(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ボディシェル本体にヒンジを介してサイドドアが装着された自動車ボディを後ろ向きに搬送しながら、前記自動車ボディに塗布したウェット塗膜を乾燥する塗装乾燥装置であって、山型状の乾燥炉本体と、前記乾燥炉本体内に熱風を供給する熱風生成供給手段とを備える塗装乾燥装置において、
前記乾燥炉本体は、入口側の上り傾斜部と、出口側の下り傾斜部と、これら上り傾斜部と下り傾斜部との間の高床部とを含み、
前記自動車ボディは、前記高床部の少なくとも上流領域において、水平に対して後ろ上がりの姿勢にて搬送され、
前記上流領域に、前記ヒンジの近傍の前記ボディシェル本体と前記サイドドアに塗布されたウェット塗膜に向かって熱風を吹き付ける局所乾燥領域が設けられている塗装乾燥装置。
前記自動車ボディは、前記後ろ上がり姿勢で搬送されたのち前記後ろ下がり姿勢で搬送される前に、所定時間だけ水平の姿勢にて搬送される請求項2に記載の塗装乾燥装置。
ボディシェル本体にヒンジを介してサイドドアが装着された自動車ボディを後ろ向きに搬送しながら、前記自動車ボディに塗布したウェット塗膜を乾燥する塗装乾燥装置であって、山型状の乾燥炉本体と、前記乾燥炉本体内に熱風を供給する熱風生成供給手段とを備えた塗装乾燥装置において、
前記乾燥炉本体は、入口側の上り傾斜部と、出口側の下り傾斜部と、これら上り傾斜部と下り傾斜部との間の高床部とを含み、
前記高床部のコンベアは、前記高床部の少なくとも上流領域において、水平に対して上り傾斜となるように敷設され、
前記上流領域に、前記ヒンジの近傍の前記ボディシェル本体と前記サイドドアに塗布されたウェット塗膜に向かって熱風を吹き付ける局所乾燥領域が設けられている塗装乾燥装置。
入口側の上り傾斜部と、出口側の下り傾斜部と、これら上り傾斜部と下り傾斜部との間の高床部とを含む山型状の乾燥炉本体と、前記乾燥炉本体内に熱風を供給する熱風生成供給手段とを備える塗装乾燥装置を用いて、
ボディシェル本体にヒンジを介してサイドドアが装着された自動車ボディを後ろ向きに搬送しながら、前記自動車ボディに塗布したウェット塗膜を乾燥する塗装乾燥方法であって、
前記高床部の少なくとも上流領域においては、前記自動車ボディを、水平に対して後ろ上がりの姿勢にて搬送し、
前記上流領域において、前記ヒンジの近傍の前記ボディシェル本体と前記サイドドアに塗布されたウェット塗膜に向かって局所的に熱風を吹き付ける塗装乾燥方法。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下の実施形態では、本発明の塗装乾燥装置及び塗装乾燥方法を適用した上塗り塗装乾燥装置1を例に挙げて本発明の最良の実施形態を説明するが、本発明の塗装乾燥装置及び塗装乾燥方法は、上塗り塗装乾燥装置以外にも、中塗塗装乾燥装置、下塗り塗装乾燥装置(電着塗装乾燥装置)、あるいは後述する中塗り・上塗り乾燥装置にも適用することができる。
【0010】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、塗装ラインPLを構成する装置の一つであり、塗装台車50に搭載されたボディシェルB(自動車ボディBともいう)に塗布された上塗り塗膜を乾燥させ、当該自動車ボディBに焼き付けるための装置である。以下の説明では、まず、自動車の製造ラインと塗装ラインPLの概略を説明したのち、自動車ボディBと上塗り塗装乾燥装置1について詳細に説明する。
【0011】
自動車の製造ラインは、主として、プレス成形ラインPRLと、車体組立ライン(溶接ラインとも称される)WLと、塗装ラインPLと、車両組立ライン(艤装ラインとも称される)ASLとの4つのラインから構成されている。プレス成形ラインPRLでは、自動車ボディBを構成する種々のパネルをそれぞれプレス成形し、プレス単品の状態で車体組立ラインWLへ搬送する。車体組立ラインWLでは、フロントボディ、センタフロアボディ、リヤフロアボディ及びサイドボディといった自動車ボディのそれぞれの部位ごとにサブアッセンブリを組み立て、組み立てられたフロントボディ、センタフロアボディ及びリヤフロアボディの所定部位に溶接を施してアンダーボディを組み立て、アンダーボディに対してサイドボディとルーフパネルを溶接してボディシェル本体B1(蓋物を除くボディシェルをいう)を組み立てる。最後にボディシェル本体B1に対して、予め組み立てられたフードF、サイドドアD1,D2、トランクリッドT(又はバックドア)等の蓋物部品を、ヒンジを介して装着する。そして、塗装ラインPLを経たのち車両組立ラインASLへ搬送され、塗完ボディシェルに対して、エンジン、トランスミッション、懸架装置、内装部品などの各種の自動車部品が組み付けられる。
【0012】
次に、塗装ラインPLの主たる構成について説明する。
図1A及び
図1Bはいずれも、本発明に係る塗装乾燥装置及び方法を適用した上塗り塗装乾燥装置を含む塗装ラインPLを示す全体工程図である。
図1Aに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り塗装、中塗り塗装及び上塗り塗装の3コート3ベーク塗装法による塗装ラインである。これに対して
図1Bに示す実施形態の塗装ラインPLは、中塗り塗料と上塗り塗料とを同一塗装ブースにてウェットオンウェット(未硬化塗膜の上に塗料を塗布すること、以下同じ。)で塗装し、これら中塗り塗膜と上塗り塗膜とを同一塗装乾燥炉にて同時に焼き付ける3コート2ベーク塗装法による塗装ラインである。このように塗装法が異なる塗装ラインのいずれにも、本発明の塗装乾燥装置及び方法を適用することができる。なお、これら3コート3ベーク塗装法や3コート2ベーク塗装法を変形した、中塗り塗装を2回塗りする4コート塗装法や、上塗り塗装色が2トーンである特別色である場合も、この種の典型的な塗装ラインPLの一部を改変することで本発明に係る塗装乾燥装置及び方法を適用することができる。以下、
図1A及び
図1Bの塗装ラインを並行して説明するが、共通する構成については同一の符号を付し、
図1Aの塗装ラインを参照しながら説明し、
図1A及び
図1Bの両塗装ラインの異なる構成については、
図1Bを参照してその相違点を説明する。
【0013】
図1Aに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り工程P1と、シーリング工程P2と、中塗り工程P3と、水研工程P4と、上塗り工程P5と、塗完検査工程P6と、を備える。これに対して、
図1Bに示す実施形態の塗装ラインPLは、下塗り工程P1と、シーリング工程P2と、中塗り・上塗り工程P7と、塗完検査工程P6と、を備える。すなわち、
図1Bの塗装ラインPLにおいては、
図1Aに示す中塗り塗装工程P31と上塗り塗装工程P51という2つの工程が、
図1Bの中塗り・上塗り塗装工程P71という一つの工程で行われ、同様に、
図1Aに示す中塗り乾燥工程P32と上塗り乾燥工程P52という2つの工程が、
図1Bの中塗り・上塗り乾燥工程P72という一つの工程で行われる。
図1Bの中塗り・上塗り工程P7については後述する。
【0014】
図1A及び
図1Bに示すように、下塗り工程P1は、電着前処理工程P11と、電着塗装工程P12と、電着乾燥工程P13とを備える。電着前処理工程P11では、ドロップリフタD/Lにより車体組立ラインWLの台車から塗装ハンガ(図示を省略する)に移載された自動車ボディB(ホワイトボディ)が、オーバーヘッドコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。なお、自動車ボディBの構成については後述する。
【0015】
電着前処理工程P11は、図示を省略するが、一般的に、脱脂工程、水洗工程、表面調整工程、化成被膜形成工程、水洗工程及び水切り工程を備える。塗装ラインPLに搬入される自動車ボディBには、プレス成形ラインPRLや車体組立ラインWLにおいてプレス油や溶接による鉄粉その他の塵埃が付着しているので、脱脂工程及び水洗工程では、これを洗浄し除去する。表面調整工程では、自動車ボディBの表面に表面調整剤成分を吸着させ、次工程の化成被膜形成工程における反応起点数を増加させる。吸着した上面調整剤成分が被膜結晶の核となり、被膜形成反応を加速させる。化成被膜形成工程では、自動車ボディBをリン酸亜鉛などの化成処理液に浸漬させることで、自動車ボディBの表面に化成被膜を形成する。水洗工程及び水切り工程では、自動車ボディBを水洗し、乾燥が行われる。
【0016】
電着塗装工程P12では、電着前処理工程P11による前処理が施された自動車ボディBが、オーバーヘッドコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。そして、自動車ボディBを、電着塗料が満たされた船型の電着槽に浸漬し、電着槽内に設けられた複数の電極板と自動車ボディB(具体的には、電気伝導性を有する塗装ハンガ)との間に高電圧を印加する。これにより、電着塗料の電気泳動作用により自動車ボディBの表面に電着塗膜が形成される。電着塗料としては、ポリアミン樹脂等のエポキシ系樹脂を基体樹脂とする熱硬化型塗料を例示することができる。なお、この電着塗料としては電着塗料側に正極高電圧を印加するカチオン型電着塗料を用いることが防錆上好ましいが、自動車ボディB側に正極高電圧を印加するアニオン型電着塗料を用いてもよい。
【0017】
電着塗装工程P12の電着槽を出漕した自動車ボディBは水洗工程に搬送され、工水や純水を用いて自動車ボディBに付着した電着塗料が洗い流される。この際、出漕時に電着槽から持ち出された電着塗料もこの水洗工程で回収される。水洗処理が終了した段階において、自動車ボディBの表面及び袋構造部内には、膜厚10μm〜35μm程度の未乾燥の電着塗膜が形成されることになる。電着塗装工程P12を終えると、塗装ハンガに搭載された自動車ボディBは、ドロップリフタD/Lにより塗装台車50(
図2Aを参照して後述する。)に移載される。なお、
図1A及び
図1Bに示す電着塗装工程P12と電着乾燥工程P13との間に設置されたドロップリフタD/Lを、電着乾燥工程P13とシーリング工程P2との間に設置し、電着乾燥工程P13内は、自動車ボディを塗装ハンガに搭載した状態で搬送してもよい。
【0018】
電着乾燥工程P13では、塗装台車に搭載された自動車ボディBが、フロアコンベアにより所定のピッチ、所定の搬送速度で連続的に搬送される。そして、たとえば160℃〜180℃の温度を15分〜30分間保持することで焼き付け乾燥され、これにより自動車ボディBの内外板および袋構造部内に、膜厚10μm〜35μmの乾燥した電着塗膜が形成される。なお、電着乾燥工程P13から塗完検査工程P6までは、フロアコンベアにより自動車ボディBを搭載した塗装台車50を連続的に搬送するが、各工程における塗装台車50の搬送ピッチと搬送速度は、その工程に応じたものとされている。そのため、フロアコンベアは複数のコンベアにより構成され、各工程における搬送ピッチと搬送速度が所定の値に設定される。
【0019】
本明細書及び特許請求の範囲において、電着塗料、中塗り塗料及び上塗り塗料などの「塗料」という場合は、被塗物に塗装する前の液体状態をいい、電着塗膜、中塗り塗膜及び上塗り塗膜などの「塗膜」という場合は、被塗物に塗装されて膜状となった未乾燥(ウェット)又は乾燥状態をいい、両者を区別するものとする。また本明細書及び特許請求の範囲ににおいて、上流側及び下流側とは、被塗物である自動車ボディBの搬送方向を基準とした上流及び下流を意味するものとする。さらに、本明細書及び特許請求の範囲おいて、自動車ボディBを後ろ向きに搬送するというのは、自動車ボディBの車体後部を搬送方向の前側に、車体前部を後ろ側にした状態で車体の前後方向軸に沿って搬送することを意味するものとし、自動車ボディBを前向きに搬送するというのは、その逆、すなわち自動車ボディBの車体前部を搬送方向の前側に、車体後部を後ろ側にした状態で車体の前後方向軸に沿って搬送することを意味するものとする。
【0020】
シーリング工程P2(アンダーコート工程及びストーンガードコート工程を含む)では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが搬送され、鋼板合わせ目や鋼板エッジ部に、防錆又は目留めを目的とした塩化ビニル系樹脂製シーリング材が塗布される。アンダーコート工程では、自動車ボディBのタイヤハウスや床裏に、塩化ビニル樹脂系の耐チッピング材が塗布される。ストーンガードコート工程では、サイドシル、フェンダ又はドア等のボディ外板下部に、ポリエステル系又はポリウレタン系樹脂製耐チッピング材が塗布される。なお、これらシーリング材や耐チッピング材は専用の乾燥工程または次に述べる中塗り乾燥工程P32にて硬化することになる。
【0021】
図1Aの塗装ラインPLの中塗り工程P3は、中塗り塗装工程P31と、中塗り乾燥工程P32とを備える。中塗り塗装工程P31では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが中塗ブースに搬送され、中塗りブース内で、エンジンルーム・フードインナ・トランクリッドインナなどの自動車ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した着色顔料が添加された内板塗装用塗料が塗布される。そして、内板塗装用塗膜にウェットオンウェットで、フードアウタ・ルーフ・ドアアウタ・トランクリッドアウタ(又はバックドアアウタ)などの外板部に、中塗り塗料が塗布される。なお、外板部とは、艤装工程を終了した完成車の外側から視認可能な部分であり、内板部とは、完成車の外側から視認できない部分である。
【0022】
図1Aの塗装ラインPLの中塗り乾燥工程P32では、自動車ボディBが中塗り乾燥装置に搬送される。そして、未乾燥の中塗塗膜が、たとえば130℃〜150℃の温度を15分〜30分間保持することで焼き付け監査され、自動車ボディBの外板部に膜厚15μm〜35μmの中塗り塗膜が形成される。また、自動車ボディBの内板部に膜厚15μm〜30μmの内板塗装用塗膜が形成される。なお、内板塗装用塗料および中塗り塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
【0023】
図1Aの塗装ラインPLの水研工程P4では、中塗り工程P3まで終えた自動車ボディBが搬送され、清浄な水と研磨材を用いて自動車ボディBに形成された中塗り塗膜の表面を研磨する。これにより、中塗り塗膜と上塗り塗膜との塗膜密着性が向上すると共に、外板部の上塗り塗膜の平滑性(塗り肌及び鮮映性)が向上する。この水研工程P4は、水研乾燥工程P41を備え、この水研乾燥工程P41では、自動車ボディBが水切り乾燥炉を通過することで、自動車ボディBに付着した水分を乾燥させる。
【0024】
図1Aの塗装ラインPLの上塗り工程P5は、上塗り塗装工程P51と、上塗り乾燥工程P52とを備える。上塗り塗装工程P51では、水研工程P4及び水研乾燥工程P41を終えた自動車ボディBが搬送される。そして、上塗りブース内で、自動車ボディBの外板部に上塗りベース塗料が塗布され、この上塗りベース塗膜にウェットオンウェットで、自動車ボディBの外板部に上塗りクリヤ塗料が塗装される。
【0025】
上塗りベース塗料及び上塗りクリヤ塗料は、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。上塗りベース塗料は、光輝性顔料の配向などの仕上がり性を考慮して重量比でおよそ80%程度に希釈されて塗装され(固形分がおよそ20%〜40%)、これに対して上塗りクリヤ塗料は重量比でおよそ30%程度に希釈されて塗装される(固形分がおよそ70%〜80%)。ただし、上塗りベース塗料は、塗布後のフラッシュオフ工程(ブース内において溶剤が自然蒸発する静置工程)において塗着固形分が70%以上に上昇するのが一般的である。
【0026】
本実施形態の自動車ボディBの外板色は、アルミニウム・雲母などの各種光輝性顔料を含むメタリック系外板色であり、上塗りベース塗料と上塗りクリヤ塗料とを自動車ボディBに塗布するが、特にこれに限定されない。例えば、自動車ボディBの外板色は、ソリッド系外板色でもよい。ソリッド系外板色は、光輝性顔料を含まない塗装色であり、この場合は、上塗りベース塗料は塗布せず、上塗りクリヤ塗料に代えて上塗りソリッド塗料を塗布する。このような上塗りソリッド塗料としては、上塗りベース塗料や上塗りクリヤ塗料と同様の基体樹脂の塗料を例示することができる。
【0027】
本実施形態の上塗り乾燥工程P52では、上塗りブースにおいて上塗り塗料が塗布された自動車ボディBが、上塗り塗装乾燥装置1に搬送される。この上塗り乾燥工程P52では、自動車ボディBが所定の条件で上塗り塗装乾燥装置1を通過し、これにより乾燥した上塗り塗膜が形成される。なお、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1及び上塗り乾燥工程P52の具体的的構成については、後述する。
【0028】
上塗りベース塗膜の膜厚は、たとえば10μm〜20μm、上塗りクリヤ塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜30μmである。自動車ボディBの外板色がソリッド系外板色の場合、上塗りソリッド塗膜の膜厚は、たとえば15μm〜35μmである。最後に、塗装を完了した自動車車体(塗完ボディ)は、塗完検査工程P6へ搬送されて、塗膜外観性や鮮映性等を評価する各種検査が行われる。
【0029】
一方、
図1Bに示す塗装ラインPLでは、
図1Aに示す塗装ラインPLの中塗り工程P3、水研工程P4(水研乾燥工程P41を含む)及び上塗り工程P5に代えて、中塗り・上塗り工程P7が設けられている。この実施形態の中塗り・上塗り工程P7は、中塗り・上塗り塗装工程P71と中塗り・上塗り乾燥工程P72とを備える。
【0030】
図1Bに示す塗装ラインPLの中塗り・上塗り塗装工程P71では、電着塗膜が形成された自動車ボディBが中塗り・上塗りブースに搬送され、中塗り・上塗りブースの前半ゾーンで、エンジンルーム・フードインナ・トランクリッドインナなどの自動車ボディの内板部に、その車両の外板色に対応した着色顔料が添加された内板塗装用塗料が塗布される。そして、内板塗装用塗膜にウェットオンウェットで、フードアウタ・ルーフ・ドアアウタ・トランクリッドアウタ(又はバックドアアウタ)などの外板部に、中塗り塗料が塗布される。次いで、同じく中塗り・上塗りブースの後半ゾーンで、自動車ボディBの外板部に上塗りベース塗料が塗布され、この上塗りベース塗膜にウェットオンウェットで、自動車ボディBの外板部に上塗りクリヤ塗料が塗装される。すなわち、内板用塗料、中塗り塗料、上塗りベース塗料及びクリヤ塗料が全てウェットオンウェットで塗装され、一つの上塗り塗装乾燥炉にて同時に焼付乾燥される。なお、ウェット塗膜を塗り重ねることによって生じるワキ不具合や鮮映性の低下を抑制するために、中塗り塗料を塗装した後や上塗りベース塗料を塗装した後に、自動車ボディBに塗布されたウェット塗膜の塗着NVを上昇させるフラッシュオフ工程を設けてもよい。この実施形態で用いられる内板塗装用塗料、中塗り塗料、上塗りベース塗料及びクリヤ塗料は、
図1Aに示す塗装ラインPLで用いられるものと同様に、アクリル樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂などを基体樹脂とする熱硬化型塗料であり、水系塗料又は有機溶剤系塗料のいずれであってもよい。
【0031】
次に、本実施形態の塗装ラインPLに適用される自動車ボディBの一例について、
図2A〜
図2Gを参照しながら詳細に説明する。
図2Aは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBを塗装台車50に搭載した状態を示す側面図、
図2Bは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのフロントドアD1を室内側から見た正面図、
図2Cは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのフロントドアD2を室内側から見た正面図、
図2Dは、
図2Aの2D−2D線に沿う断面図であって、フロントピラーB4、フロントドアD1及びヒンジH1を含む狭隘部N1の一例を示す断面図、
図2Eは、
図2Aの2E−2E線に沿う断面図であって、センターピラーB5、リヤドアD2及びヒンジH2を含む狭隘部N2の一例を示す断面図、
図2Fは、
図2B,
図2CのヒンジH1,H2の一例を示す分解斜視図、
図2Gは、本発明の一実施の形態に係る自動車ボディBのフロントドアD1を開放した状態を、ボディシェル本体の後方から見た図である。
【0032】
本実施形態の自動車ボディBは、
図2Aに示すように、ボディシェル本体B1と、蓋物部品であるフードF,フロントドアD1,リヤドアD2及びトランクリッドTとを備える。ボディシェル本体B1の両側面には、フロントドア開口部B2と、リヤドア開口部B3とが形成されている。フロントドア開口部B2は、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4と、センターピラーB5と、ルーフサイドレールB8と、サイドシルB9とにより画定された開口である。リヤドア開口部B3は、ボディシェル本体B1のセンターピラーB5と、リヤピラーB10と、ルーフサイドレールB8と、サイドシルB9とにより画定された開口である。以下、フロントドア開口部B2とリヤドア開口部B3とを総称してドア開口部B2,3ともいう。図示する蓋物部品としてのトランクリッドTは、自動車ボディBの車型によってはバックドアであることもある。
【0033】
本実施形態の自動車ボディBは、図示するように4ドアセダンの車型であるから、サイドドアDは、フロントドアD1と、リヤドアD2とを有する。なお、2ドアセダンや2ドアクーペの場合は、フロントドアD1及びフロントドア開口部B2のみであり、リヤドアD2及びリヤドア開口部B3は設けられない。本実施形態のフロントドアD1は、フロントドア開口部B2に対応するように配置され、リヤドアD2は、リヤドア開口部B3に対応するように配置されている。本実施形態におけるフロントドアD1及びリヤドアD2を含むサイドドアDが、本発明に係るサイドドアの一例に相当し、上述した2ドアセダンや2ドアクーペの場合はフロントドアD1が、本発明に係るサイドドアの一例に相当する。
【0034】
フロントドアD1は、
図2B及び
図2Dに示すように、その前端部(自動車ボディBの前側)の上下2箇所にヒンジH1が設けられている。またリヤドアD2は、
図2C及び
図2Eに示すように、その前端部(自動車ボディBの前側)の上下2箇所にヒンジH2が設けられている。これらフロントドアD1及びリヤドアD2をボディシェルB1に開閉自在に装着するためのヒンジH1,H2は、多少の形状の相違はあるが、基本的な構造は同じであるため、
図2Fに一方の両方のヒンジH1を示し、他方のヒンジH2については括弧内に対応する符号を付すことで図示を省略する。
【0035】
図2Fに示すように、ヒンジH1は、2つのヒンジブラケットH11,H12と、ヒンジピンH13とを有する。ヒンジブラケットH11は、フロントドアD1のインナパネルにボルト(不図示)を介して取り付けられ、ヒンジブラケットH12は、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4にボルト(不図示)を介して取り付けられている。ヒンジピンH13は、2つのヒンジブラケットH11,12の4つの孔に挿通され、カシメや圧入によって固定されている。これにより、ヒンジブラケットH11,H12は、ヒンジピンH13を中心に回転可能に連結されることになる。
【0036】
車体組立ラインWLにおいては、ヒンジピンH13を2つのヒンジブラケットH11,12の4つの孔に挿通し、カシメや圧入によって固定したヒンジH1のサブアッセンブリ部品を予め組み立てておき、これを最終工程に搬入する。そして、フロントドアD1をボディシェル本体B1に装着する前に、このヒンジH1のサブアッセンブリ部品の一方のヒンジブラケットH11をフロントドアD1にボルト締めしたのち、フロントドアD1をボディシェル本体B1のフロントドア開口部B2に治具などを用いてセットし、他方のヒンジブラケットH12をフロントピラーB4にボルト締めする。これにより、フロントドアD1は、このヒンジピンH13を中心に回転することで、開閉可能となる。
【0037】
ヒンジH2も同様に、
図2Fの括弧内の符号に示すように、2つのヒンジブラケットH21,H22と、ヒンジピンH23とを有する。ヒンジブラケットH21は、リヤドアD2にボルト(不図示)を介して取り付けられ、ヒンジブラケットH22は、ボディシェル本体B1のセンターピラーB14にボルト(不図示)を介して取り付けられる。ヒンジピンH23は、2つのヒンジブラケットH21,22の孔に挿通され、カシメや圧入によって固定されている。これにより、ヒンジブラケットH21,H22は、ヒンジピンH23を中心に回転可能に連結されることになる。すなわち、リヤドアD2は、ヒンジピンH23を中心に回転することで、開閉可能となる。以下、ヒンジH1とヒンジH2とをヒンジHと総称する。
【0038】
本実施形態の自動車ボディBでは、
図2D及び
図2E並びに
図2Gに示すように、ボディシェル本体B1とサイドドアDとの間には、間隔の狭い狭隘部N1,N2が形成される。具体的には、
図2D及び
図2Gに示すように、ボディシェル本体B1のフロントピラーB4と、フロントドアD1とのヒンジH1の近傍には、間隔の狭い狭隘部N1が形成され、
図2Eに示すように、ボディシェル本体B1のセンターピラーB5と、リヤドアD2とのヒンジH2の近傍には、間隔の狭い狭隘部N2が形成される。特に、ヒンジH1,H2の近傍は、フロントドアD1やリヤドアD2の開閉状態に拘わらず、ヒンジH1,H2が邪魔になって塗装乾燥装置1からの熱風が入り込み難く、構造上、自動車ボディBの外板部に比べて加熱され難い。したがって、塗膜の品質保証基準とされる所定温度を所定時間以上に保持するのが困難な部位である。なお、
図2D及び
図2Eに示す「×」印は、上塗り塗装の範囲であり、同じく符号WSは、サイドドアD1,D2とドア開口部B2,B3との間をシールするためにサイドドアD1,D2に装着されるウェザーストリップである。特に、ウェザーストリップWSから室外側の塗装範囲は、錆環境に対して厳しく、見栄えの品質以外にも、塗膜の密着性等の塗装品質が要求される部位である。
【0039】
図2Aに戻り、上述した自動車ボディBは、塗装台車50に搭載された状態で、
図1A及び
図1Bの電着乾燥工程P13から塗完検査工程P6まで搬送される。本実施形態の塗装台車50は、平面視において矩形の枠体とされ、自動車ボディBを支持することができる程度の剛体からなる基台51と、当該基台51の下面に設けられた4つの車輪54と、当該基台51の上面に設けられた2つのフロントアタッチメント52及び2つのリヤアタッチメント53とを有する。左右のフロントアタッチメント52は、自動車ボディBの左右のフロントアンダボディB6(フロントサイドメンバなど)をそれぞれ支持し、左右のリヤアタッチメント53は、自動車ボディBの左右のリヤアンダボディB7(リヤサイドメンバなど)をそれぞれ支持する。これら4つのアタッチメント52,53によって自動車ボディBを水平に支持する。4つの車輪54は、搬送コンベア40の左右に敷設されたレール41に沿って自転する。なお詳細は後述するが、本実施形態では、上塗り塗装乾燥装置1の内部を搬送する場合には、自動車ボディBは後ろ向きに搬送される。すなわち、
図2Aに示す搭載状態でいえば、塗装台車50及び自動車ボディBは、右方向に向かって搬送される。
【0040】
次に、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1について説明する。
図3は、本発明の一実施の形態に係る上塗り塗装乾燥装置の概略構成を示す側面図、
図4Aは、
図3の4A−4A線に沿う断面図、
図4Bは、
図3の4B−4B線に沿う断面図である。
【0041】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、
図3,
図4A及び
図4Bに示すように、乾燥炉本体10と、熱風給気装置20と、排気装置30とを備える。本実施形態の乾燥炉本体10は、
図3の側面図に示すように、入口側の上り傾斜部11と、出口側の下り傾斜部13と、これら上り傾斜部11と下り傾斜部13との間の高床部12とを含む山型状とされた乾燥炉である。また、
図4A及び
図4Bの断面図に示すように、天井面14と左右一対の側面15,15と床面16とを有する矩形とされた乾燥炉である。
図3の側面図において、右側が上塗りブース終端の上塗りセッティングゾーン及び乾燥炉本体10の入口側であり、左側が乾燥炉本体10の出口側であり、塗装台車50に搭載された自動車ボディBは、
図3の右から左に向かって後ろ向きに搬送される。すなわち、本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1内を搬送する自動車ボディBは、
図2Aに示す右方向に向かって搬送される。ただし、自動車ボディBは、少なくとも上塗り塗装乾燥装置1内のみを後ろ向きに搬送すればよいので、その前後の工程においては、ターンテーブルなどの方向転換装置を設けるなどすることで、自動車ボディBを前向きに搬送してもよい。
【0042】
乾燥炉本体10の入口側の上り傾斜部11及び高床部12の炉幅は、自動車ボディBのサイドドアDが開いた状態で搬送されても当該サイドドアDが給気ダクト24と干渉しない炉幅とされている。また、乾燥炉本体10の高床部12の床面16の高さは、乾燥炉本体10の入口の開口上端縁の高さや、乾燥炉本体10の出口の開口上端縁の高さとほぼ同じ高さとされている。これにより、高床部12に供給された熱風が、入口又は出口から乾燥炉本体10外へ逃げるのを抑制することができる。また、乾燥炉本体10の床面16には、乾燥炉本体10の延在方向に沿って、自動車ボディBが搭載された塗装台車50を搬送する搬送コンベア40が敷設されている。本実施形態の高床部12における搬送コンベア40の敷設構成については後述する。
【0043】
熱風給気装置20は、乾燥炉本体10の高床部12内に、生成した熱風を供給する設備であり、
図4A及び
図4Bに示すように、給気ファン21と、給気フィルタ22と、バーナ23と、給気ダクト24と、第1熱風吹出口25と、第2熱風吹出口26とを備える。給気ファン21は、外部から吸入する空気を乾燥炉本体10の高床部12の内部に供給する設備である。給気フィルタ22は、給気ファン21の1次側(空気を吸入する側)に接続され、外部から吸入する空気を濾過し、ごみ等を分離する。これにより、清浄な空気が給気ファン21に吸入される。バーナ23は、給気ファン21の2次側(空気を吐出する側)に接続され、給気ファン21から吐出された空気を所定温度に加熱する。これにより、吸入された空気が熱風として乾燥炉本体10の高床部12内に供給される。
【0044】
給気ダクト24は、
図4A及び
図4Bに示すように、自動車ボディBの搬送方向に沿って乾燥炉本体10の高床部12の天井面14及び左右の側面15,15にそれぞれ配置されている。第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26は、乾燥炉本体10の高床部12内に配置された給気ダクト24の延在方向に沿って所定間隔で複数形成された矩形状スリット(開口)と、必要に応じて当該スリットに設けられた風向板により構成されている。第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26は、それぞれのスリットの開口又は風向板が乾燥炉本体10の中央部又は所定箇所(上述した狭隘部N1,N2)に向かうように設けられ、これにより、給気ファン21により供給される熱風が乾燥炉本体10内を搬送される自動車ボディBの所定箇所に吹き付けられることになる。
【0045】
本実施形態の乾燥炉本体10の高床部12は、
図4Aに示すように第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26が設けられた領域X1と、
図4Bに示すように第1熱風吹出口25のみが設けられた領域X2,X3とに、その延在方向(搬送方向)に区画されている。その区画の形態については後述する。なお、
図4Aに示すように第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26が設けられた領域X1の給気ダクト24と、
図4Bに示すように第1熱風吹出口25のみが設けられた領域X2,X3の給気ダクト24とを絶縁し、それぞれに給気ファン21と給気フィルタ22とバーナ23とを設け、絶縁された各領域X1とX2,X3へ給気する熱風の温度や流量を制御してもよい。
【0046】
排気装置30は、
図4A及び
図4Bに示すように、乾燥炉本体10内で蒸発した溶剤を系外に排出するための設備であり、排気ファン31と、排気フィルタ32と、排気ダクト33と、排気吸込み口34とを備える。排気ファン31は、乾燥炉本体10内の熱風を吸引して、当該乾燥炉本体10の系外に排出又は熱風給気装置20の一次側に循環させる装置であり、乾燥炉本体10内の塵埃等の除去と熱風圧を調整する機能を司る。排気フィルタ32は、排気ファン31の2次側(熱風を吐出する側)に設けられている。熱風が排気ファン31により吸引され、排気フィルタ32を通過して系外に排出、又は熱風給気装置20に戻される。排気ダクト33は、自動車ボディBの搬送方向に沿って乾燥炉本体10の左右の側面15,15にそれぞれ設けられている。排気吸込み口34は、乾燥炉本体10内に配置された排気ダクト33に所定間隔で形成されたスリットからなる。
【0047】
本実施形態の乾燥炉本体10に敷設された搬送コンベア40は、
図3に示すように、乾燥炉本体10の入口側の上り傾斜部11においては、当該上り傾斜部11の床面16に沿って上り傾斜とされ、乾燥炉本体10の出口側の下り傾斜部13においては、当該下り傾斜部13の床面16に沿って下り傾斜とされている。しかしながら、乾燥炉本体10の高床部12においては、当該高床部12の床面16(水平に配置されている)に沿って水平に敷設されず、
図3に示すように、高床部12の上流側から順に、上り傾斜42、水平43及び下り傾斜44となるように敷設されている。すなわち、高床部12に敷設された搬送コンベア40が、上り傾斜42となるように敷設された領域X1においては、塗装台車50に対して水平に搭載された自動車ボディBは後ろ上がりの姿勢になり、高床部12に敷設された搬送コンベア40が、水平43となるように敷設された領域X2においては、塗装台車50に対して水平に搭載された自動車ボディBは水平の姿勢になり、高床部12に敷設された搬送コンベア40が、下り傾斜44となるように敷設された領域X3においては、塗装台車50に対して水平に搭載された自動車ボディBは後ろ下がりの姿勢になる。
【0048】
図2Aに示すように、自動車ボディBを塗装台車50に対して水平に搭載すると、
図2B〜
図2F等に示す上下のヒンジH1,H1(又はH2,H2)のヒンジピンH13,H13(又はH23,H23)を結ぶ直線は鉛直になる。したがって、フロントドアD1(又はリヤドアD2)には、ヒンジピンを回転中心とする自重による回転モーメントは働かないので自転はしない。これに対して、自動車ボディBの姿勢を後ろ上がりにすると、上下のヒンジH1,H1(又はH2,H2)のヒンジピンH13,H13(又はH23,H23)を結ぶ直線は鉛直方向に対して傾くので、フロントドアD1(又はリヤドアD2)には、ヒンジピンを回転中心とする自重による回転モーメントが働く。これにより、フロントドアD1(又はリヤドアD2)は、自重によって自動的に開度限界まで開くことになる。また同様の作用により、自動車ボディBの姿勢を後ろ下がりにすると、フロントドアD1(又はリヤドアD2)は、自重によって自動的に閉塞限界まで閉じることになる。
【0049】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1では、このサイドドアDの自動開閉動作を利用して、サイドドアDを自動的に開き、上述した狭隘部N1,N2に熱風を集中して吹き付けたのち、サイドドアDを自動的に閉じる。つまり、
図3に示すように、自動車ボディBに対してサイドドアDであるフロントドアD1及びリヤドアD2を非固定状態とし、この状態で後ろ向きに搬送する。これにより、入口側の上り傾斜部11においては、それまで閉塞状態であったサイドドアDが自動的に全開状態になり、さらに高床部12の、搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1においてはサイドドアDの全開状態が維持される。そして、少なくともこのサイドドアDが全開とされる領域X1に、
図4Aに示す第1熱風吹出口25及び第2熱風吹出口26を設ける。ただし、この領域Xにおいては、
図4Aに示す第2熱風吹出口26のみを設け、第1熱風吹出口25は省略してもよい。
【0050】
第2熱風吹出口26は、
図4Aに示すように、乾燥炉本体10の左右の側面15,15の給気ダクト24,24の上方及び下方にそれぞれ設けられている。第2熱風吹出口26は、その先端に風向板の一種であるガイド部を含んで構成してもよい。上方側に設けられた第2熱風吹出口26は、上流側で且つ斜め下方に向かって開口し、下方側に設けられた第2熱風吹出口26は、上流側で且つ斜め上方に向かって開口している。結果として、この第2熱風吹出口26は、自動車ボディBが当該第2熱風吹出口26の前を通過する際に、ボディシェル本体B1にサイドドアDを装着するヒンジH近傍の狭隘部N1,N2に向かって開口が指向するように設けられている。
【0051】
第2熱風吹出口26が上流側に向かって開口することで、サイドドアDを開放した状態で搬送される自動車ボディBのヒンジH近傍に向かって熱風を吹き付け易くなる。また、第2熱風吹出口26が側面15,15の上方及び下方に設けられていることで、上方に設けられた第2熱風吹出口26からの熱風は主としてヒンジH近傍の上側に吹き付けられ、下方に設けられた第2熱風吹出口26からの熱風は主としてヒンジH近傍の下側に吹き付けられるので、ヒンジH近傍の狭隘部N1,N2を均一に乾燥させることができる。
【0052】
特に限定されないが、第2熱風吹出口26から吹き出される熱風の熱量は、第1熱風吹出口25から吹き出される熱風の熱量よりも大きく設定することが望ましい。本実施形態では、第2熱風吹出口26から吹き出される熱風の風速を第1熱風吹出口25から吹き出される熱風の風速よりも大きくすることで、第2熱風吹出口26から吹き出される熱風の熱量を大きく設定している。具体的には、
図4A及び
図4Bに示す第1熱風吹出口25から吹き出される熱風の風速が、自動車ボディBの外板部の塗装面近傍において3m/s前後であるのに対し、第2熱風吹出口26から吹き出される熱風の風速は、10m/s前後に設定することが望ましい。
【0053】
なお、高床部12のうち搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1においては、乾燥炉本体10の昇温ゾーンも兼ねることから、天井面14に設けられた給気ダクト24に第1熱風吹出口25を設けることが望ましい。
【0054】
図3に示すように、高床部12のうち搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1の下流側には、搬送コンベア40が水平43とされた領域X2が設けられている。またこの領域X2の下流側には、搬送コンベア40が下り傾斜44とされた領域X3が連続して設けられている。上述したとおり、高床部12のうち搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1においては、サイドドアDは自重によって全開状態に維持されながら熱風が吹きつけられるが、領域X2及び領域X3を通過する際に自動車ボディBの姿勢が、それまでの後ろ上がりの姿勢から後ろ下がりの姿勢に徐々に変化する。これにより、それまで全開状態であったサイドドアDが自重によって徐々に閉塞限界まで閉じることになる。そして、乾燥炉本体10の出口の下り傾斜部13を自動車ボディBが通過する際には、サイドドアDが全閉した状態を維持する。なお、サイドドアDが閉塞限界まで閉じると、ドアインナパネル又はドアサッシュがボディシェル本体B1のドア開口部B2,B3に当たり、何れかが変形したり傷が付いたりする。このため、上塗り塗装乾燥装置1に搬入する前の工程にて、
図7A及び
図7Bに示すドアストッパ治具60を自動車ボディBに装着しておくことが望ましい。
図7A及び
図7Bに示すドアストッパ治具60は、サイドシルB9の孔B91とフランジB92に装着し、サイドドアDが閉塞限界まで閉じないようにドアインナパネルの艤装部品で隠れる部位に当接するための治具である。
【0055】
搬送コンベア40が水平43とされた領域X2及び、これに続く搬送コンベア40が下り傾斜44とされた領域X3においては、
図4Bに示すように、天井面14及び側面15に設けられた給気ダクト24に第1熱風吹出口25のみを設けることが望ましい。左右の側面15,15に設けられた第1熱風吹出口25は、自動車ボディBが当該第1熱風吹出口25の前を通過する際に、自動車ボディBのフロントフェンダB11、サイドドアD及びリヤフェンダB12の外板部に向かって開口又は風向板が指向するように設けられている。また、天井面14に設けられた第1熱風吹出口25は、自動車ボディBが当該第1熱風吹出口25の前を通過する際に、自動車ボディBのフードF,ルーフB13及びトランクリッドTの外板部に向かって開口又は風向板が指向するように設けられている。こうした第1熱風吹出口25によって自動車ボディBの全体に熱風が吹き付けられ、外板部を含む自動車ボディB全体の温度を保持する。
【0056】
図5は、本発明の他の実施の形態に係る上塗り塗装乾燥装置の概略構成を示す側面図、
図6は、本発明のさらに他の実施の形態に係る上塗り塗装乾燥装置の概略構成を示す側面図である。なお、
図5及び
図6における4A−4A線に沿う断面は、
図4Aに示す構造と同一の構造とされ、4B−4B線に沿う断面は、
図4Bに示す構造と同一の構造とされている。上述した
図3に示す実施形態の上塗り塗装乾燥装置1では、高床部12の上流側から順に、搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1、搬送コンベア40が水平43とされた領域X2、搬送コンベア40が下り傾斜44とされた領域X3が設けられているが、本発明の塗装乾燥装置は、少なくとも高床部12の上流側に搬送コンベア40が上り傾斜42とされたX1が設けられていればよい。
【0057】
たとえば、
図5に示す他の実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、搬送コンベア40が水平43とされた領域X2を省略し、搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1に続けて、搬送コンベア40が下り傾斜44とされた領域X3を設けた例である。また
図6に示すさらに他の実施形態の上塗り塗装乾燥装置1は、搬送コンベア40が水平43とされた領域X2及び搬送コンベア40が下り傾斜44とされた領域X3を省略し、高床部12の全体を搬送コンベア40が上り傾斜42とされた領域X1とした例である。このような他の実施形態の上塗り塗装乾燥装置1によっても、
図3に示す上塗り塗装乾燥装置1と同様に、サイドドアDの自動開閉を実現することができる。
【0058】
また上述した
図3,
図5及び
図6に示す各実施形態では、乾燥炉本体10の高床部12に敷設する搬送コンベア40の傾斜角によって自動車ボディBの姿勢を変更させるが、高床部12に敷設される搬送コンベア40は水平に設置し、
図2Aに示す塗装台車50の左右のフロントアタッチメント52,52及び/又は左右のリヤアタッチメント53,53を、左右が同期して昇降することができる構造としてもよい。すなわち、自動車ボディBを後ろ上がりの姿勢にする場合は、左右のフロントアタッチメント52を同期して下降させるか、左右のリヤアタッチメント53を同期して上昇させるか、あるいはこの両方の操作を、高床部12の上流側で実行すればよい。また自動車ボディBを後ろ下がりの姿勢にする場合は、左右のフロントアタッチメント52を同期して上昇させるか、左右のリヤアタッチメント53を同期して下降させるか、あるいはこの両方の操作を、高床部12の下流側で実行すればよい。
【0059】
本実施形態の上塗り塗装乾燥装置1及び上塗り乾燥方法によれば、以下の作用効果を奏する。
自動車ボディBは、その構造上、熱風が当たり易い部位と当たり難い部位を含んで構成されることが殆どである。たとえば、サイドドアDのヒンジH1,H2の近傍の狭隘部N1、N2は、サイドドアDを閉じた状態で上塗り塗装乾燥装置1へ流しても、熱風が廻り込み難く、昇温し難い。これに対して、サイドドアDのアウタパネルなどの外板部は、熱風が直接吹き付けられ易く、昇温し易い。このため、上塗り塗装乾燥装置1の熱風温度や通過時間などの設定条件を、昇温し難い狭隘部N1,N2に合わせると、昇温し易い外板部が品質保証基準を大幅に超えて無駄なエネルギが消費されるだけでなく、場合によってはオーバーベークが生じ、却って塗膜品質を低下させるおそれもある。かと言って、上塗り塗装乾燥装置1の熱風温度や通過時間などの設定条件を、昇温し易い外板部に合わせると、狭隘部N1,N2の塗膜の乾燥条件が品質保証基準を満たさず、いわゆる焼き甘が生じて、塗膜性能の低下や塗膜剥がれが生じるおそれがある。本実施形態では、サイドドアDが開いた状態で搬送される領域X1において、相対的に昇温し難い狭隘部N1,N2に向かって熱風を局所的に吹き付けることで、自動車ボディBの塗膜全域に亘る乾燥条件の均一化を図ることができ、塗膜品質だけでなく省エネルギも実現することができる。
【0060】
(1)すなわち
図3、
図5及び
図6に示す実施形態によれば、自動車ボディBが乾燥炉本体10の入口の上り傾斜部11を通過する際にサイドドアDは自重により自動的に開き、さらに高床部12の少なくとも上流領域X1において、自動車ボディBは後ろ上がりの姿勢で搬送されるので、サイドドアDは開状態を維持する。そしてこの高床部12の少なくとも上流領域において、サイドドアDが開いている状態でヒンジH1,H2近傍のボディシェル本体B1とサイドドアDに塗布されたウェット塗膜に向かって局所的に熱風を吹き付けることで、所定の乾燥条件を満足することができる。さらに、これに続く乾燥炉本体10の出口の下り傾斜部13において、サイドドアDは自重により自動的に閉じるので、乾燥炉本体10の全体にわたってサイドドアDを開閉する専用の装置を設ける必要がない。
【0061】
(2)また
図3及び
図5に示す実施形態によれば、自動車ボディBは、高床部12の下流領域X3において、水平に対して後ろ下がりの姿勢にて搬送されるので、この下流領域3においてサイドドアDがゆっくりと自動的に閉じることになる。
【0062】
(3)さらに
図3及び
図5に示す実施形態によれば、高床部12の上流領域X1の後ろ上がりの姿勢から下流領域X3の後ろ下がりの姿勢へ徐々に変更するか、あるいは所定時間だけ水平姿勢(
図3の領域X2参照)を維持するようにコンベアの傾斜角度又は塗装台車の支持部の動作を設定すれば、サイドドアDがボディシェル本体B1に強く衝突するのを防止でき、塗膜の当たり傷やパネルの凹みなどの発生を抑制することができる。
【0063】
上記熱風給気装置20が本発明の熱風生成供給手段に相当し、上記搬送コンベア40が上り傾斜とされた領域X1が本発明の局所乾燥領域に相当する。