特許第6427346号(P6427346)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427346
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】放射性セシウム吸着材の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/12 20060101AFI20181112BHJP
   B01J 20/02 20060101ALI20181112BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   G21F9/12 501B
   G21F9/12 501J
   B01J20/02 A
   B01J20/30
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2014-136105(P2014-136105)
(22)【出願日】2014年7月1日
(65)【公開番号】特開2016-14568(P2016-14568A)
(43)【公開日】2016年1月28日
【審査請求日】2017年6月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】505427573
【氏名又は名称】井上 浩義
(73)【特許権者】
【識別番号】511136599
【氏名又は名称】株式会社エコポート九州
(74)【代理人】
【識別番号】100182084
【弁理士】
【氏名又は名称】中道 佳博
(74)【代理人】
【識別番号】100123489
【弁理士】
【氏名又は名称】大平 和幸
(72)【発明者】
【氏名】手島 淳
(72)【発明者】
【氏名】成富 正樹
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩義
(72)【発明者】
【氏名】石坂 孝光
(72)【発明者】
【氏名】小田 良一
(72)【発明者】
【氏名】緒方 貴士
【審査官】 右田 純生
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−061220(JP,A)
【文献】 特開2013−221765(JP,A)
【文献】 特開2013−215723(JP,A)
【文献】 特開2013−188646(JP,A)
【文献】 特開2013−108850(JP,A)
【文献】 特開2013−124898(JP,A)
【文献】 特開2014−020916(JP,A)
【文献】 特開2015−062848(JP,A)
【文献】 特開2014−176777(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/010417(WO,A1)
【文献】 国際公開第2013/065829(WO,A1)
【文献】 米国特許第06558552(US,B1)
【文献】 米国特許第05855790(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/10 − 9/12
B01J 20/00 −20/34
B09B 3/00 − 5/00
B01D 15/00 −15/42
C09K 3/00
C02F 1/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性セシウム吸着材の製造方法であって、
パルプ繊維性基材とプルシアンブルーとを混合して予備複合体を得る工程;および
該予備複合体に凝集剤を接触させてフロックを得る工程;
を包含する、方法。
【請求項2】
前記予備複合体と前記凝集剤との接触が、該予備複合体に該凝集剤を含有する水溶液を添加することにより、あるいは該予備複合体と該凝集剤の粉体とを混合した後、水または該凝集剤を含有する水溶液を添加することにより行われる、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記予備複合体を得る工程が、前記パルプ繊維性基材と前記プルシアンブルーと添加剤とを混合することにより行われ、そして該添加剤が、紙力増強剤および第2凝集剤からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項またはに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性セシウム吸着材およびそれを用いた放射性汚染水の浄化方法に関し、より詳細には、放射性セシウムなどの放射性物質に汚染された水を効率よく浄化することができる、放射性セシウム吸着材およびそれを用いた放射性汚染水の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2011年にて発生した東日本大震災は、東北地方太平洋沖地震とそれに伴って発生した津波により、我が国に甚大な被害を引き起こした。
【0003】
その中でも、福島県で発生した大量の放射性物質の拡散は、地域住民の長期避難を余儀なくされ、今なお深刻である。この放射性物質の拡散により東北地方の多くの場所で放射性物質による土壌汚染を引き起こし、放射性物質の除去が喫緊の大きな問題となっている。
【0004】
特に、放射性物質で汚染された土壌は、雨水によって地域河川や地下水源をも汚染する。このような放射性物質で汚染された水(汚染水)の存在は、土壌汚染の問題とともに東北地域の復興を妨げる大きな要因とも言える。
【0005】
当該汚染水の浄化において、従来より、青色顔料の一種であるプルシアンブルーが放射性セシウムの除去に有効であるとして、種々の放射性セシウム吸着材の研究開発が行われてきた。例えば、プルシアンブルーをポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレン、ポリアミドなどの不織布に担持させた製品等が市販されている。
【0006】
しかし、このような従来の放射性セシウム吸着材では、土壌を一緒に含む汚染水の浄化において目詰まりを起こし易いなどの点で浄化効率の向上が所望されている。また、このような吸着材の製造において生産性の向上も所望されている。
【0007】
汎用性に富み、製造効率が高められた効果的な放射性セシウム吸着材の登場が強く期待されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記問題の解決を課題とするものであり、その目的とするところは、放射性セシウムで汚染された汚染水を効率よく浄化することができ、かつ生産性が高められた、放射性セシウム吸着材およびそれを用いた放射性汚染水の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、パルプ繊維性基材、プルシアンブルーおよび凝集剤を含有するフロックで構成されている、放射性セシウム吸着材である。
【0010】
1つの実施形態では、上記凝集剤は、無機系凝集剤、カチオン系有機凝集剤、ノニオン系有機凝集剤、アニオン系有機凝集剤および両性有機凝集剤からなる群から選択される少なくとも1種の物質である。
【0011】
さらなる実施形態では、上記凝集剤は、無機系凝集剤とカチオン系有機凝集剤とアニオン系有機凝集剤との組み合わせである。
【0012】
1つの実施形態では、上記パルプ繊維性基材は、紙、古紙、混合紙およびパルプビーズからなる群から選択される少なくとも1種である。
【0013】
1つの実施形態では、上記プルシアンブルーは、上記フロックの全体重量に対し、1重量%から80重量%の割合で含有されている。
【0014】
1つの実施形態では、上記凝集剤は、上記フロックにおける上記パルプ繊維性基材の乾燥重量100重量部に対し、0.5重量部から50重量部の割合で含有されている。
【0015】
1つの実施形態では、上記フロックは、さらに紙力増強剤および第2凝集剤からなる群から選択される少なくとも1種の添加剤を含有する。
【0016】
1つの実施形態では、上記放射性セシウムは、セシウム137およびセシウム134からなる群から選択される少なくとも1種の放射性物質である。
【0017】
本発明はまた、放射性セシウム吸着材の製造方法であって、
パルプ繊維性基材とプルシアンブルーとを混合して予備複合体を得る工程;および
該予備複合体に凝集剤を接触させてフロックを得る工程;
を包含する、方法である。
【0018】
1つの実施形態では、上記予備複合体と上記凝集剤との接触が、該予備複合体に該凝集剤を含有する水溶液を添加することにより、あるいは該予備複合体と該凝集剤の粉体とを混合した後、水または該凝集剤を含有する水溶液を添加することにより行われる。
【0019】
1つの実施形態では、上記予備複合体を得る工程は、上記パルプ繊維性基材と上記プルシアンブルーと添加剤とを混合することにより行われ、そして該添加剤が、紙力増強剤および第2凝集剤からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0020】
1つの実施形態では、上記添加剤は、上記パルプ繊維性基材の乾燥重量100重量部に対し、1重量部から40重量部の割合で添加される。
【0021】
本発明はまた、放射性セシウムで汚染された汚染水を浄化するための方法であって、上記放射性セシウム吸着材を該汚染水と接触させる工程を包含する、方法である。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、放射性セシウムを含有する汚染水を効率よく浄化することができる。本発明の吸着材は、例えば、放射性セシウムで汚染された土壌中に含まれる汚染水の浄化に際しても目詰まりが起こりにくく、効率よく汚染水の浄化をすることができる。本発明はまた、古紙などの廃棄資源を活用することができ、それにより製造効率を一層高めることができ、かつより大量の生産にも適している。
【0023】
さらに本発明によれば、本発明の放射性セシウム吸着材が、たとえ、水と接触(例えば、水の吸収、水中への浸漬)したとしても、放射性セシウムの吸着成分であるプルシアンブルーが当該吸着材から脱落することなく、吸着材自体の放射性セシウム吸着能を適切に保持し得る。また、放射性セシウムを吸着した後もプルシアンブルーが吸着材から脱落することも回避される。これにより、放射性セシウムで汚染された土壌中に含まれる汚染水の浄化だけでなく、より水分含有量の高い、汚染水を含むまたは汚染水で構成される地下水、湖沼、河川等の浄化に対しても、放射セシウムの優れた吸着能を保持したまま、簡易かつ効率良く使用することができる。さらに、放射性セシウムを吸着した後もプルシアンブルーが脱落することも回避されるため、汚染したプルシアンブルーが再拡散する危険も取り除くことができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明について詳述する。
【0025】
本発明の放射性セシウム吸着材は、パルプ繊維性基材、プルシアンブルーおよび凝集剤を含有するフロックで構成されている。
【0026】
本発明の吸着材を構成するパルプ繊維性基材は、例えば、少なくとも80重量%以上、好ましくは95重量%以上、さらに好ましくは98重量%以上の割合でパルプ繊維を含有する材料である。
【0027】
パルプ繊維性基材の例としては、必ずしも限定されないが、紙、古紙、混合紙(すなわち、紙と古紙との組合せ)およびパルプビーズ、ならびにこれらの組合せが挙げられる。紙の例としては、新聞用紙;非塗工印刷用紙(例えば、上質紙、中質紙、上更紙、更紙、インディア紙、薄葉紙);塗工印刷用紙(例えば、アート紙、コート紙、軽量コート紙);微塗工印刷用紙;特殊印刷用紙;情報用紙(例えば、コピー用紙、インクジェット用紙、ノーカーボン紙、感光紙、感熱紙);包装用紙(例えば、クラフト紙);衛生用紙(例えば、ティッシュペーパー、トイレットペーパー);ならびに雑種紙(例えば、トレーシングペーパー、合成紙、絶縁紙、剥離紙、書道用紙)が挙げられる。古紙の例としては、このような紙の目的用途の使用後または未使用のまま発生した、廃棄または再利用可能なものが挙げられる。混合紙の例としては、上記紙と古紙とを用いて得られる再生紙等が挙げられる。パルプビーズとは、古紙を一旦水に溶解し、一定の水分を脱水した後、乾燥させて粒状のパルプ繊維に加工したものをいう。パルプビーズに製造方法および手段は特に限定されず、当該分野において周知の方法かつ手段が使用され得る。なお、パルプ繊維性基材はまた、例えば、抄紙の段階で添加する等の方法を通じて、後述の紙力増強剤および/または第2凝集剤を含有するものであってもよい。
【0028】
本発明の吸着材を構成するプルシアンブルー(Prussian Blue;PB)は、フェロシアン化第2鉄に属し、例えば、以下の式(I):
【0029】
【化1】
【0030】
で表されるヘキサシアノ鉄(II)酸化カリウム鉄(II)であり、一般的には青色顔料として知られている。プルシアンブルーは、消化管に吸収されないコロイド状物質であり、毒性が低く、経口的にも使用することができ、セシウム、タリウムなどのある種の一価の陽イオンに対して結合することが知られている。
【0031】
本発明において、プルシアンブルーは、所定の割合で上記パルプ繊維性基材に付与されている。プルシアンブルーの含有割合は、特に限定されないが、本発明の吸着材の全体重量に対し、好ましくは1重量%〜80重量%、より好ましくは5重量%〜30重量%である。プルシアンブルーの含有量が1重量%未満であると、汚染水に対し放射性セシウムを含む汚染水を効率的に浄化することが困難となる場合がある。プルシアンブルーの含有量が80重量%を超えると、たとえ後述の凝集剤を併用したとしても、プルシアンブルーが吸着材より脱落する割合が多くなる場合がある。
【0032】
本発明の吸着材を構成する凝集剤は、上記パルプ繊維性基材およびプルシアンブルーとともに水などの媒体の存在下でフロック(凝集体)を形成し得る材料である。
【0033】
本発明を構成する凝集剤の例としては、無機系凝集剤、有機系凝集剤およびそれらの組合せが挙げられる。
【0034】
無機系凝集剤の例としては、必ずしも限定されないが、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、硫酸アルミニウム、ポリ鉄(ポリ硫酸第二鉄)、ポリシリカ鉄およびそれらの組合せが挙げられる。ポリ塩化アルミニウムが好ましい。なお、硫酸アルミニウム、ポリ鉄(ポリ硫酸第二鉄)、およびポリシリカ鉄はそれ自体が酸性を呈する性質を有する。このため、無機系凝集剤として使用する場合は、アルカリ性のポリアミン等を併用して中性化して使用することが好ましい。
【0035】
有機系凝集剤の例としては、カチオン系有機凝集剤、アニオン系有機凝集剤、ノニオン系有機凝集剤、両性有機凝集剤およびそれらの組合せが挙げられる。有機系凝集剤は、カチオン系有機凝集剤単独、またはアニオン系有機凝集剤とカチオン系有機凝集剤とを組み合わせて用いることが好ましい。カチオン系有機凝集剤の例としては、必ずしも限定されないが、ポリアミン塩、ポリ(ジアリルジメチルアンモニウムクロライド)(ポリDADMAC)、カチオン変性ポリアクリルアミド(例えば、ジメチルアミノエチルメタクリレート メチルクロライド塩のようなポリメタクリレート系共重合体、およびジメチルアミノエチルアクリレート メチルクロライド塩のようなポリアクリレート系共重合体)、ならびにそれらの組合せが挙げられる。アニオン系有機凝集剤の例としては、必ずしも限定されないが、アニオン変性ポリアクリルアミド(例えば、カルボキシレート含有アクリル酸ナトリウム共重合体)、ポリアクリル酸ソーダ、ポリスルホン酸ソーダ、ならびにそれらの組合せが挙げられる。ノニオン系有機凝集剤の例としては、特に限定されないが、(未変性)ポリアクリルアミドが挙げられる。両性有機凝集剤の例としては、特に限定されないが、変性ポリアクリルアミド(カチオン系変性ポリアクリルアミドとアニオン系変性ポリアクリルアミドとの共重合体)が挙げられる。
【0036】
本発明では、凝集剤として、無機系凝集剤と有機系凝集剤との組み合わせを用いることが好ましく、(1)無機系凝集剤とカチオン系有機凝集剤とアニオン系有機凝集剤との組み合わせ、ならびに(2)無機系凝集剤とカチオン系有機凝集剤との組み合わせを用いることがさらに好ましく、(1)無機系凝集剤とカチオン系有機凝集剤とアニオン系有機凝集剤との組み合わせを用いることがさらにより好ましい。
【0037】
本発明の吸収剤における凝集剤の含有量は、例えば、使用するパルプ繊維性基材の乾燥重量を基準にして当業者に適切な量が設定される。凝集剤の含有量は、上記フロックにおけるパルプ繊維性基材の乾燥重量100重量部に対し、好ましくは0.5重量部〜50重量部、より好ましくは3重量部〜30重量部の割合で含有されている。上記フロックにおけるパルプ繊維性基材の乾燥重量100重量部に対し、凝集剤の含有量が0.5重量部を下回ると、上記パルプ繊維性基材にプルシアンブルーが充分に固定化されず、例えば、得られた吸着材を水と接触させると、プルシアンブルーが簡単に脱落することがある。凝集剤の含有量が50重量部を上回ると、上記パルプ繊維性基材へのプルシアンブルーの固定化にそれ以上変化は見られず、むしろ生産コストが上昇して生産性に劣る場合がある。
【0038】
本発明の放射性セシウム吸着材はまた、上記フロック中に、パルプ繊維性基材、プルシアンブルーおよび凝集剤以外の添加剤として、パルプ繊維性基材の浸水時の崩壊を防止する目的で紙力増強剤および/または第2凝集剤を含有していてもよい。
【0039】
紙力増強剤の例としては、ポリアミド・エピクロロヒドリンポリマー、ポリアミンエピクロロヒドリンポリマーおよびこれらの組合せが挙げられる。第2凝集剤の例としては、上記凝集剤のものと同様である。本発明において、第2凝集剤は、上記凝集剤と同一のものであってもよく、異なるものであってもよい。紙力増強剤および第2凝集剤は、本発明の吸着材におけるパルプ繊維性基材とプルシアンブルーとの間の固定化、およびパルプ繊維基材同士の固定化を一層高めることができ、本発明の吸着材に対して長期間にわたる耐水性を付与することができる。
【0040】
本発明の放射性セシウム吸着材はまた、上記フロック以外に、その他の添加剤を含有していてもよい。その他の添加剤の例としては、タルク、炭酸カルシウム、ポリエチレン等の粉体、および増粘剤が挙げられる。当該その他の添加剤の含有量は、特に限定されず、本発明の放射性セシウム吸着能を阻害しない程度の量が当業者によって任意に選択され得る。
【0041】
本発明の放射性セシウム吸着材は、例えば、以下のようにして製造される。
【0042】
本発明においては、まずパルプ繊維性基材とプルシアンブルーとが混合され、予備複合体が形成される。
【0043】
本発明において、上記予備複合体の形成には種々の方法が用いられ、例えば、(1)水を含むパルプ繊維性基材への添加剤(例えば、上記紙力増強剤および/または第2凝集剤)を用いたプルシアンブルーの付着、(2)プルシアンブルーを含有する水溶液(以下、プルシアンブルー水溶液ということもある)への当該パルプ繊維性基材の浸漬、(3)パルプ繊維性基材へのプルシアンブルー水溶液の噴霧、(4)パルプ繊維性基材へのプルシアンブルー水溶液の塗布、または(5)これらの(1)〜(4)の2以上の組み合わせが用いられ得る。
【0044】
ここで、1つの実施形態である上記(1)水を含むパルプ繊維性基材への添加剤を用いたプルシアンブルーの付着により、上記予備複合体を形成する方法について説明する。
【0045】
水を含むパルプ繊維性基材は、パルプ繊維性基材に水(例えば、水道水、イオン交換水、超純水、および電解水を包含する)を添加または含浸させることにより調製される。次いで、得られた水を含むパルプ繊維性基材に、上記紙力増強剤および/または第2凝集剤が添加される。紙力増強剤および/または第2凝集剤は、必ずしも限定されないが、上記パルプ繊維性基材の乾燥重量100重量部に対し、好ましくは1重量部〜40重量部、より好ましくは2重量部〜20重量部の割合で添加される。
【0046】
その後、所定量のプルシアンブルーが添加される。添加剤とプルシアンブルーの添加順序はこれに限定されず、水を含むパルプ繊維性基材にプルシアンブルーを添加した後に、上記紙力増強剤および/または第2凝集剤を添加してもよい。あるいは、水を含むパルプ繊維性基材にプルシアンブルーと添加剤を同時に添加してもよい。
【0047】
なお、上記以外に他の成分(例えば、放射性物質(例えば、放射性セシウム、放射性ヨウ素)に対して吸着性能を有する材料、pH調整剤などの他の添加剤)が添加されてもよい。他の成分の含有量は、当業者によって適宜選択され得る。
【0048】
こうして、パルプ繊維性基材とプルシアンブルーとが混合され、予備複合体が形成される。
【0049】
本発明では、次に、予備複合体に凝集剤を接触させてフロックが形成される。
【0050】
予備複合体に凝集剤を接触させる方法は、特に限定されないが、例えば、(a)予備複合体に凝集剤を含有する水溶液を添加することにより、あるいは(b)予備複合体と凝集剤の粉体とを混合した後、水または凝集剤を含有する水溶液を添加することにより行われる。上記(a)または(b)の接触の際に用いられ得る凝集剤の水溶液の濃度は、特に限定されず、当業者にて適切な濃度が設定され得る。また、当該接触に要する予備複合体と凝集剤の水溶液との量、浴比、温度、時間等の各条件もまた当業者にて適切な条件が設定され得る。なお、上記(a)または(b)の凝集剤の接触において、当該凝集剤とともに上記紙力増強剤が別途添加されてもよい。
【0051】
予備複合体に凝集剤を接触させた後、必要に応じて当業者に周知の手段を用いて乾燥が行われる。乾燥の温度および時間もまた特に限定されない。
【0052】
このようにして、パルプ繊維性基材、プルシアンブルーおよび凝集剤、ならびに必要に応じて添加剤を含有するフロックが形成される。得られるフロックの大きさは、使用するパルプ繊維性基材の大きさ等によって変動するため必ずしも限定されないが、例えば、5mm〜50mmの直径を有する。得られたフロックは、本発明の放射性セシウム吸着材としてそのまま使用することができる。
【0053】
次に、本発明の放射性セシウム吸着材を用いて、放射性セシウムを含む汚染水を浄化するための方法について説明する。
【0054】
汚染水の浄化にあたっては、上記本発明の放射性セシウム吸着材が該汚染水と接触させられる。
【0055】
上記接触は、例えば、(1)汚染水を含む容器内に本発明の放射性セシウム吸着材を所定時間仕込む、(2)本発明の放射性セシウム吸着材をそのまま、または必要に応じて細かく切断し、カラム充填剤としてカラム内に充填して、その中に汚染水を通す、(3)本発明の放射性セシウム吸着材を一種の濾紙として用いて汚染水を濾過する、(4)上記(1)〜(3)を複数回行うおよび/または組み合わせる;などの方法を通じて行うことができる。このような接触に伴う操作の条件は、当業者が必要に応じて任意の条件を設定することができる。
【0056】
このようにして放射性セシウムを含む汚染水から、放射性セシウムを効率良くかつ簡易に除去することができる。本発明の放射性セシウム吸着材では、吸着可能な放射性セシウムの種類は特に限定されない。すなわち、放射性セシウム137、放射性セシウム134およびこれらの組み合わせのいずれについても良好な吸着性能を発揮し得る。
【0057】
上記の通り、本発明の放射性セシウム吸着材は、その成分の多くがパルプ繊維で構成されるパルプ繊維性基材を含有する。このため、本発明の吸着材は、減量化が可能であるという特徴を有する。すなわち、放射性セシウムを吸着直後の放射性セシウム吸着材は、大抵の場合、多くの水を含有しているが、自然乾燥または加熱乾燥により水分を除去して第一段階の減容化を行うことが可能である。さらに乾燥した放射性セシウム吸着材を焼却することにより、放射性セシウム吸着材の主な構成物質である紙や有機系の添加剤は灰となるため、さらに大幅な減容化が可能になる。
【0058】
焼却後、本発明の放射性セシウム吸着材は、放射性焼却灰として必要に応じて容器への保存等が行われてもよく、例えば、各地域、地方公共団体または国が定める廃棄ルールに則って廃棄または貯蔵が行われる。
【実施例】
【0059】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:PB付着パルプビーズの製造)
1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加し、ボトルを振って撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。次いで、これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、乾燥PB付着パルプビーズ42gのフロックを得た。
【0061】
得られた乾燥PB付着パルプビーズについて、水中でのプルシアンブルー成分の脱離の有無を以下のようにして評価した。
【0062】
得られた乾燥PB付着パルプビーズ10gを100mLの水を含む透明な容器中に浸漬し、時折撹拌しながら30日間放置した。なお、撹拌以外の際は、容器を密封して水の蒸発を防止した。30日経過後、容器内部の様子を目視で観察し、以下の基準で評価した:
○:全く水の透明性に変化がなかった。
△:水が青くなったが、固形物の脱離は観察されなかった。
×:水が青くなり、固体の脱離も観察された。
【0063】
得られた結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1〜6)
凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩を含有する水溶液およびカチオン性変性ポリアクリルアミド水溶液をそれぞれ添加する代わりに、以下に示すような各接着剤を含有する水溶液(濃度5%w/v)80gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして乾燥PB付着パルプビーズ約44gをそれぞれ得た。
(1)比較例1:CMC(カルボキシメチルセルロース):第一工業製薬株式会社製、セロゲン3H;
(2)比較例2:ポリビニルピロリドン:第一工業製薬株式会社製、ピッツコールK90;
(3)比較例3:水性アクリル系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスA−6001;
(4)比較例4:水性酢酸ビニル系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスEL−105;および
(5)比較例5:水性SBR系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスSB−1273。
【0065】
なお、比較例6については、コントロールとして当該凝集剤の水溶液およびカチオン性変性ポリアクリルアミド水溶液をそれぞれ添加する代わりに、(接着剤を含有していない)水80gを添加したこと以外は実施例1と同様にして乾燥PB付着パルプビーズを得た。
【0066】
得られた各乾燥PB付着パルプビーズについて、実施例1と同様の方法で、プルシアンブルーの脱離の有無について評価した。得られた結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示すように、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、水への浸漬後30日を経過した後でも、プルシアンブルーの脱落が確認されないことを確認した。このため、上記参考例1および2の結果を踏まえ、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、放射性セシウムを効果的に吸着することができるとともに、仮に放射性セシウム吸着後に長期間が経過したとしてもプルシアンブルーは脱落することなく、汚染物質の再拡散のリスクが解消されていることがわかる。
【0069】
(実施例2:PB付着パルプビーズの塩水中の評価)
実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズ10gを100mLの塩水(濃度3.5%w/v)を含む透明な容器中に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にしてプルシアンブルーの脱離の有無について評価した。30日経過後の評価結果は「○」であり、全く塩水の透明性に変化がなかった。このことから、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、海水を想定した塩水への浸漬後に長期間が経過したとしてもプルシアンブルーは脱落することなく、汚染物質の再拡散のリスクが解消されていることがわかる。
【0070】
(実施例3〜6:PB付着パルプビーズ(サンプルA)の製造)
1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)および水400gを入れて攪拌し、パルプ繊維がほぼ均一に分散した水溶液を得た。この水溶液に、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加し、充分に撹拌して添加した紙力増強剤または増粘剤が溶解したことを確認した後、これを濾過して余剰の水(濾液)を分離し、得られたパルプ繊維を回収して処理済パルプビーズAを得た。
【0071】
次いで、1Lのポリエチレンボトルに、処理済パルプビーズA 100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルA)42gのフロックを得た。
【0072】
得られたPB付着パルプビーズについて、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。
【0073】
得られた1gのPB付着パルプビーズを、100mLの水を含む容器に入れ、スターラーにより200回転/分の速度で10分間〜30分間撹拌した。10分間および30分間撹拌した後の容器内のそれぞれのPB付着パルプビーズの形状について、以下の基準に基づいて評価した:
○:PB付着パルプビーズに変化がなかった。
△:PB付着パルプビーズが少し崩れていることが観察された。
×:PB付着パルプビーズが完全に崩れてパルプ繊維水溶液となったことが観察された。
【0074】
得られた結果を表2に示す。
【0075】
(実施例7〜10:PB付着パルプビーズ(サンプルB)の製造)
1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)に、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加し、充分に撹拌して添加した紙力増強剤または増粘剤が溶解したことを確認した後、これを濾過して余剰の水(濾液)を分離し、得られたパルプ繊維を回収して処理済パルプビーズBを得た。
【0076】
1Lのポリエチレンボトルに、処理済パルプビーズB 100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルB)42gのフロックを得た。
【0077】
得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、耐水性および高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0078】
(実施例11〜14:PB付着パルプビーズ(サンプルC)の製造)
1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。次いで、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加して充分に撹拌した水溶液50gを、さらに万遍なく添加して充分に撹拌した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルC)42gのフロックを得た。
【0079】
得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、耐水性および高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0080】
(実施例15:PB付着パルプビーズ(サンプルD)の製造)
紙力増強剤および増粘剤のいずれも使用することなく、以下のようにしてPB付着パルプビーズを製造した。
【0081】
1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルD)を得た。
【0082】
得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0083】
(比較例7:PB付着パルプビーズ(比較サンプルE)の製造)
紙力増強剤、増粘剤および凝集剤のいずれも使用することなく、以下のようにしてPB付着パルプビーズを製造した。
【0084】
1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gとを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(比較サンプルE)を得た。
【0085】
得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
表2に示すように、実施例3〜15で得られたPB付着パルプビーズはいずれも、比較例7で得られたもの(比較サンプルE)と比較して、例えば10分間の高速撹拌によっても崩壊することがなく、形状の安定性に優れていることがわかる。これに対し、比較例7で得られたPB付着パルプビーズでは、水中への僅かな時間の浸漬・撹拌により、10分間を待たず短時間で崩壊が起こり、長時間の水と接触する条件での使用には余り適していないことがわかる。
【0088】
また、実施例3〜14で得られた、紙力増強剤または増粘剤を添加して得られたPB付着パルプビーズでは、紙力増強剤を添加した実施例3および7において30分間の高速撹拌経過後でもビーズ形状の崩壊はほとんど観察されず、増粘剤を添加して得られたPB付着パルプビーズと比較して、より長時間をかけて水との接触するような条件下でも放射性セシウム吸着材として好適に使用し得ることがわかる。さらに、実施例3、7および11の間での各結果を対比すると、製造時における紙力増強剤の添加は、凝集剤を添加する前に行う方が、上記高速撹拌後の崩壊性に多少の差を生じており、得られたPB付着パルプビーズは優れた耐水性能を発揮することがわかる。
【0089】
(実施例16:PB付着パルプビーズの製造)
1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gとアニオン系凝集剤(TA−KSH)4gとを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)および紙力増強剤(星光PMC株式会社製、WS4030)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/v、紙力増強剤10%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルF)を得た。
【0090】
(実施例17:放射性セシウム137および放射性セシウム134の吸着性能の評価)
2013年1月に福島県沖合の同地点から、海水を4Lずつ採取し、充分に撹拌した後、120mLの試料液を4つ得た。
【0091】
これらのうち、2つの試料液に、上記実施例16で得られたPB付着パルプビーズ(サンプルF)、またはゼオライト(ジークライト株式会社;商品名:スーパーZ;サイズ2mm以下;比較例8)をそれぞれ1.2g添加し、5分間撹拌した。残りの2つの試料液はコントロール1および2(比較例9および10)としてそのまま使用した。
【0092】
各試料液を、濾紙(アドバンテック株式会社;定性濾紙No.1)を用いて濾過し、100mLを量り取った後に、ゲルマニウム半導体検出器(SEIKO EG&G社製)を用いて、各サンプルにおける放射性セシウム137および放射性セシウム134の測定時間300分間における放射能濃度(Bq/L)および放射能誤差(Bq/L)を測定した。
【0093】
得られた結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
表3に示すように、実施例16で得られたPB付着パルプビーズを添加して得た濾液の放射性セシウム137の放射性濃度は、コントロール1および2(比較例9および10)で得られたものと比較して、数値が著しく低下しており、実施例16で得られたPB付着パルプビーズが効果的に放射性セシウム137を吸着していたことがわかる。また、この実施例16の濾液について、放射性セシウム134の放射性濃度は、下限数量以下の値となった。このことから、実施例16で得られたPB付着パルプビーズは放射性セシウム134に対しても優れた吸着能を有していることがわかる。さらに、表3における実施例16の結果と比較例8との対比において、従来より放射性セシウム吸着剤として使用され得るゼオライトは、放射性セシウム134については、下限数量以下の数値を示していたが、放射性セシウム137に対しては、コントロール1および2と比較してほとんど放射性濃度は低下しなかった。これに対し、実施例16で得られたPB付着パルプビーズは、放射性セシウム137に対し、ゼオライトと比較しても大変優れた吸着能を有していることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の放射性セシウム吸着材は、放射性セシウムを含有する汚染水を効率よく浄化することができ、かつ長時間の水との接触においても崩壊することなく、その形状を保持し得る。これにより、放射性セシウムを吸着したプルシアンブルーが崩壊により再度拡散して二次的被害を引き起こす等の懸念は払拭され、一層安全でかつ使用しやすい状態で、汚染水等に含まれる放射性セシウムの吸着を行うことができる。本発明は、例えば、放射性セシウムによる放射性物質で汚染された災害現場や災害地域の浄化作業において有用である。