特許第6427778号(P6427778)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427778
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】メカニカルシール
(51)【国際特許分類】
   F16J 15/38 20060101AFI20181119BHJP
   F04D 29/12 20060101ALN20181119BHJP
【FI】
   F16J15/38
   !F04D29/12 B
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-557867(P2015-557867)
(86)(22)【出願日】2015年1月15日
(86)【国際出願番号】JP2015050938
(87)【国際公開番号】WO2015108107
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2017年7月27日
(31)【優先権主張番号】特願2014-6490(P2014-6490)
(32)【優先日】2014年1月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000101879
【氏名又は名称】イーグル工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100125357
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100085006
【弁理士】
【氏名又は名称】世良 和信
(74)【代理人】
【識別番号】100100549
【弁理士】
【氏名又は名称】川口 嘉之
(74)【代理人】
【識別番号】100096873
【弁理士】
【氏名又は名称】金井 廣泰
(74)【代理人】
【識別番号】100131532
【弁理士】
【氏名又は名称】坂井 浩一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100155871
【弁理士】
【氏名又は名称】森廣 亮太
(72)【発明者】
【氏名】吉野 顯
【審査官】 保田 亨介
(56)【参考文献】
【文献】 実開平04−041160(JP,U)
【文献】 実開昭50−017651(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16J 15/34−15/38
F04D 1/00−13/16
F04D 17/00−19/02
F04D 21/00−25/16
F04D 29/00−35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止し、前記ハウジング内を密封対象流体が密封される流体側と大気側とに分けるメカニカルシールであって、
前記回転軸と共に回転する回転環と、
前記ハウジングに対して固定され、前記回転環よりも前記回転軸の軸線方向の前記大気側に設けられる固定環と、
前記回転軸の外周面に内周面が固定される筒状の軸固定部と、前記軸固定部の端部のうち前記軸線方向の前記流体側の端部から径方向外側に向かって延びるフランジ部と、前記回転環を保持する回転環保持部と、を有する環状のスリーブと、
前記回転環と前記スリーブとの間の環状隙間を封止する環状の第1シール部材と、
前記ハウジングの内周面に外周面が固定される筒状のハウジング固定部と、前記ハウジング固定部の端部のうち前記軸線方向の前記大気側の端部から径方向内側に向かって延びるフランジ部と、前記フランジ部の径方向内側の端部から軸線方向における前記流体側に延びて前記固定環を保持する固定環保持部と、を有する環状のカートリッジと、
前記ハウジング固定部の内部に流入した密封対象流体の液圧を前記軸線方向の前記大気側から受けて該液圧を前記固定環に伝える受圧部を有し、前記固定環と前記固定環保持部との間の環状隙間を封止する環状の第2シール部材と、
を備え、
前記回転環は、前記軸線方向の前記大気側の端面において前記固定環と摺動する摺動面を有する摺動部と、前記摺動部の径方向外側の端部から前記軸線方向の前記流体側に延びて前記回転環保持部によって保持される被保持部とを備え、
前記スリーブに対して固定して、又は一体に設けられ、前記スリーブのフランジ部と前記被保持部とで形成される空間に流入した密封対象流体の液圧を前記軸線方向の前記流体側から受ける第1シール部材から圧力を受けて、前記第1シール部材から前記回転環に伝わる流体側から大気側へ向かう方向の力を低減するよう構成された、環状の圧力受け部材を備えることを特徴とするメカニカルシール。
【請求項2】
前記被保持部の内周径の長さが前記受圧部の外径の最小径の長さ以上であることを特徴とする請求項1に記載のメカニカルシール。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、メカニカルシールに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、自動車用ウォーターポンプにおいて、ハウジングとシャフトとの間の環状隙間を封止するためにメカニカルシールが装着されるものが知られている。メカニカルシールが装着されることにより、ハウジング内が、密封対象流体が密封される密封対象流体側(ポンプ室)と大気側(ベアリング室)とに分けられる。
【0003】
近年エンジンの熱効率向上のため最適な運転温度域が以前よりも高くなっていることや、ウォーターポンプの小型化、高性能化のための高速回転化などにより、密封対象流体側(ポンプ室)の圧力が高くなる傾向にある。
【0004】
密封対象流体側の圧力が高くなることにより、メカニカルシールの回転側と固定側に加わる圧力バランスに差が生じ、回転側でスリーブとメイティングリング(回転環)との間の環状隙間を封止するカップガスケットが軸方向に移動する虞がある。カップガスケットが移動すると、密封性が不安定になってしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011−74966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、特許文献1は、回転側のメイティングリングと固定側のシールリングとが互いに摺動するメカニカルシールにおいて、メイティングリング120の内径R2をゴム製ベローズの外径の最小径R3以上とすることにより、メイティングリング120に軸線方向の密封対象流体側から加わる圧力を小さくする構成が開示されている。
【0007】
ここで、図6を用いて、従来のメカニカルシールの構成と比較しつつ特許文献1のメカニカルシールの構成の詳細について説明する。図6(a)は従来のメカニカルシールの構成を示す模式的断面図であり、図6(b)は特許文献1のメカニカルシールの構成を示す模式的断面図である。
【0008】
メカニカルシールは、シャフト200側に固定される回転環としてのメイティングリング120と、ハウジング300側に固定される固定環としてのシールリング110とが、シャフト200の回転に伴うメイティングリング120の回転により互いに摺動する構成である。ここで、メイティングリング120の端面とシールリング110の端面のうち、それらが互いに摺動する部分を摺動面と定義する。そして、図6に示すように、摺動面の最大径をR1、メイティングリング120の内径R2、ゴムベローズ170の外径の最小径をR3と定義する。
【0009】
特許文献1に記載されるように、R2をR3以上に設定することにより、メカニカルシールの回転側と固定側に加わる圧力バランスの差を小さくすることができる。これは、R2をR3以上に設定することにより、密封対象流体の液圧によりメイティングリング120が軸線方向の固定側に余分に押圧される力は、最大であってもカップガスケット40の内径及びメイティングリング120の内径間の円環状の面積分の僅少なものとできるためである。
【0010】
しかしながら、R2をR3以上に設定するには、従来例の図6(a)に示す構成と比較して、メイティングリング120の径を大きくする必要があり(図6(b)参照)、メイティングリング120の径が大きくなると周速が速くなるため、摺動面において摩耗が生じやすくなり耐久性が低下してしまう虞がある。
【0011】
そこで、本発明は、耐久性を維持しつつシール性を安定させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記課題を解決するために以下の手段を採用した。
【0013】
すなわち、本発明のメカニカルシールは、
回転軸とハウジングとの間の環状隙間を封止し、前記ハウジング内を密封対象流体が密封される流体側と大気側とに分けるメカニカルシールであって、
前記回転軸と共に回転する回転環と、
前記ハウジングに対して固定され、前記回転環よりも前記回転軸の軸線方向の前記大気側に設けられる固定環と、
前記回転軸の外周面に内周面が固定される筒状の軸固定部と、前記軸固定部の端部のうち前記軸線方向の前記流体側の端部から径方向外側に向かって延びるフランジ部と、前記回転環を保持する回転環保持部と、を有する環状のスリーブと、
前記回転環と前記スリーブとの間の環状隙間を封止する環状の第1シール部材と、
前記ハウジングの内周面に外周面が固定される筒状のハウジング固定部と、前記ハウジング固定部の端部のうち前記軸線方向の前記大気側の端部から径方向内側に向かって延びるフランジ部と、前記フランジ部の径方向内側の端部から軸線方向における前記流体側に延びて前記固定環を保持する固定環保持部と、を有する環状のカートリッジと、
前記ハウジング固定部の内部に流入した密封対象流体の液圧を前記軸線方向の前記大気側から受けて該液圧を前記固定環に伝える受圧部を有し、前記固定環と前記固定環保持部との間の環状隙間を封止する環状の第2シール部材と、
を備え、
前記回転環は、前記軸線方向の前記大気側の端面において前記固定環と摺動する摺動面を有する摺動部と、前記摺動部の径方向外側の端部から前記軸線方向の前記流体側に延びて前記回転環保持部によって保持される被保持部とを備え、
前記スリーブに対して固定して、又は一体に設けられ、前記スリーブのフランジ部と前記被保持部とで形成される空間に流入した密封対象流体の液圧を前記軸線方向の前記流体側から受ける第1シール部材から圧力を受ける環状の圧力受け部材を備えることを特徴とする。
【0014】
上記構成によると、カートリッジの筒状のハウジング固定部の内部に流入した密封対象流体の液圧により、第2シール部材の受圧部が軸線方向の大気側から密封対象流体側に向かう方向に力を受ける。受圧部が受けた液圧は固定環に伝わり、軸線方向の大気側から密封対象流体側に向かう方向に固定環が回転環を押すこととなる。
一方、スリーブのフランジ部と回転環の被保持部とで形成される空間に流入した密封対象流体の液圧により、第1シール部材は軸線方向の密封流体側から大気側に向かう方向に力を受ける。
ここで、圧力受け部材がスリーブに対して固定して、又は一体に設けられており、第1シール部材が液圧を受けることにより、圧力受け部材が第1シール部材から力を受ける。そのため、密封対象流体の液圧により、第1シール部材が軸線方向の流体側から大気側に向かう方向に受けた力は、回転環に伝わらない。
このため、密封対象流体の液圧により軸線方向の流体側から大気側へ前記回転環が前記固定環を押す力は、摺動面の最大径と回転環の被保持部の内径間の円環状の面積分にしか働かない。したがって、密封対象流体の液圧が大きくなった場合であっても、回転環が固定環を押す力が過度に大きくなることを抑制することができる。
【0015】
また、上記構成によると、圧力受け部材が設けられることにより、第1シール部材の軸線方向への移動が規制されており、第1シール部材が軸線方向に移動することにより密封性が不安定になることはない。また、上記構成によると、特許文献1に記載される構成のように回転環の径を大きくする必要がないため、回転環の周速が大きくなることを抑制でき、固定環との摺動面における摩耗を抑制し、耐久性を維持することができる。
【0016】
また、回転環の被保持部の内周径の長さが第2シール部材の受圧部の最小径の長さ以上であると好適である。この構成によれば、密封対象流体の液圧により、回転環が固定環を押す力が、固定環が回転環を押す力より大きくなることがない。
【発明の効果】
【0017】
以上説明したように、本発明によれば、耐久性を維持しつつシール性を安定させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1図1は、本発明の実施例のメカニカルシールが適用されるウォータ―ポンプを示す模式的断面図
図2図2は、本発明の実施例1に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図
図3図3は、スリーブとメイティングリングとの係合について説明する図
図4図4は、本発明の実施例2に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図
図5図5は、本発明の実施例3に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図
図6図6は、従来例のメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に図面を参照して、この発明を実施するための形態を、実施の形態に基づいて例示的に詳しく説明する。ただし、この実施の形態に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対配置などは、特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれらのみに限定する趣旨のものではない。
【0020】
(実施例)
図1〜5を参照して、本発明の実施例に係るメカニカルシールについて説明する。
【0021】
<メカニカルシールの適用例>
まず、図1を参照して、本発明の実施例に係るメカニカルシール100の適用例を説明する。図1は、本発明が適用される液体ポンプとしてのウォーターポンプ10を示す模式的断面図である。図1に示すように、ウォーターポンプ10の筐体をなす筒状のウォータポンプハウジング(以下、単にハウジングという)300には、回転軸としてのシャフト200がベアリング13を介して回転自在に支承されている。このシャフト200の図1中左端にはインペラ14が固設され、図1中右端にはプーリー18が固設されて図示しない外部駆動源より駆動力を得ている。ハウジング300とシャフト200との間に設けられるメカニカルシール100によって、ベアリング13が位置する大気室としてのベアリング室16(大気(A)側)とインペラ14が位置する液室としてのポンプ室17(密封対象流体(F)側)とが区画されている。ウォーターポンプ10は、インペラ14の回転によりポンプ室17に満たされる冷却水を吐出して外部駆動源を冷却する。
【0022】
(実施例1)
<メカニカルシールの構成>
図2図3を参照して、本発明の実施例1に係るメカニカルシールについて説明する。図2は、本発明の実施例1に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。図3は、スリーブとメイティングリングとの係合について説明する図であって、シャフトの軸線方向(以下、単に軸線方向という)から見た断面図である。
【0023】
メカニカルシール100は、シャフト200とハウジング300との間の環状隙間を封止し、ハウジング300内の密封対象流体が外部に漏れてしまうことを抑制する。そして、メカニカルシール100は、ハウジング300内を密封対象流体が密封される流体側としての密封対象流体(F)側と大気(A)側とに分ける。図2中において、メカニカルシール100を介して左側が密封対象流体(F)側であり、メカニカルシール100を介して右側が大気(A)側である。なお、本実施例において密封対象流体とは、上述したように冷却水である。
【0024】
メカニカルシール100は、ハウジング300に対して固定される固定環としてのシールリング110と、シャフト200と共に回転する回転環としてのメイティングリング120と、シールリング110をメイティングリング120に対して押圧する押圧部材としてのスプリング150とを備えている。なお、スプリング150は、後述するカートリッジ160のフランジ部162とケース180との間に設けられ、ケース180とゴムベローズ170を介してシールリング110をメイティングリング120に向けて押圧する。
【0025】
シールリング110は、メイティングリング120よりも軸線方向の大気(A)側に設けられる。シャフト200が回転することにより、シールリング110の端面110aとメイティングリング120の端面120aとが摺動する。これら端面のうち互いに摺動する部分を摺動面という。このように、シールリング110とメイティングリングの端面が互いに摺動することにより、密封対象流体が大気(A)側に漏れないようにシールされている。
【0026】
また、メカニカルシール100は、シャフト200に固定されるスリーブ130を備えている。スリーブ130は、シャフト200の外周面に内周面が固定される筒状の軸固定部131と、軸固定部131の端部のうち軸線方向の密封対象流体(F)側の端部から径方向外側に向かって延びるフランジ部132を有している。さらに、スリーブ130は、フランジ部132の径方向外側の端部から軸線方向の大気(A)側に延びてメイティングリング120を保持する回転環保持部133を有する。なお、本実施例においては、回転環について、図2に示すようにフランジ部132の径方向外側の端部から軸線方向の大気(A)側に延びる構成としたが、本発明においてはこれに限定されるものではない。すなわち、回転環保持部が軸線方向の大気(A)側に延びておらず、フランジ132と同じ方向に延びる構成であってもよい。
【0027】
図3に示すように、メイティングリング120の外周面には軸線方向に延びる複数の溝120bが形成されている。本実施例においては、溝120bを4つ形成した。この溝120bにスリーブ130の回転環保持部133が係合することにより、スリーブ130がメイティングリング120を保持する。このように、スリーブ130がメイティングリング120を保持することにより、シャフト200と共に回転するスリーブ130の回転に伴い、回転環としてのメイティングリング120が回転する。
【0028】
また、図2に示すように、実施例1のメイティングリング120は、軸線方向の大気(A)側の端面120aにおいてシールリング110と摺動する摺動面を有する摺動部121と、摺動部121の径方向外側の端部から軸線方向の密封対象流体(F)側に延びて、回転環保持部133によって保持される被保持部122を有している。上記溝120bは、メイティングリング120の被保持部122の外周面に設けられている。
【0029】
さらに、実施例1のメカニカルシール100は、メイティングリング120とスリーブ130との間の環状隙間を封止する第1シール部材としてのゴム製のOリング140を有している。
【0030】
また、実施例1のメカニカルシール100は、スリーブ130のフランジ部132に固定されており、Oリング140よりも軸線方向における大気(A)側でOリング140に接触して、Oリング140から力を受ける環状の圧力受け部材としてのホルダー500を有している。このホルダー500は、メイティングリング120に非接触に設けられる。ただし、圧力受け部材としてのホルダーは、Oリング140からの力を受けてメイティングリング120に伝わる力を低減する構成であれば、メイティングリング120に接触する構成であっても良い。
【0031】
Oリング140は、スリーブ130のフランジ部132とメイティングリング120の筒状の被保持部122の内周面122aとホルダー500とによって形成される空間内で、内周面122aとホルダー500によって挟持されている。この時、フランジ部132と摺動部121とOリング140とによって隙間Bが形成され、この隙間Bには、スリーブ130の回転環保持部133と、メイティングリング120の溝120bとの間の隙間から流入してきた密封対象流体が存在する。
【0032】
なお、本実施例において、ホルダー500は、スリーブ130のフランジ部132に対してレーザによる縫い付け溶接により溶接固定されている。ただし、固定方法はこれに限られるものではなく、ホルダー500をスリーブに対して固定できるものであれば他の方法でも良く、例えば、ロウ付けや接着でも良い。また、本実施例においては、圧力受け部材としてのホルダーが別体としてスリーブ130に固定される構成を示したが、これに限られるものではなく、スリーブ130に対して一体の構成であってもよい。
【0033】
また、実施例1のメカニカルシール100は、固定環としてのシールリング110を保持するカートリッジ160を有している。カートリッジ160は、ハウジング300の内周面に外周面が密着固定される筒状のハウジング固定部161と、ハウジング固定部161の端部のうち軸線方向における大気(A)側の端部から径方向内側に向かって延びるフランジ部162とを有している。また、カートリッジ160は、フランジ部162の径方向内側の端部から軸線方向における密封対象流体(F)側に延びてシールリング110を保持する固定環保持部163を有している。なお、ハウジング固定部161とハウジング300との間の隙間は不図示のシール部材により隙間なくシールされている。
【0034】
また、カートリッジ160の固定環保持部163の外周面には径方向内側に凹む回り止め部163aが形成されており、一方、シールリング110の内周面には径方向内側に突起する突起部110cが形成されている。突起部110cが回り止め部163aに引っかかることにより、シールリング110がカートリッジ160に対して回転することはない。なお、回り止め部163a、突起部110cは図2中において破線で示す。
【0035】
さらに、実施例1のメカニカルシール100は、カートリッジ160の固定環保持部163とシールリング110との間の環状隙間を封止する第2シール部材としてのゴムベローズ170を有している。ゴムベローズ170は、カートリッジ160の固定環保持部163の外周面に密着する密着部171と、密着部171の端部のうち軸線方向における密封対象流体(F)側の端部から径方向外側に突出する受圧部172とを有している。受圧部172は、ハウジング固定部161の内部に流入した密封対象流体の圧力を軸線方向における大気(A)側から受ける。
【0036】
さらに、実施例1のメカニカルシール100は、ゴムベローズ170の密着部171をカートリッジ160のハウジング固定部161に対して締め付ける(抱かせる)環状の締め付け部材としてのドライビングバンド190を有している。また、ゴムベローズ170の受圧部172を保持し、スプリング150からの押圧力を受けるケース180を有している。ドライビングバンド190とケース180によって、ゴムベローズ170の軸線方向、径方向の移動が規制される。このような構成により、シールリング110とカートリッジ160との間の環状隙間がゴムベローズ170によりシールされる。なお、本実施例においては、第2シール部材としてゴムベローズを用いた構成について説明したが、本発明においてはこれに限定されるものではない。
【0037】
上述した固定側の各部材であるシールリング110、スプリング150、ゴムベローズ170、ケース180、ドライビングバンド190は、カートリッジ160によって一体的にカートリッジ化されている。なお、本実施例において、スリーブ130、カートリッジ160、ケース180、ホルダー500は、SUS(ステンレス鋼)からなるが、応力に耐え得る部材であればそれに限られるものではない。
【0038】
<実施例1のメカニカルシールの優れた点>
次に、図2を参照して実施例1のメカニカルシールの優れた点について説明する。ここで、メイティングリング120の端面120aとシールリング110の端面110aのうちそれらが互いに摺動する部分を摺動面、摺動面の最大径を摺動径R1と定義する。また、図2に示すように、メイティングリング120の被保持部122の内周径R2、ゴムベローズ170の外径の最小径R3と定義する。
【0039】
密封対象流体の液圧Pによりゴムベローズ170の受圧部172が力を受けることにより、シールリング110がメイティングリング120を押す力W1は、摺動径R1とゴムベローズ170の外径の最小径R3間の円環状の面積分に働く。その円環状の面積S1(=(R1−R3)π)を用いて、W1=S1×Pとなる。また、スプリング150のスプリング力Wsとすると、実際にシールリング110がメイティングリング120を押す力は、W1+Wsで表される。
【0040】
密封対象流体の液圧PはOリング140に作用するが、そのOリング140に作用した力はホルダー500が受け、この時ホルダー500はスリーブ130のフランジ部132に接合されているため、フランジ部132が力を受けることになる。従って、メイティングリング120がシールリング110を押す力W2は、摺動径R1とメイティングリング120の被保持部122の内周径R2間の円環状の面積分に働く。その円環状の面積S2(=(R1−R2)π)を用いて、W2=S2×Pとなる。
【0041】
ここで、Oリング140は、空間Bに流入した密封対象流体により密封対象流体(F)側から大気(A)側に向かう方向に液圧Pを受ける。しかし、本実施例においては、Oリング140は、大気(A)側で接触するホルダー500により保持されており、ホルダー500はメイティングリング120の摺動部121の軸線方向における密封対象流体(F)側の端面と非接触であるため、密封対象流体の液圧PによりOリング140が受ける力はメイティングリング120に伝わらない。
【0042】
したがって、実施例1の構成において、メイティングリング120がシールリング110を押す力はW2のみである。そして、S1>S2より、W1>W2であり、当然にW1+Ws>W2が成立する。したがって、密封対象流体の液圧Pが高くなっても、メイティングリング120がシールリング110側に移動することはない。
【0043】
また、Oリング140は、ホルダー500によって保持されており、軸線方向における密封対象流体(F)側から大気(A)側への移動が規制されているため、密封対象流体の液圧Pが高くなっても、大気側へ移動することはない。したがって、図6(a)に示す従来例の構成と比較して、メイティングリング120とスリーブ130との間の環状隙間の密封性が安定する。
【0044】
また、実施例1においては、メイティングリング120の外径を図6(a)に示す従来例の構成から大きくする必要がない。そのため、図6(b)に示す構成と比較して、メイティングリング120の周速が大きくないため、摺動面において摩耗が発生しにくく耐久性がある。
【0045】
なお、本実施例の構成を図2に示したが、本発明はこれに限られるものではない。すなわち、図2に示す構成にのみならず、少なくとも被保持部122の内周径R2がゴムベローズ170の外径の最小径R3以上の構成であれば、本発明の効果を得ることができる。仮に、R2とR3が同じであった場合、W1=(R1−R3)π×Pとなり、W2=(R1−R3)π×Pとなる。すなわち、W1=W2となる。ここで、シールリング110がメイティングリング120を押す力は、液圧によるW1のみでなくスプリング150によるWsも働いている。すなわち、Ws>0より、W1+Ws>W2が成立する。このように、少なくともR2≧R3が成立すれば本実施例と同様の効果を得ることが出来る。さらにいうと、R2とR3との関係によらず、スプリング力Wsを調整することにより、W1+Ws>W2が成立する関係であれば本実施例と同様の効果を得ることができる。本実施例においては、この関係を満たすようにするために、すなわち、メイティングリング120がシールリング110を押す力を、シールリング110がメイティングリング120を押す力よりも小さくなるようにするためにホルダー500を設けている。
【0046】
また、本実施例においては、図2に示すように、被保持部122の内周径R2<摺動径R1とする構成について説明したが、本発明はこれに限られるものではない。R2≧R1である場合は、メイティングリング120がシールリングを押す力W2が0となる。この場合であっても、メイティングリング120とシールリング110との圧力バランスは保たれ本実施例の効果を得ることができる。
【0047】
(実施例2)
次に、図4を参照して、本発明の実施例2に係るメカニカルシールについて説明する。図4は、本発明の実施例2に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。実施例2においては、第1シール部材の構成が異なることを除いては、実施例1と同様であるため、同一の構成については同一の符号を用いてその説明は省略する。
【0048】
実施例2においては、実施例1で用いたOリング140に代えて、図6に示す従来のカップガスケット40の形状に類似させたシール部材240を用いる。このシール部材240は、断面が略円形状の本体部241と、本体部241から径方向外側に延びる延び部242を有する構成である。延び部242を有することにより軸線方向におけるシール部材240の位置決めが安定し、メイティングリング120とスリーブ130との間の環状隙間の密封性が向上する。
【0049】
延び部242には、液圧の影響を受けないようにするため、スリーブ130のフランジ部132との間にわずかに隙間ができるようにスリット242aが設けられている。このようにスリット242aが設けられることにより、延び部242は密封対象流体の液圧により押されることはなく、液圧はシール部材240の本体部241に作用することとなる。
【0050】
以上述べたように、実施例2においては、実施例1よりも第1シール部材の密封性を安定させつつ、実施例1と同様の効果を得ることができる。
【0051】
(実施例3)
次に、図5を参照して、本発明の実施例3に係るメカニカルシールについて説明する。図5は、本発明の実施例3に係るメカニカルシールの装着状態を示す模式的断面図である。実施例3においては、スリーブ、圧力受け部材としてのホルダーの構成が異なることを除いては、実施例1と同様であるため、同一の構成については同一の符号を用いてその説明は省略する。
【0052】
実施例1においては、メイティングリング120の被保持部122の内周面122aとホルダー500によって、Oリング140を径方向で挟持する構成について説明した。本実施例においては、メイティングリング120の被保持部122の内周面122aとスリーブ230によって、Oリング140を径方向で挟持する構成について示す。
【0053】
図5に示すように、実施例3のスリーブ230は、軸固定部231よりも径の大きい段差部235を有している。そして、段差部235とメイティングリング120の被保持部122の内周面122aとで、Oリング140を径方向で挟持する。また、円板状のホルダー600が、Oリング140より軸線方向の大気(A)側でOリング140に接触して設けられている。
【0054】
このような構成により、ホルダー600は、Oリング140により環状隙間が封止された部分よりも、大気(A)側に設けられることとなる。そのため、ホルダー600をスリーブ230に対して、完全に密封して固定する必要がない。すなわち、スポット溶接を円周上数か所に行うような固定方法で、ホルダー600をスリーブ230に対して固定すればよい。
【0055】
以上述べたように、実施例3においては、実施例1よりも圧力受け部材としてのホルダー600をスリーブ230に対して簡易な方法で固定し、実施例1と同様の効果を得ることが出来る。
【符号の説明】
【0056】
100 メカニカルシール
110 シールリング(固定環)
110a 端面
110c 突起部
120 メイティングリング(回転環)
120a 端面
120b 溝
121 摺動部
122 被保持部
122a 内周面
130、230 スリーブ
131 軸固定部
132 フランジ部
133 回転環保持部
140 Oリング(第1シール部材)
150 スプリング(押圧部材)
160 カートリッジ
161 ハウジング固定部
162 フランジ部
163 固定環保持部
163a 回り止部
170 ゴムベローズ(第2シール部材)
171 密着部
172 受圧部
180 ケース
190 ドライビングバンド
200 シャフト(回転軸)
240 シール部材
241 本体部
242 延び部
242a スリット
300 ハウジング
500、600 ホルダー(圧力受け部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6