(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6427295
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
F16J 15/34 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
F16J15/34 F
F16J15/34 H
F16J15/34 K
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-170362(P2018-170362)
(22)【出願日】2018年9月12日
(62)【分割の表示】特願2018-112573(P2018-112573)の分割
【原出願日】2016年9月8日
【審査請求日】2018年9月12日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229737
【氏名又は名称】日本ピラー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】特許業務法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂倉 博之
(72)【発明者】
【氏名】藤田 兼史
【審査官】
杉山 悟史
(56)【参考文献】
【文献】
特許第5557752(JP,B2)
【文献】
特表2016−516954(JP,A)
【文献】
特開2012−097827(JP,A)
【文献】
特許第2956862(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシング内を挿通する回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された固定環と、前記回転環と固定環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び固定環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るメカニカルシールであって、
前記固定環は、SiCの焼結体で作製されており、
前記固定環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、
前記固定環の外周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されており、
前記固定環に帯電した静電気を当該固定環から除去する静電気除去部を備えており、且つ、
前記静電気除去部は、前記回転環を直接に嵌合し当該回転環と通電可能に当接するフランジと、このフランジの外周において当該フランジと通電可能に当接する架台とで構成されている、メカニカルシール。
【請求項2】
前記固定環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記固定環の外周面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている、請求項1に記載のメカニカルシール。
【請求項3】
前記ダイヤモンド膜が形成された固定環の体積抵抗率が101〜104Ω・cmである、請求項1又は請求項2に記載のメカニカルシール。
【請求項4】
前記ケーシング内で処理される被処理物と接触する当該ケーシングの内側面及び前記回転軸の表面にガラス又はフッ素樹脂がコーティングされている、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のメカニカルシール。
【請求項5】
前記被処理物が強酸又は強アルカリ性の、粉体又は電気伝導率の低い溶剤である、請求項4に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はメカニカルシールに関する。さらに詳しくは、例えば各種産業用ポンプ、攪拌機等の被軸封機器における回転軸とケーシングとの間を、回転環のシール面と固定環のシール面とを接触させてシールするメカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
強酸又は強アルカリ性等の腐食性の強い物質の処理を行う機器、例えば当該物質の攪拌処理を行う攪拌機では、耐食性を確保するためにステンレス等の金属の母材の表面にガラスやフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレンをコーティングした容器(圧力容器)が使用されている。ガラスをコーティングした容器はグラスライニング釜(以下、GL釜ともいう)とも呼ばれ、また、フッ素樹脂をコーティングした容器はフッ素樹脂コーティング釜(以下、PTFE釜ともいう)とも呼ばれている。
【0003】
前記GL釜やPTFE釜を備えた攪拌機では、腐食性の強い物質と接触する当該GL釜やPTFE釜の内側面、及び、GL釜やPTFE釜内を挿通し、前記物質を攪拌する攪拌翼等の攪拌部を回転させる回転軸の表面にガラスやフッ素樹脂がコーティングされる。
【0004】
ところで、前記GL釜やPTFE釜を備えた攪拌機を用いて粉体や電気伝導度の低い溶剤等を処理する場合、静電気が発生し易い。GL釜やPTFE釜は、前述したように、その内側面にガラス又はフッ素樹脂がコーティングされているので、体積抵抗率(比抵抗ともいわれる)(Ω・cm)が高く、発生した静電気が帯電し易い。静電気が多量に帯電すると、粉塵爆発や溶剤への着火等の不具合が発生する恐れがある。
そこで、前記GL釜やPTFE釜、及び回転軸には、通常、アース処理が施されており、当該GL釜等に帯電した静電気を除電するようにしている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述したGL釜やPTFE釜を備えた攪拌機では、当該GL釜等の内側面以外に、メカニカルシールのシール部を構成する回転環や固定環にも静電気が帯電する。かかる回転環や固定環では、GL釜やPTFE釜内の粉体や溶剤からの帯電だけでなく、回転環のシール面と固定環のシール面との摺接により発生する静電気の帯電が生じる。回転環及び固定環のうち固定環は、Oリングを介してシールケースに取り付けられる場合が多く、この場合、当該固定環は、前記シールケースに実質的に接触することなく、Oリングによってシールケースとわずかに(例えば、0.15〜0.30mm程度)離間した状態に保持されている。このため、固定環は、静電気の逃げ場がなく、帯電し易い構造となっている。
【0006】
また、高い耐食性を確保するために固定環の材質としてSiC(炭化ケイ素)の焼結体が用いられることがあるが、SiCの体積抵抗率は10
5〜10
7Ω・cmと幅がある。体積抵抗率については、10
6Ω・cmを基準とし、これよりも大きいと電気が流れにくく、これよりも小さいと電気が流れやすいと考えることができるが、SiCの場合は、前述したように体積抵抗率にばらつきがあることから、電気が流れにくく帯電し易い固定環となることがある。この場合、固定環に帯電した静電気は前記のように逃げ場がないので、多量に帯電した静電気によって、前述した粉塵爆発等の不具合が発生する恐れがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、固定環に静電気が帯電するのを抑制することができるメカニカルシールを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明のメカニカルシールは、ケーシング内を挿通する回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された固定環と、前記回転環と固定環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び固定環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るメカニカルシールであって、
前記固定環は、SiCの焼結体で作製されており、
前記固定環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、
前記固定環の外周面又は内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されており、且つ、
前記ダイヤモンド膜が形成された固定環の体積抵抗率が10
1〜10
4Ω・cmである。
【0009】
本発明のメカニカルシールでは、固定環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、前記固定環の外周面又は内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。また、ダイヤモンド膜が形成された固定環の体積抵抗率は10
1〜10
4Ω・cmである。ダイヤモンドは体積抵抗率が小さく、かかるダイヤモンドの膜を形成した固定環の体積抵抗率は、前記ダイヤモンド膜の膜厚により変動するが、通常の膜厚(例えば、1.0〜30.0μm)の範囲内であれば、前記のように10
1〜10
4Ω・cmと小さい。このため、固定環は電気が流れやすくなり、当該固定環に静電気が帯電するのを抑制することができる。
【0010】
(2)前記(1)のメカニカルシールにおいて、前記固定環における前記シール面と反対側の面である背面に、前記固定環の外周面又は内周面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜を形成することが望ましい。この場合、固定環の体積抵抗率をより小さくして当該固定環に静電気が帯電するのをより効果的に抑制することができる。
【0011】
(3)前記(1)又は(2)のメカニカルシールにおいて、前記固定環に帯電した静電気を当該固定環の外周面及び/又は内周面から除去する静電気除去部を備えていることが望ましい。この場合、静電気除去部によって固定環に帯電した静電気を除去することができるので、当該固定環に静電気が帯電するのをさらに効果的に抑制することができる。
【0012】
(4)前記(3)のメカニカルシールにおいて、前記静電気除去部は、前記固定環が取り付けられる部材に形成され当該固定環の外周面及び/又は内周面に冷却水を供給する供給路と、前記部材に形成され前記固定環の外周面及び/又は内周面に供給された冷却水を排出する排出路と、前記供給路に冷却水を供給するポンプとを備えたものとすることができる。この場合、ポンプにより供給路に冷却水を供給することで固定環を冷却するとともに、当該冷却水を介して固定環に帯電した静電気を外部に除電することができる。
【0013】
(5)前記(1)〜(4)のメカニカルシールにおいて、前記ケーシングは、当該ケーシング内で処理される被処理物と接触する当該ケーシングの内側面及び前記回転軸の表面にガラス又はフッ素樹脂がコーティングされたものとすることができる。この場合、ケーシング内で強酸又は強アルカリ性の、粉体又は電気伝導率の低い溶剤を攪拌処理する際に発生する静電気が固定環に帯電しようとしても、固定環はダイヤモンド膜でコーティングされており体積抵抗率が小さいので、当該固定環に静電気が帯電するのが抑制される。
【0014】
(6)前記(5)のメカニカルシールにおいて、前記被処理物を、強酸又は強アルカリ性の、粉体又は電気伝導率の低い溶剤とすることができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のメカニカルシールによれば、回転環に静電気が帯電するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明のメカニカルシールが適用される機器の一例である攪拌機の縦断面説明図である。
【
図2】本発明のメカニカルシールの一実施形態の縦断面説明図である。
【
図3】
図2に示されるメカニカルシールの要部拡大説明図である。
【
図4】
図2に示されるメカニカルシールの他の変形例の要部拡大説明図である。
【
図5】本発明のメカニカルシールの他の実施形態の要部拡大説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、添付図面を参照しつつ、本発明のメカニカルシールの実施の形態を詳細に説明する。
〔攪拌機の概要〕
図1は、本発明のメカニカルシールが適用される機器の一例である攪拌機Aの縦断面説明図である。
図1に示される攪拌機Aは、容器1内の被処理物を攪拌する攪拌翼(図示せず)の軸ないし回転軸2がほぼ垂直に配設される縦型の攪拌機である。容器1の上端部(
図1において上側の端部)には、架台3が配設されている。架台3は、ボルト4を容器1の口部5の下部に設けられた割フランジ6のネジ部に螺合させることで、当該口部5に取り付けられている。また、架台3は、容器1の上端面1aに形成された固定部7にスタッドボルト8により固定されている。
【0018】
架台3内には回転軸2の軸頭部2aが配設されており、この軸頭部2aの外周にはベアリング9及びメカニカルシールM1が設けられている。軸頭部2aの先端2a1は割カップリング11内に挿入されている。メカニカルシールM1は、軸方向一方側の容器1内の空間S1(以下、第1空間S1ともいう)と軸方向他方側の空間S2(以下、第2空間S2ともいう)とを仕切り、容器1内に存在する被処理物等が機外側に漏れるのを防止する。架台3の上部側方の開口12は、ステンレスなどの金属製の安全カバー13により閉止されている。
【0019】
攪拌機Aの容器1は、いわゆるGL釜と呼ばれる容器であり、当該容器1の内側面1b及び回転軸2の表面2b等の被処理物が接触する箇所ないし面には、例えばホーロー等のガラスがコーティングされている。ガラスをコーティングすることで耐食性が向上するので、容器1内で、強酸又は強アルカリ性等の腐食性の強い物質の攪拌処理を行うことができる。ガラス以外に、フッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと省略することもある)等をコーティングすることで容器の耐食性を向上させることもできる。
【0020】
〔メカニカルシール〕
図2は、本発明の一実施形態に係るメカニカルシールM1の縦断面説明図であり、
図3は、
図2に示されるメカニカルシールM1の要部拡大説明図である。なお、
図2〜3及び後出する
図4〜5においては、分かりやすくするために、ダイヤモンド膜の膜厚を誇張して描いている。メカニカルシールM1は、縦型の攪拌機に取り付けられ、
図2〜3において、左側が攪拌機の上部側(機外側)であり、同じく右側が攪拌機の下部側(機内側)である。
【0021】
図2に示されるメカニカルシールM1は、ケーシングとしての攪拌機の容器内を挿通する回転軸20に設けられた回転環21と、前記回転環21と軸方向に対向して配設された固定環22と、前記回転環21と固定環22との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環21及び固定環22のうちの一方である回転環21を他方の固定環22側に押す弾性手段であるスプリング23及びベローズ24と、を備えている。
【0022】
回転軸20の外周には円筒状のストッパーリング25が外嵌されており、このストッパーリング25はセットスクリュー26により回転軸20に固定されている。ストッパーリング25の軸方向の機内側には環状のドライブカラー27が配設されている。このドライブカラー27は、前記ストッパーリング25を貫通するボルト28に螺合されて軸方向に位置決めされている。
【0023】
スプリング23は、ストッパーリング25とスプリングリテーナー29との間に周方向に等間隔で複数装填されている。
図2では、1つのスプリング23だけが図示されている。スプリング23は、ドライブカラー27の周縁部に形成された孔27a内に配設され、機外側端部がストッパーリング25の機内側の面25aと当接し、機内側端部がスプリングリテーナー29の機外側の面に形成された凹部29aの底面と当接している。スプリング23は、回転環21を固定環22側に押して当該回転環21のシール面21a(
図3参照)を固定環22のシール面22aと接触させるために、スプリングリテーナー29及びベローズ24を軸方向機内側に付勢する。
【0024】
ドライブカラー27の機内側の面には、適宜の数のドライブピン30が形成されている。一方、スプリングリテーナー29の機外側の面には、前記ドライブピン30と同数の凹所31が形成されている。ドライブピン30を凹所31に係合させることにより、スプリングリテーナー29は、回転環21の軸線方向の移動を所定の範囲で許容しつつ、ドライブカラー27に対する相対回転は阻止されるようになる。
【0025】
ベローズ24は、スプリングリテーナー29の内周側に配設されている。ベローズ24は、耐食性に優れたフッ素樹脂であるポリテトラフルオロエチレン等で作製された円筒状の一体構造物である。ベローズ24は、その軸方向又は上下方向(
図2において左右方向)の中間部に、軸方向又は上下方向に伸縮自在の断面蛇行状の伸縮部24aを有している。ベローズ24の上端部(基端部)である固定部24bは、ステンレス等の金属製の環状のアダプタ32により回転軸20に嵌合固定されている。
【0026】
回転環21は、例えばガラス繊維、カーボン繊維、耐熱樹脂、グラファイト等の充填材入りのPTFE等で作製された環状の部材であり、その下端部に、軸線に直交する平滑な環状平面であるシール面21aが形成されている。回転環21とスプリングリテーナー29は、相対回転が阻止されている。
【0027】
回転環21は、ベローズ24の下端部(先端部)である連結部24cと一体的に連結されている。すなわち、回転環21とベローズの連結部24cは、ベローズ24及び回転環21、又はいずれか一方の成形加工時において連結されるか、又は、ベローズ24及び回転環21の成形加工後において両者を一体化させることで連結される。一体化された状態において、ベローズ24と回転環21との軸方向の境界は明瞭には現れない。なお、ベローズ24の連結部24cの外径は、回転環21の上端部(基端部)と同一の外径となるように、当該ベローズ24の伸縮部24a及び固定部24bよりも若干大径とされている。
【0028】
スプリングリテーナー29の内周側には環状の段部29bが形成されている。また、ベローズ24の連結部24cの周縁部は当該ベローズ24の伸縮部24aの外周面よりも径方向外方に突出した段部24c1とされている。スプリングリテーナー29の段部29bは、ベローズ24の伸縮部24aの段部24c1と係合しており、両段部29b、24c1の係合により、スプリング23による付勢力がスプリングリテーナー29を介してベローズ24に作用するように構成されている。
【0029】
固定環22は、SiC(炭化ケイ素)の焼結体で作製されており、この焼結体は、例えばSiCの常温焼結又は反応焼結により得ることができる。固定環22は、Oリング33,34を介して第1フランジ35に取り付けられている。この第1フランジ35には、回転環21や固定環22から生じる摩耗粉の飛散を防止するための、アクリル等の合成樹脂で作製されたカバー36がボルト37により固定されている。また、第1フランジ35には、ボルト38により第2フランジ39が取り付けられている。本実施形態では、第1フランジ35に、固定環22の外周面に冷却液を供給する供給路である供給孔40が形成されている。なお、固定環22における、回転軸20を中心として供給孔40と反対側の箇所には、固定環22に供給された冷却液を外部に排出する排出路である排出孔(図示せず)が形成されている。冷却液は、図示しないポンプにより供給孔40に供給される。本実施形態では、前記供給孔40、排出孔及びポンプが、固定環22に帯電した静電気を除去する静電気除去部を構成している。
【0030】
固定環22の軸方向機外側の端部には、軸線に直交する平滑な環状平面であるシール面22aが形成されている。回転環21のシール面21aが固定環22のシール面22aに付勢されつつ当接することで、機内側の第1空間S1と機外側の第2空間S2とがシールされる。
【0031】
本実施形態では、固定環22のシール面22a、外周面22b、及び、当該固定環22における前記シール面22aと反対側の面である背面22cにダイヤモンド膜d1,d2,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、互いに連続するように形成されている。各ダイヤモンド膜d1,d2,d3を形成した、SiCの焼結体からなる固定環22の体積抵抗率は、当該ダイヤモンド膜d1,d2,d3の膜厚により多少変動するが、10
1〜10
4Ω・cmと小さな値となる。このため、固定環22は電気が流れやすくなり、当該固定環22に静電気が帯電するのを抑制することができる。すなわち、メカニカルシールM1が配設される攪拌機の容器内の粉体や溶剤からの帯電や、回転環21のシール面21aと固定環22のシール面22aとの摺接により発生する静電気の帯電が生じたとしても、固定環22は体積抵抗率が小さく、電気が流れやすくなっていることから、当該固定環22に静電気が帯電するのが抑制される。
【0032】
また、本実施形態では、固定環22が取り付けられる部材である第1フランジ35に冷却液を供給する供給孔40が形成されている。このため、前記供給孔40から固定環22の外周面22bに冷却水を供給することで、当該固定環22を冷却するだけでなく、冷却水を介して固定環22に帯電した静電気を機外に除電することができる。したがって、固定環22に静電気が帯電するのをより効果的に抑制することができる。
【0033】
各ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、例えばマイクロ波CVD法、熱フィラメントCVD法等の一般的な製造技術を用いて作製することができる。また、ダイヤモンド膜d1,d2,d3の厚さは、本発明において特に限定されるものではないが、通常、1.0〜30.0μm、好ましくは5.0〜15.0μmである。固定環22の体積抵抗率をより小さくするという観点からは、5.0μm以上の厚さであることが望ましい。また、ダイヤモンド膜d1,d2,d3が厚くなる程膜の表面粗度も大きくなり、精密な機械部品であるメカニカルシールM1のシール面として使用するのが困難になるのに加えてダイヤモンド膜d1,d2,d3の残留応力が大きくなることを考慮すると、15.0μm以下であることが望ましい。ダイヤモンド膜d1とダイヤモンド膜d2、d3とは同じ厚さであってもよいが、互いに異なる厚さであってもよい。
【0034】
なお、ダイヤモンド膜を形成する際に当該膜にボロン(ホウ素)等の不純物をドーピングさせると、ダイヤモンドだけからなる膜を形成する場合よりも固定環22の体積抵抗率を小さくすることができる。また、ドーピング量を増加させるにしたがい体積抵抗率を小さくすることができる。一方において、ダイヤモンド膜をボロン等でドーピングすると、できた膜の脆性が低下する(脆くなる)。したがって、回転環21と固定環22とを摺動させることによりシールするメカニカルシールM1においては、ボロン等でドーピングしていないダイヤモンド膜(ノンドープダイヤモンド膜)を固定環22に形成することが望ましい。
【0035】
図4は、
図2〜3に示される実施形態の変形例の要部拡大説明図である。この変形例は、固定環22の外周面22bに代えて当該固定環22の内周面22dにダイヤモンド膜d4が形成されている点が上記実施形態に係るメカニカルシールM1と異なっている。したがって、上記実施形態と共通する構成要素には同一の参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0036】
この変形例では、固定環22のシール面22a、内周面22d、及び、当固定環22における前記シール面22aと反対側の面である背面22cにダイヤモンド膜d1,d4,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d4,d3は、互いに連続するように形成されている。このため、本実施形態においても、固定環22は電気が流れやすくなり、当該固定環22に静電気が帯電するのを抑制することができる。すなわち、メカニカルシールM1が配設される攪拌機の容器内の粉体や溶剤からの帯電や、回転環21のシール面21aと固定環22のシール面22aとの摺接により発生する静電気の帯電が生じたとしても、ダイヤモンド膜d1,d4,d3が形成された固定環22は体積抵抗率が小さく、電気が流れやすくなっていることから、当該固定環22に静電気が帯電するのが抑制される。
なお、上記実施形態との差異を明確にするため、固定環22のシール面22a、内周面22d、及び、背面22cにダイヤモンド膜d1,d4,d3を形成することとしたが、これに加え、外周面22bにダイヤモンド膜d2を形成してもよい。
【0037】
図5は、本発明の他の実施形態に係るメカニカルシールM2の縦断面説明図である。回転軸50及び固定環41の構成、並びに当該固定環41が取り付けられる第1フランジ42の構成が、
図2〜4に示される実施形態に係るメカニカルシールM1における回転軸20及び固定環22、並びに第1フランジ35の構成とそれぞれ相違している点を除いて、メカニカルシールM2の基本構成はメカニカルシールM1と共通している。したがって、両メカニカルシールM1、M2で共通する要素ないし部材には、同じ参照符号を付し、簡単のため、それらについての説明は省略する。
【0038】
本実施形態では、固定環41のシール面41a、外周面41b、及び、当該固定環41における前記シール面41aと反対側の面である背面41cにダイヤモンド膜d1,d2,d3がそれぞれ形成されている。ダイヤモンド膜d1,d2,d3は、互いに連続するように形成されている。このため、固定環41は電気が流れやすくなり、当該固定環41に静電気が帯電するのを抑制することができる。すなわち、メカニカルシールM2が配設される攪拌機の容器内の粉体や溶剤からの帯電や、回転環21のシール面21aと固定環41のシール面41aとの摺接により発生する静電気の帯電が生じたとしても、ダイヤモンド膜d1,d2,d3が形成された固定環41は体積抵抗率が小さく、電気が流れやすくなっていることから、当該固定環41に静電気が帯電するのが抑制される。
【0039】
本実施形態では、固定環41は、メカニカルシールM1における固定環22と異なり、Oリングを介することなく直接に第1フランジ42に嵌合されている。また、第1フランジ42の外周には架台43が当接している。第1フランジ42及び架台43は、いずれも通電可能なステンレスや炭素鋼等の金属で作製されている。したがって、固定環41に帯電した静電気は、前記第1フランジ42及び架台43を経由して機外に除電することができる。その結果、固定環41が帯電するのをより効果的に抑制することができる。本実施形態では、固定環41と通電可能に当接する金属製の部材である第1フランジ42及び架台43が、固定環41に帯電した静電気を除去する静電気除去部を構成している。
【0040】
〔その他の変形例〕
なお、本発明のメカニカルシールは前述した実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において種々の変更が可能である。
例えば前述した実施形態では、メカニカルシールが適用される機器として縦型攪拌機を例示しているが、横型攪拌機に適用してもよい。また、本発明のメカニカルシールは、攪拌機以外にも、例えばグラスライニング等を施したポンプ、使用する流体によって帯電が生じるステンレスや炭素鋼製の産業用ポンプにも適用することができる。いずれの場合においても、固定環の表面にダイヤモンド膜を形成することで当接固定環の体積抵抗率を小さくすることができ、固定環に静電気が帯電するのを抑制することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 : 容器
1a: 上端面
1b: 内側面
2 : 回転軸
2a: 軸頭部
2b: 表面
3 : 架台
4 : ボルト
5 : 口部
6 : 割フランジ
7 : 固定部
8 : スタッドボルト
9 : ベアリング
11 : 割カップリング
12 : 開口
13 : 安全カバー
20 : 回転軸
21 : 回転環
21a: シール面
22 : 固定環
22a: シール面
22b: 外周面
22c: 背面
22d: 内周面
23 : スプリング
24 : ベローズ
24a: 伸縮部
24b: 固定部
24c: 連結部
25 : ストッパーリング
26 : セットスクリュー
27 : ドライブカラー
28 : ボルト
29 : スプリングリテーナー
29a: 凹部
29b: 段部
30 : ドライブピン
31 : 凹所
32 : アダプタ
33 : Oリング
34 : Oリング
35 : 第1フランジ
36 : カバー
37 : ボルト
38 : ボルト
39 : 第2フランジ
40 : 供給孔
41 : 固定環
42 : 第1フランジ
43 : 架台
A : 攪拌機
M1: メカニカルシール
M2: メカニカルシール
S1: 第1空間
S2: 第2空間
d1: ダイヤモンド膜
d2: ダイヤモンド膜
d3: ダイヤモンド膜
d4: ダイヤモンド膜
【要約】
【課題】回転環に静電気が帯電するのを抑制することができるメカニカルシールを提供する。
【解決手段】ケーシング内を挿通する回転軸に設けられた回転環と、前記回転環と軸方向に対向して配設された固定環と、前記回転環と固定環との対面するシール面同士を接触させるべく当該回転環及び固定環のうちの一方を他方側に押す弾性手段と、を備え、前記シール面間を挟んで軸方向一方側の第1空間と軸方向他方側の第2空間とを仕切るメカニカルシール。前記固定環は、SiCの焼結体で作製されている。前記固定環における前記回転環と対面するシール面にダイヤモンド膜が形成されており、且つ、前記固定環の外周面又は内周面に、前記シール面のダイヤモンド膜と連続するダイヤモンド膜が形成されている。前記ダイヤモンド膜が形成された固定環の体積抵抗率が10
1〜10
4Ω・cmである。
【選択図】
図2