特許第6428334号(P6428334)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6428334スイッチトリラクタンスモータの制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428334
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】スイッチトリラクタンスモータの制御装置
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/08 20160101AFI20181119BHJP
【FI】
   H02P25/08
【請求項の数】11
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-24020(P2015-24020)
(22)【出願日】2015年2月10日
(65)【公開番号】特開2016-149822(P2016-149822A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2017年6月19日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】鄭 淅化
(72)【発明者】
【氏名】高橋 友哉
【審査官】 田村 惠里加
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−089277(JP,A)
【文献】 特開2014−128190(JP,A)
【文献】 特開2013−188074(JP,A)
【文献】 特開2010−252492(JP,A)
【文献】 特開2010−239730(JP,A)
【文献】 特開平07−059375(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 4/00;6/00−6/34;21/00−25/03;
25/04;25/08−31/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに磁気結合可能な複数の巻線(22A,22B,22C)を有するスイッチトリラクタンスモータと、
前記複数の巻線のそれぞれに電圧を印加する電圧印加手段(20)と、を備えるモータ制御システムに適用され、
前記巻線に流れる電流又は前記巻線と鎖交する磁束を制御量とし、前記複数の巻線のそれぞれの前記制御量をその指令値に制御すべく、前記複数の巻線のそれぞれに印加する指令電圧を算出する指令電圧算出手段(35A〜35C,52A〜52C)と、
前記指令電圧算出手段によって算出された前記指令電圧に基づいて、前記複数の巻線のそれぞれに電圧を印加すべく前記電圧印加手段を操作する操作手段と、を備え、
前記複数の巻線のうち、前記指令電圧の算出対象とする1つの巻線を自相巻線とし、残余の巻線を他相巻線とし、
前記指令電圧算出手段は、前記自相巻線の自己インダクタンスと、前記自相巻線及び前記他相巻線の間の相互インダクタンスとのそれぞれが、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流全てに依存する前記モータのモデルに基づいて、前記指令電圧を算出することを特徴とするスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項2】
前記モータ制御システムには、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流を検出する電流検出手段(42A,42B,42C)が備えられ、
前記複数の巻線のそれぞれについて、前記電流検出手段によって検出された前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流に基づいて、前記自己インダクタンスと前記相互インダクタンスとを含む干渉電圧であって、前記自相巻線及び前記他相巻線の間の磁気結合によって前記自相巻線に生じる干渉電圧を算出する干渉電圧算出手段(36A〜36C;53A〜53C)と、
前記複数の巻線のそれぞれについて、前記指令電圧算出手段によって算出された前記指令電圧を、前記干渉電圧算出手段によって算出された前記干渉電圧で補償する電圧補償手段(37A〜37C;54A〜54C)と、をさらに備え、
前記操作手段は、前記電圧補償手段によって補償された前記指令電圧を前記複数の巻線のそれぞれに印加すべく、前記電圧印加手段を操作する請求項1記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項3】
前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と関係付けられた前記巻線の鎖交磁束に関する情報、又は前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と関係付けられた前記巻線の鎖交磁束を前記巻線に流れる電流で偏微分した値に関する情報を含む磁束情報が予め記憶されている記憶手段をさらに備え、
前記干渉電圧算出手段は、前記記憶手段に記憶されている前記磁束情報に基づいて、前記干渉電圧を算出する請求項2に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項4】
前記磁束情報は、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と、前記モータの電気角とを独立変数として数式化された前記鎖交磁束の情報を含み、
前記干渉電圧算出手段は、前記数式化された鎖交磁束を前記巻線に流れる電流で偏微分してかつ、前記数式化された鎖交磁束を前記電気角で偏微分し、前記偏微分した各値に基づいて、前記干渉電圧を算出する請求項3記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項5】
前記制御量は、前記巻線に流れる電流であり、
前記干渉電圧は、絶対値が前記巻線の抵抗に比例する項と、絶対値が前記モータの電気角速度に比例する項とを含み、
前記干渉電圧算出手段は、前記電気角速度が所定角速度を超えていることを条件として、前記巻線の抵抗に比例する項を除外して前記干渉電圧を算出する請求項2〜4のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項6】
前記モータ制御システムには、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流を検出する電流検出手段(42A,42B,42C)が備えられ、
前記指令電圧算出手段は、前記複数の巻線のそれぞれについて、前記制御量を前記指令値にフィードバック制御する操作量として前記指令電圧を算出する制御器を構成し、
前記電流検出手段によって検出された前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流に基づいて、前記フィードバック制御で用いられるフィードバックゲインであって、前記自己インダクタンスと前記相互インダクタンスとを含むフィードバックゲインを算出するゲイン算出手段(35A〜35C;52A〜52C)をさらに備える請求項1〜5のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項7】
前記モデルは、前記巻線の印加電圧を入力とし、前記制御量を出力とするものであり、
前記フィードバックゲインは、伝達関数で表された前記モデルの極と、伝達関数で表された前記制御器の零点とを相殺する値として設定されている請求項6に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項8】
前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と関係付けられた前記巻線の鎖交磁束に関する情報、又は前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と関係付けられた前記巻線の鎖交磁束を前記巻線に流れる電流で偏微分した値に関する情報を含む磁束情報が予め記憶されている記憶手段をさらに備え、
前記ゲイン算出手段は、前記記憶手段に記憶されている前記磁束情報に基づいて、前記フィードバックゲインを算出する請求項6又は7に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項9】
前記磁束情報は、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流と、前記モータの電気角とを独立変数として数式化された前記鎖交磁束の情報を含み、
前記ゲイン算出手段は、前記数式化された鎖交磁束を前記巻線に流れる電流で偏微分してかつ、前記数式化された鎖交磁束を前記電気角で偏微分し、前記偏微分した各値に基づいて、前記フィードバックゲインを算出する請求項8に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項10】
前記操作手段は、前記複数の巻線のそれぞれに周期的に通電して、かつ、前記複数の巻線のうち少なくとも2つの巻線の通電期間の一部が重複するように、前記電圧印加手段を操作する請求項1〜9のいずれか1項に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【請求項11】
前記モータは、3相であり、
前記操作手段は、前記複数の巻線のそれぞれの通電期間の一部が互いに重複するように、前記電圧印加手段を操作する請求項10に記載のスイッチトリラクタンスモータの制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、互いに磁気結合可能な複数の巻線を有するスイッチトリラクタンスモータに適用される制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の制御装置としては、スイッチトリラクタンスモータ(以下、SRM)を構成する複数の巻線に電流が流れる場合において、複数の巻線間の相互磁気干渉の影響を打ち消す非干渉制御を行うものが知られている。詳しくは、複数の巻線のそれぞれの自己インダクタンスと、複数の巻線間の相互インダクタンスとを含むモータモデルに基づいて、非干渉制御を行う。このモデルにおいて、自己インダクタンス及び相互インダクタンスのそれぞれは、自相に流れる電流に依存するパラメータとされている(下記非特許文献1参照)。これにより、SRMにおける電流制御の高応答化を図っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Han-Kyung Bae, et. al, “A Novel Approach to Control of Switched Reluctance Motors Considering Mutual Inductance” IEEE Industrial Electronics Society. IECON2000, Vol.1, pp.369-374
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ここで本発明者は、上述した非干渉制御を行う場合であっても、巻線に流れる電流がその指令値から大きく乖離する等、SRMにおける電流制御性が大きく低下する事態に直面した。このため、SRMの電流(制御量)の制御性の向上を図る技術については、未だ改善の余地を残すものとなっている。
【0005】
本発明は、スイッチトリラクタンスモータの制御量の制御性を向上できるスイッチトリラクタンスモータの制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について記載する。
【0007】
本発明は、互いに磁気結合可能な複数の巻線(22A,22B,22C)を有するスイッチトリラクタンスモータと、前記複数の巻線のそれぞれに電圧を印加する電圧印加手段(20)と、を備えるモータ制御システムに適用され、前記巻線に流れる電流又は前記巻線と鎖交する磁束を制御量とし、前記複数の巻線のそれぞれの前記制御量をその指令値に制御すべく、前記複数の巻線のそれぞれに印加する指令電圧を算出する指令電圧算出手段(35A〜35C,52A〜52C)と、前記指令電圧算出手段によって算出された前記指令電圧に基づいて、前記複数の巻線のそれぞれに電圧を印加すべく前記電圧印加手段を操作する操作手段と、を備え、前記複数の巻線のうち、前記指令電圧の算出対象とする1つの巻線を自相巻線とし、残余の巻線を他相巻線とし、前記指令電圧算出手段は、前記自相巻線の自己インダクタンスと、前記自相巻線及び前記他相巻線の間の相互インダクタンスとのそれぞれが、前記複数の巻線のそれぞれに流れる電流全てに依存する前記モータのモデルに基づいて、前記指令電圧を算出することを特徴とする。
【0008】
本発明者は、複数の巻線のそれぞれについて、自相巻線の自己インダクタンスと、自相巻線及び他相巻線の間の相互インダクタンスとのそれぞれが、複数の巻線のそれぞれに流れる電流全てに依存するとの知見を得た。そして、自相巻線の自己インダクタンスと、自相巻線及び他相巻線の間の相互インダクタンスとのそれぞれが、複数の巻線のそれぞれに流れる電流全てに依存するモータのモデルによれば、自相巻線に流れる電流に加えて、他相巻線に流れる電流による磁気飽和の影響を高精度に定量化できることを見出した。
【0009】
そこで上記発明では、上記自己インダクタンス及び相互インダクタンスのそれぞれが、複数の巻線のそれぞれに流れる電流全てに依存するモータのモデルに基づいて、複数の巻線のそれぞれに印加する指令電圧を算出する。そして、算出された指令電圧に基づいて、電圧印加手段の操作により、複数の巻線のそれぞれに電圧を印加する。これにより、複数の巻線のそれぞれにおいて、制御量が指令値から大きく乖離することを回避できる。したがって、モータの制御量の制御性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態にかかるモータ制御システムの全体構成図。
図2】SRMの概略を示す断面図。
図3】全節巻SRMの通電態様を示す図。
図4】電流フィードバック制御の概要を示すブロック図。
図5】フィードバックゲインの設定手法を説明するための図。
図6】関連技術にかかる電流が小さい場合の電流フィードバック制御を示すタイムチャート。
図7】関連技術にかかる電流が大きい場合の電流フィードバック制御を示すタイムチャート。
図8】第1実施形態にかかる電流が小さい場合の電流フィードバック制御を示すタイムチャート。
図9】第1実施形態にかかる電流が大きい場合の電流フィードバック制御を示すタイムチャート。
図10】第2実施形態にかかる磁束フィードバック制御の概要を示すブロック図。
図11】第3実施形態にかかる電気角速度と干渉電圧の各成分との関係を示す図。
図12】干渉電圧算出処理を示すフローチャート。
図13】その他の実施形態にかかる単節巻SRMの通電態様を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(第1実施形態)
以下、本発明にかかる制御装置を、車載主機としての全節巻スイッチトリラクタンスモータに適用した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0012】
図1に示すように、直流電源としてのバッテリ10は、端子間電圧が例えば数百Vとなる2次電池である。なお、バッテリ10としては、例えば、リチウムイオン2次電池やニッケル水素2次電池を用いることができる。
【0013】
バッテリ10には、平滑コンデンサ12を介して電力変換回路20(「電圧印加手段」に相当)が接続されている。電力変換回路20には、車載主機としてのモータジェネレータが接続されている。本実施形態では、モータジェネレータとして、A相巻線22A、B相巻線22B、及びC相巻線22Cを備える3相の全節巻スイッチトリラクタンスモータを用いている。なお、以降、スイッチトリラクタンスモータを単にSRMと称すこととする。
【0014】
電力変換回路20のA相は、A相上アームスイッチSAp及びA相下アームダイオードDAnの直列接続体と、A相上アームダイオードDAp及びA相下アームスイッチSAnの直列接続体とを備えている。電力変換回路20のB相は、B相上アームスイッチSBp及びB相下アームダイオードDBnの直列接続体と、B相上アームダイオードDBp及びB相下アームスイッチSBnの直列接続体とを備えている。電力変換回路20のC相は、C相上アームスイッチSCp及びC相下アームダイオードDCnの直列接続体と、C相上アームダイオードDCp及びC相下アームスイッチSCnの直列接続体とを備えている。本実施形態では、A〜C相上アームスイッチSAp,SBp,SCp及びA〜C相下アームスイッチSAn,SBn,SCnとして、IGBTを用いている。
【0015】
ここで、A相の接続態様について詳述する。A相上アームスイッチSAp及びA相下アームダイオードDAnの接続点と、A相上アームダイオードDAp及びA相下アームスイッチSAnの接続点とは、A相巻線22Aを介して接続されている。A相上アームスイッチSApのエミッタ及びA相下アームダイオードDAnのカソード同士は接続され、A相上アームスイッチSApのコレクタは、バッテリ10の正極端子に接続されている。また、A相下アームダイオードDAnのアノードは、バッテリ10の負極端子に接続されている。一方、A相上アームダイオードDApのアノード及びA相下アームスイッチSAnのコレクタ同士は接続され、A相上アームダイオードDApのカソードは、バッテリ10の正極端子に接続されている。また、A相下アームスイッチSAnのエミッタは、バッテリ10の負極端子に接続されている。
【0016】
なお、B相及びC相の接続態様は、A相と同様である。このため、本実施形態では、B相及びC相についての接続態様の詳細な説明を省略する。
【0017】
制御装置30は、図示しない中央演算装置(CPU)及び記憶手段(メモリ)を備え、メモリに記憶された各種プログラムを中央演算装置によって実行することで、SRMの制御量であるトルクを、その指令値であるトルク指令値T*に制御する。制御装置30には、SRMの回転子26の電気角を検出する回転角センサ40の検出値が入力される。電気角は、0°以上360°未満の範囲で変化する値である。制御装置30には、また、A相巻線22Aに流れる電流(以下、A相電流)を検出するA相電流センサ42Aや、B相巻線22Bに流れる電流(以下、B相電流)を検出するB相電流センサ42B、及びC相巻線22Cに流れる電流(以下、C相電流)を検出するC相電流センサ42Cの検出値が入力される。なお本実施形態において、A,B,C相電流センサ42A,42B,42Cが「電流検出手段」に相当する。
【0018】
制御装置30は、これら各種センサの検出値に基づいて、SRMのトルクをトルク指令値T*に制御すべく、電力変換回路20を構成する各スイッチSAp、SAn、SBp、SBn、SCp、SCnに対して、オン状態とオフ状態との切り替えを指示する操作信号gAp,gAn、gBp、gBn、gCp、gCnを出力することで、各スイッチSAp、SAn、SBp、SBn、SCp、SCnを操作する。
【0019】
詳しくは、制御装置30は、速度算出部31及び操作信号生成部32を備えている。速度算出部31は、回転角センサ40によって検出された電気角θを時間微分することにより、電気角速度ωを算出する。操作信号生成部32は、トルク指令値T*、電気角θ、電気角速度ω、及び各相電流Ia,Ib,Icに基づいて、各スイッチSAp、SAn、SBp、SBn、SCp、SCnを操作するための操作信号gAp,gAn、gBp、gBn、gCp、gCnを生成する。なお本実施形態において、操作信号生成部32が「操作手段」を含む。
【0020】
ちなみに、トルク指令値T*は、例えば、制御装置30よりも上位の制御装置(例えば、車両の走行制御を統括する制御装置)から制御装置30に入力される。また、SRMの各相は独立しており、さらに、制御装置30における各相に関する処理のそれぞれは、基本的には同一の処理となる。
【0021】
図2に全節巻SRMの概略を示す。全節巻SRMは、円筒形状の固定子24と、円柱形状の回転子26とを備えている。本実施形態において、固定子24の内面には、6つの突極25、すなわち、相数の2倍の突極25が、周方向に等間隔に設けられている。一方、回転子26の外側には、4つの突極27が、周方向に等間隔に設けられている。本実施形態において、A相巻線22A、B相巻線22B及びC相巻線22Cのそれぞれは、固定子24の突極25間に設けられた、回転方向に機械角で180°対向する一対のスロットに集中巻される。巻線は、一方のスロットと他方のスロットでは、通電方向が逆方向となるように巻かれている。加えて、周方向に隣接するスロットでは、通電方向が逆方向となるように巻かれている。
【0022】
図3に、全節巻SRMの各相巻線22A,22B,22Cに対する通電態様を示す。詳しくは、図3(a)は電気角θの推移を示し、図3(b)〜(d)はA,B,C相電流Ia,Ib,Icの推移を示す。
【0023】
図示されるように、全節巻SRMでは、A相巻線22A、B相巻線22B及びC相巻線22Cのそれぞれに、互いに位相が120°ずつずれ、かつ、少なくとも2つの巻線の通電期間の一部が重複するように、A相巻線22A、B相巻線22B、C相巻線22Cの順に電圧が印加される。
【0024】
ところで、各相巻線22A,22B,22Cのうち、いずれかの巻線への通電に伴って生じる磁束は、残余の巻線にも鎖交する。例えば、B相巻線22Bに正の電圧を印加することにより通電すれば、その通電に伴って生じる磁束は、通電順序が前後するA相巻線22A及びC相巻線22Cにも鎖交し、A,C相巻線22A,22Bに誘導起電力(干渉電圧)が生じることとなる。このため、各相巻線22A,22B,22Cのうち、少なくとも2つの巻線に通電される期間においては、干渉電圧によってSRMの電流制御性が低下する懸念がある。特に、全節巻SRMでは、A,B,C相巻線22A,22B,22Cの全てに通電される期間があるため、電流制御性の低下が顕著となる懸念がある。
【0025】
そこで本実施形態では、干渉電圧が電流制御性に及ぼす影響を抑制するような電流フィードバック制御を行う。以下、制御系の設計手法について説明した後、操作信号生成部32の行う電流フィードバック制御について説明する。
【0026】
まず、制御系の設計手法について説明する。
【0027】
3相SRMの電圧方程式は、下式(eq1)で表される。
【0028】
【数1】
上式(eq1)において、Va,Vb,VcはA,B,C相巻線22A,22B,22Cの印加電圧を示し、A,B,C相巻線22A,22B,22Cの巻線抵抗を示し、Ia,Ib,IcはA,B,C相電流を示し、λa,λb,λcはA,B,C相巻線22A,22B,22Cの鎖交磁束を示す。ここで本実施形態では、A,B,C相鎖交磁束λa,λb,λcを下式(eq2)で表す。
【0029】
【数2】
上式(eq2)において、La,Lb,LcはA,B,C相巻線22A,22B,22Cの自己インダクタンスを示し、Mij(i,j=A,B,Cであり、i≠j)は、j相巻線22jに対するi相巻線22iの相互インダクタンスを示す。ここで本実施形態では、各インダクタンスLa,Lb,Lc,Mab,Mac,Mba,Mbc,Mca,Mcbの全てが、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとの関数として表されるとする。この場合、各鎖交磁束λa,λb,λcの時間微分値は下式(eq3)で表される。
【0030】
【数3】
上式(eq3)に上式(eq2)を代入すると、下式(eq4)が導かれる。
【0031】
【数4】
上式(eq4)のA相について、下式(eq5)のように記号を置き換える。
【0032】
【数5】
上式(eq4)のB相について、下式(eq6)のように記号を置き換える。
【0033】
【数6】
上式(eq4)のC相について、下式(eq7)のように記号を置き換える。
【0034】
【数7】
上式(eq2)を上式(eq1)に代入し、各相電流Ia,Ib,Icについて解くと、下式(eq8)〜(eq10)が導かれる。
【0035】
【数8】
【0036】
【数9】
【0037】
【数10】
上式(eq8)を下式(eq11)のように変形する。
【0038】
【数11】
上式(eq11)において、VINAはA相巻線22Aに印加される干渉電圧を示す。
【0039】
上式(eq9)を下式(eq12)のように変形する。
【0040】
【数12】
上式(eq12)において、VINBはB相巻線22Bに印加される干渉電圧を示す。
【0041】
上式(eq10)を下式(eq13)のように変形する。
【0042】
【数13】
上式(eq13)において、VINCはC相巻線22Cに印加される干渉電圧を示す。上式(eq11)〜(eq13)から、図4に示すSRMのモデルが定まる。このモータモデルは、巻線の印加電圧を入力とし、制御量である電流を出力とするモデルである。モデルでは、A,B,C相巻線22A,22B,22Cに印加されるA,B,C相干渉電圧VINA,VINB,VINCが示されている。本実施形態では、各干渉電圧VINA,VINB,VINCの影響を除去する非干渉制御を行う。
【0043】
続いて、図4を用いて、操作信号生成部32が行う電流フィードバック制御について説明する。
【0044】
指令電流生成器33は、トルク指令値T*と、回転角センサ40によって検出された電気角θとに基づいて、A,B,C相巻線22A,22B,22Cに流れる電流指令値であるA,B,C相指令電流Ia*,Ib*,Ic*を算出する。
【0045】
A,B,C相電流偏差算出部34A,34B,34Cは、A,B,C相指令電流Ia*,Ib*,Ic*と、A,B,C相電流センサ42A,42B,42Cによって検出されたA,B,C相電流Ia,Ib,Icとの電流偏差ΔIa,ΔIb,ΔIcを算出する。詳しくは、A,B,C相指令電流Ia*,Ib*,Ic*からA,B,C相電流Ia,Ib,Icを減算することにより、A,B,C相電流偏差ΔIa,ΔIb,ΔIcを算出する。
【0046】
A,B,C相電流制御器35A,35B,35Cは、A,B,C相電流偏差ΔIa,ΔIb,ΔIcを入力として、A,B,C相電流Ia,Ib,IcをA,B,C相指令電流Ia*,Ib*,Ic*にフィードバック制御するための操作量として、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1を算出する。本実施形態では、A,B,C相電流偏差ΔIa,ΔIb,ΔIcに基づく比例積分制御により、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1を算出する。
【0047】
特に本実施形態では、A相基本電圧Va1を算出するための比例ゲインKpa,積分ゲインKiaを、下式(eq14)によって算出する。
【0048】
【数14】
上式(eq14)において、ωccは、制御帯域幅を定める交差角周波数[rad/s]を示す。ここで本実施形態では、比例ゲインKpaのA0を、以下に説明する手法によって算出する。本実施形態では、各相鎖交磁束λa,λb,λcが、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとを独立変数として数式化され、制御装置30の備えるメモリに予め記憶されている。数式化された磁束は、例えば、実験又は磁界解析により得られるものである。このため、検出されたA,B,C相電流Ia,Ib,Ic,電気角θで各相鎖交磁束λa,λb,λcを偏微分することにより、上式(eq5)〜(eq7)に示した各偏微分値を算出することができる。そして、算出した各偏微分値に基づいて、上式(eq8)に示したDa,Aaを算出し、算出したDa,Aaに基づいて、上式(eq11)に示したA0を算出する。鎖交磁束λa,λb,λcを数式化して記憶させる構成によれば、例えば、メモリに記憶されるゲイン算出用の情報量を低減しつつ、偏微分演算により各偏微分値を簡易に算出することができる。
【0049】
B相基本電圧Vb1を算出するための比例ゲインKpb,積分ゲインKibを、下式(eq15)によって算出する。
【0050】
【数15】
ここで比例ゲインKpbのB0は、上記A0の算出手法と同様な手法によって算出すればよい。詳しくは、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて、上式(eq5)〜(eq7)に示した各偏微分値を算出し、算出した各偏微分値に基づいて、上式(eq9)に示したDb,Bbを算出する。そして、算出したDb,Bbに基づいて、上式(eq12)に示したB0を算出する。
【0051】
C相基本電圧Vc1を算出するための比例ゲインKpc,積分ゲインKicを、下式(eq16)によって算出する。
【0052】
【数16】
ここで比例ゲインKpcのC0は、上記A0の算出手法と同様な手法によって算出すればよい。詳しくは、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて、上式(eq5)〜(eq7)に示した各偏微分値を算出し、算出した各偏微分値に基づいて、上式(eq10)に示したDc,Ccを算出する。そして、算出したDc,Ccに基づいて、上式(eq13)に示したC0を算出する。
【0053】
ここで本実施形態において、各比例ゲインKpa,Kpb,Kpc及び各積分ゲインKia,Kib,Kicは、極零相殺によって設定した。以下、図5を用いて、A相を例にして説明する。図5には、A相干渉電圧VINAが非干渉制御によって完全に除去されている場合のブロック図を示す。
【0054】
図5(a)に示すSRMモデルの伝達関数の分母の極と、A相電流制御器35Aの伝達関数の分子の零点とを相殺する各ゲインKpa,Kiaを算出すると、上式(eq14)に示したゲインが導かれる。本実施形態において、SRMモデルの極は安定である。上式(eq14)の各ゲインKpa、KiaをA相電流制御器35Aの伝達関数に代入し、A相電流制御器35Aの伝達関数とSRMモデルの伝達関数とをまとめると、図5(b)に示すブロック図が導かれる。図5(b)に示す伝達関数Fは、積分形であるため、定常偏差を0とすることができる。なお、図5(b)に示すブロック図において、A相指令電流ia*を入力とし、A相電流iaを出力とする閉ループ伝達関数は、1次遅れ系となる。
【0055】
ちなみに本実施形態において、各電流制御器35A〜35Cが「指令電圧算出手段」及び「ゲイン算出手段」に相当する。
【0056】
先の図4の説明に戻り、A,B,C相干渉電圧算出部36A,36B,36C(「干渉電圧算出手段」に相当)は、各相電流Ia,Ib,Ic、電気角θ及び電気角速度ωを入力として、上式(eq11)〜(eq13)に示した各相干渉電圧の数式に基づいて、A,B,C相干渉電圧VINA,VINB,VINCを算出する。詳しくは、A相を例に説明すると、まず、A,B,C相電流Ia,Ib,Ic,電気角θで、数式化された各相鎖交磁束λa,λb,λcを偏微分することにより、上式(eq5)〜(eq7)に示した各偏微分値を算出することができる。そして、算出した各偏微分値に基づいて、上式(eq8)に示したAa,Ab,Ac,Awを算出する。そして、算出したAa,Ab,Ac,Aw、B,C相電流Ib,Ic、電気角速度ω、及びB,C相電圧Vb,Vcに基づいて、上式(eq11)に示したA相干渉電圧VINAを算出する。ここで、B,C相電圧Vb,Vcとしては、例えば、前回の処理周期で算出されたB,C相指令電圧Va*,Vb*,Vc*を用いればよい。鎖交磁束λa,λb,λcを数式化して記憶させる構成によれば、例えば、メモリに記憶される干渉電圧算出用の情報量を低減しつつ、偏微分演算により各偏微分値を簡易に算出することができる。
【0057】
A,B,C相非干渉化部37A,37B,37C(「電圧補償手段」に相当)は、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1から、A,B,C相干渉電圧VINA,VINB,VINCを減算して出力する。各出力値が、A,B,C相指令電圧Va*,Vb*,Vc*となる。操作信号生成部32は、A,B,C相巻線22A,22B,22Cに指令電圧Va*,Vb*,Vc*を印加すべく、各スイッチSAp、SAn、SBp、SBn、SCp、SCnの操作信号gAp,gAn、gBp、gBn、gCp、gCnを生成する。ここでは、例えば、上,下アームスイッチの双方をオンする正電圧モード、双方をオフする負電圧印加モード、及び上,下アームいずれかのスイッチをオンするゼロ電圧モードの組み合わせにより、指令電圧を印加すればよい。
【0058】
なお、本実施形態では、メモリに記憶される磁束情報を、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとを独立変数として数式化された各相鎖交磁束λa,λb,λcとしたがこれに限らない。例えば、上式(eq5)〜(eq7)に示した各偏微分値LAt,MABt,MACt,dλat,…,LCt,dλctを、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θと関係付けた情報を磁束情報としてもよい。そして、記憶させた各偏微分値に基づいて、干渉電圧やフィードバックゲイン(例えば上記比例ゲイン)を算出してもよい。
【0059】
続いて、図6図9を用いて、関連技術と対比しつつ本実施形態の効果について説明する。ここで関連技術とは、各自己インダクタンスLa,Lb,Lc及び各相互インダクタンスMijの電流依存性を下式(eq17)に示すようにして干渉電圧及び各比例ゲインを算出する技術のことである。
【0060】
【数17】
図6及び図7に、関連技術にかかる各相電流Ia,Ib,Ic及び各相指令電流Ia*,Ib*,Ic*の推移を示す。ここで図5における各指令電流(例えば100A)は、図6における各指令電流(例えば150A)よりも小さく設定されている。
【0061】
図6に示すように、少なくとも2つの巻線に電流が流れる期間においては、相互磁気干渉の影響により、電流制御性及び制御安定性が低下する。ここで図7に示すように、指令電流がさらに大きくなる場合、相互磁気干渉の影響が大きくなり、電流制御が破綻する。
【0062】
続いて図8及び図9に、本実施形態にかかる各相電流Ia,Ib,Ic及び各相指令電流Ia*,Ib*,Ic*の推移を示す。ここで図8における各指令電流(例えば100A)は、図9における各指令電流(例えば150A)よりも小さく設定されている。
【0063】
本実施形態では、上式(eq17)とは異なり、各インダクタンスLa,Lb,Lc,Mab,Mac,Mba,Mbc,Mca,Mcbの全てを、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとの関数として表し、各干渉電圧VINA,VINB,VINC及び各比例ゲインKpa,Kpb,Kpcを算出した。このため、図9に示すように、指令電流が大きくなる場合であっても、電流制御を破綻させることなく、各相電流を指令電流に追従させることができる。
【0064】
ちなみに、電気角速度ωが高い領域においては、各相の干渉電圧が高くなるため、干渉電圧が電流制御に及ぼす影響が大きくなる。この場合であっても、本実施形態によれば、干渉電圧が電流制御に及ぼす影響を抑制することができる。
【0065】
以上説明したように、本実施形態では、A,B,C相巻線22A,22B,22Cのそれぞれについて、A,B,C相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて、全ての相電流に依存するA,B,C相干渉電圧VINA,VINB,VINCを算出した。そして、A,B,C相電流制御器35A,35B,35Cによって算出されたA,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1をA,B,C相干渉電圧VINA,VINB,VINCで補償した電圧を、A,B,C相巻線22A,22B,22Cに印加した。
【0066】
また、A,B,C相電流制御器35A,35B,35Cにおいて用いる比例ゲインKpa,Kpb,Kpcを、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとに基づいて算出した。
【0067】
これにより、A,B,C相電流Ia,Ib,IcがA,B,C相指令電流Ia*,Ib*,Ic*から大きく乖離することを回避できる。したがって、SRMの電流制御性と制御安定性とを向上させることができる。
【0068】
(第2実施形態)
以下、第2実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、電流フィードバック制御に代えて、SRMの制御量を鎖交磁束とする磁束フィードバック制御を行う。
【0069】
まず、制御系の設計手法について説明する。
【0070】
上式(eq2)を下式(eq18)のように表す。
【0071】
【数18】
上式(eq18)をA,B,C相電流Ia,Ib,Icについて解くと、下式(eq19)が導かれる。
【0072】
【数19】
上式(eq19)を上式(eq1)に代入し、各鎖交磁束について解くと、下式(eq20)〜(eq22)が導かれる。なお、以降、det[A]=Detとする。
【0073】
【数20】
【0074】
【数21】
【0075】
【数22】
上式(eq20)〜(eq22)において、ViA,ViB,ViCは、本実施形態にかかるA,B,C相干渉電圧を示す。上式(eq20)〜(eq22)から、図10に示すSRMのモデルが定まる。このモータモデルは、巻線の印加電圧を入力とし、制御量である磁束を出力とするモデルである。
【0076】
続いて、図10を用いて、操作信号生成部32が行う磁束フィードバック制御について説明する。
【0077】
指令電流生成器50は、トルク指令値T*と、電気角θとに基づいて、A,B,C相巻線22A,22B,22Cの鎖交磁束の指令値であるA,B,C相指令磁束λa*,λb*,λc*を算出する。
【0078】
A,B,C相磁束偏差算出部51A,51B,51Cは、A,B,C相指令磁束λa*,λb*,λc*と、A,B,C相巻線22A,22B,22Cの現在の鎖交磁束であるA,B,C相鎖交磁束λa,λb,λcとの磁束偏差Δλa,Δλb,Δλcを算出する。ここで、A,B,C相鎖交磁束λa,λb,λcは、A,B,C相電流Ia,Ib,Icと電気角θとに基づいて、数式化されている鎖交磁束から算出すればよい。
【0079】
A,B,C相磁束制御器52A,52B,52Cは、A,B,C相磁束偏差Δλa,Δλb,Δλcを入力として、A,B,C相鎖交磁束λa,λb,λcをA,B,C相指令磁束λa*,λb*,λc*にフィードバック制御するための操作量として、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1を算出する。本実施形態では、A,B,C相電流偏差ΔIa,ΔIb,ΔIcに基づく比例積分制御により、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1を算出する。
【0080】
特に本実施形態では、A相基本電圧Va1を算出するための比例ゲインKpad,積分ゲインKiadを下式(eq23)によって算出する。
【0081】
【数23】
ここで積分ゲインKiadのAd0は、以下に説明する手法によって算出すればよい。詳しくは、本実施形態では、各自己インダクタンスLa,Lb,Lcと、各相互インダクタンスMab,Mac,Mba,Mbc,Mca,Mcbとが、A,B,C相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θと関係付けられてメモリに予め記憶されている。このため、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて、上式(eq20)に示したAd0を算出すればよい。
【0082】
B相基本電圧Vb1を算出するための比例ゲインKpbd,積分ゲインKibdを下式(eq24)によって算出する。
【0083】
【数24】
ここで積分ゲインKibdのBd0は、上式(eq21)に示すように、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて算出すればよい。
【0084】
C相基本電圧Vc1を算出するための比例ゲインKpcd,積分ゲインKicdを下式(eq25)によって算出する。
【0085】
【数25】
ここで積分ゲインKicdのBd0は、上式(eq22)に示すように、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θに基づいて算出すればよい。なお、各比例ゲインKpad,Kpbd,Kpcd及び各積分ゲインKiad,Kibd,Kicdは、上記第1実施形態と同様に、極零相殺によって定めたものである。
【0086】
A,B,C相干渉電圧算出部53A,53B,53Cは、各相電流Ia,Ib,Ic及び電気角θを入力として、上式(eq20)〜(eq22)に示したA,B,C相干渉電圧ViA,ViB,ViCを算出する。
【0087】
A,B,C相非干渉化部54A,54B,54Cは、A,B,C相基本電圧Va1,Vb1,Vc1から、A,B,C相干渉電圧ViA,ViB,ViCを減算して出力する。各出力値が、A,B,C相指令電圧Va*,Vb*,Vc*となる。操作信号生成部32は、A,B,C相巻線22A,22B,22Cに指令電圧Va*,Vb*,Vc*を印加すべく、各スイッチSAp、SAn、SBp、SBn、SCp、SCnの操作信号gAp,gAn、gBp、gBn、gCp、gCnを生成する。
【0088】
以上説明した本実施形態によれば、上記第1実施形態の効果と同様の効果を得ることができる。
【0089】
(第3実施形態)
以下、第3実施形態について、上記第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、電気角速度ωが高い領域において、干渉電圧の算出手法を変更する。以下、A相を例にして説明する。
【0090】
上式(eq11)に示した干渉電圧は、下式(eq26)のように変形できる。
【0091】
【数26】
上式(eq26)の右辺において、第1項は巻線抵抗Rに比例する抵抗項RFを示し、第2項は電気角速度ωに比例する速度項ωFを示し、第3項は巻線印加電圧に比例する電圧項を示す。ここで図11に、電気角速度ωが高い場合(5000rpmを例示)と低い場合(100rpmを例示)との電気角1周期における抵抗項RFと速度項ωFとを示す。なお、図11において、電気角速度が高い場合の抵抗項RF,速度項ωFのグラフの縦軸1メモリのスケールは、電気角速度が低い場合の抵抗項RF,速度項ωFのグラフの縦軸1メモリのスケールよりも大きい。
【0092】
図示されるように、電気角速度が低い場合、抵抗項RFと速度項ωFとが同程度の値となる。これに対し、電気角速度が高い場合、抵抗項RFが速度項ωFに対して十分小さくなる。このことは、電気角速度が高い場合、抵抗項RFが電流制御性に及ぼす影響が小さいことを意味する。このため、電気角速度が高い場合には、抵抗項RFを無視することができる。
【0093】
図12に、本実施形態にかかる干渉電圧の算出処理の手順を示す。この処理は、各干渉電圧算出部36A〜36Cにより、例えば所定の処理周期で繰り返し実行される。なお、図12では、A相を例に説明するが、この処理は、B,C相についても同様である。
【0094】
この一連の処理では、まずステップS10において、電気角速度ωが閾値速度ωthを超えているか否かを判断する。この処理は、抵抗項RFが無視できるか否かを判断するための処理である。
【0095】
ステップS10において否定判断した場合には、ステップS11に進み、抵抗項RF、速度項ωF及び電圧項VFの加算値として、干渉電圧VINAを算出する。
【0096】
一方、ステップS10において肯定判断した場合には、抵抗項RFを無視できると判断し、ステップS12に進む。ステップS12では、抵抗項RFを算出することなく、速度項ωF及び電圧項VFの加算値として、干渉電圧VINAを算出する。
【0097】
このように本実施形態では、電気角速度ωが閾値速度ωthよりも高くなる場合、抵抗項RFを算出することなく、干渉電圧VINA,VINB,VINCを算出した。これにより、制御装置30の演算負荷を低減することができる。
【0098】
(その他の実施形態)
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0099】
・上記第1実施形態では、干渉電圧及びフィードバックゲインの算出に、前回の処理周期の指令電圧Va*,Vb*,Vc*を用いたがこれに限らない。例えば、各相巻線22A,22B,22Cのそれぞれの印加電圧を検出する電圧検出手段を制御システムに備え、指令電圧に代えて、電圧検出手段の検出値を用いてもよい。
【0100】
・上記各実施形態において、比例積分制御によって基本電圧を算出する構成に代えて、例えば、比例積分微分制御によって基本電圧を算出する構成を採用してもよい。
【0101】
・上記各実施形態において、制御装置30が3相の全節巻SRMの制御を行うものとしたが、3相以外の全節巻SRMの制御を行うものとしてもよい。この場合、全節巻SRMがN相であれば、各相の指令電流を「360°/X」ずれたものとすればよい。
【0102】
また、SRMとしては、全節巻集中巻きのものに限らず、単節集中巻のものであってもよい。この場合、図13に示すように各相巻線に通電すればよい。この構成であっても、2つの巻線に通電される期間が存在するため、本発明の適用が有効である。
【0103】
・SRMの制御量として、トルクに代えて、例えばロータの回転速度を用いてもよい。
【0104】
・本発明の適用対象としては、車載主機としてのモータに限らず、例えば車載補機としてのモータであってもよい。また、本発明の適用対象としては、車載モータに限らない。
【符号の説明】
【0105】
22A,22B,22C…A,B,C相巻線、20…電力変換回路、30…制御装置。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13