(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427235
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】水溶液の蒸発処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/04 20060101AFI20181112BHJP
C02F 5/00 20060101ALI20181112BHJP
B01D 9/02 20060101ALI20181112BHJP
C02F 5/02 20060101ALI20181112BHJP
C02F 5/06 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
C02F1/04 B
C02F5/00 620B
C02F5/00 620C
B01D9/02 601A
B01D9/02 602A
B01D9/02 603E
B01D9/02 606
B01D9/02 608A
B01D9/02 609A
B01D9/02 610Z
B01D9/02 611A
B01D9/02 614
C02F5/02 B
C02F5/06
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-147606(P2017-147606)
(22)【出願日】2017年7月31日
(62)【分割の表示】特願2013-142346(P2013-142346)の分割
【原出願日】2013年7月8日
(65)【公開番号】特開2017-189777(P2017-189777A)
(43)【公開日】2017年10月19日
【審査請求日】2017年7月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000143972
【氏名又は名称】株式会社ササクラ
(74)【代理人】
【識別番号】110001597
【氏名又は名称】特許業務法人アローレインターナショナル
(72)【発明者】
【氏名】水谷 淳二
(72)【発明者】
【氏名】藤本 陽
(72)【発明者】
【氏名】田口 竜也
【審査官】
岡田 三恵
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭54−096252(JP,A)
【文献】
特開2000−126753(JP,A)
【文献】
特開2003−117589(JP,A)
【文献】
特開2006−187765(JP,A)
【文献】
特開2003−172593(JP,A)
【文献】
特開2002−292201(JP,A)
【文献】
特開2003−260495(JP,A)
【文献】
特開平10−192838(JP,A)
【文献】
特開2001−252697(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2007/0051513(US,A1)
【文献】
特開平08−276191(JP,A)
【文献】
特開2001−324296(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0038081(US,A1)
【文献】
米国特許第6761865(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/04
B01D 9/02
C02F 5/00
C02F 5/02
C02F 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリカを含む水溶液に種晶としてケイ酸塩を添加し混合する種晶混合工程と、
前記水溶液を前記種晶と共に蒸発濃縮する蒸発濃縮工程とを備え、
前記蒸発濃縮工程は、熱交換器を有する蒸発濃縮装置に、前記水溶液および種晶を供給して加熱することにより前記水溶液を蒸発濃縮し、前記蒸発濃縮装置において前記水溶液のシリカのスケール成分の濃度が高くなると、既存の前記種晶を核として前記スケール成分を析出させて新たな核の発生を抑制することにより、前記熱交換器へのスケール付着を防止する工程を備え、
前記種晶混合工程において、種晶を添加する前の水溶液のシリカ濃度が50ppm以上である水溶液の蒸発処理方法。
【請求項2】
前記ケイ酸塩は、ケイ酸マグネシウムおよび/またはケイ酸カルシウムである請求項1に記載の水溶液の蒸発処理方法。
【請求項3】
前記種晶混合工程において、マグネシウムおよびカルシウムの濃度がいずれも10ppm以下である請求項1または2に記載の水溶液の蒸発処理方法。
【請求項4】
前記蒸発濃縮工程で生成された濃縮液に含まれる前記種晶を利用して、次の前記種晶混合工程を行う請求項1から3のいずれかに記載の水溶液の蒸発処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水溶液の蒸発処理方法に関し、より詳しくは、シリカを含む水溶液を間接加熱により蒸発させる水溶液の蒸発処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ等の不純物を含む水溶液を間接加熱により蒸発させる際には、熱交換器の伝熱面にスケールが付着して伝熱係数が低下しやすいため、この対策が従来から検討されている。例えば、特許文献1には、カルシウム及び硫酸を含む廃水に炭酸ソーダを添加することによって、廃水に含まれるカルシウムを炭酸カルシウムの結晶として析出した後、間接加熱による沸騰蒸発にて濃縮する廃水の処理方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−305541号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の廃水処理方法は、廃水中に含まれる不純物がカルシウムの場合には効果的であるが、シリカを多く含む水溶液の場合には依然として伝熱面へのスケール付着が問題になるおそれがあった。従来のシリカ除去方法としては、シリカ水溶液に酸化マグネシウムまたは炭酸マグネシウムを添加した後、90℃程度まで昇温してシリカを沈殿させることによりシリカ濃度を低減する、いわゆるホットライム法が知られている。ところが、ホットライム法は、シリカを沈殿させるための薬品や加熱エネルギー等の消費量が大きくなるだけでなく、発生した沈殿スラッジを別途処理する必要があり、処理コストの増加を招いていた。
【0005】
そこで、本発明は、シリカを含む水溶液の蒸発処理を効率良く行うことができる水溶液の蒸発処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の前記目的は、シリカを含む水溶液に種晶としてケイ酸塩を添加し混合する種晶混合工程と、前記水溶液を前記種晶と共に蒸発濃縮する蒸発濃縮工程とを備え、前記蒸発濃縮工程は、熱交換器を有する蒸発濃縮装置に、前記水溶液および種晶を供給して加熱することにより前記水溶液を蒸発濃縮し、前記蒸発濃縮装置において前記水溶液のシリカのスケール成分の濃度が高くなると、既存の前記種晶を核として前記スケール成分を析出させて新たな核の発生を抑制することにより、前記熱交換器へのスケール付着を防止する工程を備え
、前記種晶混合工程において、種晶を添加する前の水溶液のシリカ濃度が50ppm以上である水溶液の蒸発処理方法により達成される。
【0007】
この水溶液の蒸発処理方法において、前記ケイ酸塩は、ケイ酸マグネシウムおよび/またはケイ酸カルシウムであることが好ましい。
【0008】
また、前記種晶混合工程において
、マグネシウムおよびカルシウムの濃度がいずれも10ppm以下であることが好ましい。
【0009】
また、前記蒸発濃縮工程で生成された濃縮液に含まれる前記種晶を利用して、次の前記種晶混合工程を行うことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、シリカを含む水溶液の蒸発処理を効率良く行うことができる水溶液の蒸発処理方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る水溶液の蒸発処理方法に使用される蒸発処理装置の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について添付図面を参照して説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る水溶液の蒸発処理方法に使用される蒸発処理装置の概略構成図である。
図1に示すように、蒸発処理装置1は、処理対象となる水溶液が貯留される貯留タンク10と、貯留タンク10から水溶液が供給される蒸発濃縮装置20とを備えている。
【0013】
貯留タンク10は、撹拌機12を備えており、水溶液供給ライン13から供給された水溶液と、種晶タンク14から注入ポンプ15の作動により供給された種晶とが、貯留タンク10の内部で均一に混合される。
【0014】
蒸発濃縮装置20は、管外薄膜流下式であり、蒸発缶20a内に水平に配置された伝熱管21aを有する熱交換器21と、伝熱管21aの表面に水溶液を散布する散布ノズル23とを備えている。蒸発缶20a内で生成された蒸気は、圧縮機24により圧縮されて高温高圧になり、伝熱管21aに導入されて水溶液の加熱に利用された後、凝縮液排出管25から凝縮水として排出される。蒸発缶20aの底部に貯留される水溶液は、循環ポンプ22の作動により散布ノズル23から繰り返し散布される。蒸発缶20a内で濃縮された濃縮液は、切換弁26の操作により固液分離器30に導入されて種晶が分離されて外部に排出される。分離された種晶は、種晶タンク14に戻されて再利用される。固液分離器30は、遠心分離方式、フィルター式、沈降式等とすることができ、これらを適宜組み合わせてもよい。
【0015】
蒸発濃縮装置20の構成は、特に限定されるものではなく、例えば伝熱管21aは水平型の代わりに縦型のものであってもよい。また、伝熱管21aの内部を通過する熱媒体は、本実施形態のように自己蒸気を圧縮したものを使用する代わりに、外部から別の熱媒体を導入してもよい。また、必要に応じて蒸発缶20aを多重効用缶として、蒸発濃縮装置20を多段式に構成することもできる。
【0016】
次に、上記の蒸発処理装置1を用いて、水溶液の蒸発処理を行う方法を説明する。水溶液供給ライン13から貯留タンク10に供給する水溶液は、例えば、工場等で発生する廃液の他、コールシームガス(Coal seam gas)、シェールガス(shale gas)等の天然ガスの採掘時に発生する汚染水や、地熱発電で利用される地下熱水等を挙げることができる。水溶液中のシリカは、蒸発濃縮装置20における蒸発濃縮によりシリカスケールの付着が問題になる程度に含まれていることが好ましく、例えば、水溶液中のシリカ濃度が50ppm以上である場合に効果的である。蒸発濃縮においては、水溶液が通常は4〜10倍程度に濃縮されることから、シリカ濃度が50ppmの場合でも、蒸発濃縮装置20において200〜500ppmの濃度に達し、シリカスケールの問題が生じるおそれがあるためである。
【0017】
種晶タンク14に収容される種晶は、水溶液中の成分であるシリカを含む難溶解性のケイ酸塩(xM
2O・ySiO
2)の結晶であり、例えば、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸カルシウムマグネシウム、ケイ酸アルミニウムおよびケイ酸カルシウムアルミニウム等の一種または二種以上を挙げることができる。特に、ケイ酸マグネシウム((MgO)n・(SiO
2)m)や、ケイ酸カルシウム((CaO)n・(SiO
2)m)の種晶は、後述する実施例に示すように、コールシームガスやシェールガス等の採掘時に発生する水溶液を処理する用途において、好適に使用することができる。種晶は、粒子状のものをそのまま使用することが可能であり、あるいは、結晶を水等に分散させたスラリー状のものを使用することもできる。
【0018】
貯留タンク10においては、水溶液にケイ酸塩の種晶が添加されて均一に撹拌されることにより、ケイ酸塩の種晶が核となって、水溶液に含まれるシリカの結晶が成長する。種晶タンク14から貯留タンク10への種晶の供給量は、水溶液の流動性を損なわない範囲で種晶の成長を促すのに十分な量であることが好ましい。貯留タンク10においては、pH調整剤を適宜添加して、pH調整を行ってもよい。
【0019】
水溶液において、シリカ以外にマグネシウムやカルシウム等の他のスケール成分も多く含まれている場合には、これらの成分もシリカと共に種晶に成長させることができるように、種晶を適宜選択することが好ましい。すなわち、水溶液中に多く含まれるスケール成分がシリカ及びマグネシウムの場合には、種晶としてケイ酸マグネシウムを選択することが好ましく、水溶液中に多く含まれるスケール成分がシリカ及びカルシウムの場合には、種晶としてケイ酸カルシウムを選択することが好ましい。水溶液中に含まれるシリカ以外のカルシウムやマグネシウム等のスケール成分については、種晶を添加する前に、弱酸性カチオン交換樹脂などを用いたイオン交換処理や、RO膜(逆浸透膜)を用いた脱塩処理等を行うことによって、これらのスケール発生が問題にならない程度に低減することも可能である。
【0020】
本発明者らは、種々の試験によって、ケイ酸マグネシウムやケイ酸カルシウム等のケイ酸塩の種晶には、シリカが単体で結晶成長することを確認している。すなわち、水溶液中にマグネシウムやカルシウム等がほとんど存在しない場合(例えば、10ppm以下)であっても、水溶液にケイ酸塩の種晶を添加することで、蒸発濃縮装置20におけるシリカスケールの発生を効果的に防止することができる。
【0021】
この後、供給弁17を開放することにより、貯留タンク10から蒸発濃縮装置20に水溶液が供給され、種晶を含む水溶液の蒸発濃縮が行われる。蒸発濃縮装置20に供給される水溶液は、スケール成分であるシリカが、貯留タンク10において種晶を核として結晶成長する。したがって、蒸発濃縮装置20における水溶液の蒸発濃縮によりスケール成分の濃度が高くなってスケール生成の領域を超えるようになっても、既存の種晶を核としてスケール成分が析出するため、新たな核の発生を抑制して熱交換器21へのスケールの付着を防止することができる。
【0022】
蒸発濃縮装置20において濃縮された濃縮液は、切換弁26の作動により固液分離器30に導入される。固液分離器30においては、結晶成長した粒径が大きい種晶が、遠心分離や沈殿槽での沈殿により分離され、洗浄等により不純物が除去された後に、種晶タンク14に供給される。したがって、貯留タンク10において種晶を大量供給した場合であっても種晶の大部分を回収して、貯留タンク10における次の種晶成長に利用することができるので、経済性を良好にすることができる。
【0023】
貯留タンク10から蒸発濃縮装置20への水溶液の供給は、蒸発濃縮装置20の作動中に連続的に行うことも可能であるが、蒸発濃縮装置20で生成された濃縮液を全て外部に排出した後に行うバッチ式とすることが好ましい。また、貯留タンク10において種晶を添加した後、貯留タンク10において種晶の成長が実質的に停止するまで水溶液を撹拌、放置してから、蒸発濃縮装置20に供給して蒸発濃縮を開始することが好ましい。これにより、蒸発濃縮装置20において種晶を核とする結晶成長を促すことができ、熱交換器21等へのスケールの付着をより確実に防止することができる。
【0024】
実施例として、
図1と同様の構成を有する蒸発処理装置1を使用して、下記の表1に示す成分を有するコールシームガス模擬液からなる水溶液の処理を行った。種晶としては、ケイ酸マグネシウム((MgO)・3(SiO
2))を2kg/m
3使用した。貯留タンク10において水溶液に種晶を投入し、常時撹拌することにより均一なスラリー状にした後、蒸発濃縮装置20に供給し、蒸発濃縮を行った。蒸発濃縮装置20の伝熱管21aは、外径が19mmで、長さが460mmのものを126本使用した。蒸発濃縮装置20における蒸発温度、蒸発量、濃縮倍率および運転期間を、それぞれ72℃、10kg/h、11倍および28日としたところ、伝熱管21aにはスケールが付着せず、伝熱係数の低下はみられなかった。
【0026】
他の実施例として、種晶としてケイ酸カルシウム((CaO)x・(SiO
2)x)を2kg/m
3使用する他は、上記の実施例と同様の条件で水溶液の蒸発濃縮を行ったところ、運転開始から28日経過後も伝熱管21aにはスケールが付着せず、伝熱係数の低下はみられなかった。
【0027】
一方、比較例として、種晶として炭酸カルシウム(CaCO
3)を、2kg/m
3使用する他は、実施例と同様の条件で水溶液の蒸発濃縮を行ったところ、運転開始から14日後に伝熱管21aへのスケールの付着が認められ、伝熱係数は運転開始直後の値の80%まで低下した。付着したスケールは、酸洗浄のみでは除去することができず、アルカリ洗浄が必要であったことから、シリカスケールの可能性が示唆された。
【0028】
また、他の比較例として、種晶として硫酸カルシウム(CaSO
4)を2kg/m
3使用する場合、および、二酸化ケイ素(SiO
2)を2kg/m
3使用する場合について、実施例と同様の条件で水溶液の蒸発濃縮を行ったところ、いずれも運転開始から14日後に伝熱管21aへのスケールの付着が認められ、伝熱係数は運転開始直後の値の80%まで低下した。
【符号の説明】
【0029】
1 蒸発処理装置
10 貯留タンク
14 種晶タンク
20 蒸発濃縮装置
21 熱交換器
21a 伝熱管
30 固液分離器