特許第6427453号(P6427453)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427453
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】雪室を用いた冷房設備
(51)【国際特許分類】
   F24F 5/00 20060101AFI20181112BHJP
   F25D 3/00 20060101ALI20181112BHJP
   F24F 3/00 20060101ALI20181112BHJP
   F25B 27/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   F24F5/00 102K
   F25D3/00 Z
   F24F3/00 B
   F25B27/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2015-73424(P2015-73424)
(22)【出願日】2015年3月31日
(65)【公開番号】特開2016-194378(P2016-194378A)
(43)【公開日】2016年11月17日
【審査請求日】2018年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001834
【氏名又は名称】三機工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090985
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 幸雄
(74)【代理人】
【識別番号】100093388
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 喜三郎
(72)【発明者】
【氏名】植村 聡
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 賢知
【審査官】 五十嵐 康弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−147912(JP,A)
【文献】 特開2003−314864(JP,A)
【文献】 特開2008−275250(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2013/0199756(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F24F 5/00
F24F 3/00
F25B 27/00
F25D 3/00
WPI
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上流側に還り水の供給口を少なくとも一箇所備えるとともに、この供給口から水平方向に離して、下流側に熱交換されて冷却された冷水の取出口を少なくとも一箇所備えた雪室を用いた冷房設備において、
前記供給口から前記取出口に至る雪室床面に、供給口から取出口に向かって流れる水との接触によって、上流側に形成される雪島と下流側に形成される雪島との融解時間が同じとなるように水路網を設けたことを特徴とする雪室を用いた冷房設備。
【請求項2】
前記水路網が、供給口から取出口に向かう複数の横方向の水路と、該横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路とからなり、かつ、前記縦方向の水路の配置間隔が取出口に向かって狭くなるように配設されてなることを特徴とする請求項1に記載の雪室を用いた冷房設備。
【請求項3】
前記水路を構成する供給口から取出口に向かう複数の横方向の水路と、該横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路により分断されて形成される雪島の底面積が取出口に向かって小さくなるように構成されたことを特徴とする請求項1に記載の雪室を用いた冷房設備。
【請求項4】
前記水路網が、金属製棒体を雪室床面に敷設することによって生じる空間により水路が形成されるとともに、該金属製棒体に雪が接触し融解されて水路が形成されてなることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1に記載の雪室を用いた冷房設備。
【請求項5】
前記水路網を構成する供給口から取出口に向かう横方向の水路の本数mを、
冷房設備に使用する雪室の床面積、貯蔵する雪の高さ、雪室床面の上流側から供給する還り水の温度と取り出す温度に基づき求めるため、
雪室床面の形状に合わせて、横方向の水路(幅d)をm本とし、該横方向の水路と直交した縦方向の水路(幅d)n本を決め、各横方向の水路間の距離が同一、各縦方向の水路間の距離が同一と仮定し格子状に設ける場合に必要な横方向の水路の本数mを(1)から(6)の式により求めるステップ1と、
上記ステップ1で求めた横方向の水路の本数mが、正しいかを横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路間の間隔(上流側から下流側に向かってL1、L2・・Ln-1)を上流側から下流側に向かって短く(L1>L2>・・>Ln-1)なるようにして各雪島の融解時間が同じようになるよう式(8)及び式(9)から求め、
求めた縦方向の水路間の間隔(L1、L2・・・Ln-1)を使い、下記式(6)の条件を満たしているか否かを検証し、前記条件が満たされていないときは、満たすまで横方向の水路の本数mを増やしながら式(6)の条件を満たす横方向の水路の最小本数を求め、この繰り返しにより、上流側の雪島と下流側の雪島との融解時間差が小さくなるよう横方向の水路の本数mと各縦方向の水路の間隔(L1、L2・・Ln-1)を求めるステップ2
とから求められた横方向の水路と縦方向の水路とからなる水路網であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1に記載の雪室を用いた冷房設備。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【数5】
【数6】
【数7】
【数8】


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬期に貯蔵した雪を、夏期に冷熱源として利用する冷房設備に関し、大きな冷熱出力で安定した冷熱供給機能を有する雪室を用いた冷房設備に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、冬期に降った雪を雪室に貯蔵し、該雪を冷熱源として水と熱交換して、該熱交換した水を冷熱需要施設の空調等に利用するという冷房方法が採用されている。
この方法における雪と水との熱交換は、雪室の床面を貯水ピットとし、雪が堆積している該床面に水を流し、雪と接触した水が雪を融解し雪の冷熱を吸収することで行われている。
そして、この熱交換により低温度となった冷水が、空調システム等へ送られて利用され、該空調システム等で利用されて温まって戻された水を、雪室の床面に送り、再び雪室内の雪と熱交換するというものである。
しかし、この方法は、雪室の貯水ピットに送水すると、貯蔵されている雪の外縁や内部に水路が形成され、融解の進行とともに前記水路が拡大し、雪と接触しない水の割合が増えてしまい、一定の熱交換がなされず熱交換率や冷熱出力が低下するという問題がある。
また、雪室の貯水ピットを流れる水の偏流は、雪の密度や水の流れで不規則に生じるため、一部の床面だけ早く融解し雪の架橋が形成されることもあり、さらに水路が拡大し、架橋部分が破断すると、再び熱交換面積が増大し、減少していた冷熱出力が増えるというような時間的な不安定性がある。
さらに、雪室の貯水ピットに送られた上流側の水と雪の温度差は、貯水ピット内を流れてきた下流側の水と雪の温度差よりも大きく、そのため、水と雪の熱交換の熱量が、上流側の方が下流側よりも大きくなり、雪の融解速度は上流側の方が大きくなってしまい、上流側の雪の方が早く融解し、下流側の雪だけが残ってしまい冷熱出力が不安定になるという問題がある。
【0003】
そこで、このような問題に対し、雪室の貯水ピットの床面に溝を施工し、溝内に優先的に水が流れるようにし、溝周辺に水路を形成させることで高い冷熱出力の維持と、時間的な不安定さの解消を図っていた。
その他、この問題を解決するため、雪を均等かつ安定的に融解させるための様々な技術が開示されている。
特許文献1には、
「還り水の供給口3を少なくとも一箇所備えるとともに、熱交換された冷水の取出手段を少なくとも一箇所備え、供給口3から取出手段に至る槽内底部を分割する複数の堰6を設けたことを特徴とする雪冷蓄熱槽。」(特許文献1:特開2002−147912号公報)が開示されており、還り水及び融解水を一部底部に滞留させておき、雪と水との接触面積及び接触時間を確保して、安定的に冷水を取り出せる構成となっている。
また、特許文献2には、
「 屋内外に貯蔵する堆積雪氷下部に浸透性舗装を表面にもつ二重構造の冷水槽を設置し、舗装面下に敷設した配管により、雪氷から発生した冷水と配管内循環液との熱交換を行い、雪氷塊より冷熱を得て、冷熱需要先へ供給する冷熱回収装置。」が開示されている(特許文献2:特開2011−007029号公報)。これは、雪氷塊の下部に、冷水を通過させる浸透性舗装を表面に設けた二重構造の冷水層を設置し、冷水槽の一端から冷水を供給し、雪と熱交換した冷水を冷水槽中央下部に設けられた集水枡から取り出し、冷水槽の下流に設置した熱交換回路配管に冷媒を循環させ、冷媒と冷水の間で熱交換を行い、冷水槽の他端に設置した環水口から冷水を取り出す構成となっている。
【0004】
しかし、上記のような解決方法において、雪室の貯水ピットの床面に溝を施工する場合、床面の施工費が高く現実的ではないという問題があった。
また、特許文献1のように槽内底部に複数の堰を設けると、複数の堰の間に架橋が形成されて、雪と冷水との間に空洞ができてしまい、雪と冷水との接触面積を増やすことができず伝熱面積が減少し、冷熱出力が低下してしまうという問題がある。
さらに、特許文献2は冷水槽の下流側に熱交換回路配管を設置し、上流側の雪氷塊が先行して融解しないようになっているため、冷房終期には、下流側のみ雪が残ってしまい冷熱出力が安定しないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2002−147912号公報
【特許文献2】特開2011−007029号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題点を解決することを目的とするものであり、冬期に貯蔵した雪を、夏期に冷熱源として水熱交換して利用し、高冷熱出力で安定した冷熱供給機能を有する雪室を用いた冷房設備を提供することを目的とし、雪を貯蔵する雪室の床面に多数の流路を強制的に形成することによって、伝熱面積の拡大と融解速度の安定化を実現し、冷熱出力の向上と安定化を可能とする雪室を用いた冷房設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記課題を下記の手段により解決した、
(1)上流側に還り水の供給口を少なくとも一箇所備えるとともに、この供給口から水平方向に離して、下流側に熱交換されて冷却された冷水の取出口を少なくとも一箇所備えた雪室を用いた冷房設備において、
前記供給口から前記取出口に至る雪室床面に、供給口から取出口に向かって流れる水との接触によって、上流側に形成される雪島と下流側に形成される雪島との融解時間が同じとなるように水路網を設けたこと特徴とする雪室を用いた冷房設備。
(2)前記水路網が、供給口から取出口に向かう複数の横方向の水路と、該横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路とからなり、かつ、前記縦方向の水路の配置間隔が取出口に向かって狭くなるように配設されてなることを特徴とする前記(1)に記載の雪室を用いた冷房設備。
(3)前記水路を構成する供給口から取出口に向かう複数の横方向の水路と、該横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路により分断されて形成される雪島の底面積が取出口に向かって小さくなるように構成されたことを特徴とする前記(1)に記載の雪室を用いた冷房設備。
(4)前記水路網が、金属製棒体を雪室床面に敷設することによって生じる空間により水路が形成されるとともに、該金属製棒体に雪が接触し融解されて水路が形成されてなることを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれか1に記載の雪室を用いた冷房設備。
(5)前記水路網を構成する供給口から取出口に向かう横方向の水路の本数mを、
冷房設備に使用する雪室の床面積、貯蔵する雪の高さ、雪室床面の上流側から供給する還り水の温度と取り出す温度に基づき求めるため、
雪室床面の形状に合わせて、横方向の水路(幅d)をm本とし、該横方向の水路と直交した縦方向の水路(幅d)n本を決め、各横方向の水路間の距離が同一、各縦の本数mを(1)から(6)の式により求めるステップ1と、
上記ステップ1で求めた横方向の水路の本数mが、正しいかを横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路間の間隔(上流側から下流側に向かってL1、L2・・Ln-1)を上流側から下流側に向かって短く(L1>L2>・・>Ln-1)なるようにして各雪島の融解時間が同じようになるよう式(8)及び式(9)から求め、
求めた縦方向の水路間の間隔(L1、L2・・・Ln-1)を使い、下記式(6)の条件を満たしているか否かを検証し、前記条件が満たされていないときは、満たすまで横方向の水路の本数mを増やしながら式(6)の条件を満たす横方向の水路の最小本数を求め、この繰り返しにより、上流側の雪島と下流側の雪島との融解時間差が小さくなるよう横方向の水路の本数mと各縦方向の水路の間隔(L1、L2・・Ln-1)を求めるステップ2
とから求められた横方向の水路と縦方向の水路とからなる水路網であることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれか1に記載の雪室を用いた冷房設備。
【数1】
【数2】
【数3】
【数4】
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、上流側に還り水の供給口を少なくとも一箇所備えるとともに、この供給口から水平方向に離して、下流側に熱交換され冷却された冷水の取出口を少なくとも一箇所備えた雪室を用いた冷房設備において、前記供給口から前記取出口に至る雪室の床面に、供給口から取出口に向かって流れる水との接触によって、上流側に形成される雪島と下流側に形成される雪島との融解時間が同じとなるように水路網を設けたので、前記水路網により構成される複数の雪島の底面積が上流側(供給口側)から下流側(取出口側)に向かって小さくなるので、伝熱面積の拡大と融解速度の安定化を実現し、冷熱出力の向上と安定化を可能とする雪室を用いた冷房設備を提供することができる。
また、前記水路網が、金属製棒体を雪室の床面に敷設することによって生じる空間により水路が形成されるとともに、該金属製棒体に雪が接触し融解されて水路が形成されるので、大がかりな工事や設計変更等が不要で、新規の雪室はもちろん、既存の雪室にも容易に、かつ安価に配設することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の雪室を用いた冷房設備の構成を示す概略図である。
図2】本発明における冷房設備の雪室床面に格子状の水路を形成する1例を示す平面図である。
図3】本発明における雪室内の冷房負荷と必要とする冷房負荷の雪の貯蔵期間中の変化を示す図である。
図4】雪室の熱負荷積算、冷房負荷積算、及び負荷トータルの冷房設備雪の貯蔵期間中の積算量の変化を示す図である。
図5】本発明における雪島と従来の雪島の熱交換能力の差異を説明するための平面図である。
図6】本発明における雪島と従来の雪島の熱交換能力の差異を説明するための立面図である。
図7】本発明における水路網により形成される雪島の例を示す平面図である。
図8】本発明における水路網により形成される一つの雪島の例を示す斜視図である。
図9】本発明における水路網により形成される雪島を流れる水の温度変化を表す図である。
図10】本発明の雪室床面に格子状の水路網を形成する場合の横方向の水路の数と縦方向の水路間の間隔を求める説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は本発明の雪室を用いた冷房設備の構成を示す概略図である。
同図において、1は冬期に降った雪を貯蔵する雪室、2は雪室の床面、3は熱交換器からの還り水の供給口、4は供給口から供給され雪室1内で冷却された水の取出口である。
本発明にかかる雪室を用いた冷房設備の基本構成は、図1に示すように、雪室1の供給口3から供給された還り水が、雪室1内の雪との熱交換により冷却され冷水となって取出口4から取り出される。前記取出口4から取り出された冷水は、熱交換器に送られ、冷熱需要施設の空調システム等の冷媒との間で熱交換され、冷熱需要施設の冷房等冷熱源として活用される。
そして、前記熱交換器での熱交換によって温められた水は、還り水として雪室1の供給口3へ送られ、雪室1内で再び雪との熱交換によって冷却され、取出口4から取り出される水の循環で冷房する機構となっている。
図1に示す例においては、雪室1の供給口3から供給された水が、雪との熱交換により5℃に冷やされて熱交換器に送られ、熱交換器で熱交換された7℃の冷媒が冷熱需要施設の空調システム等に供給される。そして、該空調システム等で使用されて温度が12℃となった冷媒が熱交換器に送られる。
その後、熱交換器によって10℃に調整された還り水は、雪室1の供給口3から雪室1に供給され、この還り水が雪と接触することで雪が融解され、該還り水は雪の冷熱を吸収して冷やされ、5℃程度の冷水となる。そして、この冷水は取出口4から取り出され、再び熱交換器に送られるという構成となっている。
【0011】
図2は本発明における冷房設備の雪室床面に格子状の水路を形成する1例を示す平面図である。
図において、5は格子状に形成された水路網、5’は水路網を形成する水路網構成体、6は格子状の水路網を構成する供給口から取出口へ流れる方向に配置される横方向の水路、7は前記横方向の水路6と直交して配置される縦方向の水路である。
また、8は格子状の水路網5を構成する横方向に配置された横棒、9は前記横棒8と直交して縦方向に配置された縦棒である。
本発明の雪室を用いた冷房設備は、図2(a)に示すように、雪室の床面に水路網5が格子状に形成される。
本発明における水路網5は、水の偏流によって雪が不規則に融解するのを防止し水の流れを誘導して、所定位置の雪の融解を促進し、水と雪の熱交換を一定に安定して実施させるために設けられるものである。
すなわち水路網5は、水の流れを誘導できるものであればよく、雪室の床面2にあらかじめ凹状に水路を形成して構成したり、熱伝導率の高い棒体を敷設して形成することが考えられる。
図2(b)は、金属製の横棒と、該横棒に直交して形成した縦棒から形成された水路構成体5’である。
同図に示すように、格子状に形成された水路網構成体5’は、横方向に配置された横棒8と、前記横棒8と直交して縦方向に配置された縦棒9から構成される。
本例においては、水路網5の形成する水路網構成体5’は、金属製棒体を雪室の床面2に敷設して構成されている。金属製棒体を雪室床面に敷設することによって生じる空間により水路が形成されるとともに、該金属製棒体に雪が接触して融解されることにより、金属製棒体を中心に水路が形成され、水路網5が形成される。これは、金属製棒体は、熱伝導性に優れていることから雪の融解を促進しやすく水路の形成に好適なためであるが、同様の効果を期待できるものであれば、これに限定されるものではない。
この格子状に形成された水路網構成体5’を雪室の床面に配置することで、各棒8、9に接する雪が優先的に溶け、棒体を中心に水路が形成され、各水路間に残る雪が雪島を形成することで、雪室の床面2に格子状に配列した複数の雪島が形成される。
そして、各雪島の縁部に位置する各棒に沿って水路6、7が形成され水路網5ができる構成となっている。
なお、図2(b)に示すように、雪室の床面2に水路網5を形成するために配置する棒体(横棒8、縦棒9)は、雪室の床面2の周囲は省略することができる。
これは、雪室の床面2の周囲は壁に面しており、該壁からの潜熱により周囲に水路が構成されるからであるが、壁面からの潜熱が期待できないような場合には、床面2の周囲に棒体を配設する。
また、本実施例においては、横方向の水路6、横棒8は等間隔で配置され、縦方向の水路7、縦棒9は各縦棒の配置間隔が異なり下流側(取出口側)に行くに従って間隔が狭くなるように配置されている。
これにより後述するように、雪室1に貯蔵されている雪が底面積の異なる複数の雪島を形成し、かつ、その底面積が供給口3から取出口4に向かって小さくなるので、供給口3から取出口4へ流れる間に変化する水の温度変化により変動する冷熱出力を安定させることができ、複数の雪島を平均して融解することができ、また融解部分が供給口3に偏って伝熱面積が減少することなく、全体の伝熱面積は拡大される。
【0012】
図3は本発明における雪室1内の冷房負荷と必要とする冷房負荷の雪の貯蔵期間中の変化を示す図である。
同図において、横軸は雪の貯蔵期間、縦軸は熱負荷q(J/s)である。
qLは熱負荷で、例えば、雪室1の外から熱が貫流して入るため、その負荷は4月頃から発生しピークが8月頃になり、10月頃まで発生する。
これに対してqcは冷房負荷で、冷房の需要量を示している。冷房需要は例えば、6月頃から発生し、外気温が高くなるにつれて大きくなっていくという性質がある。そしてピーク値qc-maxは8月中旬頃となる。
したがって、このピーク値qc-maxに対応可能なように雪室1の床面積を設定し、必要量の雪を貯蔵する必要がある。
図4は、雪室の熱負荷積算、冷房負荷積算、及び負荷トータルの冷房設備雪の貯蔵期間中の積算量の変化を示す図である。
同図において、横軸は雪の貯蔵期間、縦軸は積算熱量Q(J)を示す。
QL、Qc、Qsumはそれぞれ図3に示した、熱負荷qL、冷房負荷qc、及び負荷トータルqL+qcの積算値を示したもので、QLは雪室の冷房熱負荷の積算値で4月からゆっくりと上がっている。Qcは冷房負荷の積算値で6月から急伸し後半はゆっくりと上がっている。
Qsum(点線)は、QLとQcを合算したもので雪室1に対する熱負荷の合計である。したがって、このQsumに対応できるように貯蔵する雪の量(Ms)が決められ、例えば、Qsum(熱負荷の合計)の1.2〜1.3倍の蓄積冷熱Qが確保される雪の量が貯蔵できるように雪室1を設計する。
【0013】
図5は本発明における雪島と従来の雪島の熱交換能力の差異を説明するための平面図、そして図6は本発明における雪島と従来の雪島の熱交換能力の差異を説明するための立面図である。
図5図6において、(a)は本発明における格子状の水路網を雪室の床面2に配設した場合に形成される雪島21の形状の例であり、(b)は従来の雪室における雪島22の典型的な形状を示している。雪島21、22はいずれも図6に示す雪島の下部の水に浸っている部分が伝熱面積10(熱交換面積)であり、熱交換能力の大小にかかわる。
図5(b)、図6(b)に示すように従来の雪島22は一つの大きな塊として形成されており、水に浸かった部分の面積は狭い。
これに対して、図5(a)、図6(a)に示すように本発明における雪島21は、複数の横方向の水路6とこれに直交する複数の縦方向の水路7とで分割されて形成されている。したがって、これら複数の雪島21の外周の下部の水に浸っている部分のすべてが伝熱面積10であり、従来の雪島22の伝熱面積に比べて広く、雪室1全体の熱交換能力を大きくしている。
【0014】
図7図8は本発明における水路網により形成される雪島21の配列を示す平面図、及び一つの雪島の形状を示す斜視図である。
図7に示すように、雪室の床面2に幅dからなる横方向の水路6を2本(m1、m2)と、同じく幅dからなる縦方向の水路7を4本(上流側からn1、n2、n3、n4)、前記縦方向の水路7においては、n1とn2との間隔をL1、n2とn3との間隔をL2、n3とn4との間隔をL3として敷設すると、横方向の水路6のm1とm2が、縦方向の水路n1、n2、n3、n4とによって区切られ、横方向に3列、縦方向に1行の領域が形成される。
そのため、図示のように上流側から21a、21b、21cで示す3個の雪島が横一列に形成される。そしてそれぞれの雪島の面積は雪島21aがa1、雪島21bがa2、雪島21cがa3と異なって構成される。
そして図7図8においては、W’を雪島21a,21b、21cの奥行き、L1’を雪島21aの長さ、L2’を雪島21bの長さ、L3’を雪島21cの長さとし、αwを雪島21の縦方向の熱伝導率、αLを横方向の熱伝導率、H’を雪島21の高さ、hを雪島21の下部の水に浸った部分の高さとしている。
なお、幅dは外気温が高くなるにつれ雪島が融解するので拡大する。熱負荷のピーク時における既に融けた雪の面積(すなわち水路の面積)は、該ピーク時における熱負荷の合計Qsum-tに比例することから、ピーク時における水路幅dが求められる。すなわち、ピーク時における既に融けた雪の面積は、ab−(a−(m−1)d)×(b−(n−1)d)であり、ピーク時における熱負荷の合計Qsum-t=雪室の床面の面積ab:熱負荷の合計Qsumの比例関係よりdを求める。
そして図9は、図7に示す条件での雪室の床面2を上流の供給口3から下流の取出口4に向かって流れていく水の温度変化を表したものであり、横軸は上流側から下流側までの距離、縦軸は水の温度を示し、T1は供給口3に供給される還り水の温度、T2は雪島21aと21bとの間を流れた水の温度、T3は雪島21bと21cとの間を流れた水の温度、T4は取出口4から取り出される水の温度、Tsは雪の温度である。
同図において、供給口3に供給される還り水の温度が10℃の時、雪室の床面2を流れる水は雪との熱交換によってその温度が指数関数的に徐々に下がり、取出口4で5℃位になることがわかる。
この供給口3から取出口4へ流れる水の温度は、下記の式(1)により算出できる。
【数5】
【0015】
式(1)から算出される水の温度を用いて、各雪島21における水と雪との間で交換される熱量qを求めることができる。この熱量qは、各雪島21の伝熱面積10と伝熱面内外の温度差ΔT及び雪の熱伝導率α、αから求めることができる。
したがって、図7、8に示す上記条件で形成される雪島21aにおいて熱交換される熱量q1は、下記式(2)により算出できる。
【数6】
【0016】
式2において、αΔT1−sW’hは、雪島21aにおける上流側の奥行き方向において熱交換される熱量であり、2αΔT1−2L1’hは、雪島21aの長さ方向において熱交換される熱量であり、αΔT2−sW’hは、雪島21aの下流側の奥行き方向において熱交換される熱量である。
また、ΔT1−s=T−T、ΔT2−s=T−T、であり、
ΔT1−2=(ΔT1−s−ΔT2−s)/ln(ΔT1−s/ΔT2−s
=(T−T)/ln(ΔT1−s/ΔT2−s)である。
同様に雪島21bにおいて熱交換される熱量q2は、下記式(3)により、雪島21cにおいて熱交換される熱量q3は、下記式(4)により、算出できる。
【数7】
【0017】
本発明における雪室を用いた冷房設備は、上記各式により求められる熱交換量qにより雪室1全体における可能な総熱交換量を算出し、前記図3に示した冷房需要のピーク値qc-maxに対応できるよう水路網5が構成される。前記雪室1全体における可能な総熱交換量と冷房需要のピーク値qc-maxとの関係は、下記式(7)のようになる。
【数8】
【0018】
また、雪島21aが持つ冷熱Q1は、下記式(8)により求められ、雪島21aを融解するために必要な時間t1は、下記式(9)により求められる。
【数9】
【数10】
【0019】
本発明にかかる雪室を用いた冷房設備は、上記のごとく算出した各雪島21a、21b、21cの融解時間t1、t2、t3が同じになるように雪室の床面2に水路網5を敷設して形成される。
すなわち、雪室1の上流側と下流側の雪島21に融解ムラが生じないように、前記雪島21a、21b、21cを同程度の時間(t1=t2=t3)で融解するよう格子状の水路網5を設けて縦方向の水路7の間隔L1、L2、L3を最適化して、冷熱出力の安定化を図るものである。
したがって、本発明に係る雪室を用いた冷房設備は、上記条件を充足するべく水路網5を構成するように縦方向及び横方向の水路の本数及び配置間隔を調整し、格子状の水路網5の縦方向の水路の配置間隔が還り水の供給口3から取出口4に向かって狭くなるように配設され、また、各雪島21の底面積が供給口3から取出口4に向かって小さくなるように構成される。
【0020】
以下に、図10を参考に、本発明の目的を達成するための雪室の床面2に構成される水路網5における横方向の水路の本数mと縦方向の水路の本数n及び縦方向の水路同士の間隔Lを求める例を示す。
〈ステップ1〉
冷房設備に使用する雪室床面2の床面積(図10において縦の長さa、横の長さb)、貯蔵する雪の高さ、雪室床面の上流側から供給する還り水の温度と取り出す温度を定めた雪室の設計仕様に基づき、雪室の床面(縦の長さa、横の長さbの矩形体)に合わせて、横方向の水路をm本、縦方向の水路の本数nを4本と決めると、同図に示すように床面が横方向の水路と縦方向の水路とによって区切られ、横方向に3列、縦方向に1行の区画が形成され、区画の各領域に、それぞれ上流側から雪島A1、中間のA2、下流側の雪島A3の3個の雪島が形成される。 ここで各縦方向の水路間の距離L1、L2、L3を仮に同一Lとし各雪島の融解時間を合わせるように、横方向の水路の最小本数mを式(1)〜(4)及び(7)により求める。
【数11】
【数12】

【数13】
【0021】
〈ステップ2〉
次に、上記ステップ1で求めた横方向の水路の最小本数mが、正しいかを横方向の水路と直交する複数の縦方向の水路間の間隔(上流側から下流側に向かってL1、L2、L3)を上流側から下流側に向かって短くなるよう(L1>L2>L3)にして各雪島の融解時間が同じようになるよう式(8)及び式(9)から求め、求めた縦方向の水路間の間隔(L1、L2、L3)を使い、下記式(7)の条件を満たしているか否かを検証し、前記条件が満たされていないときは、満たすまで横方向の水路の本数mを増やしながら式(7)の条件を満たす横方向の水路の最小本数を求める。
【数14】
【数15】
この繰り返しにより、上流側の雪島と下流側の雪島との融解時間差が小さくなるよう横方向の水路の最小本数と各縦方向の水路の間隔(L1、L2、L3)を求める。
すなわち、L1+L2+L3=bかつL1≧L2≧L3を満たすL1、L2、L3を適当な間隔で移行させて、雪島の融解時間t1、t2、t3および融解時間のバラツキ(標準偏差σ)を求め、標準偏差σが最も小さくなるようなL1、L2、L3を検出することで、上流側の雪島と下流側の雪島との融解時間差が小さくなる水路の間隔(L1、L2、L3)を求めることができる。
なお、L1、L2、L3の求め方として、上記のような直接検出による最適化を例示したがそれに限られるものではない。また、融解時間の最大値と最小値の差が最も小さくなるようなL1、L2、L3を検出してもよい。
【0022】
具体的な例として、雪室の設計仕様を、縦の長さaが10m、横の長さbが10mの床面2の雪室で、貯蔵する雪の高さH'を3m、水路幅を0.2m、雪島の下部の水と接する部分の高さhを0.2m、雪島の奥行き側の熱伝達率αを354W/mK、雪島の長さ側の熱伝達率αLを354W/mK、雪密度ρsを500kg/m、雪の溶解潜熱ηsを330kJ/kg、雪室床面の上流側の供給口から供給する還り水を10℃、下流側の取出口から取り出す冷水の温度を5℃とする。
前記雪室の縦方向の水路の本数nを4本とし、上記雪島の床面に必要な横方向の水路をm本とすると、上から最上部の壁近傍の横方向の水路m1(1番目)と次の横方向の水路m2(2番目)と、4本の縦方向の水路n1、n2、n3、n4とにより3個の雪島(A1、A2、A3)ができる。
なお、縦方向の水路を4本としているので、各縦方向の水路間の距離(L)は3つになる。ここで、各縦方向の水路間の距離Lを上流側からL1、L2、L3とし、仮にL1=L2=L3=3.333mで均等とする。
【0023】
〈ステップ1〉
ここで、雪島の面積をa1、a2、a3とし、L1'、L2'、L3'を雪島の横方向の長さ、Wを横方向の水路間の距離、w'を雪島の横幅(奥行き)、αwを雪島の幅(奥行き)方向の熱伝達率、αLを長さ方向の熱伝達率、hを雪島の下部の水と接触する部分の高さとすると、前記式(1)〜(4)より、各雪島の水との熱交換(q1、q2、q3)が求められる。
そしてこれらの結果を、式(7)の不等式にあてはめると、全雪島A1〜A3の水との熱交換の総熱量が冷房ピーク値の負荷より大きくなるための最小値としてm=4本が求められる。
〈ステップ2〉
次に、各縦方向の水路間の距離L1、L2、L3を、供給口3側から、L1>L2>L3とし、これらの距離から各雪島A1、A2、A3の融解時間(式(8)及び式(9)より求める)t1、t2、t3の差が小さくなるように、それぞれの距離Lを求める。
すると、mが4本のときは、それぞれL1=5.5m、L2=2.56m、L3=1.94mが求められる。
しかし、上記L1=5.5m、L2=2.56m、L3=1.94mを式(7)に当てはめると、Σqは、qc-maxより小さくなり、式(7)の条件を満たさない。
そこで、mを1本追加し、m=5本として、再びt1、t2、t3の差が小さくなるように、それぞれの距離Lを求めると、L1=5.2m、L2=2.72m、L3=2.08mとなる。
これらを式(7)に当てはめると、Σqは、qc-maxより大きくなり式(7)の要件を満たし、かつt1、t2、t3の差が小さいLが得られることが確認できる。
【0024】
このように、上記ステップ1から横方向の水路の本数を求め、ステップ2から各縦方向の水路間の距離(長さ)Lを求め、求めた各縦方向の水路間の距離Lが式(7)の条件を満たすか否かを検証することで、上流側の雪島と下流側の雪島の融解時間の差が小さくなるような横方向の水路の本数と各縦方向の水路間の距離Lが求まり、これにより算出された横方向の水路の本数と各縦方向の水路間の距離で格子状の水路網5を雪室床面2に構成することで上流側から下流側まで各雪島からの水への熱交換能力の均等化が図られた優れた雪室を提供することができる。
【0025】
なお、上記のような水路網5を形成するために、前記図2(b)について説明したように、上記格子状の水路網5の形状と同一の形状を金属製の横棒8と、該横棒に直交して配置した縦棒9で水路構成体5’を形成し、該格子状に形成された水路構成体5’を雪室の床面に配置することで、各横棒8及び縦棒9によって生じる空間により水路が形成されるとともに、各横棒8及び縦棒9に接する雪島の縁部に沿って雪が溶け各横棒8及び縦棒9の回りに水路を形成することができる。
また、上記において、各縦方向の水路間の距離Lを均等として横方向の水路の最小本数を求め、求めた各縦方向の水路間の距離Lが式(7))の条件を満たすか否かを検証したが、他の方法として、横方向の水路mの本数を適宜設定し、その本数で求めた各縦方向の水路間の距離Lが前記条件を満たすか否かを検証し、前記条件が満たされていないときは、満たすまで横方向の水路の本数を増やして前記条件を満たすか否かを検証し、前記条件が満たされているときは、横方向の水路の本数を減らして前記条件を満たすか否かを検証し、この繰り返しにより、上流側の雪島と下流側の雪島との融解時間差が小さくなるよう横方向の水路の最小本数と各縦方向の水路間の距離を求めることもできる。
また、上流側の雪島と下流側の雪島の融解時間の差を小さくするには、nが4本で足りるが、雪室の床面が横方向に長細の場合には、nを4本以上にして冷熱出力を稼いでもよい。
【符号の説明】
【0026】
1:雪室
2:雪室の床面
3:供給口
4:取出口
5:水路網
5’:水路網構成体
6:横方向の水路
7:縦方向の水路
8:横棒
9:縦棒
10:伝熱面積
21、21a、21b、21c:本発明の雪島
22:従来の雪島
図1
図2
図3
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図5
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図9
図10