特許第6427307号(P6427307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427307
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】サイドエアバッグ装置
(51)【国際特許分類】
   B60R 21/237 20060101AFI20181112BHJP
   B60R 21/207 20060101ALI20181112BHJP
   B60R 21/216 20110101ALI20181112BHJP
【FI】
   B60R21/237
   B60R21/207
   B60R21/216
【請求項の数】12
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2017-539797(P2017-539797)
(86)(22)【出願日】2016年8月23日
(86)【国際出願番号】JP2016074432
(87)【国際公開番号】WO2017047332
(87)【国際公開日】20170323
【審査請求日】2018年1月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-184440(P2015-184440)
(32)【優先日】2015年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
(31)【優先権主張番号】特願2016-5768(P2016-5768)
(32)【優先日】2016年1月15日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503358097
【氏名又は名称】オートリブ ディベロップメント エービー
(74)【代理人】
【識別番号】503175047
【氏名又は名称】オートリブ株式会社
(74)【復代理人】
【識別番号】100098143
【弁理士】
【氏名又は名称】飯塚 雄二
(72)【発明者】
【氏名】氏家 亨
(72)【発明者】
【氏名】小林 優斗
【審査官】 青木 良憲
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−281968(JP,A)
【文献】 特開2012−111359(JP,A)
【文献】 特開平11−020594(JP,A)
【文献】 特開2012−020628(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 21/237
B60R 21/207
B60R 21/216
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートの側部で膨張展開することで乗員を保護するサイドエアバッグ装置において、
折り畳み時に互いに対面する主基布を含むエアバッグと;
前記エアバッグに対して膨張ガスを供給するインフレータとを備え、
前記エアバッグは、前記主基布の周縁部において、当該周辺部形状に沿った外形形状を有する付加布を有し、
前記付加布は、前記周縁部近傍において前記主基布に結合され、当該付加布が前記エアバッグの内側に折り込まれる形態で、一対の山稜部と当該一対の山稜部の間に谷部とが形成されており、
前記付加布は、前記谷部の谷底部に跨がって形成されたベントホールを備え、
前記一対の山稜部近傍に、当該基布を貫通する孔が、それぞれの山稜部に設けられ、
前記それぞれの孔を通過する紐状部材がさらに設けられ、
前記エアバッグの膨張展開時に、当該紐状部材を切断することが可能な紐状部材切断装置を更に備えることを特徴とするサイドエアバッグ装置。
【請求項2】
前記それぞれの孔は、前記エアバッグの非膨張部分に設けられていることを特徴とする請求項1に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項3】
前記それぞれの孔は、前記エアバッグを折り畳んだ状態で前記山稜部を重ね合わせたときに、少なくとも一部分が重なる位置に設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項4】
前記紐状部材切断装置は、当該切断装置の作動前は前記ベントホールが閉じられおり、当該切断装置の作動後は前記ベントホールが開くように、前記紐状部材の切断を制御することを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項5】
前記付加布は、前記エアバッグの前記周縁部の任意の2点間を結ぶ直線と当該2点間の周縁部で囲まれた領域と合同な図形形状を有する半区画部を備え、
前記付加布は、前記半区画部の前記2点間を結ぶ直線と同じ長さの直線部分を有する一辺を前記谷底部とし、前記直線部分で線対称となるように、当該2つの半区画部を結合した形状を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項6】
前記付加布は、前記エアバッグの車両前方の端部において車両上下方向に延びることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項7】
前記一対の山稜部と前記谷底部とは互いに平行であることを特徴とする請求項1乃至6の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項8】
前記エアバッグの展開時に、前記ベントホールが膨張した前記エアバッグの最前部に位置することを特徴とする請求項1乃至7の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項9】
前記エアバッグの展開時に、前記ベントホールが膨張した前記エアバッグの上下方向中心よりも上部であり、乗員の肩部付近に位置することを特徴とする請求項1乃至8の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項10】
前記付加布は、前記エアバッグの車両の上下方向端部において車両前後方向に延びることを特徴とする請求項1乃至5の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項11】
記一対の山稜部と前記谷底部とは互いに平行であることを特徴とする請求項10に記載のサイドエアバッグ装置。
【請求項12】
前記付加布は、前記エアバッグの車両前後方向に延びる縁から車両上下方向に延びる縁によって形成される端部に設けられることを特徴とする請求項請求項1乃至5の何れか1項に記載のサイドエアバッグ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車両に搭載されるサイドエアバッグ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の事故発生時に乗員を保護するために1つまたは複数のエアバッグを車両に設けることは周知である。エアバッグは、例えば、自動車のステアリングホイールの中心付近から膨張して運転者を保護する、いわゆる運転者用エアバッグ、自動車の窓の内側で下方向に展開して車両横方向の衝撃や横転、転覆事故時に乗員を保護するカーテンエアバッグ、更には、車両横方向の衝撃時に乗員を保護すべく乗員とサイドパネルとの間で展開するサイドエアバッグなどの様々な形態がある。本発明は、車両用シートに備えられるサイドエアバッグ装置に関するものである。
【0003】
特許文献1の「エアバッグ」は、所望する部位の厚みを増やし、該部位の展開幅を大きくすることができるエアバッグを提供することを課題とし、エアバッグは、第1パネル及び第2パネルを平面的に重ね合わせ、その周縁部を外周シームで封止することにより、袋状に形成されている。エアバッグの内部において、外周シームの上端部にはテザーの基端が接合され、厚み規制部にはテザーの先端が接合されている。膨張展開した状態のエアバッグにおいては、その内部でテザーが張設されることにより、車両横方向へ延びる展開面が形成されている。そして、エアバッグには、展開面が形成された分、車両横方向の膨張を助長される厚み増加領域として、肩拘束部が形成される。
【0004】
特許文献2及び特許文献3には、展開方向の前面にベントホールを形成したエアバッグ装置が開示されている。この装置によれば、エアバッグの展開時にベントホールがドアや乗員によって塞がれる事態を回避可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−224817号公報
【特許文献2】特開平11−78767号公報
【特許文献3】特開平8−225054号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1にあっては、エアバッグの展開幅を大きくするなど、エアバッグの膨張形態を調整するにあたり、2枚のパネルにテザーを設けるようにしていて、部品点数が多く、またそのために組立作業や縫製作業も煩雑であるという課題があった。
【0007】
また、特許文献2及び3に記載のエアバッグ装置においては、ベントホールが速やかに開放されない恐れがあり、更に排気動作の安定性に改善の余地がある。
【0008】
本発明は上記のような状況に鑑みてなされたものであり、乗員を確実に拘束すると同時に、エアバッグの展開時にベントホールが設けられた端部の厚みを十分に確保し、ベントホールを速やかに開放することによって、エアバッグの展開挙動を最適化することができるサイドエアバッグを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、車両用シートの側部で膨張展開することで乗員を保護するサイドエアバッグ装置において、折り畳み時に互いに対面する主基布を含むエアバッグと;前記エアバッグに対して膨張ガスを供給するインフレータとを備える。前記エアバッグは、前記主基布の周縁部において、当該周辺部形状に沿った外形形状を有する付加布を有する。前記付加布は、前記周縁部近傍において前記主基布に結合され、当該付加布が前記エアバッグの内側に折り込まれる形態で、一対の山稜部と当該一対の山稜部の間に谷部とが形成されている。また、前記付加布は、前記谷部の谷底部に跨がって形成されたベントホールを備える。
【0010】
前記付加布は、前記エアバッグの前記周縁部の任意の2点間を結ぶ直線と当該2点間の周縁部で囲まれた領域と合同な図形形状を有する半区画部を備えるように構成すると共に、前記付加布は、前記半区画部の前記2点間を結ぶ直線と同じ長さの直線部分を有する一辺を前記谷底部とし、前記直線部分で線対称となるように、当該2つの半区画部を結合した形状とすることができる。
【0011】
前記付加布は、前記エアバッグの車両前方の端部において車両上下方向に延びるように構成することができる。
【0012】
前記一対の山稜部と前記谷底部とは互いに平行とすることができる。折り目を平行にすることにより、エアバッグの厚みを確実に確保可能となる。
【0013】
前記エアバッグの展開時に、前記ベントホールが膨張した前記エアバッグの最前部に位置するように構成することができる。また、前記エアバッグの展開時に、前記ベントホールが膨張した前記エアバッグの上下方向中心よりも上部であり、乗員の肩部付近に位置するように構成することができる。
このような構造を採用することにより、乗員の肩部付近が真っ先にエアバッグと接触するため、その部分でエアバッグの内圧を速やか且つ、確実に減圧させることができ、乗員のダメージを最小限に抑制可能となる。
【0014】
前記エアバッグは1枚の基布で成形され、縫製された縁部を有する構成とすることができる。
【0015】
前記付加布は、前記エアバッグの車両の上下方向端部において車両前後方向に延びる構成とすることができる。
前記付加布は、前記エアバッグの車両前後方向に延びる縁から車両上下方向に延びる縁によって形成される端部に設けられても良い。
【0016】
前記付加布を四角形の形状とし、前記谷底部が当該四角形の対角線により構成されるようにすることができる。ここで、前記四角形は、ひし形状とすることができる。
【0017】
前記谷部の谷底部は、前記付加布を開いた状態で前記一対の山稜部間の中心に形成することができる。また、前記谷底部が前記ベントホールの中心を通って延びる構成とすることができる。
このような構造を採用した場合、エアバッグの収容状態でベントホールが折れ曲がり、エアバッグの膨張初期の段階で速やかに開くことになる。また、ベントホールの開放タイミングが把握し易くなり、エアバッグの展開段階に応じた内圧の制御をより精密に行うことが可能となる。
【0018】
前記一対の山稜部近傍に、当該基布を貫通する孔が、それぞれの山稜部に設けられ、
前記それぞれの孔を通過する紐状部材がさらに設けられ、
前記エアバッグの膨張展開時に、当該紐状部材を切断することが可能な紐状部材切断装置を更に備える構成とすることができる。
【0019】
前記それぞれの孔は、前記エアバッグの非膨張部分に設けることができる。
【0020】
前記それぞれの孔は、前記エアバッグを折り畳んだ状態で前記山稜部を重ね合わせたときに、少なくとも一部分が重なる位置に設けることができる。
【0021】
前記紐状部材切断装置は、当該切断装置の作動前は前記ベントホールが閉じられおり、当該切断装置の作動後は前記ベントホールが開くように、前記紐状部材の切断を制御することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、本発明に係るサイドエアバッグが展開した状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。
図2図2は、本発明の第1実施例に係るサイドエアバッグ装置の作動状態の概略を示す正面図であり、膨張状態のバッグ本体及び車両用シートを車両前方から見た様子を示す。
図3図3は、第1実施例に係るサイドエアバッグ装置のバッグ本体を形成する基布の展開図である。
図4図4は、図3に示す基布を用いて構成されたエアバッグ装置の構造を示し、(A)が平面図、(B)が(A)図のA−A方向の断面図である。
図5図5は、第1実施例の変形例に係るサイドエアバッグ装置のバッグ本体を形成する基布の展開図である。
図6図6は、図5に示す基布を用いて構成されたエアバッグ装置の構造を示し、(A)が平面図、(B)が(A)図のA−A方向の断面図である。
図7図7は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置の構造を示し、(A)が平面図、(B)が(A)図の部分拡大図である。
図8図8は、図7に示されたエアバッグ本体を形成する基布及び追加布の形状を示す展開図である。
図9図9は、本発明の第3実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグ基布及び追加布の形状を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
まず、本発明に係るサイドエアバッグ装置を搭載した車両用シートについて、添付図面に基づいて説明する。なお、各図に表示する「前」とは車両の前方(進行方向)、「後」とは車両の後方(進行方向と反対側)、「内」とは車幅方向の内側(乗員側)、「外」とは車幅方向外側(ドアパネル側)をそれぞれ示す。また、「左」「右」とは、車両の進行方向に向かって左側、右側を各々示す。さらに、「上」「下」とは、「前後」「左右」に対して垂直な方向を示し、車両中心から着座した乗員の頭部方向を「上」、足下方向を「下」とする。
【0024】
図1は、本発明に係るサイドエアバッグが展開した状態を車幅方向の外側から観察した様子を示す。図2は、本発明の第1実施例に係るサイドエアバッグ装置の作動状態の概略を示す正面図であり、膨張状態のバッグ本体及び車両用シートを車両前方から見た様子を示す。
本実施例に係るサイドエアバッグ装置10は、車両シート(1,2,3)のシートバック1の内部に収容される。例えば、運転席や助手席に収納されたエアバッグ12は、内部に膨張ガスが導入されると、シートバック1から車室前方へ向かって乗員側方位置で膨張展開する。展開したエアバッグ12は、例えば、車両用シートに着座している乗員と、乗員に面するBピラーや車両用ドア等の車室内面との間の隙間に位置し、車室幅方向から乗員を保護する。
なお、符号2は乗員が着座する部分のシートクッションを示し、符号3はシートバック1の上端に連結されるヘッドレストを示す。
【0025】
図3は、図1及び図2に示したサイドエアバッグ装置のバッグ本体(エアバッグ)12を形成する基布14の展開図である。図4は、図3に示す基布を用いて構成されたエアバッグ装置10の構造を示し、(A)が平面図、(B)が(A)図のA−A方向の断面図である。
【0026】
エアバッグ12は、周知の各種素材で形成された基布14により作製される。本実施例において、エアバッグ12は単一の基布14を袋状にすることで形成される。具体的には、基布14は、二つ折りして外周縁を縫製18によって接合することによって、袋状に形成される。図4に示すように、袋状に成形されたエアバッグ12の内部にはインフレータ22が配置され、インフレータ22から放出されるガスによってエアバッグ12が膨張する。なお、図3及び図4に示した基布14の外形輪郭は単なる一例であって、各種様々な外形輪郭を採用することができる。
【0027】
エアバッグ12を成形する基布14の車両前方の端部には、車両上下方向に延びる一対の山折り線である山稜部L1,L2と、これら一対の山稜部L1,L2の間のエアバッグ12の周縁部の2点間14a、14bで車両上下方向に延び、エアバッグ12の内側に折り込まれる谷部と当該谷部の底で谷折りされた部分である谷底部L3とが形成されている。また、谷底部L3に跨がって円形のベントホール16が形成されている。なお、ベントホール16の形状は、円形に限定されず、上下方向に長い楕円形など、種々の形状を採用することができる。ただし、山稜部L1,L2の間の範囲内に位置し、谷底部L3に跨がって形成することは重要である。
【0028】
一対の山稜部L1,L2と谷底部L3とは互いに平行であり、谷底部L3は、一対の山稜部L1,L2の中心に延びる。すなわち、山稜部L1と谷底部L3との距離D1と、山稜部L3と谷底部L2との距離D2が同じになるように設定されている。ここで、山稜部L1と谷底部L3とで囲まれた部分は、半区画部21aを形成する。同様に、山稜部L2と谷底部L3とで囲まれた部分も半区画部21bを形成する。谷底部L3を形成する直線部分に対して、半区画部21aと21bは線対称となるように構成される。これにより、エアバッグ12の前方部分が、左右に偏ることなく速やかに展開可能となる。
【0029】
また、谷底部L3は、ベントホール16の中心を通って延びる。このような構成により、ベントホール16が速やかに開放され、ベントホール16が隣接する基布14の一部に密着して排気が遅延するような事態を回避可能となる。これは、前方に折り目L1,L2,L3を有する構造においては、エアバッグ12が完全に膨張するに先立ち、折り目の部分が開くように動作するためである。
【0030】
また、エアバッグ12の展開時に、ベントホール16が膨張したエアバッグ12の最前部に位置するように配置することが好ましい。ベントホール16が車両幅方向に偏って成形された場合、ベントホール16が乗員又は車両内面に接触し、あるいは接近して、速やか且つ確実な排気動作が妨げられる恐れがある。かかる問題は、本発明によって回避可能となる。
【0031】
更に、エアバッグ12の展開時に、ベントホール16が膨張したエアバッグ12の上下方向中心位置Hよりも上部であり、乗員の肩部付近に配置することが好ましい。乗員(人間)は、着座状態において肩部付近が最も左右に張り出しており、当該肩部付近が真っ先にエアバッグ12と接触する傾向にあり、その近傍にベントホール16を設けることにより、エアバッグ12の内圧を速やか且つ、確実に減圧させることができ、乗員のダメージを最小限に抑制可能となる。
【0032】
本実施例においては、山稜部L1,L2及び谷底部L3により、基布14には、一対の山稜部L1,L2の間にV字状の谷部を含む厚さ形成部(マチ部)30が形成される。すなわち、エアバッグ12の前端部において、車室幅方向に対する広がり(マチ/厚さ)を設けることができる。このように、山稜部L1,L2及び谷底部L3との配置(D1,D2の設定)によって、展開時のエアバッグ12の広がりを制御可能となる。なお、図4(B)においては、説明の便宜上、谷部における折り目(L1,L2,L3)をU字状としているが、実際には、V字状に近い鋭角な形状となる。
【0033】
本実施例に係る車両用サイドエアバッグの作用について説明する。エアバッグ12は、折り畳まれた状態で、シートバッグ1内部などに収納される。V字状の谷部を含む厚さ形成部30は、乗員の肩部周辺へ向かって展開するように位置設定される。インフレータ22から膨張ガスが流入して膨張を開始したエアバッグ12は、乗員と車室内面との間の隙間に位置して、乗員を車室幅方向から保護する。
【0034】
V字状の厚さ形成部30では、膨張ガスの圧力により、谷底部L3が谷部内部から外向きに迫り出し、これにより折り曲げられていたベントホール16が開くと同時に、一対の山稜部L1,L2が互いに離隔するように膨張する。このV字状の厚さ形成部30の膨張形態は、一対の山稜部L1,L2の離隔距離を適宜に設定することで調整することができる。
【0035】
V字状の谷部を含む厚さ形成部30の存在により、膨張時のエアバッグ12の端部の厚みを十分に確保することができ、乗員の肩部を好適かつ十分に拘束して、優れた乗員保護性能を発揮することができる。
【0036】
図3及び図4に示す第1実施例の変形例として、図5及び図6に示す構造を採用することができる。なお、図5及び図6に示す変形例において、図3及び図4に示す第1実施例と対応する構成要素については同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
図5及び図6に示す変形例は、第1実施例と比較して、エアバッグ14の基布の展開形状が異なる。図5に示すように、山稜部L1,L2と谷底部L3の端部が達する基布の上縁部と下縁部が湾曲することなく、直線状になっている。
【0037】
図6に示すように、本変形例においては、エアバッグ14の前端部が後端部より上下方向の長さ(高さ)が長くなっている。これにより、山稜部L1,L2の長さが谷底部L3の長さと等しいか、それよりも長くなるように形成することができる。その結果、エアバッグ14の前端部が大きく広がりやすくなり、エアバッグ14の膨張・展開をよりスムーズに行うことができる。その他の作用効果については、上記第1実施例と同様である。
【0038】
上述した第1実施例(図3及び図4)及びその変形例(図5及び図6)において、例えば、谷部を含む厚さ形成部30をエアバッグ12の上下両端において車両前後方向に延びるように形成することもできる。この場合にも、上記実施例と同様の効果を得ることが可能となる。
【0039】
図7は、本発明の第2実施例に係るサイドエアバッグ装置の構造を示し、(A)が平面図、(B)が(A)図の部分拡大図である。図8は、図7に示されたエアバッグ本体を形成する基布及び追加布の形状を示す展開図である。本実施例に係るサイドエアバッグ装置は、折り畳み時に互いに対面する主基布114(114a,114b)によって成形されるエアバッグ本体と;エアバッグに対して膨張ガスを供給するインフレータ122とを備える。エアバッグは、図8に示すように、2枚の主基布114a,114bの周縁部におけるバッグ形成後(縫製後)、車両前後方向に延びる縁116から車両上下方向に延びる縁117によって囲まれて形成されるエアバッグ端部に、当該周辺部形状に沿った外形形状を有する付加布132を備えている。なお、主基布114は必ずしも2枚を貼り合わせる構造とする必要はなく、第1実施例のように1枚の布を折り重ねて成形することもできる。
【0040】
図7において、主基布114a、114bは縫製118によって周縁部が縫い合わされ、これによって袋状に成形される。エアバッグの内側には、インナーチューブと呼ばれる袋状の小さなバッグ130が配置され、インフレータ122から放出された膨張ガスは、最初にインナーチューブ130に入り込み、その後エアバッグ内部のベントホール130a,130bを介してエアバッグ全体に充填されるようになっている。なお、インナーチューブ130は、主にOOP(非正規乗車位置)の乗員に対する加害性を軽減させるために設けられる。
【0041】
付加布132は、主基布114a,114bの周縁部近傍において当該主基布に結合される。付加布132がエアバッグの内側に折り込まれることにより、一対の山稜部133a,133bと当該一対の山稜部133a,133bの間に谷部とが形成されている。山稜部133a,133bで示される稜線は、頂点(133a1,133b1)を有するように屈曲して形成されていても良い。また、付加布132は、谷部の谷底部134に跨がって形成されたベントホール120を備えている。
【0042】
図8に示すように、2枚の主基布114a,114bは同一形状をしており、図の中心を谷折りするような方向で左右両側から重ね合わせて縫製される。主基布114a,114bの下方の端部付近には上述した付加布132が縫製によって連結される。
【0043】
本実施例においては、付加布132の形状は四角形(菱形)をなしており、基布114aの辺aと付加布132の辺aが対向し、基布114aの辺cと付加布132の辺cが対向する。ここで、四角形とは、4つの頂点を有し、4つの線分で囲まれた図形である。当該線分は、主に直線で構成されるが、本発明においては、直線に限らず、曲線や直線と曲線の組み合わせ混合されたもので構成されても良い。同様に、基布114bの辺bと付加布132の辺bが対向し、基布114bの辺dと付加布132の辺dが対向するようになっている。これら同一符号(a,b,c,d)同士の長さは、基本的に同一である。別の言い方をすると、付加布132は、主基布114a,114bの周縁部の任意の2点間を結ぶ直線と当該2点間(135ab1,135ab2)の周縁部で囲まれた領域と合同な図形形状(137a,137b)を有する2つの半区画部(139a,139b)を備える。また、付加布132は、半区画部の前記の2点間を結ぶ直線と同じ直線部分を有する一辺を谷底部134とし、この直線部分(谷底部)で線対称となるように、当該2つの半区画部(139a,139b)を結合した形状となっている。
【0044】
図8において、付加布132の縦方向に延びる谷底部134の中間には、付加布134を貫通するベントホール120が形成されている。なお、図7においては、付加布132は谷底部134がエアバッグの内側に入り込むように折り畳まれている。
【0045】
左右の山稜部133a,133bの外縁付近において、主基布114a,114b及び付加布132には、紐状部材140が通る孔136a,136b,138a,138bが設けられている。そして、主基布114aの孔136aと付加布132の孔138aが重なり合い、主基布114bの孔136bと付加布132の孔138bが重なり合うことで、貫通した2つの孔が形成される。
【0046】
本実施例においては、エアバッグの膨張展開時に、紐状部材140を切断する切断装置(図示せず)が備えられている。そして、切断装置の作動前の状態では、紐状部材140にテンションが掛かり、山稜部133a,133bが重なり合っており、ベントホール120が閉じられている。切断装置の作動によって紐状部材140が切断されると、当該紐状部材140のテンションが開放され、山稜部133a,133bが互いに離れる方向に開き、ベントホール120が開いて、エアバッグ内の膨張ガスが外部に放出されるようになっている。
【0047】
なお、図7(B)に示すように、2組の孔(136a+138a),(136b+138b)の周辺を囲むように縫製142,144が施されている。これによって、縫製142,144より外側(頂点133a1、133b1の側)の部分がエアバッグの膨張領域から隔離され、2組の孔(136a+138a),(136b+138b)の周辺に非膨張部分が形成される。若しくは、付加布又は主基布の一方の当該貫通孔付近が欠けるような形状をしており、その部分を避ける形で縫製しても良い。そうすると、孔の部分は一方の基布のみ存在する非膨張部(非袋状部)となる。
【0048】
図9は、本発明の第3実施例に係るサイドエアバッグ装置に使用されるエアバッグ基布214a,214b及び付加布232の形状を示す展開図である。なお、上述した第2実施例との相違点は、付加布の形状と大きさ及び、主基布と付加布との接合位置である。その他の構成は、概ね同じであり、対応する構成要素の符号において、第2実施例では百の位の数字を1とし、第3実施例では百の位の数字を2としている。
【0049】
本実施例においても、付加布232の形状は四角形(菱形)をなしており、基布214aの辺aと付加布232の辺aが対向し、基布214aの辺cと付加布232の辺cが対向する。同様に、基布214bの辺bと付加布232の辺bが対向し、基布214bの辺dと付加布232の辺dが対向するようになっている。これら同一符号(a,b,c,d)同士の長さは、基本的に同一である。別の言い方をすると、付加布232は、主基布214a,214bの周縁部の任意の2点間を結ぶ直線と当該2点間(235ab1,235ab2)の周縁部で囲まれた領域と合同な図形形状(237a,237b)を有する2つの半区画部(239a,239b)を備える。また、付加布232は、半区画部の前記の2点間を結ぶ直線と同じ直線部分を有する一辺を谷底部234とし、この直線部分(谷底部)で線対称となるように、当該2つの半区画部(239a,239b)を結合した形状となっている。
【0050】
本実施例においては、左右の山稜部の外縁付近において、主基布214a,214b及び付加布232には、紐状部材140が通る孔236a,236b,238a,238bが設けられている。そして、主基布214aの孔236aと付加布232の孔238aが重なり合い、主基布214bの孔236bと付加布232の孔238bが重なり合うことで、貫通した2つの孔が形成される。
【0051】
付加布232がエアバッグの内側に折り込まれることにより、一対の山稜部(133a,133b相当)と当該一対の山稜部の間に谷部とが形成される。また、付加布232は、谷部の谷底部234に跨がって形成されたベントホール220を備えている。なお、第3実施例の作用、動作については、上述した第2実施例と同様であり、重複した説明は省略する。
【0052】
以上に述べた車両用サイドエアバッグは、本発明の好ましい例であって、これ以外の実施形態例も、各種の方法で実施または遂行できる。特に、本願明細書中に限定される主旨の記載がない限り、この発明は、添付図面に示した詳細な部品の形状、大きさおよび構成配置等に制約されるものではない。また、本願明細書中に用いられた表現および用語は、説明を目的としたもので、特に限定される主旨の記載がない限り、それに限定されるものではない。
【0053】
例えば、本発明はニアサイド(乗員とドアトリムとの間)で展開するエアバッグのみならず、ファーサイド(乗員から見て座席のドアと反対側)で展開するエアバッグにも適用可能である。また、上述した第1実施例と第2実施例又は第3実施例を組み合わせることも可能である。
【0054】
本発明のサイドエアバッグは、展開時の前方端部の厚みを確保できるため、ファーサイドでは、隣席に乗員がいるときには、隣席乗員との衝突・干渉を軽減できる。他方、隣席に乗員がいない場合には、乗員が飛び出すのを抑制可能となる。更に、車両の斜め方向の衝突が発生した場合にも、バッグの前方端部が厚いため、乗員が斜め前方へ移動する力を軽減可能となる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9