(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本願発明である薬剤揮散装置について詳細に説明する。なお、以下の実施形態では薬剤として害虫防除を行うものを採用した場合について説明するが、特にこれに限らず種々の薬剤について適用することができる。
【0013】
この発明は、収納容器の内部に、担体に常温揮散性の薬剤を担持させた薬剤揮散体を収納した薬剤揮散装置に係る発明である。
【0014】
[常温揮散性薬剤]
前記常温揮散性の薬剤(以下、「常温揮散性薬剤」と称する。)は、常温で揮散性を発揮する薬剤であり、常温揮散性のピレスロイド系防虫成分等があげられる。
この常温揮散性薬剤としては、常温において空気中に揮散する性質を有し、25℃における蒸気圧が0.001Pa以上0.1Pa以下程度の薬剤が、適度の揮散性を発揮し得るので好ましい。
【0015】
この常温揮散性のピレスロイド系防虫成分の具体例としては、揮散性能と安全性等の点から、メトフルトリン、プロフルトリン、トランスフルトリン、及びエンペントリンの少なくとも1種があげられる。なお、これらの防虫成分については、各種の光学異性体又は幾何異性体が存在するが、単独、混合物であれ、いずれの異性体類も使用することができる。
【0016】
前記薬剤揮散体には、前記常温揮散性薬剤に加えて、飛翔害虫忌避香料組成物や他の添加物を添加してもよい。
【0017】
[飛翔害虫忌避香料組成物]
前記飛翔害虫忌避香料組成物は、飛翔害虫忌避香料、及び忌避効果持続成分を含む組成物であり、特に使用の初期段階における香りの付与と防虫効果の補強を目的として添加される。
前記飛翔害虫忌避香料としては、下記の一般式(I)で表される酢酸エステル化合物、及び/又は一般式(II)で表されるアリルエステル化合物から選ばれる1種又は2種以上の香料成分(a)と、モノテルペン系アルコールもしくは炭素数が10の芳香族アルコールから選ばれる1種又は2種以上の香料成分(b)を含有する成分があげられる。
CH
3−COO−R
1 (I)
(式中、R
1は炭素数が6〜12のアルコール残基を示す。)
R
2−CH
2−COO−CH
2−CH=CH
2 (II)
(式中、R
2は炭素数が4〜7のアルキル基、アルコキシ基、シクロアルキル基、シクロアルコキシ基、又はフェノキシ基を示す。)
【0018】
前記一般式(I)で表される酢酸エステル化合物の具体例としては、p−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、o−tert−ブチルシクロヘキシルアセテート、p−tert−ペンチルシクロヘキシルアセテート、トリシクロデセニルアセテート、ベンジルアセテート、フェニルエチルアセテート、スチラリルアセテート、アニシルアセテート、シンナミルアセテート、テルピニルアセテート、ジヒドロテルピニルアセテート、リナリルアセテート、エチルリナリルアセテート、シトロネリルアセテート、ゲラニルアセテート、ネリルアセテート、ボルニルアセテート、及びイソボルニルアセテート等があげられる。
【0019】
また、一般式(II)で表されるアリルエステル化合物の具体例としては、アリルヘキサノエート、アリルヘプタノエート、アリルオクタノエート、アリルイソブチルオキシアセテート、アリルn−アミルオキシアセテート、アリルシクロヘキシルアセテート、アリルシクロヘキシルプロピオネート、アリルシクロヘキシルオキシアセテート、アリルフェノキシアセテート等があげられる。
【0020】
更に、(b)成分の具体例としては、テルピネオール、ゲラニオール、ジヒドロミルセノール、ボルネオール、メントール、シトロネロール、ネロール、リナロール、エチルリナロール、チモール、オイゲノール、及びp−メンタン−3,8−ジオール等があげられる。
【0021】
前記(a)の前記(b)に対する配合比率は、0.1〜2.0倍量が好ましい。この範囲であれば飛翔害虫に対して高い忌避効果を奏することが認められる。
【0022】
なお、前記飛翔害虫忌避香料としては、前記以外の香料成分、例えば、リモネン等のモノテルペン系炭化水素、メントン、カルボン、プレゴン、カンファー、ダマスコン等のモノテルペン系ケトン、シトラール、シトロネラール、ネラール、ペリラアルデヒド等のモノテルペン系アルデヒド、シンナミルフォーメート、ゲラニルフォーメート等のエステル化合物、フェニルエチルアルコール、ジフェニルオキサイド、インドラローム、もしくは、前記香料成分を含む種々精油類、例えば、ジャスミン油、ネロリ油、ペパーミント油、ベルガモット油、オレンジ油、ゼラニウム油、プチグレン油、レモン油、シトロネラ油、レモングラス油、シナモン油、ユーカリ油、レモンユーカリ油、タイム油等を適宜添加しても構わない。
【0023】
前記忌避効果持続成分としては、20℃における蒸気圧が0.2〜20Paのグリコール及び/又はグリコールエーテルの1種又は2種以上を用いるのが好ましい。従来、グリコール及び/又はグリコールエーテルは、エタノール、イソプロパノールや灯油等と同列に溶剤として羅列され、また、飛翔害虫に対する効果は何ら言及されていないのであるが、本発明者らは、当該グリコール及び/又はグリコールエーテルが溶剤としてのみならず、飛翔害虫忌避香料に対して特異的に忌避効果の持続作用を奏し、芳香性の飛翔害虫忌避香料を用いた場合には初期の香調をも持続させ得ることを知見したものである。
【0024】
前記忌避効果持続成分の具体的代表例(20℃における蒸気圧を併記)としては、プロピレングリコール(10.7Pa)、ジプロピレングリコール(1.3Pa)、トリプロピレングリコール(0.67Pa)、ジエチレングリコール(3Pa)、トリエチレングリコール(1Pa)、1,3−ブチレングリコール、ヘキシレングリコール(6.7Pa)、ベンジルグリコール(2.7Pa)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(3Pa)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、及びトリプロピレングリコールモノメチルエーテルがあげられ、なかんずく、ジプロピレングリコールが好適である。
【0025】
前記忌避効果持続成分の前記飛翔害虫忌避香料に対する配合比率は、0.2〜10倍量が好ましい。この範囲であれば飛翔害虫忌避香料に対してその忌避効果を十分持続させ得ることができる。
【0026】
ところで、前記飛翔害虫忌避香料組成物を配合する場合、それの前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分に対する配合比率は、0.2〜2倍量程度が適当である。香料組成物の配合量が少ないと香りを付与する目的が達せられないし、一方、多すぎると香りが強すぎたり、防虫成分の揮散に影響を及ぼす恐れがあるので好ましくない。
【0027】
前記飛翔害虫忌避香料組成物を用いる場合においては、前記防虫成分含有樹脂ペレットを調製する際に、飛翔害虫忌避香料組成物を含有させてもよいが、前記防虫成分含有樹脂ペレットと飛翔害虫忌避香料成分含有ペレットをそれぞれ調製した後、両ペレットを混練させる方が好ましい。これは、飛翔害虫忌避香料成分含有ペレット製造時の加熱温度は90℃〜130℃で、防虫成分含有樹脂ペレットの場合の110℃〜140℃に較べて低く、別々にペレットを調製する方が、揮散性の高い香料組成物に対してはロスを低減させる上で有利だからである。
【0028】
[他の添加物]
本発明の薬剤揮散体は、前述したとおり、特に使用の初期段階における香りの付与と防虫効果の補強を目的として、前記飛翔害虫忌避香料組成物を含有することができるが、加えて、より長期間にわたり芳香を持続させうる持続性香料成分、例えば、ガラクソリド、ムスクケトン、エチレンブラシレート、メチルアトラレート等を必要に応じて配合しても構わない。
【0029】
更に、共力剤、忌避剤、抗菌剤、防黴剤、他の機能性成分等も同時に使用可能であり、例えば、前記共力剤としては、イソボルニルチオシアノアセテート(商品名:IBTA)、N−オクチルビシクロヘプテンカルボキシイミド(商品名:サイネピリン222)、N−(2−エチルヘキシル)−1−イソプロピル−4−メチルビシクロ〔2,2,2〕オクト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド(商品名:サイネピリン500)等が挙げられる。
【0030】
前記忌避剤としては、N,N−ジエチル−m−トルアミド(商品名:ディート)、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、2−エチル−1,3−へキサンジオール、1,4,4a,5a,6,9,9a,9b−オクタヒドロジベンゾフラン−4a−カルバルデヒド等が挙げられる。
【0031】
前記抗菌剤としては、ヒノキチオール、テトラヒドロリナロール、オイゲノール、シトロネラール、アリルイソチオシアネート等が挙げられる。
【0032】
前記防黴剤としては、イソプロピルメチルフェノール、オルトフェニルフェノール等が挙げられる。
【0033】
前記他の機能性成分としては、「緑の香り」と呼ばれる青葉アルコールや青葉アルデヒド配合のストレス軽減成分などが挙げられる。
【0034】
更に、着色剤(着色顔料)、帯電防止剤などを適宜配合してもよく、色彩を付加したり、タイムインジケーターを装着して使用終了時点を視認できるようにすれば、商品価値をより高めることができる。
【0035】
本発明で用いる常温揮散性薬剤は、いずれも十分な安定性を有しているが、更に安定性を高めるため、酸化防止剤等の安定剤を添加することも可能であり、例えば、2,2´−メチレンビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4´−メチレンビス(2−メチル−6−t−ブチルフェノール)、BHT、BHA、3,5−ジーt−ブチル−4−ヒドロキシアニソール、メルカプトベンズイミダゾール等を用いることができる。
【0036】
また、紫外線吸収阻害剤としてパラアミノ安息香酸類、桂皮酸類、サリチル酸類、ベンゾフェノン類及びベンゾトリアゾール類などの紫外線吸収剤を用いることにより、保管時、使用時の耐光性を一段と向上させることができる。
【0037】
[担体]
次に、前記薬剤揮散体を構成する担体は、繊維成分又は樹脂成分からなる平板状又は立体状の構造体である。
【0038】
この樹脂成分とは、後述する樹脂組成物からなる成分をいう。
また、この繊維成分とは、繊維状に構成されたものをいい、長繊維(フィラメント)そのものや、長繊維や短繊維(ステープル)を撚り合わせて繊維状としたもの等があげられる。この発明においては、長繊維(フィラメント)を用いるのがよく、特に材料として、後述する樹脂組成物を用いて得られる樹脂製の長繊維(樹脂フィラメント)を用いると、耐久性が高くなり好ましい。
【0039】
前記の平板状又は立体状の構造体とは、平面状若しくは立体状の空隙を有する、メッシュ状構造を有する構造体をいう。この平面状の構造体としては、ネット、格子状構造体等があげられる。
【0040】
[樹脂組成物]
前記の樹脂成分や繊維成分に用いられる樹脂組成物は、構成樹脂に、必要に応じて微粉末成分、及び他の樹脂を混練したものである。なお、この樹脂組成物は、一旦、ペレットに成形された後、上記の常温揮散性薬剤の混練・成形を行ったり、直接成形を行い、常温揮散性薬剤の含浸を行ったりすることが効率上好ましい。
【0041】
この構成樹脂としては、常温揮散性薬剤を練り込むか、又は含浸させるかによって幾分異なる。すなわち、前者の場合、前記構成樹脂は、前記担体の内部に混入された防虫成分が徐々に表面にブリードして揮散することができるものであれば特に限定されず、例えば、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂のようなポリオレフィン系樹脂、あるいは、エチレンやプロピレン等のオレフィンと不飽和カルボン酸エステル等の単量体とを共重合させたオレフィン−不飽和カルボン酸エステル共重合体(以下、単に「ポリオレフィン系共重合体」と称する場合がある。)等を挙げることができる。この不飽和カルボン酸エステルは、ポリオレフィン系共重合体としたときに、前記防虫成分の構成樹脂表面からの揮散をコントロールするのに効果的なものであり、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、酢酸ビニル等が挙げられる。
【0042】
なお、前記オレフィンに対するこれらの不飽和カルボン酸エステル単量体の配合比率は、一般に、不飽和カルボン酸エステル単量体配合比率が高くなるほど防虫成分のブリードの速度を遅らせる傾向があることから、使用する防虫成分の種類や含有量、あるいは使用目的等に応じ、オレフィンに対して1〜30質量%の範囲で適宜調整すればよい。
【0043】
また、前記樹脂組成物としては、あらかじめ不飽和カルボン酸エステル単量体を多く含有するポリオレフィン系共重合体とオレフィンの単独重合体等のポリオレフィン系樹脂を、その含有比率を調整して混合したポリマーブレンドを用いることもでき、さらには必要に応じて、スチレン系熱可塑性エラストマー等の他の高分子化合物を含有させることもできる。
【0044】
本発明では、性能や使用性等の点から、不飽和カルボン酸エステルとして酢酸ビニルを用いたエチレン−ビニルアセテート共重合体が好適であり、その中のエチレン単位とビニルアセテート単位との当量比は、90:10〜70:30であると好ましい。ビニルアセテート単位が少なすぎると、ポリエチレンとほとんど物性が変わらなくなってしまい、本発明で必要とするブリード調整効果がほとんど期待できなくなってしまうからである。一方、ビニルアセテート単位が多すぎると樹脂ペレット状に成形しづらくなる。
また、前記のエチレン−ビニルアセテート共重合体のメルトマスフローレイト(MFR)は、5g/10min以上、50g/10min以下であると好ましい。MFRが小さすぎるとブリード調整剤としての効果が期待できなくなり、MFRが大きすぎると樹脂ペレットの物性に与える影響が無視できなくなってしまう恐れがある。
【0045】
本発明おいて好ましい態様としては、10質量%以上90質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体及び/又はエチレン−メタクリル酸メチル共重合体と混練させた樹脂組成物があげられる。これは、前記常温揮散性薬剤を混練させて薬剤揮散体としたとき、ブリードを適度な範囲で調整することが可能となる。
【0046】
他方、常温揮散性薬剤を含浸させるタイプの薬剤揮散体においては、構成樹脂として、通常ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等の防虫成分に対して非吸着性の樹脂を主体に用いるのが一般的である。
この場合は、立体状メッシュを構成した担体の表面に防虫成分を担持させ揮散に供するのであるが、かかる樹脂組成物に上記したポリオレフィン系樹脂やスチレン系熱可塑性エラストマー、あるいはレーヨン等の樹脂を混紡して構成樹脂を改質し、防虫成分の揮散性を調整することもできる。
【0047】
[薬剤揮散体]
前記薬剤揮散体は、前記担体に、前記常温揮散性薬剤が含有されて構成される。この常温揮散性薬剤の含有方法としては、前記樹脂組成物にこの常温揮散性薬剤を混練させて、薬剤保持樹脂組成物を調製し、次いで成形する方法等があげられる。また、前記繊維成分を用いる場合は、まず、前記樹脂組成物から長繊維(樹脂フィラメント)や短繊維を製造し、次いで、樹脂フィラメント、又はこれらを撚り合わせて繊維状としたものを撚り合わせて立体状メッシュを構成し、そして、上記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含浸させる方法等が挙げられる。
【0048】
この樹脂組成物を成形する方法としては、押出成形、射出成形等、任意の方法を採用することができる。樹脂フィラメントを用いる場合は、前記樹脂組成物を押出成形や射出成形等で樹脂フィラメントを得、次いで、立体状のメッシュを形成する方法や、前記樹脂組成物を射出成形等によって直接、樹脂フィラメントを有する立体状メッシュを形成する方法等があげられる。
【0049】
前記の常温揮散性薬剤を練り込むタイプの薬剤揮散体において、前記構成成分以外に、必要に応じて微粉末成分、及び他の樹脂を混練してもよい。
【0050】
[微粉末成分]
前記微粉末成分は、樹脂ペレット内に常温揮散性薬剤を担持するために添加する成分である。例えば、いわゆるホワイトカーボンとよばれる微結晶シリカや微粉末ケイ酸、珪藻土、ゼオライト類、粘度鉱物、木粉等が挙げられる。
【0051】
前記の微粉末成分の大きさは、数平均粒子径が1μm以上30μm以下であると好ましく、5μm以上20μm以下であるとより好ましい。数平均粒子径が30μmを超えると、前記範囲の含有率で存在していたとしても表面積が不足するため、担体として防虫成分を担持しにくくなり、得られる樹脂ペレットがべたつきやすくなる。一方、1μm未満の微粒子は現実的には難しく、物性が大きく変わってくるため好ましくない。
【0052】
前記のホワイトカーボンのような微結晶シリカなどを含む微粉末成分は、防虫成分と反応せず、表面積の広い微粉末を用いることができる。これらの微粉末成分は防虫成分を担持してベタツキを抑え、その結果、樹脂成分と共に混練して得られる樹脂組成物も、全体がべたつきにくくなりマスターバッチとして好適に利用できるものとなる。
【0053】
[他の樹脂]
更に、前記樹脂組成物の重量調整や物性の調整のために、前記のエチレン−ビニルアセテート共重合体等の構成樹脂の他に、他の樹脂を混練させてもよい。他の樹脂として、ポリオレフィン系樹脂やスチレン系樹脂を含有してもよい。このポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)などがあげられるが、エチレン−ビニルアセテート共重合体やエチレン−メタクリル酸メチル共重合体との親和性から、ポリエチレンが好ましく、成形性の点で特に低密度ポリエチレン、具体的には分岐低密度ポリエチレン(LDPE)、鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましい。
【0054】
[配合割合]
前記他の樹脂の配合量は、前記樹脂組成物全体に対して、10質量%以上含有すると好ましく、20質量%以上であるとより好ましい。10質量%未満では、過度なブリードを抑制する効果が不十分になってしまう。一方、上限は90質量%以下であると好ましく、60質量%以下であるとより好ましい。多すぎると、前記樹脂組成物のペレットをマスターバッチとして用い、前記他の樹脂と混練して得られた樹脂成形体においてもブリードを抑制しすぎてしまい、本来の目的である常温揮散性薬剤の揮散による防虫効果が過度に低減される恐れを有するためである。
【0055】
前記微粉末成分の含有量は、前記樹脂組成物全体に対して、10質量%以上30質量%以下であると好ましく、15質量%以上25質量%以下であるとより好ましい。10質量%未満では微粉末成分として少なすぎて、防虫成分を担持しきれず、防虫成分のブリードが過大になる恐れがある。一方、30質量%を超えると、構成樹脂との配合比上、前記樹脂組成物をペレット化したとき、ペレットとしての形を維持するのが難しくなってしまう。また、前記樹脂組成物を用いた成形品にも含有されることになるので、多すぎると薬剤揮散体の物性に影響を及ぼす危惧が避けられない。
【0056】
[樹脂組成物及びペレットの製造]
上記樹脂組成物は、前記構成樹脂を加熱し、ここに、前記常温揮散性薬剤、及び必要に応じて、微粉末成分や、加熱した他の樹脂を混練することにより得られる。そして、これをペレット化して冷却することにより常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットを得ることができる。
【0057】
この加熱温度は、使用する構成樹脂の樹脂の種類や、他の樹脂の樹脂の種類によるが、通常100℃〜140℃程度が適当である。例えば、後記するエチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710)の融点は70℃であり、十分な混練が可能である。140℃を超えて加熱温度を高くし過ぎると前記常温揮散性薬剤の熱分解や蒸散ロスを招く恐れがあるので好ましくない。
【0058】
前記を踏まえ、樹脂組成物の代表的な組成としては、10質量%以上60質量%以下の常温揮散性薬剤と、10質量%以上30質量%以下の微粉末成分と、10質量%以上60質量%以下のエチレン−ビニルアセテート共重合体等の構成樹脂とを含有させた組合せがあげられる。
【0059】
[他の樹脂の混合時期]
ところで、上記の他の樹脂は、前記の通り、前記常温揮散性薬剤含有ペレットの製造段階に含有させてもよく、また、この他の樹脂を含有させずに前記常温揮散性薬剤含有ペレットを成形し、次いで、この前記常温揮散性薬剤含有ペレットを前記他の樹脂を用いて希釈し、混練・成形することにより、前記薬剤揮散体を得てもよい。
【0060】
このときの希釈倍率は、1.5倍以上で上限は5倍程度が好ましい。1.5倍より小さいと希釈する工程上のメリットがなくなり、一方、5倍を越えると当然のことながら防虫成分の含有量が低くならざるを得ないという問題を生じる。
【0061】
[薬剤揮散体の製造]
前記常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットは、成形することにより、薬剤揮散体を得ることができる。また、前記常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットに前記他の樹脂が含有されていない場合は、常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットを前記他の樹脂を用いて希釈し、混練・成形して薬剤揮散体としてもよい。
【0062】
[常温揮散性薬剤の含有量]
前記薬剤揮散体に担持される前記常温揮散性薬剤の含有量は、使用する防虫成分の種類、使用環境、使用条件などによって変動することから、特に限定されるものではない。
しかしながら、防虫効果に必要な防虫成分量を確保し、また防虫成分を練り込んだ後の成形を容易にするため、さらに構成樹脂の表面に防虫成分が過剰にブリードしてベタツキを起こすことを防止するために、0.5〜20質量%の範囲にすることが好ましい。
【0063】
前記常温揮散性薬剤の含有量が0.5質量%未満の場合には、防虫効果を奏するに必要な防虫成分量を確保することが困難となり、一方、前記常温揮散性薬剤の含有量が20質量%を超える場合には、防虫成分を練り込んだ後の成型が困難となり、さらに前記薬剤揮散体の表面に防虫成分が過剰にブリードしてベタツキを起こしやすくなる。
【0064】
ここで、前記常温揮散性薬剤の含有量を例示すれば、30〜200日程度の使用期間に対応して30〜1400mg程度の量をあげることができる。
すなわち、含有量を設定するに当たっては、使用する防虫成分の種類により異なるものの、例えば、メトフルトリン単独を使用した場合では、防虫効果が発現するのに必要な最低の揮散量は0.03mg/hr以上であり、プロフルトリン単独では0.03mg/hr以上であり、トランスフルトリン単独では0.06mg/hr以上であることから、30日〜200日における含有量についてはメトフルトリンでは30〜700mg、プロフロトリンでは30〜700mg、トランスフルトリンでは60〜1400mgの範囲で設定すればよいことになる。
【0065】
[メッシュ構造体]
次に、前記薬剤揮散体のうち、メッシュ構造を有する構造体について具体的に説明する。
このメッシュ構造体は、樹脂の棒状体、樹脂フィラメント、樹脂フィラメントや短繊維(ステープル)を撚り合わせて繊維状としたもの等を組み合わせた、平板又は立体状にメッシュを構成した空隙部を有する構造体である。このうち、立体状メッシュに構成した形状を有する立体構造体(以下、これらを「メッシュ構造体」と称する。)は、前記薬剤揮散体の比表面積をより高くすることができ、薬剤揮散量を高く、かつ、長くすることができるので好ましい。このメッシュ構造体の成形方法としては、まず、前記常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットを押出成形や射出成形等によって成形して、樹脂の棒状体、樹脂フィラメント、短繊維等を得、樹脂フィラメントや短繊維については、必要に応じて撚って繊維状とし、次いで、これらを用いてメッシュ構造体を形成する方法や、前記の常温揮散性薬剤含有樹脂ペレットを射出成形等によって直接、複数の樹脂棒状体や樹脂フィラメントを交差させた、メッシュ構造体を得ることができる。
【0066】
このメッシュ構造体の例としては、
図1(a)〜(c)に示すような、立体構造体1をあげることができる。なお、前記のメッシュ構造を有する薬剤揮散体の形状としては、これらの例に限定されるものではない。
【0067】
図1(a)〜(b)に示す立体構造体1は、
図1(c)に示される、樹脂棒状体又は樹脂フィラメントから形成される矩形状の波状体11を、頂部(第1頂部11a及び第2頂部11b)において2本の波状体11がほぼ直角に交差するようにしたものである。また、前記立体構造体1においては、1つの頂部含有面に含まれる少なくとも2つの頂部同士を直線状の棒状体からなる補強材12で補強してもよい。この頂部含有面とは、前記立体構造体を構成する面であって、頂部が配される面をいう。
【0068】
このような立体構造体1は、一定の体積内に存在する樹脂棒状体又は樹脂フィラメントの表面積を増加させることができる。さらに、前記補強材12を用いると、前記樹脂フィラメントの表面積をより増加させることができ、かつ、立体構造体の強度も向上させることができる。
なお、周縁部は、立体構造体の強度、形状、外部収納容器等との関係で、適宜決定される。
【0069】
この立体構造体1は、この成形に用いるペレットに常温揮散性薬剤が含有される場合は、そのまま薬剤揮散体1aとなる。
【0070】
[空隙率]
前記立体構造体1の空隙率、すなわち、この立体構造体1の見かけ上の内容積に対する、この立体構造体1内の空間部分の含有割合は、70%以上がよい。70%より少ないと、メッシュ内部の空気の流れが必要以上に妨げられ、メッシュ表面の薬剤の揮散と拡散性が低下するという問題点を有する場合がある。一方、空隙率の上限は、99%が好ましい。99%より多いと、立体状メッシュ構造を維持するための強度が不足するという問題点を有する場合がある。
【0071】
[樹脂フィラメントの断面形状]
本発明は、担体を構成する樹脂組成物のブリード性の最適化と、屋外での使用に際し常温揮散性薬剤が光の影響を受け難い形状を実現することを目的とする。これらの目的を達成するため、前記樹脂棒状体又は樹脂フィラメントを断面に切断し、その重心を通る径のうち、最も長い径を最長径(a)、最も短い径を最短径(b)とするとき、a≧bの関係を有することになり、これに加え、最短径(b)が次の条件を満たすことが好ましい。なお、「径」とは、図形の差し渡しの長さのことをいう。
【0072】
具体的には、最短径(b)は、0.3mm以上がよい。0.3mm未満であると、フィルム状に近い形状となり、ブリードが過度に速い状態や光の影響を受けて防虫成分の分解ロスを生じることが避けられない。一方、最短径(b)の上限は、3.0mmがよい。3mmを越えると、ブリードが抑えられる傾向が強まり、また、後記する樹脂メッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)が狭まって揮散効率の低下を招く恐れを生じる。
また、最長径(a)は、0.3mm以上がよい。0.3mm未満であると、フィルム状に近い形状となり、ブリードが過度に速い状態や光の影響を受けて防虫成分の分解ロスを生じることが避けられない。一方、最長径(a)の上限は、10mmがよい。10mmを越えると、ブリードが抑えられる傾向が強まり、また、後記する樹脂メッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)が狭まって揮散効率の低下の恐れを生じる。
【0073】
前記のような条件を満たす前記の樹脂棒状体又は樹脂フィラメントの断面形状としては、
図2(a)に示す楕円状や、
図2(b)に示す正方形状、
図2(c)に示すひし形状、図示しないが長方形状や台形状等の多角形状等があげられるが、これらに限定されない。なお、
図2(a)〜(c)において、aは最長径を示し、bは最短径を示す。
【0074】
また、メッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)は、前記の空隙率を満たせば、特に限定されないが、揮散効率と通気性の点から考え、前記空隙率を満たす条件下で、40〜85%の範囲にすることが好ましく、更には50〜75%にすることがより好ましい。
【0075】
また、メッシュの網目の形状については、
図1(a)〜(b)に示す三角形状に限定されるものではなく、必要に応じて角形、ひし形、六角形など適宜設定することができる。
【0076】
[収納容器]
本発明において、薬剤揮散体1aは、
図3に示すように、収納容器32に収納されて使用される。そして、薬剤揮散体1aは、収納容器32の内部に、揺動自在に吊り下げられた形態をとる。この吊り下げは、収納容器32の内部に、薬剤揮散体1aが少なくとも1点で吊り下げられるのがよく、
図4(a)に示すように、吊り下げ部材31を介して、1点で吊り下げられるのが好ましい。
【0077】
前記吊下げ部材31は、前記薬剤揮散体をしっかりと吊り下げることができ、常温揮散性薬剤を安定的に揮散できるものであれば、特に形状や大きさ、長さは限定されない。また、吊下げ部材31の材質としては、紙、糸(撚り糸等)、不織布、木材、パルプ、化学繊維、ポリエステル、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等の樹脂材料等の材質を使用することができる。
【0078】
この収納容器32としては、前記常温揮散性薬剤を安定的に揮散できるものであれば、特に形状や大きさは限定されず、また、収納容器32の内部で薬剤揮散体1aを吊下げる長さも限定されない。
【0079】
この収納容器32は、開口部を有し、この開口部は、少なくとも、前記収納容器32の側面部又は正面部に設けられる。一方、背面部には、開口部はほとんど設けられず、設けたとしても、少しで十分である。この背面部は、この発明にかかる薬剤揮散装置を携帯型として使用する場合、開口部をほとんど設けないことにより、身体側に前記常温揮散性薬剤の揮散成分が送り出され、身体に接触することを減少させることができ、好ましい。
なお、前記収納容器32の上面部及び下面部には、開口部は、必要に応じて設ければよい。
【0080】
この収納容器32の側面部の全面積に対する、収納容器32の側面部に設けられる開口部の面積(C)が占める割合(開口率)は、揮散効率の点から、10〜50%の範囲となるようにすることが好ましい。
【0081】
また、この収納容器32の正面部の全面積に対する、収納容器32の正面部に設けられる開口部の面積(D)が占める割合(開口率)は、揮散効率の点から、10〜50%の範囲となるようにすることが好ましい。
【0082】
さらに、この収納容器32の側面部に設けられる開口部の面積(C)と正面部に設けられる開口部の面積(D)との比(C/D)は、揮散効率と通気性の点から、0.3〜3.0の範囲となるようにすることが好ましい。
【0083】
ところで、この収納容器32の背面部の全面積に対する、収納容器32の背面部に設けられる開口部の面積が占める割合(開口率)は、この発明にかかる薬剤揮散装置を携帯型として使用する場合に、身体側に前記常温揮散性薬剤の揮散成分が接触するのをできるだけ防止する観点から、10%以下がよく、0%、すなわち開口部を設けない場合が好ましい。
【0084】
なお、開口部の面積が前記の範囲であれば、前記開口部の形状は、
図3(a)に示す形状には限られず、特に限定されるものではない。
【0085】
前記収納容器の形状は、後述する揺動角を確保できれば、特に限定されず、
図5(a)に示す四角柱の形状以外に、
図5(b)(c)に示すような、六角柱の形状や五角柱の形状等の多角柱の形状や、
図5(d)に示すような円柱の形状等の側面が曲面からなる形状、図示しないが、側面が曲面及び平面からなる形状等があげられる。
また、薬剤揮散体の形状(例えば平板状や円筒状等)に合わせ、後述する揺動角を確保できる範囲で、上記の各種形状を採用することができる。
さらに、空気清浄機取付け用に適用するような場合、収納容器を適宜簡略化しても、薬剤揮散体を揺動自在に吊り下げることができればよい。
【0086】
ところで、前記した開口率において、「正面部」や「側面部」、「背面部」という用語を用いた。
図5(a)の四角柱形状においては、開口部の最も少ない面(開口率が10%以下)を背面部(
図5において「B」と表記。)としたとき、背面部の対向面が正面部(F)を構成し、正面部と背面部の間に側面部(S)を構成するので、判断は難しくない。しかし、
図5(b)〜(d)のような場合は、判断に困る場合がある。このため、この発明においては、「正面部」、「側面部」、「背面部」について、次の基準で区分けする。
【0087】
まず、
図5(a)〜(c)に示すような多角柱形状の場合、開口部の最も少ない(開口率が10%以下)面を「背面部」(B)とする。
また、背面部と対向する面で、背面部と平行な面がある場合、その面を「正面部」(F)とする。
さらに、背面部を構成する面と当該面との角度が45°以下の場合は、その当該面を「正面部」(F)とし、それ以外の面を「側面部」(S)とする。
【0088】
次に、
図5(d)に示すような円柱形状の場合、軸方向と平行な直線(以下、「区分線」と称する場合がある。)で区分けして考える。まず、側周面を2本の区分線で区切り、開口率が10%以下となる区画であり、かつ、側周面の周方向の半分以下の区画を「背面部」(B)とする。なお、開口率が10%以下となる区画が、側周面の周方向の半分を超える場合は、開口率が最も小さくなる側周面の周方向の半分の部分を「背面部」(B)とする。
また、背面部以外の部分を区分線で、まず、4等分割する。次いで、この区分線付近で、開口部間の隙間が最も大きい箇所の中央部を通る区分線を境界線とする。この境界線で分けられた4つの画分のうち、両端部の2つの画分を「側面部」(S)とし、残りの中央部の2つの画分を「正面部」(F)とする。
【0089】
前記収納容器の構造としては、例えば、平面シート状のプラスチック部材を折り曲げたものや、プラスチックの一体成形品等があげられる。
【0090】
前記の平面シート状のプラスチック部材を折り曲げたものは、収納容器は前記折り曲げた部材の2つを一組として用い、それぞれの部材の折り曲げ面が重なり合うように組み立てられる。
【0091】
これら平面シート状のプラスチック部材やプラスチックの一体成型品に用いられるプラスチックの材質としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブチレンテレフタレート、ナイロン、ポリアミド等、種々のプラスチック材料が使用可能であるが、強度やその性質を考慮すると、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)を用いた方が好ましい。
【0092】
また、これらのプラスチックの厚みは、種々のものが使用可能であるが、構成樹脂の形状やその揮散性能との関係、経済性などの点から、0.05〜2mmのものを使用することが好ましい。
【0093】
ところで、前記折り曲げた部材の折り曲げ面の端部には切り目を入れた舌片部を設けて、折り返し立上げが可能なようにフック部を延設することもできる(図示せず)。なお、この場合には、背面部上方には前記フック部が折り込まれるための収納窓を設けていてもよい。これによって、各種の使用方法、例えば携帯用、つり下げ用等に応じた使い方が可能となる。
【0094】
すなわち、このフック部の先端部分を前記収納容器の、例えば上面部分に係止すると、身体の腰のベルトなどへの使用の場合には、収納容器が、身体の動きで誤って落下するなどの問題がなくなり、使用したい部位で確実な効果を期待することができる。
【0095】
次に、前記のプラスチックの一体成形品とは、通常の射出成形又は真空成形で成形したもの等であれば成形方法は問わないが、上面部と下面部、正面部と背面部をヒンジを用いて一体としたり、嵌合したりすることによって一体とすれば、製造工程をより簡略化することができる。
【0096】
また、この場合、収納容器の上面部分には立上げ可能にフック部を設けると、上記と同様に身体に確実に取り付けることができ、携帯用に使用することができる。すなわち、前述と同様に、前記フック部の先端部分を使用時に前記の収納容器の一部、例えば上面部に設けた開口部や凹部に係止できる構成にすると、身体の腰のベルトなどへの使用の場合には誤って落下するなどの問題がなくなり、使用したい場所で確実な効果を期待することができる。
【0097】
また、上記のフック部を収納容器のどの部分に係止するかは、製造する際に適宜選択する事項ではあるが、フック部が設けられている面と同一面上に係止すれば、使用時に収納容器が設置位置から移動してしまうことを防止することができるので好ましい。
【0098】
[薬剤揮散装置]
上記の通り、薬剤揮散装置30は、
図3、
図4(a)に示すように、薬剤揮散体1aを収納容器32に揺動自在に吊り下げることにより、形成される。この薬剤揮散体1aは、外的要因、例えば、外部から収納容器32内に入る風、収納容器32が動くこと等により、この薬剤揮散体1aは揺動する。この揺動によって、薬剤揮散体1aに含まれる揮散性薬剤の揮散を生じさせるか、又はその揮散量を増加させる。そして、その揮散した揮散性薬剤(以下、「ガス状薬剤」と称する場合がある。)が、薬剤揮散体の空隙部に滞留する。この滞留したガス状薬剤は、薬剤揮散体1aの揺動によって生じる新たなガス状薬剤によって、前記収納容器32内の空間部に移動して滞留する。薬剤揮散体1aの揺動によって新たなガス状薬剤の発生が続いている場合、この収納容器32内の空間部に滞留したガス状薬剤は、収納容器32の開口部の割合との関係から、ある程度の濃度になると、収納容器32の外部に送り出されることとなる。
この場合、収納容器32の外部に出るガス状薬剤は、所定の速度を保って出て行くので、揮散性薬剤が有する薬効、例えば殺虫、防虫等の効果を発揮することができる。
【0099】
前記収納容器32内の空間部の割合は、薬剤揮散体1aの嵩体積(A)、すなわち、薬剤揮散体1aの空隙部を含めた体積と、収納容器32の内部の体積(B)との比(A/B)で示したとき、0.01以上がよく、0.1以上が好ましい。0.01より少ないと、前記収納容器32内の空間部に滞留するガス状薬剤の濃度が十分でないまま、収納容器32外に出てしまうことがある。一方、体積比(A/B)の上限は、0.6がよく、0.4が好ましい。0.6より大きいと薬剤揮散体が揺動し難くなり、薬剤の揮散量が抑えられることになる。
【0100】
ところで、上記ガス状薬剤を生じさせるには、収納容器32内で薬剤揮散体1aを揺動させる必要がある。この揺動の方向は、
図3(b)に示すような薬剤揮散体1aの横方向(一方の側面部と他方の側面部との間の方向)の揺動や、
図3(c)に示すような薬剤揮散体1aの前後方向(正面部と背面部との間の方向)の揺動に限られるものではなく、任意のあらゆる方向の揺動を含む。そして、このうち、最大の揺動角について、単に「揺動角」を表示する場合がある。
なお、この揺動の角度(揺動角)は、以降「θ」で示す場合がある。なお、
図3(b)(c)に示すθは、横方向又は前後方向の揺動角を意味する。
【0101】
この揺動は、薬剤揮散体1aが収納容器32に衝突する状態が揺動の範囲の限界となる。この最大揺動角(θ)は、0.05π(すなわち、9°)以上がよく、0.1π(18°)が好ましい。0.05π未満だと、前記収納容器32内の空間部の割合が小さすぎるため、前記収納容器32内の空間部に滞留するガス状薬剤の濃度が十分でないまま、収納容器32外に出てしまうことがある。また、最大揺動角(θ)の上限は、0.5π(90°)がよく、0.2π(36°)が好ましい。が好ましい。0.5πより大きいと、前記収納容器32内の空間部の割合が大きすぎるため、前記薬剤揮散装置30そのものが大きくなり、携帯型とする場合、持ち運びに不便となる場合がある。
【0102】
[収納袋]
本発明の薬剤揮散体は、一般的に収納容器に収納後、薬剤非透過性フィルム袋に収容されて市販され、使用時に開袋して用いられる。もちろん、薬剤揮散体のみを薬剤非透過性フィルム袋に収容して市販し、使用時に袋から取り出された薬剤揮散体を収納容器に装填するようにしてもよい。ここで、薬剤非透過性フィルム袋の材質としては、ポリエステル(PET、PBTなど)、ポリアミド、ポリアセタール、ポリアクリルニトリルなどがあげられ、その肉厚は可撓性を損なわない範囲で決定される。なお、ヒートシール性を付与するために、これら薬剤非透過性フィルムの内面をポリエチレンやポリプロピレンフィルム等でラミネートすることもできる。
【0103】
[用途]
本発明によって調製される薬剤揮散装置30は、使用直後から少なくとも60日以上、長くておよそ200日間までのその設計仕様に応じた所定期間にわたり、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して優れた防虫効果を奏する。
【0104】
この薬剤揮散装置30は、
図6に示すような、携帯型とし、身体の部位、例えば腰のベルトなどに着用したり、ひもを取り付けて首からぶら下げたりすることで、この薬剤揮散装置30が動き、薬剤揮散体1aの揺動を生じさせ、散歩等をする際の防虫用に使用することが可能となる。
【0105】
また、室内と室外を隔てる窓やベランダ等の場所で、例えばそのフック部をカーテンレール等に引っ掛けたり、物干し竿に吊るして使用すれば、風等によってこの薬剤揮散装置30が動き、薬剤揮散体1aの揺動を生じさせ、屋外から屋内へのこれら害虫の侵入を効果的に防ぐこともでき、極めて実用的である。
【0106】
さらに、
図6に示すように、薬剤揮散装置30をペット犬のリードに装着して用いたり、適宜収納容器を簡略化して空気清浄機等の取付け用として用いることもできる。
【0107】
[薬剤揮散体の特徴]
本発明の薬剤揮散体は、前記の構成を有することにより、品質上安定して製造することができる。
【実施例】
【0108】
次に、実施例を用いて、本発明の薬剤揮散装置を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
まず、使用した薬剤、及び性能の評価方法について説明する。
【0109】
<原材料>
・メトフルトリン(住友化学(株)製:エミネンス)
・トランスフルトリン(住友化学(株)製:バイオスリン)
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm、以降「シリカ」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降「LDPE−A」と記す。)
・ポリエチレンテレフタレート((株)ベルポリエステルプロダクツ製:ベルペットIP121B、以降「PET」と称す。)
【0110】
<揮散性薬剤の揮散性評価試験>
得られた薬剤揮散体を、正面部及び側面部に開口部を有し、かつ、表2に示す開口率を有する開口部のある収納容器内部の上部の中心部から5mmの吊下げ部材を介して吊下げ、25℃の室内で振とう機上に設置し、1時間に10分間振とうさせて、揮散開始後、所定期間(有効期間の中間時点、終点)の立体構造メッシュ中に含まれる有効成分量をガスクロマトグラフィーによりそれぞれ測定し、1日当りの薬剤揮散量を算出した。
【0111】
<総合評価>
揮散性薬剤の薬剤揮散量、使用する薬剤の有効揮散量、及び有効期間から下記の基準で評価した。なお、有効揮散量とは、薬剤が害虫に有効に働く量をいい、メトフルトリンで0.03mg/h以上であり、トランスフルトリンで0.06mg/h以上である。また、「有効期間」とは、薬剤揮散体に含まれる薬剤の含有量と過去の出願人の製品とから鑑みて設定した、害虫を効果的に防除する期間の目安をいう。
◎:有効期間終了時での薬剤揮散量が有効揮散量に比べて高く保持されていた。
○:有効期間終了時での薬剤揮散量が有効揮散量に比べて高く保持されていたが、「◎」に比べるとやや低い傾向が見られる。
△:有効期間終了時での薬剤揮散量が有効揮散量下限値である。
×:有効期間終了時での薬剤揮散量が有効揮散量より低い。
【0112】
<薬剤揮散体の製造>
(製造例1)
(メトフルトリンを含有する薬剤揮散体の製造)
50℃に加温したメトフルトリン10重量部を微結晶シリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。
【0113】
前記メトフルトリン含有樹脂ペレット100重量部とLDPE−A300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、
図1に示す立体構造体からなるメッシュ状薬剤揮散体(10g)を得た。
表1に示すとおり、この立体構造体を構成する矩形波状体11及び補強材12の樹脂フィラメントの断面形状は、1.3mm×1.3mmの正方形で、最短径(b)が1.0mm、最長径(a)/最短径(b)の比率は1.4であった。なお、薬剤揮散体全体の大きさを、50mm×50mm×50mmとした。そして、空隙率は97%であった。以下、得られた薬剤揮散体を「M−A」と称する。
【0114】
(製造例2〜5)
表1に使用する量の薬剤を用い、メッシュのそれぞれの大きさを表1に記載の大きさとした薬剤揮散体を製造した。空隙率は表1に示すとおりである。以下、得られた薬剤揮散体をそれぞれ、「M−B」「M−C」「T−A」「T−B」と称する。
【0115】
【表1】
【0116】
(実施例1〜13、比較例1〜11)
得られた薬剤揮散体を表2に示す容器に収納し、上記の<揮散性薬剤の揮散性評価試験>に記載の方法に基づいて、揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定した。その結果を表2に示す。
【0117】
【表2】
【0118】
(結果)
試験の結果、揺動不可能なもの(揺動角が0.05π未満のもの)は、特に終了時点での薬剤揮散量が有効揮散量に達しておらず、十分な薬剤揮散量を有していないことが明らかとなった(比較例1〜11)。
一方、揺動可能なものは、いずれも揺動しない(揺動角が0.05π未満)ものよりも高い揮散量が得られ、終点まで高い有効揮散量を維持していた(実施例1〜13)。
また、開口率(C及びD)が10〜50%であり、かつ、C/Dが0.3〜3.0の範囲のものは、揮散性薬剤の有効揮散量が評価終了時点でも高く維持していた(実施例2,3,7,10,11,12)。
一方、C/Dが0.3〜3.0の範囲にないものは、この範囲を満たす場合に比べて、終了時点の薬剤揮散量が低く、薬剤揮散量の維持が少し不十分な面が見られる(実施例4,9,13)。
また、開口率(C及びD)が50%を超えると、この範囲を満たす場合に比べて、揮散量が多くなり、終了時点の薬剤揮散量が低く、薬剤揮散量の維持が少し不十分な面が見られる(実施例1,5)。
さらに、背面開口率は、10%以下であれば、結果にあまり差が生じないことが見られた(実施例5,6)。
一方、背面開口率が10%を超えると、この範囲を満たす場合に比べて、揮散量が多くなり、終了時点の薬剤揮散量が低く、薬剤揮散量の維持が少し不十分な面が見られた(実施例8)。
【0119】
(実施例14)
樹脂からなる繊維成分としてPET加工糸を用い、プレーン組織を両面に編成し、この両面を撚り合わせたフィラメントで繋ぎ、厚さ3mmの立体構造編地を作製した。この立体構造体を構成するフィラメント断面の最短径は0.3mmで、立体構造体全体の大きさを150mm×80mmとした。なお、空隙率は81%であった。
メトフルトリン0.25gをアセトン0.25gに溶解した薬液を前記立体構造体に保持させた。得られた薬剤揮散体を用い、上記の方法に基づいて揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定したところ、平均揮散量は0.03mg/hrで、揮散時間は60日であった。