(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
直流電源(31)とモータ(80)との間に接続され前記モータの力行動作及び回生動作に応じて前記直流電源側の電力と前記モータ側の電力とを相互に変換する電力変換回路(60)を操作することで、ベクトル制御により多相ブラシレスモータである前記モータの通電を制御するモータ制御装置であって、
前記電力変換回路に対する電圧指令としてd軸電圧指令(Vd*)及びq軸電圧指令(Vq*)を演算する電圧指令演算部(43)と、
前記直流電源と前記電力変換回路との間の電源回路(30)に流れる電源電流の推定値(Ib_est)を演算する電源電流推定演算部(441)と、
前記電源電流推定演算部により演算された前記電源電流の推定値の絶対値が所定の目標値(X)以下となるように、0以上1以下の値である抑制ゲイン(Kres)を演算する抑制ゲイン演算部(45)と、
前記電圧指令演算部が演算した電圧指令に前記抑制ゲインを乗じることで前記電圧指令を抑制する電圧指令抑制部(46)と、
を備え、
前記電源電流推定演算部は、
前記電圧指令演算部が今回の制御演算で出力したd軸電圧指令及びq軸電圧指令の今回値(Vd*(n)、Vq*(n))を用い、d軸電圧指令及びd軸電流(Id)の積とq軸電圧指令及びq軸電流(Iq)の積との和の値に基づいて、前記電力変換回路の消費電力(W)を算出し、当該消費電力を前記電力変換回路の入力電圧(Vinv)で除することにより、前記電源電流の推定値を演算することを特徴とするモータ制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明のモータ制御装置の複数の実施形態を図面に基づいて説明する。複数の実施形態において実質的に同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
最初に
図1を参照し、本発明のモータ制御装置が適用されるモータ駆動システムの全体構成について説明する。この部分の説明では、モータ制御装置の符号として「401」を用いる。また、「本実施形態」という場合、後述する第1〜第4実施形態を包括する。
【0014】
モータ駆動システム10は、直流電源31、インバータ60及びモータ80等を含む。本実施形態のモータ80は、3相の巻線組81、82、83を有する3相ブラシレスモータであり、例えば車両の電動パワーステアリング装置において、運転者の操舵を補助する操舵アシストモータとして使用される。回転角センサ85で検出されたモータ80のロータ回転角は、電気角θに換算され、モータ制御装置401に入力される。
【0015】
直流電源31は、許容電力の範囲内で充放電可能な蓄電装置である。例えば車両の電動パワーステアリング装置では、補機バッテリを想定する。補機バッテリは、電動パワーステアリング装置用のモータ駆動システム10の他に、別のシステムにも電力を供給しているものと仮定する。
モータ80は、主として直流電源31の電力を消費してトルクを出力する力行動作を行う他、外部からの入力(いわゆる逆入力)により回転されることで回生動作を行う場合がある。例えば電動パワーステアリング装置では、走行中に車輪が障害物に乗り上げて転向した場合や、車輪をジャッキアップしながらハンドルを操作した場合が相当する。
【0016】
「電力変換回路」としてのインバータ60は、直流電源31とモータ80との間に接続され、モータ80の力行動作及び回生動作に応じて直流電源31側の電力とモータ80側の電力とを相互に変換する。インバータ60は、モータ制御装置401からの指令によって、ブリッジ接続された6つのスイッチング素子61〜66のオンオフが操作される。
【0017】
スイッチング素子61、62、63は、それぞれU相、V相、W相の高電位側スイッチング素子であり、スイッチング素子64、65、66は、それぞれU相、V相、W相の低電位側スイッチング素子である。本実施形態では、スイッチング素子61〜66として、MOSFET(金属酸化物半導体電界効果トランジスタ)が用いられる。なお、他の実施形態では、MOSFET以外の電界効果トランジスタやIGBT等を用いてもよい。
また、本実施形態では、各相の低電位側スイッチング素子64、65、66とグランドラインLgとの間に各相電流Iu、Iv、Iwを検出するシャント抵抗71、72、73が設けられている。
【0018】
インバータ60の駆動により、モータ80の力行動作時には、直流電源31の直流電力が3相交流電力に変換されてモータ80に供給される。一方、モータ80の回生動作時には、モータ80の逆起電力によって発生した回生電流が直流電源31に充電される。
インバータ60は、電源ラインLpを経由して直流電源31の正極側に接続され、グランドラインLgを経由して直流電源31の負極側に接続される。インバータ60の入力側には、入力電圧の脈動を平滑化するコンデンサ35が設けられている。
【0019】
また、本明細書では、直流電源31とインバータ60との間の回路を「電源回路30」といい、電源回路30を流れる電流を「電源電流Ib」という。電源電流Ibの正負は、力行動作時に直流電源31からインバータ60に向かう方向を正とし、回生動作時にインバータ60から直流電源31に向かう方向を負と定義する。リレー32は、電源回路30を遮断可能に設けられている。さらに、インバータ60の入力側における電源ラインLpとグランドラインLgとの間の電位差を「インバータ入力電圧Vinv」という。
【0020】
モータ制御装置401は、図示しないマイコンや駆動回路(プリドライバ)等から構成される。モータ制御装置401は、外部から入力されるトルク信号等、並びに、モータ80の電流及び電気角のフィードバック信号に基づいて電圧指令を演算し、この電圧指令に基づいて、インバータ60の各スイッチング素子61〜66のオンオフを操作する。
例えば、モータ制御装置401とインバータ60とが、共に一つの電子制御装置(ECU)を構成するようにしてもよい。
【0021】
以上の構成のモータ駆動システム10において、直流電源31の充電許容電力が比較的低い場合、モータ80の回生動作時に、回生電流(Ib<0)によってインバータ60の電圧が上昇し、スイッチング素子61〜66が破損するおそれがある。また、モータ80の力行動作時に、放電許容電力に対して比較的大きな電源電流(Ib>0)が放出されると、直流電源31の性能が低下するおそれがある。
【0022】
そこで、本発明の各実施形態のモータ制御装置は、電源電流Ibの絶対値が目標値以上であるとき、インバータ60に対する電圧指令を抑制することで、電源電流Ibを適切に抑制することを特徴とする。以下、電圧指令を抑制するための具体的な構成について、実施形態毎に説明する。
第1実施形態が請求項に係る発明を実施するための形態に相当する。
【0023】
(第1、2実施形態)
第1、第2実施形態のモータ制御装置について、
図1〜
図6を参照して説明する。第1実施形態及び第2実施形態は、基本的な構成は同一であり、電源電流推定演算部の詳細な構成のみが異なる。そこで、第1実施形態の電源電流推定演算部の符号を「441」、第2実施形態の電源電流推定演算部の符号を「442」とする。また、電源電流推定演算部441を備える第1実施形態のモータ制御装置の符号を「401」、電源電流推定演算部442を備える第2実施形態のモータ制御装置の符号を「402」とする。
【0024】
まず、第1、第2実施形態に共通の構成について、
図1、
図2を参照して説明する。共通構成の説明では、代表として、第1実施形態の符号「401」、「441」を用いる。
モータ制御装置401は、電流指令演算部41、減算器42、dq軸電圧指令演算部43、電源電流推定演算部441、抑制ゲイン演算部45、dq軸電圧指令抑制部46、2相3相変換部47、及び3相2相変換部48を備える。
【0025】
モータ制御装置401は、固定座標系(3相)と回転座標系(dq軸2相)とを座標変換する周知のベクトル制御を用いて3相ブラシレスモータ80に印加する電圧指令を演算する。以下の説明では適宜、「d軸電流/電圧」及び「q軸電流/電圧」を包括し、「dq軸電流/電圧」のように記す。
ここで、dq軸電圧指令演算部43及びdq軸電圧指令抑制部46は、それぞれ、特許請求の範囲に記載の「電圧指令演算部」及び「電圧指令抑制部」に相当する。
【0026】
電流指令演算部41は、図示しないトルクセンサからのトルク信号等に基づき、d軸電流指令Id
*及びq軸電流指令Iq
*を指令する。
減算器42は、3相2相変換部48からフィードバックされるd軸電流Id及びq軸電流Iqを、それぞれd軸電流指令Id
*及びq軸電流指令Iq
*から減算し、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqを算出する。
なお、3相2相変換部48は、回転角センサ85からモータ80の電気角θを取得し、電気角θに基づいて、3相電流Iu、Iv、Iwをd軸電流Id及びq軸電流Iqに3相2相変換する。
【0027】
dq軸電圧指令演算部43は、インバータ60に対する電圧指令の基となる値として、d軸電圧指令Vd
*及びq軸電圧指令Vq
*を演算する。この演算は、例えばPI(比例積分)制御演算によって、d軸電流偏差ΔId及びq軸電流偏差ΔIqがそれぞれゼロに収束するように行われる。
dq軸電圧指令Vd
*、Vq
*の制御演算は、所定の制御周期(例えば200μs)で繰り返し実行される。本明細書では、いつの制御演算の値であるかを区別する場合、今回の制御演算における演算値(今回値)には(n)を付し、前回の処理における演算値(前回値)には(n−1)を付して表す。
【0028】
一般的なベクトル制御の場合、dq軸電圧指令Vd
*、Vq
*は、2相3相変換部47に直接出力される。これに対し、本発明の第1、第2実施形態では、電源電流推定演算部441、抑制ゲイン演算部45、及びdq軸電圧指令抑制部46を備え、状況に応じて、dq軸電圧指令Vd
*、Vq
*を抑制した後、2相3相変換部47に出力することを特徴とする。
【0029】
電源電流推定演算部441は、電源回路30に流れる電源電流の推定値Ib_estを演算する。特に第1、第2実施形態では、電源電流推定演算部441は、dq軸電圧指令演算部43が演算したdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*、及び、3相2相変換部48にて相電流から変換されたdq軸電流Id、Iqを取得する。
【0030】
これらの情報に基づき、電源電流推定演算部441は、インバータ60の消費電力Wに関する式(1)、(2)を用いて電源電流推定値Ib_estを演算し、抑制ゲイン演算部45に出力する。
W=Vd
*×Id+Vq
*×Iq ・・・(1)
Ib_est=W/Vinv ・・・(2)
式(1)、(2)の意味については後述する。
【0031】
抑制ゲイン演算部45は、電源電流推定値Ib_estの絶対値を所定の目標値Xと比較する。そして、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以上のとき、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以下となるように、0以上1以下の値である抑制ゲインKresを演算する。抑制ゲイン演算部45は、目標値Xを抑制ゲイン演算部45の内部に固定値として記憶してもよく、外部から取得してもよい。
【0032】
dq軸電圧指令抑制部46は、dq軸電圧指令演算部43が演算したdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*にそれぞれ抑制ゲインKresを乗じることでdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*を抑制する。そして、抑制後のdq軸電圧指令Vd
**、Vq
**を2相3相変換部47に出力する。
ここで、「Kres=1」の場合、抑制後のdq軸電圧指令Vd
**、Vq
**は、抑制前のdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*に等しくなる。つまり、dq軸電圧指令演算部43が演算したdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*がそのまま維持される。本明細書では、このようにdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*を「維持する」場合を含めて「抑制する」という。
【0033】
抑制ゲイン演算部45による抑制ゲインKresの演算例を
図2に示す。
図2(a)に示す例では、抑制ゲイン演算部45は、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以上のとき、目標値Xを電源電流推定値Ib_estの絶対値で除した値を抑制ゲインKresとする。すなわち、電源電流推定値Ib_estの絶対値と抑制ゲインKresとは反比例関係となる。一方、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X未満のとき、抑制ゲインKresを「1」とする。
【0034】
図2(b)に示す例では、抑制ゲイン演算部45は、電源電流推定値Ib_estの絶対値の範囲に応じて、抑制ゲインKresが(a)の反比例曲線を示す破線以下となるように、抑制ゲインKresをステップ的に変化させる。例えば、以下のように表される。
0≦|Ib_est|< Xの範囲では、Kres=1
X≦|Ib_est|<2Xの範囲では、Kres=0.5
2X≦|Ib_est|<3Xの範囲では、Kres=0.33
3X≦|Ib_est|<4Xの範囲では、Kres=0.25
【0035】
こうして抑制後のdq軸電圧指令Vd
**、Vq
**を取得した2相3相変換部47は、電気角θに基づく座標変換により、3相電圧指令Vu
*、Vv
*、Vw
*を演算し、インバータ60に出力する。ここでPWM制御の場合、詳しくは、電圧指令に基づき生成されるデューティ指令信号により、インバータ60のスイッチング素子61〜66のオンオフが操作され、所望の3相交流電圧Vu、Vv、Vwが生成される。PWM制御は周知技術であるため、詳しい説明を省略する。
【0036】
ここで、電源電流推定演算部441による電源電流推定値Ib_estの算出式について説明する。
図1の電源回路30及びインバータ60において、エネルギー保存則から、「入力電力=配線抵抗損失+インバータ消費電力」の関係が成立する。配線抵抗損失を0とすると、3相の端子電圧Vu、Vv、Vwと電流Iu、Iv、Iwとの積(電力)の和に基づく式(3)が得られる。
Vinv×Ib=Vu×Iu+Vv×Iv+Vw×Iw ・・・(3)
なお、配線抵抗損失を考慮する場合については、「その他の実施形態」で補足する。
【0037】
また、高電位側スイッチング素子61、62、63のスイッチング周期に対するオン時間の比率であるデューティを0以上1以下の無次元数で定義する。すると、各相端子電圧Vu、Vv、Vwは、インバータ入力電圧Vinvと各相デューティDutyU、DutyV、DutyWとの積に等しいため、式(3)は式(4.1)に書き替えられる。
Ib=DutyU×Iu+DutyV×Iv+DutyW×Iw ・・・(4.1)
【0038】
式(4.1)は、電源電流は、各相デューティと電流の積の和から求めることができることを意味する。この考え方は、dq軸の2相でも同様であることから、式(4.1)の右辺は、インバータ入力電圧の基準電圧Vinv_refを用いて、式(4.2)のように表される。
Ib≒(Vd×Id+Vq×Iq)/Vinv_ref ・・・(4.2)
したがって、dq軸電圧Vd、Vqとして電圧指令Vd
*、Vq
*を用い、消費電力Wによって表現すると、上記の式(1)、(2)により、電源電流推定値Ib_estを推定することができる。
【0039】
以上が第1、第2実施形態に共通の構成の説明である。
続いて、第1実施形態と第2実施形態との電源電流推定演算部441、442の構成に係る相違点、及び、それに対応してモータ制御装置401、402が実行する電圧指令抑制処理に係る相違点について説明する。
【0040】
まず、第1実施形態の電源電流推定演算部441の構成について
図3を参照する。電源電流推定演算部441は、消費電力算出部53及び除算器54を有している。消費電力算出部53には、dq軸電圧指令演算部43が今回の制御演算で出力したdq軸電圧指令の今回値Vd
*(n)、Vq
*(n)、及びdq軸電流Id、Iqが入力される。消費電力算出部53は、上記の式(1)において、Vd
*=Vd
*(n)、Vq
*=Vq
*(n)を代入した式(1.1)を用いて、インバータ60の消費電力Wを算出する。
W=Vd
*(n)×Id+Vq
*(n)×Iq ・・・(1.1)
【0041】
除算器54は、式(2)により、消費電力Wをインバータ入力電圧Vinvで除して電源電流推定値Ib_estを算出する。
Ib_est=W/Vinv ・・・(2)
式(2)のインバータ入力電圧Vinvとしては、基本的に、dq軸電圧指令演算部43の内部に既定値として記憶された基準電圧Vinv_refを用いる構成を想定する。ただし、後述する第3実施形態のように、電圧センサ34によって検出されたインバータ入力電圧Vinvを取得してもよい。
【0042】
次に、第1実施形態のモータ制御装置401が実行する電圧指令抑制処理について、
図4のフローチャートを参照する。フローチャートの説明で記号「S」はステップを意味する。末尾に「A」を付したS1A、S2Aは、後述の第2実施形態とは異なるステップである。
S1A〜S3は電源電流推定演算部441により、S4〜S6は抑制ゲイン演算部45により、S7はdq軸電圧指令抑制部46により実行される。
【0043】
電源電流推定演算部441の消費電力算出部53は、S1Aで、dq軸電圧指令の今回値Vd
*(n)、Vq
*(n)、及び、dq軸電流Id、Iqを取得する。
続いて消費電力算出部53は、S2Aで、「d軸電圧指令Vd
*(n)及びd軸電流Idの積」と「q軸電圧指令Vq
*(n)及びq軸電流Iqの積」との和の値に基づいて、すなわち式(1.1)を用いて、インバータ60の消費電力(W)を算出する
W=Vd
*(n)×Id+Vq
*(n)×Iq ・・・(1.1)
除算器54は、S3で、式(2)により、消費電力Wをインバータ入力電圧Vinvで除して電源電流推定値Ib_estを算出する。
Ib_est=W/Vinv ・・・(2)
【0044】
抑制ゲイン演算部45は、S4で、電源電流推定値Ib_estの絶対値と目標値Xとを比較する。電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以上のとき(S4:YES)、式(5)で示すように、目標値Xを電源電流推定値Ib_estで除した値を抑制ゲインKresとする(S5)。
Kres=|Ib_est|/X ・・・(5)
一方、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X未満のとき(S4:NO)、抑制ゲインKresを「1」とする(S6)。
【0045】
dq軸電圧指令抑制部46は、S7で、式(6.1)、(6.2)により、dq軸電圧指令Vd
*(n)、Vq
*(n)にそれぞれ抑制ゲインKresを乗じて、抑制後のdq軸電圧指令Vd
**(n)、Vq
**(n)を算出し、2相3相変換部47に出力する。
Vd
**(n)=Vd
*(n)×Kres ・・・(6.1)
Vq
**(n)=Vq
*(n)×Kres ・・・(6.2)
【0046】
以上で、第1実施形態の電圧指令抑制処理のルーチンを終了する。2相3相変換部47は、抑制後のdq軸電圧指令Vd
**(n)、Vq
**(n)を3相電圧指令に変換し、PWM制御によりインバータ60を駆動する。
このように第1実施形態では、dq軸電圧指令の今回値Vd
*(n)、Vq
*(n)を用いるため、今から電源回路に流れようとする将来の電源電流を推定することができる。
【0047】
次に、第2実施形態のモータ制御装置402の電源電流推定演算部442の構成、及び電圧指令抑制処理について、
図5、
図6を参照し、主に第1実施形態との相違点を説明する。
図5における
図3と実質的に同一の構成、及び、
図6のフローチャートにおける
図4と実質的に同一のステップには、同一の符号又はステップ記号を付して説明を省略する。
図6は、S1B及びS2Bが
図4と異なる。
【0048】
図5に示すように、第2実施形態の電源電流推定演算部442は、消費電力算出部53の入力側に遅延素子51、52を備えている。遅延素子51、52は、それぞれ、dq軸電圧指令Vq
*の今回値Vd
*(n)、Vq
*(n)に対し、制御周期一回分遅延させる。消費電力算出部53には、dq軸電圧指令演算部43が前回の制御演算で出力したdq軸電圧指令の前回値Vd
*(n−1)、Vq
*(n−1)、及びdq軸電流Id、Iqが入力される。
【0049】
この構成に対応し、
図6のS1Bで、電源電流推定演算部442は、dq軸電圧指令の前回値Vd
*(n−1)、Vq
*(n−1)、及び、dq軸電流Id、Iqを取得する。S2Bでは、式(1.1)の(n)を(n−1)に置き換えた式(1.2)を用いて、インバータ60の消費電力(W)を算出する
W=Vd
*(n−1)×Id+Vq
*(n−1)×Iq ・・・(1.2)
【0050】
算出した消費電力Wに基づき、S3以下のステップで抑制ゲインKresを演算し、d軸電圧指令Vd
*及びq軸電圧指令Vq
*に乗じる点は、
図4と同様である。
このように第2実施形態では、dq軸電圧指令の前回値Vd
*(n−1)、Vq
*(n−1)を用いるため、直近の過去において電源回路に流れた電源電流を推定することができる。
【0051】
(効果)
以上説明した本発明の第1、第2実施形態のモータ制御装置401、402の効果について説明する。
(1)従来技術の特許文献1(特開2008−049910号公報)に記載の装置のように、電源電圧やモータ回転角速度に応じて電流指令値を制限する構成では、直流電源側の配線抵抗値が変わった場合に所定の電流(電力)に制限できない可能性がある。また、特許文献2(特開2009−136111号公報)に記載の装置のように、異常値を検出した場合にインバータの駆動を停止すると、例えば車両の電動パワーステアリング装置等では、運転者の操舵力を軽減するアシスト機能が作用しなくなる。
【0052】
これに対し、第1、第2実施形態のモータ制御装置401、402は、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以上であるとき、電源電流推定値Ib_estの絶対値が目標値X以下となるように、インバータ60に対するdq軸電圧指令Vd
*、Vq
*を抑制する。これにより、配線抵抗等のばらつきの影響を受けることなく、また、インバータ60の駆動を停止することなく、モータ80の力行動作及び回生動作において、電源電流Ibを適切に抑制することができる。
【0053】
したがって、直流電源31の充電許容電力が比較的低い場合、モータ80の回生動作時に、回生電流(Ib<0)によってインバータ60の電圧が上昇することによるスイッチング素子61〜66等の破損を防止することができる。また、モータ80の力行動作時、放電許容電力に対して比較的大きな電源電流(Ib>0)が流れることを回避し、直流電源31の性能を安定させることができる。
このモータ制御装置401、402は、逆入力によってモータ80が回生動作する可能性がある電動パワーステアリング装置等に適用されると特に有効である。
【0054】
また、電源電流推定値Ib_estが目標値X以上のとき、
図2(a)に示すように、抑制ゲイン演算部45が「目標値Xを電源電流推定値Ib_estの絶対値で除した値」を抑制ゲインKresとする場合、電源電流Ibの絶対値を目標値Xに一致させるように抑制ゲインKresを最大限の設定とすることで、許容範囲における最大限の性能を有効に発揮させることができる。
【0055】
(2)第1、第2実施形態の抑制ゲイン演算部45は、電源電流の検出値でなく推定値Ib_estを用いて抑制ゲインKresを演算するため、電源電流Ibを直接検出する電流センサが不要となる。
【0056】
(3)第1、第2実施形態の電源電流推定演算部441、442は、dq軸電圧指令の今回値Vd
*(n)、Vq
*(n)、又は、前回値Vd
*(n−1)、Vq
*(n−1)を用いて電源電流推定値Ib_estを演算する。指令値を用いて演算することで、モータ制御装置401、402内部の情報を有効に利用することができる。
【0057】
(第3実施形態)
第3実施形態のモータ制御装置について、
図7の概略構成図を参照して説明する。
第3実施形態のモータ制御装置403は、第1、第2実施形態に対し、電源電流推定演算部443による電源電流推定値Ib_estの演算方法が異なる。また、電源回路30に、インバータ入力電圧Vinvを検出する電圧センサ34が設けられている。
【0058】
電源電流推定演算部443には、d軸電流Id、q軸電流Iq、及び、微分器86にて電気角θを時間微分して得られた電気角速度ωが入力される。また、電源電流推定演算部443は、回路定数である電機子抵抗R、d軸インダクタンスLd、q軸インダクタンスLq、及び、永久磁石の電機子鎖交磁束(逆起電圧定数)φを内部に記憶しているか、或いは外部から取得する。回路定数は、温度変化や経時劣化を無視すれば固定値として扱うことができる。
【0059】
周知のとおり、電圧方程式は、過渡状態を示す電流微分項を無視すれば、式(7.1)、(7.2)で表される。
Vd=R×Id−ω×Lq×Iq ・・・(7.1)
Vq=R×Iq+ω×Ld×Id+ω×φ ・・・(7.2)
【0060】
電源電流推定演算部443は、d軸電流Id、q軸電流Iq、電気角速度ωに基づき、電圧方程式を用いてd軸電圧Vd及びq軸電圧Vqを算出する。そして、d軸電流Id、q軸電流Iq、d軸電圧Vd及びq軸電圧Vqに基づき、第1、第2実施形態と同様に、消費電力Wを算出し、インバータ入力電圧Vinvで除して電源電流推定値Ib_estを演算する。その他の構成は、第1、第2実施形態と同様である。
第3実施形態は、第1、第2実施形態の効果(1)、(2)と同様の効果を奏する。
【0061】
(第4実施形態)
第4実施形態のモータ制御装置について、
図8の概略構成図を参照して説明する。
第4実施形態では、モータ駆動システム10の電源回路30に、電源電流Ibを直接検出する電流センサ33が設けられている。モータ制御装置404の抑制ゲイン演算部45には、電源電流検出値Ib_sns及び目標値Xが入力される。
【0062】
電源電流検出値Ib_snsの絶対値が目標値X以上のとき、抑制ゲイン演算部45は、
図2の横軸の電源電流推定値Ib_estを電源電流検出値Ib_snsに置き換えた関係式又はマップに基づき、抑制ゲインKresを演算する。
これにより第4実施形態は、第1、第2実施形態の効果(1)と同様の効果を奏する。また、電源電流Ibを直接検出するため、温度変化や経時劣化等の要因も含めた配線抵抗等の変化を正確に反映させることができる。
【0063】
(その他の実施形態)
(ア)上記実施形態では、ベクトル制御により3相ブラシレスモータの通電を制御するモータ制御装置について説明している。この他、本発明のモータ制御装置は、4相以上の多相ブラシレスモータの通電を制御するものでもよい。
また、本発明のモータ制御装置は、ブラシ付き直流モータに適用されてもよい。その場合、「電力変換器」としてHブリッジ回路が用いられる。また、「電圧指令」として直流電圧値が指令される。
【0064】
(イ)本発明のモータ制御装置は、直流電源と電力変換器との間に昇圧コンバータを設けるシステムに適用されてもよい。その場合、消費電力から電源電流の算出において、昇圧比を考慮するようにしてもよい。
(ウ)電源電流の推定値は、上記実施形態で説明した演算方法に限らず、どのような数式やマップを用いて演算してもよい。
(エ)モータ80の力行動作時又は回生動作時を判別する手段を備え、力行動作時であるか回生動作時であるかによって、抑制ゲインKresを変更してもよい。
【0065】
(オ)上記の式(3)では、インバータ60の配線抵抗を0とみなし、コンデンサ35の両端電圧をインバータ入力電圧Vinvとした。これに対し、インバータ60の配線抵抗を考慮する場合について、
図9を参照して説明する。
図9に示すモータ駆動システムには、コンデンサ35後のインバータ60の入力部に半導体リレー36が設けられている。この半導体リレー36の抵抗をRrとし、リレー後の電圧をVrとすると、VinvとVrとの関係は、式(8)で示される。
Vinv−Rr×Ib=Vr ・・・(8)
すると、リレー後電圧と各相端子電圧との関係は、式(3)に対応する式(9)で表される。
Vr×Ib=Vu×Iu+Vv×Iv+Vw×Iw ・・・(9)
【0066】
上記の式(4.1)、(4.2)の考え方を援用すると、式(9)は、式(10)に書き替えられる。
Ib=DutyU×Iu+DutyV×Iv+DutyW×Iw
≒(Vd×Id+Vq×Iq)/Vinv_ref ・・・(10)
ここで、インバータ入力電圧の基準電圧Vinv_refの値は、式(10)が成立するように設定される。このように、インバータ60の配線抵抗を考慮した場合にも、基準電圧Vinv_refを用いて、消費電力Wから電源電流Ibを算出することができる。
【0067】
(カ)本発明のモータ制御装置において、電圧指令抑制に係る特徴構成以外の構成は、周知技術に基づいて適宜変更してよい。例えば3相2相変換部48は、インバータ60の3相に設けられたシャント抵抗71、72、73から3相の電流検出値を取得する構成に限らず、3相のうち2相の電流検出値を取得し、他の1相の電流をキルヒホッフの法則により算出してもよい。
【0068】
(キ)本発明のモータ制御装置は、電動パワーステアリング装置用のモータに限らず、他のいかなる用途のモータに適用されてもよい。
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。