(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427558
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】創内関節腔拡大器
(51)【国際特許分類】
A61B 17/56 20060101AFI20181112BHJP
【FI】
A61B17/56
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-506185(P2016-506185)
(86)(22)【出願日】2015年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2015053583
(87)【国際公開番号】WO2015133231
(87)【国際公開日】20150911
【審査請求日】2018年1月5日
(31)【優先権主張番号】特願2014-43655(P2014-43655)
(32)【優先日】2014年3月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】599170434
【氏名又は名称】越智 光夫
(73)【特許権者】
【識別番号】399051858
【氏名又は名称】株式会社 ジャパン・ティッシュ・エンジニアリング
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越智 光夫
【審査官】
吉川 直也
(56)【参考文献】
【文献】
特表2011−525136(JP,A)
【文献】
特開2012−157377(JP,A)
【文献】
特表2010−525893(JP,A)
【文献】
国際公開第2013/187413(WO,A1)
【文献】
国際公開第2008/057565(WO,A2)
【文献】
米国特許第4024588(US,A)
【文献】
米国特許出願公開第2003/0187510(US,A1)
【文献】
特開2004−222832(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0331993(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
膝関節の大腿骨と脛骨との間隙を維持するために用いられ、前記膝関節を切開した創内に配置される創内関節腔拡大器であって、
前記大腿骨に固定され、前記脛骨側が凸になるように円弧状に湾曲した板状の大腿骨側磁石と、
前記脛骨に固定され、前記大腿骨側磁石よりも長さが短く、平板状又は前記大腿骨側磁石の円弧と同心円をなす円弧状に湾曲した板状の脛骨側磁石と、
前記大腿骨及び前記脛骨のいずれか一方に固定され、前記脛骨側磁石に対して前記大腿骨側磁石が相対移動する範囲全域で前記大腿骨側磁石の皮膚側の面全体及び前記脛骨側磁石の皮膚側の面全体を覆うように形成され、前記脛骨側磁石に対する前記大腿骨側磁石の動きを阻害することなく両磁石の磁気が外部へ漏れるのを防止する磁気シールド部材と、
を備え、
前記大腿骨側磁石と前記脛骨側磁石は、前記膝関節の曲げ伸ばし動作に合わせて前記脛骨側磁石と前記大腿骨側磁石とが相対移動する間、常に対向して反発し合い、反発力が鉛直方向に働くように配置される、
創内関節腔拡大器。
【請求項2】
前記脛骨側磁石は、前記大腿骨側磁石の円弧と同心円をなす円弧状に湾曲した板状の磁石である、
請求項1に記載の創内関節腔拡大器。
【請求項3】
前記磁気シールド部材は、前記大腿骨側磁石と前記脛骨側磁石とが所定の距離を超えて離れないように規制する、
請求項1又は2に記載の創内関節腔拡大器。
【請求項4】
前記大腿骨側磁石は、前記大腿骨に固定された平板状の大腿骨側取付片に一体化され、
前記脛骨側磁石は、前記脛骨に固定された平板状の脛骨側取付片に一体化されている、
請求項1〜3のいずれか1項に記載の創内関節腔拡大器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、創内関節腔拡大器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、関節軟骨損傷の治療として内科的治療(内服、関節内注射等)や外科的治療(マイクロフラクチャ−、モザイクプラスティ、培養軟骨移植等)が試みられているが、外科的治療の場合、日常生活に戻るにはリハビリテーションを経る必要がある。リハビリテーションでは、軟骨治療部への荷重を軽減させるために関節に創外固定器を装着することが知られている。例えば、特許文献1には、第1骨部に取り付けられる第1ピンと、第2骨部に取り付けられる第2ピンと、第1永久磁石を含みかつ第1ピンに取り付けられる第1磁石部と、第2永久磁石を含みかつ第2ピンに取り付けられる第2磁石部とを備えた創外固定器が開示されている。第1磁石部は、第1ピンの長手方向に直交する断面が円弧かつ凸状の凸部を有し、第2磁石部は、第2ピンの長手方向に直交する断面が円弧かつ凹状の凹部を有している。第1磁石部と第2磁石部とは、凸部と凹部とが対向しかつ第1永久磁石と第2永久磁石の同極が対向するように配置されている。具体的には、第1磁石部として円柱状の磁石、第2磁石部として直方体の一面を円弧状に切り出した形状の磁石を用意し、円柱状の第1磁石部が第2磁石部の円弧面に対向するように配置されている。こうした創外固定器によれば、第1骨部と第2骨部とを磁石の反発力により離間させることができ、軟骨治療部への荷重を軽減した状態(関節腔を拡大させた状態)で関節を円滑に運動させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2012−157377号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した固定器は、骨に取り付けたピンが皮膚を貫通して体外に突出しているため、衛生面に注意を払う必要があった。また、固定器の構造が大きくなりがちであり、患者の生活に支障が生じることがあった。こうしたことから、体内に埋め込む固定器(創内関節腔拡大器)の開発が望まれていた。上述した固定器の技術を創内関節腔拡大器に適用するには、構造をコンパクトにすると共に、磁気の影響が外部へ及ばないようにする必要があった。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、膝関節の大腿骨と脛骨との間隙を磁石の反発力により維持する創内関節腔拡大器であって、構造がコンパクトで、磁気の影響が外部へ及ばないものを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の創内関節腔拡大器は、
膝関節の大腿骨と脛骨との間隙を維持するために用いられ、前記膝関節を切開した創内に配置される創内関節腔拡大器であって、
前記大腿骨に固定され、前記脛骨側が凸になるように円弧状に湾曲した板状の大腿骨側磁石と、
前記脛骨に固定され、前記大腿骨側磁石よりも長さが短く、平板状又は前記大腿骨側磁石の円弧と同心円をなす円弧状に湾曲した板状の脛骨側磁石と、
前記大腿骨及び前記脛骨のいずれか一方に固定され、前記脛骨側磁石に対して前記大腿骨側磁石が相対移動する範囲全域で前記大腿骨側磁石の皮膚側の面全体及び前記脛骨側磁石の皮膚側の面全体を覆うように形成され、前記脛骨側磁石に対する前記大腿骨側磁石の動きを阻害することなく両磁石の磁気が外部へ漏れるのを防止する磁気シールド部材と、
を備え、
前記大腿骨側磁石と前記脛骨側磁石は、前記膝関節の曲げ伸ばし動作に合わせて前記脛骨側磁石と前記大腿骨側磁石とが相対移動する間、常に対向して反発し合い、反発力が鉛直方向に働くように配置されるものである。
【0007】
この創内関節腔拡大器は、創内で膝関節の大腿骨と脛骨との間隙を磁石の反発力により維持する。ここで、大腿骨側磁石及び脛骨側磁石をともに板状としたため、円柱状や直方体の一面を円弧状に切り出した形状とする場合に比べて、両磁石を薄くすることができ、創内関節腔拡大器の構造をコンパクトにすることができる。また、大腿骨側磁石及び脛骨側磁石の皮膚側の面全体を磁気シールド部材で覆っているため、両磁石の磁気が外部へ漏れるのを防止することができる。更に、大腿骨側磁石と脛骨側磁石との間の反発力は鉛直方向つまり体重を支える方向に働くため、膝関節に体重がかかったとしても膝関節の間隙を確実に維持することができる。
【0008】
本発明の創内関節腔拡大器において、前記脛骨側磁石は、前記大腿骨側磁石の円弧と同心円をなす円弧状に湾曲した板状の磁石としてもよい。こうすれば、大腿骨側磁石及び脛骨側磁石の両方の円弧が同心円をなすため、移動により磁石の反発力が大きく変化することがなく、円滑に稼働することができる。
【0009】
本発明の創内関節腔拡大器において、前記磁気シールド部材は、前記大腿骨側磁石と前記脛骨側磁石とが所定の距離を超えて離れないように規制してもよい。こうすれば、大腿骨側磁石と脛骨側磁石との相対位置が大きく変わるのを防止することができる。そのため、膝関節を繰り返し動かしたとしても、大腿骨と脛骨との間隙を磁石の反発力により維持することができる。
【0010】
本発明の創内関節腔拡大器において、前記大腿骨側磁石は、前記大腿骨に固定された平板状の大腿骨側取付片に一体化され、前記脛骨側磁石は、前記脛骨に固定された平板状の脛骨側取付片に一体化されていてもよい。こうすれば、両取付片も薄くすることができるため、創内関節腔拡大器の構造をコンパクトにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】創内関節腔拡大器10を装着した膝関節を伸ばした状態の左側面図。
【
図4】創内関節腔拡大器10を装着した膝関節を曲げた状態の左側面図。
【
図5】創内関節腔拡大器110を装着した膝関節を伸ばした状態の左側面図。
【
図6】創内関節腔拡大器110を装着した膝関節を曲げた状態の左側面図。
【
図7】創内関節腔拡大器210を装着した膝関節の左側面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の好適な一実施形態を図面を用いて以下に説明する。
図1は創内関節腔拡大器10を装着した膝関節の左側面図、
図2は
図1のA−A断面図、
図3は創内関節腔拡大器10の斜視図である。
【0013】
創内関節腔拡大器10は、大腿骨52と脛骨54からなる膝関節の左右両側に適用される。この創内関節腔拡大器10は、大腿骨側磁石12と、脛骨側磁石18と、磁気シールド部材24とを備えている。また、創内関節腔拡大器10は、
図2に示すように、関節包(2点鎖線参照)に完全に包まれている。
【0014】
大腿骨側磁石12は、脛骨側に凸になるように円弧状に湾曲した板状の永久磁石であり、凸面(下面)がS極、凹面(上面)がN極になっている。この大腿骨側磁石12の凸面や凹面は、左右の側面に比べて面積が広くなっている。また、大腿骨側磁石12は、薄板状の大腿骨側取付片14を備えている。大腿骨52の左右両側に配置された大腿骨側取付片14は、大腿骨52を水平方向に貫通する2本の針金状のピン16によって大腿骨52に固定されている。2本のピン16は、大腿骨52の軟骨52aを貫通しない位置で大腿骨52を貫通している。このように、大腿骨側磁石12は大腿骨側取付片14を介して大腿骨52に固定されている。
【0015】
脛骨側磁石18は、大腿骨側磁石12よりも長さが短く、大腿骨側磁石12の円弧と同心円をなす円弧状に湾曲した板状の永久磁石であり、凸面(下面)がN極、凹面(上面)がS極になっている。この脛骨側磁石18の凸面や凹面は、左右の側面に比べて面積が広くなっている。また、脛骨側磁石18は、薄板状の脛骨側取付片20を備えている。脛骨54の左右両側に配置された脛骨側取付片20は、脛骨54を水平方向に貫通する2本の針金状のピン22によって脛骨54に固定されている。2本のピン22は、脛骨54の軟骨54aを貫通しない位置で脛骨54を貫通している。このように、脛骨側磁石18は脛骨側取付片20を介して脛骨54に固定されている。
【0016】
大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18は、膝関節の曲げ伸ばし動作に合わせて大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18とが相対移動する間、常に対向し且つ互いに反発し合うように配置されている。大腿骨側磁石12の凸面と脛骨側磁石18の凹面とは同極であるため、磁石の反発力が働き、両者は離間した状態を維持する。なお、脛骨側磁石18の凹面の幅は、大腿骨側磁石12の凹面の幅よりも広いことが望ましい。
【0017】
大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18は、膝関節に係る負荷を体重等から算出し、当該負荷がかかった場合でも両磁石12,18の間隔が維持される程度の反発力が得られるものを選択すればよい。両磁石12,18で得られる反発力は、間隙が狭くなればなるほど強くなるため、所望する最小間隙と想定負荷から算出することができる。
【0018】
なお、大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18との位置関係は、
図2に示すように、大腿骨側磁石12の凸面が脛骨側磁石18の凹面の直上領域に収まるように決められている。
図2で右側の大腿骨側磁石12は、大腿骨側取付片14と大腿骨52との間にスペーサがなくてもこの位置関係を満足している。しかし、左側の大腿骨側磁石12は、大腿骨側取付片14と大腿骨52との間にスペーサ26を配置することで、この位置関係を満足させている。ここでは、スペーサ26を1枚使用したが、関節の形状によって、使用する枚数やスペーサ26の厚みを適宜決定すればよい。また、必要に応じて、脛骨側取付片20と脛骨54との間にもスペーサを配置してもよい。
【0019】
磁気シールド部材24は、脛骨側磁石18に対して大腿骨側磁石12が相対移動する範囲の全域で、大腿骨側磁石12の皮膚側の面全体と脛骨側磁石18の皮膚側の面全体を覆うように形成されている。こうした範囲は、脛骨54に対して大腿骨52が相対移動する稼働範囲に応じて決まる。磁気シールド部材24は、上辺及び下辺が両磁石12,18の円弧と同心円となるように形成された面部材24aと、その面部材24aの上辺から大腿骨52に向かうように曲げられた上側屈曲部24bと、面部材24aの下辺から脛骨54に向かうように曲げられた下側屈曲部24cと、下側屈曲部24cから下方に延びる取付部24dとを備えている。磁気シールド部材24の取付部24dは、脛骨側取付片20にネジで固定されている。したがって、磁気シールド部材24は、脛骨54と一体化され、大腿骨52とは独立している。こうした磁気シールド部材24は、磁気を遮蔽すると共に人体への影響が少ない材料で作製されている。このような材料としては、特に限定するものではないが、強磁性体、常磁性体、反磁性体が利用できる。強磁性体としては、例えば鉄、コバルト、ニッケル等の合金が挙げられる。これらを利用する場合は、磁気シールド部材24のうち磁石に向かい合う内面に、磁石が接着しないようにめっきや樹脂等を被覆しておくことが望ましい。常磁性体としては、例えばチタン、アルミニウム、白金、ステンレスなどが挙げられる。反磁性体としては、金、銀、銅、炭素繊維などが挙げられる。
【0020】
次に、培養軟骨移植術後の創内関節腔拡大器10の使用例について説明する。
図1は膝関節を伸ばした状態の左側面図であり、
図4は膝関節を曲げた状態の左側面図である。本実施形態では、創内関節腔拡大器10は、膝関節を切開した創内に埋め込まれている。大腿骨52の軟骨52a及び脛骨54の軟骨54aの少なくとも一方に欠損が生じた場合、その欠損部分に培養軟骨を移植し、その後、培養軟骨が欠損部分に定着するまで大腿骨52と脛骨54とが接触しないように創内関節腔拡大器10を取り付ける。創内関節腔拡大器10の取り付けにあたっては、大腿骨側磁石12及び脛骨側磁石18の各々の円弧の中心が脛骨54と大腿骨52の稼働円の略中心(点C)に位置するように固定する。創内関節腔拡大器10は、大腿骨52と脛骨54との間隙を維持するために用いられるものであり、培養軟骨移植部位が治癒した時点で取り外される。
【0021】
創内関節腔拡大器10を装着した膝関節を伸ばした状態から曲げていくと、大腿骨52は点Cを中心として
図1中時計回りに回転し、
図4のように最も曲げた状態に至る。説明の便宜上、膝関節の曲げ動作中、脛骨54は停止しているものとすると、この間、脛骨側磁石18は位置が変わらず、脛骨側磁石18と一体化されている磁気シールド部材24も位置が変わらない。一方、大腿骨側磁石12は、大腿骨52に固定されているため、大腿骨52が回転するのに伴って回転する。大腿骨側磁石12の凸面、脛骨側磁石18の凹面及び磁気シールド部材24の面部材24aの上下両辺は、いずれも点C(
図1及び
図4参照)を中心とする円弧となるように取り付けられている。そのため、大腿骨52が点Cを中心として回転すると、大腿骨側磁石12の凸面は脛骨側磁石18の凹面や磁気シールド部材24と干渉することなく、磁石の反発力により脛骨側磁石18の凹面から離れたまま移動する。脛骨側磁石18に対して大腿骨側磁石12が相対移動する間、大腿骨側磁石12の凸面と脛骨側磁石18の凹面とは常に対向し合っている。そのときの大腿骨側磁石12の凸面と脛骨側磁石18の凹面とが対向する面積は膝関節の曲げ伸ばし動作中ほぼ一定である。そのため、磁石の反発力は膝関節の曲げ伸ばし動作中ほぼ一定である。また、その反発力の方向はほぼ鉛直方向となる。患者の体重は鉛直下向きつまり大腿骨52と脛骨54とが近づく方向に働くが、創内関節腔拡大器10の両磁石12,18の間にはそれを打ち消す方向の反発力が働くため、大腿骨52と脛骨54とは離間した状態が維持される。また、磁気シールド部材24の上側及び下側屈曲部24b,24cは、大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18との距離が所定の距離を超えて離れないように規制する。ここで、所定の距離は、上側屈曲部24bと下側屈曲部24bとの間の距離から大腿骨側磁石12の厚さと脛骨側磁石18の厚さを差し引いた値となる。
【0022】
以上詳述した本実施形態の創内関節腔拡大器10は、創内で膝関節の大腿骨52と脛骨54との間隙を両磁石12,18の反発力により維持する。ここで、両磁石12,18の両方を板状としたため、円柱状や直方体の一面を円弧状に切り出した形状とする場合に比べて、両磁石12,18を薄くすることができ、創内関節腔拡大器10の構造をコンパクトにすることができる。また、両磁石12,18の皮膚側の面全体を磁気シールド部材24で覆っているため、両磁石12,18の磁気が外部へ漏れるのを防止することができる。
【0023】
また、磁気シールド部材24の上側及び下側屈曲部24b,24cは大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18との距離が所定の距離を超えて離れないように規制している。これにより、大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18との相対位置が大きく変わるのを防止している。そのため、膝関節を繰り返し動かしたとしても、大腿骨52と脛骨54との間隙を磁石の反発力により維持することができる。
【0024】
更に、大腿骨側磁石12は、大腿骨52に固定された平板状の大腿骨側取付片14に一体化され、脛骨側磁石18は、脛骨54に固定された平板状の脛骨側取付片20に一体化されている。そのため、両取付片14,20も薄くすることができ、創内関節腔拡大器10の構造を一層コンパクトにすることができる。
【0025】
更にまた、磁気シールド部材24は、大腿骨52ではなく脛骨54に固定されている。そのため、脛骨54に対して大腿骨52が動くときに磁気シールド部材24が動くことがなく、関節周辺の組織への負担が少なくて済む。
【0026】
そしてまた、両磁石12,18の間にはほぼ鉛直方向の反発力が働くが、鉛直方向は体重がかかる方向であり、関節の間隙が縮まりやすいため、本発明を適用する意義が高い。
【0027】
そして更に、脛骨側磁石18の凹面の幅を大腿骨側磁石12の凸面の幅よりも広くしたため、脛骨側磁石18に対して大腿骨側磁石12が相対的に移動した際に大腿骨側磁石12の凸面が幅方向に多少ずれたとしても、互いに向かい合った状態が維持され、磁石の反発力は消失しない。
【0028】
そして更にまた、創内関節腔拡大器10は、体内(創内)に埋め込まれているため、関節部位(移植部位)を水槽や風呂などに浸けることができ、創外固定器に比べて衛生的に優位である。
【0029】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0030】
上述した実施形態では、磁気シールド部材24を脛骨側取付片20に固定したが、
図5に示す創内関節腔拡大器110のように、磁気シールド部材124の取付部124dを大腿骨側取付片14に固定してもよい。この場合、膝関節の曲げ伸ばしを行うと、磁気シールド部材124は大腿骨52の稼働に合わせて移動する。具体的には、創内関節腔拡大器110を装着した膝関節を伸ばした状態から曲げていくと、大腿骨52は
図5中時計回りに回転し、
図6のように最も曲げた状態に至る。そのため、磁気シールド部材124の長さは、大腿骨側磁石12より若干長い程度(磁気シールド部材24と比べて半分程度の長さ)で足りる。なお、図示しないが、磁気シールド部材124も、磁気シールド部材24と同様の上側及び下側屈曲部を有しており、両屈曲部によって大腿骨側磁石12と脛骨側磁石18との距離が所定の距離を超えて離れないように規制している。この創内関節腔拡大器110では、磁気シールド部材124が大腿骨52の稼働に合わせて移動するが、長さが短いため、磁気シールド部材124が移動することによる関節周辺の組織への負担はそれほど大きくはない。創内関節腔拡大器110によっても、上述した実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0031】
上述した実施形態では、脛骨側磁石18を円弧状に湾曲した板状の磁石としたが、
図7に示す創内関節腔拡大器210のように、脛骨側磁石218を平板状の磁石としてもよい。この場合、膝関節の曲げ伸ばし動作を行ったとしても円弧状の大腿骨側磁石12が平板状の脛骨側磁石218に接触しないように設計する。このようにしても、上述した実施形態とほぼ同様の効果が得られる。
【0032】
上述した実施形態では、大腿骨側磁石12の上面及び下面を左右の側面よりも面積が広くなるようにし、脛骨側磁石18も同様の形状にしたが、
図8に示す創内関節腔拡大器310のように、大腿骨側磁石312の上面及び下面を左右の側面よりも面積が狭くなるようにし、脛骨側磁石318も同様の形状にしてもよい。この場合も、大腿骨側磁石312の凸面と脛骨側磁石318の凹面を同極になるようにすれば、上述した実施形態と同様の効果が得られる。なお、
図8には磁気シールド部材の図示を省略した。
【0033】
上述した実施形態では、大腿骨側磁石12の凸面と脛骨側磁石18の凹面を共にS極となるようにしたが、共にN極となるようにしてもよい。
【0034】
本出願は、2014年3月6日に出願された日本国特許出願第2014−43655号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明は、膝関節の治療及びリハビリテーションに利用される医療器具として利用可能である。
【符号の説明】
【0036】
10 創内関節腔拡大器、12 大腿骨側磁石、14 大腿骨側取付片、16 ピン、18 脛骨側磁石、20 脛骨側取付片、22 ピン、24 磁気シールド部材、24a 面部材、24b 上側屈曲部、24c 下側屈曲部、24d 取付部、26 スペーサ、52 大腿骨、52a 軟骨、54 脛骨、54a 軟骨、110 創内関節腔拡大器、124 磁気シールド部材、124d 取付部、210 創内関節腔拡大器、218 脛骨側磁石、310 創内関節腔拡大器、312 大腿骨側磁石、318 脛骨側磁石。