(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本開示の実施形態について説明する。
【0009】
(ゴム組成物)
本実施形態に係るゴム組成物は、ゴム成分に、セルロースナノファイバ(以下、「CNF」ともいう。)及び短繊維が分散して含有された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されてゴム成分が架橋したものである。CNFの含有量はゴム成分100質量部に対して好ましくは0.5質量部以上であり、より好ましくは1質量部以上であり、また、好ましくは20質量部以下であり、より好ましくは10質量部以下である。また、短繊維の含有量はゴム成分100質量部に対して好ましくは1質量部以上であり、より好ましくは5質量部以上であり、また、好ましくは40質量部以下であり、より好ましくは30質量部以下である。
【0010】
ここで、ゴム成分としては、エチレン・プロピレンコポリマー(EPR)、エチレン・プロピレン・ジエンターポリマー(EPDM)、エチレン・オクテンコポリマー、エチレン・ブテンコポリマーなどのエチレン−α−オレフィンエラストマー;クロロプレンゴム(CR);クロロスルホン化ポリエチレンゴム(CSM);水素添加アクリロニトリルゴム(H−NBR)等が挙げられる。ゴム成分は、これらのうち1種又は2種以上のブレンドゴムであることが好ましい。特に、クロロプレンゴム(CR)が好ましい。
【0011】
ゴム成分としてCRを用いる場合、CRが主成分であって、ゴム成分におけるCRの含有量は50質量%よりも多いのが好ましい。更に、発熱を抑制し且つ優れた耐摩耗性を得る観点から、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0012】
CRとしては、Gタイプの硫黄変性CR、Wタイプのメルカプタン変性CR、Aタイプの高結晶CR、低粘度CR、カルボキシル化CR等が挙げられる。ゴム成分に含有されるCRは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、ベルトの伝動効率及び耐久性の観点から、硫黄変性CRを含むことがより好ましく、硫黄変性CRを主体として含むことが更に好ましく、硫黄変性CRのみで構成されることがより更に好ましい。最も好ましいのは、ゴム成分が硫黄変性CRのみで構成されることである。
【0013】
CNFは、植物繊維を細かくほぐすことで得られる植物細胞壁の骨格成分で構成されている。CNFの原料パルプとしては、例えば、木材、竹、稲(稲わら)、じゃがいも、サトウキビ(バガス)、水草、海藻等のパルプが挙げられる。これらのうち木材パルプが好ましい。
【0014】
CNFとしては、TEMPO酸化CNF及び機械解繊CNFが挙げられる。CNFは、これらのうちの1種又は2種を含むことが好ましく、TEMPO酸化CNFを含むことが好ましく、TEMPO酸化CNFを主体として含むことが好ましく、TEMPO酸化CNFのみで構成されることが更に好ましい。
【0015】
TEMPO酸化CNFは、原料パルプに含まれるセルロースにN−オキシル化合物を触媒として共酸化剤を作用させることにより、セルロース分子中のC6位の水酸基を選択的にカルボキシル基に酸化し、それを機械的に微細化して得られるCNFである。N−オキシル化合物としては、例えば、2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)のフリーラジカルや4−アセトアミド−TEMPO等が挙げられる。共酸化剤としては、例えば、次亜ハロゲン酸及びその塩、亜ハロゲン酸及びその塩、過ハロゲン酸及びその塩、過酸化水素、並びに過有機酸等が挙げられる。機械解繊CNFは、原料パルプを、例えば、二軸混練機などの混練機、高圧ホモジナイザー、グラインダー、ビーズミル等の解繊装置により粉砕して得られるCNFである。
【0016】
TEMPO酸化CNFの繊維径は例えば1nm以上10nm以下であり、また、その分布が狭い。一方、機械解繊CNFの繊維径は数十nm〜数百nmであり、その分布が広い。従って、TEMPO酸化CNF及び機械解砕CNFは、このような繊維径の大きさ及びその分布により明確に区別することができる。
【0017】
本実施形態のゴム組成物が含有するCNFの平均繊維径は、好ましくは1nm以上で有り、より好ましくは2nm以上であり、また、好ましくは200nm以下であり、より好ましくは50nm以下であり、更に好ましくは20nm以下である。
【0018】
CNFは、疎水化処理された疎水化CNFを含んでいてもよい。疎水化CNFとしては、セルロースの水酸基の一部又は全部が疎水性基に置換されたCNF、及び表面処理剤によって疎水化表面処理されたCNFが挙げられる。セルロースの水酸基の一部又は全部が疎水性基に置換されたCNFを得るための疎水化としては、例えば、エステル化、アルキル化、トシル化、エポキシ化、アリール化等が挙げられる。これらのうちエステル化が好ましい。具体的には、エステル化された疎水化CNFは、セルロースの水酸基の一部又は全部が、酢酸、無水酢酸、プロピオン酸、酪酸等のカルボン酸、若しくは、そのハロゲン化物によりアシル化されたCNFである。表面処理剤によって疎水化表面処理されたCNFを得るための表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤等が挙げられる。
【0019】
また、短繊維としては、例えば、パラ系アラミド短繊維、メタ系アラミド短繊維、ナイロン6短繊維、ナイロン6,6短繊維、ナイロン4,6短繊維、ポリエチレンテレフタレート短繊維、ポリエチレンナフタレート短繊維等が挙げられる。短繊維は、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、パラ系アラミド短繊維を含むことがより好ましく、パラ系アラミド短繊維を主体として含むことが好ましく、パラ系アラミド短繊維のみで構成されることがより更に好ましい。
【0020】
パラ系アラミド短繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミドの短繊維(例えば、デュポン社製のケブラー、帝人社製のトワロン)及びコポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの短繊維(例えば帝人社製のテクノーラ)が挙げられる。パラ系アラミド短繊維は、これらのうちの1種又は2種を含むことが好ましく、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの短繊維を含むことがより好ましく、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの短繊維を主体として含むことが更に好ましく、コポリパラフェニレン−3,4’−オキシジフェニレンテレフタルアミドの短繊維のみで構成されることがより更に好ましい。
【0021】
短繊維の繊維長は、好ましくは0.5mm以上5.0mm以下、より好ましくは1.0mm以上3.0mm以下である。短繊維の繊維径は、好ましくは5.0μm以上であり、より好ましくは8μm以上であり、また、好ましくは30μm以下であり、より好ましくは25μm以下である。
【0022】
実施形態に係るゴム組成物を形成する未架橋ゴム組成物には、CRの架橋剤が配合されてる。その架橋剤としては、例えば、酸化亜鉛、酸化マグネシウム等の金属酸化物が挙げられる。架橋剤は、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムを併用することが好ましい。酸化亜鉛の配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上7質量部以下、より好ましくは4質量部以上6質量部以下である。酸化マグネシウムの配合量は、ゴム成分100質量部に対して、好ましくは3質量部以上7質量部以下、より好ましくは4質量部以上6質量部以下である。
【0023】
また、本実施形態の係るゴム組成物は、カーボンブラック(以下、「CB」ともいう)が分散して含有されていても良い。例えば、チャネルブラック;SAF、ISAF、N−339、HAF、N−351、MAF、FEF、SRF、GPF、ECF、N−234などのファーネスブラック;FT、MTなどのサーマルブラック;アセチレンブラック等が挙げられる。CBは、これらのうちの1種又は2種以上を含むことが好ましく、FEFを含むことがより好ましく、FEFを主体として含むことが更に好ましく、FEFのみで構成されることがより更に好ましい。
【0024】
実施形態に係るゴム組成物は、その他に、可塑剤、加工助剤、加硫促進助剤、加硫促進剤等のゴム配合剤を含有していてもよい。
【0025】
以上の構成の実施形態に係るゴム組成物は、CRラテックスにCNFを混合し、溶媒を除去することによりCRにCNFが分散したマスターバッチを作製し、そのマスターバッチに、或いは、そのマスターバッチにCR等のゴム成分を混練して希釈したものに、CBを含むゴム配合剤を配合して混練することにより未架橋ゴム組成物を得て、その未架橋ゴム組成物を加熱及び加圧してゴム成分を架橋させることにより得ることができる。
【0026】
実施形態に係るゴム組成物は、伝動ベルトを構成するために用いると、耐久性及び伝動効率に優れることから、伝動ベルト、特には変速ベルトのベルト本体の少なくとも一部を形成する材料として好適に用いることができる。
【0027】
(VリブドベルトB)
次に、本実施形態のゴム組成物を少なくとも一部に用いて形成される伝動ベルトとして、VリブトベルトBを説明する。
【0028】
図1及び
図2は、実施形態に係るVリブドベルトBを示す。実施形態に係るVリブドベルトBは、例えば、自動車のエンジンルーム内に設けられる補機駆動ベルト伝動装置等に用いられるエンドレスの動力伝達部材である。実施形態に係るVリブドベルトBは、例えば、ベルト長さが700〜3000mm、ベルト幅が10〜36mm、及びベルト厚さが4.0〜5.0mmである。
【0029】
実施形態に係るVリブドベルトBは、ベルト内周側のプーリ接触部分を構成する圧縮ゴム層11(底部ゴム層)と中間の接着ゴム層12とベルト外周側の背面ゴム層13との三層構造に構成されたゴム製のVリブドベルト本体10を備えている。Vリブドベルト本体10における接着ゴム層12の厚さ方向の中間部には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように心線14が埋設されている。なお、背面ゴム層13の代わりに背面補強布が設けられ、Vリブドベルト本体10が圧縮ゴム層11及び接着ゴム層12の二重層に構成されていてもよい。
【0030】
圧縮ゴム層11は、複数のVリブ15がベルト内周側に垂下するように設けられている。複数のVリブ15は、各々がベルト長さ方向に延びる断面略逆三角形の突条に形成されていると共に、ベルト幅方向に並列するように設けられている。各Vリブ15は、例えば、リブ高さが2.0〜3.0mm、基端間の幅が1.0〜3.6mmである。Vリブ15の数は例えば3〜6個である(
図1では6個)。接着ゴム層12は、断面横長矩形の帯状に構成されており、その厚さが例えば1.0〜2.5mmである。背面ゴム層13も、断面横長矩形の帯状に構成されており、厚さが例えば0.4〜0.8mmである。背面ゴム層13の表面には、背面駆動時の音発生を抑制する観点から、織布パターンが設けられていることが好ましい。
【0031】
圧縮ゴム層11、接着ゴム層12、及び背面ゴム層13は、ゴム成分に種々のゴム配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されて架橋剤により架橋したゴム組成物で形成されている。圧縮ゴム層11、接着ゴム層12、及び背面ゴム層13を形成するゴム組成物は、同一であっても、また、異なっていても、どちらでもよい。
【0032】
圧縮ゴム層11、接着ゴム層12及び背面ゴム層13の少なくとも一つは、本実施形態のゴム組成物により形成される。少なくとも圧縮ゴム層11は本実施形態のゴム組成物により形成されることが好ましく、圧縮ゴム層11、接着ゴム層12及び背面ゴム層13がいずれも本実施形態のゴム組成物により形成されることが更に好ましい。
【0033】
心線14は、ポリエチレンテレフタレート(PET)繊維、ポリエチレンナフタレート(PEN)繊維、パラ系アラミド繊維、ビニロン繊維等の撚り糸や組紐等の線材で構成されている。心線14は、Vリブドベルト本体10に対する接着性を付与するために、成形前にRFL水溶液に浸漬した後に加熱する接着処理及び/又はゴム糊に浸漬した後に乾燥させる接着処理が施されている。なお、心線14は、RFL水溶液及び/又はゴム糊による接着処理の前に、必要に応じてエポキシ樹脂やポリイソシアネート樹脂等の溶液からなる接着剤溶液に浸漬した後に加熱する接着処理が施されていてもよい。心線14の直径は例えば0.5〜2.5mmであり、断面における相互に隣接する心線14中心間の寸法は例えば0.05〜0.20mmである。
【0034】
(VリブドベルトBの製造方法)
実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法について、
図3〜
図8に基づいて説明する。
【0035】
図3及び
図4は、実施形態に係るVリブドベルトBの製造に用いるベルト成形型30を示す。
【0036】
このベルト成形型30は、同心状に設けられた、各々、円筒状の内型31及び外型32を備えている。
【0037】
内型31はゴム等の可撓性材料で形成されている。外型32は金属等の剛性材料で形成されている。外型32の内周面は成型面に構成されており、その外型32の内周面には、Vリブ15の形状と同一のVリブ形成溝33が軸方向に一定ピッチで設けられている。外型32には、水蒸気等の熱媒体や水等の冷媒体を流通させて温調する温調機構が設けられている。また、内型31を内部から加圧膨張させるための加圧手段が設けられている。
【0038】
実施形態に係るVリブドベルトBの製造方法は、材料準備工程、成形工程、架橋工程、及び仕上げ工程を有する。
【0039】
<材料準備工程>
−圧縮ゴム層用、接着ゴム層用、及び背面ゴム層用の未架橋ゴムシート11’,12’,13’−
圧縮ゴム層用、接着ゴム層用、及び背面ゴム層用の未架橋ゴムシート11’,12’,13’のうち、セルロースナノファイバーを含有させるものの作製を以下のようにして行う。
【0040】
まず、素練りしているゴム成分にセルロースナノファイバーを投入して混練することにより分散させる。
【0041】
ここで、ゴム成分へのセルロースナノファイバーの分散方法としては、例えば、セルロースナノファイバーを水に分散させた分散体(ゲル)を、オープンロールで素練りしているゴム成分に投入し、それらを混練しながら水分を気化させる方法、セルロースナノファイバーを水に分散させた分散体(ゲル)とゴムラテックスとを混合して水分を気化させて得られたセルロースナノファイバー/ゴムのマスターバッチを、素練りしているゴム成分に投入する方法、セルロースナノファイバーを溶剤に分散させた分散体とゴム成分を溶剤に溶解させた溶液とを混合して溶剤を気化させて得られたセルロースナノファイバー/ゴムのマスターバッチを、素練りしているゴム成分に投入する方法、セルロースナノファイバーを水に分散させた分散体(ゲル)を凍結乾燥させて粉砕したものを、素練りしているゴム成分に投入する方法、疎水化したセルロースナノファイバーを素練りしているゴム成分に投入する方法等が挙げられる。
【0042】
次いで、ゴム成分とセルロースナノファイバーとを混練しながら、各種のゴム配合剤を投入して混練を継続することにより未架橋ゴム組成物を作製する。
【0043】
そして、その未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形する。
【0044】
なお、セルロースナノファイバーを含有させないものの作製は、ゴム成分に各種のゴム配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形することにより行う。
【0045】
−心線14’−
心線14’に対して接着処理を施す。具体的には、心線14’に、RFL水溶液に浸漬して加熱するRFL接着処理を施す。また、RFL接着処理前に下地接着処理液に浸漬して加熱する下地接着処理を施すことが好ましい。なお、RFL接着処理前にゴム糊に浸漬して乾燥させるゴム糊接着処理を施してもよい。
【0046】
<成形工程>
図5に示すように、表面が平滑な円筒ドラム34上にゴムスリーブ35を被せ、その外周上に、背面ゴム層用の未架橋ゴムシート13’、及び接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’を順に巻き付けて積層し、その上から心線14’を円筒状の内型31に対して螺旋状に巻き付け、更にその上から接着ゴム層用の未架橋ゴムシート12’、及び圧縮ゴム層用の未架橋ゴムシート11’を順に巻き付ける。このとき、ゴムスリーブ35上には積層成形体B’が形成される。
【0047】
<架橋工程>
積層成形体B’を設けたゴムスリーブ35を円筒ドラム34から外し、
図6に示すように、それを外型32の内周面側に内嵌め状態にセットした後、
図7に示すように、内型31を外型32にセットされたゴムスリーブ35内に位置付けて密閉する。
【0048】
次いで、外型32を加熱すると共に、内型31の密封された内部に高圧空気等を注入して加圧する。このとき、内型31が膨張し、外型32の成型面に、積層成形体B’における未架橋ゴムシート11’,12’,13’が圧縮されて進入し、また、それらの架橋が進行し、且つ心線14’が複合一体化し、最終的に、
図8に示すように、円筒状のベルトスラブSが成型される。なお、ベルトスラブSの成型温度は例えば100〜180℃、成型圧力は例えば0.5〜2.0MPa、及び成型時間は例えば10〜60分である。
【0049】
<仕上げ工程>
内型31の内部を減圧して密閉を解き、内型31と外型32との間でゴムスリーブ35を介して成型されたベルトスラブSを取り出し、ベルトスラブSを所定幅に輪切りして表裏を裏返すことによりVリブドベルトBが製造される。
【0050】
(平ベルトC)
次に、本実施形態のゴム組成物を少なくとも一部に用いて形成される他の伝動ベルトとして、平ベルトを説明する。
【0051】
図9は、本実施形態の平ベルトCを模式的に示す。平ベルトCは、例えば、送風機やコンプレッサーや発電機などの駆動伝達用途、自動車の補機駆動用途等の比較的高負荷条件下での使用において長寿命が要求される用途で用いられる動力伝達部材である。平ベルトCは、例えば、ベルト長さが600〜3000mm、ベルト幅が10〜20mm、及びベルト厚さが2〜3.5mmである。
【0052】
平ベルトCは、ベルト内周側の内側ゴム層121とそのベルト外周側の接着ゴム層122と更にそのベルト外周側の外側ゴム層123とが積層されるように設けられて一体化した平ベルト本体120を備えている。接着ゴム層122には、そのベルト厚さ方向の中間部に、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように心線124が埋設されている。
【0053】
内側ゴム層121、接着ゴム層122、及び外側ゴム層123は、それぞれ断面横長矩形の帯状に形成されており、ゴム成分に種々の配合剤が配合されて混練された未架橋ゴム組成物が加熱及び加圧されることにより架橋剤により架橋されたゴム組成物で形成されている。内側ゴム層121の厚さは、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、また、好ましくは3.0mm以下、より好ましくは2.5mm以下である。接着ゴム層122の厚さは例えば0.6〜1.5mmである。外側ゴム層123の厚さは例えば0.6〜1.5mmである。
【0054】
内側ゴム層121、接着ゴム層122、及び外側ゴム層123を形成するゴム組成物のうち少なくとも1つは、本実施形態のゴム組成物からなる。少なくとも内側ゴム層121が本実施形態のゴム組成物からなることがより好ましく、内側ゴム層121、接着ゴム層122及び外側ゴム層123の全てが本実施形態のゴム組成物からなることが更に好ましい。
【0055】
心線124については、本実施形態のVリブドベルトの心線14と同一の構成を有する。
【0056】
本実施形態の平ベルトCによれば、このように平ベルト本体120を構成する内側ゴム層121、接着ゴム層122、及び外側ゴム層123を形成するゴム組成物のうち少なくとも1つが、繊維径の分布範囲が50〜500nmを含むセルロースナノファイバーを含有することにより、優れた耐屈曲疲労性を得ることができる。また、特に接触部分を構成する内側ゴム層121を形成するゴム組成物がかかるセルロースナノファイバーを含有する場合には、高い耐摩耗性と共に、安定な摩擦係数を得ることができる。
【0057】
(平ベルトCの製造方法)
平ベルトCの製造方法について、
図10、
図11及び
図12に基づいて説明する。平ベルトCの製造方法は、材料準備工程、成形工程、架橋工程、及び仕上げ工程を有する。
【0058】
<材料準備工程>
内側ゴム層用、接着ゴム層用、及び外側ゴム層用の未架橋ゴムシート121’,122’,123’のうち、セルロースナノファイバーを含有させるものを、上記Vリブドベルトの場合と同様にして作製する。なお、セルロースナノファイバーを含有させないものの作製は、ゴム成分に各種のゴム配合剤を配合し、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機で混練し、得られた未架橋ゴム組成物をカレンダー成形等によってシート状に成形することにより行う。
【0059】
また、心線124’に対して上記Vリブドベルトの場合と同様にして接着処理を施す。
【0060】
<成形工程>
図10(a)に示すように、円筒金型145の外周に内側ゴム層用の未架橋ゴムシート121’を巻き付けた後、その上に接着ゴム層用の未架橋ゴムシート122’を巻き付ける。
【0061】
次いで、
図10(b)に示すように、接着ゴム層用の未架橋ゴムシート122’の上に心線124’を螺旋状に巻きつけた後、その上に再び接着ゴム層用の未架橋ゴムシート122’を巻き付ける。
【0062】
次いで、
図10(c)に示すように、接着ゴム層用の未架橋ゴムシート122’の上に外側ゴム層用の未架橋ゴムシート123’を巻き付ける。これにより円筒金型145上に積層成形体C’が形成される。
【0063】
<架橋工程>
続いて、
図11に示すように、円筒金型145上の積層成形体C’にゴムスリーブ146を被せた後、それを加硫缶にセットして密閉し、高熱の水蒸気などにより円筒金型145を加熱すると共に、高圧をかけてゴムスリーブ146を円筒金型145側の半径方向に押圧する。このとき、積層成形体C’の未架橋ゴム組成物が流動すると共にゴム成分の架橋反応が進行し、加えて、心線124’の接着反応も進行し、これにより
図12に示すように円筒金型145上に筒状のベルトスラブSが形成される。
【0064】
<研磨・仕上げ工程>
研磨・仕上げ工程では、加硫缶から円筒金型145を取り出し、円筒金型145上に形成された円筒状のベルトスラブSを脱型した後、その外周面及び/又は内周面を研磨して厚さを均一化させる。
【0065】
最後に、ベルトスラブSを所定幅に幅切りすることにより平ベルトCが作製される。
【0066】
(コグドベルト)
次に、本実施形態のゴム組成物を少なくとも一部に用いて形成される更に他の伝動ベルトとして、コグドベルトを説明する。
【0067】
図13は、本実施形態に係るローエッジのシングルコグドVベルト301を模式的に示す図である。このようなシングルコグドVベルトは、例えば小型スクーターや農業機械の変速ベルトとして用いられる。
【0068】
シングルコグドVベルト300は、ベルト内周側の圧縮ゴム層311、ベルト外周側の伸張ゴム層312、及びそれらの間の接着ゴム層313が積層されて一体となって構成され、断面形状が台形のゴム製のベルト本体10を有する。接着ゴム層313の厚さ方向の中間部には、ベルト幅方向にピッチを有する螺旋を形成するように配された心線314が埋設されている。ベルト内周面を構成する圧縮ゴム層311の表面には内側補強布315が貼設されており、また、ベルト外周面を構成する伸張ゴム層312の表面には外側補強布316が貼設されている。そして、ベルト内周側にはベルト長さ方向に一定ピッチで内側コグ317が配設されている一方、ベルト外周側は平坦なベルト背面が構成されている。
【0069】
このようなシングルコグドVベルト300において、ベルト本体310を構成する圧縮ゴム層311、伸張ゴム層312及び接着ゴム層313のうちの少なくとも1つは、本実施形態のゴム組成物からなる。少なくとも圧縮ゴム層311が本実施形態のゴム組成物からなることがより好ましく、圧縮ゴム層311、伸張ゴム層312及び接着ゴム層313の全てが本実施形態のゴム組成物からなることが更に好ましい。
【0070】
心線314については、本実施形態のVリブドベルトの心線14と同一の構成を有する。
【0071】
本実施形態のシングルコグドVベルト300によると、圧縮ゴム層311、伸張ゴム層312及び接着ゴム層313のうちの少なくとも1つが、繊維径の分布範囲が50〜500nmを含むセルロースナノファイバーを含有することにより、優れた耐屈曲疲労性を得ることができる。
【0072】
(その他のベルト)
以上にVリブドベルトB及び平ベルトCを説明したが、これらに限定されることは無く、更に他の伝動ベルトであっても良い。
図14には、例として、摩擦伝動ベルトであるローエッジVベルト401及びラップドVベルト402と、噛み合い伝動ベルトである歯付ベルト403を示す。これらのベルトは、いずれもベルト本体410、心線414及び補強布415を備えている。ベルト本体410のうち底部ゴム部分又は全部が本実施形態のゴム組成物からなっていても良い。
【実施例】
【0073】
クロロプレンゴム(CR)をゴム成分とする実施形態のゴム組成物を用いて、各実施例及び比較例のベルトを作製した。ベルトの種類は、
図13に示すローエッジのシングルコグドVベルトである。
【0074】
(TEMPO酸化セルロースナノファイバー調整)
このために、セルロースナノファイバーを調整した。まず、TEMPO酸化を行った。具体的に、ソフトブリーチクラフトパルプを十分量のHCl(0.1M)及びイオン交換水により洗浄した。これにより得た洗浄パルプ(固形分13%)400gを4000mlのイオン交換水に混合した。当該混合物に、0.78gの2,2,6,6−テトラメチルピペリジン−1−オキシル(TEMPO)(東京化成工業株式会社)と、5.0gのNaBrとを加え、1時間攪拌した。
【0075】
続いて、NaClO(2M)を125mlを加えた。更に、pHを確認しながらNaOH(0.5M)を滴下した。この際、反応により変化するpHをNaOHの滴下によりpH10.0に維持するようにした。pHの変化が無くなった時点でNaOHの滴下を終了し、そのまま一時間攪拌した。その後、パルプ混合液を濾過し、濾物をイオン交換水により複数回洗浄した。
【0076】
次に、解繊を行った。上記のTEMPO酸化により得たパルプ(洗浄済の濾物)とイオン交換水とを混合して固形分1wt%とし、ビーズミルにより予備分散を行った。
【0077】
得られた分散液について、湿式微粒子化装置であるスターバースト(株式会社 スギノマシン製)を用いて150MPaにて4回の解繊処理を行った。以上により、TEMPO酸化CNFを得た。
【0078】
(ベルトの作製)
上記のようにして得たTEMPO酸化CNFを用い、試験評価用の種々のシングルコグドVベルトを作製した。これらベルトの共通した作成方法は次の通りである。
【0079】
上記で得たTEMPO酸化CNFと、CRラテックス(東ソー(株)製)とを混合してビーカーに入れ、φ100の6枚パドル翼のプロペラ型の攪拌機により、600rpmにて約4時間攪拌した。攪拌語の分散液について、50℃の雰囲気にて自然乾燥させてマスターバッチを作製した。 続いて、CR(硫黄変成クロロプレン)を素練りすると共に、そこにマスターバッチを投入して混練した。マスターバッチの投入量は、トータルのCRを100質量部としたときのセルロース系微細繊維の含有量が所定の質量部となる量とした。
【0080】
そして、密閉型のミキサーによりCRとセルロース系微細繊維とを混練すると共に、配合剤を混練りした。配合剤は、ゴム成分100質量部に対し、補強材のカーボンブラックFEF(東海カーボン社製 商品名:シーストSO)を20質量部、アラミド短繊維を20質量部、オイル(日本サン石油社製 商品名:サンパー2280)を5質量部、加硫促進助剤の酸化亜鉛(堺化学工業社製)を5質量部、酸化マグネシウム(協和化学工業社製 商品名:キョウワマグ150)を4質量部それぞれ投入して混練を継続することにより未架橋ゴム組成物を作製した。
【0081】
上記の配合は、表1に示している。以下でも説明する通り、CNF及び短繊維については様々な量の評価用ベルトを作製した。
【0082】
この未架橋ゴム組成物をシート状に成形し、ベルトの底ゴム層を構成するための未架橋ゴムシートとし、試験評価用のシングルコグドVベルトを作製した。
【0083】
【表1】
【0084】
(ベルトの伝動効率)
上記に説明した試験評価用のシングルコグドVベルトにおいて、配合するCNF及び短繊維の直径を変えて複数の評価用ベルトを作製した。つまり、CNFについて、平均直径2nm、10nm、20nm、50nm及び100nmの五種類を用いた。また、短繊維について、平均直径2μm、8μm、15μm、25μm及び50μmの五種類を用いた。これらの組合せにより、表2に示す番号1〜25の評価用ベルトを作製した。ここで、CR100質量部に対し、CNFの配合量は10質量部、短繊維の配合量は15質量部である。
【0085】
これらの番号1〜25の評価用ベルトについて、伝動効率の評価を行った。
図15は、本実施形態におけるベルトの伝動効率を測定するための走行試験機60を模式的に示す図である。走行試験機60において、プーリ径50mmの駆動プーリ61と、プーリ径120mmの従動プーリ62が備えられ、これらに評価用のベルトBが巻き掛けられる。従動プーリ62には600Nのデッドウェイトを掛け、気温40℃において、駆動プーリ61を5000rpmにて回転させる。この際に、駆動プーリ61に入力されるエネルギーに対して従動プーリ62から出力されるエネルギーを測定し、伝動の効率を算出する。表2には、算出した効率に基づく指数をベルト効率指数として示している。
【0086】
【表2】
【0087】
(ベルト伝動効率の評価)
表2に示す通り、CNF直径がいずれであっても、短繊維直径が8μm、15μm及び25μmの場合に、短繊維直径が2μm又は50μmの場合よりもベルト効率指数は優れている(番号2〜4、7〜9、12〜15、17〜19、22〜24)。また、CNF直径について、100nmであっても短繊維直径の違いによりベルト効率指数の向上は現れ(番号22〜24)、50nmではより顕著に短繊維直径の違いによりベルト効率指数が向上しており(番号17〜19、)、20nm、10nm及び5nmでは極めて顕著に短繊維直径の違いによりベルト効率指数が向上している(番号2〜4、7〜9、12〜15)。
【0088】
このように、短繊維直径は5μm以上でであることが好ましく、8μm以上であることがより好ましい。また、30μm以下であることが好ましく、25μm以下であることがより好ましい。これと共に、CNF直径については、1nm以上であることが好ましく、2nm以上であることがより好ましい。また、200nm程度以下であることが好ましく、50nm以下であることが好ましく、20nm以下であることが更に好ましい。
【0089】
(ベルトの耐久性)
上記に説明した試験評価用のシングルコグドVベルトにおいて、CNF及び短繊維の配合量を変えて複数の評価用ベルトを作製した。つまり、CNFについて、ゴム成分100質量部に対する配合量を、0質量部(つまり、配合無し)、1質量部、5質量部、20質量部及び30質量部の5通りとした。また、短繊維について、ゴム成分100質量部に対する配合量を、0質量部(配合無し)、5質量部、10質量部、30質量部及び45質量部の5通りとした。但し、両方とも0質量部(配合無し)の場合は除く。従って、番号26〜49の24種類のベルトを作製した。ここで、CNFの平均直径は10nm、短繊維の平均直径は10μmとした。
【0090】
これら番号26〜49のベルトについて、耐久性の評価として、耐摩耗性及び屈曲疲労性について評価を行った。
【0091】
図16は、耐摩耗性及びベルト屈曲疲労性について試験するための走行試験機40を示す。走行試験機40は、プーリ径φ40mmの駆動プーリ41とその右側方に設けられたプーリ径40mmの従動プーリ42とを備える。従動プーリ42は、軸荷重(デッドウェイトDW)を負荷してシングルコグドVベルトBに張力を付与できるように左右に可動に設けられている。
【0092】
(耐摩耗性)
番号26〜49の試験評価用ベルトについて、走行試験機40の駆動プーリ41及び従動プーリ42間に巻き掛け、従動プーリ42に対して右側方に600Nの軸荷重を負荷してベルトに張力を与えると共に、40℃の雰囲気温度下において駆動プーリ41を3000rpmの回転数で回転させることによりベルト走行させた。
【0093】
24時間走行させた時点において、ベルトの摩耗量(走行前後のベルト重量の減少量)とを測定した。数値が小さいほど摩耗量が小さいのであり、優れている。結果を表3に示す。
【0094】
(屈曲疲労性)
また、番号26〜49の試験評価用ベルトについて、走行試験機40の駆動プーリ41及び従動プーリ42間に巻き掛け、従動プーリ42に対して右側方に600Nの軸荷重を負荷してベルトに張力を与えると共に、100℃の雰囲気温度下において駆動プーリ41を3000rpmの回転数で回転させることによりベルト走行させた。定期的にベルト走行を停止すると共に、シングルコグドVベルトBにクラックが発生しているか否かを目視確認し、クラックの発生が確認されるまでのベルト走行時間を屈曲疲労性の評価とした。従って、数値が大きいほど耐久性に優れている。この結果についても、表3に示す。
【0095】
【表3】
【0096】
(ベルト耐久性の評価)
CNFを配合しない番号26〜29は耐摩耗性が劣っており、短繊維の配合量を増やすことで改善はするが、短繊維を45質量部配合する番号29のベルトでも耐摩耗性の値は188であって不十分である。また、屈曲疲労性についても低く、短繊維の配合量が増えるほど低下する。
【0097】
短繊維を配合しない番号30、35、40及び45については、屈曲疲労性の測定条件(雰囲気温度が100℃)においてベルトの走行が不可能であり、従って屈曲疲労性も測定不可能であった。尚、これらのベルトについても、耐摩耗性の測定条件(雰囲気温度が40℃)ではベルトは走行可能であり、従って、耐摩耗性は測定可能であった。
【0098】
CNFの配合量が1質量部(ゴム成分100質量部に対して。以下同じ)である番号30〜34について、短繊維を配合しない番号6については耐摩耗性が極めて悪い(560)が、短繊維を配合している番号31〜34については耐摩耗性が79〜125の範囲であって優れている。但し、屈曲疲労性については短繊維の配合量が45質量部である番号34について70であって低い。短繊維の配合量が5質量部、10質量部、30質量部である番号31〜33については屈曲疲労性についても108〜125であって優れている。
【0099】
CNFの配合量が5質量部である番号35〜39についても同様の傾向であり、短繊維の配合量が5質量部、10質量部及び30質量部である番号36〜38については耐摩耗性及び屈曲疲労性のいずれについても優れている。短繊維を配合しない番号35は耐摩耗性に劣り、短繊維の配合量が45質量部である番号39については屈曲疲労性が劣る。
【0100】
CNFの配合量が5質量部である番号40〜44についても、短繊維の配合量が5質量部、10質量部及び30質量部である番号41〜43については耐摩耗性及び屈曲疲労性のいずれについても優れている。
【0101】
CNFの配合量がゴム成分100質量部に対して30質量部である番号45〜49のベルトは、短繊維の配合量が5質量部の場合の屈曲疲労性は95であって比較的良いが、耐摩耗性が180と劣る。耐摩耗性は短繊維の配合量を増やすことで幾分改善するが、屈曲疲労性が大幅に劣化する。
【0102】
以上から、CNFを少量でも配合すると共に短繊維を用いることにより、耐摩耗性は大幅に改善する(例えば、番号26と31との比較)。従って、CNFの配合量は、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上であることが好ましく、1質量部以上であることがより好ましい。CNFの配合量が多くなりすぎると耐久性は劣化するので、配合量はゴム成分100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。
【0103】
また、CNFを配合する場合において、短繊維を少量でも用いることで耐摩耗性は大幅に改善する(例えば番号30と31との比較)。従って、短繊維の配合量は、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。短繊維の配合量を増やすと耐摩耗性は向上するが、多過ぎると屈曲疲労性が劣化する。従って、短繊維の配合量は、ゴム成分100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。
伝動ベルトは少なくとも底部ゴム(11)層を備える。底部ゴム層(11)を構成するゴム組成物は、ゴム成分と、セルロース微細繊維と、短繊維とを含む。セルロース微細繊維は、平均直径が1nm以上で且つ200nm以下であり、且つ、ゴム成分100質量部に対して0.5質量部以上配合されている。短繊維は、平均直径が5μm以上で且つ30μm以下であり、且つ、ゴム成分100質量部に対して1質量部以上配合されている。