(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されているような油圧制御装置では、第2オイルポンプは、油圧作動部を作動させるために必要な動力のうち、想定される中で最大の動力を出力可能に構成する必要があり、該第2オイルポンプを駆動させる電動機として比較的大型の電動機を用いる必要がある。このため、電動機に作用する負荷が小さいときにおいても、電動機が大型であることで電気抵抗が大きくなりエネルギー効率が悪い。なお、オイルポンプを駆動するための駆動源として電動機を用いる場合に限らず、他の駆動源を用いる場合においても、第2オイルポンプが大型化することでエネルギー効率が悪くなることは同様である。
【0006】
本発明の目的は、オイルポンプを効率よく駆動できる油圧回路及びその制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、
油圧が供給される被供給部(例えば、後述の実施形態での被供給部3)と、前記油圧よりも油圧の高い高油圧が供給される油圧作動部(例えば、後述の実施形態での油圧作動部2)とに対し、油圧を供給する油圧回路(例えば、後述の実施形態での油圧回路1)であって、
前記油圧作動部は、前記高油圧が供給されることで幅を変更可能な入力側プーリ(例えば、後述の実施形態での入力側プーリDr)及び出力側プーリ(例えば、後述の実施形態での出力側プーリDn)を有し、変速比を無段階に調整可能なベルト式の無段変速機(例えば、後述の実施形態での無段変速機T)と、
油圧の供給に応じて動力伝達経路を断接する断接機構(例えば、後述の実施形態でのクラッチC)と、を有し、
前記油圧回路は、
車両が走行するための駆動力を出力する駆動源(例えば、後述の実施形態での内燃機関ENG)によって駆動される機械式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での大容量オイルポンプPb)と、
電動機(例えば、後述の実施形態での電動機MOT)によって駆動され前記機械式オイルポンプよりも小容量のオイルポンプであって、前記機械式オイルポンプから供給された油圧を更に加圧して前記油圧作動部に供給する電動オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での小容量オイルポンプPs)と、
前記機械式オイルポンプから供給された油圧を、前記電動オイルポンプに供給する第1流路(例えば、後述の実施形態での第1流路L1)と、
前記電動オイルポンプから供給された油圧を、前記油圧作動部に供給する第2流路(例えば、後述の実施形態での第2流路L2)と、
前記機械式オイルポンプから供給された油圧を前記電動オイルポンプを介さずに、前記油圧作動部に供給する第3流路(例えば、後述の実施形態での第3流路L3)と、
前記第2流路及び前記第3流路に接続され、前記機械式オイルポンプ又は前記電動オイルポンプから供給された油圧を前記断接機構に供給する第4流路(例えば、後述の実施形態での第11油路R11、第13油路R13)と、
前記第4流路に接続されるとともに、前記被供給部に接続される第5流路(例えば、後述の実施形態での第10油路R10)と、
前記機械式オイルポンプと前記第1流路との間に設けられたライン圧調整弁(例えば、後述の実施形態での第9圧力制御弁30)と、
前記第2流路又は前記第3流路のライン圧を受けて、作動油を前記入力側プーリに給排する制御を行う第1シフト制御弁(例えば、後述の実施形態での第6圧力制御弁16)と、
前記第2流路又は前記第3流路の前記ライン圧を受けて、作動油を前記出力側プーリに給排する制御を行う第2シフト制御弁(例えば、後述の実施形態での第7圧力制御弁17)と、を備え、
前記ライン圧調整弁は、
スプール(例えば、後述の実施形態での第1スプール31、第2スプール32)と、
前記機械式オイルポンプからの油圧が供給される第1ポート(例えば、後述の実施形態での第1ポート30a)と、
前記第1ポートと常に連通し、前記第1流路に接続される第2ポート(例えば、後述の実施形態での第2ポート30b)と、
潤滑油路(例えば、後述の実施形態での第12油路R12)を介して前記被供給部に接続される第3ポート(例えば、後述の実施形態での第3ポート30c)と、を備え、
前記機械式オイルポンプの作動時に前記第1ポート及び前記第2ポートを前記第3ポートに連通させて、前記機械式オイルポンプから供給された油圧を前記潤滑油路を介して前記被供給部に供給可能に構成され、
前記第5流路には、前記第5流路と前記被供給部との連通を制御可能な第1電磁弁(例えば、後述の実施形態での第1圧力制御弁11)が設けられている。
【0008】
請求項2に記載の発明は、
油圧が供給される被供給部(例えば、後述の実施形態での被供給部3)と、前記油圧よりも油圧の高い高油圧が供給される油圧作動部(例えば、後述の実施形態での油圧作動部2)とに対し、油圧を供給する油圧回路(例えば、後述の実施形態での油圧回路1)の制御装置(例えば、後述の実施形態でのマネジメントECU125)であって、
前記油圧作動部は、前記高油圧が供給されることで幅を変更可能な入力側プーリ(例えば、後述の実施形態での入力側プーリDr)及び出力側プーリ(例えば、後述の実施形態での出力側プーリDn)を有し、変速比を無段階に調整可能なベルト式の無段変速機(例えば、後述の実施形態での無段変速機T)と、
油圧の供給に応じて動力伝達経路を断接する断接機構(例えば、後述の実施形態でのクラッチC)と、を有し、
前記油圧回路は、
車両が走行するための駆動力を出力する駆動源(例えば、後述の実施形態での内燃機関ENG)によって駆動される機械式オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での大容量オイルポンプPb)と、
電動機(例えば、後述の実施形態での電動機MOT)によって駆動され前記機械式オイルポンプよりも小容量のオイルポンプであって、前記機械式オイルポンプから供給された油圧を更に加圧して前記油圧作動部に供給する電動オイルポンプ(例えば、後述の実施形態での小容量オイルポンプPs)と、
前記機械式オイルポンプから供給された油圧を、前記電動オイルポンプに供給する第1流路(例えば、後述の実施形態での第1流路L1)と、
前記電動オイルポンプから供給された油圧を、前記油圧作動部に供給する第2流路(例えば、後述の実施形態での第2流路L2)と、
前記機械式オイルポンプから供給された油圧を前記電動オイルポンプを介さずに、前記油圧作動部に供給する第3流路(例えば、後述の実施形態での第3流路L3)と、
前記第2流路及び前記第3流路に接続され、前記機械式オイルポンプ又は前記電動オイルポンプから供給された油圧を前記断接機構に供給する第4流路(例えば、後述の実施形態での第11油路R11、第13油路R13)と、
前記第4流路に接続されるとともに、前記被供給部に接続される第5流路(例えば、後述の実施形態での第10油路R10)と、
前記機械式オイルポンプと前記第1流路との間に設けられたライン圧調整弁(例えば、後述の実施形態での第9圧力制御弁30)と、
前記第2流路又は前記第3流路のライン圧を受けて、作動油を前記入力側プーリに給排する制御を行う第1シフト制御弁(例えば、後述の実施形態での第6圧力制御弁16)と、
前記第2流路又は前記第3流路の前記ライン圧を受けて、作動油を前記出力側プーリに給排する制御を行う第2シフト制御弁(例えば、後述の実施形態での第7圧力制御弁17)と、を備え、
前記ライン圧調整弁は、
スプール(例えば、後述の実施形態での第1スプール31、第2スプール32)と、
前記機械式オイルポンプからの油圧が供給される第1ポート(例えば、後述の実施形態での第1ポート30a)と、
前記第1ポートと常に連通し、前記第1流路に接続される第2ポート(例えば、後述の実施形態での第2ポート30b)と、
潤滑油路(例えば、後述の実施形態での第12油路R12)を介して前記被供給部に接続される第3ポート(例えば、後述の実施形態での第3ポート30c)と、を備え、
前記機械式オイルポンプの作動時に前記第1ポート及び前記第2ポートを前記第3ポートに連通させて、前記機械式オイルポンプから供給された油圧を前記潤滑油路を介して前記被供給部に供給可能に構成され、
前記第5流路には、前記第5流路と前記被供給部との連通を制御可能な第1電磁弁(例えば、後述の実施形態での第1圧力制御弁11)が設けられ、
前記制御装置は、前記駆動源の作動は停止しているが前記車両が走行しているとき、前記断接機構を開放状態とし、且つ、前記被供給部には前記第1電磁弁によって連通した前記第5流路を介して油圧が供給されるよう制御する。
【0009】
請求項3に記載の発明では、請求項2に記載の発明において、
前記制御装置は、前記車両が走行中に前記駆動源の作動を停止するとき、前記断接機構を開放した後、前記第5流路と前記被供給部とが連通するよう前記第1電磁弁を制御する。
【0010】
請求項4に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明において、
前記制御装置は、前記駆動源の作動が停止した状態で前記車両が走行しているときにアクセルペダルが踏まれると、前記第1電磁弁を制御して前記第5流路と前記被供給部との連通を絶った後、前記断接機構を締結する。
【0011】
請求項5に記載の発明は、請求項2又は3に記載の発明において、
前記制御装置は、前記駆動源の作動が停止した状態で前記車両が走行しているときにブレーキペダルが踏まれると、前記第5流路と前記被供給部との連通を絶つよう前記第1電磁弁を制御するとき又は前記第1電磁弁を制御して前記連通を絶った後、前記断接機構を締結する。
【0012】
請求項6に記載の発明は、請求項5に記載の発明において、
前記制御装置は、前記断接機構を締結した状態で、前記車両の駆動輪(例えば、後述の実施形態での駆動輪129)からの駆動力によって発電機(例えば、後述の実施形態での発電機GEN)で発電する。
【発明の効果】
【0013】
請求項1の発明によれば、大容量の機械式オイルポンプから出力された油圧が小容量の電動オイルポンプに供給される。このため、電動オイルポンプは、機械式オイルポンプから出力した油圧に対して不足分だけ圧力を増加させるだけで足り、従来と比べて、電動オイルポンプがオイルに加えるべき圧力が減少する。このため、電動オイルポンプでのエネルギー消費量を低減できる。
【0014】
また、油圧作動部に大流量のオイルを供給する場合などオイルポンプの駆動に際して大きな動力が必要とされる場合においては、電動オイルポンプを用いずに、機械式オイルポンプから油圧作動部に高油圧を直接供給した方が、電動オイルポンプを用いる場合に比べて各オイルポンプを駆動するための動力の総和が少なくなる場合がある。
【0015】
このような場合においては、電動オイルポンプの作動を停止し、機械式オイルポンプから出力された油圧を、第3流路を介して油圧作動部に供給することで、電動オイルポンプに要求される最大出力可能な動力を低減することができる。このため、電動オイルポンプとして比較的小型な装置を用いることができ、ひいては、電動オイルポンプを駆動するときのエネルギー効率を向上できる。
【0016】
また、ライン圧調整弁は、機械式オイルポンプの作動時に第1ポート及び第2ポートを第3ポートに連通させて、機械式オイルポンプから供給された作動油を潤滑油路を介して被供給部に供給するので、被供給部を適切に潤滑することができる。一方、駆動源が停止した場合には、機械式オイルポンプの作動も停止するため、潤滑油路を介して被供給部に作動油を供給することはできない。しかしながら、第1電磁弁を制御することで、電動オイルポンプは下流側で第5流路を介して被供給部に連通するため、機械式オイルポンプの作動が停止しても電動オイルポンプは第5流路を介して被供給部に作動油を供給することができる。したがって、機械式オイルポンプの停止時であっても被供給部を適切に潤滑することができる。
【0017】
請求項2の発明によれば、車両走行中においても必要に応じ駆動源を停止させることができる(以下、「アイドリングストップ」という。このとき駆動源は駆動力の供給を停止するとともに、その回転も停止する)。路面の勾配や交通事情等によっては、車両の走行に駆動力を必要としない場合、すなわち惰性によって十分な走行の継続が可能な場合がある(以下、「コースティングダウン」という)。コースティングダウン時には、駆動源の引き摺りに伴う車両の無用な減速を避けるために、断接機構を開放し、駆動源を停止することが望ましいが、無段変速機は高速で回転を継続するため、被供給部に適切な潤滑が確保される必要がある。通常走行中の車両がコースティングダウンの状態となった際にアイドリングストップをした際には、駆動源の停止に伴って機械式オイルポンプの作動も停止するため、潤滑油路を介して被供給部に作動油を供給することはできないが、電動オイルポンプの下流側に位置する第5流路を介して被供給部に油圧を供給することができ、機械式オイルポンプの停止時であっても被供給部を適切に潤滑することができる。したがって、コースティングダウン時においてもアイドリングストップを行うことができ、コースティングダウン時のアイドリングストップを行うことによる燃費の向上を実現できる。
【0018】
請求項3の発明によれば、通常走行中の車両がコースティングダウンの状態となった際にアイドリングストップが行われるときは、断接機構を開放して無段変速機Tが伝達しなければならない負荷を低減した上で、第1電磁弁を制御して被供給部への作動油の供給を行うことができる。このように、被供給部に作動油を供給する際には、予め断接機構を開放することで必要なライン圧を低減し、第5流路を介して被供給部に作動油を供給することに伴いライン圧が低下しても無段変速機のベルトを保護することができる。
【0019】
請求項4及び5の発明によれば、アイドリングストップした状態でのコースティングダウン時にアクセルペダル又はブレーキペダルが踏まれた際には、第1電磁弁の制御によって第5流路と被供給部との連通を絶つことによってライン圧を確保した上で断接機構を締結するため、ライン圧の低下による無段変速機における側圧の低下を防止できる。これにより、無段変速機のベルトを保護することができる。
【0020】
請求項6の発明によれば、コースティングダウン時にブレーキペダルが踏まれた際には、断接機構が締結された後に発電機で発電することで回生エネルギーを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、本発明の一実施形態の油圧回路の制御装置を搭載した車両の内部構成を示すブロック図である。
図1に示す車両は、内燃機関ENGと、クラッチCと、無段変速機Tと、油圧回路1と、車速センサ121と、回転数センサ123と、マネジメントECU(MG ECU)125とを備える。なお、
図1中の点線の矢印は値データを示し、一点鎖線の矢印は指示内容を含む制御信号を示し、実線の矢印は油圧を示す。
【0024】
内燃機関ENGは、車両が走行するための駆動力を出力する。内燃機関ENGの出力は、クラッチC、無段変速機T及び駆動軸127を介して駆動輪129に伝達される。なお、内燃機関ENGの出力は、油圧回路1が有する後述の大容量オイルポンプPbを駆動するためにも利用される。
【0025】
クラッチCは、油圧回路1から供給される作動油の油圧に応じて、内燃機関ENGから駆動輪129までの駆動力の伝達経路を断接する。無段変速機Tは、油圧回路1から供給される作動油の油圧に応じて、変速比を無段階に調整可能な無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)である。油圧回路1は、マネジメントECU125からの制御に従い、作動油を介してクラッチC及び無段変速機Tに所定の油圧を供給する。油圧回路1の詳細については後述する。
【0026】
車速センサ121は、車両の走行速度(車速VP)を検出する。車速センサ121によって検出された車速VPを示す信号は、マネジメントECU125に送られる。回転数センサ123は、内燃機関ENGの回転数Neを検出する。回転数センサ123によって検出された回転数Neを示す信号は、マネジメントECU125に送られる。
【0027】
マネジメントECU125は、車速VPや内燃機関ENGの回転数Ne、アクセルペダルの開度(AP開度)、ブレーキペダルの踏力(BRK踏力)等に基づいて、内燃機関ENG及び油圧回路1の制御等を行う。マネジメントECU125の詳細については後述する。
【0028】
以下、油圧回路1について詳細に説明する。
【0029】
(1.油圧回路の概要)
図2を参照して、油圧回路1の概要について説明する。
【0030】
油圧回路1には、比較的高い油圧(高油圧)を供給すべき油圧作動部2(高圧系。例えば、
図1に示したクラッチC及び無段変速機T)へ油圧を供給すると共に、比較的低い油圧(低油圧)が供給されれば十分な被供給部3(低圧系。例えば、オイルによる潤滑又は冷却が必要な作動部材、又は低圧で作動するトルクコンバータのロックアップクラッチ)へ油圧を供給する回路が構成される。油圧回路1は、内燃機関ENGによって駆動される大容量オイルポンプPbと、電動機MOTによって駆動される小容量オイルポンプPsとを備える。
【0031】
大容量オイルポンプPbは、オイルタンク(図示省略)のオイルを汲み上げて圧力を加えることで、低油圧を低圧系の被供給部3に出力すると共に、油圧作動部2にも油圧を出力するオイルポンプである。小容量オイルポンプPsは、大容量オイルポンプPbの容量よりも小容量のオイルポンプである。小容量オイルポンプPsは、油圧作動部2を作動させる油圧を出力する。また、小容量オイルポンプPsは、供給された油圧を更に加圧して油圧作動部2に供給する。
【0032】
油圧回路1は、オイルが流れる流路のうち主な流路として、第1流路L1、第2流路L2、及び第3流路L3を備える。第1流路L1は、大容量オイルポンプPbと小容量オイルポンプPsとを接続する。第2流路L2は、小容量オイルポンプPsと油圧作動部2とを接続する。第3流路L3は、小容量オイルポンプPsを介さずに、大容量オイルポンプPbと油圧作動部2とを接続する流路である。被供給部3は、大容量オイルポンプPbと接続された流路を持つ。
【0033】
以上のように構成されることで、大容量オイルポンプPbから出力された油圧が小容量オイルポンプPsに供給される。このため、小容量オイルポンプPsがオイルに加えるべき圧力が減少する。このため、小容量オイルポンプPsを駆動するときのエネルギー消費量を低減できる。
【0034】
詳細には、小容量オイルポンプPsを駆動するために必要なトルクτ(Nm)は、
τ=ΔP・V/2π ・・・(1)
で与えられる。
【0035】
ここで、ΔP(MPa)は小容量オイルポンプPsが加圧する分の圧力、V(cc/rev)は小容量オイルポンプPsの理論上の押しのけ容積(ポンプ一回転当たりの吐出量)である。また、πは、円周率である。
【0036】
ここで、大容量オイルポンプPbで加圧された油圧をP_pbで表し、油圧作動部2に供給すべき油圧をP_lineで表すと、小容量オイルポンプPsを駆動するために必要なトルクτは、「(P_line−P_pb)・V/2π」となる。すなわち、小容量オイルポンプPsが直接オイルタンクから汲み上げたオイルを高油圧に加圧する場合に比べて、小容量オイルポンプPsを駆動するトルクτを、「P_pb・V/2π」だけ低減できる。従って、小容量オイルポンプPsを駆動するときのエネルギー消費量を低減できる。
【0037】
ここで、例えば、1つのオイルポンプのみを用いて、高圧系の油圧作動部及び低圧系の被供給部の双方に適切な油圧を供給するように構成する場合においては、油圧作動部に供給すべき油圧の最大値と、油圧作動部及び被供給部に供給すべきオイルの流量の最大量とを供給可能にオイルポンプ及びその駆動源を構成する必要がある。
【0038】
しかしながら、一般に、高圧系の油圧作動部は、その作動のために、高い油圧が必要とされるが、供給されるオイルの流量は少なくてもよい場合が多い。一方、低圧系の被供給部は、その潤滑又は冷却のためには、オイルを大流量で供給する必要がある場合がある。このとき、オイルポンプが1つだけである場合、低圧系の被供給部にも高油圧で大流量を供給するので、余剰な仕事をすることになり、オイルポンプのエネルギー消費量が大きくなる。
【0039】
一方、本実施形態のように大容量と小容量の2つのオイルポンプPb,Psを用いることで、低圧系の被供給部3に油圧を供給する場合には、小容量オイルポンプPsを用いずに、大容量オイルポンプPbがオイルタンクから汲み上げたオイルを低油圧となるように加圧すれば、低油圧で大流量のオイルを供給できる。このとき、大容量オイルポンプPbは、オイルを高油圧にする必要がないので、エネルギー消費量を小さくできる。
【0040】
また、高圧系の油圧作動部2に油圧を供給する場合には、大容量オイルポンプPbがオイルタンクから汲み上げたオイルを低油圧となるように加圧した後、小容量オイルポンプPsで更に加圧することで、高油圧を供給できる。このとき、更に加圧するときの小容量オイルポンプPsを駆動する電動機MOTは、比較的小型に構成できるので、電動機MOTのエネルギー効率を向上させることができる。
【0041】
(1−1.流量と仕事率との関係)
図3を参照して、油圧作動部2に供給するオイルの流量(以下、「高圧流量」という。横軸)Lと油圧回路1の仕事率Pw(縦軸)について説明する。
図3は、大容量オイルポンプPbのみを駆動したときの、供給する高圧流量Lの変化に対する、油圧回路1の仕事率(以下、「1ポンプ仕事率」という)Pwbの変化と、大容量オイルポンプPb及び小容量オイルポンプPsの両ポンプを駆動したときの、供給する高圧流量の変化に対する、油圧回路1の仕事率(以下、「2ポンプ仕事率」という)Pwsの変化とを示している。
【0042】
大容量オイルポンプPbおよび小容量オイルポンプPsを駆動する場合においては、大容量オイルポンプPbは被供給部3及び小容量オイルポンプPsに低油圧を供給し、小容量オイルポンプPsは大容量オイルポンプPbから供給されたオイルを更に加圧することで油圧作動部2に高油圧を供給する。
【0043】
高圧流量Lが所定流量αのときには、1ポンプ仕事率Pwbと2ポンプ仕事率Pwsとが等しい。また、高圧流量Lが所定流量αより少ないときには、1ポンプ仕事率Pwbよりも2ポンプ仕事率Pwsの方が小さい。これは、流量が小さいときに、大容量オイルポンプPbのみで高圧系の油圧作動部2と低圧系の被供給部3の双方に供給する場合には、低圧系の被供給部3にも高圧で大流量を供給するので、余剰な仕事をすることになり、エネルギー消費量が大きくなるからである。
【0044】
また、高圧流量Lが所定流量αより多いとき(例えば、急変速のためにプーリの幅を瞬時に変更する必要があり、油圧作動部2に供給する流量が大きく増加するとき)には、2ポンプ仕事率Pwsよりも1ポンプ仕事率Pwbの方が小さい。これは、小容量オイルポンプPsが大流量のオイルを供給しようとすることで、小容量オイルポンプPs及びそれを駆動する電動機MOTに大きな負荷が作用し、電動機MOTの電力損失が大きくなるからである。
【0045】
そこで、本実施形態の油圧回路1においては、高圧流量Lが所定流量αよりも少ないときには、
図2(a)に示されるように、内燃機関ENGの駆動力を利用して作動する大容量オイルポンプPbから供給された低圧のオイルが、第1流路L1を介して、電動機MOTによって作動する小容量オイルポンプPsにより高圧に加圧される。そして、小容量オイルポンプPsで高圧に加圧されたオイルは、第2流路L2を介して油圧作動部2に供給される。
【0046】
また、油圧回路1は、高圧流量Lが所定流量αよりも多いときには、
図2(b)に示されるように、電動機MOTによる小容量オイルポンプPsの作動を停止して、大容量オイルポンプPbのみでオイルを高圧に加圧して、第3流路L3を介して油圧作動部2に油圧を供給する。
【0047】
このように、高圧流量Lに応じて小容量オイルポンプPsの作動又は停止を選択することで、油圧回路1全体のエネルギー消費量を最適化することができる。更には、小容量オイルポンプPsが供給可能な最大の高圧流量Lが、少なくとも所定流量α以下となるように小容量オイルポンプPs及びそれを駆動する電動機MOTを構成することができる。このとき、小容量オイルポンプPs及びそれを駆動する電動機MOTは、比較的小型に構成できるので、エネルギー消費量を小さくできる。このように、エネルギー効率の良い油圧回路を提供できる。
【0048】
(2.油圧回路の詳細な構成)
次に、
図4を参照して、
図2を参照して説明した油圧回路1の詳細な構成について説明する。
【0049】
油圧回路1は、トルクコンバータを含むベルト式又はチェーン式の無段変速機T(所謂フリクションドライブ)に用いられる。
【0050】
無段変速機Tは、一対の入力側プーリDrと、一対の出力側プーリDnと、入力側プーリDrと出力側プーリDnとの間で動力を伝達可能なベルト又はチェーン(図示省略)とを備える。
【0051】
一対の入力側プーリDrは、無段変速機Tの入力軸(図示省略)に沿って移動自在のプーリ(可動側のプーリ)と、固定されているプーリ(固定側のプーリ)とから成る。オイルの供給に応じて、入力側プーリDrの可動側のプーリの側圧が変化し、入力側プーリDrの入力軸の軸線方向の幅が変化する。このように、供給されるオイルが調整されることで、一対の入力側プーリDr間のベルトの挟圧力が調整される。
【0052】
一対の出力側プーリDnは、無段変速機Tの出力軸(図示省略)に沿って移動自在のプーリ(可動側のプーリ)と、固定されているプーリ(固定側のプーリ)とから成る。オイルの供給に応じて、出力側プーリDnの可動側のプーリの側圧が変化し、出力側プーリDnの出力軸の軸線方向の幅が変化する。このように、供給されるオイルが調整されることで、一対の出力側プーリDn間のベルトの挟圧力が調整される。
【0053】
ここで、入力側プーリDr及び出力側プーリDnにおいて、側圧とは、入力軸及び出力軸の軸方向に沿って、可動側の入力側プーリDr及び出力側プーリDnを、固定側の入力側プーリDr及び出力側プーリDnの方へ押圧する圧力をいう。側圧が増大して、挟圧力が増大するほど、入力側プーリDr又は出力側プーリDnにおけるベルトの掛け回し半径は増大する。無段変速機Tの変速比は、入力側プーリDr及び出力側プーリDnに供給する油圧の制御(すなわち、側圧又は挟圧力の制御)により無段階に調整される。
【0054】
図2に示される油圧作動部2が、
図4に示される入力側プーリDr、出力側プーリDn及び高油圧で作動するクラッチCに相当する。
【0055】
図4を参照して、油圧回路1は、
図2にも示した大容量オイルポンプPb及び小容量オイルポンプPsの他、第1〜第8の8つの圧力制御弁11〜18と、第9圧力制御弁30と、第1〜第16の16つの油路R1〜R16と、方向制御弁21とを備える。
【0056】
第1、第3、第4及び第5の4つの圧力制御弁11,13,14,15は、マネジメントECU125から指示されたリニアソレノイドに供給する電流に応じて、任意に油圧の変更が可能な圧力制御弁である。なお、第4及び第5圧力制御弁14,15は、リニアソレノイドに電力が供給されていない状態で一次側ポート(図示省略)と二次側ポート(図示省略)とを連通する所謂ノーマルオープン形式の弁として構成されている。一方、第1及び第3圧力制御弁11,13は、リニアソレノイドに電流が供給されている状態一次側ポート(図示省略)と二次側ポート(図示省略)とを連通する所謂ノーマルクローズ形式の弁として構成されている。第6及び第7圧力制御弁16、17は、パイロット作動形式の圧力制御弁であり、外部から供給されるパイロット圧を変更することで任意に油圧の変更が可能な圧力制御弁である。第2圧力制御弁12および第8圧力制御弁18は、入力側から供給された油圧を所定の圧力となるように減圧し出力する。
【0057】
方向制御弁21は、第1ポート21a、第2ポート21b、第3ポート21c、第4ポート21d、第5ポート21e及び第6ポート21fを有する。また、方向制御弁21は、パイロット圧として油圧が供給される第7ポート21gを有する。方向制御弁21は、第7ポート21gに入力される油圧に応じて、第1ポート21a、第2ポート21bと第3ポート21cとの連通、及び、第4ポート21d、第5ポート21eと第6ポート21fとの連通を切り替える。なお、第7ポート21gに入力される油圧は、第4圧力制御弁14が出力する第6圧力制御弁16のパイロット圧P
DRCに等しい。
【0058】
詳細には、方向制御弁21は、第7ポート21gに入力された油圧が所定圧よりも低い場合には、第1ポート21aと第3ポート21cとを連通させ、第2ポート21bと第3ポート21cとの連通を解除するとともに、第4ポート21dと第6ポート21fとを連通させ、第5ポート21eと第6ポート21fとの連通を解除する。
【0059】
また、方向制御弁21は、第7ポート21gに入力された油圧が所定圧よりも高い場合には、第2ポート21bと第3ポート21cとを連通させ、第1ポート21aと第3ポート21cとの連通を解除するとともに、第5ポート21eと第6ポート21fとを連通させ、第4ポート21dと第6ポート21fとの連通を解除する。詳細は省略するが、方向制御弁21は、電気系統異常時において、リニアソレノイドにより駆動される第1、第3、第4及び第5圧力制御弁11,13,14,15による油圧の調整等ができない場合においても、無段変速機Tの入力側プーリDr及び出力側プーリDnに、一定の油圧を供給し車両の走行を継続できるように作動する。
【0060】
内燃機関ENGによって駆動される大容量オイルポンプPbから第1油路R1に供給された油圧は、第9圧力制御弁30によって調圧された後、第2油路R2に供給される。第2油路R2は、第3油路R3と第4油路R4とに分岐している。第3油路R3は、小容量オイルポンプPs(電動機MOTによって駆動されるオイルポンプ)に連結されている。
【0061】
小容量オイルポンプPsは、第3油路R3から供給された油圧を更に加圧して第5油路R5に出力する。また、小容量オイルポンプPsは、第2逆止弁42を介して、オイルタンク40から汲み上げたオイルを加圧して、第5油路R5に出力することも可能に構成されている。
【0062】
小容量オイルポンプPsをバイパスする第4油路R4の途中には、第1逆止弁41が設けられている。第4油路R4は、第5油路R5に連結される。第1逆止弁41は、第4油路R4と第2油路R2との連結点から第4油路R4と第5油路R5との連結点の方向にオイルが流れることを許容し、当該方向とは逆方向にオイルが流れることを阻止するように設けられている。
【0063】
第4油路R4と第5油路R5は、第6油路R6及び第7油路R7に連結している。
【0064】
第6油路R6は、第10油路R10と第11油路R11とに分岐している。また、第6油路R6に供給される油圧(ライン圧)は第16油路R16を介して第9圧力制御弁30の第4ポート30dに供給される。第10油路R10には第1圧力制御弁11が設けられており、第11油路R11は第2圧力制御弁12に連結されている。第1圧力制御弁11は、リニアソレノイドによって電力が供給される際に第10油路R10を介して被供給部3に作動油を供給する。第1圧力制御弁11のリリーフ圧はリニアソレノイドで任意に変更が可能である。リニアソレノイドに供給する電流が0のときのリリーフ圧は第10油路R10の最大油圧(ライン圧)以上に設定され、リニアソレノイドに供給する電流が0のときに第10油路R10を介して被供給部3に油圧を供給しないように構成されている。また、第2圧力制御弁12は、第6油路R6から第11油路R11に供給された油圧を所定の圧力となるように減圧する。第2圧力制御弁12は、減圧した油圧を、第3圧力制御弁13、第8圧力制御弁18、方向制御弁21の第2ポート21b、第4圧力制御弁14及び第5圧力制御弁15の各々に供給する。
【0065】
第3圧力制御弁13は、マネジメントECU125からの指示によるリニアソレノイドへの供給電流に応じて第13油路R13の油圧を減圧して方向制御弁21の第1ポート21aに出力する。
【0066】
第8圧力制御弁18は、第14油路R14から供給された油圧を所定の圧力となるように減圧する。第8圧力制御弁18は、減圧した油圧を、方向制御弁21の第5ポート21eに供給する。
【0067】
第4圧力制御弁14は、第15油路R15を介して第2圧力制御弁12から供給された油圧を第6圧力制御弁16のパイロット圧P
DRCとなるように減圧して、第6圧力制御弁16に出力する。第4圧力制御弁14は、第8油路R8を介して第9圧力制御弁30の第5ポート30eにも連結され、方向制御弁21の第7ポート21gにも連結されている。このため、第4圧力制御弁14から出力される第6圧力制御弁16のパイロット圧P
DRCは、第9圧力制御弁30の第5ポート30e及び方向制御弁21の第7ポート21gにも出力される。
【0068】
第5圧力制御弁15は、第15油路R15を介して第2圧力制御弁12から供給された油圧を第7圧力制御弁17のパイロット圧P
DNCとなるように減圧して、第7圧力制御弁17に出力する。第5圧力制御弁15は、第9油路R9を介して第9圧力制御弁30の第6ポート30fにも連結されている。このため、第5圧力制御弁15から出力される第7圧力制御弁17のパイロット圧P
DNCは、第9圧力制御弁30の第6ポート30fにも出力される。
【0069】
第7油路R7は、第6圧力制御弁16と第7圧力制御弁17に連結している。第6圧力制御弁16は、第7油路R7から供給された油圧を第4圧力制御弁14から供給されたパイロット圧に応じた所定の圧力に減圧し、無段変速機Tの入力側プーリDrに供給する。第7圧力制御弁17は、第7油路R7から供給された油圧を第5圧力制御弁15から供給されたパイロット圧に応じた所定の圧力に減圧し、無段変速機Tの出力側プーリDnに供給する。
【0070】
ここで、
図2に示される第1流路L1は、
図4に示される第1油路R1、第2油路R2及び第3油路R3に相当する。また、
図2に示される第2流路L2は、
図4に示される第5油路R5及び第7油路R7に相当する。また、
図2に示される第3流路L3は、
図4に示される第1油路R1、第2油路R2、第4油路R4、及び第7油路R7に相当する。
【0071】
第9圧力制御弁30は、内部に第1スプール31と第2スプール32とを備える。第2スプール32は、第1弾性部材33によって第1スプール31側(
図4の左側)に付勢される。また、第1スプール31は、第1スプール31と第2スプール32の間に配置された第2弾性部材34によって、第2スプール32から離間する側(
図4の左側)に付勢される。
【0072】
また、第9圧力制御弁30は、第1〜第7の7つのポート30a〜30gを備えている。第1ポート30aは、第1油路R1に接続されており、大容量オイルポンプPbからの油圧が供給される。第2ポート30bは、第1ポート30aと軸方向において同じ位置に設けられ常に第1ポート30aと連通し、第2油路R2に接続されている。第3ポート30cは、第2ポート30bよりも第2スプール32から離間する側に設けられ、低油圧での潤滑油路である第12油路R12を介して被供給部3に接続される。
【0073】
第4ポート30dは、第3ポート30cよりも第2スプール32から離間する側に設けられ、第6油路R6(及び第7油路R7)に供給される油圧(ライン圧)が供給される。第1スプール31の周囲には、第4ポート30dに対応する部分に環状溝が設けられ、第4ポート30dから供給される油圧によって、第1スプール31を第2弾性部材34の付勢力に抗して第2スプール32に近づく方向(
図4の右方向)への力を発生させる。
【0074】
第5ポート30eは、第1スプール31と第2スプール32との間に設けられ、第5ポート30eには、第4圧力制御弁14から出力される第6圧力制御弁16用のパイロット圧P
DRCが供給される。第6ポート30fは、第2スプール32の第1スプール31から離間する側に設けられ、第6ポート30fには、第5圧力制御弁15から出力される第7圧力制御弁17用のパイロット圧P
DNCが供給される。
【0075】
第7ポート30gは、第1スプール31の第2スプール32から離間する側に設けられ、第7ポート30gには、方向制御弁21の第6ポート21fから出力される油圧が供給される。なお、当該油圧は第6圧力制御弁16にも供給される。
【0076】
第9圧力制御弁30では、第4圧力制御弁14から出力されるパイロット圧P
DRCと第5圧力制御弁15から出力されるパイロット圧P
DNCとの何れか高い方のパイロット圧が第1スプール31を第2スプール32から離間させる方向(
図4の左方向)へ移動させる力として作用する。すなわち、第4圧力制御弁14から出力されるパイロット圧P
DRCの方が高い場合、第1スプール31は、第2スプール32から離間する方向(
図4の左方向)へ移動する。一方、第5圧力制御弁15から出力されるパイロット圧P
DNCの方が高い場合、第2スプール32は第2弾性部材34の付勢力に抗して第1スプール31に近づく方向(
図4の左方向)へ移動して第1スプール31に突き当たり、第1スプール31は、第2スプール32からの押圧力によって第2スプール32から離間する方向(
図4の左方向)へ移動する。
【0077】
ここで、無段変速機Tの変速比を適切に調整するためには、入力側プーリDr及び出力側プーリDnに必要な油圧のうち少なくとも高い方の油圧、すなわちライン圧P_lineが第6油路R6及び第7油路R7に供給されていなければならない。
図2の油圧回路1によれば、第6油路R6及び第7油路R7に供給される油圧が第4ポート30dに供給されるため、第6油路R6及び第7油路R7に供給される油圧が変動して第1スプール31が移動すると、第3ポート30cから吐出されるオイルの流量が変動する。これにより、第6油路R6及び第7油路R7に供給される油圧は所望のライン圧P_lineに保たれる。
【0078】
詳細には、大容量オイルポンプPbがライン圧P_lineを供給している状態のとき、小容量オイルポンプPsを駆動して、大容量オイルポンプPbから供給された油圧を更にΔPだけ加圧したとすると、ライン圧P_lineが増加するため、
図5に示すように、第1スプール31は第2弾性部材34の付勢力に抗して第2スプール32に近づく方向(
図5の右方向)に移動する。第1スプール31が第2スプール32に近づく方向(
図5の右方向)に移動すると、第3ポート30cと第1ポート30a及び第2ポート30bとの間の経路が拡大し、大容量オイルポンプPbから第9圧力制御弁30に供給された油圧の一部が第3ポート30cから第12油路R12を介して被供給部3にリリーフする。その結果、大容量オイルポンプPbが第9圧力制御弁30を介して小容量オイルポンプPsに供給する油圧P_pbは「P_line−ΔP」に減少する。詳細は省略するが、同様に、この状態から小容量オイルポンプPsの作動を停止してΔP=0となった場合には、第3ポート30cと第1ポート30a及び第2ポート30bとの間の経路が縮小し、大容量オイルポンプPbが供給する油圧P_pbは再びライン圧P_lineとなるように自動的に上昇する。
【0079】
(3.油圧回路の作動)
次に、油圧回路1の作動を、該油圧回路1が搭載された車両の状態(「通常走行時」、「急変速時」及び「コースティングダウン時」)毎に説明する。
【0080】
(3−1.通常走行時)
図6を参照して、通常走行時における油圧回路1の作動について説明する。通常走行時においては、内燃機関ENGは作動しており、大容量オイルポンプPbは内燃機関ENGによって駆動されている。小容量オイルポンプPsは、第9圧力制御弁30を介して大容量オイルポンプPbから供給されたオイルを加圧して、第5油路R5に高油圧を出力する。また、第9圧力制御弁30の第1スプール31は、第1ポート30a及び第2ポート30bと第3ポート30cとが連通するように制御されるとともに、圧力制御弁11は非通電とされている。このため、通常走行時には、「オイルタンク40→大容量オイルポンプPb→第1油路R1→第9圧力制御弁30→第2油路R2→第3油路R3→小容量オイルポンプPs→第5油路R5→第6油路R6,第7油路R7」の経路で高油圧を供給し、「オイルタンク40→大容量オイルポンプPb→第1油路R1→第9圧力制御弁30→第12油路R12」の経路で低油圧を被供給部3に供給する。
【0081】
ここで、第6油路R6及び第7油路R7に供給される油圧、すなわちライン圧をP_lineで表し、大容量オイルポンプPbから第1油路R1〜第3油路R3を介して、小容量オイルポンプPsに供給される油圧をP_pbで表す。このとき、小容量オイルポンプPsが加圧する分の圧力ΔPは、「P_line−P_pb」であり、式(1)より、小容量オイルポンプPsを駆動するトルクτは、「(P_line−P_pb)・V/2π」となる。従って、加圧されていない状態のオイルを小容量オイルポンプPsで加圧する場合に比べて、小容量オイルポンプPsを駆動するトルクτを低減できる。
【0082】
(3−2.急変速時)
図7を参照して、急変速時における油圧回路1の作動について説明する。急変速時においては、無段変速機Tの変速比を急激に変化させる必要があり、入力側プーリDr及び出力側プーリDnの何れかに供給するオイルの流量が非常に多く、高圧流量Lが所定流量αより多くなる。従って、小容量オイルポンプPsの作動を停止し、大容量オイルポンプPbのみを作動させる。また、第9圧力制御弁30の第1スプール31は、第1ポート30a及び第2ポート30bと第3ポート30cとが連通するように制御されるとともに、第1圧力制御弁11は非通電とされている。このため、急変速時には、「オイルタンク→大容量オイルポンプPb→第1油路R1→第9圧力制御弁30→第2油路R2→第4油路R4→第7油路R7」の経路で、入力側プーリDr又は出力側プーリDnに高油圧を供給し、「オイルタンク40→大容量オイルポンプPb→第1油路R1→第9圧力制御弁30→第12油路R12」の経路で低油圧を被供給部3に供給する。このように、急変速時には、小容量オイルポンプPsの作動を停止し、大容量オイルポンプPbのみを作動させるため、油圧回路1のエネルギー効率を向上できる。
【0083】
(3−3.コースティングダウン時)
図8を参照して、アイドリングストップしたコースティングダウン時における油圧回路1の作動について説明する。アイドリングストップしたコースティングダウン時には、内燃機関ENGの駆動は停止されクラッチCが切られるために回転数Neが0となる。このため、大容量オイルポンプPbは作動しない。したがって、小容量オイルポンプPsは、オイルタンク40から汲み上げたオイルを加圧して、第5油路R5に高油圧を出力する。また、大容量オイルポンプPbは停止しているため、第12油路R12を介して被供給部3に作動油を供給することはできないものの、第1圧力制御弁11が通電されており、第10油路R10を介して被供給部3に作動油が供給されている。このため、コースティングダウン時には、「オイルタンク40→第2逆止弁42→第3油路R3→小容量オイルポンプPs→第5油路R5→第6油路R6,第7油路R7」の経路で高油圧を供給し、「オイルタンク40→第2逆止弁42→第3油路R3→小容量オイルポンプPs→第5油路R5→第6油路R6→第10油路R10(第1圧力制御弁11)」の経路で低油圧を被供給部3に供給する。
【0084】
(4.コースティングダウン時の油圧回路の制御)
次に、通常走行の車両がコースティングダウンに移行した後、アクセルペダル又はブレーキペダルが踏まれたため再び通常走行を行う際の油圧回路1の制御について説明する。
【0085】
(4−1.アイドリングストップしたコースティングダウン時にアクセルペダルが踏まれたため通常走行に戻る場合)
図9は、通常走行の車両がコースティングダウンの状態でアイドリングストップした後、アクセルペダルが踏まれたため再び通常走行を行う際に制御される内燃機関ENG、油圧回路1及びクラッチCの経時変化を示す図である。
図9に示すように、アイドリングストップが行われる前の通常走行中の時間taにAP開度が0に低下すると、マネジメントECU125は、油圧回路1が有するノーマルクローズ形式の第3圧力制御弁13への通電を停止して第13油路R13から方向制御弁21への油圧を0まで低減することにより、クラッチCを開放する。次に、マネジメントECU125は、時間taから所定時間経過後の時間tbに、油圧回路1が有するノーマルクローズ形式の第1圧力制御弁11への通電を開始することにより、第10油路R10が連通して小容量オイルポンプPsからの作動油が被供給部3へ供給される。次に、マネジメントECU125は、時間tbから所定時間経過後の時間tcに内燃機関ENGの駆動を停止することで、車両はコースティングダウンの状態となる。
【0086】
油圧回路1の上記制御によれば、マネジメントECU125は、予めクラッチCを開放することで無段変速機Tが伝達しなければならない負荷を低減した上で、第1圧力制御弁11への通電を開始するため、第10油路R10を介して被供給部3に作動油を供給することに伴いライン圧が低下しても無段変速機Tのベルトを保護することができる。なお、時間tbの処理と時間tcの処理は同時であっても良い。
【0087】
コースティングダウン中の時間td1にアクセルペダルが踏まれたためにAP開度が正の値になると、マネジメントECU125は、内燃機関ENGの駆動を再開する。このとき、被供給部3へは大容量オイルポンプPbからオイルが供給されるようになる。次に、マネジメントECU125は、時間td1から所定時間経過後の時間te1に、ノーマルクローズ形式の第1圧力制御弁11への通電を停止することにより第10油路R10と被供給部3との連通が絶たれ、小容量オイルポンプPsから被供給部3へのオイルの供給は行われなくなる。次に、マネジメントECU125は、時間te1から所定時間経過後の時間tf1に、ノーマルクローズ形式の第3圧力制御弁13への通電を再開して方向制御弁21への油圧を徐々に上げていくことにより、クラッチCを締結する。なお、時間td1の処理と時間te1の処理は同時であっても良い。
【0088】
(4−2.アイドリングストップしたコースティングダウン時にブレーキペダルが踏まれたため通常走行に戻る場合)
図10は、通常走行の車両がアイドリングストップしてコースティングダウンの状態となった後、ブレーキペダルが踏まれたため再び通常走行を行う際に制御される内燃機関ENG、油圧回路1及びクラッチCの経時変化を示す図である。
図10に示すように、通常走行からコースティングダウンに変わる際の制御は、
図9に示した場合と同様である。
図10に示した場合では、コースティングダウン中の時間td2にブレーキペダルが踏まれたためにBRK踏力が正の値になると、マネジメントECU125は、ノーマルクローズ形式の第1圧力制御弁11への通電量を徐々に下げて第10油路R10と被供給部3との連通を徐々に絶って、小容量オイルポンプPsから被供給部3へのオイルの供給を徐々に減らす。次に、マネジメントECU125は、時間td2から所定時間経過後の時間te2に、ノーマルクローズ形式の第3圧力制御弁13への通電を再開して方向制御弁21への油圧を徐々に上げていくことによりクラッチCを締結する。その結果、内燃機関ENGは駆動輪129の回転に応じて連れ回される。なお、時間td2の処理と時間te2の処理は同時であっても良い。また、
図11に示すように、内燃機関ENGと同軸に発電機GENが設けられている場合、時間te2以降には駆動輪129からの駆動力によって発電機GENが発電することで回生エネルギーを得ることができる。
【0089】
以上説明したように、本実施形態では、内燃機関ENGによって駆動される大容量オイルポンプPbから出力された油圧が電動機MOTによって駆動される小容量オイルポンプPsに供給される。このため、小容量オイルポンプPsは、大容量オイルポンプPbから出力した油圧に対して不足分だけ圧力を増加させるだけで足り、従来と比べて、小容量オイルポンプPsがオイルに加えるべき圧力が減少する。このため、小容量オイルポンプPsでのエネルギー消費量を低減できる。
【0090】
また、油圧作動部2に大流量のオイルを供給する場合などオイルポンプの駆動に際して大きな動力が必要とされる場合においては、小容量オイルポンプPsを用いずに、大容量オイルポンプPbから油圧作動部2に高油圧を直接供給した方が、小容量オイルポンプPsを用いる場合に比べて各オイルポンプを駆動するための動力の総和が少なくなる場合がある。
【0091】
このような場合においては、小容量オイルポンプPsの作動を停止し、大容量オイルポンプPbから出力された油圧を、第3流路L3を介して油圧作動部2に供給することで、小容量オイルポンプPsに要求される最大出力可能な動力を低減することができる。このため、小容量オイルポンプPsとして比較的小型な装置を用いることができ、ひいては、小容量オイルポンプPsを駆動するときのエネルギー効率を向上できる。
【0092】
また、第9圧力制御弁30は、大容量オイルポンプPbの作動時に第1ポート30a及び第2ポート30bを第3ポート30cに連通させて、大容量オイルポンプPbから供給された作動油を第12油路R12を介して被供給部3に供給するので、被供給部3を適切に潤滑することができる。一方、内燃機関ENGが停止した場合には、大容量オイルポンプPbの作動も停止するため、第12油路R12を介して被供給部3に作動油を供給することはできない。しかしながら、小容量オイルポンプPsの下流側に位置する第10油路R10を介して被供給部3に作動油を供給することができ、大容量オイルポンプPbの停止時であっても被供給部3を適切に潤滑することができる。したがって、コースティングダウン時においてもアイドリングストップを行うことができ、コースティングダウン時のアイドリングストップを行うことによる燃費の向上を実現できる。
【0093】
また、通常走行中の車両がコースティングダウンの状態となった際にアイドリングストップが行われるときは、第13油路R13から方向制御弁21への油圧を0まで低減することによってクラッチCを開放して無段変速機Tが伝達しなければならない負荷を低減した上で、第1圧力制御弁11への通電を開始して被供給部3への作動油の供給を行うことができる。このように、被供給部3に作動油を供給する際には、予めクラッチCを開放することで必要なライン圧P_lineを低減し、第10油路R10を介して被供給部3に作動油を供給することに伴いライン圧P_lineが低下しても無段変速機Tのベルトを保護することができる。
【0094】
また、アイドリングストップした状態でのコースティングダウン時にアクセルペダル又はブレーキペダルが踏まれて通常走行に戻る際には、第1圧力制御弁11の制御によって第10油路R10と被供給部3との連通を絶つことによってライン圧P_lineを確保した上でクラッチCを締結するため、ライン圧P_lineの低下による無段変速機Tにおける側圧の低下を防止できる。これにより、無段変速機Tのベルトを保護することができる。
【0095】
また、コースティングダウン時にブレーキペダルが踏まれた際には、クラッチCが締結された後に発電機GENで発電することで回生エネルギーを得ることができる。
【0096】
なお、本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。