(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
乾燥炉本体と熱風生成手段とを備え、外板部と狭隘部とを含む自動車ボディが前記乾燥炉本体内を搬送されている間に、前記熱風生成手段により生成された熱風と前記自動車ボディとを接触させ、前記外板部及び前記狭隘部に塗布した塗膜を乾燥する塗装乾燥装置であって、
前記狭隘部に指向して開口する吸引部と、
前記吸引部を通じて前記吸引部の指向する範囲の空気を吸引する吸引手段と、を備えた塗装乾燥装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0010】
以下の実施形態では、本発明の塗装乾燥装置及び塗装乾燥方法を適用した上塗り塗装乾燥装置1を例に挙げて本発明の最良の実施形態を説明するが、本発明の塗装乾燥装置及び塗装乾燥方法は、上塗り塗装乾燥装置以外にも、中塗塗装乾燥装置、下塗り塗装乾燥装置(電着塗装乾燥装置)、あるいは後述する中塗り・上塗り乾燥装置にも適用することができる。
【0011】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、塗装ラインPLを構成する装置の一つであり、塗装台車50に搭載されたボディシェルB(自動車ボディBともいう)に塗布された上塗り塗膜を乾燥させ、当該自動車ボディBに焼き付けるための装置である。以下の説明では、まず、自動車の製造ラインと塗装ラインPLの概略を説明したのち、自動車ボディBと上塗り塗装乾燥装置1について詳細に説明する。
【0012】
自動車の製造ラインは、主として、プレス成形ラインPRLと、車体組立ライン(溶接ラインとも称される)WLと、塗装ラインPLと、車両組立ライン(艤装ラインとも称される)ASLとの4つのラインから構成されている。プレス成形ラインPRLでは、自動車ボディBを構成する種々のパネルをそれぞれプレス成形し、プレス単品の状態で車体組立ラインWLへ搬送する。車体組立ラインWLでは、フロントボディ、センタフロアボディ、リヤフロアボディ及びサイドボディといった自動車ボディのそれぞれの部位ごとにサブアッセンブリを組み立て、組み立てられたフロントボディ、センタフロアボディ及びリヤフロアボディの所定部位に溶接を施してアンダーボディを組み立て、アンダーボディに対してサイドボディとルーフパネルを溶接してボディシェル本体B1(蓋物を除くボディシェルをいう)を組み立てる。最後にボディシェル本体B1に対して、予め組み立てられたフードF、サイドドアD1,D2、トランクリッドT(又はバックドア)等の蓋物部品を、ヒンジを介して装着する。そして、塗装ラインPLを経たのち車両組立ラインASLへ搬送され、塗完ボディシェルに対して、エンジン、トランスミッション、懸架装置、内装部品などの各種の自動車部品が組み付けられる。
【0013】
次に、塗装ラインPLの主たる構成について説明する。
図1A及び
図1Bはいずれも、本発明に係る塗装乾燥装置及び方法を適用した上塗り塗装乾燥装置を含む塗装ラインPLを示す全体工程図である。
図1Aに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り塗装、中塗り塗装及び上塗り塗装の3コート3ベーク塗装法による塗装ラインである。これに対して
図1Bに示す実施形態の塗装ラインPLは、中塗り塗料と上塗り塗料とを同一塗装ブースにてウェットオンウェット(未硬化塗膜の上に塗料を塗布すること、以下同じ。)で塗装し、これら中塗り塗膜と上塗り塗膜とを同一塗装乾燥炉にて同時に焼き付ける3コート2ベーク塗装法による塗装ラインである。このように塗装法が異なる塗装ラインのいずれにも、本発明の塗装乾燥装置及び方法を適用することができる。なお、これら3コート3ベーク塗装法や3コート2ベーク塗装法を変形した、中塗り塗装を2回塗りする4コート塗装法や、上塗り塗装色が2トーンである特別色である場合も、この種の典型的な塗装ラインPLの一部を改変することで本発明に係る塗装乾燥装置及び方法を適用することができる。以下、
図1A及び
図1Bの塗装ラインを並行して説明するが、共通する構成については同一の符号を付し、
図1Aの塗装ラインを参照しながら説明し、
図1A及び
図1Bの両塗装ラインの異なる構成については、
図1Bを参照してその相違点を説明する。
【0014】
図1Aに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り工程P1と、シーリング工程P2と、中塗り工程P3と、水研工程P4と、上塗り工程P5と、塗完検査工程P6と、を備える。これに対して、
図1Bに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り工程P1と、シーリング工程P2と、中塗り・上塗り工程P7と、塗完検査工程P6と、を備える。すなわち、
図1Bの塗装ラインPLにおいては、
図1Aに示す中塗り塗装工程P31と上塗り塗装工程P51という2つの工程が、
図1Bの中塗り・上塗り塗装工程P71という一つの工程で行われ、同様に、
図1Aに示す中塗り乾燥工程P32と上塗り乾燥工程P52という2つの工程が、
図1Bの中塗り・上塗り乾燥工程P72という一つの工程で行われる。
図1Bの中塗り・上塗り工程P7については後述する。
【0015】
図1A及び
図1Bに示すように、下塗り工程P1は、電着前処理工程P11と、電着塗装工程P12と、電着乾燥工程P13とを備える。電着前処理工程P11では、ドロップリフタD/Lにより車体組立ラインWLの台車から塗装ハンガ(図示を省略する)に移載された自動車ボディB(ホワイトボディ)が、オーバーヘッドコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。なお、自動車ボディBの構成については後述する。
【0016】
電着前処理工程P11は、図示を省略するが、一般的に、脱脂工程、水洗工程、表面調整工程、化成被膜形成工程、水洗工程及び水切り工程を備える。塗装ラインPLに搬入される自動車ボディBには、プレス成形ラインPRLや車体組立ラインWLにおいてプレス油や溶接による鉄粉その他の塵埃が付着しているので、脱脂工程及び水洗工程では、これを洗浄し除去する。表面調整工程では、自動車ボディBの表面に表面調整剤成分を吸着させ、次工程の化成被膜形成工程における反応起点数を増加させる。吸着した表面調整剤成分が被膜結晶の核となり、被膜形成反応を加速させる。化成被膜形成工程では、自動車ボディBをリン酸亜鉛などの化成処理液に浸漬させることで、自動車ボディBの表面に化成被膜を形成する。水洗工程及び水切り工程では、自動車ボディBを水洗し、乾燥が行われる。
【0017】
電着塗装工程P12では、電着前処理工程P11による前処理が施された自動車ボディBが、オーバーヘッドコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。そして、自動車ボディBを、電着塗料が満たされた船型の電着槽に浸漬し、電着槽内に設けられた複数の電極板と自動車ボディB(具体的には、電気伝導性を有する塗装ハンガ)との間に高電圧を印加する。これにより、電着塗料の電気泳動作用により自動車ボディBの表面に電着塗膜が形成される。電着塗料としては、ポリアミン樹脂等のエポキシ系樹脂を基体樹脂とする熱硬化型塗料を例示することができる。なお、この電着塗料としては電着塗料側に正極高電圧を印加するカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、自動車ボディB側に正極高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いてもよい。
【0018】
電着塗装工程P12の電着槽を出漕した自動車ボディBは水洗工程に搬送され、工水や純水を用いて自動車ボディBに付着した電着塗料が洗い流される。この際、出漕時に電着槽から持ち出された電着塗料もこの水洗工程で回収される。水洗処理が終了した段階において、自動車ボディBの表面及び袋構造部内には、膜厚10μm〜35μm程度の未乾燥の電着塗膜が形成されることになる。電着塗装工程P12を終えると、塗装ハンガに搭載された自動車ボディBは、ドロップリフタD/Lにより塗装台車50(
図2Aを参照して後述する。)に移載される。なお、
図1A及び
図1Bに示す電着塗装工程P12と電着乾燥工程P13との間に設置されたドロップリフタD/Lを、電着乾燥工程P13とシーリング工程P2との間に設置し、電着乾燥工程P13内は、自動車ボディを塗装ハンガに搭載した状態で搬送してもよい。
【0019】
電着乾燥工程P13では、塗装台車に搭載された自動車ボディBが、フロアコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。そして、たとえば160℃〜180℃の温度を15分〜30分間保持することで焼き付け乾燥され、これにより自動車ボディBの内外板および袋構造部内に、膜厚10μm〜35μmの乾燥した電着塗膜が形成される。なお、電着乾燥工程P13から塗完検査工程P6までは、フロアコンベアにより自動車ボディBを搭載した塗装台車50を連続的に搬送するが、各工程における塗装台車50の搬送ピッチと搬送速度は、その工程に応じたものとされている。そのため、フロアコンベアは複数のコンベアにより構成され、各工程における搬送ピッチと搬送速度が所定の値に設定される。
【0020】
本明細書及び特許請求の範囲において、電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料などの「塗料」という場合は、被塗物に塗装する前の液体状態をいい、電着塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜などの「塗膜」という場合は、被塗物に塗装されて膜状となった未乾燥(ウェット)又は乾燥状態をいい、両者を区別するものとする。
【0021】
シーリング工程P2(アンダーコート工程及びストーンガードコート工程を含む)では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが搬送され、鋼板合わせ目や鋼板エッジ部に、防錆又は目留めを目的とした塩化ビニル系樹脂製シーリング材が塗布される。アンダーコート工程では、自動車ボディBのタイヤハウスや床裏に、塩化ビニル樹脂系の耐チッピング材が塗布される。ストーンガードコート工程では、サイドシル、フェンダ又はドア等のボディ外板下部に、ポリエステル系又はポリウレタン系樹脂製耐チッピング材が塗布される。なお、これらシーリング材や耐チッピング材は専用の乾燥工程または次に述べる中塗り乾燥工程P32にて硬化することになる。
【0022】
図1Aの塗装ラインPLの中塗り工程P3は、中塗り塗装工程P31と、中塗り乾燥工程P32とを備える。中塗り塗装工程P31では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが中塗ブースに搬送され、中塗りブース内で、エンジンルーム・フードインナ・トランクリッドインナなどの自動車ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した着色顔料が添加された内板塗装用塗料が塗布される。そして、内板塗装用塗膜にウェットオンウェットで、フードアウタ・ルーフ・ドアアウタ・トランクリッドアウタ(又はバックドアアウタ)などの外板部に、中塗り塗料が塗布される。なお、外板部とは、艤装工程を終了した完成車の外側から視認可能な部分であり、内板部とは、完成車の外側から視認できない部分である。
【0023】
図1Aの塗装ラインPLの中塗り乾燥工程P32では、自動車ボディBが中塗り乾燥装置に搬送される。そして、未乾燥の中塗り塗膜が、たとえば130℃〜150℃の温度を15分〜30分間保持することで焼き付け乾燥され、自動車ボディBの外板部に膜厚15μm〜35μmの中塗り塗膜が形成される。また、自動車ボディBの内板部に膜厚15μm〜30μmの内板塗装用塗膜が形成される。なお、内板塗装用塗料および中塗り塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
【0024】
図1Aの塗装ラインPLの水研工程P4では、中塗り工程P3まで終えた自動車ボディBが搬送され、清浄な水と研磨材を用いて自動車ボディBに形成された中塗り塗膜の表面を研磨する。これにより、中塗り塗膜と上塗り塗膜との塗膜密着性が向上すると共に、外板部の上塗り塗膜の平滑性(塗り肌及び鮮映性)が向上する。この水研工程P4は、水研乾燥工程P41を備え、この水研乾燥工程P41では、自動車ボディBが水切り乾燥炉を通過することで、自動車ボディBに付着した水分を乾燥させる。
【0025】
図1Aの塗装ラインPLの上塗り工程P5は、上塗り塗装工程P51と、上塗り乾燥工程P52とを備える。上塗り塗装工程P51では、水研工程P4及び水研乾燥工程P41を終えた自動車ボディBが搬送される。そして、上塗りブース内で、自動車ボディBの外板部に上塗りベース塗料が塗布され、この上塗りベース塗膜にウェットオンウェットで、自動車ボディBの外板部に上塗りクリヤ塗料が塗装される。
【0026】
上塗りベース塗料及び上塗りクリヤ塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。上塗りベース塗料は、光輝性顔料の配向などの仕上がり性を考慮して重量比でおよそ80%程度に希釈されて塗装され(固形分がおよそ20%〜40%)、これに対して上塗りクリヤ塗料は重量比でおよそ30%程度に希釈されて塗装される(固形分がおよそ70%〜80%)。ただし、上塗りベース塗料は、塗布後のフラッシュオフ工程(ブース内において溶剤が自然蒸発する静置工程)において塗着固形分が70%以上に上昇するのが一般的である。
【0027】
本実施形態の自動車ボディBの外板色は、アルミニウム・雲母などの各種光輝性顔料を含むメタリック系外板色であり、上塗りベース塗料と上塗りクリヤ塗料とを自動車ボディBに塗布するが、特にこれに限定されない。例えば、自動車ボディBの外板色は、ソリッド系外板色でもよい。ソリッド系外板色は、光輝性顔料を含まない塗装色であり、この場合は、上塗りベース塗料は塗布せず、上塗りクリヤ塗料に代えて上塗りソリッド塗料を塗布する。このような上塗りソリッド塗料としては、上塗りベース塗料や上塗りクリヤ塗料と同様の基体樹脂の塗料を例示することができる。
【0028】
本実施形態の上塗り乾燥工程P52では、上塗りブースにおいて上塗り塗料が塗布された自動車ボディBが、上塗り塗装乾燥装置1に搬送される。この上塗り乾燥工程P52では、自動車ボディBが130[℃]〜150[℃]、15〜30分の条件で上塗り塗装乾燥装置10を通過し、自動車ボディBに塗布された塗膜が焼き付け乾燥され、上塗り塗膜が形成される。なお、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1の具体的構成については、後述する。
【0029】
上塗りベース塗膜の膜厚は、たとえば10μm〜20μm、上塗りクリヤ塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜30μmである。自動車ボディBの外板色がソリッド系外板色の場合、上塗りソリッド塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜35μmである。最後に、塗装を完了した自動車車体(塗完ボディ)は、塗完検査工程P6へ搬送されて、塗膜外観性や鮮映性等を評価する各種検査が行われる。
【0030】
一方、
図1Bに示す塗装ラインPLでは、
図1Aに示す塗装ラインPLの中塗り工程P3、水研工程P4(水研乾燥工程P41を含む)及び上塗り工程P5に代えて、中塗り・上塗り工程P7が設けられている。この実施形態の中塗り・上塗り工程P7は、中塗り・上塗り塗装工程P71と中塗り・上塗り乾燥工程P72とを備える。
【0031】
図1Bに示す塗装ラインPLの中塗り・上塗り塗装工程P71では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが中塗り・上塗りブースに搬送され、中塗り・上塗りブースの前半ゾーンで、エンジンルーム・フードインナ・トランクリッドインナなどの自動車ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した着色顔料が添加された内板塗装用塗料が塗布される。そして、内板塗装用塗膜にウェットオンウェットで、フードアウタ・ルーフ・ドアアウタ・トランクリッドアウタ(又はバックドアアウタ)などの外板部に、中塗り塗料が塗布される。次いで、同じく中塗り・上塗りブースの後半ゾーンで、自動車ボディBの外板部に上塗りベース塗料が塗布され、この上塗りベース塗膜にウェットオンウェットで、自動車ボディBの外板部に上塗りクリヤ塗料が塗装される。すなわち、内板用塗料、中塗り塗料、上塗りベース塗料及びクリヤ塗料が全てウェットオンウェットで塗装され、一つの上塗り塗装乾燥炉にて同時に焼付乾燥される。なお、ウェット塗膜を塗り重ねることによって生じるワキ不具合や鮮映性の低下を抑制するために、中塗り塗料を塗装した後や上塗りベース塗料を塗装した後に、自動車ボディBに塗布されたウェット塗膜の塗着NVを上昇させるフラッシュオフ工程を設けてもよい。この実施形態で用いられる内板塗装用塗料、中塗り塗料、上塗りベース塗料及びクリヤ塗料は、
図1Aに示す塗装ラインPLで用いられるものと同様に、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
【0032】
次に、本実施形態の塗装ラインPLに適用される自動車ボディBの一例について、
図2A〜
図2Gを参照しながら詳細に説明する。
図2Aは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBを塗装台車50に搭載した状態を示す側面図、
図2Bは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのフロントドアD1を室内側から見た正面図、
図2Cは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのリヤドアD2を室内側から見た正面図、
図2Dは、
図2Aの2D−2D線に沿う断面図であって、フロントピラーB4、フロントドアD1及びヒンジH1を含む狭隘部N1の一例を示す断面図、
図2Eは、
図2Aの2E−2E線に沿う断面図であって、センターピラーB5、リヤドアD2及びヒンジH2を含む狭隘部N2の一例を示す断面図、
図2Fは、
図2B,
図2CのヒンジH1,H2の一例を示す分解斜視図、
図2Gは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのフロントドアD1を開放した状態を、ボディシェル本体の後方から見た図である。
【0033】
本実施形態の自動車ボディBは、
図2Aに示すように、ボディシェル本体B1と、蓋物部品であるフードF,フロントドアD1,リヤドアD2及びトランクリッドTとを備える。ボディシェル本体B1の両側面には、フロントドア開口部B2と、リヤドア開口部B3とが形成されている。フロントドア開口部B2は、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4と、センターピラーB5と、ルーフサイドレールB8と、サイドシルB9とにより画定された開口である。リヤドア開口部B3は、ボディシェル本体B1のセンターピラーB5と、リヤピラーB10と、ルーフサイドレールB8と、サイドシルB9とにより画定された開口である。以下、フロントドア開口部B2とリヤドア開口部B3とを総称してドア開口部B2,3ともいう。図示する蓋物部品としてのトランクリッドTは、自動車ボディBの車型によってはバックドアであることもある。
【0034】
本実施形態の自動車ボディBは、図示するように4ドアセダンの車型であるから、サイドドアDは、フロントドアD1と、リヤドアD2とを有する。なお、2ドアセダンや2ドアクーペの場合は、フロントドアD1及びフロントドア開口部B2のみであり、リヤドアD2及びリヤドア開口部B3は設けられない。本実施形態のフロントドアD1は、フロントドア開口部B2に対応するように配置され、リヤドアD2は、リヤドア開口部B3に対応するように配置されている。本実施形態におけるボディシェル本体B1が、本発明に係る車体本体の一例に相当し、本実施形態におけるフロントドアD1及びリヤドアD2を含むサイドドアDが、本発明に係るサイドドアの一例に相当し、上述した2ドアセダンや2ドアクーペの場合はフロントドアD1が、本発明に係るサイドドアの一例に相当する。
【0035】
フロントドアD1は、
図2B及び
図2Dに示すように、その前端部(自動車ボディBの前側)の上下2箇所にヒンジH1が設けられている。またリヤドアD2は、
図2C及び
図2Eに示すように、その前端部(自動車ボディBの前側)の上下2箇所にヒンジH2が設けられている。これらフロントドアD1及びリヤドアD2をボディシェル本体B1に開閉自在に装着するためのヒンジH1,H2は、多少の形状の相違はあるが、基本的な構造は同じであるため、
図2Fに一方の両方のヒンジH1を示し、他方のヒンジH2については括弧内に対応する符号を付すことで図示を省略する。
【0036】
図2Fに示すように、ヒンジH1は、2つのヒンジブラケットH11,H12と、ヒンジピンH13とを有する。ヒンジブラケットH11は、フロントドアD1のインナパネルにボルト(不図示)を介して取り付けられ、ヒンジブラケットH12は、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4にボルト(不図示)を介して取り付けられている。ヒンジピンH13は、2つのヒンジブラケットH11,12の4つの孔に挿通され、カシメや圧入によって固定されている。これにより、ヒンジブラケットH11,H12は、ヒンジピンH13を中心に回転可能に連結されることになる。
【0037】
車体組立ラインWLにおいては、ヒンジピンH13を2つのヒンジブラケットH11,12の4つの孔に挿通し、カシメや圧入によって固定したヒンジH1のサブアッセンブリ部品を予め組み立てておき、これを最終工程に搬入する。そして、フロントドアD1をボディシェル本体B1に装着する前に、このヒンジH1のサブアッセンブリ部品の一方のヒンジブラケットH11をフロントドアD1にボルト締めしたのち、フロントドアD1をボディシェル本体B1のフロントドア開口部B2に治具などを用いてセットし、他方のヒンジブラケットH12をフロントピラーB4にボルト締めする。これにより、フロントドアD1は、このヒンジピンH13を中心に回転することで、開閉可能となる。
【0038】
ヒンジH2も同様に、
図2Fの括弧内の符号に示すように、2つのヒンジブラケットH21,H22と、ヒンジピンH23とを有する。ヒンジブラケットH21は、リヤドアD2にボルト(不図示)を介して取り付けられ、ヒンジブラケットH22は、ボディシェル本体B1のセンターピラーB14にボルト(不図示)を介して取り付けられる。ヒンジピンH23は、2つのヒンジブラケットH21,22の孔に挿通され、カシメや圧入によって固定されている。これにより、ヒンジブラケットH21,H22は、ヒンジピンH23を中心に回転可能に連結されることになる。すなわち、リヤドアD2は、ヒンジピンH23を中心に回転することで、開閉可能となる。以下、ヒンジH1とヒンジH2とをヒンジHと総称する。本実施形態におけるヒンジHが、本発明に係るヒンジ部の一例に相当する。
【0039】
本実施形態の自動車ボディBでは、
図2D及び
図2E並びに
図2Gに示すように、ボディシェル本体B1とサイドドアDとの間には、間隔の狭い狭隘部N1,N2が形成される。具体的には、
図2D及び
図2Gに示すように、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4と、フロントドアD1とのヒンジH1の近傍には、間隔の狭い狭隘部N1が形成され、
図2Eに示すように、ボディシェル本体B1のセンターピラーB5と、リヤドアD2とのヒンジH2の近傍には、間隔の狭い狭隘部N2が形成される。特に、ヒンジH1,H2の近傍は、フロントドアD1やリヤドアD2の開閉状態に拘わらず、ヒンジH1,H2が邪魔になって塗装乾燥装置1からの熱風が廻り込み難く、構造上、自動車ボディBの外板部に比べて加熱され難い。したがって、塗膜の品質保証基準とされる所定温度を所定時間以上に保持するのが困難な部位である。なお、
図2D及び
図2Eに示す「×」印は、上塗り塗装の範囲であり、同じく符号WSは、サイドドアD1,D2とドア開口部B2,B3との間をシールするためにサイドドアD1,D2に装着されるウェザーストリップである。特に、ウェザーストリップWSから室外側の塗装範囲は、錆環境に対して厳しく、見栄えの品質以外にも、塗膜の密着性等の塗装品質が要求される部位である。以下、狭隘部N1と狭隘部N2とを総称して狭隘部Nともいう。
【0040】
図2Aに戻り、上述した自動車ボディBは、塗装台車50に搭載された状態で、
図1A及び
図1Bの電着乾燥工程P13から塗完検査工程P6まで搬送される。本実施形態の塗装台車50は、平面視において矩形の枠体とされ、自動車ボディBを支持することができる程度の剛体からなる基台51と、当該基台51の下面に設けられた4つの車輪54と、当該基台51の上面に設けられた2つのフロントアタッチメント52及び2つのリヤアタッチメント53とを有する。左右のフロントアタッチメント52は、自動車ボディBの左右のフロントアンダボディB6(フロントサイドメンバなど)をそれぞれ支持し、左右のリヤアタッチメント53は、自動車ボディBの左右のリヤアンダボディB7(リヤサイドメンバなど)をそれぞれ支持する。これら4つのアタッチメント52,53によって自動車ボディBを水平に支持する。4つの車輪54は、搬送コンベア40の左右に敷設されたレール41に沿って自転する。
【0041】
次に、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1について説明する。
図3は本発明の第1実施形態に係る上塗り塗装乾燥装置の概略構成を示す側面図、
図4は
図3の4−4線に沿う断面図、
図5Aは本発明の第1実施形態に係る第1の吸引ユニット60の概略構成を示す平面透視図、
図5Bは
図5Aの5B−5B線に沿う側面透視図、
図6は本発明の第1実施形態に係る第1の吸引ユニット60の配置について説明する平面透視図、
図7は本発明の第1実施形態に係る吸引口621と狭隘部Nとの位置関係を示す図であり、
図2Aの2D−2D線に沿う断面図に相当する図である。
【0042】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、
図3及び
図4に示すように、乾燥炉本体10と、熱風給気装置20と、排気装置30とを備える。本実施形態の乾燥炉本体10は、
図3の側面図に示すように、入口側の上り傾斜部11と、出口側の下り傾斜部13と、これら上り傾斜部11と下り傾斜部13との間の高床部12とを含む山型状とされた乾燥炉である。また、
図4の断面図に示すように、天井面14と左右一対の側面15,15と床面16とを有する矩形とされた乾燥炉である。
図3の側面図において、左側が上塗りブースTB終端の上塗りセッティングゾーン及び乾燥炉本体10の入口側であり、右側が乾燥炉本体10の出口側であり、塗装台車50に搭載された自動車ボディBは、
図3の左から右に向かって前向きに搬送される。すなわち、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1内を搬送する自動車ボディBは、
図2Aに示す左方向に向かって搬送される。なお、特に上述に限定されず、上塗り塗装乾燥装置1内において、自動車ボディBを後ろ向きに搬送してもよい。
【0043】
乾燥炉本体10の高床部12の床面16の高さは、乾燥炉本体10の入口の開口上端縁の高さや、乾燥炉本体10の出口の開口上端縁の高さとほぼ同じ高さとされている。これにより、高床部12に供給された熱風が、入口又は出口から乾燥炉本体10外へ逃げるのを抑制することができる。また、乾燥炉本体10の床面16には、乾燥炉本体10の延在方向に沿って、自動車ボディBが搭載された塗装台車50を搬送する搬送コンベア40が敷設されている。なお、本実施形態では、乾燥炉本体10は山型乾燥炉であるが、平型乾燥炉であってもよい。平型乾燥炉は、入口側の上り傾斜部11及び出口側の下り傾斜部13を有さない、平面上に一様に形成される乾燥炉である。このような平型乾燥炉は、上述の山形乾燥炉に比べて設備投資コストの低減化が図られる。本実施形態における乾燥炉本体10が、本発明に係る乾燥炉本体の一例に相当する。
【0044】
熱風給気装置20は、乾燥炉本体10の高床部12内に、生成した熱風を供給する設備であり、
図4に示すように、給気ファン21と、給気フィルタ22と、バーナ23と、給気ダクト24と、第1熱風吹出口25と、第2熱風吹出口26とを備える。給気ファン21は、外部から吸入する空気を乾燥炉本体10の高床部12の内部に供給する設備である。給気フィルタ22は、給気ファン21の1次側(空気を吸入する側)に接続され、外部から吸入する空気を濾過し、ごみ等を分離する。これにより、清浄な空気が給気ファン21に吸入される。バーナ23は、給気ファン21の2次側(空気を吐出する側)に接続され、給気ファン21から吐出された空気を所定温度に加熱する。これにより、吸入された空気が熱風として乾燥炉本体10の高床部12内に供給される。
【0045】
給気ダクト24は、
図4に示すように、自動車ボディBの搬送方向に沿って乾燥炉本体10の高床部12の天井面14及び左右の側面15,15にそれぞれ配置されている。第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26は、乾燥炉本体10の高床部12内に配置された給気ダクト24の延在方向に沿って所定間隔で複数形成された矩形状スリット(開口)と、必要に応じて当該スリットに設けられた風向板により構成されている。第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26は、それぞれのスリットの開口又は風向板が乾燥炉本体10の中央部に向かうように設けられ、これにより、給気ファン21により供給される熱風が乾燥炉本体10内を搬送される自動車ボディBに吹き付けられることになる。本実施形態における熱風給気装置20が、本発明に係る熱風生成手段の一例に相当する。
【0046】
排気装置30は、
図4に示すように、乾燥炉本体10内で蒸発した溶剤を系外に排出するための設備であり、排気ファン31と、排気フィルタ32と、排気ダクト33と、排気吸込み口34とを備える。排気ファン31は、乾燥炉本体10内の熱風を吸引して、当該乾燥炉本体10の系外に排出又は熱風給気装置20の一次側に循環させる装置であり、乾燥炉本体10内の塵埃等の除去と熱風圧を調整する機能を司る。排気フィルタ32は、排気ファン31の2次側(熱風を吐出する側)に設けられている。熱風が排気ファン31により吸引され、排気フィルタ32を通過して系外に排出、又は熱風給気装置20に戻される。排気ダクト33は、自動車ボディBの搬送方向に沿って乾燥炉本体10の左右の側面15,15にそれぞれ設けられている。排気吸込み口34は、乾燥炉本体10内に配置された排気ダクト33に所定間隔で形成されたスリットからなる。
【0047】
以上が本発明に係る塗装乾燥装置に共通する構成であり、以下に本発明の幾つかの実施形態を説明する。
≪第1実施形態≫
本実施形態の塗装乾燥装置1は、第1の吸引ユニット60を備え、この吸引ユニット60は各自動車ボディBの室内に載置される。第1の吸引ユニット60は、
図5A及び
図5Bに示すように、吸引装置61と、フレキシブルホース62と、を備えている。吸引装置61は、筐体611と、吸引ポンプ612と、バッテリ613と、接続口614と、排気口615と、を備えている。
【0048】
筐体611は、内部に空間を有する直方形状とされ、当該空間において気密性や液密性が確保された密閉構造となっている。このような筐体611は、耐熱性及び遮熱性を有する材料で構成されていることが好ましい。筐体611を構成する材料が耐熱性を有していることで、乾燥炉本体10内の温度雰囲気下において、当該筐体611の熱変形が抑制される。また、筐体611を構成する材料が遮熱性を有していることで、乾燥炉本体10内の温度雰囲気下において、当該筐体611内部に収容される吸引ポンプ612及びバッテリ613の誤動作や故障が抑制される。このような筐体611を構成する材料の具体例としては、特に限定しないが、例えば、鉄鋼等の金属材料にグラスウール等の断熱材を捲回したものを例示することができる。
【0049】
吸引ポンプ612及びバッテリ613は、上述のように筐体611内に収容されている。吸引ポンプ612は、例えば、DCモータ等の駆動源を有している。このDCモータに対して、バッテリ613から電気配線(不図示)を介して電力が供給されることで、吸引ポンプ612が作動するようになっている。なお、吸引ポンプ612は、空気を吸引する吸気部612aと、吸引した空気を排出する排気部612bと、を有している。
【0050】
接続口614は、円筒形状とされ、筐体611を貫通して当該筐体611の内部に収容された吸引ポンプ612の吸気部612aと導管(図中一点鎖線にて表記)を介して接続されている。この接続口614は、筐体611の上面に2箇所設けられ、それぞれの接続口614,614が上方に向かって突出して形成されている。また、これらの接続口614,614は、その上端において外部に向かって開口している。これら接続口614,614をフレキシブルホース62に挿入し固定バンド(不図示)等により固定することで、吸引装置61とフレキシブルホース62とが接続される。
【0051】
排気口615は、円筒形状とされ、筐体611を貫通して筐体611の内部に収容された吸引ポンプ612の排気部612bと導管を介して接続されている。この排気口615は、筐体611の一対の側面のそれぞれに設けられている。それぞれの排気口615,615は、筐体611の側面に対して突出して形成されている。なお、接続口614及び排気口615の数量や形状は、特に上述に限定されない。
【0052】
本実施形態の吸引装置61は、吸引ポンプ612を作動させると、接続口614側から空気を吸引し、排気口615に向けて吸引した空気を送り出す。これにより、接続口614が指向する範囲が局所的に負圧となり、接続口614近傍で吸引方向に向かって空気が流動する気流が発生する。なお、以下の説明において、「負圧」とは、乾燥炉本体10の外部においては、大気圧に比べて低圧側であることを意味し、乾燥炉本体10の内部においては、当該乾燥炉本体10の内圧に比べて低圧側であることを意味する。本実施形態における「吸引装置61」が本発明における「吸引手段」の一例に相当する。
【0053】
フレキシブルホース62は、例えば、蛇腹を有した管状とされ、
図5A及び
図5Bに示すように、一方の端部では上述の接続口614と接続可能となっており、他方の端部では外部に向かって開口する吸引口621を有している。本実施形態における「吸引口621」が本発明における「吸引部」の一例に相当する。
【0054】
本実施形態では、吸引口621を狭隘部Nに指向させ易くするため、フレキシブルホース62を蛇腹状とすることで、その延在方向において曲折可能となっている。また、フレキシブルホース62は、接続口614を介して吸引装置61と接続された状態で、吸引装置61(具体的には、吸引ポンプ612)が作動すると、当該フレキシブルホース62の内部が負圧となるが、この場合においても、フレキシブルホース62の外形が変形しない剛性を有していることが好ましい。また、フレキシブルホース62を構成する材料としては、耐熱性を有していることが好ましい。これにより、乾燥炉本体10内の温度雰囲気下において、当該フレキシブルホース62の熱変形が抑制される。このようなフレキシブルホース62を構成する材料の具体例としては、特に限定しないが、例えば、鉄鋼等の金属材料等を例示することができる。
【0055】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1では、
図9に示すように、乾燥炉本体10の上流側で上塗りブースTB末端のセッティングゾーン(
図3を参照)において、ロボット、自動機又は作業者の手作業により第1の吸引ユニット60が自動車ボディBの室内に配置される。本実施形態では、フロントドアD1とボディシェル本体B1との隙間の左右2箇所に形成される狭隘部N1,N1に対して1つの第1の吸引ユニット60を配置し、リヤドアD2とボディシェル本体B1との隙間の左右2箇所に形成される狭隘部N2,N2に対して1つの第1の吸引ユニット60を配置する。なお、自動車ボディBのサイドドアDは、既存の乾燥炉の幅が大きくならないように僅かに開放され、ドアストッパ治具100によりその開度が固定される。
図12A及び
図12Bに示すドアストッパ治具100は、サイドシルB9の孔B91とフランジB92に装着し、サイドドアDが閉塞限界まで閉じないようにドアインナパネルの艤装部品で隠れる部位に当接するための治具である。因みに、サイドドアDは、開放した状態であってもよいし、閉じた状態であってもよい。また、サイドドアDを開放した状態とする場合、その開口角度は特に限定されない。なお、自動車ボディBを搬送する際、サイドドアDを閉じた状態とすることで、乾燥炉の幅を小さくすることができ、設備投資の低減化が図られる。
【0056】
この際に、
図6,7に示すように、ロボット、自動機又は作業者の手作業によりボディシェル本体B1とサイドドアDとの隙間の狭隘部Nに自動車ボディBの室内側から開口が指向するように、吸引口621を配置する。なお、この吸引口621は、狭隘部Nの近傍に配置されることが好ましい。自動車ボディBの室内に第1の吸引ユニット60を配置した後、搬送コンベア40により自動車ボディBが乾燥炉本体10内に搬送される。そして、乾燥炉本体10内では、自動車ボディBと熱風とが接触し、当該自動車ボディBに塗布された塗膜の乾燥が促進する。
【0057】
本実施形態では、
図6,7に示すように、吸引口621を狭隘部Nに指向させており、この状態で吸引ポンプ612が作動することで、狭隘部Nを含む吸引口621の指向する範囲が負圧となり、自動車ボディBの外側(図中下側)から狭隘部Nを通じて吸引口621に向かって熱風が流動する気流が発生する。熱風は、吸引口621を介して吸引装置61(具体的には、吸引ポンプ612)に吸い込まれ、負圧となる狭隘部Nに熱風がさらに流れ込む。これにより、吸引口621に向かって流動する熱風と狭隘部Nが連続的に接触し、狭隘部Nが昇温される。なお、第1の吸引ユニット60により吸引された熱風は、自動車ボディBの室内に排気される。自動車ボディBの室内に排気された熱風は、サイドドアDのドアウィンドウ部の開口等から乾燥炉本体10内に発散される。
【0058】
なお、自動車ボディBが乾燥炉本体10内を搬送されている間は、吸引ポンプ612が作動した状態とすることが好ましい。吸引ポンプ612の電源操作は、第1の吸引ユニット60を自動車ボディBの室内に配置する際、ロボット、自動機又は作業者の手作業により行ってもよいし、タイマーなどを設けることで、当該第1の吸引ユニット60が自動車ボディBと一緒に乾燥炉本体10内に搬送された後、自動的に電源が投入されるようにしてもよい。
【0059】
自動車ボディBが乾燥炉本体10を通過した後、乾燥炉本体10の下流側に設けられた作業者ゾーン(
図3を参照)において、ロボット、自動機又は作業者の手作業により第1の吸引ユニット60が回収される。
【0060】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1によれば、以下の作用効果を奏する。
【0061】
自動車ボディBは、その構造上、熱風が当たり易い部位と当たり難い部位を含んで構成されることが殆どである。たとえば、サイドドアDのヒンジH1,H2の近傍の狭隘部N1,N2は、上塗り塗装乾燥装置1へ流しても、熱風が廻り込み難く、昇温し難い。このため、狭隘部Nが所定の品質保証基準を満たさず、狭隘部Nに塗布された塗膜の品質保証基準を満たすよう昇温時間を設定すると、塗装乾燥炉が長大化し設備投資の増加を招く。
【0062】
これに対して、本実施形態では、吸引装置61の作動によって、乾燥炉本体10内の熱風が吸引口621の指向する自動車ボディの狭隘部Nに向かって流れ込み、狭隘部Nと熱風とが接触する気流が発生する。これにより、狭隘部に塗布された塗膜の乾燥が促進され、当該狭隘部Nの昇温時間が短縮される。この結果、狭隘部についても所定の乾燥条件を満たし、しかも乾燥炉本体10が長大となるのを抑制し、設備投資の低減化が図られる。また、乾燥炉本体10の長大化が抑制されることで、塗装ラインPLの省スペース化が図られる。
【0063】
また、本実施形態では、吸引装置61の作動によって、狭隘部Nと熱風とが連続的に接触する気流を発生させることで、当該狭隘部Nが昇温され易くなり、狭隘部Nに塗布された塗膜の乾燥が促進する。これにより、狭隘部Nの塗膜の乾燥条件が品質保証基準を満たさず、いわゆる焼き甘が生じて、塗膜性能の低下や塗膜剥がれ等の塗膜の品質低下が生じるのを抑制することができる。
【0064】
≪第2実施形態≫
図8は本発明の第2実施形態に係る上塗り塗装乾燥装置1Bの概略構成を示す側面断面図、
図9は本発明の第2実施形態に係る第2の吸引ユニット70の概略構成を示す斜視図、
図10は本発明の第2実施形態に係る第2の吸引ユニット70の配置について説明する平面図、
図11は本発明の第2実施形態に係る吸引口741と狭隘部Nとの位置関係を示す図であり、
図2Aの2D−2D線に沿う断面図に相当する図である。
【0065】
本発明の第2実施形態における上塗り塗装乾燥装置1Bは、乾燥炉本体10と、熱風給気装置20と、排気装置30Bと、第2の吸引ユニット70と、を備えている。本実施形態における乾燥炉本体10と、熱風給気装置20と、は第1実施形態と同様であるので、同一符号を付してその説明を省略する。
【0066】
本実施形態の排気装置30Bは、排気ファン31と、排気フィルタ32と、排気ダクト33Bと、排気吸込み口34と、を備えている。本実施形態における排気ファン31と、排気フィルタ32と、排気吸込み口34と、は第1実施形態と同様であるので、同一符号を付してその説明を省略する。
【0067】
本実施形態の排気ダクト33Bは、
図8に示すように、自動車ボディBの搬送方向に延在しており、乾燥炉本体10の床面16側に左右の側面15に沿って設けられている。本実施形態では、この排気ダクト33B,33Bの上方のそれぞれに給気ダクト24,24が設けられている。これらの排気ダクト33B,33Bは、乾燥炉本体10内において後述するフレキシブルダクト72と接続されている。
【0068】
本実施形態の第2の吸引ユニット70は、
図8に示すように、乾燥炉本体10の左右の側面15のそれぞれに沿って、排気ダクト33B,33Bの一部の区間と置換するように設けられている。これら第2の吸引ユニット70,70は、吸引ボックス71と、フレキシブルダクト72と、走行部73と、フレキシブルホース74と、を備えている。吸引ボックス71は、片側の第2の吸引ユニット70毎に2つずつ(合計4つ)設けられている。この吸引ボックス71は、
図9に示すように、筐体711と、接続口712と、フランジ713と、を有している。筐体711は、角筒形状とされ、内部に空間を有している。また、筐体711は、上流側と下流側とで開口しており、当該筐体711内の空間を介して上流側の開口と下流側の開口とが連通している。接続口712は、円筒形状とされ、筐体711を貫通し当該筐体711内の空間と連通している。この接続口712は、筐体711の自動車ボディBと対向する面に設けられている。この接続口712をフレキシブルホース74に挿入し、固定バンド(不図示)により固定することで、吸引ボックス71とフレキシブルホース74とが接続される。フランジ713は、筐体711の上流側の開口と下流側の開口に対応して設けられている。このフランジ713は、フレキシブルダクト72のフランジ721(後述)と接続可能になっている。本実施形態における「吸引ボックス71」が本発明における「吸引手段」の一例に相当する。
【0069】
フレキシブルダクト72は、蛇腹を有する角筒形状とされ、両方の端部にフランジ721を有している。このフレキシブルダクト72は、フランジ721を介して、一方の端部で吸引ボックス71のフランジ713と接続しており、他方の端部で排気ダクト33Bと接続している。また、本実施形態では、片側の第2の吸引ユニット70毎に2つの吸引ボックス71,71を配置しており、これら吸引ボックス71,71の間は、フレキシブルダクト72により接続されている。
【0070】
フレキシブルダクト72は、吸引ボックス71と排気ダクト33Bとを接続状態を維持したまま、吸引ボックス71の進退に合わせて搬送方向に沿って伸縮できるようになっている。また、排気ダクト33Bを介して排気ファン31とフレキシブルダクト72を接続した状態で当該排気ファン31を作動すると、フレキシブルダクト72の内部が負圧となるが、この場合においても、当該フレキシブルダクト72の外形が変形しない剛性を有していることが好ましい。
【0071】
フレキシブルダクト72を構成する材料としては、耐熱性を有していることが好ましく、これにより、乾燥炉本体10内の温度雰囲気において、フレキシブルダクト72の熱変形が抑制される。このようなフレキシブルダクト72を構成する材料の具体例としては、特に限定しないが、例えば、鉄鋼等の金属材料等を例示することができる。
【0072】
走行部73は、それぞれの吸引ボックス71の筐体711底面に設けられており、4つの車輪731が搬送方向に沿って乾燥炉本体10内に配設されたガイドレール(不図示)とスライド可能に係合している。また、走行部73は、駆動モータ(不図示)を有しており、これにより、吸引ボックス71が乾燥炉本体10内を搬送方向に沿って進退可能となっている。フレキシブルホース74は、一方の端部では吸引ボックス71の接続口712と接続可能となっており、他方の端部では外部に向かって開口する吸引口741を有している。本実施形態における「走行部73」が本発明における「追従手段」の一例に相当し、本実施形態における「吸引口741」が本発明における「吸引部」の一例に相当する。
【0073】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1Bでは、
図10に示すように、4つの吸引ボックス71のそれぞれにフレキシブルホース74が接続されている。それぞれのフレキシブルホース74の吸引口741は、自動車ボディBの室外側からボディシェル本体B1とサイドドアDとの間に形成された4箇所の狭隘部N(狭隘部N1が2箇所、狭隘部N2が2箇所)に開口が指向するように配置されている。
【0074】
自動車ボディBが第2の吸引ユニット70の前を通過すると、吸引口741と狭隘部Nとの距離を一定に保つように、吸引ボックス71が当該自動車ボディB(具体的には、塗装台車50)と並走を開始する。この並走開始のトリガは、塗装台車50が、所定位置に設けられたリミットスイッチなどの検出器をONしたときとすればよい。吸引ボックス71は、排気ファン31と接続されており、当該排気ファン31の作動によって、狭隘部Nを含む吸引口741の指向する範囲が負圧となり、自動車ボディBの内側(図中上側)から狭隘部Nを通じて吸引口741に向かって熱風が流動する気流が発生する。熱風は、吸引口741を介して吸引ボックス71(具体的には、排気ファン31)に吸い込まれ、負圧となる狭隘部Nに熱風がさらに流れ込む。これにより、吸引口741に向かって流動する熱風と狭隘部Nとが連続的に接触し、狭隘部Nが昇温される。なお、自動車ボディBの室内では、サイドドアDのドアウィンドウ開口等から熱風が入り込んだ状態となっている。
【0075】
吸引ボックス71は、第2の吸引ユニット70が設けられている区間の下流側の末端に到達すると、搬送される自動車ボディBとの並走を停止する。そして、吸引ボックス71は、初期位置である上流側の末端に戻り、次に搬送される自動車ボディBが当該第2の吸引ユニット70の前を通過するまで待機する。
【0076】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1Bによれば、以下の作用効果を奏する。
【0077】
本実施形態における上塗り塗装乾燥装置1Bについても、第1実施形態における上塗り塗装乾燥装置1と同様の作用効果を奏することができる。
【0078】
また、本実施形態では、既存の排気装置30Bに第2の吸引ユニット70を接続することで、設備投資の抑制を図ることができる。
【0079】
また、本実施形態では、第2の吸引ユニット70の設置箇所を乾燥炉本体10内の一部の区間とすることで、当該乾燥炉本体10内での可動する箇所が少なくなり、乾燥炉本体10内での塵埃の飛散が抑制される。
【0080】
また、本実施形態では、狭隘部Nの近傍に吸引口741を配置することで、乾燥する塗膜から発生する揮発性物質をすぐに乾燥炉本体10外へ排気することができる。これにより、揮発性物質が乾燥炉本体10内で再凝縮(結露)し、自動車ボディBに滴下するのを抑制し、延いては、自動車ボディBの品質低下の抑制が図られる。
【0081】
なお、本実施形態では、吸引ボックス71に走行部73を設け、自動車ボディBと並走させることで、吸引口741と狭隘部Nとの距離を一定に保っているが、特にこれに限定されない。例えば、フレキシブルホース74の吸引口741(自由端)側を搬送方向に沿って進退させる移動手段と接続し、搬送される自動車ボディBの位置に応じて吸引口741を移動手段により進退させてもよい。この場合、吸引ボックス71は、排気ダクト33Bに直接接続され、フレキシブルダクト72は不要となる。この場合、乾燥炉本体10内での可動する箇所がさらに少なくなり、乾燥炉本体10内での塵埃の飛散がさらに抑制される。
【0082】
なお、以上に説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするために記載されたものであって、本発明を限定するために記載されたものではない。したがって、上記の実施形態に開示された各要素は、本発明の技術的範囲に属する全ての設計変更や均等物をも含む趣旨である。