特許第6428243号(P6428243)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6428243非水系リチウム二次電池及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428243
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】非水系リチウム二次電池及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20181119BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20181119BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20181119BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20181119BHJP
   H01M 10/0567 20100101ALI20181119BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20181119BHJP
   H01M 2/16 20060101ALI20181119BHJP
【FI】
   H01M4/62 Z
   H01M4/13
   H01M4/139
   H01M10/058
   H01M10/0567
   H01M10/052
   H01M2/16 Z
【請求項の数】7
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-256861(P2014-256861)
(22)【出願日】2014年12月19日
(65)【公開番号】特開2016-119180(P2016-119180A)
(43)【公開日】2016年6月30日
【審査請求日】2017年9月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】特許業務法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】奥田 匠昭
(72)【発明者】
【氏名】岡 秀亮
【審査官】 小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−007129(JP,A)
【文献】 特開2014−112462(JP,A)
【文献】 特開2014−056822(JP,A)
【文献】 特開2014−116129(JP,A)
【文献】 特開2002−279996(JP,A)
【文献】 特表2008−503049(JP,A)
【文献】 特開2001−223029(JP,A)
【文献】 特開2011−210694(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/13−4/62
H01M 2/14−2/18
H01M 10/05−10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、セパレータ及び非水系電解液であるイオン伝導媒体うちの1以上に、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散していて、下記(a)〜(c)のうちの1以上を満たす、非水系リチウム二次電池。
(a)前記正極は空隙を有し、前記誘電体粒子は前記正極の空隙に対して50体積%以下となるように前記正極の空隙に分散している。
(b)前記負極は空隙を有し、前記誘電体粒子は前記負極の空隙に対して50体積%以下となるように前記負極の空隙に分散している。
(c)前記セパレータは空隙を有し、前記誘電体粒子は前記セパレータの空隙に対して50体積%以下となるように前記セパレータの空隙に分散している。
【請求項2】
下記(d)〜(f)のうちの1以上を満たす、請求項1に記載の非水系リチウム二次電池。
(d)前記正極の空隙率は10体積%以上50体積%以下であり、前記誘電体粒子は前記正極の空隙に対して50体積%以下となるように前記正極の空隙に分散している。
(e)前記負極の空隙率は10体積%以上50体積%以下であり、前記誘電体粒子は前記負極の空隙に対して50体積%以下となるように前記負極の空隙に分散している。
(f)前記セパレータの空隙率は30体積%以上80体積%以下であり、前記誘電体粒子は前記セパレータの空隙に対して50体積%以下となるように前記セパレータの空隙に分散している。
【請求項3】
正極、負極、セパレータ及び非水系電解液であるイオン伝導媒体のうちの1以上に、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散していて、下記(g)〜(i)のうちの1以上を満たす、非水系リチウム二次電池。
(g)前記正極は結着材を含み、前記正極には前記結着材が付着していない前記誘電体粒子が分散している。
(h)前記負極は結着材を含み、前記負極には前記結着材が付着していない前記誘電体粒子が分散している。
(i)前記セパレータにはポリマー成分が付着していない前記誘電体粒子が分散している。
【請求項4】
前記誘電体粒子にはポリマー成分が付着していない、請求項1〜3のいずれか1項に記載の非水系リチウム二次電池。
【請求項5】
前記誘電体粒子は、粒径が100nm以下の範囲にある、請求項1〜4のいずれか1項に記載の非水系リチウム二次電池。
【請求項6】
前記誘電体粒子は、チタン酸バリウムである、請求項1〜のいずれか1項に記載の非水系リチウム二次電池。
【請求項7】
正極、負極、セパレータ及び非水系電解液であるイオン伝導媒体のうちの1以上に、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散している非水系リチウム二次電池の製造方法であって、下記(j)〜(l)のうちの1以上の工程を含む、製造方法。
(j)結着材を含み空隙を有する前記正極を用意し、該正極の空隙に前記誘電体粒子を分散させる工程。
(k)結着材を含み空隙を有する前記負極を用意し、該負極の空隙に前記誘電体粒子を分散させる工程。
(l)空隙を有するセパレータを用意し、該セパレータの空隙に前記誘電体粒子を分散させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水系リチウム二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、非水系リチウム二次電池において、正極活物質表面に高誘電物質を焼結させることが知られている。例えば、特許文献1では、リチウム含有遷移金属複合酸化物からなる正極活物質の表面に、比誘電率が500以上の強誘電体が焼結されたものを用いると、低い温度領域での出力特性を向上させることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−210694号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1のものでは、例えば1秒出力のような短時間出力特性が低いことがあり、短時間出力特性をより高めることが望まれていた。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、短時間出力特性をより高めることができる非水系リチウム二次電池を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために、鋭意研究したところ、本発明者らは、電極やセパレータに粒径が200nm以下のBaTiO3などの誘電体粒子を分散させると、短時間出力特性を高められることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明の非水系リチウム二次電池は、
正極、負極、セパレータ及びイオン伝導媒体うちの1以上に、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散しているものである。
【発明の効果】
【0008】
この非水系リチウム二次電池では、例えば1秒出力などの短時間出力特性を向上できる。このような効果が得られる理由は、以下のように推察される。すなわち、非水系リチウム二次電池において、リチウムイオンは、通常、例えばエチレンカーボネートなどの溶媒と溶媒和してイオン伝導媒体中に存在している。そして、電解液中で溶媒和しているリチウムイオンが、反応界面である活物質と電解液との界面で脱溶媒和して活物質に挿入されて、電気化学反応が進行する。ここで、電池内にBaTiO3などの誘電体粒子が分散して存在していると、リチウムイオンは溶媒と溶媒和するのみでなく、誘電体粒子とも擬似的に溶媒和する。これによって、誘電体粒子近傍では局所的にリチウム塩の解離度が向上し、電気化学反応の進行が促進され、短時間出力特性が向上すると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】非水系リチウム二次電池10の構成の概略を示す説明図。
図2】参考例1〜5のラマン測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の非水系リチウム二次電池は、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる正極活物質を有する正極と、リチウムイオンを吸蔵・放出しうる負極活物質を有する負極と、正極と負極との間に介在するイオン伝導媒体と、を備えている。この非水系リチウム二次電池は、正極と負極との間に介在するセパレータを備えていてもよい。この非水系リチウム二次電池は、正極、負極、セパレータ及びイオン伝導媒体のうち1以上に、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散している。ここで、分散とは、誘電体粒子が凝集したもの、例えば、特許文献1のもののように、活物質表面に誘電体粒子が焼結されて凝集したものなどを除く趣旨である。以下では、本発明の一実施形態として、正極、負極及びセパレータに誘電体粒子が分散している場合について主として説明する。
【0011】
本発明の非水系リチウム二次電池において、誘電体粒子は、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある。比誘電率が500以上の範囲にある誘電体粒子としては、例えば、チタン酸バリウム(BaTiO3)、酒石酸カリウムナトリウム(KNaC446)、チタン酸ジルコン酸鉛(Pb(ZrxTi1-x)O3(0<x<1)、例えばPb(Zr0.525Ti0.475)O3)などが挙げられる。このうち、チタン酸バリウムがより好ましい。この誘電体粒子は、粒径が150nm以下の範囲にあることが好ましく、100nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、2nm以上としてもよいし、5nm以上としてもよい。ここで、粒径とは、動的光散乱法やSEM観察によって求めたメディアン径D50を示す。
【0012】
本発明の非水系リチウム二次電池の正極には、誘電体粒子が分散して含まれている。この正極は、空隙を有していることが好ましい。正極(集電体金属を除く)の空隙率は、10体積%以上50体積%以下であることが好ましく、20体積%以上40体積%以下であることがより好ましく、25体積%以上35体積%以下であることがさらに好ましい。また、上述した誘電体粒子は、この空隙中に存在していることが好ましい。空隙中に存在しているものでは、誘電体粒子の表面に結着材などが付着しにくく、疑似溶媒和の効果がより期待できるからである。誘電体粒子は、正極の空隙に対して、50体積%以下の割合で含まれることが好ましく、30体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、正極の空隙に対して2体積%以上の割合で含まれるものとしてもよいし、5体積%以上としてもよい。
【0013】
正極は、例えば正極活物質と誘電体粒子と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の正極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。また、こうして形成した正極又は誘電体粒子を用いない点以外は同様に形成した正極の空隙に、誘電体粒子を分散させてもよい。このうち、形成した正極の空隙に誘電体粒子を分散させることが好ましい。正極形成後に誘電体粒子を分散させた場合、誘電体粒子の表面に結着材などが付着しにくく、疑似溶媒和の効果がより期待できるからである。誘電体粒子を分散させる際には、例えば、誘電体粒子を分散媒に分散させた分散液を用いてもよく、分散液を正極に含浸させ、必要に応じて乾燥させてもよい。分散媒としては、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを好適に用いることができる。
【0014】
正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、Li(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)、Li(1-x)Mn24などのリチウムマンガン複合酸化物、Li(1-x)CoO2などのリチウムコバルト複合酸化物、Li(1-x)NiO2などのリチウムニッケル複合酸化物、LiV23などのリチウムバナジウム複合酸化物、V25などの遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、LiV23などが好ましい。導電材は、正極の電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。これらの中で、導電材としては、電子伝導性及び塗工性の観点より、カーボンブラック及びアセチレンブラックが好ましい。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレン−プロピレン−ジエンマー(EPDM)、スルホン化EPDM、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。正極活物質、導電材、結着材を分散させる溶剤としては、例えばN−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチルトリアミン、N,N−ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロースなどの多糖類を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。
【0015】
本発明の非水系リチウム二次電池の負極には、誘電体粒子が分散して含まれている。この誘電体粒子は、正極に含まれるものと同種でもよいし異種でもよい。この負極は、空隙を有していることが好ましい。負極(集電体金属を除く)の空隙率は、10体積%以上50体積%以下であることが好ましく、20体積%以上40体積%以下であることがより好ましく、25体積%以上35体積%以下であることがさらに好ましい。また、上述した誘電体粒子は、この空隙中に存在していることが好ましい。空隙中に存在しているものでは、誘電体粒子の表面に結着材などが付着しにくく、疑似溶媒和の効果がより期待できるからである。誘電体粒子は、負極の空隙に対して、50体積%以下の割合で含まれることが好ましく、30体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、負極の空隙に対して2体積%以上の割合で含まれるものとしてもよいし、5体積%以上としてもよい。
【0016】
負極は、例えば負極活物質と誘電体粒子と導電材と結着材とを混合し、適当な溶剤を加えてペースト状の負極合材としたものを、集電体の表面に塗布乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成してもよい。また、こうして形成した負極又は誘電体粒子を用いない点以外は同様に形成した負極の空隙に、誘電体粒子を分散させてもよい。このうち、形成した負極の空隙に誘電体粒子を分散させることが好ましい。負極形成後に誘電体粒子を分散させた場合、誘電体粒子の表面に結着材などが付着しにくく、疑似溶媒和の効果がより期待できるからである。誘電体粒子を分散させる際には、例えば、誘電体粒子を分散媒に分散させた分散液を用いてもよく、分散液を負極に含浸させ、必要に応じて乾燥させてもよい。分散媒としては、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを好適に用いることができる。
【0017】
負極活物質としては、スズ化合物などの無機化合物、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な炭素質材料、導電性ポリマーなどが挙げられるが、このうち炭素質材料が安全性の面から見て好ましい。この炭素質材料は、特に限定されるものではないが、コークス類、ガラス状炭素類、グラファイト類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維などが挙げられる。このうち、人造黒鉛、天然黒鉛などのグラファイト類が、金属リチウムに近い作動電位を有し、高い作動電圧での充放電が可能であり電解質塩としてリチウム塩を使用した場合に自己放電を抑え、且つ充電時における不可逆容量を少なくできるため、好ましい。また、負極に用いられる導電材、結着材、溶剤などは、それぞれ正極で例示したものを用いることができる。
【0018】
本発明の非水系リチウム二次電池のイオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル−n−ブチルカーボネート、メチル−t−ブチルカーボネート、ジ−i−プロピルカーボネート、t−ブチル−i−プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ−ブチルラクトン、γ−バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3−ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。なお、環状カーボネート類は、比誘電率が比較的高く、電解液の誘電率を高めていると考えられ、鎖状カーボネート類は、電解液の粘度を抑えていると考えられる。
【0019】
イオン伝導媒体に含まれている支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この電解質塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。電解質塩の濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0020】
本発明の非水系リチウム二次電池のセパレータには、誘電体粒子が分散して含まれている。この誘電体粒子は、正極に含まれるものと同種でもよいし異種でもよい。また、この誘電体粒子は、負極に含まれるものと同種でもよいし異種でもよい。このセパレータは、空隙を有している。セパレータの空隙率は、30体積%以上80体積%以下であることが好ましく、35体積%以上70体積%以下であることがより好ましく、40体積%以上60体積%以下であることがさらに好ましい。また、上述した誘電体粒子は、この空隙中に存在していることが好ましい。疑似溶媒和の効果がより期待できるからである。誘電体粒子は、セパレータの空隙に対して、50体積%以下の割合で含まれることが好ましく、30体積%以下がより好ましく、10体積%以下がさらに好ましい。下限は特に限定されないが、セパレータの空隙に対して2体積%以上の割合で含まれるものとしてもよいし、5体積%以上としてもよい。
【0021】
セパレータは、例えば、セパレータの作製時に誘電体粒子を加えたものとしてもよいし、作製済のセパレータの空隙に誘電体粒子を分散させたものとしてもよい。誘電体粒子を分散させる際には、例えば、誘電体粒子を分散媒に分散させた分散液を用いてもよく、分散液をセパレータに含浸させ、必要に応じて乾燥させてもよい。分散媒としては、ジエチルカーボネートなどの鎖状カーボネートを好適に用いることができる。また、誘電体粒子を分散させた上記イオン伝導媒体を用い、イオン伝導媒体をセパレータの空隙に含浸させることで、セパレータに誘電体粒子を分散させてもよい。
【0022】
セパレータは、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を複合して用いてもよい。
【0023】
本発明の非水系リチウム二次電池の形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用するのが好ましい。図1は、本発明の非水系リチウム二次電池10の一例を示す模式図である。この非水系リチウム二次電池10は、集電体11に正極合材層12を形成した正極シート13と、集電体14の表面に負極合材層17を形成した負極シート18と、正極シート13と負極シート18との間に設けられたセパレータ19と、セパレータ19に含浸され正極シート13と負極シート18の間を満たすイオン伝導媒体としての非水電解液20と、を備えたものである。この非水系リチウム二次電池10では、正極シート13と負極シート18との間にセパレータ19を挟み、これらを複数積層して捲回し円筒ケース22に挿入し、正極シート13に接続された正極端子24と負極シートに接続された負極端子26とを配設して形成されている。正極シート13、負極シート18、セパレータ19及び非水電解液20のうち1以上には、比誘電率が500以上の範囲にあり、粒径が200nm以下の範囲にある誘電体粒子が分散している。
【0024】
以上説明した本発明の非水系リチウム二次電池では、短時間出力特性をより高めることができる。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察される。すなわち、電池内に誘電体粒子が分散しているため、リチウムイオンと誘電体粒子とが疑似的に溶媒和することにより、電池内におけるリチウムの解離度が向上し、電気化学反応の進行が促進され、短時間出力特性が向上すると考えられる。特に、正極や負極に誘電体粒子が分散しているものでは、活物質の近傍に誘電体粒子が分散しているため、反応界面である活物質とイオン伝導媒体との界面付近でのリチウムの解離度が向上し、電気化学反応の進行が促進され、短時間出力特性がより向上すると考えられる。なお、上述した特許文献1のように、活物質表面に強誘電体が焼結されたものでは、強誘電体が粒子として分散せず、凝集しているため、サイズ効果が小さく、疑似溶媒和の効果が小さくなると考えられる。また、特許文献1のものでは、強誘電体が正極活物質表面を被覆することにより、正極活物質の反応面積が減少し、反応が阻害されてしまうと考えられる。
【0025】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【0026】
例えば、上述した実施形態では、正極、負極及びセパレータに誘電体粒子が分散しているものとしたが、これらのうち1つ又は2つに誘電体粒子が分散しているものとしてもよい。こうしても、短時間出力特性を向上できる。なお、正極や負極に誘電体粒子が分散しているものでは、短時間出力特性をより向上できるため、好ましい。このうち、正極及び負極の両方に誘電体粒子が分散しているものでは、短時間出力特性をさらに向上できるため、好ましい。
【0027】
上述した実施形態では、非水系リチウム二次電池はセパレータを有するものとしたが、セパレータを省略してもよい。この場合、イオン伝導媒体に誘電体微粒子を直接分散させてもよい。
【0028】
上述した実施形態では、負極は、負極合材層に誘電体粒子を分散させたものとしたが、負極をリチウム金属やリチウム合金とし、誘電体粒子を省略してもよい。
【実施例】
【0029】
以下では、本発明の非水系リチウム二次電池を具体的に作製した例について、実験例として説明する。なお、実験例1〜7,9が本発明の実施例に相当し、実験例8,10が比較例に相当する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実験例1]
(電池の作製)
正極活物質として、LiNi0.8Co0.15Al0.052で表される層状リチウムニッケル複合酸化物を用いた。この正極活物質を85質量%、導電材としてカーボンブラックを10質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状正極合材とした。スラリー状正極合材を20μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで電極密度を2.5g/cm3に高密度化し、52mm幅×450mm長の形状に切り出したものを正極シートとした。なお、正極活物質の付着量は片面当り7mg/cm2程度で、真密度及び測定した比重から求めた電極合材部の空隙率は約50%であった。正極電極中(空隙)に粒子状の高誘電材を配置させるために、ジエチルカーボネートに粒径50nmのBaTiO3(堺化学製YTK−50、以下同じ)を分散させた分散液を正極電極全体に塗布、真空含浸させた。正極電極合材内へ配置されたBaTiO3量は合材電極の空隙体積の30%程度であった。
【0031】
負極活物質として球状人造黒鉛を用いた。上記負極活物質を95質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状負極合材とした。スラリー状負極合材を10μm厚の銅箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで電極密度を1.5g/cm3に高密度化し、54mm幅×500mm長の形状に切り出したものを負極シートとした。なお、負極活物質の付着量は片面当り5mg/cm2程度で、真密度及び測定した比重から求めた電極合材部の空隙率は約50%であった。負極電極中(空隙)に粒子状の高誘電材を配置させるために、ジエチルカーボネートに粒径50nmのBaTiO3を分散させた分散液を負極電極全体に塗布、真空含浸させた。負極電極合材内へ配置されたBaTiO3量は合材電極の空隙体積の30%程度であった。
【0032】
上記の正極シートと負極シートを、56mm幅で25μm厚の空隙率50%のポリエチレン製セパレータを挟んで捲回しロール状電極体を作製した。この電極体を18650型円筒ケースに挿入し、非水電解液を含侵させた後に密閉して円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを30:70(体積%)で混合した混合溶媒に、LiPF6を1Mの濃度で溶解したものを用いた。
【0033】
(放電容量の評価)
放電容量の評価は、CCCV4.1V充電(電流値100mA、CV時間2時間)/CCCV3.0V放電(電流値100mA、CV時間2時間)で充放電可能な容量を測定したのち、その容量から放電時間率0.1Cと4Cの電流値を算出し、20℃の環境温度下において0.1Cと4Cの電流値における放電容量をCC4.1V充電/CC3.0V放電で測定した。
【0034】
(入出力の評価)
入出力の評価は、20℃および−30℃において電池容量の50%(SOC=50%)に調整した後に、種々の電流値で電流を流し、1秒後と10秒後の電池電圧を測定した。流した電流と電圧を直線補間し、1秒後と10秒後の電圧が3.0Vになる時の電流値を求め、その電流と電圧の積を出力パワーとした。
【0035】
[実験例2〜10]
表1に示すように、BaTiO3の添加部位、粒径、添加量を変化させた以外は、実験例1と同様に実験例2〜10の電池を作製し、放電容量及び入出力の評価を行った。実験例4では、セパレータの空隙体積に対して30%のBaTiO3を添加した電解液を、セパレータに含浸させることにより、セパレータにBaTiO3を分散させた。なお、実験例9は、BaTiO3を電極作製時のスラリーに分散させて電極内に配置したため、BaTiO3は電極合材中に分散しており、周囲がバインダ成分のポリフッ化ビニリデンで被覆されている。また、実験例10は、BaTiO3をどの部位にも添加しない通常の電池である。
【0036】
【表1】
【0037】
[実験結果]
上述した表1に、各電池の0.1C及び4Cでの放電容量と、20℃及び−30℃におけるSOC50%時の1秒、10秒出力を示した。表1には、BaTiO3が無添加の実験例10の値を100として規格化して示した。
【0038】
表1より、正極、負極及びセパレータのうちの1以上に粒径が200nm以下のBaTiO3が含まれる実験例1〜7,9では、1秒出力を高めることができることがわかった。また、BaTiO3の添加量が30%以下の実験例1〜6では、放電容量や10秒間出力の低下をより抑制でき、1秒出力をより向上できることがわかった。また、これらの効果は−30℃の低温でも維持されることがわかった。また、BaTiO3を電極作製時のスラリーに添加して電極内に配置した実験例9よりも、BaTiO3を分散させた分散液を電極に塗布、真空含浸して電極内に配置した実験例1のほうが、放電容量や10秒間出力の低下をより抑制でき、1秒出力をより高めることができた。このことから、BaTiO3にはポリマー成分が付着していないことがより好ましいことがわかった。
【0039】
以上のことから、ナノ高誘電材を非水系リチウム二次電池の電極やセパレータ内に適切に配置することにより、レート特性、長時間入出力を損なうこと無く、低温下などでも短時間入出力を向上させることが出来ることが明らかになった。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察された。すなわち、非水系リチウム二次電池において、リチウムイオンは、通常、例えばエチレンカーボネートなどの溶媒と溶媒和してイオン伝導媒体中に存在している。そして、電解液中で溶媒和しているリチウムイオンが、反応界面である活物質と電解液との界面で脱溶媒和して活物質に挿入されて、電気化学反応が進行する。ここで、実施例のように、電極やセパレータにBaTiO3などの誘電体粒子が分散して存在していると、後述するように、リチウムイオンは溶媒と溶媒和するのみでなく、誘電体粒子とも擬似的に溶媒和すると考えられる。これによって、誘電体粒子近傍では局所的にリチウム塩の解離度が向上し、電気化学反応の進行が促進され、短時間出力特性が向上すると推察された。
【0040】
[参考例1〜5]
(測定試料)
リチウムイオンが誘電体粒子と疑似溶媒和することを確認するため、参考例1〜5の試料について、ラマン測定を行った。参考例1の試料としては、粒径50nmのBaTiO3を用いた。参考例2の試料としては、以下のように調整したものを用いた。まず、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で混合した混合溶媒にLiPF6を1Mの濃度となるように添加した電解液を調整した。この電解液1mLと粒径50nmのBaTiO31gとを混合し、試料を得た。参考例3の試料としては、参考例2で説明した電解液を用いた。参考例4の試料としては、参考例2で説明した電解液1mLと粒径300nmのBaTiO31gとを混合して得られた試料を用いた。参考例5の試料としては、粒径300nmのBaTiO3を用いた。
【0041】
(ラマン測定方法)
ラマン測定には、JASCO製のレーザーラマン分光装置NSR−3300を用いた。光源としては、半導体レーザー(励起波長:532nm)を用い、ビーム径をφ約19μmとした。参考例1〜5の試料を石英セルにグローブボックス中で装填し、上記装置を用いて、室温にてラマン分析した。
【0042】
(ラマン測定結果)
図2に、ラマン測定結果を示した。図2に示すように、BaTiO3自体は、径によらず、ラマンシフトが800〜1000cm-1の領域ではラマンピークが無いことがわかった。電解液のみのラマンスペクトルには、Li+と溶媒和したECと、溶媒和していないフリーのECのスペクトルが確認された。粒径300nmのBaTiO3と電解液を混合した場合のスペクトルのLi+と溶媒和したECと、溶媒和していないフリーのECの強度比はほとんど変化しなかった。それに対して、粒径50nmのBaTiO3と電解液を混合した場合のスペクトルは、Li+と溶媒和したECの割合が少なくなった。このことは、ECの代わりにナノサイズのBaTiO3が溶媒和しているなどの、溶媒和状態の変化が起こっていることを示すものと推察された。
【産業上の利用可能性】
【0043】
本発明は、電池産業の分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0044】
10 非水系リチウム二次電池、11 正極集電体、12 正極合材層、13 正極シート、14 負極集電体、17 負極合材層、18 負極シート、19 セパレータ、20 非水電解液、22 円筒ケース、24 正極端子、26 負極端子。
図1
図2