(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のステンレス鋼加工部材の製造方法について、詳細に説明する。
【0012】
本発明のステンレス鋼加工部材の製造方法は、少なくともステンレス鋼を備えたステンレス鋼加工部材の製造方法であって、ステンレス部材を加工し、上記ステンレス鋼加工部材の上記ステンレス鋼を形成する加工工程を有し、上記ステンレス部材が、圧延プロセスにおいて900℃未満での熱処理が施されていない部材であることを特徴とするものである。
【0013】
まず、本発明により得られるステンレス鋼加工部材について、
図1〜
図3を用いて説明する。
図1は、本発明により得られるステンレス鋼加工部材を用いた製品の一例を示す分解斜視図であり、具体的には、カメラモジュールの駆動機能を示す分解斜視図である。
図2は、
図1におけるカメラモジュールを示す概略断面図である。
図1および
図2に示すように、カメラモジュールの駆動機構1は、カバー2とベース13とからなる筐体2Aと、光学系を構成する複数のレンズ26からなるレンズユニット26Aと、筐体2A内に配置されレンズユニット26Aを収納してレンズユニット26Aの光軸方向へ移動可能なホルダ9と、ホルダ9の外周に設けられたコイル8と、筐体2Aのベース13に設けられコイル8に磁界を提供するヨーク6及びマグネット片7とを備えている。
【0014】
また上部板バネ5が、筐体2Aのカバー2と、ヨーク6の上部との間に介在され、下部板バネ11が、筐体2Aのベース13とヨーク6の下部との間に介在されている。この場合、上部板バネ5とカバー2との間に、上部板バネ5の厚み調整用の調整板4が設けられている。そして下部板バネ11を介してコイル8に電流を流すことによりホルダ9に上方への力が作用し、レンズユニット26Aを上部板バネ5および下部板バネ11の力に抗して全体として上方へ持上げることができる。
【0015】
また、入力する電流量を調整することにより、ホルダ9を上方へ移動させる力を変化させ、上部板バネ5および下部板バネ11の力とのバランスをとることで、ホルダ9の上下移動及びその位置調整を行うことができる。なお、筐体2Aは、中間支持体21介して基体20上方に固定され、中間支持体21には赤外線カットガラス22を保持するガラス板24が支持され、基体20上には撮像素子25が配置されている。このように筐体2Aを有するカメラモジュールの駆動機構1と、赤外線カットガラス22とガラス板24とを支持する中間支持体21と、撮像素子25が配置された基体20とによりカメラモジュール1Aが構成されている。
【0016】
図3は、本発明のステンレス鋼加工部材を例示する概略平面図である。具体的には、
図3(a)は、
図1および
図2における上部板バネ5の概略平面図であり、
図3(b)は、
図1および
図2における下部板バネ11の概略平面図である。
図3(a)に示すように、上部板バネ5は、筐体2A側の外枠部5aと、ホルダ9側の内枠部5bと、外枠部5aと内枠部5bとの間に設けられたバネ性をもつスプリング部5cとを有している。なお、
図3(a)において、5Aおよび5Bは位置決め孔を示し、30は接着領域を示している。また、
図3(b)に示すように、下部板バネ11は、筐体2A側の外枠部11aと、ホルダ9側の内枠部11bと、外枠部11aと内枠部11bとの間に設けられたバネ性をもつスプリング部11cとを有している。なお、
図3(b)において、11d、11eは接続端子を示し、11Aおよび11Bは位置決め孔を示し、30は接着領域を示している。
【0017】
次に、本発明のステンレス鋼加工部材の製造方法について、
図4を用いて説明する。
図4は、本発明のステンレス鋼加工部材の製造方法の一例を示す概略断面図である。
図4においては、まず、ステンレス部材101Aに、外形加工を目的としたレジストパターン105を形成する(
図4(a))。次に、レジストパターン105で保護されていないステンレス部材101Aを、ウェットエッチングにより除去し、所望の形状を有するステンレス鋼101を形成する(
図4(b))。その後、レジストパターン105を剥離し、ステンレス鋼加工部材が得られる(
図4(c))。
【0018】
本発明によれば、所定の熱処理条件で作製されたステンレス部材を用いることで、パーティクルの発生を防止したステンレス鋼加工部材を得ることができる。ここで、
図5(a)に示すように、ステンレス鋼101には、nmオーダーの略球形の微粒子102が内包されている。この微粒子102の素性については正確には特定されていないが、後述するように、クロムを主成分とする炭化物であると推測される。この微粒子が発生する理由は、必ずしも明らかではないが、ステンレス鋼を加熱処理することにより、ステンレス鋼に含まれるCrおよびCが反応し、クロムを主成分とする炭化物が生成した可能性が考えられる。
【0019】
微粒子102は、ステンレス鋼101の側面部αにおいて露出するように存在している。側面部αで露出する微粒子102に対して、例えば超音波洗浄を行うことにより、
図5(b)に示すように、その数をある程度低減することができる。そのため、微粒子のリスクは実用上問題とならない可能性が高い。一方、技術は急速に進歩するため、想定されるリスクを極力除去することが望まれる。本発明においては、所定の熱処理条件で作製されたステンレス部材を用いることで、
図5(c)に示すように、ステンレス鋼101に内包される微粒子102の絶対数を少なくできる。その結果、パーティクルの発生を防止したステンレス鋼加工部材とすることができる。
以下、本発明のステンレス鋼加工部材の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0020】
1.加工工程
本発明における加工工程は、ステンレス部材を加工し、上記ステンレス鋼加工部材の上記ステンレス鋼を形成する工程である。これにより、ステンレス鋼の側面部が形成される。
【0021】
本発明におけるステンレス部材は、圧延プロセスにおいて900℃未満での熱処理が施されていない部材である。ここで、ステンレス部材の製造プロセスでは、ステンレス部材の厚さを調整したり、所望の特性をステンレス部材に付与したりすることを目的として、圧延プロセスが行われる。圧延プロセスでは、通常、常温での圧延と、焼鈍による残留応力の除去とを繰り返す。本発明においては、後述する実施例に記載するように、この圧延プロセスにおける熱処理の温度が、微粒子の形成に大きな影響を与えることを見出した。具体的には、圧延プロセスにおいて900℃未満での熱処理が施されると、ステンレス鋼に含まれるCrおよびCが反応し、クロムを主成分とする炭化物が生成すると考えられるため、そのような熱処理が施されていない部材(900℃以上での熱処理が施された部材)を用いることで、ステンレス鋼に内包される微粒子の絶対数を少なくできる。また、本発明におけるステンレス部材は、950℃未満での熱処理が施されていない部材であることがより好ましい。さらに好ましくは、本発明におけるステンレス部材は、1100℃以下での熱処理が施された部材であることが好ましい。
【0022】
本発明におけるステンレス部材は、例えば、Fe、CrおよびNiを主成分とする金属である。ステンレス部材としては、例えば、オーステナイト系ステンレス部材、フェライト系ステンレス部材、マルテンサイト系ステンレス部材等を挙げることができる。また、本発明におけるステンレス部材としては、例えば、SUS304、SUS301、SUS316、SUS430等を挙げることができる。
【0023】
本発明におけるステンレス部材は、内包される微粒子の数が少ないことが好ましい。また、例えば塩化鉄系エッチング液を用いて、ステンレス部材にエッチング処理を行うと、微粒子が露出し、ステンレス部材が内包する微粒子の量を測定することができる。エッチング処理の条件は、ステンレス部材が内包する微粒子の量を測定できる条件であれば特に限定されるものではないが、例えば、70℃、45ボーメまたは40℃、40ボーメの塩化鉄(III)溶液で2分間程度エッチングする条件を挙げることができる。なお、エッチング処理の条件により、例えば微粒子がステンレス部材の奥に隠れてしまう等、微粒子の露出状況が多少変化することから、滑らかな表面が形成されるように、比較的穏やかな条件、例えば低温かつ低ボーメでエッチング処理を行うことが好ましい。
【0024】
このようなエッチング処理により、ステンレス部材には側面部が形成される。ステンレス部材の側面部における6μm×5μmの矩形領域に存在する、粒径が200nm以下である微粒子の平均数は、例えば15個未満であり、10個以下であることが好ましく、3個以下であることがより好ましく、2個以下であることがさらに好ましい。パーティクルの発生をさらに防止できるからである。微粒子の平均数は、ステンレス部材の側面部における矩形領域(任意に5カ所以上選択)を走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、各矩形領域に存在する微粒子の数を目視で確認し、その平均を取ることで求めることができる。なお、例えば倍率2×10
4倍の走査型電子顕微鏡観察を行うと、通常30nm以上の微粒子について目視で確認することができる。
【0025】
本発明におけるステンレス部材の厚さは、特に限定されるものではないが、例えば200μm以下であり、100μm以下であることが好ましく、50μm以下であることがより好ましい。また、例えばステンレス部材に開口部を形成する場合、そのサイズは、例えば1.0mm以下であり、0.5mm以下であることが好ましく、0.1mm以下であることがより好ましく、0.05mm以下であることがさらに好ましい。開口部の平面視形状は特に限定されるものではないが、円形状、楕円形状、多角形状等を挙げることができる。なお、開口部のサイズとは、開口部の最長部分の長さをいう。また、例えばステンレス部材に溝部(例えばハーフエッチングされた部位)を形成する場合、その溝幅は、例えば100μm以下であり、50μm以下であることが好ましく、20μm以下であることがより好ましく、10μm以下であることがさらに好ましい。溝部の深さは、ステンレス部材の厚さに対して、例えば90%以下であり、70%以下であることが好ましく、50%以下であることがより好ましい。
【0026】
ステンレス部材の加工方法は、特に限定されるものではないが、エッチングおよびプレス加工を挙げることができ、中でもエッチングが好ましく、特にウェットエッチングが好ましい。ステンレス部材の典型的なエッチング液である塩化鉄系エッチング液は、通常、微粒子をエッチングしにくいため、微粒子が浮き上がるように残留し、微粒子の判別が容易になる。また、本発明においては、ステンレス部材の表面に所望のレジストパターンを形成し、そのレジストパターンで保護されていない部分を、エッチング液で除去することが好ましい。
【0027】
2.ステンレス鋼加工部材
本発明により得られるステンレス鋼加工部材は、少なくともステンレス鋼を備えるものである。ステンレス鋼加工部材の用途は、特に限定されるものではないが、例えば、バネ部材を挙げることができる。例えば、バネ部材は組立て後も可動と伴う部位をもつため、その影響を受け、微粒子が脱落しパーティクルとなる可能性がある。バネ部材の一例としては、カメラモジュール用バネ部材を挙げることができ、具体的には、
図3に示した板バネを挙げることができる。カメラモジュール用バネ部材は、特にオートフォーカス機能を有するカメラモジュールに用いられることが好ましい。バネ部材の他の例としては、ハードディスクドライブにおけるサスペンション用バネ部材を挙げることができ、具体的には、フレキシャ、ロードビーム、ヒンジ、ベースプレート等を挙げることができる。
【0028】
また、ステンレス鋼加工部材の用途の他の例としては、流路形成用部材を挙げることができる。例えば、流路形成用部材では、液体および気体が流れるときの流圧の影響を受け、微粒子が脱落しパーティクルとなる可能性がある。
図6は、流路形成用部材を例示する模式図である。具体的には、
図6(a)は、流路形成用部材の一例を示す概略断面図であり、
図6(b)は、流路形成用部材の他の例を示す概略平面図である。流路形成用部材の一例としては、
図6(a)に示すように、所定の形状に加工されたステンレス鋼201を複数積層させて、所定の流路202を形成した部材を挙げることができる。このような流路形成用部材は、例えば、インク吐出装置に用いることができる。インク吐出装置としては、例えば、インクジェットプリンタ用の吐出装置を挙げることができる。流路形成用部材の他の例としては、
図6(b)に示すように、ステンレス鋼201の平面上に所定の流路202を形成した部材を挙げることができる。本発明における流路形成用部材の流路は、流路として機能すれば、ステンレス鋼201を貫通していても良く、貫通していなくても良い(ハーフエッチングされていても良い)。また、流路には、液体を流しても良く、気体を流しても良い。なお、微粒子は、それ自体がパーティクルとなることで、あるいは、液体及び気体と反応し凝集物として大きくなることで、例えば目詰まりの原因となり得る。
【0029】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と、実質的に同一の構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなる場合であっても本発明の技術的範囲に包含される。
【実施例】
【0030】
以下、実施例、比較例および参考例を用いて、本発明をさらに具体的に説明する。
【0031】
[参考例]
後述する実施例および比較例に用いるステンレス鋼として、SUS304(厚さ30μm)を用意した。このステンレス鋼を、40℃、40ボーメの塩化鉄(III)溶液を用い、2分間エッチングした。エッチング処理後のステンレス鋼の側面部を、倍率2×10
4倍の走査型電子顕微鏡で観察した。
図7に示すように、ステンレス鋼の表面には、nmオーダーの略球形の微粒子が露出していることが確認された。なお、微粒子の最大サイズは180nm程度であった。また、6μm×5μmの矩形領域に存在する微粒子の平均数(n=5)は、21.3個であった。
【0032】
また、エッチング後のステンレス鋼の側面部で露出する微粒子に対して、TEM−EDX分析を行った。その結果を
図8および表1に示す。なお、Area 3とは、微粒子内の領域であり、Area 4とは、微粒子外の周囲の領域であり、両者とも20nm×20nmの矩形領域でスペクトルの積算を行った。
【0033】
【表1】
【0034】
図8および表1に示すように、微粒子は、リファレンスに比べて、CrおよびCの割合が高く、Feの割合が低いことが確認された。また、微粒子は、主としてCrを含有し、さらにCも含有することから、クロムを主成分とする炭化物であると推測される。
【0035】
[実施例および比較例]
実施例として、圧延プロセスにおける焼鈍温度と微粒子の平均数との関係を検討した。ステンレス鋼として、焼鈍温度を850℃、900℃、950℃、1000℃、1050℃、1100℃とした圧延プロセスを経て得られたSUS304(厚さ30μm)を用意した。このステンレス鋼を、70℃、45ボーメの塩化鉄(III)溶液を用い、2分間エッチングした。エッチング処理後のステンレス鋼の側面部を、倍率2×10
4倍の走査型電子顕微鏡で観察した。その表面には、nmオーダーの略球形の微粒子が露出していることが確認された。また、6μm×5μmの矩形領域に存在する微粒子の平均数(n=5)を求めた。その結果を
図9および表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
図9および表2に示されるように、圧延プロセスにおける焼鈍温度が900℃以上である場合、微粒子の平均数が十分に低くなり、焼鈍温度が950℃以上である場合、微粒子の平均数が顕著に低くなることが確認された。