【実施例】
【0055】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例により制限されるものではない。
【0056】
本発明者らは、4−ヒドロキシクマリン(4C)と塩化アルミニウムとが樹脂中において、可視発光するのではないかと予測した。そこで、まず、4Cと塩化アルミニウムを樹脂と混練し、フィルムを作製することを検討した。
【0057】
塩化アルミニウムのみを非晶性コポリエステルと所定の重量比率(非晶性コポリエステル:AlCl
3=100:0.5)において混練し、Tダイ単軸押出機を用いて、成形温度250℃で、厚さ0.1mmのフィルムの作製を試みた。
【0058】
その結果、得られた樹脂フィルムは一様な透明樹脂とは程遠い、白く濁って観察される不均一に断裂した形状を有していた。この結果から、非晶性コポリエステルと混練する塩化アルミニウムの重量比率は低い値が求められるものと推定された。
【0059】
前記の実施結果を踏まえ、非晶性コポリエステルに対して、4Cと塩化アルミニウムとを、質量比で、非晶性コポリエステル:4C:AlCl
3=100:0.5:0.05として混練したところ、厚さ0.1mmのフィルムを、均質で一様な状態で得ることができた。
【0060】
しかし、この場合、製造装置への塩の悪影響が生じることが明らかとなった。この悪影響は製造法に深刻な打撃を与えるものであり、根本的に原材料の見直しが必要となった。
【0061】
そこで、本発明者らは、鋭意検討を重ね、様々な材料を試した結果、樹脂に添加するアルミニウム化合物として、塩化物ではない物資材料群の中からステアリン酸アルミニウム(Al−Ste)が適していることを発見した。以下その詳細について説明する。
【0062】
4C、ステアリン酸アルミニウム、あるいは、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、あるいは無添加の非晶性コポリエステルの各樹脂フィルムについて、得られた透過スペクトルを
図2に掲載する。図中、試料番号順に、それぞれ、次の組成とした。
1.非晶性コポリエステル(ナチュラル)
2.非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%)
3.非晶性コポリエステル/AlCl
3=100/0.5(wt%)(ただし、この場合は前記の通りフィルムが白く濁り測定不能であったため掲載していない)
4.非晶性コポリエステル/Al−Ste=100/0.07(wt%)
5.非晶性コポリエステル/4C/AlCl
3=100/0.5/0.05(wt%)
6.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.03/0.07(wt%)
7.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%)
8.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07(wt%)
【0063】
図2から、試料番号1、4、5、6、8は透過率の波長依存性にそれほどの違いは認められないが、試料番号2(非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%))と試料番号7(非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%))については、紫外線領域における透過率の減少がみられた。
【0064】
ここで、試料番号6〜8にあっては、塩化アルミニウムを使用した場合に起きた、製造装置への塩の悪影響が生じることがないということが明らかとなった。
【0065】
次に、得られた樹脂の発光スペクトルを測定した。
まず、試料番号1の非晶性コポリエステル(ナチュラル)の発光スペクトルを
図3に示す。
図3は励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときの発光スペクトルである。図中、各励起波長を以下の通りとした。
1.300nm
2.310nm
3.320nm
4.330nm
5.340nm
6.350nm
7.360nm
【0066】
図3から、励起波長320nm、330nmの場合が可視域の発光が増大することがわかったが、可視域に極大がみられることはなかった。
【0067】
次に4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100:0.13:0.07の比率で含ませてなる樹脂を作製し、発光スペクトルを測定した。励起波長を300nmから360nmにまで10nmおきに7段階で変化させたときに得られた各発光スペクトルを
図4に示す。
【0068】
図4から、励起波長300nm〜310nmでは520nm近傍に極大のある可視発光が得られるが、励起波長が320nm以上になるとその520nm近傍に極大のある可視発光が消失し、420nm近傍、470nm近傍に極大のある発光が観測され、励起波長の増大につれて漸減していくことがわかった。
【0069】
次に、励起波長370nmで、4−ヒドロキシクマリン、塩化アルミニウム、ステアリン酸アルミニウム、又は、それらの組み合わせ、を含ませてなる非晶性コポリエステル、或いは無添加の非晶性コポリエステルの発光スペクトルを測定した。
尚、本実験では、自然光に多く含まれる紫外線が320〜400nmの長波長紫外線であることや、通常の普及型グリーンガラスを透過する紫外線の波長帯等を考慮して、代表格の波長として370nmを選択することとした。
結果を
図5に示す。図中、試料番号順に、それぞれ、次の組成とした。
1.非晶性コポリエステル(ナチュラル)
2.非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%)
3.非晶性コポリエステル/AlCl
3=100/0.5(wt%)(ただし、この場合は上述の通り測定不能であったため掲載していない)
4.非晶性コポリエステル/Al−Ste=100/0.07(wt%)
5.非晶性コポリエステル/4C/AlCl
3=100/0.5/0.05(wt%)
6.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.03/0.07(wt%)
7.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%)
8.非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07(wt%)
【0070】
図5から、試料番号1、4、5、6、8は410nm近傍に小さな極大のある発光が認められた。それに対し、試料番号2(非晶性コポリエステル/4C=100/0.13(wt%))では、異質な400〜550nmの可視発光が観測された。さらに試料番号7(非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07(wt%))については、400〜550nmの可視発光の増大が観測された。よって、4Cの濃度の増大が400〜550nmの可視発光の増大に関係することが明らかになった。
【0071】
次に、励起波長を370nmで、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルと、非晶性コポリエステル/4C/Al−Ste=100/0.015/0.07の比率で含ませてなる樹脂の発光スペクトルのスペクトル差を計算した。結果を
図6に示す。
【0072】
図6に示す結果から、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムを、非晶性コポリエステルに含有させて得られる樹脂は370nmの長波長紫外線(UVA紫外線)を吸収して410nm近傍と435nm近傍に小さな極大、460nm近傍に主要な極大のある400〜600nmにわたる可視発光が起きることがわかった。
【0073】
次に、非晶性コポリエステルに、4−ヒドロキシクマリン、ステアリン酸アルミニウムをどのような比率で含有させて得られる樹脂が紫外線をより良好に吸収、遮蔽するかについて検討した。樹脂には非晶性コポリエステルを使用し、Al−Steを樹脂重量100に対して0.05質量%濃度と固定し、混練する4Cの質量%濃度を、0.025、0.05、0.075、0.1、0.125、0.25の6段階に調整したサンプルを作製して用意した。また、比較参照用としてAl−Steを無添加(
図7、
図8において0.00と表記する)のサンプルも用意した。それぞれの樹脂サンプルについて、透過スペクトルを測定した。結果を
図7に示す。
【0074】
図7に示すように、いずれのサンプルにおいても可視領域における透過率は高い結果であった。一方、紫外領域での透過率は、非晶性コポリエステル/Al−Ste/4C=100/0.00/0.1の場合が最も透過率が高く、非晶性コポリエステル/Al−Ste/4C=100/0.05/0.025が2番目に高かったが、4C濃度が、0.05、0.075、0.1と順次高くなるにしたがって透過率は減少した。
【0075】
この減少の度合いを波長370nmにおける透過率として
図8のようにプロットしてみると、4C濃度が0.1を境にそれ以上増大しても大きな減少率とはならないことが明らかになった。以上のことから、100質量部の4Cに対して、Al−Steを10〜100質量部、より好ましくは40〜60質量部、特に50質量部含ませることで、紫外線吸収及び可視光増強効果が一層顕著となると結論できた。以後、樹脂の混練を実施する目安として、100質量部の4Cに対して、Al−Steが50質量部程度となるようにした。
【0076】
以下、汎用的な樹脂としてLDPE、PP、PET、PC、PMMAの5種類について検討した。試験内容の詳細について説明する。
【0077】
以下に、作製した試験サンプルについて番号と組成とを示す。それぞれ、樹脂、及び、添加物である4−ヒドロキシクマリンやステアリン酸アルミニウムを、以下記載の通りの質量比率とし、各サンプルについて厚さ1mm、2mm、3mm、のフィルムをそれぞれ作製した。
1.LDPE(ナチュラル)
2.LDPE/4C=100/0.13
3.LDPE/Al−Ste=100/0.07
4.LDPE/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
5.LDPE/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
6.PP(ナチュラル)
7.PP/4C=100/0.13
8.PP/Al−Ste=100/0.07
9.PP/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
10.PP/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
11.PET(ナチュラル)
12.PET/4C=100/0.13
13.PET/Al−Ste=100/0.07
14.PET/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
15.PET/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
16.PC(ナチュラル)
17.PC/4C=100/0.13
18.PC/Al−Ste=100/0.07
19.PC/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
20.PC/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
21.PMMA(ナチュラル)
22.PMMA/4C=100/0.065
23.PMMA/4C=100/0.13
24.PMMA/4C=100/0.26
25.PMMA/4C=100/0.65
26.PMMA/Al−Ste=100/0.07
27.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
28.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
29.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
30.PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35
【0078】
以上の30種類の試験サンプルは射出成形機を用いて、成形温度を、LDPEについては220℃、PPについては220℃、PETについては280℃、PCについては280℃、PMMAについては250℃とし、それぞれ、1mm、2mm、3mmの厚さのフィルムに成形した。
【0079】
まず、1mm厚のサンプルの光透過スペクトルを測定した。結果を
図9〜
図13に示す。
図9がLDPE樹脂を用いた場合、
図10がPP樹脂を用いた場合、
図11がPET樹脂を用いた場合、
図12がPC樹脂を用いた場合、
図13がPMMA樹脂を用いた場合の透過スペクトルである。ここでは、以下の5つのタイプの組成の樹脂サンプルを作製して比較した。
1.樹脂ナチュラル
2.樹脂/4C=100/0.13
3.樹脂/Al−Ste=100/0.07
4.樹脂/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07
5.樹脂/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14
【0080】
図9に示すように、LDPEの場合、透過率は可視域で60%より低く、樹脂/Al−Ste=100/0.07を除いて、添加物を入れるとさらに低下した。
また、
図10に示すように、PPの場合も、透過率は可視域で60%より低く、樹脂/Al−Ste=100/0.07を除いて、添加物を入れるとさらに低下した。
これらに対して、
図11に示すように、PETでは、可視域での透過率は85%程度を示すが、添加物によって、350〜500nmでの透過率が低下するものの500nm〜では透過率は85%程度を示した。
一方で、
図12に示すように、PCでは、可視域での透過率は450nm以上では80%以上を示し、添加物によって、400nmでの透過率が10〜20%低下する程度であった。
また、
図13に示すように、PMMAでは、可視域での透過率は高く90%程度を示した。
【0081】
次に、2mm厚のサンプルについて、励起波長380nmの場合の発光スペクトルを測定した。結果を
図14〜
図18に示す。図中の番号は、上記試験サンプル番号(1〜30)と対応する。すなわち、
図14がLDPE樹脂を用いた場合、
図15がPP樹脂を用いた場合、
図16がPET樹脂を用いた場合、
図17がPC樹脂を用いた場合、
図18がPMMA樹脂を用いた場合の発光スペクトルである。
【0082】
図14に示す発光スペクトルは、測定感度を低レベルで測定した結果であるが、LDPEの場合、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。
また、
図15に示す発光スペクトルは、測定感度を低レベルで測定した結果であるが、PPの場合も、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。
図16に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、PETでは、430nm及び460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。中でもサンプル番号15のとき最も高い値を示した。
図17に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、PCでは、全体にPETの場合に比べて低いが、460nmに極大がある400〜600nmの範囲の可視発光を示した。中でもサンプル番号20のとき最も高い値を示した。
図18に示す発光スペクトルは、測定感度を中レベルで測定した結果であるが、4C及びAl−Ste添加によって400〜600nmの範囲における発光が認められた。中でもサンプル番号30(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35)の場合、極大波長460nm、520nmのある400〜600nmの範囲における強い発光を示した。
【0083】
<試験結果のまとめ>
以上、アルミニウム化合物としてステアリン酸アルミニウムを用いて得られた樹脂の性状は、均質であり、塩の悪影響は観られなかった。その上、透過スペクトル、発光スペクトルの解析結果から、380nmの長波長紫外線の励起によって可視発光を得ることができる条件を、汎用的な樹脂それぞれについて見出すに至った。
【0084】
<肉眼による観察で識別できる樹脂の可視発光>
PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35の組成を有する樹脂の試験サンプルに380nmのレーザー光照射を行い、可視発光のスポットを生じさせた。サンプルの樹脂板の見た目は黄色である。
図19に結果を示す。380nmのレーザー光照射によって、水色の可視発光スポットを生じることが確認できた。
【0085】
図20に、サンプル番号28(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07)、サンプル番号29(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14)、サンプル番号30(PMMA/4C/Al−Ste=100/0.65/0.35)の樹脂板を左から順に並べ、可視発光する様子を比較観察した様子を掲載する。左から順に添加物の濃度が高くなることが原因で樹脂板の色は黄色の濃さが強くなっており、375nmの長波長紫外線の励起によって可視発光の色が変化して観察された。
【0086】
<厚さ2mmの樹脂板の発光特性の樹脂種類比較>
前記のPMMAの場合の詳細解析から、樹脂の厚さが2mmで大きな発光効果が得られることがわかった。このことを考慮して、樹脂種類間の差異について同一条件で発光特性を比較した。その結果を
図21、22に掲載する。
【0087】
図21は、2mmサンプル、樹脂/4C/Al−Ste=100/0.13/0.07の条件の場合の励起波長380nmにおける発光強度比較である。可視域では、PET>>PP>PC>LDPE>PMMAの順に発光強度が高い結果を得た。
【0088】
図22は、2mmサンプル、樹脂/4C/Al−Ste=100/0.26/0.14の条件の場合の励起波長380nmにおける発光強度比較である。可視域では、460nmにおける比較では、PET=PP>LDPE>PC>PMMAの順に発光強度が高い結果を得た。
【0089】
<高濃度樹脂サンプルの特性比較>
次に、添加物濃度が高濃度である場合に、PETとPMMAの可視発光の効果が比較的高く得られる点に着目し、高濃度において両者を比較した。以下は5種類の樹脂サンプルを作製した条件とその観察された色である。
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50 濃い黄色
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 濃い黄色
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50 うすい明るい黄色
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 濃い明るい黄色
5.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67 さらに濃い明るい黄色 厚さ6mm
【0090】
以上の5種類の試験サンプルは射出成形機を用いて、成形温度を、PETについては280℃、PMMAについては250℃で作製した。
【0091】
図23〜
図26は、それぞれ、
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(濃い黄色)
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い黄色)
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(うすい明るい黄色)
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い明るい黄色)
の厚さ1mm、2mm、3mmのサンプルの透過スペクトルである。厚さの増大とともに500nm以下の透過率が低下していることがわかる。
【0092】
図27は、
1.PET/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(濃い黄色)
2.PET/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い黄色)
の発光スペクトルを比較した図である。
図28は、
3.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.00/0.50(うすい明るい黄色)
4.PMMA/4C/Al−Ste=100/1.33/0.67(濃い明るい黄色)
の発光スペクトルを比較した図である。
PETでは、濃度が高いほうが、520nm発光強度が高くなっている。しかし、PMMAでは、濃度が高いと、460nm発光の光が吸収されるために、400〜500nmの発光量が減少し、それに含まれる435nmの励起によって、520nm発光が若干大きくなる程度である。
【0093】
<その他のアルミニウム化合物を用いた場合の可視発光効果>
樹脂PETが添加物によって大きい可視発光を示すという知見を得たことから、以下の4種類の異なるアルミニウム含有添加物を用いた場合の可視発光効果について検討した。
・12-ヒドロキシアルミニウムステアレート(以下、12−Al−Steと略記)
・モンタン酸アルミニウム(以下、Al−Monと略記)
・微粉アルミナ(以下、アルミナ1と略記)
・球状アルミナ(以下、アルミナ2と略記)
・水酸化アルミニウム(以下、Al(OH)
3と略記)
【0094】
図29にPET/12−Al−Ste=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図29から明らかなように、厚さ1mm、2mmでは透過率が80%程度で変わらないが3mmになると極度に低下した。
【0095】
図30にPET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図30から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0096】
図31にPET/Al−Mon=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図31から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に透過率が若干低下した。
【0097】
図32にPET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図32から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0098】
図33にPET/アルミナ1=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図33から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、透過率が50%以下に低下した。
【0099】
図34にPET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図34から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0100】
図35にPET/アルミナ2=100/0.14の透過スペクトルを示す。
図35から明らかなように、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、透過率が50%以下に低下した。
【0101】
図36にPET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14の透過スペクトルを示す。
図36から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0102】
図37に4CとAl(OH)
3とを含有させたPET樹脂の透過率を測定した透過スペクトルを示す。厚さ2mmの試料で測定した。試料中の各成分比:樹脂/4C/Al(OH)
3は、以下の通りである。
1.PET(ナチュラル)
2.PET/4C=100/0.13
3.PET/Al(OH)
3=100/0.07
4.PET/4C/Al(OH)
3=100/0.13/0.07
5.PET/4C/Al(OH)
3=100/0.26/0.14
この結果から、明らかなように、試料1、3では透過率の減少は小さいが、試料2では320〜400nmの紫外線領域で透過率が大きく減少した。さらにAl(OH)
3が添加された試料4では紫外線領域のみならず可視領域においても透過率の減少がみられ、さらに、試料4の場合の4CとAl(OH)
3の添加量が2倍に増した試料5ではさらに透過率の減少がみられた。これは、透過率の減少した分、光吸収が起きたことに起因する。
【0103】
図37、38にPET(ナチュラル)の透過スペクトルを示す。
図37、38から明らかなように、可視域では透過率が80〜85%で透明である。
【0104】
図39にPET/4C=100/0.26の透過スペクトルを示す。
図39から明らかなように、4Cの添加が原因となって、厚さ1mm、2mm、3mmの順に、400〜500nmにおける透過率の低下がおきた。
【0105】
図40に
1.PET/12−Al−Ste=100/0.14
2.PET/4C/12−Al−Ste=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図40から明らかなように、4C及び12−Al−Steを双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0106】
図41に
3.PET/Al−Mon=100/0.14
4.PET/4C/Al−Mon=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図41から明らかなように、4C及びAl−Monを双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0107】
図42に
5.PET/アルミナ1=100/0.14
6.PET/4C/アルミナ1=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図42から明らかなように、4C及びアルミナ1を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0108】
図43に
7.PET/アルミナ2=100/0.14
8.PET/4C/アルミナ2=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図43から明らかなように、4C及びアルミナ2を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0109】
図44に
9.PET(ナチュラル)
10.PET/4C=100/0.13
11.PET/Al(OH)
3=100/0.07
12.PET/4C/Al(OH)
3=100/0.13/0.07
13.PET/4C/Al(OH)
3=100/0.26/0.14
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図44から明らかなように、4C及びAl(OH)
3を双方添加したことによる可視発光が大きく出た。
【0110】
図45に
14.PET(ナチュラル)
15.PET/4C=100/0.26
の比率のときの380nm励起による発光ペクトルをそれぞれ示す。
図45から明らかなように、4Cの添加効果による可視発光が大きく出た。このデータは上述の発光特性より低く、上述の発光特性がアルミニウム化合物の添加によって増強されていることがわかった。
【0111】
<当該発明樹脂を太陽電池上に被覆することによる発電量への効果>
以上において、汎用的な樹脂について透過特性、発光特性を、樹脂への添加物の濃度と各スペクトルの相関について解析して説明してきた。この基本的な試験データを参考に太陽電池への効果について検討する。ところで、今日使用されている太陽電池は、戸外において大気、水分等の環境因子にさらされているため、電気系統の異常防止のために樹脂による封止が行われている。特に温度変化による膨張収縮が絶え間なく起き劣化するため、樹脂材料では最も優れたものとしてエチレンビニルアセテート(EVA)がよく使用されている。本発明による紫外可視光変換樹脂材料としての添加剤のEVAへの混練と、それによって作製された樹脂シートを用いて太陽電池上に被覆することによる発電量への影響と効果について検討した。特に、EVAに近い樹脂はLDPEであり、前述してきた基本データから4Cとアルミニウム化合物の添加が効果的と考えられた。
【0112】
図46は、
1.EVA(ナチュラル)
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
のサイズ2cm×10cmのサンプル試験片の375nm紫外線励起による発光の様子である。尚、EVAの試験片は、PETフィルムで両面を被覆して保護し、試験時にPETフィルムを剥がして紫外線を照射するものとした。EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700の試験片は激しく水色に発光したが、添加物のないEVAナチュラルは透明なままであった。
【0113】
図47は
1.EVA(ナチュラル)
2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175
4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
の各透過スペクトルである。
これをみると、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までは可視域の透過率が80%程度あるが、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700と添加物量が増大するにつれて、透過率は急激に低下する。
【0114】
図48は、
1.EVA(ナチュラル)
2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035
3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175
4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350
5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700
の各発光スペクトルである。
これをみると、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までは発光強度は比較的低いが、4.EVA/4C/Al−Ste=100/0.650/0.350、5.EVA/4C/Al−Ste=100/1.300/0.700と添加物量が増大するにつれて、発光強度も急激に増大する。
【0115】
図49に太陽電池を樹脂シートで被覆して発電量を試験する模式図を示す。紫外線の一部が可視光に変換されて可視光が増強され可視光に感度が高い太陽電池の発電量が増大する仕組みである。
【0116】
試験を実施するにあたっては、ソーラーシミュレーターを使用した。
図50に使用した光源であるキセノンランプ光源のスペクトルを示す。
【0117】
下記表1に、面積約60cm
2として作製した10種類の濃度のサンプル1−10の含有物組成比率を示す。以下、このサンプルを太陽電池表面に設置して、ソーラーシミュレーターで測定された発電量について検討した結果について説明する。
【0118】
【表1】
【0119】
まず、面積が241cm
2の結晶シリコン太陽電池を用いた場合について説明する。
図51は、結晶シリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量を示したものである。最初のサンプル1〜5では大きな違いはなくわずかに減少している程度であるが、サンプル6以降は急激な減少になった。これは透過率低下がその原因である。
下記表2に、結晶シリコン太陽電池に樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。
【0120】
【表2】
【0121】
次に、EVAシートより面積が小さく、EVAシートサンプルで完全に覆うことができる、結晶シリコンマイクロソーラーを用いた場合について説明する。
図52は、結晶シリコンマイクロソーラーの全面を、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量である。EVA樹脂シートを1枚のPETフィルムで被覆した場合の発電量が、被覆なしに比べて高い値を示した。特に、2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときに相対発電量に比して100%を超えた。しかし、被覆無しの条件での値は100%以下であり、概して効果は認められないものと判断できた。
下記表3に、結晶シリコンマイクロソーラーに樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。
【0122】
【表3】
【0123】
次に、面積が172cm
2のアモルファスシリコン太陽電池を用いた場合について説明する。
図53は、アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂を主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量示したものである。2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときに、相対発電量が100%を超えた。これは、1枚のPETフィルムで被覆した場合より被覆無しで効果が増大していることから、紫外可視光変換の効果が出たと判断できた。
下記表4にアモルファスシリコン太陽電池に樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果の数値を示す。最も効果が高い条件は2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035のときであり、約1.3%の相対発電量プラスの効果が確認できた。
【0124】
【表4】
【0125】
図54に、EVA樹脂シートを主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量の3種太陽電池への効果の比較の結果を示す。これをみると、低濃度条件でアモルファスシリコン太陽電池への効果が大きく、高濃度条件での結晶シリコン太陽電池への影響が小さい。波長依存光電効果特性の違いが如実に現れたと考えられた。
【0126】
下記表5に、アモルファスシリコン太陽電池に、大気に暴露後に両面を樹脂被覆した樹脂シートを被覆した状態でのサンプル1−5の発電量測定結果を示す。これは、新鮮なEVAシートでない実験結果であり、劣化させた上での比較結果の数値である。
この結果を図化したものが
図55で、アモルファスシリコン太陽電池の一部を、EVA樹脂シート(大気中で暴露して劣化させた後、PETシート2枚で被覆)を主体とする樹脂シートで被覆した場合の含有物の濃度条件の違いによる相対発電量を示す。2.1%の相対発電量プラスの効果が確認できた。
【0127】
【表5】
【0128】
以上の3種の太陽電池を用いて行った試験データを検討するとき、EVAシートで覆われた部分と、覆われなかった部分があり、それらの総和として発電量を比較したことを考慮する必要がある。そこで、下記表6に示すように、セル面積と被覆シート面積の比によるa−Si−cell全体被覆の予想を計算した。結晶シリコン太陽電池と結晶シリコンマイクロソーラーは材質が基本的に同じであるので、実験データでその計算結果の妥当性が確かめられた。一方、アモルファスシリコン太陽電池には、同様なマイクロソーラーに相当する試験対象がここではなかったので、仮に全面が当該EVA樹脂シートで覆われた場合にどのような効果がでるかを計算値(calculated data)で示した。
【0129】
【表6】
【0130】
図56が、結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較をグラフ化したものであり、
図57が、結晶シリコン太陽電池とアモルファスシリコン太陽電池の紫外可視光変換材料含有樹脂シート被覆による(Power Ratio(watt/watt)×100)の値のサンプルによる比較のサンプル1−5の拡大図である。
この考察の妥当性は、結晶シリコン太陽電池と結晶シリコンマイクロソーラーの計算結果と実験結果から確かめられたので、アモルファスシリコン太陽電池の当該EVA紫外可視光変換材料含有樹脂シートの単純な被覆による発電量増大効果が、相対発電量で4.4%であることが明らかになった。これは、仮に自然光の10%を発電するアモルファスシリコン太陽電池に適応すると、10.44%の発電が可能になることに相当する。
【0131】
以上の試験結果をまとめると、添加物質の4C、Al−Ste濃度が増大し過ぎると発電量の低下がおきる傾向があることがわかる。その中で、発電量の増大が確認できたのは、アモルファスシリコンタイプの場合であり、3.EVA/4C/Al−Ste=100/0.325/0.175までの範囲でのわずかな添加物質の濃度の増大によって、発電量が増大した。2.EVA/4C/Al−Ste=100/0.065/0.035では最も大きな効果が出た。
【0132】
結晶Siタイプでは近赤外領域の光を必要とするのに対し、アモルファス太陽電池の場合、可視光線が発電に必要である。このことによってアモルファス太陽電池の場合、何も被覆しない場合に比べ、相対値で約4.4%増大することが見出された。
【0133】
以上の効果は、可視光線を光電変換するアモルファス太陽電池以外の非シリコン系太陽電池、例えばテルル、セレン、銅、硫黄、ガリウム、ゲルマニウムなどの元素から構成された化合物半導体による太陽電池、有機物と金属の錯体を増感剤として発電する色素増感太陽電池にも同様に起き得る効果である。
【0134】
<Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加した樹脂の作製>
次に、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加した樹脂の作製を実施し、透過スペクトルおよび発光スペクトルを比較した。
【0135】
図58は、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加したPET樹脂の透過スペクトルである。これらをみると、Al−Ste、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Ste、の順に波長330〜500nmにおける透過率が低い値になった。このことから、Al−Ste、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Ste、の順に光吸収が起きたと考えられた。すなわち、Al−Steを添加した場合に、紫外線遮蔽率が最も高くなることが分かった。
【0136】
図59は、Al、Mg、Zn、Caの各金属を含有する金属石鹸を添加したPET樹脂の波長380nmにおける励起による発光スペクトルである。これらをみると、Ca−Ste、Zn−Ste、Mg−Ste、Al−Ste、の順に波長390〜590nmにおける発光が高くなるという結果になった。特にAl−Steでは、他の3種金属には観られない波長425〜590nmにおける発光が加わっていた。このことから、Mg−Ste、Zn−Ste、Ca−Steに比べてAl−Steを添加した樹脂はより多くの可視光を発光することが明らかになった。