特許第6427897号(P6427897)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ジェイテクトの特許一覧

<>
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000002
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000003
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000004
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000005
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000006
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000007
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000008
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000009
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000010
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000011
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000012
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000013
  • 特許6427897-歯車加工装置 図000014
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427897
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
   B23F 5/16 20060101AFI20181119BHJP
   B23Q 11/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B23F5/16
   B23Q11/00 L
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2014-40081(P2014-40081)
(22)【出願日】2014年3月3日
(65)【公開番号】特開2015-164751(P2015-164751A)
(43)【公開日】2015年9月17日
【審査請求日】2017年2月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】大谷 尚
(72)【発明者】
【氏名】中野 浩之
【審査官】 宮部 菜苗
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−045687(JP,A)
【文献】 特開2004−276136(JP,A)
【文献】 特表2016−533913(JP,A)
【文献】 特開2001−138107(JP,A)
【文献】 特開2015−062967(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2009/0226268(US,A1)
【文献】 特開2011−088270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 1/00−23/12
B23Q 11/00
B23C 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記被加工物と同期回転させながら前記被加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を加工する歯車加工装置であって、
前記加工用工具は、前記被加工物の内歯を加工する工具であり、前記加工用工具の工具刃は、前記歯車の歯に対応する形状に形成され、
前記加工用工具の端面のうち中心側には、流体を前記工具刃に向かう方向へ吐出可能な吐出孔が設けられ、
吐出された前記流体は、前記工具刃による前記被加工物の加工位置から、前記加工用工具の前記被加工物に対する相対的な送り進行方向側に移動し、
前記歯車加工装置は、前記被加工物を位置決め保持して回転可能な筒状の被加工物保持具を備え、
前記被加工物保持具には、前記加工用工具の前記被加工物に対する相対的な送り進行方向側の前記被加工物の端面より進行方向奥側の位置において、前記筒状の内周面と外周面とを連通して前記流体を排出する排出穴が設けられている、歯車加工装置。
【請求項2】
前記排出穴は、前記被加工物保持具の周方向に所定間隔をあけて設けられた傾斜面により形成され、前記傾斜面の法線が、前記被加工物保持具の径方向内側を向く成分および反回転方向側を向く成分を有する、請求項の歯車加工装置。
【請求項3】
前記加工用工具の吐出孔は、前記流体を前記工具刃のすくい面と平行に吐出可能に設けられている、請求項1又は2の何れか一項の歯車加工装置。
【請求項4】
前記加工用工具の吐出孔は、前記工具刃の数よりも少数となるように設けられている、請求項1〜の何れか一項の歯車加工装置。
【請求項5】
前記加工用工具の吐出孔は、前記工具刃と所定距離離間して設けられている、請求項1〜の何れか一項の歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工用工具および被加工物を高速で同期回転させて切削加工により歯車を加工する歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
マシニングセンタ等の工作機械を用いて切削加工により内歯および外歯を加工する有効な手法としては、例えば、特許文献1に記載の加工方法がある。この加工方法は、回転軸線回りに回転可能な加工用工具、例えば複数枚の工具刃を有するカッターと、加工用工具の回転軸線に対して所定の角度で傾斜した回転軸線回りに回転可能な被加工物とを高速で同期回転させ、加工用工具を被加工物の回転軸線方向に送って切削加工することにより歯を創成する加工方法である。
【0003】
一般に、切削加工により発生した切屑は、加工用工具の内部から工具刃に向けて吐出されるクーラントの圧力により、工具刃から除去される(例えば特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−45687号公報
【特許文献2】特開2012−232406号公報
【特許文献3】米国特許出願公開第2009/0226268号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1に記載の加工方法では、工具刃を工具端面に形成した加工用工具が使用される。よって、特に内歯加工の場合、切削加工により発生した切屑が、被加工物等の内部に堆積し易く、切削加工中に加工用工具の工具刃と被加工物との間に入り込むと、噛み込みによりびびり振動が発生して加工精度の悪化を引き起こすおそれがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、工具刃を工具端面に形成した加工用工具を用いて切削加工により歯車を加工したときに発生する切屑を工具刃から除去できる歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(請求項1)本発明の歯車加工装置は、被加工物の回転軸線に対し傾斜した回転軸線を有する加工用工具を用い、前記加工用工具を前記被加工物と同期回転させながら前記被加工物の回転軸線方向に相対的に送り操作して歯車を加工する歯車加工装置であって、前記加工用工具は、前記被加工物の内歯を加工する工具であり、前記加工用工具の工具刃は、前記歯車の歯に対応する形状に形成され、前記加工用工具の端面のうち中心側には、流体を前記工具刃に向かう方向へ吐出可能な吐出孔が設けられ、吐出された前記流体は、前記工具刃による前記被加工物の加工位置から、前記加工用工具の前記被加工物に対する相対的な送り進行方向側に移動し、前記歯車加工装置は、前記被加工物を位置決め保持して回転可能な筒状の被加工物保持具を備え、前記被加工物保持具には、前記加工用工具の前記被加工物に対する相対的な送り進行方向側の前記被加工物の端面より進行方向奥側の位置において、前記筒状の内周面と外周面とを連通して前記流体を排出する排出穴が設けられている。
【0008】
これにより、加工用工具の工具刃において切削加工により発生した切屑は、吐出孔から吐出される流体の圧力により工具刃から加工用工具の被加工物に対する相対的な送り進行方向側に噴き飛ばされ除去される。よって、切削加工により発生した切屑は、切削加工中に工具刃と被加工物との間に入り込み難くなるので、噛み込みによるびびり振動の発生を抑制して加工精度を高めることができる。そして、加工用工具の被加工物に対する相対的な送り進行方向側に噴き飛ばされる切屑は、流体とともに被加工物保持具の排出穴を通って被加工物保持具の外部へ排出される。よって、切削加工により発生した切屑は、被加工物や被加工物保持具の内部に堆積することはなく、切削加工中に工具刃と被加工物との間に入り込むこともないので、噛み込みによるびびり振動の発生を防止して加工精度を高めることができる。
【0011】
(請求項)前記排出穴は、前記被加工物保持具の周方向に所定間隔をあけて設けられた傾斜面により形成され、前記傾斜面の法線が、前記被加工物保持具の径方向内側を向く成分および反回転方向側を向く成分を有するとよい。
これにより、被加工物保持具が回転すると、被加工物保持具内の空気は、被加工物保持具内の中央から傾斜面に当たり、排出穴を通って被加工物保持具の外部に渦巻き状に流れ出るため、被加工物保持具の内部に溜められた切屑は、流体とともに渦巻き状の気流に押されて排出穴から被加工物保持具の外部へ排出される。
【0012】
(請求項)前記加工用工具の前記吐出孔は、前記流体を前記工具刃のすくい面と平行に吐出可能に設けられているとよい。
これにより、各吐出孔から吐出される流体は、すくい面との衝突による運動エネルギの損失を最小限に抑えられるので、工具刃において切削加工により発生した切屑を効率良く噴き飛ばすことができる。
【0013】
(請求項)前記加工用工具の吐出孔は、前記工具刃の数よりも少数となるように設けられているとよい。
これにより、各吐出孔から吐出される流体は、吐出孔を工具刃と同数もしくは多数となるように設けた場合と比較して高圧で吐出されるので、工具刃において切削加工により発生した切屑を加工用工具の被加工物に対する相対的な送り進行方向側に確実に噴き飛ばして除去することができる。
【0014】
(請求項)前記加工用工具の吐出孔は、前記工具刃と所定距離離間して設けられているとよい。
これにより、各吐出孔から吐出される流体は、工具刃に至る間に拡散されて全ての工具刃に噴き付けられるので、切削加工により発生した切屑を全ての工具刃において確実に除去することができる。

【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る歯車加工装置の全体構成を示す斜視図である。
図2図1の歯車加工装置の概略構成および制御装置を示す図である。
図3】加工用工具の概略構成を径方向に見た断面図である。
図4図3の加工用工具の概略構成を工具刃側から軸線方向に見た図である。
図5】被加工物保持具の概略構成を径方向に見た断面図である。
図6】被加工物保持具の第一保持具の概略構成を径方向に見た図である。
図7図6の第一保持具の概略構成を軸線方向に見た図である。
図8】被加工物保持具の第二保持具の概略構成を径方向に見た図である。
図9図8の第二保持具の概略構成を軸線方向に見た図である。
図10】被加工物保持具の第三保持具の概略構成を径方向に見た図である。
図11図10の第三保持具の概略構成を軸線方向に見た図である。
図12】従来の切削加工中に被加工物に掛かる負荷の時間変化を示す図である。
図13】本実施形態の切削加工中に被加工物に掛かる負荷の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
(歯車加工装置の機械構成)
本実施形態では、歯車加工装置1の一例として、5軸マシニングセンタを例に挙げ、図1および図2を参照して説明する。つまり、当該歯車加工装置1は、駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)および2つの回転軸(A軸、C軸)を有する装置である。
【0017】
図1および図2に示すように、歯車加工装置1は、ベッド10と、コラム20と、サドル30と、回転主軸40と、テーブル50と、チルトテーブル60と、ターンテーブル70と、被加工物保持具80と、制御装置100等とから構成される。なお、図示省略するが、ベッド10と並んで既知の自動工具交換装置が設けられている。
【0018】
ベッド10は、ほぼ矩形状からなり、床上に配置される。ただし、ベッド10の形状は矩形状に限定されるものではない。このベッド10の上面には、コラム20が摺動可能な一対のX軸ガイドレール11a,11bが、X軸線方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のX軸ガイドレール11a,11bの間に、コラム20をX軸線方向に駆動するための、図略のX軸ボールねじが配置され、このX軸ボールねじを回転駆動するX軸モータ11cが配置されている。
【0019】
コラム20の底面には、一対のX軸ガイド溝21a,21bがX軸線方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。コラム20は、ベッド10に対してX軸線方向に移動可能なように、一対のX軸ガイド溝21a,21bが一対のX軸ガイドレール11a,11b上にボールガイド22a,22bを介して嵌め込まれ、コラム20の底面がベッド10の上面に密接されている。
【0020】
さらに、コラム20のX軸に平行な側面(摺動面)20aには、サドル30が摺動可能な一対のY軸ガイドレール23a,23bがY軸線方向(鉛直方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、コラム20には、一対のY軸ガイドレール23a,23bの間に、サドル30をY軸線方向に駆動するための、図略のY軸ボールねじが配置され、このY軸ボールねじを回転駆動するY軸モータ23cが配置されている。
【0021】
コラム20の摺動面20aに対向するサドル30の側面30aには、一対のY軸ガイド溝31a,31bがY軸線方向に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。サドル30は、コラム20に対してY軸線方向に移動可能なように、一対のY軸ガイド溝31a,31bが一対のY軸ガイドレール23a,23bに嵌め込まれ、サドル30の側面30aがコラム20の摺動面20aに密接されている。
【0022】
回転主軸40は、サドル30内に収容された主軸モータ41により回転可能に設けられ、加工用工具42を支持している。加工用工具42は、工具ホルダ43に保持されて回転主軸40の先端に固定され、回転主軸40の回転に伴って回転する。また、加工用工具42は、コラム20およびサドル30の移動に伴ってベッド10に対してX軸線方向およびY軸線方向に移動する。なお、加工用工具42の詳細は後述する。
【0023】
さらに、ベッド10の上面には、テーブル50が摺動可能な一対のZ軸ガイドレール12a,12bがX軸線方向と直交するZ軸線方向(水平方向)に延びるように、且つ、相互に平行に形成されている。さらに、ベッド10には、一対のZ軸ガイドレール12a,12bの間に、テーブル50をZ軸線方向に駆動するための、図略のZ軸ボールねじが配置され、このZ軸ボールねじを回転駆動するZ軸モータ12cが配置されている。
【0024】
テーブル50は、ベッド10に対してZ軸線方向に移動可能なように、一対のZ軸ガイドレール12a,12b上に設けられている。テーブル50の上面には、チルトテーブル60を支持するチルトテーブル支持部63が設けられている。そして、チルトテーブル支持部63には、チルトテーブル60が水平方向のA軸回りで回転(揺動)可能に設けられている。チルトテーブル60は、テーブル50内に収容されたA軸モータ61により回転(揺動)される。
【0025】
チルトテーブル60には、ターンテーブル70がA軸に直角なC軸回りで回転可能に設けられている。ターンテーブル70には、被加工物Wを保持する被加工物保持具80が装着されている。ターンテーブル70は、被加工物Wおよび被加工物保持具80とともにC軸モータ62により回転される。なお、被加工物保持具80の詳細は後述する。
【0026】
制御装置100は、主軸モータ41を制御して、加工用工具42を回転させ、X軸モータ11c、Z軸モータ12c、Y軸モータ23c、A軸モータ61およびC軸モータ62を制御して、被加工物Wと加工用工具42とをX軸線方向、Z軸線方向、Y軸線方向、A軸回りおよびC軸回りに相対移動することにより、被加工物Wの切削加工を行う。
【0027】
(加工用工具)
上述の歯車加工装置1では、加工用工具42と被加工物Wとを高速で同期回転させ、加工用工具42を被加工物Wの回転軸線方向に送って切削加工することにより歯を創成する。加工用工具42の工具刃42aは、加工される歯車と噛み合う歯の形状と同一形状に形成されている。この切削加工においては、工具刃42aを工具端面に形成した加工用工具42が使用されるが、切削加工により発生した切屑が、被加工物W等の内部に堆積し易く、切削加工中に工具刃42aと被加工物Wとの間に入り込むと、図12のA部に示すように噛み込みによりびびり振動が発生して加工精度の悪化を引き起こすおそれがある。
【0028】
そこで、図3および図4に示すように、加工用工具42の端面のうち中心側には、クーラント(本発明の「流体」に相当)を工具刃42aに向かう方向Uへ吐出する吐出孔94が設けられている。これにより、図5に示すように、吐出孔94から吐出されたクーラントは、工具刃42aによる被加工物Wの加工位置から、加工用工具42の被加工物Wに対する相対的な送り進行方向V側に移動する。よって、加工用工具42の工具刃42aにおいて切削加工により発生した切屑は、吐出孔94から吐出されるクーラントの圧力により工具刃42aから加工用工具42の被加工物Wに対する相対的な送り進行方向V側に噴き飛ばされ除去され、最終的には図5の矢印S,Tに示すように、被加工物保持具80の第一保持具81の排出穴87から第三保持具83の排出穴88を通って被加工物保持具80の外部へ排出される。よって、切削加工により発生した切屑は、被加工物Wや被加工物保持具80の内部に堆積することはなく、切削加工中に工具刃42aと被加工物Wとの間に入り込むこともないので、図13のA部に示すように噛み込みによるびびり振動の発生を防止して加工精度を高めることができる。
【0029】
詳しくは、加工用工具42には、回転軸線方向に貫通するボルト穴42bが穿設されており、加工用工具42は、ボルト穴42bを通るボルト90のオネジ部91を工具ホルダ43の先端に設けられたメネジ部44に螺合することにより締結固定されている。
工具ホルダ43には、メネジ部44から工具ホルダ43の後端まで加工用工具42の軸線方向に伸びる穴45が穿設されている。また、ボルト90には、オネジ部91の先端から頭部92の途中まで加工用工具42の軸線方向に伸びる穴93が穿設され、さらに頭部92側の穴93の先端から頭部92の外周まで加工用工具42の径方向に等角度間隔で放射状に伸びる8つの吐出孔94が穿設されている。
【0030】
これにより、吐出孔94と穴93と穴45とは、連通することになるので、穴45をクーラントの供給路と連通することにより、図3および図4の矢印Uに示すように、クーラントを各吐出孔94から工具刃42aの方向へ吐出させて工具刃42aに当てることができる。よって、加工用工具42の工具刃42aにおいて切削加工により発生した切屑は、工具刃42aからクーラントの圧力により加工用工具42の被加工物Wに対する相対的な送り進行方向V側に噴き飛ばされ除去される。このときのクーラントの圧力は2MPa以上が望ましい。
【0031】
また、各吐出孔94は、加工用工具42のすくい面42cと平行になるように設けられているので、クーラントを各吐出孔94から工具刃42aの方向へすくい面42cと略平行に吐出させることができる。よって、各吐出孔94から吐出されるクーラントは、すくい面42cとの衝突による運動エネルギの損失を最小限に抑えられるので、工具刃42aにおいて切削加工により発生した切屑を効率良く噴き飛ばすことができる。ただし、各吐出孔94が、すくい面42cに対し軸線方向前方に離れ過ぎているとクーラントを工具刃42aに噴きつけできないおそれがあるため、各吐出孔は、すくい面42cに対し軸線方向前方5mm以内に設けることが望ましい。
【0032】
また、吐出孔94は、加工用工具42の工具刃42aよりも少数となるように設けられているので、工具刃42aと同数もしくは多数となるように設けた場合と比較してクーラントを高圧で吐出させることができる。よって、加工用工具42の工具刃42aにおいて切削加工により発生した切屑は、加工用工具42の被加工物Wに対する相対的な送り進行方向V側に確実に噴き飛ばされて除去される。
【0033】
また、各吐出孔94は、加工用工具42の工具刃42aと所定距離離間するように設けられているので、各吐出孔94から吐出されるクーラントを工具刃42aに至る間に拡散させて全ての工具刃42aに噴き付けることができる。よって、切削加工により発生した切屑は、全ての工具刃42aにおいて確実に除去される。
【0034】
被加工物保持具80は、内歯が切削加工される中空円筒状の被加工物Wを保持する治具である。図5に示すように、被加工物保持具80は、第一保持具81と、第一保持具81に対し軸線方向に被加工物Wを挟むように配置される第二保持具82と、第一保持具81に対し径方向の外側に配置される第三保持具83とで構成される。
【0035】
第一保持具81は、切削加工により被加工物Wを加工したときに発生する切屑を第一保持具81の内部に溜め、第一保持具81の内部から第三保持具83側へ排出するための治具である。第三保持具83は、第一保持具81の内部から排出される切屑を第三保持具83の外部へ排出するための治具である。また、第一保持具81および第二保持具82は、被加工物Wをターンテーブル70に対し軸線方向に位置決めして保持するための治具でもある。第三保持具83は、被加工物Wをターンテーブル70に対し径方向に位置決め(芯出し)して保持するための治具でもある。
【0036】
図5図6および図7に示すように、第一保持具81は、被加工物Wの外径より若干大径の円筒状の台座84と、被加工物Wの外径より若干小径で台座84と同軸に配置されるリング状の天板85と、台座84の右端面84rと天板85の左端面85lとの間に挟持固定された8個の傾斜面86aを有する三角柱状のファン86とで構成される。
【0037】
台座84は、ターンテーブル70に対し同軸で左端面84lをターンテーブル70のテーブル面70aに密着させ、ターンテーブル70にボルト等により締結固定される。図5に示すように、8個のファン86は、各傾斜面86aの法線Xが第一保持具81の径方向内側を向く成分Xdおよび反回転方向Q側を向く成分Xqを有するように、台座84の右端面84rおよび天板85の左端面85lの各外周縁に沿って等角度(45度)の間隙をあけて配置固定されている。ファン86とファン86との間の8つの間隙は、切削加工により被加工物Wを加工したときに発生する切屑やクーラントを排出する排出穴87として機能する。天板85の右端面85rには、被加工物Wの左端面Wlが密接される。
【0038】
これにより、図6図7の矢印Sに示すように、第一保持具81がR方向に回転すると、台座84と天板85との間の空気は、第一保持具81の中央から各ファン86の傾斜面86aに当たり、各排出穴87を通って第一保持具81の外部に渦巻き状に流れ出るため、台座84と天板85との間に溜められた切屑は、クーラントとともに渦巻き状の気流に押されて各排出穴87から第三保持具83側へ排出される。
【0039】
図5図8および図9に示すように、第二保持具82は、被加工物Wの外径より大径のリング状に形成され、一端面側に被加工物Wの外径より若干大径のリング状の凹部82aが形成されている。第二保持具82は、凹部82aの底面82bに被加工物Wの右端面Wrを密接させた状態で第三保持具83の右端面83rにボルト等により締結固定される。
これにより、被加工物Wは、第一保持具81の天板85の右端面85rと第二保持具82の凹部82aの底面82bとの間に挟持固定されるので、ターンテーブル70に対する軸線方向位置が位置決めされる。
【0040】
図5図10および図11に示すように、第三保持具83は、第一保持具81の外径より若干大径の中空円筒状に形成されている。第三保持具83は、ターンテーブル70に対し同軸で左端面83lをターンテーブル70のテーブル面70aに密着させ、ターンテーブル70にボルト等により締結固定される。第三保持具83の周壁には、第一保持具81の排出穴87に対応する位置に8個の排出穴88が穿設されている。
これにより、図10図11の矢印Tに示すように、第三保持具83が第一保持具81とともに回転すると、第一保持具81の排出穴87から排出される切屑は、第三保持具83の排出穴88を通って第三保持具83の外部へ排出される。
【0041】
また、第三保持具83の周壁には、第一保持具81の天板85の右端面85rと第二保持具82の凹部82aの底面82bとの間に挟持固定される被加工物Wに対応する位置に4個のメネジ穴83aが穿孔されている。各メネジ穴83aには、ボルト89がそれぞれ螺合される。
これにより、被加工物Wは、ボルト89に押されて径方向に移動可能となるので、ターンテーブル70に対する径方向位置が位置決め(芯出し)される。
【0042】
(その他)
上述した実施形態では、被加工物保持具80は、ターンテーブル70にボルト等により締結固定する構成としたが、チャックにより把持する構成としてもよく、その場合は第一保持具81の排出穴87や第三保持具83の排出穴88を避けた位置を把持するようにする。また、第一保持具81の間隙87や第三保持具83の排出穴88の数は、8個に限定されるものではなく、任意の数としてよい。また、第一保持具81のファン86は、三角柱状の形状に限定されるものではなく、第一保持具81の回転方向Rに対し鋭角θで傾斜する傾斜面86aが設けられた形状であればよく、例えば板状の形状であってもよい。
【0043】
また、加工用工具42の吐出孔94は、ボルト90の頭部92側の穴93の先端から頭部92の外周まで加工用工具42の径方向に放射状に伸びるように形成し、クーラントをすくい面42cに平行に吐出する構成としたが、吐出孔94を形成せずにオネジ部91の先端から頭部92の先端まで加工用工具42の軸線方向に伸びる穴のみを形成し、加工用工具42の回転による遠心力により、クーラントをすくい面42cに沿わせて吐出する構成としてもよい。また、吐出孔94の数は、加工用工具42の工具刃42aよりも少数であれば8つに限定されるものではない。
【0044】
また、内歯歯車の加工について説明したが、外歯歯車の加工に対しても同様に適用可能である。また、5軸マシニングセンタである歯車加工装置1は、被加工物WをA軸旋回可能とするものとした。これに対して、5軸マシニングセンタは、縦形マシニングセンタとして、加工用工具42をA軸旋回可能とする構成としてもよい。また、本発明をマシニングセンタに適用する場合を説明したが、歯車加工の専用機に対しても同様に適用可能である。
【符号の説明】
【0045】
1:歯車加工装置、 42:加工用工具、 42a:工具刃、 80:被加工物保持具、 81:第一保持具、 82:第二保持具、 83:第三保持具、 86:ファン、 86a:傾斜面、 87,88:排出穴、 94:吐出孔、 W:被加工物
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13