特許第6427963号(P6427963)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427963
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】真空ポンプ
(51)【国際特許分類】
   F04D 19/04 20060101AFI20181119BHJP
【FI】
   F04D19/04 D
【請求項の数】9
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-114996(P2014-114996)
(22)【出願日】2014年6月3日
(65)【公開番号】特開2015-229935(P2015-229935A)
(43)【公開日】2015年12月21日
【審査請求日】2017年3月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100084412
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 冬紀
(74)【代理人】
【識別番号】100202854
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 卓行
(72)【発明者】
【氏名】坪川 徹也
【審査官】 谿花 正由輝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−031678(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/007975(WO,A1)
【文献】 特開2013−217226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のロータと、
前記ロータと協働して気体を排気する円筒状のステータと、
前記ステータが固定される筒状のベースと、
前記ステータに固定され、前記ステータを加熱する加熱部と、を備え、
前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、
前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記加熱部によって加熱された前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造である、真空ポンプ。
【請求項2】
円筒状のロータと、
前記ロータと協働して気体を排気する円筒状のステータと、
前記ステータが固定される筒状のベースと、を備え、
前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、
前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造であり、
前記ステータおよび前記ベースには、位置決めピンが挿入されるステータ側ピン穴およびベース側ピン穴が設けられているが、前記ピン穴から前記位置決めピンが除去された状態で前記ステータが前記ベースに設けられ、前記位置決めピンを介した前記ステータから前記ベースへの熱の移動が防止される、真空ポンプ。
【請求項3】
請求項2に記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータに固定され、前記ステータを加熱する加熱部をさらに備え、
前記ステータが前記同芯状態で前記ベースに固定されることによって形成されている隙間により、前記加熱部によって加熱された前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制するように構成されている、真空ポンプ。
【請求項4】
円筒状のロータと、
前記ロータと協働して気体を排気する円筒状のステータと、
前記ステータが固定される筒状のベースと、を備え、
前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、
前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に第1の隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造であり、
前記ステータおよび前記ベースの各々は、
前記同芯状態においては径方向隙間である第2の隙間が形成され、かつ、前記ステータの径方向位置ずれ時には互いに接触して前記ステータと前記ロータとの接触を阻止する当接部を有し、
前記同芯状態における前記径方向隙間である前記第2の隙間は、前記同芯状態における前記ステータと前記ロータとの間の前記第1の隙間よりも小さく、かつ、前記ステータの熱膨張による径方向寸法変化よりも大きく設定されている、真空ポンプ。
【請求項5】
請求項4に記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータが、前記ステータと前記ベースとの間に設けられた円筒状の断熱部材を介して前記ベースに固定されており、
前記ステータの外周面と前記断熱部材の内周面との間の隙間である第3の隙間は、前記径方向隙間である前記第2の隙間よりも大きく設定されている、真空ポンプ。
【請求項6】
請求項1から請求項4までのいずれか一つに記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータのフランジ部と前記ベースとによって軸方向に挟持され、前記フランジ部の底面と前記ベースの上面との間に隙間が形成されるように前記ステータを軸方向に支持する円筒状の断熱部材を備える、真空ポンプ。
【請求項7】
請求項6に記載の真空ポンプにおいて、
前記ベースを加熱するベース加熱部をさらに備え、
前記ベース加熱部は、前記断熱部材の断熱性能に応じて前記ベースを加熱して前記ベースと前記ステータとの温度差を小さくし、前記断熱部材を介した前記ステータから前記ベースへの熱移動を抑制するように構成されている、真空ポンプ。
【請求項8】
請求項6に記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータ及び前記ベースがアルミニウム合金で形成され、前記断熱部材はステンレスで形成されている、真空ポンプ。
【請求項9】
請求項1から請求項8までのいずれか一つに記載の真空ポンプにおいて、
前記ステータはボルトによって前記ベースに固定されており、
前記ボルトの座金は前記ベースよりも熱伝導率が小さく、前記座金を介した前記ステータから前記ベースへの熱移動を抑制するように構成されている、真空ポンプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造装置や液晶製造装置等のチャンバ排気にはターボ分子ポンプ等の真空ポンプが用いられている。半導体製造装置や液晶製造装置のエッチングプロセスにおいては、真空ポンプに反応生成物が堆積するという問題が生じる。そのため、加熱手段によりポンプ温度を上昇させて、反応生成物の堆積を抑制させることが知られている。例えば、特許文献1に記載の真空ポンプでは、円筒状ロータとステータ(ねじステータ)とで構成される排気部に反応生成物が堆積しやすいので、ステータにヒータを埋め込んで直接加熱して昇温している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−80407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ステータに対してわずかなギャップでロータ高速回転している真空ポンプでは、ロータとステータとを同芯状態に配置する必要がある。そのため、ステータをベースに固定する際には、固定部において、ステータ側の軸部とベース側の穴部とをクリアランスが0.1mm程度の嵌め合い関係にし、ステータの位置決めを行っている。
【0005】
しかしながら、上述のようにステータにヒータを設けて加熱すると、熱膨張によりクリアランスが小さくなり軸部の全周が穴部に接触し、高温部であるステータの熱が低温部であるベースに逃げてステータ温度が低下するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、 前記ステータが固定される筒状のベースと、前記ステータに固定され、前記ステータを加熱する加熱部と、を備え、前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記加熱部によって加熱された前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造である。
本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、円筒状のロータと、前記ロータと協働して気体を排気する円筒状のステータと、前記ステータが固定される筒状のベースと、を備え、 前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造であり、 前記ステータおよび前記ベースには、位置決めピンが挿入されるステータ側ピン穴およびベース側ピン穴が設けられているが、前記ピン穴から前記位置決めピンが除去された状態で前記ステータが前記ベースに設けられ、前記位置決めピンを介した前記ステータから前記ベースへの熱の移動が防止される。
さらに好ましい実施形態では、前記ステータに固定され、前記ステータを加熱する加熱部をさらに備え、前記ステータが前記同芯状態で前記ベースに固定されることによって形成されている隙間により、前記加熱部によって加熱された前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制するように構成されている。
本発明の好ましい実施形態による真空ポンプは、円筒状のロータと、前記ロータと協働して気体を排気する円筒状のステータと、前記ステータが固定される筒状のベースと、を備え、前記ステータは、前記ベースとの間に嵌め合い構造を有することがない非嵌め合い構造により前記ベースと同芯状態で該ベースに固定されており、前記非嵌め合い構造は、前記ステータが径方向に熱膨張したときに前記ステータの外周面と前記ベースの内周面との対向面間に第1の隙間が確保される構造であり、前記ステータの径方向への熱膨張により前記ステータの外周面が前記ベースの内周面に接触する嵌め合い構造に比し、前記ステータの熱が前記ベースへ移動することを抑制する構造であり、前記ステータおよび前記ベースの各々は、前記同芯状態においては径方向隙間である第2の隙間が形成され、かつ、前記ステータの径方向位置ずれ時には互いに接触して前記ステータと前記ロータとの接触を阻止する当接部を有し、前記同芯状態における前記径方向隙間である前記第2の隙間は、前記同芯状態における前記ステータと前記ロータとの間の前記第1の隙間よりも小さく、かつ、前記ステータの熱膨張による径方向寸法変化よりも大きく設定されている。
さらに好ましい実施形態では、前記ステータが、前記ステータと前記ベースとの間に設けられた円筒状の断熱部材を介して前記ベースに固定されており、前記ステータの外周面と前記断熱部材の内周面との間の隙間である第3の隙間は、前記径方向隙間である前記第2の隙間よりも大きく設定されている。
さらに好ましい実施形態では、前記ステータのフランジ部と前記ベースとによって軸方向に挟持され、前記フランジ部の底面と前記ベースの上面との間に隙間が形成されるように前記ステータを軸方向に支持する円筒状の断熱部材を備える。
さらに好ましい実施形態では、前記ベースを加熱するベース加熱部をさらに備え、前記ベース加熱部は、前記断熱部材の断熱性能に応じて前記ベースを加熱して前記ベースと前記ステータとの温度差を小さくし、前記断熱部材を介した前記ステータから前記ベースへの熱移動を抑制するように構成されている。
さらに好ましい実施形態では、前記ステータ及び前記ベースがアルミニウム合金で形成され、前記断熱部材はステンレスで形成されている。
さらに好ましい実施形態では、前記ステータはボルトによって前記ベースに固定されており、前記ボルトの座金は前記ベースよりも熱伝導率が小さく、前記座金を介した前記ステータから前記ベースへの熱移動を抑制するように構成されている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温部であるステータと低温部であるベースとの接触を確実に回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は本発明に係る真空ポンプの一実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの断面を示す。
図2図2はターボ分子ポンプを底面側から見た図である。
図3図3は、図1のステータ加熱部28が設けられている部分の拡大図である。
図4図4は、図1の図示左側におけるステータ22とベース20との固定部の拡大図である。
図5図5は、変形例1を示す図である。
図6図6は、変形例2を示す図である。
図7図7は、変形例3を示す図である。
図8図8は、変形例4を示す図である。
図9図9は、変形例5を示す図である。
図10図10は、隙間G2が適用可能な位置決め構造の他の例を示す図である。
図11図11は、隙間G2の効果を説明する図である。
図12図12は、ステータ22と断熱部材24との間に隙間G2を形成する場合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明に係る真空ポンプの一実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプの断面を示す。ターボ分子ポンプ1は、複数段の回転翼12およびロータ円筒部13が形成されたロータ10を備える。ポンプケーシング23の内側には、複数段の回転翼12に対応して複数段の固定翼21が積層されるように配置されている。ポンプ軸方向に積層された複数段の固定翼21は、それぞれスペーサ29を介してベース20上に配置されている。回転翼12および固定翼21の各々は、周方向に配置された複数のタービン翼から成る。
【0010】
ロータ円筒部13の外周側には、円筒形状のステータ22が隙間を介して配置されている。本実施の形態では、ベース20は筒状の部材であって、ステータ22は、ベース20の内周側に配置され、ベース20の上端面にボルト固定されている。ロータ円筒部13の外周面またはステータ22の内周面のいずれか一方にはネジ溝が形成されており、ロータ円筒部13とステータ22とでネジ溝ポンプを構成している。回転翼12および固定翼21により排気された気体分子は、ネジ溝ポンプ部によりさらに圧縮され、最終的には、ベース20に設けられた排気ポート26から排出される。
【0011】
ロータ10にはロータシャフト11が固定され、そのロータシャフト11はラジアル磁気軸受32およびアキシャル磁気軸受33により支持され、モータ34によって回転駆動される。磁気軸受32,33が非動作時には、ロータシャフト11はメカニカルベアリング35a,35bによって支持される。ラジアル磁気軸受32,アキシャル磁気軸受33,モータ34およびメカニカルベアリング35bは、ベース20に固定されるハウジング30に収納されている。
【0012】
なお、従来のターボ分子ポンプでは、ベース20とハウジング30とを一体に形成してベースとする構成もあるが、いずれの構成においても、筒状のベースの内周側にステータ22が配置される構成とされている。
【0013】
ベース20には、ベース20を加熱するためのヒータ27、ベース20の温度を検出する温度センサ203が設けられている。本実施の形態のターボ分子ポンプ1は、反応生成物が多量に発生するプロセスへの使用が可能であり、ステータ22の下部外周面には、ステータ22を加熱する専用のステータ加熱部28が固定されている。図2はターボ分子ポンプを底面側から見た図であり、一部を破断面で示した。ステータ加熱部28は、ベース20の周面を内外に貫通するように設けられている。ステータ加熱部28を2つ以上設けても構わない。
【0014】
図3は、図1のステータ加熱部28が設けられている部分の拡大図である。図3に示すように、ステータ加熱部28は、ヒータブロック281にヒータ280を取り付けたものである。ヒータブロック281は、ボルト282によりステータ22の外周面に固定される。ボルト282が配置される穴部281aには、この穴部281aを封止するための封止栓283が設けられている。また、ヒータブロック281の軸部(ベース20を貫通する部分)には、真空シールとしてシール部材284が設けられている。このシール部材284によって、ベース20を貫通するヒータブロック281の軸部とベース20との隙間が封止される。
【0015】
図2に示すように、ステータ22の外周面の一部には平面部22aが形成され、その平面部22aにヒータブロック281の先端に形成された平面を接触させるようにしている。
【0016】
ヒータブロック281をステータ22に固定する際には、ヒータブロック281の軸芯とベース側の貫通孔との軸芯がほぼ一致するように、位置決め部材(例えば、位置決めピン)を用いてヒータブロック281の位置決めを行う。本実施の形態では、位置決め部材として位置決めピンが用いられており、図2に示すヒータブロック281には、位置決めピンが係合するピン穴286が形成されている。一方、ベース20にも位置決めピンが係合するピン穴205が形成されている。ピン穴205,286に位置決めピンを係合させることにより、ヒータブロック281とベース側貫通孔との芯出しが行われる。位置決めピンは、ヒータブロック281をステータ22にボルト固定した後に除去される。
【0017】
なお、本実施の形態では、ステータ加熱部28(ヒータブロック281)はベース20に固定されない構造となっている。そのため、図2に示すように、ロータ破壊時の安全性確保のために、ヒータブロック281のフランジ部281bにボルト209が設けられている。ボルト209とベース20との間には、座金211および筒状のスペーサ210が配置される。スペーサ210の長さは、座金211とヒータブロック281との間に所定の隙間Gが形成されるように設定されている。また、スペーサ210がヒータブロック281に接触しないように、スペーサ210が貫通するフランジ部281bの貫通孔の孔径は、スペーサ210の外径よりも大きく設定されている。
【0018】
例えば、ロータ破壊によってステータ22も破壊した場合、ステータ加熱部28がベース20から飛び出すおそれがある。本実施の形態の場合には、そのような場合であっても、ボルト209によってステータ加熱部28のベース20からの飛び出しが阻止される。なお、隙間Gが設けられているので、ステータ22やヒータブロック281等が熱膨張してもボルト209とヒータブロック281とが接触することはない。
【0019】
図1に戻って、ステータ22はボルト222によってベース20に固定されているが、ステータ22とベース20との間には断熱部材24(例えば、円筒状の断熱部材)が配置されている。そのため、ステータ22は、軸方向に関しては断熱部材24によって支持されており、ステータ22のフランジ部220の底面とベース20の上面との間には隙間が形成されている。
【0020】
本実施の形態のターボ分子ポンプ1では、上述のように断熱部材24上に載置されたステータ22をステータ加熱部28により直接加熱している。そして、ステータ加熱部28による加熱を制御することにより、ステータ22の温度を従来よりも高温(例えば、100℃以上)に維持し、ステータ22への反応生成物の堆積を確実に防止するようにしている。以下では、この堆積防止温度をTsと表す。実際には堆積防止温度Tsは所定の温度幅(Ts1〜Ts2)を有しており、ステータ22を堆積防止温度Tsに維持するとは、温度範囲(Ts1〜Ts2)に維持することを意味する。すなわち、ステータ22の温度が温度範囲(Ts1〜Ts2)となるようにヒータ280を制御する。
【0021】
本実施の形態では、ステータ22はベース20に接触しておらず、ステータ22からベース20への熱移動は、ほぼ、断熱部材24のみを介して行われる。そのため、ベース20とステータ22との温度差が大きいと、断熱部材24を介したステータ22からベース20への伝熱量が顕著になる。そこで、断熱部材24の断熱性能に応じてベース20をヒータ27で加熱してベース20とステータ22との温度差が大きくならないようにし、断熱部材24を介したステータ22からベース20への熱移動を抑えるようにしている。
【0022】
ボルト222の座金はベース部材に比べて熱伝導率の小さな部材で形成され、ステータ22からベース20への熱移動を抑制する断熱部材として機能している。例えば、ベース20にアルミ材を使用した場合、座金223には、アルミ材に比べて熱伝導率の小さな材料(例えば、ステンレス材)が用いられる。なお、本実施の形態では、図3に示すような断熱部材24をステータ22とベース20との間に介在させて断熱を図っているが、断熱構造はこれに限らない。例えば、ステータ22のフランジ部220とベース20との間に断熱部材を介在させるような構成でも構わない。
【0023】
上述のように、本実施の形態のターボ分子ポンプは、ステータ加熱部28によりステータ22を直接加熱し、かつ、断熱部材24によるステータ22からベース20への放熱を極力小さくするような構成となっている。そのため、温度上昇によりステータ22が膨張変形した場合でも、ステータ22とベース20とが接触しないような工夫が成されている。
【0024】
図4は、図1の図示左側におけるステータ22とベース20との固定部の拡大図である。図4に示すように、ベース20の内周側に配置されたステータ22とベース20との間には、断熱部材24が配置されている。そのため、ステータ22のフランジ部220とベース20の上面との間には隙間が形成され、フランジ部220の底面はベースに接触していない。また、ステータ22の径方向外周面に関しては、図4に示すような隙間G1〜G3(隙間寸法もG1,G2,G3とする)が形成されている。
【0025】
本実施の形態では、ステータ22をベース20にボルト固定する際にピンを用いて芯出しを行い、その後、図1に示すボルト222によりステータ22をベース20に固定するようにした。ボルト固定後は、芯出しに用いられたピンは除去される。図4に示すように、ベース20にはピン穴200が2箇所以上形成されている。一方、ステータ22には、ベース20の各ピン穴200が対向する位置にピン穴221がそれぞれ形成されている。
【0026】
ステータ22をベース20に固定する場合には、例えば、ベース20の各ピン穴200に位置決めピンを装着し、次いで、ピン穴221に位置決めピンが係合するようにステータ22をベース20上(実際には断熱部材24の上)に載置する。なお、ベース20にステータ22を載置した後に、ピン穴200および221に位置決めピンを通すようにしても良い。その後、ボルト222によりステータ22をベース20に固定する。ステータ22のベース20へのボルト固定が完了したならば、ピン穴200,221から位置決めピンを外す。
【0027】
なお、ボルト固定後に位置決めピンを外す理由は、位置決めピンを介したステータ22からベース20への熱移動を防止ことである。また、位置決めピンとピン穴200,221とはすきま嵌めとされるので、位置決めピンが外れてポンプ内に落ちるのを予防する目的もある。もちろん、断熱性が高く、十分な強度を有する位置決めピンであれば、ベース20のピン穴200に位置決めピンを打ち込むような構造とし、位置決めピンを残すような構成としても構わない。
【0028】
次に、隙間G1〜G3について説明する。隙間G1は、ステータ22のフランジ部220の外周面220aとベース20の内周面201との隙間である。隙間G2は、フランジ部底面に形成された段部22bの外周面とベース内周面201aとの隙間である。隙間G3は、ステータ22の筒部外周面と断熱部材24の内周面との隙間である。ステータ22が高温(例えば、100℃以上)に加熱されると、ステータ22が径方向に熱膨張することにより各隙間G1〜G3は小さくなる。
【0029】
従来のターボ分子ポンプでは、一般的に、ステータ22のフランジ部220の外周面220aと、ベース20の内周面201とを嵌め合い構造とし、ベース20に対するステータ22の位置決めを行っている。この位置決めは、ロータ円筒部13およびステータ22の軸芯が同軸となって、ロータ円筒部13とステータ22とのギャップが均一となるようにするために行われるものである。ロータ円筒部13とステータ22とのギャップは1mm程度なので、外周面220aと内周面201とを嵌め合いのクリアランス、すなわち、図4の隙間G1の寸法は0.1mm程度とされる。
【0030】
このように、外周面220aと内周面201とは嵌め合い構成であるため、一部が接触している。また、仮に、完全に同芯状態であって両者の間に隙間が形成されていた場合であっても、その隙間は0.1mm程度と小さい。そのため、ステータ22の熱膨張によりフランジ部220の外径寸法が大きくなった場合に、フランジ部220の外周面220aとベース20とが接触するおそれがあり、その場合にはステータ22の熱がベース20へと逃げてしまうことになる。
【0031】
一方、本実施の形態では、ベース20に対するステータ22の位置決めは位置決めピンにより行われるので、外周面220aと内周面201とは嵌め合い構造とする必要がなく、隙間G1を十分大きく設定することができる。そのため、ステータ22が熱膨張した際に、フランジ部220の外周面220aがベース20の内周面201に接触するのを確実に防止することができる。
【0032】
なお、ステータ22を固定しているボルト222に緩みが生じた場合、ベース20対してステータ22が径方向に横ずれするおそれがある。本実施の形態では、上述のように熱膨張による接触を防止するために隙間G1の寸法を十分大きく設定している。そのため、ステータ22の横ずれした時のステータ22とロータ円筒部13との接触を防止するために、隙間G1よりも小さな隙間G2を設けている。ロータ円筒部13とステータ22とのギャップをG0とした場合、隙間G2は「G0>G2」のように設定されており、かつ、ステータ22の熱膨張による径方向寸法変化よりも大きく設定されている。また、ステータ22の円筒部外周面と断熱部材24の内周面との隙間G3はG2よりも大きく設定されている。このような構成とすることにより、ステータ22が横ずれした場合でも、ステータ22の段部22bがベース20の内周面201aと当接することで、ステータ22とロータ円筒部13との接触が防止される。
【0033】
上述した実施の形態では、位置決めピンをピン穴221,200に係合させることでベース20に対してステータ22を位置決めしたが、図5図9に示す変形例1〜5のように、ピン以外の位置決め部材を使用しても良い。
【0034】
(変形例1)
図5は、変形例1を示す図であり、図4の場合と同様にステータ22の部分の拡大図である。図5は、ベース20の内周面とステータ22のフランジ部220の外周面とで位置決めを行う場合を示す。この場合、位置決め部材40の形状は円筒状でも良いし、例えば、円筒状部材を周方向に4分割したものを2つ用いても良い。以下では、位置決め部材40は円筒状であるとして説明する。位置決め部材40の外周面401とベース20の内周面201とは嵌め合い関係(すきま嵌め)になっており、まず、位置決め部材40をベース20に配置する。
【0035】
次いで、位置決め部材40の内周側にステータ22を配置する。ステータ22のフランジ部220の外周面220aと位置決め部材40の内周面400とは嵌め合い関係(すきま嵌め)になっており、ステータ22を位置決め部材40の内周側に配置することで、ベース20に対してステータ22が同芯状態となるように位置決めされる。次に、ボルト222によりステータ22をベース20に固定する。その後、位置決め部材40を外すことで、ベース20へのステータ22の固定作業が終了する。
【0036】
(変形例2)
図6は、変形例2を示す図である。変形例2では、ベース20に設けられた環状部202の外周面と、ステータ22のフランジ部220の外周面とで位置決めを行う。この場合は、円筒状の位置決め部材41を用いて位置決めを行う。なお、位置決め部材41は円筒状に限らず、例えば、円筒状部材を周方向に4分割したものを2つ使用し、それらを水平プレートで接続したものでも良い。環状部202の外径とフランジ部220の外径とは同一に設定され、環状部202およびフランジ部220の外周面と位置決め部材41の内周面400とが嵌め合い関係(すきま嵌め)となっている。位置決め部材41によってステータ22の位置決めを行ったならば、ボルト222によりステータ22をベース20に固定する。ステータ22をベース20にボルト固定したならば、位置決め部材41を外す。
【0037】
なお、図6に示す例では、環状部202の外径とフランジ部220の外径とが等しい場合の位置決め部材41を示したが、例えば、フランジ部220の外径が図5のように外周面220aまでであるような形状である場合には、破線で示すような位置決め部材41とすれば良い。この場合も、ステータ22の外周面と環状部202の外周面とで位置決めが行われる。
【0038】
(変形例3)
図7は、変形例3を示す図である。変形例3では、ベース20の内周面201とステータ22の内周面22cとで位置決めを行う。まず、ステータ22をベース20上に配置する。次いで、リング状の位置決め部材42をステータ22上に配置する。位置決め部材42の外周面420は、ベース20の内周面201と嵌め合い関係(すきま嵌め)になっている。一方、位置決め部材42に設けられたリング状凸部42cの内周面421は、ステータ22の内周面22cと嵌め合い関係(すきま嵌め)になっている。そのため、外周面420と内周面201、および、外周面421と内周面22cとが嵌め合うことで、ベース20に対するステータ22の位置決めが行われる。
【0039】
ステータ22はボルト222によりベース20に固定されるが、位置決め部材42においてボルト222に対向する部分には、貫通孔42aがそれぞれ形成されている。そのため、位置決め部材42によりステータ22の位置決めが成されたならば、貫通孔42aを介してボルト222による締結作業を行う。ボルト222によるステータ22のベース20の固定が完了したならば、位置決め部材42を取り外す。
【0040】
(変形例4)
図8は、変形例4を示す図である。変形例4では、ベース20に設けられた環状部202の外周面と、ステータ22の内周面22cとで位置決めを行う。位置決め部材43はリング状の部材であり、底面側にはリング状の凸部43b、43cが形成されている。ステータ22の位置決めを行う際には、外周側の凸部43bの内周面430をベース20の環状部202の外周面と嵌め合わせ、かつ、内周側の凸部43cの外周面431をステータ22の内周面22cと嵌め合わせる。その結果、ベース20に対するステータ22の位置決めが行われる。次いで、位置決め部材43に形成された貫通孔43aを介してボルト222を締結し、ステータ22をベース20に固定する。その後、位置決め部材43を取り外す。
【0041】
(変形例5)
図9は、変形例5を示す図である。変形例5では、ステータ22の内周面22cと、ハウジング30に固定されたメカニカルベアリング35aの内周面との間で位置決めが行われる。図9では、メカニカルベアリング35aが設けられたハウジング30の一部を模式的に示しており、図示の関係上、ハウジング30とそのハウジング30が固定されるベース20との位置関係は実際とは異なっている。
【0042】
位置決め部材44は、平板部44aと、平板部44aから図示下方に突出するように設けられた円筒部44bと、平板部44aから図示下方に突出し、かつ、円筒部44と同芯で形成された円柱部44cとを備えている。円柱部44cの外径は、メカニカルベアリング35aの内径と嵌め合い(すきま嵌め)の関係に設定されている。また、位置決め部材44の円筒部44bの外周面440とステータ22の内周面22cとは、すきま嵌めの関係にある。なお、円筒部44bに代えて、例えば、円筒部44bを周方向に4分割したものを2つ設けるようにしても良い。
【0043】
ベース20とステータ22との位置決めを行う際には、円柱部44cがメカニカルベアリング35aの内周側に挿入されるように、位置決め部材44をハウジング30上に載置する。次いで、位置決め部材44の円筒部44bがステータ22の内周側に挿入されるように、ステータ22をベース20上に載置する。その結果、ベース20に対するステータ22の位置決めが行われる。そして、ボルト222を用いてステータ22をベース20に固定し、その後、位置決め部材44をハウジング30から取り外す。
【0044】
以上説明したように、本実施の形態の真空ポンプは、円筒状のロータ円筒部13と、ロータ円筒部13と協働して気体を排気する円筒状のステータ22と、ステータ22が固定される筒状のベース20と、を備え、ステータ22は、ベース20との間に嵌め合い構造を有せず、ベース20と同芯状態で該ベース20に固定されている。この場合、径方向隙間G1の部分は嵌め合い構造ではないので、ステータ22の熱膨張を考慮して十分大きな隙間に設定することが可能である。その結果、熱膨張によってステータ22とベース20とが接触するのを確実に防止することができる。
【0045】
ステータ22およびベース20を同芯状態とするための位置決め治具としては、例えば、位置決めピンがあり、その位置決めピンをベース20のピン穴200およびステータ22のピン穴221に係合させることで、ステータ22およびベース20を同芯状態とすることができる。ステータ22をベース20にボルト固定した後は、位置決めピンを除去するのが好ましい。
【0046】
さらに、ステータ22およびベース20の各々は、同芯状態においては径方向隙間が形成され、かつ、ステータ22の径方向位置ずれ時には互いに接触してステータ22とロータ円筒部13との接触を阻止する当接部(ベース20の内周面201aとステータ22の段部22bとが対応)を備えるのが好ましい。この場合、隙間G2は隙間G0よりも小さいので、図11に示すようにステータ22が横ずれしてベース20の内周面201aとステータ22の段部22bとが互いに接触しても、ステータ22とロータ円筒部13とが接触することは無い。
【0047】
なお、上述した実施の形態では、ステータ22とベース20とは非嵌め合い構造の径方向隙間G1等を介して配置され、ボルト固定後に除去される位置決め治具によって同芯状態とされる構成において、隙間G2を有する当接部を設けた。しかしながら、隙間G2を有する当接部は、図10に示すような位置決め構造に対しても適用することができる。
【0048】
図10に示す例では、ステータ22のフランジ部220に形成された環状係合部220cの内周面と、ベース20の環状部202の外周面とが嵌め合いの関係になっている。そのため、ステータ22が熱膨張すると、環状係合部220cの内周面とベース20の環状部202の外周面との隙間は増加する。そのため、ステータ22からベース20への熱移動が防止される。一方、ステータ22を固定しているボルト222が緩んだ場合、フランジ部220のボルト用貫通孔のボルト222とのクリアランス分だけ、ステータ22が横ずれする可能性がある。しかし、そのような横ずれが生じた場合であっても、ベース20の内周面201aとステータ22の段部22bとが当接することで、ロータ円筒部13とステータ22とが接触するのを防止することができる。
【0049】
上述した実施形態では、図11に示すようにステータ22の段部22bとベース20の内周面201aとの隙間G2(<G0、G1、G3)によって、ステータ22が横ずれした際におけるステータ22とロータ円筒部13との接触を防止するようにした。このような接触防止構造としては、図12に示すような構成でも良い。図12(a)に示す例では、ステータ22の段部22bを断熱部材24の内周面と対向するように形成する。段部22bと断熱部材24との隙間寸法はG2に設定される。そのため、ボルト固定が緩んでステータ22が軸方向にずれた場合でも、段部22bが断熱部材24に当接し、ステータ22とロータ円筒部13との接触を防止することができる。
【0050】
断熱部材24はステータ22やベース20よりも熱伝導率が小さな材料で形成される。例えば、ステータ22およびベース20をアルミニウム合金で形成し、断熱部材をステンレス材料で形成した場合、温度上昇時の熱膨張によってベース20の凸部20d(ベース20と嵌め合い構造になっている)と断熱部材外周面との隙間は大きくなり、一方、隙間G2は小さくなる。そのため、熱膨張により凸部20dと断熱部材24との隙間が大きくなって、ステータ22が載置されている断熱部材24自体に横ずれが生じた場合であっても、上述のように隙間G2が小さくなって断熱部材24に対するステータ22の横ずれ量が小さくなるので、ステータ22の横ずれ量は熱膨張する前の隙間G2と同程度に抑えることができる。その結果、ステータ22とロータ円筒部13との接触を防止することができる。なお、図12(b)に示すように、断熱部材24の外周面と嵌め合い構造となっているベース20の凸部20dが、断熱部材24の下端部分で嵌め合い構造となっていても良い。
【0051】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【0052】
例えば、上述した実施形態では、ベース20を貫通するように設けられたステータ加熱部28を用いてステータ22を加熱したが、ヒータをステータ22に埋設するような構成であっても良い。また、ステータ22をステータ加熱部28で直接加熱する構造とすることで、ステータ温度がベース温度よりも高温となるように構成されているが、本発明は、気体排気時の気体の発熱によってステータ温度がベース温度よりも高くなるような場合にも適用できる。
【0053】
また、本発明は、ターボ分子ポンプに限らず、円筒状のロータおよびステータを備える真空ポンプに適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
1…ターボ分子ポンプ、10…ロータ、11…ロータシャフト、12…回転翼、13…ロータ円筒部、20…ベース、22…ステータ、22b…段部、24…断熱部材、26…排気ポート、27,280…ヒータ、28…ステータ加熱部、30…ハウジング、40〜44…位置決め部材、200…ピン穴、209…ボルト、284:シール部材
図1
図2
図3
図4
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図12