(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428094
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20181119BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
H01F38/12 J
H01F38/12 G
F02P15/00 303B
【請求項の数】8
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-195245(P2014-195245)
(22)【出願日】2014年9月25日
(65)【公開番号】特開2016-66727(P2016-66727A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2017年7月20日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】特許業務法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 美孝
【審査官】
池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2007−081085(JP,A)
【文献】
特開2004−253818(JP,A)
【文献】
特開2005−252233(JP,A)
【文献】
特開平11−040446(JP,A)
【文献】
特開2008−115846(JP,A)
【文献】
特開平08−017657(JP,A)
【文献】
特開2013−074095(JP,A)
【文献】
特開平11−204357(JP,A)
【文献】
特開2002−031025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/12
F02P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端開口の絶縁性コイルケース(3、7)内に磁気コア(1)を収容し、絶縁性樹脂(4)で封止した点火コイルであって、
上記磁気コアは、コイル(2)が巻回される柱状の中心コア(11)と、その外側を取り囲む矩形の外周コア(12)からなり、
上記コイルケース内に、上記磁気コアを、上記中心コアの軸方向が水平方向となるように収容し、上記外周コアの外壁面の少なくとも一部を、上記コイルケースの内壁面に隣接させて配置するとともに、
上記磁気コアと上記絶縁性樹脂の間に介在し、少なくとも上記外周コアの上面を覆う緩衝部材(5)を設け、かつ上記外周コアと上記コイルケースとの隣接位置において、上記緩衝部材の外周縁部を上記コイルケース側へ突出させて、該突出部(51)を、対向する上記コイルケースの壁部に設けた支持面(34a、72a、76a)上に突出させることを特徴とする点火コイル。
【請求項2】
上記支持面を、上記コイルケース(3)の壁部の肉厚を変化させて、または、上記コイルケースの壁部を屈曲変形させて形成した段部(34)の水平面(34a)にて構成する請求項1記載の点火コイル。
【請求項3】
上記支持面の上方に対向位置して、その下端面(35a)と上記支持面との間に、上記突出部を保持する補助ケース(35)を設けた請求項2記載の点火コイル。
【請求項4】
上記コイルケース(7)を上側ケース(71)と下側ケース(72)で構成し、上記支持面となる上記下側ケースの上端壁部の水平面(72a、76a)と、上記上側ケースの下端壁部の水平面(71a)との間に、上記突出部を保持する請求項1記載の点火コイル。
【請求項5】
上記補助ケースに、上記突出部の外周側に位置する縦壁からなる高さ調整部(73、75、77)を設けた請求項3記載の点火コイル。
【請求項6】
上記上側ケースまたは上記下側ケースに、上記突出部の外周側に位置する縦壁からなる高さ調整部(73、75、77)を設けるか、または、上記上側ケースに、上記突出部の外周側を覆って下方へ延出するケースガイド(74)を設けるか、または、上記高さ調整部と上記ケースガイドの両方を設けた請求項4記載の点火コイル。
【請求項7】
上記コイルケースおよび上記外周コアが矩形形状を有し、矩形筒状とした上記外周コアの上面の3辺を上記コイルケースの内壁面に隣接させるとともに、上記緩衝部材を上記外周コアの上面を覆って配置し、その3辺の外周縁部に沿って上記突出部を設けた請求項1ないし6のいずれか1項に記載の点火コイル。
【請求項8】
上記緩衝部材がゴム材料または樹脂材料からなる矩形枠状のシートである請求項1ないし7のいずれか1項に記載の点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用エンジン等の内燃機関において、点火装置に必要な高電圧を発生させる点火コイルに関し、特にコイルケースに収容される磁気コアの絶縁構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンに用いられる点火装置は、点火コイルで発生させた高電圧によって点火プラグに火花放電を生じさせる。一般に、点火コイルは、中心コアの外周に1次コイルと2次コイルを巻回し、その外側に、外周コアを配置して構成される。これらの部品は、絶縁性のコイルケース内に収容され、ケース内の空間にはエポキシ樹脂等の絶縁性樹脂が充填されて絶縁封止している。
【0003】
特許文献1には、センタコアおよびサイドコアからなり磁気回路を構成するコア部と、センタコア周りに設けたボビンに巻装される1次コイルおよび2次コイルを、コイルケース内に収容し、絶縁性樹脂を封入して一体化した点火コイルについて、
図8に示すように、サイドコア101を弾性部材102で被い、連接されるセンタコア103を、1次スプール104と同材質の樹脂で被った構成が開示されている。特許文献1の構成は、コア角部の外側に弾性部材を介在させることで、コア部と絶縁性樹脂の線膨張係数差による応力を緩和し、絶縁性樹脂にコア角部を起点とするクラックが生じる不具合を回避しようとするものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−81085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
点火装置の信頼性を確保するため、点火コイルには、高い耐電圧特性が要求される。一方で、搭載性やコスト面から、点火装置の小型化が要求されており、絶縁性の向上との両立が課題となっている。このため、特許文献1の点火コイルは、コア部、特にサイドコア101の周囲に薄肉の弾性部材102を覆着することで、サイドコア101とコイルケース内壁面との距離を小さくして小型化を図り、エンジンレイアウト性を改善している。
【0006】
しかしながら、特許文献1の点火コイルは、サイドコア101の外側表面全体を弾性部材102で覆う構成であるために、弾性部材102を複数に分割して嵌合させる必要があり、サイドコア101の固定のために嵌合部にコア露出部が形成されるなど、形状が複雑となり部品コストや装着の手間がかかる。また、弾性部材102がコア部の両端面部にも配置されるために軸方向長が長くなり、点火コイルの小型化が制限される不具合がある。
【0007】
そこで、本願発明は、冷熱環境における熱応力で絶縁性樹脂に発生するクラックを確実に防止し、しかも体格をより小さくして搭載性を向上させ、高い絶縁性と信頼性を備えた点火コイルを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1に記載の発明は、上端開口の絶縁性コイルケース内に磁気コアを収容し、絶縁性樹脂で封止した点火コイルであって、
上記磁気コアは、コイルが巻回される柱状の中心コアと、その外側を取り囲む矩形の外周コアからなり、
上記コイルケース内に、上記磁気コアを、上記中心コアの軸方向が水平方向となるように収容し、上記外周コアの外壁面の少なくとも一部を、上記コイルケースの内壁面に隣接させて配置するとともに、
上記磁気コアと上記絶縁性樹脂の間に介在し、少なくとも上記外周コアの上面を覆う緩衝部材を設け、かつ上記外周コアと上記コイルケースとの隣接位置において、上記緩衝部材の外周縁部を上記コイルケース側へ突出させて、該突出部を、対向する上記コイルケースの壁部に設けた支持面上に突出させる。
【0009】
本発明の請求項2に記載の発明は、上記支持面を、上記コイルケースの壁部の肉厚を変化させて、または、上記コイルケースの壁部を屈曲変形させて形成した段部の水平面にて構成する。
【0010】
本発明の請求項3に記載の発明は、上記支持面の上方に対向位置して、その下端面と上記支持面との間に、上記突出部を保持する補助ケースを設ける。
【0011】
本発明の請求項4に記載の発明は、上記コイルケースを上側ケースと下側ケースで構成し、上記支持面となる上記下側ケースの上端壁部の水平面と、上記上側ケースの下端壁部の水平面との間に、上記突出部を保持する。
【0012】
本発明の請求項5に記載の発明は、上記補助ケース、上記上側ケースまたは上記下側ケースに、上記突出部の外周側に位置する縦壁からなる高さ調整部を設ける。
【0013】
本発明の請求項6に記載の発明は、上記上側ケースに、上記突出部の外周側を覆って下方へ延出するケースガイドを設ける。
【0014】
本発明の請求項7に記載の発明は、上記コイルケースおよび上記外周コアが矩形形状を有し、矩形筒状とした上記外周コアの上面の3辺を上記コイルケースの内壁面に隣接させるとともに、上記緩衝部材を上記外周コアの上面を覆って配置し、その3辺の外周縁部に沿って上記突出部を設ける。
【0015】
本発明の請求項8に記載の発明は、上記緩衝部材がゴム材料または樹脂材料からなる矩形枠状のシートである。
【発明の効果】
【0016】
本発明の点火コイルは、外周コアの少なくとも一部をコイルケースの内壁面に隣接させて配置し、外周コアの上面に配置した緩衝部材の外周縁部に突出部を形成して、ケース壁面部に設けた段部に突出させる、またはケース端部で支持させることで、外周コアの角部を確実に覆い、冷熱環境において生じる熱応力を吸収または軽減して、外周コアの角部を起点とするクラックを防止する。したがって、絶縁性を確保しつつコイルケースの体格を小さくして、搭載性と信頼性を両立させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1A】本発明を適用した第1実施形態における点火コイルの要部拡大図で、
図1BのA部拡大図である。
【
図1B】第1実施形態の点火コイルの全体構成を示す断面図である。
【
図1C】第1実施形態の点火コイルの上面図である。
【
図2】第1実施形態の点火コイルの上面図で、緩衝部材を取り外した状態を示した図である。
【
図3A】点火コイルに取り付けられる緩衝部材の側面図で、
図3BのA矢視図および緩衝部材の上面図である。
【
図3B】点火コイルに取り付けられる緩衝部材の下面図で、
図3AのB矢視図である。
【
図4A】第1実施形態の点火コイルの作用効果を説明するための要部拡大図である。
【
図4B】緩衝部材を配置しない場合の点火コイルの要部拡大図である。
【
図4C】緩衝部材に突出部を設けない場合の点火コイルの要部拡大図である。
【
図5A】第2実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図5B】第3実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図6A】第4実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図6B】第5実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図6C】第6実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図6D】第7実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図7A】第8実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図7B】第9実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図7C】第10実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【
図7D】第11実施形態における点火コイルの要部拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を内燃機関の点火装置に適用した第1実施形態を、図面により説明する。
図1B、1Cは、車両エンジン用の点火コイルの概略構成であり、中心コア11および外周コア12からなる磁気コア1を、上端開口の絶縁性コイルケース3内に収容し、磁気コア1の周囲に絶縁性樹脂4を注入硬化させて、絶縁封止している。磁気コア1と絶縁性樹脂4との間には、本発明の特徴である緩衝部材5が介在しており、その要部を
図1Aに示す。点火コイルは、中心コア11外周に巻回されるコイル2として1次コイル21および2次コイル22を備え、図示しない点火プラグに供給するための高電圧を発生する。
【0019】
コイルケース3は、角を丸めた略矩形容器状の樹脂成形体からなる。コイルケース3内には、柱状の中心コア11が、図の水平方向を軸方向として配置されており、中心コア11の軸方向の一端側(
図1Bの左端側)には、イグナイタ6が配設されている。イグナイタ6と対向するコイルケース3の外側面には、図示しない車両制御部に接続されるコネクタ61が設けられて、イグナイタ6への通電を制御する。コイルケース3の他方の外側面には、ケース固定用の取付穴を有する取付部31が、コイルケース3の底面には、プラグ穴に挿通固定されるプラグ接続部32が、一体的に設けられる。プラグ接続部32内には端子部32aが設けられて、コイル2下側の高電圧端子2aと電気的に接続している。端子部32a下面には金属製スプリング32bが当接し、プラグ接続部32の外周には防水ゴム32cが配設される。コイル2上側の低電圧端子2bは、イグナイタ6の端子62に接続される。
【0020】
図2は、緩衝部材5を取り外した状態を示しており、外周コア12は、中心コア11およびコイル2の外側を取り囲むように、コイル2と間隔をおいて配置される。外周コア12は、磁性材料からなる平板を積層して、コイルケース3の内周囲に沿う略長方形の筒状に成形されている。中心コア11は、磁性材料からなる平板を積層して、例えば矩形断面の柱状に成形される。コイル2は、中心コア5に外挿した1次スプール23の両端フランジ間に1次コイル21を巻線し、その外側に多数のスロットを区画形成した2次スプール24を外挿して、2次コイル22を分割巻線して構成される。1次スプール23、2次スプール24は樹脂材料からなり、1次コイル21、2次コイル22は、所定線径の絶縁被覆銅線を軸方向の一端側から他端側へ、所定のターン数で巻回される。ここでは、イグナイタ6側が低電圧、反対側の端部が高電圧となり、巻線終端部に高電圧端子2aが設けられる。
【0021】
本実施形態において、外周コア12の壁面のうち、コイルケース3の取付部31側の壁面とその両側の壁面が、コイルケース3の内壁面に隣接している。すなわち、外周コア12の矩形枠状の上面は、イグナイタ6側を除く3辺について、その外周縁部がコイルケース3の内壁面にほぼ隙間なく近接して配置される。
図1Bに示すように、磁気コア1は、その上下に空間を有してコイルケース3内に支持され、絶縁性樹脂4は、磁気コア1の上部および下部空間と、外周コア12とイグナイタ6の間の空間、さらに外周コア12と中心コア11の間の空間(
図1C参照)に充填して、各部材間を絶縁封止している。絶縁性樹脂4としては、例えば、硬質エポキシ樹脂等の電気絶縁性に優れた熱硬化性樹脂材料が好適に使用される。
【0022】
この構成により、コイルケース3がコンパクトになり、絶縁性樹脂4の充填量も低減できる。ただし、点火コイルは、通電によりコイル2が繰返し発熱する使用環境にあることから、硬質の絶縁性樹脂4磁気コア1との境界部において、線膨張係数差により絶縁性樹脂4にクラックが生じるおそれが大きくなる。そこで、本発明では、磁気コア1と絶縁性樹脂4との間に緩衝部材5を介在させて、少なくとも外周コア12の上面を覆うとともに、その外周縁部をコイルケース3側へ突出させた突出部51を設ける。本実施形態において、緩衝部材5は、外周コア12の上面側および下面側に配置され、
図1Cに示すように、上面側の緩衝部材5について、コイルケース3に隣接する3辺の外周縁部から外方へ突出する突出部51が設けられる。
【0023】
一方、
図1A、
図2に示すように、外周コア12の上面に隣接するコイルケース3の内壁面に続く壁部には、緩衝部材5の突出部51に対応する位置に、支持面としての水平面34aを有する段部34が設けられる。段部34は、水平面34aより上方のコイルケース3の壁部を薄肉とすることにより形成され、外周コア12の上面高さに設けた水平面34a上で、突出部51を支持している。本実施形態において、突出部51は、緩衝部材5と同じ厚さで一体的に設けられ、水平面34aの幅は、突出部51を収容可能な幅であればよく、コイルケース3内壁部の加工性と強度が両立できる範囲で、例えば、突出部51の突出長さと同等かわずかに隙間を有する程度の幅に設定される。
【0024】
図3A、3Bに詳細を示すように、緩衝部材5は、外周コア12の上面形状に対応する、内外周の角部を丸めた所定厚さの矩形枠状シートであり、3辺に突出部51が形成される。緩衝部材5の内周縁部には、全周に下方に突出する固定用突起52が設けられて、外周コア12の内周に嵌合するようになっている。外周コア12の下面側に設けられる緩衝部材5は、突出部51を有しない以外は、同形状で、固定用突起52により外周コア12の下面側に嵌着される。
【0025】
緩衝部材5としては、電気絶縁性および耐熱性を有し、熱応力を吸収または軽減してクラックを防止可能な材料であればよく、具体的には柔軟性の良好なゴム材料または接着力の低い樹脂材料が好適に用いられる。ゴム材料は、例えば、シリコン系ゴム、アクリル系ゴム、フッソ系ゴム等が挙げられ、外周コア12と絶縁性樹脂4の間に介在して追従変形し、外周コア12上面付近で発生する熱応力を吸収できる。また、樹脂材料としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)等が挙げられる。このような樹脂材料を使用することで、緩衝部材5と絶縁性樹脂4との接着力が、コイルケース3と絶縁性樹脂4との接着力より低くなり、冷熱環境において、緩衝部材5と絶縁性樹脂4との界面が剥離するために、外周コア12上面付近で発生する熱応力を軽減できる。
【0026】
図4Aに示すように、この効果を得るには、緩衝部材5が外周コア12上面の外周角部を覆って、より外側に位置する突出部51を有していればよい。さらに、突出部51の下面側に段部34の水平面34aを配置することで、突出部51を支持して変形や位置ズレ等を防止できる。これに対して、緩衝部材5を有しない場合は(
図4B)、冷熱サイクルにより金属製の外周コア12が繰返し伸縮する際、硬質の絶縁性樹脂4が追従できず、外周コア12の外周角部を起点とするクラックが発生する(エポキシクラック)。これは、緩衝部材5に突出部51を有しない場合も同様であり(
図4C)、緩衝部材5は外周コア12の上面を保護するものの、変形または剥離する際に、外周コア12の上面が露出することがあるために、エポキシクラックの発生を完全に防止することは難しい。
【0027】
図5Aは、本発明の第2の実施形態であり、第1実施形態のようにコイルケース3の肉厚を段部34の上下で変更せず、コイルケース3の壁部を、段部34の形成位置において外方へクランク状に屈曲させている。この時、コイルケース3の肉厚は一定であり、段部34の水平面34aより下側のコイルケース3は、外形が第1実施形態より小さくなるので、体格を小型化できる。コイルケース3の肉厚は、成形性とケース強度が両立できる範囲で適宜設定すればよい。
【0028】
図5Bは、本発明の第3の実施形態であり、第1実施形態のコイルケース3の内周側に、筒状の補助ケース35を配置する。補助ケース35は、コイルケース3と同材質の樹脂成形体からなり、段部34より上方のコイルケース3上部内周面に嵌合可能に成形される。この時、補助ケース35端部の水平な下端面35aと、支持面である段部34の水平面34aとの間に、緩衝部材5の突出部51を保持する。これにより、緩衝部材5を上方から抑えて浮き上がりを防止し、クラック発生を防止する効果を高めることができる。
【0029】
補助ケース35の厚さは、例えば、水平面34aの幅と同等程度とし、コイルケース3の薄肉部とともに壁部を構成して、コイルケース3の強度を向上させる。補助ケース35は、その内側に絶縁性樹脂4が充填されることで固定されるが、例えば、突出部51を保持しないイグナイタ6側の下端部を、コイルケース3の段部34に当接する位置まで延出することで、位置決め固定を容易にすることもできる。
【0030】
図6は、本発明の他の実施形態であり、コイルケース3に段部34を設ける代わりに、上下2分割して、その対向端部に突出部51を支持させることもできる。
図6Aに示す第4実施形態では、絶縁性のコイルケース7を、上側ケース71と下側ケース72にて構成し、支持面となる下側ケース72上端壁部の水平面72a上に、緩衝部材5の突出部51を突出位置させている。突出部51の上方には、上側ケース71の下端壁部が位置し、その下端水平面71aと下側ケース72の水平面72aの間に、突出部51が狭持される。コイルケース7は、突出部51が形成されない位置では、上側ケース71が下側ケース72に当接する位置まで延設され、その内側に絶縁性樹脂4を充填することで固定される。
【0031】
あるいは、
図6Bに示す第5実施形態のように、上側ケース71の下端部を逆L字状に切り欠いて、突出部51の外方に位置する縦壁からなる高さ調整部73とすることもできる。これにより、突出部51が保持される上側ケース71と下側ケース72の水平面71a、72a間の間隔が一定となり、緩衝部材5とコイルケース7の締めしろが安定して、絶縁性樹脂4の漏れが防止できる。また、製造後の製品取り扱い時に、コイルケース7に何らかの荷重が加えられても、突出部51を保持する上側ケース71下端部または下側ケース72上端部に荷重がかかって絶縁性樹脂4のクラックの起点となる不具合を防止できる。
【0032】
図6Cに示す第6実施形態のように、
図6Aの第4実施形態の構成に加えて、上側ケース71にケースガイド74を設けることもできる。ケースガイド74は、上側ケース71の下端部をクランク状に外方へ屈曲変形させることにより形成され、突出部51の外周側を覆って水平面71aの外周端縁部から下方へ延出して、下側ケース72の上端部外周面を覆っている。これにより、コイルケース7外側への絶縁性樹脂4のはみ出しが防止できる。また、上下ケース71、72の水平方向の位置決めが容易になる。
【0033】
図6Dに示す第7実施形態のように、
図6Bの第5実施形態と
図6Cの第6実施形態の構成を組み合わせることもできる。具体的には、ケースガイド74の下端部内周を階段状に切欠いて、突出部51の外方に、下側ケース72の水平面72aに当接する高さ調整部75を形成する。これにより、組付時の上側ケース71と下側ケース72の水平方向の位置決めが容易になり、また、突出部51を保持する上下ケース71、72の距離が一定となり、絶縁性樹脂4のはみ出しを防止できる。さらに、製品取り扱い時にコイルケース7に加わる荷重で、突出部51またはその近傍に荷重がかかり、絶縁性樹脂4のクラックの起点となる不具合を防止できる。
【0034】
図7Aに示す第8実施形態は、第1実施形態の変形例であり、コイルケース3に設けた段部34と、対向する緩衝部材5の突出部51の間に、隙間が形成されている。このように、突出部51は、段部34の水平面34aに当接している必要はなく、外周コア12の外周角部を覆ってその上方の絶縁性樹脂4との間を区画していれば、外周コア12より上方の絶縁性樹脂4にクラックが進展するのを防止することができ、同様の効果が得られる。
【0035】
図7Bに示す第9実施形態は、第1実施形態の変形例であり、コイルケース3の段部34上に支持される突出部51の先端を薄肉として、弾性を高めた位置決め用突起53としている。この時、位置決め用突起53を含む突出部51の突出長さを、水平面34aの幅よりわずかに長くすることで、緩衝部材5の組み付け時に、位置決め用突起53を対向するコイルケース3内壁面に圧接させる。緩衝部材5の位置決めを確実に行い、使用時の浮き上がりを防止することができる。
【0036】
図7Cに示す第10実施形態は、
図6Bの第5実施形態の変形例であり、下側ケース72の
段部76の水平面
76aの外側に高さ調整部77を一体的に形成している。このように、高さ調整部77は、上側ケース71または下側ケース72のいずれに設けることもできる。また、
図7Dに示す第11実施形態は、この第10実施形態の構成に、
図6Cの第6実施形態に示したケースガイド74を組み合わせた変形例であり、ケースガイド74を簡易な形状となる。
【0037】
以上のように、本発明によれば、少なくとも外周コア12の上面側に緩衝部材5を配置して、コイルケース3と隣接する位置に突出部51を設けることで、絶縁性樹脂4との線膨張係数差による熱応力を緩和し、外周角部を起点とするエポキシクラックを確実に防止できる。コイルケース3に隣接しないイグナイタ6側の外周縁部については、突出部51を設けることもできるが、絶縁性樹脂4を十分な絶縁距離で充填可能であり、上記実施形態では突出部51を形成していない。外周コア12の下面側に配置される緩衝部材5についても、コイルケース3と隣接する位置に突出部51を設けてもよいが、絶縁性樹脂4の上部表面にエポキシクラックが進展するおそれはないため、必ずしも突出部51を設ける必要はない。
【0038】
したがって、本発明の点火コイルは、磁気コア1と絶縁性樹脂4の間に介在する緩衝部材5によって、コイルケース3の小型化を可能にし、簡易な構成で高い信頼性を実現できる。なお、上記実施形態における点火コイルの基本構成は適宜変更してもよく、例えば、コイルケース3の外形や磁気コア1の断面形状は、通常公知の他の形状とすることができる。また、コイル2を構成する1次コイル21および2次コイル22や、これらが巻回される1次スプール23および2次スプール24、その他部材の形状は任意に設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の点火コイルは、車載用、特に設置スペースが限られた点火装置に適用されて小型化と高性能化の要求を両立することが可能であり、利用価値が高い。
【符号の説明】
【0040】
1 磁気コア
11 中心コア
12 外周コア
2 コイル
3 コイルケース
34 段部
34a 水平面(支持面)
35 補助ケース
35a 下端面
4 絶縁性樹脂
5 緩衝部材
51 突出部
6 イグナイタ
7 コイルケース
71 上側ケース
71a 水平面
72 下側ケース
72a 水平面(支持面)
73、75、77 高さ調整部
74 ケースガイド