量に対応する。その結果、小規模の水素化分解ユニットの資本コストは、水蒸気分解装置により生じた重質副生成物を処理するためのそのような投資を正当化するのには高すぎると、通常考えられる。
【0007】
残油などの重質精製流の従来の水素化分解の別の側面は、これらは、所望の全体の転化率を達成するために選択された妥協条件下で行われることである。供給流は、分解の容易さが様々である種の混合物を含んでいるので、これにより、比較的水素化分解が容易な種の水素化分解によって形成された蒸留可能な生成物のいくらかが、水素化分解がより難しい種を水素化分解するのに必要な条件下でさらに転化されることになる。これにより、水素の消費量およびそのプロセスに関連する熱管理の難しさが増し、またより価値のある種を犠牲にして、メタンなどの軽質分子の収率が増してしまう。
【0008】
原油蒸留およびより軽質の蒸留留分の水蒸気分解のそのような組合せの結果は、熱分解を促進するのに必要な高温に混合された炭化水素および水蒸気流をさらす前に、これらの留分の完全な蒸発を確実にすることが難しいので、水蒸気分解炉管は、通常、沸点が約350℃より高い材料を多量に含有する留分の処理に適していないことである。分解管の高温区域に液体炭化水素の液滴が存在する場合、管の表面上にコークスが急激に堆積し、これにより、熱伝導が低下し、圧力降下が増加し、最終的に、分解管の作動を抑制して、コークスを取り除くために炉の操業を停止させる必要が生じる。この難点のために、元の原油のかなりの部分を、水蒸気分解装置により、軽質オレフィンと芳香族種に処理することができない。
【0009】
特許文献1は、多環芳香族化合物を含む炭化水素原料の単環芳香族化合物含有量を増加させるための触媒およびプロセスであって、不要な化合物を減少させつつ、ガソリン/ディーゼル燃料の収率を増加させることによって単環芳香族化合物を増加させ、それによって、多量の多環芳香族化合物を含む炭化水素の価値を高める経路を提供する触媒およびプロセスに関する。
【0010】
特許文献2は、留出燃料よりも重質の蝋状供給物を、曇り点および/または凝固点の低い留出燃料並びに触媒的または溶媒抽出のいずれかにより、粘度指数が例外的に高く、揮発度が低い、低流動点イソパラフィン系油に脱蝋するのに適した重質イソパラフィン流に最初に処理するための低苛酷度水素化分解装置に関する。特許文献2に開示されたプロセスは、(a)原料を、C5から160℃の炭化水素を含む第1の蒸留物、160℃から371℃の炭化水素を含む第2の蒸留物、および371℃+の炭化水素を含む第3の蒸留物に分留する工程;(b)その第3の蒸留物を低苛酷度水素化分解装置内で水素化分解して、水素化分解生成物を生成する工程;(c)第2の蒸留物を第2の分留装置に供給する工程;(c)水素化分解生成物を第2の分留装置に供給する工程;(d)第2の分留装置から、第1の留出燃料分画、軽質潤滑剤分画、および蝋状潤滑剤分画を回収する工程;(e)この蝋状潤滑剤分画を水素化脱蝋して、脱蝋生成物を形成する工程;(f)第3の分留装置内で脱蝋生成物を分留する工程を有してなる。
【0011】
特許文献3は、約10から50体積分率が1000°F(約540℃)を超えて沸騰する重質炭化水素油であって、相当量の硫黄、窒素、および金属含有化合物並びにアスファルテンと他のコークス形成炭化水素を含有し、微量分画の重質残留燃料油および主要分画の低硫黄ガソリンに転化される重質炭化水素油の水素化分解に関する。
【0012】
特許文献4は、石油蒸留物からナフサを製造する二段階プロセスに関する。
【0013】
特許文献5(仏国特許発明第2364879号明細書に対応)は、水素添加分解(hygrogenolysis)または水素化分解(hydrocracking)と、その後の水蒸気分解により得られる、軽質オレフィン炭化水素、主に、それぞれ、分子当たり2および3の炭素原子を有するもの、詳しくは、エチレンおよびプロピレンを製造する選択的プロセスに関する。
【0014】
特許文献6は、水素の存在下で石油の炭化水素の供給物を熱分解する方法であって、その水素化分解プロセスが、0.01秒と0.5秒の非常に短い滞留時間および625から1000℃に及ぶ反応装置の出口での温度範囲で、反応装置の出口での5および70バール(約500kPaおよび7MPa)の圧力下で行われる方法に関する。UOPのLCO Unicrackingプロセスでは、部分転化水蒸気分解を使用して、単純なワンススルー流動スキームで高品質のガソリンおよびディーゼル燃料のストックを製造する。その原料は、前処理触媒上で処理され、次いで、同じ段階で水素化分解される。その生成物は、続いて、液体を再循環する必要なく、分離される。このLCO Unicrackingプロセスは、より低圧の運転のために設計することができる、すなわち、圧力要件は、高苛酷度水素化処理よりもいくぶん高いが、従来の部分転化および完全転化水素化分解ユニットの設計より著しく低くなる。アップグレードした中間蒸留生成物は、適切な超低硫黄ディーゼル(ULSD)混合成分を作り出す。LCOの低圧水素化分解からのナフサ生成物は、超低硫黄であり、オクタン価が高く、超低硫黄ガソリン(ULSG)プールに直接ブレンドすることができる。
【0015】
特許文献7は、2つ以上の縮合芳香環を有する化合物を処理して、少なくとも1つの環を飽和させ、次いで、その化合物の芳香族部分から、生じた飽和環を開裂して、C2〜4アルカン流および芳香族流を生成するプロセスに関する。そのようなプロセスは、炭化水素(例えば、エチレン)(流)分解装置と、この分解装置からの水素が、2つ以上の芳香環を有する化合物を飽和させ、開裂するように使用され、C2〜4アルカン流が水蒸気分解装置に供給されるように統合されるか、もしくは石油化学製品の生産に適した流れを製造するために、油砂、タールサンド、シェール油または縮合環芳香族化合物の含有量が多い任意の油の処理からの重質残油を処理するための、炭化水素分解装置(例えば、水蒸気分解装置)およびエチルベンゼンユニットと統合されることがある。
【0016】
特許文献8は、水蒸気分解ユニットへの原料のパラフィン含有量を改善するプロセスであって、芳香族炭化水素をナフテンに転化させる条件で作動する触媒およびナフテンをパラフィンに転化させる条件で作動する触媒を含む開環反応装置中に、C5からC9直鎖パラフィンを含むC5からC9炭化水素を含む供給流を通過させる工程、第2の供給流を生成する工程;および第2の供給流の少なくとも一部を水蒸気分解ユニットに通す工程を有してなるプロセスに関する。
【0017】
特許文献9は、環状アルカン、アルケン、環状アルケンおよび/または芳香族化合物を含有する、熱または触媒転化プラントからの分画および鉱油分画からn−アルカンを製造するプロセスに関する。より詳しくは、この公報は、芳香族化合物が豊富な鉱油分画を処理するプロセスであって、芳香族化合物の水素化後に得られる環状アルカンが、添加され炭素のものよりもできる限り小さい鎖長のn−アルカンに転化されるプロセスを称する。
【0018】
特許文献10は、多環芳香族化合物を含む炭化水素原料の単環芳香族化合物の含有量を増加させるための触媒およびプロセスであって、単環芳香族化合物の増加が、不要な化合物を減少させつつ、ガソリン/ディーゼル燃料の収率を増加させることにより達成でき、それによって、相当な量の多環芳香族化合物を含む炭化水素をアップグレードする経路を提供する、触媒およびプロセスに関する。
【0019】
上述したLCOプロセスは、単環芳香族化合物および二環芳香族化合物を含有する流れであるLCOのナフサへの完全転化水素化分解に関する。完全転化水素化分解の結果、高ナフテン、低オクタンのナフサが得られ、これは、生成物のブレンドに必要なオクタンを製造するために改質しなければならない。
【0020】
特許文献11は、オレフィンおよび芳香族化合物などの付加価値材料を製造しながら、元の重質炭化水素原油原料よりも、密度が低いまたは軽質であり、より少ない硫黄しか含有しない油に重質炭化水素原油原料をアップグレードするプロセスであって、特に、その重質炭化水素原油原料の一部を油溶性触媒と混ぜ合わせて、反応体混合物を形成する工程、前処理した原料を比較的低い水素圧下で反応させて、第1の部分が軽油を含み、第2の部分が重質原油残留物を含み、第3の部分が軽質炭化水素ガスを含む生成物流を形成する工程、および軽質炭化水素ガスの一部を分解ユニットに導入して、水素および少なくとも1種類のオレフィンを含有する流れを生成する工程を有してなるプロセスに関する。
【0021】
特許文献12は、接触水素化前処理プロセスを使用した、特に、それに続く熱分解装置(coker refinery)の効率を改善するために水素化脱金属化(HDM)触媒と水素化脱硫(HDS)触媒の連続使用による、原油、減圧残油、タールサンド、ビチューメンおよび真空軽油を含む重油を処理するプロセスに関する。
【0022】
特許文献13は、芳香族化合物を含有するナフサ流を水蒸気分解するオレフィンプロセスであって、水蒸気分解炉の流出物からオレフィン流および分解ガソリン流を回収する工程、分解ガソリン流を水素化し、そこからC6〜C8流を回収する工程、芳香族化合物を含有するナフサ流を水素化処理して、ナフサ供給物を得る工程、一般的な芳香族化合物抽出ユニット内でC6〜C8流をナフサ供給流で脱芳香族化して、ラフィネート流を得る工程、およびそのラフィネート流を水蒸気分解炉に供給する工程を有してなるプロセスに関する。
【0023】
特許文献14は、全範囲ナフサ原料である、石油、天然ガスコンデンセート、または石油化学原料などの原料から化学成分を抽出するプロセスであって、その全範囲ナフサ原料に脱硫プロセスを行う工程、脱硫された全範囲ナフサ原料からC6からC11炭化水素分画を分離する工程、芳香族化合物抽出ユニット内で、そのC6からC11炭化水素分画から、芳香族化合物分画、芳香族化合物前駆体分画およびラフィネート分画を回収する工程、その芳香族化合物前駆体分画中の芳香族化合物前駆体を芳香族化合物に転化させる工程、および芳香族化合物抽出ユニットにおける工程から芳香族化合物を回収する工程を有してなるプロセスに関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0024】
【特許文献1】米国特許出願公開第2009/173665号明細書
【特許文献2】国際公開第2005/073349号
【特許文献3】米国特許第3891539号明細書
【特許文献4】米国特許第3660270号明細書
【特許文献5】米国特許第4137147号明細書
【特許文献6】米国特許第3842138号明細書
【特許文献7】米国特許第7513988号明細書
【特許文献8】米国特許出願公開第2005/0101814号明細書
【特許文献9】米国特許第7067448号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2009/173665号明細書
【特許文献11】国際公開第2006/122275号
【特許文献12】国際公開第2011/005476号
【特許文献13】米国特許出願公開第2008/194900号明細書
【特許文献14】国際公開第2008/092232号
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】Table VI, Page 295, Pyrolysis: Theory and Industrial Practice by Lyle F. Albright et al, Academic Press, 1983
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
本発明の課題は、ナフサ、コンデンセートおよび重質残滓供給物を芳香族化合物およびLPG分解装置の供給物にアップグレードする方法を提供することにある。
【0027】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、エチレンとプロパンの高収率を達成できる方法を提供することにある。
【0028】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、幅広い炭化水素原料を処理できる、すなわち、供給物の融通性が高い方法を提供することにある。
【0029】
本発明の別の課題は、炭化水素原料から軽質オレフィンおよび芳香族化合物を製造する方法であって、芳香族化合物の高収率を達成できる方法を提供することにある。
【0030】
本発明の別の課題は、原油原料を石油化学製品、より詳しくは軽質オレフィンおよびBTX/単環芳香族化合物にアップグレードする方法を提供することにある。
【0031】
本発明の別の課題は、炭素利用率が高く、水素が統合された、原油原料を石油化学製品にアップグレードする方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明は、精製重質残油を石油化学製品にアップグレードする方法であって、
(a)蒸留ユニット内の炭化水素原料を頭頂流および底部流に分離する工程、
(b)この底部流を水素化分解反応区域に供給する工程、
(c)工程(b)の反応区域から生成された反応生成物を、単環芳香族化合物の豊富な流れと多環芳香族化合物の豊富な流れとに分離する工程、
(d)その単環芳香族化合物の豊富な流れをガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程、および
(e)その多環芳香族化合物の豊富な流れを開環反応区域に供給する工程、
を有してなり、
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットが前記開環反応区域よりも高い温度で作動され、このガソリン水素化分解(GHC)ユニットがその開環反応区域よりも低い圧力で作動される方法に関する。
【0033】
これらの工程(a)〜(e)に基づいて、前記課題の1つ以上を達成できる。本願の発明者等は、水蒸気分解装置または脱水素化との水素統合により、石油化学製品(軽質オレフィンおよびBTX)はガソリンおよびディーゼル燃料と比べて含有する水素が少ないので、精製所と比べて水素生産のコストがずっと安くなり、したがって、水素管理の観点から、複合プロセスがずっと経済的であることを発見した。
【0034】
本発明によれば、残油水素化分解技術は、上述した様式で処理することができない減圧残油タイプの材料を、LPGにおおよそ対応するいくつかの生成物流、主に単環芳香族化合物の流、主に二環/三環芳香族化合物の流れおよび主に高級多環芳香族化合物を含有する流れに転化させるために適用される。最も重要な目的が、特定のナフサ、ガソリンまたはディーゼル分画へのアップグレード、およびこれらの特定の分画の収率の1つ以上の最適化である精製所の運転における典型的な用途とは異なり、本願の発明者等は、コークス/ピッチの形成とメタンの生成を最小にするために残油水素化分解ユニットを最適化している。次いで、結果として生じた流出物を、個々の化合物中の分子環の数を考慮して、さらにアップグレードし、それらをそれに応じて分離する(沸点範囲のみにより、または例えば、脱芳香族化技術を適用することによっても(おそらく、n−パラフィン成分のみを分離する))。次いで、これらの流れを、BTX生産を最大にし、水素の消費量を最小にするために、GHCユニット(単環芳香族化合物)内;石油化学製品を製造するのにガソリン/ディーゼル燃料の生産は重要ではないので、開環水素化分解ユニット(二環/三環芳香族化合物)内のいずれかで;非常に重質の生成物の、ことによると流出流(bleed stream)を有する三環/四環+成分の残油水素化分解装置自体への再循環において、「環の数」に応じて、最も効率的にアップグレードされる。あるいは、残油FCCユニットは、その投資の見返りは低くなるが、残油水素化分解装置(またさらには、残油水素化分解装置およびVDU)を置き換える類似の様式で適用することができるが、これにより、残油水素化分解装置と比べて、メタンとコークスに対する炭素損失が多くなりそうである。
【0035】
その開環プロセスの流出物は、単環芳香族化合物が多く、次いで、LPG(水蒸気分解装置および/またはPDH/BDHのための高価値流)およびBTX(高純度)にさらにアップグレードするためにGHCユニットに供給される。異なる水素化分解工程の間に脱芳香族化(または類似のもの)が含まれない場合、そのプロセスは、反応装置の連続した水素化分解カスケード(または単一/複合反応装置の概念)となり、毎回、流出物をフラッシングし、再び圧縮しなければならないのではなく、各区域に必要な圧力を減少させるだけで追加の利益が得られる。このことには、エネルギー上の著しい利点があるが、ガス負荷が高いために、後の工程段階にいくらかの追加の体積が加わってしまう。
【0036】
異なるユニット運転に由来する流れが、類似の供給物組成を有するユニットに再循環されることが好ましい、すなわち、LCO様材料は、ことによると、脱芳香族化または類似の工程後に、開環工程を経由して進む;生成される高芳香族ナフサのような単環芳香族流は、GHCユニットなどに進むであろう。具体的には、水蒸気分解装置の運転からのC9分画、CDおよびCBOのようなより重質の(より価値の低い)流れも、高価値化学物質の収率を最大にするために、残油水素化分解装置(ほとんどはカーボンブラックオイル、CBOのために)および開環プロセス(ほとんどはC9+分画および分解蒸留物、CDのために)に再循環されることも好ましい。
【0037】
本願の発明者等は、開環のための「標準的な」水素化分解を使用して、ナフテン種が、BTXの生産コストでパラフィンに転化され、水素消費量が増加することを発見した。水蒸気分解により(ことによると、逆異性化後に)最大のエチレンを、またはPDHによりプロピレンを製造するために、このことは望ましくなり得るが、そうでなければ、GHCユニットを通じてナフテンの豊富な流れを送る上で異なる利点がある。このようにして、ナフテン種はBTXに転化され(最大になり)、水素の添加が最小になる。
【0038】
ここに記載されたプロセスについて、例えば、LPG、ガソリンおよびディーゼル燃料の分画自体を分離する特別な必要性はない。単環芳香族化合物およびLPGは、例えば、GHCユニットに一緒に送ることができる。これにより、この流れ(の一部)を濃縮し、分離する必要がなくなり、LPGには、GHCの性能に悪影響がなく、または供給物の蒸発を助けさえする。開環プロセスとGHC反応装置との組合せにより、さらに別の利益がもたらされ、全体で中間分離工程を回避することができる(わずかに大きいGHCユニットの費用で)。この統合の最終的な形態は、連続水素化分解の概念または統合反応装置の概念である。
【0039】
さらなる最適化は、脱芳香族化、脱n−パラフィン化、脱パラフィン化などの適用;エチレンの収率を増加させるための逆異性化の適用、全体の炭素利用率を増加させるためのPDHおよびBDHを含む。特定の実施の形態において、VDUの廃止、重質/VRアップグレードの代替としてのDCUの包含、通常の精製最適化と類似のFCCおよびそれらの組合せが、残油水素化分解装置を置き換えることができる。
【0040】
ガス改質および/またはPDH/BDHのみが最も望ましい場合、ナフサおよび軽質留分(単環芳香族化合物以下)の全体をFHCユニット(または脱芳香族化の後にGHC)に送ることができる。好ましい実施の形態において、中間留分は、開環プロセスを通過し、次いで、流出物を、FHCまたはGHCユニット(おそらく実際には2つの別個のユニット)への単環芳香族供給物に加えなければならない。
【0041】
残油水素化分解装置(または完全転化水素化分解装置)、開環反応装置およびGHCプロセスの組合せである本発明に基づいて、今では、脱芳香族化/抽出のような他の分離技法により支援されることもある、それぞれの沸点範囲の単環、二環、三環および四環以上の構造物の濃度に基づく適切な添加プロセスを使用して、全粗供給物を軽質オレフィンおよびBTXのみに完全にアップグレードすることができる。
【0042】
先に述べた方法は、工程(d)の前記GHCの反応生成物を、水素、メタン、エタン、および液化石油ガスを含有する頭頂流と、芳香族炭化水素化合物、および少量の水素と非芳香族炭化水素化合物を含有する底部流とに分離する工程をさらに含む。
【0043】
別の実施の形態によれば、ガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの頭頂流を、好ましくは分離後に、すなわち、水素とメタン(これらの成分は、通常は、炉には送られないが、下流には送られる)を含まずに、水蒸気分解ユニットに供給することがさらに好ましい。
【0044】
好ましい実施の形態によれば、工程(c)における分離は、70℃から217℃の沸点範囲を有する単環芳香族化合物を含む単環芳香族化合物の豊富な流れが前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給され、217℃以上の沸点範囲を有する多環芳香族化合物を含む多環芳香族化合物の豊富な流れが前記開環反応区域に供給されるように行われる。
【0045】
上述したように、工程(c)の多環芳香族化合物の豊富な流れは、芳香族化合物抽出ユニット内で前処理され、その芳香族化合物抽出ユニットからの底部流が開環のために前記反応区域に供給され、その頭頂流が前記水蒸気分解ユニットに供給される。
【0046】
そのような芳香族化合物抽出ユニットが、蒸留ユニットのタイプ、または溶媒抽出ユニットのタイプ、またはそれらの組合せのものであることが好ましい。別の実施の形態によれば、その芳香族化合物抽出ユニットは分子篩と共に作動される。
【0047】
溶媒抽出ユニットの場合、その頭頂流は溶媒除去のために洗浄され、そのように回収された溶媒は前記溶媒抽出ユニットに戻され、そのように洗浄された頭頂流は前記水蒸気分解ユニットに供給される。
【0048】
好ましい実施の形態において、前記蒸留ユニットからの底部流は、真空蒸留ユニット(VDU)内で前処理され、その真空蒸留ユニット内で、その供給物は頭頂流と底部流とに分離され、その底部流は工程(b)の前記水素化分解区域に供給され、その頭頂流は前記芳香族化合物抽出ユニットに供給される。
【0049】
本発明の方法は、工程(a)の蒸留ユニットの頭頂流を分離区域に供給する工程をさらに含む、その分離区域において、その頭頂流は、芳香族化合物が豊富な流れと、パラフィンが豊富な流れとに分離され、ここで、パラフィンの豊富な流れが前記水蒸気分解ユニットに供給され、芳香族化合物が豊富な流れが前記ガソリン水素化分解装置(GHC)に供給されることが好ましい。
【0050】
好ましい実施の形態によれば、本発明は、前記水蒸気分解ユニットの反応生成物を、C2〜C6アルカンを含む頭頂流、C2=、C3=およびC4=を含む中間流、および芳香族炭化水素化合物、非芳香族炭化水素化合物およびC9+を含む底部流に分離する工程をさらに含み、特に、その頭頂流をその水蒸気分解ユニットに戻す工程をさらに含み、その底部流を、パイガス(pygas)と、C9+、カーボンブラックオイル(CBO)および分解蒸留物(CD)を含有する流れとに分離する工程をさらに含む。この中間流は、原則として、高価値生成物を称する。水素とメタンは主に中間流中に存在し、これらの成分は、中間流から分離することができ、本発明の方法における他の目的に使用することができる。
【0051】
このCBOおよびCDを含有する流れは、開環のために反応区域に、および/または工程(b)の水素化分解反応区域に送ることができる。
【0052】
このパイガスは、工程(d)のガソリン水素化分解(GHC)ユニットに送られることが好ましい。
【0053】
このガソリン水素化分解(GHC)ユニットの反応生成物からの底部流は、BTXが豊富な分画と、重質分画とに分離されることが好ましく、このガソリン水素化分解(GHC)ユニットからの頭頂流が脱水素化ユニットに送られることが好ましい。C3〜C4分画のみを脱水素化ユニットに送ることが好ましい。
【0054】
水素の経済性に関して上述したように、前記水蒸気分解ユニットの反応生成物から水素を回収し、そのように回収された水素を前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットおよび/または開環のための反応区域および/または前記残油水素化分解ユニットに供給することが好ましい。その上、前記脱水素化ユニットから水素を回収し、そのように回収された水素を前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットおよび/または開環のための反応区域および/または前記残油水素化分解ユニットに供給することが好ましい。
【0055】
開環のための反応区域において一般的な工程条件は、100℃から500℃の温度、および2から10MPaの圧力で、芳香族水素化触媒上に1,000kgの原料当たり50から300kgの水素と共に、並びに結果として生じた流れを、200℃から600℃の温度および1から12MPaの圧力で、環開裂触媒上に結果として生じた流れ1,000kg当たり50から200kgの水素と共に環開裂ユニットに通過させることである。
【0056】
好ましい実施の形態によれば、本発明の方法は、開環のための反応区域からの単環芳香族化合物の含有量が多い流れを工程(d)のガソリン水素化分解(GHC)ユニットに供給する工程に加えて、開環のための反応区域からの多環芳香族化合物の含有量が多い流れを水素化分解区域に戻す工程をさらに含む。
【0057】
前記ガソリン水素化分解(GHC)ユニットにおいて一般的な工程条件は、300〜580℃、好ましくは450〜580℃、より好ましくは470〜550℃の温度、0.3〜5MPaのゲージ圧、好ましくは0.6〜3MPaのゲージ圧、特に好ましくは1000〜2000kPaのゲージ圧、最も好ましくは1〜2MPaのゲージ圧、最も好ましくは1.2〜16MPaのゲージ圧、0.1〜10h-1、好ましくは0.2〜6h-1、より好ましくは0.4〜2h-1の重量空間速度(WHSV)である。
【0058】
前記水蒸気分解ユニットにおいて一般的な工程条件は、約750〜900℃の反応温度、50〜1000ミリ秒の滞留時間、および大気圧から175kPaのゲージ圧までから選択された圧力である。
【0059】
工程(b)の水素化分解区域において一般的な工程条件は、300〜580℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度、好ましくは、300〜450℃の温度、300〜5000kPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度、より好ましくは、300〜400℃の温度、600〜3000kPaのゲージ圧、および0.2〜2h-1の重量空間速度である。
【0060】
工程(a)の炭化水素原料は、原油、灯油、ディーゼル燃料、常圧軽油(AGO)、コンデンセート、蝋、粗製汚染ナフサ、真空軽油(VGO)、減圧残油、常圧残油、ナフサおよび前処理ナフサ、またはそれらの組合せの群から選択される。
【0061】
本発明はさらに、水蒸気分解ユニットのための原料としての、多段階で開環された水素化分解炭化水素原料の気体軽質分画の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】工程のスキームを示す流れ図
【発明を実施するための形態】
【0063】
ここに用いた「原油」という用語は、地層から抽出された未精製形態の石油を称する。アラビアン・ヘビー原油、アラビアン・ライト原油、他の湾岸国の原油、ブレント原油、北海原油、北および西アフリカ産原油、インドネシア産原油、中国産原油、およびそれらの混合物だけでなく、シェール油、タールサンドおよびバイオ油を含むどんな原油も、本発明の方法のための原料物質として適している。原油が、ASTM D287標準により測定して、20°APIを超えるAPI比重を有する従来の石油であることが好ましい。使用する原油が、30°APIを超えるAPI比重を有する軽質原油であることがより好ましい。その原油がアラビアン・ライト原油を含むことが最も好ましい。アラビアン・ライト原油は、典型的に、32〜36°APIの間のAPI比重および1.5〜4.5質量%の間の硫黄含有量を有する。
【0064】
ここに用いた石油化学製品("petrochemicals"および"petrochemical products")という用語は、燃料として使用されない、原油に由来する化学製品に関する。石油化学製品は、化学製品および高分子を製造するための基礎原料として使用されるオレフィン類および芳香族化合物を含む。高価値の石油化学製品としては、オレフィン類および芳香族化合物が挙げられる。典型的な高価値のオレフィンとしては、以下に限られないが、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ブチレン−1、イソブチレン、イソプレン、シクロペンタジエンおよびスチレンが挙げられる。典型的な高価値の芳香族化合物としては、以下に限られないが、ベンゼン、トルエン、キシレンおよびエチルベンゼンが挙げられる。
【0065】
ここに用いた「燃料」という用語は、エネルギー担体として使用される原油に由来する生成物に関する。明確な化合物の一群である石油化学製品とは異なり、燃料は、典型的に、様々な炭化水素化合物の複合混合物である。石油精製所で通常製造される燃料としては、以下に限られないが、ガソリン、ジェット燃料、ディーゼル燃料、重油燃料、および石油コークスが挙げられる。
【0066】
ここに用いた「原油蒸留ユニットにより生じた気体」または「気体分画」という用語は、周囲温度で気体である原油蒸留プロセスにおいて得られる分画を称する。したがって、原油蒸留に由来する「気体分画」は、主にC1〜C4炭化水素を含み、硫化水素および二酸化炭素などの不純物をさらに含むことがある。本明細書において、原油蒸留により得られる他の石油分画は、「ナフサ」、「灯油」、「軽油」および「残油」と称される。ナフサ、灯油、軽油および残油という用語は、ここでは、石油精製プロセスの分野において一般的な通義を有するものとして使用される;Alfke et al. (2007) Oil Refinin, Ullmann’s Encyclopedia of Industrial Chemistry and Speight (2005) Petroleum Refinery Processes, Krik-Othmer Encyclopedia of Chemical Technologyを参照のこと。この点に関して、原油に含まれる炭化水素化合物の複合混合物および原油蒸留プロセスに対する技術的な限界のために異なる原油蒸留分画の間には重複があるであろうことを留意のこと。ここに用いた「ナフサ」という用語は、好ましくは、約20〜200℃、より好ましくは30〜190℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。軽質ナフサは、好ましくは、約20〜100℃、より好ましくは約30〜90℃の沸点範囲を有する分画である。重質ナフサは、好ましくは、約80〜200℃、より好ましくは約90〜190℃の沸点範囲を有する。ここに用いた「灯油」という用語は、好ましくは、約180〜270℃、より好ましくは約190〜260℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。ここに用いた「軽油」という用語は、好ましくは、約250〜360℃、より好ましくは約260〜350℃の沸点範囲を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。ここに用いた「残油」という用語は、好ましくは、約340℃超、より好ましくは約350℃超の沸点を有する、原油蒸留により得られる石油分画に関する。
【0067】
ここに用いたように、「精製ユニット」という用語は、原油の石油化学製品および燃料への転化のための石油化学プラントコンビナートの一部に関する。この点に関して、水蒸気分解装置などの、オレフィン合成のためのユニットも、「精製ユニット」を表すものと考えられることに留意のこと。本明細書において、精製ユニットにより生成されるまたは精製ユニット運転において生成される様々な炭化水素流は:精製ユニット由来気体、精製ユニット由来軽質蒸留物、精製ユニット由来中間蒸留物、および精製ユニット由来重質蒸留物と称される。「精製ユニット由来気体」という用語は、周囲温度で気体である、精製ユニットにおいて生成される生成物の分画に関する。したがって、精製ユニット由来気体流は、LPGおよびメタンなどの気体化合物を含むことがある。精製ユニット由来気体流に含まれる他の成分は、水素および硫化水素であることがある。軽質蒸留物、中間蒸留物および重質蒸留物という用語は、ここでは、石油精製プロセスの分野における一般的な通義を有するものとして使用される;Speight, J.G. (2005) loc. Cit.参照のこと。この点に関して、精製ユニットの運転により生成される生成物流中に含まれる炭化水素化合物の複合混合物および様々な蒸留分画を分離するために使用される蒸留プロセスに対する技術的な限界のために、それらの異なる分画の間には重複があるであろうことに留意のこと。精製ユニット由来軽質蒸留物は、好ましくは、約20〜200℃、より好ましくは約30〜190℃の沸点範囲を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「軽質蒸留物」は、しばしば、芳香環を1つ有する芳香族炭化水素が比較的豊富である。精製ユニット由来中間蒸留物は、好ましくは、約180〜360℃、より好ましくは約190〜350℃の沸点範囲を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「中間蒸留物」は、芳香環を2つ有する芳香族炭化水素が比較的豊富である。精製ユニット由来重質蒸留物は、好ましくは、約340℃超、より好ましくは約350℃超の沸点を有する、精製ユニットプロセスにおいて得られる炭化水素蒸留物である。「重質蒸留物」は、縮合芳香環を有する炭化水素が比較的豊富である。
【0068】
「芳香族炭化水素」または「芳香族化合物」という用語は、当該技術分野で非常によく知られている。したがって、「芳香族炭化水素」という用語は、仮想的局在構造(ケクレ構造)の安定性より著しく大きい安定性(非局在化のために)を有する環状共役炭化水素に関する。所定の炭化水素の芳香族性を決定するための最も一般的な方法は、1H NMRスペクトルにおけるジアトロピシティー(diatropicity)、例えば、ベンゼン環のプロトンについて7.2から7.3ppmの範囲にある化学シフトの存在の観察である。
【0069】
「ナフテン炭化水素」または「ナフテン」もしくは「シクロアルカン」という用語は、ここでは、既定の意味を有するものとして使用され、したがって、その分子の化学構造中に炭素原子の環を1つ以上有するタイプのアルカンに関する。
【0070】
「オレフィン」という用語は、ここでは、既定の意味を有するものとして使用される。したがって、オレフィンは、少なくとも1つの炭素−炭素二重結合を有する不飽和炭化水素化合物に関する。「オレフィン」という用語が、エチレン、プロピレン、ブタジエン、ブチレン−1、イソブチレン、イソプレンおよびシクロペンタジエンの2つ以上を含む混合物に関することが好ましい。
【0071】
ここに用いた「LPG」という用語は、「液化石油ガス」という用語の既定の頭字語を指す。LGPは、概して、C2〜C4炭化水素のブレンド、すなわち、C2、C3、およびC4炭化水素の混合物からなる。
【0072】
ここに用いた「BTX」という用語は、ベンゼン、トルエンおよびキシレンの混合物に関する。
【0073】
ここに用いたように、「#」が正の整数である、「C#炭化水素」という用語は、#個の炭素原子を有する全ての炭化水素を記述することを意味する。さらに、「C#+炭化水素」という用語は、#以上の炭素原子を有する全ての炭化水素分子を記述することを意味する。したがって、「C5+炭化水素」という用語は、5以上の炭素原子を有する炭化水素の混合物を記述することを意味する。したがって、「C5+アルカン」という用語は、5以上の炭素原子を有するアルカンに関する。
【0074】
ここに用いたように、「原油蒸留ユニット(crude distillation unitまたはcrude oil distillation unit)」という用語は、原油を分別蒸留により分画に分離するために使用される分留塔に関する;Alfke et al. (2007) loc.cit.を参照のこと。原油が、沸点のより高い成分(常圧残油または「残油(resid)」から軽油およびより軽質な分画を分離するために常圧蒸留ユニットにおいて処理されることが好ましい。残油のさらなる分別のために残油を真空蒸留ユニットに通過させる必要はなく、残油を単一分画として処理することが可能である。しかしながら、比較的重質の原油供給物の場合、残油を真空軽油分画および減圧残油分画にさらに分離するために、真空蒸留ユニットを使用して、残油をさらに分別することが都合良いであろう。真空蒸留が使用される場合、真空軽油分画および減圧残油分画は、続く精製ユニットにおいて別々に処理されてもよい。例えば、具体的に言うと、減圧残油分画は、さらに処理される前に、溶媒脱歴に施されてもよい。
【0075】
ここに用いたように、「水素化分解ユニット」または「水素化分解装置」という用語は、水素化分解プロセス、すなわち、高い水素分圧の存在により支援される触媒分解プロセスがその中で行われる精製ユニットに関する;例えば、Alfke et al. (2007) loc.citを参照のこと。このプロセスの生成物は、飽和炭化水素および、温度、圧力、空間速度および触媒活性などの反応条件に応じて、BTXを含む芳香族炭化水素である。水素化分解に使用される工程条件は、一般に、200〜600℃の工程温度、0.2〜20MPaの高圧、0.1〜10h-1の間の空間速度を含む。
【0076】
水素化分解反応は二機能性機構により進み、この機構は酸性機能と水素化機能を必要とし、酸機能は、分解と異性化を与え、供給物中に含まれる炭化水素化合物に含まれる炭素−炭素結合の破壊および/または再配置をもたらす。水素化分解プロセスに使用される多くの触媒は、様々な遷移金属、または金属硫化物をアルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、マグネシアおよびゼオライトなどの固体担体と混合することによって形成される。
【0077】
ここに用いたように、「ガソリン水素化分解ユニット」または「GHC」という用語は、以下に限られないが、改質ガソリン、FCCガソリンおよび分解ガソリン(パイガス)を含む精製ユニット由来軽質蒸留物などの芳香族炭化水素化合物が比較的豊富な複合炭化水素供給物をLPGおよびBTXに転化させるのに適した水素化分解プロセスであって、GHC原料中に含まれる芳香族化合物の1つの芳香環を完全なままに維持するが、その芳香環から側鎖のほとんどを除去するように最適化されたプロセスを実施するための精製ユニットを称する。したがって、ガソリン水素化分解により生じる主要な生成物はBTXであり、そのプロセスは、化学用BTXを提供するために最適化することができる。ガソリン水素化分解が行われる炭化水素供給物が精製ユニット由来軽質蒸留物を含むことが好ましい。ガソリン水素化分解が行われる炭化水素供給物が、複数の芳香環を有する炭化水素を1質量%以下しか含まないことがより好ましい。ガソリン水素化分解条件が、好ましくは、300〜580℃、より好ましくは450〜580℃、さらにより好ましくは470〜550℃の温度を含む。芳香環の水素化が有力になるので、それより低い温度は避けなければならない。しかしながら、触媒が、スズ、鉛またはビスマスなどの、触媒の水素化活性を低減させるさらに別の元素を含む場合、ガソリン水素化分解のためにより低い温度を選択してもよい;例えば、国際公開第02/44306A1号および同第2007/055488号を参照のこと。反応温度が高すぎる場合、LPG(特に、プロパンおよびブタン)の収率が低下し、メタンの収率が上昇してしまう。触媒活性は、触媒の寿命に亘り低下するであろうから、水素化分解の転化率を維持するために、触媒の寿命に亘り反応装置の温度を徐々に上昇させることが都合良い。このことは、作動サイクルの開始時の最適温度が、水素化分解温度範囲の下端であることを意味する。その最適反応装置温度は、好ましくは、サイクルの終わり(触媒が交換されるまたは再生される直前)に、その温度が水素化分解温度範囲の上端であるように選択されるように、触媒が失活するにつれて、上昇する。
【0078】
炭化水素供給流のガソリン水素化分解は、好ましくは、0.3〜5MPaのゲージ圧、より好ましくは0.6〜3MPaのゲージ圧、特に好ましくは1〜2MPaのゲージ圧、最も好ましくは1.2〜1.6MPaのゲージ圧で行われる。反応装置の圧力を上昇させることにより、C5+非芳香族化合物の転化率を増加させることができるが、これにより、メタンの収率および芳香環のシクロヘキサン種(LPG種に分解することができる)への水素化も増加する。これにより、圧力が上昇するにつれて芳香族類の収率が減少し、いくつかのシクロヘキサンおよびその異性体のメチルシクロペンタンは、完全には水素化分解されないので、1.2〜1.6MPaの圧力で結果として生じたベンゼンの純度が最適である。
【0079】
炭化水素供給流のガソリン水素化分解は、好ましくは、0.1〜10h-1の重量空間速度(WHSV)、より好ましくは0.2〜6h-1の重量空間速度、最も好ましくは0.4〜2h-1の重量空間速度で行われる。空間速度が速すぎると、BTX共沸パラフィン成分の全てが水素化分解されるわけでなく、それゆえ、反応装置生成物の単純な蒸留によって、BTX仕様を達成することはできなくなる。低すぎる空間速度では、プロパンとブタンを犠牲にして、メタンの収率が上昇してしまう。意外なことに、最適な重量空間速度を選択することによって、ベンゼン共沸物の十分に完全な反応が達成されて、液体を再循環する必要なく、仕様を満たすBTXが生じることが分かった。
【0080】
したがって、好ましいガソリン水素化分解条件は、450〜580℃の温度、0.3〜5MPaのゲージ圧、および0.1〜10h-1の重量空間速度を含む。より好ましいガソリン水素化分解条件は、470〜550℃の温度、0.6〜3MPaのゲージ圧、および0.2〜6h-1の重量空間速度を含む。特に好ましいガソリン水素化分解条件は、470〜550℃の温度、1〜2MPaのゲージ圧、および0.4〜2h-1の重量空間速度を含む。
【0081】
「芳香環開環ユニット」は、芳香環開環プロセスがその中で行われる精製ユニットを称する。芳香族の開環は、LPGと、工程条件に応じて、軽質蒸留物(ARO由来ガソリン)とを生成するために、灯油と軽油の沸点範囲内の沸点を有する芳香族炭化水素が比較的豊富な供給物を転化するのに特に適した特定の水素化分解プロセスである。そのような芳香環開環プロセス(AROプロセス)は、例えば、米国特許第3256176号および同第4789457号の各明細書に記載されている。そのようなプロセスは、ただ1つの固定床触媒反応装置、または未転化材料から所望の生成物を分離するための1つ以上の分別ユニットと一緒に直列になった2つのそのような反応装置のいずれからなってもよく、また反応装置の一方または両方に未転化材料を再循環させる能力も含んでよい。反応装置は、200〜600℃、好ましくは300〜400℃の温度、5〜20質量%の水素(炭化水素原料に対して)と共に、3〜35MPa、好ましくは5〜20MPaの圧力で運転されることがあり、その水素は、水素化−脱水素化および環開裂の両方に活性である二元機能触媒の存在下で、炭化水素原料と並流で流れても、または炭化水素原料の流動方向と向流に流れてもよく、その芳香環飽和および環開裂が行われることがある。そのようなプロセスに使用される触媒は、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカおよびゼオライトなどの酸性固体上に担持された金属形態または金属硫化物形態の、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Cu、Co、Ni、Pt、Fe、Zn、Ga、In、Mo、WおよびVからなる群より選択される元素を1つ以上含む。この点に関して、ここに用いた「上に担持された」という用語は、1つ以上の元素を触媒担体と併せ持つ触媒を提供するためのどの従来の様式も含む。さらなる芳香環開環プロセス(AROプロセス)が、米国特許第7513988号明細書に記載されている。したがって、そのAROプロセスは、芳香族水素化触媒の存在下での、100〜500℃、好ましくは200〜500℃、より好ましくは300〜500℃の温度、5〜30質量%、好ましくは10〜30質量%の水素(炭化水素原料に対して)と共に2〜10MPaの圧力での芳香環飽和、および環開裂触媒の存在下での、200〜600℃、好ましくは300〜400℃の温度、5〜20質量%の水素(炭化水素原料に対して)と共に1〜12MPaの圧力での環開裂を含むことがあり、その芳香環飽和および環開裂は、1つの反応装置または2つの連続した反応装置において行われてもよい。芳香族水素化触媒は、耐火性担体、典型的にアルミナ上のNi、WおよびMoの混合物を含む触媒などの従来の水素化/水素化処理触媒であってよい。環開裂触媒は、遷移金属または金属硫化物成分および担体を含む。その触媒が、アルミナ、シリカ、アルミナ−シリカおよびゼオライトなどの酸性固体上に担持された金属形態または金属硫化物形態の、Pd、Rh、Ru、Ir、Os、Cu、Co、Ni、Pt、Fe、Zn、Ga、In、Mo、WおよびVからなる群より選択される元素を1つ以上含むことが好ましい。触媒組成、作動温度、作動空間速度および/または水素分圧のいずれか1つまたは組合せを適用することによって、そのプロセスを、完全な飽和とそれに続く全環の開裂の方向に、または1つの芳香環を不飽和に維持し、その後、その1つを除いて全ての環の開裂の方向に導くことができる。後者の場合、そのAROプロセスにより、1つの芳香環を有する炭化水素化合物が比較的豊富な軽質蒸留物(「AROガソリン」)が生成される。
【0082】
ここに用いたように、「残油アップグレード(upgrading)ユニット」という用語は、残油をアップグレードするプロセスであって、残油中に含まれる炭化水素および/または精製ユニット由来重質蒸留物を沸点のより低い炭化水素に分解するプロセスに適した精製ユニットを称する;Alfke et al. (2007) loc.cit.参照のこと。工業的に利用できる技術としては、重質油熱分解装置、Fluid Coker(商標)、残油FCC、Flexicoker、ビスブレーカ、または接触ハイドロビスブレーカが挙げられる。残油アップグレードユニットがコーキングユニットまたは残油水素化分解装置であることが好ましいであろう。「コーキングユニット」は、残油を、LPG、軽質蒸留物、中間蒸留物、重質蒸留物および石油コークスに転化させる石油精製処理ユニットである。このプロセスは、残留オイル供給物中の長鎖炭化水素を鎖長がより短い分子に熱分解する。
【0083】
「残油水素化分解装置」は、残油水素化分解のプロセスであって、残油を、LPG、軽質蒸留物、中間蒸留物および重質蒸留物に転化するプロセスに適した石油精製処理ユニットである。残油水素化分解プロセスは当該技術分野で周知である;Alfke et al. (2007) loc.cit.参照のこと。したがって、固定床(トリクルベッド)反応装置型、沸騰床反応装置型およびスラリー(同伴流)反応装置型である、3つの基本的な反応装置タイプが工業的水素化分解に用いられる。固定床型残油水素化分解プロセスは、確立されており、常圧残油および減圧残油などの汚染流を処理して、軽質蒸留物および中間蒸留物を生成することができ、これらをさらに処理して、オレフィン類および芳香族化合物を生成することができる。固定床型残油水素化分解プロセスに使用される触媒は、通常、耐火性担体、典型的にアルミナ上のCo、MoおよびNiからなる群より選択される元素を1つ以上含む。高度に汚染された供給物の場合、固定床型残油水素化分解プロセスにおける触媒は、ある程度まで補充されてもよい(移動床)。その工程条件は、一般に、350〜450℃の温度および2〜20MPaのゲージ圧を含む。沸騰床型残油水素化分解プロセスも確立されており、特に、触媒が連続的に交換されて、高度に汚染された供給物の処理を可能にするという点で特徴付けられる。沸騰床型残油水素化分解プロセスに使用される触媒は、通常、耐火性担体、典型的にアルミナ上のCo、MoおよびNiからなる群より選択される元素を1つ以上含む。使用される触媒の小さい粒径により、その活性が効果的に増加する(固定床用途に適した形態にある類似の配合物を参照のこと)。これらの2つの要因により、沸騰床型水素化分解プロセスは、固定床型水素化分解ユニットと比べた場合、軽質生成物の著しく高い収率および高い水素添加レベルを達成する。その工程条件は、一般に、350〜450℃の温度および5〜25MPaのゲージ圧を含む。スラリー型残油水素化分解プロセスは、高度に汚染された残油供給物からの高収率の蒸留可能な生成物を達成するための熱分解および接触水素化の組合せを表す。第1の液体段階において、熱分解反応および水素化分解反応は、400〜500℃の温度および15〜25MPaのゲージ圧を含む工程条件で、流動床内で同時に生じる。残油、水素および触媒は、反応装置の底部で導入され、流動床が形成される。その高さは、流量および所望の転化率に依存する。これらのプロセスにおいて、触媒は連続的に交換されて、作動サイクルを通じて一貫した転化レベルを達成する。触媒は、反応装置内においてその場で生成される担持されていない金属硫化物であってもよい。実際には、沸騰床型反応装置およびスラリー相型反応装置に関連する追加の費用は、真空軽油などの高度に汚染された重質流の高い転化率が必要とされる場合しか、正当化されない。これらの状況において、非常に大きい分子の限られた転化率および触媒の失活に関連する難点のために、固定床プロセスが相対的になる。したがって、沸騰床およびスラリーの反応装置のタイプが、固定床型水素化分解と比べた場合、軽質蒸留物および中間蒸留物の改善された収率のために好ましい。ここに用いたように、「残油アップグレード液体流出物」という用語は、メタンおよびLPGなどの気体生成物および残油アップグレードにより生成される重質蒸留物を除く、残油アップグレードにより生成される生成物に関する。残油アップグレードにより生成される重質蒸留物が、消滅するまで、残油アップグレードユニットに再循環されることが好ましい。しかしながら、比較的少量のピッチ流をパージすることが必要であるかもしれない。炭素利用率の観点から、残油水素化分解装置がコーキングユニットよりも好ましい。何故ならば、後者は、高価値の石油化学製品にアップグレードすることができない相当な量の石油コークスを生成するからである。統合プロセスの水素バランスの観点から、残油水素化分解装置よりもコーキングユニットを選択することが好ましいことがある。何故ならば、後者は、相当な量の水素を消費するからである。また、資本支出および/または操業コストに鑑みて、残油水素化分解装置よりもコーキングユニットを選択することが都合良いこともある。
【0084】
ここに用いたように、「脱芳香族化ユニット」という用語は、混合炭化水素供給物からのBTXなどの芳香族炭化水素の分離のために精製ユニットに関する。そのような脱芳香族化プロセスは、Folkins (2000) Benzene, Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistryに記載されている。したがって、プロセスは、混合炭化水素流を、芳香族化合物が豊富な第1の流れと、パラフィンおよびナフテンが豊富な第2の流れとに分離するために存在する。芳香族炭化水素および脂肪族炭化水素の混合物から芳香族炭化水素を分離する好ましい方法は溶媒抽出である;例えば、国際公開第2012/135111A2号を参照のこと。芳香族溶媒抽出に使用される好ましい溶媒は、工業的芳香族化合物抽出プロセスに一般に使用される溶媒であるスルホラン、テトラエチレングリコールおよびN−メチルピロリドンである。これらの種は、しばしば、水および/またはアルコールなどの他の溶媒または他の化学物質(共溶媒と呼ばれることもある)と組み合わせて使用される。スルホランなどの窒素不含有溶媒が特に好ましい。そのような溶媒抽出に使用される溶媒の沸点は、抽出すべき芳香族化合物の沸点よりも低い必要があるので、250℃、好ましくは200℃を超える沸点範囲を有する炭化水素混合物の脱芳香族化には、工業的に適用されている脱芳香族化プロセスはそれほど好ましくない。重質芳香族化合物の溶媒抽出が当該技術分野に記載されている;例えば、米国特許第5880325号明細書を参照のこと。あるいは、分子篩分離または沸点に基づく分離などの、溶媒抽出以外の他の公知の方法を、脱芳香族化プロセスにおける重質芳香族化合物の分離に適用することができる。
【0085】
混合炭化水素流を、主にパラフィンを含む流れおよび主に芳香族化合物とナフテンを含む第2の流れに分離するプロセスは、3つの主要な炭化水素処理塔:溶媒抽出塔、ストリッピング塔および抽出塔を備えた溶媒抽出ユニット内でその混合炭化水素流を処理する工程を有してなる。芳香族化合物の抽出に選択的な従来の溶媒は、軽質ナフテン種およびより少ない程度で、パラフィン種を溶解させるのにも選択的であり、それゆえ、溶媒抽出塔の基部を出る流れは、溶解した芳香族種、ナフテン種および軽質パラフィン種と共に溶媒を含む。溶媒抽出塔の頂部から出る流れ(ラフィネート流としばしば称される)は、選択された溶媒に対して比較的不溶性のパラフィン種を含む。溶媒抽出塔の基部を出る流れは、次いで、蒸留塔において、蒸発ストリッピングに施される。ここでは、各種は、溶媒の存在下での相対的な揮発度に基づいて分離される。溶媒の存在下では、軽質パラフィン種は、同じ炭素原子数のナフテン種および特に芳香族種よりも高い相対的な揮発度を有し、それゆえ、軽質パラフィン種の大半は、蒸発ストリッピング塔からの塔頂流に濃縮されるであろう。この流れは、溶媒抽出塔からのラフィネート流と組み合わされても、または別個の軽質炭化水素流として収集されてもよい。ナフテン種および特に芳香族種の大半は、それらの比較的低い揮発度のために、この塔の基部から出る溶媒と溶解炭化水素の混合流中に維持される。抽出ユニットの最終的な炭化水素処理塔において、溶媒は、蒸留によって、溶解炭化水素種から分離される。この工程において、比較的沸点の高い溶媒は、その塔から基部流として回収され、一方で、主に芳香族種およびナフテン種を含む溶解炭化水素は、この塔の頂部から出る蒸気流として回収される。この後者の流れは、しばしば、抽出物と称される。
【0086】
ここに用いたように、「逆異性化ユニット」という用語は、ナフサおよび/または精製ユニット由来軽質蒸留物中に含まれるイソパラフィンを直鎖パラフィンに転化させるために作動される精製ユニットに関する。そのような逆異性化プロセスは、ガソリン燃料のオクタン価を増加させるための従来の異性化プロセスに密接に関連しており、特に、欧州特許出願公開第2243814A1号明細書に記載されている。逆異性化ユニットへの供給流は、例えば、脱芳香族化により芳香族化合物およびナフテンを除去することよって、および/または開環プロセスを使用して、芳香族化合物およびナフテンをパラフィンに転化させることによって、パラフィン、好ましくはイソパラフィンが比較的豊富であることが好ましい。逆異性化ユニットにおいて高パラフィン系ナフサを処理する効果は、イソパラフィンの直鎖パラフィンへの転化により、水蒸気分解プロセスにおけるエチレンの収率が増加する一方で、メタン、C4炭化水素および分解ガソリンの収率が減少することである。逆異性化の工程条件は、50〜350℃、好ましくは150〜250℃の温度、0.1〜10MPa、好ましくは0.5〜4MPaのゲージ圧、および触媒の体積当たり毎時の逆異性化可能な炭化水素供給物の0.2〜15体積、好ましくは0.5〜5h-1の液空間速度を含むことが好ましい。パラフィンが豊富な炭化水素流の異性化に適していると当該技術分野で公知のどの触媒を逆異性化触媒として使用してもよい。逆異性化触媒が、ゼオライトおよび/またはアルミナなどの耐火性担体上に担持された10族元素を含むことが好ましい。
【0087】
本発明の方法は、接触改質または流動接触分解などの、下流の精製プロセスにおける触媒の失活を防ぐために、特定の原油分画から硫黄を除去する必要があることがある。そのような水素化脱硫プロセスは、「HDSユニット」または「水素化処理機(hydrotreater)」内で行われる;Alfke (2007) loc. citを参照のこと。一般に、水素化脱硫反応は、促進剤の有無にかかわらず、アルミナ上に担持された、Ni、Mo、Co、WおよびPtからなる群より選択される元素を含む触媒の存在下で、200〜425℃、好ましくは300〜400℃の高温およびゲージ圧で1〜20MPa、好ましくは1〜13MPaの高圧で、固定床反応装置内で行われ、ここで、触媒は硫化物形態にある。
【0088】
さらなる実施の形態において、前記方法は、水素化脱アルキル化工程をさらに含み、ここで、BTX(または生成されたBTXのトルエンおよびキシレン分画のみ)が、ベンゼンおよび燃料ガスを含む水素化脱アルキル化生成物流を生成するのに適した条件下で、水素と接触させられる。
【0089】
BTXからベンゼンを生成する工程段階は、水素化分解生成物流中に含まれるベンゼンを、水素化アルキル化の前にトルエンおよびキシレンから分離する工程を含むこともある。この分離工程の利点は、水素化脱アルキル化反応装置の能力が高まることである。ベンゼンは、従来の蒸留によってBTX流から分離することができる。
【0090】
C6〜C9芳香族炭化水素を含む炭化水素混合物の水素化脱アルキル化のプロセスは、当該技術分野で周知であり、熱水素化脱アルキル化および接触水素化脱アルキル化を含む;例えば、国際公開第2010/102712A2号を参照のこと。接触水素化脱アルキル化プロセスは一般に、熱水素化脱アルキル化よりもベンゼンに対する選択性が高いので、この接触水素化脱アルキル化が好ましい。接触水素化脱アルキル化が使用されることが好ましく、ここでは、水素化脱アルキル化触媒は、担持酸化クロム触媒、担持酸化モリブデン触媒、シリカまたはアルミナ上白金およびシリカまたはアルミナ上酸化白金からなる群より選択される。
【0091】
「水素化脱アルキル化条件」としてもここに記載される、水素化脱アルキル化に有用な工程条件は、当業者により容易に決定することができる。熱水素化脱アルキル化に使用される工程条件は、例えば、独国特許出願公開第1668719A1号明細書に記載されており、600〜800℃の温度、3〜10MPaのゲージ圧および15〜45秒間の反応時間を含む。好ましい接触水素化脱アルキル化に使用される工程条件は、国際公開第2010/102712A2号に記載されており、500〜650℃の温度、3.5〜8MPa、好ましくは3.5〜7MPaのゲージ圧、および0.5〜2h-1の重量空間速度を含むことが好ましい。水素化脱アルキル化生成物流は、典型的に、冷却と蒸留の組合せによって、液体流(ベンゼンおよび他の芳香族化合物種を含有する)および気体流(水素、H2S、メタンおよび他の低沸点炭化水素を含有する)に分離される。この液体流は、蒸留により、ベンゼン流、C7からC9芳香族化合物流および必要に応じて、芳香族化合物が比較的多い中間蒸留物流にさらに分離してもよい。このC7からC9芳香族化合物流は、全体の転化率およびベンゼンの収率を増加させるために、再循環流として反応装置区域に戻すように供給してもよい。ビフェニルなどの多環芳香族種を含有する芳香族化合物流は、反応装置に再循環されないことが好ましいが、別の生成物流として輸送され、中間蒸留物(「水素化脱アルキル化により生成される中間蒸留物」)として統合プロセスに再循環してもよい。多量の水素を含有する前記気体流は、再循環ガス圧縮機により水素化脱アルキル化ユニットに戻すように再循環されても、または供給物として水素を使用する任意の他の精製所に送られてもよい。反応装置供給物中のメタンおよびH2Sの濃度を制御するために再循環パージガスを使用してもよい。
【0092】
ここに用いたように、「気体分離ユニット」という用語は、原油蒸留ユニットにより生成される気体および/または精製ユニット由来の気体中に含まれる様々な化合物を分離する精製ユニットに関する。気体分離ユニットにおいて別個の流れに分離されるであろう化合物は、エタン、プロパン、ブタン、水素および主にメタンを含む燃料ガスを含む。その気体の分離に適したどの従来の方法を使用してもよい。したがって、その気体は、多数の圧縮段階に施されることがあり、ここで、CO2およびH2Sなどの酸性気体が圧縮段階の間で除去されるであろう。それに続く工程において、生成された気体は、カスケード冷凍システムの各段階に亘り、気相中にほぼ水素しか残っていない状態まで部分的に凝縮されるであろう。その後、様々な炭化水素化合物が蒸留により分離されるであろう。
【0093】
アルカンのオレフィンへの転化のためのプロセスは、「水蒸気分解」または「熱分解」を含む。ここに用いたように、「水蒸気分解」という用語は、飽和炭化水素が、エチレンおよびプロピレンなどのより小さい、しばしば不飽和の炭化水素に分解される石油化学プロセスに関する。水蒸気分解において、エタン、プロパンおよびブタンなどのガス状炭化水素供給物、またはそれらの混合物(気体熱分解)、もしくはナフサまたは軽油などの液体炭化水素供給物(液体熱分解)は、水蒸気で希釈され、酸素の不在下で炉内において手短に加熱される。典型的に、反応温度は750〜900℃であるが、その反応は、非常に手短に、通常は50〜1000ミリ秒の滞留時間でしか行われない。好ましくは、比較的低い工程圧力は、大気圧から175kPaのゲージ圧であるように選択されるべきである。最適条件での分解を確実にするために、炭化水素化合物であるエタン、プロパンおよびブタンがそれぞれの専用の炉内で別々に分解されることが好ましい。分解温度に達した後、気体が急冷されて、移送ラインの熱交換器内で、または冷却油を使用した急冷ヘッダの内部で反応を停止させる。水蒸気分解により、反応装置の壁上に、炭素の一形態であるコークスがゆっくりと堆積する。デコーキングには、炉をプロセスから隔離する必要があり、次いで、水蒸気流または水蒸気/空気混合物を炉のコイルに通過させる。これにより、硬い固体の炭素層が一酸化炭素と二酸化炭素に転化される。この反応が一旦完了したら、炉をラインに戻す。水蒸気分解により生成される生成物は、供給物の組成、炭化水素対水蒸気の比率および分解温度と炉内の滞留時間に依存する。エタン、プロパン、ブタンまたは軽質ナフサなどの軽質炭化水素供給物により、エチレン、プロピレン、およびブタジエンを含む、より軽質の高分子等級のオレフィンが多い生成物流が生じる。より重質の炭化水素(全範囲および重質ナフサおよび軽油分画)も、芳香族炭化水素の多い生成物を生じる。
【0094】
水蒸気分解により生じた様々な炭化水素化合物を分離するために、その分解ガスは分別ユニットに施される。そのような分別ユニットは、当該技術分野で周知であり、重質蒸留物(「カーボンブラックオイル」)および中間蒸留物(「分解蒸留物」)が軽質蒸留物および気体から分離される、いわゆるガソリン分留装置を含むことがある。それに続く随意的な急冷塔において、水蒸気分解により生成される軽質蒸留物(「分解ガソリン」または「パイガス」)のほとんどは、軽質蒸留物を凝縮することによって、気体から分離されるであろう。それに続いて、気体に多数の圧縮段階が施されてもよく、ここで、軽質蒸留物の残りが、圧縮段階の間で気体から分離される。酸性気体(CO2およびH2S)も圧縮段階の間で除去されるであろう。続く工程において、熱分解により生成された気体は、カスケード冷凍システムの各段階で、気相中にほぼ水素しか残っていない状態に部分的に凝縮されるであろう。様々な炭化水素化合物は、続いて、単純な蒸留により分離してよく、ここで、エチレン、プロピレンおよびC4オレフィンが、水蒸気分解により生成される最も重要な高価値の化学物質である。水蒸気分解により生成されるメタンは、一般に、燃料ガスとして使用され、水素は、分離され、水素化分解プロセスなどの、水素を消費するプロセスに再循環されてもよい。水蒸気分解により生成されるアセチレンは、エチレンに選択的に水素化されることが好ましい。分解ガス中に含まれるアルカンを、オレフィン合成のためのプロセスに再循環してもよい。
【0095】
ここに用いた「プロパン脱水素化ユニット」という用語は、プロパン供給流が、プロピレンおよび水素を含む生成物に転化される石油化学プロセスユニットに関する。したがって、「ブタン脱水素化ユニット」という用語は、ブタン供給流をC4オレフィンに転化するためのプロセスユニットに関する。プロパンおよびブタンなどの低級アルカンの脱水素化のためのプロセスは共に、低級アルカン脱水素化プロセスと記載される。低級アルカンの脱水素化のためのプロセスは、当該技術分野に周知であり、酸化的脱水素化プロセスおよび非酸化的脱水素化プロセスを含む。酸化的脱水素化プロセスにおいて、プロセス加熱は、供給物中の低級アルカンの部分酸化により与えられる。本発明の文脈において好ましい、非酸化的脱水素化プロセスにおいて、吸熱脱水素化反応のためのプロセス加熱は、燃料ガスの燃焼により得られる高温燃焼排ガスまたは水蒸気などの外部熱源により与えられる。非酸化的脱水素化プロセスにおいて、その工程条件は、一般に、540〜700℃の温度および25〜500kPaの絶対圧を含む。例えば、このUOP Oleflexプロセスは、移動床反応装置内においてアルミナ上に担持された白金含有触媒の存在下で、プロパンの脱水素化によりプロピレンを、(イソ)ブタンの脱水素化により(イソ)ブチレン(またはその混合物)を形成することを可能にする;例えば、米国特許第4827072号明細書を参照のこと。このUhde STARプロセスは、亜鉛−アルミナスピネル上に担持された促進白金触媒の存在下で、プロパンの脱水素化によりプロピレンを、またはブタンの脱水素化によりブチレンを形成することを可能にする;例えば、米国特許第4926005号明細書を参照のこと。このSTARプロセスは、オキシ脱水素化の原理を適用することによって、最近改良された。反応装置の補助断熱区域において、中間生成物からの水素の一部が、添加酸素により選択的に転化されて、水を形成する。これにより、熱力学的平衡がより高い転化率にシフトし、より高い収率が達成される。吸熱脱水素化反応に必要な外部熱も、発熱水素転化によりある程度供給される。Lummus Catofinプロセスは、循環基準で作動する数多くの固定床反応装置を利用する。その触媒は、18〜20質量%のクロムが含浸された活性化アルミナである;例えば、欧州特許出願公開第0192059A1号および英国特許出願公開第2162082A号の各明細書を参照のこと。このCatofinプロセスには、このプロセスがロバスト性であり、白金触媒を汚染するであろう不純物を取り扱うことができるという利点がある。ブタンの脱水素化プロセスにより生成される生成物は、ブタン供給物の性質および使用されるブタン脱水素化プロセスに依存する。Catofinプロセスは、ブタンの脱水素化により、ブチレンを形成することも可能にする;例えば、米国特許第7622623号明細書を参照のこと。
【0096】
本発明を次の実施例において論じるが、その実施例は、保護の範囲を制限するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0097】
工程スキームが唯一の図面に見つけられる。炭化水素原料38が、蒸留ユニット2において、頭頂流15、13、底部流25および側流8に分離される。底部流25は、流れ19を通じて、水素化分解反応区域9に送られ、その反応生成物18は、分離装置22において、単環芳香族化合物が豊富な流れ29と、多環芳香族化合物が豊富な流れ30とに分離される。水素化分解反応区域9または分離装置22のいずれかから来るガス流(図示せず)は、場合により流れ13を通じて、水蒸気分解ユニット12に直接送っても差し支えない。水素化分解されていないまたは不完全に水素化分解された部分流7を、水素化分解反応区域9の入口に流れ40として再循環させても差し支えない。単環芳香族化合物が豊富な流れ29はガソリン水素化分解(GHC)ユニット10に供給され、多環芳香族化合物が豊富な流れ30は、流れ43を通じて、開環反応区域11に供給される。別の実施の形態において、流れ29は分離区域3に送られる。蒸留ユニット2からの側流8は、流れ51を通じて、開環反応区域11に同様に送ることができる。別の選択肢は、蒸留ユニット2からの側流8を芳香族化合物抽出ユニット4に送ることである。
【0098】
GHCユニット10の反応生成物は、C2〜C4パラフィン、水素およびメタンを含む頭頂ガス流24と、芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む底部流17とに分離され、この底部流17は、必要であれば、BTXの多い流れにさらにアップグレードすることができる。この頭頂ガス流24は、それぞれ、C2〜C4パラフィン、水素およびメタンを含む別個の流れにさらにアップグレードすることができる。
【0099】
ガソリン水素化分解(GHC)ユニット10からの頭頂ガス流24は水蒸気分解ユニット12に送られる。この流れ24は、水素、メタンおよびC2/LPGにさらに分離することができ、この最後の分画は、別個のC2流、C3流およびC4流に、または一方でC2流に、他方で混合C3〜C4流にさらに分離される。
【0100】
多環芳香族化合物が豊富な流れ30が芳香族化合物抽出ユニット4においてさらに処理されることが好ましく、その芳香族化合物抽出ユニット4からの底部流28が開環のための反応区域11に供給され、その頭頂流36が水蒸気分解ユニット12に供給される。頭頂流36も、最初に、異性化/逆異性化ユニット6に送っても差し支えない。開環のための反応区域11内で形成された反応生成物の重質分画37はガソリン水素化分解(GHC)ユニット10に送られるのに対し、開環のための反応区域11内で形成された反応生成物の軽質分画41は水蒸気分解ユニット12に送られる。芳香族化合物抽出ユニット4の例は、蒸留ユニット、溶媒抽出ユニットまたは分子篩のタイプのものである。溶媒抽出ユニットの場合、その頭頂流は、溶媒除去のために洗浄され、そのような回収された溶媒は、前記溶媒抽出ユニットに戻され、そのように洗浄された頭頂流は前記水蒸気分解ユニット12に供給される。
【0101】
好ましい実施の形態において、蒸留ユニット2からの底部流25は、真空蒸留ユニット5内でさらに分別され、この真空蒸留ユニット5内において、その供給物は頭頂流27および底部流35に分離され、この底部流35は前記水素化分解反応区域9に供給される。別の実施の形態において、底部流25は、真空蒸留ユニット5を迂回して、水蒸気分解反応区域9に直接送ることができる。
【0102】
頭頂流27は、芳香族化合物抽出ユニット4に、または流れ44を通じて、開環のための反応区域11に送られる。図に示されるように、真空蒸留ユニット5の頭頂流27は、芳香族化合物抽出ユニット4を迂回することができ、よって、流れ27は、参照番号44を通じて、開環のための反応区域11に直接接続される。開環のための反応区域11への供給物28は、それゆえ、流れ43および44並びに芳香族化合物抽出ユニット4の出口流を含むことができ、その流れ43は、分離装置22に由来し、流れ44は真空蒸留ユニット5に由来する。このことは、芳香族化合物抽出ユニット4が本発明の好ましい実施の形態に関することを意味する。
【0103】
図から明らかなように、本発明の方法は、芳香族化合物抽出ユニット4を完全に迂回する選択肢を提供する、すなわち、流れ8を開環のための反応区域11に直接送ることができ、流れ27と流れ30の両方を、流れ28を通じて、開環のための反応区域11に同様に直接送ることができる。これにより、融通性および生成物の収率に関する非常に有益な可能性が提供される。
【0104】
蒸留ユニット2の頭頂流15を分離区域3に送ることが好ましく、この分離区域3において、頭頂流15は、芳香族化合物が豊富な流れ16およびパラフィンの豊富な流れ14に分離され、そのパラフィンの豊富な流れ14は水蒸気分解ユニット12に送られる。蒸留ユニット2の軽質分画13を水蒸気分解ユニット12に直接送ることができる。必要であれば、蒸留ユニット2から来る頭頂流15は、3つの異なる流れ、すなわち、分離ユニット3の供給物としての流れ32、水蒸気分解ユニット12の供給物としての流れ23およびガソリン水素化分解(GHC)ユニット10の供給物としての流れ50に分割できる。図面から、流れ50および流れ23の両方が分離ユニット3を迂回しているのが明らかである。流れ13は「気体分配主管」であり、流れ14は「液体分配主管」であると言える。
【0105】
分離ユニット3において、流れ32は、芳香族化合物が豊富な流れ16およびパラフィンの豊富な流れ14に分離され、この流れ16はガソリン水素化分解(GCH)ユニット10に送られ、流れ14は異性化/逆異性化ユニット6に送られる。異性化/逆異性化ユニット6の生産物39は、分離装置45に送られるか、または水蒸気分解ユニット12に直接(図示せず)送られる。好ましい実施の形態において、流れ14は、水蒸気分解ユニット12に直接送られるか、または流れ14の一部が、流れ26を通じて脱水素化ユニット60に送られる。C3〜C4分画のみを、別個の流れまたは混合C3およびC4流れのいずれかとして、脱水素化ユニット60に送ることが好ましい。
【0106】
図から明らかなように、本発明の方法は、分離ユニット3を完全に迂回する選択肢を与える、すなわち、流れ15は、適切な場合、流れ23およびユニット6を通じて、水蒸気分解ユニット12に直接送ることができ、流れ15を、流れ50を通じて、ガソリン水素化分解(GHC)ユニット10に直接送ることができる。これにより、融通性および生成物の収率に関する非常に有益な可能性が提供される。
【0107】
本発明の方法の実施の形態において、特に、分離装置45を使用する場合、気体流39および13からのC2〜C4パラフィンを、これらの流れが水蒸気分解ユニット12に送られる前に、分離することが好ましい。そのような場合、前記気体流からこのように分離されたC2〜C4パラフィンは水蒸気分解ユニット12の炉区域に送られる。そのような実施の形態において、C2〜C4パラフィンを、それぞれ、C2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れに分離し、各個々の流れを前記水蒸気分解ユニット12の特定の炉区域に供給することが好ましい。分離装置45において、水素およびメタンが分離される。例えば、水素はガソリン水素化分解(GHC)ユニット10、または水素化分解反応区域9に送られる。メタンは、例えば、水蒸気分解ユニット12の炉区域における、燃料として使用できる。
【0108】
分離装置45に関して概略示されているように、気体流39、13は、流れ31と流れ26に再分割することができ、その流れ26は脱水素化ユニット60に送られる。C3〜C4分画のみを水素化ユニット60に送ることが好ましい。流れ31は水蒸気分解ユニット12に送られる。そのような流れ31は、それぞれ、各々がC2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れに分割することができ、各個々の流れは、水蒸気分解ユニット12の特定の炉区域に供給される。
【0109】
水蒸気分解装置の分離区域(図示せず)において、この水蒸気分解ユニット12の反応生成物は、C2〜C6アルカンを主に含む頭頂流、C2−オレフィン、C3−オレフィンおよびC4−オレフィンを含む中間流21、並びにカーボンブラックオイル(CBO)、分解蒸留物(CD)およびC9+炭化水素を含む第1の底部流33と34、および芳香族炭化水素化合物および非芳香族炭化水素化合物を含む第2の底部流42に分離される。この頭頂流は水蒸気分解ユニット12に再循環されることが好ましい。底部流33は開環のための反応区域11に再循環され、底部流34は水素化分解反応区域9に再循環される。パイガス含有流とも呼ばれる第2の底部流42をガソリン水素化分解(GHC)ユニット10に供給することが好ましい。ガソリン水素化分解(GHC)ユニット10の反応生成物17は、BTXが豊富な分画と重質分画とに分離することができる。
【0110】
好ましい実施の形態において、水蒸気分解ユニット12の反応生成物から水素が回収され、ガソリン水素化分解(GHC)ユニット10および/または開環のための反応区域11に供給される。さらに、水素は、先に述べたように、脱水素化ユニット60から回収し、ガソリン水素化分解(GHC)ユニット10および/または開環のための反応区域11に供給しても差し支えない。水素化分解反応区域9は、水素消費装置と見なすことができ、それゆえ、水蒸気分解ユニット12および/または脱水素化ユニット60の反応生成物から回収された水素を、これらのユニットに同様に送ることができる。
【0111】
この工程スキームから、LPG含有流を、脱水素化ユニット60に、または水蒸気分解ユニットに送ることができるのが明白である。C3〜C4分画のみを脱水素化ユニット60に送ることが好ましい。前記C2〜C4分画は、LPG含有流から分離することができ、このように得られたC2〜C4分画は、それぞれ、C2パラフィン、C3パラフィンおよびC4パラフィンを主に含む個々の流れにさらに分離し、各個々の流れを前記水蒸気分解ユニットの特定の炉区域に供給することができる。個々の流れへのこの分離は、脱水素化ユニット60にも適用される。
【0112】
ここで、以下の非限定的実施例によって、本発明をより詳しく説明する。
【0113】
実施例1
ここに与えられた実験データは、Aspen Plusにおける工程図モデル化により得た。水蒸気分解反応速度論を厳格に考慮した(水蒸気分解生成物分量の計算のためのソフトウェア)。適用した水蒸気分解炉の条件:
エタンおよびプロパン炉:COT(コイル出口温度)=845℃、水蒸気対油比=0.37、C4炉および液体炉:コイル出口温度=820℃、水蒸気対油比=0.37。
【0114】
供給物の水素化分解について、実験データに基づく反応スキームを使用した。芳香環開環とそれに続くガソリン水素化分解について、多数の芳香族化合物の全てがBTXとLPGに転化され、全てのナフテン化合物とパラフィン化合物がLPGに転化される反応スキームを使用した。前記残油水素化分解装置は、文献からのデータに基づいてモデル化した。脱芳香族化ユニットについて、直鎖パラフィンおよびイソパラフィンがナフテン化合物および芳香族化合物から分離される分離スキームを使用した。
【0115】
表1は、アラビアン・ライト原油のいくつかの物理化学的特性を示しており、表2は、常圧蒸留後に得られた対応する常圧残油の特性を纏めている。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
実施例1において、アラビアン・ライト原油(1)が常圧蒸留ユニット(2)内で蒸留される。このユニットから得られる分画は、LPG(13)、ナフサ(15)、軽油(8)および残油(25)の分画を含む。LPGは、メタン、エタン、プロパンおよびブタンに分離され、エタン、プロパンおよびブタンは、上述したそれぞれの最適分解条件で水蒸気分解ユニット(12)に供給される。ナフサは脱芳香族化ユニット(3)に送られ、そこで、芳香族種とナフテン種が豊富な流れ(16)が、パラフィンが豊富な流れ(14)から分離される。この実施例において、芳香族種とナフテン種が豊富な流れはガソリン水素化分解ユニット(10)に送られ、パラフィンが豊富な流れ(14)は水蒸気分解ユニット(12)に送られる。ガソリン水素化分解ユニット(10)は、BTXが豊富な流れ(17)、および常圧蒸留ユニットにより生成されるLPG留分と同じ様式で処理されるLPGが豊富な流れ(24)の2つの流れを生成する。軽油も脱芳香族化ユニット(4)に送られ、そこで、芳香族種とナフテン種が豊富な流れ(28)およびパラフィンが豊富な流れ(36)が生成される。この後者の流れは水蒸気分解ユニット(12)に送られ、芳香族種とナフテン種が豊富な流れは開環プロセス(11)に送られる。この後者のユニットは、ガソリン水素化分解ユニット(10)に送られるBTXが豊富な流れ(37)、および工程図の他の部分で生成される他のLPG留分として処理されるLPGの豊富な流れ(41)を生成する。最後に、残油(25)は真空蒸留ユニット(5)に送られ、そこで、減圧残油(35)および真空軽油(27)の2つの異なる留分が生成される。後者の流れは、脱芳香族化ユニット(4)に送られ、先に定義された軽油留分としてさらに処理される。減圧残油は水素化分解反応区域(9)に送られ、そこで、その材料は消滅するまで再循環され、軽油留分が生成され、脱芳香族化ユニット(4)に送られ、上述した軽油と同じ様式で処理される。前記水蒸気分解ユニットの生成物が分離され、重質留分(C9樹脂供給物、分解蒸留物およびカーボンブラックオイル)が戻って再循環される。より詳しくは、C9樹脂供給流は、ガソリン水素化分解(10)ユニットに再循環され、分解蒸留物は芳香環開環プロセス(11)に送られ、最後に、カーボンブラックオイル流は水素化分解反応区域(9)に送られる。原油の質量%で表された生成物の収率に関する結果が、下記に与えられる表3に述べられている。原油に由来する生成物は、石油化学製品(オレフィンおよびBTXE、これはBTX+エチルベンゼンの頭字語である)および他の生成物(水素およびメタン)に分類される。原油の生成物分量から、炭素利用率は以下のように決定される:(石油化学製品中の全炭素質量)/(原油中の全炭素質量)。
【0119】
実施例2
実施例2は、以下を除いて実質例1と同一である:
ナフサ留分と軽油留分は、脱芳香族化されず、それぞれ、供給物水素化分解ユニット(10)および芳香環開環プロセス(11)に直接送られる。
【0120】
実施例3
実施例3は、以下を除いて実質例1と同一である:
工程図の異なるユニットにより生成されるパラフィンおよびLPGは、メタン、エタン、プロパン、ブタンおよび他のパラフィンの豊富な流れに分離される。エタンおよびパラフィンの豊富な流れ(31)は、各流れについて最適な分解条件下で水蒸気分解ユニット(12)内でさらに処理される。さらに、プロパンおよびブタン(26)はプロピレンおよびブテンに脱水素化される(プロパンのプロピレンへの最大選択率は90%であり、n−ブタンのn−ブタンへの最大選択率は90%であり、i−ブタンのi−ブテンへの最終選択率は90%である)。
【0121】
実施例4
実施例4は、以下を除いて実質例2と同一である:
工程図の異なるユニットにより生成されるLPGは、メタン、エタン、プロパンおよびブタンに分離される。エタン(31)はその最適分解条件下で水蒸気分解ユニット(12)内でさらに処理される。さらに、プロパンおよびブタン(26)はプロピレンおよびブテンに脱水素化される(プロパンのプロピレンへの最大選択率は90%であり、n−ブタンのn−ブタンへの最大選択率は90%であり、i−ブタンのi−ブテンへの最終選択率は90%である)。
【0122】
実施例5
実施例5は、以下を除いて実質例1と同一である:
脱芳香族化ユニット(4)から得られたパラフィンの豊富な流れは逆異性化ユニット(6)内でさらに処理され、そこで、イソパラフィンがn−パラフィンに転化される。この後者の流れは水蒸気分解ユニット(12)内でさらに処理される。
【0123】
実施例6
実施例6は、以下を除いて実質例1と同一である:
アラビアン・ライト原油の常圧蒸留後に得られた常圧残油(25)のみがこの系においてさらに処理される。この流れ(その特性が表2に見られる)は、実施例1に述べた前処理工程なくして水蒸気分解ユニット内で効果的に処理できなかった。表3は、処理全体の対応する生成物の収率を示している。この場合、生成物の収率は、原油の初期量でなく、その原油から精製された常圧残油だけに対して参照される。
【0124】
【表3】
【0125】
本願の発明者等は、実施例3と実施例1を比べた場合、CH4の生産により「炭素と水素の損失」を避けつつ、プロピレンの生産が高まることを発見した。
【0126】
実施例3および5において、エタンを処理するためにガス改質装置が使用されるが、BTXEの生産が、液体水蒸気分解装置を使用した場合とほぼ同じくらい高く維持される。この効果は、原油中に既に存在する単環芳香族分子を保存するためのFHCおよび部分開環の使用による。
【0127】
その上、本願の発明者等は、水蒸気分解装置と組み合わせた脱芳香族化の使用(実施例1対実施例2)では、エチレン生産は増加しないことを発見した。本願の発明者等は、軽油様材料が脱芳香族化されない場合、その材料は部分AROに直接進むことを期待している。そこにおいて、多くのエタンおよびプロパン(メタンも)生成され、それらは、脱芳香族化により得られたであろうパラフィン液体供給物よりも、さらに多くエチレンを生成する供給物である。脱芳香族化およびPDH/BDHの組合せにより、脱芳香族化が考えられない場合よりも、多くのエチレンが生成される。これは、メタン生産の不利益を伴う。本願の発明者等は、水蒸気分解装置に対する負荷は、脱芳香族化を使用した場合のほぼ2倍高いと推測する。その上、供給物水素化分解ユニット(FHC)を使用した場合、ベンゼン−トルエン−キシレン比は、ベンゼンの豊富な流れ(FHCを備えていない水蒸気分解装置)からトルエンの豊富な流れ(FHCを備えた)に変化する。
【0128】
その結果も、逆異性化(実施例3と比べた実施例5)により、プロピレンをほぼ一定に維持しながら、エチレン生産が増加することを示している。
【0129】
データには明確に示されていないが、この構成を使用して、水蒸気分解装置からの重質材料(C9樹脂供給物、分解蒸留物およびカーボンブラックオイル)をアップグレードすることができる。
【符号の説明】
【0130】
1 アラビアン・ライト原油
2 蒸留ユニット
3 分離区域
4 芳香族化合物抽出ユニット
5 真空蒸留ユニット
6 異性化/逆異性化ユニット
9 水素化分解反応区域
10 ガソリン水素化分解ユニット
11 開環のための反応区域
12 水蒸気分解ユニット
45 分離装置
60 水素化ユニット
図1