特許第6427422号(P6427422)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427422
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】レーダ信号処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/04 20060101AFI20181112BHJP
   G01S 13/89 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   G01S13/04
   G01S13/89
【請求項の数】1
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2015-6280(P2015-6280)
(22)【出願日】2015年1月16日
(65)【公開番号】特開2016-133319(P2016-133319A)
(43)【公開日】2016年7月25日
【審査請求日】2017年3月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107928
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 正則
(72)【発明者】
【氏名】白坂 知彦
【審査官】 大▲瀬▼ 裕久
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−138277(JP,A)
【文献】 特開2013−242237(JP,A)
【文献】 特開2007−132748(JP,A)
【文献】 特開2009−174900(JP,A)
【文献】 特開2002−228744(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0004017(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00− 7/42
13/00−13/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
目標からのレーダ反射波の振幅成分、距離成分、及びドップラ周波数成分の各成分を含むレーダビデオ信号を、距離軸、ドップラ周波数軸、及び振幅軸からなる3次元空間にマッピングするとともに、前記振幅軸に対して複数の異なるしきい値を設け、それぞれのしきい値に対して前記距離−ドップラ周波数軸の2次元面において前記目標が検出されたセルとその周辺のセル群を、前記レーダビデオ信号の特徴信号として抽出する信号検出部と、
前記特徴信号の前記ドップラ周波数成分及びその周期性、ならびに前記距離成分及びその変化を含む特徴量を取得する信号特徴量取得部と、
目標の種別及び状態を含む目標の属性情報に対応させて、あらかじめその前記特徴量が蓄積された目標情報データベースと、
前記信号特徴量取得部で抽出した特徴量に基づいて前記目標情報データベースを検索し、前記目標の種類及び状態を特定して類別する目標類別部と、
前記類別結果を所定のリストに編集して出力する類別結果編集部と
を備え、
前記信号検出部における振幅軸に対するしきい値は、あらかじめ設定された観測時間内において所定の時定数で変化させることを特徴とするレーダ信号処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、レーダ反射信号を処理するレーダ信号処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機等を含む飛来する各種の目標を探知しながら追跡するレーダ装置として、ドップラフィルタを備えたレーダ装置等が知られている。レーダ反射波中には、目標からの反射信号以外にも各種の不要な信号成分が含まれて受信されるため、この種のレーダ装置では、反射波中の不要な信号成分等を除去して、目標からの反射信号を確実に検出するための各種の信号処理手法を適用しながら、目標の観測を継続する。そして、目標情報のひとつとして、その位置情報としての航跡情報を取得している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−218634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一方、この種のレーダ装置により、高速で飛来する目標等、対処を要する目標を探知した場合、目標の航跡情報を継続して取得し早期に確定することはもちろんのこと、目標への対処を有効かつ遅滞なく実行できるように、例えば目標の種別や状態等、対象目標の属性に関する情報等を、探知後の早い段階から取得することが求められる。
【0005】
しかしながら、例えば広帯域のドップラフィルタを備えたレーダ装置の場合では、対象目標の移動方向の判定や航跡の確定に時間を要したり、観測条件によっては航跡情報の精度が十分でない虞があった。また、目標の種別や状態等の属性に関する情報については、その判定に時間を要するとともに、演算負荷等も増大することから、必ずしも航跡情報と共にタイムリーに取得されなかった。さらに、航跡情報として取得した、例えば目標の高度や速度等に基づく目標の種別の推定等では、十分な確度で推定結果を得ることが困難であった。このため、曖昧性が残ったままの目標情報に基づいて目標への対処を進めることになってしまうことから、レーダ反射波の信号処理段階において、目標の航跡情報の取得とあわせて、その種別や状態等の属性情報を取得し、目標情報をより一層確立することが望まれていた。
【0006】
本発明の実施形態は、上述の事情を考慮してなされたものであり、目標探知後の早い段階から、目標の種別や状態等の属性情報をタイムリーに取得して提供するレーダ信号処理装置を実現し、以て目標への対処活動を支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本実施形態のレーダ信号処理装置は、目標からのレーダ反射波の振幅成分、距離成分、及びドップラ周波数成分の各成分を含むレーダビデオ信号を、距離軸、ドップラ周波数軸、及び振幅軸からなる3次元空間にマッピングするとともに、前記振幅軸に対して複数の異なるしきい値を設け、それぞれのしきい値に対して前記距離−ドップラ周波数軸の2次元面において前記目標が検出されたセルとその周辺のセルを、前記レーダビデオ信号の特徴信号として抽出する信号検出部と、前記特徴信号の前記ドップラ周波数成分及びその周期性、ならびに前記距離成分及びその変化を含む特徴量を取得する信号特徴量取得部と、目標の種別及び状態を含む目標の属性情報に対応させて、あらかじめその前記特徴量が蓄積された目標情報データベースと、前記信号特徴量取得部で抽出した特徴量に基づいて前記目標情報データベースを検索し、前記目標の種類及び状態を特定して類別する目標類別部と、前記類別結果を所定のリストに編集して出力する類別結果編集部とを備えたことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るレーダ信号処理装置の構成の一例を示すブロック図。
図2】レーダビデオ信号の3次元空間へのマッピングと、振幅軸に設けたしきい値による特徴信号の抽出をモデル化して例示した説明図。
図3】振幅軸のしきい値を変化させた場合の特徴信号の抽出をモデル化して例示した説明図。
図4】観測時間内における振幅軸に対するしきい値設定の変化の一例を示す説明図。
図5】観測時間内における振幅軸のしきい値の変化によって抽出される特徴量の事例を説明するための図。
図6図1に例示したレーダ信号処理装置1の動作を説明するためのフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明の実施形態に係るレーダ信号処理装置を実施するための最良の形態について、図1図6を参照して説明する。
【実施例】
【0010】
図1は、本実施形態に係るレーダ信号処理装置の構成の一例を示すブロック図である。図1に例示したように、このレーダ信号処理装置1は、信号検出部10、信号特徴量取得部20、目標情報データベース30、目標類別部40、及び類別結果編集部50から構成されている。
【0011】
信号検出部10は、目標からの反射波を受信処理したレーダビデオ信号を、距離、ドップラ周波数、及び振幅を3軸とする3次元空間にマッピングする。そして、振幅軸に対して設けたしきい値を変化させながら、距離対ドップラ周波数軸の2次元面において目標の検出を行いながら、目標が検出されたセルとその周辺のセルを、この目標に対する特徴信号として抽出する。レーダビデオ信号の3次元空間へのマッピング、及び振幅軸に設けたしきい値による特徴信号の抽出の様子を、図2にモデル化して例示する。
【0012】
図2(a)は、レーダビデオ信号を、距離、ドップラ周波数、及び振幅を3軸とする3次元空間にマッピングした事例である。また、図2(b)は、図2(a)の振幅軸に対してしきい値を設け、特徴信号を抽出する様子をモデル化した図である。図2(b)に例示したように、振幅軸に設けたしきい値は、この3次元空間では、振幅値が一定の距離対ドップラ周波数の2次元面として表され、この事例では、マッピングされたレーダビデオ信号中で、しきい値を超えたセル、すなわち、この2次元面から突き出たセル群を特徴信号として抽出している。
【0013】
さらに、上記した振幅軸のしきい値を変化させた場合における、特徴信号の抽出の変化の様子を、図3にモデル化して例示する。図3に示した事例では、異なる3つのしきい値として、THa、THb、及びTHc(THa>THb>THc)を設定した場合をモデル化している。図3(a)は、最も高いしきい値THaを設定した場合であり、例えば、目標検出に最適なS/N比(信号対雑音比)に基づいてしきい値を設定した場合等である。この場合は、特徴信号として、目標の存在するセルが抽出され、その周辺のセルは不要な信号成分として抽出されない。後段にて目標の追跡や航跡取得等の信号処理を行う場合等では、このようなしきい値設定がなされることが多い。
【0014】
図3(b)は、振幅軸のしきい値をTHaよりも低いTHbに変化させた場合の事例を、モデル化して示している。この事例では、目標が検出されたセルとその周辺のセル群が、特徴信号として抽出されている。目標の周辺のセル群には、目標の距離成分やドップラ周波数成分の有する拡がり成分が含まれており、後述するが、本実施例ではこれら拡がり成分に着目して目標の類別を行っている。また、図3(c)は、図3(b)でのしきい値THbよりもさらに低いTHcに変化させた場合であり、目標の存在するセルに対して、図3(b)よりもさらに広い範囲の周辺のセル群を拡がり成分とした特徴信号が抽出されている。
【0015】
加えて、本実施例においては、振幅軸に対する複数のしきい値を、あらかじめ設定された観測時間内において所定の時定数で変化させるものとしている。この変化の一例を図4に例示する。図4の事例では、ts〜teの観測時間内において、しきい値を高い値から直線的に低下するように変化させている。そして、観測時間内のt1、t2、及びt3において、しきい値をそれぞれのTHa、THb、及びTHcに設定して特徴信号を抽出する場合を例示している。これによって、上記した特徴信号の拡がり成分の時間的な変化を抽出することができる。
【0016】
信号特徴量取得部20は、信号検出部10で抽出された特徴信号の有する特徴量を取得する。特徴信号から取得する特徴量は、そのドップラ周波数成分とその発生状況の周期性、ならびに距離成分の拡がり及び信号強度とそれらの変化を含むものとしている。高速で飛来する移動目標では、その反射信号にドップラ周波数成分を有する。例えば、目標が航空機等の場合では、固定翼機であればジェットエンジンのタービンブレードの回転やプロペラの回転、また回転翼機であればローターの回転などの影響を受けて変調され、それぞれに特有の周期性や拡がりを持つことが知られている。これらの成分は、目標セルと、特にその周囲のセル群に含まれるので、例えば、図3においては、図3(b)や図3(c)に例示したようなしきい値設定で特徴信号を抽出後、所定の周波数解析等の処理を行って、上記したように、目標の種類に特有のドップラ周波数成分、及び距離成分に対する特徴量を取得する。
【0017】
これに加え、本実施例では、図4に例示したように、振幅軸に対するしきい値を、観測時間内の観測時刻t1〜t3においてそれぞれ変化させて特徴信号を抽出している。このようにして抽出した一連の特徴信号からは、目標の距離成分の時間的な変化に関する特徴量についてもあわせて抽出される。この場合の特徴量の抽出についての一例を、図5の説明図を参照して説明する。
【0018】
図5(a)、(b)、及び(c)は、例えば図4中の時刻t1、t2、及びt3のそれぞれにおける、距離対ドップラ周波数の2次元面における目標の位置を、説明用にモデル化して表している。図5(a)は時刻t1における目標の位置を表している。図5(b)では、これが分離されて2つの目標が観測されるように変化し、図5(c)では、これらがさらに多数の目標として観測されるように変化している。このように、図5の事例では、抽出した特徴信号の信号強度に基づいた距離成分の拡がりの時間的な変化から、例えば目標数の変化等を特徴量として抽出している。
【0019】
目標情報データベース30は、目標の種別や状態等の属性情報に対応させて、上記した目標からの反射信号の特徴量があらかじめ蓄積されたデータベースである。目標類別部40は、信号特徴量取得部20で抽出された目標の特徴量に基づき、目標情報データベース30を検索して目標を類別するとともに、その結果を類別結果編集処理部50に送出する。類別結果編集部50は、目標類別部40で類別された目標の類別結果を、所定のリスト等に編集して後段の機器等に送出する。
【0020】
次に、前出の図1図5、ならびに図6のフローチャートを参照して、上述のように構成された本実施例のレーダ信号処理装置1の動作について説明する。
【0021】
目標からのレーダ反射波が受信されると、このレーダ反射波は、前段の機器等で受信処理され、レーダビデオ信号となってレーダ信号処理装置1に送られてくる。レーダビデオ信号には、目標からの反射波の振幅成分、距離成分、及びドップラ周波数成分が含まれる(ST601)。送られてきたレーダビデオ信号は、まず、信号検出部10において、距離、ドップラ周波数、及び振幅の3つを軸とする3次元空間にマッピングされる。図2(a)は、このマッピング後のレーダビデオ信号をモデル化して例示したものである(ST602)。
【0022】
次いで、この3次元にマッピングされたレーダビデオ信号の振幅軸に対して設定されたしきい値に基づいて、特徴信号が抽出される。図 2(a)において振幅値が固定値(例えばしきい値)となるのは、図2(b)に例示したように、距離−ドップラ周波数で表される2次元面であり、信号検出部10では、例えばこの図2(b)のように、しきい値の2次元面から突出したセル群を特徴信号として抽出する。
【0023】
また、抽出時にはしきい値を変化させ、特に図3(b)、及び(c)に例示したように、目標の存在するセルと周辺のセル群もあわせて、特徴信号として抽出している。これら周辺のセル群には、目標を類別するための、距離成分やドップラ周波数成分の有する拡がり成分が含まれている。さらに、本実施例では、しきい値の変化を例えば図4に例示したように、あらかじめ設定された観測時間内で所定の時定数で変化させ、例えば、図5に示したように、距離の拡がり成分に対する時間的な変化についても、特徴信号として抽出している。これらの抽出された特徴信号は、信号特徴量取得部20に送出される(ST603)。
【0024】
次いで、信号特徴量取得部20において、特徴信号の特徴量が取得される。特徴信号中には、上述のように、目標の種別や状態を類別するための各種信号成分が含まれている。信号特徴量取得部20では、特徴信号から、ドップラ周波数成分及び距離成分に対する周期性や拡がりについての特徴量を取得する。これらの特徴量としては、例えば、航空機の種別に関連する、ドップラ周波数に対する変調成分の周波数解析等による周期性や、目標数の変化及び移動に関連する距離成分の拡がりの時間的な変化等を含み、これらは、目標の属性情報として対応づけられる特徴量である。取得された特徴量は、目標類別部40に送出される(ST604)。
【0025】
次いで、目標類別部40において、目標の類別が行われる。すなわち、目標類別部40は、信号特徴量取得部20で取得された、目標の属性に関連する特徴量に基づいて目標情報データベース30中で合致する属性の目標情報を検索し、その検索結果により目標を類別する。そして、この目標類別結果は、類別結果編集部50に送出される(ST605)。
【0026】
次いで、類別結果編集部50において、類別結果が編集される。類別結果は、例えば、その送出先毎にあらかじめ設定された所定のリスト形式等に編集される。これらリストには、類別結果として、信号特徴量取得部20で取得された特徴量そのものや、目標情報データベース30に蓄積された、目標の類別結果に対する各種の付帯情報等を含めて編集することができる。そして、編集された類別結果は、例えば送出対象の後段の各種機器等に送出される(ST606)。この後は、動作の終了が指示されるまで、上述した動作ステップを繰り返す(ST607)。
【0027】
以上説明したように、本実施例においては、振幅、距離、及びドップラ周波数を含むレーダビデオ信号の中から、目標が検出されたセルとその周辺のセル群とを特徴信号として抽出し、抽出した信号から、ドップラ周波数成分とその周期性、及び距離成分とその変化を含む、信号の特徴量を取得している。そして、これら取得した特徴量に基づき目標データベースを検索し、目標を類別している。
【0028】
これによって、目標の種別や状態等を、目標を検出後の早い段階からタイムリーに提供することができる。また、観測時間中における目標の時間的な状態変化も加えられるので、例えば、同じレーダ反射信号から別途取得される航跡情報等とあわせて、目標への対処のための各種の活動資源の適切な配分管理等、目標への対処活動を遅滞なく効果的に進めるための支援情報を提供することができる。
【0029】
なお、いくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。例えば、上述した実施形態では、対象を船舶とした事例を示したが、これを航空機等とすることもできる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0030】
1 レーダ信号処理装置
10 信号検出部
20 信号特徴量取得部
30 目標情報データベース
40 目標類別部
50 類別結果編集部
図1
図2
図3
図4
図5
図6