特許第6427758号(P6427758)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6427758光の反射方向・反射強度が制御された3次元印刷物および印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427758
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】光の反射方向・反射強度が制御された3次元印刷物および印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 64/393 20170101AFI20181119BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20181119BHJP
   B33Y 30/00 20150101ALI20181119BHJP
【FI】
   B29C64/393
   B33Y10/00
   B33Y30/00
【請求項の数】10
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-118200(P2014-118200)
(22)【出願日】2014年6月6日
(65)【公開番号】特開2015-229339(P2015-229339A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】713008577
【氏名又は名称】金田 泰
(72)【発明者】
【氏名】金田 泰
【審査官】 田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−194968(JP,A)
【文献】 特表2005−523391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/393
B33Y 10/00
B33Y 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3 次元プリンタの印刷ヘッドのノズルから射出されるフィラメントをかさねて 3 次元オブジェクトを印刷・造形する 3 次元印刷方法において,
前記のフィラメントとして射出後に表面がなめらかになり光沢をもつ材料を使用し,
前記の 3 次元オブジェクト上の第 1 の部分においてフィラメント断面がほぼ円形になるように第 1 の印刷パラメタを決定するとともに,
前記の 3 次元オブジェクト上の第 2 の部分においてフィラメント表面がより平坦になるように第 2 の印刷パラメタを決定することにより,
前記の 3 次元オブジェクトの表面にあたる外光の前記の表面に垂直な方向への反射光が前記の第 1 の部分より前記の第 2 の部分において,よりつよくなるようにする
ことを特徴とする 3 次元印刷方法.
【請求項2】
3 次元プリンタのノズルから射出されるフィラメントをかさねて 3 次元オブジェクトを印刷・造形する 3 次元印刷方法において,
前記のフィラメントとして射出後に表面がなめらかになり光沢をもつ材料を使用し,
前記の 3 次元オブジェクト上の部分ごとに近傍のフィラメントと前記の近傍のフィラメントに隣接するフィラメントとの間隔をほぼ等間隔にし,
前記の部分ごとに前記の近傍のフィラメントの断面積をほぼ一定にし,
前記の部分ごとに前記の近傍のフィラメントと前記の隣接するフィラメントとの角度をほぼ一定にするように印刷を制御することにより,
上記の近傍において前記の 3 次元オブジェクトが特定の方向によりつよく外光を反射するように印刷・造形するとともに,
フィラメントを複数層かさねて表層すなわち第 1 層のフィラメントにおいては表面で光を反射するようにし,第 2 層以下のフィラメントにおいては光の反射をおさえることを特徴とする 3 次元印刷方法.
【請求項3】
請求項1の 3 次元印刷方法において,前記の第 1 および第 2 の印刷パラメタが隣接フィラメント間間隔である 3 次元印刷方法.
【請求項4】
請求項1の 3 次元印刷方法において,前記の第 1 および第 2 の印刷パラメタがフィラメント断面積である 3 次元印刷方法.
【請求項5】
請求項4の 3 次元印刷方法において,
前記のノズルの移動速度を前記の部分ごとに変化させることにより前記の近傍のフィラメントの断面積を前記の部分ごとに変化させることを特徴とする 3 次元印刷方法.
【請求項6】
請求項4の 3 次元印刷方法において,
前記のノズルからのフィラメントの射出速度を前記の部分ごとに変化させることにより前記の近傍のフィラメントの断面積を前記の部分ごとに変化させることを特徴とする 3 次元印刷方法.
【請求項7】
請求項4の 3 次元印刷方法において,
内径のことなる複数のノズルを前記の 3 次元プリンタに装備し,内径のおおきいノズルを前記のノズルとして選択し使用することによって前記の射出中のフィラメントの断面積を増加させることを特徴とする 3 次元印刷方法.
【請求項8】
請求項1の 3 次元印刷方法において,前記の第 1 および第 2 の印刷パラメタが隣接フィラメント間角度である 3 次元印刷方法.
【請求項9】
3 次元プリンタのノズルから射出されるフィラメントをかさねて印刷・造形された 3 次元オブジェクトであって,
前記のフィラメントとして表面がなめらかで光沢をもつ材料が使用され,
前記の 3 次元オブジェクト上の第 1 の部分においてフィラメント断面がほぼ円形であり,
前記の 3 次元オブジェクト上の第 2 の部分においてフィラメント表面がより平坦であり,
前記の 3 次元オブジェクトの表面にあたる外光の前記の表面に垂直な方向への反射光が前記の第 2 の部分より前記の第 1 の部分において,よりつよい
ことを特徴とする 3 次元オブジェクト.
【請求項10】
請求項の 3 次元オブジェクトにおいて,
フィラメントが 1 層であることを特徴とする 3 次元オブジェクト.
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は冷却,加熱,光照射等の方法によって固化する材料を層状につみかさねることによって 3 次元形状を造形する積層型 3D プリンタ (3 次元プリンタ) による印刷法と印刷物に関する.
【背景技術】
【0002】
ABS 樹脂,PLA 樹脂等の熱によって溶解する材料を糸状のフィラメントにしてそれを集積することによって 3 次元形状を造形するタイプの 3D プリンタすなわち熱溶解型 3D プリンタの基本は,特許文献1に記述されている.また,逆に常温ではゲル状だが熱や光によって固化する材料をフィラメントにして使用するタイプの 3D プリンタもある.これらの技術においては,印刷すなわち造形するべき物体 (モデル) を層状にスライスし,フィラメントを水平方向にならべることによって各層を形成し,それを積層することによって造形する.そのため,通常,印刷された物体においてそのフィラメントの方向を確認することができる.ただし,疎な印刷においてはフィラメントはほぼ射出時のままの形状になるが,密な印刷においては隣接するフィラメントと接合され,比較的わずかな筋が確認されるだけになる.しかし,印刷の方向が水平であるために,フィラメントや筋の方向は水平方向に限定される.また,フィラメントの材質としては ABS のように表面で光を乱反射しやすい物質が使用されることが多く,仕上げ塗装を除外すれば設計・製造時に光沢が考慮されることはない.
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】Richard Helinski: 米国特許 US 5136515
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
熱溶解型 3D プリンタ (fused-deposition-modeling (FDM) 型プリンタ) または他の積層型 3D プリンタにおいて使用する材料のなかには,PLA のように印刷後に表面に光沢がある材料がある.すなわち,フィラメントの表面で光が特定の方向に反射する.そのため,透明なフィラメントを使用すると特定の方向から光をあてたときにかがやきが生じる.しかしながら,従来の 3D 印刷法ではかがやきのつよさやその方向を制御することができないため,その効果はかぎられる.この発明によって解決するべき課題は,3D 印刷オブジェクトの反射強度や反射方向を制御することができる 3D 印刷法を開発し,多様な方向にかがやきを発する 3D 印刷オブジェクトを製造できるようにすることである.
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の課題を解決するためには,そのためには,隣接するフィラメント間の間隔が部分ごとに変化するか,フィラメントの断面積が部分ごとに変化するか,または隣接するフィラメントとの角度が部分ごとに変化することにより,部分ごとに外光の反射方向や反射強度が変化するように印刷・造形すればよい.すなわち,3D プリンタのプリント・ヘッドの移動機構やフィラメントを押しだすエクストルーダを制御することによって,隣接するフィラメント間の間隔を部分ごとに変化させるか,印刷速度またはフィラメント射出速度を変化させることによりフィラメントの断面積を部分ごとに変化させるか,または隣接するフィラメントとの角度を部分ごとに変化させることにより,部分ごとに外光の反射方向や反射強度が変化するように印刷・造形すればよい.
【発明の効果】
【0006】
本発明の方法を使用することにより,3D 印刷物の光の反射方向や反射強度を制御することができる 3D 印刷を実現し,多様な方向に多様な強度の光を反射する 3D 印刷物を製造することが可能になる.
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明の実施形態における反射光の拡散をおさえる制御法の説明図である.
図2】本発明の実施形態におけるフィラメント間隔の制御による反射光の方向の制御法の説明図である.
図3】本発明の実施形態におけるフィラメント断面積の制御による反射光の方向の制御法の説明図である.
図4】本発明の実施形態におけるフィラメント間の角度の制御による反射光の方向の制御法の説明図である.
図5】本発明の実施形態における 3D 印刷可能性が保存される条件および 3D 印刷可能性を保存するための方法の説明図である.
図6】本発明の実施形態における,変換・変形処理 102 において中回転角の回転をおこなったときの 3D 印刷可能性を保存するための方法の説明図である.
図7】本発明の実施形態における,プリント・ヘッドを回転することにより 3D 印刷可能性を保存するための方法の説明図である.
図8】本発明の実施形態における,光沢のある底面を印刷する方法の説明図である.
【発明を実施するための形態】
【実施例1】
【0008】
[3D 印刷法の概要]
【0009】
フィラメントを積層して印刷・造形する 3D 印刷においては,3D プリンタにおいて,プリント・ベッド (印刷台),すでに印刷したフィラメント,サポート材 (すなわち,支持することだけが目的で,印刷完了後は除去する材料) などの支持体に密着するように,溶解したフィラメントをプリント・ヘッド先端のノズルから射出して印刷する.3D プリンタにおいては,プリント・ヘッドを移動させるために x, y, z 各方向の制御をおこなう 3 個のステッピング・モータまたは並列リンク機構を制御する 3 個のステッピング・モータを使用し,これらのモータの動作をギアまたはベルトによってプリント・ヘッドに伝達する.また,フィラメントを押しだすためにフィラメントをピンチローラによってはさみ,ステッピング・モータによりそれを駆動する.プリント・ヘッドおよびフィラメントの移動速度はステッピング・モータの制御系により電子的に制御される.
【0010】
3D 印刷においては通常は支持体が射出されたフィラメントの下方にある状態で印刷するが,支持体がななめ下方にある状態すなわちオーバーハング状態でも,しかるべき方法をとれば印刷することができる.したがって,皿のような形状でもサポート材なしで印刷することが可能である.
【0011】
[反射光制御法]
【0012】
フィラメントの材質によっては印刷後のフィラメントの表面に凹凸ができて光を反射しにくくなるが,PLA のような材料をすれば表面がなめらかになり,光を反射する.とくに,透明な PLA などの材料を使用すれば特定の方向に光をつよく反射してかがやくようにすることができる.また,フィラメントの表面が着色されていると反射率が低下するが,内部だけ着色すれば反射率を維持したまま不透明または半透明にすることができる.溶解前のフィラメントの表面には透明な材料を使用し内部には不透明または半透明の材料を使用して,さらにノズル内部で溶解したフィラメントを徐々に細くしながら射出するように ノズルを設計することにより (すなわちノズル内部をテーパ状にすることにより),射出後のフィラメントをこのような構造にすることができる.
【0013】
3D 印刷においては通常はフィラメントを複数層かさねるが,方向によって反射光に変化をつけるには図 1(a) のようにフィラメント (111, 112, 113) を 1 層だけにすることが有効である.すなわち,外光を反射しやすい層を複数層かさねると層ごとに反射光がつよい方向をそろえるのが困難になるため反射光が拡散しがちになるが,1 層にすればそれを防止することができる.また,フィラメントを複数層にするときは,図 1(b) のように表層のフィラメント 121, 122, 123 だけ外光がつよく反射するようにし,2 層め以下のフィラメント 124, 125, 126, 127, 128, 129 は光沢のない材料,着色された材料,または不透明か半透明の材料を使用して反射をおさえることによって,反射光がつよい方向をそろえることができる.
【0014】
このような反射光によるかがやきを制御するためにつぎのような方法をとることができる.第 1 の方法は,3D 印刷オブジェクト上の場所ごとにフィラメントの間隔を変化させる方法である.図 2(a) においてはノズル 214 から射出されたフィラメント 211, 212, 213 の間隔をひろくとっているためにフィラメントの断面は円形にちかく,光を拡散しやすい.これに対して図 2(b) においてはノズル 224 から射出されたフィラメント 221, 222, 223 の間隔がせまいために 3D 印刷オブジェクトの表面は平面にちかくなり,表面に垂直な方向に光を反射しやすい.ただし,3D 印刷オブジェクト上の場所による反射光の差を明確にするため,間隔の変化はゆるやかにし,近傍では間隔をほぼひとしくする.
【0015】
第 2 の方法は,3D 印刷オブジェクト上の場所ごとにフィラメントの断面積を変化させる方法である.図 3(a) においてはノズル 314 から射出されたフィラメント 311, 312 の断面積をおおきくとっているため,図 1(b) と同様に光はフィラメントの配列方向と垂直な方向に反射しやすい.これに対して図 3(b) においてはノズル 324 から射出されたフィラメント 321, 322 の断面積をちいさくしているために,図 1(a) と同様に光は拡散しやすい.フィラメントの断面積を変化させるには印刷速度すなわち印刷時のノズルの移動速度を変化させるか,フィラメントの射出速度を変化させればよい.ノズルの移動速度をおおきくするかフィラメントの射出速度をちいさくすれば断面積は縮小し,逆にノズルの移動速度をちいさくするかフィラメントの射出速度をおおきくすれば断面積は拡大する.この場合も 3D 印刷オブジェクト上の場所による反射光の差を明確にするため,断面積の変化はゆるやかにし,近傍では断面積をほぼひとしくする.なお,断面積を制御するためにはそれを直接制御する方法以外に高さと幅をあわせて制御する方法もある.
【0016】
第 3 の方法は,3D 印刷オブジェクト上の場所ごとに隣接するフィラメントがなす角度を変化させる方法である.図 4(a) においてはノズル 414 から射出されたフィラメント 411, 412 が水平にちかい角度で配列されているため,光は垂直にちかい方向に反射しやすい.これに対して図 4(b) においてはノズル 424 から射出されたフィラメント 421, 422 が垂直にちかい角度で配列されているため,光は水平にちかい方向に反射しやすい.この場合も 3D 印刷オブジェクト上の場所による反射光の差を明確にするため,角度の変化はゆるやかにし,近傍では角度をほぼひとしくする.
【0017】
[3D 印刷可能であるための条件]
【0018】
3D 印刷可能であるための条件はつぎの 2 つである.第 1 は印刷時にすでに印刷されたフィラメントが印刷をさまたげないことである.プリント・ヘッドのノズルと印刷位置とのあいだにフィラメントがあると印刷することができない.第 2 は印刷したフィラメントが支持されることにより,設計された位置にとどまることである.フィラメントを支持する支持体はプリント・ベッド (印刷台),既存のフィラメント,サポート材などのうちいずれであってもよい.また,支持体はかならずしも下方にある必要はなく,横方向に圧着することによって支持されるのでもよい.すなわち,下方から支持される必要はかならずしもない.支持体と接触しない位置にフィラメントが射出されると,フィラメントは設計位置からはずれ,下方または横方向にずれた位置に固定される.3D 印刷可能であるためにはこれらの条件がともにみたされなければならない.
【0019】
[3D 印刷可能性の維持法]
【0020】
3D 印刷可能性を維持するための方法について,図 5 を使用して説明する.フィラメントの配列が垂直方向であるときは,上位のフィラメント 511 が下位のフィラメント 512 に圧着させられるため接着する.射出直後のフィラメントの断面は円にちかいが,圧着させられることによってフィラメント 511 および 512 は楕円にちかい形状になっている.フィラメントの形状およびここで三角形 513 の下端がノズルの位置をあらわしている.
【0021】
フィラメントの配列が垂直にちかいときの印刷 (図 5(b)) においては,フィラメント 521, 522 の上下関係は配列が垂直のときとほぼおなじであるため,フィラメントは接着し,3D 印刷に問題は生じない.しかし,フィラメントの配列が水平にちかく,かつフィラメントがなす角度が負のときすなわちあとで印刷するフィラメントのほうが下方にあるとき (図 5(c)) は,フィラメント 531, 532 の上下関係が逆転して接着しにくくなるため,順序を変更しないかぎり 3D 印刷は困難である.フィラメントがなす角度が正のとき (図 5(d)) でも,印刷時にフィラメントがあまって波打ったり,上位のフィラメントが下位のフィラメントに接することなく落下したりするという問題が発生する.また,フィラメントどうしが接触はするが圧着させられないため接着しないという問題が発生する.
【0022】
上記の問題を解決するにはつぎの 2 つの方法のうちのいずれかを実施すればよい.第 1 に,フィラメントがなす角度が正のときにはつぎの方法を適用することによって 3D 印刷可能にすることができる.すなわち,断面積を調整し,上位のフィラメントが下位のフィラメントに接触するようにする.断面積を拡大する第 1 の方法はフィラメントの射出速度を増加させる方法である.しかし,断面積を拡大するためにフィラメントの射出速度を増加させるとフィラメントが波打ったり湾曲して接触しなくなるため,他の方法としてつぎの 2 つがある.断面積を拡大する第 2 の方法は射出量を増加させるかわりにノズルの移動速度を低下させることによって断面積を拡大させる方法である.この方法を使用すればフィラメントの射出速度を一定にしたまま断面積を拡大することができるため,フィラメントの射出速度の変化に遅延がある場合すなわち制御系で射出速度を調整してもすぐには射出速度が変化しないときに有効である.しかし,この方法ではフィラメントの波打ちを軽減させることはできても完全になくすことは困難である.断面積を拡大する第 3 の方法は,内径のことなる複数のノズルを 3D プリンタに装備し,おおきな断面積で印刷したいときはノズル先端の内径がおおきいノズルを選択する方法である.この方法によれば波打ちをなくすことが可能である.断面積を縮小するには逆にノズルの移動速度を上昇させるか,ノズル先端の内径がちいさいノズルを選択すればよい.
【0023】
上記の問題を解決解決するには第 2 に,フィラメントの配列が水平にちかくかつフィラメントがなす角度が非負のとき (場合によっては負のちいさな角度もふくむ) には,印刷する際に図 5(c) のように隣接するフィラメントが水平にちかくなるため,フィラメントどうしを圧着させることができず接着するのが困難になる.このときは図 6 にしめす方法によってフィラメントを接着することができる.
【0024】
まず図 6(a) のように下位のフィラメント 611 を左,上位のフィラメント 612 を右にみたときにフィラメントが左に凸であるすなわち曲率半径の中心が右にあるときは,フィラメントがすこしあまるように,すなわちフィラメントの射出速度と比較してノズルの移動速度をややちいさくすることにより,フィラメントが左に圧着させられて接着する.すなわち,射出されたフィラメントが印刷・固定される点においてフィラメントを圧縮する力がかかるようにすることにより接着する.ただし,フィラメントの材質によって性質がことなるため,フィラメントの射出速度とノズルの移動速度との関係はその性質によって変化させる必要がある.
【0025】
また図 6(b) のように同様に下位のフィラメント 621 を左,上位のフィラメント 622 を右にみたときにフィラメントが右に凸であるすなわち曲率半径の中心が左にあるときは,フィラメントがすこし不足するように,すなわちフィラメントの射出速度と比較してノズルの移動速度をややおおきくすることにより,フィラメントが右に圧着させられて接着する.すなわち,射出されたフィラメントが印刷・固定される点においてフィラメントを伸張する力がかかるようにすることにより接着する.フィラメントの曲率が場所によって変化するときには,それぞれの場所においてフィラメントの過不足を調整すればよい.ただし,このときもフィラメントの材質によって性質がことなるため,フィラメントの射出速度とノズルの移動速度との関係はその性質によって変化させる必要がある.
【0026】
上記のようにフィラメントがなす角度が負のときは印刷可能性を保存するのは困難だが,そのときは印刷順序を逆転させれば,すなわちフィラメントの向きと順序を逆転させれば印刷可能になる.フィラメントがほぼ水平のときは,図 6 の方法を適用することによってフィラメントが接着し,印刷可能になる場合がある.
【0027】
上記の印刷可能性維持法はプリント・ヘッドが下方にだけフィラメントを射出するときに適用される方法だったが,プリント・ヘッドが回転するときにはつぎのような方法で解決することも可能である.すなわち,図 7 にしめすように,プリント・ヘッド 711 を回転させて,下位のフィラメント 712 と上位のフィラメント 713 の中心をむすぶ線の方向にフィラメントを射出すれば,フィラメント 713 をプリント・ヘッドによって圧着させることができ,フィラメントどうしを容易に接着させることができる.
【0028】
[光沢制御のための底面処理]
【0029】
3D プリンタおよび使用するフィラメントの種類によっては,プリント・ベッドの表面にこまかい凹凸があり,プリント・ベッドに密着して印刷すると透明性や光沢がうしなわれることがある.たとえば,PLA による印刷の際にプリント・ベッドによくはりつけられるテープとしていわゆるブルーテープすなわちペイント塗装時に使用されるマスキング・テープがあるが,その表面には凹凸がある.このようなときに皿,カップなどの底面を印刷する際に,最初に印刷する部分だけがプリント・ベッドに密着し,それ以降はプリント・ベッドからはなれてほぼ水平に印刷されるようにすれば,透明性や光沢を維持することができる.たとえば,図 8 のようにプリント・ベッドに円を 1 層または数層えがいたあとに,前記のフィラメント配列が水平にちかいときのための印刷方法にしたがって,水平方向にスパイラルをえがいて底面を印刷することができる.すなわち,えがいた円 801 の内側に矢印の方向にスパイラル状にプリント・ヘッドをうごかしながら円板または円板にちかい形状を印刷する.
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8