【実施例】
【0029】
以下では、本発明の非水系リチウム二次電池を具体的に作製した例について、実験例として説明する。なお、実験例1〜7,9が本発明の実施例に相当し、実験例8,10が比較例に相当する。本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0030】
[実験例1]
(電池の作製)
正極活物質として、LiNi
0.8Co
0.15Al
0.05O
2で表される層状リチウムニッケル複合酸化物を用いた。この正極活物質を85質量%、導電材としてカーボンブラックを10質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状正極合材とした。スラリー状正極合材を20μm厚のアルミニウム箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで電極密度を2.5g/cm
3に高密度化し、52mm幅×450mm長の形状に切り出したものを正極シートとした。なお、正極活物質の付着量は片面当り7mg/cm
2程度で、真密度及び測定した比重から求めた電極合材部の空隙率は約50%であった。正極電極中(空隙)に粒子状の高誘電材を配置させるために、ジエチルカーボネートに粒径50nmのBaTiO
3(堺化学製YTK−50、以下同じ)を分散させた分散液を正極電極全体に塗布、真空含浸させた。正極電極合材内へ配置されたBaTiO
3量は合材電極の空隙体積の30%程度であった。
【0031】
負極活物質として球状人造黒鉛を用いた。上記負極活物質を95質量%、結着材としてポリフッ化ビニリデンを5質量%混合し、分散材としてN−メチル−2−ピロリドンを適量添加、分散してスラリー状負極合材とした。スラリー状負極合材を10μm厚の銅箔集電体の両面に塗布、乾燥させた後、ロールプレスで電極密度を1.5g/cm
3に高密度化し、54mm幅×500mm長の形状に切り出したものを負極シートとした。なお、負極活物質の付着量は片面当り5mg/cm
2程度で、真密度及び測定した比重から求めた電極合材部の空隙率は約50%であった。負極電極中(空隙)に粒子状の高誘電材を配置させるために、ジエチルカーボネートに粒径50nmのBaTiO
3を分散させた分散液を負極電極全体に塗布、真空含浸させた。負極電極合材内へ配置されたBaTiO
3量は合材電極の空隙体積の30%程度であった。
【0032】
上記の正極シートと負極シートを、56mm幅で25μm厚の空隙率50%のポリエチレン製セパレータを挟んで捲回しロール状電極体を作製した。この電極体を18650型円筒ケースに挿入し、非水電解液を含侵させた後に密閉して円筒型リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液には、エチレンカーボネートとジエチルカーボネートを30:70(体積%)で混合した混合溶媒に、LiPF
6を1Mの濃度で溶解したものを用いた。
【0033】
(放電容量の評価)
放電容量の評価は、CCCV4.1V充電(電流値100mA、CV時間2時間)/CCCV3.0V放電(電流値100mA、CV時間2時間)で充放電可能な容量を測定したのち、その容量から放電時間率0.1Cと4Cの電流値を算出し、20℃の環境温度下において0.1Cと4Cの電流値における放電容量をCC4.1V充電/CC3.0V放電で測定した。
【0034】
(入出力の評価)
入出力の評価は、20℃および−30℃において電池容量の50%(SOC=50%)に調整した後に、種々の電流値で電流を流し、1秒後と10秒後の電池電圧を測定した。流した電流と電圧を直線補間し、1秒後と10秒後の電圧が3.0Vになる時の電流値を求め、その電流と電圧の積を出力パワーとした。
【0035】
[実験例2〜10]
表1に示すように、BaTiO
3の添加部位、粒径、添加量を変化させた以外は、実験例1と同様に実験例2〜10の電池を作製し、放電容量及び入出力の評価を行った。実験例4では、セパレータの空隙体積に対して30%のBaTiO
3を添加した電解液を、セパレータに含浸させることにより、セパレータにBaTiO
3を分散させた。なお、実験例9は、BaTiO
3を電極作製時のスラリーに分散させて電極内に配置したため、BaTiO
3は電極合材中に分散しており、周囲がバインダ成分のポリフッ化ビニリデンで被覆されている。また、実験例10は、BaTiO
3をどの部位にも添加しない通常の電池である。
【0036】
【表1】
【0037】
[実験結果]
上述した表1に、各電池の0.1C及び4Cでの放電容量と、20℃及び−30℃におけるSOC50%時の1秒、10秒出力を示した。表1には、BaTiO
3が無添加の実験例10の値を100として規格化して示した。
【0038】
表1より、正極、負極及びセパレータのうちの1以上に粒径が200nm以下のBaTiO
3が含まれる実験例1〜7,9では、1秒出力を高めることができることがわかった。また、BaTiO
3の添加量が30%以下の実験例1〜6では、放電容量や10秒間出力の低下をより抑制でき、1秒出力をより向上できることがわかった。また、これらの効果は−30℃の低温でも維持されることがわかった。また、BaTiO
3を電極作製時のスラリーに添加して電極内に配置した実験例9よりも、BaTiO
3を分散させた分散液を電極に塗布、真空含浸して電極内に配置した実験例1のほうが、放電容量や10秒間出力の低下をより抑制でき、1秒出力をより高めることができた。このことから、BaTiO
3にはポリマー成分が付着していないことがより好ましいことがわかった。
【0039】
以上のことから、ナノ高誘電材を非水系リチウム二次電池の電極やセパレータ内に適切に配置することにより、レート特性、長時間入出力を損なうこと無く、低温下などでも短時間入出力を向上させることが出来ることが明らかになった。こうした効果が得られる理由は、以下のように推察された。すなわち、非水系リチウム二次電池において、リチウムイオンは、通常、例えばエチレンカーボネートなどの溶媒と溶媒和してイオン伝導媒体中に存在している。そして、電解液中で溶媒和しているリチウムイオンが、反応界面である活物質と電解液との界面で脱溶媒和して活物質に挿入されて、電気化学反応が進行する。ここで、実施例のように、電極やセパレータにBaTiO
3などの誘電体粒子が分散して存在していると、後述するように、リチウムイオンは溶媒と溶媒和するのみでなく、誘電体粒子とも擬似的に溶媒和すると考えられる。これによって、誘電体粒子近傍では局所的にリチウム塩の解離度が向上し、電気化学反応の進行が促進され、短時間出力特性が向上すると推察された。
【0040】
[参考例1〜5]
(測定試料)
リチウムイオンが誘電体粒子と疑似溶媒和することを確認するため、参考例1〜5の試料について、ラマン測定を行った。参考例1の試料としては、粒径50nmのBaTiO
3を用いた。参考例2の試料としては、以下のように調整したものを用いた。まず、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)とを3:4:3の体積比で混合した混合溶媒にLiPF
6を1Mの濃度となるように添加した電解液を調整した。この電解液1mLと粒径50nmのBaTiO
31gとを混合し、試料を得た。参考例3の試料としては、参考例2で説明した電解液を用いた。参考例4の試料としては、参考例2で説明した電解液1mLと粒径300nmのBaTiO
31gとを混合して得られた試料を用いた。参考例5の試料としては、粒径300nmのBaTiO
3を用いた。
【0041】
(ラマン測定方法)
ラマン測定には、JASCO製のレーザーラマン分光装置NSR−3300を用いた。光源としては、半導体レーザー(励起波長:532nm)を用い、ビーム径をφ約19μmとした。参考例1〜5の試料を石英セルにグローブボックス中で装填し、上記装置を用いて、室温にてラマン分析した。
【0042】
(ラマン測定結果)
図2に、ラマン測定結果を示した。
図2に示すように、BaTiO
3自体は、径によらず、ラマンシフトが800〜1000cm
-1の領域ではラマンピークが無いことがわかった。電解液のみのラマンスペクトルには、Li
+と溶媒和したECと、溶媒和していないフリーのECのスペクトルが確認された。粒径300nmのBaTiO
3と電解液を混合した場合のスペクトルのLi
+と溶媒和したECと、溶媒和していないフリーのECの強度比はほとんど変化しなかった。それに対して、粒径50nmのBaTiO
3と電解液を混合した場合のスペクトルは、Li
+と溶媒和したECの割合が少なくなった。このことは、ECの代わりにナノサイズのBaTiO
3が溶媒和しているなどの、溶媒和状態の変化が起こっていることを示すものと推察された。