特許第6427494号(P6427494)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427494エチレンから1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化のための触媒
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427494
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】エチレンから1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化のための触媒
(51)【国際特許分類】
   B01J 23/889 20060101AFI20181112BHJP
   B01J 35/10 20060101ALI20181112BHJP
   C07C 19/045 20060101ALI20181112BHJP
   C07C 17/08 20060101ALI20181112BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20181112BHJP
【FI】
   B01J23/889 Z
   B01J35/10 301J
   C07C19/045
   C07C17/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】17
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2015-540886(P2015-540886)
(86)(22)【出願日】2013年11月6日
(65)【公表番号】特表2016-501712(P2016-501712A)
(43)【公表日】2016年1月21日
(86)【国際出願番号】US2013068705
(87)【国際公開番号】WO2014071423
(87)【国際公開日】20140508
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】61/723,009
(32)【優先日】2012年11月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】14/072,057
(32)【優先日】2013年11月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505470786
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】トムパース,ロルフ
(72)【発明者】
【氏名】クレマー,キース
【審査官】 安齋 美佐子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−515684(JP,A)
【文献】 特開昭56−092828(JP,A)
【文献】 特開昭62−221639(JP,A)
【文献】 特開平02−211251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00−38/74
C07C 17/08
C07C 19/045
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成するために使用され、触媒として活性な金属が堆積された担体を含む触媒組成物であって、触媒として活性な金属は、
を2ら8質量%まで、
1種または複数のアルカリ金属を0.6mol/kgまで、
1種または複数のアルカリ土類金属を0.08から0.85mol/kgまで、
Mnを含む遷移金属を0.09から0.9mol/kgまで含み、
これらは全て前記触媒組成物の合計質量に対するものであり、
全ての金属はそれらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面積が80から220m/gまでである流動性担体に含浸されており、及び
希土類金属を含まないことを特徴とする触媒組成物。
【請求項2】
前記触媒として活性な金属組成物が、銅を3%から6質量%、1種又は複数種のアルカリ金属を0.4mol/kgまで、1種又は複数種のアルカリ土類金属を02から0.75mol/kg、および遷移金属を0.09から0.4mol/kgまで含む、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項3】
前記担体がアルミナ担体である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項4】
前記アルカリ金属が、カリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群から選択される少なくとも1種の金属である、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項5】
前記アルカリ金属がカリウムである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項6】
前記アルカリ土類金属がマグネシウムである、請求項1に記載の触媒組成物。
【請求項7】
エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成するために使用され、触媒として活性な金属が堆積された担体を含む触媒組成物であって、触媒として活性な金属は、
を2ら8質量%まで、
カリウムを2質量%まで、
グネシウムを0.2から2.0質量%まで、および
マンガンを0.5から5.0質量%まで含み、
全ての金属はそれらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面が80から20m/gまでである流動性担体に含浸されており、及び
希土類金属を含まないことを特徴とする触媒組成物。
【請求項8】
エチレン、酸素、または酸素含有気体、および塩化水素の混合物を反応ゾーン内で触媒組成物と接触させ、前記反応ゾーンの流出液から1,2−ジクロロエタンを回収することを含む、エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成する方法であって、
前記触媒組成物は、触媒として活性な金属が堆積された担体を含み、触媒として活性な金属は
を2%から8質量%、
1種または複数のアルカリ金属を0.6mol/kgまで、
1種または複数のアルカリ土類金属を0.08から0.85mol/kgまで、
Mnを含む遷移金属を0.09から0.9mol/kgまで含み、
これらは全て前記触媒組成物の合計質量に対するものであり、全ての金属はそれらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面が80から220m/gまでである流動性担体に含浸されており、及び
前記触媒組成物は希土類金属を含まないことを特徴とする方法。
【請求項9】
前記触媒として活性な1種又は複数種の金属が、銅を3%から6質量%、1種又は複数種のアルカリ金属を0.4mol/kgまで、1種又は複数種のアルカリ土類金属を0.2から0.75mol/kg、および遷移金属を0.09から0.4mol/kgまで含む、請求項に記載の方法。
【請求項10】
前記金属が、流動性アルミナ担体上に堆積されている、請求項に記載の方法。
【請求項11】
前記アルカリ金属が、カリウム、リチウム、ナトリウム、ルビジウム、およびセシウムからなる群から選択された少なくとも1種の金属である、請求項に記載の方法。
【請求項12】
前記アルカリ金属がカリウムである、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記アルカリ土類金属がマグネシウムである、請求項に記載の方法。
【請求項14】
エチレン、酸素、または酸素含有気体、および塩化水素の混合物を反応ゾーン内で触媒と接触させ、前記反応ゾーンの流出液から1,2−ジクロロエタンを回収することを含む、エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成する方法であって、
前記触媒は、触媒として活性な金属が堆積された担体を含み、触媒として活性な金属は、
を2から8質量%まで、
リウムを2質量%まで、
マグネシウムを0.2から2.0質量%まで、及び
マンガンを0.5から5.0質量%まで含み、
全ての金属はそれらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面が80から220m/gまでである流動性担体に含浸されており、及び
前記触媒は希土類金属を含まないことを特徴とする方法。
【請求項15】
用いられるエチレン、HCl、および酸素の比が、HCl 2.0mol当たり、エチレンが1.0から2.0molの範囲にあり、酸素が0.5molから0.9molの範囲にあることをさらに特徴とする、請求項に記載の方法。
【請求項16】
反応物が、プロセス中に1回、触媒上を通過する、請求項に記載の方法。
【請求項17】
未反応のエチレンが、前記反応ゾーンを通って再循環される、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、HClおよび酸素(または酸素含有気体)でエチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを形成するための触媒と、前記触媒を使用するための方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
EP0375202は、担体に担持された金属塩化物の混合物を含むオキシ塩素化触媒組成物であって、前記混合物が、塩化銅、塩化マグネシウム、および塩化カリウムの混合物から本質的になるオキシ塩素化触媒組成物について記述している。この文献は、そのような触媒組成物を使用した、エチレンから1,2−ジクロロエタンへのオキシ塩素化についても記述している。
【0003】
DD90127は、塩化水素および空気を用いたエチレンのオキシ塩素化によって、1,2−ジクロロエタンを生成するための方法に関する。この発明による触媒としては、塩化銅(II)を主成分として含有し、かつ助触媒として金属の銀、マグネシウム、カルシウム、カリウム、セリウム、およびマンガンの塩化物を含有する混合物であって不活性担体に付着される混合物が、使用される。触媒は、活性触媒成分6から10質量%および不活性担体94から90質量%から構成される。
【0004】
RU2148432は、触媒化学に関し、詳細にはエチレンのオキシ塩素化によるジクロロエタンの合成のための触媒に関する。エチレンから1,2−ジクロロエタンにオキシ塩素化するための触媒の製造に関して記述された方法は、Al3+とMe2+および/またはMe3+との比が200:1から20:1の範囲にある状態で酸化アルミニウム中に金属イオンMe2+および/またはMe3+を含有する酸化アルミニウム担体に活性成分として銅化合物を付着させ、その後、30分未満の期間にわたって活性成分の完全な結晶化を確実に行う温度で乾燥することを含む。担体への活性成分の付着および乾燥は、含浸溶液を導入するためのデバイスと乾燥を行うための加熱素子とを備えた制御速度回転ドラム内で実施される。
【0005】
EP0582165は、エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成するための触媒組成物に関する。触媒は、塩化銅、少なくとも1種のアルカリ金属、少なくとも1種の希土類金属、および少なくとも1種のIIA族金属を、流動床適用のための高表面積担体上にまたは固定床適用のための高もしくは低表面積担体上に含む。触媒組成物は、担体上に金属を堆積することによって製造される。エチレンからEDCへのオキシ塩素化におけるこの発明の触媒組成物の使用は、触媒の粘着性を示すことなく、高いエチレン効率%、高いEDC生成物純度、および高いHCl変換率%をもたらす。エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを生成するための方法も開示されている。この方法は、エチレン、酸素、または酸素含有気体と塩化水素との混合物を、反応ゾーン内で固定または流動化触媒組成物に接触させ、反応ゾーンの流出液から1,2−ジクロロエタンを回収することに依拠する。
【0006】
1,2−ジクロロエタンを生成するために最も一般的に使用された方法は、エチレンのオキシ塩素化である。この方法では、エチレンが、HClおよび酸素(または酸素含有気体)により変換されて1,2−ジクロロエタンおよび水を形成する。何年にもわたり、固定および流動床プロセスの両方の変形例が開発され、現在使用されている。
【0007】
オキシ塩素化プロセスで形成された副生成物は、炭素酸化物(CO+CO)および塩素化炭化水素である。これらの塩素化された副生成物の中で、1,1,2−トリクロロエタン、クロラール、塩化エチル、クロロホルム、および四塩化炭素が最も一般的である。全ての副生成物は、エチレン効率の損失に繋がり、最小限に抑えなければならない。塩素化された副生成物は焼却する必要もあり、したがってさらなるコストをもたらす。
【0008】
オキシ塩素化プロセスで使用される触媒は、活性成分として塩化銅を含有する。活性、選択率、および/または動作性を改善するために、さらなる助触媒を触媒配合物中に導入する。最も一般的に使用されるものの中には、塩化マグネシウム、塩化カリウム、塩化セシウム、および/または希土類塩化物がある。
【0009】
活性銅種ならびに助触媒は通常、珪藻土、粘土、フラー土、シリカ、またはアルミナのような高表面積担体上に堆積される。一般に、銅および助触媒は、全ての金属をそれらの塩化物の形で含有する溶液を用いて担体に含浸させる。ある場合には、担体と成分との共沈が実施される。
【0010】
一方、流動床オキシ塩素化プロセスは、より良好な経済性により、固定床プロセスよりも好ましいものとなった。商用流動床反応器は、通常、99.5から99.8%のHCl変換率で動作する。1,2−ジクロロエタンの選択率は、典型的には96〜97.5%の間にある。
【0011】
流動床オキシ塩素化触媒の生成に使用される担体は、平均粒度が30〜80μmでありBET表面積が120〜220m/gである、ほぼ流動性のγアルミナである。
【0012】
流動床オキシ塩素化触媒の銅含量は、典型的には3〜17質量%の間にある。ほとんどの流動床プロセスは、銅含量が3〜6質量%の触媒を使用する。
【0013】
流動床オキシ塩素化では、「触媒粘着」または「粘着性」と呼ばれる現象が、ある条件下で生じる可能性がある。「粘着性触媒」は、触媒粒子の凝集をもたらし、その結果、しばしば流動床が崩壊しかつ/またはサイクロンが詰まる。その結果、深刻な触媒の持越しが生じる可能性があり、反応器はもはや動作することができない。そのような粘着エピソードは、生成プラントに著しい経済的損害を引き起こし、必ず回避しなければならない。オキシ塩素化における粘着性は、不適切な動作条件によってまたは触媒自体の性質によって引き起こされる可能性がある。下記の動作条件は、粘着性に好都合である:
i)高いCl/C比
ii)低いO/C比
iii)低い動作温度。
【0014】
したがって流動床オキシ塩素化触媒は、粘着性に対して高い耐性を持たなければならない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】EP0375202
【特許文献2】DD90127
【特許文献3】RU2148432
【特許文献4】EP0582165
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
一態様は、エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを形成するための触媒を対象とする。様々な実施形態を以下に列挙する。以下に列挙される実施形態は、以下に列挙された通りに組み合わせるだけではなく、本発明の範囲によるその他の適切な組合せにしてもよいことが理解されよう。
【課題を解決するための手段】
【0017】
実施形態1において、触媒は、銅を約2から約8質量%まで、1種または複数のアルカリ金属をゼロから約0.6mol/kgまで、1種または複数のアルカリ土類金属を約0.08から約0.85mol/kgまで、およびMn、Re、もしくはこれらの混合物からなる群から選択された1種または複数の遷移金属を約0.09から約0.9mol/kgまで含み、全ての金属は、それらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面積が約80から約220m/gまでである流動性担体に含浸されている。
【0018】
実施形態2は、銅を約2から約8質量%まで、カリウムをゼロから約2質量%まで、マグネシウムを約0.2から約2.0質量%まで、およびマンガンを約0.5から約5.0質量%まで含み、全ての金属が、それらの塩化物またはその他の水溶性塩の形で、BET表面積が約80から約220m/gまでである流動性担体に含浸されている、より具体的な触媒を含む。
実施形態3は、エチレンをオキシ塩素化して1,2−ジクロロエタンを形成するための方法を含む。
【0019】
実施形態4は、良好な活性、良好な選択率、および流動床オキシ塩素化反応での低い粘着傾向を有する、オキシ塩素化触媒を提供する。
【0020】
実施形態5は、銅が約3から6質量%まで、カリウムがゼロから約1.3質量%まで、マグネシウムが約0.8から約1.5質量%まで、およびマンガンが約0.5から約2.0質量%までであり、残りが塩化物およびアルミナである、本発明による触媒の、より具体的な元素組成物を提供する。
【0021】
実施形態6は、触媒上に置かれるカリウムの量が、触媒の動作温度ならびに副生成物組成物を調節することを提供する。
実施形態7は、カリウムを全くまたはほとんど含まない本発明の触媒が、より高いHCl変換率およびより良好なEDC粗製物純度をより低い温度で示すことを提供する。
【0022】
実施形態8は、カリウムの量がより高い本発明の触媒が、いくらか低い粗製物純度を示すがそのために多過ぎる炭素酸化物を生成することなくより高い温度で動作できることを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のいくつかの例示的な実施形態について記述する前に、本発明は、以下の記述で述べる構成または方法の工程の詳細に限定されないことを理解されたい。本発明は、その他の実施形態が可能であり、様々な方法で実行しまたは実施することが可能である。
【0024】
本明細書の全体を通して「一実施形態」、「ある実施形態」、「1つまたは複数の実施形態」、または「実施形態」と言う場合、実施形態と併せて記述される特定の特徴、構造、材料、または特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。したがって、本明細書の全体を通した様々な場所での「1つまたは複数の実施形態において」、「ある実施形態において」、「一実施形態において」、または「実施形態において」などの文言の出現は、必ずしも本発明の同じ実施形態を指すものではない。さらに、特定の特徴、構造、材料、または特性は、任意の適切な手法で1つまたは複数の実施形態と組み合わせてもよい。
【0025】
ここで本発明を、特定の実施形態に関して記述してきたが、これらの実施形態は本発明の原理および適用例の単なる例示であることを理解されたい。本発明の精神および範囲から逸脱することなく、本発明の方法および装置に様々な修正および変更を行うことができることが、当業者に明らかにされよう。したがって本発明は、添付される特許請求の範囲およびそれらの均等物の範囲内にある修正例および変更例を含むものとする。
【0026】
本発明の触媒組成物は、容易に入手可能な担体材料を用いる。流動床触媒の場合、金属は、高表面積担体上に堆積されるべきである。流動床触媒で高表面積担体が必要であることの主な理由は、触媒の粘着性を低減させる必要があることであり、金属を広い面積にわたって分散させることができるためである。担体材料の例には、シリカ、マグネシア、珪藻土、粘土、フラー土、アルミナ、またはこれらの組合せなどの材料が含まれるが、これらに限定するものではない。好ましい触媒プロセスは、高表面積担体を使用した流動床触媒である。
【0027】
流動性高表面積担体の例には、シリカ、マグネシア、珪藻土、粘土、フラー土、アルミナ、またはこれらの組合せなどの材料が含まれるが、これらに限定するものではない。好ましい担体は、高表面積アルミナ(しばしば、γ、δ、またはθ−アルミナと呼ばれる)である。好ましい担体は、水和またはヒドロキシル化された前駆体アルミナのか焼によって発生させた、活性化または遷移アルミナである。これらの活性化アルミナは、最小量からゼロに至る低表面積のまたは結晶質相のαアルミナを含有する混合相材料を示す、それらのX線回折パターンによって観察することが可能な、それらの無秩序構造により同定することができる。αアルミナは、X線回折により定義された結晶質相によって、同定される。より高い表面積である活性化アルミナは、γアルミナ相としてしばしば定義されるが、実際には相転移は、所望の担体表面積を実現するために選択されたか焼温度に基づく、δおよびθ相などであるがこれらに限定されることのない様々なパーセンテージの多数の混合相の連続体である。80m/g超の表面積を有するアルミナ担体は、金属負荷を適正に分散させかつ粘着性に向かう傾向を防止するのを助けるために、好ましい。本発明を、アルミナ担体に関して以後、記述する。これは例示的なものであり、限定的なものではないことを意味する。流動性アルミナ担体材料は、約80から220m/g、より詳細には100から220m/g、さらにより詳細には120〜220m/gの範囲の表面積、0.7から1.3g/cmの範囲の充填嵩密度、0.2から約1cm/gの範囲の細孔体積、および粒子の約90から100体積パーセントの直径が150ミクロンよりも低くなるような粒度分布を有する。そのようなアルミナ担体材料は、容易に流動可能であり、比較的安定で、機械的に強く、かつ摩滅に耐性がある。本発明の目的に特に有用なアルミナは、Sasol製品Puralox(登録商標)およびCatalox(登録商標)高純度活性化アルミナである。
【0028】
さらに、アルミナ担体は、完成した触媒が作用した後は、活性化アルミナ相における望ましくない変化を防止する当技術分野の任意の手段によって安定化させることができる。そのような安定成分の例には、活性触媒形成の含浸前にアルミナ担体全体に分散する微量の成分としてLa、Ce、Ti、Siなどを包含することが含まれるが、これらに限定するものではない。
【0029】
いくつかのアルミナ担体材料は、酸化アルミニウム(Al)および安定成分に加え、酸化ナトリウムを最大0.02質量%、酸化鉄(Fe)を最大0.05質量%、二酸化チタンを最大0.3質量%、二酸化ケイ素を最大0.2質量%などのように、金属酸化物などのその他の金属の少量の不純物を含有していてもよいことが認識される。これらのアルミナ担体は、本発明で容易に使用可能である。
【0030】
銅、アルカリ金属(1種又は複数種類可)、アルカリ土類金属(1種又は複数種類可)、MnおよびReから選択された群から選択された1種または複数の遷移金属の、負荷の特定の範囲のみ、上述の高性能特性の全てをもたらすことになることが発見された。活性金属が特定の負荷の範囲外にあると、全ての点で高性能が実現されない。
【0031】
銅化合物は、水溶性塩の形で使用され、好ましくは塩化銅の形で使用される。しかし、硝酸塩、炭酸塩、または臭化物塩などのその他のハロゲン化物など、オキシ塩素化プロセス中に塩化物に変換し得るその他の銅塩を使用することもできる。銅塩は、上述と同じ技法を使用して、アルミナ担体上に堆積される。堆積される銅金属の量は、所望の活性と、流動床触媒適用例での担体の特定の流動化特性とに基づく。用いられる銅金属の量は、触媒組成物の全質量に対し、銅金属として約2質量%から約8質量%の範囲にある。好ましい銅塩は、塩化銅である。銅金属の好ましい最小量は、触媒の全質量に対して約2.0質量%からである。銅金属の、より詳細な最小量は、触媒の全質量に対して約3.0質量%である。銅金属の好ましい最大量は、触媒の全質量に対して約8.0質量%である。銅金属のより具体的な最大量は、触媒の全質量に対して約6.0質量%である。アルカリ金属(一種又は複数種可)、アルカリ土類金属(一種又は複数種可)、MnおよびReから選択された群から選択された1種または複数の遷移金属、および銅化合物を含有する最終的な触媒組成物は、容易に流動可能である。
【0032】
本発明で用いられるアルカリ金属は、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、もしくはセシウム、またはそのような金属の1種もしくは複数の混合物とすることができる。アルカリ金属は水溶性塩の形で使用され、好ましくはアルカリ金属塩化物の形で使用される。しかし、オキシ塩素化プロセス中に塩化物塩に変換され得るその他のアルカリ金属塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、または臭化物塩のようなその他のハロゲン化物塩などを使用することもできる。アルカリ金属は、触媒組成物の全質量に対し、ゼロから最大約0.6mol/kg、より詳細には最大約0.4mol/kg、さらにより詳細には約0.1から最大約0.4mol/kg(金属として)の範囲で使用される。好ましいアルカリ金属は、カリウム、リチウム、およびセシウムである。最も好ましいアルカリ金属はカリウムであり、好ましいアルカリ金属塩は塩化カリウムである。触媒上に置かれるカリウムの量は、触媒ならびに副生成物組成物の動作温度を調節する。カリウムがほとんどまたは全くない本発明の触媒は、より高いHCl変換率およびより良好なEDC粗製物純度を、より低い温度で示す。より高量のカリウムは、いくらか低い粗製物純度を示すが、多過ぎる炭素酸化物を生成することなく、より高い温度で動作することができる。
【0033】
アルカリ金属の好ましい最大量は、触媒の全質量に対して約0.6mol/kgである。アルカリ金属の、より好ましい最大量は、触媒の全質量に対して約0.4mol/kgである。
【0034】
本発明で用いられるアルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、もしくはバリウム、または1種もしくは複数のそのような金属の混合物であり得る。アルカリ土類金属は水溶性塩の形で使用され、好ましくはアルカリ土類金属塩化物の形で使用される。しかし、オキシ塩素化プロセス中に塩化物塩に変換され得るその他のアルカリ土類金属塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、または臭化物塩のようなその他のハロゲン化物塩などを使用することもできる。アルカリ土類金属は、触媒組成物の全質量に対し、約0.08から最大約0.85mol/kg、より詳細には0.2から最大約0.75mol/kg、さらにより詳細には約0.3から最大約0.62mol/kg(金属として)の範囲で使用される。好ましいアルカリ土類金属は、マグネシウム、カルシウム、およびバリウムである。最も好ましいアルカリ土類金属はマグネシウムであり、好ましいアルカリ土類金属塩が塩化マグネシウムである。
【0035】
アルカリ土類金属の好ましい最大量は、触媒の全質量に対して約0.85mol/kgである。アルカリ土類金属の、より詳細な最大量は、触媒の全質量に対して約0.75mol/kg、さらにより詳細には約0.62mol/kgからである。
【0036】
本発明で用いられる遷移金属は、Mn、Re、またはそのような金属の混合物である。これらの遷移金属は水溶性塩の形で使用され、好ましくは塩化マンガンまたは塩化レニウムの形で使用される。しかし、オキシ塩素化プロセス中に塩化物塩に変換され得るその他のMnまたはRe塩、例えば硝酸塩、炭酸塩、または臭化物塩のようなその他のハロゲン化物塩を、使用することもできる。これらの遷移金属は、触媒組成物の全質量に対して0.09から最大約0.9mol/kg、より詳細には0.09から最大約0.4mol/kg、さらにより詳細には最大約0.28mol/kg(金属として)の範囲で使用される。好ましい遷移金属はマンガンであり、好ましい遷移金属塩は塩化マンガンである。
【0037】
遷移金属の好ましい最大量は、触媒の全質量に対して約0.9mol/kgである。遷移金属の、より詳細な最大量は、触媒の全質量に対して0.4mol/kg、さらにより詳細には約0.28mol/kgである。
【0038】
その他の金属は、比較的少量で、本発明の触媒組成物中に存在することができる。例えば、マンガンおよびレニウム以外の希土類金属および/または遷移金属である。典型的にはこれらの金属は、存在する場合には、触媒組成物の全質量に対して最大約2.75mol/kgの量で存在してもよい。本発明で存在していてもよいその他の遷移金属には、Fe、Nb、Mo、Co、V、W、Ni、Crと、Au、Ru、およびPdなどの貴金属とが含まれる。
【0039】
本発明で用いられてもよい希土類金属は、周期表の元素57から71までとして列挙された元素、擬希土類元素であるイットリウムおよびスカンジウムのいずれかとすることができる。希土類金属の例には、ランタン、セリウム、プラセオジム、ネオジム、または1種もしくは複数のそのような金属の天然に生ずる混合物、例えばジジムが含まれる。希土類金属は、希土類金属塩化物の形で使用される。しかし、オキシ塩素化プロセス中に塩化物に変換され得るその他の希土類金属塩、例えば炭酸塩、硝酸塩、または臭化物塩のようなその他のハロゲン化物塩を使用することもできる。希土類金属が高コストであるという理由で、触媒中には希土類がほとんどまたは全くないことが好ましい。
【0040】
金属をアルミナ担体に添加する1つの方法は、金属の水溶性塩の水溶液を、銅化合物の水溶性塩と一緒に担体に含浸させ、次いで湿潤状態の担体を乾燥させることによって実現される。アルカリ金属(1種又は複数種可)、アルカリ土類金属(1種又は複数種可)、MnおよびReからなる群から選択された1種または複数の遷移金属、および任意の追加の金属を、必ずしも必要ではないが、流動性触媒が生成されるように銅化合物の堆積前に担体上でか焼することができる。
【0041】
例えば表面積および細孔体積などの特定の特性は、当然ながら、金属塩を堆積することにより変更される。したがって、本発明の触媒組成物は、約20から約220m/gの範囲の最終表面積を有する。流動床触媒の表面積に関して好ましい範囲は、約60から約180m/gである。流動床触媒の表面積に関して最も好ましい範囲は、約80から約160m/gである。
【0042】
本発明の触媒組成物は、上述のように、所望の金属の塩の水溶液でアルミナ担体材料を湿潤させることによって、容易に製造される。次いで湿潤したアルミナを、約80℃から240℃でゆっくり乾燥して水を除去する。金属塩の量は、最終触媒が、銅を約2%から約8質量%、組み込まれたアルカリ金属(1種又は複数種可)をゼロから約0.6mol/kg、アルカリ土類金属(1種又は複数種可)を約0.08%から約0.85mol/kg、MnおよびReからなる群から選択された1種または複数の遷移金属を約0.09から約0.9mol/kg含有するように選択され、全ての金属は触媒組成物の全質量に対するものである。水溶液で使用される金属塩は、塩化物または炭酸塩のように、既に述べたものなどの任意の水溶性塩の形をとることができる。本発明は、エチレンをオキシ塩素化して二塩化エチレン(EDC)を形成するための方法も企図する。この方法は、エチレン、酸素、または酸素含有気体および塩化水素(HCl)と触媒組成物とを、反応ゾーン内で接触させ、反応ゾーンの流出液を回収することを含む。用いられる触媒には、銅、アルカリ金属(1種又は複数種可)、アルカリ土類金属(1種又は複数種可)と、Mn、Reからなる群から選択された1種または複数の遷移金属と、これらの混合物が含まれる。金属は、流動床適用例のための高表面積担体上に堆積される。
【0043】
この方法は、任意の未反応のエチレンを排出しもしくはその他の方法で除去する単流法として、または未反応のエチレンが元の反応器に再循環する再循環法で実施することができる。再循環プロセスでは、HClとエチレンとの比が、約1から約2のモル比で低くなる傾向になる。
【0044】
本発明の触媒組成物は、エチレンをオキシ塩素化してEDCにするのに非常に効率的な触媒である。反応プロセス温度は約180℃から約260℃に、より詳細には約210℃から250℃に変化する。反応圧力は、大気圧から約200psig程度の高さまで変化する。流動床および固定床触媒での接触時間は、約10秒から約50秒に変化させることができ(接触時間は、ここでは、反応器の制御温度および最高圧力で、触媒が占める反応器体積と供給気体の体積流量との比であると定義される)、より好ましくは約20から35秒である。反応器に供給されるHClのモル数に対する、エチレン、HCl、および酸素反応物の比は、HCl 2.0モル当たり、エチレンが約1.0から約2.0モルに、酸素が約0.5から約0.9モルに及ぶ。先に述べたように、最新のオキシ塩素化プロセスは、約1から約2molのHClと1molのエチレンとの化学量論比で動作させようと試みている。
【0045】
以下に述べる特定の実施例は、本発明の触媒組成物の、独自のかつ予想外の特徴を示し、本発明を限定しようとするものではない。実施例は、塩化銅、アルカリ金属(1種又は複数種可)、アルカリ土類金属、Mn、Reからなる群から選択された1種または複数の遷移金属、およびこれらの混合物の組合せを使用することの重要性を特に指摘する。実施例の全てにおいて、流動床オキシ塩素化反応は、実験室規模の流動床反応器を使用して実行される。反応器の容積、反応器に充填される触媒の量、流体密度、反応物の流量、温度、および圧力は、全て、反応物と触媒との間の接触時間に影響を及ぼす。反応器の高さと直径との比は、反応変換率、選択率、および効率にも影響を及ぼす可能性がある。したがって、触媒性能の結果で測定された差が、反応器の幾何形状または反応器の条件の差ではなく触媒特性の固有の差に厳密に起因することを保証するために、全ての触媒性能の評価を、同じ反応接触時間、同じ供給条件の組合せ、および同じ反応器制御法を使用した事実上同一の実験室規模の反応器で実行する。反応器は、反応器ゾーンを通して気状エチレン、酸素、窒素、およびHClを送出するための手段、反応物の量および反応条件を制御するための手段、および流出気体の組成を測定し確認するための手段を備えることにより、HClの変換率%、EDCの収率%、およびエチレン効率%およびEDC生成物純度を決定する。下記の実施例で提供される結果は、下記の通り計算される:
HCl変換率(%)=反応器内で変換されたHClのmol数×100
反応器に供給されたHClのmol数

エチレン変換率(%)=反応器内で変換されたエチレンのmol数×100
反応器に供給されたエチレンのmol数

EDC選択率(%)=1,2−ジクロロエタンに変換されたエチレンのmol数×100
合計で、変換されたエチレンのmol数

CO選択率(%)=COに変換されたエチレンのmol数×100
合計で、変換されたエチレンのmol数

Cl副生成物選択率(%)=塩素化副生成物に変換されたエチレンのmol数×100
合計で、変換されたエチレンのmol数

EDC粗製物純度(質量%)=形成された1,2−ジクロロエタンの質量×100
形成された塩素化有機化合物の合計の質量
【0046】
実施例
反応器1における試験
試験反応器1は、内径が2cmの管状ガラス反応器である。反応器は、大気圧で動作させ、流動床の高さ99±2.5cmをもたらす量の触媒が充填される。供給気体は、N 11.4NL/時、エチレン3.75NL/時、HCl 7.12NL/時、およびO 2.55NL/時から構成される。反応温度は、流動床内の中心に配置された熱電対で測定し、外部電気加熱のために調節される。反応温度範囲は、広く変化させることができ、典型的には205から230℃の間にある。供給気体中および生成物気体中のHClは、滴定を介して測定される。N、C、O、CO、および塩素化炭化水素は、GCを介して測定される(HP 6890シリーズ;カラムタイプ−1)Vocolガラス毛管カラム(60メートル;0.75mm ID;1.5ミクロン膜厚。2)80/100 Porapak Nカラム(12フィート×1/8インチ、ステンレス鋼)。3)60/80モレキュラーシーブ、5オングストローム(6フィート×1/8インチ);検出器−2 TCD。検出器B(Vocolカラム)検出器A(モルシーブ/Porapak);1つのTCDは、モレキュラーシーブカラムからのO、N、およびCOなどの軽質気体、COおよびエチレンなどのより重質な気体、ならびにPorapakカラムからの塩化ビニルおよび塩化エチルなどのより軽質な塩素化炭化水素を検出するために使用される。第2のTCDは、EDCおよびその他のより重質な塩素化副生成物も含め、クロロホルムから開始されたVocolカラムからの残りのより重質な塩素化炭化水素を検出するために使用される)。
【0047】
分析および供給気体量に基づき、HCl変換率、エチレン変換率、EDC選択率、種々の酸化および塩素化副生成物の選択率を計算することができた。化学性能は、HCl変換率が98%超の、210℃よりも高い温度で評価する。耐粘着性は、目に見える触媒の凝集、差圧の変動、または選択率の突然の変化が生じる点まで温度を徐々に低下させることにより評価する。より詳細には、触媒粘性の観察は、視覚的に、かつ差圧計測デバイスを使用して流動床の両端の圧力降下の変化を測定することによって、実現される。典型的な流動化または非粘着性条件の下で触媒は、床内で観察される気状のポケットまたは泡が直径の小さいものになりかつ量が少なくなるような、かなり安定した流出気体出口速度で、自由にかつ滑らかに反応器内で移動する。この目視観察は、良好な流動化または非粘着性条件下で観察された差圧値のごく僅かなノイズまたは変動しか含有しない、測定された差圧に該当する。触媒が粘着性になるにつれ、流動化の失敗または深刻な触媒の粘着性の発生の前に、流動床の高さは通常の床の高さの最大10%まで増加する可能性がある。この破壊点で、触媒床のスラッギングが観察され、大きな気体ポケットが形成されかつ触媒はもはや十分に流動化せず、代わりに粒子のクラスター化または凝集が示される。さらに、流動床の両端で観察される差圧は不安定になり、その結果、非粘着条件下で動作する場合に比べ、揺れが通常よりも大きくなる。典型的な差圧の読取り値である85mbarは、非粘着動作条件下で±1mbar変動する可能性がある。この「低ノイズ」圧力の読取り値は、良好な流動化または非粘着性動作条件に関係する。差圧の読取り値が±3mbarよりも大きく常に変動する場合、この「高ノイズ」条件は、不十分な流動または触媒の粘着性の点を表す。
【0048】
全ての触媒を、結果の直接比較が確実になされるように反応器1内で同じ条件下で試験する。
【0049】
反応器2における試験
試験反応器2は、内径2cmの管状ガラス反応器である。反応器は4barで動作させ、流動床の高さ114±2cmをもたらす量の触媒が充填される。供給気体は、N 45.5NL/時、エチレン14.95NL/時、HCl 28.40NL/時、およびO 10.16NL/時から構成される。反応温度は、流動床内の中心に配置された熱電対で測定し、油加熱により調節される。反応温度範囲は、210から240℃の間にある。供給気体中および生成物気体中のHClは、滴定を介して測定される。N、C、O、CO、および塩素化炭化水素は、GC−2つのカラムを備えたAgilent 6890Nを介して測定される。一方のカラム(DB−123−1063)はFIDに接続され、エチレンおよび塩素化炭化水素を測定するのに使用される。他方のカラム(Varion CP 7430)はTCDに接続され、O、N、CO、およびCOを測定するのに使用される。分析および供給気体量に基づき、HCl変換率、エチレン変換率、EDC選択率、種々の酸化および塩素化副生成物の選択率を、計算する。化学性能は、HCl変換率が98%超の、220℃よりも高い温度で評価する。耐粘着性は、目に見える触媒の凝集、差圧の変動、または選択率の突然の変化が生じる点まで温度を徐々に低下させることにより評価する。
【0050】
全ての触媒を、結果の直接比較が確実になされるように反応器2内で同じ条件下で試験する。
【0051】
触媒の製造
触媒は、外部供給元から購入したアルミナに、所望の金属の水溶液を含浸させることによって製造する。溶液の体積は、担体の細孔容積の95〜115%に相当する。使用される金属塩は、CuCl・2HO、KCl、MgCl・6HO、MnCl・4HO、LaCl・7HO、CeCl・7HO、PrCl・6HOである。含浸は、噴霧ノズルを備えた回転ドラム内で、室温で実施される。含浸に続き、触媒をまず回転ドラム内で4時間予備乾燥し、次いで、温度プロファイル:110℃で16時間、130℃で2時間、150℃で2時間、180℃で4時間に従い、キャビネット乾燥器でさらに乾燥する。
【0052】
[実施例1a]
(本発明による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる(この担体は、細孔容積0.43mL/gおよび表面積200m/gを有する。アルミナのpsdは、粒子の1.6%が22μmよりも小さく、粒子の8.8%が31μmよりも小さく、粒子の28.5%が44μmよりも小さく、粒子の84.7%が88μmよりも小さく、かつ粒子の98.1%が125μmよりも小さくなるようなものである)。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 1.1質量%、Mn 1.0質量%である。
【0053】
[実施例1b]
(本発明による)
金属塩化物を、表示Puralox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる(この担体は、細孔容積0.45mL/gおよび表面積200m/gを有する。アルミナのpsdは、粒子の0.7%が22μmよりも小さく、粒子の5.7%が31μmよりも小さく、粒子の25.1%が44μmよりも小さく、粒子の85.8%が88μmよりも小さく、かつ粒子の98.5%が125μmよりも小さくなるようなものである)。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 1.1質量%、Mn 1.0質量%である。
【0054】
[実施例1c]
(本発明による)
実施例1cは、原材料および化学組成に関して実施例1aと同等である。含浸は、V字形ブレンダー内で、60〜75℃で実施し、含浸溶液の体積は、アルミナ担体の細孔容積の90%±5%である。乾燥は、100〜140℃の間で動作した乾燥器で実施する。この実施例は、性能を失うことなく含浸および乾燥の条件を変化させることができることを示すために記述する。
【0055】
[実施例2]
(本発明による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、Mn 1.0質量%である。
【0056】
[実施例3]
(本発明による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 0.4質量%、Mn 1.5質量%である。
【0057】
(比較例4a)(EP375202による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 1.1質量%である。
【0058】
(比較例4b)(EP375202による)
金属塩化物を、表示Puralox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 1.1質量%である。
【0059】
(比較例5)(DD90127による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる。金属組成は、Cu 4.3質量%、K 1.2質量%、Mn 1.0質量%である。
【0060】
(比較例6)(EP0582165による)
金属塩化物を、表示Catalox SCCa 25/200を持つSasol製アルミナ担体に含浸させる(この担体は、細孔容積0.43mL/gおよび表面積200m/gを有する。アルミナのpsdは、粒子の1.6%が22μmよりも小さく、粒子の8.8%が31μmよりも小さく、粒子の28.5%が44μmよりも小さく、粒子の84.7%が88μmよりも小さく、かつ粒子の98.1%が125μmよりも小さくなるようなものである)。金属組成は、Cu 4.3質量%、Mg 1.3質量%、K 1.1質量%、希土類(La 60%、Ce 20%、Pr 20%)2.5質量%である。含浸は、V字形ブレンダー内で、60〜75℃で実施し、含浸溶液の体積は、アルミナ担体の細孔容積の90%±5%である。乾燥は、100〜140℃の間で動作する乾燥器で実施する。
【0061】
結果
試験反応器2における実施例1a、1c、および比較例5の化学性能の比較
【0062】
【表1】
【0063】
試験は、本発明による触媒が、DD90127に記載される従来技術の触媒に比べ、HCl変換率とEDC選択率の両方で優れていることを示す。
【0064】
試験反応器1における実施例1aと比較例4aとの比較
【0065】
【表2】
【0066】
所与の温度で、本発明の実施例のHCl変換率は、比較例の場合よりも高い。EDC選択率は、類似している。したがって同じHCl変換率では、本発明の触媒が比較例よりも高いEDC選択率を示す。さらに比較例は、粘着性に対してより敏感である。本発明の触媒は210℃よりもはるかに低い温度で依然動作できるが、比較例は、反応温度が210℃に下がったときに粘着し始めた。
【0067】
試験反応器2における実施例1bおよび比較例4bの比較
【0068】
【表3】
【0069】
所与の温度で、本発明の実施例のHCl変換率は比較例の場合よりも高く、EDC選択率は低い。しかしオキシ塩素化においては、最小のHCl変換率99.5〜99.6%が必要とされるので、選択率は、同じ温度で比較されるべきではなく同じHCl変換率で比較されるべきである。同じHCl変換率では、本発明の触媒が比較例よりも高いEDC選択率を示す。さらに、比較例は、粘着性に対してより敏感である。本発明の触媒は219℃で依然動作することができるが、比較例は、反応温度が220℃に下がったときに粘着し始める。
【0070】
試験反応器2における実施例2および3と比較例5の比較
【0071】
【表4】
【0072】
実施例2および3は、より低い温度で動作するように設計された触媒である。結果は、これらの触媒が、HCl変換率を損なうことなく217.5℃程度の低い温度で動作できることを示す。比較例5は、全温度範囲にわたって劣るHCl変換率を有する。さらに、実施例2および実施例3のEDC選択率は、比較例5に比べてより低い温度でより良好であるが、それらはより高いHCl変換率を有する。特に、塩素化副生成物の形成は、比較例に関して低下する。
【0073】
下記の表は、希土類添加剤の代わりにMnを用いた場合の影響をまとめる。各配合物は、同じ質量%のCu、K、およびMgを含有する。Mnと希土類配合物とを比較する場合、触媒kg当たりの合計希土類モル濃度に均等なMnを使用した。結果が示すように、Cu、Mg、K、希土類配合物中の希土類添加剤の置換えによって、触媒の粘着性をもたらすプロセスの混乱に対してより耐性のある触媒配合物が発生する。低い動作温度および/または低いHCl変換率に起因する高いHCl分圧は、触媒の粘着性の発生に起因した流動化の失敗をもたらす可能性のある、典型的なプロセスの混乱である。結果が示すように、意外なことにMn配合物は、希土類配合物に比べ、低い動作温度および低いHCl変換率の条件下で粘着性になるのに非常に耐性がある。希土類配合物(比較例6)とMn配合物(本発明の実施例1c)との、質量が50/50の物理的混合物は、Cu、Mg、およびKに加えてMnのみ含有しまたはCu、Mg、およびKに加えて希土類添加剤のみ含有する配合物に至る中間点で損なわれ、したがって、Mnが従来技術の配合物の動作性または粘着性に対する耐性を改善するという観察内容が確認される。
【0074】
比較粘着性試験は、48時間の動作後の、先の動作温度で粘着性の発生が生じなかったことを確認した後に、反応器動作温度を2から3℃低下させることによって、試験反応器1内で終了させた。粘着性の混乱に起因した流動化の失敗をもたらす温度およびHCl変換率は、Mn配合物で有利であることを示す。198℃で72時間後、試験は、Mn配合物に関し、比較例の配合物に比べてその粘着性に対する耐性が優れていることにより、終了させた。
【0075】
【表5】


【0076】
本発明の、ある実施形態は、少なくともいくらかのパーセンテージ、温度、時間、およびその他の値の範囲の前に、修飾語「約」が付される場合が考えられる。「含む」は、「からなる」および「本質的に〜からなる」の支持するものとする。本出願の特許請求の範囲における範囲が、本明細書において明らかな裏付けを見出せない場合、そのような特許請求の範囲は、本出願または後に提出される出願における特許請求の範囲または教示を裏付けるものとしてそれ自体の開示を提供するものとする。下限がゼロに結び付けられる成分の数値範囲(例えば、K 0〜2質量%)は、「[上限]まで」、例えば「K 2質量%まで」という概念の裏付けを提供するものとし、またその逆も同様であり、それと共に、問題となっている成分が上限を超えない量で存在するという明確な提示ももたらすものとする。後者の例は、「Kを含み、但しその量は2質量%を超えないことを前提とする」である。
【0077】
本明細書に開示された本発明を、その特定の実施形態および適用例を用いて記述してきたが、当業者なら、特許請求の範囲に記載された本発明の範囲から逸脱することなく、数多くの修正および変更をそこに行うことができる。さらに、本発明の様々な態様を、本明細書で詳細に記述したもの以外の適用例で使用してもよい。