特許第6428215号(P6428215)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6428215ラック軸素材の鍛造装置、鍛造装置を用いた製造方法及びラック軸素材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428215
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】ラック軸素材の鍛造装置、鍛造装置を用いた製造方法及びラック軸素材
(51)【国際特許分類】
   B21K 1/76 20060101AFI20181119BHJP
   B21J 5/02 20060101ALI20181119BHJP
   F16H 55/26 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   B21K1/76 A
   B21J5/02 C
   F16H55/26
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2014-245263(P2014-245263)
(22)【出願日】2014年12月3日
(65)【公開番号】特開2016-107287(P2016-107287A)
(43)【公開日】2016年6月20日
【審査請求日】2017年11月9日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100089082
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 脩
(74)【代理人】
【識別番号】100130188
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 喜一
(74)【代理人】
【識別番号】100190333
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 群司
(72)【発明者】
【氏名】成澤 正美
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 良太
(72)【発明者】
【氏名】福井 正人
【審査官】 塩治 雅也
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2005/0115298(US,A1)
【文献】 特開2001−079639(JP,A)
【文献】 英国特許出願公開第02108026(GB,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B21J 1/00−13/14
B21J 17/00−19/04
B21K 1/00−31/00
F16H 55/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、
前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、
前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、
前記バリの形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の前記中央部より前記ラック歯形成部の前記第一端部の方が小さい、ラック軸素材の鍛造装置。
【請求項2】
半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、
前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、
前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面と、
前記第一溝部から前記軸直交方向に離間する前記第一縁面の外側において、前記第一縁面と接続され前記バリの形成時において対向する前記第二型から離間する方向に傾斜する第一傾斜面と、を備え、
前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面と、
前記第二溝部から前記軸直交方向に離間する前記第二縁面の外側において、前記第二縁面と接続され前記バリの前記形成時において対向する前記第一型から離間する方向に傾斜する第二傾斜面と、を備え、
前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、
前記バリの前記形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の中央部より前記ラック歯形成部の第一端部の方が小さい、ラック軸素材の鍛造装置。
【請求項3】
半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、
前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、
前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面と、
前記第一溝部から前記軸直交方向に離間する前記第一縁面の外側において、前記第一縁面と接続され前記バリの形成時において対向する前記第二型から離間する方向に傾斜する第一傾斜面と、
前記第一傾斜面のさらに外側において、前記第一傾斜面と接続され、前記第一縁面と平行で、且つ前記バリの前記形成時において前記第一縁面より前記第二型から離間するよう配置される第一逃がし面と、を備え、
前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面と、
前記第二溝部から前記軸直交方向に離間する前記第二縁面の外側において、前記第二縁面と接続され前記バリの前記形成時において対向する前記第一型から離間する方向に傾斜する第二傾斜面と、
前記第二傾斜面のさらに外側において、前記第二傾斜面と接続され、前記第二縁面と平行で、且つ前記バリの前記形成時において前記第二縁面より前記第一型から離間するよう配置される第二逃がし面と、を備え、
前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、
前記バリの前記形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の中央部より前記ラック歯形成部の第一端部の方が小さい、ラック軸素材の鍛造装置。
【請求項4】
前記離間距離は、前記中央部から前記第一端部に向かって漸減する、請求項1−3の何れか1項に記載のラック軸素材の鍛造装置。
【請求項5】
前記ラック軸素材は、前記ラック歯形成部の前記第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ、前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、
前記第一溝部の一端及び前記第二溝部の一端は、軸方向に貫通し前記第一非ラック軸部の第一端面側への移動を許容し、
前記第一溝部の他端及び前記第二溝部の他端は、前記第二非ラック軸部の端面に対向する規制端面を備え、前記第二非ラック軸部の第二端面側への移動を規制する、
請求項1−4の何れか1項に記載のラック軸素材の鍛造装置。
【請求項6】
前記ラック軸素材の鍛造装置は、前記第一型及び前記第二型による、前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周を押圧し、前記原材料に対する鍛造時に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制するクランパを備える、請求項に記載のラック軸素材の鍛造装置。
【請求項7】
半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、
前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、前記ラック歯形成部の第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ、前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、
前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記鍛造装置は、前記第一型及び前記第二型による前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周を押圧し、前記原材料に対する鍛造時に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制するクランパをさらに備える、ラック軸素材の鍛造装置。
【請求項8】
半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を用いてラック軸素材を製造する方法であって、
前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出し、前記ラック歯形成部の軸方向中央部の厚みより前記ラック歯形成部の第一端部の厚みの方が小さく形成されるバリと、を備え、
前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延びる第二溝部、及び前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、
前記ラック軸素材は、前記ラック歯形成部の前記第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、
前記ラック軸素材の製造方法は、
前記第一型、及び前記第二型による、前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周面をクランパにより押圧する押圧工程と、
前記原材料に対する鍛造時に、前記クランパにより前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制しながら、前記ラック歯、及び前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出される前記バリが形成される鍛造工程と、を備える、ラック軸素材の製造方法。
【請求項9】
請求項1−7の何れか1項に記載の前記ラック軸素材の前記鍛造装置により製造されたラック軸素材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鍛造によって形成されるラック歯を有するラック軸素材の鍛造装置、鍛造装置を用いた製造方法、及びラック軸素材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、複数のラック歯が鍛造によって形成されるラック軸素材がある。特許文献1に示すラック軸素材は、複数のラック歯を備えるラック歯形成部と、ラック歯形成部の両端に連結されラック歯を備えない長軸部、及び短軸部と、を備える。なお、ラック軸素材を加工して形成される最終製品のラック軸は、自動車用ステアリング装置に使用される部品である。
【0003】
特許文献1に示す技術では、複数のラック歯を鍛造によって形成する際、ラック歯形成部からは余分な肉が鍛造型の上下金型の合わせ面と平行に流れて張り出し、バリとして形成される。具体的には、バリは、余分な肉が閉塞型鍛造金型の上下の金型の少なくとも一方の合わせ面に形成されたバリ形成用の逃出吸収部に移動することで形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−79639号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このとき、余肉はバリ形成用の逃出吸収部に流れるだけではなく、ラック歯を備えない長軸部及び短軸部に向かっても流れる。特許文献1に示す技術においては、短軸部は、鍛造型の行き止まりの溝部によって、伸びが規制されている。長軸部は、鍛造型の貫通する溝部によって、伸びが許容されている。従って、短軸部に隣接するラック歯に多くの余肉が流れ、形状精度のよいラック歯が形成できる。しかし、長軸部に隣接するラック歯への余肉の流れが不足する虞があり、延いては、ラック歯の形状精度が低下する虞がある。
【0006】
逃出吸収部の幅(張り出し長さ)を、長軸部と短軸部とで変えることで、長軸部のラック歯の形状精度の低下をある程度、抑えることができると思われる。しかし、逃出吸収部が、満充填されて、初めて長軸部に隣接するラック歯に十分な余肉が確保できるのであって、複数のラック素材の余肉量を一定にすることは難しいことから、大きめの逃出吸収部を用意することにより、逃出吸収部が、満充填されず、長軸部に隣接するラック歯に十分な余肉を確保することは難しい。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、鍛造によってラック歯を形成しても、高い形状精度を備えるラック歯の形成が可能なラック軸素材の鍛造装置、鍛造装置を用いた製造方法及びラック軸素材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(請求項1)本発明のラック軸素材の鍛造装置は、半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、前記バリの形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の前記中央部より前記ラック歯形成部の前記第一端部の方が小さい。
【0009】
これにより、ラック歯形成部の中央部より第一縁面と第二縁面との離間距離が小さい第一端部側では、鍛造時に、バリの形成方向に向かって流れる肉の流れる量を抑制することができる。これにより、第一端部側におけるラック歯形成用の歯部近傍に留まる余肉の量は多くなる。従って、歯部には、多くの肉が流れ込み、形状精度のよいラック歯の形成が可能となる。
【0010】
(請求項2)ラック軸素材の鍛造装置は、半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面と、前記第一溝部から前記軸直交方向に離間する前記第一縁面の外側において、前記第一縁面と接続され前記バリの形成時において対向する前記第二型から離間する方向に傾斜する第一傾斜面と、を備え、前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面と、前記第二溝部から前記軸直交方向に離間する前記第二縁面の外側において、前記第二縁面と接続され前記バリの前記形成時において対向する前記第一型から離間する方向に傾斜する第二傾斜面と、を備え、前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、前記バリの前記形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の中央部より前記ラック歯形成部の第一端部の方が小さい。
(請求項3)ラック軸素材の鍛造装置は、半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、を備え、前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面と、前記第一溝部から前記軸直交方向に離間する前記第一縁面の外側において、前記第一縁面と接続され前記バリの形成時において対向する前記第二型から離間する方向に傾斜する第一傾斜面と、前記第一傾斜面のさらに外側において、前記第一傾斜面と接続され、前記第一縁面と平行で、且つ前記バリの前記形成時において前記第一縁面より前記第二型から離間するよう配置される第一逃がし面と、を備え、前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面と、前記第二溝部から前記軸直交方向に離間する前記第二縁面の外側において、前記第二縁面と接続され前記バリの前記形成時において対向する前記第一型から離間する方向に傾斜する第二傾斜面と、前記第二傾斜面のさらに外側において、前記第二傾斜面と接続され、前記第二縁面と平行で、且つ前記バリの前記形成時において前記第二縁面より前記第一型から離間するよう配置される第二逃がし面と、を備え、前記バリは、前記第一型と前記第二型とを用いて前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造により、前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出されて形成され、前記バリの前記形成時における前記第一縁面と前記第二縁面との離間距離は、前記ラック歯形成部の中央部より前記ラック歯形成部の第一端部の方が小さい。
(請求項)また、前記離間距離は、前記中央部から前記第一端部に向かって漸減してもよい。これにより、第一端部側におけるラック歯形成用の歯部に流れ込む余肉の量が十分なものとなり、第一端部側のラック歯の形状精度が良好になる。
【0011】
(請求項)また、前記ラック軸素材は、前記ラック歯形成部の前記第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ、前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、前記第一溝部の一端及び前記第二溝部の一端は、軸方向に貫通し前記第一非ラック軸部の第一端面側への移動を許容し、前記第一溝部の他端及び前記第二溝部の他端は、前記第二非ラック軸部の端面に対向する規制端面を備え、前記第二非ラック軸部の第二端面側への移動を規制してもよい。
【0012】
このような鍛造型によりラック歯形成部を形成する場合、第二非ラック軸部の伸びは、規制端面によって規制される。これにより、第二非ラック軸部側のラック歯では、余肉が、ラック歯近傍に留まることによって第一型の歯部に流れ込みやすくなり、形状精度のよいラック歯が形成可能となる。また、第一非ラック軸部では、伸びが許容されている。しかし、第一端部側における第一縁面と第二縁面との間の離間距離は小さい。この小さな離間距離によって、バリの形成方向に向かって流れる肉の流れが抑制される。これにより、第一非ラック軸部側のラック歯位置ではより多くの余肉が流れずに留まることで、第一型の歯部に肉が流れ込みやすくなり、形状精度のよいラック歯を形成可能となる。
【0013】
(請求項)また、前記ラック軸素材の鍛造装置は、前記第一型及び前記第二型による、前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周を押圧し、前記原材料に対する鍛造時に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制するクランパを備えてもよい。
【0014】
このように、ラック軸素材は、鍛造前に作動され、鍛造時において余肉の流れを規制するクランパによって、原材料の第一非ラック軸部側への伸長が抑制されるので、多くの余肉は、第一非ラック軸部側のラック歯位置近傍に留まる。そして、留まった余肉は、第一型の歯部に流入しやすくなる。これにより、第一縁面と第二縁面との間の隙間の離間距離が小さいことによるラック歯の形状精度の向上の効果に加えて、さらに形状精度のよいラック歯の形成が可能となる。
【0015】
(請求項)本発明のラック軸素材の鍛造装置は、半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を備えるラック軸素材の鍛造装置であって、前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出するバリと、前記ラック歯形成部の第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ、前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び、前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延び前記ラック歯の裏面側に対応する第二溝部、及び、前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記鍛造装置は、前記第一型及び前記第二型による前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周を押圧し、前記原材料に対する鍛造時に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制するクランパをさらに備える。
【0016】
このように、ラック軸素材は、クランパによって、第一非ラック軸部に対応する原材料の部位の外周が押圧され、鍛造時においては第一非ラック軸部に対応する原材料の部位の軸方向への移動が抑制される。このため、ラック歯近傍の肉の第一非ラック軸部方向への移動が規制されるので、第一型におけるラック歯形成用の歯部近傍には、より多くの肉が留まり、歯部内に流れ込み、形状精度のよいラック歯が形成可能となる。
【0017】
(請求項)本発明のラック軸素材の製造方法は、半密閉鍛造型を構成する第一型及び第二型を用いてラック軸素材を製造する方法であって、前記ラック軸素材は、ラック歯が形成されるラック歯形成部と、前記ラック歯形成部から軸直交方向に突出し、前記ラック歯形成部の軸方向中央部の厚みより前記ラック歯形成部の第一端部の厚みの方が小さく形成されるバリと、を備え、前記第一型は、前記ラック歯を鍛造形成する歯部を含み前記ラック軸素材の軸方向に延びる第一溝部、及び前記第一溝部の両縁に設けられる第一縁面を備え、前記第一縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第一溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第一溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記第二型は、前記第一型に対向して設けられ、前記ラック軸素材の軸方向に延びる第二溝部、及び前記第二溝部の両縁に設けられ前記第一縁面に対して隙間を介して対向する第二縁面を備え、前記第二縁面は、前記ラック歯形成部の前記中央部に対応する部分における前記第二溝部からの幅より前記ラック歯形成部の前記第一端部に対応する部分における前記第二溝部からの幅の方が小さくなるよう形成され、前記ラック軸素材は、前記ラック歯形成部の前記第一端部に連続して設けられる第一非ラック軸部と、前記ラック歯形成部の前記第一端部と反対側の第二端部に連続して設けられ前記第一非ラック軸部より短い第二非ラック軸部と、を備え、前記ラック軸素材の製造方法は、前記第一型、及び前記第二型による、前記ラック歯の形成前の原材料の鍛造前に、前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の外周面をクランパにより押圧する押圧工程と、前記原材料に対する鍛造時に、前記クランパにより前記原材料の前記第一非ラック軸部に対応する部位の軸方向への移動を抑制しながら、前記ラック歯、及び前記第一縁面と前記第二縁面との間に張り出される前記バリが形成される鍛造工程と、を備える。
【0018】
このように、押圧工程において、ラック軸素材の原材料は、鍛造前に作動されるクランパによって、軸線と直交する方向に押圧される。このため、鍛造時においては、クランパの作用によって原材料の伸長は抑制され、余肉は、第一端部側におけるラック歯形成用の歯部近傍に留まる。また、鍛造工程では、ラック歯形成部の中央部より第一縁面と第二縁面との離間距離が小さい第一端部側において、バリの形成方向に向かって流れる肉の流れる量を抑制することができる。これによっても、余肉は、第一端部側におけるラック歯形成用の歯部近傍に留まる。従って、歯部には、多くの肉が流れ込み、形状精度のよいラック歯の形成が可能となる。
【0019】
(請求項)本発明のラック軸素材は、第一型におけるラック歯形成用の歯部に多くの肉が流れ込むことによって形成された良好な形状精度を有したラック歯を備える。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本実施形態に係るラック軸素材の側面図である。
図1B】本実施形態に係るラック軸素材の上面図である。
図2】ラック軸素材の軸線方向で切断した鍛造装置20の断面図である。
図3A】第一型21aの下面図である。
図3B図3Aの3B−3B矢視断面図である。
図4A】第二型21bの下面図である。
図4B図4Aの4B−4B矢視断面図である。
図5図2の5−5矢視断面図である。
図6図2の6−6矢視断面図であり、クランパ17の断面図である。
図7】製造工程のフローチャートである。
図8】鍛造によるラック歯形成部13の形成時における余肉の移動について説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
(ラック軸素材11の構成)
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。まず、ラック軸素材11について説明する。ラック軸素材11は、ステアリング装置に適用されるラック軸(図略)を製作する基となる素材である。本実施形態に係るラック軸は、バリアブルステアリング装置(後に詳述する)に用いられる。図1A図1Bは、ラック軸素材11の側面図及び上面図である。ラック軸は、ラック軸素材11の一部(バリ15、15)をフライス加工等により除去加工することによって得られる。なお、ラック軸素材11は、鋼材で形成された円柱状で中実の軸部材(原材料に相当)から形成される。
【0022】
ラック軸素材11は、先端(図1A図1Bにおいて左側)から順に右に向かって、短軸部12(第二非ラック軸部に相当)、ラック歯形成部13、及び長軸部14(第一非ラック軸部に相当)を有している。図1A図1Bにおいてラック歯形成部13は、テーパ12bの右側端部とテーパ12cの左側端部との間に配置される。短軸部12及び長軸部14には、ラック歯が設けられておらず、ともに非ラック軸部である。短軸部12及び長軸部14は、ラック歯形成部13の第一端部13a及び第二端部13bである軸方向両側の各端部にそれぞれ連続して設けられる。
【0023】
図1A図1Bにおいて、第一端部13aは、テーパ12cの左隣り(テーパ12cの手前側)である。第二端部13bは、ラック歯形成部13の第一端部13aと反対側の端部に設けられる。図1A図1Bにおいて、第二端部13bは、テーパ12bの右隣り(テーパ12bの手前側)である。長軸部14は、短軸部12より長くなるよう形成される。また、図1A図1Bに示すように、バリ15、15が、ラック歯形成部13から軸直交方向に突出して形成される。なお、以降において、軸方向とは、ラック軸素材11の伸長方向、即ちラック軸素材11の軸線方向をいうものとする。
【0024】
ラック歯形成部13の上面(図1Aにおいては上側、図1Bにおいては手前側)には、複数のラック歯16が形成される。複数のラック歯16は、温間鍛造により塑性変形されて形成される。図1Bに示すように、本実施形態に係るラック軸素材11の各ラック歯16は、軸方向において、均一には形成されていない。即ち、各ラック歯16は、図略のピニオンとの噛合において、可変のギヤレシオ(つまり、バリアブルギヤレシオ(VGR))の出力特性が出力されるよう形成され、配列されている。
【0025】
詳細には、図1A図1Bに示すように、複数のラック歯16は、軸方向中央部分16aにある複数のラック歯16と両端部分16b,16bにある複数のラック歯16と、を備える。軸方向中央部分16aの複数のラック歯16は、互いにねじれ角、ピッチ、圧力角、歯厚等が同一である。両端部分16b,16bの複数のラック歯16は、互いにねじれ角、ピッチ、圧力角、歯厚等が異なっている。
【0026】
ラック歯形成部13は、鋼材である中実の軸部材を、例えば、温間鍛造における低温側の温度領域である約750°C〜790°Cに図略のヒータで加熱し、後述する鍛造型21を構成する第一型21a、及び第二型21bでプレス加工することにより形成される。なお、第一型21a、及び第二型21bには、これを暖める図略のヒータが共に設けられている。
【0027】
図1A図1Bに示すバリ15,15は、ラック歯形成部13の軸直交方向両側に向かって形成されており、ほぼ同じ形状を備える。よって、以降においては、代表として何れか一方のバリ15のみについて説明する。図1Bに示すように、バリ15の突出長さは、ラック歯形成部13の軸方向中央部(複数のラック歯16の軸方向中央部分16a位置に相当)における突出長さがLcとなり、各端部13a、13bにおける突出長さが0となるよう形成される。
【0028】
図1Aに示すように、バリ15は、ラック歯形成部13の第一端部13aにおける厚みt2が、第二端部13bにおける厚みt3及び軸方向中央部における厚みt1より小さくなるよう形成される。なお、バリ15の厚みt1〜t3とは、バリ15の突出方向と直交する方向におけるバリ15の厚さである。また、本実施形態においては、ラック歯形成部13の第二端部13bにおけるバリ15の厚みt3と、軸方向中央部における厚みt1とは同じ大きさである。
【0029】
詳細には、端部分16b及び端部分16bから端部13aまでのバリ15の厚みtxは、軸方向中央部16aから、第一端部13aに向かって漸減し、端部13aで厚みt2となる。バリ15の上下両端面がそれぞれ、ラック歯形成部13の軸方向中央部から、第一端部13aに向かって、所定の半径Rの円弧を描くことで、バリ15の厚みが漸減している(図1A参照)。
【0030】
なお、上記態様に限らず、バリ15の上下両端面が、それぞれラック歯形成部13の軸方向中央部から、第一端部13aに向かって直線のテーパ面で形成されてもよい。また、上記態様に限らず、バリ15の上下両端面のうちいずれか一方の端面のみが、軸方向中央部から、第一端部13aに向かって、所定の半径Rの円弧またはテーパによる面で漸減して形成されてもよい。さらに、端部分16b及び端部分16bから端部13aまでのバリ15の厚みtxは、一定の厚みt2であってもよい。
【0031】
(鍛造装置20の構成)
以下、本実施形態におけるラック軸素材11を製造する鍛造装置20の具体例について、図2図6に基づいて説明する。図2に示すように、鍛造装置20は、鍛造型21と、クランパ17と、を備える。なお、クランパ17は、ラック軸素材11の外周面を、軸直交方向外方からラック軸素材11の軸線に向けて押圧する部材である。クランパ17によるラック軸素材11の外周面の押圧により、鍛造時におけるラック軸素材11の軸方向への伸長が抑制される。なお、図2には、ラック軸素材11の図も含まれている。
【0032】
前述したとおり鍛造型21は、第一型21a及び第二型21bを備える。本実施形態においては、第一型21aは上金型であり、第二型21bは、下金型である。図2に示すように、第一型21aは、鍛造装置20の上下動するスライド23の下面に、図略のボルトで固定される。また、第二型21bは、鍛造装置20の図略のベッド上に載置される定盤25(ボルスタ)上に、図略のボルトで固定される。
【0033】
第一型21aは、ラック歯16を鍛造形成する歯部21cを含みラック軸素材11の軸方向に延びる第一溝部21a2を備える(図2図3A図3B参照)。図3A図3Bにおいて、第一溝部21a2の左側が、ラック軸素材11の短軸部12の形成側であり、右側がラック軸素材11の長軸部14の形成側である。第一溝部21a2の短軸部12側の端面には規制端面21a3を備える。規制端面21a3は、ラック軸素材11が鍛造によって形成される際、短軸部12の端面12aと当接して、ラック軸素材11の短軸部12方向への移動を規制する規制面である。
【0034】
第一溝部21a2の両縁、及び図3Aにおける軸方向左側には、バリ15を形成するための第一縁面21a1,21a1が設けられる。図3Aに示すように、第一縁面21a1,21a1は、軸方向右側において摺動孔26まで延在している。また、第一縁面21a1,21a1は、軸方向において、摺動孔26と反対側で短軸部12を形成する第一溝部21a2の位置を超える位置まで延在している。図5に示すように、第一縁面21a1は、第二型21b側に突設されている。また、第一型21aは、各第一縁面21a1と平行で、かつ各第一縁面21a1より第二型21bから離間した各第一逃がし面21a5を備える。そして、各第一傾斜面21a4が各第一縁面21a1から各第一逃がし面21a5に向かって傾斜して接続されている。
【0035】
図3Bに示すように、鍛造時において、ラック軸素材11の端部分16b及び端部分16bから端部13aまでの位置に相当する第一縁面21a1の軸方向位置には、所定の半径Rの円弧が形成される。つまり、第一縁面21a1は、所定の半径Rの円弧によって、ラック軸素材11の鍛造成形時に、端部分16b及び端部分16bから端部13aまでの間で、第二型21b側に漸次、近づくよう形成される。これにより、この所定の半径Rの円弧は、ラック軸素材11が鍛造成形されたとき、前述したバリ15の端面のR曲面を形成する。
【0036】
図3A図3Bに示すように、第一型21aの歯部21c以外で長軸部14に対応する第一溝部21a2に、クランパ17を上下動可能に保持する摺動孔26が上下方向に貫通して設けられる。つまり、長軸部14のテーパ12cの手前を押圧する位置に摺動孔26が開口している。摺動孔26の内周面の一部には平面部26aが、設けられている。平面部26aは、摺動孔26の軸中心と平行な面を有している。
【0037】
図2に示すように、クランパ17は、円柱状に形成され、円柱の軸線と平行な面17aを有するよう側面に切欠きが設けられる。クランパ17は、第一型21aの摺動孔26に挿入されると、クランパ17の面17aと、摺動孔26の平面部26aとが係合して、クランパ17の中心軸線周りにおける回り止めを行なう。なお、クランパ17は、スライド23も貫通している。しかし、スライド23の貫通孔には切欠きは設けられていない。
【0038】
このように、クランパ17は、スライド23及び第一型21aとは、別体で上下動可能に構成される。そして、図6に示すように、クランパ17は、ラック軸素材11の長軸部14を押圧可能に形成される。これにより、クランパ17は、油圧によって上下動され、下方に移動した際に所定の荷重(例えば30t)で長軸部14を押圧する。
【0039】
図6に示すように、クランパ17の下面の凹部17bは、長軸部14の外周面のうち上側半周分に密着して長軸部14を抑えられるよう、長軸部14の外周面形状が転写されている。そして、クランパ17は、長軸部14のラック歯形成部13側の端部P(図1A図1B図2参照)を押圧可能とする位置に配置される。なお、クランパ17の下面の凹部17bは、上記態様に限らず、どのような形状でもよい。
【0040】
図2に示すように、第一型21aは、クランパ17と同様に、長軸部14の外周面のうち上側半周分に密着して長軸部14を抑えられるよう、下面には長軸部14の外周面形状が転写されている。第一型21aは、鍛造時に、長軸部14の上方への屈曲変形(図2の矢印Arv参照)を抑える作用を有する。なお、第一型21aの長軸部14に対応する部分の下面は、上記態様に限らず、どのような形状でもよい。
【0041】
第二型21bは、ラック軸素材11の軸方向に延び、ラック歯16の裏面側に対応する第二溝部21b2を備える(図2図4A図4B参照)。第二溝部21b2の短軸部12側の端面には規制端面21b3を備える。規制端面21b3は、上述した第一型21aの規制端面21a3と、ラック軸素材11の軸方向において同じ位置に配置される。これにより、第一型21a及び第二型21bは、鍛造成形時に、短軸部12(第二非ラック軸部)の端面12a(第二端面)に対向する規制端面21a3、21b3によって、短軸部12の端面12a側(第二端面側)への移動(延び)を規制する。
【0042】
また、第二溝部21b2の両縁(図4Aにおいては上下方向に相当)、及び図4Aにおける軸方向左側には、バリ15を形成するための第二縁面21b1が設けられる。第二縁面21b1は、軸方向において、短軸部12が形成される第二溝部21b2の位置を超える位置まで延在している。図5に示すように、第二縁面21b1は、第一型21a側に突設されている。また、第二型21bは、各第二縁面21b1と平行で、かつ各第二縁面21b1より第一型21aから離間した各第二逃がし面21b5を備える。また、各第二傾斜面21b4が各第二縁面21b1から各第二逃がし面21b5に向かって傾斜し接続されている。そして、第二縁面21b1、第二傾斜面21b4、第二逃がし面21b5は、対向する第一縁面21a1、第一傾斜面21a4、及び第一逃がし面21a5との間でバリ15を逃がす空間を形成する。第二縁面21b1は、対向する第一縁面21a1とでバリ15を絞る機能を有する。
【0043】
図4Bに示すように、端部分16b及び端部分16bから端部13aまでの第二縁面21b1に、所定の半径Rの円弧が形成される。つまり、第二縁面21b1は、所定の半径Rの円弧によって、ラック軸素材11の鍛造成形時に、端部分16b及び端部分16bから端部13aまでの間で、第一型21a側に漸次、近づくよう形成される。これにより、半径Rの円弧は、鍛造成形されたとき、前述したバリ15の端面にR曲面を形成する。そして、鍛造成形時には、第二縁面21b1は第一縁面21a1に対して離間距離α1〜α2の隙間を介して対向する。なお、離間距離α1は、軸方向中央部分16aにおける、第一縁面21a1と、第二縁面21b1との間の距離である。また、離間距離α2は、第一端部13aにおける第一縁面21a1と、第二縁面21b1との間の距離である。つまり、軸方向中央部分16aにおける離間距離α1は、第一端部13aに向かって漸減し第一端部13aで離間距離α2となる。
【0044】
このように、鍛造型21は、いわゆる半密閉鍛造型である。つまり、鍛造型21では、第一型21aが、スライド23とともに、油圧による所定のプレス荷重(例えば500t)で、第二型21bに向かって作動した際、第一型21a及び第二型21bの各第一縁面21a1、第二縁面21b1同士は接触しない(図2参照)。
【0045】
また、図2に示すように、第一型21a及び第二型21bは、鍛造型21の鍛造による成形時に、長軸部14(第一非ラック軸部)の端面14a(第一端面)に対して対向せず、つまり非対向に設けられ、長軸部14(第一非ラック軸部)の端面14a側(第一端面側)への移動を許容する。
【0046】
また、図2に示すように、第一型21a及び第二型21bは、鍛造型21の鍛造による成形時に、短軸部12(第二非ラック軸部)の端面12a(第二端面)に対して対向する規制端面21a3、21b3によって、短軸部12の端面12a側(第二端面側)への移動を規制している。
【0047】
(製造方法)
次に、上記で説明したラック軸素材11の製造方法について図7のフローチャートに基づき説明する。製造方法は、加熱工程、押圧工程及び鍛造工程を備える。
【0048】
(加熱工程)
本実施形態における鍛造は温間鍛造である。加熱工程では、ラック軸素材11のラック歯形成部13、及びラック歯形成部13の両側のテーパ12b、12cに当たる部分が熱で柔らかくなるまで、電気加熱炉で加熱される。そして、押圧工程の準備として、第二型21b上の所定の位置に、長尺状で中実の原材料である軸部材が載置される(図略)。
【0049】
(押圧工程)
押圧工程では、まず、図2図6に示すクランパ17を鍛造前に作動させる。これにより、クランパ17は、第一型21aと相対移動しながら、第二型21bに向かって下降する。そして、クランパ17は、下面の凹部17bが、ラック軸素材11の長軸部14に対応する部位である軸部材の端部Pに当接し、端部Pを所定のプレス圧(例えば30t)で、第二型21b方向に押圧する。この押圧によって、端部Pの軸方向の変形を拘束し、延いては長軸部14の伸びを抑制する。
【0050】
(鍛造工程)
次に、鍛造工程では、鍛造型21の第一型21aを作動させる。つまり、スライド23を作動させ、スライド23に固定される第一型21aを、第二型21bに向かって接近させる。そして、第一型21aと、第二型21bとの間に所定の隙間を介して停止させる。このとき、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の隙間の離間距離αは、ラック歯形成部13の中央部の離間距離α1よりラック歯形成部13の第一端部13aの離間距離α2の方が小さくなるよう設定される。また、第二端部13bの離間距離α3は、離間距離α1と同等である。また、このとき、第一型21aで短軸部12と長軸部14とを所定の圧力で、第二型21b方向に押圧する。これにより、鍛造時における長軸部14の上方への屈曲変形(図2の矢印Arv参照)が抑制される。
【0051】
鍛造工程では、軸部材が、クランパ17に押圧されている状態で、第一型21aが第二型21bに向かって下降し、軸部材の鍛造加工が行なわれる。第一型21aは、所定のプレス圧(例えば500t)で、軸部材をプレスし、ラック歯形成部13、及びラック歯形成部13の両側のテーパ12b、12cを形成する。この鍛造加工により、第一型21aが有する歯部21cによって、ラック歯形成部13のラック歯16が形成される。つまり、ラック歯形成部13近傍にある肉が歯部21c内に、流入し押し込まれてラック歯形成部13のラック歯16が形成される。
【0052】
ラック歯16の形成に伴って不要となった余肉は、鍛造加工中に、軸部材の両縁である第一縁面21a1と第二縁面21b1との間に流入すると同時に絞られる。そして、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間、第一傾斜面21a4と第二傾斜面21b4との間、及び第一逃がし面21a5と第二逃がし面21b5との間に流入する余肉によって、ラック歯16の形成終了時にバリ15が形成される。本実施形態においては、ラック歯16の形成終了時における、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の隙間の離間距離α(α1〜α3)は、ラック歯形成部13の中央部における離間距離α1(=α3)から、第一端部13aにおける離間距離α2に向かって漸減している(つまりα1>α2)。なお、離間距離αの漸減の詳細については、上記で説明したとおりである。バリ15は、このような第一縁面21a1と第二縁面21b1との間に、流入して絞り形成され、離間距離α1〜α3に対応する、厚みt1〜t3(t1>t2、t2=t3)の板厚が形成される。
【0053】
(鍛造加工による余肉の流れ)
ここで、鍛造工程によって鍛造加工されたラック軸素材11の余肉の移動(流れ)について図8の模式図に基づき詳細に説明する。第一型21aのプレス加工によって、ラック歯形成部13(複数のラック歯16を含む)が鍛造加工されると、ラック歯形成部13の形成にとって不要となる余肉は、主に図8中の矢印Ar1〜Ar6の方向に向かって移動する。なお、ラック歯形成部13の軸方向中央部には符号の付してない矢印を軸直交方向に記載しているが、この矢印もラック歯形成部13における余肉が矢印方向に移動することを示している。
【0054】
まず、矢印Ar1について説明する。矢印Ar1は、鍛造加工時における、短軸部12側への余肉の流れを示している。しかし、図2に示すように、短軸部12は、端面12a(第二端面)が、第一型21a及び第二型21bの規制端面21a3、21b3と対向し、規制端面21a3、21b3から反力f1、f2を受け伸びが規制される(図2図8参照)。このため、短軸部12は、端面12a側に向かって移動できず、伸長が抑制される。従って、短軸部12近傍で発生した余肉の多くは、バリ15の形成方向であるAr3、Ar4方向に移動する。そして、余肉は、短軸部12側における、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の隙間に流入する。
【0055】
このとき、本実施形態では、鍛造型21は、鍛造加工時において第一型21aと第二型21bとの間に隙間を有する半密閉鍛造型である。そして、短軸部12側における第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の隙間の離間距離α3には、特別な制限を設けていない。このため、余肉の多くは、バリ15の形成方向であるAr3、Ar4方向に良好に移動する。しかし、短軸部12側では、短軸部12方向に延びずに残った余肉が存在する。そこで、その余肉は、バリ15の短軸部12側におけるラック歯16の形成部である第一型21aの歯部21c内に十分流入する。これにより、余肉が歯部21c内に深く流入し、短軸部12に隣接するラック歯16の各歯を良好な形状精度で形成する。
【0056】
次に、長軸部14側の余肉の流れ(矢印Ar2参照)について説明する。ラック歯16の形成終了時において、長軸部14側では、第一縁面21a1と、第二縁面21b1との間の隙間の離間距離αが、ラック歯形成部13の中央部における離間距離α1から、第一端部13a(長軸部14側)における離間距離α2に向かって漸減するよう隙間の大きさが制限され形成されている(α1>α2)。このため、従来技術と比較して、バリ15を形成する方向(Ar5、Ar6)に流れる余肉のうち離間距離α2を有する隙間部分に向かって流れ込む余肉の量は減少する。このようにすることで、複数のラック歯16のうち、長軸部14に隣接する1以上のラック歯16の形成部である第一型21aの歯部21cに流し込む余肉が確保できる。
【0057】
また、本実施形態では、鍛造前、及び鍛造中に、クランパ17によって、長軸部14に対応する軸部材のラック歯形成部13側の端部Pを押圧し拘束する。これにより、長軸部14に対応する軸部材の伸長は規制され、余肉のラック歯形成部13から端部P方向への移動は良好に抑制されている。
【0058】
このように、第一縁面21a1と、第二縁面21b1との間の隙間が小さくなった離間距離α2の隙間部分に流れ込む余肉の量が減少し、且つクランパ17によって、長軸部14方向への余肉の移動が抑制される。従って、長軸部14近傍の余肉の多くが、長軸部14に隣接するラック歯16近傍に保持され、第一型21aの歯部21cの深部に流れこむことができる。これにより、短軸部12側のラック歯16の形状精度と同様、長軸部14に隣接するラック歯16が良好な形状精度で形成される。
【0059】
なお、上記実施形態では、ラック歯16の形成終了時における、第一縁面21a1と、第二縁面21b1との間の隙間の離間距離αがα1>α2となるよう設定された。また、長軸部14の伸び量を抑制するため、クランパ17が、長軸部14(第一非ラック軸部)の外周を押圧した。しかし、この態様には、限らない。離間距離α2をα1より小さく設定することと、クランパ17を設けることとの何れか一方のみを採用するだけでもよい。これによっても、相応の効果は得られる。
【0060】
また、上記実施形態では、長軸部14を第一非ラック軸部とし、短軸部12を第二非ラック軸部とした。しかし、この態様には限らず、短軸部12を第一非ラック軸部とし、長軸部14を第二非ラック軸部としてもよい。
【0061】
また、上記実施形態では、第一型21aを上金型とし、第二型21bを下金型とした。しかし、この態様には限らず、第二型21bを上金型とし、第一型21aを下金型としてもよい。
【0062】
また、上記実施形態では、第一非ラック軸部(長軸部14)は、第二非ラック軸部(短軸部12)より長い、としたが、第一非ラック軸部(長軸部14)と第二非ラック軸部(短軸部12)とは同じ長さでもよい。
【0063】
また、上記実施形態では、クランパ17は、第一非ラック軸部(長軸部14)の外周を押圧し、第二非ラック軸部(短軸部12)の外周を押圧しないとした。しかし、この態様には限らず、第一非ラック軸部(長軸部14)及び第二非ラック軸部(短軸部12)をともに押圧してもよい。
【0064】
(実施形態における効果)
上記実施形態によれば、鍛造装置20は、半密閉鍛造型を構成する第一型21a及び第二型21bを備えるラック軸素材11の鍛造装置である。ラック軸素材11は、ラック歯16が形成されるラック歯形成部13と、ラック歯形成部13から軸直交方向に突出するバリ15と、を備える。鍛造装置20の第一型21aは、ラック歯16を鍛造形成する歯部21cを含みラック軸素材11の軸方向に延びる第一溝部21a2、及び、第一溝部21a2の両縁に設けられる第一縁面21a1を備える。また、鍛造装置20の第二型21bは、第一型21aに対向して設けられ、ラック軸素材11の軸方向に延びラック歯16の裏面側に対応する第二溝部21b2、及び第二溝部21b2の両縁に設けられ第一縁面21a1に対して隙間を介して対向する第二縁面21b1を備える。そして、バリ15は、第一型21aと第二型21bとを用いてラック歯16の形成前の原材料の鍛造により、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間に張り出されて形成され、バリ15の形成時における第一縁面21a1と第二縁面21b1との離間距離は、ラック歯形成部13の中央部よりラック歯形成部13の第一端部13aの方が小さい。
【0065】
このため、ラック歯形成部13の中央部より第一縁面21a1と第二縁面21b1との離間距離αが小さい第一端部13a側では、鍛造時に、バリ15の形成方向に向かって流れる肉の流れる量を抑制することができる。これにより、第一端部13a側におけるラック歯形成用の歯部21c近傍に留まる肉の量は多くなる。従って、当該歯部21cには、多くの肉が流れ込み、形状精度のよいラック歯16の形成が可能となる。
【0066】
また、上記実施形態によれば、第一縁面21a1と第二縁面21b1との離間距離αは、ラック歯形成部13の中央部からラック歯形成部13の第一端部13aに向かってα1→α2に漸減する。これにより、第一端部13a側におけるラック歯形成用の歯部21cに流れ込む余肉の量が十分なものとなり、第一端部13a側のラック歯16の形状精度が良好になる。
【0067】
また、上記実施形態によれば、ラック軸素材11は、ラック歯形成部13の第一端部13aに連続して設けられる長軸部14(第一非ラック軸部)と、ラック歯形成部13の第一端部13aと反対側の第二端部13bに連続して設けられ、長軸部14より短い短軸部12(第二非ラック軸部)と、を備える。第一溝部21a2の一端、及び第二溝部21b2の一端は、軸方向に貫通し長軸部14の第一端面14a側への移動を許容する。また、第一溝部21a2の他端及び第二溝部21b2の他端は、短軸部12の端面に対向する規制端面21a3、21b3を備え、短軸部12の第二端面12a側への移動を規制する。
【0068】
このような態様の鍛造型21によりラック歯形成部13を形成する場合、短軸部12の伸びは、規制端面21a3、21b3によって規制される。これにより、短軸部12側のラック歯16では、余肉がラック歯16近傍に留まることによって、余肉は、第一型21aの歯部21cに流れ込みやすくなり、形状精度のよいラック歯16が形成可能となる。また、長軸部14では、伸びが許容されている。しかし、第一端部13a側における第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の離間距離α2は小さくなるよう設定される。この小さなα2によって、バリ15の形成方向に向かって流れる肉の流れが抑制される。これにより、長軸部14側のラック歯16位置では、バリ15の形成方向に向かってより多くの余肉が流れずに留まることで、第一型21aの歯部21cに肉が流れ込みやすくなり、形状精度のよいラック歯16を形成可能となる。
【0069】
また、上記実施形態によれば、ラック軸素材11の鍛造装置20は、第一型21a及び第二型21bによる複数のラック歯16の形成前の原材料の鍛造前に、原材料の長軸部14(第一非ラック軸部)に対応する部位の外周を押圧し、第一型21a及び第二型21bによる原材料に対する鍛造時に、原材料の長軸部14に対応する部位の軸方向における第一端面14a側への移動を抑制するクランパ17を備える。
【0070】
このように、ラック軸素材11は、鍛造前に作動され、鍛造時において余肉の流れを規制するクランパ17によって、原材料の長軸部14側への伸長が抑制されるので、多くの余肉は、長軸部14側のラック歯16位置近傍に留まる。そして、留まった余肉は、第一型21aの歯部21cに流入しやすくなる。これにより、第一縁面21a1と第二縁面21b1との間の隙間の離間距離α2が小さいことによるラック歯の形状精度の向上の効果に加えて、さらに形状精度のよいラック歯の形成が可能となる。
【0071】
また、上記実施形態によれば、鍛造装置20は、半密閉鍛造型を構成する第一型21a及び第二型21bを備えるラック軸素材11の鍛造装置である。ラック軸素材11は、ラック歯16が形成されるラック歯形成部13と、ラック歯形成部13から軸直交方向に突出するバリ15と、ラック歯形成部13の第一端部13aに連続して設けられる長軸部14(第一非ラック軸部)と、ラック歯形成部13の第一端部13aと反対側の第二端部13bに連続して設けられ、長軸部14(第一非ラック軸部)より短い短軸部12(第二非ラック軸部)と、を備える。鍛造装置20の第一型21aは、ラック歯16を鍛造形成する歯部21cを含み、ラック軸素材11の軸方向に延びる第一溝部21a2、及び、第一溝部21a2の両縁に設けられる第一縁面21a1を備える。また、鍛造装置20の第二型21bは、第一型21aに対向して設けられ、ラック軸素材11の軸方向に延びラック歯16の裏面側に対応する第二溝部21b2、及び、第二溝部21b2の両縁に設けられ、第一縁面21a1に対して隙間α1〜α3(離間距離α1〜α3)を介して対向する第二縁面21b1を備える。そして、鍛造装置20は、第一型21a及び第二型21bによるラック歯16の形成前の原材料の鍛造前に、原材料の長軸部14(第一非ラック軸部)に対応する部位の外周を押圧し、原材料に対する鍛造時に、原材料の長軸部14(第一非ラック軸部)に対応する部位の軸方向への移動を抑制するクランパ17をさらに備える。
【0072】
これにより、ラック軸素材11は、クランパ17のみによって、長軸部14(第一非ラック軸部)に対応する原材料の部位の外周が押圧され、鍛造時においては長軸部14に対応する原材料の部位の軸方向への移動が抑制される。このため、ラック歯16近傍の肉の長軸部14(第一非ラック軸部)方向への移動が規制されるので、第一型21aにおけるラック歯形成用の歯部21c近傍には、多くの肉が留まり、歯部21c内に流れ込み、形状精度のよいラック歯16が形成可能となる。
【0073】
また、上記実施形態の製造方法は、半密閉鍛造型を構成する第一型21a及び第二型21bを用いてラック軸素材11を製造する製造方法である。ラック軸素材11は、ラック歯16が形成されるラック歯形成部13と、ラック歯形成部13から軸直交方向に突出し、ラック歯形成部13の軸方向中央部の厚みt1よりラック歯形成部13の第一端部13aの厚みt2の方が小さく形成されるバリ15と、を備える。第一型21aは、ラック歯16を鍛造形成する歯部21cを含みラック軸素材11の軸方向に延びる第一溝部21a2、及び、第一溝部21a2の両縁に設けられる第一縁面21a1を備える。また、第二型21bは、第一型21aに対向して設けられ、ラック軸素材11の軸方向に延びる第二溝部21b2、及び、第二溝部21b2の両縁に設けられ第一縁面21a1に対して隙間を介して対向する第二縁面21b1を備える。また、ラック軸素材11は、ラック歯形成部13の第一端部13aに連続して設けられる長軸部14(第一非ラック軸部)と、ラック歯形成部13の第一端部13aと反対側の第二端部13bに連続して設けられ長軸部14より短い短軸部12(第二非ラック軸部)と、を備える。そして、ラック軸素材11の製造方法は、第一型21a、及び第二型21bによるラック歯16の形成前の原材料の鍛造前に、原材料の長軸部14に対応する部位の外周面をクランパ17により押圧する押圧工程と、原材料に対する鍛造時に、クランパ17により原材料の長軸部14に対応する部位の軸方向への移動を抑制しながら、ラック歯16、及び第一縁面21a1と第二縁面21b1との間に張り出されるバリ15が形成される鍛造工程と、を備える。
【0074】
このような製造方法によれば、押圧工程において、ラック軸素材11の原材料は、鍛造前に作動されるクランパ17によって、軸線と直交する方向に押圧される。このため、鍛造時においては、クランパの作用によって原材料の伸長は抑制され、余肉は、第一端部13a側におけるラック歯形成用の歯部21c近傍に留まる。また、鍛造工程では、ラック歯形成部13の中央部より第一縁面21a1と第二縁面21b1との離間距離が小さい第一端部13a側において、バリ15の形成方向に向かって流れる肉の流れる量を抑制することができる。これによっても、余肉は、第一端部13a側におけるラック歯形成用の歯部21c近傍に留まる。従って、歯部21cには、多くの肉が流れ込み、形状精度のよいラック歯の形成が可能となる。
【0075】
また、上記実施形態の鍛造装置20によって製造されたラック軸素材11は、第一型21aにおけるラック歯形成用の歯部21cに、多くの肉が流れ込むことによって形成された良好な形状精度を有した複数のラック歯16を備える。
【符号の説明】
【0076】
11・・・ラック軸素材、 12・・・短軸部(第二非ラック軸部)、 12a・・・端面(第二端面)、 13・・・ラック歯形成部、 13a・・・第一端部、 13b・・・第二端部、 14・・・長軸部(第一非ラック軸部)、 14a・・・端面(第一端面)、 15・・・バリ、 16・・・ラック歯、 17・・・クランパ、 20・・・鍛造装置、 21・・・鍛造型、 21a・・・第一型、 21a1・・・第一縁面、 21a2・・・第一溝部、 21a3、21b3・・・規制端面、 21b・・・第二型、 21b1・・・第二縁面、 21b2・・・第二溝部、 α(α1〜α3)・・・隙間(離間距離)。
図1A
図1B
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6
図7
図8