特許第6427786号(P6427786)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6427786紫外線を吸収し可視光に変換する樹脂組成物、樹脂成形品、及び、紫外線遮蔽可視光増強方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427786
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】紫外線を吸収し可視光に変換する樹脂組成物、樹脂成形品、及び、紫外線遮蔽可視光増強方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20181119BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 5/1545 20060101ALI20181119BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20181119BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/22
   C08K5/098
   C08K5/1545
   C09K11/06
   C09K3/00 104B
【請求項の数】10
【全頁数】35
(21)【出願番号】特願2014-107301(P2014-107301)
(22)【出願日】2014年5月23日
(65)【公開番号】特開2015-221879(P2015-221879A)
(43)【公開日】2015年12月10日
【審査請求日】2017年5月22日
(73)【特許権者】
【識別番号】504409543
【氏名又は名称】国立大学法人秋田大学
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】辻内 裕
(72)【発明者】
【氏名】吉村 大祐
(72)【発明者】
【氏名】宮谷 亘
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−271145(JP,A)
【文献】 特開平09−306217(JP,A)
【文献】 特開2008−174662(JP,A)
【文献】 特開平04−182337(JP,A)
【文献】 特開2012−025870(JP,A)
【文献】 特開2009−179623(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/147117(WO,A1)
【文献】 特開2008−195677(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 3/22
C08K 5/098
C08K 5/1545
C09K 3/00
C09K 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物を含み、
前記蛍光性物質が、4−ヒドロキシクマリンであり、
前記アルミニウム化合物が、脂肪酸アルミニウムである、
樹脂組成物。
【請求項2】
前記脂肪酸アルミニウムが、ヒドロキシ基で置換されていても良い炭素数10以上30以
下の脂肪酸アルミニウムである、請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸アルミニウムが、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム及びモンタン酸アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
前記ベース樹脂が熱可塑性樹脂である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
前記熱可塑性樹脂が、メタクリル樹脂、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、エチレン
−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリ
エチレンテレフタレート樹脂から選ばれる1種以上である、請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
前記ベース樹脂100質量部に対して、前記蛍光性物質を0.015質量部以上1.33質量部以下含有し、前記蛍光性物質100質量部に対して、前記アルミニウム化合物を10質量部以上100質量部以下含有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
請求項1〜のいずれか1項に記載の樹脂組成物を成形加工してなる、樹脂成形品。
【請求項8】
ベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物を含み、
前記蛍光性物質が、4−ヒドロキシクマリンであり、
前記アルミニウム化合物が、脂肪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、及び、水酸化アル
ミニウムから選ばれる少なくとも1種である、樹脂組成物
を成形加工してなる、樹脂成形品において、
200nm〜320nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程と、
該第一励起工程で励起された蛍光性物質が320nm〜400nmの内部光を発光する工
程と、
320nm〜400nmの外部光および前記320nm〜400nmの内部光で前記蛍光
性物質を励起させる第二励起工程と、
該第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光
工程と、
を備えてなる、紫外線を遮蔽し可視光を増強する方法。
【請求項9】
前記脂肪酸アルミニウムが、ヒドロキシ基で置換されていても良い炭素数10以上30以下の脂肪酸アルミニウムである、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記樹脂組成物が、前記ベース樹脂100質量部に対して、前記蛍光性物質を0.015質量部以上1.33質量部以下含有し、前記蛍光性物質100質量部に対して、前記アルミニウム化合物を10質量部以上100質量部以下含有する、請求項8または9に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光性物質を含有する紫外線吸収および可視光増強を実現可能な樹脂材料に関する。
【背景技術】
【0002】
建築用ガラス板、車両用ガラス板、太陽電池モジュール用ガラス板などとして、内側に存在する人あるいは物の紫外線による被害を防ぐため、紫外線遮蔽機能を付与したガラスが用いられている。このような紫外線遮蔽性ガラスとして、特許文献1には、ガラス基板表面にZnO−SiO系薄膜、および、TiO−SiO系薄膜またはZrO−SiO系薄膜を被覆積層してなる紫外線遮蔽ガラスが記載されている。
【0003】
紫外線を遮蔽すると共に、紫外線エネルギーを有効利用する技術として、特許文献2には、太陽光発電モジュールのガラス基板中に、三価のセリウムイオンを含ませることが記載されている。また、特許文献3には、レアアース等希少金属を使用しない、有機化合物と塩化アルミニウムの分散した液体もしくは樹脂塗料による、紫外線遮蔽可視光増強効果をもたらすとする紫外可視光変換材料について記載されている。
【0004】
また、高分子からなる樹脂に同様にして希少金属であるセリウムやユーロピウムを含ませて紫外線を遮蔽すると共に、紫外線エネルギーを有効利用する技術が非特許文献1に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−110474号公報
【特許文献2】特開2007−27271号公報
【特許文献3】国際公開第2012/014847号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】バテルジャパンのプレスリリース(2010年3月)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1の紫外線遮蔽ガラスは、紫外線遮蔽率が50%程度であり、十分なレベルとはいえない。また、特許文献2や非特許文献1の技術では、希少金属であるセリウムを使用する必要があり、経済性に劣っていた。
【0008】
一方、特許文献3の技術では希少金属であるセリウムを使用する必要がなく経済性に優れる。例えば、特許文献3に開示されたような紫外可視光変換材料を樹脂に分散させて樹脂組成物とし、当該樹脂組成物を成形することによって、紫外線を可視光に変換可能で種々の用途に適用可能な有用な樹脂成形体となり得る。
【0009】
本発明者らは、特許文献3に開示された紫外可視光変換材料を樹脂組成物中に分散させ、各種成形体に加工することを試みた。しかしながら、本発明者らが鋭意研究を進めたところ、特許文献3に開示されたような塩化アルミニウムを含む組成物にあっては、成形加工の際、塩化アルミニウムによって加工設備が腐食してしまい、適切な成形加工が困難であることが明らかとなった。
【0010】
そこで本発明は、成形時に加工設備の腐食を防止できるとともに、成形体とした場合に紫外線を可視光に変換可能な樹脂組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を進めた結果、以下の知見を得た。
(1)ベース樹脂中に紫外可視光変換材料として蛍光性物質に加えてアルミニウム化合物を分散させて樹脂成形体とした場合、当該樹脂成形体は優れた紫外可視光変換効率を発揮する。
(2)アルミニウム化合物として、脂肪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウムを用いた場合、樹脂組成物の成形加工時に加工設備を腐食させることなく、適切に成形加工することができる。
(3)ベース樹脂としては各種熱可塑性樹脂、各種硬化性樹脂のいずれをも適用可能である。すなわち、材料設計の自由度が高い。
(4)特に、アルミニウム化合物として脂肪酸アルミニウムを用い、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、成形加工性が極めて優れたものとなる。すなわち、脂肪酸アルミニウムはベース樹脂との親和性に優れ、さらには、溶融混練時及び成形時に樹脂と共に脂肪酸アルミニウムも溶融するため、脂肪酸アルミニウムを樹脂組成物中に均一に分散させることができる。
【0012】
本発明は上記知見に基づいて完成されたものである。すなわち、
第1の本発明は、ベース樹脂、蛍光性物質およびアルミニウム化合物を含み、前記蛍光性物質が、4−ヒドロキシクマリンであり、前記アルミニウム化合物が、脂肪酸アルミニウムである、樹脂組成物である。
【0013】
本発明において、「ベース樹脂」は、成形加工可能な樹脂であればいずれであってもよく、熱可塑性樹脂のほか、熱硬化性樹脂等の各種硬化性樹脂をも含む概念である。「脂肪酸アルミニウム」は、モノ脂肪酸アルミニウム、ジ脂肪酸アルミニウム、トリ脂肪酸アルミニウムのいずれをも含む概念である。「脂肪酸」とは、アルキル鎖の一部がヒドロキシ基で置換された脂肪酸であってもよい。
【0014】
第1の本発明において、脂肪酸アルミニウムは、ヒドロキシ基で置換されていても良い炭素数10以上30以下の脂肪酸アルミニウムであることが好ましい。
【0015】
第1の本発明において、脂肪酸アルミニウムは、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム及びモンタン酸アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。尚、ステアリン酸アルミニウムとしては、未置換のステアリン酸アルミニウムの他、12−ヒドロキシステアリン酸アルミニウムも好ましい。
【0016】
第1の本発明において、ベース樹脂は熱可塑性樹脂であることが好ましい。
【0017】
第1の本発明において、熱可塑性樹脂は、メタクリル樹脂(PMMA)、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET)から選ばれる1種以上であることが好ましい。
【0020】
第1の本発明に係る樹脂組成物は、前記ベース樹脂100質量部に対して、前記蛍光性物質を0.015質量部以上1.33質量部以下含有し、蛍光性物質100質量部に対して、アルミニウム化合物を10質量部以上100質量部以下含有することが好ましい。
【0021】
第2の本発明は、第1の本発明に係る樹脂組成物を成形加工してなる、樹脂成形品である。「樹脂成形品」には、フィルム、板、立方体、直方体、ほか固体の様々な形状が含まれる。
【0022】
第3の本発明は、ベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物を含み、前記蛍光性物質が4−ヒドロキシクマリンであり、前記アルミニウム化合物が、脂肪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、及び、水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種である、樹脂組成物を成形加工してなる樹脂成形品において、200nm〜320nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程と、第一励起工程で励起された蛍光性物質が320nm〜400nmの内部光を発光する工程と、320nm〜400nmの外部光および320nm〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程と、第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程と、を備えてなる、紫外線を遮蔽し可視光を増強する方法である。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、成形時に加工設備の腐食を防止できるとともに、成形体とした場合に紫外線を可視光に変換可能な樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法の概念を示す図である。
図2】4−ヒドロキシクマリン、塩化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム(以下、本文や図中で、Al−Steと略記する場合があり)、又は、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、或いは無添加の非晶性コポリエステルの透過スペクトルである。
図3】励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときの非晶性コポリエステルの、発光スペクトルである。
図4】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の比率で含ませてなる樹脂の励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときの各発光スペクトルである。
図5】励起波長を370nmで、4−ヒドロキシクマリン、塩化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、又は、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、或いは無添加の非晶性コポリエステルの各発光スペクトルである。
図6】励起波長を370nmで、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルと、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルの差スペクトルである。
図7】非晶性コポリエステルとステアリン酸アルミニウムおよび、異なる濃度の4−ヒドロキシクマリンを混練する場合の、各4−ヒドロキシクマリン濃度における透過スペクトルである。
図8】非晶性コポリエステルとステアリン酸アルミニウムおよび、異なる濃度の4−ヒドロキシクマリンを混練する場合の、各4−ヒドロキシクマリン濃度における、370nmにおける透過率である。
図9】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを含有しない条件、又は、含有する条件で得られたLDPEの透過スペクトルである。
図10】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを含有しない条件、又は、含有する条件で得られたPPの透過スペクトルである。
図11】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを含有しない条件、又は、含有する条件で得られたPET樹脂の透過スペクトルである。
図12】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを含有しない条件、又は、含有する条件で得られたPCの透過スペクトルである。
図13】4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを含有しない条件、又は、含有する条件で得られたPMMAの透過スペクトルである。
図14】LDPEの380nm励起による発光スペクトルである。
図15】PPの380nm励起による発光スペクトルである。
図16】PET樹脂の380nm励起による発光スペクトルである。
図17】PCの380nm励起による発光スペクトルである。
図18】PMMAの380nm励起による発光スペクトルである。
図19】PMMAの380nmレーザー励起による発光観察写真である。
図20】異なる濃度の3種のPMMA樹脂について、380nmレーザー励起による樹脂発光観察写真である。
図21】5種の樹脂(LDPE、PP、PET、PC、PMMA)/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の比率のときの、厚さ2mmのサンプルに対する、380nm励起による発光ペクトルである。
図22】5種の樹脂(LDPE、PP、PET、PC、PMMA)/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14の比率のときの、厚さ2mmのサンプルに対する、380nm励起による発光ペクトルである。
図23】PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50の透過スペクトルである。
図24】PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67の透過スペクトルである。
図25】PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50の透過スペクトルである。
図26】PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67の透過スペクトルである。
図27】1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50の透過スペクトル、2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67の透過スペクトルである。
図28】3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50の透過スペクトル、4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67の透過スペクトルである。
図29】PET/12−ヒドロキシステアリン酸アルミニウム(以下、12−Al−Steと略する場合あり)=100/0.14の透過スペクトルである。
図30】PET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14の透過スペクトルである。
図31】PET/モンタン酸アルミニウム(以下、Al−Monと略する場合あり)=100/0.14の透過スペクトルである。
図32】PET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14の透過スペクトルである。
図33】PET/微粉アルミナ(以下、アルミナ1と略する場合あり)=100/0.14の透過スペクトルである。
図34】PET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14の透過スペクトルである。
図35】PET/球状アルミナ(以下、アルミナ2と略する場合あり)=100/0.14の透過スペクトルである。
図36】PET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14の透過スペクトルである。
図37】PET/Al(OH)=100/0.07、PET/4C/Al(OH)=100/0.13/0.07、PET/4C/Al(OH)=100/0.26/0.14等の透過スペクトルである。
図38】PET(ナチュラル)の透過スペクトルである。
図39】PET/4C=100/0.26の透過スペクトルである。
図40】1.PET/12−Al−Ste=100/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルと、2.PET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図41】3.PET/Al−Mon=100/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルと、4.PET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図42】5.PET/アルミナ1=100/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルと、6.PET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図43】7.PET/アルミナ2=100/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルと、8.PET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図44】9.PET(ナチュラル)についての380nm励起による発光スペクトルと、10.PET/4C=100/0.13についての380nm励起による発光スペクトルと、11.PET/Al(OH)=100/0.07の比率のときの380nm励起による発光ペクトルと、12.PET/4C/Al(OH)=100/0.13/0.07のときの380nm励起による発光ペクトルと、13.PET/4C/Al(OH)=100/0.26/0.14の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図45】14.PET(ナチュラル)についての380nm励起による発光スペクトルと、15.PET/4C=100/0.26の比率のときの380nm励起による発光ペクトルとを比較した図である。
図46】1.EVA(ナチュラル)のサイズ2cm×10cmのサンプル試験片、並びに、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700のサイズ2cm×10cmのサンプル試験片の発光の様子である。
図47】1.EVA(ナチュラル)、2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700の各透過スペクトルである。
図48】1.EVA(ナチュラル)、2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700の各発光スペクトルである。
図49】太陽電池を樹脂シートで被覆して発電量を試験する模式図である。
図50】キセノンランプ光源のスペクトルである。
図51】結晶シリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。
図52】結晶シリコンマイクロソーラーの全面を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。
図53】アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。
図54】EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量の3種太陽電池への効果の比較である。
図55】アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シート(大気中で暴露して劣化させた後、非晶性コポリエステルシート2枚で被覆)を主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。
図56】結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較である。
図57】結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較のサンプルNo.1−No.5の拡大図である。
図58】異なる金属元素を含有するPET樹脂の各透過スペクトルである。
図59】異なる金属元素を含有するPET樹脂の各発光スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<光源からの光の波長>
光は、その波長により、紫外線、可視光、赤外線に分けられるが、本発明においては、波長によって次のように定義する。まず、200nm〜400nmの光を紫外線(UV)とし、このうち、200〜320nmのものをUV−B、320〜400nmのものをUV−Aとする。また、400〜750nmの光を可視光(Visible)とし、750〜4000nmの光を赤外線(Infrared)とする。
【0026】
<樹脂組成物>
本発明に係る樹脂組成物は、ベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物を含み、アルミニウム化合物が、脂肪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、及び、水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする。
【0027】
(ベース樹脂)
本発明に係る樹脂組成物に用いられるベース樹脂としては、特に限定されるものではなく、樹脂組成物の用途に応じて適宜選択可能である。ベース樹脂は、成形加工可能な樹脂であればいずれであってもよく、熱可塑性樹脂のほか、熱硬化性樹脂等の各種硬化樹脂を用いることができる。取り扱い性及び成形加工性に優れるとともに、ベース樹脂中に蛍光性物質とアルミニウム化合物とを良好に分散可能である観点から、特に熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。具体的には、ポリオレフィン系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸系樹脂、ポリ(メタ)アクリル酸エステル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエステル系樹脂、スチリル系樹脂、フェノキシ樹脂、ブチラール樹脂等が挙げられる。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、ポリメタクリル酸ブチル、ポリカーボネート、ポリビニルアルコール、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、スチレン−アクリロニトリル共重合体等が挙げられる。特に、メタクリル樹脂、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、エチレン−酢酸ビニル共重合樹脂(EVA)、ポリプロピレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂から選ばれる1種以上を用いることが好ましい。
【0028】
(蛍光性物質)
本発明に係る樹脂組成物に用いられる蛍光性物質としては、特に限定されるものではなく、従来公知の蛍光性物質を用いることができる。取り扱い性に優れるとともに、後述のアルミニウム化合物との相性がよく、紫外線から可視光への変換効率を一層向上させることが可能である観点からは、蛍光性物質としてクマリン又はクマリン誘導体を用いることが好ましい
【0029】
クマリン誘導体としては下記一般式(1)
【化2】
(式中、RはH、C1−4アシル、カルボキシル、C1−20アルコキシカルボニル、シアノ、ニトロの各基またはN、S、Oのヘテロ原子を1つまたは2つ含む芳香族残基を表し、RはH、ヒドロキシ、メチル、クロロ、ブロモ、トリフルオロの各基を表し、R、R、R、Rはそれぞれ独立にH、フルオロ、クロロ、ブロモ、ヒドロキシ、ニトロ、C1−4アルキル、C1−4アルコキシ、アミノ、C1−4アルキル基で1つまたは2つ置換されていても良い1級または2級アミノ基、C1−4アシルの各基を表す。)
で表される一連のクマリン系化合物が例示される。
【0030】
クマリン誘導体としては、ヒドロキシクマリン(上記一般式(1)においてR、R、R、R、R、Rの少なくとも一つがヒドロキシ基であるクマリン系化合物)、特に4−ヒドロキシクマリン(以下、4Cと略記する場合がある))が好ましい。
【0031】
クマリンは、常温では淡黄色もしくは淡茶色の結晶性粉末である。今日では、天然物また合成物として1,000種類以上のクマリン化合物が見出されており、構造が単純なため、多様な物質合成の可能性を持っている。
【0032】
クマリンは、従来から香料などに応用されたり医学目的に使用されたりしてきたが、最近ではクマリンの光吸収と発光特性を利用した有機色素レーザー材料などへの応用も多く試みられるようになってきた。また、近年、太陽エネルギー利用の新形態として注目されている色素増感太陽電池の増感剤となる効果的な物質がクマリンの誘導体として実現された例も出てきているなど光エネルギー利用材料物質として工業的利用の可能性が広がりつつある。
【0033】
上記式(1)で示される4Cの光吸収特性は紫外部における光吸収が大きく太陽エネルギーの紫外線領域の光吸収には向いているが、可視領域における光吸収帯は少ない。主要な吸収ピークは二つ有りその波長帯は接近している。
【0034】
例えば、4Cを含有する溶液は320nm以下の紫外線で励起すると374nmに発光強度が極大を示すように発光する。
【0035】
(アルミニウム化合物)
本発明に係る樹脂組成物はアルミニウム化合物として、脂肪酸アルミニウム、酸化アルミニウム、及び、水酸化アルミニウムから選ばれる少なくとも1種を含む。このようなアルミニウム化合物を用いることで、樹脂組成物の成形加工時に加工設備を腐食させることがなく、適切に成形加工することができる。また、樹脂組成物中に上記蛍光性物質とともにアルミニウム化合物を含ませることで、紫外線から可視光への変換効率を向上させることができる。特に、ベース樹脂との親和性が高く、樹脂組成物中に良好に分散可能である観点から、アルミニウム化合物として脂肪酸アルミニウムを用いることが好ましい。
【0036】
本発明において「脂肪酸アルミニウム」はモノ脂肪酸アルミニウム、ジ脂肪酸アルミニウム、トリ脂肪酸アルミニウムのいずれをも含む概念である。「脂肪酸」とは、アルキル鎖の一部がヒドロキシ基で置換された脂肪酸であってもよい。脂肪酸アルミニウムを用いる場合、その炭素数は10以上30以下であることが好ましい。炭素数10以上30以下の脂肪酸アルミニウムを用いることで、樹脂との親和性と、紫外線から可視光への変換効率の向上とを両立できる。すなわち、脂肪酸の炭素数が小さすぎると、樹脂との親和性が十分に発揮されない場合があり、脂肪酸の炭素数が大きすぎると、アルミニウム化合物全体に占めるアルミニウム分が減少する結果、紫外線から可視光への変換効率が低下する場合がある。
【0037】
このような脂肪酸アルミニウムのうち特に好適なものとしては、ステアリン酸アルミニウム、パルミチン酸アルミニウム又はモンタン酸アルミニウムが挙げられ、これらのうちの1種以上を用いることが好ましい。
【0038】
特に、本発明では脂肪酸アルミニウムのうちステアリン酸アルミニウムを用いることが最も好ましい。ステアリン酸アルミニウム(以下、本文や図中で、Al−Steと略記する場合があり)は、下記(2)の構造を有する金属石鹸の一種である。
【化3】
【0039】
ステアリン酸アルミニウム(以下、本文や図中で、Al−Steと略記する場合がある)は側鎖RがCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHCHのアルキル鎖とカルボキシル基(COO−)から構成される有機分子(SA(−))が3個とアルミニウム(Al(3+))1個から電気的に中性に構成された金属石鹸であり、樹脂に分散される材料として用途が様々である。尚、アルキル鎖の一部がヒドロキシ基で置換されたものを用いてもよい。例えば、12−ヒドロキシステアリン酸アルミニウムを用いることもできる。
【0040】
本発明に係る樹脂組成物は上述したようなベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物を含む。特に、アルミニウム化合物として脂肪酸アルミニウムを用い、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合、成型加工性が極めて優れたものとなる。すなわち、脂肪酸アルミニウムはベース樹脂との親和性に優れ、さらには、溶融混練時及び成形時に樹脂と共に脂肪酸アルミニウムも溶融するため、脂肪酸アルミニウムを樹脂組成物中に均一に分散させることができる。
【0041】
(その他の成分)
本発明に係る樹脂組成物には、上述したようなベース樹脂、蛍光性物質及びアルミニウム化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、光安定剤、硬化剤、架橋剤、滑剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、シランカップリング剤等の従来公知の添加剤を含ませることができる。
【0042】
(組成比)
本発明に係る樹脂組成物は、蛍光性物質100質量部に対して、アルミニウム化合物を10質量部以上100質量部以下含有することが好ましい。特に、アルミニウム化合物として脂肪酸アルミニウムを用いる場合、蛍光性物質100質量部に対して、脂肪酸アルミニウムを、より好ましくは40質量部以上60質量部以下、特に好ましくは50質量部含ませるのがよい。
或いは、蛍光性物質100質量部に対して、アルミニウム量(アルミニウム化合物のうちアルミニウム部分のみを換算した質量)が好ましくは40質量部以上60質量部以下、より好ましくは50質量部となるように含ませてもよい。
本発明者らの知見によれば、樹脂組成物においては、蛍光性物質に対するアルミニウム化合物の量が少なすぎても多すぎても、紫外線遮蔽可視光増強効果が低下する。
【0043】
本発明に係る樹脂組成物において、ベース樹脂に対する蛍光性物質やアルミニウム化合物の含有量は特に限定されるものではなく、用途に応じて決定する。ベース樹脂に対する蛍光性物質やアルミニウム化合物の含有量が少なすぎると、紫外線遮蔽可視光増強効果が十分に発揮されない場合があり、逆に多すぎると、後述する樹脂成形品の透明性を確保できない場合がある。例えば、樹脂成形品が薄いフィルム状である場合、蛍光性物質やアルミニウム化合物をある程度多量に含ませてもフィルムの透明性を確保できる。一方で、樹脂成形品が厚板等の場合は透明性を確保するために蛍光性物質やアルミニウム化合物の含有量を少量とする必要がある。
【0044】
尚、本発明に係る樹脂組成物は、実質的にハロゲンを含まない点にも一つの特徴がある。特に、アルミニウム化合物として塩化アルミニウム等のハロゲン化アルミニウムを実質的に含まないことが好ましい。
【0045】
(樹脂組成物の製造方法)
本発明に係る樹脂組成物の形状は、特に制限されるものではなく、例えば、粒子状、ペレット状等の形状が挙げられる。本発明に係る樹脂組成物は、ベース樹脂と蛍光性物質とアルミニウム化合物とを混合することで容易に得ることができる。例えばベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いる場合は、混合物を、単軸や二軸押出機等で混練してもよい。また、ハンマーミル、ピンミル等の粉砕機を用いて樹脂組成物をさらに粉砕してもよい。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物は、上記した混合物(マスターバッチ)をベース樹脂とともに加熱溶解することにより希釈して得ることもできる。
【0047】
以上の通り、本発明に係る樹脂組成物によれば、成形時に加工設備の腐食を防止できるとともに、成形体とした場合に紫外線を可視光に変換可能である。
【0048】
<樹脂成形品>
本発明に係る樹脂組成物は、成形加工することで各種樹脂成形品として利用可能である。「樹脂成形品」には、フィルム、板、立方体、直方体、ほか固体の様々な形状が含まれる。本発明に係る樹脂成形品においては、ベース樹脂中に蛍光性物質及びアルミニウム化合物が分散された状態となる。すなわち、ベース樹脂が海相を形成し、蛍光性物質及びアルミニウム化合物がそれぞれ島相を形成する。
【0049】
樹脂成形品の製造方法としては特に限定されるものではなく、従来公知の製造方法を適用可能である。例えば、ベース樹脂として熱可塑性樹脂を用いた場合は、当該熱可塑性樹脂に蛍光性物質とアルミニウム化合物とを添加して溶融混練し、その後、押出成形や射出成形等を行うことによって、各種樹脂成形品を容易に製造可能である。或いは、熱硬化性樹脂等の硬化性樹脂を用いた場合、当該硬化性樹脂と蛍光性物質とアルミニウム化合物とを混合し、金型に充填したうえで、硬化性樹脂の硬化処理(加熱、紫外線照射等)を行うことで、樹脂組成物を成形してもよい。
本発明では、アルミニウム化合物として脂肪酸アルミニウム等を用いるため、加工設備を腐食させることなく適切に樹脂組成物を成形加工することができる。
【0050】
<紫外線を遮蔽し可視光を増強する方法>
本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法は、本発明に係る樹脂成形品において、200nm〜320nmの外部光で蛍光性物質を励起させる第一励起工程と、第一励起工程で励起された蛍光性物質が320nm〜400nmの内部光を発光する工程と、320nm〜400nmの外部光および320nm〜400nmの内部光で蛍光性物質を励起させる第二励起工程と、第二励起工程で励起された蛍光性物質が400nm以上の可視光を発光する可視光発光工程と、を備えてなる。
【0051】
図1を用いて、本発明の紫外線遮蔽および可視光増強方法について説明する。図1において、中央の括弧内には、蛍光性物質を含んでなる紫外線遮蔽および可視光増強材料が存在していることを意味している。左側から太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射し、紫外線が遮蔽され、可視光が増強された光が、右側から放出される。太陽光は、波長により4種類の光、UV−B(200〜320nm)、UV−A(320〜400nm)、可視光(400〜750nm)、および、赤外線(750〜4000nm)に分けている。
【0052】
括弧内では、太陽光が紫外線遮蔽および可視光増強材料に入射した後、どのように変換されているかを示している。まず、外部光のUV−Bを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第一励起工程)、該励起された蛍光性物質は320〜400nmの内部光を発光する。そして、この320〜400nmの内部光および外部光のUV−Aを蛍光性物質が吸収し、蛍光性物質が励起され(第二励起工程)、該励起された蛍光性物質は400nm以上の可視光を発光する。このように、本発明においては、紫外線(UV−AおよびUV−B)を遮蔽するだけでなく、これらを可視光に変換することができ、可視光を増強することができる。
【0053】
本発明においては、ベース樹脂及びベース樹脂に含ませた蛍光性物質の質量比率、および第一励起工程での励起光の極大波長λ1と、発光スペクトルの極大波長λ2とその発光強度Iの相関において、蛍光性物質に必要なコストが低いほど、また、λ2が長いほど、また、その発光強度Iが大きいほど、紫外可視光変換効果としては高く、また低コストの条件を満たすものとして好ましいということになる。
【0054】
上記した紫外線遮蔽および可視光増強方法において使用する蛍光性物質としては、上述の通りである。また、第一励起工程および内部光発光工程をある蛍光性物質Aに行わせて、第二励起工程および可視光発光工程を別の蛍光性物質Bに行わせるようにして、二種の蛍光性物質に分担させて上記方法を実現させてもよい。
【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により制限されるものではない。
【0056】
本発明者らは、4−ヒドロキシクマリン(4C)と塩化アルミニウムとが樹脂中において、可視発光するのではないかと予測した。そこで、まず、4Cと塩化アルミニウムを樹脂と混練し、フィルムを作製することを検討した。
【0057】
塩化アルミニウムのみを非晶性コポリエステルと所定の重量比率(非晶性コポリエステル:AlCl=100:0.5)において混練し、Tダイ単軸押出機を用いて、成形温度250℃で、厚さ0.1mmのフィルムの作製を試みた。
【0058】
その結果、得られた樹脂フィルムは一様な透明樹脂とは程遠い、白く濁って観察される不均一に断裂した形状を有していた。この結果から、非晶性コポリエステルと混練する塩化アルミニウムの重量比率は低い値が求められるものと推定された。
【0059】
前記の実施結果を踏まえ、非晶性コポリエステルに対して、4Cと塩化アルミニウムとを、質量比で、非晶性コポリエステル:4C:AlCl=100:0.5:0.05として混練したところ、厚さ0.1mmのフィルムを、均質で一様な状態で得ることができた。
【0060】
しかし、この場合、製造装置への塩の悪影響が生じることが明らかとなった。この悪影響は製造法に深刻な打撃を与えるものであり、根本的に原材料の見直しが必要となった。
【0061】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ね、様々な材料を試した結果、樹脂に添加するアルミニウム化合物として、塩化物ではない物資材料群の中からステアリン酸アルミニウム(Al−Ste)が適していることを発見した。以下その詳細について説明する。
【0062】
4C、ステアリン酸アルミニウム、あるいは、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、あるいは無添加の非晶性コポリエステルの各樹脂フィルムについて、得られた透過スペクトルを図2に掲載する。図中、試料番号順に、それぞれ、次の組成とした。
1.非晶性コポリエステル(ナチュラル)
2.非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%)
3.非晶性コポリエステル/AlCl=100/0.5(wt%)(ただし、この場合は前記の通りフィルムが白く濁り測定不能であったため掲載していない)
4.非晶性コポリエステル/Al−Ste=100/0.07(wt%)
5.非晶性コポリエステル/4C/AlCl=100/0.5/0.05(wt%)
6.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.03/0.07(wt%)
7.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%)
8.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07(wt%)
【0063】
図2から、試料番号1、4、5、6、8は透過率の波長依存性にそれほどの違いは認められないが、試料番号2(非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%))と試料番号7(非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%))については、紫外線領域における透過率の減少がみられた。
【0064】
ここで、試料番号6〜8にあっては、塩化アルミニウムを使用した場合に起きた、製造装置への塩の悪影響が生じることがないということが明らかとなった。
【0065】
次に、得られた樹脂の発光スペクトルを測定した。
まず、試料番号1の非晶性コポリエステル(ナチュラル)の発光スペクトルを図3に示す。図3は励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときの発光スペクトルである。図中、各励起波長を以下の通りとした。
1.300nm
2.310nm
3.320nm
4.330nm
5.340nm
6.350nm
7.360nm
【0066】
図3から、励起波長320nm、330nmの場合が可視域の発光が増大することがわかったが、可視域に極大がみられることはなかった。
【0067】
次に4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100:0.13:0.07の比率で含ませてなる樹脂を作製し、発光スペクトルを測定した。励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときに得られた各発光スペクトルを図4に示す。
【0068】
図4から、励起波長300nm〜310nmでは520nm近傍に極大のある可視発光が得られるが、励起波長が320nm以上になるとその520nm近傍に極大のある可視発光が消失し、420nm近傍、470nm近傍に極大のある発光が観測され、励起波長の増大につれて漸減していくことがわかった。
【0069】
次に、励起波長370nmで、4−ヒドロキシクマリン、塩化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、又は、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、或いは無添加の非晶性コポリエステルの発光スペクトルを測定した。
尚、本実験では、自然光に多く含まれる紫外線が320〜400nmの長波長紫外線であることや、通常の普及型グリーンガラスを透過する紫外線の波長帯等を考慮して、代表格の波長として370nmを選択することとした。
結果を図5に示す。図中、試料番号順に、それぞれ、次の組成とした。
1.非晶性コポリエステル(ナチュラル)
2.非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%)
3.非晶性コポリエステル/AlCl=100/0.5(wt%)(ただし、この場合は上述の通り測定不能であったため掲載していない)
4.非晶性コポリエステル/Al−Ste=100/0.07(wt%)
5.非晶性コポリエステル/4C/AlCl=100/0.5/0.05(wt%)
6.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.03/0.07(wt%)
7.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%)
8.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07(wt%)
【0070】
図5から、試料番号1、4、5、6、8は410nm近傍に小さな極大のある発光が認められた。それに対し、試料番号2(非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%))では、異質な400〜550nmの可視発光が観測された。さらに試料番号7(非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%))については、400〜550nmの可視発光の増大が観測された。よって、4Cの濃度の増大が400〜550nmの可視発光の増大に関係することが明らかになった。
【0071】
次に、励起波長を370nmで、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルと、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルのスペクトル差を計算した。結果を図6に示す。
【0072】
図6に示す結果から、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステルに含有させて得られる樹脂は370nmの長波長紫外線(UVA紫外線)を吸収して410nm近傍と435nm近傍に小さな極大、460nm近傍に主要な極大のある400〜600nmにわたる可視発光が起きることがわかった。
【0073】
次に、非晶性コポリエステルに、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムをどのような比率で含有させて得られる樹脂が紫外線をより良好に吸収、遮蔽するかについて検討した。樹脂には非晶性コポリエステルを使用し、Al−Steを樹脂重量100に対して0.05質量%濃度と固定し、混練する4Cの質量%濃度を、0.025、0.05、0.075、0.1、0.125、0.25の6段階に調整したサンプルを作製して用意した。また、比較参照用としてAl−Steを無添加(図7図8において0.00と表記する)のサンプルも用意した。それぞれの樹脂サンプルについて、透過スペクトルを測定した。結果を図7に示す。
【0074】
図7に示すように、いずれのサンプルにおいても可視領域における透過率は高い結果であった。一方、紫外領域での透過率は、非晶性コポリエステル/Al−Ste/4C=100/0.00/0.1の場合が最も透過率が高く、非晶性コポリエステル/Al−Ste/4C=100/0.05/0.025が2番目に高かったが、4C濃度が、0.05、0.075、0.1と順次高くなるにしたがって透過率は減少した。
【0075】
この減少の度合いを波長370nmにおける透過率として図8のようにプロットしてみると、4C濃度が0.1を境にそれ以上増大しても大きな減少率とはならないことが明らかになった。以上のことから、100質量部の4Cに対して、Al−Steを10〜100質量部、より好ましくは40〜60質量部、特に50質量部含ませることで、紫外線吸収及び可視光増強効果が一層顕著となると結論できた。以後、樹脂の混練を実施する目安として、100質量部の4Cに対して、Al−Steが50質量部程度となるようにした。
【0076】
以下、汎用的な樹脂としてLDPE、PP、PET、PC、PMMAの5種類について検討した。試験内容の詳細について説明する。
【0077】
以下に、作製した試験サンプルについて番号と組成とを示す。それぞれ、樹脂、及び、添加物である4−ヒドロキシクマリンやステアリン酸アルミニウムを、以下記載の通りの質量比率とし、各サンプルについて厚さ1mm、2mm、3mm、のフィルムをそれぞれ作製した。
1.LDPE(ナチュラル)
2.LDPE/4C=100/0.13
3.LDPE/Al−Ste=100/0.07
4.LDPE/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
5.LDPE/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
6.PP(ナチュラル)
7.PP/4C=100/0.13
8.PP/Al−Ste=100/0.07
9.PP/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
10.PP/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
11.PET(ナチュラル)
12.PET/4C=100/0.13
13.PET/Al−Ste=100/0.07
14.PET/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
15.PET/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
16.PC(ナチュラル)
17.PC/4C=100/0.13
18.PC/Al−Ste=100/0.07
19.PC/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
20.PC/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
21.PMMA(ナチュラル)
22.PMMA/4C=100/0.065
23.PMMA/4C=100/0.13
24.PMMA/4C=100/0.26
25.PMMA/4C=100/0.65
26.PMMA/Al−Ste=100/0.07
27.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
28.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
29.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
30.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35
【0078】
以上の30種類の試験サンプルは射出成形機を用いて、成形温度を、LDPEについては220℃、PPについては220℃、PETについては280℃、PCについては280℃、PMMAについては250℃とし、それぞれ、1mm、2mm、3mmの厚さのフィルムに成形した。
【0079】
まず、1mm厚のサンプルの光透過スペクトルを測定した。結果を図9図13に示す。図9がLDPE樹脂を用いた場合、図10がPP樹脂を用いた場合、図11がPET樹脂を用いた場合、図12がPC樹脂を用いた場合、図13がPMMA樹脂を用いた場合の透過スペクトルである。ここでは、以下の5つのタイプの組成の樹脂サンプルを作製して比較した。
1.樹脂ナチュラル
2.樹脂/4C=100/0.13
3.樹脂/Al−Ste=100/0.07
4.樹脂/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
5.樹脂/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
【0080】
図9に示すように、LDPEの場合、透過率は可視域で60%より低く、樹脂/Al−Ste=100/0.07を除いて、添加物を入れるとさらに低下した。
また、図10に示すように、PPの場合も、透過率は可視域で60%より低く、樹脂/Al−Ste=100/0.07を除いて、添加物を入れるとさらに低下した。
これらに対して、図11に示すように、PETでは、可視域での透過率は85%程度を示すが、添加物によって、350〜500nmでの透過率が低下するものの500nm〜では透過率は85%程度を示した。
一方で、図12に示すように、PCでは、可視域での透過率は450nm以上では80%以上を示し、添加物によって、400nmでの透過率が10〜20%低下する程度であった。
また、図13に示すように、PMMAでは、可視域での透過率は高く90%程度を示した。
【0081】
次に、2mm厚のサンプルについて、励起波長380nmの場合の発光スペクトルを測定した。結果を図14図18に示す。図中の番号は、上記試験サンプル番号(1〜30)と対応する。すなわち、図14がLDPE樹脂を用いた場合、図15がPP樹脂を用いた場合、図16がPET樹脂を用いた場合、図17がPC樹脂を用いた場合、図18がPMMA樹脂を用いた場合の発光スペクトルである。
【0082】
図14に示す発光スペクトルは、測定感度を低レベルで測定した結果であるが、LDPEの場合、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。
また、図15に示す発光スペクトルは、測定感度を低レベルで測定した結果であるが、PPの場合も、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。
図16に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、PETでは、430nm及び460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。中でもサンプル番号15のとき最も高い値を示した。
図17に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、PCでは、全体にPETの場合に比べて低いが、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。中でもサンプル番号20のとき最も高い値を示した。
図18に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、4C及びAl−Ste添加によって400〜600nmの範囲における発光が認められた。中でもサンプル番号30(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35)の場合、極大波長460nm、520nmのある400〜600nmの範囲における強い発光を示した。
【0083】
<試験結果のまとめ>
以上、アルミニウム化合物としてステアリン酸アルミニウムを用いて得られた樹脂の性状は、均質であり、塩の悪影響は観られなかった。その上、透過スペクトル、発光スペクトルの解析結果から、380nmの長波長紫外線の励起によって可視発光を得ることができる条件を、汎用的な樹脂それぞれについて見出すに至った。
【0084】
<肉眼による観察で識別できる樹脂の可視発光>
PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35の組成を有する樹脂の試験サンプルに380nmのレーザー光照射を行い、可視発光のスポットを生じさせた。サンプルの樹脂板の見た目は黄色である。図19に結果を示す。380nmのレーザー光照射によって、水色の可視発光スポットを生じることが確認できた。
【0085】
図20に、サンプル番号28(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07)、サンプル番号29(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14)、サンプル番号30(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35)の樹脂板を左から順に並べ、可視発光する様子を比較観察した様子を掲載する。左から順に添加物の濃度が高くなることが原因で樹脂板の色は黄色の濃さが強くなっており、375nmの長波長紫外線の励起によって可視発光の色が変化して観察された。
【0086】
<厚さ2mmの樹脂板の発光特性の樹脂種類比較>
前記のPMMAの場合の詳細解析から、樹脂の厚さが2mmで大きな発光効果が得られることがわかった。このことを考慮して、樹脂種類間の差異について同一条件で発光特性を比較した。その結果を図21、22に掲載する。
【0087】
図21は、2mmサンプル、樹脂/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の条件の場合の励起波長380nmにおける発光強度比較である。可視域では、PET>>PP>PC>LDPE>PMMAの順に発光強度が高い結果を得た。
【0088】
図22は、2mmサンプル、樹脂/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14の条件の場合の励起波長380nmにおける発光強度比較である。可視域では、460nmにおける比較では、PET=PP>LDPE>PC>PMMAの順に発光強度が高い結果を得た。
【0089】
<高濃度樹脂サンプルの特性比較>
次に、添加物濃度が高濃度である場合に、PETとPMMAの可視発光の効果が比較的高く得られる点に着目し、高濃度において両者を比較した。以下は5種類の樹脂サンプルを作製した条件とその観察された色である。
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50 濃い黄色
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 濃い黄色
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50 うすい明るい黄色
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 濃い明るい黄色
5.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 さらに濃い明るい黄色 厚さ6mm
【0090】
以上の5種類の試験サンプルは射出成形機を用いて、成形温度を、PETについては280℃、PMMAについては250℃で作製した。
【0091】
図23図26は、それぞれ、
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(濃い黄色)
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い黄色)
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(うすい明るい黄色)
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い明るい黄色)
の厚さ1mm、2mm、3mmのサンプルの透過スペクトルである。厚さの増大とともに500nm以下の透過率が低下していることがわかる。
【0092】
図27は、
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(濃い黄色)
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い黄色)
の発光スペクトルを比較した図である。
図28は、
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(うすい明るい黄色)
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い明るい黄色)
の発光スペクトルを比較した図である。
PETでは、濃度が高いほうが、520nm発光強度が高くなっている。しかし、PMMAでは、濃度が高いと、460nm発光の光が吸収されるために、400〜500nmの発光量が減少し、それに含まれる435nmの励起によって、520nm発光が若干大きくなる程度である。
【0093】
<その他のアルミニウム化合物を用いた場合の可視発光効果>
樹脂PETが添加物によって大きい可視発光を示すという知見を得たことから、以下の4種類の異なるアルミニウム含有添加物を用いた場合の可視発光効果について検討した。
・12-ヒドロキシアルミニウムステアレート(以下、12−Al−Steと略記)
・モンタン酸アルミニウム(以下、Al−Monと略記)
・微粉アルミナ(以下、アルミナ1と略記)
・球状アルミナ(以下、アルミナ2と略記)
・水酸化アルミニウム(以下、Al(OH)と略記)
【0094】
図29にPET/12−Al−Ste=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図29から明らかなように、厚さ1mm、2mmでは透過率が80%程度で変わらないが3mmになると極度に低下した。
【0095】
図30にPET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図30から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0096】
図31にPET/Al−Mon=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図31から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に透過率が若干低下した。
【0097】
図32にPET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図32から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0098】
図33にPET/アルミナ1=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図33から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、透過率が50%以下に低下した。
【0099】
図34にPET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図34から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0100】
図35にPET/アルミナ2=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図35から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、透過率が50%以下に低下した。
【0101】
図36にPET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図36から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0102】
図37に4CとAl(OH)とを含有させたPET樹脂の透過率を測定した透過スペクトルを示す。厚さ2mmの試料で測定した。試料中の各成分比:樹脂/4C/Al(OH)は、以下の通りである。
1.PET(ナチュラル)
2.PET/4C=100/0.13
3.PET/Al(OH)=100/0.07
4.PET/4C/Al(OH)=100/0.13/0.07
5.PET/4C/Al(OH)=100/0.26/0.14
この結果から、明らかなように、試料1、3では透過率の減少は小さいが、試料2では320〜400nmの紫外線領域で透過率が大きく減少した。さらにAl(OH)が添加された試料4では紫外線領域のみならず可視領域においても透過率の減少がみられ、さらに、試料4の場合の4CとAl(OH)の添加量が2倍に増した試料5ではさらに透過率の減少がみられた。これは、透過率の減少した分、光吸収が起きたことに起因する。
【0103】
図37、38にPET(ナチュラル)の透過スペクトルを示す。
図37、38から明らかなように、可視域では透過率が80〜85%で透明である。
【0104】
図39にPET/4C=100/0.26の透過スペクトルを示す。
図39から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0105】
図40
1.PET/12−Al−Ste=100/0.14
2.PET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図40から明らかなように、4C及び12−Al−Steを双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0106】
図41
3.PET/Al−Mon=100/0.14
4.PET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図41から明らかなように、4C及びAl−Monを双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0107】
図42
5.PET/アルミナ1=100/0.14
6.PET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図42から明らかなように、4C及びアルミナ1を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0108】
図43
7.PET/アルミナ2=100/0.14
8.PET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図43から明らかなように、4C及びアルミナ2を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0109】
図44
9.PET(ナチュラル)
10.PET/4C=100/0.13
11.PET/Al(OH)=100/0.07
12.PET/4C/Al(OH)=100/0.13/0.07
13.PET/4C/Al(OH)=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図44から明らかなように、4C及びAl(OH)を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0110】
図45
14.PET(ナチュラル)
15.PET/4C=100/0.26
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図45から明らかなように、4Cの添加効果による可視発光が大きく出た。このデータは上述の発光特性より低く、上述の発光特性がアルミニウム化合物の添加によって増強されていることがわかった。
【0111】
<当該発明樹脂を太陽電池上に被覆することによる発電量への効果>
以上において、汎用的な樹脂について透過特性、発光特性を、樹脂への添加物の濃度と各スペクトルの相関について解析して説明してきた。この基本的な試験データを参考に太陽電池への効果について検討する。ところで、今日使用されている太陽電池は、戸外において大気、水分等の環境因子にさらされているため、電気系統の異常防止のために樹脂による封止が行われている。特に温度変化による膨張収縮が絶え間なく起き劣化するため、樹脂材料では最も優れたものとしてエチレンビニルアセテート(EVA)がよく使用されている。本発明による紫外可視光変換樹脂材料としての添加剤のEVAへの混練と、それによって作製された樹脂シートを用いて太陽電池上に被覆することによる発電量への影響と効果について検討した。特に、EVAに近い樹脂はLDPEであり、前述してきた基本データから4Cとアルミニウム化合物の添加が効果的と考えられた。
【0112】
図46は、
1.EVA(ナチュラル)
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
のサイズ2cm×10cmのサンプル試験片の375nm紫外線励起による発光の様子である。尚、EVAの試験片は、PETフィルムで両面を被覆して保護し、試験時にPETフィルムを剥がして紫外線を照射するものとした。EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700の試験片は激しく水色に発光したが、添加物のないEVAナチュラルは透明なままであった。
【0113】
図47
1.EVA(ナチュラル)
2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175
4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
の各透過スペクトルである。
これをみると、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までは可視域の透過率が80%程度あるが、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700と添加物量が増大するにつれて、透過率は急激に低下する。
【0114】
図48は、
1.EVA(ナチュラル)
2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175
4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
の各発光スペクトルである。
これをみると、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までは発光強度は比較的低いが、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700と添加物量が増大するにつれて、発光強度も急激に増大する。
【0115】
図49に太陽電池を樹脂シートで被覆して発電量を試験する模式図を示す。紫外線の一部が可視光に変換されて可視光が増強され可視光に感度が高い太陽電池の発電量が増大する仕組みである。
【0116】
試験を実施するにあたっては、ソーラーシミュレーターを使用した。
図50に使用した光源であるキセノンランプ光源のスペクトルを示す。
【0117】
下記表1に、面積約60cmとして作製した10種類の濃度のサンプル1−10の含有物組成比率を示す。以下、このサンプルを太陽電池表面に設置して、ソーラーシミュレーターで測定された発電量について検討した結果について説明する。
【0118】
【表1】
【0119】
まず、面積が241cmの結晶シリコン太陽電池を用いた場合について説明する。
図51は、結晶シリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量を示したものである。最初のサンプル1〜5では大きな違いはなくわずかに減少している程度であるが、サンプル6以降は急激な減少になった。これは透過率低下がその原因である。
下記表2に、結晶シリコン太陽電池に樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。
【0120】
【表2】
【0121】
次に、EVAシートより面積が小さく、EVAシートサンプルで完全に覆うことができる、結晶シリコンマイクロソーラーを用いた場合について説明する。
図52は、結晶シリコンマイクロソーラーの全面を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。EVA樹脂シートを1枚のPETフィルムで被覆した場合の発電量が、被覆なしに比べて高い値を示した。特に、2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときに相対発電量に比して100%を超えた。しかし、被覆無しの条件での値は100%以下であり、概して効果は認められないものと判断できた。
下記表3に、結晶シリコンマイクロソーラーに樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。
【0122】
【表3】
【0123】
次に、面積が172cmのアモルファスシリコン太陽電池を用いた場合について説明する。
図53は、アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂を主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量示したものである。2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときに、相対発電量が100%を超えた。これは、1枚のPETフィルムで被覆した場合より被覆無しで効果が増大していることから、紫外可視光変換の効果が出たと判断できた。
下記表4にアモルファスシリコン太陽電池に樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。最も効果が高い条件は2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときであり、約1.3%の相対発電量プラスの効果が確認できた。
【0124】
【表4】
【0125】
図54に、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量の3種太陽電池への効果の比較の結果を示す。これをみると、低濃度条件でアモルファスシリコン太陽電池への効果が大きく、高濃度条件での結晶シリコン太陽電池への影響が小さい。波長依存光電効果特性の違いが如実に現れたと考えられた。
【0126】
下記表5に、アモルファスシリコン太陽電池に、大気に暴露後に両面を樹脂被覆した樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果を示す。これは、新鮮なEVAシートでない実験結果であり、劣化させた上での比較結果の数値である。
この結果を図化したものが図55で、アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シート(大気中で暴露して劣化させた後、PETシート2枚で被覆)を主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量を示す。2.1%の相対発電量プラスの効果が確認できた。
【0127】
【表5】
【0128】
以上の3種の太陽電池を用いて行った試験データを検討するとき、EVAシートで覆われた部分と、覆われなかった部分があり、それらの総和として発電量を比較したことを考慮する必要がある。そこで、下記表6に示すように、セル面積と被覆シート面積の比によるa−Si−cell全体被覆の予想を計算した。結晶シリコン太陽電池と結晶シリコンマイクロソーラーは材質が基本的に同じであるので、実験データでその計算結果の妥当性が確かめられた。一方、アモルファスシリコン太陽電池には、同様なマイクロソーラーに相当する試験対象がここではなかったので、仮に全面が当該EVA樹脂シートで覆われた場合にどのような効果がでるかを計算値(calculated data)で示した。
【0129】
【表6】
【0130】
図56が、結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較をグラフ化したものであり、図57が、結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較のサンプル1−5の拡大図である。
この考察の妥当性は、結晶シリコン太陽電池と結晶シリコンマイクロソーラーの計算結果と実験結果から確かめられたので、アモルファスシリコン太陽電池の当該EVA紫外可視光変換材料含有樹脂シートの単純な被覆による発電量増大効果が、相対発電量で4.4%であることが明らかになった。これは、仮に自然光の10%を発電するアモルファスシリコン太陽電池に適応すると、10.44%の発電が可能になることに相当する。
【0131】
以上の試験結果をまとめると、添加物質の4C、Al−Ste濃度が増大し過ぎると発電量の低下がおきる傾向があることがわかる。その中で、発電量の増大が確認できたのは、アモルファスシリコンタイプの場合であり、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までの範囲でのわずかな添加物質の濃度の増大によって、発電量が増大した。2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035では最も大きな効果が出た。
【0132】
結晶Siタイプでは近赤外領域の光を必要とするのに対し、アモルファス太陽電池の場合、可視光線が発電に必要である。このことによってアモルファス太陽電池の場合、何も被覆しない場合に比べ、相対値で約4.4%増大することが見出された。
【0133】
以上の効果は、可視光線を光電変換するアモルファス太陽電池以外の非シリコン系太陽電池、例えばテルル、セレン、銅、硫黄、ガリウム、ゲルマニウムなどの元素から構成された化合物半導体による太陽電池、有機物と金属の錯体を増感剤として発電する色素増感太陽電池にも同様に起き得る効果である。
【0134】
<Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加した樹脂の作製>
次に、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加した樹脂の作製を実施し、透過スペクトルおよび発光スペクトルを比較した。
【0135】
図58は、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加したPET樹脂の透過スペクトルである。これらをみると、Al−Ste、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Ste、の順に波長330〜500nmにおける透過率が低い値になった。このことから、Al−Ste、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Ste、の順に光吸収が起きたと考えられた。すなわち、Al−Steを添加した場合に、紫外線遮蔽率が最も高くなることが分かった。
【0136】
図59は、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加したPET樹脂の波長380nmにおける励起による発光スペクトルである。これらをみると、Ca−Ste、Zn−Ste、Mg−Ste、Al−Ste、の順に波長390〜590nmにおける発光が高くなるという結果になった。特にAl−Steでは、他の3種金属には観られない波長425〜590nmにおける発光が加わっていた。このことから、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Steに比べてAl−Steを添加した樹脂はより多くの可視光を発光することが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0137】
以上のように本発明者らは、鋭意検討してきた結果、所定のアルミニウム化合物および蛍光性物質を添加物として含んだ樹脂組成物が、紫外線吸収および可視光増強を実現可能な樹脂材料とできることを発見した。産業上の用途として、太陽電池モジュールのカバー、太陽電池モジュールの封止材料、建築用合わせガラス用樹脂、室内の明るさを必要とする場合における板、工場内での精密作業などで使用する強力な照明器具から紫外線を遮蔽する板、そうした照明器具の窓材料として使用することに適している。他に、農業用フィルム、化粧品容器、紫外線を照射した時の識別材料として使用可能である。
【0138】
また、長波長紫外線照射により、青色発光、水色発光、黄緑色発光体により光るオブジェ等の造形物、インテリア、様々な物品の樹脂容器としても使用可能である。
【0139】
本発明ではレアメタル、レアアース類元素は一切使用していないので、低コストに提供可能であると同時に様々な形状の製品として製造可能である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
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図20
図21
図22
図23
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図25
図26
図27
図28
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図31
図32
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図37
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図39
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図41
図42
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図44
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図46
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図50
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図55
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図59