(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記展開形状から元の形状への成形シミュレーションを行うことにより、アイソジオメトリック解析によるスプリングバック解析用の初期条件データを出力する解析部を備える、
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の初期条件設定装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1およびスプリングバックによる変形を予め見込んだ設計手法においては、解析ツールとして、汎用のFEM(有限要素法)を用いることが多く、FEMを利用するために、部品のCADデータを用いてメッシュ化している。
【0009】
近年においては、新しい解析技術として、CADデータをメッシュ化せず、CADデータのままで力学問題を解く手法が開発されており、その手法はIGA(Iso Geometric Analysis、アイソジオメトリック解析)と呼ばれ、注目されている。
【0010】
IGAは、メッシュ化するFEMに比べて局所的な変形の精度が高く、今後の利用拡大が期待されている。
【0011】
以上のことから、後工程がIGAであることを前提に、新たな簡易成形手法が必要となった。
【0012】
そこで、本発明は、CADデータのままで、簡易的なプレス成形効果を求めることで、その結果として衝突解析とスプリングバック解析のために必要な初期条件を求めることが可能な初期条件設定装置、初期条件設定方法、およびプログラム提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するため、本発明に係る初期条件設定装置、初期条件設定方法、およびプログラムは、次のように構成したことを特徴とする。
【0014】
本発明に係る初期条件設定装置の一態様は、
アイソジオメトリック解析用のCADデータによるCAE解析のための初期条件設定装置であって、
前記CADデータを読み込む読込部と、
前記CADデータを面単位で分解して面データを得る分解部と、
前記面データについて展開計算を行い、平板状に展開する展開計算部と、
前記平板状に展開された面データを剛体的に平行移動または回転移動させて、変形を伴わずに前記面データの頂点同士の座標を一致または近づける仮縫い部と、
前記面データの頂点同士の座標を一致させ、かつ、前記面データが共有する辺上の節点同士の座標を一致させるか、または一方の前記辺上の節点を他方の前記辺上に共有させ、前記CADデータの平板状の展開形状を得る本縫い部と、を備える、
ことを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、読込部により読み込まれたアイソジオメトリック解析用のCADデータは、分解部により面単位で分解され、面データが得られる。面データは、展開計算部による展開計算により平板状に展開される。平板状に展開された面データは、仮縫い部により、面データの頂点同士の座標が一致するように、または近づくように、変形を伴わずに剛体的に平行移動または回転移動される。そして、仮縫いされた面データは、本縫い部により、面データの頂点同士の座標が一致するように、かつ、面データが共有する辺上の節点同士の座標が一致するように、または一方の辺上の節点を他方の辺上に共有させるように本縫いが行われ、CADデータについての平板状の展開形状が得られる。したがって、製品形状のCADデータさえあれば、展開形状から製品形状に成形した際のひずみ等を計算することができ、設計の効率化が図られる。また、プレス成形シミュレーション用の高度なノウハウが不要であり、計算時間が早い。
【0016】
次に、本発明に係る初期条件設定装置の他の態様は、前記展開形状から元の形状への成形シミュレーションを行うことにより、アイソジオメトリック解析による衝突解析用の初期条件データを出力する解析部を備える、ことを特徴とする。
【0017】
この態様によれば、アイソジオメトリック解析用のCADデータに基づいて展開形状が得られ、その展開形状から元の形状への成形シミュレーションを行うことにより、そのままアイソジオメトリック解析による衝突解析用の初期条件データを出力する。したがって、メッシュ化の作業を省略することができ、利便性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0018】
次に、本発明に係る初期条件設定装置の他の態様は、前記展開形状から元の形状への成形シミュレーションを行うことにより、アイソジオメトリック解析によるスプリングバック解析用の初期条件データを出力する解析部を備える、ことを特徴とする。
【0019】
この態様によれば、アイソジオメトリック解析用のCADデータに基づいて展開形状が得られ、その展開形状から元の形状への成形シミュレーションを行うことにより、そのままアイソジオメトリック解析によるスプリングバック解析用の初期条件データを出力する。したがって、メッシュ化の作業を省略することができ、利便性の向上とコストの削減を図ることができる。また、メッシュの結果を用いて補間を行って求めたCADデータに見られるうねり等の不自然な面が発生せず、高精度で、高品質なスプリングバック解析用の初期条件データを出力することができる。
【0020】
次に、本発明に係る初期条件設定方法の一態様は、
アイソジオメトリック解析用のCADデータによるCAE解析のための初期条件設定装置の制御方法であって、
読込部により、前記CADデータを読み込むステップと、
分解部により、前記CADデータを面単位で分解して面データを得るステップと、
展開計算部により、前記面データについて展開計算を行い、平板状に展開するステップと、
仮縫い部により、前記平板状に展開された面データを剛体的に平行移動または回転移動させて、変形を伴わずに前記面データの頂点同士の座標を一致または近づけるステップと、
本縫い部により、前記面データの頂点同士の座標を一致させ、かつ、前記面データが共有する辺上の節点同士の座標を一致させるか、または一方の前記辺上の節点を他方の前記辺上に共有させ、前記CADデータの平板状の展開形状を得るステップと、を備える、
ことを特徴とする。
【0021】
本態様によれば、読込部により読み込まれたアイソジオメトリック解析用のCADデータは、分解部により面単位で分解され、面データが得られる。面データは、展開計算部による展開計算により平板状に展開される。平板状に展開された面データは、仮縫い部により、面データの頂点同士の座標が一致するように、または近づくように、変形を伴わずに剛体的に平行移動または回転移動される。そして、仮縫いされた面データは、本縫い部により、面データの頂点同士の座標が一致するように、かつ、面データが共有する辺上の節点同士の座標が一致するように、または一方の辺上の節点を他方の辺上に共有させるように本縫いが行われ、CADデータについての平板状の展開形状が得られる。したがって、製品形状のCADデータさえあれば、展開形状から製品形状に成形した際のひずみ等を計算することができ、設計の効率化が図られる。また、プレス成形シミュレーション用の高度なノウハウが不要であり、計算時間が早い。
【0022】
次に、本発明に係るプログラムの一態様は、
アイソジオメトリック解析用のデータによるCAE解析のための初期条件設定装置のプログラムであって、前記プログラムは、コンピュータに
読込部により、前記CADデータを読み込むステップと、
分解部により、前記CADデータを面単位で分解して面データを得るステップと、
展開計算部により、前記面データについて展開計算を行い、平板状に展開するステップと、
仮縫い部により、前記平板状に展開された面データを剛体的に平行移動または回転移動させて、変形を伴わずに前記面データの頂点同士の座標を一致または近づけるステップと、
本縫い部により、前記面データの頂点同士の座標を一致させ、かつ、前記面データが共有する辺上の節点同士の座標を一致させるか、または一方の前記辺上の節点を他方の前記辺上に共有させ、前記CADデータの平板状の展開形状を得るステップと、を実行させる、
ことを特徴とする。
【0023】
本態様のプログラムをコンピュータに実行させることによって、上記初期条件設定方法を実施することができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、CADデータのままで、簡易的なプレス成形効果を求めることで、その結果として衝突解析あるいはスプリングバック解析のために必要な初期条件をCADデータ形式で出力することができる。したがって、メッシュ化の作業を省略することができ、利便性の向上とコストの削減を図ることができる。また、メッシュの結果を用いて補間を行って求めたCADデータに見られるうねり等の不自然な面が発生せず、高精度で、高品質なスプリングバック解析用の初期条件データを出力することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の一実施形態に係る初期条件設定装置について、図面を参照しつつ説明する。
【0027】
(1)初期条件設定装置の概要
図1は、本発明の一実施形態に係る初期条件設定装置10の構成を示すブロック図である。本実施形態の初期条件設定装置10は、CADデータのままで、簡易的なプレス成形効果を求めることで、IGAによる衝突解析、およびIGAによるスプリングバック解析のために必要な初期条件を設定する装置である。
【0028】
初期条件設定装置10は、一例として、パーソナルコンピュータ等のコンピュータである。
図1に示すように、初期条件設定装置10は、CPU等の処理装置11と、メモリまたはハードディスク等の記憶装置12と、キーボード、マウスまたはCD−ROMドライブ等の入力装置13と、液晶ディスプレイまたはプリンタ等の出力装置14と、を有する。
【0029】
(1−1)処理装置
図2は、
図1の処理装置11の構成を示すブロック図である。
【0030】
図2に示すように、処理装置11は、読込部110と、分解部120と、展開計算部130と、仮縫い部140と、本縫い部150と、解析部160とを備える。
【0031】
読込部110は、アイソジオメトリック解析(以下、IGAとする)用のデータを読み込む。このデータは、例えば、CADデータをIGA用のデータに変換したデータである。
【0032】
分解部120は、IGA用のデータを面単位で分解する。面単位で分解されたデータには、一般型のデータと、トリム型のデータとがある。
【0033】
展開計算部130は、面単位で分解されたデータについて、展開計算を行う。ここで、展開計算とは、面単位で分解されたデータの制御点のローカル座標系におけるZ座標を0にする計算のことをいう。
【0034】
仮縫い部140は、展開されたデータの面の頂点同士を弱く縫い合わせる。ここで、「縫い合わせる」とは、座標を一致させる計算を行うことをいう。また、「仮縫い」とは、面の平行移動量と回転移動量のみを用いて、おおよその位置と向きを出すことをいう。仮縫いは、面単位で剛体的に平行移動と回転移動のみを行い、面は変形させない。
【0035】
本縫い部150は、本縫い1として面の頂点を強く縫い合わせる。つまり、面の頂点の座標を一致させる計算を行う。また、本縫い部150は、本縫い2として面が共有する辺上の点同士を強く縫い合わせる。つまり、面が共有する辺上の制御点同士の座標を一致させる計算を行う。辺上の制御点同士の場所が一致していない場合には、対応する辺上に縫い合わせる計算を行う。
【0036】
解析部160は、IGAによる衝突解析、およびIGAによるスプリングバック解析のために必要な初期条件を出力する。
【0037】
(1−2)記憶装置
図3は、
図1の記憶装置12の構成を概略的に示すブロック図である。
図3に示すように、記憶装置12は、プログラム記憶部12Aとデータ記憶部12Bから主に構成されている。
【0038】
図4は、
図3のプログラム記憶部12Aの構成を概略的に示すブロック図である。
図4に示すように、プログラム記憶部12Aは、データ読込プログラムPR1、データ分解プログラムPR2、展開計算プログラムPR3、仮縫いプログラムPR4、本縫いプログラムPR5、衝突解析用初期条件出力プログラムPR6、およびスプリングバック解析用初期条件出力プログラムPR7をそれぞれ格納するプログラム格納部12A
1〜12A
7を有している。
【0039】
図5は、
図4のデータ記憶部12Bの構成を概略的に示すブロック図である。
図5に示すように、データ記憶部12Bは、IGA用全体データDT1、面データDT2、トリムデータDT3、境界線結合データDT4、個別展開面データDT5、移動・回転角データDT6、頂点の座標データDT7、全体展開形状データ(一般型)DT8、全体展開形状データ(トリム型)DT9、衝突解析用初期条件データDT10、およびスプリングバック解析用初期条件データDT11をそれぞれ格納するデータ格納部12B
1〜12B
11を有している。
【0040】
ここで、
図6〜
図21は、上述のデータDT1〜DT11のデータ構成を示す図である。
図6〜
図21を参照しながら、データ格納部12B
1〜12B
11に記憶されたデータDT1〜DT11について詳細に説明する。
【0041】
(1−2−1)IGA用全体データ
IGA用全体データDT1は、例えば、既存のCADシステムで設計されたIGES(Initial Graphics Exchange Specification)等のCADデータを、IGA解析用のデータに変換したデータである。IGA用全体データDT1は、
図6に示す制御点座標データ、
図7(A),(B)に示すコントロールデータ、
図8に示す面定義データ、および
図9に示すトリム線データを含む。
【0042】
(1−2−2)面データ
面データDT2は、IGAの一般型の面単位に分解されたデータであり、例えば、
図10(A)に示すように、面番号が、一般型の面の数だけ用意されている。
【0043】
(1−2−3)トリムデータ
トリムデータDT3は、トリム型の面に付随するトリム線のデータであり、例えば、
図10(B)に示すように、面番号とトリム線の数およびトリム線番号との対応を示すデータがある。
【0044】
(1−2−4)境界線結合データ
境界線結合データDT4は、面同士で共有する辺を定義する境界線のデータであり、例えば、
図11に示す一般型の面の境界線結合データと、
図13に示すトリム型の面の境界線結合データとに分かれている。
【0045】
図11に示す一般型の面の境界線結合データは、面番号と辺番号から構成されている。
図11に示す境界線結合データDT4は、面番号1,2,3,4の面が
図12(A)に示すように並んでいる場合のデータを示している。
図12(B)に示すように、辺番号は面を囲む4辺に対して、下から反時計回りとする。このように規定した場合、面番号1の面の第1辺を共有する面は存在しないため、
図11に示す面番号1の第1辺共有情報は、面番号および辺番号はいずれも0となる。しかし、面番号1の第2辺は、面番号2の第4辺と共有されているため、
図11に示す面番号1の第2辺共有情報は、面番号が2、辺番号が4となる。
【0046】
図13に示すトリム型の面の境界線結合データは、トリム型の面に対するトリム線の数と、トリム線の共有情報とから構成されている。
図13における面番号5のデータは、
図14に示す面番号5のトリム型面が存在する場合のデータを示している。
図14に示すように、面番号5のトリム型面は、2本のトリム線TL1,TL2を備えている。したがって、
図13の面番号5に対応するトリム線の数は、2となっている。また、トリム線TL1は、面番号3の第3辺と共有され、トリム線TL2は他の辺と共有されていない。したがって、
図13の面番号5の下方のトリム線番号1(TL1に相当)に対応する面番号は3、辺番号は3となる。さらに、トリム線番号2(TL2に相当)に対応する面番号は0、辺番号は0となる。
【0047】
(1−2−5)個別展開面データ
個別展開面データDT5は、面単位で求めた展開面形状データであり、例えば
図15に示すように、展開面の数、座標変換用原点座標、座標変換マトリクス、制御点の数、制御点の展開後の座標値から構成されている。
【0048】
(1−2−6)移動・回転角データ
移動・回転角データDT6は、仮縫い解析で求まる、面単位の移動量と回転角のデータであり、例えば、
図16に示すように、展開面の数、各面番号の面に対する平行移動量(面中心)および回転角(中心回り)から構成されている。
【0049】
(1−2−7)頂点の座標データ
頂点の座標データDT7は、本縫い解析で求まる、面同士で共有する頂点の位置データであり、例えば、
図17に示すように、頂点となる制御点の数、および各制御点番号の制御点に対するXYの座標値から構成されている。
【0050】
(1−2−8)全体展開形状データ(一般型)
全体展開形状データ(一般型)DT8は、全体の展開形状データ(一般型)であり、例えば、
図18に示すように、制御点の総数、および各制御点のX,Y,Z座標値から構成される。
【0051】
(1−2−9)全体展開形状データ(トリム型)
全体展開形状データ(トリム型)DT9は、全体の展開形状データ(トリム型)であり、例えば、
図19に示すように、トリム線の総数、各トリム線番号のトリム線における制御点の数、および各制御点のX,Y,Z座標値から構成される。
【0052】
(1−2−10)衝突解析用初期条件データ
衝突解析用初期条件データDT10は、IGAによる衝突解析に必要な初期条件データであり、例えば、
図20に示すように、板厚、塑性ひずみのデータを含む。
【0053】
(1−2−11)スプリングバック解析用初期条件データ
スプリングバック解析用初期条件データDT11は、IGAによるスプリングバック解析に必要な初期条件データであり、例えば、
図21に示すように、板厚、塑性ひずみ、応力6成分のデータを含む。
【0054】
(1−3)入力装置
入力装置13は、上述の各種データの入力、各種解析条件の設定または当該システムの制御等に用いられる。
【0055】
(1−4)出力装置
出力装置14には、入力設定画面、解析結果等が表示される。例えば、出力装置14には、
図22に示すように、面単位のCADデータ、およびCADデータ展開図が三次元でグラフィック表示される。
【0056】
(2)初期条件設定処理
本実施形態の初期条件設定装置10は、
図22(A)に示すCADデータを、
図22(B)に示すように面単位に分割し、
図22(C)に示すように平面データとして展開した上で、簡易的なプレス成形効果を求めることで、その結果としてIGAによる衝突解析とIGAによるスプリングバック解析のために必要な初期条件を設定する。以下、本実施形態の初期条件設定装置10による初期条件設定処理について、
図22から
図25の説明図、および
図29から
図35のフローチャートを参照しつつ説明する。
【0057】
まず、読込部110は、
図6から
図9に示すIGA用データDT1を入力する(
図29:S1)。次に、分解部120は、IGA用データDT1から、展開に必要な面と線のデータを抽出し、展開対象となる面データを作成する(
図29:S2)。面データは、
図10(A)に示すように、展開面のみの一般型の面データを作成する場合と、
図10(B),(C)に示すように、展開面の面データとトリム線のデータを含むトリム型の面データとを作成する場合とがある。
【0058】
図23(A)は、
図22(B)に示す面単位に分割したCADデータを、平面上に表した図である。
図23(A)に示す例では、各面には、1〜31の面番号が付されている。
図23(A)において、面番号1〜30の面は、面が4つの境界線により囲まれ、境界線の交点が4つの頂点となる一般型の面である。また、
図23(A)において、面番号31の面は、トリム型の面である。トリム型の面は、
図24に示すように、母面31aに対して、制御点を結ぶことによりトリム線31bを定義し、このトリム線31bによりトリムされて残る面31をトリム型の面と定義している。なお、
図24においては、便宜上、トリム線31bを折れ曲がった線で表しているが、実際にはトリム線31bは曲線である。
【0059】
次に、分解部120は、隣接する面同士で共有する共有辺情報を作成する(
図29:S3)。共有辺情報は、
図11および
図13に示す境界線結合データとして表される。境界線結合データは、
図11に示す展開面のみの一般型の境界線結合データと、
図13に示すような展開面とトリム線を含むトリム型の境界線結合データとがある。
【0060】
次に、展開計算部130は、面単位で展開計算を行い、隣接する面同士で共有する境界線上の制御点の情報を作成する(
図29:S4)。制御点は、面の4頂点、および辺上の数点を含む。面単位での展開計算の詳細なフローチャートを
図31および
図32に示す。
図31は、一般型の場合の面単位での展開計算を示すフローチャート、
図32は、トリム型の場合の面単位での展開計算を示すフローチャートである。
【0061】
(一般型の面単位での展開計算)
図31に示すように、展開計算部130は、
図10(A)に示す面データに基づいて、各面番号の面に対して垂直な軸をZ軸として、各面データの座標を展開座標系に変換する(
図31:S20)。例えば、
図22(B)および
図23(A)に示すCADデータの場合には、最も大きなトリム型の面である面番号31の面に垂直な軸が、展開座標系のZ軸に一致するように座標変換を行う。
【0062】
CADデータが曲面から構成される場合には、コーナーになる4つの制御点で構成される仮想的な面に垂直な軸が、展開座標系のZ軸に一致するように座標変換してもよい。例えば、
図25(A),(B)に示す例では、下部の8個の制御点(0,0,0)、(0,1/3,0)、(0,2/3,0)、(0,1,0)、(1,0,0)、(1,1/3,0)、(1,2/3,0)、(1,1,0)、および、上部の8個の制御点(1/3,0,2/3)、(1/3,1/3,2/3)、(1/3,2/3,2/3)、(1/3,1,2/3)、(2/3,0,2/3)、(2/3,1/3,2/3)、(2/3,2/3,2/3)、(2/3,1,2/3)により表される曲面S1を示している。この場合、コーナーの4つの制御点とは(0,0,0)、(1,0,0)、(0,1,0)、(1,1,0)である。
図25(A),(B)においては、曲面S1を平面が組み合わされた面として表しているが、実際には、半径0.5の円弧の半分に近い形状である。
【0063】
この曲面S1のようなCADデータの場合には、例えば、上部の8個の制御点で構成される仮想的な面、あるいは、上部の8個の制御点で構成される仮想的な面に垂直な軸が、展開座標系のZ軸に一致するように座標変換する。
【0064】
以上のような展開座標系への座標変換が終了すると、展開計算部130は、面単位の中心点を(X0,Y0,Z0)として、面の頂点位置を使い、局所座標変換マトリクスの計算を行う。これにより、各面データの座標を要素座標系に変換する(
図31:S21)。
【0065】
例えば、
図26(A)に示すように、要素E1と要素E2から成るCADデータの場合は、CADデータを要素E1と要素E2とに分離する。そして、要素E1については、90°の制御点と180°の制御点の中心を中心点として、この中心点の座標を(X0,Y0,Z0)とする。要素E1の面の頂点は、90°の制御点(Y方向の制御点も含む)と180°の制御点(Y方向の制御点も含む)となる。同様に、要素E2については、0°の制御点と90°の制御点の中心を中心点として、この中心点の座標を(X0,Y0,Z0)とする。要素E2の面の頂点は、0°の制御点(Y方向の制御点も含む)と90°の制御点(Y方向の制御点も含む)となる。このように、それぞれの面データの座標を要素座標系に変換する。
【0066】
以上のように要素座標系への変換が終了すると、展開計算部130は、各面データの要素座標を局所座標系に変換する(
図31:S22)。ここで、局所座標系とは、原点が要素座標系と同じで、X,Y,Zの各軸は、展開座標系と同じである座標系をいう。例えば、
図26(B)の例では、要素E1および要素E2の要素座標系におけるZ軸が、展開座標系のZ軸に一致するように、要素E1および要素E2を回転させる。
【0067】
以上のように局所座標系への変換が終了すると、展開計算部130は、各面の頂点(コーナー点)の拘束条件を設定する(
図31:S23)。拘束条件しては、例えば、頂点(0,0,0)では、X,Y,Zを拘束、頂点(1,0,0)ではYZを拘束、頂点(0,1,0)ではXZを拘束、頂点(1,1,0)ではZのみを拘束するという拘束条件をそれぞれ設定する。
【0068】
次に、展開計算部130は、拘束頂点以外の制御点の強制変位量dz(=Z0−Z)を0に設定する(
図31:S24)。
【0069】
そして、展開計算部130は、面単位の中心点を、Z=Z0へ移動する有限要素法による展開計算を実施し(
図31:S25)、
図15に示す個別展開面データとして、展開形状の保存を行う(
図31:S26)。
【0070】
図26(B)に示す例では、要素E1と要素E2の中心点を、矢印方向にZ=Z0となるまで移動させる。その結果、要素E1と要素E2は、
図26(B)に示すように重なった状態となる。また、
図25(B)に示す例では、上部の8個の制御点を矢印C1,C2方向にZ=Z0となるまで移動させる。その結果、
図25(B)に示す平面S2が得られる。
【0071】
(トリム型の面単位での展開計算)
図32に示すように、展開計算部130は、
図10(A)に示す面データに基づいて、各面番号の面に対して垂直な軸をZ軸として、各面データの座標を展開座標系に変換する(
図32:S30)。
【0072】
展開計算部130は、
図10(B),(C)に示す面データに基づいて、トリム線のX座標、Y座標のそれぞれの最大値、最小値から、使用する母面の範囲を決定する(
図32:S31)。
【0073】
展開計算部130は、面単位の中心点を(X0,Y0,Z0)として、面の頂点位置を使い、局所座標変換マトリクスの計算を行う。これにより、各面データの座標を要素座標系に変換する(
図32:S32)。
【0074】
展開計算部130は、各面データの要素座標を局所座標系に変換する(
図32:S33)。また、展開計算部130は、各面の頂点(コーナー点)の拘束条件を設定する(
図32:S34)。さらに、展開計算部130は、拘束頂点以外の制御点の強制変位量dz(=Z0−Z)を0に設定する(
図32:S35)。
【0075】
そして、展開計算部130は、Z=Z0へ移動する有限要素法による展開計算を実施する(
図32:S36)。
【0076】
展開計算部130は、
図10(C)に示す面データに基づいて、展開面上のトリム線の位置の計算を行う(
図32:S37)。
【0077】
展開計算部130は、
図15に示すように個別展開面データとして、展開形状の保存を行う(
図32:S38)。
【0078】
説明を
図29に戻す。以上のような面単位での展開計算が、全ての面について完了すると、仮縫い部140は、頂点の仮縫い処理を行う(
図29:S5)。仮縫い処理の詳細なフローチャートを
図33に示す。
【0079】
図33に示すように、仮縫い部140は、
図15に示す個別展開面データから、全ての展開面データを読み込む(
図33:S40)。仮縫い部140は、
図11または
図13の境界線結合データから辺データの始点と終点である頂点のデータを読み込む(
図33:S41)。
【0080】
仮縫い部140は、面単位の剛性マトリクスを計算する(
図33:S42)。仮縫い処理においては、面の変形は考慮しない。次に、仮縫い部140は、頂点同士の仮結合条件を設定する(
図33:S43)。ここで、頂点同士の仮結合条件とは、面の頂点を一致させる、あるいは、頂点同士を近づける条件をいう。この後、仮縫い部140は、適度に小さな剛性を有するバネ要素とそのバネ要素の長さをゼロに近づける荷重条件を施した有限要素法による計算を行い(
図33:S44)、コーナー4点の変位の平均値として面単位の平行移動量、およびコーナー点1から点2の向きとコーナー点3から4への向きの変化の平均値として回転角を計算する(
図33:S45)。そして、
図16に示す移動量および回転角データを保存する。
【0081】
例えば、
図27に示す例では、一般型の面における制御点P1と制御点P1とを結合し、また、一般型の面における制御点P2と制御点P2とを結合する。さらに、一般型の面における制御点P4と制御点P4とを結合する。そして、一般型の面における制御点P1と、トリム型の面における制御点P3とを結合する。このようにして、相対する2点の頂点における制御点間の距離をゼロに近くする計算を行い、各面の移動量と回転角を求める。
【0082】
説明を
図29に戻す。以上のような仮縫い処理を行った後、本縫い部150は、本縫い処理1(
図29:S6)および本縫い処理2(
図29:S7)を行う。
図34に本縫い処理1の詳細なフローチャートを示し、
図35に本縫い処理2の詳細なフローチャートを示す。本縫い処理1は、隣接する面同士で共有する頂点の結合を行う処理であり、本縫い処理2は、隣接する面同士で共有する辺の結合を行う処理である。
【0083】
(本縫い処理1)
図34に示すように、本縫い部150は、
図15に示す個別展開面データから、全ての展開面のデータを読み込む(
図34:S50)。また、本縫い部150は、
図16の移動量および回転角データを読み込む(
図34:S51)。本縫い部150は、読み込んだ移動量および回転角データに基づいて、各面の移動および回転を実施する(
図34:S52)。
【0084】
次に、本縫い部150は、
図11または
図13の境界線結合データから頂点のデータを読み込む(
図34:S53)。また、本縫い部150は、面単位の剛性マトリクスを計算する(
図34:S54)。本縫い処理においては、面の変形が考慮される。本縫い部150は、頂点同士の本結合条件を設定する(
図34:S55)。本結合条件とは、面の頂点を一致させる条件をいう。本縫い部150は、適度に大きな剛性を有するバネ要素とそのバネ要素の長さをゼロに近づける荷重条件を施した有限要素法による計算を行って、頂点同士を結合させ(
図34:S56)、得られたデータを
図18に示す全体展開形状データとして記憶する。
【0085】
(本縫い処理2)
以上のように本縫い処理1が終了すると、本縫い部150は、
図35に示すように、全ての展開面のデータを
図18に示す全体展開形状データから読み込む(
図35:S60)。また、本縫い部150は、
図11また
図13の境界線データから共有辺データを読み込む(
図35:S61)。
【0086】
本縫い部150は、面単位の剛性マトリクスを計算する(
図35:S62)。そして、本縫い部150は、辺上の節点同士の本結合条件を設定する(
図35:S63)。ここで、辺上の節点同士の本結合条件とは、辺上の制御点の座標を一致させる計算を行うことをいい、制御点同士の場所が一致していない場合には、対応する辺上に縫い合わせる計算を行うことをいう。
【0087】
本縫い部150は、適度に大きな剛性を有するバネ要素とそのバネ要素の長さをゼロに近づける荷重条件を施した有限要素法による計算を行って(
図35:S64)、辺上の節点同士を結合させ、得られたデータを
図19に示す全体展開形状データとして記憶する。
【0088】
例えば、
図27に示した例では、本縫い処理1および本縫い処理2により、
図28により展開された形状が得られる。なお、
図28には仮縫い処理により得られた回転方向を代表的な面の中に矢印で示している。また、
図26(B)に示した例では、本縫い処理1および本縫い処理2により、
図26(C)に示すように境界部が縫合される。また、
図23(A)に示した例では、本縫い処理1および本縫い処理2により、
図23(B)に示すように展開された形状が得られる。
【0089】
図29の説明に戻る。以上のように本縫い処理2が終了すると、
図30に示す処理に移り、解析部160は、
図19に示す全体展開形状データと、
図10(A)または
図10(B)に示す面データとを入力する(
図30:S9)。解析部160は、変形前を展開形状、変形後を成形後の面形状として、全ての面について、面単位で位置情報を作成する(
図30:S10)。
【0090】
解析部160は、面単位でひずみと応力を計算する(
図30:S11)。解析部160は、衝突解析用の初期条件データを出力し(
図30:S12)、
図20に示すような衝突解析用初期条件データとして保存する。
【0091】
以上のように、本実施形態によれば、CADデータを用いてメッシュ化した上で部品が加工されるプロセスを逐一シミュレーションするのではなく、IGA用のデータで表された製品形状を元に、それを一度フラットな形状に展開し、そこから元の製品形状に成形した場合の形状の変化から、板厚変化やひずみを予測するIGAによるワンステップ法を用いた。その結果、IGA用の製品形状のCADデータさえあれば製品形状に成形した際のひずみ等を計算することができ、設計の効率化を図ることができる。また、プレス成形シミュレーション用の高度なノウハウが不要であり、計算時間が早いという利点も有している。
【0092】
衝突解析用の初期条件データとしては、板厚の変化、塑性ひずみ等が挙げられる。また、衝突解析は、IGAによる衝突解析であってもよい。この場合には、本実施形態は、上述した面単位でのひずみと応力の計算までの過程をIGAによるワンステップ法により行っているため、計算したデータをそのまま後工程であるIGAによる衝突解析に引き継ぐことができ、利便性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0093】
解析部160は、スプリングバック解析用の初期条件データを出力し(
図30:S13)、
図21に示すようなスプリングバック解析用初期条件データとして保存する。以上のように、本実施形態によれば、スプリングバック解析においても、CADデータを用いてメッシュ化した上で部品が加工されるプロセスを逐一シミュレーションするのではなく、IGA用のデータで表された製品形状を元に、それを一度フラットな形状に展開する。そして、そこから元の製品形状に成形した場合の形状の変化から、板厚変化やひずみを予測するIGAによるワンステップ法を用いてスプリングバック解析用初期条件データを出力する。その結果、IGA用の製品形状のCADデータさえあれば製品形状に成形した際のひずみ等を計算することができ、設計の効率化を図ることができる。また、プレス成形シミュレーション用の高度なノウハウが不要であり、計算時間が早いという利点も有している。さらに、スプリングバック解析においてもCADデータ形式の出力が可能となり、メッシュの結果を用いて補間を行って求めたCADデータに見られるうねり等の不自然な面が発生せず、高精度で、高品質なスプリングバック解析用初期条件データを出力することができる。
【0094】
スプリングバック解析用初期条件データとしては、板厚の変化、塑性ひずみ、および応力6成分等が挙げられる。また、スプリングバック解析は、IGAによるスプリングバック解析であってもよい。この場合には、本実施形態は、上述した面単位でのひずみと応力の計算までの過程をIGAによるワンステップ法により行っているため、計算したデータをそのまま後工程であるIGAによるスプリングバック解析に引き継ぐことができ、利便性の向上とコストの削減を図ることができる。
【0095】
なお、
図30に示した衝突解析用データ出力のステップS12と、スプリングバック解析用データ出力のステップS13は、
図30に示した順序で実行される必要はなく、また、どちら一方のみを実行するようにしてもよい。
【0096】
図36(A),(B)に、本実施形態による初期条件設定を行った衝突解析のサンプルを示す。
図36(A)に示すように、本実施形態による初期条件設定を行った衝突解析のサンプルは、全体の展開形状から製品形状への成形シミュレーションを行うことにより、製品形状の状態において、板厚の変化、塑性ひずみが初期値分布として得られる。一方、
図36(C)に示すプレス成形による影響を無視した従来の手法による製品形状においては、初期値の分布が与えられていない。
【0097】
したがって、
図36(A)に示す製品形状に基づいて、既存の解析技術により衝突解析を行うと、
図36(B)に示すように、
図36(D)の従来法による場合に比べて最大反力が12.3%増加し、精度の良い解析結果が得られた。
【0098】
図37(A)に厳密増分解析の結果の入力図、
図37(B)にIGAのデータとして利用する図、および
図37(C),(D)に、本実施形態による初期条件設定を行ったスプリングバック解析のサンプルを示す。
図37(C)に示すように、本実施形態による初期条件設定を行ったスプリングバック解析のサンプルは、全体の展開形状から製品形状への成形シミュレーションを行うことにより、製品形状の状態において、板厚の変化、塑性ひずみ、および応力6成分が初期値分布として得られる。したがって、
図37(D)、(E)に示すスプリングバックによる変形を精度良くシミュレートすることができる。
【0099】
以上のように、本実施形態によれば、CADデータを用いてメッシュ化した上で部品が加工されるプロセスを逐一シミュレーションするのではなく、製品形状を元にそれを一度フラットな形状に展開し、そこから元の製品形状に成形した場合の形状の変化から板厚変化やひずみを予測するワンステップ法を用いた。その結果、製品形状のCADデータさえあれば、展開形状から製品形状に成形した際のひずみ等を計算することができ、設計の効率化を図ることができる。また、プレス成形シミュレーション用の高度なノウハウが不要であり、計算時間が早いという利点も有している。
【0100】
特に、本実施形態の初期条件設定の手法は、IGA用のデータを用いたワンステップ法であるため、メッシュ化の作業を省略することができ、そのまま後工程であるIGAによる衝突解析またはスプリングバック解析にデータを引き継ぐことができる。したがって、利便性の向上と、低コスト化を図ることができる。また、簡単に、速く、十分な精度で加工硬化の算出を行うことができる。
【0101】
一方、成形解析としてワンステップ法を用いず、現在広く適用されている厳密な増分解法を用いた場合には、
図37(A),(B)に示される処理をすることで、本実施形態が適用可能となる。
図37(A)は厳密な増分解法の結果であり、ここで得られた板厚の変化、塑性ひずみ、および応力6成分を、
図37(B)のIGAのデータへマッピングすることで、
図37(C)の初期条件の設定が可能となる。
【解決手段】アイソジオメトリック解析用のCADデータによるCAE解析のための初期条件設定装置10であって、CADデータを読み込む読込部110と、CADデータを面単位で分解して面データを得る分解部120と、面データについて展開計算を行い、平板状に展開する展開計算部130と、平板状に展開された面データを剛体的に平行移動または回転移動させて、変形を伴わずに面データの頂点同士の座標を一致または近づける仮縫い部140と、面データの頂点同士の座標を一致させ、かつ、面データが共有する辺上の節点同士の座標を一致させるか、または一方の辺上の節点を他方の辺上に共有させ、CADデータの平板状の展開形状を得る本縫い部150とを備える。