(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の光学材料用非晶性重合体、樹脂組成物、樹脂ペレット及び樹脂成形体を詳細に説明する。
【0014】
[光学材料用非晶性重合体]
本発明の光学材料用非晶性重合体(以下、「(A)重合体」ともいう)は、下記式(1)で表される第1構造単位(以下、「構造単位(a)」ともいう)を主鎖中に有する。この(A)重合体は、後述する下記式(2−1)で表される構造単位、下記式(2−2)で表される構造単位又はこれらの組み合わせである第2構造単位(以下、「構造単位(b)」ともいう)を主鎖中にさらに有していてもよく、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位又はこれらの組み合わせである第3構造単位(以下、「構造単位(c)」ともいう)をさらに有していてもよく、本発明の効果を損なわない範囲において、構造単位(a)、構造単位(b)及び構造単位(c)以外の他の構造単位(d)を有していてもよい。
【0015】
ここで、「非晶性重合体」は、「結晶性重合体」と区別されるものであり、示差走査熱量測定(Differential scanning calorimetry:DSC)のサーモグラムにおいて、重合体の融点が確認できないものをいう。重合体の融点の有無は、DSCのサーモグラムにおけるガラス転移温度(Tg)よりも高温領域に明確な吸熱ピークを確認できるか否かによって判断される。明確な吸熱ピークとは、ノイズ成分等のピークを排除する趣旨である。
【0016】
このように(A)重合体が非晶性であることで、結晶性や液晶性を示す場合に比べ射出成形や押出成形時に十分な成形精度が得られやすく、光学部品等の樹脂成形品の光学透明性を確保できる。
【0017】
なお、当該重合体は、構造単位(a)を主鎖中に有する限り、構造単位(a)以外の構造については特に限定されないが、後述するように、通常構造単位(a)を含む繰り返しユニットを有し、さらにその他の繰り返しユニットを任意に有していてもよい。
【0018】
<構造単位(a)>
構造単位(a)は、下記式(1)で表される。(A)重合体は、構造単位(a)を有することで、ガラス転移温度及び複屈折を小さくすることが可能となると共に、屈折率が高く複屈折の小さい光学部品等の樹脂成形品を提供できる。構造単位(a)を有することで、(A)重合体の低ガラス転移温度化、(A)重合体及び樹脂成形品の低複屈折性、樹脂成形品の高屈折率化を図ることができる理由は明確ではないが、主に以下(1)〜(3)の理由によるものと推察される。
【0019】
(1)(A)重合体の主鎖中にナフタレン骨格を導入することにより、高屈折率化を図れる。
(2)オルト位結合性の2官能性芳香族フェノールに由来する構造単位を主鎖中に組み込むことにより主鎖中にV字状の部分が存在し、主鎖の直線配向性が抑制されることで低複屈折化が可能になる。
(3)構造単位(a)がフルオレン系ビスフェノール類に由来する構造単位に比べて分子量が小さく、より柔軟な結合基の数を増やすことが可能となって、低ガラス転移温度化を図れる。
【0021】
式(1)中、R
1は、それぞれ独立して、炭素数2〜4のアルキレン基である。R
2は、炭素数1〜12の1価の有機基である。aは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。aが2の場合、2つのR
1は、同一であっても異なっていてもよい。bは、0〜6の整数である。bが2以上の場合、複数のR
2は、同一であっても異なっていてもよく、任意の組み合わせで結合して環構造の一部を形成してもよい。
【0022】
R
1で表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、例えばエチレン基、n−プロピレン基、イソプロピレン基、n−ブチレン基、sec−ブチレン基、tert−ブチレン基等が挙げられる。
【0023】
R
2で表される炭素数1〜12の有機基としては、例えば炭素数1〜12の1価の炭化水素基並びに酸素原子及び窒素原子のうちの少なくとも一方の原子を含む炭素数1〜12の1価の炭化水素基等が挙げられる。
【0024】
炭素数1〜12の1価の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状の炭化水素基、炭素数3〜12の脂環式炭化水素基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基等が挙げられる。
【0025】
炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基等が挙げられる。
【0026】
炭素数1〜12の直鎖状又は分岐状の炭化水素基としては、炭素数1〜8の直鎖状及び分岐状の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜5の直鎖状及び分岐状の炭化水素基がより好ましい。
【0027】
炭素数3〜12の脂環式炭化水素基としては、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロドデカニル等のシクロアルキル基;シクロブテニル基、シクロペンテニル基、シクロヘキセニル基等のシクロアルケニル基などが挙げられる。
【0028】
炭素数3〜12の脂環式炭化水素基としては、炭素数3〜8の脂環式炭化水素基が好ましく、炭素数3及び4の脂環式炭化水素基がより好ましい。
【0029】
炭素数6〜12の芳香族炭化水素基としては、例えばフェニル基、ビフェニル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0030】
酸素原子を含む炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えばエーテル結合、カルボニル基、エステル基等を有する炭素数1〜12の炭化水素基などが挙げられる。
【0031】
エーテル結合を有する炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えば炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数2〜12のアルケニルオキシ基、炭素数2〜12のアルキニルオキシ基、炭素数6〜12のアリールオキシ基、炭素数2〜12のアルコキシアルキル基等が挙げられる。具体的には、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、フェノキシ基、プロペニルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、メトキシメチル基等が挙げられる。
【0032】
また、カルボニル基を有する炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えば炭素数2〜12のアシル基等が挙げられる。具体的には、アセチル基、プロピオニル基、イソプロピオニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0033】
エステル基を有する炭素数1〜12の炭化水素基としては、炭素数2〜12のアシルオキシ基等が挙げられる。具体的には、アセチルオキシ基、プロピオニルオキシ基、イソプロピオニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基等が挙げられる。
【0034】
窒素原子を含む炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えばイミダゾール基、トリアゾール基、ベンズイミダゾール基、ベンズトリアゾール基等が挙げられる。
【0035】
酸素原子及び窒素原子を含む炭素数1〜12の炭化水素基としては、例えばオキサゾール基、オキサジアゾール基、ベンズオキサゾール基、ベンズオキサジアゾール基等が挙げられる。
【0036】
構造単位(a)は、エステル結合、カーボネート結合又はエーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることが好ましく、エーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることがより好ましく、下記式(1−1)で表される構造単位(以下、「構造単位(a−1)」ともいう)としてエーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることがさらに好ましい。
【0038】
式(1−1)中、R
2及びbは、上記式(1)と同義である。
【0039】
(A)重合体における構造単位(a)の含有割合の下限としては、(A)重合体の全構造単位中、通常5モル%であり、10モル%が好ましく、15モル%がより好ましい。上記含有割合の上限としては、50モル%が好ましく、40モル%がより好ましい。
【0040】
<構造単位(b)>
構造単位(b)は、下記式(2−1)で表される構造単位、下記式(2−2)で表される構造単位又はこれらの組み合わせである。(A)重合体は、構造単位(b)をさらに有することで、複屈折性及びガラス転移温度をより低くすることが可能となる。このような効果を奏する理由は、上述の構造単位(a)を有することで複屈折性及びガラス転移温度を低くすることができる理由(上記理由(2)、(3)等)と同様に推察される。
【0042】
式(2−1)中、R
3は、それぞれ独立して、炭素数2〜4のアルキレン基である。R
4は、炭素数1〜12の1価の有機基である。cは、それぞれ独立して、0〜2の整数である。cが2の場合、2つのR
3は、同一であっても異なっていてもよい。dは、0〜4の整数である。dが2以上の場合、複数のR
4は、同一であっても異なっていてもよく、任意の組み合わせで結合して環構造の一部を形成してもよい。
【0044】
式(2−2)中、R
3’は、それぞれ独立して、炭素数2〜4のアルキレン基である。R
4’は、それぞれ独立して、炭素数1〜12の1価の有機基である。R
rは、単結合、硫黄原子、−SO
2−、−CO−又は炭素数1〜20の2価の有機基である。c’は、それぞれ独立して、0〜2の整数である。c’が2の場合、2つのR
3’は、同一であっても異なっていてもよい。d’は、それぞれ独立して、0〜4の整数である。d’が2以上の場合、複数のR
4’は、同一であっても異なっていてもよく、任意の組み合わせで結合して環構造の一部を形成してもよい。
【0045】
R
3及びR
3’で表される炭素数2〜4のアルキレン基としては、上記式(1)のR
1として例示したアルキレン基と同様なものが挙げられる。
【0046】
R
4及びR
4’で表される炭素数1〜12の1価の有機基としては、上記式(1)のR
2として例示した1価の有機基と同様なものが挙げられる。
【0047】
R
rで表される炭素数1〜20の2価の有機基としては、例えば上記式(1)のR
2の1価の有機基として例示した基から1個の水素原子を除いた基等が挙げられる。これらの中で、炭素数1〜10の2価の直鎖状及び分岐状の炭化水素基が好ましく、炭素数1〜5の2価の直鎖状及び分岐状の炭化水素基がより好ましい。
【0048】
構造単位(b)は、エステル結合、カーボネート結合又はエーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることが好ましく、エーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることがより好ましく、下記式(2−1−1)で表される構造単位(以下、「構造単位(b−1−1)」ともいう)、下記式(2−2−1)で表される構造単位(以下、「構造単位(b−2−1)」ともいう)又はこれらの組み合わせとしてエーテル結合を形成して重合体主鎖中に含まれていることがさらに好ましい。
【0050】
式(2−1−1)中、R
4及びdは、上記式(2−1)と同義である。
【0052】
式(2−2−1)中、R
4’、R
r及びd’は、上記式(2−2)と同義である。
【0053】
(A)重合体が構造単位(b)を有する場合、(A)重合体における構造単位(b)の含有割合の下限としては、(A)重合体の全構造単位中、5モル%が好ましい。上記含有割合の上限としては、通常50モル%であり、45モル%が好ましく、40モル%がより好ましい。
【0054】
<構造単位(c)>
構造単位(c)は、下記式(3)で表される構造単位、下記式(4)で表される構造単位又はこれらの組み合わせである。また、構造単位(c)は、構造単位(a)又は(b)と交互共重合体を構成することが好ましい。
【0056】
式(3)中、R
5は、ニトロ基、シアノ基又はホルミル基である。R
6は、炭素数1〜12の1価の有機基である。eは、0〜3の整数である。eが2以上の場合、複数のR
6は、同一であっても異なっていてもよい。
【0058】
式(4)中、Yは、単結合、−SO
2−又は−CO−である。R
7及びR
8は、それぞれ独立して、ハロゲン原子、炭素数1〜12の1価の有機基又はニトロ基である。f及びgは、それぞれ独立して、0〜4の整数である。f又はgが2以上の場合、複数のR
7又は複数のR
8は、同一であっても異なっていてもよい。mは、0又は1である。
【0059】
(A)重合体が構造単位(c)を有する場合、(A)重合体における構造単位(c)の含有割合の上限としては、(A)重合体の全構造単位中、通常75モル%であり、55モル%が好ましい。
【0060】
<他の構造単位(d)>
[A]重合体は、上記構造単位(a)、構造単位(b)及び構造単位(c)以外の他の構造単位(d)を含んでいてもよい。上記他の構造単位(d)としては、例えば非解離性の脂環式炭化水素基を含む構造単位等が挙げられる。[A]重合体が上記他の構造単位(d)を含む場合、上記他の構造単位(d)の含有割合の上限としては、[A]重合体を構成する全構造単位に対して、20モル%が好ましく、15モル%がより好ましく、5モル%がさらに好ましい。
【0061】
<繰り返しユニット>
(A)重合体としては、構造単位(a)を主鎖中に有する限り、特に限定されないが、屈折率をより高くする観点、ガラス転移温度をより低くする観点及び複屈折をより小さくする観点から、構造単位(a−1)自身を繰り返しユニット(以下、「繰り返しユニット(a−1)」ともいう)とするポリエーテル、下記式(X
a)で表される構造単位を繰り返しユニット(以下、「繰り返しユニット(X
a)」ともいう)とするポリカーボネート及び下記式(Y
a)で表される構造単位を繰り返しユニット(以下、「繰り返しユニット(Y
a)」ともいう)とするポリエステルが好ましく、構造単位(a−1)自身を繰り返しユニットとするポリエーテル及び下記式(X
a)で表される構造単位を繰り返しユニットとするポリカーボネートがより好ましい。
【0063】
式(X
a)中、R
2及びbは、上記式(1)と同義である。
【0064】
式(Ya)中、R
2及びbは、上記式(1)と同義である。R
yは、炭素数1〜20の2価の炭化水素基である。
【0065】
なお、(A)重合体がポリエーテルである場合、繰り返しユニット(a−1)は、構造単位(c)と交互共重合体を構成することが好ましい。
【0066】
なお、上記ポリエーテルとは、例えば(A)重合体中の全繰り返しユニットに対する構造単位(a−1)の含有割合が25モル%以上である重合体をいう。上記ポリカーボネートとは、例えば(A)重合体中の全繰り返しユニットに対する上記式(X
a)で表される構造単位の含有割合が25モル%以上である重合体をいう。上記ポリエステルとは、例えば(A)重合体中の全繰り返しユニットに対する上記式(Y
a)で表される構造単位の含有割合が25モル%以上である重合体をいう。
【0067】
<(A)重合体の合成>
(A)重合体は、公知の方法、例えば構造単位(a)を与える芳香族ジオール化合物(a)、必要に応じて、構造単位(b)を与える芳香族ジオール化合物(b)、構造単位(c)を与える化合物(c)等を有機溶媒存在下で所定の反応条件で反応させることで合成できる。(A)重合体の合成時には、芳香族ジオール化合物(a)と共に化合物(a)〜(c)以外の化合物(d)を混合してもよい。
【0068】
(芳香族ジオール化合物(a)及び(b))
芳香族ジオール化合物(a)及び(b)は、芳香族ジオール化合物、その誘導体及び前駆体を含む。この芳香族ジオール化合物(a)としては、典型的には、ジヒドロキシナフタレン、その誘導体、前駆体等が挙げられる。一方、芳香族ジオール化合物(b)としては、典型的には、カテコール、ビスフェノール、その誘導体、前駆体等が挙げられる。
【0069】
ビスフェノールとしては、例えば4,4’−ビフェノール、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)ジフェニルメタン、5,5’−(1−メチルエチリデン)−ビス[1,1’−(ビスフェニル)−2−オール]プロパン、ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、9,9−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、9,9−ビス(3−フェニル−4−ヒドロキシ)フェニルフルオレン、3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソベンゾフラン−1(3H)−オン、1,3−ビス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、これらの前駆体や誘導体等が挙げられる。
【0070】
(化合物(c))
化合物(c)としては、構造単位(c)の構造に応じて適宜選択すればよく、特に制限はない。このような化合物(c)としては、例えばジハロゲン化物等が挙げられる。
【0071】
ジハロゲン化物としては、例えば2,6−ジフルオロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジクロロベンゾニトリル、2、6−ジフルオロベンズアルデヒド、2,6−ジクロロベンズアルデヒド、2,6−ジフルオロニトロベンゼン、2,6−ジクロロニトロベンゼン、4,4’−ジフルオロベンゾフェノン、4,4’−ジクロロベンゾフェノン、ビス(4−フルオロフェニル)スルホン、ビス(4−クロロフェニル)スルホン、これらの前駆体や誘導体等が挙げられる。これらの中で、反応性及び樹脂特性の観点から、2、6−ジフルオロベンゾニトリル、2,6−ジクロロベンゾニトリル、2,4−ジフルオロベンゾニトリル及び2,4−ジクロロベンゾニトリルが好ましく、2,6−ジフルオロベンゾニトリル及び2,4−ジフルオロベンゾニトリルがより好ましい。
【0072】
(化合物(d))
化合物(d)としては、例えばアルカリ金属化合物、構造単位(a)、構造単位(b)及び構造単位(c)以外の構造単位を与える単量体が挙げられる。
【0073】
アルカリ金属化合物は、(A)重合体の合成の過程で、芳香族ジオール化合物(a)等と反応してアルカリ金属塩を形成する。このようなアルカリ金属化合物としては、例えば
リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属;
水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カリウム等の水素化アルカリ金属;
水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ金属;
炭酸リチウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;
炭酸水素リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩などが挙げられる。これらの中で、アルカリ金属炭酸塩及び水酸化アルカリ金属が好ましく、炭酸カリウム及び水酸化ナトリウムがより好ましい。
【0074】
(A)重合体の合成にアルカリ金属化合物を使用する場合、アルカリ金属化合物の使用量の下限としては、(A)重合体の合成に用いる全化合物のフェノール性水酸基に対し、アルカリ金属化合物中の金属原子の量が、通常1倍当量であり、1.1倍当量が好ましく、1.2倍当量がより好ましく、1.3倍当量がさらに好ましい。上記アルカリ金属化合物の使用量の上限としては、アルカリ金属化合物中の金属原子の量が、通常4倍当量であり、3倍当量が好ましく、2.5倍当量がより好ましい。
【0075】
構造単位(a)〜(c)以外の構造単位を与える単量体としては、例えばジヒドロキシベンゼン(カテコールを除く)、9,9−ビス(6−ヒドロキシナフチル)フルオレン等が挙げられる。
【0076】
ジヒドロキシベンゼンとしては、例えばレゾルシノール、ヒドロキノン、フェニルヒドロキノン等のカテコール以外のものが挙げられる。
【0077】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、例えばN,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、スルホラン、ジメチルスルホキシド、ジエチルスルホキシド、ジメチルスルホン、ジエチルスルホン、ジイソプロピルスルホン、ジフェニルスルホン、ジフェニルエーテル、ベンゾフェノン、ベンゾニトリル、塩化メチレン、ジアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)、トリアルコキシベンゼン(アルコキシ基の炭素数1〜4)等が挙げられる。これらの有機溶媒は、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、例示した有機溶媒の中でも、誘電率の高い極性溶媒であることから、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、スルホラン、ジフェニルスルホン及びジメチルスルホキシドが好ましい。
【0078】
(A)重合体の合成には、先に例示した有機溶媒に加えて、ベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサン、シクロヘキサン、オクタン、クロロベンゼン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、アニソール、フェネトール等の水と共沸する溶媒を併用することもできる。
【0079】
(反応条件)
(A)重合体の合成時の反応温度の下限としては、60℃が好ましく、80℃がより好ましい。上記反応温度の上限としては、250℃が好ましく、200℃がより好ましい。上記合成時の反応時間の下限としては、15分が好ましく、1時間がより好ましい。上記反応時間の上限としては、100時間が好ましく、24時間がより好ましい。
【0080】
[樹脂組成物]
樹脂組成物(以下、「(A)樹脂組成物」ともいう)は、(A)重合体と、有機溶媒とを含有する。この(A)樹脂組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。この(A)樹脂組成物は、後述する樹脂ペレットや樹脂成形品を形成するために好適に使用できる。
【0081】
有機溶媒としては、(A)重合体を合成するときに使用される有機溶媒と同様のものが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0082】
他の成分としては、例えば、酸化防止剤、(A)重合体以外の他の重合体等が挙げられる。
【0083】
酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物、リン系化合物、硫黄系化合物、金属系化合物、ヒンダードアミン系化合物が挙げられる。この酸化防止剤としては、ヒンダードフェノール系化合物が好ましい。
【0084】
ヒンダードフェノール系化合物としては、分子量500以上のものが好ましい。分子量500以上のヒンダードフェノール系化合物としては、例えばトリエチレングリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス−(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルアニリノ)−3,5−トリアジン、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス[2−メチル−4−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシ]−5−tert−ブチルフェニル]ブタン、2,2−チオ−ジエチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、トリス−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)−イソシアヌレイト、3,9−ビス[2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5.5]ウンデカン等が挙げられる。
【0085】
[その他の任意成分]
(A)樹脂組成物は、(A)重合体、酸化防止剤及び(A)重合体以外のその他の任意成分を含んでいてもよい。その他の任意成分としては、例えば加工性を向上させる滑剤の他、公知の添加剤、例えば難燃剤、抗菌剤、着色剤、離型剤、発泡剤が挙げられる。これらのその他の任意成分は、1種を単独使用してもよしい、2種以上を併用してもよい。
【0086】
(A)樹脂組成物が酸化防止剤を含む場合、(A)樹脂組成物における酸化防止剤の含有量の下限としては、例えば(A)重合体100質量部に対して0.01質量部である。上記酸化防止剤の含有量の上限としては、例えば10質量部である。
【0087】
(A)樹脂組成物における(A)重合体の含有量の下限としては、例えば(A)樹脂組成物の全固形分中10質量%である。上記(A)重合体の含有量の上限としては、例えば100質量%である。
【0088】
(A)樹脂組成物における有機溶媒の含有量の下限としては、例えば(A)重合体100質量部に対して50質量部である。上記有機溶媒の含有量の上限としては、例えば(A)重合体100質量部に対して100,000質量部である。
【0089】
<(A)樹脂組成物の調製方法>
(A)樹脂組成物は、(A)重合体及び有機溶媒、必要に応じて酸化防止剤、他の樹脂等の他の成分を均一に混合することによって調製される。樹脂組成物は、粉末状、ペレット状、チップ状等の固体状に調製されてもよく、又は液状あるいはペースト状に調製されてもよい。
【0090】
(A)樹脂組成物の調製に用いられる有機溶媒としては、含有成分を均一に溶解し、含有成分と反応しないものが用いられる。このような溶媒としては、例えば(A)重合体の合成時に使用した有機溶媒として例示したものと同様な溶媒等が挙げられる。
【0091】
(A)樹脂組成物を固体状に調製する場合、この(A)樹脂組成物の300℃、10kg荷重でのメルトフローレート(以下、「MFR」ともいう)の下限としては、0.1g/10分が好ましい。上記MFRの上限としては、1000g/10分が好ましい。MFRが0.1g/10分未満であると、押出成形時等の成形時に十分な流動性を確保できず、成形性が悪化するおそれがある。一方、MFRが1000g/10分を超えると、成形物の強度を保てず、金型から取り外す際に割れを生じるおそれがある。
【0092】
[樹脂ペレット]
本発明の樹脂ペレット(以下、「(A)樹脂ペレット」ともいう)は、(A)重合体を主成分とする。この(A)樹脂ペレットは、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。
【0093】
他の成分としては、(A)樹脂組成物の他の成分として例示したものと同様なもの等が挙げられる。
【0094】
この(A)樹脂ペレットは、(A)重合体、必要に応じて他の成分を溶解させた溶液、例えば二軸押出機を用いて(A)樹脂組成物を脱溶し、溶融混練して押出したストランドをペレタイザーにて所定寸法に切断することにより得ることができる。
【0095】
[樹脂成形体]
本発明の樹脂成形体(以下、「(A)樹脂成形体」ともいう)は、(A)重合体を主成分とする。この(A)樹脂成形体は、本発明の効果を損なわない範囲で他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、(A)樹脂組成物の他の成分として例示したものと同様なもの等が挙げられる。(A)樹脂成形体としては、例えば光学部品等が挙げられる。
【0096】
<光学部品>
光学部品としては、例えば波長板、位相差板等の光学フィルム、円錐レンズ、球面レンズ、円筒レンズ等の各種特殊レンズ、レンズアレイなどが挙げられる。
【0097】
<(A)樹脂成形体の製造方法>
(A)樹脂成形体の製造方法としては、例えば金型成形法、押出成形法、溶剤キャスト法等が挙げられる。レンズの製造には、金型成形法が好適である。光学フィルムの製造には、押出成形法及び溶剤キャスト法が好適であり、押出成形法がより好ましい。以下、押出成形法について説明する。
【0098】
(押出成形法)
押出成形法としては、例えば溶融押出法、半溶融押出法等が挙げられるが、溶融押出法が好ましい。溶融押出法としては、各種形状のダイを用いる方法が挙げられるが、中でも、Tダイ、コートハンガーダイを用いる方法が好ましい。
【0099】
このような溶融押出では、熱溶融された樹脂組成物をダイから押出た後、金属ベルト、冷却ロール等に密着させてシート化し、この高分子シートを冷却後に巻き取ることでロール状の光学シートが得られる。
【0100】
光学シートは、ロール状に巻き取る前に、あるいはロール状に巻き取った後に延伸処理を施してもよく、また所定寸法に裁断してもよい。ダイから溶融押出された高分子シートは、金属ベルトに密着させるために、金属ベルトと同様の温度に制御されたエアを吹き付けたり、帯電固定により密着させたりしてもよい。また、延伸処理は、一軸延伸であっても、二軸延伸であってもよい。
【0101】
[(A)重合体及び(A)樹脂成形体の物性]
<(A)重合体のガラス転移温度(Tg)>
(A)重合体のガラス転移温度(Tg)の下限としては、100℃が好ましく、135℃がより好ましい。(A)重合体のガラス転移温度(Tg)の上限としては、300℃が好ましく、250℃がより好ましい。このような(A)重合体のガラス転移温度が250℃以下であることで、(A)重合体の非晶性を好適に高めることができる。そのため、この(A)重合体を主成分とする樹脂ペレットや樹脂組成物は、非晶性溶融押出等の押出成形時の成形性に優れる。ここで、ガラス転移温度(Tg)は、例えばRigaku社の「8230型DSC測定装置」(昇温速度20℃/分)により測定することができる。
【0102】
<(A)重合体の重量平均分子量(Mw)>
(A)重合体の重量平均分子量(Mw)の下限としては、通常2,000であり、5,000が好ましく、10,000がより好ましく、20,000がさらに好ましい。上記(Mw)の上限としては、通常300,000であり、270,000が好ましく、250,000がより好ましい。
【0103】
<光学フィルムの平均厚み>
(A)樹脂成形体としての光学フィルムの平均厚みの下限としては、通常10μmである。上記光学フィルムの平均厚みの上限としては、通常1,000μmであり、500μmがより好ましい。光学フィルムの平均厚みが10μm未満であると、シート強度を十分に確保できないおそれがある。一方、高分子シートの平均厚みが1,000μmを超えると、シートの透明性を確保できなくなるおそれがある。
【0104】
<(A)重合体及び光学部品の全光線透過率>
(A)重合体及び(A)樹脂成形体としての光学部品の全光線透過率の下限としては、平均厚み50μmのシートとして作成したときに85%が好ましく、90%がより好ましい。ここで、全光線透過率は、平均厚み50μmのシートにおける透明度試験法(JIS−K−7105:1981)の値である。シートの全光線透過率が85%以上であることで、光学フィルム等の光学部品の透明性を確保することができる。そのため、光学フィルム等の光学部品は、表示装置等に好適に使用することができる。
【0105】
<(A)重合体及び光学部品の屈折率(nD)及びアッベ数(D)>
(A)重合体及び光学部品の屈折率(nD)の下限としては、1.650が好ましく、1.660がより好ましくし、1.670がさらに好ましい。(A)重合体及び光学部品のアッベ数(D)の上限としては、21が好ましく、20がより好ましく、19がさらに好ましく、18が特に好ましい。(A)重合体及び光学部品の屈折率(nD)が1.65以上であり、且つアッベ数(D)が21以下であることで、レンズ、フィルム等の薄膜化、高付加価値化を実現することが可能となる。
【0106】
<(A)重合体及び(A)光学部品の応力光学係数(C
R)>
(A)重合体及び(A)光学部品の応力光学係数(C
R)の絶対値の上限としては、2,000Brが好ましく、1,500Brがより好ましく、1,000Brがさらに好ましい。光学フィルムの応力光学係数(C
R)の絶対値を上記上限以下とすることで、光学フィルムの複屈折を小さくすることが可能となる。すなわち、成形体の光学歪を小さくすることができ、カメラモジュールレンズ等に適用した場合により高精細な撮像が可能となる。一方、応力光学係数(C
R)の絶対値の下限としては、特に制限はなく、100Brが好ましく、0Brがより好ましい。なお、応力光学係数(C
R)の単位「Br」は、「10
−12Pa
−1」に相当する。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0108】
<重合体の合成>
[実施例1](重合体1の合成)
攪拌子を入れた100mLの3つ口フラスコに、窒素導入管、Dean−Stark管及び冷却管を取り付け、2,3−ジヒドロキシナフタレン(2.08g、13.0mmol)、カテコール(1.43g、13.0mmol)、2,6−ジフルオロベンゾニトリル(2,6−DFBN、3.62g、26.1mmol)、炭酸カリウム(7.19g、52.0mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)18mL及びトルエン5mLを仕込んだ。フラスコ内を窒素置換した後に130℃で加熱撹拌し、生成する水をDean−Stark管により随時除去しながら10時間反応させた。室温まで冷却した後、生成した塩を濾過で除去した。ろ液にイオン交換樹脂(三菱化学社の「ダイヤイオンRCP160M」及び「ダイヤイオンWA21J」)を適量投入し、ミックスローターで2時間攪拌した。イオン交換樹脂を濾紙にて取り除いた後、ろ液をメタノールに投入して固体を析出させた。析出した固体を120℃で真空乾燥し、上記構造単位(a)、構造単位(b)及び構造単位(c)からなる重合体1の粉体を得た。この重合体1の収量は4.79gであり、収率は79%であった。
【0109】
[実施例2](重合体2の合成)
反応物として、2,3−ジヒドロキシナフタレン(8.81g、55.0mmol)、カテコール(3.63g、33.0mmol)、レゾルシノール(2.42g、22.0mmol)、2,6−ジフルオロベンゾニトリル(2,6−DFBN、15.3g、110mmol)、炭酸カリウム(30.5g、220mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)77mL及びトルエン23mLを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記構造単位(a)、構造単位(b)、構造単位(c)及び他の構造単位からなる重合体2の粉体を得た。この重合体2の収量は21.4gであり、収率は83%であった。
【0110】
[実施例3](重合体3の合成)
反応物として、2,3−ジヒドロキシナフタレン(4.81g、30.0mmol)、カテコール(3.67g、33.3mmol)、ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド(0.727g、3.33mmol)、2,6−ジフルオロベンゾニトリル(2,6−DFBN、9.28g、66.7mmol)、炭酸カリウム(18.4g、133mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)47mL及びトルエン13mLを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記構造単位(a)、構造単位(b)、構造単位(c)及び他の構造単位からなる重合体3の粉体を得た。この重合体3の収量は13.5gであり、収率は85%であった。
【0111】
[実施例4](重合体4の合成)
反応物として、2,3−ジヒドロキシナフタレン(6.41g、40.0mmol)、カテコール(0.629g、5.71mmol)、レゾルシノール(1.258g、11.4mmol)、2,4−ジフルオロベンゾニトリル(2,4−DFBN、7.96g、57.2mmol)、炭酸カリウム(15.8g、144.3mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)41mL及びトルエン11mLを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、上記構造単位(a)、構造単位(b)、構造単位(c)及び他の構造単位からなる重合体4の粉体を得た。この重合体4の収量は8.95gであり、収率は64%であった。
【0112】
[実施例5](重合体5の合成)
攪拌子を入れた1Lの3つ口フラスコに、窒素導入管を取り付け、下記スキームで示されるように、2,3−ジヒドロキシナフタレン(9.3g、58mmol)、4,4’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)イソプロピリデン(15.2g、67mmol)及びビス(トリクロロメチル)カーボネート(14.8g、50mmol)を冷却した塩化メチレン400mLに溶解させた。冷却した1M水酸化ナトリウム水溶液320mLを加え、冷却下で激しく2.5時間撹拌した。反応終了後、重合液をメタノール2.5Lに注ぎ凝固し、得られた粉体を濾別し、更にメタノール中で洗浄し乾燥させることで下記式(X)で表される構造単位(a)を含む繰り返しユニット及び下記式(Y)で表される構造単位(b)を含む繰り返しユニットからなる下記式(Z)で表される重合体5の粉体を得た。この重合体5の収量は3.4gであり、収率は13%であった。得られた重合体5の分子量は、Mn2200、Mw2500であった。この重合体5の
1H−NMRスペクトルを
図2に示す。重合体5は、DSC測定によるサーモグラムからは明確な吸熱ピークが確認されなかったため、非晶性であることが判る。
【0113】
【化11】
【0114】
[
1H−NMR分析]
1H−NMR分析は、核磁気共鳴装置(日本電子社の「ECX400P」)を使用し、測定溶媒として重クロロホルムを用いて行った。
【0115】
[比較例1](重合体6の合成)
反応物として、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(BPFL、3.597g、10.3mmol)、2,6−ジフルオロベンゾニトリル(DFBN、1.433g、10.3mmol)、炭酸カリウム(2.850g、20.6mmol)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)15mL及びトルエン3mLを用いた以外は、実施例1と同様な操作を行い、重合体6の粉体を得た。この重合体6の収量は4.3gであり、収率は93%であった。
【0116】
[比較例2](重合体7の合成)
9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(3.597g、10.3mmol)に代えて、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン(1.799g、5.1mmol)及びレゾルシノール(0.562g、5.1mmol)を用いた以外は、比較例1と同様な操作を行い、重合体7の粉体を得た。この重合体7の収量は3.1gであり、収率は90%であった。
【0117】
<評価>
実施例1〜5及び比較例1,2の重合体1〜7について、下記方法に従い重量平均分子量(Mw)を評価した。実施例1〜4及び比較例1,2の重合体1〜4、6及び7について、下記方法に従いガラス転移温度(Tg)、屈折率(nD)、アッベ数(νD)及び応力光学係数(CR)を評価した。また、実施例1〜5の重合体1〜5について、非晶性であるか否かを確認した。実施例1〜4及び比較例1,2の重合体1〜4、6及び7の評価の結果を表1に示す。
【0118】
[重量平均分子量(Mw)[−]]
重合体1〜7のMwは、GPC装置(東ソー社の「HLC−8220型」)を使用し、下記条件で測定した。
カラム:カラム(「SuperH2000」及び「SuperH4000」)と、ガードカラム(「SuperH−L」)とを連結
展開溶媒:テトラヒドロフラン
カラム温度:40℃
流速:1.0mL/分
試料濃度:0.67質量%
試料注入量:100μL
検出器:示差屈折計
標準物質:単分散ポリスチレン
【0119】
[ガラス転移温度(Tg)[℃]]
重合体1〜4、6及び7のガラス転移温度は、DSC装置(Rigaku社の「Thermo Plus DSC8230」)を用いて得られたサーモグラムから算出した。DSC測定は、窒素下、昇温速度を20℃/分として行った。
ガラス転移温度は、サーモグラムでのDSCの昇温曲線において、ベースラインと変曲点での接線との交点に対応する温度として算出した。変曲点は、サーモグラムのDDSC(DSCの微分値)曲線におけるピークに対応する温度とした。また、DSCのベースラインの確認には、適宜DDSC曲線を参照した。
ガラス転移温度(Tg)は、200℃以下である場合を「A」、200℃超の場合を「B」として評価した。
【0120】
[屈折率(nD)[−]及びアッベ数(νD)[−]]
重合体1〜4、6及び7を適量の塩化メチレンに溶解させたものをガラス板上にキャスト成膜し、常温常圧下にて一晩乾燥させた。次いで真空乾燥機にて残存塩化メチレンを除去し、重合体1〜4、6及び7のフィルムを得た。これらのフィルムの屈折率を、Metricon社の「プリズムカプラ モデル2010」にて測定した。屈折率は、408nm、633nm、828nmの3波長にて測定し、Cauchyの式を用いてD線(589nm)での屈折率(nD)を求めた。F線(486nm)及びC線(656nm)の屈折率についても同様にして求め、アッベ数(νD)を算出した。
屈折率(nD)は、1.670以上である場合を「A」、1.670未満の場合を「B」として評価した。
アッベ数(νD)は、18.0以下である場合を「A」、18.0超の場合を「B」として評価した。
【0121】
[応力光学係数(C
R)[Br]]
応力光学係数C
Rは、公知の方法(Polymer Journal、Vol.27、No.9、P.943〜950(1995))により求めた。上記屈折率評価用に成膜したフィルムに数種類の荷重をかけ、Tg+20℃の温度条件下にて加熱延伸し、荷重をかけたままゆっくりと室温まで冷却した。フィルムに加えた応力と、生じた位相差(測定波長550nm)とからC
Rを計算した。位相差の測定には大塚電子社の「RETS分光器」を用いた。応力光学係数(C
R)は、絶対値(|C
R|)が1,000Br以下である場合を「A」、1,000Br超の場合を「B」として評価した。
【0122】
[重合体の非晶性の確認]
重合体1〜5の結晶性は、ガラス転移温度(Tg)[℃]を算出する際に用いたDSC測定のサーモグラムから確認した。このサーモグラムにおいて、ガラス転移温度(Tg)よりも高温域において明確な吸熱ピークを確認できなかった場合に非晶性であると判断した。ここで、実施例1の重合体1のサーモグラムを
図1に示す。このサーモグラムは、横軸が温度(℃)、縦軸(左側)がDSC(mW)、縦軸(右側)がDDSC(mW/min)である。
図1から分かるように、実施例1の重合体1では、ガラス転移温度(Tg)である195℃よりも高温域に明確な吸熱ピークは見られない。このような場合に、重合体が非晶性であると推察した。
【0123】
【表1】
【0124】
表1から明らかなように、実施例1〜4の重合体1〜4は、ガラス転移温度(Tg)、屈折率(nD)、アッベ数(νD)及び応力光学係数(C
R)の評価において良好な結果が得られた。また、実施例1〜4の重合体1〜4は、DSC測定によるサーモグラムからはガラス転移温度(Tg)よりも高温域において明確な吸熱ピークが確認されなかった。そのため、実施例1〜4の重合体1〜4は、非晶性であると推定される。