(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
下地基板上に、第1の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層を形成する第1の工程と、
前記第1の層の上に、第2の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層を形成する第2の工程と、
前記第2の層を窒化する第3の工程と、
前記窒化された第2の層の上に、III族窒化物半導体層を形成する第4の工程と、
前記第4の工程の後、前記下地基板、前記第1の層、窒化された前記第2の層及び前記III族窒化物半導体層を含む積層体を、前記III族窒化物半導体層を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する第5の工程と、
を有し、
前記炭化物MCを構成する金属元素Mと、前記III族窒化物半導体層を構成するIII族元素とは異なる自立基板の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の自立基板の製造方法の実施形態について図面を用いて説明する。なお、図はあくまで発明の構成を説明するための概略図であり、各部材の大きさ、形状、数、異なる部材の大きさの比率などは図示するものに限定されない。
【0009】
本実施形態の自立基板の製造方法は、
(1)下地基板上に、第1の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層を形成する第1の工程と、
(2)第1の層の上に、第2の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層を形成する第2の工程と、
(3)第2の層を窒化する第3の工程と、
(4)窒化された第2の層の上に、III族窒化物半導体層を形成する第4の工程と、
(5)第4の工程の後、下地基板、第1の層、窒化された第2の層及びIII族窒化物半導体層を含む積層体を、III族窒化物半導体層を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する第5の工程と、
を有する。以下、炭化物MCが炭化チタンである場合を例にとり、各工程について説明する。なお、炭化物MCが炭化チタン以外である場合も、同様の工程で自立基板を製造することができる。
【0010】
<第1の工程>
第1の工程では、下地基板上に、第1の層として、炭化チタンが分散した炭素層を形成する。まず、下地基板を用意する。下地基板は、その上に形成される自立基板(III族窒化物半導体基板)と異なる異種基板とすることができる。下地基板の厚さは、250um以上1500um以下であり、400um以上600um以下が好ましい。下地基板が厚すぎると、以下で説明する第4の工程後に、下地基板とIII族窒化物半導体層16との熱膨張係数の差に起因した応力により、割れやクラックが入ってしまう場合がある。下地基板の厚さを、400um以上600um以下とすることで、このような不都合を軽減できる。本実施形態では、例えば、厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al
2O
3)基板10を下地基板として用意する。そして、次に、このサファイア基板10上に、第1の層11を形成する(
図1(A))。
【0011】
第1の層11は、炭化チタンが分散した炭素層である。例えば、第1の層11は、第1の層11中におけるTiとCの原子数比C/Tiが1.5以上、好ましくは3.0以上、さらに好ましくは3.5以上を満たすようにTiCが分散した炭素層とすることができる。このような第1の層11は、炭化チタンの層(第2の層)中の金属(チタン)と、サファイア基板10とが結合してしまうことを抑制する結合抑制膜として機能する。
【0012】
このような第1の層11は、例えばスパッタリングで形成することができる。第1の層11の成膜条件は、例えば以下のようにすることができる。
【0013】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:25〜1000℃
成膜時間:3〜60秒
圧力:0.2〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:5〜30sccm
反応性ガス:炭化水素(CH
4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.1nm〜0.4nm
【0014】
炭化水素の導入量がより多い条件で反応性スパッタリングを行うと、第1の層11中にTiCをより多く分散させることができる。上記成膜条件の場合、メタンガスの供給量を適当に調整することで、第1の層11中に分散する炭化チタンの量を調整できる。すなわち、メタンガスの供給量を適当に調整することで、第1の層11中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
【0015】
また、印加電力をより大きくした条件で反応性スパッタリングを行うと、第1の層11中にTiCをより多く分散させることができる。すなわち、印加電力を適当に調整することで、第1の層11中に分散する炭化チタンの量を調整し、第1の層11中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
【0016】
第1の層11は、Cを主成分とした膜であり、炭素膜を母材とし、この母材中にTiCを含む膜である。たとえば、炭素が海状(マトリクス)であり、TiCがこのマトリクス中に分散した形態である。
【0017】
第1の層11の成膜温度は、25℃以上であればよい。なかでも、第1の層11の成膜温度は第2の層12の成膜温度以上であることが好ましい。具体的には、600℃以上、特には、800℃以上で成膜することが好ましい。
【0018】
このようにすることで、第1の層11は緻密な膜となり、均一で結晶配向性の高い層が形成され、第4の工程で形成されるIII族窒化物半導体層の高品質化が実現する。
【0019】
また、第1の層11の成膜温度を高くすると、第1の層11中に分散したTiCの一部も結晶配向が起こり、これにより、第2の層12の結晶配向性も向上することとなる。
【0020】
第1の層11の厚みは、0.1nm以上、0.4nm以下であることが好ましい。なかでも、0.2nm以上、0.3nmであることが好ましい。この第1の層11の厚みは、スパッタリング装置による成膜条件(成膜時間等)から計算した値である。
【0021】
また、第1の層11は、サファイア基板10のうち、後述する第2の層12が形成される領域(本実施形態では、サファイア基板10の全面)を完全に被覆する必要はない。第1の層11は、下地基板であるサファイア基板10を完全に被覆していてもよいし、または、島状あるいはドット状の膜がサファイア基板10上に均一又はまだらに分布し、局所的にサファイア基板10が露出する態様であってもよい。
【0022】
第1の層11を、サファイア基板10を完全被覆するものとした場合には、III族窒化物半導体層を容易にサファイア基板10から剥離させることができる。
【0023】
一方で、第1の層11を、島状あるいはドット状の膜とした場合には、サファイア基板10の結晶情報がIII族窒化物半導体層に伝達されやすくなり、結晶性の高いIII族窒化物半導体層を得ることができる。
【0024】
<第2の工程>
第2の工程では、第1の層11の上に、第2の層12として炭化チタンの層を形成する(
図1(B))。
【0025】
第2の層12の成膜条件は、例えば以下のようにする。
【0026】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:500〜1000℃
成膜時間:4.5〜114分
圧力:0.2〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:5〜50sccm
反応性ガス:CH
4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:20nm〜500nm
【0027】
第2の層12である炭化チタン層は、TiCが主成分の層であり、C原子は、Ti原子と結合し、TiCを構成している。
【0028】
成膜温度は、500℃以上、1000℃以下であることが好ましいが、600℃以上であることが好ましく、900℃以下であることが好ましい。600℃以上であれば結晶性の高いTiC層が形成可能で、900℃より高い温度では下地基板面内の温度分布斑が発生しやすくなるためTiC層の結晶性に分布が発生しやすくなる。
【0029】
また、炭化チタン層の厚みは、結晶性向上の観点から、20nm以上、製造効率の観点から500nm以下であることが好ましいが、なかでも、結晶性を高めるという観点から、70nm以上、さらには120nm以上とすることが好ましい。また、炭化物層の形成に多くの時間を費やすことなく結晶性の高い炭化物層を得るという観点から、150nm以下とすることが好ましい。
【0030】
<キャップ層形成工程>
第2の工程の後、かつ、第3の工程の前に、第2の層12の上にキャップ層13を形成してもよい(
図1(C))。キャップ層13は、炭化チタンが分散した炭素層とすることができる。
【0031】
炭化チタンが分散した炭素層の成膜条件は、例えば以下のようになる。
【0032】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:25〜1000℃
成膜時間:2.5〜25分
圧力:0.3〜0.5Pa
印加電力:100〜300W
反応性ガス:CH
4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:5nm〜50nm
【0033】
炭化水素の導入量がより多い条件で反応性スパッタリングを行うと、キャップ層13中にTiCをより多く分散させることができる。上記条件の場合、メタンガスの供給量を適当に調整することで、キャップ層13中に分散する炭化チタンの量を調整できる。すなわち、メタンガスの供給量を適当に調整することで、キャップ層13中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
【0034】
また、印加電力をより大きくした条件で反応性スパッタリングを行うと、キャップ層13中にTiCをより多く分散させることができる。すなわち、印加電力を適当に調整することで、キャップ層13中に分散する炭化チタンの量を調整し、キャップ層13中におけるTiとCの原子数比C/Tiを所望の値に調整できる。
【0035】
キャップ層13は、Cを主成分とした膜であり、炭素膜を母材とし、この母材中にTiCを含む膜である。たとえば、炭素が海状(マトリクス)であり、TiCがこのマトリクス中に分散した形態である。
【0036】
キャップ層13中のTiC濃度は、C単体(TiCとして存在するCを除くC)の濃度よりも低い。またキャップ層13のTiC濃度は、第2の層12中のTiC濃度よりも低い。たとえば、キャップ層13中のTiC濃度は、33〜49%である。
【0037】
キャップ層13の成膜温度は、25℃以上であればよい。なかでも、キャップ層13の成膜温度は第2の層12の成膜温度以上であることが好ましい。具体的には、600℃以上、特には、800℃以上で成膜することが好ましい。このようにすることで、キャップ層13が緻密な膜となり、効果的に第2の層12の酸化を防止することができる。
【0038】
また、キャップ層13の膜厚は、5nm以上、50nm以下であることが好ましいが、なかでも、10nm以上であることが好ましい。キャップ層13を10nm以上とすることで、効果的に第2の層12の酸化を防止することができる。さらに、キャップ層13は、第2の層12の全面を完全に被覆している。
【0039】
<第3の工程>
第3の工程では、第2の層(炭化チタン層)12を窒化する。例えば、
図2(A)に示すように、第2の層12を300℃以上、1000℃以下の雰囲気下で部分的に窒化し、窒化された炭化チタン層14を形成する。窒化された炭化チタン層14は、主に炭化チタンが存在する炭化チタン層142と、主に窒化チタンが存在する窒化チタン層141との積層構造となる。
【0040】
第2の層12の窒化条件は、例えば以下のようである。
【0041】
窒化温度:300℃〜950℃
窒化時間:5〜30分
窒化ガス:NH
3ガス、H
2ガス、N
2ガス
【0042】
なお、第2の層12の上にキャップ層13を形成した場合、第2の層12はキャップ層13で覆われている。しかし、第2の層12の窒化処理において、キャップ層13中の炭素は窒化ガスによりCH
4として気化することとなる。このため、キャップ層13中には、第2の層12まで到達する空隙が生じる。そして、この空隙を通じて窒化ガスが第2の層12に到達し、第2の層12が部分的に窒化され、窒化された炭化チタン層14が形成されることとなる。
【0043】
なお、窒化温度は500℃以上700℃以下であることがより好ましく、特に好ましくは550℃以下である。窒化温度を500℃以上とすることで第2の層12の窒化速度を早くするという効果がある。一方で、窒化温度を700℃以下とすることで、窒化速度を抑制し、第1の層11まで窒化される不都合を抑制することができる。第1の層11が窒化されると、窒化される前に比べて、第1の層11とサファイア基板10(下地基板)との結合が強固になるという不都合が生じる。
【0044】
なお、窒化温度を550℃より高温にすると、(1)式に示すとおりCH
4が分解してCが析出し、CがTiNに混入することでIII族窒化物半導体層の結晶性が低下する場合がある。Cの析出を抑制するには、水素の導入やアンモニア分圧を高めるのが有効である。
【0045】
CH
4→C+2H
2・・・・・・・・・・・・・・・・(1)式
【0046】
また、窒化時間は、30分以下であることが好ましい。窒化時間を30分程度とすることで、第2の層12を適度に窒化することができる。
【0047】
なお、第2の層12を窒化する際の反応ガスとしては、アンモニアが好ましい。反応ガスとしてアンモニア以外に窒素を使用してもTiNを形成できるが、(2)式で示すようにTiNとCが生成し、TiNにCが混入した場合にはIII族窒化物半導体層の結晶品質に影響を与える可能性がある。
【0048】
2TiC+N
2→2TiN+2C・・・・・・・・・・・(2)式
【0049】
なお、第2の層12の上にキャップ層13を形成した場合、当該第3の工程により、キャップ層13中に含まれる炭化チタンが部分的に窒化され、窒化されたキャップ層143が形成される。また、第1の層11中に含まれる炭化チタンが部分的に窒化され、TiNとなる場合もある。これらのTiNは後段のIII族窒化物半導体をエピタキシャル成長する間にサファイア基板10(下地基板)の結晶情報を引き継ぐ役目をし、結晶性の良好なIII族窒化物半導体を形成することとなる。
【0050】
<第4の工程>
第4の工程では、窒化された炭化チタン層14(第2の層12を窒化した層)の直上に、III族窒化物半導体層16を形成する。なお、第2の層12の直上にキャップ層を形成した場合は、窒化されたキャップ層143の直上に、III族窒化物半導体層16を形成する(
図2(B))。ここでは、III族窒化物半導体層16として、GaN半導体層をエピタキシャル成長させるものとする。なお、III族窒化物半導体層16は、GaNに限られるものではなく、たとえば、AlGaN等であってもよい。
【0051】
GaN半導体層(III族窒化物半導体層16)の成長条件は、例えば以下のようにすることができる。
【0052】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1000℃〜1050℃
成膜時間:30分〜500分
膜厚:100μm〜1500μm
【0053】
なお、当該成膜温度よりも低温で、III族窒化物半導体の低温成長バッファ層を形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施してもよい。
【0054】
また、III族窒化物半導体のファセットを形成した後、上記成長条件で、III族窒化物半導体のエピタキシャル成長を実施して、平坦膜であるIII族窒化物半導体層16を得てもよい。
【0055】
ここで、
図3を参照して、ハイドライド気相成長(HVPE)装置3について簡単に説明しておく。
図3は、HVPE装置3の模式図である。
【0056】
HVPE装置3は、反応管31と、反応管31内に設けられている基板ホルダ32とを備える。また、HVPE装置3は、III族原料ガスを反応管31内に供給するIII族原料ガス供給部33と、窒素原料ガスを反応管31内に供給する窒素原料ガス供給部34とを備える。さらに、HVPE装置3は、ガス排出管35と、ヒータ36、37とを備える。
【0057】
基板ホルダ32は、反応管31の下流側に回転軸41により回転自在に設けられている。ガス排出管35は、反応管31のうち基板ホルダ32の下流側に設けられている。
【0058】
III族原料ガス供給部33は、ガス供給管311とソースボート312とIII族(Ga)原料313と反応管31のうち遮蔽板38の下の層とを含む。
【0059】
窒素原料ガス供給部34は、ガス供給管341と反応管31のうち遮蔽板38の上の層とを含む。
【0060】
III族原料ガス供給部33は、III族原子のハロゲン化物(たとえば、GaCl)を生成し、これを基板ホルダ32上の積層体の窒化された炭化チタン層14又は窒化されたキャップ層143の表面に供給する。なお、
図2においては、積層体を符号Aで示している。
【0061】
ガス供給管311の供給口は、III族原料ガス供給部33内の上流側に配置されている。このため、供給されたハロゲン化水素ガス(たとえば、HClガス)は、III族原料ガス供給部33内でソースボート312中のIII族原料313と接触するようになっている。
【0062】
これにより、ガス供給管311から供給されるハロゲン含有ガスは、ソースボート312中のIII族原料313の表面または揮発したIII族分子と接触し、III族分子をハロゲン化してIII族のハロゲン化物を含むIII族原料ガスを生成する。なお、このIII族原料ガス供給部33の周囲にはヒータ36が配置され、III族原料ガス供給部33内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
【0063】
反応管31の上流側は、遮蔽板38により2つの層に区画されている。図中の遮蔽板38の上側に位置する窒素原料ガス供給部34中を、ガス供給管341から供給されたアンモニアが通過し、熱により分解が促進される。なお、この窒素原料ガス供給部34の周囲にはヒータ36が配置され、窒素原料ガス供給部34内は、たとえば800〜900℃程度の温度に維持される。
【0064】
図中の右側に位置する成長領域39には、基板ホルダ32が配置され、この成長領域39内でGaN等のIII族窒化物半導体の成長が行われる。この成長領域39の周囲にはヒータ37が配置され、成長領域39内は、たとえば1000℃〜1050℃程度の温度に維持される。
【0065】
III族窒化物半導体層16を形成する工程の初期においては、窒素原料ガスにより、窒化されたキャップ層143又は窒化された炭化チタン層14の露出面がさらに窒化されてもよい。
【0066】
そして、III族窒化物半導体層16を形成する工程の初期においては、窒化されたキャップ層143又は窒化された炭化チタン層14の露出面における炭化チタンと、III族窒化物半導体とが以下のように反応すると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaNである場合を例にあげて説明する。
【0067】
Al
4C
3+4GaN→4AlN+4Ga+3C・・・(3)式
【0068】
TiC+GaN→TiN+Ga+C・・・(4)式
【0069】
また、窒化されたキャップ層143及び窒化された炭化チタン層14の結晶性によっては、以下のような反応が生じる場合もある。III族窒化物半導体が熱分解して、窒素原子と、III族原子とになる。この熱分解により生じた窒素原子が、窒化されたキャップ層143及び窒化チタン層141中の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)を通じて炭化チタン層142の表面、場合によっては、炭化チタン層142の表面層内の隙間(たとえば、結晶粒界あるいは微小クラック)に達し、炭化チタン層142の表面および表面層の炭化物が窒化物となる反応が生じることもある。
【0070】
なお、上記記載から理解できるように、III族窒化物半導体層16を形成する工程の初期において、窒化された炭化チタン層14の中の窒化チタン層141の厚みは厚くなり、炭化チタン層142の厚みは薄くなる。
【0071】
また、上記(3)、(4)の反応や、III族窒化物半導体の熱分解により、析出したIII族原子は、III族窒化物半導体層16と、窒化されたキャップ層143との間に位置することとなり、III族元素析出層が形成される。なお、窒化されたキャップ層143が存在しない場合は、III族窒化物半導体層16と、窒化された炭化チタン層14との間にIII族元素析出層が形成される。
【0072】
III族窒化物半導体層16の厚みは、サファイア基板10(下地基板)およびIII族窒化物半導体層16の線膨張係数差により発生してしまう応力を小さくするという観点から、たとえば、600μm以下であることが好ましく、特には450μm以下であることが好ましく、なかでも300μm以下であることが好ましい。さらに、III族窒化物半導体層16の厚みは、取り扱い性の観点から50μm以上であることが好ましい。
【0073】
<第5の工程>
第5の工程では、第4の工程の後、サファイア基板10(下地基板)、第1の層11、窒化された炭化チタン層14(第2の層12を窒化した層)、及び、III族窒化物半導体層16を含む積層体(さらに、窒化されたキャップ層143を含む場合がある)を、III族窒化物半導体層16を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する。
【0074】
第5の工程の加熱の後、常温まで戻った積層体を観察すると、サファイア基板10(下地基板)と、III族窒化物半導体層16とは分離している。III族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)との分離位置は、III族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)の間に位置する第1の層11及び窒化された炭化チタン層14の内部で起こる。
【0075】
一方、第4の工程の後、すなわちIII族窒化物半導体層16を形成した後、第5の工程を行わずに積層体を常温まで冷却し、積層体を観察した場合も、サファイア基板10(下地基板)と、III族窒化物半導体層16とが分離する場合がある。これは、III族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)との線膨張係数差に起因して発生する歪み(応力)を利用したものであると考えられる。この場合、III族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)との分離位置はばらつき、III族窒化物半導体層16内に分離位置が起きる場合もあれば、サファイア基板10(下地基板)と第1の層11との界面に分離位置が起きる場合もある。
【0076】
すなわち、第5の工程を行うことで、III族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)との分離位置を制御できる。また、分離位置の制御により、分離形状のばらつきを軽減できる。
【0077】
ところで、このような分離位置の違いから、本発明者らは、本実施形態の場合、加熱後の冷却中に応力を利用した分離が起こっているのでなく、第5の工程での加熱処理の最中に分離が起こっていると推測している。このような加熱処理の最中の分離のメカニズムは明らかではないが、以下のようであると推測される。
【0078】
前述した、III族窒化物半導体層16と、窒化されたキャップ層143(又は、窒化された炭化チタン層14)との間に形成されるIII族元素析出層には、III族原子が存在している。さらには、熱処理により、III族窒化物半導体層16を構成するIII族窒化物が分解して、III族原子が形成されることとなる。
【0079】
III族原子は、融点が低いため、熱処理過程では液状となる。そして、III族原子は、窒化されたキャップ層143、及び、窒化チタン層141を通過し、炭化チタン層142、炭化チタンを含む第1の層11に達する。
【0080】
そして、炭化チタン層142及び第1の層11では、以下の反応が生じると考えられる。ここでは、III族窒化物半導体がGaである例をあげて説明する。
【0081】
Al
4C
3+4Ga(l)→4Al−Ga(l)+3C・・・(5)式
【0082】
TiC+Ga(l)→Ti−Ga(l)+C・・・(6)式
【0083】
なお、式(5)や(6)の反応を進行させる観点から、III族窒化物半導体層のIII族原子と、第1の層11及び第2の層12を構成する金属原子とは異なるものであることが好ましい。
【0084】
この反応により、炭化チタン層142及び第1の層11の結晶構造が破壊され、炭化チタン層142及び第1の層11と、サファイア基板10(下地基板)との密着性が悪化する。そして、炭化チタン層142及び第1の層11の中で分離が生じる(
図2(D))。
【0085】
このようなメカニズムでIII族窒化物半導体層16とサファイア基板10(下地基板)とを分離するので、III族窒化物半導体層16及びサファイア基板10(下地基板)の径が大きい場合でも、剥離形状に大きなばらつきが生じにくく、所望の下地基板10を生産性良く得ることができる。例えば、III族窒化物半導体層16及びサファイア基板10(下地基板)の径は、10mm以上200mm以下とすることができる。
【0086】
なお、第5の工程では、例えば、1050℃より大1150℃以下の温度、さらに好ましくは1050℃より大1100℃以下、さらに好ましくは1050℃より大1080℃以下の温度で、上記積層体を加熱する。加熱温度が高くなると、式(5)及び(6)の反応を進めることができる反面、III族窒化物半導体層16に転位が発生しやすくなる。本実施形態の場合、サファイア基板10(下地基板)の直上に第1の層11を設けているので、第1の層11を設けていない場合に比べて低温の加熱で、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とを十分に分離することができる。
【0087】
以下の実施例で示すが、サファイア基板10(下地基板)の直上に第1の層11を設けていない場合、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との分離に1200℃程度の加熱(III族窒化物半導体層16を形成後の加熱)が必要であることを、本発明者らは確認している。
【0088】
また、第5の工程では、上記温度で、上記積層体を5時間以上30時間以下加熱する。加熱時間が長くなると、III族窒化物半導体層16に転位が発生しやすくなるほか、自立基板の製造時間が長くなり、生産効率が悪くなる。本実施形態の場合、サファイア基板10(下地基板)の直上に第1の層11を設けているので、第1の層11を設けていない場合に比べて短い時間の加熱で、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とを分離することができる。
【0089】
以下の実施例で示すが、サファイア基板10(下地基板)の直上に第1の層11を設けていない場合、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との分離に1200℃、5時間以上の加熱が必要であることを、本発明者らは確認している。
【0091】
<第1の例>
第4の工程の後、III族窒化物半導体層16を形成された後の加熱状態の積層体を常温(室温)まで冷却すると、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との線膨張係数差に起因する応力に基づいて、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とが分離してしまう場合がある。このようなメカニズムでの分離の場合、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との分離位置あるいは分離形状にばらつきが生じやすい。そして、このばらつきに起因したIII族窒化物半導体基板の生産性の低下が懸念される。
【0092】
そこで、第5の工程は、III族窒化物半導体層16を形成された後の加熱状態の積層体を常温(室温)まで冷却することなく、エピタキシャル成長した温度よりも高い温度で当該積層体を加熱してもよい。当該加熱は、例えば、III族窒化物半導体層16を形成したHVPE装置を使用して行うことができる。
【0093】
例えば、HVPE装置でIII族窒化物半導体層16を形成後、積層体をHVPE装置内に収容した状態のまま、原料ガス及び反応ガスの供給を停止し、ヒータの温度を所望の値まで上げて、積層体を加熱してもよい。
【0094】
<第2の例>
例えば第3の工程の条件の制御や、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16の厚みの関係の制御等により、III族窒化物半導体層16を形成後(第4の工程の後)、サファイア基板10(下地基板)、第1の層11、窒化された炭化チタン層14(第2の層12を窒化した層)、及び、III族窒化物半導体層16を含む積層体(さらに、窒化されたキャップ層143を含む場合がある)を常温まで冷却しても、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との線膨張係数差に起因する応力に基づいてサファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とが分離しないようにできる。このような場合、第4の工程でIII族窒化物半導体層16を形成後、上記積層体を一度常温まで冷却し、その後、第5の工程を行うことができる。第3の工程の条件の制御は、例えば、NH
3ガス(窒化ガス)の流量(分圧)の制御である。NH
3ガスの流量が少ないと、第4の工程後の冷却で、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とが分離しやすい。一方、NH
3ガスの流量が多いと、第4の工程後の冷却で、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16とが分離しにくい。
【0095】
当該例でも、積層体の加熱には、HVPE装置3を使用することができる。例えば、積層体を、
図3に示すヒータ37で取り囲まれている領域内(たとえば、配管40の下流側であり、成長領域39内)に配置して、加熱してもよい。
【0096】
たとえば、
図4に示すような表面に凹部511が形成された治具55を用意し、凹部511に、積層体Bを挿入する。そして、このような治具55ごと積層体BをHVPE装置3内に収容する。そして、ヒータ36、37を駆動して、複数の積層体Bを同時に加熱処理する。なお、この熱処理工程においては、III族窒化物半導体層16の成長は停止した状態である。また、HVPE装置3とは別に熱処理装置を用意し、積層体Bを加熱処理してもよい。
【0097】
<第3の例>
当該例でも、積層体を常温まで冷却後、第5の工程を実行する。例えば、積層体BをIII族元素の液体中に浸漬させた状態で、加熱する。III族元素の液体は、III族窒化物半導体層16に含まれるIII族元素と同じ元素の液体である。たとえば、III族窒化物半導体層16がGaNである場合には、III族元素の液体はGaの液体である。
【0098】
III族元素の液体は、少なくとも、積層体Bの熱処理温度で液体となるものであればよい。たとえば、25℃で固体であっても、積層体Bの熱処理温度で液体となればよい。25℃で固体である場合には、たとえばIII族元素の粉末状を、後述する容器5、6に入れておけばよい。
【0099】
例えば、
図5および6に示すような容器5を用意する。
図5は、容器5の底面と直交する断面図である。
図6は容器5の斜視図であり、内部に配置される積層体Bを示した図である。
【0100】
この容器5は上面が開口した容器本体50と、この容器本体50の開口を閉鎖する蓋53と、ピン52とを備え、容器本体50の内部に複数の積層体Bを収容できる構成となっている。
【0101】
容器5は耐熱性材料で構成され、たとえば、容器本体50、蓋53、ピン52は黒鉛製である。
【0102】
容器本体50の側壁51には複数のピン52が挿入されている。複数のピン52のうち一部のピン52は、容器5の側壁51に対する高さ方向の取り付け位置が異なっており、容器5の底面側からピン52A〜52Dの順に配置されている。
【0103】
まず、側壁51に挿入されているピン52A〜52Dを容器5の側壁51から一定程度引きだしておく。ただし、完全にピン52A〜52Dを引き抜くことはしない。次に、この容器5内にIII族元素の液体を所定量入れ、その後、積層体Bを容器5内に入れる。積層体Bは、サファイア基板10(下地基板)が容器5の上側となるように容器5内に挿入する。積層体Bは浮力により液体中で浮くこととなる。そして、ピン52Aを容器5内側に押し込み、積層体Bのサファイア基板10(下地基板)の外周縁をピン52で押さえる。
【0104】
その後、再度、III族元素の液体を容器5内に充填し、2つ目の積層体Bを容器5内に挿入する。そして、前記ピン52Aよりも高い位置にあるピン52Bを容器5内側に押し込み、2つめの積層体Bのサファイア基板10(下地基板)の外周縁をピン52Bで押さえる。このような作業を繰り返して、各ピン52A〜52Dで各積層体Bのサファイア基板10(下地基板)の外周縁を押さえる。
【0105】
このような容器5を使用すれば、複数の積層体Bを容器5内でIII族元素の液体Lに浸漬させることができる。容器5内において、積層体B全体がIII族元素の液体Lに浸漬することとなる。
【0106】
その後、容器5の開口部に蓋53をはめ込む。そして、III族元素の液体Lが充填されるとともに、III族元素の液体Lに複数の積層体Bが浸漬された容器5を、HVPE装置3内に配置する。たとえば、
図5に示すように、ヒータ37で取り囲まれている領域内(たとえば、配管40の下流側であり、成長領域39内)に、容器5を配置する。そして、ヒータ36、37を駆動して、容器5の外側から、III族元素の液体に浸漬された複数の積層体Bを同時に加熱処理する。また、HVPE装置3とは別に熱処理装置を用意し、容器5中の積層体Bを加熱処理してもよい。
【0107】
また、積層体BをIII族元素の液体中に浸漬させるための容器は、
図5、6に示すものに限らず、
図7に示す容器6を使用してもよい。
【0108】
この容器6は、上面が開口した容器本体61と、この容器本体61の開口をふさぐ蓋62と、容器本体61内に積層体Bを配置するための治具63とを有する。
【0109】
容器6は耐熱性材料で構成され、たとえば、容器本体61、蓋62、治具63は黒鉛製である。
【0110】
治具63は、長手方向に沿って複数の溝が離間して形成された複数本の保持部631と、この保持部631の長手方向の端部を一体的に固定する固定部632とを備える。
【0111】
例えば、複数の保持部631の溝に、積層体Bの外周縁をはめ込むことで、積層体Bが治具63に保持されることとなる。
【0112】
治具63により、複数の積層体Bが所定の間隔で離間して設置されることとなる。そして、複数の積層体Bを保持する治具63を、容器本体61内に挿入する。その後、容器本体61内にIII族元素の液体を充填し、複数の積層体BがIII族元素の液体中に完全に浸漬されることとなる。
【0113】
その後、容器本体61の開口を蓋62でふさぐ。次に、容器6を、HVPE装置3内に配置する。たとえば、ヒータ37で取り囲まれている領域内(たとえば、配管40の下流側であり、成長領域39内)に、容器6を配置する。ヒータ36、37を駆動して、容器6の外側から、III族元素の液体に浸漬された複数の積層体Bを同時に加熱処理する。また、HVPE装置3とは別に熱処理装置を用意し、容器6中の積層体Bを加熱処理してもよい。
【0114】
なお、熱処理工程において、容器5、6の腐食を抑制するために、容器5、6を窒素ガス等の非酸化性ガス雰囲気下に配置することが好ましい。また、容器5、6にIII族元素の液体を充填するとしたが、積層体Bの熱処理温度で液体となるIII族元素の粉末を充填してもよい。
【0115】
第5の工程の加熱処理は、上記例示したものに限定されず、その他の形態を採用することもできる。
【0116】
なお、積層体の加熱は、非酸化性ガス中で熱処理することが好ましい。たとえば、窒素原料ガス供給部34から窒素ガスを供給してもよく、また、配管40から非酸化性ガスを供給して、成長領域39を非酸化性ガス雰囲気としてもよい。
【0117】
非酸化性ガスとしては、Arガス等の希ガスおよびN
2ガスのいずれかから1種以上を選択することができる。非酸化性ガス雰囲気下で熱処理を行なうことで、III族窒化物半導体層16の酸化を抑制することができる。
【0118】
なかでも、非酸化性ガスとして、N
2ガスを使用することが好ましい。窒素は、アンモニアに比べて窒化力が低いため、N
2ガスを使用することで、III族窒化物半導体層15表面のN原子の脱離を一定程度抑制できる一方で、適度にIII族窒化物の分解が起こり、III族原子を生成することができる。そして、生成したIII族原子により、上述した反応(5)あるいは(6)を生じさせて、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との分離を促進させることができる。
【0119】
なお、サファイア基板10(下地基板)から分離した後、III族窒化物半導体層16を含む側の構造体を酸(たとえば、塩酸水溶液あるいは、リン酸と硫酸の混合液)で洗浄して、III族元素の液滴あるいは液滴が固化したものを除去する。また、第1の層11、窒化された炭化チタン層14が残っている場合、これらを除去(エッチング、研磨等)してもよい。これにより、III族窒化物半導体層16からなる自立基板が得られる。
【0120】
以上説明した本実施形態によれば、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との分離位置を制御することができる。このため、分離位置や分離形状がばらつき、生産性が低下する不都合を軽減することができる。
【0121】
また、本実施形態によれば、第1の層11の存在により、第5の工程の加熱温度及び加熱時間を比較的低く抑えることができる。このため、III族窒化物半導体層16に転位が生じる不都合を軽減することができる。
【0122】
また、本実施形態によれば、サファイア基板10(下地基板)とIII族窒化物半導体層16との線膨張係数差による応力にほとんど依存せずに、これらを互いに分離することができる。すなわち、サファイア基板10(下地基板)に応力がほとんどかからない。このため、サファイア基板10(下地基板)をリサイクルして、再度、上述した工程を実施することができる。これにより、自立基板(III族窒化物半導体層16)の生産コストを低減できる。
【0123】
以上、図面を参照して本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することもできる。
【0124】
例えば、上記各実施形態では、下地基板としてサファイア基板10を使用したが、スピネル基板、SiC基板、ZnO基板、シリコン基板、GaAs基板、GaP基板等を用いてもよい。
【0125】
さらに、上記実施形態では、第一の層11、第2の層12、キャップ層13、GaN半導体層16等を特定の製造条件で製造したが、特に限定する趣旨ではない。すなわち、上記の膜厚、製造条件は単なる例示に過ぎず、形成する半導体層の組成、構造に応じて適宜変更可能である。
【0126】
本実施形態で得られた自立基板上にIII族窒化物系素子構造を作製すれば、上下にアップダウン電極構造を有する発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子を作ることが可能であり、高性能トランジスタ等の電子デバイスへの適用も可能である。本実施形態で得られた自立基板は、鏡面に研摩し、ドライエッチングまたはケミカルメカニカルポリッシング(CMP)を施した後に発光ダイオードまたはレーザーダイオード等の発光素子、さらにはトランジスタ等の電子デバイスを作製するのが最良である。また、本実施形態で得られた自立基板を種結晶として、HVPE法、フラックス法、アモノサーマル法などにより高品質GaN結晶を成長させることが可能である。
【0127】
さらに、上記実施形態では、III族窒化物半導体層16を成長させた直後にサファイア基板10を分離していたが、これに限らず、III族窒化物半導体層16上に発光ダイオード等の発光素子、さらには、トランジスタ等の電子デバイスを作製した後に、サファイア基板10を除去し、電子デバイスを得てもよい。
【0128】
上記実施形態では、第2の層12として炭化チタンを使用していたが、これに限られるものではない。第2の層12としては、炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウム及び炭化タンタルから選択されるいずれかの炭化物層を形成すればよい。炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタルは、非化学量論的化合物であり、炭素原子に比べ金属原子が過剰に存在する。そのため、過剰な金属原子が下地基板に対し、比較的結合しやすいため、上記実施形態のように、第1の層11を形成することが特に有用である。
【0129】
さらに、上記実施形態では、第1の層11に含まれる金属炭化物と、第2の層12を構成する金属炭化物とを同種のものとしたが、これに限らず、第1の層11に含まれる金属炭化物と、第2の層12を構成する金属炭化物とが異なっていてもよい。たとえば、第1の層11中に含まれる金属炭化物を炭化ジルコニウムとし、第2の層12を構成する炭化物を炭化チタンとしてもよい。
【0130】
また、上記実施形態では、キャップ層13を生成していたが、キャップ層13はなくてもよい。たとえば、炭化物層の酸化を防止する役目を有するグローブボックス中の酸素または水蒸気を低減した雰囲気で取り扱うことが可能な場合には、炭化物層の酸化は抑制できるため、キャップ層13は不要である。
【0131】
さらに、上記実施形態では、第1の層11、第2の層12、キャップ層13をスパッタリングにより成膜したがこれに限らず、他の方法にて成膜してもよい。たとえば、真空蒸着により第1の層11等を生成してもよい。さらには、たとえば、下地基板を加熱しながら、金属膜と、カーボン膜とを重ねて成膜することで炭化物層を形成してもよい。
【実施例】
【0132】
<実施例1>
厚さ550μmの3インチφのサファイア(Al
2O
3)基板を下地基板として用意した。そして、このサファイア基板上に、以下の条件で炭化チタンが分散した炭素層(第1の層)を形成した。第1の層中におけるTiとCの原子数比C/TiをXPS(X-ray Photoelectron Spectroscopy)で測定したところ、4であった。
【0133】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:24秒
圧力:0.4Pa
印加電力:150W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:14.3scc
反応性ガス:炭化水素(CH
4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.3nm
【0134】
その後、第1の層の上に、以下の条件で炭化チタンの層(第2の層)を形成した。
【0135】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:30分
圧力:0.4Pa
印加電力:300W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:27.0sccm
反応性ガス:CH
4
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:100nm
【0136】
その後、第2の層を、以下の条件で窒化した。
【0137】
窒化温度:925℃
窒化時間:30分
窒化ガス:NH
3ガス、H
2ガス
【0138】
その後、窒化した第2の層の上に、以下の条件でGaN層を形成した。
【0139】
成膜方法:HVPE(hydride vapor phase epitaxy)法
成膜温度:1040℃
成膜時間:150分
膜厚:400μm
【0140】
その後、GaN層を形成した後の積層体を常温まで冷却することなく、以下の条件で加熱(第5の工程)した。
【0141】
加熱温度:1100℃
加熱時間:12時間
加熱方法:HVPE装置内
【0142】
第5の工程の後、積層体を常温まで冷却し、観察した。GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。
【0143】
<実施例2>
第1の層の成膜条件を以下のようにした点を除き、実施例1と同様の処理を行った。第1の層中におけるTiとCの原子数比C/TiをXPSで測定したところ、2であった。
【0144】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:24秒
圧力:0.4Pa
印加電力:150W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:20.0sccm
反応性ガス:炭化水素(CH
4)
反応性ガス流量:10.0sccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.3nm
【0145】
第5の工程の後、積層体を常温まで冷却して観察すると、GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。
【0146】
<実施例3>
第1の層の成膜条件を以下のようにした点を除き、実施例1と同様の処理を行った。第1の層中におけるTiとCの原子数比C/Tiは、実施例1の成膜条件との比較により、4より大であることが推測される。
【0147】
成膜方法:反応性スパッタリング
成膜温度:800℃
成膜時間:24秒
圧力:0.4Pa
印加電力:150W
スパッタガス:Arガス
スパッタガス流量:11.1sccm
反応性ガス:炭化水素(CH
4)
反応性ガス流量:10.0ccm
ターゲット:Ti
膜厚:0.3nm
【0148】
第5の工程の後、積層体を常温まで冷却して観察すると、GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。
【0149】
<比較例1>
第1の層を形成しない点を除き、実施例1と同様の処理を行った。第5の工程の後、積層体を常温まで冷却して観察すると、GaN層とサファイア基板は分離していなかった。そして、GaN層にひび割れが観察された。これは、GaN層とサファイア基板との線膨張係数差に起因する応力によるものであると推測される。
【0150】
<比較例2>
第5の工程の加熱を以下の条件で行った点を除き、比較例1と同様の処理を行った。第5の工程の後、積層体を常温まで冷却して観察すると、GaN層とサファイア基板は分離していなかった。そして、GaN層にひび割れが観察された。これは、GaN層とサファイア基板との線膨張係数差に起因する応力によるものであると推測される。
【0151】
加熱温度:1150℃
加熱時間:12時間
加熱方法:HVPE装置内
【0152】
<比較例3>
第5の工程の加熱を以下の条件で行った点を除き、比較例1と同様の処理を行った。第5の工程の後、積層体を常温まで冷却して観察すると、GaN層とサファイア基板は分離していた。分離箇所は、GaN層とサファイア基板との間に位置する第1の層及び第2の層部分に生じていた。
【0153】
加熱温度:1185℃
加熱時間:12時間
加熱方法:HVPE装置内
【0154】
以上の結果より、第1の層を有する場合、第1の層を有さない場合に比べて、より低温の加熱処理(第5の工程)で、GaN層とサファイア基板とを分離できることが分かる。なお、実施例1乃至3、及び、比較例1乃至3におけるGaN層の結晶性をXRC(X-ray Rocking Curve)で測定したところ、すべて同等の品質であった。すなわち、第1の層の有無に関わらず、GaN層の結晶性は同等のレベルを維持できることが確認された。
【0155】
以下、参考形態の例を付記する。
1. 下地基板上に、第1の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)が分散した炭素層を形成する第1の工程と、
前記第1の層の上に、第2の層として、炭化物MC(炭化アルミニウム、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化バナジウムまたは炭化タンタル)の層を形成する第2の工程と、
前記第2の層を窒化する第3の工程と、
前記窒化された第2の層の上に、III族窒化物半導体層を形成する第4の工程と、
前記第4の工程の後、前記下地基板、前記第1の層、窒化された前記第2の層及び前記III族窒化物半導体層を含む積層体を、前記III族窒化物半導体層を形成する際の加熱よりも高い温度で加熱する第5の工程と、
を有する自立基板の製造方法。
2. 1に記載の自立基板の製造方法において、
前記第5の工程では、1050℃より大1150℃以下の温度で前記積層体を加熱する自立基板の製造方法。
3. 1又は2に記載の自立基板の製造方法において、
前記第5の工程では、前記積層体を5時間以上30時間以下加熱する自立基板の製造方法。
4. 1から3のいずれかに記載の自立基板の製造方法において、
前記第5の工程では、前記積層体をIII族元素の液体に浸漬させた状態で加熱する自立基板の製造方法。
5. 1から4のいずれかに記載の自立基板の製造方法において、
前記第5の工程では、非酸化性ガス中で前記積層体を加熱する自立基板の製造方法。
6. 1から5のいずれかに記載の自立基板の製造方法において、
前記第1の工程では、前記第1の層として、前記第1の層中におけるTiとCの原子数比C/Tiが1.5以上を満たすようにTiCが分散した炭素層を形成する自立基板の製造方法。
7. 1から6のいずれかに記載の自立基板の製造方法において、
前記第4の工程で前記III族窒化物半導体層を形成した後、前記積層体を常温まで冷却することなく、前記第5の工程で前記積層体を加熱する自立基板の製造方法。