特許第6427690号(P6427690)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427690半導体装置用の膜を生成するための組成物、半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法、半導体用部材の製造方法、半導体用工程材の製造方法及び半導体装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427690
(24)【登録日】2018年11月2日
(45)【発行日】2018年11月21日
(54)【発明の名称】半導体装置用の膜を生成するための組成物、半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法、半導体用部材の製造方法、半導体用工程材の製造方法及び半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/312 20060101AFI20181112BHJP
   C08G 73/04 20060101ALI20181112BHJP
【FI】
   H01L21/312 B
   C08G73/04
【請求項の数】15
【全頁数】40
(21)【出願番号】特願2017-551912(P2017-551912)
(86)(22)【出願日】2016年11月16日
(86)【国際出願番号】JP2016084008
(87)【国際公開番号】WO2017086360
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2017年12月12日
(31)【優先権主張番号】特願2015-224196(P2015-224196)
(32)【優先日】2015年11月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】茅場 靖剛
(72)【発明者】
【氏名】田中 博文
(72)【発明者】
【氏名】和知 浩子
(72)【発明者】
【氏名】小野 昇子
【審査官】 長谷川 直也
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2014/196636(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/156616(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/013956(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/033172(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/137711(WO,A1)
【文献】 特開2003−171486(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/312−21/3213、21/47−21/475、
21/768、23/52−23/522、
C08G 73/00−73/26、
C08K 3/00−13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)と、
分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)と、
水(D)と、
を含み、
前記化合物(A)は脂肪族アミンである、半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項2】
さらに、前記架橋剤(B)は、分子内に環構造を有する、請求項1に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項3】
前記環構造は、ベンゼン環及びナフタレン環の少なくとも一方である、請求項2に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項4】
さらに、前記架橋剤(B)は、前記3つ以上の−C(=O)OX基において、少なくとも1つのXが炭素数1以上6以下のアルキル基である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項5】
カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)及び窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)をさらに含む、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項6】
前記化合物(A)の重量平均分子量は1万以上20万以下である、請求項1〜請求項5のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項7】
25℃におけるpHが7.0以下である、請求項1〜請求項6のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項8】
金属と絶縁膜との密着層に用いられる、請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項9】
低誘電率材料のポアシール材料に用いられる、請求項1〜請求項8のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項10】
基板に形成された凹部の充填材料に用いられる、請求項1〜請求項9のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物。
【請求項11】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物を製造する製造方法であって、
前記化合物(A)と、前記架橋剤(B)と、を混合する混合工程を含む半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法。
【請求項12】
前記混合工程は、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)と前記化合物(A)との混合物と、前記架橋剤(B)と、を混合する工程である請求項11に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法。
【請求項13】
前記混合工程は、窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)と前記架橋剤(B)との混合物と、前記化合物(A)と、を混合する工程である請求項11に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜請求項10のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いて半導体用部材を製造する製造方法であって、
前記半導体装置用の膜を生成するための組成物を基板に付与する付与工程と、
前記半導体装置用の膜を生成するための組成物が付与された前記基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する、半導体用部材の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜請求項7のいずれか1項に記載の半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いて半導体用工程材を製造する製造方法であって、
前記半導体装置用の膜を生成するための組成物を基板に付与する付与工程と、
前記半導体装置用の膜を生成するための組成物が付与された前記基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する、半導体用工程材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体装置用の膜を生成するための組成物、半導体装置用の膜を生成するための組成物の製造方法、半導体用部材の製造方法、半導体用工程材の製造方法及び半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、電子デバイス分野等の各種の技術分野において、ポリマーを含有する組成物を部材に付与することが行われている。
例えば、カチオン性官能基を有し重量平均分子量が2000〜1000000であるポリエチレンイミン、ポリエチレンイミン誘導体などのポリマーを含有するpHが2.0〜11.0の組成物を、所定の条件を有する部材A及び部材Bの表面に付与する複合体の製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、特許文献1には、組成物が付与された複合部材を、多価カルボン酸を含むリンス液で洗浄することが記載されている。
[特許文献1]国際公開第2014/156616号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
特許文献1では、ポリエチレンイミンなどのポリマーを部材に塗布し、その上に多価カルボン酸を含むリンス液を塗布した後、加熱反応により架橋させており、工程数が多い。しかし、ポリエチレンイミンなどのポリマー及び多価カルボン酸を混合して部材に塗布する組成物を調製しようとすると、ポリマー及び多価カルボン酸が凝集して組成物が白濁化してしまい、その組成物を部材に塗布した場合に凝集体、ピットなどの形成により凹凸が大きく、平滑性が不十分な膜になってしまうという問題がある。
【0004】
本発明の一態様は、上記問題に鑑みてなされたものであり、凝集体及びピットが少なく、平滑性の高い膜が得られる半導体装置用の膜を生成するための組成物、その製造方法、その半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いた半導体用部材の製造方法及びその半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いた半導体用工程材の製造方法並びに平滑性の高い反応物を備える半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するための具体的手段は以下のとおりである。
<1> 1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)と、分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)と、水(D)と、を含み、前記化合物(A)は脂肪族アミンである、半導体用膜組成物。
<2> さらに、前記架橋剤(B)は、分子内に環構造を有する、<1>に記載の半導体用膜組成物。
<3> 前記環構造は、ベンゼン環及びナフタレン環の少なくとも一方である、<2>に記載の半導体用膜組成物。
<4> さらに、前記架橋剤(B)は、前記3つ以上の−C(=O)OX基において、少なくとも1つのXが炭素数1以上6以下のアルキル基である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<5> カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)及び窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)をさらに含む、<1>〜<4>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<6> 前記化合物(A)の重量平均分子量は1万以上20万以下である、<1>〜<5>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<7> 25℃におけるpHが7.0以下である、<1>〜<6>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<8> 金属と絶縁膜との密着層に用いられる、<1>〜<7>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<9> 低誘電率材料のポアシール材料に用いられる、<1>〜<8>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
<10> 基板に形成された凹部の充填材料に用いられる、<1>〜<9>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物。
【0006】
<11> <1>〜<10>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物を製造する製造方法であって、前記化合物(A)と、前記架橋剤(B)と、を混合する混合工程を含む半導体用膜組成物の製造方法。
<12> 前記混合工程は、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)と前記化合物(A)との混合物と、前記架橋剤(B)と、を混合する工程である<11>に記載の半導体用膜組成物の製造方法。
<13> 前記混合工程は、窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)と前記架橋剤(B)との混合物と、前記化合物(A)と、を混合する工程である<11>に記載の半導体用膜組成物の製造方法。
【0007】
<14> <1>〜<10>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物を用いて半導体用部材を製造する製造方法であって、前記半導体用膜組成物を基板に付与する付与工程と、前記半導体用膜組成物が付与された前記基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する、半導体用部材の製造方法。
【0008】
<15> <1>〜<7>のいずれか1つに記載の半導体用膜組成物を用いて半導体用工程材を製造する製造方法であって、前記半導体用膜組成物を基板に付与する付与工程と、前記半導体用膜組成物が付与された前記基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する、半導体用工程材の製造方法。
【0009】
<16> 基板と、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)、及び分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)の反応物と、を備える、半導体装置。
<17> 前記反応物は、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を有する、<16>に記載の半導体装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様は、凝集体及びピットが少なく、平滑性の高い膜が得られる半導体装置用の膜を生成するための組成物、その製造方法、その半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いた半導体用部材の製造方法及びその半導体装置用の膜を生成するための組成物を用いた半導体用工程材の製造方法並びに平滑性の高い反応物を備える半導体装置を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本明細書において、「〜」又は「−」を用いて表される数値範囲は、「〜」又は「−」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0012】
〔半導体用膜組成物〕
以下、本発明に係る半導体用膜組成物の一実施形態について説明する。本実施形態に係る半導体用膜組成物は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)と、分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)と、水(D)と、を含む。化合物(A)は脂肪族アミンである。
【0013】
本実施形態に係る半導体用膜組成物を用いる、具体的には、この半導体用膜組成物を部材に塗布して膜を形成することで、凝集体及びピットが少なく、平滑性の高い膜が得られる。また、本実施形態に係る半導体用膜組成物を用いることで、前述の特許文献1(国際公開第2014/156616号)の技術よりも容易に平滑性の高い膜を得ることができる。
【0014】
本実施形態に係る半導体用膜組成物を用いることで、凹凸が小さく平滑性がよい膜を形成することができ、例えば、シリコン基板などの平滑な基板上に本実施形態に係る半導体用膜組成物を用いて成膜した場合に、SEM(走査型電子顕微鏡)の20万倍率で500nm幅視野内にて、膜厚の最大値と最小値との差が平均膜厚の25%以下である膜を形成することができる。
【0015】
さらに、前述の特許文献1の技術では、ポリエチレンイミンなどのポリマーを部材に塗布し、その上に多価カルボン酸を含むリンス液を塗布した後、加熱反応により架橋させているため、塗布されたポリマーが多価カルボン酸を含むリンス液に溶解してしまうおそれがある。そのため、部材に形成される膜において、大口径ウェハにおける面内の膜厚が均一になりにくく、膜厚の制御も容易ではない。
【0016】
また、前述の特許文献1の技術では、数十ナノメートル以上の厚い膜を形成する場合、多価カルボン酸が部材とポリマーとの界面まで浸透しにくいため、膜厚方向の組成が均一になりにくい。
【0017】
一方、本実施形態では、化合物(A)及び架橋剤(B)を含む半導体用膜組成物を部材に塗布して膜を形成することで、平滑性を高め、かつ膜厚方向における組成の均一性を高めることができる。
【0018】
本実施形態に係る半導体用膜組成物を用いることで、平滑性及び膜厚方向における組成の均一性に優れ、例えば、0.5nm以上5μm以下の膜厚を有する膜を形成することができる。また、大口径シリコン基板の表面に平滑性に優れる膜を形成することができ、例えば、膜厚が5nm以上150nmとしたときに300ミリφシリコン基板の中心と端部との膜厚ばらつきを±5%以下とすることができる。
【0019】
また、本実施形態に係る半導体用膜組成物は、半導体装置用の膜を生成するための組成物(以下、「組成物」と称することもある。)であり、例えば、基板に形成された凹部に充填されるギャップフィル材料(埋め込み平坦化膜)、基板に形成された凹部に充填される絶縁材料(埋め込み絶縁膜)、多孔質材料などの低誘電率材料と金属との間に設けられ、絶縁性、密着性、ポアシール性などを有するポアシール材料(ポアシール膜)、シリコン貫通ビア基板のビア側壁において、金属とシリコン基板との間又は金属と絶縁膜との間に設けられ、密着性、絶縁性を有する絶縁材料(シリコン貫通ビア用絶縁膜)、多孔質材料の細孔に染み込むことで多孔質材料をエッチングダメージなどから保護するポアフィリング材(ポアフィリング膜)などの形成に用いられる。用途としては特に、低誘電率材料のポアシール材料、金属と絶縁膜との密着層、基板に形成された凹部の充填材料(埋め込み平坦化膜)に適している。
【0020】
(化合物(A))
本実施形態に係る組成物は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)を含み、化合物(A)は脂肪族アミンである。また、化合物(A)は、シロキサン結合(Si−O結合)を有さないことが好ましい。
【0021】
化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有する化合物である。カチオン性官能基としては、正電荷を帯びることができ、かつ1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含む官能基であれば特に限定されない。
【0022】
さらに、化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子のほかに、3級窒素原子を含んでいてもよい。
【0023】
本明細書において、「1級窒素原子」とは、水素原子2つ及び水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(例えば、1級アミノ基(−NH基)に含まれる窒素原子)、又は、水素原子3つ及び水素原子以外の原子1つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
また、「2級窒素原子」とは、水素原子1つ及び水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(即ち、下記式(a)で表される官能基に含まれる窒素原子)、又は、水素原子2つ及び水素原子以外の原子2つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
また、「3級窒素原子」とは、水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(即ち、下記式(b)で表される官能基である窒素原子)、又は、水素原子1つ及び水素原子以外の原子3つのみに結合している窒素原子(カチオン)を指す。
【0024】
【化1】

【0025】
式(a)及び式(b)において、*は、水素原子以外の原子との結合位置を示す。
ここで、前記式(a)で表される官能基は、2級アミノ基(−NHR基;ここで、Rはアルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマーの骨格中に含まれる2価の連結基であってもよい。
また、前記式(b)で表される官能基(即ち、3級窒素原子)は、3級アミノ基(−NR基;ここで、R及びRは、それぞれ独立に、アルキル基を表す)の一部を構成する官能基であってもよいし、ポリマーの骨格中に含まれる3価の連結基であってもよい。
【0026】
化合物(A)の重量平均分子量は、1万以上40万以下であり、1万以上20万以下であることが好ましい。重量平均分子量が1万以上であると、歩留り良く平滑な膜を形成できる傾向にある。
【0027】
なお、本明細書において、重量平均分子量は、GPC(Gel Permeation Chromatography)法によって測定された、ポリエチレングリコール換算の重量平均分子量を指す。
具体的には、重量平均分子量は、展開溶媒として硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用い、分析装置Shodex GPC−101及び2種類の分析カラム(東ソー製 TSKgel G6000PWXL-CP及びTSKgel G3000PWXL-CP)とリファレンスカラム(東ソー製 TSKgel SCX)を用いて流速1.0mL/minで屈折率を検出し、ポリエチレングリコールを標準品として解析ソフト(SIC製 480IIデーターステーション)にて算出される。
【0028】
また、化合物(A)は、必要に応じて、アニオン性官能基、ノニオン性官能基等をさらに有していてもよい。
前記ノニオン性官能基は、水素結合受容基であっても、水素結合供与基であってもよい。前記ノニオン性官能基としては、例えば、ヒドロキシ基、カルボニル基、エーテル基(−O−)、等を挙げることができる。
前記アニオン性官能基は、負電荷を帯びることができる官能基であれば特に制限はない。前記アニオン性官能基としては、例えば、カルボン酸基、スルホン酸基、硫酸基等を挙げることができる。
【0029】
脂肪族アミンである化合物(A)としては、より具体的には、エチレンイミン、プロピレンイミン、ブチレンイミン、ペンチレンイミン、ヘキシレンイミン、ヘプチレンイミン、オクチレンイミン、トリメチレンイミン、テトラメチレンイミン、ペンタメチレンイミン、ヘキサメチレンイミン、オクタメチレンイミンなどのアルキレンイミンの重合体であるポリアルキレンイミン;ポリアリルアミン;ポリアクリルアミドが挙げられる。
【0030】
ポリエチレンイミン(PEI)は、特公昭43−8828号公報、特公昭49−33120号公報、特開2001−2123958号公報、国際公開第2010/137711号パンフレット等に記載の公知の方法によって、製造することができる。ポリエチレンイミン以外のポリアルキレンイミンについても、ポリエチレンイミンと同様の方法により製造できる。
【0031】
化合物(A)は、上述したポリアルキレンイミンの誘導体(ポリアルキレンイミン誘導体;特に好ましくはポリエチレンイミン誘導体)であることもまた好ましい。ポリアルキレンイミン誘導体としては、上記ポリアルキレンイミンを用いて製造可能な化合物であれば特に制限はない。具体的には、ポリアルキレンイミンにアルキル基(好ましくは炭素数1〜10のアルキル基)、アリール基等を導入したポリアルキレンイミン誘導体、ポリアルキレンイミンに水酸基等の架橋性基を導入して得られるポリアルキレンイミン誘導体等を挙げることができる。
これらのポリアルキレンイミン誘導体は、上記ポリアルキレンイミンを用いて通常行われる方法により製造することができる。具体的には例えば、特開平6―016809号公報等に記載の方法に準拠して製造することができる。
【0032】
また、ポリアルキレンイミン誘導体としては、ポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させることにより、ポリアルキレンイミンの分岐度を向上させて得られた高分岐型のポリアルキレンイミンも好ましい。
高分岐型のポリアルキレンイミンを得る方法としては、例えば、骨格中に複数の2級窒素原子を有するポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させ、前記複数の2級窒素原子のうちの少なくとも1部をカチオン性官能基含有モノマーによって置換する方法、末端に複数の1級窒素原子を有するポリアルキレンイミンに対してカチオン性官能基含有モノマーを反応させ、前記複数の1級窒素原子のうちの少なくとも1部をカチオン性官能基含有モノマーによって置換する方法等、が挙げられる。
分岐度を向上するために導入されるカチオン性官能基としては、アミノエチル基、アミノプロピル基、ジアミノプロピル基、アミノブチル基、ジアミノブチル基、トリアミノブチル基等を挙げることができるが、カチオン性官能基当量を小さくしカチオン性官能基密度を大きくする観点から、アミノエチル基が好ましい。
【0033】
また、前記ポリエチレンイミン及びその誘導体は、市販のものであってもよい。例えば、(株)日本触媒、BASF社、MP−Biomedicals社等から市販されているポリエチレンイミン及びその誘導体から、適宜選択して用いることもできる。
【0034】
前述のように、化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有する。ここで、化合物(A)が1級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める1級窒素原子の割合が20モル%以上であることが好ましく、25モル%以上であることがより好ましく、30モル%以上であることが更に好ましい。また、化合物(A)は、1級窒素原子を含み、かつ1級窒素原子以外の窒素原子(例えば、2級窒素原子、3級窒素原子)を含まないカチオン性官能基を有していてもよい。
【0035】
また、化合物(A)が2級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める2級窒素原子の割合が5モル%以上50モル%以下であることが好ましく、10モル%以上45モル%以下であることがより好ましい。
【0036】
また、化合物(A)は、1級窒素原子及び2級窒素原子のほかに、3級窒素原子を含んでいてよく、化合物(A)が3級窒素原子を含む場合には、化合物(A)中の全窒素原子中に占める3級窒素原子の割合が20モル%以上50モル%以下であることが好ましく、25モル%以上45モル%以下であることが好ましい。
【0037】
本実施形態において、組成物中における化合物(A)の含有量は、特に制限されないが、例えば、組成物全体に対して0.001質量%以上20質量%以下とすることができ、0.01質量%以上10質量%以下であることが好ましく、0.04質量%以上5質量%以下であることがより好ましい。
【0038】
(架橋剤(B))
本実施形態に係る組成物は、分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基(以下、「COOX」とも称する。)のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基(以下、「COOH」とも称する。)であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)を含む。
【0039】
架橋剤(B)は、分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である。)を3つ以上有する化合物であるが、好ましくは、分子内に−C(=O)OX基を3つ以上6つ以下有する化合物であり、より好ましくは、分子内に−C(=O)OX基を3つ又は4つ有する化合物である。
【0040】
架橋剤(B)において、−C(=O)OX基中のXとしては、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基が挙げられ、中でも、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基が好ましい。なお、−C(=O)OX基中のXは互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0041】
架橋剤(B)は、分子内にXが水素原子である−C(=O)OH基を1つ以上6つ以下有する化合物であるが、好ましくは、分子内に−C(=O)OH基を1つ以上4つ以下有する化合物であり、より好ましくは、分子内に−C(=O)OH基を2つ以上4つ以下有する化合物であり、更に好ましくは、分子内に−C(=O)OH基を2つ又は3つ有する化合物である。
【0042】
架橋剤(B)は、重量平均分子量が200以上600以下の化合物である。好ましくは、200以上400以下の化合物である。
【0043】
架橋剤(B)は、分子内に環構造を有することが好ましい。環構造としては、脂環構造、芳香環構造などが挙げられる。また、架橋剤(B)は、分子内に複数の環構造を有していてもよく、複数の環構造は、同じであっても異なっていてもよい。
【0044】
脂環構造としては、例えば、炭素数3以上8以下の脂環構造、好ましくは炭素数4以上6以下の脂環構造が挙げられ、環構造内は飽和であっても不飽和であってもよい。より具体的には、脂環構造としては、シクロプロパン環、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環などの飽和脂環構造;シクロプロペン環、シクロブテン環、シクロペンテン環、シクロヘキセン環、シクロヘプテン環、シクロオクテン環などの不飽和脂環構造が挙げられる。
【0045】
芳香環構造としては、芳香族性を示す環構造であれば特に限定されず、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ペリレン環などのベンゼン系芳香環、ピリジン環、チオフェン環などの芳香族複素環、インデン環、アズレン環などの非ベンゼン系芳香環などが挙げられる。
【0046】
架橋剤(B)が分子内に有する環構造としては、例えば、シクロブタン環、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ベンゼン環及びナフタレン環からなる群より選択される少なくとも1つが好ましく、組成物から得られる膜の耐熱性をより高める点から、ベンゼン環及びナフタレン環の少なくとも一方がより好ましい。
【0047】
前述したように、架橋剤(B)は、分子内に複数の環構造を有していてもよく、環構造がベンゼンの場合、ビフェニル構造、ベンゾフェノン構造、ジフェニルエーテル構造などを有してもよい。
【0048】
架橋剤(B)は、分子内にフッ素原子を有することが好ましく、分子内に1つ以上6つ以下のフッ素原子を有することがより好ましく、分子内に3つ以上6つ以下のフッ素原子を有することが更に好ましい。例えば、架橋剤(B)は、分子内にフルオロアルキル基を有していてもよく、具体的には、トリフルオロアルキル基又はヘキサフルオロイソプロピル基を有していてもよい。
【0049】
さらに、架橋剤(B)としては、脂環カルボン酸、ベンゼンカルボン酸、ナフタレンカルボン酸、ジフタル酸、フッ化芳香環カルボン酸などのカルボン酸化合物;脂環カルボン酸エステル、ベンゼンカルボン酸エステル、ナフタレンカルボン酸エステル、ジフタル酸エステル、フッ化芳香環カルボン酸エステルなどのカルボン酸エステル化合物が挙げられる。なお、カルボン酸エステル化合物は、分子内にカルボキシ基(−C(=O)OH基)を有し、かつ、3つ以上の−C(=O)OX基において、少なくとも一つのXが炭素数1以上6以下のアルキル基(すなわち、エステル結合を有する)である化合物である。本実施形態に係る組成物では、架橋剤(B)がカルボン酸エステル化合物であることにより、組成物中における化合物(A)と架橋剤(B)との会合による凝集が抑制され、凝集体及びピットが少なくなり、かつ平滑性がより高い膜又は膜厚の大きな膜を得ること及び膜厚の調整が容易となる。
【0050】
前記カルボン酸化合物としては、−C(=O)OH基を4つ以下含む4価以下のカルボン酸化合物であることが好ましく、−C(=O)OH基を3つ又は4つ含む3価又は4価のカルボン酸化合物であることがより好ましい。
【0051】
前記カルボン酸エステル化合物としては、分子内にカルボキシ基(−C(=O)OH基)を3つ以下含み、かつエステル結合を3つ以下含む化合物であることが好ましく、分子内にカルボキシ基を2つ以下含み、かつエステル結合を2つ以下含む化合物であることがより好ましい。
【0052】
また、前記カルボン酸エステル化合物では、3つ以上の−C(=O)OX基において、Xが炭素数1以上6以下のアルキル基である場合、Xは、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などが好ましいが、組成物中における化合物(A)と架橋剤(B)との会合による凝集をより抑制する点から、エチル基又はプロピル基であることが好ましい。
【0053】
前記カルボン酸化合物の具体例としては、これらに限定されないが、1,2,3,4−シクロブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−シクロペンタンテトラカルボン酸、1,3,5−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4−シクロヘキサントリカルボン酸、1,2,4,5−シクロヘキサンテトラカルボン酸、1,2,3,4,5,6−シクロヘキサンヘキサカルボン酸等の脂環カルボン酸;1,2,4−ベンゼントリカルボン酸、1,3,5−ベンゼントリカルボン酸、ピロメリット酸、ベンゼンペンタカルボン酸、メリト酸等のベンゼンカルボン酸;1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸等のナフタレンカルボン酸;3,3’,5,5’−テトラカルボキシジフェニルメタン、ビフェニル−3,3’,5,5’−テトラカルボン酸、ビフェニル−3,4’,5−トリカルボン酸、ビフェニル−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、ベンゾフェノン−3,3’,4,4’−テトラカルボン酸、4,4’−オキシジフタル酸、3,4’−オキシジフタル酸、1,3−ビス(フタル酸)テトラメチルジシロキサン、4,4’−(エチン−1,2−ジニル)ジフタル酸(4,4'-(Ethyne-1,2-diyl)diphthalic acid)、4,4‘−(1,4−フェニレンビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-(1,4-phenylenebis(oxy))diphthalic acid)、4,4’−([1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジルビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-([1,1'-biphenyl]-4,4'-diylbis(oxy))diphthalic acid)、4,4’−((オキシビス(4,1−フェニレン))ビス(オキシ))ジフタル酸(4,4'-((oxybis(4,1-phenylene))bis(oxy))diphthalic acid)等のジフタル酸;ペリレン−3,4,9,10−テトラカルボン酸等のペリレンカルボン酸;アントラセン−2,3,6,7−テトラカルボン酸等のアントラセンカルボン酸;4,4’−(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸、9,9−ビス(トリフルオロメチル)−9H−キサンテン−2,3,6,7−テトラカルボン酸、1,4−ジトリフルオロメチルピロメリット酸等のフッ化芳香環カルボン酸が挙げられる。
【0054】
前記カルボン酸エステル化合物の具体例としては、前述のカルボン酸化合物の具体例における少なくとも1つのカルボキシ基がエステル基に置換された化合物が挙げられる。カルボン酸エステル化合物としては、例えば、下記一般式(B−1)〜(B−6)で表されるハーフエステル化された化合物が挙げられる。
【0055】
【化2】

【0056】
一般式(B−1)〜(B−6)におけるRは、炭素数1以上6以下のアルキル基であり、中でもメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基が好ましく、エチル基、プロピル基がより好ましい。
【0057】
ハーフエステル化された化合物は、例えば、前述のカルボン酸化合物の無水物であるカルボン酸無水物を、アルコール溶媒に混合し、カルボン酸無水物を開環させて生成することが可能である。
【0058】
本実施形態において、組成物中における架橋剤(B)の含有量は、特に制限されないが、例えば、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)は、0.1以上3.0以下であることが好ましく、0.3以上2.5以下であることがより好ましく、0.4以上2.2以下であることが更に好ましい。COOH/Nが0.1以上3.0以下であることにより、組成物を用いることで、加熱処理後に化合物(A)と架橋剤(B)との間にアミド、イミドなどの架橋構造を有し、耐熱性及び絶縁性により優れた膜を製造することができる。
【0059】
(水(D))
本実施形態に係る組成物は、水(D)(好ましくは、超純水)を含む。水(D)は重水であってもよく、重水を含んでいてもよい。
成物中における水(D)の含有量は、特に限定されないが、例えば、組成物全体に対して1.0質量%以上99.9985質量%以下であり、40質量%以上99.9985質量%以下であることが好ましい。
【0060】
(添加剤(C))
本実施形態に係る組成物は、前述の化合物(A)、架橋剤(B)及び水(D)のほかに添加剤(C)を含んでいてもよい。添加剤(C)としては、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)、窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)が挙げられる。
【0061】
酸(C−1)は、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸である。本実施形態に係る組成物は、添加剤(C)として酸(C−1)を含むことにより、化合物(A)におけるアミノ基と酸(C−1)におけるカルボキシ基とがイオン結合を形成することで、化合物(A)と架橋剤(B)との会合による凝集が抑制されると推測される。より詳細には、化合物(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと酸(C−1)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用(例えば、静電相互作用)が、化合物(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、凝集が抑制されると推測される。なお、本発明は上記推測によって何ら限定されない。
【0062】
酸(C−1)としては、カルボキシ基を有し、かつ重量平均分子量46以上195以下の化合物であれば特に限定されず、モノカルボン酸化合物、ジカルボン酸化合物、オキシジカルボン酸化合物などが挙げられる。より具体的には、酸(C−1)としては、ギ酸、酢酸、マロン酸、シュウ酸、クエン酸、安息香酸、乳酸、グリコール酸、グリセリン酸、酪酸、メトキシ酢酸、エトキシ酢酸、フタル酸、テレフタル酸、ピコリン酸、サリチル酸、3,4,5−トリヒドロキシ安息香酸などが挙げられる。
【0063】
本実施形態において、組成物中における酸(C−1)の含有量は、特に制限されないが、例えば、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する酸(C−1)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が、0.01以上10以下であることが好ましく、0.02以上6以下であることがより好ましく、0.02以上1.5以下が更に好ましく、0.02以上1.2以下が特に好ましい。
【0064】
塩基(C−2)は、窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基である。本実施形態に係る組成物は、添加剤(C)として塩基(C−2)を含むことにより、架橋剤(B)におけるカルボキシ基と塩基(C−2)におけるアミノ基とがイオン結合を形成することで、化合物(A)と架橋剤(B)との会合による凝集が抑制されると推測される。より詳細には、架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンと塩基(C−2)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンとの相互作用が、化合物(A)におけるアミノ基に由来するアンモニウムイオンと架橋剤(B)におけるカルボキシ基に由来するカルボキシラートイオンとの相互作用よりも強いため、凝集が抑制されると推測される。なお、本発明は上記推測によって何ら限定されない。
【0065】
塩基(C−2)としては、窒素原子を有し、かつ重量平均分子量17以上120以下の化合物であれば特に限定されず、モノアミン化合物、ジアミン化合物などが挙げられる。より具体的には、塩基(C−2)としては、アンモニア、エチルアミン、エタノールアミン、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、N−アセチルエチレンジアミン、N−(2−アミノエチル)エタノールアミン、N−(2−アミノエチル)グリシンなどが挙げられる。
【0066】
本実施形態において、組成物中における塩基(C−2)の含有量は、特に制限されないが、例えば、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基(C−2)中の窒素原子の数の比率(N/COOH)が、0.5以上5以下であることが好ましく、0.9以上3以下であることがより好ましい。
【0067】
(その他の成分)
本実施形態に係る組成物は、ナトリウム及びカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であることが好ましい。ナトリウム又はカリウムの含有量がそれぞれ元素基準で10質量ppb以下であれば、トランジスタの動作不良など半導体装置の電気特性に不都合が発生することを抑制できる。
【0068】
本実施形態に係る組成物は、重量平均分子量90以上600以下の、分子内に環構造を有するアミン化合物をさらに含んでもよい。重量平均分子量90以上600以下の、分子内に環構造を有するアミン化合物としては、脂環式アミン、芳香環アミン、複素環(ヘテロ環)アミン等が挙げられる。分子内に複数の環構造を有していてもよく、複数の環構造は、同じであっても異なっていてもよい。環構造を有するアミン化合物としては、熱的に、より安定な化合物が得られ易いため、芳香環を有するアミン化合物がより好ましい。
また、重量平均分子量90以上600以下の、分子内に環構造を有するアミン化合物としては、架橋剤(B)とイミド、イミドアミド、アミドなどの架橋構造を形成し易く、耐熱性を高めることができる点から、第一級アミンを有する化合物が好ましい。更に、前述のアミン化合物としては、架橋剤(B)とのイミド、イミドアミド、アミドなどの架橋構造の数を多くし易く、耐熱性をより高めることができる点から、第一級アミンを2つ有するジアミン化合物、第一級アミンを3つ有するトリアミン化合物等がより好ましい。
脂環式アミンとしては、シクロヘキシルアミン、ジメチルアミノシクロヘキサンなどが挙げられる。
芳香環アミンとしては、例えば、ジアミノジフェニルエーテル、キシレンジアミン、ジアミノベンゼン、ジアミノトルエン、メチレンジアニリン、ジメチルジアミノビフェニル、ビス(トリフルオロメチル)ジアミノビフェニル、ジアミノベンゾフェノン、ジアミノベンズアニリド、ビス(アミノフェニル)フルオレン、ビス(アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス(アミノフェノキシ)ビフェニル、ジカルボキシジアミノジフェニルメタン、ジアミノレゾルシン、ジヒドロキシベンジジン、ジアミノベンジジン、1,3,5−トリアミノフェノキシベンゼン、2,2’−ジメチルベンジジン、トリス(4−アミノフェニル)アミンなどが挙げられる。
複素環アミンの複素環としては、ヘテロ原子として硫黄原子を含む複素環(例えば、チオフェン環)、または、ヘテロ原子として窒素原子を含む複素環(例えば、ピロール環、ピロリジン環、ピラゾール環、イミダゾール環、トリアゾール環等の5員環;イソシアヌル環、ピリジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペリジン環、ピペラジン環、トリアジン環等の6員環;インドール環、インドリン環、キノリン環、アクリジン環、ナフチリジン環、キナゾリン環、プリン環、キノキサリン環等の縮合環等)などが挙げられる。
窒素原子を含有する複素環を有する複素環アミンとしては、メラミン、アンメリン、メラム、メレム、トリス(4−アミノフェニル)アミンなどが挙げられる。
更に、複素環と芳香環の両方を有するアミン化合物としては、N2,N4,N6−トリス(4−アミノフェニル)―1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミンなどが挙げられる。
【0069】
本実施形態に係る組成物は、水(D)以外の溶媒(水溶性溶媒)を含んでいてもよい。水(D)以外の溶媒としては、例えば、プロトン性無機化合物;メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、イソブチルアルコール、イソペンチルアルコール、シクロヘキサノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、ベンジルアルコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、グリセリンなどのアルコール類;テトラヒドロフラン、ジメトキシエタンなどのエーテル類;フルフラール、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノンなどのアルデヒド・ケトン類;無水酢酸、酢酸エチル、酢酸ブチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、ホルムアルデヒド、N−メチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル-2-ピロリドン、ヘキサメチルリン酸アミドなどの酸誘導体;アセトニトリル、プロピロニトリルなどのニトリル類;ニトロメタン、ニトロベンゼンなどのニトロ化合物;ジメチルスルホキシドなどの硫黄化合物などの極性溶媒が挙げられる。
【0070】
また、本実施形態に係る組成物は、例えば電気特性改善のために、フタル酸、安息香酸など、又はこれらの誘導体を含有してもよい。
また、本実施形態に係る組成物は、例えば銅の腐食を抑制するため、ベンゾトリアゾール又はその誘導体を含有していてもよい。
【0071】
本実施形態に係る組成物のpHとしては、特に限定されないが、2.0以上12.0以下であることが好ましく、7.0以下であることがより好ましい。pH7.0以下であると、低誘電率材料のポアシール材料として用いた際に、低誘電率材料の表面には膜が形成され、金属等の導電部の表面には膜が形成されにくくなり、膜の被形成面の材質によって選択性を持たせることができる。
【0072】
〔組成物の製造方法〕
以下、本発明の一実施形態に係る組成物の製造方法について説明する。本実施形態に係る組成物の製造方法は、化合物(A)と、架橋剤(B)と、を混合する混合工程を含む。なお、前述のように、組成物は、水(D)を含んでいるが、組成物を製造する任意のタイミングにて、水(D)を、化合物(A)、架橋剤(B)、及び化合物(A)と架橋剤(B)との混合物に添加してもよい。また、その他の成分を添加するタイミングも特に限定されない。
【0073】
本実施形態に係る組成物の製造方法では、さらに、カルボキシ基を有する重量平均分子量46以上195以下の酸(C−1)及び窒素原子を有する重量平均分子量17以上120以下の塩基(C−2)からなる群より選ばれる少なくとも1種の添加剤(C)を、混合工程にて化合物(A)又は架橋剤(B)に添加してもよい。なお、添加剤(C)を添加するタイミングは特に限定されない。
【0074】
また、添加剤(C)として酸(C−1)を添加する場合、混合工程は、酸(C−1)と化合物(A)との混合物と、架橋剤(B)と、を混合する工程であることが好ましい。すなわち、化合物(A)と架橋剤(B)とを混合する前に、化合物(A)と酸(C−1)とを予め混合しておくことが好ましい。これにより、化合物(A)と架橋剤(B)とを混合した際に、組成物の白濁及びゲル化(ゲル化すると組成物の透明化に時間がかかる場合があり、好ましくない)を好適に抑制することができる。
【0075】
また、添加剤(C)として塩基(C−2)を添加する場合、混合工程は、塩基(C−2)と架橋剤(B)との混合物と、化合物(A)と、を混合する工程であることが好ましい。すなわち、化合物(A)と架橋剤(B)とを混合する前に、架橋剤(B)と塩基(C−2)とを予め混合しておくことが好ましい。これにより、化合物(A)と架橋剤(B)とを混合した際に、組成物の白濁及びゲル化(ゲル化すると組成物の透明化に時間がかかる場合があり、好ましくない)を好適に抑制することができる。
【0076】
〔半導体用部材の製造方法〕
以下、本実施形態に係る半導体用部材の製造方法について説明する。本実施形態に係る半導体用部材の製造方法は、組成物を基板に付与する付与工程と、組成物が付与された基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する。
【0077】
<付与工程>
本実施形態における付与工程は、組成物を基板に付与する工程である。
基板としては、シリコン基板等の半導体基板、ガラス基板、石英基板、ステンレス基板、プラスチック基板等が挙げられる。基板の形状も特に制限されず、板状、皿状等のいずれであってもよい。例えば、シリコン基板としては、層間絶縁層(Low−k膜)が形成されたシリコン基板であってもよく、また、シリコン基板には、微細な溝(凹部)、微細な貫通孔などが形成されていてもよい。
【0078】
本実施形態における付与工程において、組成物を付与する方法としては特に制限はなく、通常用いられる方法を用いることができる。
通常用いられる方法としては、例えば、ディッピング法、スプレー法、スピンコート法、バーコー法などが挙げられる。例えば、ミクロンサイズの膜厚を有する膜を形成する場合、バーコー法を用いることが好ましく、ナノサイズ(数nm〜数百nm)の膜厚を有する膜を形成する場合、スピンコート法を用いることが好ましい。
【0079】
例えば、スピンコート法による組成物の付与方法としては特に限定はなく、例えば、基板をスピンコーターで回転させながら、基板の表面に組成物を滴下し、次いで基板の回転数を上げて乾燥させる方法を用いることができる。
スピンコート法による組成物の付与方法において、基板の回転数、組成物の滴下量及び滴下時間、乾燥時の基板の回転数などの諸条件については特に制限はなく、形成する膜の厚さなどを考慮しながら適宜調整できる。
【0080】
<乾燥工程>
本実施形態に係る製造方法は、後述する加熱工程の前に、組成物が付与された基板を、温度80℃以上250℃以下の条件で乾燥する乾燥工程を有していてもよい。なお、前記温度は、基板の組成物が付与された面の温度を指す。
上記温度は、90℃以上200℃以下がより好ましく、100℃以上150℃以下がより好ましい。
【0081】
本工程における乾燥は通常の方法によって行うことができるが、例えばホットプレートを用いて行うことができる。
本工程における乾燥を行う雰囲気には特に制限はなく、例えば、大気雰囲気下で行ってもよいし、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)雰囲気下で行なってもよい。
【0082】
乾燥時間については特に制限はないが、300秒以下が好ましく、200秒以下がより好ましく、120秒以下が更に好ましく、80秒以下が特に好ましい。
乾燥時間の下限には特に制限はないが、下限は、例えば10秒(好ましくは20秒、より好ましくは30秒)とすることができる。
【0083】
<洗浄工程>
本実施形態に係る製造方法は、後述する加熱工程の前に、基板に付与された余分な組成物を除去するために、組成物が付与された基板を水等で洗浄する洗浄工程を有していてもよい。また、本実施形態に係る製造方法が、前述の乾燥工程を有する場合、乾燥工程の後に、洗浄工程を行うことが好ましい。
【0084】
<加熱工程>
本実施形態に係る製造方法は、更に、組成物が付与された基板を、温度200℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する。
なお、前記温度は、基板の組成物が付与された面の温度を指す。
この加熱工程を有することにより、化合物(A)と架橋剤(B)とが加熱により反応して反応物が得られ、その反応物を含む膜が形成される。
前記温度は、250℃以上400℃以下が好ましく、300℃以上400℃以下がより好ましい。
【0085】
また、加熱工程における加熱が行なわれる圧力には特に制限はないが、絶対圧17Pa超大気圧以下が好ましい。
前記絶対圧は、1000Pa以上大気圧以下がより好ましく、5000Pa以上大気圧以下が更に好ましく、10000Pa以上大気圧以下が特に好ましい。
【0086】
加熱工程における加熱は、炉又はホットプレートを用いた通常の方法により行うことができる。炉としては、例えば、アペックス社製のSPX−1120、光洋サーモシステム(株)製のVF−1000LP等を用いることができる。
また、本工程における加熱は、大気雰囲気下で行なってもよく、不活性ガス(窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス等)雰囲気下で行なってもよい。
【0087】
加熱工程における加熱時間については特に制限はないが、例えば1時間以下であり、30分間以下が好ましく、10分間以下がより好ましく、5分間以下が特に好ましい。加熱の時間の下限には特に制限はないが、例えば0.1分間とすることができる。
【0088】
加熱工程時間を短縮させる目的で、基板の組成物が付与された面に紫外線照射を行ってもよい。紫外線としては波長170nm〜230nmの紫外光、波長222nmエキシマ光、波長172nmエキシマ光などが好ましい。また不活性ガス雰囲気下で紫外線照射を行うことが好ましい。
【0089】
<半導体用部材の例>
半導体用部材の例としては、基板に形成された凹部にギャップフィル材料(埋め込み平坦化膜)が充填された半導体用部材、基板に形成された凹部に絶縁材料(埋め込み絶縁膜)が充填された半導体用部材、多孔質材料などの低誘電率材料を含む基板と金属との間に絶縁性、密着性、ポアシール性などを有するポアシール材料(ポアシール膜)が設けられた半導体用部材、シリコン貫通ビア基板のビア側壁において、金属とシリコン基板との間又は金属と絶縁膜との間に設けられ、密着性、絶縁性を有する絶縁膜(シリコン貫通ビア用絶縁膜)が設けられた半導体用部材、多孔質材料を含む基板の細孔に染み込むことで多孔質材料をエッチングダメージなどから保護するポアフィリング材(ポアフィリング膜)を有する半導体用部材などが挙げられる。
【0090】
基板に形成された凹部に埋め込み平坦化膜が充填された半導体用部材では、埋め込み平坦化膜の厚さは、例えば、30nm以上200nm以下であり、好ましくは50nm以上150nm以下である。
なお、この半導体用部材は、銅多層配線をデュアルダマシンプロセスにて形成する際、例えばビアファーストプロセスにおいて、ビアに埋め込み平坦化膜が設けられた部材として用いることができる。
また、凹部の幅が狭く、アスペクト比(深さ/幅)の大きな溝に埋め込み平坦化膜を形成する場合には、溝への充填性を高める点から、本実施形態に係る組成物を凹部に付与(好ましくは、スピンコート法により付与)して埋め込み平坦化膜を形成することが好ましい。
【0091】
基板に形成された凹部に埋め込み絶縁膜が充填された半導体用部材では、埋め込み絶縁膜の厚さは、例えば、30nm以上200nm以下であり、好ましくは50nm以上150nm以下である。
なお、この半導体用部材としては、例えば、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜をシリコン基板の溝に設けて素子分離領域を形成する手法(STI:シャロートレンチアイソレーション)を用いた部材、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜を予め形成されたMOSFET(metal-oxide-semiconductor field-effect transistor)などのスイッチング素子間に設けた部材、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜をMOSFET上にプリメタル絶縁膜(PMD)として設けた部材、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜を予め形成された最下層配線(W、Ti/TiN/AlCu/TiNなど)の間に設けた部材、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜を最下層配線上にインターメタル絶縁膜(IMD)として設けた部材、絶縁性を有する埋め込み絶縁膜を予め形成された銅配線間の溝に配線層間絶縁膜(ILD)として設けた部材などが挙げられる。
また、凹部の幅が狭く、アスペクト比(深さ/幅)の大きな溝に埋め込み絶縁膜を形成する場合には、溝への充填性を高める点から、本実施形態に係る組成物を凹部に付与(好ましくは、スピンコート法により付与)して埋め込み絶縁膜を形成することが好ましい。
【0092】
多孔質材料などの低誘電率材料を含む基板と金属との間に、絶縁性、密着性、ポアシール性などを有するポアシール膜が設けられた半導体用部材では、ポアシール膜の厚さは、例えば、0.5nm以上15nm以下であり、好ましくは1.5nm以上12nm以下である。この半導体用部材は、例えば、基板に形成された貫通孔の壁面と、貫通孔に配置された金属と、の間に密着層となるポアシール膜が設けられた部材であってもよい。
【0093】
シリコン貫通ビア基板のビア側壁において金属とシリコン基板との間にシリコン貫通ビア用絶縁膜が設けられた半導体用部材では、シリコン貫通ビア絶縁膜の厚さは、例えば、100nm以上5μm以下であり、好ましくは500nm以上2μm以下である。
【0094】
シリコン貫通ビア基板のビア側壁において金属と絶縁膜との間にシリコン貫通ビア用絶縁膜が設けられた半導体用部材では、シリコン貫通ビア絶縁膜の厚さは、例えば、0.5nm〜100nmであり、好ましくは1nm〜30nmである。
【0095】
多孔質材料を含む基板の細孔に染み込むポアフィリング膜を有する半導体用部材では、ポアフィリング膜の厚さは、例えば、30nm以上200nm以下であり、好ましくは50nm以上150nm以下である。
【0096】
〔半導体用工程材の製造方法〕
以下、本実施形態に係る半導体用工程材の製造方法について説明する。本実施形態に係る半導体用工程材の製造方法は、組成物を基板に付与する付与工程と、組成物が付与された基板を温度250℃以上425℃以下の条件で加熱する加熱工程を有する。
なお、半導体用工程材の製造方法の各工程は、前述の半導体用部材の製造方法の各工程と同様であるため、その説明を省略する。
【0097】
半導体用工程材としては、半導体装置の製造工程にて一時的に形成され、後工程にて除去される犠牲膜などが挙げられる。
【0098】
〔半導体装置〕
以下、本実施形態に係る半導体装置について説明する。
本実施形態に係る半導体装置は、基板と、1級窒素原子及び2級窒素原子の少なくとも1つを含むカチオン性官能基を有し、重量平均分子量が1万以上40万以下である化合物(A)、及び分子内に−C(=O)OX基(Xは、水素原子又は炭素数1以上6以下のアルキル基である)を3つ以上有し、3つ以上の−C(=O)OX基のうち、1つ以上6つ以下が−C(=O)OH基であり、重量平均分子量が200以上600以下である架橋剤(B)の反応物と、の反応物を備える。化合物(A)と架橋剤(B)との反応物は、平滑性が高く、膜厚方向における組成の均一性に優れる。
化合物(A)と架橋剤(B)との反応物は、アミド結合及びイミド結合の少なくとも一方を有することが好ましい。
【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、「水」としては、超純水(Millipore社製Milli−Q水、抵抗18MΩ・cm(25℃)以下)を使用した。
【0100】
<分岐ポリエチレンイミン1〜3の準備>
以下の実施例及び比較例にて用いる分岐ポリエチレンイミン1〜3(分岐化されたポリエチレンイミン)を準備した。分岐ポリエチレンイミン1、2としては、市販されているものを用い、分岐ポリエチレンイミン3としては、後述する手順で合成した。
【0101】
<分岐ポリエチレンイミン1、2>
分岐ポリエチレンイミン1としては、MP−Biomedicals社製ポリエチレンイミン(Mw=16,000〜145,000、1級窒素原子/2級窒素原子/3級窒素原子=32/38/30)を用いた。
分岐ポリエチレンイミン2としては、BASF社製ポリエチレンイミン(Mw=70,000、1級窒素原子/2級窒素原子/3級窒素原子=31/40/29)
【0102】
<分岐ポリエチレンイミン3の合成>
(変性ポリエチレンイミン3の合成)
下記反応スキーム1に従い、ポリエチレンイミンを出発物質とし、変性ポリエチレンイミン3を合成した。なお、下記反応スキーム1及び反応スキーム2におけるポリマー構造は模式的に表した構造であり、3級窒素原子及び2級窒素原子の配置、後述するBoc化アミノエチル基により置換される2級窒素原子の割合等については、合成条件により種々変化するものである。
【0103】
【化3】

【0104】
上記反応スキーム1の詳細な操作は以下の通りである。
MP−Biomedicals社製ポリエチレンイミン(50%水溶液)61.06gをイソプロパノール319mL中に溶解し、N−t−ブトキシカルボニル(本実施例において、t−ブトキシカルボニル基を「Boc」ともいう)アジリジン102g(710mmol)を加え、3時間加熱還流を行い、ポリエチレンイミンにBoc化アミノエチル基が導入された構造の変性ポリエチレンイミン3を得た。薄層クロマトグラフィー(TLC)で原料のN−Bocアジリジンがなくなったことを確認し、少量サンプリングしてH−NMRで構造を確認した。H−NMRより、ポリエチレンイミンに対するBoc化アミノエチル基の導入率は95%と算出された。
〜変性ポリエチレンイミン3のNMR測定結果〜
H−NMR(CDOD);δ3.3−3.0(br.s,2),2.8−2.5(Br.s,6.2),1.45(s,9)
【0105】
(分岐ポリエチレンイミン3の合成)
上記変性ポリエチレンイミン3を出発物質とし、下記反応スキーム2に従って分岐ポリエチレンイミン3を合成した。なお、分岐ポリエチレンイミン3は、3級窒素原子の割合が、分岐ポリエチレンイミン1、2よりも多い高分岐ポリエチレンイミン(hyper branched polyethyleneimine)である。
【0106】
【化4】


【0107】
上記反応スキーム2の詳細な操作は以下の通りである。
上記変性ポリエチレンイミン3のイソプロパノール溶液に12N塩酸124mLをゆっくり加えた。得られた溶液を、ガスの発生に注意しながら50℃で4時間加熱撹拌した。ガスの発生と共に、反応系内にガム状の反応物が生成した。ガスの発生が終了した後に冷却し、冷却後、このガム状の反応物から分離した溶媒を除き、メタノール184mLで3回洗浄した。洗浄後の反応物を水に溶解し、陰イオン交換高分子で塩素イオンを取り除き、分岐ポリエチレンイミン3を58g含有する水溶液を得た。
〜分岐ポリエチレンイミン3のNMR測定結果〜
H−NMR(DO);δ2.8−2.4(br.m)
13C−NMR(DO);δ(積分比) 57.2(1.0),54.1(0.38),52.2(2.26),51.6(0.27),48.5(0.07),46.7(0.37),40.8(0.19),38.8(1.06).
【0108】
上記分岐ポリエチレンイミン3について、重量平均分子量、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)をそれぞれ測定した。
その結果、重量平均分子量は75,000、1級窒素原子の量は45mol%、2級窒素原子の量は11mol%、3級窒素原子の量は44mol%であった。
【0109】
また、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)及び3級窒素原子の量(mol%)は、ポリマーサンプル(分岐ポリエチレンイミン3)を重水に溶解し、得られた溶液について、ブルカー製AVANCE500型核磁気共鳴装置でシングルパルス逆ゲート付デカップリング法により、80℃で13C−NMRを測定した結果より、それぞれの炭素原子が何級のアミン(窒素原子)に結合しているかを解析し、その積分値を元に算出した。帰属については、European Polymer Journal, 1973, Vol. 9, pp. 559などに記載がある。
【0110】
重量平均分子量は、分析装置Shodex GPC−101を使用しカラムAsahipak GF−7M HQを用い測定し、ポリエチレングリコールを標準品として算出した。また展開溶媒は酢酸濃度0.5mol/L、硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用いた。
【0111】
ここで、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、及び3級窒素原子の量(mol%)は、それぞれ、下記式A〜Cで表される量である。
1級窒素原子の量(mol%) = (1級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式A
2級窒素原子の量(mol%) = (2級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式B
3級窒素原子の量(mol%) = (3級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式C
【0112】
前述のように準備した分岐ポリエチレンイミン1〜3をそれぞれ用いて、実施例A1〜実施例C11の組成物を調製した。詳細は以下に示す通りである。
なお、化合物(A)の溶液、架橋剤(B)の溶液、化合物(A)に酸(C−1)を加えた溶液、架橋剤(B)に塩基(C−2)を加えた溶液をそれぞれ混合するときは、混合する各溶液に沈殿物がないことを確認してから混合した。
【0113】
〔実施例A1〕
前述のようにして得た分岐ポリエチレンイミン1(BPEI_1;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(濃度2質量%)及びカルボキシ基の数が3つである1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(135BTC、架橋剤(B)に対応)エタノール溶液(濃度2質量%)を準備した。そして、BPEI_1水溶液に、135BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)(本実施例では、BPEI_1)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)(本実施例では、135BTC)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.7になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_1水溶液に滴下し、組成物を調製した。前述のCOOH/Nは、135BTCエタノール溶液の滴下開始前では0であり、135BTCエタノール溶液を滴下するにつれて数値が上昇し、135BTCエタノール溶液の滴下終了後では0.7となる。
【0114】
〔実施例A2〕
分岐ポリエチレンイミン1(BPEI_1)水溶液(酢酸添加後の濃度2質量%)に、酢酸(AA;acetic acid)を添加した。このとき、化合物(A)(本実施例では、BPEI_1)中の全窒素原子の数に対する酸(C−1)(本実施例では、酢酸)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.5となるまで、酢酸をBPEI_1溶液に添加した。その後、135BTCエタノール溶液(濃度2質量%)をBPEI_1溶液に滴下した。次いで、実施例A1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.7になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_1水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0115】
実施例A1及びA2にてBPEI_1水溶液に135BTCエタノール溶液を滴下する際、135BTCが滴下された溶液が白濁する(凝集する)ときの135BTCの滴下量を、前述の、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)を求めることで評価した。結果を表1に示す。
なお、溶液が白濁しているかどうかは、目視により確認した。
【0116】
〔実施例B1、B2〕
前述のようにして得た分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)及び135BTCエタノール溶液(実施例B1では2質量%、実施例B2では9.5質量%)を準備した。そして、BPEI_2水溶液に、135BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0117】
〔実施例B3〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2)水溶液(酢酸添加後の濃度2質量%)に、酢酸(AA)を、BPEI_2中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.29となるまで添加し、その後135BTCエタノール溶液(2質量%)を滴下した。実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0118】
〔実施例B4〜B7、B9、B11、B12〕
架橋剤(B)として135BTC、オキシジフタル酸(ODPA;4,4'-Oxydiphthalic Acid)、メリト酸(MeA;Mellitic acid)、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(124BTC)、及びピロメリット酸(PMA)をそれぞれ準備し、塩基(C−2)としてアンモニア(NH3;amnonia)、エチルアミン(EA;ethylamine)をそれぞれ準備した。
まず、架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加し、次いで架橋剤(B)を水又は混合溶媒(エタノール/水=0.24、質量基準)に溶解させた。架橋剤(B)及び塩基(C−2)を含む溶液の濃度は表1に示す通りである。また、塩基(C−2)は、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基(C−2)中の窒素原子の数の比率(N/COOH)が表1に示す値となるまで、塩基(C−2)を架橋剤(B)に添加した。
その後、架橋剤(B)の溶液をBPEI_2溶液(化合物(A)の溶液)に滴下した。このとき、実施例B4〜B7、B9は、実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで、実施例B11はCOOH/Nが1.07になるまで、実施例B12はCOOH/Nが1.42になるまで、架橋剤(B)の溶液をBPEI_2水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0119】
〔実施例B8〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2)の水溶液(2質量%)及びエチルハーフエステルピロメリット酸(ehePMA;ethyl half ester PMA、架橋剤(B)に対応)のエタノール溶液(6.4質量%)を準備した。ehePMAは、エタノールにピロメリット酸二無水物を加えて、50℃に加熱したウォーターバスで3時間30分加熱し、ピロメリット酸二無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたehePMAにエステル基が形成されていることを確認した。そして、BPEI_2水溶液に、ehePMAエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまでehePMAエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0120】
〔実施例B10〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)及び124BTCエタノール溶液(9.5質量%)を準備した。そして、BPEI_2水溶液に、124BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が1.07になるまで124BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0121】
〔実施例C3〕
高分岐ポリエチレンイミンである分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3;hyper branchedpolyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)に、135BTCの水溶液(2質量%)を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで135BTC水溶液をBPEI_3水溶液に滴下し、組成物を調製した。
【0122】
〔実施例C4〜C11〕
架橋剤(B)として、124BTC、135BTC、メチルハーフエステルピロメリット酸(mhePMA;methyl half ester PMA)、ehePMA、エチルハーフエステル1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(ehe124BTC;ethyl half ester 124BTC)及び1−プロピルハーフエステル1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(1Prhe124BTC;1-propyl half ester 124BTC)をそれぞれ準備し、酸(C−1)として酢酸(AA)を準備した。
mhePMAは、メタノールにピロメリット酸二無水物を加えて、80℃に加熱したオイルバスで120分還流し、ピロメリット酸二無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたmhePMAにエステル基が形成されていることを確認した。
ehe124BTCは、エタノールに124BTC無水物を加えて、室温で撹拌し、124BTC無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたehe124BTCにエステル基が形成されていることを確認した。
1Prhe124BTCは、1−プロパノールに124BTC無水物を加えて、室温で撹拌し、124BTC無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造された1Prhe124BTCにエステル基が形成されていることを確認した。
次いで、実施例C4、C5、C10、C11では、分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3)水溶液に、酢酸(AA)を、BPEI_3中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が表1に示す値となるまで添加し、その後表1に示す溶媒に溶解させた架橋剤(B)を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで滴下した。
また、実施例C6〜C9では、分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3)水溶液に、酸(C−1)を加えることなく、表1に示す溶媒に溶解させた架橋剤(B)を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで滴下した。なお、表1中の1PrOHは、1−プロパノール(1-propanol)を表す。
【0123】
〔実施例D1〜D8〕
ポリアリルアミン(PAA;polyallylamine,Mw=88,000、Sigma−Aldrich社製、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)を準備し、架橋剤(B)として、124BTC、135BTC、ピロメリット酸(PMA;Pyromellitic acid)、mhePMA、ehePMA、ehe124BTCを準備し、表1に記載の濃度となるようにエタノールに架橋剤(B)を溶解させた。
次いで、実施例D1〜D6では、PAA水溶液に、酸(C−1)を加えることなく、表1に示す架橋剤(B)の水溶液を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が1になるまで滴下した。
また、実施例D7、D8では、PAA水溶液に、酢酸(AA)を、PAA水溶液中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が表1に示す値となるまでそれぞれ添加し、その後表1に示す架橋剤(B)の水溶液をCOOH/N(化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率)が1になるまで滴下した。
【0124】
各実施例及び各比較例にて得られた組成物の組成等は以下の表1に示すとおりである。
なお、「化合物(A)の種類」の項目においてカッコ書きは、化合物(A)溶液中の化合物(A)の濃度を表しており、化合物(A)に酸(C−1)を滴下した場合には、酸(C−1)滴下後における化合物(A)溶液中の化合物(A)の濃度を表している。
また、化合物(A)の「組成物中濃度」は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率「COOH/N」が最大値となるように架橋剤(B)を滴下した場合において、組成物全体に対する化合物(A)の濃度を表している。
また、「架橋剤(B)の種類」の項目においてカッコ書きは、架橋剤(B)溶液中の架橋剤(B)の濃度を表しており、架橋剤(B)に塩基(C−2)を滴下した場合には、塩基(C−2)滴下後における架橋剤(B)溶液中の架橋剤(B)の濃度を表している。
【0125】
【表1】

【0126】
実施例A1では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.15において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、COOH/Nが0.15超において135BTCが滴下された溶液は白濁していた。すなわち、COOH/Nが0.15以下の条件で、白濁せずに凝集が抑制された組成物を調製することができた。また、白濁せずに凝集が抑制された組成物を用いて膜を形成することで、凹凸の少ない平滑な膜が形成できることが推測される。
【0127】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例A2では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.7において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例A1よりも多くの135BTCを滴下しても組成物の透明性を維持することができた。
【0128】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例B3では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.71において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B1、B2よりも多くの135BTCを滴下しても組成物の透明性を維持することができた。したがって、組成物が白濁することなくより多くの架橋剤(B)を化合物(A)と混合できるため、加熱処理後に化合物(A)と架橋剤(B)との間にアミド、イミドなどの架橋構造をより多く有し、耐熱性又は絶縁性により優れた膜を製造することができる。
【0129】
また、架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加した実施例B4〜B7、B9、及び架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例B8では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.71において各架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B3と同様に、実施例B1、B2よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。
【0130】
架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加した実施例B11、B12では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)がそれぞれ0〜1.07、0〜1.42において各架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B10よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。
【0131】
また、実施例D1、D6においても、架橋剤(B)がエステル結合を有しているD6の方が、より多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持できることが示された。
【0132】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例C4、C5では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.56において架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例C3よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。
【0133】
架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例C6、C7を比較すると、実施例C7では、実施例C6よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。また、架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例C8、C9を比較すると、実施例C9では、実施例C8よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。そのため、組成物の透明性をより好適に維持する点から、エステル結合中の炭素数は多いほうが好ましいことが推測される。
また、実施例D4、D5においても同様の傾向が見られた。
【0134】
架橋剤(B)がエステル結合を有し、かつ化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例C10、C11では、それぞれ実施例C8、C6よりも多くの架橋剤(B)を滴下しても組成物の透明性を維持することができた。そのため、組成物の透明性をより好適に維持する点から、架橋剤(B)がエステル結合を有し、かつ化合物(A)に酸(C−1)を添加することが好ましい、と推測される。
また、実施例D7、D8においても同様の傾向が見られた。
【0135】
<組成物の調製>
〔実施例1〜19、比較例1〜6〕
以下の表2に示す組成及びpHを有する組成物を調製した。なお、前述の各実施例と同様、添加剤(C)として酸(C−1)を用いた場合には、酸(C−1)を化合物(A)溶液に添加してから架橋剤(B)を混合しており、添加剤(C)として塩基(C−2)を用いた場合には、塩基(C−2)を架橋剤(B)に添加し、その後架橋剤(B)を溶媒に溶解させた溶液を化合物(A)溶液に混合している。
また、表2において、化合物(A)の濃度は、組成物中における化合物(A)の濃度であり、水以外の溶媒におけるカッコ内の濃度は、組成物中における水以外の溶媒の濃度である。
また、表2において、架橋剤(B)又は架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物におけるカッコ内の数値は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)、又は化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物中のCOOX基の数の比率(COOX/N)を表す。
また、表2において、酸(C−1)におけるカッコ内の数値は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する酸(C−1)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)を表し、塩基(C−2)におけるカッコ内の数値は、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基(C−2)中の窒素原子の数の比率(N/COOH)を表す。
また、表2において、実施例3では酸(C−1)として安息香酸(BA;benzoic acid)を用いた。比較例2,4では架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物として、マロン酸(MA;malonic acid)を用いた。比較例5、6では、架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物として、トリプロピル−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(TrPr124BTC;tripropyl-124BTC)を用いた。
【0136】
【表2】

【0137】
<膜の形成>
組成物を塗布する基板としてシリコン基板を準備した。UVオゾンで5分間クリーニングしたシリコン基板をスピンコーターの上にのせ、各実施例及び各比較例で調製した組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpm(rpmは回転速度)で1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。これにより。シリコン基板上に膜を形成した。
次いで、125℃で1分乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)、300℃で10分間、膜を加熱した。耐熱性の評価のため、さらに、350℃、380℃、400℃で各々10分間、膜を加熱した(同じサンプルを連続処理)。
【0138】
<屈折率の測定>
400℃加熱後において、シリコン基板上に形成された膜の屈折率を測定した。屈折率は、エリプソメーターを使用して測定した。膜厚は、測定した光学データより計算した。膜厚が10nm以上のときは、空気/(コーシー+ローレンツ振動子モデル)/自然酸化膜/シリコン基板の光学モデルでフィッティングした。膜厚が10nm未満のときは、空気/SiO/自然酸化膜/シリコン基板の光学モデルでフィッティングした。膜厚は、計算で求めたため、結果がマイナスにもなりうる。
表3において、N633は波長633nmにおける屈折率を表す。屈折率は変化が少なければよりよいが、変化が少ないことは必須ではない。
結果を表3に示す。
【0139】
<耐熱性評価>
300℃で10分間加熱した後の膜厚及び380℃で10分間加熱した後の膜厚から算出される膜厚残存率を基準にして膜の耐熱性を評価した。膜厚残存率の式は以下に示すとおりであり、膜厚残存率が20%以上のものは「耐熱性あり」と判断した。
膜厚残存率(%)=(380℃加熱後の膜厚/300℃加熱後の膜厚)×100
結果を表3に示す。
【0140】
<架橋構造>
膜の架橋構造をFT−IR(フーリエ変換赤外分光法)で測定した。用いた分析装置は以下のとおりである。
〜FT−IR分析装置〜
赤外吸収分析装置(DIGILAB Excalibur(DIGILAB社製))
〜測定条件〜
IR光源:空冷セラミック、 ビームスプリッター:ワイドレンジKBr、 検出器:ペルチェ冷却DTGS、 測定波数範囲:7500cm−1〜400cm−1、 分解能:4cm−1、 積算回数:256、 バックグラウンド:Siベアウェハ使用、 測定雰囲気:N(10L/min)、 IR(赤外線)の入射角:72°(=Siのブリュースター角)
〜判断条件〜
イミド結合は1770cm−1、1720cm−1の振動ピークの存在で判断した。アミド結合は1650cm−1、1520cm−1の振動ピークの存在で判断した。
結果を表3に示す。
【0141】
<SEM形態観察>
膜厚が20nm以上300nm以下の膜については、膜の平滑性をSEMによる形態観察で評価した。走査型電子顕微鏡(SEM)であるS−5000(日立製作所製)を用い、加速電圧3kV、200,000倍、500nm幅視野で測定した。平均膜厚に対して、最大膜厚と最小膜厚の差が25%以下である場合には「平滑性あり」と判断した。
結果を表3に示す。なお、400℃で10分間加熱した後の膜をSEM形態観察の対象とした。
【0142】
<SPM形態観察>
膜厚が20nm未満の膜については、膜の凹凸をSPMによる形態観察で評価した。走査型プローブ顕微鏡(SPM)であるSPA400(日立ハイテクノロジーズ製)を用い、ダイナミックフォースマイクロスコープモードにて、3ミクロン×3ミクロン角領域で測定を行った。エリプソメーターで測定された膜厚に対して、SPMにて測定された自乗平均面粗さ(RMS)が25%以下である場合には「平滑性あり」と判断した。
結果を表3に示す。なお、300℃又は400℃で10分間加熱した後の膜をSPM形態観察の対象とした。
【0143】
各実施例及び各比較例に係る組成物を用いて形成した膜における各物性の測定結果及び評価結果を表3に示す。なお、表3中における空欄は、未確認(架橋構造)又は未実施(SEM形態観察及びSPM形態観察)を表す。
【0144】
【表3】

【0145】
表3中に示されるように、実施例1、2、4〜15、17、19における膜厚残存率はいずれも20%以上であったが、比較例1〜4における膜厚残存率はいずれも5%未満であった。このことから各実施例における組成物から形成された膜は耐熱性に優れることが推測される。
また、実施例1、2、7、9、13、17では、SEM形態観察の結果、膜は平滑であった。
一方、比較例5、6では、膜表面が鏡面にならず、平滑ではなかった。比較例5、6から、架橋剤(B)ではなく、COOH基を有さない架橋剤を用いると、膜表面の凹凸が大きくなり、鏡面にならないことがわかった。
更に、実施例10、11、18では、SPM形態観察の結果、膜は平滑であった。塩基(C−2)を用いると、2nm程度の極薄膜でも平滑な膜を形成できることが分かった。
【0146】
<シリコン基板面内膜厚分布>
〔実施例20〕
BPEI_2水溶液と、135BTCに塩基(C−2)としてNH(N/COOH=1.1)を加えた溶液とを、BPEI_2中における窒素原子の数に対する135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.9となるように混合し、組成物(塗布液)を得た。
次いで、300ミリφシリコン基板に塗布液6mLを滴下後、シリコン基板を、1000rpmで1秒、600rpmで60秒、1000rpmで5秒回転後、100℃で2分間乾燥し、250℃で1分間加熱し、更に大気圧窒素中400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
【0147】
〔比較例7〕
300ミリφシリコン基板に、BPEI_2水溶液6mLを滴下後、シリコン基板を、1000rpmで1秒、600rpmで60秒、1000rpmで5秒回転後、100℃で2分間乾燥させた。次いで、3000rpmでウェハを回転させつつ、135BTCイソプロパノール(IPA)溶液(1.4質量%)10mLを乾燥させたBPEI_2上に滴下した。滴下後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
【0148】
300ミリφシリコン基板の中心から1cmでの膜厚、5cmでの膜厚、9cmでの膜厚、13cmでの膜厚及び中心から1cmと13cmでの膜厚差(%)を求め、シリコン基板面内膜厚分布を評価した。
結果を表4に示す。
なお、表4中では、BPEI_2水溶液(2質量%)、BPEI_2水溶液(1.7質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表しており、135BTC(1.4質量%、溶媒IPA)におけるカッコ内の濃度は、組成物中における135BTCの濃度を表している
【0149】
【表4】

【0150】
表4に示すように、中心から1cmと13cmでの膜厚差(%)は、実施例(5%以下)の方が比較例(5%超)よりも小さい値を示した。したがって、実施例20に係る組成物を用いることで、300ミリφシリコンウェハにおいて面内均一性に優れた平滑な膜をより簡便な工程で得られることが示された。
【0151】
<トレンチにおける充填性>
〔実施例21〕
BPEI_2水溶液に酸(C−1)として酢酸(AA)をCOOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率)が1.0となるように加えた。次いで、COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する124BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.81となるように124BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が27質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液1)を調製した。
【0152】
次に、100nm幅、200nm深さのトレンチパターンを設けた酸化ケイ素基板に組成物0.5mLを滴下後、酸化ケイ素基板を、1000rpmで5秒、500rpmで30秒回転させた。次いで、滴下された組成物を100℃で1分間乾燥後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。
そして、断面SEMでトレンチに組成物が充填されているか観察した。充填された面積がトレンチ内面積の90%以上である場合をA(充填性が良好)とした。
結果を表5に示す。
なお、表5中では、BPEI_2水溶液(3.1質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表している。
【0153】
【表5】

【0154】
<比誘電率及びリーク電流密度>
〔実施例22〕
BPEI_2水溶液に酸(C−1)として酢酸(AA)をCOOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率)が0.14となるように加えた。次いで、COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する135BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.67となるように135BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が33質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液2)を調製した。
【0155】
〔実施例23〕
BPEI_2水溶液と、135BTCに塩基(C−2)としてNH(N/COOH=1.5)を加えた溶液とを、BPEI_2中の窒素原子の数に対する135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.9となるように135BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が33質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液3)を調製した。
【0156】
低抵抗シリコン基板に組成物5mLを滴下後、低抵抗シリコン基板を、1000rpmで5秒、500rpmで30秒回転させた。次いで、滴下された組成物を100℃で1分間乾燥後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、低抵抗シリコン基板/膜からなる積層体が得られた。
【0157】
(比誘電率の測定)
得られた積層体における膜の比誘電率を測定した。
比誘電率は、水銀プローブ装置(SSM5130)を用い、25℃、相対湿度30%の雰囲気下、周波数100kHzにて常法により測定した。
結果を表6に示す。
【0158】
(リーク電流密度の測定)
次に、電気特性評価のため、以下のようにリーク電流密度を測定した。具体的には、得られた積層体の膜表面に水銀プローブを当て、測定された電界強度1MV/cmの値をリーク電流密度とした。
結果を表6に示す。
【0159】
表6にて、実施例22、23におけるサンプルの組成、比誘電率及びリーク電流密度を示す。
なお、表6中では、BPEI_2水溶液(1.8質量%)、BPEI_2水溶液(1.7質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表している。
【0160】
【表6】


【0161】
〔実施例24〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が1.01となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して0.05質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が56質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液4)を調製した。
【0162】
<層間絶縁層(Low−k膜)付きシリコン基板の作製>
(前駆体溶液の調製)
77.4gのビストリエトキシシリルエタンと70.9gのエタノールとを室温下で混合攪拌した後、1mol/Lの硝酸80mLを添加し、50℃で1時間撹拌した。次に、20.9gのポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルを280gのエタノールで溶解した溶液を混合した。混合後、30℃で4時間撹拌した。得られた溶液を25℃、30hPaの減圧下、105gになるまで濃縮した。濃縮後、1−プロピルアルコールと2−ブチルアルコールを体積で2:1に混合した溶液を添加し、前駆体溶液1800gを得た。
【0163】
(多孔質シリカ形成用組成物の調製)
前駆体溶液472gに、ジメチルジエトキシシラン3.4g及びヘキサメチルジシロキサン1.8gを添加し、25℃で1時間撹拌し、多孔質シリカ形成用組成物を得た。この時のジメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンの添加量は、ビストリエトキシシリルエタンに対してそれぞれ10モル%、5モル%であった。
【0164】
(層間絶縁層の形成)
上記多孔質シリカ形成用組成物1.0mLをシリコン基板表面上に滴下し、シリコン基板を、2000rpmで60秒間回転させて、シリコン基板表面に塗布した後、窒素雰囲気下、150℃で1分間、次いで、350℃で10分間加熱処理した。その後、波長172nmエキシマランプを装備したチャンバー内で350℃まで熱処理し、圧力1Paで出力14mW/cmにより、紫外線を10分間照射することにより、層間絶縁層(多孔質シリカ膜)を得た。
以上により、上記層間絶縁層(以下、「Low−k膜」ともいう)付きシリコン基板を得た。
【0165】
前述のようにして得られたLow−k膜(接触角30°以下)付きシリコン基板を、窒素下(30kPa)、380℃で10分間プリベークした。プリベーク後、Low−k膜付きシリコン基板を、スピンコーターの上にのせ、上記組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpmで1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。その後、上記組成物を、125℃で1分間乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板/層間絶縁層(Low−k膜)/膜からなる積層体が得られた。
【0166】
Low−k膜付きシリコン基板及び前述のようにして得られた積層体において、Low−kの膜厚、Low−k膜の空孔がシールされた厚さ、Low−k膜の屈折率、表面の開口率、表面の空孔半径を、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーター装置を用いて求めた。なお、積層体において、Low−k膜/膜(ポアシール層)を光学二層モデルで解析した。
結果を表7に示す。
【0167】
シール性評価は、試料(Si/Low−k膜/ポアシール層)のポアシール層表面におけるトルエン吸着測定により行った。このトルエン吸着測定では、トルエン吸着量が少ないほど、Low−k膜中への配線材料(銅など)の侵入を防ぐシール性が高いことを表す。
トルエン吸着測定は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)を用いて行った。
測定方法は、M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391に記載の手法に従って行った。
具体的には、温度範囲23〜26℃において、試料(Si/Low−k膜/ポアシール層)の入ったサンプル室を5mTorrまで排気した後、トルエンガスをサンプル室に十分にゆっくり導入した。各圧力において、Low−k膜の屈折率をエリプソメーター装置によりその場測定した。この操作を、サンプル室内圧力がトルエンの飽和蒸気圧に達するまで繰り返した。同様に、サンプル室内雰囲気を徐々に排気しつつ、各圧力にて屈折率の測定を行った。以上の操作により、Low−k膜へのトルエンの吸着及び脱離による屈折率変化を求めた。更に、ローレンツ・ローレンツ式を用いて、屈折率の相対圧力特性からトルエンガス吸着脱離等温線を求めた。
上記トルエンガス吸着脱離等温線は、トルエン相対圧(P/P;ここで、Pはトルエンの室温での分圧を表し、Pはトルエンの室温での飽和蒸気圧を表す。)と、トルエン吸着量の体積分率(Low−k膜全体の体積に対するトルエンの室温での吸着体積の比率;単位は「%」)と、の関係を示す等温線である。トルエン吸着量の体積分率は、ローレンツ・ローレンツ式を用いてLow−k膜の屈折率に基づいて求めた。
【0168】
上記トルエンガス吸着脱離等温線に基づき、トルエン相対圧(P/P)が1.0であるときのトルエン吸着量の体積分率(%)を求め、得られた値に基づき、シール性を評価した。この評価では、トルエン吸着量の体積分率(%)が小さい程、シール性が高いことを示す。
空孔半径は、上記トルエンの脱離等温線から計算により求めた。空孔半径の計算は、 M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391 に記載された手法に従って、ケルビン式を用いて行った。
結果を表7に示す。
【0169】
【表7】

【0170】
表7に示すように、実施例24に係る組成物を用いて、Low−k膜表面にポアシール層を形成することにより、Low−k膜の屈折率を低く維持しつつ、Low−k膜表面に高密度(高屈折率)のポアシール層を形成することができ、良好なシール性が得られた。
【0171】
〔実施例25〕
COOH/N(PAA中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.99となるようにehePMAをPAA水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が40質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液5)を調製した。
【0172】
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルの使用量を20.9gから41.8gに変更したこと以外は前述と同様の方法にて層間絶縁層(Low−k膜)付きシリコン基板を作製した。作製したLow−k膜(接触角30°以下)付きシリコン基板を、窒素下(30kPa)、380℃で10分間プリベークした。プリベーク後、Low−k膜付きシリコン基板を、スピンコーターの上にのせ、上記組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpmで1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。その後、上記組成物を、125℃で1分間乾燥後、400℃で10分間加熱処理し、さらに20分間加熱処理を行った(400℃での加熱時間30分)。これにより、シリコン基板/層間絶縁層(Low−k膜)/膜からなる積層体が得られた。
【0173】
前述の400℃で10分間加熱処理した後の積層体、及び、400℃で10分間加熱処理し、さらに20分間加熱処理(すなわち、400℃で30分間加熱処理)を行った後の積層体において、Low−k膜/膜(ポアフィリング材)の全体の膜厚と屈折率を、エリプソメーター装置を用いて求めた。なお、ボイド体積はボイド、ポリマー、シリカ骨格に対するローレンツ・ローレンツ式を用いて波長633nmにおける屈折率から計算により求めた。
結果を表8に示す。
【0174】
【表8】

【0175】
実施例25に係る組成物を用いて、ポアフィリング材となる膜をLow−k膜上に成膜するとポアフィリング材がLow−k膜中に均一に染込み、ボイド体積が良好に減少した。また、400℃で30分加熱した後においても、ボイド体積の変化が極めて小さかった。
【0176】
〔実施例26〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が37質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液6)を調製した。
【0177】
〔実施例27〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する1Prhe124BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるように1Prhe124BTCをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対する1−プロパノール(1PrOH)の濃度が33質量%となるように、1−プロパノールを混合し、組成物(溶液7)を調製した。
【0178】
〔実施例28〕
BPEI_2水溶液(組成物全体に対して1.5質量%)と、135BTCに塩基(C−2)としてNH(N/COOH=1.5)を加えた溶液とを、BPEI_2中における窒素原子の数に対する135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71となるように混合し、組成物(溶液8)を調製した。
【0179】
次に、シリコン基板をスピンコーターの上にのせ、実施例26〜28で調製した組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpm(rpmは回転速度)で1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
次いで、125℃で1分乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)、400℃で10分間、膜を加熱した。
【0180】
<密着性評価>
膜の密着性評価のため、スパッタリングにより銅膜(厚さ100nm)を膜上に成膜して電極を形成し、シリコン基板/膜/電極(銅膜)がこの順に積層された積層体を得た。
電極が形成された積層体における密着性を以下のようにして評価した。具体的には、積層体の銅膜側表面に、0.2cm角の正方形マスを5×5個カッターで形成後、スコッチテープ(3M社製 No.56)を貼り付けた後、一気に引きはがし、剥がれたマスの数を計測した。
結果を表9に示す。
【0181】
【表9】

【0182】
膜が形成されていないシリコン基板について密着性評価を行ったところ、19マス剥がれ(剥がれ面;シリコン基板/銅膜)が生じた。一方、実施例26〜28に係る組成物を用いて膜を形成した場合、シリコン基板と銅膜との間に剥がれがなく、密着性が良好であった。
【0183】
[実施例29]
<シリコン(Si)上のポリマー層の厚さ評価>
(組成物の調製)
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して0.25質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が9質量%となるように、エタノールを混合し、組成物(溶液9)を調製した。
【0184】
(厚さ測定用試料の作製)
表面にシリカが存在しているシリコンウェハを準備し、このシリコンウェハを、スピンコーターの上にのせ、溶液9を10秒間一定速度で1.0mL滴下し、13秒間保持した後、このシリコンウェハを2000rpmで1秒間回転させ、さらに600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。
以上により、シリコンウェハ上に、ポリマー層を形成し、シリコンウェハとポリマー層とが積層された構造の積層体(以下、「試料(Si/ポリマー)」ともいう)を得た。
【0185】
上記試料(Si/ポリマー)をホットプレート上に、シリコンウェハ面とホットプレートとが接触するように設置し、大気雰囲気下で、120℃のソフトベーク温度で60秒間ソフトベーク(加熱処理)した。
ここでいうソフトベーク温度は、シリコンウェハ表面の温度(成膜前シリコンウェハの成膜される面の温度)である。
【0186】
(洗浄処理)
上記試料(Si/ポリマー)を、スピンコーターを用いて600rpmで回転させながら、ポリマー層上に、リンス液として超純水(液温22℃)を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下してポリマー層を洗浄し、次いで、試料を2000rpmで60秒間回転させ乾燥させた。
【0187】
(洗浄処理後のポリマー層の厚さ評価)
次に、上記のようにして得られた洗浄処理後試料のポリマー層の厚さを測定した。ポリマー層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して常法により測定した。
結果を表10に示す。
【0188】
<銅(Cu)上のポリマー層の厚さ評価>
(厚さ測定用試料の作製)
シリコン基板上にめっきにて銅膜を100nm成膜し、この銅膜面をヘリウムプラズマ処理でクリーニングした基板を用い、プラズマ処理後の銅膜面上に、シール層(ポリマー層)を形成するため、<シリコン(Si)上のポリマー層の厚さ評価>と同様の処理を行なった。
以上により、銅上に、ポリマー層を形成し、銅とポリマー層とが積層された構造の積層体(以下、「試料(Cu/ポリマー)」ともいう)を得た。
【0189】
(洗浄処理)
上記試料(Cu/ポリマー)を、スピンコーターを用いて600rpmで回転させながら、ポリマー層上に、リンス液として超純水(液温22℃)を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下してポリマー層を洗浄し、次いで、試料を2000rpmで60秒間回転させ乾燥させた。
【0190】
(洗浄処理後のポリマー層の厚さ評価)
次に、上記のようにして得られた洗浄処理後試料のポリマー層の厚さを測定した。銅(Cu)上のポリマー層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して以下の手法により測定した。
即ち、光学的に平坦な銅基板上のポリマー層の厚さは、エリプソメトリーにより測定された偏光パラメーターを、WinElli IIを用いて多層光学モデル;(空気)/(ポリマー層)/(銅基板)で回帰することにより計算した。用いた光エネルギーの範囲は、2.2〜5.0eVである。ここで、ポリマー層の屈折率には常にシリカ(SiO)と同じ値を用いた。また、銅基板の屈折率及び消衰係数は、ポリマー層を有しない銅基板の偏光パラメーターを測定後、解析ソフトのWinElli IIを用いて求められた値を用いた。
結果を表10に示す。
【0191】
【表10】

【0192】
[実施例30〜32]
表10に示すようにソフトベーク温度を130℃〜150℃まで変更した以外は、実施例29と同様の手法にてSi上ポリマー及びCu上ポリマーの膜厚を各々測定した。
結果を表10に示す。
【0193】
表10に示すように、各実施例では、Cu上のポリマー層の厚み(Cu上膜厚)はSi上ポリマー層の厚み(Si上膜厚)の1/4以下であり、Cu上のポリマー層の厚みが十分に低減されていた。
【0194】
2015年11月16日に出願された日本国特許出願2015−224196の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。