(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
構造物における鉛直方向の変位を計測する装置として、開水路式変位計が存在する。開水路式変位計は、水面が大気に開放された状態のいわゆる開水路によって基本構造をなし、この開水路に沿って所定間隔で設けた一連の測点で変位計測を行うものである。また、各測点には、浮子を浮かべた水槽と、浮子の鉛直方向移動量を検知する渦電流センサとが設置されている。水槽は構造物と連結しており、構造物の沈下や隆起に伴って同様に沈下、隆起の動きを示す。例えば、構造物沈下に伴って、或る測点の水槽が沈下した場合、水槽沈下に関わらず水位一定である水面上の浮子天端と、水槽と共に沈下する渦電流センサとの間の鉛直距離が、沈下前の状態から変化する。この変化量から当該測点の変位量と測点間の相対変位量を検出することが出来る。
【0003】
このような開水路式変位計は、温度、湿度等の環境変化に対して安定した計測結果が得られる特性を有しており、長期にわたる安定的な変位計測が必要な状況に、よく適用されてきた。開水路式変位計の従来技術としては、例えば、不動点間に設置され貯留液体の上部に空間を有する液路と、液路の中間に可撓部を介して複数構成された変位計測部と、液路に沿って設けられ貯留液体に浮遊し各変位計測部内を通るフロート体と、フロート体の両端部を浮動自在に支持する第1および第2の支持部と、各変位計測部内に設けられフロート体の対向位置に対応して水平離間距離を計測する非接触変位センサとからなる開水路型水平変位計(特許文献1参照)などが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の開水路式変位計は、構造物の挙動に応じた水槽内水面の揺動が収束するまで、正確な計測が困難であるため、アンダーピニング工法適用時で荷重移行作業中などの構造物の変位計測など、短時間で計測結果を得る必要がある状況には不向きであった。一方、そうした短時間での計測を行うべく、ダイヤルゲージ変位計等の計測機器を設置する場合、既存の開水路式変位計とは別の計測機構を付加することになり、導入・運用のコストや手間の増加につながっていた。
【0006】
そこで本発明は、短時間での正確な鉛直変位計測を可能とする液路式変位計の技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決する本発明の液路式変位計は、複数の液槽
が液路にて連結
されて構成
され、前記液槽または前記液路の少なくともいずれかの箇所に、液面の揺動を抑制する揺動抑制材
が設け
られた
液路式変位計であって、前記液路は、前記複数の液槽のうち端部に位置する液槽から端部側へ突出しており、前記揺動抑制材が、前記液路における前記突出した部分の先端に更に設けられていることを特徴とする。
【0008】
これによれば、例えば測定対象の構造物に鉛直変位が生じた場合、この鉛直変位に伴って、液路式変位計の該当箇所の液槽で水面揺動が生じるが、その水面揺動を適宜通過させる揺動抑制材においてエネルギーの吸収がなされるため、揺動抑制材が設置されていない場合と比較して迅速に水面揺動を収束させることが出来る。
また、前記揺動抑制材が、液路の突出部先端に更に設けられるので、液路中で伝播する水面揺動が液路端部に達した際、これを揺動抑制材が適宜受け止めてエネルギーを吸収して、他方の液路端部に向けた水面揺動の反射を抑制し、液路式変位計における短時間での鉛直変位計測を更に精度の良いものと出来る。
【0009】
つまり本発明によれば、構造物で生じた鉛直変位に伴う液路式変位計での水面揺動を迅速に収束させ、落ち着いた水面において、液路式変位計における短時間での正確な鉛直変位計測が可能となる。従って、長期計測時および短期計測時のいずれの状況にも本発明の液路式変位計を適用可能となり、従来のような、計測時間の長短による変位計測システム切り替えや、そうした変位計測システム間での計測値の整合作業や誤差調整などの煩雑な作業が不要となる。また、変位計測システムの一本化、および変位計測に伴う各種作業の低減が図れることで、変位計測システムの導入及び運用にかかるコストも抑制出来る。
【0010】
なお、上述の液路式変位計において、前記揺動抑制材は、複数の線状材
が絡み合わ
されて構成
されたものであるとしてもよい。
【0011】
これによれば、揺動抑制材において、上述の水面揺動に伴う液体移動を面ではなく線、すなわち各線状材で受け止めて水面揺動のエネルギーを適宜吸収しつつ、線状材の径と比べて十分大きな線状材間の開口を介し、上述の液体を効率良く受け入れて通過させることが可能となる。従って、水面揺動を短時間で落ち着かせつつ、構造物等での変位に対応した水位変化を液路中で精度良く伝播させることが可能となり、液路式変位計における短時間での正確な鉛直変位計測が可能となる。
【0012】
また、上述の液路式変位計において、前記揺動抑制材は、ナイロン不織布であるとしてもよい。
【0013】
これによれば、上述の揺動抑制材を、入手容易で低コストなナイロン不織布で構成することが可能であり、短時間での正確な鉛直変位計測を可能とする液路式変位計を、低コストかつ簡便に導入可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、液路式変位計における短時間での正確な鉛直変位計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本実施形態における液路式変位計の全体構造例1を示す平面図である。
【
図2】本実施形態における液路式変位計の全体構造例1を示す側断面図である。
【
図3】本実施形態の液路式変位計の水槽における揺動抑制材の設置構造例を示す平面図である。
【
図4】本実施形態の液路式変位計の水槽における揺動抑制材の設置構造例1を示す断面図である。
【
図5】本実施形態の液路式変位計の水槽における揺動抑制材の設置構造例2を示す断面図である。
【
図6】本実施形態の液路式変位計における揺動抑制材の構造例を示す図である。
【
図7】本実施形態の液路式変位計の水槽における揺動抑制材の他の設置構造例を示す平面図である。
【
図8】本実施形態の液路式変位計に関する水面揺動の時間推移シミュレーション結果の例1を示す図である。
【
図9】本実施形態の液路式変位計に関する水面揺動の時間推移シミュレーション結果の例2を示す図である。
【
図10】本実施形態における液路式変位計の全体構造例2を示す平面図である。
【
図11】本実施形態における液路式変位計の全体構造例2を示す側断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施形態について図面を用いて詳細に説明する。
図1は、本実施形態における液路式変位計たる開水路式変位計100(以下同様)の全体構造例1を示す平面図であり、
図2は本実施形態における開水路式変位計100の全体構造例1を示す断面図である。なお、説明のため、
図1、2における水槽11については、その内部に備わる揺動抑制材30とセンサ収納部19を透過的に示している。
【0019】
本実施形態における開水路式変位計100は、長期にわたる安定的な変位計測を従来通りに実行可能であると共に、短時間での正確な鉛直変位計測をも可能とする変位計である。こうした開水路式変位計100は、所定間隔で設けた複数の測点10に配置した液槽たる水槽11を液路たる水路20にて連結し構成した開水路25から構成されている。また複数の測点10のうち、いずれか1つの測点の水槽11は鉛直変位が生じない堅固な基礎2等に固定され、測点間の相対変位量の算定時における基準点10Bとなっている。また、水槽11は変位計測対象である構造物1と一体に連結しており、この構造物1の沈下や隆起といった鉛直変位に伴って同様に沈下、隆起の動きを示す。
【0020】
ここで、各測点10の水槽11にはセンサ収納部19が設置され、更に、測点10の水槽11または水路20の少なくともいずれかの箇所には揺動抑制材30が設置されている。
図1、2の例では、各水槽11に揺動抑制材30が設置された構成となっている。この揺動抑制材30の設置がなされた開水路式変位計100の構造例を
図3にて示す。
図3は、本実施形態の開水路式変位計100の水槽11における揺動抑制材30の設置構造例を示す平面図、
図4は本実施形態の開水路式変位計100の水槽11における揺動抑制材30の設置構造例を示す断面図である。ここでは、揺動抑制材30が水槽11内に設置された構造について示す。また
図4の断面図は、
図3に示す開水路25をA−A方向から見た場合の断面図である。
【0021】
図3、4にて示すように、上述の水槽11には水路20が連結されており、互いに連通する内空18、21において蓄えた水12の水面13を同じくしている。また、水槽11の内空18には、箱状のセンサ収納部19が設けられており、その天端15には渦電流センサ16が設置されている。渦電流センサ16は、センサ収納部19における水面13の浮子14と所定の離間距離をとって、浮子14の鉛直方向移動量を検知するセンサである。こうした渦電流センサ16における変位計測の一般的概念については既存技術と同様である。
【0022】
なお、各水槽11に備わる上述のセンサ収納部19は、
図4にて示すように、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち水12の占める領域21Aの所定部分23Aを覆って、水路20と水槽11との間の水12の伝播経路を所定割合(例:15%)だけ阻害している。或いは、
図5にて示すように、水槽11に連結した水路20の開口22Aに所定面積の板材23を当接させて、水路20の開口22Aのうち水12の占める領域21Aの所定割合(例:50%)を覆い、水路20と水槽11との間の水12の伝播経路を一部阻害することも想定出来る。なお、
図4、5にて例示した上述の構成については、後述の水面揺動の時間推移に関するシミュレーションにおける条件として採用する。
【0023】
また本実施形態における上述の水槽11の内空18のうち、センサ収納部19以外の領域18Aには、水槽底部18Bから少なくとも水面13上の所定高さまで、領域18Aの断面を塞ぐ揺動抑制材30が設置されている。この揺動抑制材30は、
図6にて例示するように、ナイロン繊維などの線状材31が組み合わされて所定厚みを成した部材であり、例えばナイロン不織布を採用出来る。ナイロン不織布は入手容易で低コストであり、また所望の形状及びサイズへの切り取りなど取り扱いが容易な素材であり、揺動抑制材30を低コストかつ簡便に構成できることとなる。
【0024】
上述した揺動抑制材30においては、ナイロン繊維等の線状材31の径と比較して、線状材31の間に存在する開口32の開口幅と高さは十分大きく、開口32に対する線状材31は面ではなく線とみなせるものである。従って、水面揺動に伴って、水路20の開口22Aから水槽11内に伝播移動してきた水12は、水槽内空18における揺動抑制材30に衝突する際、面として受け止められることがない。そのため、水面揺動がその伝播元に向けて反射される割合が小さく、水12が開口32に流入して揺動抑制材30内を円滑に透過することになる。
【0025】
例えば、構造物1での変位に伴って水槽11等で生じた水面揺動により伝播移動する水12は、上述の水槽11と隣接する他水槽の内空18の揺動抑制材30に到達し、この揺動抑制材30における線状材31、すなわち面ではなく線で適宜受け止められつつ、(線状材31の径と比べて十分大きな)開口32に流入する。開口32を介して揺動抑制材30内に流入した水12は、揺動抑制材30内で絡み合っている線状材31に更に衝突してエネルギーを減じつつも、上述の開口32同様の径を備えた内部経路33を辿り、円滑に揺動抑制材30を通過する。
【0026】
こうして揺動抑制材30は、開水路25を伝播移動する水12に関し、そのエネルギーを適宜吸収して水面揺動を落ち着かせると共に、水槽内空18における当該揺動抑制材30前後で生じる伝播タイムラグを最小限に留めて円滑に通過させることが可能である。このように、少ないタイムラグで水12の伝播がなされることは、構造物1の変位に伴う水位変化を開水路25中で素早く伝播させることにつながる。以上のように、水面揺動の短時間での沈静化と、開水路25での迅速かつ精度良好な水位変化の伝播とが合わせて確立されることで、本実施形態の開水路式変位計100において短時間での正確な鉛直変位計測が可能となる。この効果は、特にアンダーピニング工法適用時で荷重移行作業中などの構造物1の変位計測時など、急な鉛直変位に伴う大きな水面揺動が生じやすい状況において顕著なものとなる。
【0027】
なお、上述のように揺動抑制材30を水槽11に設置する場合のみならず、水路20に設置するとしてもよい。また揺動抑制材30を、開水路25における水槽11や水路20に加えて、該当開水路25の端部26、27に更に設けるとしてもよい(
図7参照)。この場合、開水路25中で伝播する水面揺動が一方の開水路端部26に達した際、これを開水路端部26の揺動抑制材30が適宜受け止めてエネルギーを吸収し、他方の開水路端部27に向けた水面揺動の反射を抑制することが出来る。これによれば、開水路25における水面揺動が端部26、27を起点に繰り返し反射されて長時間沈静化せず、過大な計測時間と精度不良の計測結果が生じるといった事態を回避し、開水路式変位計100における短時間での鉛直変位計測を更に精度の良いものと出来る。
【0028】
ここで、揺動抑制材30を備えない従来型の開水路式変位計と、揺動抑制材30を備える本実施形態の開水路式変位計100とに関し、それぞれ水面揺動の時間推移をシミュレーションした例を示す。まず、比較するケースとしては以下の5ケースを採用した。
【0029】
・ケース1(従来型):各測点10の水槽11内には揺動抑制材30は備わっていない構成。なお、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち、水12の占める領域21Aの15%がセンサ収納部19によって阻害されている。
【0030】
・ケース2(従来型):各測点10の水槽11内には揺動抑制材30は備わっていない構成。なお、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち、水12の占める領域21Aの50%が所定の板材等によって覆われ阻害されている。
【0031】
・ケース3(本実施形態):各測点10の水槽11内に揺動抑制材30を設けている。なお、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち、水12の占める領域21Aの15%がセンサ収納部19によって阻害されている。
【0032】
・ケース4(本実施形態):各測点10の水槽11内と、開水路端部26、27のそれぞれとに揺動抑制材30を設けている。なお、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち、水12の占める領域21Aの15%がセンサ収納部19によって阻害されている。
【0033】
・ケース5(本実施形態):各測点10の水槽11内に揺動抑制材30を設けている。なお、水槽11に連結した水路20の開口22Aのうち、水12の占める領域21Aの50%が所定の板材等によって阻害されている。
【0034】
また、想定した鉛直変位の条件は、開水路端部26に最寄りの測点10が10秒かけて3mm隆起することとした。他方、その他の測点10や水路20らは変位しないものとした。こうした条件の鉛直変位を想定した場合、測点10の隆起に伴って隆起した水槽11内の水12の水面揺動が、水路20及び揺動抑制材30を介して他の測点10に伝播し、時間経過と共に水面13は平坦化されると考える。
【0035】
以上の条件を上述のケース1〜5のそれぞれに適用した場合の結果を
図8に示す。
図8の例の場合、上述のような隆起が生じはじめた時刻t=0から約10秒後の時点で、各ケースにて変位は3mmに達し、その後、ケース1、2の従来型の開水路式変位計に関しては、おおよそt=30秒、1分10秒、1分40秒、2分10秒、2分40秒、3分10秒、3分40秒、4分10秒、の各時点で変位量が大きく変動する結果となり、最終的に、例えば変位量の振幅が0.1mm程度まで沈静化するのに6分ほど要している。
【0036】
一方、ケース3〜5の本実施形態の開水路式変位計100に関しては、おおよそt=30秒、1分10秒の各時点で変位量が変動するものの、約2分以内で変位量の振幅が0.1mm程度まで沈静化している。つまり、揺動抑制材30を備えた本実施形態の開水路式変位計100であれば、従来型の開水路式変位計と比較して数分の1の時間で水面揺動が沈静化出来ることとなる。
【0037】
なお、上述した鉛直変位の条件を、開水路端部26に最寄りの測点10が1分かけて約1mm隆起する条件に変更し、上述のケース1およびケース4に適用した場合の結果を
図9に示す。
図9の例の場合、隆起が生じはじめた時刻t=0から約1分後の時点で、各ケースにて変位は0.9mmに達し、その後、ケース1の従来型の開水路式変位計に関しては、おおよそt=1分20秒、1分40秒、2分10秒、2分40秒、の各時点で変位量が変動する結果となり、最終的に変位量の振幅が0.1mm程度まで沈静化するのに3分ほど要している。一方、ケース4の本実施形態の開水路式変位計100に関しては、おおよそt=1分10秒の時点で変位量が変動するものの、約1分30秒以内で変位量の振幅が0.1mm程度まで沈静化している。つまり、穏やかな変位に関しても、揺動抑制材30を備えた本実施形態の開水路式変位計100の方が、従来型の開水路式変位計と比較して約半分程度で水面揺動が沈静化出来ることとなる。
【0038】
また本実施形態では、液槽たる水槽に連結した液路すなわち水路の開口が板材23によって15%、あるいは50%阻害されているものを使用したが、全く阻害されていないものにおいても揺動抑制材が効果を現すことは言うまでも無い。
【0039】
また本実施形態における液路式変位計としては、
図10、11にて例示するように、所定高さを備えた縦型の液槽11の各間を、揺動抑制材30の備わる液路20で連結し構成した液路式変位計100を想定することも出来る。こうした構成において、ある液槽11にて生じた液面揺動に伴う液12の圧力変動は、液路20を介して隣の液槽11に伝播しようとするが、液路20中の揺動抑制材30によってエネルギーの吸収がなされるため、揺動抑制材が設置されていない場合と比較して迅速に水面揺動を収束させることが出来る。
【0040】
以上、本実施形態によれば、構造物で生じた鉛直変位に伴う開水路式変位計での水面揺動を迅速に収束させ、落ち着いた水面において、開水路式変位計における短時間での正確な鉛直変位計測が可能となる。
【0041】
本発明の実施の形態について、その実施の形態に基づき具体的に説明したが、これに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。