(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アシル基が、ブチリル基、オクタノイル基、トランス−8−メチル−6−オクテノイル基、ゲラノイル基、ラウロイル基、12−(ジメチルアミノ)ラウロイル基、ファルネソイル基、パルミトイル基、ステアロイル基(C18)、リノレイル基、エイコサノイル基およびそれらの異性体からなる群から選択された少なくとも1つのアシル基である、請求項1から9のいずれか一項に記載の抗非膜ウイルス剤。
前記抗非膜ウイルス剤が、ノロウイルス属、ネコカリシウウイルス属、ロタウイルス属、ベータノダウイルス属、アクアビルナウイルス属、ラナウイルス属、エンテロウイルス属、マストアデノウイルス属およびベシウイルス属からなる群から選択された少なくとも1つのウイルスに対する抗非膜ウイルス剤である、請求項1から17のいずれか一項に記載の抗非膜ウイルス剤。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<抗非膜ウイルス剤>
本発明の抗非膜ウイルス剤は、前述のように、下記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレートの誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩を含むことを特徴とする。
【化2】
前記化学式(1)中、
R
1〜R
6は、それぞれ水素原子、ハロゲン、ナトリウム、カリウムまたは直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基であり、同一でも異なっていてもよく、前記アシル基は、さらに1または複数の置換基で置換されていてもよく、前記R
1〜R
6の少なくとも1つが前記アシル基であり、R
7〜R
16は、水素原子、ハロゲン、ナトリウムまたはカリウムであり、同一でも異なっていてもよい。
【0011】
なお、前記化学式(1)において、「A〜D」は、エピガロカテキンガレートにおける各環の表記である。本発明において、以下、エピガロカテキンガレートは、「EGCG」といい、EGCGの誘導体は、「EGCG誘導体」という。
【0012】
本発明において、EGCG誘導体には、例えば、前記化学式(1)で表される化合物の塩、互変異性体、立体異性体、光学異性体、幾何異性体等の異性体、異性体混合物も含まれる。前記塩とは、特に制限されず、例えば、無機酸塩、有機酸塩、無機塩基塩、有機塩基塩、酸性または塩基性アミノ酸塩等があげられる。前記異性体は、例えば、各種クロマトグラフィー等の従来公知の分離方法により、精製することも可能である。また、本発明において、前記EGCG誘導体は、例えば、前記化学式(1)で表される化合物を、酸化、還元、加水分解、抱合等の代謝をうけて、生成する化合物も含む。
【0013】
R
1〜R
6において、前記アシル基の主鎖長は、特に制限されず、例えば、カルボニル炭素を含み原子数2〜20であり、好ましくは4〜20であり、より好ましくは8〜18であり、さらに好ましくは12〜18、14〜18であり、特に好ましくは、16〜18である。なお、前記アシル基の主鎖長とは、アシル基において最も長い鎖の原子数をいい、例えば、前記炭素原子の他に、窒素原子、硫黄原子、リン原子、酸素原子、ホウ素原子等を含んでもよい。
【0014】
R
1〜R
6において、前記アシル基の原子数は、特に制限されない。前記アシル基の原子数(例えば、炭素原子数)は、例えば、カルボニル炭素を含み2〜20であり、好ましくは4〜20、より好ましくは8〜18、さらに好ましくは、12〜18、14〜18であり、特に好ましくは16〜18である。また、前記原子数(例えば、炭素原子数)は、例えば、4、8、12、16、18または20であり、好ましくは12、16または18であり、より好ましくは16または18である。なお、前記アシル基が、さらに前記置換基で置換されている場合、前記炭素原子数は、例えば、前記置換基の炭素原子数を含まない数であることが好ましい。また、前記不飽和アシル基は、例えば、シスでもトランスでもよい。
【0015】
前記アシル基は、特に制限されず、例えば、ホルミル基(C1)、アセチル基(C2)、プロピオニル基(C3)、ブチリル基(C4)、イソブチリル基(C4)、バレリル基(C5)、イソバレリル基(C5)、ピバロイル基(C5)、ヘキサノイル基(C6)、オクタノイル基(C8)、ゲラノイル基(3,7−ジメチルオクタ−2,6−ジエノイル基)(C10)、トランス−8−メチル−6−ノネノイル基(C10)、ウンデカノイル基(C11)、ラウロイル基(ドデカノイル基)(C12)、トリデカノイル基(C13)、12−(ジメチルアミノ)ラウロイル基(12−(ジメチルアミノ)ドデカノイル基)(C14)、ファルネソイル基(3,7,11−トリメチルドデカ−2,6,10−トリエノイル基)(C15)、パルミトイル基(ヘキサデカノイル基)(C16)、ヘプタデカノイル基(C17)、ステアロイル基(オクタデカノイル基)(C18)、リノレイル基(C18)、リノレニル基(C18)、ノナデカノイル基(C19)、エイコサノイル基(イコサノイル基)(C20)等があげられる。なお、列挙したアシル基のかっこ内の「C」は、カルボニル炭素を含む炭素原子数を示す。
【0016】
前記アシル基の中でも、例えば、下記化学式に示すアシル基等が特に好ましい。下記アシル基のうち不飽和アシル基における不飽和結合の位置は、これらには制限されない。具体例として、トランス−8−メチル−ノネノイル基(C10)の不飽和結合(二重結合)は、以下に示す6位には制限されず、例えば、2〜5位および7位のいずれであってもよい。
【0018】
前記アシル基の種類は、特に制限されず、前述のように、不飽和のアシル基、飽和のアシル基のいずれであってもよい。前記アシル基における不飽和結合の数は、特に制限されず、例えば、1、2、3である。
【0019】
前記化学式(1)において、前記アシル基の数は、特に制限されず、例えば、R
1〜R
6のうちいずれか1カ所のみが前記アシル基でもよいし、いずれか2カ所以上が前記アシル基でもよい。2カ所以上が前記アシル基の場合、各部位における前記アシル基は、例えば、同一でも異なってもよい。前記化学式(1)において、前記アシル基以外のRは、特に制限されず、例えば、水素原子が好ましい。
【0020】
前記化学式(1)において、R
1〜R
6のうち、アシル基の部位は、特に制限されない。具体例として、例えば、B環のR
1およびR
2ならびにD環のR
5およびR
6のうち少なくとも1カ所が前記アシル基を有することが好ましく、特に、R
1、R
2、R
5およびR
6のうちいずれか1カ所が前記アシル基を有することが好ましい。この際、前記アシル基以外のRは、特に制限されず、例えば、水素原子が好ましい。
【0021】
また、前記化学式(1)において、B環のR
1、R
2およびR
3のうち少なくとも1カ所が前記アシル基であることが好ましく、より好ましくは、B環のR
1、R
2およびR
3のうち1カ所のみがアシル基であることが好ましい。
【0022】
前記化学式(1)において、B環は、例えば、B環とC環との間の単結合を軸に回転する。このため、R
1にアシル基を有する誘導体は、例えば、R
3にアシル基を有する誘導体と実質的に同一である。また、前記化学式(1)において、D環は、例えば、D環とエステルとの間の単結合を軸に回転する。このため、R
6にアシル基を有する誘導体は、例えば、R
4にアシル基を有する誘導体と実質的に同一である。
【0023】
前記化学式(1)において、R
7〜R
16は、前述のように、水素原子、ハロゲン、ナトリウムまたはカリウムであり、同一でも異なっていてもよく、例えば、下記化学式(2)に示すように、水素原子であることが好ましい。下記式(2)において、例えば、R
1〜R
6のいずれが前記アシル基であってもよい。具体例として、例えば、R
1〜R
6のうち、いずれか1カ所のみまたは2カ所以上が、前述したアシル基であることが好ましく、より好ましくは、R
1、R
2、R
5およびR
6のうち、いずれか1カ所のみまたは2カ所以上が、前述したアシル基であることが好ましく、前記アシル基の中でも、例えば、ブチリル基、オクタノイル基、トランス−8−メチル−6−ノネノイル基、ゲラノイル基、ラウロイル基、12−(ジメチルアミノ)ラウロイル基、ファルネソイル基、パルミトイル基、ステアロイル基、リノレイル基、リノレニル基、または、エイコサノイル基が好ましい。
【化5】
【0024】
前記化学式(1)のR
1〜R
6において、前記アシル基は、前述のように、1または複数の置換基で置換されてもよく、具体的には、例えば、前記アシル基の水素原子が、前記置換基で置換されてもよい。前記置換基は、特に制限されず、例えば、アルキル基、アミノ基、アルキルアミノ基およびジアルキルアミノ基等があげられる。
【0025】
前記アルキル基は、例えば、炭素原子数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはメチル基である。また、前記アルキルアミノ基におけるアルキル基は、例えば、炭素原子数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはメチルアミノ基である。前記ジアルキルアミノ基におけるアルキル基は、例えば、炭素原子数1〜6の直鎖もしくは分枝アルキル基があげられ、好ましくはジメチルアミノ基である。これらは、同一でも異なっていてもよい。
【0026】
本発明において、「ハロゲン」とは、任意のハロゲン元素を指す。前記ハロゲンは、例えば、フッ素、塩素、臭素およびヨウ素があげられる。また、本発明において、「アルキル基」とは、特に限定されない。前記アルキル基は、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等があげられる。アルキル基を構造中に含む基またはアルキル基から誘導される基(アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、カルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケノキシアルキル基等)についても同様である。
【0027】
置換基等が鎖状構造を有する基の場合、具体的に、例えば、アルキル基、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、カルボキシアルキル基、アルコキシカルボニルアルキル基、アルコキシアルキル基、アルケノキシアルキル基等の場合、特に制限しない限り、直鎖状でも分枝状でもよい。置換基等の一部に鎖状構造を含む場合、例えば、置換アルキル基または置換アリール基等における置換基が鎖状構造を含む場合も同様である。置換基等に異性体が存在する場合、特に制限しない限り、どの異性体でもよい。例えば、単に「プロピル基」という場合、n−プロピル基およびイソプロピル基のどちらでもよく、単に「ブチル基」という場合、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基およびtert−ブチル基のいずれでもよく、単に「ナフチル基」という場合、1−ナフチル基および2−ナフチル基のどちらでもよい。
【0028】
本発明において、前記EGCG誘導体は、例えば、1種類のEGCG誘導体でもよいし、2種類以上のEGCG誘導体の混合物でもよい。例えば、R
1〜R
6のうち異なる部位にアシル基を有する2種類以上のEGCG誘導体の混合物でもよいし、異なるアシル基を有する2種類以上のEGCG誘導体の混合物でもよい。具体例として、B環のR
1が前記アシル基であるEGCG誘導体、R
2が前記アシル基であるEGCG誘導体、R
3が前記アシル基であるEGCG誘導体のうち、いずれか2種類以上、または、3種類全てを含む混合物であってもよく、D環のR
4が前記アシル基であるEGCG誘導体、R
5が前記アシル基であるEGCG誘導体、R
6が前記アシル基であるEGCG誘導体のうち、いずれか2種類以上、または、3種類全てを含む混合物であってもよい。また、B環のR
1〜R
3の少なくともいずれかが前記アシル基であるEGCG誘導体と、D環のR
4〜R
6の少なくともいずれかが前記アシル基であるEGCG誘導体との混合物であってもよい。
【0029】
本発明の抗非膜ウイルス剤は、前述のように非膜ウイルスに対して使用できる。前記非膜ウイルスとは、いわゆるエンベロープ(膜)を有していないウイルスである。前記非膜ウイルスは、特に制限されず、例えば、ノロウイルス属、ネコカリシウイルス属、ロタウイルス属、ベータノダウイルス属、アクアビルナウイルス属、ラナウイルス属、エンテロウイルス属、マストアデノウイルス属およびベシウイルス属等があげられる。ネコカリシウイルス属の株は、特に制限されず、例えば、FCV−F4、FCV−F9、FCV−255、FCV−2280、FCV−Diva、FCV−Kaos、FCV−Bellingham、FCV−M8、FCV−DD1、FCV−255等があげられる。ロタウイルスの種類は、特に制限されず、内殻タンパク質(VP6)の抗原性に基づき分類する場合、例えば、A群ロタウイルス、B群ロタウイルス、C群ロタウイルス、D群ロタウイルス、E群ロタウイルス、F群ロタウイルス、G群ロタウイルス等があげられる。
【0030】
本発明の抗非膜ウイルス剤は、前記EGCG誘導体を含んでいればよく、その形態は、特に制限されない。前記形態は、例えば、溶液や分散液等の液体、固体、粉末等があげられる。また、剤形は、特に制限されず、例えば、投与方法に応じて適宜設定でき、液剤、カプセル剤、錠剤、粒剤(細粒剤)、散剤等があげられる。前記投与方法は、特に制限されず、例えば、経口投与、非経口投与があげられる。前記非経口投与は、例えば、経皮投与、腹腔内投与、静脈注射等の静脈内投与、筋肉投与、皮下注射等の皮下投与、直腸投与等があげられ、好ましくは、経皮投与である。本発明の抗非膜ウイルス剤は、特に制限されず、これらの投与形態に応じて、例えば、前記EGCG誘導体を含む内服薬、舌下剤、点鼻薬、うがい薬、塗り薬等として投与できる。また、EGCG誘導体やそれを含む溶液または分散液として、例えば、注射、ネブライザー、吸引器等を用いて投与できる。また、前記EGCG誘導体やそれを含む粉末として、例えば、ネブライザー、吸引器等を用いて投与できる。また、本発明の抗非膜ウイルス剤は、非膜ウイルスの感染能力を低下できることから、例えば、前記EGCG誘導体を含む、手洗い剤、ふき取り剤等の洗浄剤の形態もあげられる。このような本発明の抗非膜ウイルス剤によって、例えば、手や机等、非膜ウイルスが存在すると思われる箇所を処理することで、存在する非膜ウイルスの感染能力を低下させ、非膜ウイルス感染の予防を図ることも可能である。また、本発明の抗非膜ウイルス剤は、例えば、マスクに担持させてもよい。
【0031】
本発明の抗非膜ウイルス剤は、例えば、非膜ウイルス感染の予防ならびに非膜ウイルス感染の治療に使用することができる。本発明の抗非膜ウイルス剤を投与する対象は、例えば、ヒト、または非ヒト動物があげられ、前記非ヒト動物は、例えば、ブタ、フェレット、ラット、マウス、ウシ等の非ヒト哺乳類、アヒル、ニワトリ等の鳥類等があげられる。
【0032】
本発明の抗非膜ウイルス剤において、前記EGCG誘導体の含有量は、特に制限されず、例えば、投与の目的や投与方法に応じて適宜決定できる。本発明の抗非膜ウイルス剤がうがい薬の場合、例えば、一回あたり20〜2000nmol/Lの前記EGCG誘導体を含むことが好ましい。また、本発明の抗非膜ウイルス剤が点鼻薬の場合、例えば、一回あたり20〜2000nmol/Lの前記EGCG誘導体を含むことが好ましい。
【0033】
本発明の抗非膜ウイルス剤は、例えば、その剤形や投与方法に応じて、適宜、添加剤や基剤等をさらに含んでもよい。前記添加剤は、例えば、賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、着色剤、矯味剤、矯臭剤、乳化剤、界面活性剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、防腐剤、抗酸化剤、安定化剤、吸収促進剤等があげられる。これらの添加割合は、特に制限されず、前記EGCG誘導体の効果を損なわない範囲で添加することができる。
【0034】
本発明の抗非膜ウイルス剤は、さらに、その他の非膜ウイルス活性を有する物質を含んでもよく、具体例として、例えば、アルコール、ブロアントシアニン等の天然カテキン類があげられる。
【0035】
本発明において、前記EGCG誘導体の製造方法は、特に制限されない。前記方法は、例えば、有機合成法、酵素等を利用する化学合成法等、従来公知の方法が採用できる。前記酵素を利用する化学合成法は、特に制限されず、例えば、WO2007/105280に開示された、リパーゼを利用する方法があげられる。すなわち、有機溶媒中、EGCGとアシル基供与体とを基質としてリパーゼにより酵素反応を行い、EGCGをアシル化する方法である。この方法によれば、例えば、EGCGを選択的にアシル化することができる。なお、以下に、一例として、リパーゼを使用する方法を例示するが、本発明において、前記EGCG誘導体の製造方法は、特に制限されない。
【0036】
前記リパーゼは、例えば、IUB No.3.1.1.3.のリパーゼが使用できる。具体例として、
Aspergillus niger等の
Aspergillus属由来リパーゼ;
Candida rugosa、
Candida cylindracea、
Candida antarctica等の
Candida属由来リパーゼ;
Pseudomonas fluorescens、
Pseudomonas cepacia、
Pseudomonas stutzeri等の
Pseudomonas属由来リパーゼ;
Alcaligenes属由来リパーゼ;
Burkholderia cepacia等の
Burkholderia属由来リパーゼ;ブタ膵臓由来のリパーゼ等があげられる。これらは、従来公知の方法により調製することもできるが、例えば、Lipase AS“AMANO”、Lipase AYS“AMANO”、Lipase PS“AMANO”、Lipase AK“AMANO”20、Lipase AH“AMANO”(全て商品名:天野エンザイム社製)、Lipase MY、Lipase OF、Lipase PL、Lipase PLC、Lipase PLG、Lipase QLM、Lipase QLC、Lipase QLG、Lipase SL、Lipase TL(全て商品名:名糖産業社製)、Lipase PPL、L4777 Lipase acrylic resin from Candida Antarctica、L3126 Lipase from porcine pancreas(全て商品名:シグマアルドリッチ社製)等の市販品も使用できる。なお、各市販品の物理化学的性質は、それぞれの商品説明書に記載の通りであり、同様の物理化学的性質を示す酵素も同様に使用できる。
【0037】
また、以下に示すような(1)〜(8)の何れかの物理化学的特性および酵素学的特性を有するリパーゼであってもよい。
(1)分子量35,000、等電点4.10(例えば、
Aspergillus niger由来)
(2)分子量64,000、等電点4.30、80℃10分間の処理で不活性化(例えば、
Candida rugosa由来)
(3)至適pH8、至適温度60℃、pH4〜10の範囲で特に安定、70℃以下で特に安定(例えば、
Pseudomonas fluorescens由来)
(4)分子量60,000、至適pH6〜7、pH安定性3〜8、至適温度40〜50℃、37℃以下において溶液状態で特に安定(例えば、
Candida cylindracea由来、
Candida rugosa由来)
(5)分子量30,000、等電点4.5、至適pH8〜9.5、pH安定性7〜10、至適温度50℃、40℃以下において特に安定(例えば、
Alcaligenes属由来)
(6)分子量31,000、等電点4.9、至適pH7〜9、pH安定性6〜10、至適温度65〜70℃、50℃以下において特に安定(例えば、
Alcaligenes属由来)
(7)分子量31,000、等電点5.2、至適pH7〜9、pH安定性6〜10、至適温度65〜70℃、60℃以下において特に安定(例えば、
Pseudomonas cepacia由来、
Burkholderia cepacia由来)
(8)分子量27,000、等電点6.6、至適pH7〜8、pH安定性6〜9、至適温度50℃、40℃以下において特に安定(例えば、
Pseudomonas stutzeri由来)
【0038】
前記有機溶媒は、特に制限されず、例えば、アセトニトリル、アセトン、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルスルホキシド(DMSO)等が使用できる。また、例えば、疎水性を示すパラメータ(logP値)が−0.35〜0.28の範囲の有機溶媒でもよく、このような有機溶媒は、例えば、前述のアセトニトリル(logP値:−0.45〜0.19)、アセトン(logP値:−0.16〜0.19)、DMF(logP値:−1.01〜0.28)、DMSO(logP値:−1.35〜0.28)があげられる。これらの他にも、前記パラメータを満たす従来公知の溶媒が使用できる。前記logPは、溶媒固有の値であるため、当該技術分野における当業者であれば、前記パラメータを満たす溶媒を選択することが可能である。なお、logPとは、目的物質をオクタノールと水との混合溶液に添加し、平衡に達した時のオクタノール層と水層とにおける前記目的物質の濃度比を常用対数で表示したものであり、前述のように、物質の疎水性を示すパラメータとして一般的である。
【0039】
本発明において、アシル基(R−CO−)供与体は、例えば、カルボン酸ビニルエステル(R−CO−O−CH=CH
2)があげられる。なお、前記アシル基は、前述のような直鎖もしくは分枝状の飽和もしくは不飽和アシル基があげられる。
【0040】
前記酵素反応溶液にDMFを用いた場合、EGCGの添加割合は、特に制限されず、例えば、0.2〜100mmol/Lであり、好ましくは0.5〜50mmol/L、より好ましくは0.5〜20mmol/Lである。アシル基供与体の添加割合は、特に制限されず、例えば、反応液におけるEGCGの添加割合に応じて適宜決定できる。具体例として、EGCGとアシル基供与体との添加割合(モル比)は、例えば、1:1〜1:10であり、好ましくは1:1〜1:5、より好ましくは1:1〜1:3である。また、反応液におけるリパーゼの添加割合は、例えば、EGCGやアシル基供与体の添加割合、リパーゼの比活性等に応じて適宜決定でき、特に制限されず、例えば、EGCG1mmol/Lに対して、例えば、500〜50,000U/Lであり、好ましくは500〜5,000U/L、より好ましくは1,000〜2,500U/Lである。
【0041】
酵素反応の条件は、特に制限されず、反応温度は、例えば、45〜75℃の範囲である。前記反応時間は、特に制限されず、基質や酵素の量によって適宜決定でき、例えば、30分〜24時間(1440分)であり、好ましくは1時間(60分)〜3時間(180分)、より好ましくは1.5時間(90分)〜3時間(180分)である。
【0042】
前記反応液には、さらに、塩基性触媒を添加してもよい。前記塩基性触媒は、例えば、トリエチルアミン等の3級アミン、ピリジン等があげられる。反応液における塩基性触媒の添加割合は、特に制限されず、例えば、5〜720mmol/Lであり、好ましくは12〜240mmol/L、より好ましくは12〜48mmol/Lである。
【0043】
EGCGにおいて前記アシル基が導入される位置は、例えば、使用するリパーゼの種類によって選択できる。また、EGCGに導入するアシル基の数は、例えば、使用する有機溶媒の種類や反応時間によって決定することが可能である。例えば、有機溶媒の疎水性が相対的に高い程(親水性が相対的に低い程)、導入されるアシル基の数を相対的に低減でき、有機溶媒の親水性が相対的に高い程(疎水性が相対的に低い程)、導入されるアシル基の数を相対的に増加できる。また、2種類以上の有機溶媒を混合して用いることによっても、導入されるアシル基の数を調節することができる。具体例として、例えば、1個のアシル基を導入する際には、アセトニトリル等を使用することが好ましく、例えば、1〜2個のアシル基を導入する際には、アセトン、アセトニトリル等を使用することが好ましく、例えば、3〜5個のアシル基を導入する際には、DMSO、DMF等を使用することが好ましい。
【0044】
さらに、同じ有機溶媒を用いる場合でも、温度時間や反応温度の制御と組合せること等によって、導入するアシル基の数を調節することもできる。以下にその例を示すが、これには限定されない。DMFを使用する場合、例えば、反応温度を約57℃〜約70℃の範囲に設定し、反応温度を長くする(例えば、約3〜5時間)ことによって、EGCGに2個のアシル基が選択的に導入された誘導体を優先的に得ることができ、他方、反応温度を低下させ(例えば、57℃から約5℃低い温度)、反応時間を短くする(例えば、約1〜3時間)ことによって、1個のアシル基を選択的に導入することができる。また、アセトンとDMFとを同量(質量)混合した混合溶媒を使用することによっても、EGCGに1個のアシル基を選択的に導入することができる。
【0045】
また、導入するアシル基の数は、反応液に前述の塩基性触媒を添加することによって増加させることができる。この場合、EGCGにおけるどの部位にアシル基がさらに導入されるかは、例えば、リパーゼの位置選択性に依存する。
【0046】
前記酵素反応によるEGCG誘導体の収率は、例えば、反応温度を相対的に高く設定することによって、相対的に向上させることができる。反応温度は、通常、前述のように、45〜75℃であるが、収率向上の点から、好ましくは57〜75℃であり、より好ましくは57〜70℃である。特に、反応温度が、57〜70℃の場合、前記EGCGアシル化誘導体の収率は、約35〜45%を実現することが可能である。なお、前記収率とは、反応に使用したEGCGを100%とした場合のEGCGアシル化誘導体(例えば、全モノアシル化誘導体)の割合(変換効率)を意味する。
【0047】
本発明において、前記EGCG誘導体は、例えば、前述のように、いずれか1種類のEGCG誘導体でもよいし、2種類以上のEGCG誘導体の混合物でもよい。前記混合物から1種類のEGCG誘導体を単離する場合は、例えば、クロマトグラフィー等を用いる従来公知の方法により、調製可能である。
【0048】
<感染防止方法>
本発明の感染防止方法は、非膜ウイルス感染を防止する方法であって、被検体に前述のEGCG誘導体を投与することを特徴とする。本発明においては、前記EGCG誘導体を使用することが特徴であって、その他の構成や条件等は、特に制限されない。前記EGCG誘導体やその使用方法等は、例えば、前述と同様である。また、本発明においては、前記EGCG誘導体として、例えば、前記本発明の抗非膜ウイルス剤を投与してもよい。
【0049】
本発明において、被検体は、特に制限されず、前述と同様であり、ヒトまたは非ヒト動物があげられる。また、前記被検体は、例えば、生体そのものでもよいし、生体から採取した細胞や組織、それらの培養物でもよい。
【0050】
前記被検体が生体の場合、前記投与方法は、特に制限されず、例えば、非経口投与および経口投与があげられる。前記非経口投与は、例えば、経皮投与、腹腔内投与、静脈内投与、筋肉投与、皮下投与、直腸投与等があげられ、好ましくは、経皮投与である。前記非経口投与の場合、例えば、前記EGCG誘導体を、内服、点鼻、うがい、注射、ネブライザーや吸引器等を用いて投与できる。また、前記経皮投与の方法は、例えば、前記EGCG誘導体を含む洗浄剤による手洗い、前記EGCG誘導体を含む拭き取り剤等による拭き取り等も含まれる。
【0051】
また、前記被検体が生体から採取した細胞や組織等の場合、前記投与方法は、特に制限されず、例えば、培地等への添加があげられる。
【0052】
前記被検体に対する前記EGCG誘導体の投与時期は、特に制限されず、例えば、前記非膜ウイルス感染前でもよいし、前記非膜ウイルス感染後でもよい。
【0053】
<エピガロカテキンガレート誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩の使用>
本発明は、非膜ウイルス感染を防止するための前記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレート誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩である。また、本発明は、非膜ウイルス用医薬の製造のための前記化学式(1)で表されるエピガロカテキンガレート誘導体、もしくはその異性体またはそれらの塩の使用である。
【実施例】
【0054】
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。
【0055】
[実施例1]
(1)EGCG誘導体の調製
抗非膜ウイルス剤として、下記方法によりEGCG誘導体を調製した。
【0056】
DMF100mLに、EGCG1g、以下に示すアシル基供与体927mgおよびリパーゼ(商品名Lipase PL、名糖産業社製)50000Uを混合し、57℃で2時間インキュベートして酵素反応を行った。
【0057】
【表1】
【0058】
そして、インキュベート後の反応液をろ過、濃縮後、カラムクロマトグラフィー(球状、中性、40−50μm、商品名Silica gelN60、関東化学株式会社製)に供し、不純物である未反応アシル基供与体を除去した。得られた反応生成物についてエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を行った結果、EGCGのB環のR
1もしくはR
2、または、D環のR
5もしくはR
6に、エステル結合によって、前記表1に示すアシル基が1個(No.1〜4)導入されたモノエステル、前記アシル基が2個(No.5〜7)導入されたジエステルであることが確認できた。
【0059】
さらに、前記モノエステルについて、EGCGのどの位置がエステル化されたかを確認するため、前記反応生成物をプロトン核磁気共鳴(H
1 NMR)で分析した。この結果を下記表に示す。
【0060】
【表2】
【0061】
前記No.1〜No.7のアシル基が導入されたEGCG誘導体を、以下、それぞれ、C16、C18、C18DE、C18TE、C12×2、C16×2、C18DE×2という。これらのEGCG誘導体は、前記化学式(2)に示すEGCG誘導体であり、前記各部位(R
1、R
2、R
5またはR
6)が、前記表2に示す構造式のアシル基である。これらのEGCG誘導体を用いて、以下の実験を行った。
【0062】
(2)既知抗ウイルス剤との比較
前記EGCG誘導体No.1(C16)をDMSOに溶解後、滅菌水で希釈し、前記EGCG誘導体40μmol/L、2%DMSOのサンプル液を調製した。前記サンプル液800μLに、0.2% FBS含有D−MEMで懸濁した1×10
6pfu/mLのネコカリシウイルス(F−9型ネコカリシウイルス)200μLを添加し、混合した後、20℃で30秒間反応させた。次に、前記反応液を0.2%FBS含有DMEMで1000倍希釈した。
【0063】
他方、ネコ腎臓培養細胞(CRFK)を、10% FCS含有EMEM培地を入れた6ウェルプレートでConfluentになるまで培養した。前記プレートから前記培地を除去し、得られた細胞シートをD−PBSで洗浄した後、前記希釈後のサンプル液1mLをアプライした。そして、37℃下で1時間インキュベートした後、6.0x10
−4% Trypsinおよび0.2%BSAを含有する0.8%アガロースゲルを前記細胞シートに重層した。さらに、CO
2存在下、37℃で52−60時間インキュベートした後、前記細胞シートに現れたプラーク数をカウントした。コントロールとして、前記EGCG誘導体無添加の状態で、同様にして、プラーク数のカウントを行った。そして、前記コントロール(EGCG誘導体無添加:0μmol/L)のプラーク数を100%として、プラーク形成比(%)を算出した。プラーク形成比(%)は、ウイルス感染力価(%)を意味する。
【0064】
比較例は、前記EGCG誘導体に代えて、公知の抗ウイルス剤である、アシル基未導入のEGCG、塩化ベンザルコニウム、クロルヘキシジンを使用した以外は、同様の処理を行った。なお、前記EGCG誘導体の前記サンプル液に代えて、前記EGCGは、40μmol/Lの液を、塩化ベンザルコニウムは、0.2%液を、クロルヘキシジンは、0.5%液を用いた。
【0065】
これらの結果を、
図1に示す。
図1は、ウイルス感染力価(%)を示すグラフであり、値が相対に低い程、抗非膜ウイルス効果が優れることを意味する。
図1に示すように、前記EGCG誘導体C16は、コントロール(2%DMSO)および公知の抗ウイルス剤と比較して、各段に優れる抗非膜ウイルス効果を示した。この結果から、公知の抗ウイルス剤では、非膜ウイルスの感染防止が困難であるが、本発明の抗非膜ウイルス剤によれば、効果的に非膜ウイルスの感染を防止できることが分かった。
【0066】
(3)抗非膜ウイルス効果
前記(2)と同様にして、各EGCG誘導体のサンプル液を調製し、ウイルス感染力価(%)を測定した。
【0067】
これらの結果を、
図2に示す。
図2は、ウイルス感染力価(%)を示すグラフであり、値が相対に低い程、抗非膜ウイルス効果が優れることを意味する。
図2に示すように、前記各EGCG誘導体は、コントロール(2%DMSO)および公知の抗ウイルス剤と比較して、各段に優れる抗非膜ウイルス効果を示した。特に、モノエステルは、炭素数16以上の不飽和アシル基および飽和アシル基のモノエステル(C16、C18、C18DE、C18TE)が、より優れた効果を示し、また、ジエステルは、炭素数が16以上のアシル基のジエステルが、より優れた効果を示した。
【0068】
[実施例2]
(1)EGCG誘導体の調製
抗非膜ウイルス剤として、No.8およびNo.9のアシル基が導入されたEGCG誘導体を、前記実施例1(1)と同様にして調製した。
【0069】
【表3】
【0070】
そして、得られた反応生成物についてエレクトロスプレーイオン化質量分析(ESI−MS)を行った結果、EGCGに、エステル結合によって、前記表3に示すアシル基が1個(No.8)導入されたモノエステル、前記アシル基が2個(No.9)導入されたジエステルであることが確認できた。
【0071】
さらに、前記モノエステルについて、EGCGのどの位置がエステル化されたかを確認するため、前記反応生成物をプロトン核磁気共鳴(H
1 NMR)で分析した。この結果を下記表に示す。
【0072】
【表4】
【0073】
そして、前記実施例1の前記No.1〜No.7のアシル基が導入されたEGCG誘導体、ならびに前記No.8およびNo.9のアシル基が導入されたEGCG誘導体を用いて、以下の実験を行った。
【0074】
(2)抗ロタウイルス活性
前記EGCGおよび前記EGCG誘導体(C12、C16、C18、C18DE、C18TE、C8x2、C12x2、C16x2)を、それぞれDMSOに溶解後、滅菌水で希釈し、前記EGCG誘導体40μmol/L、2%DMSOのサンプル液を調製した。他方、ロタウイルス(Wa株)は、10μg/mLトリプシン含有EMEMにおいて、37℃で1時間インキュベートし、活性化処理した。そして、前記処理液を、トリプシン濃度が2μg/mLとなるようEMEMで希釈し、1×10
4pfu/mLのロタウイルス液を調製した。前記サンプル液135uLに、前記ロタウイルス液15μLを添加し、混合した後、20℃で10分間反応させた。つぎに、前記反応液を、1μg/mLトリプシン含有EMEMで10倍希釈した。
【0075】
他方、アカゲザル胎児腎細胞(MA104)を、10% FCS含有EMEM培地を入れた6ウェルプレートでConfluentになるまで培養した。前記プレートから前記培地を除去し、得られた細胞シートをD−PBSで洗浄した後、前記希釈後のサンプル液1mLをアプライした。そして、37℃下で1時間インキュベートした後、1.0μg/mL トリプシンおよび0.01%DEAEデキストランを含有する0.6%精製アガロースゲルを前記細胞シートに重層した。さらに、CO
2存在下、37℃で52−60時間インキュベートした後、前記細胞シートに現れたプラーク数をカウントした。コントロールとして、前記EGCG誘導体無添加(2%DMSO)の状態で、同様にして、プラーク数のカウントを行った。そして、前記コントロール(EGCG誘導体無添加:0μmol/L)のプラーク数を100%として、プラーク形成比(%)を算出した。プラーク形成比(%)は、ウイルス感染力価(%)を意味する。
【0076】
これらの結果を
図3に示す。
図3は、ウイルス感染力価(%)を示すグラフであり、値が相対に低い程、抗非膜ウイルス効果が優れることを意味する。
図3に示すように、前記各EGCG誘導体は、コントロール(2%DMSO)およびEGCGと比較して、各段に優れる抗非膜ウイルス効果を示した。特に、モノエステルは、炭素数12以上の不飽和アシル基および飽和アシル基のモノエステル(C12、C16、C18、C18DE、C18TE)が、より優れた効果を示した。また、ジエステルは、炭素数が12以上のアシル基のジエステルが、より優れた効果を示し、さらに、炭素数が長くなるにつれて、抗非膜ウイルス効果が向上した。
【0077】
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
【0078】
この出願は、2013年3月28日に出願された日本出願特願2013−070031を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。