(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記プレートの、前記孔および前記逃がし穴が開口している側の表面は、前記孔と前記逃がし穴との間と、隣り合う前記逃がし穴の間と、前記逃がし穴の前記孔とは反対側とで面一である
請求項1又は2に記載の流路部材。
【発明を実施するための形態】
【0008】
図1(a)は、本開示の一実施形態に係る液体吐出ヘッド2を含む記録装置であるカラーインクジェットプリンタ1(以下で単にプリンタと言うことがある)の概略の側面図であり、
図1(b)は、概略の平面図である。プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pを搬送ローラ80Aから搬送ローラ80Bへと搬送することにより、印刷用紙Pを液体吐出ヘッド2に対して相対的に移動させる。制御部88は、画像や文字のデータに基づいて、液体吐出ヘッド2を制御して、記録媒体Pに向けて液体を吐出させ、印刷用紙Pに液滴を着弾させて、印刷用紙Pに印刷などの記録を行なう。
【0009】
本実施形態では、液体吐出ヘッド2はプリンタ1に対して固定されており、プリンタ1はいわゆるラインプリンタとなっている。本開示の記録装置の他の実施形態としては、液体吐出ヘッド2を、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に往復させるなどして移動させる動作と、印刷用紙Pの搬送を交互に行なう、いわゆるシリアルプリンタが挙げられる。
【0010】
プリンタ1には、印刷用紙Pとほぼ平行となるように平板状のヘッド搭載フレーム70(以下で単にフレームと言うことがある)が固定されている。フレーム70には図示しない20個の孔が設けられており、20個の液体吐出ヘッド2がそれぞれの孔の部分に搭載されていて、液体吐出ヘッド2の、液体を吐出する部位が印刷用紙Pに面するようになっている。液体吐出ヘッド2と印刷用紙Pとの間の距離は、例えば0.5〜20mm程度とされる。5つの液体吐出ヘッド2は、1つのヘッド群72を構成しており、プリンタ1は、4つのヘッド群72を有している。
【0011】
液体吐出ヘッド2は、
図1(a)の手前から奥へ向かう方向、
図1(b)の上下方向に細長い長尺形状を有している。この長い方向を長手方向と呼ぶことがある。1つのヘッド群72内において、3つの液体吐出ヘッド2は、印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向、例えば、ほぼ直交する方向に沿って並んでおり、他の2つの液体吐出ヘッド2は搬送方向に沿ってずれた位置で、3つの液体吐出ヘッド2の間にそれぞれ一つずつ並んでいる。液体吐出ヘッド2は、各液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲が、印刷用紙Pの幅方向に(印刷用紙Pの搬送方向に交差する方向に)繋がるように、あるいは端が重複するように配置されており、印刷用紙Pの幅方向に隙間のない印刷が可能になっている。
【0012】
4つのヘッド群72は、記録用紙Pの搬送方向に沿って配置されている。各液体吐出ヘッド2には、図示しない液体タンクから液体、例えば、インクが供給される。1つのヘッド群72に属する液体吐出ヘッド2には、同じ色のインクが供給されるようになっており、4つのヘッド群72で4色のインクが印刷できる。各ヘッド群72から吐出されるインクの色は、例えば、マゼンタ(M)、イエロー(Y)、シアン(C)およびブラック(K)である。このようなインクを、制御部88で制御して印刷すれば、カラー画像が印刷できる。
【0013】
プリンタ1に搭載されている液体吐出ヘッド2の個数は、単色で、1つの液体吐出ヘッド2で印刷可能な範囲を印刷するのなら1つでもよい。ヘッド群72に含まれる液体吐出ヘッド2の個数や、ヘッド群72の個数は、印刷する対象や印刷条件により適宜変更できる。例えば、さらに多色の印刷をするためにヘッド群72の個数を増やしてもよい。また、同色で印刷するヘッド群72を複数配置して、搬送方向に交互に印刷すれば、同じ性能の液体吐出ヘッド2を使用しても搬送速度を速くできる。これにより、時間当たりの印刷面積を大きくすることができる。また、同色で印刷するヘッド群72を複数準備して、搬送方向と交差する方向にずらして配置して、印刷用紙Pの幅方向の解像度を高くしてもよい。
【0014】
さらに、色の付いたインクを印刷する以外に、印刷用紙Pの表面処理をするために、コーティング剤などの液体を印刷してもよい。
【0015】
プリンタ1は、記録媒体である印刷用紙Pに印刷を行なう。印刷用紙Pは、給紙ローラ80Aに巻き取られた状態になっており、2つのガイドローラ82Aの間を通った後、フレーム70に搭載されている液体吐出ヘッド2の下側を通り、その後2つの搬送ローラ82Bの間を通り、最終的に回収ローラ80Bに回収される。印刷する際には、搬送ローラ82Bを回転させることで印刷用紙Pは、一定速度で搬送され、液体吐出ヘッド2によって印刷される。回収ローラ80Bは、搬送ローラ82Bから送り出された印刷用紙Pを巻き取る。搬送速度は、例えば、50m/分とされる。各ローラは、制御部88によって制御されてもよいし、人によって手動で操作されてもよい。
【0016】
記録媒体は、印刷用紙P以外に、ロール状の布などでもよい。また、プリンタ1は、印刷用紙Pを直接搬送する代わりに、搬送ベルトを直接搬送して、記録媒体を搬送ベルトに置いて搬送してもよい。そのようにすれば、枚葉紙や裁断された布、木材、タイルなどを記録媒体にできる。さらに、液体吐出ヘッド2から導電性の粒子を含む液体を吐出するようにして、電子機器の配線パターンなどを印刷してもよい。またさらに、液体吐出ヘッド2から反応容器などに向けて所定量の液体の化学薬剤や化学薬剤を含んだ液体を吐出させて、反応させるなどして、化学薬品を作製してもよい。
【0017】
また、プリンタ1に、位置センサ、速度センサ、温度センサなどを取り付けて、制御部88が、各センサからの情報から分かるプリンタ1各部の状態に応じて、プリンタ1の各部を制御してもよい。例えば、液体吐出ヘッド2の温度や液体タンクの液体の温度、液体タンクの液体が液体吐出ヘッド2に加えている圧力などが、吐出される液体の吐出特性(吐出量や吐出速度など)に影響を与えている場合などに、それらの情報に応じて、液体を吐出させる駆動信号を変えるようにしてもよい。
【0018】
次に、本開示の液体吐出ヘッド2について説明する。
図2は、ヘッド本体2aの平面図である。
図3は、
図2の二点鎖線で囲まれた領域の拡大図であり、説明のため一部の流路を省略した図である。
図4は、
図3と同じ領域の拡大図であり、説明のため
図3とは異なる一部の流路を省略した図である。なお、
図2〜4において、図面を分かりやすくするために、圧電アクチュエータ基板21の下方にあって破線で描くべきマニホールド5、吐出孔8、加圧室10などを実線で描いている。
図5(a)は
図3のV−V線に沿った縦断面図であり、
図5(b)は、
図5(a)の一部のプレートを拡大した縦断面図である。
【0019】
液体吐出ヘッド2は、ヘッド本体2a以外に、金属製の筐体や、ドライバIC、配線基板などを含んでいてもよい。ヘッド本体2aは、流路部材4と、加圧部である変位素子30が作り込まれている圧電アクチュエータ基板21とを含んでいる。
【0020】
ヘッド本体2aを構成する流路部材4は、マニホールド5と、マニホールド5と繋がっている複数の加圧室10と、複数の加圧室10とそれぞれ繋がっている複数の吐出孔8とを備えている。加圧室10は流路部材4の上面に開口しており、流路部材4の上面が加圧室面4−2となっている。また、流路部材4の上面にはマニホールド5と繋がっている開口5aが開口しており、この開口5aより液体が供給される。
【0021】
流路部材4の上面には、変位素子30を含む圧電アクチュエータ基板21が接合されており、各変位素子30は、加圧室10上に位置するように配置されている。また、圧電アクチュエータ基板21には、各変位素子30に信号を供給するためのFPC(Flexible Printed Circuit)などの信号伝達部が接続されている。
【0022】
流路部材4の内部には4つのマニホールド5が配置されている。マニホールド5は流路部材4の長手方向に沿って延びる細長い形状を有しており、その両端において、流路部材4の上面にマニホールド5の開口5aが形成されている。4つのマニホールド5は、それぞれ独立してている。
【0023】
流路部材4は、複数の加圧室10が2次元的に広がって形成されている。加圧室10は、角部にアールが施されたほぼ菱形の平面形状を有する中空の領域である。加圧室10は流路部材4の上面である加圧室面4−2に開口している。
【0024】
加圧室10は1つのマニホールド5と個別供給流路14を介して繋がっている。1つのマニホールド5に沿うようにして、このマニホールド5に繋がっている加圧室10の列である加圧室行11が、マニホールド5の両側に2行ずつ、合計4行配置されている。したがって、全体では16行の加圧室行11が配置されている。各加圧室行11における加圧室10の長手方向の間隔は同じであり、37.5dpiの間隔となっている。なお、各加圧室行11の端の加圧室10は、ダミーとなっており、マニホールド5とは繋がっていない。このダミーにより、端から1つ内側の加圧室10の周囲の構造およびそれに影響される剛性が、他の加圧室10の構造およびそれに影響される剛性が近くなることで、液体吐出特性の差を少なくできる。
【0025】
各加圧室行11に属する加圧室10は、近接する2行の加圧室行11の間では、千鳥状に配置されており、隣り合う加圧室10の角部は交互に配置されるようになっている。1つのマニホールド5に繋がっている4行の加圧室行11により1つの加圧室群が構成されており、加圧室群は4つある。各加圧室群内における加圧室10の相対的な配置は同じになっており、各加圧室群はヘッド本体2aの長手方向にわずかにずれて配置されている。これらの加圧室10は、流路部材4の上面における圧電アクチュエータ基板21に対向する領域に、加圧室群間などの少し間隔が広くなって部分はあるものの、ほぼ全面にわたって配列されている。また、各加圧室10の開口は、流路部材4の上面に圧電アクチュエータ基板21が接合されることで閉塞されている。
【0026】
加圧室10の個別供給流路14が繋がっている角部と対向する角部からは、流路部材4の下面の吐出面4−1に開口している吐出孔8に繋がるディセンダ16が伸びている。ディセンダ16は、平面視において、加圧室10の対角線を延長する方向に伸びている。つまり、長手方向における吐出孔8の配置と加圧室10の配置は同じになっている。各加圧室行11において、加圧室10は37.5dpiの間隔で並んでおり、1つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は全体として、長手方向に150dpiの間隔になっている。さらに、4つのマニホールド5に繋がっている加圧室10は、長手方向に600dpiに相当する間隔でずれて配置されているため、加圧室10は全体で長手方向に600dpiの間隔で形成されている。前述のように、吐出孔8の長手方向の配置は加圧室10と同じになっているので、吐出孔8の長手方向の間隔も600dpiになっている。
【0027】
これは別の言い方をすると、流路部材4の長手方向に平行な仮想直線に対して直交するように吐出孔8を投影すると、
図4に示した仮想直線のRの範囲に、各マニホールド5に繋がっている4つの吐出孔8、つまり全部で16個の吐出孔8が、600dpiの等間隔となっているということである。これにより、すべてのマニホールド5に同じ色のインクを供給することで、全体として長手方向に600dpiの解像度で画像が形成可能となる。また、1つのマニホールド5に繋がっている4つの行の吐出孔8は、仮想直線のRの範囲で150dpiの等間隔になっている。これにより、各マニホールド5に異なる色のインクを供給することで、全体として長手方向に150dpiの解像度で4色の画像が形成可能となる。この場合、さらに4つの液体吐出ヘッド2を用いて、それぞれ液体吐出ヘッド2において各色のインクを異なる位置のマニホールド5に供給するようにして、600dpiの解像度で4色の画像を形成してもよい。またさらに、2つの液体吐出ヘッド2を用いて、それぞれ液体吐出ヘッド2において各色のインクを異なる位置のマニホールド5に供給するようにして、300dpiの解像度で4色の画像を形成してもよい。
【0028】
圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置には個別電極25がそれぞれ形成されている。個別電極25は、加圧室10より一回り小さく、加圧室10とほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでおり、個別電極25は、加圧室10と同じように、個別電極列および個別電極群を構成している。また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極24と電気的に接続されている共通電極用表面電極28が形成されている。共通電極用表面電極28は、圧電アクチュエータ基板21の短手方向の中央部に、長手方向に沿うように2列形成され、また、長手方向の端近くで短手方向に沿って1列形成されている。図示した、共通電極用表面電極28は直線上に断続的に形成されたものであるが、直線上に連続的に形成してもよい。圧電アクチュエータ基板21には、2枚の信号伝達部が、圧電アクチュエータ基板21の2つの長辺側から、それぞれ中央に向かうように配置され、接合される。共通電極用表面電極28は、信号伝達部の端部(先端および圧電アクチュエータ基板21の長手方向の端)において接続され、共通電極用表面電極28およびその上に形成される共通電極用接続電極が、引出電極25bおよびその上に形成される接続電極26よりも面積が大きいため、信号伝達部が端からはがれ難くできる。
【0029】
また、吐出孔8は、流路部材4の下面側に配置されたマニホールド5と対向する領域を避けた位置に配置されている。さらに、吐出孔8は、流路部材4の下面側における圧電アクチュエータ基板21と対向する領域内に配置されている。これらの吐出孔8は、1つの群として圧電アクチュエータ基板21とほぼ同一の大きさおよび形状の領域を占有しており、対応する圧電アクチュエータ基板21の変位素子30を変位させることにより吐出孔8から液滴が吐出できる。
【0030】
ヘッド本体2aに含まれる流路部材4は、複数のプレートが積層された積層構造を有している。これらのプレートは、流路部材4の上面から順に、キャビティプレート4a、ベースプレート4b、アパーチャ(しぼり)プレート4c、サプライプレート4d、マニホールドプレート4e〜g、カバープレート4hおよびノズルプレート4iである。これらのプレートには多数の孔や溝が形成されている。各プレートの厚さは10〜300μm程度であることにより、形成する孔や溝の形成精度を高くできる。各プレートは、これらの孔や溝が互いに連通して個別流路12およびマニホールド5などの流路を構成するように、位置合わせして積層されている。ヘッド本体2aは、加圧室10は流路部材4の上面に、マニホールド5は内部の下面側に、吐出孔8は下面にと、個別流路12を構成する各部分が異なる位置に互いに近接して配設され、加圧室10を介してマニホールド5と吐出孔8とが繋がる構成を有している。
【0031】
プレート4a〜iは、接着剤を介して積層されている。接着剤の層の厚さは、0.1〜3μm程度であり、
図5(a)、5(b)では、接着剤の層は省略して描いてある。流路となる孔や溝の周囲には、接着剤の逃がし溝19や、接着剤の逃がし穴18が配置されている。これらについては、後で詳述する。
【0032】
流路部材4にプレート4a〜iに形成された孔について説明する。これらの孔には、次のようなものがある。第1に、キャビティプレート4aに形成された加圧室10である。第2に、加圧室10の一端からマニホールド5へと繋がる個別供給流路14を構成する連通孔である。この連通孔は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の入り口)からサプライプレート4c(詳細にはマニホールド5の出口)までの各プレートに形成されている。なお、この個別供給流路14には、アパーチャプレート4cに形成されている、流路の断面積が小さくなっている部位であり、平面視で一方方向に長いしぼり6が含まれている。
【0033】
第3に、加圧室10の他端から吐出孔8へと連通する流路であるディセンダ16を構成する連通孔である。ディセンダ16は、ベースプレート4b(詳細には加圧室10の出口)からノズルプレート4i(詳細には吐出孔8)までの各プレートに形成されている。第4に、マニホールド5を構成する連通孔である。この連通孔は、マニホールドプレート4e〜gに形成されている。
【0034】
第1〜4の連通孔が相互に繋がり、マニホールド5からの液体の流入口(マニホールド5の出口)から吐出孔8に至る個別流路12を構成している。マニホールド5に供給された液体は、以下の経路で吐出孔8から吐出される。まず、マニホールド5から上方向に向かって、個別供給流路14に入りを通り、しぼり6の一端部に至る。次に、しぼり6の延在方向に沿って水平に進み、しぼり6の他端部に至る。そこから上方に向かって、加圧室10の一端部に至る。さらに、加圧室10の延在方向に沿って水平に進み、加圧室10の他端部に至る。そこから、ディセンダ16の中を少しずつ水平方向に移動しながら、主に下方に向かい、下面に開口した吐出孔8へと進む。
【0035】
圧電アクチュエータ基板21は、Ag−Pd系などの金属材料からなる共通電極24およびAu系などの金属材料からなる個別電極25を有している。共通電極24の厚さは2μm程度であり、個別電極25の厚さは、1μm程度である。
【0036】
個別電極25は、圧電アクチュエータ基板21の上面における各加圧室10に対向する位置に、それぞれ配置されている。個別電極25は、平面形状が加圧室本体10aより一回り小さく、加圧室本体10aとほぼ相似な形状を有している個別電極本体25aと、個別電極本体25aから引き出されている引出電極25bとを含んでいる。引出電極25bの一端の、加圧室10と対向する領域外に引き出された部分には、接続電極26が形成されている。接続電極26は例えば銀粒子などの導電性粒子を含んだ導電性樹脂であり、5〜200μm程度の厚さで形成されている。また、接続電極26は、信号伝達部に設けられた電極と電気的に接合されている。
【0037】
また、圧電アクチュエータ基板21の上面には、共通電極用表面電極28が形成されている。共通電極用表面電極28と共通電極24とは、圧電セラミック層21bに配置された、図示しない貫通導体を通じて、電気的に接続されている。
【0038】
詳細は後述するが、個別電極25には、制御部88から信号伝達部を通じて駆動信号が供給される。駆動信号は、印刷媒体Pの搬送速度と同期して一定の周期で供給される。
【0039】
共通電極24は、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間の領域に面方向のほぼ全面にわたって形成されている。すなわち、共通電極24は、圧電アクチュエータ基板21に対向する領域内のすべての加圧室10を覆うように延在している。共通電極24は、圧電セラミック層21b上に個別電極25からなる電極群を避ける位置に形成されている共通電極用表面電極28に、圧電セラミック層21bを貫通して形成されたビアホールを介して繋がっている。また、共通電極24は、接地され、グランド電位に保持されている。共通電極用表面電極28は、複数の個別電極25と同様に、制御部88と直接あるいは間接的に接続されている。
【0040】
圧電セラミック層21bの個別電極25と共通電極24とに挟まれている部分は、厚さ方向に分極されており、個別電極25に電圧を印加すると変位する、ユニモルフ構造の変位素子30となっている。より具体的には、個別電極25を共通電極24と異なる電位にして圧電セラミック層21bに対してその分極方向に電界を印加したとき、この電界が印加された部分が、圧電効果により歪む活性部として働く。この構成において、電界と分極とが同方向となるように、制御部88により個別電極25を共通電極24に対して正または負の所定電位にすると、圧電セラミック層21bの電極に挟まれた部分(活性部)が、面方向に収縮する。一方、非活性層の圧電セラミック層21aは電界の影響を受けないため、自発的には縮むことがなく活性部の変形を規制しようとする。この結果、圧電セラミック層21bと圧電セラミック層21aとの間で分極方向への歪みに差が生じて、圧電セラミック層21aは加圧室10側へ凸となるように変形(ユニモルフ変形)する。
【0041】
続いて、液体の吐出動作について、説明する。制御部88からの制御でドライバICなどを介して、個別電極25に供給される駆動信号により、変位素子30が駆動(変位)させられる。本実施形態では、様々な駆動信号で液体を吐出させることができるが、ここでは、いわゆる引き打ち駆動方法について説明する。
【0042】
あらかじめ個別電極25を共通電極24より高い電位(以下、高電位と称す)にしておき、吐出要求がある毎に個別電極25を共通電極24と一旦同じ電位(以下、低電位と称す)とし、その後所定のタイミングで再び高電位とする。これにより、個別電極25が低電位になるタイミングで、圧電セラミック層21b、21aが元の(平らな)形状に戻り(始め)、加圧室10の容積が初期状態(両電極の電位が異なる状態)と比較して増加する。これにより、加圧室10内の液体に負圧が与えられる。そうすると、加圧室10内の液体が固有振動周期で振動し始める。具体的には、最初、加圧室10の体積が増加し始め、負圧は徐々に小さくなっていく。次いで加圧室10の体積は最大になり、圧力はほぼゼロとなる。次いで加圧室10の体積は減少し始め、圧力は高くなっていく。その後、圧力がほぼ最大になるタイミングで、個別電極25を高電位にする。そうすると最初に加えた振動と、次に加えた振動とが重なり、より大きい圧力が液体に加わる。この圧力がディセンダ内を伝搬し、吐出孔8から液体を吐出させる。
【0043】
つまり、高電位を基準として、一定期間低電位とするパルスの駆動信号を個別電極25に供給することで、液滴を吐出できる。このパルス幅は、加圧室10の液体の固有振動周期の半分の時間であるAL(Acoustic Length)とすると、原理的には、液体の吐出速度および吐出量を最大にできる。加圧室10の液体の固有振動周期は、液体の物性、加圧室10の形状の影響が大きいが、それ以外に、圧電アクチュエータ基板21の物性や、加圧室10に繋がっている流路の特性からの影響も受ける。
【0044】
ここで、さらに接着剤の逃がし穴18および接着剤の逃がし溝19について説明する。流路部材4は、プレート4a〜iが接着剤を介して積層されて構成されている。プレート4a〜iには流路となる孔や溝が配置されているため、積層する際に、接着剤の一部が孔や溝に流れ込むおそれがある。接着剤が多量に流れ込めば、流路が詰まる可能性があり、量が詰まるまで多くなかったとしても、流路の断面積が変わり、流路特性が変わることで、液体の吐出特性が変動する可能性がある。
【0045】
プレート4a〜iを接着積層する際に、接着剤が、プレート4a〜iの間の全面に行き渡るだけの量がないと、接着されない部分が生じることになる。接着剤が、プレート4a〜iの間の全面に行き渡った状態で、接着のために加圧すると、接着剤の一部は、流路の中に流れこむことになる。
【0046】
そこで、流路となる孔や溝の周囲に逃がし穴18および逃がし溝19を配置する。逃がし穴18および逃がし溝19は、基本的にプレート4a〜iに形成された窪みであり、プレート4a〜iをハーフエッチングすることなどで形成される。ただし、逃がし穴18および逃がし溝19は、プレート4a〜iを貫通していてもよく、そのような形態のものも含めて、逃がし穴18、逃がし溝19と呼ぶ。
【0047】
逃がし穴18および逃がし溝19が存在すると、積層の際に、接着剤の一部は、逃がし穴18および逃がし溝19に流れ込む。そのため、流路に流れ込む接着剤の量が少なくなる。その結果、流路の詰まりを発生し難くでき、また、流路特性の変動を小さくできる。接着剤は、流路の周囲全体から流路に流れ込んでくるが、逃がし穴18および逃がし溝19を、流路を囲むように配置することで、流路への接着剤の流れ込みを抑制できる。
【0048】
逃がし穴18の平面形状は、基本的には円形状あるいは多角形状であり、逃がし穴18の短手方向の長さに対する長手方向の長さの比は3以下、好ましくは2以下である。逃がし溝19の平面形状は、逃がし溝19の短手方向の長さに対する長手方向の長さの比が、逃がし穴18よりも大きい。
【0049】
逃がし穴18および逃がし溝19による、流路への接着剤の流れこみの抑制には、次の2つの作用が影響している。1つ目の作用は、接着剤は、逃がし穴18および逃がし溝19を越えては流れないことである。接着剤は、通常、逃がし穴18および逃がし溝19が接着剤で埋まってしまうほど多量には供給されない。そのため、いったん逃がし穴18および逃がし溝19に流れ込んだ接着剤は、逃がし穴18および逃がし溝19を越えて流動して、流路に流れ込むことはほとんどない。
【0050】
流路の周囲を逃がし溝19で切れ目なく囲めば、逃がし溝19の外から接着剤が流れ込んでくることは、ほとんどなくなる。その結果、流路に流れ込むおそれのある接着剤は、ほぼ逃がし溝19で囲まれた領域の接着代に供給された接着剤だけになる。つまりそのような構造は、流路への接着剤の流れ込みを抑制する効果が高い。しかし、そのような構造にすると、逃がし溝19と流路が繋がってリークが生じた際に、逃がし溝19は長く伸びているために、流路特性の変動は大きくなってしまう。
【0051】
2つ目の作用は、逃がし穴18および逃がし溝19と、流路との間にある接着代に供給された接着剤は、大体、逃がし穴18、逃がし溝19および流路のうちで、もっとも距離の近いものに流れこむことである。この作用により、流路の周囲を逃がし溝19で切れ目なく囲まなくても、流路に流れ込む接着剤の量を少なくできる。
【0052】
逃がし穴18および逃がし溝19の具体的な配置について説明する。
図6(a)は、
図4の二点鎖線部分のプレート4eでの平面図である。プレート4eには、マニホールド5となる貫通孔が開口している。流路部材4には、1つのマニホールド5の両側に2行ずつの吐出孔行9が配置されている。プレート4eには、少し平面方向の位置がずれているが、吐出孔8とほぼ同じ位置にプレート4eを貫通するディセンダ16が配置されている。つまり、プレート4eには、マニホールド5の両側に2行ずつのディセンダ16となる孔(以下でディセンダ孔16と呼ぶことがある)の行が配置されている。
図6(a)では、マニホールド5の片側に配置されている2行のディセンダ孔16の行が描かれている。ディセンダ孔16を囲むように、円形で、プレート4eの厚さの約半分の深さの逃がし穴18が配置されている。また、2つあるディセンダ孔16の行の間に、プレート4eの厚さの約半分の深さの逃がし溝19が配置されている。また、マニホールド5の、ディセンダ孔16の配置されていない範囲では、逃がし溝19は、マニホールド5の外縁に沿うように配置されている。
【0053】
基本的には、流路となる孔あるいは溝の中で、開口面積の小さいものの周囲には、逃がし穴18を配置し、開口面積の大きいものの周囲には、逃がし溝19を配置する。より具体的には、ディセンダ16など、個別流路12を構成する孔の中で、液体がプレート4a〜iの積層方向に流れる孔の周囲に逃がし穴18を配置する。液体が積層方向に流れる流路では、積層ずれなどにより、周囲の逃がし穴18や逃がし溝19と繋がってしまう可能性が高くなるため、逃がし溝19ではなく、逃がし穴18を配置するのが好ましい。
【0054】
以下では、ディセンダ孔16の周囲に逃がし穴18を配置する場合について説明する。ディセンダ16は、加圧室10と吐出孔8とを繋ぐ流路であり、流路特性が変動した場合に、吐出特性への影響が特に大きい流路である。ディセンダ16の流路特性の変動を小さくすることで、吐出特性のばらつきを小さくすることができる。
【0055】
ディセンダ孔16の周囲に環状の逃がし溝19を配置すると、プレート4a〜iの積層ずれや、局所的な接着不良などで、ディセンダ16と逃がし溝19とが繋がってしまった際の、吐出特性の変動が大きくなる。液体が逃がし溝19に浸入した場合、逃がし溝19がディセンダ16に付加された流路として働き、流路特性が変わることで、吐出特性が変わってしまう。液体が逃がし溝19に浸入しなかったとしても、逃がし溝19に残っている空気がエアダンパーのように働くので、吐出特性が変わってしまう。
【0056】
そこで、ディセンダ孔16の周囲には、独立した複数の逃がし穴18を配置する。これにより、ディセンダ16と逃がし穴18とが繋がってしまったとしても、ディセンダ16の特性を変動させるのは、基本的に1つの逃がし穴18だけになるので、その影響を小さくできる。
【0057】
逃がし穴18によって接着剤がディセンダ孔16に流れ込み難くなる2つの作用については、上述した。そのどちらの作用も、ディセンダ孔16に対して、逃がし穴18の位置が離れるほど、接着剤の流れ込み抑制の効果は小さくなる。また、ディセンダ孔16に対して、逃がし穴18が近いほど、積層ずれや接着代が狭いことにより、ディセンダ16と逃がし穴18とが繋がり易くなってしまう。そこで、逃がし穴18を、ディセンダ孔16の外縁から略同じ間隔を空けて配置する。これにより、一部の逃がし穴18がディセンダ孔16から離れ過ぎていることにより多くなるおそれのある、ディセンダ孔16への接着剤の流れ込み量少なくできる。また、一部の逃がし穴18がディセンダ孔16に近過ぎることにより生じるおそれのある、リークを生じ難くすることができる。ここで、略同じ間隔とは、もっとも離れている逃がし穴18の、ディセンダ孔16の外縁からの距離に対して、もっとも近い逃がし穴18の、ディセンダ孔16の外縁からの距離が50%以上、より好ましくは80%以上に、特に90%以上となっていることを意味する。
【0058】
逃がし穴18は、ディセンダ孔16を中心とした同心円の円周に沿って伸ばした形状にしても良いが、逃がし穴18の短手方向に対する長手方向の比が大きくなると、リークが生じた際の影響が大きくなるので、比は小さい方が望ましい。比は1にして、特定方向に長くないようにし、円形状にするのが好ましい。
【0059】
逃がし穴18は、ディセンダ孔16を囲むように配置することで、ディセンダ孔16の外周からの接着剤の流れ込みを抑制するため、基本的には、ディセンダ孔16の周囲に3つ以上配置する。しかし、近くに他の流路などがある場合などは、逃がし穴18を2つ配置するだけでよいこともある。例えば、
図6(a)のマニホールド5に近いディセンダ孔16では、図におけるディセンダ孔の下側の近くにマニホールド5が配置されているため、マニホールド5が配置されている方向には、逃がし穴18を配置する必要性は低い。このような場合、2つの逃がし穴18とマニホールド5となる孔とで、ディセンダ孔16を囲むように配置することができる。
【0060】
逃がし穴18の開口面積は、ディセンダ16の開口面積よりも小さくなっていることで、ディセンダ16と逃がし穴18とが繋がった際のディセンダ16の流路特性の変動を少なくできる。
【0061】
ディセンダ孔16を囲むように略同じ間隔を空けて逃がし穴18が配置されている場合、
図6(a)に示すように、その逃がし穴18のさらに外側に別の逃がし穴18を配置するのが好ましい。外側の逃がし穴18は、ディセンダ孔16から見て、内側の逃がし穴18のうちの隣り合っている逃がし穴18の間隙と重なるように配置する。上述の1つ目の作用は、逃がし穴18によっても生じるが、逃がし穴18は、逃がし溝19と異なって、ディセンダ孔16の周囲に切れ目なく配置されてはいない。そのため、隣り合っている内側の逃がし穴18の間からディセンダ孔16に接着剤が流れ込んでくるおそれがある。外側の逃がし穴18を上述のように配置すれば、隣り合っている内側の逃がし穴18の間から、デヒセンダ孔16に接着剤が流れ込み難くできる。
【0062】
続いて、ディセンダ孔16が配置されたプレートが連続して積層されている場合における、逃がし穴18の配置について説明する。
図5(b)は、
図5(a)のうちのプレート4e〜gを拡大した縦断面図である。プレート4e〜gには、それぞれディセンダ孔16が配置されている。設計上は、ディセンダ16は、
図5(b)の上から下に繋がっており、上から下、つまりプレート4eからプレート4g、に向かうにしたがって、少しずつ図の右に向かってずれるように配置されている。
図5(b)は、設計に対して、プレート4fが左にずれて積層された状態を示している。
【0063】
図5(b)において、プレート4fを、第1プレート4fとし、第1プレート4fに、ディセンダ孔16である第1ディセンダ孔16A、および逃がし穴18である第1逃がし穴18Aが配置されているとする。さらに、プレート4eを、第2プレート4eとし、第2プレート4eに、ディセンダ孔16である第2ディセンダ孔16B、および逃がし穴18である第2逃がし穴18Bが配置されているとする。
【0064】
図6(b)は、第2プレート4eの第2ディセンダ孔16Bおよび第2逃がし穴18Bと、第1プレート4fの第1ディセンダ孔16Aおよび第1逃がし穴18Aとを、第2プレート4e側、すなわち上側から見た平面図である。
図6(b)は、
図6(a)よりも拡大して描いてある。
【0065】
第1プレート4fの第1ディセンダ孔16Aの設計上の位置は、16A−1の二点鎖線の位置である。第1プレート4fが、設計よりも左に積層されてしまったために、
図5(b)のような状態になっている。
【0066】
積層ずれのため、
図5(b)の断面に見えている第1プレート4fの第1逃がし穴18Aと、ディセンダ16とは、繋がってしまっている。ここで、もし、第2プレート4eのAの位置に第2逃がし穴18Bが配置されていたとすると、ディセンダ16とは、Aの位置にある逃がし穴18Bとも繋がってしまうことになる。逆に言えば、Aの位置に逃がし穴18Bを配置しなければ、1カ所の積層ずれで、2カ所のリークが発生してしまう可能性を低くできる。Aは、第1孔ディセンダ孔16Aに対する、第1逃がし穴18Aの反対の位置であり、この反対位置Aに逃がし穴18Bを配置しないことで、上述のように、リークの発生個所を少なくできる。1つの断面だけではなく、
図6(b)に示すように、すべての第1逃がし穴18Aに対応した反対位置Aに、第2逃がし穴18Bを配置しないのが好ましい。
【0067】
また、そのような設計をする場合、各プレートにおいて、ディセンダ孔16に対して、逃がし穴18をn回の回転対称(nは3以上の奇数)に配置して、隣り合って積層されているプレートの逃がし穴18を、互いに重なる位置に配置するのが好ましい。そのように配置すると、プレートの積層位置がずれて、ディセンダ16と1つの逃がし穴18とが繋がってしまったとしても、その反対位置Aには、逃がし穴18が配置されていないので、リークが生じ難い。このような配置は、ディセンダ16のように、液体が積層方向に流れる孔が3層以上連続して繋がっている構造において特に有効である。
【0068】
また、そのような構造では、反対領域Aが、積層方向に連続して配置されるので、プレート同士の接着強度を強くできる。逃がし穴18が存在すると、その上下には圧力が伝わり難くなるので、その部分の接着強度が弱くなるおそれがあるが、中実になっている反対領域Aが積層方向に連続していれば、接着強度が強くなるからである。なお、
図6(a)において図の上の側にあるディセンダ孔16では、ディセンダ孔16の一番近くに配置されている逃がし穴18は、ディセンダ孔16に対して、9回の回転対称に配置されている。
【0069】
図6(c)は、本開示の他の実施形態における、ディセンダ孔16、逃がし穴18である、第3逃がし穴18Cおよび第4逃がし穴18Dの平面図である。このような構造は、例えば、
図6(a)のディセンダ孔16の周囲の設計の代わりに用いることができる。なお、
図6(c)は、
図6(a)よりも拡大率が大きく、描かれているディセンダ孔16の実際の大きさは、同じである。
【0070】
ディセンダ孔16、より詳細には、ディセンダ孔16の面積重心から見た場合の、隣り合っている第3逃がし穴18Cの間の間隙は、Bの範囲である。第4逃がし穴18Dは、第3逃がし穴18Cよりも外側に配置されており、一部の第4逃がし穴18D、ディセンダ孔16から見た場合に、第3逃がし穴18Cの間の間隙Bと重なるように配置されている。このように配置されていることにより、隣り合っている第3逃がし穴18Cの間に供給された接着剤、およびそれよりも外側に供給された接着剤を、ディセンダ孔16に流れ込み難くできる。ディセンダ孔16から見た場合に、第4逃がし穴18Dが、第3逃がし穴18Cの間の間隙B全体と重なるようになっていれば、接着剤を、よりディセンダ孔16に流れ込み難くできる。
【0071】
また、ディセンダ孔16から見た場合に、第4逃がし穴18Dが、第3逃がし穴18Cより大きければ、接着剤を、よりディセンダ孔16に流れ込み難くできる。