特許第6427995号(P6427995)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6427995
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/10 20060101AFI20181119BHJP
   C08K 3/22 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 5/05 20060101ALI20181119BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20181119BHJP
   C09J 201/10 20060101ALI20181119BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20181119BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20181119BHJP
   H05B 3/14 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   C08L101/10
   C08K3/22
   C08K5/05
   C08K5/57
   C09J201/10
   C09J11/04
   C09J11/06
   H05B3/14 A
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2014-136432(P2014-136432)
(22)【出願日】2014年7月2日
(65)【公開番号】特開2015-38192(P2015-38192A)
(43)【公開日】2015年2月26日
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-147552(P2013-147552)
(32)【優先日】2013年7月16日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000108111
【氏名又は名称】セメダイン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147935
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 進介
(74)【代理人】
【識別番号】100080230
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 詔二
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 担
(72)【発明者】
【氏名】浅井 良介
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 敦
【審査官】 大木 みのり
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/084651(WO,A1)
【文献】 特開2007−332258(JP,A)
【文献】 特開2012−001614(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0004367(US,A1)
【文献】 特開2012−057150(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/011329(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0216925(US,A1)
【文献】 特表2008−545851(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0276595(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 −101/16
C08K 3/00 − 13/08
C09J 1/00 − 5/10
C09J 9/00 −201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)分子鎖末端にトリアルコキシシリル基を有する有機重合体100質量部、
(B)平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物150質量部〜350質量部、
(C)3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール1〜100質量部、及び
(D)オクチル錫系化合物を全組成物中10〜1500PPM、
を含有する硬化性組成物
【請求項2】
前記オクチル錫系化合物の含有量が硬化性組成物に対して10〜1000PPMであることを特徴とする請求項1記載の硬化性組成物。
【請求項3】
電子部品の接着に使用することを特徴とする請求項1又は2記載の硬化性組成物。
【請求項4】
請求項記載の硬化性組成物を接着剤として使用した電気製品。
【請求項5】
請求項1又は2記載の硬化性組成物を接着剤として使用したポリマーPTC素子を含んで構成される製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は分子鎖末端にトリアルコキシシリル基を有する有機重合体を含有する硬化性組成物に関する。特に、組成物の保存後に、保存前に比較して硬化速度が低下しない硬化性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
珪素原子に結合した水酸基や加水分解性基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋し得る珪素含有基(以下、反応性珪素基ともいう)を有する有機重合体は空気中の湿分など水分等の作用により室温においても架橋しゴム状の硬化物を生成するという性質を有している。このため、この重合体は接着剤として使用されている。
【0003】
この接着剤は弾性を有しており、熱膨張の差による歪みに追従し、クラックを防止する接着性、変位追従性の優れた接着剤になる。このため、電子部品の接着にも使用されている。電子部品用の接着剤は難燃性が求められ、特許文献1には反応性珪素基を有する有機重合体に水酸化アルミニウムなどの金属水酸化物を添加した難燃性硬化性組成物が開示されている。
【0004】
反応性珪素基を有する有機重合体に金属水酸化物を多量に添加すると組成物の粘度が上昇し接着の作業性が低下する。組成物の粘度を低くするため希釈剤(溶剤)を使用することがある。この溶剤としてアルコール類が使用される場合がある。たとえば、特許文献2には反応性珪素基を有する有機重合体、金属水酸化物及び希釈剤を含有する硬化性組成物をポリマーPTC素子と呼ばれる電子部品の接着剤として使用すると、ポリマーPTC素子の特性(抵抗値)が変化し、正常な作動をしない場合があるが、希釈剤としてアルコール類を使用するとこの問題が発生しないことが記載されている。
【0005】
ポリマーPTC素子とは、正の温度特性(PTC:Positive Temperature Coefficient)を有する導電性ポリマーを利用した復帰性を有し交換不要なサーミスターである。ポリマーPTC素子とは大きい電流が流れジュール熱により温度が上昇すると、抵抗値が大きくなり流れる電流を制限する機能を有する素子である。
【0006】
反応性珪素基を有する有機重合体の硬化に際しては、特許文献3の段落0004に記載されているように、硬化触媒としては錫化合物が使用されることが多い。特許文献2の実施例においてもジブチル錫ジラウレートが使用されている。しかしながら、ジブチル錫ジラウレートのような炭素−錫結合を有するブチル錫系化合物はその毒性が指摘されており、非有機錫系触媒の使用やオクチル錫系化合物のような非ブチル錫系有機錫系触媒を使用するにしても非常に少量の使用、例えば1000PPM以下、が求められている。
【0007】
反応性珪素基としてよく使用される基は適度の硬化速度を有し、保存時にも特性の変化が起きにくいメチルジメトキシシリル基などのジアルコキシシリルがよく使用される。特許文献2の実施例において使用されているMA450という商品名の重合体も反応性珪素基としてメチルジメトキシシリル基を有する重合体である。メチルジメトキシシリル基の反応性は大きくなく、硬化触媒を使用しないと充分な硬化速度を得ることができない。実際に組成物中1000PPM程度の錫系化合物の硬化触媒濃度ではメチルジメトキシシリル基を有する重合体は実用的な速度で硬化が進行しない。
【0008】
この上に、有機錫系触媒以外の硬化触媒は活性が低いものが多い。オクチル錫系化合物もブチル錫系化合物に比べて活性が低くなり、1000PPM程度の濃度では実質的に硬化が進行しない。低活性の硬化触媒であっても必要な硬化速度を得るには反応性が大きい反応性珪素基を使用することが考えられる。特許文献4にはメチルジメトキシシリル基よりも反応性が大きい反応性珪素基としてトリメトキシシリル基のようなトリアルコキシシリル基が提案されている。
【0009】
しかしながら、特許文献2に提案された反応性珪素基を有する有機重合体、金属水酸化物、アルコール類希釈剤及びオクチル錫系化合物を含有する硬化性組成物において反応性珪素基としてトリアルコキシシリル基を使用すると組成物の保存後に、保存前に比較して硬化速度が低下すること(貯蔵後の硬化遅延)があることが判明した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平11−310682号公報
【特許文献2】特開2007−332258号公報
【特許文献3】WO2010−035820号公報
【特許文献4】WO1998−047939号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、上記従来技術の問題点に鑑みなされたものであり、反応性珪素基を有する有機重合体、金属水酸化物及びアルコール類希釈剤を含有する硬化性組成物であって貯蔵後の硬化遅延が生じない硬化性組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の硬化性組成物は、(A)分子鎖末端にトリアルコキシシリル基を有する有機重合体100質量部、(B)平均粒径0.1〜200μmの金属水酸化物150質量部〜350質量部、(C)置換基としてアルコキシ基を有する液状アルキルアルコール類1〜100質量部、及び(D)オクチル錫系化合物を全組成物中10〜1500PPM、を含有することを特徴とする。
【0013】
また、前記硬化性組成物は、(C)置換基としてアルコキシ基を有する液状アルキルアルコール類がさらに置換基として分岐アルキル基を有するのが好適である。
【0014】
さらに、前記硬化性組成物は、硬化触媒である前記オクチル錫系化合物の含有量が硬化性組成物に対して10〜1000PPMであるのが好適である。前記硬化触媒であるオクチル錫系化合物は、非常に少量の使用で良く、例えば、600〜1500PPMが好適である。より好ましくは850〜1000PPMである。
さらに、前記硬化性組成物が電子部品の接着に使用することが好ましい。また、本発明は前記硬化性組成物を接着剤として使用した電気製品でもある。
【0015】
また、本発明の製品は、硬化性組成物を接着剤として使用したポリマーPTC素子を含んで構成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の硬化性組成物は貯蔵後の硬化遅延が生じないという著大な効果を奏する。また、本発明の硬化性組成物は、ポリマーPTC素子を含む電子製品の部品の接着用途に特に適しているという著大な効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明に用いる(A)成分の有機重合体におけるトリアルコキシシリル基は珪素原子に結合したアルコキシ基を有し、シロキサン結合を形成することにより架橋しうる基であり、式(1)で示される。
−Si(OR(1)
式中、Rはアルキル基を示す。
【0018】
アルコキシ基の中では炭素数の少ないものの方が反応性が高く、メトキシ基>エトキシ基>プロポキシ基の順のように炭素数が多くなるほどに反応性が低くなる。目的や用途に応じて選択できるが、通常メトキシ基やエトキシ基が使用される。
トリアルコキシシリル基の具体的な例としては、トリメトキシシリル基、トリエトキシシリル基、トリプロポキシシリル基等があげられる。
【0019】
また、トリアルコキシシリル基は1種で使用しても良く、2種以上併用してもかまわない。トリアルコキシシリル基は、主鎖または側鎖あるいはいずれにも存在しうる。硬化物の引張特性等の硬化物物性が優れる点で架橋性珪素基が分子鎖末端に存在するのが好ましい。
【0020】
トリアルコキシシリル基は重合体1分子中に少なくとも1個、好ましくは1.1〜5個存在するのがよい。分子中に含まれる架橋性珪素基の数が1個未満になると、硬化性が不充分になり、また多すぎると網目構造があまりに密となるため良好な機械特性を示さなくなる。
【0021】
トリアルコキシシリル基を有する有機重合体の主鎖骨格は特に制限はなく、各種の主鎖骨格を持つものを使用することができる。具体的には、ポリオキシエチレン、ポリオキシプロピレン、ポリオキシブチレン、ポリオキシテトラメチレン、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレン共重合体、ポリオキシプロピレン−ポリオキシブチレン共重合体等のポリオキシアルキレン系重合体;エチレン−プロピレン系共重合体、ポリイソブチレン、イソブチレンとイソプレン等との共重合体、ポリクロロプレン、ポリイソプレン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリルおよび/またはスチレン等との共重合体、ポリブタジエン、イソプレンあるいはブタジエンとアクリロニトリル、および/またはスチレン等との共重合体、これらのポリオレフィン系重合体に水素添加して得られる水添ポリオレフィン系重合体等の炭化水素系重合体;アジピン酸、テレフタル酸、琥珀酸等の多塩基酸とビスフェノールA、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール等の多価アルコールとの縮合重合体やラクトン類の開環重合体等のポリエステル系重合体;ε−カプロラクタムの開環重合によるナイロン6、ヘキサメチレンジアミンとアジピン酸の縮重合によるナイロン6・6、ヘキサメチレンジアミンとセバシン酸の縮重合によるナイロン6・10、ε−アミノウンデカン酸の縮重合によるナイロン11、ε−アミノラウロラクタムの開環重合によるナイロン12、上記のナイロンのうち2成分以上の成分を有する共重合ナイロン等のポリアミド系重合体;エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のモノマーをイオン重合やラジカル重合して得られるポリアクリル酸エステル、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアクリル酸エステルと、酢酸ビニル、アクリロニトリル、メチルメタクリレート、スチレン等とのアクリル酸エステル共重合体等のアクリル酸エステル系重合体;前記有機重合体中でのビニルモノマーを重合して得られるグラフト重合体;ポリサルファイド系重合体;たとえばビスフェノールAと塩化カルボニルより縮重合して製造されるポリカーボネート系重合体、ジアリルフタレート系重合体等が例示される。
【0022】
上記主鎖骨格をもつ重合体のうち、ポリエステル系重合体、アクリル酸エステル系重合体、ポリオキシアルキレン系重合体、炭化水素系重合体、ポリカーボネート系重合体等が好ましい。特に、トリアルコキシシリル基を分子鎖末端に導入させ易く、比較的低粘度で安価でもあり、ガラス転移温度が低く、得られる硬化物が耐寒性に優れるポリオキシアルキレン系重合体や耐熱性、耐候性や接着性に優れるアクリル酸アルキルエステル系重合体が好ましい。
【0023】
更には、ポリオキシアルキレン系重合体と(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の混合物が硬化物の機械強度に優れ、且つ、耐熱性や基材との接着性にも優れる特性を有するため、本発明に特に適している。トリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン系重合体とトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体の混合物を使用する場合、オキシアルキレン系重合体100質量部に対し、(メタ)アクリル酸エステル系重合体を5〜200質量部使用することが好ましく、5〜50質量部使用することがさらに好ましい。
【0024】
トリアルコキシシリル基を有する有機重合体は、直鎖状でもよくまたは分岐を有してもよく、数平均分子量で500〜50,000程度が好ましく、1,000〜30,000がさらに好ましい。分子量が大きくなると、硬度が小さくなる傾向にある。
【0025】
上記重合体の中でポリオキシアルキレン系重合体は本質的に式(2)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
―RO― (2)
(式中、Rは2価の有機基)
式(2)におけるRは、炭素数1〜14の、さらには2〜4の、直鎖状もしくは分岐状
アルキレン基が好ましい。式(2)で示される繰り返し単位の具体例としては、例えば、
【化1】

等があげられる。ポリオキシアルキレン系重合体の主鎖骨格は、1種類だけの繰り返し単位からなってもよいし、2種類以上の繰り返し単位からなってもよい。特にオキシプロピレンを主成分とする重合体から成るのが好ましい。
【0026】
ポリオキシアルキレン系重合体を使用する場合、その分子量は硬化物の引張特性である引張モジュラスを小さくし破断時伸びを大きくするため大きいほうが好ましい。本発明においては、数平均分子量の下限としては5,000が好ましく、10,000がさらに好ましい。また、数平均分子量の上限は50,000が好ましく、40,000がさらに好ましい。なお、ここでいう数平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィーによるポリスチレン換算分子量をいう。
【0027】
ポリオキシアルキレン系重合体は直鎖状でもよくまたは分岐を有してもよいが、引張モジュラスを小さくし破断時伸びを大きくできるため直鎖状の重合体が好ましい。また、トリアルコキシシリル基を有するポリオキシアルキレン系重合体の分子量分布は2以下、特には1.6以下が好ましい。
【0028】
ポリオキシアルキレン系重合体の合成法としては、たとえばKOHのようなアルカリ触媒による重合法、たとえば特開昭61−197631号、同61−215622号、同61−215623号、同61−215623号に示されるような有機アルミニウム化合物とポルフィリンとを反応させて得られる、有機アルミニウム−ポルフィリン錯体触媒による重合法、たとえば特公昭46−27250号および特公昭59−15336号などに示される複金属シアン化物錯体触媒による重合法等があげられるが、特に限定されるものではない。有機アルミニウム−ポルフィリン錯体触媒による重合法や複金属シアン化物錯体触媒による重合法によれば数平均分子量6,000以上、Mw/Mnが1.6以下の高分子量で分子量分布が狭いオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0029】
上記ポリオキシアルキレン類の主鎖骨格中にはウレタン結合成分等の他の成分を含んでいてもよい。ウレタン結合成分としては、たとえばトルエン(トリレン)ジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート等の芳香族系ポリイソシアネート;イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族系ポリイソシアネートと水酸基を有するポリオキシアルキレン類との反応から得られるものをあげることができる。
【0030】
ポリオキシアルキレン系重合体へのトリアルコキシシリル基の導入は、分子中に不飽和基、水酸基、エポキシ基やイソシアネート基等の官能基を有するポリオキシアルキレン系重合体に、この官能基に対して反応性を示す官能基およびトリアルコキシシリル基を有する化合物を反応させることにより行うことができる。この方法(以下、高分子反応法という)はポリエステル系重合体、ポリアミド系重合体、リビング重合により得られる不飽和単量体の重合体にも好適に使用される。これらの重合体は分子鎖末端に水酸基等の官能基を有しているので、末端にトリアルコキシシリル基を導入しやすいためである。
【0031】
高分子反応法の具体例として、不飽和基含有オキシアルキレン系重合体にトリアルコキシシリル基を有するヒドロシランやトリアルコキシシリル基を有するメルカプト化合物を作用させてヒドロシリル化やメルカプト化し、トリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン系重合体を得る方法をあげることができる。不飽和基含有オキシアルキレン系重合体は水酸基等の官能基を有する有機重合体に、不飽和ハロゲン化合物のような、この官能基に対して反応性を示す活性基および不飽和基を有する有機化合物を反応させ、不飽和基を含有するオキシアルキレン系重合体を得ることができる。
【0032】
また、高分子反応法の他の具体例として、末端に水酸基を有するオキシアルキレン系重合体とイソシアネート基およびトリアルコキシシリル基を有する化合物を反応させる方法や末端にイソシアネート基を有するオキシアルキレン系重合体と水酸基やアミノ基等の活性水素基およびトリアルコキシシリル基を有する化合物を反応させる方法をあげることができる。イソシアネート化合物を使用すると、容易にトリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン系重合体を得ることができる。高分子反応法はオキシアルキレン系重合体以外の他の重合体にも適用することが可能である。
【0033】
トリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン重合体の具体例としては、特公昭45−36319号、同46−12154号、特開昭50−156599号、同54−6096号、同55−13767号、同57−164123号、特公平3−2450号、特開2005−213446号、同2005−306891号、国際公開特許WO2007−040143号、米国特許3,632,557号、同4,345,053号、同4,960,844号等の各公報に提案されているものをあげることができる。
【0034】
架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は本質的に式(3)で示される繰り返し単位を有する重合体である。
【化2】

(式中、Rは水素原子またはメチル基、Rはアルキル基を示す)
式(3)におけるRはアルキル基であり、炭素数1〜30のアルキル基が好ましい。Rは直鎖状であってもよく、分岐状であってもよい。また、ハロゲン原子やフェニル基等を有する置換アルキル基でもよい。Rの例としては、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等をあげることができる。
【0035】
(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体の分子鎖は本質的に式(3)の単量体単位からなるが、ここでいう本質的にとは該重合体中に存在する式(3)の単量体単位の合計が50質量%をこえることを意味する。式(3)の単量体単位の合計は好ましくは70質量%以上である。
【0036】
式(3)以外の単量体単位の例としては、アクリル酸、メタクリル酸等の(メタ)アクリル酸;アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミド等のアミド基、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基、ジエチルアミノエチルアクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、アミノエチルビニルエーテル等のアミノ基を含む単量体;その他アクリロニトリル、スチレン、α−メチルスチレン、アルキルビニルエーテル、塩化ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチレン等に起因する単量体単位があげられる。
【0037】
トリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は上記したように、オキシアルキレン系重合体と混合して使用されることがある。この場合、トリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン系重合体との相溶性が大きい点で、トリアルコキシシリル基を有し分子鎖が、下記式(4):
【化3】

(式中、Rは前記に同じ、Rは炭素数1〜5のアルキル基を示す)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位と、下記式(5):
【化4】

(式中、Rは前記に同じ、Rは炭素数6以上のアルキル基を示す)で表される(メタ)アクリル酸エステル単量体単位からなる共重合体が好ましい。
前記式(4)のRとしては、たとえばメチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、t−ブチル基等の炭素数1〜5、好ましくは1〜4、さらに好ましくは1〜2のアルキル基があげられる。なお、Rは一種でもよく、2種以上混合していてもよい。
前記式(5)のRとしては、たとえば2−エチルヘキシル基、ラウリル基、トリデシル基、セチル基、ステアリル基、ベヘニル基等の炭素数6以上、通常は7〜30、好ましくは8〜20の長鎖のアルキル基があげられる。なお、Rは一種でもよく、2種以上混合したものであってもよい。また、式(4)の単量体単位と式(5)の単量体単位の存在比は、質量比で95:5〜40:60が好ましく、90:10〜60:40がさらに好ましい。
【0038】
トリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体は通常、(メタ)アクリル酸アルキルエステルとトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルをラジカル共重合して得ることができる。また、トリアルコキシシリル基を有する開始剤やトリアルコキシシリル基を有する連鎖移動剤を使用すると分子鎖末端にトリアルコキシシリル基を導入することができる。
【0039】
特開2001−040037号公報、特開2003−048923号公報および特開2003−048924号公報には架橋性珪素基を有するメルカプタンおよびメタロセン化合物を使用して得られるトリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。また、特開2005−082681号公報合成例には高温連続重合による架橋性珪素基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体が記載されている。
【0040】
特開2000−086999号公報等にあるように、(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体も知られている。このような重合体はリビングラジカル重合によって製造されているため、高い割合で架橋性珪素基を分子鎖末端に導入することができる。本発明では以上に述べたような(メタ)アクリル酸アルキルエステル系重合体を使用することができる。
【0041】
トリアルコキシシリル基を有する(メタ)アクリル酸エステル系重合体やこの重合体とトリアルコキシシリル基を有するオキシアルキレン重合体の混合物の具体例は、特開昭59−122541号、同63−112642号、同特開平6−172631号等の各公報に記載されている。
【0042】
本発明の硬化性組成物はトリアルコキシシリル基を有する有機重合体に加えて、メチルジメトキシシリル基のようなトリアルコキシシリル基以外の反応性珪素基を有する重合体を使用してもよい。
【0043】
金属水酸化物(B)としては、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好適に用いられる。金属水酸化物は表面処理せずに使用してもよく、カップリング剤、脂肪酸及び樹脂酸等の処理剤で表面処理したものを用いてもよい。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
【0044】
上記カップリング剤としては、例えば、有機チタネート化合物、有機アルミニウム化合物、有機ジルコニウム化合物、アルコキシシランなどが挙げられる。具体的な有機チタネート化合物として、例えば、テトラプロポキシチタン、テトラブトキシチタン、テトラキス(2−エチルヘキシルオキシ)チタン、テトラステアリルオキシチタン、ジプロキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタン、チタニウムプロポキシオクチレングリコレート、チタニウムステアレート、イソプロピルトリイソステアロイルチタネート、イソプロピルトリドデシルベンゼンスルホニルチタネート、イソプロピルトリス(ジオクチルパイロホスフェート)チタネート、テトライソプロピルビス(ジオクチルホスファイト)チタネート、テトラオクチルビス(ジトリデシルホスファイト)チタネート、テトラ(2,2−ジアリルオキシメチル−1−ブチル)ビス(ジートリデシル)ホスファイトチタネート、ビス(ジオクチルパイロホスフェート)オキシアセテートチタネート、トリス(ジオクチルパイロホスフェート)エチレンチタネートなどが挙げられる。アセトアルコキシアルミニウムジイソプロピレートなどの有機アルミニウム化合物やジルコニウムブチレート、ジルコニウムアセチルアセトネート、アセチルアセトンジルコニウムブチレート、ジルコニウムラクテート、ステアリン酸ジルコニウムブチレートなどの有機ジルコニウム化合物が使用できる。また、シラン化合物としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビストリス(2−メトキシエトキシ)シラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)3−アミノプロピルメチルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザンなどが挙げられる。
【0045】
上記脂肪酸としては、例えば、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エライジン酸、リノーリ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸、ナフテン酸などの脂環族カルボン酸が挙げられる。
上記樹脂酸としては、例えば、アビチエン酸、ピマル酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸等が挙げられる。
【0046】
水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム又はその混合物は高分子材料の分解温度と一致する約180〜320℃で構造水を放出するため、炎の着火、延焼を防ぐことが出来、優れた難燃性を発揮することができる。
【0047】
また、上記金属水酸化物が芳香族アミン、フェノール、ナフトール類もしくは活性メチレン化合物などで処理されたカップリング剤、脂肪酸または樹脂酸で表面処理されたものを使用した場合、多少難燃効果は薄れるが、粘度安定性及び電気特性が向上する。
【0048】
上記金属水酸化物の粒径は0.1μm〜200μmが好ましく用いられるが、0.3μm〜100μmが更に好ましく、0.3μm〜30μmが最も好ましい。該金属水酸化物の粒径が、0.1μmより小さいと、組成物粘度が著しい高くなり作業性が悪くなる問題があり、一方200μmより大きいと、微量定量吐出の場合に針先や装置嵌合部で詰まる問題がある。本明細書における金属水酸化物の粒径は、例えば、レーザードップラー方式の粒度分布測定装置(日機装(株)製、マイクロトラック(登録商標)粒度分布測定装置MT3000II)等により測定することが可能である。
【0049】
金属水酸化物の量は、重合体(A)100質量部に対して150質量部〜350質量部が配合され、170質量部〜280質量部が更に好ましく、190質量部〜250質量部が最も好ましい。この金属水酸化物の量が、150質量部より少ないと、充分な難燃性が得られず、例えば着火すると延焼し続けたりポリマーが解重合し液状化することがあり、一方350質量部を超えると、組成物粘度が高くなり作業性が悪くなる問題の他、接着強さ等の基本的物性が保てなくなる場合がある。また金属水酸化物の粒径によっても難燃効果は多少異なる。
【0050】
本発明の組成物には、ハロゲン系、リン系、酸化アンチモン等の難燃剤難燃剤を金属水酸化物と併用することも可能である。この他に、硼酸亜鉛、錫酸亜鉛等も発煙量の低減効果が有るため、添加することができる。
【0051】
置換基としてアルコキシ基を有する液状アルキルアルコール類(C)の例としては、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、2−メトキシ−1−ブタノール、2−メトキシ−2−メチルブタノール、1−メトキシ−2−ブタノール、1−(2−メトキシプロポキシ)−2−プロパノール、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル等をあげることができる。これらの中では3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール等の置換基としてアルコキシ基及び分岐アルキル基の双方を有するアルコール類が好ましい。アルコキシ基としてはメトキシ基やエトキシ基が好ましく、分岐アルキル基としてはメチル基やエチル基が好ましい。アルコキシ基を有する液状アルキルアルコール類は単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0052】
置換基としてアルコキシ基を有する液状アルキルアルコール類(C)は、23℃の粘度が500mPa・s以下の液状化合物であり、且つ(1)誘電率5以上の条件を満たすものが好ましい。液状アルキルアルコール類(C)は23℃での粘度が50mPa・s以下であることが好ましく、30mPa・s以下であることがより好ましい。粘度の下限は特に限定されないが、0.01mPa・s以上であることが好適である。液状アルキルアルコール類(C)の誘電率が10以上であることが好ましく、20以上であることがより好ましい。誘電率の上限は特に限定されないが、50以下が好適である。前記液状アルキルアルコール類(C)の沸点は40℃以上であることが好ましく、さらには100℃以上であることが好ましく、特には150℃以上が好ましい。沸点が低いと作業中に可燃物として揮散する可能性がある。また、前記液状化合物(C)の引火点は61℃以上であることが好ましい。引火点が60℃以下であると、危険物船舶運送及び貯蔵規則に定められた引火性液体物質に該当するため、船舶輸送上の観点からは引火点が61℃以上であることが必要であるからである。
【0053】
液状アルキルアルコール類(C)の配合割合は、重合体(A)100質量部に対して1〜100質量部が好ましく、3〜30質量部がより好ましく、5〜30質量部がさらに好ましい。液状アルキルアルコール類(C)の配合により、減粘効果が得られ、低粘度化が可能となるが、100質量部をこえると体積変化が大きくなったり、長期保存安定性(ブリードアウト)が低下する場合がある。液状アルキルアルコール類(C)は単独で用いてもよく、2種以上用いてもよい。
【0054】
(D)オクチル錫系化合物は、前記重合体(A)を架橋させるための硬化触媒であり、ジオクチル錫系化合物が好適である。具体的には、ジオクチル錫ジラウレート、ジオクチル錫オキサイド、ジオクチル錫ジアセテート、ジオクチル錫ジステアレート、ジオクチル錫ラウレートオキサイド、ジオクチル錫ジアセチルアセトナート、ジオクチル錫ジオレイルマレート、ジオクチル錫オクトエート等の錫化合物が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0055】
(D)オクチル錫系化合物の添加量は、質量基準で全組成物中10〜1500PPMである。有機錫化合物は組成物の保存後も活性が大きく使用しやすい硬化触媒であるが、毒性が指摘されている。特にブチル錫系化合物の毒性が大きいといわれている。オクチル錫系化合物は毒性が大きくないとされているが、使用するにしても少量が望ましい。好ましい使用量は10〜1000PPMである。十分な触媒活性を得たい場合には、600〜1500PPM、更には850〜1000PPMが好ましい。硬化性組成物に対してこのような少量の硬化触媒の使用であっても本発明の硬化性組成物は反応性が大きいトリアルコキシシリル基を有する有機重合体を使用しているため十分な硬化速度を有している。
【0056】
本発明の硬化性組成物には、さらに(E)炭酸カルシウムを配合することができる。該炭酸カルシウムの粒径は特に限定されないが、平均粒径0.01〜10μmが好ましく、0.01〜0.05μmがより好ましく、0.01〜0.03μmがさらに好ましい。
【0057】
前記炭酸カルシウムは表面処理された炭酸カルシウムと無処理の炭酸カルシウムもいずれも使用できるが、表面処理された炭酸カルシウムがより好ましい。
【0058】
前記表面処理された炭酸カルシウムの表面処理剤としては、具体的には、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラギン酸などの飽和脂肪酸、オレイン酸、エライジン酸、リノーリ酸、リシノール酸などの不飽和脂肪酸、ナフテン酸などの脂環族カルボン酸、アビチエン酸、ピマル酸、パラストリン酸、ネオアビエチン酸などの樹脂酸などが挙げられる。またスルホン酸類、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、アミン塩で処理された炭酸カルシウムも使用でき、さらにはアニオン性、カチオン性、ノニオン性の界面活性剤で処理された炭酸カルシウムも使用できる。
【0059】
さらに、前記炭酸カルシウムが、BET比表面積20〜100m/gの炭酸カルシウムを脂肪酸で表面処理した炭酸カルシウムであることが好ましい。前記脂肪酸による表面処理は不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸で行うことが好ましく、該不飽和脂肪酸及び飽和脂肪酸は、酸の形態でも使用可能であるが、金属塩及び/又はエステルの形態で用いてもよい。不飽和脂肪酸と飽和脂肪酸を併用する場合、両者の混合割合は特に限定されないが、不飽和脂肪酸/飽和脂肪酸が0.5〜1.9であることが好ましい。また、水銀圧入法による空隙径分布曲線における最多確率空隙径のピークが0.03μm未満であり、且つ最多確率空隙容量が0.05〜0.5cm/gであることが好ましい。このような表面処理炭酸カルシウムとしては、具体的には、特開2003−171121号等に記載の炭酸カルシウムが挙げられる。
【0060】
前記炭酸カルシウム(E)の配合割合は特に限定されないが、重合体(A)100質量部に対して1〜50質量部配合されることが好ましく、3〜40質量部が更に好ましく、5〜30質量部が最も好ましい。炭酸カルシウムが50質量部を超えると、十分な難燃性は得られるものの、組成物の粘度が高粘度となり作業性に問題が生じる場合がある。
【0061】
本発明の硬化性組成物には、さらに(F)シリカを配合することが好ましい。該シリカは親水性シリカと疎水性シリカのいずれも使用できるが、親水性シリカがより好ましい。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。前記シリカ(F)の粒径は特に限定されないが、微粉末シリカが好ましい。前記シリカ(F)の配合割合は特に限定されないが、重合体(A)100質量部に対して1〜20質量部配合されることが好ましく、2〜10質量部配合されることがより好ましい。
【0062】
本発明の硬化性組成物には、必要に応じて、種々の添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、水分吸収剤、接着付与剤、充填剤、硬化触媒、難燃助剤、紫外線吸収剤、老化防止剤、着色剤などが挙げられる。
【0063】
前記水分吸収剤としては組成物の水分を吸収したり、水分と反応するものであれば特に限定されない。例えば、メチルシリケート、エチルシリケート、プロピルシリケート、ブチルシリケートに代表されるシリケート化合物類およびそのオリゴマー類、ビニルシラン類、酸化カルシウムなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種以上が併用されてもよい。
【0064】
前記接着付与剤としては、例えば、ビニルシラン、エポキシシラン、スチリルシラン、メタクリロキシシラン、アクリロキシシラン、アミノシラン、ウレイドシラン、クロロプロピルシラン、メルカプトシラン、スルフィドシラン及びイソシアネートシランなどが挙げられる。これらは単独で用いられてもよく、2種類以上が併用されてもよい。
【0065】
前記充填剤としては、各種形状の有機又は無機のものが挙げられるが、タルク、クレー、炭酸マグネシウム、無水珪素、含水珪素、珪酸カルシウム、シラスバルーン、ガラスバルーン等の無機物が好ましく、このような無機物を添加した場合、難燃性や作業性が向上することがある。
【0066】
前記難燃助剤としては、特に限定されないが、難燃剤として市販されているシリコーン化合物が好ましく、ノンハロゲンの難燃助剤として用いることができる。
【0067】
また、本発明の硬化性組成物にさらにエポキシ樹脂を併用すると、残炭率が向上してドリップ性(燃焼中に落下すること)が改善するため、金属水酸化物の配合量を低減できる。
本発明の硬化性組成物は、必要に応じて1液型とすることも可能であるし、2液型とすることも可能である。本発明の硬化性組成物は、接着剤や固着剤としての使用が最も適しているが、必要に応じて、シーリング材、粘着材、コーティング材、ポッティング材等としても使用可能である。本発明の硬化性組成物は、各種電気・電子分野用、建築物用、自動車用、土木用等に使用可能である。
【0068】
本発明の硬化性組成物は難燃性を要求される製品の部品接着に好適に使用される。難燃性を要求される製品としては、電気製品、例えば、PTC素子を含む電子製品、スピーカー、ビデオカセットプレイヤー、テレビ、ラジオ、自動販売機、冷蔵庫、パーソナルコンピューター、カード型電池、ビデオカメラ等やカメラ、自動車部品及び精密機器等を挙げることができる。前記PTC素子がポリマーPTC素子であることが好適である。PTC素子は、例えば、電池パック、回路保護素子、温度感応スイッチなど、さらに具体的には、トランス、モーターの加熱保護、回路のIC、LSIの加熱、過電流保護、電池パックの加熱、過電流保護、コンピュータおよび周辺機器の加熱、過電流保護などに好適に用いられる。ポリマーPTC素子を含む電子製品としては、例えば、コンピュータ及び周辺機器、携帯電話の電池パック、通信及びネットワーク機器、電源、産業用コントローラ、自動車、民生用機器等が挙げられる。
【0069】
本発明の硬化性組成物は、これらに加えて、高圧部品、高圧となりうる回路やその周辺で使用される部品の接着、長時間連続運転される電器製品内の接着にも適用することができる。これらの部品の具体例としては、コネクター、スイッチ、リレー、電線ケーブル、フライバックトランス、偏向ヨーク等を挙げることができる。特に、ポリマーPTC素子やポリマーPTC素子と同一密閉空間内の他の部品の接着に好適に用いることができ、該他の部品はPTC素子に接触していてもよく、接触していなくてもよい。
【実施例】
【0070】
以下に実施例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、これらの実施例は例示的に示されるもので限定的に解釈されるべきでないことはいうまでもない。
【0071】
(合成例1)
攪拌装置、窒素ガス導入管、温度計および環流冷却器を備えたフラスコに、グリセリンを開始剤とし、亜鉛ヘキサシアノコバルテート−グライム錯体触媒の存在下、プロピレンオキシドを反応させて得られた水酸基価換算分子量14000、かつ分子量分布1.3のポリオキシプロピレントリオールを得た。得られたポリオキシプロピレントリオールにナトリウムメトキシドのメタノール溶液を添加し、加熱減圧下メタノールを留去してポリオキシプロピレントリオールの末端水酸基をナトリウムアルコキシドに変換し、末端アルコキシド化ポリオキシプロピレン系重合体を得た。
【0072】
次に、得られた末端アルコキシド化ポリオキシプロピレン系重合体に塩化アリルを反応させて、未反応の塩化アリルを除去し、精製して、末端にアリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体を得た。この末端にアリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体に対し、シリル化合物である3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(商品名:KBM803、信越化学工業(株)製)を、重合開始剤である2,2’−アゾビス−2−メチルブチロニトリル(AIBN、和光純薬工業(株)製)を用いて反応させ、末端にトリメトキシシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体を得た。
得られた末端にトリメトキシシリル基を有するポリオキシプロピレン系重合体の分子量をGPCにより測定した結果、ピークトップ分子量は15000、分子量分布1.3であった。H1−NMR測定により末端のトリメトキシシリル基は1分子あたり2.2個であった。
【0073】
(合成例2)
撹拌装置、窒素ガス導入管、温度計および還流冷却管を備えたフラスコに、メチルメタクリレート(東京化成工業(株)製)70.00g、2−エチルヘキシルメタクリレート(東京化成工業(株)製)30.00g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(東京化成工業(株)製)6.90g及び金属触媒としてジルコノセンジクロライド0.10gを仕込みフラスコ内に窒素ガスを導入しながらフラスコの内容物を80℃に加熱した。ついで、充分に窒素ガス置換したメルカプトメチルトリメトキシシラン6.90gを撹拌下にフラスコ内に一気に添加した。メルカプトメチルトリメトキシシラン6.90gを添加後、撹拌中のフラスコ内の内容物の温度が80℃に維持できるように、加熱及び冷却を4時間行った。さらに、充分に窒素ガス置換したメルカプトメチルトリメトキシシラン6.90gを撹拌下に5分かけてフラスコ内に追加添加した。メルカプトメチルトリメトキシシラン6.90g全量を追加添加後、撹拌中のフラスコ内の内容物の温度が90℃に維持できるように、さらに冷却及び加温を行いながら、反応を4時間行った。合計で8時間5分間の反応後、反応物の温度を室温に戻し、反応物にベンゾキノン溶液(95%THF溶液)を20.00g添加して重合を停止し、分子鎖末端と分子鎖中にトリメトキシシリル基を有するビニル系重合体を得た。ピークトップ分子量は2000、分子量分布は1.6であった。H1−NMR測定により含有されるトリメトキシシリル基は1分子あたり2.00個であった。
【0074】
(実施例1、比較例1〜3)
表1に示した配合(単位:質量部)で成分(A)〜(F)をプラネタリーミキサーに入れて100℃で1時間混合した後、20℃に冷却し、水分吸収剤、接着付与剤及び硬化触媒を入れて、10分間真空減圧混合し、硬化型組成物を得た。
【0075】
【表1】

表1中の各配合物質は次の通りである。
*1 ハイジライトH42:昭和電工(株)製、水酸化アルミニウム(平均粒径1.1μm)
*2 ハイジライトH42S:昭和電工(株)製、表面脂肪酸処理水酸化アルミニウム(平均粒径1.1μm)
*3 ソルフィット:(株)クラレ製、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール
*4 白艶華CCR:白石工業(株)製、表面処理炭酸カルシウム(平均粒径0.08μm)
*5 シリカ:(株)トクヤマ製、商品名レオロシールQS−20〔親水性シリカ〕
*6 水分吸収剤:エチルシリケート
*7 接着付与剤:東レダウコーニングシリコーン(株)製、商品名SH6020〔γ−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン〕
*8 硬化触媒:ジオクチル錫オキサイド
【0076】
(C)成分の3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、(C)成分に対応するアルコール類であるブタノール、イソプロピルアルコール、オクタノールの23℃における粘度、沸点及び分子量をそれぞれ表2に示した。
【0077】
【表2】
【0078】
得られたそれぞれの硬化性組成物を接着剤として使用し、下記性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0079】
1)粘度及びタックフリータイム
各接着剤を23℃50%RH環境下で24時間放置した後、B型粘度計(東機産業製、BHローター7番、回転速度20rpm、測定上限値200pa・s)を使用し、粘度を測定した。その結果を初期粘度とした。その後、50℃乾燥機中に30日間放置した後、23℃50%RH環境下で24時間放置し、液温が23℃になるように調整し、同様に粘度測定を行った。望ましい粘度は、30〜150pa・sである。
硬化時間は、JIS A 1439 5.19 タックフリー試験に準じて、23℃RH50%の環境下にて指触乾燥時間(TFT)を測定した。タックフリー変化率を0.80〜1.20までを○、0.79以下、1.21以上を×とした。
【0080】
2)難燃性
接着剤を、シリコーン離型紙間で1.5mmのスペーサーを用いてシートを作製した。室温で硬化後(20℃7日後)、離型紙から剥がし、1.5×13×130mmの硬化シートを作製した。得られた硬化シートに対し、UL94V−0規格に基づき試験を行い、難燃性を評価した。
具体的には以下の各項目を全て満たすものを合格、一つでも満たさないものを不合格とした。
a)各試料の残炎時間t1またはt2が「10秒以下」
b)全ての処理による各組の残炎時間の合計(5枚の試料のt1+t2)が「50秒以下」
c)第2回接炎の各試料の残炎時間と残じん時間の合計(t2+t3)が「30秒以下」d)各試料の保持クランプまでの残炎または残じんが「無い事」
e)発炎物質または滴下物による標識用綿の着火が「無い事」
t1〜t3は下記の通りである。
t1:第1回接炎の試料の残炎時間(秒)
t2:第2回接炎の試料の残炎時間(秒)
t3:第2回接炎の試料の残じん時間(秒)
【0081】
3)抵抗値の変化率
ポリスイッチ(タイコエレクトロニクスレイケム(株)製)の表面に接着剤3gを直接塗布し密封状態にて23℃50%RH環境下で21日放置し、デジタルオームメータにて抵抗値を測定し、初期値からの抵抗値変化率を調べた。なお、ポリスイッチとは、2枚の金属電極箔で導電性ポリマーのシートを挟み込んだ構造を有する、ポリマー系のPTCサーミスターである。
評価基準は下記の通りである。また、初期値とは接着剤を塗布する前のポリスイッチの抵抗値である。
○:初期値の±20%以内、×:初期値の±20%以外。
【0082】
4)作業性
カートリッジに前記接着剤を333mL充填し、23℃50%RH環境下で24時間放置した後、エアーガン(ノズル直径3mm、エアー圧3kg/cm2)を使用して該接着剤を333mL吐出するのに要した時間を測定した。評価基準は下記の通りである。
◎:所要時間90秒以下、○:所要時間90秒を超えて180秒以下、×:180秒を超えても333mL吐出できなかったもの。
【0083】
5)接着強度
軟鋼板(1.6×25×100mm)に各接着剤を25×25mmの接着面積で接着剤を200μm厚に塗布し、オープンタイムを3分とって貼り合わせ、23℃50%RH環境下で7日養生し、引っ張り速さ50mm/分で接着強さを測定した。
【0084】
表1の結果から明らかなように、実施例1の硬化性組成物は貯蔵後にもタックフリータイムは初期と同等の値であり、貯蔵後の硬化遅延がない。これに対して比較例1〜3の硬化性組成物は貯蔵後にタックフリータイムが初期の値より長くなっており貯蔵後に硬化遅延が生じている。なお、貯蔵前後で粘度の値に大きい差はなく、粘度増加は許容できる範囲内である。また、他の特性も実施例と比較例の間に大きい差はないと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
本発明の硬化性組成物は金属水酸化物を難燃剤として、アルコール類を希釈剤とする硬化性組成物において、特定のアルコール類を使用するため貯蔵後に硬化遅延がおきないという特徴を有する。このため難燃性接着剤として、特に電子材料の接着に好適に使用することができる。