【実施例】
【0059】
  以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0060】
(実施例1:PB付着パルプビーズの製造)
  1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加し、ボトルを振って撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。次いで、これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、乾燥PB付着パルプビーズ42gのフロックを得た。
【0061】
  得られた乾燥PB付着パルプビーズについて、水中でのプルシアンブルー成分の脱離の有無を以下のようにして評価した。
【0062】
  得られた乾燥PB付着パルプビーズ10gを100mLの水を含む透明な容器中に浸漬し、時折撹拌しながら30日間放置した。なお、撹拌以外の際は、容器を密封して水の蒸発を防止した。30日経過後、容器内部の様子を目視で観察し、以下の基準で評価した:
    ○:全く水の透明性に変化がなかった。
    △:水が青くなったが、固形物の脱離は観察されなかった。
    ×:水が青くなり、固体の脱離も観察された。
【0063】
  得られた結果を表1に示す。
【0064】
(比較例1〜6)
  凝集剤であるポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩を含有する水溶液およびカチオン性変性ポリアクリルアミド水溶液をそれぞれ添加する代わりに、以下に示すような各接着剤を含有する水溶液(濃度5%w/v)80gを添加したこと以外は、実施例1と同様にして乾燥PB付着パルプビーズ約44gをそれぞれ得た。
    (1)比較例1:CMC(カルボキシメチルセルロース):第一工業製薬株式会社製、セロゲン3H;
    (2)比較例2:ポリビニルピロリドン:第一工業製薬株式会社製、ピッツコールK90;
    (3)比較例3:水性アクリル系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスA−6001;
    (4)比較例4:水性酢酸ビニル系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスEL−105;および
    (5)比較例5:水性SBR系エマルジョン:株式会社レヂテックス製、レヂテックスSB−1273。
【0065】
  なお、比較例6については、コントロールとして当該凝集剤の水溶液およびカチオン性変性ポリアクリルアミド水溶液をそれぞれ添加する代わりに、(接着剤を含有していない)水80gを添加したこと以外は実施例1と同様にして乾燥PB付着パルプビーズを得た。
【0066】
  得られた各乾燥PB付着パルプビーズについて、実施例1と同様の方法で、プルシアンブルーの脱離の有無について評価した。得られた結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
  表1に示すように、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、水への浸漬後30日を経過した後でも、プルシアンブルーの脱落が確認されないことを確認した。このため、上記参考例1および2の結果を踏まえ、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、放射性セシウムを効果的に吸着することができるとともに、仮に放射性セシウム吸着後に長期間が経過したとしてもプルシアンブルーは脱落することなく、汚染物質の再拡散のリスクが解消されていることがわかる。
【0069】
(実施例2:PB付着パルプビーズの塩水中の評価)
  実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズ10gを100mLの塩水(濃度3.5%w/v)を含む透明な容器中に浸漬したこと以外は、実施例1と同様にしてプルシアンブルーの脱離の有無について評価した。30日経過後の評価結果は「○」であり、全く塩水の透明性に変化がなかった。このことから、実施例1で得られた乾燥PB付着パルプビーズは、海水を想定した塩水への浸漬後に長期間が経過したとしてもプルシアンブルーは脱落することなく、汚染物質の再拡散のリスクが解消されていることがわかる。
【0070】
(実施例3〜6:PB付着パルプビーズ(サンプルA)の製造)
  1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)および水400gを入れて攪拌し、パルプ繊維がほぼ均一に分散した水溶液を得た。この水溶液に、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加し、充分に撹拌して添加した紙力増強剤または増粘剤が溶解したことを確認した後、これを濾過して余剰の水(濾液)を分離し、得られたパルプ繊維を回収して処理済パルプビーズAを得た。
【0071】
  次いで、1Lのポリエチレンボトルに、処理済パルプビーズA  100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルA)42gのフロックを得た。
【0072】
  得られたPB付着パルプビーズについて、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。
【0073】
  得られた1gのPB付着パルプビーズを、100mLの水を含む容器に入れ、スターラーにより200回転/分の速度で10分間〜30分間撹拌した。10分間および30分間撹拌した後の容器内のそれぞれのPB付着パルプビーズの形状について、以下の基準に基づいて評価した:
    ○:PB付着パルプビーズに変化がなかった。
    △:PB付着パルプビーズが少し崩れていることが観察された。
    ×:PB付着パルプビーズが完全に崩れてパルプ繊維水溶液となったことが観察された。
【0074】
  得られた結果を表2に示す。
【0075】
(実施例7〜10:PB付着パルプビーズ(サンプルB)の製造)
  1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)に、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加し、充分に撹拌して添加した紙力増強剤または増粘剤が溶解したことを確認した後、これを濾過して余剰の水(濾液)を分離し、得られたパルプ繊維を回収して処理済パルプビーズBを得た。
【0076】
  1Lのポリエチレンボトルに、処理済パルプビーズB  100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルB)42gのフロックを得た。
【0077】
  得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、耐水性および高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0078】
(実施例11〜14:PB付着パルプビーズ(サンプルC)の製造)
  1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。次いで、表2に示す紙力増強剤または増粘剤のいずれか1種を固形分質量で2gとなるように添加して充分に撹拌した水溶液50gを、さらに万遍なく添加して充分に撹拌した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルC)42gのフロックを得た。
【0079】
  得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、耐水性および高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0080】
(実施例15:PB付着パルプビーズ(サンプルD)の製造)
  紙力増強剤および増粘剤のいずれも使用することなく、以下のようにしてPB付着パルプビーズを製造した。
【0081】
  1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。さらに、0.1%w/vのカチオン性変性ポリアクリルアミド(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC5025)水溶液50gを、添加して攪拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルD)を得た。
【0082】
  得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0083】
(比較例7:PB付着パルプビーズ(比較サンプルE)の製造)
  紙力増強剤、増粘剤および凝集剤のいずれも使用することなく、以下のようにしてPB付着パルプビーズを製造した。
【0084】
  1Lのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gとを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(比較サンプルE)を得た。
【0085】
  得られたPB付着パルプビーズについて、実施例3〜6と同様の方法で、高速撹拌時のパルプビーズ崩壊の有無を評価した。得られた結果を表2に示す。
【0086】
【表2】
【0087】
  表2に示すように、実施例3〜15で得られたPB付着パルプビーズはいずれも、比較例7で得られたもの(比較サンプルE)と比較して、例えば10分間の高速撹拌によっても崩壊することがなく、形状の安定性に優れていることがわかる。これに対し、比較例7で得られたPB付着パルプビーズでは、水中への僅かな時間の浸漬・撹拌により、10分間を待たず短時間で崩壊が起こり、長時間の水と接触する条件での使用には余り適していないことがわかる。
【0088】
  また、実施例3〜14で得られた、紙力増強剤または増粘剤を添加して得られたPB付着パルプビーズでは、紙力増強剤を添加した実施例3および7において30分間の高速撹拌経過後でもビーズ形状の崩壊はほとんど観察されず、増粘剤を添加して得られたPB付着パルプビーズと比較して、より長時間をかけて水との接触するような条件下でも放射性セシウム吸着材として好適に使用し得ることがわかる。さらに、実施例3、7および11の間での各結果を対比すると、製造時における紙力増強剤の添加は、凝集剤を添加する前に行う方が、上記高速撹拌後の崩壊性に多少の差を生じており、得られたPB付着パルプビーズは優れた耐水性能を発揮することがわかる。
【0089】
(実施例16:PB付着パルプビーズの製造)
  1リットルのポリエチレンボトルに、パルプビーズ100g(固形重量約30%および水分量約70%)とプルシアンブルー(PB)10gとアニオン系凝集剤(TA−KSH)4gとを添加して撹拌し、PBがパルプビーズにほぼ均一に付着していることを目視で確認した。これにポリ塩化アルミニウム(PAC)およびポリアミン塩(大明化学工業株式会社製、タイポリマーTC8500)および紙力増強剤(星光PMC株式会社製、WS4030)を含有する水溶液30g(当該水溶液の濃度は、PAC4%w/vおよびポリアミン塩1%w/v、紙力増強剤10%w/vであった)を添加して撹拌し、PBがパルプビーズに均一に付着していることを目視で確認した。その後、ボトルの内容物をバットに均一に拡散し、100℃以下の温度で約5時間乾燥を行い、PB付着パルプビーズ(サンプルF)を得た。
【0090】
(実施例17:放射性セシウム137および放射性セシウム134の吸着性能の評価)
  2013年1月に福島県沖合の同地点から、海水を4Lずつ採取し、充分に撹拌した後、120mLの試料液を4つ得た。
【0091】
  これらのうち、2つの試料液に、上記実施例16で得られたPB付着パルプビーズ(サンプルF)、またはゼオライト(ジークライト株式会社;商品名:スーパーZ;サイズ2mm以下;比較例8)をそれぞれ1.2g添加し、5分間撹拌した。残りの2つの試料液はコントロール1および2(比較例9および10)としてそのまま使用した。
【0092】
  各試料液を、濾紙(アドバンテック株式会社;定性濾紙No.1)を用いて濾過し、100mLを量り取った後に、ゲルマニウム半導体検出器(SEIKO  EG&G社製)を用いて、各サンプルにおける放射性セシウム137および放射性セシウム134の測定時間300分間における放射能濃度(Bq/L)および放射能誤差(Bq/L)を測定した。
【0093】
  得られた結果を表3に示す。
【0094】
【表3】
【0095】
  表3に示すように、実施例16で得られたPB付着パルプビーズを添加して得た濾液の放射性セシウム137の放射性濃度は、コントロール1および2(比較例9および10)で得られたものと比較して、数値が著しく低下しており、実施例16で得られたPB付着パルプビーズが効果的に放射性セシウム137を吸着していたことがわかる。また、この実施例16の濾液について、放射性セシウム134の放射性濃度は、下限数量以下の値となった。このことから、実施例16で得られたPB付着パルプビーズは放射性セシウム134に対しても優れた吸着能を有していることがわかる。さらに、表3における実施例16の結果と比較例8との対比において、従来より放射性セシウム吸着剤として使用され得るゼオライトは、放射性セシウム134については、下限数量以下の数値を示していたが、放射性セシウム137に対しては、コントロール1および2と比較してほとんど放射性濃度は低下しなかった。これに対し、実施例16で得られたPB付着パルプビーズは、放射性セシウム137に対し、ゼオライトと比較しても大変優れた吸着能を有していることがわかる。