特許第6427644号(P6427644)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6427644
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】アルミナ質中空ファイバーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/08 20060101AFI20181112BHJP
   C01F 7/30 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   D01F9/08 A
   C01F7/30
【請求項の数】7
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2017-180247(P2017-180247)
(22)【出願日】2017年9月20日
【審査請求日】2018年8月27日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000240
【氏名又は名称】太平洋セメント株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】大神 剛章
【審査官】 團野 克也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−289932(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第106350899(CN,A)
【文献】 特開平3−179052(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F9/08−9/32
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムを主要成分とするセラミックス原料化合物と、有機質繊維と、アルカリ溶液とを含有するスラリーを調製する工程と、
得られたスラリーを水熱反応に付して、前記有機質繊維と該有機質繊維を被覆するベーマイトからなる複合物を得る工程と、
得られた複合物を焼成反応に付して、アルミナ質中空ファイバーを得る工程とを備えていることを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記スラリーのpHを9.5〜14とすることを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記水熱反応を、温度100℃以上、圧力0.3〜1.4MPaで行うことを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記焼成反応を、温度600〜1200℃の酸素雰囲気下で、10分間〜10時間行うことを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記複合物を前記焼成反応に付するための焼成温度に昇温速度5℃/分以上で達温し、前記焼成反応を行うことを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項6】
請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記有機質繊維がセルロースナノファイバーであることを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載のアルミナ質中空ファイバーの製造方法において、
前記セラミックス原料化合物がアルミニウム及びアルミニウム含有金属化合物のうちの少なくとも1つの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、有機酸塩、及びアルコキシドからなる群から選ばれた1種又は2種以上からなるものであることを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断熱材、濾材、吸着材、触媒担体等として有用な、アルミナ質中空ファイバーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナを主成分とする人造鉱物繊維である、結晶質のアルミナ(Al)やムライト(Al13Si)からなる繊維(アルミナファイバー)は、触媒担体保持材としても利用され、例えば、自動車排ガスの浄化触媒を担持させて、これを自動車排気管内の触媒コンバーター内に収納するようにして利用されている。
【0003】
さらに、アルミナファイバーの両端が開孔した中空ファイバーが開発され、例えば、特許文献1には、セラミック粉末を重合体結合剤組成物に充填してなるペーストを押出して中空繊維を形成し、その結合剤組成物を熱拡散により除去してから粉体粒子を焼結する、精密濾過、限外濾過、ガス分離等のためのセラミック中空繊維膜を製造する方法が開示されている。
【0004】
また、例えば、特許文献2には、有機繊維の外周面に、前駆体となる金属化合物を含有する溶液から析出させた0.1μm以上の厚さの金属酸化物膜を形成した後、該有機繊維を焼成などにより除去して、内部にその有機繊維の形状に相当する空孔が形成されて比表面積が高められたセラミックス中空繊維製品を製造する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表平8−510159号公報
【特許文献2】特開2001−248024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1のセラミック粉末ペーストの押出しを用いる製造方法では、小径の中空ファイバーの製造は困難であるとともに、セラミックス原料に結合剤組成物を添加する必要があるために原料コストが高くなってしまう。また、上記特許文献2の液相析出法では、金属酸化物がアルミナの場合、その前駆体としてギブサイト(Al(OH)、密度2.42g/cm)が得られる。ギブサイトは、アルミナを得る際の焼成時の脱水による体積変化が大きいために、得られるアルミナ質中空ファイバーは構造的な欠陥が生じ易く、機械的強度特性に劣る場合がある。
【0007】
したがって、本発明の目的は、機械的強度特性に優れるアルミナ質中空ファイバーを、安定的に製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、種々検討したところ、鋳型として用いる有機質繊維の周囲に、アルミナの前駆体としてベーマイト(AlOOH、密度3.07g/cm)を生成することにより、優れた機械的強度特性を有するアルミナ質中空ファイバーが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、アルミニウムを主要成分とするセラミックス原料化合物と、有機質繊維と、アルカリ溶液とを含有するスラリーを調製する工程と、得られたスラリーを水熱反応に付して、前記有機質繊維と該有機質繊維を被覆するベーマイトからなる複合物を得る工程と、得られた複合物を焼成反応に付して、アルミナ質中空ファイバーを得る工程とを備えていることを特徴とする、アルミナ質中空ファイバーの製造方法を提供するものである。
【0010】
本発明によるアルミナ質中空ファイバーの製造方法においては、前記スラリーのpHを9.5〜14とすることが好ましい。
【0011】
また、前記水熱反応を、温度100℃以上、圧力0.3〜1.4MPaで行うことが好ましい。
【0012】
また、前記焼成反応を、温度600〜1200℃の酸素雰囲気下で、10分間〜10時間行うことが好ましい。
【0013】
また、前記複合物を前記焼成反応に付するための焼成温度に昇温速度5℃/分以上で達温し、前記焼成反応を行うことが好ましい。
【0014】
また、前記有機質繊維がセルロースナノファイバーであることが好ましい。
【0015】
また、前記セラミックス原料化合物がアルミニウム及びアルミニウム含有金属化合物のうちの少なくとも1つの硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、有機酸塩、及びアルコキシドからなる群から選ばれた1種又は2種以上からなるものであることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アルミナ質中空ファイバーの鋳型として用いる有機質繊維の周囲に、アルミナの前駆体であるベーマイトが生成し、これを焼成すると、有機質繊維が焼失して、機械的強度特性に優れるアルミナ質中空ファイバーが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例1及び比較例1で得られたアルミナの前駆体のX線回折パターンである。
図2】実施例1で得られたアルミナ質中空ファイバーを、ハンドプレス機で加圧した状態を示す光学顕微鏡写真であり、図2(a)は加圧前、図2(b)は加圧後である。
図3】実施例2で得られたアルミナ質中空ファイバーを、ハンドプレス機で加圧した状態を示す光学顕微鏡写真であり、図3(a)は加圧前、図3(b)は加圧後である。
図4】比較例1で得られたアルミナ質中空ファイバーを、ハンドプレス機で加圧した状態を示す光学顕微鏡写真であり、図4(a)は加圧前、図4(b)は加圧後である。
図5】実施例1で得られたアルミナ質中空ファイバーを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した様子を示す図であり、図5(a)はそのTEM写真であり、図5(b)は図5(a)のTEM写真において端部の開孔位置を示すための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明によるアルミナ質中空ファイバーの製造方法は、次の工程(I)〜(III)を備えるものである。
【0019】
(I)アルミニウムを主要成分とするセラミックス原料化合物と、有機質繊維と、アルカリ溶液とを含有するスラリーを調製する工程。
(II)得られたスラリーを水熱反応に付して、前記有機質繊維と該有機質繊維を被覆するベーマイトからなる複合物を得る工程。
(III)得られた複合物を焼成反応に付して、アルミナ質中空ファイバーを得る工程。
【0020】
上記構成を備えたアルミナ質中空ファイバーの製造方法によれば、水熱法を利用して、機械的強度特性に優れるアルミナ質中空ファイバーを簡便に得ることができる。そのメカニズムは、水熱反応によりアルミナの前駆体として生成したベーマイトは、液相析出法で生成するギブサイトに比べて含有する水酸基が少ない上に、比較的に微小且つ大きさの揃った粒子構造を成し、鋳型として用いる有機質繊維の周囲に、その粒子構造が連続して被覆構造体を形成するので、その後のアルミナを得る際の焼成においても脱水による体積変化が小さく、機械的強度特性に優れるアルミナ質中空ファイバーが得られる、というものであろうと考えられる。
【0021】
工程(I)では、アルミニウムを主要成分とするセラミックス原料化合物、及び所望するアルミナ中空ファイバーの鋳型となる有機質繊維を含有するスラリーを調製する。
【0022】
セラミックス原料化合物に含まれる金属元素は、アルミニウムを主体とするが、アルミニウム以外の元素を、アルミニウムを含む全ての金属元素100モル%中30モル%以下含有していてもよい。アルミニウム以外の元素としては、例えば、Li、Na、K等の第IA族の元素;Mg、Ca、Sr、Ba等の第IIA族の元素;Y、La、Ce、Nd、Sm、Dy、Eu等の第IIIA族の元素;Ti、Zr等の第IVA族の元素;V、Nb、Ta等の第VA族の元素;Cr、Mo、W等の第VIA族の元素;Mn等のVIIA族の元素;Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Pd、Os、Ir、Pt等の第VIII族の元素;Cu、Ag、Au等の第IB族の元素;Zn、Cd等の第IIB族の元素;B、Ga、In、Tl等の第IIIB族の元素;Si、Ge、Sn、Pb等の第IVB族の元素;P、As、Sb、Bi等の第VB族の元素;Te、Po等の第VIB族の元素が挙げられる。なかでも、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Ga、Tb、Si、Ge、Sn、Ti、Zr、Mn、Eu、Y、Nb、Ce、Ba等の金属元素を含むことが好ましい。かかるセラミックス原料化合物としては、具体的には、アルミニウム、又はアルミニウムと上記金属元素とからなる金属化合物の硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、酸化物、水酸化物、ハロゲン化物、有機酸塩、アルコキシド等を好適に使用することができる。
【0023】
得られるアルミナ質中空ファイバーは、有機質繊維を鋳型とするので、必要とするアルミナ質中空ファイバーの長さと内径に応じて、適当な大きさを有する有機質繊維を選定する。なお、アルミナ質中空ファイバーの外径(肉厚)は、後述する工程(II)の水熱反応において制御することができる。
【0024】
上記の有機質繊維としては、後述する工程(II)の水熱反応においてベーマイトが表面に生成し、さらに後述する工程(III)の焼成反応において焼失するものであれば特に制限されず、天然繊維ではセルロース、セルロースナノファイバー、ウール、綿、麻、絹等が、合成繊維ではアラミド、ポリアミド、ポリエステル、ポリエチレン、アクリル、レーヨン等が使用できる。
【0025】
なお、上記スラリーの調整において、水への良好な分散性を有する観点からは、有機質繊維としてセルロースナノファイバー(CNF)の使用が好ましい。セルロースナノファイバーとは、全ての植物細胞壁の約5割を占める骨格成分であって、かかる細胞壁を構成する植物繊維をミクロンサイズ若しくはナノサイズまで解繊等することにより得ることができる軽量高強度繊維であり、平均繊維径は10nm〜30μm、平均長さは100nm〜100μmである。
【0026】
上記工程(I)においては、上記セラミックス原料化合物と、上記有機質繊維とを混合してスラリーを調製する際、その分散媒としては、これらをよく溶解又は分散させることができる極性溶媒等を使用すればよいが、通常は、例えば、水を用いることができる。そして、適宜適当なアルカリ剤を添加して、pH調整されたスラリーとし、そのスラリー中に溶解又は分散している金属成分が、中和反応によって金属水酸化物になるようにする。アルカリ剤の添加では、副生成物を抑制する観点から、pH調整されたスラリーのpHが9.5〜14を保持するのに充分な量を滴下するのが好ましい。pHが9.5未満であると不純物としてNaAl(SO)(OH)が副生する傾向があり、水熱反応によるアルミナ前駆体の生成効率が悪くなってしまう場合がある。
【0027】
アルカリ剤としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム、アンモニア等が好ましく、それらは水溶液の形態で添加されることが好ましい。あるいは、上記スラリーを調製する際の分散媒には、そのスラリーを調製した際に、さらなるアルカリ剤を添加することなしに、所望のpHとなるように、もしくは所望のpHに近づくように、予めアルカリ剤が添加されていてもよい。
【0028】
上記セラミックス原料化合物と、上記有機質繊維とを混合してスラリーを調製する際の、pH調整された分散媒(例えば、水)、すなわち、そのアルカリ溶液の使用量は、各原料の溶解性又は分散性、撹拌の容易性、及び水熱反応の効率等の点から、セラミックス原料化合物1gに対して0.5〜1000gが好ましく、さらに0.5〜800gが好ましい。また、スラリー中における有機質繊維の含有量は、アルミナを表面に担持する観点から、スラリー中のセラミックス原料化合物1gに対して0.05〜20gであることが好ましく、0.05〜10gであることがより好ましい。
【0029】
上記スラリーは、中和反応によって金属水酸化物を良好に生成させる観点から、撹拌して中和反応を充分に進行させるのが好ましい。中和反応中におけるスラリーの温度は、5℃以上が好ましく、より好ましくは10〜60℃である。また、中和反応中におけるスラリーの撹拌時間は、2〜120分が好ましく、5〜90分がより好ましい。
【0030】
工程(II)では、上記のようにして得られたスラリーを水熱反応に付して、上記有機質繊維がベーマイトで被覆された複合物(以下、「ベーマイト被覆複合物」という場合がある。)を得る。かかる水熱反応中の温度は100℃以上であることが好ましく、100〜200℃がより好ましい。水熱反応は耐圧容器中で行うのが好ましく、100℃以上で反応を行う場合、この時の圧力は0.3MPa以上であるのが好ましく、100〜200℃で反応を行う場合の圧力は0.3〜1.4MPaであるのが好ましい。水熱反応時間は、0.1〜12時間が好ましく、さらに0.2〜6時間がより好ましい。水熱反応の温度が100℃未満ならびに水熱反応の時間が0.1時間未満の場合、アルミナ前駆体の結晶成長が十分に生じず、アルミナ質中空ファイバーの機械的強度が劣ってしまう場合がある。また、水熱反応の温度が200℃を超え、水熱反応の時間が12時間を超える場合、有機質繊維が溶解し、ベーマイト被覆複合物を得ることができなくなるおそれが生じる。
【0031】
なお、有機質繊維を被覆するベーマイトの被覆厚さを厚くする場合、すなわち肉厚のアルミナ質中空ファイバーを得る場合は、上記スラリーにおける、セラミックス原料化合物/有機質繊維の質量比を大きく設定する。具体的には、セラミックス原料化合物/有機質繊維の質量比を0.5よりも大きくする。そして、水熱反応においては、ベーマイトの個々の結晶の結晶成長が促進するように、低目の温度・圧力環境を長時間継続させる。具体的には、例えば、130℃、0.3MPaで12時間の水熱反応を行うとよい。
【0032】
上記水熱反応後には、上記有機質繊維の表面がベーマイトで被覆されており、これをろ過等により分散媒より分取した後、好ましくは水等で洗浄し、乾燥すること等により、後述する工程(III)の焼成反応に付するためのベーマイト被覆複合物を単離することができる。かかるベーマイト被覆複合物を水で洗浄する際には、副生成物を除去する観点から、ベーマイト被覆複合物の1質量部に対し、水を5〜50質量部用いるのが好ましい。また、乾燥手段としては、凍結乾燥、真空乾燥、温風乾燥等が用いられ、凍結乾燥又は温風乾燥が好ましい。
【0033】
工程(III)では、上記のようにして得られたベーマイト被覆複合物を、さらに焼成反応に付する。これにより、上記工程(II)において得られたベーマイト被覆複合物に含まれる有機繊維を焼失させると同時に、筒状のベーマイトを焼成反応に付して、アルミナ質中空ファイバーを得ることができる。ここで、得られるアルミナを緻密にする観点からは、焼成温度は、酸素雰囲気下で、600〜1200℃であることが好ましく、700〜1200℃であることがより好ましい。また、焼成時間は、10分間〜10時間であることが好ましく、30分間〜5時間であることがより好ましい。焼成温度が600℃未満もしくは焼成時間が10分未満の場合、アルミナ前駆体からの脱水を伴うアルミナの生成ならびにアルミナの結晶成長が不十分となり、アルミナ質中空ファイバーの機械的強度が劣ってしまう場合がある。また、焼成温度が1200℃を超え、焼成時間が10時間を超える場合、アルミナのシンタリングが著しく生じ、中空の形態が得られないおそれが生じる。
【0034】
なお、焼成反応のための雰囲気酸素濃度は特別なものではなく、通常の大気を使用すればよい。焼成手段としては、電気炉、ローラーハースキルン、バッチキルン、プッシャーキルン、メッシュベルトキルン、ロータリーキルン等が用いられ、電気炉、プッシャーキルン又はメッシュベルトキルンが好ましい。
【0035】
本発明の製造方法によるアルミナ質中空ファイバーは、ファイバー端部が開孔したチューブ状になっていてもよく、ファイバー端部が閉孔したチューブ状になっていてもよく、あるいは、それら開孔及び閉孔の端部が混合した状態のチューブ状となっていてもよい。ファイバーの端部が開孔しているか、又は閉孔しているかは、焼成条件により制御できる。具体的には、ベーマイト被覆複合物を焼成反応に付するための焼成温度に達温するまでの昇温速度が大きい場合には、有機質繊維の二酸化炭素へのガス化が急激に起こるため、ファイバー端部が開孔したチューブ状となりやすく、例えば、昇温速度2.5℃/分の場合、ファイバー端部が開孔したチューブが発生し、昇温速度5℃/分以上においては、ほぼ全てのファイバーの端部が開孔する。また、昇温速度2.5℃/分未満の場合、有機質繊維のガス化は徐々に起こるため、ベーマイトの一次粒子の隙間からガスが抜け出た後、ベーマイトのシンタリングにより、多くのファイバーは端部が閉孔した中空状となる。
【0036】
なお、本発明の製造方法によるアルミナ質中空ファイバーは、繊維径や長さは用いる鋳型で任意に制御できるので、均一な大きさのアルミナ質中空ファイバーの集合体としたり、繊維径や長さが異なるアルミナ質中空ファイバーの集合体であってもよく、また化学組成が異なる2種以上のアルミナ質中空ファイバーの集合体であってもよい。
【0037】
本発明の製造方法によって得られたアルミナ質中空ファイバーは、通常のセラミックスファイバーの加工方法等により、断熱材、濾材、吸着材、触媒担体等、あるいはそれらの構成材等、適宜有用な成型体へと加工することが可能である。
【実施例】
【0038】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0039】
[実施例1]
Al(SO・16HO 0.79g、セルロースナノファイバー 2.31g(ダイセルファインケム社製、PC110T、含水量65質量%)、及び水72.3mLを60分間混合してスラリーAを作製した。得られたスラリーAに、10質量%濃度のNaOH水溶液3.0gを添加し、5分間混合してpH10のスラリーBを作製した。
スラリーBをオートクレーブに投入し、140℃、0.3MPaで1時間水熱反応を行った。得られた水熱反応生成物を放冷した後、ろ過して、水で洗浄し、4時間80℃で温風乾燥して、アルミナの前駆体とセルロースナノファイバーからなる複合物Cを得た。得られた複合物Cを電気炉に入れて、空気雰囲気下で700℃1時間焼成して、アルミナ質中空ファイバー(BET比表面積 220m/g)を得た。
【0040】
[実施例2]
セルロースナノファイバーの代わりにコットン 0.81gを用いた以外、実施例1と同様にしてアルミナ質中空ファイバー(BET比表面積 210m/g)を得た。
【0041】
[比較例1(特許文献2の方法)]
0.04mol/LのAl(SO水溶液にアンモニア水を添加して、pHが3の水溶液Dを作製した。得られた水溶液Dに、コットンを60℃24時間浸漬して、コットン繊維上に、アルミナの前駆体を析出させ、4時間80℃で温風乾燥後、空気雰囲気下で500℃1時間焼成して、アルミナ質中空ファイバー(BET比表面積 240m/g)を得た。
【0042】
(試験例1)
実施例1及び比較例1で得られたアルミナの前駆体について、X線回折分析を行った。得られたXRDパターン(使用装置:BrukerAXS株式会社製D8−ADVANCE)を図1に示す。
図1に示されるように、実施例1ではベーマイト(AlOOH)に特徴的なXRDパターンが得られ、比較例1ではギブサイト(Al(OH))に特徴的なXRDパターンが得られた。
【0043】
(試験例2)
実施例1、2及び比較例1で得られたアルミナ質中空ファイバーについて、機械的強度を評価するために、ハンドプレス機を使用して1MPa、10秒間の加圧を行った。加圧前と加圧後の光学顕微鏡像を、実施例1について図2((a)加圧前、(b)加圧後)に、実施例2について図3((a)加圧前、(b)加圧後)に、比較例1について図4((a)加圧前、(b)加圧後)に、それぞれ示す。
その結果、図2、3に示されるように、実施例1、2では、加圧後も繊維の形状を保持しているのに対し、図4に示されるように、比較例1では、加圧後に破壊されて小片になっていた。
【0044】
さらに、実施例1、2及び比較例1で得られたアルミナ質中空ファイバーについて、加圧前と加圧後における、212μm篩での残分量(質量%)を測定した。
測定結果を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
その結果、表1に示されるように、実施例1、2の減量は1割に満たなかったのに対し、比較例1では加圧後の篩残分量が4割以上減じていた。
以上から、実施例1、2で得られたアルミナ質中空ファイバーは、比較例1に比べて、機械的強度に優れていることが明らかとなった。
【0047】
(試験例3)
実施例1で得られたアルミナ質中空ファイバーを透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した(使用装置:日本電子株式会社製JEM−3200FS)。そのTEM観察像を図5に示す。
その結果、図5に示されるように、実施例1で得られたアルミナ質中空ファイバーは、その端部1には開孔2が形成され、開孔したアルミナ質中空ファイバーが得られたことが明らかとなった。
【符号の説明】
【0048】
1 端部
2 開孔
【要約】      (修正有)
【課題】機械的強度特性に優れるアルミナ質中空ファイバーを、安定的に製造する方法の提供。
【解決手段】アルミニウムを主要成分とするセラミックス原料化合物と、有機質繊維と、アルカリ溶液とを含有するpH9.5〜14のスラリーを調製する工程と、得られたスラリーを100℃0.3〜1.4MPaの温度・圧力条件下で水熱反応に付して、前記有機質繊維と該有機質繊維を被覆するベーマイトからなる複合物を得る工程と、得られた複合物を温度60〜1200℃酸素雰囲気中で10分〜10時間の焼成反応に付して、アルミナ質中空ファイバーを得る工程とを備えている、アルミナ質中空ファイバーの製造方法。
【選択図】なし
図1
図2
図3
図4
図5