【実施例】
【0099】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
以下において、「水」としては、超純水(Millipore社製Milli−Q水、抵抗18MΩ・cm(25℃)以下)を使用した。
【0100】
<分岐ポリエチレンイミン1〜3の準備>
以下の実施例及び比較例にて用いる分岐ポリエチレンイミン1〜3(分岐化されたポリエチレンイミン)を準備した。分岐ポリエチレンイミン1、2としては、市販されているものを用い、分岐ポリエチレンイミン3としては、後述する手順で合成した。
【0101】
<分岐ポリエチレンイミン1、2>
分岐ポリエチレンイミン1としては、MP−Biomedicals社製ポリエチレンイミン(Mw=16,000〜145,000、1級窒素原子/2級窒素原子/3級窒素原子=32/38/30)を用いた。
分岐ポリエチレンイミン2としては、BASF社製ポリエチレンイミン(Mw=70,000、1級窒素原子/2級窒素原子/3級窒素原子=31/40/29)
【0102】
<分岐ポリエチレンイミン3の合成>
(変性ポリエチレンイミン3の合成)
下記反応スキーム1に従い、ポリエチレンイミンを出発物質とし、変性ポリエチレンイミン3を合成した。なお、下記反応スキーム1及び反応スキーム2におけるポリマー構造は模式的に表した構造であり、3級窒素原子及び2級窒素原子の配置、後述するBoc化アミノエチル基により置換される2級窒素原子の割合等については、合成条件により種々変化するものである。
【0103】
【化3】
【0104】
上記反応スキーム1の詳細な操作は以下の通りである。
MP−Biomedicals社製ポリエチレンイミン(50%水溶液)61.06gをイソプロパノール319mL中に溶解し、N−t−ブトキシカルボニル(本実施例において、t−ブトキシカルボニル基を「Boc」ともいう)アジリジン102g(710mmol)を加え、3時間加熱還流を行い、ポリエチレンイミンにBoc化アミノエチル基が導入された構造の変性ポリエチレンイミン3を得た。薄層クロマトグラフィー(TLC)で原料のN−Bocアジリジンがなくなったことを確認し、少量サンプリングして
1H−NMRで構造を確認した。
1H−NMRより、ポリエチレンイミンに対するBoc化アミノエチル基の導入率は95%と算出された。
〜変性ポリエチレンイミン3のNMR測定結果〜
1H−NMR(CD
3OD);δ3.3−3.0(br.s,2),2.8−2.5(Br.s,6.2),1.45(s,9)
【0105】
(分岐ポリエチレンイミン3の合成)
上記変性ポリエチレンイミン3を出発物質とし、下記反応スキーム2に従って分岐ポリエチレンイミン3を合成した。なお、分岐ポリエチレンイミン3は、3級窒素原子の割合が、分岐ポリエチレンイミン1、2よりも多い高分岐ポリエチレンイミン(hyper branched polyethyleneimine)である。
【0106】
【化4】
【0107】
上記反応スキーム2の詳細な操作は以下の通りである。
上記変性ポリエチレンイミン3のイソプロパノール溶液に12N塩酸124mLをゆっくり加えた。得られた溶液を、ガスの発生に注意しながら50℃で4時間加熱撹拌した。ガスの発生と共に、反応系内にガム状の反応物が生成した。ガスの発生が終了した後に冷却し、冷却後、このガム状の反応物から分離した溶媒を除き、メタノール184mLで3回洗浄した。洗浄後の反応物を水に溶解し、陰イオン交換高分子で塩素イオンを取り除き、分岐ポリエチレンイミン3を58g含有する水溶液を得た。
〜分岐ポリエチレンイミン3のNMR測定結果〜
1H−NMR(D
2O);δ2.8−2.4(br.m)
13C−NMR(D
2O);δ(積分比) 57.2(1.0),54.1(0.38),52.2(2.26),51.6(0.27),48.5(0.07),46.7(0.37),40.8(0.19),38.8(1.06).
【0108】
上記分岐ポリエチレンイミン3について、重量平均分子量、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、3級窒素原子の量(mol%)をそれぞれ測定した。
その結果、重量平均分子量は75,000、1級窒素原子の量は45mol%、2級窒素原子の量は11mol%、3級窒素原子の量は44mol%であった。
【0109】
また、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)及び3級窒素原子の量(mol%)は、ポリマーサンプル(分岐ポリエチレンイミン3)を重水に溶解し、得られた溶液について、ブルカー製AVANCE500型核磁気共鳴装置でシングルパルス逆ゲート付デカップリング法により、80℃で
13C−NMRを測定した結果より、それぞれの炭素原子が何級のアミン(窒素原子)に結合しているかを解析し、その積分値を元に算出した。帰属については、European Polymer Journal, 1973, Vol. 9, pp. 559などに記載がある。
【0110】
重量平均分子量は、分析装置Shodex GPC−101を使用しカラムAsahipak GF−7M HQを用い測定し、ポリエチレングリコールを標準品として算出した。また展開溶媒は酢酸濃度0.5mol/L、硝酸ナトリウム濃度0.1mol/Lの水溶液を用いた。
【0111】
ここで、1級窒素原子の量(mol%)、2級窒素原子の量(mol%)、及び3級窒素原子の量(mol%)は、それぞれ、下記式A〜Cで表される量である。
1級窒素原子の量(mol%) = (1級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式A
2級窒素原子の量(mol%) = (2級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式B
3級窒素原子の量(mol%) = (3級窒素原子のmol数/(1級窒素原子のmol数+2級窒素原子のmol数+3級窒素原子のmol数))×100 ・・・ 式C
【0112】
前述のように準備した分岐ポリエチレンイミン1〜3をそれぞれ用いて、実施例A1〜実施例C11
の組成物を調製した。詳細は以下に示す通りである。
なお、化合物(A)の溶液、架橋剤(B)の溶液、化合物(A)に酸(C−1)を加えた溶液、架橋剤(B)に塩基(C−2)を加えた溶液をそれぞれ混合するときは、混合する各溶液に沈殿物がないことを確認してから混合した。
【0113】
〔実施例A1〕
前述のようにして得た分岐ポリエチレンイミン1(BPEI_1;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(濃度2質量%)及びカルボキシ基の数が3つである1,3,5−ベンゼントリカルボン酸(135BTC、架橋剤(B)に対応)エタノール溶液(濃度2質量%)を準備した。そして、BPEI_1水溶液に、135BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)(本実施例では、BPEI_1)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)(本実施例では、135BTC)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.7になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_1水溶液に滴下し
、組成物を調製した。前述のCOOH/Nは、135BTCエタノール溶液の滴下開始前では0であり、135BTCエタノール溶液を滴下するにつれて数値が上昇し、135BTCエタノール溶液の滴下終了後では0.7となる。
【0114】
〔実施例A2〕
分岐ポリエチレンイミン1(BPEI_1)水溶液(酢酸添加後の濃度2質量%)に、酢酸(AA;acetic acid)を添加した。このとき、化合物(A)(本実施例では、BPEI_1)中の全窒素原子の数に対する酸(C−1)(本実施例では、酢酸)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.5となるまで、酢酸をBPEI_1溶液に添加した。その後、135BTCエタノール溶液(濃度2質量%)をBPEI_1溶液に滴下した。次いで、実施例A1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.7になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_1水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0115】
実施例A1及びA2にてBPEI_1水溶液に135BTCエタノール溶液を滴下する際、135BTCが滴下された溶液が白濁する(凝集する)ときの135BTCの滴下量を、前述の、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)を求めることで評価した。結果を表1に示す。
なお、溶液が白濁しているかどうかは、目視により確認した。
【0116】
〔実施例B1、B2〕
前述のようにして得た分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)及び135BTCエタノール溶液(実施例B1では2質量%、実施例B2では9.5質量%)を準備した。そして、BPEI_2水溶液に、135BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0117】
〔実施例B3〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2)水溶液(酢酸添加後の濃度2質量%)に、酢酸(AA)を、BPEI_2中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.29となるまで添加し、その後135BTCエタノール溶液(2質量%)を滴下した。実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで135BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0118】
〔実施例B4〜B7、B9、B11、B12〕
架橋剤(B)として135BTC、オキシジフタル酸(ODPA;4,4'-Oxydiphthalic Acid)、メリト酸(MeA;Mellitic acid)、1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(124BTC)、及びピロメリット酸(PMA)をそれぞれ準備し、塩基(C−2)としてアンモニア(NH3;amnonia)、エチルアミン(EA;ethylamine)をそれぞれ準備した。
まず、架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加し、次いで架橋剤(B)を水又は混合溶媒(エタノール/水=0.24、質量基準)に溶解させた。架橋剤(B)及び塩基(C−2)を含む溶液の濃度は表1に示す通りである。また、塩基(C−2)は、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基(C−2)中の窒素原子の数の比率(N/COOH)が表1に示す値となるまで、塩基(C−2)を架橋剤(B)に添加した。
その後、架橋剤(B)の溶液をBPEI_2溶液(化合物(A)の溶液)に滴下した。このとき、実施例B4〜B7、B9は、実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまで、実施例B11はCOOH/Nが1.07になるまで、実施例B12はCOOH/Nが1.42になるまで、架橋剤(B)の溶液をBPEI_2水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0119】
〔実施例B8〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2)の水溶液(2質量%)及びエチルハーフエステルピロメリット酸(ehePMA;ethyl half ester PMA、架橋剤(B)に対応)のエタノール溶液(6.4質量%)を準備した。ehePMAは、エタノールにピロメリット酸二無水物を加えて、50℃に加熱したウォーターバスで3時間30分加熱し、ピロメリット酸二無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたehePMAにエステル基が形成されていることを確認した。そして、BPEI_2水溶液に、ehePMAエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、実施例B1同様に、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71になるまでehePMAエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0120】
〔実施例B10〕
分岐ポリエチレンイミン2(BPEI_2;branched polyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)及び124BTCエタノール溶液(9.5質量%)を準備した。そして、BPEI_2水溶液に、124BTCエタノール溶液を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が1.07になるまで124BTCエタノール溶液をBPEI_2水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0121】
〔実施例C3〕
高分岐ポリエチレンイミンである分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3;hyper branchedpolyethyleneimine、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)に、135BTCの水溶液(2質量%)を少しずつ滴下した。このとき、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで135BTC水溶液をBPEI_3水溶液に滴下し
、組成物を調製した。
【0122】
〔実施例C4〜C11〕
架橋剤(B)として、124BTC、135BTC、メチルハーフエステルピロメリット酸(mhePMA;methyl half ester PMA)、ehePMA、エチルハーフエステル1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(ehe124BTC;ethyl half ester 124BTC)及び1−プロピルハーフエステル1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(1Prhe124BTC;1-propyl half ester 124BTC)をそれぞれ準備し、酸(C−1)として酢酸(AA)を準備した。
mhePMAは、メタノールにピロメリット酸二無水物を加えて、80℃に加熱したオイルバスで120分還流し、ピロメリット酸二無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたmhePMAにエステル基が形成されていることを確認した。
ehe124BTCは、エタノールに124BTC無水物を加えて、室温で撹拌し、124BTC無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造されたehe124BTCにエステル基が形成されていることを確認した。
1Prhe124BTCは、1−プロパノールに124BTC無水物を加えて、室温で撹拌し、124BTC無水物粉末を完全に溶解させることにより製造した。プロトンNMRにより、製造された1Prhe124BTCにエステル基が形成されていることを確認した。
次いで、実施例C4、C5、C10、C11では、分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3)水溶液に、酢酸(AA)を、BPEI_3中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が表1に示す値となるまで添加し、その後表1に示す溶媒に溶解させた架橋剤(B)を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで滴下した。
また、実施例C6〜C9では、分岐ポリエチレンイミン3(BPEI_3)水溶液に、酸(C−1)を加えることなく、表1に示す溶媒に溶解させた架橋剤(B)を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.56になるまで滴下した。なお、表1中の1PrOHは、1−プロパノール(1-propanol)を表す。
【0123】
〔実施例D1〜D8〕
ポリアリルアミン(PAA;polyallylamine,Mw=88,000、Sigma−Aldrich社製、化合物(A)に対応)の水溶液(2質量%)を準備し、架橋剤(B)として、124BTC、135BTC、ピロメリット酸(PMA;Pyromellitic acid)、mhePMA、ehePMA、ehe124BTCを準備し、表1に記載の濃度となるようにエタノールに架橋剤(B)を溶解させた。
次いで、実施例D1〜D6では、PAA水溶液に、酸(C−1)を加えることなく、表1に示す架橋剤(B)の水溶液を、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が1になるまで滴下した。
また、実施例D7、D8では、PAA水溶液に、酢酸(AA)を、PAA水溶液中の全窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が表1に示す値となるまでそれぞれ添加し、その後表1に示す架橋剤(B)の水溶液をCOOH/N(化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率)が1になるまで滴下した。
【0124】
各実施例及び各比較例にて得られ
た組成物の組成等は以下の表1に示すとおりである。
なお、「化合物(A)の種類」の項目においてカッコ書きは、化合物(A)溶液中の化合物(A)の濃度を表しており、化合物(A)に酸(C−1)を滴下した場合には、酸(C−1)滴下後における化合物(A)溶液中の化合物(A)の濃度を表している。
また、化合物(A)の「組成物中濃度」は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率「COOH/N」が最大値となるように架橋剤(B)を滴下した場合において
、組成物全体に対する化合物(A)の濃度を表している。
また、「架橋剤(B)の種類」の項目においてカッコ書きは、架橋剤(B)溶液中の架橋剤(B)の濃度を表しており、架橋剤(B)に塩基(C−2)を滴下した場合には、塩基(C−2)滴下後における架橋剤(B)溶液中の架橋剤(B)の濃度を表している。
【0125】
【表1】
【0126】
実施例A1では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.15において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、COOH/Nが0.15超において135BTCが滴下された溶液は白濁していた。すなわち、COOH/Nが0.15以下の条件で、白濁せずに凝集が抑制され
た組成物を調製することができた。また、白濁せずに凝集が抑制され
た組成物を用いて膜を形成することで、凹凸の少ない平滑な膜が形成できることが推測される。
【0127】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例A2では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.7において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例A1よりも多くの135BTCを滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。
【0128】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例B3では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.71において135BTCが滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B1、B2よりも多くの135BTCを滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。したがって、組成物が白濁することなくより多くの架橋剤(B)を化合物(A)と混合できるため、加熱処理後に化合物(A)と架橋剤(B)との間にアミド、イミドなどの架橋構造をより多く有し、耐熱性又は絶縁性により優れた膜を製造することができる。
【0129】
また、架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加した実施例B4〜B7、B9、及び架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例B8では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.71において各架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B3と同様に、実施例B1、B2よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。
【0130】
架橋剤(B)に塩基(C−2)を添加した実施例B11、B12では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)がそれぞれ0〜1.07、0〜1.42において各架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例B10よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。
【0131】
また、実施例D1、D6においても、架橋剤(B)がエステル結合を有しているD6の方が、より多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持できることが示された。
【0132】
化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例C4、C5では、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0〜0.56において架橋剤(B)が滴下された溶液は白濁せずに透明であり、実施例C3よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。
【0133】
架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例C6、C7を比較すると、実施例C7では、実施例C6よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。また、架橋剤(B)がエステル結合を有している実施例C8、C9を比較すると、実施例C9では、実施例C8よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。そのため
、組成物の透明性をより好適に維持する点から、エステル結合中の炭素数は多いほうが好ましいことが推測される。
また、実施例D4、D5においても同様の傾向が見られた。
【0134】
架橋剤(B)がエステル結合を有し、かつ化合物(A)に酸(C−1)を添加した実施例C10、C11では、それぞれ実施例C8、C6よりも多くの架橋剤(B)を滴下して
も組成物の透明性を維持することができた。そのため
、組成物の透明性をより好適に維持する点から、架橋剤(B)がエステル結合を有し、かつ化合物(A)に酸(C−1)を添加することが好ましい、と推測される。
また、実施例D7、D8においても同様の傾向が見られた。
【0135】
<組成物の調製>
〔実施例1〜19、比較例1〜6〕
以下の表2に示す組成及びpHを有す
る組成物を調製した。なお、前述の各実施例と同様、添加剤(C)として酸(C−1)を用いた場合には、酸(C−1)を化合物(A)溶液に添加してから架橋剤(B)を混合しており、添加剤(C)として塩基(C−2)を用いた場合には、塩基(C−2)を架橋剤(B)に添加し、その後架橋剤(B)を溶媒に溶解させた溶液を化合物(A)溶液に混合している。
また、表2において、化合物(A)の濃度は
、組成物中における化合物(A)の濃度であり、水以外の溶媒におけるカッコ内の濃度は
、組成物中における水以外の溶媒の濃度である。
また、表2において、架橋剤(B)又は架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物におけるカッコ内の数値は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)、又は化合物(A)中の全窒素原子の数に対する架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物中のCOOX基の数の比率(COOX/N)を表す。
また、表2において、酸(C−1)におけるカッコ内の数値は、化合物(A)中の全窒素原子の数に対する酸(C−1)中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)を表し、塩基(C−2)におけるカッコ内の数値は、架橋剤(B)中のカルボキシ基の数に対する塩基(C−2)中の窒素原子の数の比率(N/COOH)を表す。
また、表2において、実施例3では酸(C−1)として安息香酸(BA;benzoic acid)を用いた。比較例2,4では架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物として、マロン酸(MA;malonic acid)を用いた。比較例5、6では、架橋剤(B)以外のCOOX含有化合物として、トリプロピル−1,2,4−ベンゼントリカルボン酸(TrPr124BTC;tripropyl-124BTC)を用いた。
【0136】
【表2】
【0137】
<膜の形成>
組成物を塗布する基板としてシリコン基板を準備した。UVオゾンで5分間クリーニングしたシリコン基板をスピンコーターの上にのせ、各実施例及び各比較例で調製した組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpm(rpmは回転速度)で1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。これにより。シリコン基板上に膜を形成した。
次いで、125℃で1分乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)、300℃で10分間、膜を加熱した。耐熱性の評価のため、さらに、350℃、380℃、400℃で各々10分間、膜を加熱した(同じサンプルを連続処理)。
【0138】
<屈折率の測定>
400℃加熱後において、シリコン基板上に形成された膜の屈折率を測定した。屈折率は、エリプソメーターを使用して測定した。膜厚は、測定した光学データより計算した。膜厚が10nm以上のときは、空気/(コーシー+ローレンツ振動子モデル)/自然酸化膜/シリコン基板の光学モデルでフィッティングした。膜厚が10nm未満のときは、空気/SiO
2/自然酸化膜/シリコン基板の光学モデルでフィッティングした。膜厚は、計算で求めたため、結果がマイナスにもなりうる。
表3において、N633は波長633nmにおける屈折率を表す。屈折率は変化が少なければよりよいが、変化が少ないことは必須ではない。
結果を表3に示す。
【0139】
<耐熱性評価>
300℃で10分間加熱した後の膜厚及び380℃で10分間加熱した後の膜厚から算出される膜厚残存率を基準にして膜の耐熱性を評価した。膜厚残存率の式は以下に示すとおりであり、膜厚残存率が20%以上のものは「耐熱性あり」と判断した。
膜厚残存率(%)=(380℃加熱後の膜厚/300℃加熱後の膜厚)×100
結果を表3に示す。
【0140】
<架橋構造>
膜の架橋構造をFT−IR(フーリエ変換赤外分光法)で測定した。用いた分析装置は以下のとおりである。
〜FT−IR分析装置〜
赤外吸収分析装置(DIGILAB Excalibur(DIGILAB社製))
〜測定条件〜
IR光源:空冷セラミック、 ビームスプリッター:ワイドレンジKBr、 検出器:ペルチェ冷却DTGS、 測定波数範囲:7500cm
−1〜400cm
−1、 分解能:4cm
−1、 積算回数:256、 バックグラウンド:Siベアウェハ使用、 測定雰囲気:N
2(10L/min)、 IR(赤外線)の入射角:72°(=Siのブリュースター角)
〜判断条件〜
イミド結合は1770cm
−1、1720cm
−1の振動ピークの存在で判断した。アミド結合は1650cm
−1、1520cm
−1の振動ピークの存在で判断した。
結果を表3に示す。
【0141】
<SEM形態観察>
膜厚が20nm以上300nm以下の膜については、膜の平滑性をSEMによる形態観察で評価した。走査型電子顕微鏡(SEM)であるS−5000(日立製作所製)を用い、加速電圧3kV、200,000倍、500nm幅視野で測定した。平均膜厚に対して、最大膜厚と最小膜厚の差が25%以下である場合には「平滑性あり」と判断した。
結果を表3に示す。なお、400℃で10分間加熱した後の膜をSEM形態観察の対象とした。
【0142】
<SPM形態観察>
膜厚が20nm未満の膜については、膜の凹凸をSPMによる形態観察で評価した。走査型プローブ顕微鏡(SPM)であるSPA400(日立ハイテクノロジーズ製)を用い、ダイナミックフォースマイクロスコープモードにて、3ミクロン×3ミクロン角領域で測定を行った。エリプソメーターで測定された膜厚に対して、SPMにて測定された自乗平均面粗さ(RMS)が25%以下である場合には「平滑性あり」と判断した。
結果を表3に示す。なお、300℃又は400℃で10分間加熱した後の膜をSPM形態観察の対象とした。
【0143】
各実施例及び各比較例に係
る組成物を用いて形成した膜における各物性の測定結果及び評価結果を表3に示す。なお、表3中における空欄は、未確認(架橋構造)又は未実施(SEM形態観察及びSPM形態観察)を表す。
【0144】
【表3】
【0145】
表3中に示されるように、実施例1、2、4〜15、17、19における膜厚残存率はいずれも20%以上であったが、比較例1〜4における膜厚残存率はいずれも5%未満であった。このことから各実施例におけ
る組成物から形成された膜は耐熱性に優れることが推測される。
また、実施例1、2、7、9、13、17では、SEM形態観察の結果、膜は平滑であった。
一方、比較例5、6では、膜表面が鏡面にならず、平滑ではなかった。比較例5、6から、架橋剤(B)ではなく、COOH基を有さない架橋剤を用いると、膜表面の凹凸が大きくなり、鏡面にならないことがわかった。
更に、実施例10、11、18では、SPM形態観察の結果、膜は平滑であった。塩基(C−2)を用いると、2nm程度の極薄膜でも平滑な膜を形成できることが分かった。
【0146】
<シリコン基板面内膜厚分布>
〔実施例20〕
BPEI_2水溶液と、135BTCに塩基(C−2)としてNH
3(N/COOH=1.1)を加えた溶液とを、
BPEI_2中における窒素原子の数に対する
135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.9となるように混合し
、組成物(塗布液)を得た。
次いで、300ミリφシリコン基板に塗布液6mLを滴下後、シリコン基板を、1000rpmで1秒、600rpmで60秒、1000rpmで5秒回転後、100℃で2分間乾燥し、250℃で1分間加熱し、更に大気圧窒素中400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
【0147】
〔比較例7〕
300ミリφシリコン基板に、BPEI_2水溶液6mLを滴下後、シリコン基板を、1000rpmで1秒、600rpmで60秒、1000rpmで5秒回転後、100℃で2分間乾燥させた。次いで、3000rpmでウェハを回転させつつ、135BTCイソプロパノール(IPA)溶液(1.4質量%)10mLを乾燥させたBPEI_2上に滴下した。滴下後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
【0148】
300ミリφシリコン基板の中心から1cmでの膜厚、5cmでの膜厚、9cmでの膜厚、13cmでの膜厚及び中心から1cmと13cmでの膜厚差(%)を求め、シリコン基板面内膜厚分布を評価した。
結果を表4に示す。
なお、表4中では、BPEI_2水溶液(2質量%)、BPEI_2水溶液(1.7質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表しており、135BTC(1.4質量%、溶媒IPA)におけるカッコ内の濃度は、組成物中における135BTCの濃度を表している
。
【0149】
【表4】
【0150】
表4に示すように、中心から1cmと13cmでの膜厚差(%)は、実施例(5%以下)の方が比較例(5%超)よりも小さい値を示した。したがって、実施例20に係
る組成物を用いることで、300ミリφシリコンウェハにおいて面内均一性に優れた平滑な膜をより簡便な工程で得られることが示された。
【0151】
<トレンチにおける充填性>
〔実施例21〕
BPEI_2水溶液に酸(C−1)として酢酸(AA)をCOOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率)が1.0となるように加えた。次いで、COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する124BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.81となるように124BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が27質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液1)を調製した。
【0152】
次に、100nm幅、200nm深さのトレンチパターンを設けた酸化ケイ素基板に組成物0.5mLを滴下後、酸化ケイ素基板を、1000rpmで5秒、500rpmで30秒回転させた。次いで、滴下された組成物を100℃で1分間乾燥後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。
そして、断面SEMでトレンチに組成物が充填されているか観察した。充填された面積がトレンチ内面積の90%以上である場合をA(充填性が良好)とした。
結果を表5に示す。
なお、表5中では、BPEI_2水溶液(3.1質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表している。
【0153】
【表5】
【0154】
<比誘電率及びリーク電流密度>
〔実施例22〕
BPEI_2水溶液に酸(C−1)として酢酸(AA)をCOOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する酢酸中のカルボキシ基の数の比率)が0.14となるように加えた。次いで、COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する135BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.67となるように135BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が33質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液2)を調製した。
【0155】
〔実施例23〕
BPEI_2水溶液と、135BTCに塩基(C−2)としてNH
3(N/COOH=1.5)を加えた溶液とを、
BPEI_2中の窒素原子の数に対する
135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.9となるように135BTCをBPEI_2水溶液に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が33質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液3)を調製した。
【0156】
低抵抗シリコン基板に組成物5mLを滴下後、低抵抗シリコン基板を、1000rpmで5秒、500rpmで30秒回転させた。次いで、滴下された組成物を100℃で1分間乾燥後、250℃で1分間加熱し、更に400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、低抵抗シリコン基板/膜からなる積層体が得られた。
【0157】
(比誘電率の測定)
得られた積層体における膜の比誘電率を測定した。
比誘電率は、水銀プローブ装置(SSM5130)を用い、25℃、相対湿度30%の雰囲気下、周波数100kHzにて常法により測定した。
結果を表6に示す。
【0158】
(リーク電流密度の測定)
次に、電気特性評価のため、以下のようにリーク電流密度を測定した。具体的には、得られた積層体の膜表面に水銀プローブを当て、測定された電界強度1MV/cmの値をリーク電流密度とした。
結果を表6に示す。
【0159】
表6にて、実施例22、23におけるサンプルの組成、比誘電率及びリーク電流密度を示す。
なお、表6中では、BPEI_2水溶液(1.8質量%)、BPEI_2水溶液(1.7質量%)におけるカッコ内の濃度は、組成物中におけるBPEI_2の濃度を表している。
【0160】
【表6】
【0161】
〔実施例24〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が1.01となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して0.05質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が56質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液4)を調製した。
【0162】
<層間絶縁層(Low−k膜)付きシリコン基板の作製>
(前駆体溶液の調製)
77.4gのビストリエトキシシリルエタンと70.9gのエタノールとを室温下で混合攪拌した後、1mol/Lの硝酸80mLを添加し、50℃で1時間撹拌した。次に、20.9gのポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルを280gのエタノールで溶解した溶液を混合した。混合後、30℃で4時間撹拌した。得られた溶液を25℃、30hPaの減圧下、105gになるまで濃縮した。濃縮後、1−プロピルアルコールと2−ブチルアルコールを体積で2:1に混合した溶液を添加し、前駆体溶液1800gを得た。
【0163】
(多孔質シリカ形成用組成物の調製)
前駆体溶液472gに、ジメチルジエトキシシラン3.4g及びヘキサメチルジシロキサン1.8gを添加し、25℃で1時間撹拌し、多孔質シリカ形成用組成物を得た。この時のジメチルジエトキシシラン、ヘキサメチルジシロキサンの添加量は、ビストリエトキシシリルエタンに対してそれぞれ10モル%、5モル%であった。
【0164】
(層間絶縁層の形成)
上記多孔質シリカ形成用組成物1.0mLをシリコン基板表面上に滴下し、シリコン基板を、2000rpmで60秒間回転させて、シリコン基板表面に塗布した後、窒素雰囲気下、150℃で1分間、次いで、350℃で10分間加熱処理した。その後、波長172nmエキシマランプを装備したチャンバー内で350℃まで熱処理し、圧力1Paで出力14mW/cm
2により、紫外線を10分間照射することにより、層間絶縁層(多孔質シリカ膜)を得た。
以上により、上記層間絶縁層(以下、「Low−k膜」ともいう)付きシリコン基板を得た。
【0165】
前述のようにして得られたLow−k膜(接触角30°以下)付きシリコン基板を、窒素下(30kPa)、380℃で10分間プリベークした。プリベーク後、Low−k膜付きシリコン基板を、スピンコーターの上にのせ、上記組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpmで1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。その後、上記組成物を、125℃で1分間乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)400℃で10分間加熱処理を行った。これにより、シリコン基板/層間絶縁層(Low−k膜)/膜からなる積層体が得られた。
【0166】
Low−k膜付きシリコン基板及び前述のようにして得られた積層体において、Low−kの膜厚、Low−k膜の空孔がシールされた厚さ、Low−k膜の屈折率、表面の開口率、表面の空孔半径を、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーター装置を用いて求めた。なお、積層体において、Low−k膜/膜(ポアシール層)を光学二層モデルで解析した。
結果を表7に示す。
【0167】
シール性評価は、試料(Si/Low−k膜/ポアシール層)のポアシール層表面におけるトルエン吸着測定により行った。このトルエン吸着測定では、トルエン吸着量が少ないほど、Low−k膜中への配線材料(銅など)の侵入を防ぐシール性が高いことを表す。
トルエン吸着測定は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)を用いて行った。
測定方法は、M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391に記載の手法に従って行った。
具体的には、温度範囲23〜26℃において、試料(Si/Low−k膜/ポアシール層)の入ったサンプル室を5mTorrまで排気した後、トルエンガスをサンプル室に十分にゆっくり導入した。各圧力において、Low−k膜の屈折率をエリプソメーター装置によりその場測定した。この操作を、サンプル室内圧力がトルエンの飽和蒸気圧に達するまで繰り返した。同様に、サンプル室内雰囲気を徐々に排気しつつ、各圧力にて屈折率の測定を行った。以上の操作により、Low−k膜へのトルエンの吸着及び脱離による屈折率変化を求めた。更に、ローレンツ・ローレンツ式を用いて、屈折率の相対圧力特性からトルエンガス吸着脱離等温線を求めた。
上記トルエンガス吸着脱離等温線は、トルエン相対圧(P/P
0;ここで、Pはトルエンの室温での分圧を表し、P
0はトルエンの室温での飽和蒸気圧を表す。)と、トルエン吸着量の体積分率(Low−k膜全体の体積に対するトルエンの室温での吸着体積の比率;単位は「%」)と、の関係を示す等温線である。トルエン吸着量の体積分率は、ローレンツ・ローレンツ式を用いてLow−k膜の屈折率に基づいて求めた。
【0168】
上記トルエンガス吸着脱離等温線に基づき、トルエン相対圧(P/P
0)が1.0であるときのトルエン吸着量の体積分率(%)を求め、得られた値に基づき、シール性を評価した。この評価では、トルエン吸着量の体積分率(%)が小さい程、シール性が高いことを示す。
空孔半径は、上記トルエンの脱離等温線から計算により求めた。空孔半径の計算は、 M. R. Baklanov, K. P. Mogilnikov, V. G. Polovinkin, and F. N. Dultsey, Journal of Vacuum Science and Technology B (2000) 18, 1385-1391 に記載された手法に従って、ケルビン式を用いて行った。
結果を表7に示す。
【0169】
【表7】
【0170】
表7に示すように、実施例24に係
る組成物を用いて、Low−k膜表面にポアシール層を形成することにより、Low−k膜の屈折率を低く維持しつつ、Low−k膜表面に高密度(高屈折率)のポアシール層を形成することができ、良好なシール性が得られた。
【0171】
〔実施例25〕
COOH/N(PAA中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.99となるようにehePMAをPAA水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が40質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液5)を調製した。
【0172】
ポリオキシエチレン(20)ステアリルエーテルの使用量を20.9gから41.8gに変更したこと以外は前述と同様の方法にて層間絶縁層(Low−k膜)付きシリコン基板を作製した。作製したLow−k膜(接触角30°以下)付きシリコン基板を、窒素下(30kPa)、380℃で10分間プリベークした。プリベーク後、Low−k膜付きシリコン基板を、スピンコーターの上にのせ、上記組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpmで1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。その後、上記組成物を、125℃で1分間乾燥後、400℃で10分間加熱処理し、さらに20分間加熱処理を行った(400℃での加熱時間30分)。これにより、シリコン基板/層間絶縁層(Low−k膜)/膜からなる積層体が得られた。
【0173】
前述の400℃で10分間加熱処理した後の積層体、及び、400℃で10分間加熱処理し、さらに20分間加熱処理(すなわち、400℃で30分間加熱処理)を行った後の積層体において、Low−k膜/膜(ポアフィリング材)の全体の膜厚と屈折率を、エリプソメーター装置を用いて求めた。なお、ボイド体積はボイド、ポリマー、シリカ骨格に対するローレンツ・ローレンツ式を用いて波長633nmにおける屈折率から計算により求めた。
結果を表8に示す。
【0174】
【表8】
【0175】
実施例25に係
る組成物を用いて、ポアフィリング材となる膜をLow−k膜上に成膜するとポアフィリング材がLow−k膜中に均一に染込み、ボイド体積が良好に減少した。また、400℃で30分加熱した後においても、ボイド体積の変化が極めて小さかった。
【0176】
〔実施例26〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が37質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液6)を調製した。
【0177】
〔実施例27〕
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対する
1Prhe124BTC中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるように1Prhe124BTCをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して1質量%)に混合し、組成物全体に対する1−プロパノール(1PrOH)の濃度が33質量%となるように、1−プロパノールを混合し
、組成物(溶液7)を調製した。
【0178】
〔実施例28〕
BPEI_2水溶液(組成物全体に対して1.5質量%)と、135BTCに塩基(C−2)としてNH
3(N/COOH=1.5)を加えた溶液とを、
BPEI_2中における窒素原子の数に対する
135BTC中のカルボキシ基の数の比率(COOH/N)が0.71となるように混合し
、組成物(溶液8)を調製した。
【0179】
次に、シリコン基板をスピンコーターの上にのせ、実施例26〜28で調製した組成物1.0mLを10秒間一定速度で滴下し、13秒間保持した後、2000rpm(rpmは回転速度)で1秒間、600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。これにより、シリコン基板上に膜を形成した。
次いで、125℃で1分乾燥後、窒素雰囲気(30kPa)、400℃で10分間、膜を加熱した。
【0180】
<密着性評価>
膜の密着性評価のため、スパッタリングにより銅膜(厚さ100nm)を膜上に成膜して電極を形成し、シリコン基板/膜/電極(銅膜)がこの順に積層された積層体を得た。
電極が形成された積層体における密着性を以下のようにして評価した。具体的には、積層体の銅膜側表面に、0.2cm角の正方形マスを5×5個カッターで形成後、スコッチテープ(3M社製 No.56)を貼り付けた後、一気に引きはがし、剥がれたマスの数を計測した。
結果を表9に示す。
【0181】
【表9】
【0182】
膜が形成されていないシリコン基板について密着性評価を行ったところ、19マス剥がれ(剥がれ面;シリコン基板/銅膜)が生じた。一方、実施例26〜28に係
る組成物を用いて膜を形成した場合、シリコン基板と銅膜との間に剥がれがなく、密着性が良好であった。
【0183】
[実施例29]
<シリコン(Si)上のポリマー層の厚さ評価>
(組成物の調製)
COOH/N(BPEI_2中の窒素原子の数に対するehePMA中のカルボキシ基の数の比率)が0.71となるようにehePMAをBPEI_2水溶液(組成物全体に対して0.25質量%)に混合し、組成物全体に対するエタノール(EtOH)の濃度が9質量%となるように、エタノールを混合し
、組成物(溶液9)を調製した。
【0184】
(厚さ測定用試料の作製)
表面にシリカが存在しているシリコンウェハを準備し、このシリコンウェハを、スピンコーターの上にのせ、溶液9を10秒間一定速度で1.0mL滴下し、13秒間保持した後、このシリコンウェハを2000rpmで1秒間回転させ、さらに600rpmで30秒間回転させた後、2000rpmで10秒間回転させて乾燥させた。
以上により、シリコンウェハ上に、ポリマー層を形成し、シリコンウェハとポリマー層とが積層された構造の積層体(以下、「試料(Si/ポリマー)」ともいう)を得た。
【0185】
上記試料(Si/ポリマー)をホットプレート上に、シリコンウェハ面とホットプレートとが接触するように設置し、大気雰囲気下で、120℃のソフトベーク温度で60秒間ソフトベーク(加熱処理)した。
ここでいうソフトベーク温度は、シリコンウェハ表面の温度(成膜前シリコンウェハの成膜される面の温度)である。
【0186】
(洗浄処理)
上記試料(Si/ポリマー)を、スピンコーターを用いて600rpmで回転させながら、ポリマー層上に、リンス液として超純水(液温22℃)を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下してポリマー層を洗浄し、次いで、試料を2000rpmで60秒間回転させ乾燥させた。
【0187】
(洗浄処理後のポリマー層の厚さ評価)
次に、上記のようにして得られた洗浄処理後試料のポリマー層の厚さを測定した。ポリマー層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して常法により測定した。
結果を表10に示す。
【0188】
<銅(Cu)上のポリマー層の厚さ評価>
(厚さ測定用試料の作製)
シリコン基板上にめっきにて銅膜を100nm成膜し、この銅膜面をヘリウムプラズマ処理でクリーニングした基板を用い、プラズマ処理後の銅膜面上に、シール層(ポリマー層)を形成するため、<シリコン(Si)上のポリマー層の厚さ評価>と同様の処理を行なった。
以上により、銅上に、ポリマー層を形成し、銅とポリマー層とが積層された構造の積層体(以下、「試料(Cu/ポリマー)」ともいう)を得た。
【0189】
(洗浄処理)
上記試料(Cu/ポリマー)を、スピンコーターを用いて600rpmで回転させながら、ポリマー層上に、リンス液として超純水(液温22℃)を0.1mL/秒の滴下速度で30秒間滴下してポリマー層を洗浄し、次いで、試料を2000rpmで60秒間回転させ乾燥させた。
【0190】
(洗浄処理後のポリマー層の厚さ評価)
次に、上記のようにして得られた洗浄処理後試料のポリマー層の厚さを測定した。銅(Cu)上のポリマー層の厚さ(nm)は、SEMILAB社製光学式ポロシメータ(PS−1200)のエリプソメーターを使用して以下の手法により測定した。
即ち、光学的に平坦な銅基板上のポリマー層の厚さは、エリプソメトリーにより測定された偏光パラメーターを、WinElli IIを用いて多層光学モデル;(空気)/(ポリマー層)/(銅基板)で回帰することにより計算した。用いた光エネルギーの範囲は、2.2〜5.0eVである。ここで、ポリマー層の屈折率には常にシリカ(SiO
2)と同じ値を用いた。また、銅基板の屈折率及び消衰係数は、ポリマー層を有しない銅基板の偏光パラメーターを測定後、解析ソフトのWinElli IIを用いて求められた値を用いた。
結果を表10に示す。
【0191】
【表10】
【0192】
[実施例30〜32]
表10に示すようにソフトベーク温度を130℃〜150℃まで変更した以外は、実施例29と同様の手法にてSi上ポリマー及びCu上ポリマーの膜厚を各々測定した。
結果を表10に示す。
【0193】
表10に示すように、各実施例では、Cu上のポリマー層の厚み(Cu上膜厚)はSi上ポリマー層の厚み(Si上膜厚)の1/4以下であり、Cu上のポリマー層の厚みが十分に低減されていた。
【0194】
2015年11月16日に出願された日本国特許出願2015−224196の開示はその全体が参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書に記載された全ての文献、特許出願、及び技術規格は、個々の文献、特許出願、及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。