特許第6427468号(P6427468)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427468
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】コンクリートの充填方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 21/02 20060101AFI20181112BHJP
   E02B 7/00 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   E04G21/02 103Z
   E02B7/00 Z
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-120290(P2015-120290)
(22)【出願日】2015年6月15日
(65)【公開番号】特開2017-2663(P2017-2663A)
(43)【公開日】2017年1月5日
【審査請求日】2017年11月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100122781
【弁理士】
【氏名又は名称】近藤 寛
(72)【発明者】
【氏名】後閑 淳司
(72)【発明者】
【氏名】金戸 崇史
(72)【発明者】
【氏名】藤野 賢一
(72)【発明者】
【氏名】安田 和弘
(72)【発明者】
【氏名】坂田 昇
(72)【発明者】
【氏名】松本 孝矢
【審査官】 兼丸 弘道
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−151705(JP,A)
【文献】 特開2002−069981(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04G 21/00−21/10
E02B 5/00−7/18
E02B 8/00
E02B 8/06−8/08
E02C 1/00−5/02
E04G 9/00−19/00
E04G 25/00−25/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
背面に補鋼材が設けられた被覆構造物が、当該被覆構造物の前記背面側に充填される充填コンクリートの表面を覆うように前記被覆構造物の背面側に前記充填コンクリートを充填する方法であって、
前記被覆構造物の前記背面を上側にした状態で、前記被覆構造物を型枠として前記被覆構造物の前記背面側に前記充填コンクリートの一部である第1のコンクリートを打設する打設工程と、
前記打設工程で打設した前記第1のコンクリートが硬化した後に、前記背面が下側になるように前記被覆構造物を反転させ、前記被覆構造物を所定の箇所に据え付ける据付工程と、
前記据付工程で据え付けられた前記被覆構造物の前記背面側において、硬化した前記第1のコンクリートの下方に前記充填コンクリートの一部である第2のコンクリートを充填する充填工程と、
を含み、
前記被覆構造物には、空気抜き孔が設けられ、
前記充填工程中に、前記空気抜き孔からの前記第2のコンクリートの吹き出し状態により前記第2のコンクリートの充填状況を確認する、コンクリートの充填方法。
【請求項2】
前記第1のコンクリートは、前記第2のコンクリートよりも流動性が低いコンクリートである、請求項1に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項3】
前記被覆構造物は、ブロック毎に分けられており、
前記据付工程では、ブロック毎の前記被覆構造物同士を連結する、請求項1又は請求項2に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項4】
前記被覆構造物の前記背面には、アンカー筋が設けられ、
前記アンカー筋は、前記背面から前記補鋼材よりも突出している、請求項1〜請求項3の何れか一項に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項5】
前記被覆構造物の前記背面には、差筋が設けられる、請求項1〜請求項4の何れか一項に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項6】
前記据付工程では、既設コンクリートに設けられたベースプレート上に高さ調整用の架台を固定し、前記被覆構造物を前記架台に据え付ける、請求項1〜請求項の何れか一項に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項7】
前記既設コンクリートは、階段状に形成されており、
前記架台の高さが前記被覆構造物の表面が傾斜するように調整されている、請求項に記載のコンクリートの充填方法。
【請求項8】
前記被覆構造物は、ダムの洪水吐の減勢工に用いられる、請求項に記載のコンクリートの充填方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、整流板等の被覆構造物が充填コンクリートの表面を覆うように被覆構造物の背面側にコンクリートを充填する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、ダムの洪水吐に設けられる減勢工には、コンクリートの表面を覆う整流板が用いられる。整流板をコンクリートの表面に設置する場合、逆打ちでコンクリートを打設することにより、整流板の背面側(下側)にコンクリートを充填する。例えば、特許文献1〜特許文献4にコンクリートの逆打ち方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平6−240698号公報
【特許文献2】特開平8−144522号公報
【特許文献3】特開平9−85727号公報
【特許文献4】特開平11−141126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
減勢工等に用いられる整流板は、剛性を高めるために、背面側に狭い間隔で補鋼材が設けられている。そのため、高流動コンクリートを用いたとしても、逆打ちでは整流板の背面側にコンクリートを密実に充填することは困難であり、空隙が残ってしまう場合がある。整流板の背面に空隙があると、整流板の剛性が低下する。
【0005】
そこで、本発明は、充填コンクリートの表面を覆う被覆構造物の背面側の空隙の発生を抑制できるコンクリートの充填方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るコンクリートの充填方法は、背面に補鋼材が設けられた被覆構造物が、当該被覆構造物の背面側に充填される充填コンクリートの表面を覆うように被覆構造物の背面側に充填コンクリートを充填する方法であって、被覆構造物の背面を上側にした状態で、被覆構造物を型枠として被覆構造物の背面側に充填コンクリートの一部である第1のコンクリートを打設する打設工程と、打設工程で打設した第1のコンクリートが硬化した後に、背面が下側になるように被覆構造物を反転させ、被覆構造物を所定の箇所に据え付ける据付工程と、据付工程で据え付けられた被覆構造物の背面側において、硬化した第1のコンクリートの下方に充填コンクリートの一部である第2のコンクリートを充填する充填工程と、を含む。
【0007】
このコンクリートの充填方法では、被覆構造物の背面を上側にした状態でその背面側に第1のコンクリートを打設するので、補鋼材が設けられている背面側に充填コンクリートを密実に充填できる。そのため、このコンクリートの充填方法では、充填コンクリートの表面を覆う被覆構造物の背面側の空隙の発生を抑制できる。
【0008】
上記のコンクリートの充填方法では、第1のコンクリートを第2のコンクリートよりも流動性が低いコンクリートとしてもよい。流動性が低いコンクリートは、流動性が高いコンクリートよりも相対的に品質が高いので、確実に締固めを行うことによって背面に沿って第1のコンクリートが充填されている整流板の剛性を向上できる。
【0009】
上記のコンクリートの充填方法では、被覆構造物はブロック毎に分けられており、据付工程ではブロック毎の被覆構造物同士を連結する構成としてもよい。被覆構造物を広範囲に設ける場合でも、各ブロックの被覆構造物をそれぞれ反転させて、各ブロックの被覆構造物の背面側に第1のコンクリートをそれぞれ打設できる。
【0010】
上記のコンクリートの充填方法では、被覆構造物の背面にはアンカー筋が設けられ、アンカー筋は背面から補鋼材よりも突出する構成としてもよい。このアンカー筋により、被覆構造物の背面側に充填されている充填コンクリートの剥離を抑制できる。
【0011】
上記のコンクリートの充填方法では、被覆構造物の背面には差筋が設けられる構成としてもよい。この差筋により、被覆構造物の背面側に充填されている充填コンクリートの剥離を抑制できる。
【0012】
上記のコンクリートの充填方法では、被覆構造物には空気抜き孔が設けられ、充填工程中に空気抜き孔からの第2のコンクリートの吹き出し状態により第2のコンクリートの充填状況を確認する構成としてもよい。これにより、逆打ちによる第2のコンクリートが十分に充填されているか否かを判断できる。
【0013】
上記のコンクリートの充填方法では、据付工程では既設コンクリートに設けられたベースプレート上に高さ調整用の架台を固定し、被覆構造物を架台に据え付ける構成としてもよい。このコンクリートの充填方法では、既設コンクリートは階段状に形成されており、架台の高さが被覆構造物の表面が傾斜するように調整されている。このコンクリートの充填方法は、ダムの洪水吐に設けられる減勢工の整流板等の被覆構造物に用いられもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、充填コンクリートの表面を覆う被覆構造物の背面側の空隙の発生を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る整流板が適用される減勢工の一例を模式的に示す図であり、(a)は側断面図であり、(b)は平面図であり、(c)は(b)の平面図のA−A線に沿った断面図である。
図2】本実施形態に係る整流板の一例を示す図であり、(a)は平面図であり、(b)は(a)の平面図のB−B線に沿った断面図であり、(c)は(a)の平面図のC−C線に沿った断面図である。
図3】コンクリートの配合例を示す図である。
図4】本実施形態に係るコンクリートの充填方法の流れを示すフローチャートである。
図5】(a)〜(f)は整流板の背面が上側になるように反転させる工程を模式的に示す図である。
図6】(a)〜(c)は反転させた状態の整流板の背面側にコンクリートを打設する工程を模式的に示す図である。
図7】(a)〜(c)は整流板を据え付け、コンクリートを充填する工程を模式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係るコンクリートの充填方法を説明する。なお、各図において同一又は相当する要素については同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
本実施形態は、ダムの洪水吐に設けられる減勢工に用いられる整流板(被覆構造物)の背面側に充填コンクリートを充填する方法に適用する。本実施形態に係る整流板は、剛性を高めるための補鋼材と、充填コンクリートの剥離を抑制するためのジベル(U型のアンカー筋)及び差筋とが背面に設けられたものである。
【0018】
なお、ダムには、余剰の水を放流する放流設備が設けられており、特に、洪水時にダムの安全性を確保する目的で洪水吐が設けられている。洪水時にダムから放流される水のエネルギーは非常に大きいので、洪水吐には水勢を抑制する減勢工が設けられている。減勢工には、この大きな水のエネルギーが付加されると共に、濁流によって上流側から流される流木や転石等が衝突する場合ある。このため、減勢工の表面がコンクリートだと、放流時に減勢工が損傷する虞がある。そこで、減勢工を形成するコンクリートの表面に、剛性の高い整流板が設けられている。
【0019】
図1を参照して、減勢工1の一例について説明する。図1は、本実施形態に係る整流板10が適用される減勢工1の一例を模式的に示す図であり、(a)は側断面図であり、(b)は平面図(減勢工の一部分)であり、(c)は(b)の平面図のA−A線に沿った断面図である。図1には、ダムから放流される水の流れる方向を矢印Dで示している。
【0020】
減勢工1は、図1(a)に示すように、高低差があり、下流側ほど低い。減勢工1は、図1(c)に示すように、断面が略U字形状であり、底部1aとその両端部の側部1b,1bとからなる。この底部1a及び側部1b,1bの各表面には、ブロック毎に分けられた多数個の整流板10が配設されている。整流板10は、水の流れる方向Dに沿って複数個配列されると共に、水の流れる方向Dに略直交する幅方向Eに沿って複数個配列されている。なお、この減勢工1の例では図1(b)に示すように上流側と下流側とが同じ幅であるが、減勢工の幅が変化するものでもよく、例えば、下流側ほど狭い幅でもよい。また、この減勢工1の例では図1(c)に示すように底部1a全体が同じ高さであるが、底部に段差があってもよい。
【0021】
減勢工1の底部1aは、既設コンクリート20上に高さ調整用の架台30が多数個設けられ、各架台30に整流板10がそれぞれ据え付けられている。減勢工1では、各箇所に配設された整流板10の高さ(特に、表面の高さ)が下流側ほど低くなるように、各架台30の高さが調整されている。減勢工1は、据え付けられた整流板10の背面側に充填コンクリート40が充填されている。本実施形態では、この充填コンクリート40の充填方法について説明する。
【0022】
図2を参照して、整流板10の一例について説明する。図2は、本実施形態に係る整流板10の一例を示す図であり、(a)は背面側から見た平面図であり、(b)は(a)の平面図のB−B線に沿った断面図であり、(c)は(a)の平面図のC−C線に沿った断面図である。
【0023】
整流板10は、本体11と、補鋼材12と、ジベル13と、差筋14と、支柱15と、空気抜き孔16と、吊りピース17と、有している。本体11は、全ての整流板10で同じ大きさかつ同じ形状でもよいし、整流板10の配置される箇所に応じて大きさ又は/及び形状が異なっていてもよい。整流板10に設けられる補鋼材12、ジベル13、差筋14、支柱15の各個数は、本体11の大きさ等に応じて適宜設定される。
【0024】
本体11は、減勢工1の底部1a又は側部1bの表面となる部分でありかつ充填コンクリート40の表面を覆う部分である。本体11は、平板状である。本体11の形状は、例えば、略長方形状であり、長手方向が減勢工1の幅方向Eに沿う方向である。本体11の大きさは、反転作業等を考慮して適宜決められ、例えば、長手方向の長さが数mである。なお、本体11は、水が流れ易いように、表面11a側が若干突き出ている曲面形状でもよい。
【0025】
補鋼材12は、本体11の剛性を高めるためのリブ状の部材である。補鋼材12は、本体11の背面11bに立設されている。補鋼材12は、平板状である。補鋼材12の形状は、例えば、長尺の略長方形状である。補鋼材12は、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて複数個設けられると共に、長手方向に略直交する方向に所定の間隔をあけて複数個設けられている。この各間隔は、構造計算等により適宜決められ、例えば、数10cmである。
【0026】
なお、補鋼材12のうち4つの端部に配置される補鋼材12A,12B,12C,12Dは、整流板10の本体11の背面11b側に充填コンクリート40(特に、普通コンクリート41)を打設する際の型枠になる。図2に示す例の場合、補鋼材12Aは、本体11の短辺側の一端部に配置されている。補鋼材12Bは、本体11の短辺側の他端部から所定の間隔をあけて配置されている。補鋼材12Cは、本体11の長辺側の一端部に配置されている。補鋼材12Dは、本体11の長辺側の他端部から所定の間隔をあけて配置されている。この型枠となる補鋼材12A〜12Dの背面11bからの高さは、補鋼材12A〜12D以外の補鋼材12の高さよりも若干高い高さとなっている。
【0027】
ジベル13は、整流板10から充填コンクリート40が剥離するのを抑制するため部材である。ジベル13は、本体11の背面11bに立設されている。ジベル13は、U型のアンカー筋である。ジベル13は、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて複数個設けられると共に、長手方向に略直交する方向に所定の間隔をあけて複数個設けられている。この各間隔は、構造計算等により適宜決められ、例えば、数10cmである。図2に示す例の場合、ジベル13は、長手方向に沿って配置されている補鋼材12に接するように配置されている。
【0028】
差筋14は、整流板10から充填コンクリート40が剥離するのを抑制するため部材である。差筋14は、補鋼材12Cと補鋼材12Dとの間に設けられている。差筋14は、本体11の背面11bから所定の間隔をあけて、背面11bに対して略平行に配置されている。差筋14は、例えば、棒状である。差筋14は、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて複数個設けられている。この各間隔は、構造計算等により適宜決められ、例えば、数10cmである。図2に示す例の場合、差筋14は、U型のジベル13の一方の軸部13aと他方の軸部13bとの間を挿通するように設けられている。また、差筋14は、本体11の長手方向に隣り合うジベル13とジベル13との間にも設けられている。
【0029】
支柱15は、本体11を支える部材であり、架台30上に載置される。支柱15は、本体11の背面11bに立設されている。支柱15は、少なくとも4本設けられ、図2に示す例の場合には6本設けられている。支柱15は、例えば、四角柱状である。支柱15の一端部には、架台30と接合するために、フランジ15aが設けられている。フランジ15aには、ボルト及びナットを用いて架台30に固定するために、ボルトが挿通される貫通孔が複数個形成されている。支柱15は、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて複数個設けられると共に、長手方向に略直交する方向に所定の間隔をあけて複数個設けられている。この各間隔は、構造計算等により適宜決められ、例えば、数10cm〜1.数mである。
【0030】
空気抜き孔16は、整流板10の背面11b側に充填コンクリート40(特に、高流動コンクリート42)を充填する際に空気を抜くための孔である。また、空気抜き孔16は、高流動コンクリート42の充填状況を確認するための孔である。空気抜き孔16は、本体11に形成されている。空気抜き孔16は、本体11の表面11aから背面11bまでを貫通する貫通孔である。空気抜き孔16は、本体11において端部の補鋼材12の外側に設けられている。図2に示す例の場合、空気抜き孔16は、本体11の短辺側の補鋼材12Bよりも外側と、本体11の長辺側の補鋼材12Dよりも外側とに設けられている。なお、空気抜き孔16は、全ての整流板10に設けてもよいし、一部の整流板10にのみ設けてもよい。
【0031】
吊りピース17は、整流板10の玉掛け作業を行うときにワイヤーロープの先端のフックを掛けるための部材である。吊りピース17は、複数個設けられ、図2に示す例の場合、本体11の背面11b側に4個設けられると共に表面11a側にも2個設けられている。吊りピース17の背面11bには、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて2個設けられると共に長手方向に略直交する方向に所定の間隔をあけて2個設けられている。吊りピース17の表面11aの一端側には、本体11の長手方向に所定の間隔をあけて2個設けられている。
【0032】
なお、整流板10の本体11は、剛性が高い金属材料で形成され、例えば、ステンレスクラッド鋼で形成されている。整流板10の本体11以外の各部材も、剛性の高い金属材料で形成され、例えば、鋼材で形成されている。
【0033】
既設コンクリート20について説明する。既設コンクリート20は、整流板10、架台30、充填コンクリート40が設けられる前に設けられている。既設コンクリート20は、図1(a)に示すように、階段状であり、下流側ほど低い。既設コンクリート20上には、整流板10が配置される位置に応じて架台30が設置される。既設コンクリート20の表面には、架台30を設置するために、図7に示すようにベースプレート50が設けられている。ベースプレート50は、平板状である。ベースプレート50は、剛性が高い金属材料で形成されている。ベースプレート50は、アンカーボルト等を用いて既設コンクリート20に固定されている。
【0034】
架台30について説明する。架台30は、整流板10を支える台であり、特に、整流板10(特に、本体11の表面11a)の高さ位置を調整するための台である。架台30は、例えば、支柱と横材とからなる。架台30の支柱は、整流板10の支柱15に対応した位置にそれぞれ配置されている。架台30の支柱の一端部には、整流板10の支柱15と同様に、貫通孔が複数個形成されたフランジが設けられている。架台30の横材は、隣り合う支柱と支柱とを連結し、支柱を略鉛直方向に沿って保持する。横材は、略水平方向に沿って設けられてもよいし、水平方向から所定角度傾斜させた方向に沿って設けられてもよい。架台30は、高さを微調整することが可能である。
【0035】
充填コンクリート40について説明する。充填コンクリート40は、整流板10と既設コンクリート20との間に充填されるコンクリートである。この充填される充填コンクリート40には、普通コンクリート41(第1のコンクリート)と高流動コンクリート42(第2のコンクリート)とがある。普通コンクリート41は、一般的に構造物用に用いられる流動性が低いコンクリートであり、固練りである。普通コンクリート41は、整流板10の本体11の背面11b側の補鋼材12A〜12Dに囲まれる部分(型枠内)に充填される。高流動コンクリート42は、流動性が高いコンクリートである。高流動コンクリート42は、普通コンクリート41が充填される部分以外の整流板10と既設コンクリート20との間の部分に充填される。この全ての部分に高流動コンクリート42を充填するのでなく、既設コンクリート20側(例えば、整流板10のジベル13よりも下側)の一部分には高流動コンクリート42よりも流動性が低い普通コンクリートを充填してもよい。図3には、普通コンクリート41と高流動コンクリート42の各配合の一例を示している。
【0036】
なお、硬化前のコンクリートの流動性は、例えば、JIS A1101(2005)で定められたコンクリートのスランプ試験により求められるスランプやスランプフローで表される。スランプの値が大きいほど、流動性が高いコンクリートである。また、スランプフローの値が大きいほど、流動性が高いコンクリートである。本実施形態で用いられる普通コンクリート41は、例えば、スランプが8cmである。また、本実施形態で用いられる高流動コンクリート42は、例えば、スランプフローが65cmである。一般的に、普通コンクリートは、高流動コンクリートと比較すると、低コストで高品質である。品質の高いコンクリートほど、強度、耐久性等が優れている。
【0037】
図4図7を参照して、整流板10と既設コンクリート20との間に充填コンクリート40を充填する方法について説明する。図4は、本実施形態に係る充填コンクリート40の充填方法の流れを示すフローチャートである。図5の(a)〜(f)は、整流板10の背面11bが上側になるように反転させる工程を模式的に示す図である。図6の(a)〜(c)は、反転させた状態の整流板10の背面11b側に普通コンクリート41を打設する工程を模式的に示す図である。図7の(a)〜(c)は、整流板10を据え付け、高流動コンクリート42を充填する工程を模式的に示す図である。
【0038】
まず、トラックで整流板10が搬入されると、トラックから整流板10を荷下しする。この際、整流板10は、支柱15で立った状態になるように、本体11の表面11aが上側になるように荷下ろされる。そして、整流板10を背面11bが上側になるように反転する(S1)。この反転させる方法の一例を、図5に沿って説明する。この例では、吊り具を用いた玉掛け作業で整流板10を反転させる。
【0039】
まず、図5(a)に示すように、主ワイヤーロープ60の先端の主フック60aを補鋼材12C側の吊りピース17に取り付けると共に、副ワイヤーロープ61の先端の副フック61aを補鋼材12D側の吊りピース17に取り付ける。そして、クレーン等により主ワイヤーロープ60及び副ワイヤーロープ61を巻き上げ、整流板10を地面Gから吊り上げる(地切りする)。次に、図5(b)に示すように、クレーン等により補鋼材12C側の主ワイヤーロープ60を巻き上げ、整流板10の本体11を徐々に傾ける。次に、図5(c)に示すように、本体11が略鉛直方向になるまで整流板10を立て起こし、補鋼材12D側の副フック61aを取り外す。次に、図5(d)に示すように、人力等により整流板10を略180°回転し、副フック61aを補鋼材12D側の吊りピース17に取り付ける。次に、図5(e)に示すように、クレーン等により主ワイヤーロープ60を巻き下げると共に、副ワイヤーロープ61を巻き上げる。この巻き下げ及び巻き上げは、整流板10の本体11が地面Gと略平行になるまで行う。この整流板10の下方において、4個以上の盤木70が地面Gに設置される。本体11が地面Gと略平行になると、図5(f)に示すように、本体11の表面11aが盤木70に接触するまで主ワイヤーロープ60及び副ワイヤーロープ61を巻き下げ、整流板10を盤木70上に仮置きする。そして、主フック60a及び副フック61aを吊りピース17からそれぞれ取り外す。これにより、整流板10が反転され、本体11の表面11aが下側になり、背面11bが上側になる。
【0040】
整流板10を反転後、整流板10の本体11の背面11b側に普通コンクリート41を打設する(S2:打設工程)。打設前には、整流板10の普通コンクリート41が打設される箇所を掃除する。そして、図6(a)に示すように、整流板10の端部に設けられる補鋼材12A,12B,12C,12Dを型枠として、コンクリートポンプ車等に繋がるホース80から普通コンクリート41を流し込む。この際、バイブレーター等で適度な振動を与えることにより、内部の気泡を除去してコンクリートの密度を高めると共に普通コンクリート41を型枠内の隅々まで行き渡らせ、普通コンクリート41を十分に締固める。このとき、作業者は、整流板10の背面11b側を目視して確認しながら締固めを行うことができる。これにより、固練りの普通コンクリート41でも、補鋼材12及び差筋14が狭い間隔で設けられた整流板10の背面11b側の型枠内に密実に充填できる。普通コンクリート41は、図6(b)に示すように、型枠となる補鋼材12A,12B,12C,12Dの高さ程度まで充填される。したがって、補鋼材12A,12B,12C,12D以外の補鋼材12及び全ての差筋14は、普通コンクリート41に埋もれた状態になる。なお、本体11の背面11bにおける空気抜き孔16が設けられる補鋼材12B,12Dよりも外側の部分については、普通コンクリート41は打設されない。
【0041】
普通コンクリート41を打設(充填)後、図6(b)に示すように、整流板10の本体11の背面11b側を上側にした状態で、普通コンクリート41が整流板10から剥離しない程度まで普通コンクリート41を硬化させる(S3)。この際、普通コンクリート41の硬化が適切に進むように養生する。この硬化に要する期間は、普通コンクリート41の配合材料等により適宜決められ、例えば、数日である。
【0042】
普通コンクリート41が硬化すると、図6(c)に示すように、整流板10を本体11の表面11aが上側になるように反転し、整流板10を地面Gに置く(S4)。この反転させる方法としては、例えば、上記した図5に沿って説明した方法の逆の手順で反転させる。この際、本体11の背面11bが下側になるが、充填された普通コンクリート41は整流板10から剥離しない。
【0043】
次に、減勢工1の側部1bの各箇所に整流板10をそれぞれ据え付け、隣り合う整流板10同士を溶接して接合(連結)する(S5:据付工程)。また、減勢工1の底部1aの下流側の各箇所に整流板10をそれぞれ据え付け、隣り合う整流板10同士を溶接して接合(連結)する(S6:据付工程)。整流板10を据え付ける前に、図7(a)に示すように、既設コンクリート20の表面Sには、架台30の支柱30aが配置される各箇所にベースプレート50が予め固定されている。ベースプレート50には、架台30と連結するための連結板(図示せず)が溶接されている。架台30は、ベースプレート50上に仮置きされている。架台30の対向する横材30b間には、H形鋼90がブルマン(図示せず)で取り付けられている。H形鋼90は、ジャッキ91で高さ調整する際に反力を受けるための部材である。
【0044】
整流板10を据え付けるときには、ワイヤーロープ62の先端のフック62aを補鋼材12D側の吊りピース17に取り付けると共に、ワイヤーロープ63の先端のフック63aを表面11aの補鋼材12C側の吊りピース17に取り付ける。そして、クレーン等によりワイヤーロープ62及びワイヤーロープ63を巻き上げ、整流板10を架台30よりも上方に吊り上げる。さらに、整流板10の各支柱15の位置を架台30の各支柱30aの位置にそれぞれ位置合わせし、整流板10を架台30上に載置する。そして、ボルトとナットを用いて、架台30の支柱30aに整流板10の支柱15を固定する。
【0045】
図7(b)に示すように、横材30bの下側(特に、H形鋼90が配置される箇所の下側)にはジャッキ91がそれぞれ設置されている。そして、整流板10の高さ位置(特に、本体11の表面11aの高さ位置)が所定の高さ位置になるように、ジャッキ91で架台30の高さを調整する。この高さ調整では、下流側に配置される整流板10ほど本体11の表面11aが低くなるように高さ調整されると共に、整流板10毎に本体11の表面11aが下流側ほど低く傾斜するように高さ調整される。高さ調整が終了すると、ベースプレート50の連結板(ハ次形状の部材)とこの連結板に接するように配置されている支柱30aのL形アングル材(図示せず)とを溶接し、架台30を固定する。また、隣り合う一方の整流板10の本体11の端部と他方の整流板10の本体11の端部とを溶接し、隣り合う整流板10同士を接合して連結する。そして、フック62a及びフック63aを吊りピース17からそれぞれ取り外す。この作業が、多数個の整流板10に対して順次行われる。
【0046】
多数個の整流板10が所定の箇所にそれぞれ据え付けられると、この多数個の整流板10の背面11b側(特に、硬化した普通コンクリート41の下方)に高流動コンクリート42を充填する(S7:充填工程)。図7(c)に示すように、据え付けられた多数個の整流板10と既設コンクリート20との間に、コンクリートポンプ車等に繋がるホース81から高流動コンクリート42を流し込んで充填する。この際、各整流板10の本体11の端部に設けられている全ての空気抜き孔16から高流動コンクリート42が吹き出すことで、高流動コンクリート42が十分に充填されたか否かを確認することができる。なお、整流板10の背面11bの補鋼材12A、12B、12C、12Dに囲まれる部分(型枠内)には普通コンクリート41が既に充填されているので、高流動コンクリート42を充填する必要はない。
【0047】
底部1aの下流側の作業が終了すると、下流側と同様の作業により、底部1aの上流側の各箇所に配置される架台30上に整流板10をそれぞれ据え付け、隣り合う整流板10同士を溶接して接合(連結)する(S8:据付工程)。そして、下流側と同様の作業により、上流側に据え付けられた多数個の整流板10の背面11b側(特に、硬化した普通コンクリート41の下方)に高流動コンクリート42を充填する(S9:充填工程)。
【0048】
この整流板10の背面11b(下側)へのコンクリートの充填方法によれば、逆打ちではなく、整流板10の背面11bを上側にした状態で背面11b側に普通コンクリート41を打設(充填)するので、補鋼材12、ジベル13及び差筋14が狭い間隔で設けられている背面11b側にコンクリートを密実に充填できる。そのため、この充填方法では、充填コンクリート40の表面を覆う整流板10の背面11b側(特に、本体11に沿った箇所)の空隙の発生を抑制できる。その結果、整流板10に対して大きな水のエネルギーが付加されたり、流木や転石等が衝突した場合でも、整流板10の損傷を抑制できる。
【0049】
また、この充填方法によれば、整流板10の本体11の背面11bに沿って品質の高い普通コンクリート41が充填されるので、整流板10の剛性を向上できる。また、この充填方法によれば、整流板10をブロック毎に分けているので、各ブロックの整流板10をそれぞれ反転させて、各ブロックの整流板10の背面11b側に普通コンクリート41をそれぞれ目視確認しながら確実に締固めて打設できる。
【0050】
また、整流板10の本体11の背面11bには狭い間隔で補鋼材12が設けられているので、整流板10の本体11の剛性を向上できる。また、整流板10の本体11の背面11bには狭い間隔で補鋼材12よりも突出したジベル13が設けられているので、整流板10の背面11b側に充填されている普通コンクリート41及び高流動コンクリート42の剥離を抑制できる。さらに、整流板10の本体11の背面11bには狭い間隔で差筋14が設けられているので、整流板10の背面11b側に充填されている普通コンクリート41の剥離を抑制できる。また、整流板10には空気抜き孔16が設けられ、逆打ちによる高流動コンクリート42が十分に充填されているか否かを判断できる。
【0051】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態に限定されることなく様々な形態で実施される。
【0052】
例えば、上記実施形態ではダムの洪水吐の減勢工に適用したが、他の用途にも適用でき、例えば、ダムの放水管、取水管(特に、断面が収縮して水圧が大きくなる箇所)に同様に適用でき、また、ダム以外にもコンクリートとその表面を覆う被覆構造物を組み合わせた合成構造体(例えば、橋梁の桁やシールドのセグメント、鋼殻ブロック、建築の床部材等)にも適用できる。
【0053】
また、上記実施形態ではブロック毎に整流板が分けられており、各ブロックの整流板同士を連結し、多数個の整流板(被覆構造物)の背面側にコンクリートを充填する場合に適用したが、所定の箇所に据え付けられた一つの被覆構造物の背面側にコンクリートを充填する場合に適用してもよい。
【0054】
また、上記実施形態では整流板を高さ調整の架台に据え付け、整流板の背面側の架台も含めた部分にコンクリートを充填する場合に適用したが、整流板を既存コンクリート等に直接据え付けて、その整流板の背面側にコンクリートを充填する場合に適用してもよい。
【0055】
また、上記実施形態では補鋼材の他にジベル(U型のアンカー筋)、差筋が設けられる整流板としたが、ジベル又は/及び差筋が設けられていない整流板にも適用してもよい。
【0056】
また、上記実施形態では減勢工の水の流れる方向において上流側と下流側とに分けて据付工程及び充填工程を行う構成としたが、このように分けないで据付工程及び充填工程を行ってもよいし、また、3段階以上に分けて据付工程及び充填工程を行ってもよい。また、減勢工の幅方向についても複数に分けて据付工程及び充填工程を行ってもよい。
【0057】
また、上記実施形態では既設コンクリートと整流板との間にコンクリートを充填する場合に適用したが、既設コンクリート以外の既設構造物と整流板との間にコンクリートを充填する場合に適用してもよいし、あるいは、地面と整流板との間にコンクリートを充填する場合に適用してもよい。
【符号の説明】
【0058】
1…減勢工、1a…底部、1b…側部、10…整流板、11…本体、11a…表面、11b…背面、12…補鋼材、13…ジベル、14…差筋、15…支柱、15a…フランジ、16…空気抜き孔、17…吊りピース、20…既設コンクリート、30…架台、30a…支柱、30b…横材、40…充填コンクリート、41…普通コンクリート、42…高流動コンクリート、50…ベースプレート、60…主ワイヤーロープ、60a…主フック、61…副ワイヤーロープ、61a…副フック、62,63…ワイヤーロープ、62a,63a…フック、70…盤木、80,81…ホース、90…H形鋼、91…ジャッキ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7