特許第6428343号(P6428343)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6428343電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6428343
(24)【登録日】2018年11月9日
(45)【発行日】2018年11月28日
(54)【発明の名称】電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
   G03G 5/06 20060101AFI20181119BHJP
【FI】
   G03G5/06 314B
【請求項の数】4
【全頁数】39
(21)【出願番号】特願2015-26759(P2015-26759)
(22)【出願日】2015年2月13日
(65)【公開番号】特開2016-148817(P2016-148817A)
(43)【公開日】2016年8月18日
【審査請求日】2018年1月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005496
【氏名又は名称】富士ゼロックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】特許業務法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩崎 真宏
【審査官】 小川 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−178367(JP,A)
【文献】 特開平09−265198(JP,A)
【文献】 特開平07−056369(JP,A)
【文献】 特開2013−231867(JP,A)
【文献】 特開2014−189500(JP,A)
【文献】 特開2004−038184(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0164106(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられた単層型の感光層であって、結着樹脂と、電荷発生材料と、正孔輸送材料と、下記一般式(1)で表される第1の電子輸送材料および下記一般式(2)で表される第2の電子輸送材料と、を含有する感光層と、
を有する電子写真感光体。
【化1】

(一般式(1)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R18は、アルキル基、−L111−O−R112、アリール基、又はアラルキル基を示す。ただし、L111はアルキレン基を示し、R112はアルキル基を示す。)
【化2】

(一般式(2)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R28は、炭素数4以上20以下のアルキレン基、又は−(L221−O−L221−を示す。ただし、L221は炭素数1以上4以下のアルキレン基を示し、nは1以上10以下の整数を示す。)
【請求項2】
前記第1の電子輸送材料と、前記第2の電子輸送材料との前記感光層中の含有比率(第1の電子輸送材料/第2の電子輸送材料)が、質量比で、1/10以上10/1以下である請求項1に記載の電子写真感光体。
【請求項3】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジ。
【請求項4】
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子写真感光体、プロセスカートリッジ、及び画像形成装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、導電性基体上に、特定の一般式で表されるジフェノキノン系化合物を含有する感光層を有する電子写真感光体が開示されている。
【0003】
特許文献2には、特定の一般式で表されるナフタレンジカルボン酸イミド化合物、特許文献3には、特定の一般式で表されるナフタレンテトラカルボン酸ジイミド化合物が開示されている。
【0004】
特許文献4には、導電性基体上に少なくとも感光層を設けてなる電子写真感光体において、感光層が特定の一般式で表されるフルオレン化合物を含有する電子写真感光体が開示されている。
【0005】
特許文献5には、支持基体と支持基体上の単層とを含む光導電性撮像部材であって、前記単層が、光発生成分、電荷輸送成分、電子輸送成分、及びバインダーの混合物を含み、前記電子輸送成分が、特定の一般式で表される(4−カルボニル−9−フルオレニリデン)マロノニトリルの2−エチルヘキサノール誘導体を含む光導電性撮像部材が開示されている。
【0006】
特許文献6には、導電性基体上に、直接あるいは下引層を介して、少なくとも樹脂バインダーと電荷発生物質と正孔輸送物質と電子輸送物質とを含有する単層型感光層を有する電子写真用感光体において、感光層中に、ビフェニル誘導体を含有する電子写真用感光体が開示されている。
【0007】
特許文献7には、導電性基体上に感光層を形成し、前記感光層が電荷発生剤として、フタロシアニン系化合物、特定の一般式で示される電子輸送剤を少なくとも1種、及び、特定の一般式で示されるターフェニル化合物を含有する正帯電単層型電子写真感光体が開示されている。
【0008】
特許文献8には、導電性基体上に少なくとも感光層を設けてなる電子写真感光体において、該感光層が特定の一般式で表されるフルオレン化合物を含有する電子写真感光体が開示されている。
【0009】
特許文献9には、導電性基体上に、特定の一般式で表されるナフトキノン誘導体を含有する感光層を設けた電子写真感光体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平4−285670号公報
【特許文献2】特開平5−25136号公報
【特許文献3】特開平5−25174号公報
【特許文献4】特開平9−43876号公報
【特許文献5】特開2005−215677号公報
【特許文献6】特開2000−314969号公報
【特許文献7】特開2001−242656号公報
【特許文献8】特開平9−265198号公報
【特許文献9】特開平10−251206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の課題は、単層型の感光層を有する正帯電有機感光体において、感光層中に、電子輸送材料として、一般式(1)で表される電子輸送材料のみを含む場合に比べて、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくい電子写真感光体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題は、以下の手段により解決される。即ち、
請求項1に係る発明は、
導電性基体と、
前記導電性基体上に設けられた単層型の感光層であって、結着樹脂と、電荷発生材料と、正孔輸送材料と、下記一般式(1)で表される第1の電子輸送材料および下記一般式(2)で表される第2の電子輸送材料と、を含有する感光層と、
を有する電子写真感光体である。
【0013】
【化1】
【0014】
(一般式(1)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R18は、アルキル基、−L111−O−R112、アリール基、又はアラルキル基を示す。ただし、L111はアルキレン基を示し、R112はアルキル基を示す。)
【0015】
【化2】
【0016】
(一般式(2)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R28は、炭素数4以上20以下のアルキレン基、又は−(L221−O−L221−を示す。ただし、L221は炭素数1以上4以下のアルキレン基を示し、nは1以上10以下の整数を示す。)
【0017】
請求項2に係る発明は、
前記第1の電子輸送材料と、前記第2の電子輸送材料との前記感光層中の含有比率(第1の電子輸送材料/第2の電子輸送材料)が、質量比で、1/10以上10/1以下である請求項1に記載の電子写真感光体である。
【0018】
請求項3に係る発明は、
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の電子写真感光体を備え、
画像形成装置に着脱するプロセスカートリッジである。
【0019】
請求項4に係る発明は、
請求項1又は請求項2のいずれか1項に記載の電子写真感光体と、
前記電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、
帯電した前記電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、
トナーを含む現像剤により、前記電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、
前記トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、
を備える画像形成装置である。
【発明の効果】
【0020】
請求項1に係る発明によれば、単層型の感光層を有する正帯電有機感光体において、感光層中に、電子輸送材料として、一般式(1)で表される第1の電子輸送材料のみを含む場合に比べて、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくい電子写真感光体が提供される。
【0021】
請求項2に係る発明によれば、感光層中の一般式(1)で表される第1の電子輸送材料と、一般式(2)で表される第2の電子輸送材料との含有比率(第1の電子輸送材料/第2の電子輸送材料)が、質量比で、10/1を超える場合に比べて、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくい電子写真感光体が提供される。
【0022】
請求項3又は請求項4に係る発明によれば、単層型の感光層を有する正帯電有機感光体において、感光層中に、電子輸送材料として、一般式(1)で表される電子輸送材料のみを含む場合に比べて、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくい電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジ又は画像形成装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本実施形態に係る電子写真感光体を示す概略部分断面図である。
図2】本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
図3】他の本実施形態に係る画像形成装置を示す概略構成図である。
図4】合成例1で得られた例示化合物(2−23)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図5】合成例2で得られた例示化合物(2−7)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図6】合成例3で得られた例示化合物(2−19)の赤外吸収スペクトルを示すグラフである。
図7】実施例1で得られた感光体における感光層のエンタルピー緩和量の変化を表す示差走査熱量測定のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の一例である実施形態について説明する。
【0025】
[電子写真感光体]
本実施形態に係る電子写真感光体(以下、「感光体」と称することがある)は、導電性基体を備え、導電性基体上に単層型の感光層を有する正帯電有機感光体(以下、「単層型感光体」と称することがある)である。
そして、単層型の感光層(以下、単に「感光層」と称することがある)は、結着樹脂と、電荷発生材料と、正孔輸送材料と、上記の一般式(1)で表される第1の電子輸送材料(以下、単に「第1の電子輸送材料」と称することがある)および上記の一般式(2)で表される第2の電子輸送材料(以下、単に「第2の電子輸送材料」と称することがある)と、を含有している。
なお、単層型の感光層とは、電荷発生能と共に、正孔輸送性及び電子輸送性を持つ感光層である。
【0026】
本実施形態では、単層型の感光層に、第1の電子輸送材料および第2の電子輸送材料を含有している。そのため、感光層中に、電子輸送材料として、第1の電子輸送材料のみを含む場合に比べて、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくい感光体が得られる。この理由は定かではないが、以下のように推測される。
【0027】
一般に、フルオレノン誘導体(フルオレノン骨格を有する化合物)は、電子移動度が高く、フタロシアニン化合物などの電荷発生材料から電子を受け取りやすい性質を有している点で、電子輸送材料として優れた材料である。しかしながら、感光層中に、電子輸送材料として、フルオレノン誘導体のみを含有させると、感光層内でモルホロジー変化を起こしやすくなる。具体的には、フルオレノン誘導体は、画像形成を繰り返すうちに、感光層中で熱拡散等が発生することがあり、感光層内で、フルオレノン誘導体が移動してしまうことがある。フルオレノン誘導体が感光層内で移動してしまうと、フルオレノン誘導体の拡散や凝集により、感光層の表面に亀裂が発生する場合や、感光体を作製した直後の電気的特性を維持することが難しくなる場合がある。この熱拡散等によるフルオレノン誘導体の感光層内での移動は、フルオレノン誘導体の分子量が小さいために発生していると考えられる。
【0028】
一方で、例えば、一般式(2)で表される化合物のように、フルオレノン誘導体を単量体として、二量化させた化合物(フルオレノン誘導体(フルオレノン骨格を有する化合物)の二量体)は、分子量が大きくなる。そのため、電子輸送材料として、フルオレノン誘導体の二量体を感光層に単独で含有させると、感光層中での熱拡散の発生は起こり難くなる。しかしながら、フルオレノン誘導体の二量体は、樹脂に対する溶解性が低いものが多いため、フルオレノン誘導体の二量体を単独で使用した場合には、成膜することが難しい場合がある。また、成膜することが可能であったとしても、経時で、フルオレノン誘導体の二量体の結晶が析出する場合があり、感光層内でモルホロジー変化を起こす場合がある。
【0029】
これに対して、本実施形態では、電子輸送材料として、フルオレノン誘導体の単量体である一般式(1)で表される第1の電子輸送材料と、フルオレノン誘導体の二量体である一般式(2)で表される第2の電子輸送材料とを併用することにより、フルオレノン誘導体の単量体の熱拡散による移動が抑制される。この現象は、フルオレノン誘導体の二量体と併用することによって、フルオレノン誘導体の二量体が投錨効果を発揮するために、フルオレノン誘導体の単量体の移動が抑制されると考えられる。また、フルオレノン誘導体の二量体を用いることで、感光層のガラス転移温度が上昇し、感光層の熱的安定性が向上するため、熱拡散の発生が抑制され得ると考えられる。さらに、第1の電子輸送材料と第2の電子輸送材料とを併用することで、電子輸送材料の樹脂に対する溶解性が維持でき、経時での析出の発生が抑制された感光層が形成され得る。
【0030】
以上から、本実施形態の電子写真感光体は、上記の第1の電子輸送材料および第2の電子輸送材料を用いることの相乗効果により、画像形成を繰り返しても、感光層内における電子輸送材料の凝集や拡散が抑制されるため、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくくなると推測される。
【0031】
なお、第1の電子輸送材料と第2の電子輸送材料とを併用した本実施形態の電子写真感光体では、画像形成を繰り返しても、帯電維持性が良好であり、黒点等の画質欠陥の発生が抑制され得る。
【0032】
以下、図面を参照しつつ、本実施形態に係る電子写真感光体を詳細に説明する。
図1は、本実施形態に係る電子写真感光体10の一部の断面を概略的に示している。
図1に示した電子写真感光体10は、例えば、導電性基体3を備え、導電性基体3上に、下引層1及び単層型の感光層2がこの順で設けられて構成されている。
なお、下引層1は、必要に応じて設けられる層である。即ち、単層型の感光層2は、導電性基体3上に直接設けられていてもよく、下引層1を介して設けられてもよい。
また、必要に応じてその他の層を設けてもよい。具体的には、例えば、必要に応じて、単層型の感光層2上に保護層を設けてもよい。
【0033】
(導電性基体)
導電性基体としては、例えば、金属(アルミニウム、銅、亜鉛、クロム、ニッケル、モリブデン、バナジウム、インジウム、金、白金等)又は合金(ステンレス鋼等)を含む金属板、金属ドラム、及び金属ベルト等が挙げられる。また、導電性基体としては、例えば、導電性化合物(例えば導電性ポリマー、酸化インジウム等)、金属(例えばアルミニウム、パラジウム、金等)又は合金を塗布、蒸着又はラミネートした紙、樹脂フィルム、ベルト等も挙げられる。ここで、「導電性」とは体積抵抗率が1013Ωcm未満であることをいう。
【0034】
導電性基体の表面は、電子写真感光体がレーザプリンタに使用される場合、レーザ光を照射する際に生じる干渉縞を抑制する目的で、中心線平均粗さRaで0.04μm以上0.5μm以下に粗面化されていることが好ましい。なお、非干渉光を光源に用いる場合、干渉縞防止の粗面化は、特に必要ないが、導電性基体の表面の凹凸による欠陥の発生を抑制するため、より長寿命化に適する。
【0035】
粗面化の方法としては、例えば、研磨剤を水に懸濁させて導電性基体に吹き付けることによって行う湿式ホーニング、回転する砥石に導電性基体を圧接し、連続的に研削加工を行うセンタレス研削、陽極酸化処理等が挙げられる。
【0036】
粗面化の方法としては、導電性基体の表面を粗面化することなく、導電性又は半導電性粉体を樹脂中に分散させて、導電性基体の表面上に層を形成し、その層中に分散させる粒子により粗面化する方法も挙げられる。
【0037】
陽極酸化による粗面化処理は、金属製(例えばアルミニウム製)の導電性基体を陽極とし電解質溶液中で陽極酸化することにより導電性基体の表面に酸化膜を形成するものである。電解質溶液としては、例えば、硫酸溶液、シュウ酸溶液等が挙げられる。しかし、陽極酸化により形成された多孔質陽極酸化膜は、そのままの状態では化学的に活性であり、汚染され易く、環境による抵抗変動も大きい。そこで、多孔質陽極酸化膜に対して、酸化膜の微細孔を加圧水蒸気又は沸騰水中(ニッケル等の金属塩を加えてもよい)で水和反応による体積膨張でふさぎ、より安定な水和酸化物に変える封孔処理を行うことが好ましい。
【0038】
陽極酸化膜の膜厚は、例えば、0.3μm以上15μm以下が好ましい。この膜厚が上記範囲内にあると、注入に対するバリア性が発揮される傾向があり、また繰り返し使用による残留電位の上昇が抑えられる傾向にある。
【0039】
導電性基体には、酸性処理液による処理又はベーマイト処理を施してもよい。
酸性処理液による処理は、例えば、以下のようにして実施される。先ず、リン酸、クロム酸及びフッ酸を含む酸性処理液を調製する。酸性処理液におけるリン酸、クロム酸及びフッ酸の配合割合は、例えば、リン酸が10質量%以上11質量%以下の範囲、クロム酸が3質量%以上5質量%以下の範囲、フッ酸が0.5質量%以上2質量%以下の範囲であって、これらの酸全体の濃度は13.5質量%以上18質量%以下の範囲がよい。処理温度は例えば42℃以上48℃以下が好ましい。被膜の膜厚は、0.3μm以上15μm以下が好ましい。
【0040】
ベーマイト処理は、例えば90℃以上100℃以下の純水中に5分から60分間浸漬すること、又は90℃以上120℃以下の加熱水蒸気に5分から60分間接触させて行う。被膜の膜厚は、0.1μm以上5μm以下が好ましい。これをさらにアジピン酸、硼酸、硼酸塩、燐酸塩、フタル酸塩、マレイン酸塩、安息香酸塩、酒石酸塩、クエン酸塩等の被膜溶解性の低い電解質溶液を用いて陽極酸化処理してもよい。
【0041】
(下引層)
下引層は、例えば、無機粒子と結着樹脂とを含む層である。
【0042】
無機粒子としては、例えば、粉体抵抗(体積抵抗率)10Ωcm以上1011Ωcm以下の無機粒子が挙げられる。
これらの中でも、上記抵抗値を有する無機粒子としては、例えば、酸化錫粒子、酸化チタン粒子、酸化亜鉛粒子、酸化ジルコニウム粒子等の金属酸化物粒子がよく、特に、酸化亜鉛粒子が好ましい。
【0043】
無機粒子のBET法による比表面積は、例えば、10m/g以上がよい。
無機粒子の体積平均粒径は、例えば、50nm以上2000nm以下(好ましくは60nm以上1000nm以下)がよい。
【0044】
無機粒子の含有量は、例えば、結着樹脂に対して、10質量%以上80質量%以下であることが好ましく、より好ましくは40質量%以上80質量%以下である。
【0045】
無機粒子は、表面処理が施されていてもよい。無機粒子は、表面処理の異なるもの、又は、粒子径の異なるものを2種以上混合して用いてもよい。
【0046】
表面処理剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、界面活性剤等が挙げられる。特に、シランカップリング剤が好ましく、アミノ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
【0047】
アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
シランカップリング剤は、2種以上混合して使用してもよい。例えば、アミノ基を有するシランカップリング剤と他のシランカップリング剤とを併用してもよい。この他のシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0049】
表面処理剤による表面処理方法は、公知の方法であればいかなる方法でもよく、乾式法又は湿式法のいずれでもよい。
【0050】
表面処理剤の処理量は、例えば、無機粒子に対して0.5質量%以上10質量%以下が好ましい。
【0051】
ここで、下引層は、無機粒子と共に電子受容性化合物(アクセプター化合物)を含有することが、電気特性の長期安定性、キャリアブロック性が高まる観点からよい。
【0052】
電子受容性化合物としては、例えば、クロラニル、ブロモアニル等のキノン系化合物;テトラシアノキノジメタン系化合物;2,4,7−トリニトロフルオレノン、2,4,5,7−テトラニトロ−9−フルオレノン等のフルオレノン化合物;2−(4−ビフェニル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ビス(4−ジエチルアミノフェニル)−1,3,4オキサジアゾール等のオキサジアゾール系化合物;キサントン系化合物;チオフェン化合物;3,3’,5,5’テトラ−t−ブチルジフェノキノン等のジフェノキノン化合物;等の電子輸送性物質等が挙げられる。
特に、電子受容性化合物としては、アントラキノン構造を有する化合物が好ましい。アントラキノン構造を有する化合物としては、例えば、ヒドロキシアントラキノン化合物、アミノアントラキノン化合物、アミノヒドロキシアントラキノン化合物等が好ましく、具体的には、例えば、アントラキノン、アリザリン、キニザリン、アントラルフィン、プルプリン等が好ましい。
【0053】
電子受容性化合物は、下引層中に無機粒子と共に分散して含まれていてもよいし、無機粒子の表面に付着した状態で含まれていてもよい。
【0054】
電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着させる方法としては、例えば、乾式法、又は、湿式法が挙げられる。
【0055】
乾式法は、例えば、無機粒子をせん断力の大きなミキサ等で攪拌しながら、直接又は有機溶媒に溶解させた電子受容性化合物を滴下、乾燥空気や窒素ガスとともに噴霧させて、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。電子受容性化合物の滴下又は噴霧するときは、溶剤の沸点以下の温度で行うことがよい。電子受容性化合物を滴下又は噴霧した後、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に制限されない。
【0056】
湿式法は、例えば、攪拌、超音波、サンドミル、アトライター、ボールミル等により、無機粒子を溶剤中に分散しつつ、電子受容性化合物を添加し、攪拌又は分散した後、溶剤除去して、電子受容性化合物を無機粒子の表面に付着する方法である。溶剤除去方法は、例えば、ろ過又は蒸留により留去される。溶剤除去後には、更に100℃以上で焼き付けを行ってもよい。焼き付けは電子写真特性が得られる温度、時間であれば特に限定されない。湿式法においては、電子受容性化合物を添加する前に無機粒子の含有水分を除去してもよく、その例として溶剤中で攪拌加熱しながら除去する方法、溶剤と共沸させて除去する方法が挙げられる。
【0057】
なお、電子受容性化合物の付着は、表面処理剤による表面処理を無機粒子に施す前又は後に行ってよく、電子受容性化合物の付着と表面処理剤による表面処理と同時に行ってもよい。
【0058】
電子受容性化合物の含有量は、例えば、無機粒子に対して0.01質量%以上20質量%以下がよく、好ましくは0.01質量%以上10質量%以下である。
【0059】
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の公知の高分子化合物;ジルコニウムキレート化合物;チタニウムキレート化合物;アルミニウムキレート化合物;チタニウムアルコキシド化合物;有機チタニウム化合物;シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。
下引層に用いる結着樹脂としては、例えば、電荷輸送性基を有する電荷輸送性樹脂、導電性樹脂(例えばポリアニリン等)等も挙げられる。
【0060】
これらの中でも、下引層に用いる結着樹脂としては、上層の塗布溶剤に不溶な樹脂が好適であり、特に、尿素樹脂、フェノール樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、アルキド樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂及びポリビニルアセタール樹脂からなる群から選択される少なくとも1種の樹脂と硬化剤との反応により得られる樹脂が好適である。
これら結着樹脂を2種以上組み合わせて使用する場合には、その混合割合は、必要に応じて設定される。
【0061】
下引層には、電気特性向上、環境安定性向上、画質向上のために種々の添加剤を含んでいてもよい。
添加剤としては、多環縮合系、アゾ系等の電子輸送性顔料、ジルコニウムキレート化合物、チタニウムキレート化合物、アルミニウムキレート化合物、チタニウムアルコキシド化合物、有機チタニウム化合物、シランカップリング剤等の公知の材料が挙げられる。シランカップリング剤は前述のように無機粒子の表面処理に用いられるが、添加剤として更に下引層に添加してもよい。
【0062】
添加剤としてのシランカップリング剤としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクリルオキシプロピル−トリス(2−メトキシエトキシ)シラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリアセトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルメトキシシラン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン等が挙げられる。
【0063】
ジルコニウムキレート化合物としては、例えば、ジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセト酢酸エチル、ジルコニウムトリエタノールアミン、アセチルアセトネートジルコニウムブトキシド、アセト酢酸エチルジルコニウムブトキシド、ジルコニウムアセテート、ジルコニウムオキサレート、ジルコニウムラクテート、ジルコニウムホスホネート、オクタン酸ジルコニウム、ナフテン酸ジルコニウム、ラウリン酸ジルコニウム、ステアリン酸ジルコニウム、イソステアリン酸ジルコニウム、メタクリレートジルコニウムブトキシド、ステアレートジルコニウムブトキシド、イソステアレートジルコニウムブトキシド等が挙げられる。
【0064】
チタニウムキレート化合物としては、例えば、テトライソプロピルチタネート、テトラノルマルブチルチタネート、ブチルチタネートダイマー、テトラ(2−エチルヘキシル)チタネート、チタンアセチルアセトネート、ポリチタンアセチルアセトネート、チタンオクチレングリコレート、チタンラクテートアンモニウム塩、チタンラクテート、チタンラクテートエチルエステル、チタントリエタノールアミネート、ポリヒドロキシチタンステアレート等が挙げられる。
【0065】
アルミニウムキレート化合物としては、例えば、アルミニウムイソプロピレート、モノブトキシアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムブチレート、ジエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロピレート、アルミニウムトリス(エチルアセトアセテート)等が挙げられる。
【0066】
これらの添加剤は、単独で、又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
【0067】
下引層は、ビッカース硬度が35以上であることがよい。
下引層の表面粗さ(十点平均粗さ)は、モアレ像抑制のために、使用される露光用レーザ波長λの1/4n(nは上層の屈折率)から1/2λまでに調整されていることがよい。
表面粗さ調整のために下引層中に樹脂粒子等を添加してもよい。樹脂粒子としてはシリコーン樹脂粒子、架橋型ポリメタクリル酸メチル樹脂粒子等が挙げられる。また、表面粗さ調整のために下引層の表面を研磨してもよい。研磨方法としては、バフ研磨、サンドブラスト処理、湿式ホーニング、研削処理等が挙げられる。
【0068】
下引層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた下引層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥し、必要に応じて加熱することで行う。
【0069】
下引層形成用塗布液を調製するための溶剤としては、公知の有機溶剤、例えば、アルコール系溶剤、芳香族炭化水素溶剤、ハロゲン化炭化水素溶剤、ケトン系溶剤、ケトンアルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤等が挙げられる。
これらの溶剤として具体的には、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、iso−プロパノール、n−ブタノール、ベンジルアルコール、メチルセルソルブ、エチルセルソルブ、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ジオキサン、テトラヒドロフラン、メチレンクロライド、クロロホルム、クロロベンゼン、トルエン等の通常の有機溶剤が挙げられる。
【0070】
下引層形成用塗布液を調製するときの無機粒子の分散方法としては、例えば、ロールミル、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、コロイドミル、ペイントシェーカー等の公知の方法が挙げられる。
【0071】
下引層形成用塗布液を導電性基体上に塗布する方法としては、例えば、ブレード塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、浸漬塗布法、ビード塗布法、エアーナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が挙げられる。
【0072】
下引層の膜厚は、例えば、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上50μm以下の範囲内に設定される。
【0073】
(中間層)
図示は省略するが、下引層と感光層との間に中間層をさらに設けてもよい。
中間層は、例えば、樹脂を含む層である。中間層に用いる樹脂としては、例えば、アセタール樹脂(例えばポリビニルブチラール等)、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、カゼイン樹脂、ポリアミド樹脂、セルロース樹脂、ゼラチン、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸樹脂、シリコーン樹脂、シリコーン−アルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、メラミン樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
中間層は、有機金属化合物を含む層であってもよい。中間層に用いる有機金属化合物としては、ジルコニウム、チタニウム、アルミニウム、マンガン、ケイ素等の金属原子を含有する有機金属化合物等が挙げられる。
これらの中間層に用いる化合物は、単独で又は複数の化合物の混合物若しくは重縮合物として用いてもよい。
【0074】
これらの中でも、中間層は、ジルコニウム原子又はケイ素原子を含有する有機金属化合物を含む層であることが好ましい。
【0075】
中間層の形成は、特に制限はなく、周知の形成方法が利用されるが、例えば、上記成分を溶剤に加えた中間層形成用塗布液の塗膜を形成し、当該塗膜を乾燥、必要に応じて加熱することで行う。
中間層を形成する塗布方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等の通常の方法が用いられる。
【0076】
中間層の膜厚は、例えば、好ましくは0.1μm以上3μm以下の範囲に設定される。なお、中間層を下引層として使用してもよい。
【0077】
(単層型の感光層)
本実施形態の単層型の感光層は、結着樹脂と、電荷発生材料と、正孔輸送材料と、第1および第2の電子輸送材料と、を含み、必要に応じてその他添加剤を含んでもよい。
【0078】
−結着樹脂−
結着樹脂としては、特に制限はないが、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、メタクリル樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリ塩化ビニリデン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリビニルアセテート樹脂、スチレン−ブタジエン共重合体、塩化ビニリデン−アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−酢酸ビニル−無水マレイン酸共重合体、シリコーン樹脂、シリコーンアルキッド樹脂、フェノール−ホルムアルデヒド樹脂、スチレン−アルキッド樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール、ポリシラン等が挙げられる。これらの結着樹脂は、単独又は2種以上混合して用いてもよい。
【0079】
これらの結着樹脂の中でも、第1の電子輸送材料および第2の電子輸送材料と結着樹脂の溶解性等の観点から、特に、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂が好ましい。
更に、感光層の成膜性の観点から、結着樹脂として、例えば、粘度平均分子量30000以上80000以下のポリカーボネート樹脂及び粘度平均分子量30000以上80000以下のポリアリレート樹脂がよい。
【0080】
なお、粘度平均分子量の測定は、以下の方法で行われる。具体的には、樹脂1gをメチレンクロライド100cmに溶解し、25℃の測定環境下でウベローデ粘度計により、その比粘度ηspを測定する。そして、ηsp/c=〔η〕+0.45〔η〕cの関係式(ただしcは濃度(g/cm)より極限粘度〔η〕(cm/g)を求める。さらに、H.Schnellによって与えられている式、〔η〕=1.23×10−4Mv0.83の関係式より粘度平均分子量Mvを求める。このように、粘度平均分子量の測定には、例えば一点測定法が用いられる。
【0081】
感光層の全固形分に対する結着樹脂の含有量は、例えば、35質量%以上60質量%以下、望ましくは40質量%以上55質量%以下である。
【0082】
−電荷発生材料−
電荷発生材料としては、ビスアゾ、トリスアゾ等のアゾ顔料;ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料;ペリレン顔料;ピロロピロール顔料;フタロシアニン顔料;酸化亜鉛;三方晶系セレン等が挙げられる。
【0083】
これらの中でも、近赤外域のレーザ露光に対応させるためには、電荷発生材料としては、金属フタロシアニン顔料、又は無金属フタロシアニン顔料を用いることが望ましい。具体的には、例えば、特開平5−263007号公報、特開平5−279591号公報等に開示されたヒドロキシガリウムフタロシアニン;特開平5−98181号公報等に開示されたクロロガリウムフタロシアニン;特開平5−140472号公報、特開平5−140473号公報等に開示されたジクロロスズフタロシアニン;特開平4−189873号公報等に開示されたチタニルフタロシアニンがより望ましい。
【0084】
一方、近紫外域のレーザ露光に対応させるためには、電荷発生材料としては、ジブロモアントアントロン等の縮環芳香族顔料;チオインジゴ系顔料;ポルフィラジン化合物;酸化亜鉛;三方晶系セレン;特開2004−78147号公報、特開2005−181992号公報に開示されたビスアゾ顔料等が望ましい。
【0085】
すなわち、電荷発生材料としては、例えば380nm以上500nm以下の露光波長の光源を用いる場合には無機顔料が望ましく、700nm以上800nm以下の露光波長の光源を用いる場合には、金属及び無金属フタロシアニン顔料が望ましい。
【0086】
本実施形態では、電荷発生材料として、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料及びクロロガリウムフタロシアニン顔料から選択される少なくとも1種を用いることが望ましい。
電荷発生材料としては、これら顔料を単独で用いてもよいが、必要に応じて併用してもよい。そして、電荷発生材料としては、感光体の高感度化、及び画像の点欠陥抑制の観点から、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がよい。
【0087】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料としては、特に制限はないが、V型のヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がよい。
特に、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料としては、例えば、600nm以上900nm以下の波長域での分光吸収スペクトルにおいて、810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料がより優れた分散性が得られる観点から望ましい。電子写真感光体の材料として用いた場合に、優れた分散性と、十分な感度、帯電性及び暗減衰特性とが得られ易くなる。
【0088】
また、上記の810nm以上839nm以下の範囲に最大ピーク波長を有するヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、平均粒径が特定の範囲であり、且つ、BET比表面積が特定の範囲であることが望ましい。具体的には、平均粒径が0.20μm以下であることが望ましく、0.01μm以上0.15μm以下であることがより望ましい。一方、BET比表面積が45m/g以上であることが望ましく、50m/g以上であることがより望ましく、55m/g以上120m/g以下であることが特に望ましい。平均粒径は、体積平均粒径(d50平均粒径)でレーザ回折散乱式粒度分布測定装置(LA−700、堀場製作所社製)にて測定した値である。また、BET式比表面積測定器(島津製作所製:フローソープII2300)を用い窒素置換法にて測定した値である。
ここで、平均粒径が0.20μmより大きい場合、又は比表面積値が45m/g未満である場合は、顔料粒子が粗大化しているか、又は顔料粒子の凝集体が形成される場合がある。そして、分散性や、感度、帯電性及び暗減衰特性といった特性に欠陥が生じやすい場合があり、それにより画質欠陥が生じ易くなることがある。
【0089】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料の最大粒径(一次粒子径の最大値)は、1.2μm以下であることが望ましく、1.0μm以下であることがより望ましく、より望ましくは0.3μm以下である。かかる最大粒径が上記範囲を超えると、黒点が発生しやすい。
【0090】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、感光体が蛍光灯などに暴露されたことに起因する濃度ムラを抑制する観点から、平均粒径が0.2μm以下、最大粒径が1.2μm以下であり、且つ、比表面積値が45m/g以上であることが望ましい。
【0091】
ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料は、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルにおいて、ブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3°,16.0°,24.9゜,28.0°に回折ピークを有するV型であることが望ましい。
【0092】
一方、クロロガリウムフタロシアニン顔料としては、特に制限はないが、電子写真感光体材料として優れた感度が得られる、ブラッグ角度(2θ±0.2°)7.4°,16.6°,25.5°,28.3°に回折ピークを有するものであることが望ましい。
クロロガリウムフタロシアニン顔料の好適な分光吸収スペクトルの最大ピーク波長、平均粒径、最大粒径、及び比表面積値は、ヒドロキシガリウムフタロシアニン顔料と同様である。
【0093】
感光層の全固形分に対する電荷発生材料の含有量は、1質量%以上5質量%以下がよく、望ましくは1.2質量%以上4.5質量%以下である。
【0094】
−正孔輸送材料−
正孔輸送材料としては、例えば、トリアリールアミン系化合物、ベンジジン系化合物、アリールアルカン系化合物、アリール置換エチレン系化合物、スチルベン系化合物、アントラセン系化合物、ヒドラゾン系化合物等の化合物が挙げられる。これらの正孔輸送材料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0095】
正孔輸送材料としては、電荷移動度の観点から、下記一般式(B−1)で示される化合物、下記一般式(B−2)で示される化合物、及び下記一般式(B−3)で示される化合物が望ましい。
【0096】
【化3】
【0097】
一般式(B−1)中、ArB101、ArB102、及びArB103は、各々独立に置換若しくは無置換のアリール基、−C−C(RB104)=C(RB105)(RB106)、又は−C−CH=CH−CH=C(RB107)(RB108)を示す。RB104、RB105、RB106、RB107、及びRB108は各々独立に水素原子、置換若しくは無置換のアルキル基、又は置換若しくは無置換のアリール基を示す。
上記各基の置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基が挙げられる。また、上記各基の置換基としては、炭素数1以上3以下のアルキル基で置換された置換アミノ基も挙げられる。
【0098】
【化4】
【0099】
一般式(B−2)中、RB8およびRB8’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、を示す。RB9、RB9’、RB10、およびRB10’は同一でも異なってもよく、各々独立にハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは未置換のアリール基、−C(RB11)=C(RB12)(RB13)、または−CH=CH−CH=C(RB14)(RB15)を示し、RB11乃至RB15は各々独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。m12、m13、n12およびn13は各々独立に0以上2以下の整数を示す。
【0100】
【化5】
【0101】
一般式(B−3)中、RB16およびRB16’は同一でも異なってもよく、各々独立に水素原子、ハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、を示す。RB17、RB17’、RB18、およびRB18’は同一でも異なってもよく、各々独立にハロゲン原子、炭素数1以上5以下のアルキル基、炭素数1以上5以下のアルコキシ基、炭素数1以上2以下のアルキル基で置換されたアミノ基、置換若しくは未置換のアリール基、−C(RB19)=C(RB20)(RB21)、または−CH=CH−CH=C(RB22)(RB23)を示し、RB19乃至RB23は各々独立に水素原子、置換若しくは未置換のアルキル基、または置換若しくは未置換のアリール基を表す。m14、m15、n14およびn15は各々独立に0以上2以下の整数を示す。
【0102】
ここで、一般式(B−1)で示される化合物、一般式(B−2)で示される化合物、及び一般式(B−3)で示される化合物のうち、特に、「−C−CH=CH−CH=C(RB6)(RB7)」を有する一般式(B−1)で示される化合物、及び「−CH=CH−CH=C(RB14)(RB15)」を有する一般式(B−2)で示される化合物が望ましい。
【0103】
一般式(B−1)で示される化合物、一般式(B−2)で示される化合物、及び一般式(B−3)で示される化合物の具体例としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0104】
【化6】
【0105】
感光層の全固形分に対する正孔輸送材料の含有量は、10質量%以上40質量%以下がよく、望ましくは20質量%以上35質量%以下である。なお、この正孔輸送材料の含有量は、複数種の正孔輸送材料を併用した場合、その正孔輸送材料全体の含有量である。
【0106】
−電子輸送材料−
本実施形態の単層型の感光層は、電子輸送材料としては、前述のとおり、一般式(1)で表される第1の電子輸送材料および一般式(2)で表される第2の電子輸送材料の両方を併用して用いる。なお、機能を損ねない範囲で、必要に応じて、その他の電子輸送材料と併用してもよい。
【0107】
【化7】
【0108】
一般式(1)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R18は、アルキル基、−L111−O−R112、アリール基、又はアラルキル基を示す。ただし、L111はアルキレン基を示し、R112はアルキル基を示す。
【0109】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すハロゲン原子としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。これらの中でもフッ素原子、又は塩素原子が好ましく、塩素原子がさらに好ましい。
【0110】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアルキル基としては、例えば、直鎖状、又は分岐状で、炭素数1以上20以下のアルキル基が挙げられる。直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基等が挙げられる。これらの中でも、アルキル基の炭素数は、1以上4以下がより好ましく、1以上3以下がさらに好ましい。
【0111】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアルコキシ基としては、例えば、炭素数1以上4以下(好ましくは1以上3以下)のアルコキシ基が挙げられ、具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等が挙げられる。
【0112】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアリール基は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよく、例えば、置換又は未置換のフェニル基が挙げられる。アリール基が有する置換基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。アリール基の具体例としては、例えば、フェニル基、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等が挙げられる。
【0113】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアラルキル基としては、−R113−Ar114で示される基が挙げられる。但し、R113は、アルキレン基を示す、Ar114は、アリール基を示す。
【0114】
113が示すアルキレン基としては、例えば直鎖状又は分岐状の炭素数1以上12以下のアルキレン基が挙げられ、具体的には、例えば、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert−ペンチレン基等が挙げられる。R113が示すアルキレン基の炭素数は、相溶性や溶解性の観点で、1以上10以下が好ましく、1以上6以下がより好ましい。
Ar114が示すアリール基は、前記一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアリール基と同様のものが挙げられ、アリール基が有する置換基についても同様である。
【0115】
一般式(1)中、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアラルキル基の具体例としては、例えば、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。
【0116】
一般式(1)中、R18が示すアルキル基としては、例えば、炭素数1以上10以下の直鎖状のアルキル基、炭素数3以上10以下の分岐状のアルキル基、及び炭素数3以上8以下の環状のアルキル基が挙げられる。
直鎖状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられる。
分岐状のアルキル基としては、例えば、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、イソヘキシル基、sec−ヘキシル基、tert−ヘキシル基、イソヘプチル基、sec−ヘプチル基、tert−ヘプチル基、イソオクチル基、sec−オクチル基、tert−オクチル基、イソノニル基、sec−ノニル基、tert−ノニル基、イソデシル基、sec−デシル基、tert−デシル基等が挙げられる。
環状のアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロへプチル基、シクロオクチル基等が挙げられる。
【0117】
一般式(1)中、R18が示す−L111−O−R112で示される基は、−L111がアルキレン基を示し、R112は、アルキル基を示す。
111が示すアルキレン基としては、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上12以下のアルキレン基が挙げられ、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert−ペンチレン基等が挙げられる。
112が示すアルキル基としては、上記R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアルキル基と同様の基が挙げられる。
【0118】
一般式(1)中、R18が示すアリール基は、置換基を有していてもよく、置換基を有していなくてもよく、例えば、置換又は未置換のフェニル基が挙げられる。アリール基が有する置換基としては、例えば、炭素数1以上10以下のアルキル基、アルコキシ基、ハロゲン原子等が挙げられる。
なお、アリール基がさらにアルキル基又はアルコキシ基で置換されていることが、溶解性の観点で好ましい。アリール基に置換されるアルキル基又はアルコキシ基としては、上記のR11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17が示すアルキル基又はアルコキシ基と同様の基が挙げられる。例えば、アルキル基又はアルコキシ基で置換されたアリール基としては、メチルフェニル基(トリル基)、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基、tert−ブチルフェニル基、(p−tert−ブチルフェニル等)、メトキシフェニル基(p−メトキシフェニル基等)、エトキシフェニル基等が挙げられる。
【0119】
一般式(1)中、R18が示すアラルキル基としては、−R115−Ar116で示される基が挙げられる。但し、R115は、アルキレン基を示す、Ar116、アリール基を示す。
115が示すアルキレン基としては、直鎖状又は分岐状の炭素数1以上12以下のアルキレン基が挙げられ、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert−ペンチレン基等が挙げられる。
Ar116が示すアリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、エチルフェニル基等が挙げられる。
【0120】
一般式(1)中、R18が示すアラルキル基として具体的には、ベンジル基、メチルベンジル基、ジメチルベンジル基、フェニルエチル基、メチルフェニルエチル基、フェニルプロピル基、フェニルブチル基等が挙げられる。
【0121】
以下、一般式(1)で表される電子輸送材料の例示化合物を示すが、これに限定されるわけではない。なお、以下の例示化合物番号は、例示化合物(1−番号)と以下表記する。具体的には、例えば、「例示化合物(1−15)」と以下表記する。
【0122】
【化8】
【0123】
【化9】
【0124】
【化10】
【0125】
【化11】
【0126】
上記例示化合物中の略記号は、以下の意味を示す。「Bu」はブチル基を、「t−Bu」はtert−ブチル基を、「Oct」はオクチル基を、「Cl」は塩素原子を、「Me」はメチル基を、「MeO」はメトキシ基を、「Ph」はフェニル基を、それぞれ表す。
【0127】
【化12】
【0128】
一般式(2)中、Xは、酸素原子又は=C(CN)を示す。R21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基を示す。R28は、炭素数4以上20以下のアルキレン基、又は−(L221−O−L221−を示す。ただし、L221は炭素数1以上4以下のアルキレン基を示し、nは1以上10以下の整数を示す。
【0129】
一般式(2)中のR21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27が示すハロゲン原子、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアラルキル基は、上述した一般式(1)中のR11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17と同様である。
【0130】
一般式(2)中のR28が示す炭素数4以上20以下のアルキレン基は、直鎖状、又は分岐状のアルキレン基が挙げられる。例えば、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、イソペンチレン基、ネオペンチレン基、tert−ペンチレン基、n−ヘキシレン、n−ペプチレン、n−オクチレン、n−ノニレン基、n−デシレン基、n−ウンデシレン基、n−ドデシレン基等が挙げられる。その他、トリデシレン基、テトラデシレン基、ペンタデシレン基、ヘキサデシレン基、オクタデシレン基、エイコシレン基等が挙げられる。これらの中でも、樹脂との溶解性の観点から、炭素数6以上12以下の直鎖状若しくは分岐状のアルキレン基が好ましい。
【0131】
一般式(2)中のR28が示す−(L221−O−L221−で示される基は、L221が直鎖状又は分岐状の1以上4以下のアルキレン基であり、nが1以上10以下の整数である。例えば、L221としては、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基が挙げられる。樹脂との溶解性の観点から、L221は、メチレン基であることが好ましく、nは1以上5以下の整数であることが好ましい。
【0132】
以下、一般式(1)で表される電子輸送材料の例示化合物を示すが、これに限定されるわけではない。なお、以下の例示化合物番号は、例示化合物(2−番号)と以下表記する。具体的には、例えば、「例示化合物(2−15)」と以下表記する。
【0133】
【化13】
【0134】
【化14】
【0135】
【化15】
【0136】
上記例示化合物中の略記号は、以下の意味を示す。「Bu」はブチル基を、「t−Bu」はtert−ブチル基を、「Cl」は塩素原子を、「Me」はメチル基を、「MeO」はメトキシ基を、「Ph」はフェニル基を、それぞれ表す。
【0137】
一般式(1)で表される第1の電子輸送材料のX、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17と、一般式(2)で表される第2の電子輸送材料のX、R21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27とは、それぞれ互いに同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
第1の電子輸送材料のX、R11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17と、第2の電子輸送材料のX、R21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27とが、それぞれ互いに同じである場合には、第1の電子輸送材料と第2の電子輸送材料との相溶性が高まり、製膜性が向上し、結晶の析出を抑制しやすくなる。
【0138】
ただし、第1の電子輸送材料のXは、電子輸送性が高まる点で、=C(CN)であることが好ましく、第2の電子輸送材料のXは、樹脂との溶解性に優れる点で、酸素原子であるほうが好ましい。電子輸送能の向上、樹脂との溶解性、及び製膜性を向上させる観点で、第1の電子輸送材料のXが=C(CN)である電子輸送材料と、第2の電子輸送材料のXが酸素原子である電子輸送材料とを組み合わせて用いることがより好ましい。この組み合わせである場合には、感光層内でモルホロジー変化がより抑制しやすくなる。
【0139】
また、第1の電子輸送材料のR11、R12、R13、R14、R15、R16、及びR17と、第2の電子輸送材料のR21、R22、R23、R24、R25、R26、及びR27とに置換する官能基は、樹脂との溶解性や、結晶の析出、電子輸送能等を考慮して選択すればよい。例えば、ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子など)を置換させると、電子輸送能が向上しやすくなる。また、例えば、アリール基を置換させると、電子輸送能が向上しやすくなり、さらに、ポリカーボネート樹脂等の芳香環を持つ樹脂との溶解性が向上しやすくなる。
【0140】
感光層全体に占める、一般式(1)で表される第1の電子輸送材料の量としては、感光層中の固形分比で1質量%以上25質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。また、一般式(2)で表される第2の電子輸送材料の量としては、感光層中の固形分比で1質量%以上25質量%以下が好ましく、2質量%以上10質量%以下がより好ましい。
【0141】
感光層全体に占める、全電子輸送材料の量としては、感光層中の固形分比で2質量%以上30質量%以下が好ましく、5質量%以上20質量%以下がより好ましい。電子輸送材料の含有量がこの範囲であることにより、良好な電気特性が得られ、形成された画像に、かぶりや黒点が発生が抑制されやすくなる。
なお、電子輸送材料として、後述するその他の電子輸送材料を用いる場合は、その他の電子輸送材料を電子輸送材料全体に対して30質量%以下で併用することがよく、10質量%以下であることが好ましい。
【0142】
第1の電子輸送材料と、第2の電子輸送材料との感光層における含有比率(第1の電子輸送材料/第2の電子輸送材料)としては、質量比で、1/10以上10/1以下の範囲であることが好ましい。電気特性の安定性や、成膜性をより向上させる観点から、2/8以上8/2以下がより好ましく、3/7以上7/3以下であることがさらに好ましい。特に、上記の含有比率が3/7以上7/3以下の範囲である場合には、電気特性がより向上する傾向がみられる。
【0143】
その他の電子輸送材料としては、例えば、前記一般式(1)、及び前記一般式(2)で表される電子輸送材料以外のフルオレノン誘導体、p−ベンゾキノン、クロラニル、ブロマニル、アントラキノン等のキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、2,4,7−トリニトロフルオレノン等のフルオレノン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、シアノビニル系化合物、エチレン系化合物等の電子輸送性化合物が挙げられる。これらのその他の電子輸送材料は1種を単独で又は2種以上を混合して用いてもよいが、これらに限定されるものではない。
その他の電子輸送材料の具体例としては、例えば以下の化合物が挙げられる。
【0144】
【化16】
【0145】
正孔輸送材料と電子輸送材料との比率は、質量比(正孔輸送材料/電子輸送材料)で、50/50以上90/10以下が望ましく、より望ましくは60/40以上80/20以下である。
なお、本比率における「電子輸送材料」とは、他の電子輸送材料を併用した場合、その合計である。
【0146】
−その他添加剤−
単層型の感光層には、界面活性剤、酸化防止剤、光安定剤、熱安定剤等の周知のその他添加剤を含んでいてもよい。また、単層型の感光層が表面層となる場合、フッ素樹脂粒子、シリコーンオイル等を含んでいてもよい。
【0147】
−単層型の感光層の形成−
単層型の感光層は、上記成分を溶剤に加えた感光層形成用塗布液を用いて形成される。
溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、アセトン、2−ブタノン等のケトン類、塩化メチレン、クロロホルム、塩化エチレン等のハロゲン化脂肪族炭化水素類、テトラヒドロフラン、エチルエーテル等の環状若しくは直鎖状のエーテル類等の通常の有機溶剤が挙げられる。これら溶剤は単独又は2種以上混合して用いる。
【0148】
感光層形成用塗布液中に粒子(例えば電荷発生材料)を分散させる方法としては、ボールミル、振動ボールミル、アトライター、サンドミル、横型サンドミル等のメディア分散機や、攪拌、超音波分散機、ロールミル、高圧ホモジナイザー等のメディアレス分散機が利用される。高圧ホモジナイザーとしては、高圧状態で分散液を液−液衝突や液−壁衝突させて分散する衝突方式や、高圧状態で微細な流路を貫通させて分散する貫通方式などが挙げられる。
【0149】
感光層形成用塗布液を下引層上に塗布する方法としては、浸漬塗布法、突き上げ塗布法、ワイヤーバー塗布法、スプレー塗布法、ブレード塗布法、ナイフ塗布法、カーテン塗布法等が挙げられる。
【0150】
単層型の感光層の膜厚は、望ましくは5μm以上60μm以下、より望ましくは5μm以上50μm以下、さらに望ましくは10μm以上40μm以下の範囲に設定される。
【0151】
[画像形成装置(及びプロセスカートリッジ)]
本実施形態に係る画像形成装置は、電子写真感光体と、電子写真感光体の表面を帯電する帯電手段と、帯電した電子写真感光体の表面に静電潜像を形成する静電潜像形成手段と、トナーを含む現像剤により電子写真感光体の表面に形成された静電潜像を現像してトナー像を形成する現像手段と、トナー像を記録媒体の表面に転写する転写手段と、を備える。そして、電子写真感光体として、上記本実施形態に係る電子写真感光体が適用される。
【0152】
本実施形態に係る画像形成装置は、記録媒体の表面に転写されたトナー像を定着する定着手段を備える装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の装置;電子写真感光体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写し、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する中間転写方式の装置;トナー像の転写後、帯電前の電子写真感光体の表面をクリーニングするクリーニング手段を備えた装置;トナー像の転写後、帯電前に像保持体の表面に除電光を照射して除電する除電手段を備える装置;電子写真感光体の温度を上昇させ、相対温度を低減させるための電子写真感光体加熱部材を備える装置等の周知の画像形成装置が適用される。
【0153】
中間転写方式の装置の場合、転写手段は、例えば、表面にトナー像が転写される中間転写体と、像保持体の表面に形成されたトナー像を中間転写体の表面に一次転写する一次転写手段と、中間転写体の表面に転写されたトナー像を記録媒体の表面に二次転写する二次転写手段と、を有する構成が適用される。
【0154】
本実施形態に係る画像形成装置は、乾式現像方式の画像形成装置、湿式現像方式(液体現像剤を利用した現像方式)の画像形成装置のいずれであってもよい。
【0155】
なお、本実施形態に係る画像形成装置において、例えば、電子写真感光体を備える部分が、画像形成装置に対して脱着されるカートリッジ構造(プロセスカートリッジ)であってもよい。プロセスカートリッジとしては、例えば、本実施形態に係る電子写真感光体を備えるプロセスカートリッジが好適に用いられる。なお、プロセスカートリッジには、電子写真感光体以外に、例えば、帯電手段、静電潜像形成手段、現像手段、転写手段からなる群から選択される少なくとも一つを備えてもよい。
【0156】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示すが、これに限定されるわけではない。なお、図に示す主要部を説明し、その他はその説明を省略する。
【0157】
図2は、本実施形態に係る画像形成装置の一例を示す概略構成図である。
本実施形態に係る画像形成装置100は、図2に示すように、電子写真感光体7を備えるプロセスカートリッジ300と、露光装置9(静電潜像形成手段の一例)と、転写装置40(一次転写装置)と、中間転写体50とを備える。なお、画像形成装置100において、露光装置9はプロセスカートリッジ300の開口部から電子写真感光体7に露光し得る位置に配置されており、転写装置40は中間転写体50を介して電子写真感光体7に対向する位置に配置されており、中間転写体50はその一部が電子写真感光体7に接触して配置されている。図示しないが、中間転写体50に転写されたトナー像を記録媒体(例えば用紙)に転写する二次転写装置も有している。なお、中間転写体50、転写装置40(一次転写装置)、及び二次転写装置(不図示)が転写手段の一例に相当する。
【0158】
図2におけるプロセスカートリッジ300は、ハウジング内に、電子写真感光体7、帯電装置8(帯電手段の一例)、現像装置11(現像手段の一例)、及びクリーニング装置13(クリーニング手段の一例)を一体に支持している。クリーニング装置13は、クリーニングブレード(クリーニング部材の一例)131を有しており、クリーニングブレード131は、電子写真感光体7の表面に接触するように配置されている。なお、クリーニング部材は、クリーニングブレード131の態様ではなく、導電性又は絶縁性の繊維状部材であってもよく、これを単独で、又はクリーニングブレード131と併用してもよい。
【0159】
なお、図2には、画像形成装置として、潤滑材14を電子写真感光体7の表面に供給する繊維状部材132(ロール状)、及び、クリーニングを補助する繊維状部材133(平ブラシ状)を備えた例を示してあるが、これらは必要に応じて配置される。
【0160】
以下、本実施形態に係る画像形成装置の各構成について説明する。
【0161】
−帯電装置−
帯電装置8としては、例えば、導電性又は半導電性の帯電ローラ、帯電ブラシ、帯電フィルム、帯電ゴムブレード、帯電チューブ等を用いた接触型帯電器が使用される。また、非接触方式のローラ帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン帯電器やコロトロン帯電器等のそれ自体公知の帯電器等も使用される。
【0162】
−露光装置−
露光装置9としては、例えば、電子写真感光体7表面に、半導体レーザ光、LED光、液晶シャッタ光等の光を、定められた像様に露光する光学系機器等が挙げられる。光源の波長は電子写真感光体の分光感度領域内とする。半導体レーザの波長としては、780nm付近に発振波長を有する近赤外が主流である。しかし、この波長に限定されず、600nm台の発振波長レーザや青色レーザとして400nm以上450nm以下に発振波長を有するレーザも利用してもよい。また、カラー画像形成のためにはマルチビームを出力し得るタイプの面発光型のレーザ光源も有効である。
【0163】
−現像装置−
現像装置11としては、例えば、現像剤を接触又は非接触させて現像する一般的な現像装置が挙げられる。現像装置11としては、上述の機能を有している限り特に制限はなく、目的に応じて選択される。例えば、一成分系現像剤又は二成分系現像剤をブラシ、ローラ等を用いて電子写真感光体7に付着させる機能を有する公知の現像器等が挙げられる。中でも現像剤を表面に保持した現像ローラを用いるものが好ましい。
【0164】
現像装置11に使用される現像剤は、トナー単独の一成分系現像剤であってもよいし、トナーとキャリアとを含む二成分系現像剤であってもよい。また、現像剤は、磁性であってもよいし、非磁性であってもよい。これら現像剤は、周知のものが適用される。
【0165】
−クリーニング装置−
クリーニング装置13は、クリーニングブレード131を備えるクリーニングブレード方式の装置が用いられる。
なお、クリーニングブレード方式以外にも、ファーブラシクリーニング方式、現像同時クリーニング方式を採用してもよい。
【0166】
−転写装置−
転写装置40としては、例えば、ベルト、ローラ、フィルム、ゴムブレード等を用いた接触型転写帯電器、コロナ放電を利用したスコロトロン転写帯電器やコロトロン転写帯電器等のそれ自体公知の転写帯電器が挙げられる。
【0167】
−中間転写体−
中間転写体50としては、半導電性を付与したポリイミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ゴム等を含むベルト状のもの(中間転写ベルト)が使用される。また、中間転写体の形態としては、ベルト状以外にドラム状のものを用いてもよい。
【0168】
図3は、本実施形態に係る画像形成装置の他の一例を示す概略構成図である。
図3に示す画像形成装置120は、プロセスカートリッジ300を4つ搭載したタンデム方式の多色画像形成装置である。画像形成装置120では、中間転写体50上に4つのプロセスカートリッジ300がそれぞれ並列に配置されており、1色に付き1つの電子写真感光体が使用される構成となっている。なお、画像形成装置120は、タンデム方式であること以外は、画像形成装置100と同様の構成を有している。
【0169】
なお、本実施形態に係る画像形成装置100は、上記構成に限られず、例えば、電子写真感光体7の周囲であって、転写装置40よりも電子写真感光体7の回転方向下流側でクリーニング装置13よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、残留したトナーの極性を揃え、クリーニングブラシで除去しやすくするための第1除電装置を設けた形態であってもよいし、クリーニング装置13よりも電子写真感光体の回転方向下流側で帯電装置8よりも電子写真感光体の回転方向上流側に、電子写真感光体7の表面を除電する第2除電装置を設けた形態であってもよい。
【0170】
また、本実施形態に係る画像形成装置100は、上記構成に限れず、周知の構成、例えば、電子写真感光体7に形成したトナー像を直接記録媒体に転写する直接転写方式の画像形成装置を採用してもよい。
【実施例】
【0171】
以下、実施例により本実施形態を詳細に説明するが、本実施形態は、これら実施例に何ら限定されるものではない。なお、以下の説明において、特に断りのない限り、「部」及び「%」はすべて質量基準である。
【0172】
[電子輸送材料の合成]
<合成例1>
−フルオレノン骨格を有する化合物の二量体(例示化合物(2−23))の合成−
9−フルオレノン−4−カルボン酸 15gをN,N−ジメチルアセトアミド50mlに溶解後、炭酸カリウム9.25gを加え30分攪拌した。そのあと、1,12−ジブロモドデカン9.84gを加えて、80℃で3時間、加熱攪拌した。反応液を水100mlに注ぎ、析出した結晶をろ過した。
結晶をトルエン200mlに溶解し、水洗い後、硫酸ナトリウムで乾燥し、シリカゲル40gを通したのち、トルエンから再結晶して目的化合物(2−23)17gを得た。
この目的化合物(2−23)の融点を測定した結果、100℃以上101℃以下であった。赤外吸収スペクトルを図4に示す。
【0173】
【化17】
【0174】
<合成例2>
−フルオレノン骨格を有する化合物の二量体(例示化合物(2−7))の合成
合成例1で得られた2量体10gを酢酸エチル/トルエン=1/1の混合液100mlに加温溶解し、室温下で、マロノニトリル4.3g、ピペリジン0.3gを加えたのち、50℃で1時間、加熱攪拌した。更にトルエン100mlを加え、有機層を水洗いし、硫酸マグネシウムで乾燥した。その後、シリカゲル20gを通して処理し、トルエン/酢酸エチル=3/1の混合溶液から再結晶し、目的化合物(2−7)を9.9g得た。
この目的化合物(2−7)の融点を測定した結果、148℃以上152℃以下であった。赤外吸収スペクトルを図5に示す。
【0175】
【化18】
【0176】
<合成例3>
−フルオレノン骨格を有する化合物の二量体(例示化合物(2−19))の合成−
1,8−オクタンジオール2g、トリエチルアミン3.06gを塩化メチレン20mlに溶解した液に、9−フルオレノン−4−カルボン酸クロリド7.3gの塩化メチレン溶液50mlを15分かけて滴下した。そのまま、一晩攪拌後、析出した結晶をろ過し、順次、水、アセトンで結晶を洗浄後、テトラヒドロフランから再結晶し、目的化合物(2−19)を3.2gを得た。
この目的化合物(2−19)の融点を測定した結果、152℃以上154℃以下であった。赤外吸収スペクトルを図6に示す。
【0177】
【化19】
【0178】
<実施例1>
下記に示す手順で調製した感光層形成用塗布液を直径30mm、長さ340mm、肉厚1mmのアルミニウム製基体上に浸漬塗布し、135℃、1時間乾燥して、膜厚が24μmの感光体1を形成した。
【0179】
<実施例2〜13、比較例1〜2>
表1に従って、下引層の有無、感光層形成用塗布液に用いる正孔輸送材料の種類、第1の電子輸送材料および第2の電子輸送材料の種類と含有量を変更した以外は、実施例1と同様にして、各例の感光体2〜13、感光体C1、C2を作製した。
なお、下引層は、下記に示す手順でアルミニウム製基体上に形成した。
【0180】
(感光層形成用塗布液の調製)
電荷発生材料として、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.3°,16.0°,24.9°,28.0°の位置に回折ピークを有するヒドロキシガリウムフタロシアニン1.5質量部、CuKα特性X線を用いたX線回折スペクトルのブラッグ角度(2θ±0.2°)が少なくとも7.4°,16.6°,25.5°,28.3°の位置に回折ピークを有するクロロガリウムフタロシアニン1.5質量部、結着樹脂としてポリカーボネートZ樹脂49質量部、テトラヒドロフラン300質量部からなる混合物を、直径1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて8時間分散した。
【0181】
得られた分散液に下記構造の正孔輸送材料(HT−4)32質量部、第1の電子輸送材料として、例示化合物(1−4)5質量部、第2の電子輸送材料として、例示化合物(2−23)5質量部、シリコーンオイルKP340(信越化学工業社製)0.001質量を添加し、一晩攪拌して感光層形成用塗布液を得た。
【0182】
(下引層の形成)
酸化亜鉛(平均粒子径70nm:テイカ社製:比表面積値15m/g)100質量部をテトラヒドロフラン500質量部と攪拌混合し、シランカップリング剤(KBE502:信越化学工業社製)1.2質量部を添加し、2時間攪拌した。その後テトラヒドロフランを減圧蒸留にて留去し、120℃で3時間焼き付けを行い、シランカップリング剤表面処理酸化亜鉛を得た。
【0183】
得られたシランカップリング剤表面処理酸化亜鉛110質量部を500質量部のテトラヒドロフランと攪拌混合し、アリザリン0.7質量部を50質量部のテトラヒドロフランに溶解させた溶液を添加し、50℃にて4時間攪拌した。その後、減圧ろ過にてアリザリンを付与させた酸化亜鉛をろ別し、さらに65℃で減圧乾燥を行い、アリザリン付与酸化亜鉛を得た。
【0184】
このアリザリン付与酸化亜鉛60質量部と硬化剤(ブロック化イソシアネート スミジュール3175、住友バイエルンウレタン社製)13.5質量部とブチラール樹脂(エスレックBM−1、積水化学工業製)15質量部をメチルエチルケトン85質量部に溶解した溶液38質量部とメチルエチルケトン50質量部とを混合し、1mmφのガラスビーズを用いてサンドミルにて2時間30分の分散を行い、分散液を得た。
【0185】
得られた分散液に触媒としてジオクチルスズジラウレート:0.005質量部、シリコーン樹脂粒子(トスパール145、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製):40質量部を添加し、下引層形成用塗布液を得た。
【0186】
得られた塗布液を、浸漬塗布法にて、直径30mm、長さ340mm、肉厚1mmのアルミニウム製基体上に塗布し、170℃において40分間の乾燥硬化を行い、厚さ4μmの下引層を得た。
【0187】
【表1】
【0188】
なお、表1中の略称の詳細は以下の通りである。
【0189】
−正孔輸送材料−
・HT−1: 一般式(B−2)で表される化合物の例示化合物(HT−1)
・HT−2: 一般式(B−1)で表される化合物の例示化合物(HT−2)
・HT−4: 一般式(B−1)で表される化合物の例示化合物(HT−4)
・HT−12:一般式(B−1)で表される化合物の例示化合物(HT−12)
【0190】
−電子輸送材料−
・第1ETM: 一般式(1)で表される第1の電子輸送材料
・第2ETM: 一般式(2)で表される第2の電子輸送材料
・2−7 : 合成例2で得られた例示化合物(2−7)
・2−19 : 合成例3で得られた例示化合物(2−19)
・2−23 : 合成例1で得られた例示化合物(2−23)
・2−13 : 一般式(2)で表される電子輸送材料の例示化合物(2−13)
・第1/第2: 第1の電子輸送材料および第2の電子輸送材料の含有比率(質量比)
(第1の電子輸送材料/2の電子輸送材料)
【0191】
<評価>
得られた各電子写真感光体について、以下の評価を行った。その結果を表2に示す。
【0192】
−製膜性の評価−
各例で得られた感光体について、気温28℃、湿度85%RHの環境下で48時間保管後、表面状態を目視で観察した。結果を表2に示す。
A:見た目全く問題なく良好。
B:結晶化あるいは相溶性悪化が原因とみられるムラを確認。
(画質上許容可能なレベル)
C:明らかな結晶析出による欠陥を確認。
(画質上許容できないレベル)
【0193】
―帯電維持性評価―
画像形成装置(Brother社製、HL−5440D)に外部電源を取り付ける改造を施した。この画像形成装置を用いて、室温28℃、湿度85%の環境下で、初期帯電電位700Vに帯電させ、100%黒ベタ画像を1万枚出力した後の帯電電位の降下を評価した。結果を表2に示す。
A:電位降下が40V以下で問題なし。
B:電位降下が40Vを超え80V未満で調整可能な範囲で問題なし。
C:電位降下が80V以上であり調整不可能なレベル。
【0194】
−黒点の評価−
得られた電子写真感光体を画像形成装置(Brother社製、HL−2240D)に搭載し、室温28℃、湿度85%の環境下で、1万枚の50%ハーフトーン画像を出力し、最後の1万枚目の画像における直径0.3μm以上の黒点発生の有無を以下の基準で評価した。結果を表2に示す。
A:黒点発生なし。
B:黒点が確認されるが、画質上問題なし(5個以下)。
C:黒点が多く実用上問題となる(6個以上)。
【0195】
【表2】
【0196】
以上の結果から、本実施例は比較例に比べ、製膜性が良好であり、帯電維持性が良好であることがわかる。また、本実施例は黒点の評価が良好であることがわかる。
【0197】
−エンタルピー緩和量−
得られた実施例1の感光体1と、比較例1の感光体C1の感光層から、エンタルピー緩和量の変化について評価を行った。評価方法は以下のとおりである。
実施例1の感光体1と全く同様に作製した感光体の感光層を約3mg切り出した。これをサンプル1とする。実施例1の感光体1の黒点評価後の感光層を約3mgを切り出した。これをサンプル2とする。
次に、セイコーインスツルメンツ社製、示差走査熱量計 DSC−6200を用い、室温から毎分10℃で昇温させてガラス転移シグナルが吸熱ピーク化するいわゆるエンタルピー緩和を測定した。エンタルピー緩和ピークは、下記図の実線と点線で囲まれた部分の面積である。このエンタルピー緩和について、前記2つのサンプルの差を求めた。
図7では、実施例1の感光体1の評価前後のエンタルピー緩和量の変化のDSCのグラフを表し、エンタルピー緩和量の変化を次式で求めた。
エンタルピー緩和量の変化=(サンプル2のエンタルピー緩和)−(サンプル1のエンタルピー緩和)=0.533446−0.314624≒0.22[mJ/mg]で求めた。
同様にして、実施例5の感光体5、比較例2の感光体C2についての評価結果を表3に示す。
【0198】
【表3】

以上の結果から、実施例1、5は比較例1、2に比べ、エンタルピー緩和量の変化量が小さく、膜内部に溜まった歪の変化が小さいと考えられる。そのため、実施例は比較例に比べ、感光層内でモルホロジー変化を起こしにくく、膜としてより安定であることがわかる。
【符号の説明】
【0199】
1 下引層、2 感光層、3導電性基体、7 電子写真感光体、8 帯電装置、9 露光装置、10 電子写真感光体、11 現像装置、13 クリーニング装置、14 潤滑材、40 転写装置、50 中間転写体、100 画像形成装置、120 画像形成装置、131 クリーニングブレード、132 繊維状部材、133 繊維状部材、300 プロセスカートリッジ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7