(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
1基以上の高炉と、1か所以上の溶銑の中間処理を行う中間処理設備と、1か所以上の製鋼工場を備える一貫製鉄所における複数の輸送台車による溶銑の輸送計画を作成する輸送計画作成装置であって、
前記輸送台車が前記高炉から出銑された前記溶銑を前記製鋼工場まで輸送する際に通過する輸送通過工程に関する溶銑輸送計画であって、前記製鋼工場の出鋼計画に基づいて要求される成分の溶銑を要求される時刻に前記輸送台車から前記製鋼工場に払い出し可能となる溶銑輸送計画を作成する溶銑輸送計画作成部と、
前記溶銑輸送計画作成部が作成した前記溶銑輸送計画に基づいて、前記輸送台車と、該輸送台車が前記溶銑を払い出す製鋼工場とを紐付ける溶銑払出計画を作成する溶銑払出計画作成部と、
前記溶銑輸送計画作成部が作成した前記溶銑輸送計画と、前記溶銑払出計画作成部が作成した前記溶銑払出計画とに基づき、前記輸送台車が前記溶銑を払い出して空車となる時刻を決定するとともに、前記空車となった前記輸送台車が前記高炉に回送される際に通過する回送通過工程に関する回送計画を含む全体計画であって、前記高炉の出銑予定に基づいて要求される時刻に前記空車となった前記輸送台車が受銑可能となる全体計画を作成して、該全体計画を前記輸送計画と決定する全体計画作成部と
を備える、輸送計画作成装置。
前記溶銑輸送計画作成部は、前記輸送台車が前記高炉から前記製鋼工場まで移動するに際して通過する前記輸送通過工程における各工程の干渉状態を、前記最適化問題の制約条件として使用し、
前記全体計画作成部は、前記輸送台車の前記回送に際して通過する前記回送通過工程における各工程の干渉状態を、前記制約充足問題の制約条件として使用する、
請求項2に記載の輸送計画作成装置。
前記全体計画作成部が前記制約充足問題の前記制約条件を満たす解が導出できない場合、作成した前記輸送計画に関する前記輸送通過工程及び前記回送通過工程とは異なる輸送通過工程及び回送通過工程について、前記輸送計画の作成処理を再度実行する、請求項3に記載の輸送計画作成装置。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明にかかる一実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
図1は、製鉄所内における溶銑の輸送設備の一例を示す概念図である。
図1に示すように、溶銑輸送設備100は、高炉(高炉1から高炉N)110と、前除滓設備(前除滓設備1から前除滓設備K)120と、溶銑予備処理設備(溶銑予備処理設備1から溶銑予備処理設備M)130と、後除滓設備(後除滓設備1から後除滓設備L)140と、製鋼工場(製鋼工場1から製鋼工場O)150と、クリーニングセンタ(クリーニングセンタ1からクリーニングセンタP)160とを備える、一貫製鉄所内に設けられた設備である。溶銑輸送設備100は、例えば工場の規模及び生産能力等に応じて、高炉110、前除滓設備120、溶銑予備処理設備130、後除滓設備140、製鋼工場150及びクリーニングセンタ160等の各設備を、それぞれ複数備えていてもよく、
図1は、これらの各設備を、全て複数備える溶銑輸送設備100を示している。なお、以下、本明細書において、前除滓設備120、溶銑予備処理設備130及び後除滓設備140をまとめて中間処理設備ともいい、中間処理設備が行う除滓処理及び溶銑予備処理等をまとめて中間処理ともいう。
【0018】
溶銑輸送設備100は、溶銑を輸送するトピードカー等の輸送台車170と、輸送台車170を連結することによって牽引する機関車等の車両171とを備える。また、溶銑輸送設備100は、輸送台車170及び車両171が、高炉110、前除滓設備120、溶銑予備処理設備130、後除滓設備140、製鋼工場150及びクリーニングセンタ160等の各設備を、この順序で巡回できるように配設された線路を備える。各設備間をつなぐ線路は、複数設けられていてもよい。すなわち、輸送台車170及び車両171は、複数の線路(経路)のうち、いずれか1つの経路を通って、各設備間を移動する。溶銑輸送設備100は、輸送台車170及び車両171が、いずれかの設備を経由せずに巡回できるように配設された、迂回するための線路(迂回路)を備えていてもよい。
図1では、高炉110から、中間処理設備を経由せずに、製鋼工場150へ直接移動可能な迂回路と、製鋼工場150から、クリーニングセンタ160を経由せずに、高炉110に直接移動可能な迂回路とが示されている。
【0019】
ここで、輸送台車170が迂回路を使用せずに全ての設備を経由する場合における溶銑の輸送の流れについて説明する。まず、輸送台車170は、高炉110において出銑される溶銑を受銑する。前除滓設備120では、輸送台車170に受銑された溶銑のスラグを除去する処理が行われる。次に、溶銑予備処理設備130において、溶銑の成分調整のために、溶銑に含まれるケイ素及びリン等の不純物を取り除く処理が行われる。そして、後除滓設備140において、成分調整後の溶銑のスラグを除去する処理が行われる。中間処理設備で除滓処理及び成分調整処理が行われた溶銑は、製鋼工場
150へ輸送されて、製鋼工場
150で払い出される。溶銑を払い出した輸送台車170は、その内部を清掃するクリーニングセンタ160を経由して、高炉110に戻る。輸送台車170は、この巡回を繰り返す。
【0020】
溶銑は、製鋼工場150の出鋼計画に基づいて製鋼工場150において要求される所定の成分に近いほど、製鋼工場150での処理負担が少なくなるため、効率的な製鋼工場150の操業が可能となる。そのため、溶銑は、各中間処理設備を経由して所定の処理を行うことにより、予め製鋼工場150が要求する成分となっていることが好ましい。
【0021】
図2は、本発明の一実施形態に係る輸送計画作成装置を含む輸送計画作成システムの概略構成を示す機能ブロック図である。輸送計画作成システム200は、本実施形態に係る輸送計画作成装置300と、ビジネスコンピュータ410及びプロセスコンピュータ420を含む上位システム部400とを有する。
【0022】
輸送計画作成装置300は、 例えばコンピュータにより構成され、記憶部310と、入力部320と、前処理部330と、輸送計画作成部340と、表示部350と、制御部360と、通信部370とを備える。輸送計画作成装置300は、製鉄所内における輸送台車170による溶銑の輸送計画を作成する。輸送計画は、高炉110から製鋼工場150への溶銑の輸送と、製鋼工場150に溶銑を払い出して空車となった輸送台車170の高炉110への回送とを含む
。
【0023】
記憶部310は、例えばリレーショナルデータベース等で構成され、輸送計画作成装置300が輸送計画作成において使用するための各種データを記憶する。記憶部310が記憶するデータの一例については、後述する溶銑輸送計画作成部341、溶銑払出計画作成部342及び全体計画作成部343の説明において、適宜説明する。
【0024】
入力部320は、輸送計画作成装置300に対する入力操作を受け付ける。入力部320は、例えばキーボード及びマウス等の入力手段により構成される。
【0025】
前処理部330は、輸送計画作成装置300が上位システム部400から取得した各種データ及び記憶部310に記憶されている各種データを読み込み、輸送計画作成部340が輸送計画を作成するに際して使用するデータの整理及びクリーニング等の前処理を実行する。
【0026】
輸送計画作成部340は、前処理部330で処理されたデータに基づいて、輸送計画を作成する。本明細書において、輸送計画は、輸送台車170が、高炉110で溶銑を受銑し、必要に応じて中間処理設備を経由し、溶銑を製鋼工場150で払い出し、必要に応じてクリーニングセンタ160を経由して、高炉110に戻るまでの一連の輸送のフローをいう。輸送計画作成部340は、溶銑輸送計画作成部341と、溶銑払出計画作成部342と、全体計画作成部343とを有する。輸送計画作成部340は、溶銑輸送計画作成部341、溶銑払出計画作成部342及び全体計画作成部343において、輸送計画を3つに区分した所定の範囲の計画を最適化問題として定式化し、順に演算処理を行うことにより、輸送計画を作成する。溶銑輸送計画作成部341、溶銑払出計画作成部342及び全体計画作成部343がそれぞれ行う処理の詳細については、後述する。
【0027】
表示部350は、様々な情報の表示を行い、本実施形態では、特に輸送計画作成部340が作成した輸送計画に関する情報の表示を行う。表示部350は、例えばブラウン管(CRT:Cathode Ray Tube)、液晶パネル(LCD:Liquid Crystal Display)又は有機ELパネル(OELD:Organic Electroluminescence Display)等を用いて構成される。表示部350に表示される輸送計画の例については、後述する
図7において説明する。
【0028】
制御部360は、輸送計画作成装置300の各機能ブロックをはじめとして、輸送計画作成装置300の全体を制御及び管理するプロセッサである。なお、本実施形態では、輸送計画作成部340が制御部360とは異なる独立した機能部であるとして説明するが、制御部360は、輸送計画作成部340の機能を有していてもよい。
【0029】
通信部370は、無線又は有線の通信手段により、プロセスコンピュータ420が有する通信部と通信を行う。輸送計画作成装置300は、通信部370を介して、プロセスコンピュータ420から、輸送計画の作成に必要なデータを取得する。また、輸送計画作成装置300は、通信部370を介して、例えば作成した輸送計画をプロセスコンピュータ420に送信する。なお、通信部370は、ビジネスコンピュータ410に接続され、ビジネスコンピュータ410から各種データを取得できるように構成してもよい。
【0030】
ビジネスコンピュータ410は、各高炉110の出銑の予定及び各製鋼工場150の出鋼計画を作成及び管理する。ビジネスコンピュータ410は、プロセスコンピュータ420と通信可能に接続されており、作成した出銑予定及び出鋼計画をプロセスコンピュータ420に送信する。
【0031】
プロセスコンピュータ420は、高炉110、前除滓設備120、溶銑予備処理設備130、後除滓設備140、製鋼工場150、クリーニングセンタ160、輸送台車170及び車両171等の各設備の動作の制御及び管理を行う。プロセスコンピュータ420は、例えば、ビジネスコンピュータ410から取得した出銑予定及び出鋼計画、並びに輸送計画作成装置300から取得した輸送計画に基づき、各設備の動作の制御及び管理を行う。
【0032】
具体的には、プロセスコンピュータ420は、例えば、各高炉110の出銑状況、各中間処理設備の稼働状況、各中間処理設備が処理の完了までに要する時間、各輸送台車170の現在位置、各輸送台車170が溶銑を輸送しているか否か等に関する情報を取得し、各設備の動作を制御する。
【0033】
また、プロセスコンピュータ420は、例えば各設備の稼働状況及び溶銑の輸送状況等に基づいて、輸送計画作成装置300に、輸送計画の作成を開始するように指示するための輸送計画作成指示を送信する。プロセスコンピュータ420は、例えば、高炉の出銑状況等の各設備の稼働状況が、実行中の輸送計画と一定程度乖離した場合に輸送計画作成指示を送信する。
【0034】
次に、輸送計画作成部340における輸送計画の作成の詳細について説明する。輸送計画作成装置300は、例えば上位システム部400のプロセスコンピュータ
420が送信した輸送計画作成指示に基づき、輸送計画の作成を行う。
【0035】
まず、溶銑輸送計画作成部341における演算について説明する。溶銑輸送計画作成部341は、各輸送台車170が各高炉110から出銑された溶銑を各製鋼工場150まで輸送する輸送通過工程に関する計画(以下、「溶銑輸送計画」ともいう)を作成する。つまり、溶銑輸送計画作成部341は、各輸送台車170が、どの線路を通って、どの中間処理設備を経由して、又はいずれの中間処理設備も経由せずに、高炉110から製鋼工場150まで移動するかに関する計画を作成する。
【0036】
なお、以下の溶銑輸送計画作成部341に関する説明において、工程とは、高炉110における受銑、各中間処理設備で行われる処理、及び各設備間の経路の移動のそれぞれを意味するものとする。つまり、工程開始は、例えば高炉110における受銑開始、各中間処理設備における処理開始、又は移動開始を意味し、工程終了は、例えば高炉110における受銑終了、各中間処理設備における処理終了、又は移動完了(次の工程が行われる設備への到着)を意味する。
【0037】
溶銑輸送計画作成部341は、溶銑輸送計画を目的関数に基づく制約条件付き最適化問題として定式化し、定式化された変数の解を算出することにより、溶銑輸送計画を作成する。本実施形態では、溶銑輸送計画作成部341は、輸送台車170が通過する工程(設備及び経路)と、その通過に関する時刻とを、決定すべき変数(決定変数)として定義する。溶銑輸送計画作成部341は、溶銑の輸送に際して生じる種々の制約条件を考慮して、目的関数を使用して、決定変数の解を算出する。溶銑輸送計画作成部341は、輸送台車170が高炉110から製鋼工場150まで移動するに際して通過する各工程において満たされるべき各工程の状態(干渉状態)を、最適化問題の制約条件として使用する。各工程の干渉状態は、輸送台車170の輸送に伴う経路の取り合い状態、及び輸送台車170による中間処理設備の占有に関する状態を含む。
【0038】
まず、決定変数について説明する。溶銑輸送計画作成部341は、決定変数として、各工程の開始時刻に関する決定変数1−1、各工程での所要時間(つまり、処理時間又は移動時間)に関する決定変数1−2、及び通過する工程(輸送通過工程)に関する決定変数1−3を定義する。
【0039】
下記数式(1)は、溶銑輸送計画作成部341が定義する、各工程の開始時刻vStartTime[i][pc]に関する決定変数1−1である。
【0041】
数式(1)において、i、pc、C及びPRCは、それぞれ以下の意味で使用され、本明細書において、以後同様の意味で使用される。
i:溶銑輸送計画の作成対象となっている輸送台車170
C:溶銑輸送計画の作成対象となっている輸送台車170の集合
pc:輸送台車170が通過する設備及び経路
PRC:輸送台車170が通過する設備及び経路の順序を示す集合
【0042】
また、下記数式(2)は、溶銑輸送計画作成部341が定義する、各工程での所要時間vProcTime[i][pc]に関する決定変数1−2である。
【0044】
また、下記数式(3)は、溶銑輸送計画作成部341が定義する、通過工程vCar1[i][pt]に関する決定変数1−3である。
【0046】
数式(3)は、複数の通過工程のパターンのうち、溶銑輸送計画作成部341により演算において選択されたパターンを「1」、選択されていないパターンを「0」とするものである。つまり、輸送台車170が取りうる通過工程パターンは、
図3にその一部を示すように、複数存在するが、数式(3)は、通過工程パターンのうち選択された1つの通過工程パターンのみを「1」とするものである。
【0047】
なお、数式(3)において、pt及びPTNは、それぞれ以下の意味で使用され、本明細書において、以後同様の意味で使用される。
pt:輸送台車170が選択可能な通過工程パターン
PTN:輸送台車170が選択可能な通過工程パターンの集合
【0048】
決定変数1−3の演算処理に当たっては、選択不可能な通過工程パターンを排除するための数式(4)に示す変数vCar[i][pt]が用いられる。
【0050】
数式(4)において、cImps[i][pt]は選択可能又は選択不可能な通過工程パターンを定義する重み係数であり、輸送台車iが選択可能な通過工程パターンではcImps[i][pt]=1となり、輸送台車iが選択不可能な通過工程パターンではcImps[i][pt]=0となる定数である。例えば、輸送台車170は、仕様によっては溶銑予備処理を行うことができない場合がある。このような輸送台車170が溶銑予備処理設備130を経由する通過工程パターンについては、重み係数cImps[i][pt]は、cImps[i][pt]=0となる。このように重み係数cImps[i][pt]を定義することにより、溶銑輸送計画作成部341は、選択可能な通過工程パターンについて、溶銑輸送計画を作成できる。重み係数cImps[i][pt]は、例えば記憶部310に記憶されている。
【0051】
なお、輸送計画作成部340は、詳細については後述するが、作成した輸送計画が実行可能な解でないと判断した場合、作成した輸送計画の通過工程パターンについて、記憶部310に記憶された重み係数cImps[i][pt]を、cImps[i][pt]=1からcImps[i][pt]=0に変更する。輸送台車iは実行不可能な輸送計画の通過工程パターンを選択して溶銑を輸送することができないため、このように実行不可能な輸送計画が作成された場合に、制御部360が重み係数cImps[i][pt]を変更することによって、溶銑輸送計画作成部341は、選択不可能な通過工程パターンを排除しながら、選択可能な通過工程パターンについて溶銑輸送計画を作成できる。
【0052】
次に、溶銑輸送計画の作成における制約条件について説明する。本実施形態において、溶銑輸送計画作成部341は、下記制約条件1−1から制約条件1−7を使用して、溶銑輸送計画を作成する。
【0053】
数式(5)は、輸送台車iが選択可能な通過工程パターンが、1つに限定されることを定めた制約条件1−1を示す。制約条件1−1により、通過工程パターンが1つに定まる。
【0055】
数式(6)は、輸送台車iが高炉nで受銑を開始する時刻に関する制約条件1−2である。制約条件1−2により、輸送台車iの受銑開始時刻が定められる。
【0057】
ここで、BFnは、輸送台車iが通過する工程が高炉nであることを示す値である。具体的な受銑開始時刻は、例えば、高炉nに待機している、溶銑が入っていない空車状態の輸送台車170の数量と、上位システム部400から取得した高炉nの出銑予定に基づき、前処理部330が予め算出する。
【0058】
数式(7)及び(8)は、各工程における所要時間の範囲に関する制約条件1−3である。制約条件1−3により、各工程での所要時間の範囲が定められる。
【0061】
数式(7)におけるcProcMin[pt][pc]は、通過工程pcにおける所要時間の下限値であり、例えば、高炉110での受銑にかかる最小時間、中間設備での処理にかかる最小時間、又は経路の移動にかかる最小時間等である。所要時間の下限値cProcMin[pt][pc]に係るデータは、例えば予め記憶部310に記憶されており、前処理部330において処理されて、溶銑輸送計画作成部341において使用される。数式(7)で示される制約条件1−3により、各工程における最低限の所要時間が確保される。
【0062】
また、数式(8)におけるcProcMax[pt][pc]は、通過工程pcに輸送台車iが停留可能な最大時間であり、例えば、予め入力部320から入力された時間が記憶部310に記憶されている。溶銑輸送計画作成部341は、記憶部310に記憶されており、前処理部330において処理されたデータを使用する。数式(8)で示される制約条件1−3により、輸送台車iが各工程において所定時間以上停留することを防ぐことができる。
【0063】
数式(9)は、通過工程の順序と、次の工程の開始時刻に関する制約条件1−4である。つまり、数式(9)で示す制約条件1−4は、ある工程の終了時刻と、その次の工程の開始時刻とが同じであることを示し、さらに言い換えれば、現工程の終了と同時に次工程が開始されることを意味する。
【0065】
数式(10)は、各工程において停留させることができる輸送台車iの最大台数に関する制約条件1−5である。つまり、数式(10)で示される制約条件1−5は、各工程において重複して停留させることが可能な輸送台車iの台数を定めたものである。
【0067】
数式(10)において、vmOverlapNum[i][pc]は、数式(11)を満たす中間変数である。
【0069】
つまり、vmOverlapNum[i][pc]は、輸送台車iが、ある工程に存在する場合に、他の輸送台車が同一の工程に存在する場合に「1」となる中間変数である。具体的には、vmOverlapNum[i][pc]=1となるのは、次の数式(12)又は(13)のいずれかの場合である。
【0075】
数式(12)及び(13)がそれぞれ示す、1つの工程に複数の輸送台車が存在するケースについて、
図4を参照して説明する。
図4(a)は、数式(12)によって表現されるケースを示しており、輸送台車iがある工程を開始した後であって輸送台車iが当該工程を終了する前に、輸送台車i'が当該工程を開始するケースを示している。数式(12)により表現されるケースは、輸送台車i'の当該工程の終了時刻が、
図4(a)(i)に示すように輸送台車iの当該工程の終了時刻よりも後に終了する場合と、
図4(a)(ii)に示すように輸送台車iの当該工程の終了時刻よりも前に終了する場合とが含まれる。また、数式(12)により表現されるケースは、輸送台車iと輸送台車i'との当該工程の終了時刻が同時刻であってもよい。
【0076】
図4(b)は、数式(13)によって表現されるケースを示しており、輸送台車i'がある工程を開始した後であって輸送台車i'が当該工程を終了する前に、輸送台車iが当該工程を開始するケースを示している。数式(13)により表現されるケースは、輸送台車iの当該工程の終了時刻が、
図4(b)(i)に示すように輸送台車i'の当該工程の終了時刻よりも後に終了する場合と、
図4(b)(ii)に示すように輸送台車i'の当該工程の終了時刻よりも前に終了する場合とが含まれる。また、数式(12)により表現されるケースは、輸送台車iと輸送台車i'との当該工程の終了時刻が同時刻であってもよい。
【0077】
なお、cOverlapMax[pc]は、通過工程pcにおいて停留させることができる輸送台車iの最大台数が定義された定数であり、記憶部310に記憶されているデータを、前処理部330が取り出して作成した定数である。制約条件1−5により、1つの工程に過剰に輸送台車iが停留することを防止しやすくなる。
【0078】
数式(16)は、製鋼工場150において輸送台車170から払い出される溶銑の量(払出チャージ)に関する制約条件1−6である。制約条件1−6は、製鋼工場150が出鋼計画に基づく出鋼を行うために必要な溶銑量(重量)を満たすべきことを定めた条件である。
【0080】
数式(16)において、sm、SMS、ch及びCHは、それぞれ以下の意味で使用され、本明細書において、以後同様の意味で使用される。
sm:溶銑輸送計画の作成対象となっている製鋼工場150
SMS:溶銑輸送計画の作成対象となっている製鋼工場150の集合
ch:輸送台車170による製鋼工場150への払出チャージ
CH:輸送台車170による製鋼工場150への払出チャージ
の集合
【0081】
また、数式(16)において、vmSumPigWt[sm][ch]は、次の数式(17)を満たす中間変数である。
【0083】
中間変数vmSumPigWt[sm][ch]は、製鋼工場smにおいて払出しを行うまでに、輸送台車170が高炉110から製鋼工場smまで輸送してきた溶銑量の総和であり、次の数式(18)で表現される。
【0085】
中間変数vmSumPigWt[sm][ch]は、次の数式(19)が満たされる場合に算出される。
【0087】
ここで、数式(18)において、cSMS[sm][pt]は、通過工程パターンptにおける仕向け先(つまり到着する製鋼工場)が製鋼工場smである場合「1」となり、仕向け先が製鋼工場smでない場合「0」となる定数である。また、cWt[i]は、輸送台車iが高炉110から製鋼工場smまで輸送した溶銑量であり、cSmsUnloadTime[sm][ch]は、製鋼工場smにおける払出しの開始時刻を表す定数である。数式(19)は、製鋼工場smでの払出しの開始時刻において、輸送台車iが製鋼工場smに到着していなければならないことを示している。
【0088】
また、数式(16)において、cSmsStockCap[sm][ch]は、製鋼工場smにおける払出しの際に、製鋼工場smが有していることが必要な在庫の溶銑量(必要在庫溶銑量)である。必要在庫溶銑量cSmsStockCap[sm][ch]は、上位システム部400から取得した製鋼工場smの出鋼計画に基づき、前処理部330が算出する。
【0089】
制約条件1−6により、製鋼工場smにおいて、出鋼計画に基づいて加工を行うに際し、原料となる溶銑が不足することを防ぐことができる。
【0090】
数式(20)は、輸送台車iが高炉110において受銑を終了してから製鋼工場150に到着するまでにかかる時間(以下、「溶銑輸送リードタイム」ともいう)の上限に関する制約条件1−7である。
【0092】
溶銑輸送リードタイムが所定の時間より長くなると、輸送の間に溶銑の温度が低下し、製鋼工場150において溶銑を昇温する必要が生じうる。これを防ぐために、制約条件1−7が設けられる。溶銑輸送リードタイムの上限を示すcMaxLeadTimeは、例えば入力部320への入力に基づいて予め記憶部310に記憶されており、前処理部330が記憶部310に記憶されたデータを読み込んで、溶銑輸送計画作成部341で使用される。
【0093】
次に、溶銑輸送計画の作成にあたり溶銑輸送計画作成部341が使用する目的関数J1について説明する。本実施形態において、溶銑輸送計画作成部341は、下記数式(21)で示される目的関数J1を使用して所定の演算を行い、決定変数の解を算出することによって、溶銑輸送計画を作成する。本実施形態では、溶銑輸送計画作成部341は、目的関数J1が最小となるように、決定変数1−1から1−3を算出する。
【0095】
数式(21)において、vmSumSeibunWt[sm][ch]は、輸送台車170が高炉110から製鋼工場smに輸送した溶銑の成分を示す中間変数であり、例えば溶銑の不純物の含有量に関する情報を示す中間変数である。中間変数vmSumSeibunWt[sm][ch]は、次の数式(22)で表現される。
【0098】
数式(22)において、cAjust[pt]は、通過工程パターンptごとに製鋼工場smに輸送される溶銑の成分に関する情報(溶銑成分値)を示し、例えば、溶銑の単位重量当たりの不純物の含有量に関する情報を示す。
【0099】
また、数式(21)で示す目的関数J1において、cSmsStockMaxSeibun[sm][ch]は、製鋼工場smへの払出チャージchにおいて許容される溶銑成分値の最大値を示す。cSmsStockMaxSeibun[sm][ch]は、例えば上位システム部400から取得した取得した製鋼工場smの出鋼計画に基づき、前処理部330が製鋼工場smごとに予め算出する。
【0100】
溶銑輸送計画作成部341は、制約条件1−1から1−7を満たし、かつ、目的関数J1が最小となるように、決定変数1−1から1−3を算出する。溶銑輸送計画作成部341は、決定変数の算出により導出された、時間及び通過工程を溶銑輸送計画として決定する。
【0101】
目的関数J1が溶銑の成分に関する項を含むことにより、溶銑輸送計画作成部341は、溶銑の成分が所望の成分になるように中間処理設備を経由する輸送計画を作成しやすくなるため、製鋼工場smの出鋼計画に基づく出鋼(生産)をより効率的に行うことができる成分となるような溶銑輸送計画を作成しやすくなる。また、目的関数J1が各工程pcでかかる時間に関する項を含むことにより、溶銑輸送計画作成部341は、溶銑輸送リードタイムがより短い溶銑輸送計画を作成しやすくなる。このように、溶銑輸送計画作成部341は、目的関数J1を用いて、溶銑の成分及び溶銑輸送リードタイムを考慮した溶銑輸送計画を作成する。
【0102】
次に、溶銑払出計画作成部342における演算について説明する。溶銑払出計画作成部342は、溶銑輸送計画作成部341で作成された溶銑輸送計画に基づき、製鋼工場150まで溶銑を輸送した1台以上の輸送台車170と、輸送台車170が溶銑を払い出す1つ以上の製鋼工場150とを紐付ける計画(以下、「溶銑払出計画」ともいう)を作成する。輸送台車170は、高炉110から輸送した溶銑を、1つ以上の製鋼工場150に分配して払い出すことができる。つまり、輸送台車170は、溶銑の払出チャージを分配することができる。溶銑払出計画作成部342は、各輸送台車170が、どの製鋼工場150に、どれくらいの量の溶銑の払出チャージを分配するかに関する計画を作成する。
【0103】
溶銑払出計画作成部342は、溶銑払出計画を目的関数に基づく制約条件付き最適化問題として定式化し、定式化された変数の解を算出することにより、溶銑払出計画を作成する。本実施形態では、溶銑払出計画作成部342は、輸送台車170が各製鋼工場150に払い出す溶銑量を、決定すべき変数(決定変数)として定義する。溶銑払出計画作成部342は、溶銑の払出しにおける種々の制約条件を考慮して、目的関数を使用して、決定変数の解を算出する。
【0104】
下記数式(23)は、溶銑払出計画作成部342が定義する、輸送台車iから製鋼工場smへの溶銑の払出チャージchの分配vDivCarWt[sm][i][ch]に関する決定変数2−1である。すなわち、決定変数2−1は、輸送台車iで輸送された溶銑を製鋼工場smの払出チャージchとして、どれくらいの重量の紐付けをするかを決定するための変数である。
【0106】
次に、溶銑払出計画の作成における制約条件について説明する。本実施形態において、溶銑払出計画作成部342は、下記制約条件2−1から制約条件2−5を使用して、溶銑輸送計画を作成する。
【0107】
数式(24)は、製鋼工場smの払出チャージchに分配された輸送台車iの溶銑の総量に関する制約条件2−1である。すなわち、制約条件2−1では、輸送台車iが各製鋼工場smで払い出す払出チャージchの総和が、輸送台車iが高炉110から輸送した溶銑量以下となることを定めている。
【0109】
数式(24)で示される制約条件2−1において、cCarWt[sm][i]は、仕向け先(つまり到着する製鋼工場)が製鋼工場smである輸送台車iが輸送する溶銑量を示す定数である。溶銑払出計画作成部342は、溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画を参照することにより得られる、輸送台車iの仕向け先の製鋼工場smと、輸送台車iが輸送する溶銑量とに基づいて、定数cCarWt[sm][i]を決定できる。
【0110】
数式(25)は、複数の輸送台車iから製鋼工場smの払出チャージchとして分配された溶銑量の総和に関する制約条件2−2である。すなわち、制約条件2−2では、複数の輸送台車iから製鋼工場smに払い出される払出チャージchが、製鋼工場smが出鋼計画に基づいて出鋼を行うために必要な溶銑量を満たすべきことを定めている。
【0112】
数式(25)において、cSMSChWt[sm][ch]は、製鋼工場smが出鋼計画に基づいて出鋼を行うために必要とする溶銑量を示す定数である。定数cSMSChWt[sm][ch]は、上位システム部400から取得した製鋼工場smの出鋼計画に基づき、前処理部330が予め算出する。
【0113】
数式(26)は、各製鋼工場smに対する輸送台車iの溶銑の払出チャージchへの分配回数の上限に関する制約条件2−3である。すなわち、制約条件2−3は、払出チャージchへの分配回数の上限を定める。
【0115】
数式(26)において、vmDivCar[sm][i][ch]は、次の数式(27)により表される中間変数である。
【0119】
つまり、中間変数vmDivCar[sm][i][ch]は、輸送台車iから製鋼工場smに払出チャージchが分配される場合に「1」となる。
【0120】
また、数式(26)において、cMaxSMSChNum[sm][i]は、輸送台車iから製鋼工場smへの払出チャージchの分配回数の上限値を示す定数である。定数cMaxSMSChNum[sm][i]は、例えば入力部320への入力に基づいて予め記憶部310に記憶されており、前処理部330が記憶部310に記憶されたデータを読み込んで、溶銑払出計画作成部342で使用される。
【0121】
制約条件2−3により、輸送台車iから製鋼工場smへの払出チャージchの分配回数が所定の回数以下に定められる。そのため、所定の回数より多くの回数払出チャージchが分配されて輸送台車iが輸送した溶銑の温度が低下しすぎることを防ぎやすくなる。
【0122】
数式(29)は、製鋼工場smに対して溶銑の払出しを行うことが可能な輸送台車iの台数に関する制約条件2−4である。すなわち、制約条件2−4は、製鋼工場smが最大で何台の輸送台車iから払出チャージchを受けることができるかについての上限を定める。
【0124】
数式(29)において、cCarDivNum[sm][ch]は、製鋼工場smに対して払出チャージchを払い出す輸送台車iの上限数を示す定数である。定数cCarDivNum[sm][ch]は、例えば、製鋼工場smが輸送台車iから払出しを受けるスペースや輸送台車iを受け入れる線路の本数等、製鋼工場smが備える設備の状況等に基づいて、予め入力部320から入力されて、記憶部310に記憶されている。そして、前処理部330が記憶部310に記憶された定数cCarDivNum[sm][ch]に関するデータを読み込むことにより、定数cCarDivNum[sm][ch]は、溶銑払出計画作成部342において溶銑払出計画の作成の際に使用される。
【0125】
数式(30)は、製鋼工場smに対して溶銑の払出しを行う輸送台車iの製鋼工場smへの到着時刻に関する制約条件2−5である。すなわち、制約条件2−5は、製鋼工場smへの払出しを行う輸送台車iが、製鋼工場smへの払出の開始時刻までに製鋼工場smに到着していなければならないことについて定めている。
【0127】
数式(30)において、cCarArrTime[i]は、輸送台車iが製鋼工場smに到着する時刻を示す定数である。溶銑払出計画作成部342は、溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画を参照して得られる輸送台車iの製鋼工場smへの到着時刻に基づいて、定数cCarArrTime[i]を算出できる。
【0128】
次に、溶銑払出計画の作成にあたり溶銑払出計画作成部342が使用する目的関数J2について説明する。本実施形態において、溶銑払出計画作成部342は、下記数式(31)で示される目的関数J2を使用して所定の演算を行い、決定変数の解を算出することによって、溶銑払出計画を作成する。本実施形態では、溶銑払出計画作成部342は、目的関数J2が最小となるように、決定変数2−1を算出する。
【0130】
数式(31)において、cCarSeibunRatio[sm][i]は、製鋼工場smで払出しを行う輸送台車iの溶銑の成分比を示す定数である。溶銑払出計画作成部342は、溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画を参照して得られる輸送台車iの溶銑量(重量)と、輸送台車iの通過工程とに基づいて、定数cCarSeibunRatio[sm][i]を算出できる。
【0131】
また、数式(31)において、cSMSMaxSeibun[sm][ch]は、製鋼工場smが出鋼計画に基づいて要求する溶銑成分値の最大値を示す定数である。定数cSMSMaxSeibun[sm][ch]は、上位システム部400から取得した製鋼工場smの出鋼計画に基づき、製鋼工場smごとに前処理部330が予め算出する。
【0132】
溶銑払出計画作成部342は、制約条件2−1から2−5を満たし、かつ、目的関数J2が最小となるように、決定変数2−1を算出する。溶銑払出計画作成部342は、決定変数の算出により導出された、分配を溶銑払出計画として決定する。
【0133】
目的関数J2が溶銑の成分に関する項を含むことにより、溶銑払出計画作成部342は、溶銑の成分が所望の成分になるように中間処理設備を経由する輸送計画を作成しやすくなるため、製鋼工場smの出鋼計画に基づく出鋼(生産)をより効率的に行うことができる成分となるような溶銑払出計画を作成しやすくなる。また、目的関数J2が輸送台車iの製鋼工場smへの到着時刻及び製鋼工場smにおける払出開始時刻に関する項を含むことにより、溶銑払出計画作成部342は、各輸送台車iが製鋼工場smに到着してから払出しを開始するまでの時刻がより短くなる溶銑払出計画を作成しやすくなる。このように、溶銑払出計画作成部342は、目的関数J2を用いて、溶銑の成分及び払出誌に関する時刻を考慮した溶銑払出計画を作成する。
【0134】
次に、全体計画作成部343における演算について説明する。溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画により、輸送台車170の製鋼工場150への到着時刻が決定されており、溶銑払出計画作成部342が作成した溶銑払出計画により、輸送台車170から溶銑の払出しが開始される時刻が決定されている。全体計画作成部343は、溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画と、溶銑払出計画作成部342が作成した溶銑払出計画とに基づいて、溶銑を払い出して空車となった輸送台車170の高炉110への回送の通過工程(回送通過工程)を含む輸送計画の全体(以下、「全体計画」ともいう)を作成する。
【0135】
なお、以下の全体計画作成部343に関する説明において、工程とは、溶銑輸送計画作成部341に関する説明で説明した各工程に加え、各クリーニングセンタ160で行われる清掃処理を含むものとする。つまり、工程開始は、例えばクリーニングセンタ160における清掃開始を含み、工程終了は、例えばクリーニングセンタ160における清掃終了を含む。
【0136】
図5は、全体計画作成部343が作成する全体計画のパターンの例を示す図である。
図5に示すように、高炉から製鋼工場までの工程は作成された状態であり、全体計画作成部343は、溶銑輸送計画により決定された輸送通過工程、及び輸送台車170が溶銑を払い出して空車となった時刻を考慮して、全体計画を作成する。
【0137】
全体計画作成部343は、全体計画を制約充足問題として定式化することにより、全体計画を作成する。そして、全体計画作成部343は、定式化した全体計画を満たす解が存在するか否かを判断する。定式化した全体計画を満たす解が存在し、全体計画が成立する場合、全体計画作成部343は、その解としての全体計画を、輸送計画として決定する。
【0138】
全体計画作成部343における定式化は、溶銑輸送計画作成部341における定式化と類似するが、溶銑輸送計画作成部341における定式化の場合と比較して、輸送台車が通過する工程の集合が、払出し後の空車となった輸送台車の工程まで拡張される点、及び回送先の高炉に関する制約条件が付加される点が異なる。以下、全体計画作成部343における全体計画の定式化について、溶銑輸送計画作成部341の作成要領と類似する点については、適宜説明を省略しながら、説明を行う。なお、全体計画作成部343は、輸送台車170の回送に際して通過する回送通過工程において満たされるべき各工程の状態(干渉状態)を、制約充足問題の制約条件として使用する。各工程の干渉状態は、輸送台車170の輸送に伴う経路の取り合い状態、及び輸送台車170によるクリーニングセンタ160の占有に関する状態を含む。
【0139】
全体計画作成部343が行う全体計画の定式化の説明において、空車の輸送台車170の高炉110への回送までの設備及び経路を含む、輸送台車170が通過する設備及び経路の順序を示す集合をPRC'とし、空車の輸送台車170の高炉110への回送までの工程を含む、輸送台車170が選択可能な通過工程パターンの集合をPTN'とする。また、溶銑輸送計画作成部341における決定変数1−1から1−3に対応する、全体計画作成部343における決定変数3−1から3−3については、それぞれ変数名「'」を付して記載することにより、溶銑輸送計画作成部341における決定変数1−1から1−3と区別する。
【0140】
まず、全体計画の作成における決定変数について説明する。数式(32)は、全体計画作成部343が定義する、各工程の開始時刻vStartTime'[i][pc]に関する決定変数3−1である。
【0142】
数式(33)は、全体計画作成部343が定義する、各工程での所要時間vProcTime'[i][pc]に関する決定変数3−2である。
【0144】
また、下記数式(34)は、全体計画作成部343が定義する、通過工程vCar1'[i][pt]に関する決定変数3−3である。
【0146】
全体計画作成部343は、決定変数3−3について、高炉110から製鋼工場150までの通過工程は溶銑輸送計画作成部341において既に決定されているため、特に製鋼工場150から高炉110までの回送に関する通過工程を算出する。
【0147】
次に、全体計画の作成における制約条件について説明する。数式(35)は、輸送台車iが選択可能な通過工程パターンが、1つに限定されることを定めた制約条件3−1を示す。制約条件3−1により、通過工程パターンが1つに定まる。
【0149】
溶銑輸送計画作成部341が作成した溶銑輸送計画により、高炉110での輸送台車iの受銑開始時刻、製鋼工場150への到着時刻が既に確定している。そのため、全体計画作成部343では、溶銑輸送計画に基づいて定められる数式(36)及び数式(37)が、それぞれ制約条件3−2及び3−3として使用される。
【0152】
数式(36)は、輸送台車iが高炉nで受銑を開始する時刻に関する制約条件3−2である。ここで、BFnは、輸送台車iが通過する工程が高炉nであることを示す値である。
【0153】
数式(37)は、輸送台車iが製鋼工場smmに到着する時刻に関する制約条件3−3である。ここで、smmは、輸送台車iが到着する製鋼工場を示す値である。
【0154】
また、全体計画作成部343は、溶銑払出計画作成部342が作成した溶銑払出計画に基づき、輸送台車iが溶銑を払い出して空車となる時刻を決定できる。具体的には、全体計画作成部343は、溶銑払出計画に基づき、製鋼工場smmで払出しが開始される時刻に、製鋼工場smmへ払出チャージchを分配する輸送台車iのうち払出しに最も時間を要する輸送台車iの払出しにかかる所要時間を加算した時刻を、空車となる時刻として決定する。全体計画作成部343は、巡回計画の作成において、輸送台車iが空車となる時刻に基づいて下記数式(38)により定められる制約条件3−4を使用する。数式(38)は、製鋼工場smmにおける工程の所要時間に関する制約条件3−4である。
【0156】
数式(39)及び(40)は、各工程における所要時間の範囲に関する制約条件3−5である。制約条件3−5により、各工程での所要時間の範囲が定められる。
【0159】
数式(39)におけるcProcMin[pt][pc]は、通過工程pcにおける所要時間の下限値であり、数式(39)で示される制約条件3−5により、各工程における最低限の所要時間が確保される。また、数式(40)におけるcProcMax[pt][pc]は、通過工程pcに輸送台車iが停留可能な最大時間であり、数式(40)で示される制約条件3−5により、輸送台車iが各工程において所定時間以上停留することを防ぐことができる。
【0160】
数式(41)は、通過工程の順序と、次の工程の開始時刻に関する制約条件3−6である。つまり、数式(41)で示す制約条件3−6は、ある工程の終了時刻と、その次の工程の開始時刻とが同じであることを示し、さらに言い換えれば、現工程の終了と同時に次工程が開始されることを意味する。
【0162】
数式(42)は、各工程において停留させることができる輸送台車iの最大台数に関する制約条件3−7である。つまり、数式(42)で示される制約条件3−7は、各工程において重複して停留させることが可能な輸送台車iの台数を定めたものである。
【0164】
数式(42)において、vmOverlapNum'[i][pc]は、数式(43)を満たす中間変数である。
【0166】
つまり、vmOverlapNum[i][pc]は、輸送台車iが、ある工程に存在する場合に、他の輸送台車が同一の工程に存在する場合に「1」となる中間変数である。具体的には、vmOverlapNum[i][pc]=1となるのは、次の数式(44)又は(45)のいずれかの場合である。
【0172】
数式(48)は、高炉から出銑される溶銑を受銑するために必要な空車状態の輸送台車の台数に関する制約条件3−8である。
【0174】
数式(48)において、bf、BF、pg及びPIGは、それぞれ以下の意味で使用され、本明細書において、以後同様の意味で使用される。
bf:全体計画作成の対象となっている高炉110
BF:全体計画作成の対象となっている高炉110の集合
pg:高炉110における出銑
PIG:高炉110における出銑の集合
【0175】
数式(48)において、vmSumCarNum[bf][pg]は、次の数式(49)により表される中間変数である。
【0177】
中間変数vmSumCarNum[bf][pg]は、次の数式(50)が満たされる場合に算出される。
【0179】
ここで、数式(50)において、cBF[bf][pt]は、通過工程パターンptにおける回送先の高炉が高炉bfである場合「1」となり、回送先の高炉が高炉bfでない場合「0」となる定数である。また、cPigTime[bf][pg]は、高炉bfにおける出銑開始時刻を示す定数である。数式(50)は、高炉bfにおける出銑pgの開始時刻において、空車状態の輸送台車iが高炉bfに到着していなければならないことを示している。
【0180】
また、数式(48)において、cSumCarNumBF[bf][pg]は、高炉bfでの出銑pgにおいて必要な輸送台車iの台数である。必要輸送台車数cSumCarNumBF[bf][pg]は、上位システム部400から取得した高炉bfの出銑予定に基づき、前処理部330が算出する。
【0181】
制約条件3−8により、高炉bfでの出銑pgにおいて、出銑される溶銑量に対して、輸送台車iが不足することを防止できる。
【0182】
全体計画作成部343は、以上の制約条件3−1から3−8を満たす決定変数3−1から3−3の解が存在するか否かを、演算を行うことにより判断する。全体計画作成部343は、解が存在しないと判断した場合、当該演算に使用された通過工程パターンptでは、全体計画が成立しないと判断し、記憶部310に記憶された当該演算に使用された通過工程パターンptに対応する重み係数cImps[i][pt]を、cImps[i][pt]=1からcImps[i][pt]=0に変更する。かかる重み係数cImps[i][pt]の変更により、輸送計画作成において、この通過工程パターンptは選択不可能となる。そして、輸送計画作成部340は、他の通過工程パターンptについて、解が存在するか否か、再び溶銑輸送計画作成部341における溶銑輸送計画の作成から演算を実行する。輸送計画作成部340は、全体計画作成部343が、決定変数3−1から3−3の解が存在すると判断するまで、演算を繰り返す。
【0183】
一方、全体計画作成部343は、解が存在すると判断した場合、全体計画が成立すると判断し、解として成立した全体計画を輸送計画として決定する。そして、全体計画作成部343は、演算した結果得られた輸送計画を、表示部350に表示する。表示部350における表示例については、後述する。また、全体計画作成部343は、演算した結果得られた輸送計画を上位システム部400に送信する。上位システム部400は、取得した輸送計画に基づいて、各設備を制御し、輸送計画を実行する。
【0184】
なお、溶銑輸送計画作成部341、溶銑払出計画作成部342、及び全体計画作成部343は、制約条件付き最適化問題又は制約充足問題として定式化した問題を、周知の数理ソルバ又はメタヒューリスティックス手法を用いて、決定変数及び中間変数の解を導出する。
【0185】
次に、輸送計画作成装置300による輸送計画の作成手順の一例を、
図6のフローチャートを参照して説明する。
【0186】
輸送計画作成装置300は、まず、溶銑輸送計画作成部341において、溶銑輸送計画を制約条件付き最適化問題として定式化し、定式化した最適化問題の解を導出することにより、溶銑輸送計画を作成する(ステップS101)。
【0187】
次に、輸送計画作成装置300は、溶銑払出計画作成部342において、溶銑払出計画を制約条件付き最適化問題として定式化し、定式化した最適化問題の解を導出することにより、溶銑払出計画を作成する(ステップS102)。
【0188】
そして、輸送計画作成装置300は、全体計画作成部343において、全体計画を制約充足問題として定式化することにより、全体計画を作成する(ステップS103)。
【0189】
輸送計画作成装置300は、全体計画作成部343において、定式化した全体計画を満たす解が存在するか否かを判断することにより、全体計画が成立するか否かを判断する(ステップS104)。
【0190】
輸送計画作成装置300は、全体計画作成部343において、定式化した全体計画を満たす解が存在しないために全体計画が成立しないと判断した場合(ステップS104のNo)、ステップS101からステップS103の全体を通して行った輸送計画作成において選択した通過工程パターンを、例えば重み係数を変更することにより選択不可能にする(ステップS107)。そして、輸送計画作成装置300は、このフローのステップS101に戻り、ステップS104において全体計画が成立すると判断されるまで、選択可能な通過工程パターンについて、ステップS101からステップS104までの同様の処理を繰り返す。
【0191】
輸送計画作成装置300は、全体計画作成部343において、定式化した全体計画を満たす解が存在するために全体計画が成立すると判断した場合(ステップS104のYes)、全体計画を輸送計画として決定する(ステップS105)。
【0192】
そして、輸送計画作成装置300は、ステップS105において決定した輸送計画を、表示部350に表示する。
【0193】
次に、
図7を参照して、表示部350に表示される輸送計画について説明する。輸送計画作成部340において作成された輸送計画は、CRT等の表示部350に、例えば
図7に示すように、ガントチャートとして表示される。
図7は、溶銑輸送設備100が、高炉110、前除滓設備120、溶銑予備処理設備130、後除滓設備140、製鋼工場150及びクリーニングセンタ160を、それぞれ2つずつ有する場合の例を示している。
【0194】
図7に示すように、本実施形態において、高炉1及び高炉2は、それぞれ溶銑の出銑口を2つずつ有する。すなわち、高炉1及び高炉2は、それぞれ2つの出銑口のいずれかから、輸送台車170に溶銑を出銑することができる。また、製鉄工場1及び製鉄工場2は、輸送台車170からの溶銑の払出し位置を、それぞれ2つ有する。
【0195】
輸送計画作成装置300は、適宜のタイミングで輸送計画を作成する。輸送計画作成装置300は、輸送計画を作成した後、例えば、高炉の出銑予定、各中間処理設備での処理状況、及び製鋼工場での出鋼状況等が、変化したことにより作成した輸送計画の実行が困難になった場合、その時点において、その時点からの輸送計画を作成してもよい。
【0196】
このように、本実施形態に係る輸送計画作成装置300によれば、切れ目なく高炉110から出銑される溶銑を、輸送台車170及び車両171等の限られたリソースを用いて、製鋼工場150に供給可能な輸送計画を作成可能である。また、輸送計画作成装置300は、各工程の干渉状態を考慮しながら、輸送台車170が、各製鋼工場150が要求する溶銑量及び溶銑成分等を満たすように中間処理設備を通過するように、輸送計画を作成可能である。さらに、輸送計画作成装置300は、輸送台車170の回送についても考慮するため、常時、高炉110に空車状態の輸送台車170を待機させることが可能な輸送計画を作成可能である。このように、本実施形態に係る輸送計画作成装置300によれば、高炉の出銑予定及び製鋼工場の出鋼計画に合わせた輸送計画を作成可能である。また、本実施形態に係る輸送計画作成装置300が作成した輸送計画を実行することにより、高炉110から製鋼工場150に安定して溶銑を供給可能となる。特に、輸送計画作成装置300が作成した輸送計画によれば、安定して、製鋼工場において効率的な出鋼を行うことができる。
【0197】
以上、本発明を諸図面や実施例に基づき説明してきたが、当業者であれば本開示に基づき種々の変形や修正を行うことが容易であることに注意されたい。したがって、これらの変形や修正は本発明の範囲に含まれることに留意されたい。例えば、各手段、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の手段やステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。