【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 「ノーマリーオフコンピューティング基盤技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
垂直磁気異方性を有する第1磁性層と、垂直磁気異方性を有する第2磁性層と、前記第1磁性層と前記第2磁性層との間に設けられた第1非磁性層と、前記第1非磁性層と前記第2磁性層との間に設けられ垂直磁気異方性を有する第3磁性層と、前記第2磁性層と前記第3磁性層との間に設けられた金属層と、を備え、
前記第2磁性層は、Mn、Fe、Co、およびNiの少なくとも1つの元素と、Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuの少なくとも1つと、B、C、Mg、Al、Sc、Ti、Cu、およびZnの少なくとも1つと、を含む磁性体を備え、
前記金属層は、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu、Mg、Ti、Sc、Co、Zr、Hf、Zn、Nb、Mo、Ta、およびWの少なくとも1つを含む磁気抵抗素子。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の説明において、同一の機能および構成を有する要素については、同一符号を付し、重複説明は必要な場合にのみ行う。
【0013】
(第1実施形態)
第1実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図1に示す。第1実施形態の磁気抵抗素子1は、シングルピン構造のMTJ素子である。この磁気抵抗素子1は、磁性体を含む記憶層2と、磁性体を含む界面磁性層5と、磁性体を含む参照層6と、記憶層2と界面磁性層5との間に設けられた非磁性層4と、界面磁性層5と参照層6との間に設けられた機能層7と、参照層6に対して機能層7と反対側に設けられ磁性体を含むシフト調整層10と、参照層6とシフト調整層10との間に設けられた反強磁性結合層8と、を有する積層構造を備えている。すなわち、第1実施形態の磁気抵抗素子1は、記憶層2、非磁性層4、界面磁性層5、機能層7、参照層6、反強磁性結合層8、およびシフト調整層10が、この順序で積層された積層構造(
図1において、記憶層2からシフト調整層10に向けて順次積層された積層構造)を有している。
【0014】
(変形例)
また、
図2に示す第1実施形態の変形例による磁気抵抗素子1Aのように、シフト調整層10、反強磁性結合層8、参照層6、機能層7、界面磁性層5、非磁性層4、および記憶層2が、この順序で積層された積層構造であってもよい。すなわち、
図2に示す変形例においては、
図1に示す積層順序と逆の順序で積層された積層構造を有している。
【0015】
そして、第1実施形態の磁気抵抗素子1およびその変形例の磁気抵抗素子1Aにおいては、記憶層2、界面磁性層5、参照層6、およびシフト調整層10はそれぞれ垂直磁気異方性を有している。すなわち、磁性体を含む各層の磁化方向が膜面に対して垂直方向に向く垂直磁化型のMTJ素子である。ここで、「膜面」とは、各層の上面を意味する。
【0016】
記憶層2は、スピン偏極した電子の作用により磁化の向きが反転することが可能な磁性体を含む層である。記憶層2としては、磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択された一つの元素からなる単体、上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも1つの元素を含む合金、或いは上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも一つの元素と非磁性元素の群(例えば、B、Al、Si、Ti、V、Cr、Ga、Ge、およびBiからなる群)から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金が用いられる。
【0017】
界面磁性層5は、磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択された一つの元素からなる単体、上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも1つの元素を含む合金、上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも1つの元素とホウ素Bとの化合物(例えば、FeB、またはCoFeBなど)、或いは上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも1つの元素と非磁性元素の群(Al、Si、Ti、V、Cr、Ga、およびGeからなる群)から選択された少なくとも1つの非磁性元素とを含む合金(例えば、MnGaやMn
3Geなど)、或いはホイスラー合金(例えば、Co
2FeMnSiなど)等が用いられる。
【0018】
参照層6および機能層7は本実施形態の鍵となる層である。記憶層2に印加される漏洩磁界を低減するための施策として参照層6からの漏洩磁界を低減する、或いは機能層7を工夫することで参照層6または界面磁性層5からの漏洩磁界を低減しつつ、良好なトンネル磁気抵抗効果比(TMR比)を実現することが重要になる。これらについての詳細は後述する。
【0019】
シフト調整層10は、磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択された少なくとも1つの元素と希土類元素の群(Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択された少なくとも1つの元素と含む合金(例えば、Sm
2Co
17など)、或いは上記磁性遷移元素の群から選択された少なくとも1つの元素と貴金属元素の群(Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt、Au、およびAgからなる群)から選択された少なくとも1つの元素とを含む合金(例えば、FePt、CoPt、CoPdなど)が用いられる。また、シフト調整層10は、記憶層2に及ぼす漏洩磁界の影響を小さくするため、上記参照層6の磁化と互いに逆方向に向いた磁化配列、すなわち反平行の磁化配列を有している。
【0020】
非磁性層4は、金属元素の群(Mg、Al、Ca、Ti、Cr、Fe、Cu、Zn、Nb、およびSrからなる群)から選択された少なくとも1つの金属元素を含む酸化物が用いられる。
【0021】
反強磁性結合層8は、磁性層間に挿入することで、これらの磁性層間に反強磁性的な層間交換結合を生じさせる。反強磁性結合層8としては、例えば、Ru、Rh、およびIr等の群から選択された1つの金属元素を含む単体、Mn、Cr、およびFeからなる群から選択された少なくとも1つの3d遷移元素を含む合金、或いは上記金属元素と上記3d遷移元素とを含む合金が用いられる。例えば3d遷移元素を含む合金としては、IrMn、PtMn、FeMn、FeRhなどの合金が用いられる。また反強磁性結合層8は、希土類元素の群(Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択された1つの元素を含んでいてもよい。
【0022】
(書き込み方法)
第1実施形態および以下の実施形態で説明する磁気抵抗素子への情報(データ)の書き込み方法について説明する。
【0023】
まず、記憶層2の磁化方向を参照層6の磁化方向に対して反平行から平行にする場合には、電流とは逆向きの流れとなる電子流をシフト調整層10から記憶層2に向かって流す。この場合、参照層6および界面磁性層5を通過した電子はスピン偏極される。このスピン偏極された電子は、非磁性層4を通って記憶層2に流入する。記憶層2に流入した電子は記憶層2の磁化にスピントルクを及ぼし、記憶層2の磁化方向を界面磁性層5の磁化方向に平行となるように作用する。これにより、記憶層2の磁化方向が界面磁性層5の磁化方向と平行になる。
【0024】
また、記憶層2の磁化方向を界面磁性層5の磁化方向に対して平行から反平行にする場合には、電子流を記憶層2からシフト調整層10に向かって流す。この場合、記憶層2を通過した電子はスピン偏極される。このスピン偏極された電子は、非磁性層4を通って界面磁性層5に向かう。スピン偏極された電子のうち、界面磁性層5の磁化方向と同じ方向のスピンを有する電子は、界面磁性層5を通過する。しかし、界面磁性層5の磁化方向と逆方向のスピンを有する電子は、非磁性層4と界面磁性層5との界面で反射され、非磁性層4を通って記憶層2に流入する。記憶層2に流入した電子は、記憶層2の磁化にスピントルクを及ぼし、記憶層2の磁化方向を界面磁性層5の磁化方向とは反平行となるように作用する。これにより、記憶層2の磁化方向が界面磁性層5の磁化方向と反平行になる。
【0025】
(読み出し方法)
次に、第1実施形態および以下の実施形態で説明する磁気抵抗素子からの情報(データ)の読み出し方法について説明する。
【0026】
磁気抵抗素子からの情報の読み出しは、記憶層2およびシフト調整層10のうちの一方から他方に読み出し電流を流し、磁気抵抗素子1の両端の電圧または電流を測定することにより、記憶層2の磁化方向が界面磁性層5の磁化方向と平行であるか、反平行であるかを判定する。平行である場合は磁気抵抗素子1の両端の電気抵抗が低く、反平行である場合は、磁気抵抗素子1の両端の電気抵抗が高くなる。
【0027】
(第2実施形態)
第2実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図3に示す。この第2実施形態の磁気抵抗素子1Bは、
図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において界面磁性層5と参照層6の間に設けられた機能層7を除去した構造を有している。つまり、界面磁性層5と参照層6とが直接接した構造を有している。
【0028】
なお、
図3に示す第2実施形態の磁気抵抗素子2においては、記憶層2、非磁性層4、磁性界面層5、参照層6、反強磁性結合層8、およびシフト調整層10がこの順序で積層された構造を有しているが、第1実施形態の変形例と同様に、逆の順序で積層された構造であってもよい。すなわち、シフト調整層10、反強磁性結合層8、参照層6、磁性界面層5、非磁性層4、および記憶層2が、この順序で積層された構造であってもよい。
【0029】
(第3実施形態)
第3実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図4に示す。この第3実施形態の磁気抵抗素子1Cは、
図1に示す第1実施形態の磁気抵抗素子1において、界面磁性層5と参照層6との間に、機能層7の代わりに反強磁性結合層8aを設け、この反強磁性結合層8aによって界面磁性層5と参照層6の磁化方向が反平行に結合させた構造を有している。
【0030】
反強磁性結合層8aによって界面磁性層5と参照層6との磁化方向を反平行に結合させることにより、界面磁性層5からの漏れ磁場と参照層6からの漏れ磁場の差分をシフト調整層10で打ち消せばよい。これにより、記憶層2に掛かる漏れ磁場を低減することが可能となる。このように記憶層2に印加される漏れ磁場が低減すると、シフト調整層10の膜厚を薄くしても記憶層2に印加される漏れ磁場を打ち消すことが可能となり、磁気抵抗素子を製造する際の加工膜厚の低減に繋がる利点がある。また反強磁性結合層8aは、第1実施形態で説明した反強磁性結合層8の材料を用いることができる。
【0031】
なお、
図4に示す第3実施形態の磁気抵抗素子3においては、記憶層2、非磁性層4、界面磁性層5、反強磁性結合層8a、参照層6、反強磁性結合層8、およびシフト調整層10がこの順序で積層された構造を有しているが、第1実施形態の変形例と同様に、逆の順序で積層された構造であってもよい。すなわち、シフト調整層10、反強磁性結合層8、参照層6、反強磁性結合層8a、界面磁性層5、非磁性層4、および記憶層2が、この順序で積層された構造であってもよい。
【0032】
(第4実施形態)
第4実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図5に示す。この第4実施形態の磁気抵抗素子1Dは、
図4に示す第3実施形態の磁気抵抗素子1Cにおいて、シフト調整層10の代わりに参照層6と同じ磁化方向を有するシフト調整層10aを設けるとともに、反強磁性結合層8の代わりに界面層9を参照層6とシフト調整層10aとの間に設けた構造を有している。このような構造により、シフト調整層10aと参照層6との磁化の向きが界面層9を介して平行で、かつシフト調整層10aと参照層6との磁化の向きが界面磁性層5の磁化の向きに対して反平行になる。この場合も、第3実施形態と同様に界面磁性層5からの漏洩磁界と参照層6からの漏洩磁界との差分をシフト調整層10aで打ち消せばよいことになる。界面磁性層5からの漏洩磁界量が参照層6からの漏洩磁界量に比べて大きい場合、記憶層2に印加される漏洩磁界を低減するために、シフト調整層10aと参照層6の磁化の向きを平行にする。この場合、界面層9には、反強磁性結合を起こさない非磁性材料(例えば、Al、Sc、V、Cr、Zn、Ag、Zr、Nb、Mo、Hf、Ta、W等)を用いるか、反強磁性結合が起きないよう膜厚を調整した金属材料(例えば、Ru、Ir、Pt等)を用いるか、または窒化物材料(例えば、AlN、TiN、VNなど)などを用いる。
【0033】
なお、
図5に示す第4実施形態の磁気抵抗素子1Dにおいては、記憶層2、非磁性層4、界面磁性層5、反強磁性結合層8a、参照層6、界面層9、およびシフト調整層10aがこの順序で積層された構造を有しているが、第1実施形態の変形例と同様に、逆の順序で積層された構造であってもよい。すなわち、シフト調整層10a、界面層9、参照層6、反強磁性結合層8a、界面磁性層5、非磁性層4、および記憶増2が、この順序で積層された構造であってもよい。
【0034】
(第5実施形態)
第5実施形態による磁気抵抗素子の断面を
図6に示す。この第5実施形態の磁気抵抗素子1Eは、
図5に示す第4実施形態の磁気抵抗素子1Dにおいて、界面層9およびシフト調整層10aを削除した構造を有している。この場合、磁化方向が反平行に結合して漏洩磁界を打ち消すことができるよう界面磁性層5および参照層6の飽和磁化をそれぞれ調整する。これにより、シフト調整層10aが不要となる。これに付随して界面層9も不要となる。このように、界面層9およびシフト調整層10aが不要になると、磁気抵抗素子を製造する際の加工膜厚が大幅に低減することができ、素子サイズの微細化が容易になり、大容量化に寄与することが可能となる。
【0035】
なお、
図6に示す第5実施形態の磁気抵抗素子1Eにおいては、記憶層2、非磁性層4、界面磁性層5、反強磁性結合層8a、および参照層6がこの順序で積層された構造を有しているが、第1実施形態の変形例と同様に、逆の順序で積層された構造であってもよい。すなわち、参照層6、反強磁性結合層8a、界面磁性層5、非磁性層4、および記憶増2が、この順序で積層された構造であってもよい。
【0036】
(参照層6)
次に、上記第1乃至第5実施形態およびそれらの変形例に用いられる参照層6について以下に詳細に説明する。
【0037】
上記実施形態およびその変形例における磁気抵抗素子の参照層には、一般的に磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と、貴金属元素の群(Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、およびAuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素との合金(例えば、CoPtなど)等が用いられる。
【0038】
しかしながら、記憶層に印加される漏洩磁界を低減するために、より低飽和磁化Msにすることが望ましい。参照層を低飽和磁化にするための一般的に知られた方法として、2つの磁性層の磁化の向きを反平行結合させるために2つの磁性層の間にRuなどの反強磁性結合層を挿入する方法が用いられる。しかし、この方法で得られる2つの磁性層に作用する層間交換結合力はそれほど大きくなく、数kOe程度の外部磁界で2つの磁性層の磁化が反平行から平行方向に変化してしまう。このため、参照層の飽和磁化Msの低減を目的とした用途には向かない。従って、上記した理由から参照層を低飽和磁化にしつつ参照層内の磁気結合を十分に確保する方法が要求される。そこで、本発明者達は、以下に示す各種の実験を行った。
【0039】
まず、厚さが18ÅのCoPt磁性層と厚さが18ÅのCoPt磁性層との間に、厚さが異なる重希土類元素Gd層を挿入したCoPt/Gd/CoPtの積層構造を3種類用意した。用意した3種類の積層構造は、Gd層の厚さが6Å、10Å、15Åであり、これらの3種類の積層構造の磁化曲線を
図7A、7B、7Cにそれぞれ示す。横軸はGd層の厚さを示し、縦軸は、積層構造の磁化M(emu/cc)を示す。
【0040】
図7A、7B、7Cからわかるように、10kOeの外部磁場を印可してもGd層の膜厚に関わらず、上下のCoPt層の磁化方向の関係が変化した場合に現れる磁化Mの増減を示す段差は生じない。つまり、CoPt/Gd/CoPtからなる積層構造は一つの磁性膜として振る舞うことを示しており、Gd層を介して2つのCoPt層は強固に磁気結合していることを意味している。
【0041】
次に、厚さが18ÅのCoPt層と、厚さがtÅのGd層との積層膜[CoPt(18Å)/Gd(tÅ)]を1ユニットとして、これを3回繰り返して積層した積層構造を用意した。なお、各積層構造においてはGd層の厚さtは同じであり、Gd層の厚さtがt=0、2、3、4Åである4種類の積層構造を用意した。これら4種類の積層構造の飽和磁化Ms(emu/cc)と積層構造の厚さT(Å)の積(以下、Ms×Tと呼ぶ)と、Gd層の厚さtの関係を測定した結果を
図8に示す。ここで、Ms×Tは磁性膜全体の磁化量を示す値である。
図8からわかるように、Gd層の厚さtの増大に伴いMs×Tが低下することを示している。
【0042】
これら
図7A乃至
図8の実験結果からわかるように、2つのCoPt磁性層の間にRu層を挿入した場合と比較して、Gd層を挿入した場合では磁気結合が強固であり磁化も低減することを示している。
【0043】
次に、厚さが18ÅのCoPt層と、厚さがtÅのTb層との積層膜[CoPt(18Å)/Gd(tÅ)]を1ユニットとして、これを3回繰り返し積層した積層構造を用意した。なお、各積層構造においてはTb層の厚さtは同じであり、Tb層の厚さtがt=0、2、3、4Åである4種類の積層構造を用意した。これら4種類の積層構造の飽和磁化Ms(emu/cc)と積層構造の厚さTの積(以下、Ms×Tと呼ぶ)と、Tb層の厚さt(Å)の関係を測定した結果を
図9に示す。
図9からわかるように、Tb層の挿入の場合でもGd層の挿入の場合と同様に、Tb層の厚さtの増大に伴い、Ms×tが低減する。従って、Tb層の挿入の場合でもGd層の挿入と同様の効果を得ることを示している。
【0044】
図7A乃至
図9に示した実験結果が示す、挿入したGd層またはTb層の厚さの増大に伴ってMs×tが低減する理由は以下のように考えられる。
【0045】
GdやTbなどの重希土類元素(Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu)は、磁性遷移元素(Mn、Fe、Co、Ni)とフェリ結合を作り易い性質があると考えられる。このため、上記GdやTbに限らず重希土類元素を用いた場合は同様の結果を得ることが出来ると考えられる。また、GdやTb層の厚さtの増大でMs×tがより低減するのは、CoPtとフェリ結合する部分が大きくなるためと考えられる。
【0046】
上述したように、強固な磁気結合を有し、且つ上記第1乃至第5実施形態に用いられる参照層6の飽和磁化Msを低減させるために、参照層6は磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と、貴金属元素の群(Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、およびAuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と、重希土類元素の群(Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素とを含む磁性体を用いればよい。
【0047】
また、後述する
図10からわかるように、参照層6の飽和磁化Msを低減させるために、参照層6は磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と貴金属元素の群(Ru、Rh、Pd、Ag、Os、Ir、Pt、およびAuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素とを含む第1層と、重希土類元素の群(Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素を含む第2層との積層構造であってもよい。なお、第2層として、上記重希土類元素の群から選択される少なくとも1つの元素からなる単一層を用いることができる。
【0048】
(機能層7)
次に、上記第1実施形態に用いられる機能層7について以下に詳細に説明する。
【0049】
CoPt層上に異なる厚さを有するGd層(厚さが0、15、30、50Å)をそれぞれ成膜した場合のCoPt層の飽和磁化Ms(emu/cc)と、Gd層の厚さ(Å)との関係を測定した結果を
図10に示す。
図10からわかるように、Gd層の厚さを厚くするとCoPt層の飽和磁化Msが低下していくことを示している。つまり、
図7A乃至
図8では2つのCoPt層の間にGd層を挿入することでMs×Tを低減する効果が示した。しかし、
図10に示すように、CoPt層とGd層を隣接させるだけでもCoPt層の飽和磁化Msを低減する効果が得られることを示している。
【0050】
次に、厚さが30ÅのTaからなる下地層上に、厚さの異なるGd層(厚さは0、5、10Å)を成膜し、これらのGd層上にそれぞれ厚さが200ÅのSmCoCu層を成膜した場合のSmCoCu層の飽和磁化MsとGd層の厚さとの関係を測定した結果を
図11に示す。ここで、上記機能層7とともにSmCoCu層は参照層用の磁性体として用いられる。SmCoCuからなる参照層は、磁性遷移元素の群(Mn、Fe、Co、およびNiからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と、希土類元素の群(Y、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素と、非磁性元素の群(B、C、Mg、Al、Sc、Ti、Cu、およびZnからなる群)から選択される少なくとも1つの元素とを含む磁性体の群の1つの例である。参照層として、上記した磁性遷移元素の群、希土類元素の群、および非磁性元素の群からそれぞれ選択された元素を含む何れの磁性材料でもよい(例えば、本出願人によって出願された特願2014−191669号参照)。
【0051】
また、上記SmCoCuからなる参照層については、後述する
図12および
図13に示す実施例に用いたSmCoCu参照層についても同様のことが当てはまる。
図11からわかるように、Gd層の厚さの増大に伴いSmCoCu層の飽和磁化Msが低減する。つまり、
図10に示した実験結果と同様に、SmCoCu層の飽和磁化MsもGd層を隣接させるだけで低減することが可能となることを示している。この理由としては、上記した重希土類元素と磁性遷移元素はフェリ結合を起こしやすいことが考えられる。従って
図10および
図11の実験ではGd層を用いて検証したが、重希土類元素の群(Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択される少なくとも1つの元素を含む層を隣接させる場合も上記の実験と同様の効果を得ることができると考えられる。
【実施例】
【0052】
(実施例1)
次に、記憶層および界面磁性層にCoFeBを用い、非磁性層にMgOを用い、参照層としてSmCoCuを用いた
図1に示す第1実施形態の実施例1による磁気抵抗素子と、実施例1の磁気抵抗素子において参照層としてSmCoCuの代わりにCoPtを用いた参照例の磁気抵抗素子のトンネル磁気抵抗効果比(以下、TMR比と呼ぶ)を測定した結果を
図12に示す。
【0053】
SmCoCu参照層を用いた磁気抵抗素子においては、SmCoCu参照層と界面磁性層の間に挿入する機能層の材料としてTi、Ta、Ru、Pt(厚さは何れも3Å)を用いてTMR比を測定した。
図12からわかるように、機能層としてTi層を挿入した場合(グラフg
2)では、参照例(グラフg
1)と殆ど同等のTMR比を得られる。また、TaおよびRuをそれぞれ機能層として用いた場合(グラフg
3およびg
4)は、参照例やTiからなる機能層の場合(グラフg
1およびグラフg
2)に比べてTMR比は若干低減するが比較的良好なTMR比を得ることが出来る。これらに対し、Ptからなる機能層を用いた場合(グラフg
5)では、上記の場合と比較してTMR比が低下する。
【0054】
このようにSmCoCu参照層を用いた磁気抵抗素子で、TMR比が機能層の材料により大きく変化する理由として、希土類元素(
図12の実施例ではSm)の拡散等による界面磁性層のスピン分極率等の劣化、酸化物トンネルバリア層の酸素引き抜き効果が影響すると考えられる。つまり、機能層としてTiを用いた場合は、Tiの結晶構造が六方晶構造でありSmCoCuからなる参照層と同様の結晶構造を有するため、SmCoCuからなる参照層の結晶規則化を促進および安定化するので参照層を構成する希土類元素などの拡散がより抑制される。これにより、SmCoCuからなる参照層を用いない場合のTMR比と同等のTMR比を得ることが可能と考えられる。このような効果はTiに限らず六方晶構造を有する材料、例えば、Mg、Sc、Co、Zr、Hf、およびZnからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含む材料を用いた場合でも期待できる。
【0055】
図12の実施例1に示すように、機能層としてRuを用いた場合(グラフg
4)でも比較的良好なTMR比を得られた理由も上述した場合と同様で、Ruの結晶構造が六方晶構造であるためと考えられる。
【0056】
また、機能層としてTaを用いた場合(グラフg
3)において、比較的良好なTMR比が得られた理由として、Taは高融点材料のため結晶化が難しくアモルファス或いは微結晶構造を持つため、SmCoCuからなる参照層の結晶規則化を阻害せず結晶構造が安定化し易く、参照層の構成元素の拡散が抑制されるためと考えられる。これは、CoFeBからなる界面磁性層の立方晶構造をTa機能層でリセットすることが出来ることによる効果と考えられる。このような効果はTaに限らず高融点材料、例えば、Nb、Mo、およびWからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含む材料を用いた場合でも期待できる。
【0057】
(実施例2)
SmCoCuからなる参照層を用いた第1実施形態の実施例2による磁気抵抗素子のTiからなる機能層の膜厚とTMR比との関係を測定した結果を
図13に示す。
図12の実施例1で用いたSmCoCuからなる参照層を有する磁気抵抗素子との違いはCoFeBからなる界面磁性層の膜厚を薄膜化している点である。このため、
図13の実施例2で得られたTMR比は
図12に示す実施例1の場合に比べて全体的に低下している。
図13からわかるように、Tiからなる機能層の厚さが厚くなるほどTMR比は増大し、Tiからなる機能層の厚さが3Åで参照例の磁気抵抗素子のTMR比とほぼ同等のTMR比を得ることが出来る。従って、Ti機能層を単層の機能層として用いる場合は、厚さが3Å以上で、且つ参照層と界面磁性層の磁気結合が切れてしまわない膜厚(例えば、0Åより大きく20Å以下)の範囲であることが望ましいと考えられる。これは、機能層としてTiを用いた場合に限らず、
図12の実施例1に関連して挙げた六方晶構造を有する材料、例えばMg、Sc、Co、Zr、Hf、およびZnからなる群から選択される少なくとも一つの元素を含む材料、または高融点材料、例えばNb、Mo、Ta、およびWからなる群から選択された少なくとも一つの元素を含む材料でも同様と考えられる。
【0058】
上記第1実施形態に用いられる機能層7について上述したことを総合すると、以下のようになる。参照層からの漏洩磁界を低減しつつ良好なTMR比を実現するためには、機能層7としては、漏洩磁界の低減に寄与する重希土類元素の群(Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群)から選択された少なくとも一つの元素からなる単一層、高TMR比に寄与する金属元素(六方晶構造を有する材料(Mg、Ti、Sc、Co、Zr、Hf、Znからなる群から選択された少なくとも一つの元素)を含む単一層、または高融点材料、例えばNb、Mo、Ta、およびWからなる群から選択された少なくとも一つの元素を含む単一層を用いることが望ましい。
【0059】
また、機能層7として、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選択された少なくとも1つの元素を含む第1層と、Mg、Ti、Sc、Co、Zr、Hf、Znからなる群から選択された少なくとも一つの元素、またはNb、Mo、Ta、およびWからなる群から選択された少なくとも一つの元素を含む第2層とを備えた積層構造を用いることが望ましい。なお、第1層として、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選択された少なくとも1つの元素からなる単一層を用いることができる。
【0060】
なお、上記機能層7が用いられる磁気抵抗素子において、参照層としては、Mn、Fe、Co、およびNiからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、希土類元素からなる群から選択されたSmと、B、C、Mg、Al、Sc、Ti、Cu、およびZnからなる群から選択される少なくとも1つの元素と、を含む磁性体を用いることが好ましい。また、上記参照層としては、更に、Y、La、Ce、Pr、Nd、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、およびLuからなる群から選択される少なくとも1つの元素を含んでいてもよい。
【0061】
(第6実施形態)
第6実施形態による磁気メモリについて
図14および
図15を参照して説明する。第6実施形態の磁気メモリは少なくとも1個のメモリセルを有し、このメモリセルの断面図を
図14に示す。メモリセル53は、第1乃至第5実施形態の磁気抵抗素子(MTJ素子)を記憶素子として有している。以下の説明では、メモリセル53は、第1実施形態の磁気抵抗素子1を記憶素子として備えているものとする。
【0062】
図14に示すように、磁気抵抗素子(MTJ素子)1の上面は、上部電極31を介してビット線32に接続されている。また、MTJ素子1の下面は、下部電極33、引き出し電極34、およびプラグ35を介して、半導体基板36の表面のソース/ドレイン領域のうちドレイン領域37aと接続されている。ドレイン領域37aは、ソース領域37b、基板36上に形成されたゲート絶縁膜38、ゲート絶縁膜38上に形成されたゲート電極39と共に、選択トランジスタTrを構成する。選択トランジスタTrとMTJ素子1とは、MRAMの1つのメモリセルを構成する。ソース領域37bは、プラグ41を介してもう1つのビット線42と接続されている。なお、引き出し電極34を用いずに、下部電極33の下方にプラグ35が設けられ、下部電極33とプラグ35が直接接続されていてもよい。ビット線32、42、電極31、33、引き出し電極34、およびプラグ35、41は、W、Al、AlCu、Cuのいずれかの元素から形成されている。
【0063】
本実施形態の磁気メモリとしてのMRAMは、
図14に示す1つのメモリセル53が例えば行列状に複数個設けられることにより、MRAMのメモリセルアレイが形成される。
【0064】
図15は第6実施形態による磁気メモリ100の回路図である。
図15に示すように、MTJ素子1と選択トランジスタTrとを備えたメモリセル53がマトリクス状に配置されている。同じ列に属するメモリセル53の一方の端子は同一のビット線32に接続され、他方の端子は同一のビット線42に接続されている。同じ行に属するメモリセル53の選択トランジスタTrのゲート電極(ワード線)39は相互に接続され、さらにロウデコーダ51と接続されている。
【0065】
ビット線32は、トランジスタ等のスイッチ回路54を介して電流ソース/シンク回路55と接続されている。また、ビット線42は、トランジスタ等のスイッチ回路56を介して電流ソース/シンク回路57と接続されている。電流ソース/シンク回路55、57は、書き込み電流を、接続されたビット線32、42に供給したり、接続されたビット線32、42から引き抜いたりする。
【0066】
ビット線42は、また、読み出し回路52に接続されている。読み出し回路52は、ビット線32に接続されていてもよい。読み出し回路52は、読み出し電流回路、センスアンプ等を含んでいる。
【0067】
書き込みの際、書き込み対象のメモリセルと接続されたスイッチ回路54、56および選択トランジスタTrがオンすることにより、書き込み対象のメモリセルを介する電流経路が形成される。そして、電流ソース/シンク回路55、57のうち、書き込まれるべき情報に応じて、一方が電流ソースとして機能し、他方が電流シンクとして機能する。この結果、書き込まれるべき情報に応じた方向に書き込み電流が流れる。
【0068】
書き込み速度としては、数ナノ秒から数マイクロ秒までのパルス幅を有する電流でスピン注入書込みを行うことが可能である。
【0069】
読み出しの際、書き込みと同様にして指定されたMTJ素子1に、読み出し電流回路52によって磁化反転を起こさない程度の小さな読み出し電流が供給される。そして、読み出し回路52のセンスアンプは、MTJ素子1の磁化の状態に応じた抵抗値に起因する電流値あるいは電圧値を、参照値と比較することで、その抵抗状態を判定する。
【0070】
なお、読み出し時は、書き込み時よりも電流パルス幅が短いことが望ましい。これにより、読み出し時の電流での誤書込みが低減される。これは、書き込み電流のパルス幅が短い方が、書き込み電流値の絶対値が大きくなるということに基づいている。
【0071】
以上説明したように、各実施形態によれば、漏洩磁界を低減することができ磁気抵抗効果素子およびそれを用いた磁気メモリを提供することができる。
【0072】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。